LAS小説投下総合スレ15at EVA
LAS小説投下総合スレ15 - 暇つぶし2ch584:パッチン
07/10/21 04:05:43
えぇ~今回はここまでです。
感想、ご意見ありがとうございます
>>575
ご指摘ありがとうございます。なにぶん前回の短編が初めて書いた小説で、まだまだ未熟者でして…。
読みにくい部分が多々あると思いますが頑張って勉強していきます
>>577
一貫性が無いだけですw
>>578
自分の作品を待ってくれる人がいるのは凄く嬉しいです!!
けど寝て下さいね?今回も変な終わらせかただったんで心配ですw

585:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/21 04:06:50
キタ━(゚∀゚)━ヨ
リアルタイムGJ(*´д`*)

586:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/21 11:46:25
URLリンク(sea.s201.xrea.com)

山田ウイルス感染者 (´・ω・) カワイソス

587:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/21 15:27:21
>>586
専ブラ使ってるから俺じゃねえ。ちょっとだけドキッとしたw

588:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/21 18:51:17
アスカが黒いな・・・

589:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/22 00:01:21
この展開は予想外だ
職人乙

590: ◆8CG3/fgH3E
07/10/22 16:17:47

     1
     ごめん


玄関の方から大声が響く。その青空を裂く雷のような彼女の声は、僕の耳を文字通り劈いた。
どうやらその声は僕を呼んでいるようで、その声の主は酷く苛立ちながらもワクワクと興奮しているように感ぜられた。
僕は、思わずその身が竦んでしまう声に負けじと、大声を張り上げて「今行くよ!」と告げた。
僕は深い溜め息を吐きつつ、ポケットに携帯を捩じ込んで玄関へ向かった。
玄関にはジーパンに半袖姿というボーイッシュな服装のアスカが、まさに準備万端という風に僕を待っていた。
彼女は腕を組みながら、足の爪先でコンクリートの床をトントンと貧乏揺すりをするように細かく叩いていた。
「遅いぃ~!」
とアスカは言って、ダンと一発コンクリートの床を踏み付けると、仁王立ちになって僕の鼻先に人差し指を突き出した。人を指差してはいけないと教わらなかったのだろうか?
「何時間待たせる気よ!」
「そんな……何時間って……せいぜい二十分……。」
「問答無用! さっさと行くわよ、バカシンジ!」
とアスカは僕のささやかな抵抗を粉砕し、にんまりと喜色を浮かべると僕の左手を鷲掴みにして、右手を突き上げながら歩き出した。
何が楽しいんだろう? そこまで僕を引きずり回して遊び回って。
「しゅっぱーつ!」



アスカが僕に意見を求めている。ここは第三新東京市で一番大きなデパートの五階に入った洋服店で、彼女は両手に二着の洋服を持っている。
右手に持つのはデニムのミニスカートとレモンカラーのティーシャツのセットで、左手に持つのは白を基調としてストライプの入れられたワンピースだった。
アスカはそれを僕の目の前に突き出すように提示していた。
「どっちがいいと思う~?」


591: ◆8CG3/fgH3E
07/10/22 16:19:26
正直どっちでも良かった。周りの買い物客も、この違和感ありありなカップルを注視している。もっとも、男性方に関しては僕ではなくアスカ単体への眼差しだろう。
それに、どうせ僕が何を言おうともアスカの選択には大した影響は及ぼさない筈だった。
だから、僕はなかば投遣りに白いワンピースを指差して「こっちが良いと思うよ。」と言った。
それを聞いたアスカは「ふーん、あっそ。」と言ってレジに向かって行った。
僕はアスカが会計を終えるまで、洋服店の前で彼女の荷物を抱えたまま待っていた。荷物を降ろさないのは、僕がそれを地べたに降ろすとアスカが怒り出すからだ。
アスカは店から出てくると、一つの袋を僕に押し付け、僕がそれをちゃんと落ち着ける前に、ご満悦という感じで次の店へ歩き出していた。
だから、僕は彼女の傍若無人なところが好きではなかった。



結局彼女は午前中までに、部屋着や洋服を合計八着にアクセサリーを三品買い、全てを僕の腕に預けた。更に彼女は僕に弁当まで制作させており、それの入ったバスケットまで僕に持たせていた。
体力に自信も定評もない僕にはその荷物持ちという簡単な仕事でさえ、重労働だった。
どうやらショッピングの前半戦を最高に近い形で終えることの出来たらしいアスカは、意気揚々として疲れ果てた僕をデパートの側にある公園に連れこんだ。
広い芝生を見つけた彼女は、すぐさまその青い芝生の上にシートを敷くように僕へ命令した。僕は溜め息を吐きつつシートを広げ、荷物をその上に置くと、アスカに言われるままにバスケットから昼食を取り出してせっせと並べた。
アスカは随分腹がすいていたらしく、ドカっとシートに腰を降ろすと、僕が並べた端からタッパの蓋を開け、卵焼きやらウインナーやらをパクパクと頬張っていった。
「お行儀が悪いよ……アスカ……。」
聞く耳無し。僕は半分諦めの境地で自分の分の昼食をゆっくりと食べ始める。



592: ◆8CG3/fgH3E
07/10/22 16:30:43



昼食というインターバルを置いたアスカは、益々その激しい衝動を高みへ持っていった。
そして、その僕にあまり好ましくない彼女の衝動は、結果的に僕の腕への負荷を衣料品三品増す事になった。
僕は彼女のこういう、何も気遣わないところが好きではなかった。



この憂鬱に拍車が掛けられている。
それはひとえに、今日、シンクロ率がまた下がったからだった。
と言うのも、最近の下がり具合いは自分でも信じられない位だからだ。
それまでちょっとのコンディションや心境の変化で上がり下がりしていたシンクロ率は、異常とも言える速度で急激に下がり始めた。
それは丁度、僕が球形の使徒に取り込まれた後のシンクロテストからだった。
使徒に取り込まれて暴走し、記憶がなく脱出した翌日から、僕は毎夜の如く嫌な夢を見るようになった。
多分不調の理由は、恐らくその夢だろう。
父さんに捨てられ、駅で泣く僕の夢。
忘れたくて、忘れようとしていたものがまるで親に縋り付く子供、もう一人の僕のようにまとわり付いて離れなかった。
そして僕から下がった分のシンクロ率を吸い上げるように、ただでさえ高かったアスカのシンクロ率は木に登る猿のようにスルスルと上がっていった。
だからだろうか? アスカの機嫌は頗るよくなった。普段ならば彼女の機嫌が良いという事は喜ばしい自称なのだが、僕にとってはそれがマイナスの方向へ向いてしまった。
彼女は自分の機嫌がよくなるのに比例して、僕の事を街での買い物や公園へ連れ出すようになった。
先の一日のように。







593: ◆8CG3/fgH3E
07/10/22 16:34:34

僕としては極力外界からの刺激を減らし、部屋の中でジッとシンクロ率の回復を待ちたかったのだが、アスカは僕の事をソッとして置いてくれない。
そりゃアスカは楽しいだろうが、気晴らしや荷物運びなど召し使いのように連れ回される側になってみれば憂鬱なだけだ。
僕が「今日は家に居たいんだけど……。」と言っても、アスカは「アンタバカァ? こんな美少女と一緒に歩けるっていうのに、ぶちぶち文句言うんじゃないわよ!」と満面の笑みで言って、決して取り合ってはくれなかった。
荷物運びなんて、アスカなら手頃なヤツが斬って捨てるほどよってくるだろうに、何故僕でなければならないのだろう? まったく分からなかった。
そしてアスカは僕の、やっと出来た最初の友達を殺し掛け、一生残る傷を負わせた。



その日は透けるほどにまっさらな青空で、大きな入道雲がぽっかりと浮かんでいた。
ミサトさんもリツコさんも出張、そして鈴原トウジも居なかった。
そして僕は学校でネルフに呼び出され、出撃した。
その日、シンクロ率の低下していた僕が様子見の前衛で綾波が中堅、そしてシンクロ率が順調に上がっていたアスカが、主力である後衛だった。
僕は今でも、どうしようもない後悔をしている。なぜシンクロ率が下がってしまったのか、と。
その日はいつもと違う事がいくつかあった。
命令をしていたのはミサトさんではなく父さんで、尚且つ敵はエヴァだった。
不審に思った僕は、通信を使ってアスカにパイロットの事を尋ねてみたが、彼女は一向に教えてはくれなかった。
知っていた筈なのに。

僕はバズーカを手に、小山の裾野に控えていた。
汗の滲む両手でイグニッションレバーを握り締め、緊張する。
僕がそうして体の底から湧く震えをその体で実感していると、両手をダラリと垂らしたエヴァが、夕日を背にしてこちらへ向かってくる影が見えた。
ノソリノソリと、ゆっくりと。
僕は緊張しつつ、銃口を敵に向けるとしっかりと狙いを付け、射程に敵が入るまでジッとしていた。
するとエヴァはグルリと顔を僕に向けた。その瞬間。




594: ◆8CG3/fgH3E
07/10/22 16:37:26

エヴァの右手がその先を擡げ、何をするのかと見ていると、突然その手がゴムのように伸びてあっというまに僕の頚を捕えた。
恐ろしい力で頚が絞め上げられ、気管が圧迫されて呼吸がきつくなる。
手に力が入らず、バスーカを持っていられない。
段々とボンヤリとして落ちていく意識の中、アスカの悲鳴が聞こえた。
僕の名も聞こえたが、なぜわざわざ僕の名前を呼んだのか、その理由を考えている余裕はなかった。
薄く目を開けると、エヴァはその伸縮自在らしい腕を縮めながらもう僕の傍まで来ていて、次の瞬間には僕の体は山の斜面に倒されていた。
エヴァは僕に馬乗りになって、延びていなかったもう片方の手も使って更に首をきつく絞め上げた。
初号機の頚と僕の首が悲鳴を上げる。ギシギシと装甲が軋むような不快音も聞こえる。
もう少しで意識が飛ぶ。そう思った時だった。
首の苦しさが消え、呼吸が楽になる。思わず首を押さえて蹲り、激しく噎た。
目を開けて見ると、そこにいたのはスマッシュホークを手にしたアスカだった。赤い弐号機のボディに、夕日が反射している。
目を横に向けると、そこには鮮血を迸らせる腹の傷を押さえて蹲り、恨めしそうに眼光鋭くアスカを睨むエヴァがいた。
「大丈夫!? シンジ!」
アスカから通信が入り、ディスプレイにアスカの顔が四角い枠に表示された。
僕はその画面に向かって無事だと軽く頷いた。
通信はすぐに切れる。
しかし切れ際に、聞こえるはずのないアスカの「ごめん。」と言う声が聞こえた。
そしてアスカは使徒を倒し、トウジを殺しかけた。





595: ◆8CG3/fgH3E
07/10/22 16:39:30



僕は病室のベッドに寝ていた。
しばらく僕が何故ここにいたのかよく分からなかったが、すぐにその理由を思い出した。そうだ、僕は錯乱―ある意味では反乱―してアスカと弐号機を攻撃し、遠隔操作で父さんに気絶させられたのだった。
やおら記憶が蘇る。
アスカはスマッシュホークで3号機、トウジをエントリープラグごと攻撃して使徒を倒した。
スマッシュホークの衝撃で、使徒の侵食で腐った背後のカバーからエントリープラグが飛び出し、段差になった道路にまともに衝突した。
そして無惨にそれはひしゃげ、中から人影が見えた。そしてパイロットの顔は紛れもなく……。
痙攣するように、体が震える。激しい頭痛を感じる。
頭が割れるような強烈で激しい頭痛が、僕の無力を苛む。僕はベッドの上で蹲り、頭を抱えて痛みに耐えた。
「シンジ……。」
入り口の方向から女の声が聞こえる。
それは彼女には似合わない、水底から浮き上がるように静かで、僕みたいに機嫌を伺うような声だった。
僕は折り込んだ膝の間から、そこに埋めていた首を少し擡げてアスカを見た。
アスカは一中の制服を着て、バッグを両手に提げて立っていた。
敢えて言うなら、アスカは運が悪かった。
もしこれが目覚めた後、頭痛に堪えている時でなければ幾分マシだった筈だ。
そう、僕はその時、僕自身の憤り、怒りをぶつける相手を見つけたのだ。
「なにしに来たの?」
沸々と湧く怒りを出来るだけ抑え、感情を込めずに俯いて言った。
アスカは柄にもなく頬を掻いたり、俯いたりバッグを持つ手元を蠢かしたりして口篭っていたが、やがて吃りながらも口をきいた。
「あ、あの……早く元気になりなさいよ……。い、家でご飯作ったり洗濯したり……アタシの話し相手になるの……アンタしかいないんだから……。」
つまり家政婦ってこと?
それになんの謝罪もないのか。人の友人を殺しかけておいて?




596: ◆8CG3/fgH3E
07/10/22 16:41:58

余計に頭痛が酷くなる。
「それに鈴原があんな風になったのはアンタのせいじゃないし……。」
そうだ。僕のせいじゃない……。
アスカのせいじゃないか。
「だから……。」
僕はアスカのその顔を見て、トウジのことで糾弾するのをやめた。冷静に考えて、どうせ僕にはそんな復讐する度胸も無いし、他人を傷付ける事も出来っこないのだから。
しかし、こんな僕でも他人を憎む事くらいは出来る。
「心配してくれてありがとう。でも、もういいよ。」
なかば面倒くさくなり、アスカを追い返そうと冷たい声をかけた。
アスカは何か言い掛けるように口を開いたが、結局なにも言葉を発する事はなく、後ろ髪を引かれるように名残惜しげに病室を出ていった。

アスカの消え、寂しくなった病室で僕は一人溜め息を吐いた。
アスカが憎くて堪らない。
僕を召し使いか何かと勘違いしているようにこき使い、疲弊させ、 シ ン ク ロ 率 を 奪 い 、 挙げ句にやっと出来た友達を僕の手の中から奪っていった。
憎くてたまらない。
僕を動かせなくした父さんが憎い。
だけど、トウジをあんなにしたアスカが一番憎い。
僕は病室の皺がれたベッドの上で、栓の壊れたポンプみたいに泣いた。膝を抱えて幼児のように、日が暮れて月が夜を知らせ、眠りが僕を深い谷の底へ引き込むまで。ずっとずっと。






597: ◆8CG3/fgH3E
07/10/22 16:47:12
第1章、ごめん投下終了
全9章予定

あぁ~シンジに見えねぇし文章も自信ねぇorz
まぁ、一応このスレに投下するのはこれが初めてです。ちょくちょく他スレでゲリラ的活動はしてましたけど……


598: ◆8CG3/fgH3E
07/10/22 16:49:46
訂正
全9章×
全7章○


599:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/22 17:58:51
一気に2連載の活気あふれるスレになった
GJ!!続き楽しみだわ

600:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/22 23:06:31
600

601:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/22 23:42:30
新作投下乙
文章がすごい好みなので
wktkしながら続きを待っております

毛色の違う2作品だけど
両方とも面白いです

602:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/23 00:19:29
>>596
ものっそい面白かった。GJ

603:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/23 00:26:55
>>590
凄く好みの展開になりそうなヨカーン 
期待しつつGJGJ!

604:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/23 00:55:49 +PRJDlCp
シンジっぽくないけど、今後に期待

605:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/23 09:01:23
いや、ある意味シンジっぽい
今後を期待してるよ

606:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/23 23:39:44
すれ違いLASと黒シンジが好きな俺には完全ストライクです
まじ楽しみ

607:パッチン
07/10/24 23:38:45
>>597
すごくおもしろかったです!続き楽しみにしてます
続きポトリします。こっちはもうすぐ終わりです

608:パッチン
07/10/24 23:40:44
地下
アタシは血にまみれた碇ゲンドウの右手を拾い上げ、手袋を抜き取って手のひらを見やる
「これがアダム…」
「そうよ。それがアダム…、サードインパクトの要…」
独り言のようにポツリ呟くアタシの後ろから声をかけるレイ
「これがあれば、アタシの望む世界になるの…?」
「そう、あなたの望むままの世界…
あなたの思い描くイメージに限り無く近い世界に生まれ変わるわ」
アタシはアダム片手にレイの言葉に振り向く
「…ねぇレイ?
アタシの願い事わかる?」
アタシの問いかけにレイはフッと微笑む
「あなたの考えることなんか大体わかるわ…」


地上
S2機関を取り込み、強力なATフィールドを操る初号機に次々と破壊され、戦自の軍隊はほぼ壊滅的であった
…が、今は戦自など相手にしていられない
新たに上空から舞い降りた量産型エヴァ9体
「ハァ…ハァ…。
なんなんだよコイツら…」
腹に穴を開けても、足を切り落としても、蘇る9体のエヴァ相手に戦い始めて1時間は経過した
そもそも戦闘自体が久しぶりなシンジは体力も限界に近い
「…っくそぉ!!!」
グヂュッ!!
再び量産エヴァの顔面にナイフを突き刺す
シンジは殺しの無限ループに突入していた

609:パッチン
07/10/24 23:42:39
地下
アダムを手に入れたアタシはレイのもとに歩み寄っていく
「・・・レイ…」
「さぁ、アダムを私に…」
両手を前に出したレイにアタシはアダムを差し出す
アタシは今、アタシの望む物のためにレイを…
友達の命を利用しようとしている
「・・・ねぇレイ…、ごめん…ごめんね…。
アタシ最低かな…?」
アダムをレイに渡したアタシは、血に濡れた手で流れでた涙を拭った
「最低かもしれないわね…。
・・・でも私はアスカがどんな存在であっても見捨てたりしないわ」
アダムがゆっくりとレイの腹部の辺りに吸い込まれていった…
「友達でしょ?」
そう言ったレイは最高の微笑みをアタシに向けてくれた
「・・・うんっ…。ありがとうレイ…」
レイがアタシの視界からゆっくりと消えていく

ただいま

リリスの仮面が剥がれ落ちていく

おかえり

白い光がアタシを包む
何も見えない真っ白な世界がアタシを包む
レイの姿は見えない。でも聞こえるレイの声
アタシの心に聞こえるレイの声
『アスカ・・・。あなたは何を望むの・・・?』
アタシの身体が溶けていく…
シンジに抱かれるような温もりに包まれながら…
LCLに溶けていく…

610:パッチン
07/10/24 23:45:12
発令所
地上で量産エヴァに苦戦するシンジを援護していたマヤは、地下からの異変にいち早く気付いた
「…っ!?ターミナルドグマより強力なATフィールドが発生しています!!
パターン青!!使徒です!!」
マヤの報告に一気に混乱に陥るネルフ職員達
「な、何が起こったのよリツコ!!」
ミサトは一番状況を把握していそうなリツコに問う
慌てふためくミサトに対して、冷静とも諦めともつかない表情でリツコは問いに答える
「…何が起こったかは大体わかるけど
どうなるかはサッパリわからないわ」


地上
すでに限界を超えた疲労は初号機の動きにも完全に現れていた
一体の量産エヴァの腕を引きちぎり、次の相手に身構える
「ハァ…ハァ…。・・・っ!!」
後ろからの気配に、振り向きざまにATフィールドを発生させる
そこに存在したのは巨大な槍
「・・・なんだ…?・・・この槍…」

槍はATフィールドをゆっくりと貫通していく

「ひっ…」
急激に恐怖がシンジの身体中を這い回る
そして次にシンジを襲ったのは右目から全身に広がる激痛
「ぎゃあああああああああ!!!!」
悲鳴をあげたシンジは右目を両手で抑え、指の隙間から大量の血をこぼす

611:パッチン
07/10/24 23:47:56
「あぐぅぅ…。ひぃぃい…」
痛い・・・痛いよぉ・・・
右目を抑えていた手をゆっくりと離す。
「はぐぅ…。ぐぎぃぃ…」
もうやだ・・・戦いたくない・・・
血まみれの両手でインダクションレバーを握る
「はぁ…あぐぅぅ…」
でも・・・負けたら終わりだ・・・
初号機は右目に刺さっている槍を握り、ゆっくりと引き抜いていく
「ひぎぅぅ…。くふぅっ」
コイツらを殺して・・・僕は・・・みんなと生きる
自らを貫いた槍を右手に持ち、量産エヴァに向き直る
「うあああああああああ!!!!」

『苦しまなくていいよ…シンジ…』

「ーっ!!?」
心に直接響くような声が、血と狂気に染まったシンジを止まらせた。その声は最愛の女性によく似ていた
「アスカ…?アスカなのっ!?」
『シンジぃ、ここだよぉ~』
キョロキョロと辺りを見やるシンジを、『アスカ』が後ろからギュッと抱きしめる
『頑張ったね…偉かったよシンジ?』
「・・・あぅ…。・・・アスカぁぁ…」
シンジはアスカの胸に顔をうめて、小さな子供のようにエンエンと泣く
『ふふっ…。気持ちいい?シンジ?』
・・・うん・・・気持ちいいよアスカ

僕の身体が溶けていく…
アスカに抱かれながら…
LCLに溶けていく…

612:パッチン
07/10/24 23:49:46
発令所
「ターミナルドグマの使徒がどんどん巨大化していきます!!
初号機、量産エヴァ、共に活動停止しました!!」
「シンジ君!!シンジ君返事して!!」
地下、地上の異変の状況説明に必死な青葉シゲルと、急に通信が途絶えた初号機に呼びかける伊吹マヤの声が響く
「・・・リツコ、どうなるの…?」
「さぁ?どうなるかしらね
でも初号機と量産エヴァが止まったのは地下にいる人が原因なのは間違いないわ
そして、これから私達がどうなるかも、その人次第よ」
リツコはそう言うと煙草に火を灯す
「『その人』って誰よ!?誰が地下にいんのよ!!
そいつは、なんでこんな事すんのよ!?」
ミサトは隣で煙を吐き出すリツコに向き直り、怒鳴りつける
「・・・それがわかっても私達にはどうする事も出来ないわよ
ほらっ、煙草いる?」
そう言うと、胸ぐらを掴む勢いのミサトに1本差し出して少し微笑む
「・・・もらうわ」
再び煙草片手にリツコの隣に立つ

「・・・あんたの笑顔なんか久しぶりに見たわよ」
「そう?最後かもしれないし、いい思い出でしょ?」
「ハァ…。ホントどうなんのかしらね…」
「さぁね。・・・まぁ生きて還ってきたら、また笑ってあげるわ」

613:パッチン
07/10/24 23:51:42
今回ここまでです
え~。次が最後の予定なんですが、あくまで予定ですw

614:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/24 23:52:55
リアルタイム乙!

615:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/24 23:58:21
(;´Д`)スバラスィ ...ハァハァ
リアルタイムGJ

616:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/27 13:43:16
(;´Д`) ハァハァしながら神光臨待ち

617:パッチン
07/10/28 06:26:03
あああああ…。
ごめんなさい。>>613で書いた事ですが、続き書いてる内に大嘘になってしまいました
まだ続きそうです。ごめんなさい!
続きポトリします

618:パッチン
07/10/28 06:31:43
第3新東京市 コンフォート17

「んぁ…。朝…か…」
朝日差し込む僕の小さな部屋の、小さなベッドの上で僕は目を覚ました
見飽きた天井だ
「むにゃ…、ふぁ~ぅ…」
まだショボショボする瞼をグシグシと擦りながら、ノソノソと布団から這い出す
朝には強い方だけど、日曜日の朝は強敵なのだ
「…眠い」
でも起きなきゃダメだ。今日も遊びに行く約束しちゃったし
はぁ、顔洗お…

洗面所には先客がいた。
「おはよう。カヲルお兄ちゃん」
「や、やぁ。おはようシンジ君」

顔洗いの途中だったカヲルお兄ちゃんは声をかけた僕の方を、ボトボトの顔で振り向たせいで床を濡らしまい、1人焦っている
カヲルお兄ちゃん29才
血のつながりこそ無いけど僕の大事なお兄ちゃんだ
…まぁお兄ちゃんと言える年でもないのだが、昔からこうだから今更だよね
「ははっ、今日は休みなのに早いね。どこかに出かけるのかい?」
長身の体を縮こませ、床を拭きながら僕を見上げるカヲルお兄ちゃん
「うん。遊びに行くんだ」
「そうかい。じゃあ早く朝ご飯を食べよう
僕は先に行くよ」
そう言いながら何事もなかったかのように、キッチンに向かう姿は少しマヌケに見えた

619:パッチン
07/10/28 06:33:48
キッチン

「おはようございますマヤさん」
「おはようシンジ君。朝ご飯出来てるわよ」
キッチンに来た僕を笑顔で出迎えたのは、伊吹マヤさん
今年さんじゅう××才になる僕のお母さんみたいな人だ
「今日も出かけるんでしょ?早くご飯食べましょ」
「はいっ」
席についた僕は朝ご飯の目玉焼きにプツリと箸を刺して黄身を潰す
…何故かこれをする時は、いつも右目が少し疼く
「今日もお隣に行くのかい?」
そう言ったのは僕の隣で、大量の納豆をグリグリとかき混ぜるカヲルお兄ちゃん
「うん。一緒に宿題もしたいしね」
「ふふっシンジ君も来年から受験だし、いっぱい勉強しなきゃね」
キッチンでの作業を終えたマヤさんは僕の後ろに回り込んで、僕の頭を撫でる
「わかってますよぉ!」
「あはは、怒った怒った~♪」
「もうっ!子供扱いしないでください!」
からかわれた僕は少しムスッとしながら、お味噌汁に口をつける
「ねぇシンジ君。僕も一緒に行っていいかい?」
僕とマヤさんを傍観していたカヲルお兄ちゃんは僕にそう言ってきた
「え…カヲルお兄ちゃんも来るの…?」
「ははっ。心配しなくても アスカちゃん を盗ったりしないよ」
「そ、そんな事気にしないよ!!」

620:パッチン
07/10/28 06:35:38
ピンポーンっ

お隣のチャイムを鳴らすと中からトテトテと足音が聞こえ、ガチャッとドアが開く
「あら、いらっしゃい」
出て来たのはレイお姉ちゃん。カヲルお兄ちゃんと同い年の、とっても綺麗な人だ
「こんにちは、レイお姉ちゃんっ」
「ふふっ、こんにちはシンジ君
・・・それで、ソコのあなたは何しに来たの?」
僕には微笑みで挨拶してくれたレイお姉ちゃんは、カヲルお兄ちゃんをギロリと睨みつける
「ははっ、まだ怒ってるのかい?過ぎた事は水に流そうよ」
この2人は同じネルフという研究所で働いてるらしいんだけど、カヲルお兄ちゃんがいつも余計なことをやらかして仕事を増やすらしく、仲が非常に悪いんだ
「ごめんねシンジ君。アスカまだ寝てるから起こしに行ってきてくれる?」
「はい。わかりました」
「じゃあ綾波さんは僕と一緒に映画でも行こ…」

メギュッ!!

「さよなら」
「・・・好意にあたいしないよ」
靴べらでカヲルお兄ちゃんの鼻をへし折ったレイお姉ちゃんは、僕だけを部屋に入れてドアを閉めた
血まみれの靴べらを持ったレイお姉ちゃんは僕にむかって微笑んだ
「シンジ君はあんな大人になっちゃ駄目よ?」

・・・怖い…

621:パッチン
07/10/28 06:37:52
「あら、シンジ君いらっしゃい」
玄関で待っていたのはリツコおばさん今年よんじゅう××才
アスカのお母さん代わりの人だ
「ふふっ、いつも大変ね。アスカ待ってるわよ」
いつもの笑顔を浮かべて僕にそう言ってくれるリツコさん
僕はこの人の笑顔が大好きだ。
優しい優しい笑顔だから
「あら、レイ今日は靴べらで殺ったの?」
「えぇ、虫ケラでも血は赤いのね」
「うふふっ、本当ね♪」
でもこの人のこういう笑顔は怖い
「ほらシンジ君、アスカ起こしてきて」
「あっ、はい」
僕はリツコおばさんの言葉にハッとして、アスカの部屋にむかった



「アスカ~?僕だよ~」
アスカの部屋に入った僕は、ベッドの上のこんもり膨らんだ掛け布団に話しかける
「すぴゅ~すぴゅ~」
寝息らしきモノが聞こえる
いつものようにアスカのベッドに顔を寄せる僕
「ねぇ起きてよアスカ…」
すると、なんとビックリ
静かな寝息と共に上下していた布団が吹っ飛んで、アスカが顔を出したのだ
「ジャーン!!起きてま~したっ!!」
「わ~びっくりしたな~」
そして『いつものように』驚いた僕は

「シンジぃ~♪おはようのキスぅ~!!」
『いつものように』アスカに唇を奪われた

622:パッチン
07/10/28 06:41:17
その後、しばらくベッドの上でキャッキャとじゃれあっていた僕とアスカだったが
『ぐぅ~っ』
…というアスカのお腹から発生した終了の鐘により、シーツがしわくちゃになったベッドの上は沈静化した
「うっ…。だって朝ご飯食べてないしさ…」
少し頬を紅く染めて、言い訳がましく呟くアスカ
「じゃあ朝ご飯リツコおばさんに持って来てもらう?」
「うんっ♪」
嬉しそうに頷くと、寝転がっていたアスカは今まで入り込んでいた僕の腕の中から出ようとする
…でも僕は離さない
「ぅんっ?ちょ、ちょっとシンジ、ご飯食べるんでしょ?離してよ」
「・・・ねぇ、寝起きのアスカって温かいね…。それに甘い香りがする…
シャンプー?石鹸?…アスカの匂い?」
抗議の声を無視して、僕はアスカの首筋に顔を埋める
「ば、バカっ!!朝っぱらから何言ってんのよぉ!!」
耳まで真っ赤っかだね…
僕は首筋に埋めていた顔を徐々に下げていき、アスカのお腹の辺りに辿り着く
「ねぇ、もう1回お腹鳴らしてよ…?
可愛かったよ、さっきのアスカ…」
「や、やだぁ…。恥ずかしいよシンジ…」
気弱なアスカの声
僕しか聞けない…、そして他の誰にも聞かせたくない
そんな、どうしようもなく可愛い声
そんな声を聞いてしまった僕は、お腹に貼り付けていた顔をゆっくりと上げてアスカを見上げる

「アスカ…。セックスしよ…」
そう言った僕の顔を見つめて、顔を真っ赤にして『迷うフリ』をするアスカ
…そして、いつものように小さく頷く

623:パッチン
07/10/28 06:43:14
僕とアスカには両親がいない
今から14年前の2016年、僕らが産まれた年にネルフという研究所で働いていた僕の両親とアスカの両親は、事故で亡くなったらしい
そして引き取ってくれるような親戚もいなかった僕らを、ネルフで働いていたマヤさんとリツコおばさんが引き取ってくれた
(当時からカヲルお兄ちゃんと、レイお姉ちゃんは研究のお手伝いをしていたから、一緒に住んでいたらしい)

そして同じ境遇にあり、お隣さんの幼なじみだった僕とアスカは急激に仲良くなり、小学5年生の頃には『こいびとどうし』になっていた
そしてそれと同時に・・・大人の階段を登ってしまった
正直なんであんな歳であんな事をしたのか、なんであんな事をしようと思ったのかもわからない
でも何故か行為が終わった後は、罪悪感や後悔の念は欠片も無く
僕もアスカも、まるで『昔からの約束』を果たしたかのような充実感の中、いつまでも抱き合っていた

『この娘と一緒に生きよう』と思った
『僕と一緒に生きたい』と思ってくれた

こうなる事が…。アスカと愛し合ってるのがすごく当たり前のような、でもなんだか夢の中ような不思議な気分だった

僕達は何故こんなにも愛し合うんだろう・・・

624:パッチン
07/10/28 06:44:54
今回ここまでです。
え~間違いなく>>612の続きですw

625:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/28 09:36:49 KC3a7E9H
アスカかわゆす

626:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/28 11:01:39
何、この萌える展開(*´д`*)=3
GJ

627:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/28 20:38:03
俺は萎えたw

628:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/29 08:27:41
続けて読んでるのに一冊飛ばしたかのような錯覚。

面白いから自分は読むけれど。頑張れパッチンさん。

629:パッチン
07/10/30 00:28:52
赤木家のベランダ

赤木家のベランダと伊吹家のベランダは壁一枚を隔ててあるだけなので、少し体を外に出せば相手の家の人間と会話が出来るような仕組みになっている
そして今日も煙草片手にリツコが、布団叩き片手にマヤが楽しげに世間話をしていた
…だが、会話の合間に赤木家からは、朝とは思えないような声が時たま響いてくる

『ふわうぁぁ~っ!!シンジもっとぉ!もっとぉぉ~!!』

「はぁ…うるさいわねぇ、あの子達」
リツコは煙と溜め息を同時に吐き出しながら、愚痴を吐く
「ホントですねぇ
…あれで付き合ってるのが、バレて無いと思ってるからスゴいですよね」
マヤはそう言うとクスリと笑った
あの2人はあくまでも他の人達の前では、ただの幼なじみを演じている
(演じてはいるが目を覆いたくなるような三文芝居である)

「まぁ成長したって事よね…」
「そうですね。もう『あのアスカとシンジ君』と同い年ですもん」
「はぁ…。年取るワケね」
リツコは自らの顔を指でさする
すっかり母親が板についてしまったリツコの顔は、多用し過ぎた『笑顔』のためか、優しさの年輪が増えてきていた
「私が母親か…
ふふっ、14年前の私が聞いたら発狂しそうね…」
そしてリツコは煙を吐き出し、14年の思い出にふける

630:パッチン
07/10/30 00:32:12
14年前
2016年 ネルフ本部

戦自を壊滅に追い込んだ初号機と、量産エヴァが停止した
そしてその後、地下の使徒の反応が役目を終えたかのように消えた
一時の緊急事態の連続がウソのように、一気に平和になってしまったネルフ職員達は呆気にとられていた
「リツコ?これで終わり?あたし達の戦い…」
葛城ミサトはポカンと口を開けながら、隣のリツコに訪ねる
「・・・みたいね。サードインパクトも防げた。
戦自と量産エヴァも攻撃してくる様子無し。
つまり私達の勝ちね」

静まり返る発令所は伊吹マヤの猛烈なタイピング音のみが響いていた

「・・・あっ!初号機エントリープラグ内のモニターが映ります!!」
その声に、やるべき事が見つかった職員達は慌ててモニターに目をやる

しかし、そこに見えた様子は過去に見た映像と非常に酷似していた

「いない・・・。シンジ君がいない・・・」
「LCLの成分を調べて!!急いで!!」
モニターの映像に呆然と立ち尽くすミサト
その隣で職員達に早急に指示を出すリツコ
職員達がリツコの指示に従い、発令所を出ようとした瞬間、その職員達を押し戻すようにこちらに向かってくる2つの影
ミサトは目を丸くする

「レイ!!…渚君!!」

631:パッチン
07/10/30 00:34:04
「LCLの成分は調べなくてもわかるよ
惣流さんとシンジ君がその中で溶け合っているんだ
ね?綾波さん」
カヲルは笑顔でそう言うと、隣のレイを見やる
「えぇ、これがアスカの望んだ結果
碇君と共に、永遠に一緒でいたい…。
アスカはそう願ったの」



その後、状況把握がまるで出来ていない作戦部長のあたしのために、緊急会議が開かれた
その時、レイと渚君は全てを話してくれた
『自分達が使徒だったこと』
『2人がLCLに溶けたのは、アスカの仕業だったこと』
『その時、アスカが願った事はそれだけでは無く
量産エヴァの停止
レイと渚君を人間にする事
を願ったらしい。』

「ははっ、正直僕は惣流さんに嫌われてると思ってたからビックリしたよ」…と渚君
「大事な弐号機に変な寄生虫がいるのが嫌だっただけでしょ」…とレイ

『アスカとシンジ君は、もともとお互いを愛し合っていたから、LCLからサルベージするのは非常に難しいとのこと』
そしてネルフ職員達に、・・・もちろんリツコにも告げられる最後の報告
『碇司令はドグマで死んだ
殺したのはアスカ』…との事だった

その最後の報告の後も会議は続いたが、リツコは1人会議室を抜け出して行った

632:パッチン
07/10/30 00:36:19
そして会議から3ヶ月後…

ネルフ本部 研究所
初号機から取り出したアスカとシンジが溶け合ったLCLは、本部内の巨大なガラス張りの水槽の中に移動させられていた
その水槽を前にリツコ、マヤを筆頭としたネルフの頭脳達が作業を続けている
そして今、アスカとシンジのサルベージが始まった


同時刻、ネルフ本部 休憩所
「あの2人還ってくると思うかい?綾波さん」
自動販売機前のベンチに腰掛け、白玉入りおしるこを飲みながら隣の少女、綾波レイに話しかける渚カヲル
「知らない。私はあの2人じゃないもの」
素っ気なく答えるレイを見て、カヲルはニヤリと笑う
「クールなキャラ演じても、お守り両手に握りしめながらじゃ違和感ありありだよ?」
見透かしたようなその言葉に、レイは頬を少し紅らめる
「…文句言わないであなたもお祈りしなさい」
レイはスカートのポケットから、神社で大人買いしたお守りをカヲルに投げつけた
「うわっと・・・安産祈願のお守り…。
叶うかな…?」
カヲルは苦笑いを浮かべて、缶の奥に溜まった白玉を口に放り込み、そのまま空き缶をゴミ箱に放り込む
そしてレイと同様にお守りを両手で握りしめ、再びベンチに腰掛ける

633:パッチン
07/10/30 00:39:05
「ねぇ、惣流さんとシンジ君を補完したのは綾波さんだろ?
なんで還ってきてほしいの?」
アスカの望むように2人をLCLに溶かしたのは、他ならぬ綾波レイだ
そのレイが2人が還ってくるのを願う事にカヲルは疑問を抱いていた
「わからない
でも私は間違っていたような気がするの…」
お守りを握る両手に顔を押し付けて、悲しげに呟く
「ふぅ~ん
・・・まあ僕も後悔してるんだけどね
惣流さんに補完計画の秘密を教えたのは僕だし」
お守りの紐を指で摘みながら、カヲルはそれをクルクルと回す
「ゼーレの計画に惣流さんの気持ちを利用した僕は最低だ
しかも、作戦は大失敗。補完されたのは2人だけで、ゼーレはネルフに撲滅される
そして、ゼーレの回し者であるその使徒は人間になり、今はネルフ本部で暮らしてる」
「ツラいの…?」
おどけた様子で話していたカヲルの瞳は、うっすらと涙が滲んでいた
「・・・ツラいよ、僕は裁かれていないんだ。
ネルフは僕をかばってくれた、殺さなかった
あの2人を利用しようとした僕は最低なのに…」
自らの犯した罪が自らを苦しめている

最低な僕を、あの2人を裏切った僕を殺してほしい

パーーーーンっ!!!!

634:パッチン
07/10/30 00:40:29
いつの間にか立ち上がって正面にまわっていたレイはカヲルの銀髪を左手で掴むと、右手で頬を思い切り張った
「…っ!?」
急な出来事に反応できないでいるカヲルに、レイが口を開く
「あなたは最低よ。だから叩いたの
あなたの気が済むまで…。あなたの罪が消えるまで私が叩いてあげる」
そう言ったレイは少し微笑むと、カヲルの右手を握る
「綾波さん…?」
「そして私も最低な人間よ
あの2人を溶かした私の罪が消えるまで、あなたも私を叩いてほしい」
あまりにも不器用な方法だ

パーーーーンっ!!!!

「まだ消えない?」
「うん…、こんなもんじゃ消えないよ」

パーーーーンっ!!!!

「消えそうかい?」
「まだまだかかるわ…」

パーーーーンっ!!!!

休憩所の床には血が滲み始めていた

635:パッチン
07/10/30 00:43:03
「あ、あんた達なにやってんのよ!!」
廊下を歩いている時、凄まじい張り手の音が聞こえた葛城ミサトは、張り手音の発信元である休憩所に来た
すると、そこに居たのは鼻血と頬のモミジで真っ赤な顔になった2人だった
「葛城三佐…」
「ケンカしてる場合じゃないわよ!!
アスカとシンジ君のサルベージ終了の連絡が来たのよ!!」
「…っ!!」
何か言いたげな顔をしたレイだったがミサトの言葉にハッとした表情になり、無言のまま研究所に走り出す
そしてカヲルとミサトも後を追うように走る
廊下にはレイとカヲルの鼻血が点々と足跡を残していた



その時、研究所は異様な静寂に包まれていた
「先輩…。これは成功なんでしょうか…?」
「わからないわ…」
悩む2人の前には、サルベージされたアスカとシンジが存在するが…

「「「赤木博士(リツコ)!!!」」」

そんな研究所に飛び込んで来た3人の人間は、先程まで静寂していた研究所を再び慌ただしくする

「「ふぎゃあああ!!」」

「・・・リツコ…。なによコレ…」
「ちょっと起こさないでよミサト!!やっと寝たんだから!!」
アスカとシンジが居るハズだった水槽の前には、赤ん坊が2人
「え~っと…、紹介します。
サルベージされたアスカとシンジ君です」
苦笑いでそう言ったマヤは、研究員に抱かれた赤ん坊2人を指差す

呆然とするレイのポケットから『安産祈願』のお守りがポロポロとこぼれ落ちた

636:パッチン
07/10/30 00:44:43
今回ここまでです
ひねくれた書き方で、読みにくかった方すいません…

637:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/30 00:46:23
リアルタイム乙!
最後まで頑張ってな

638:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/30 00:47:18
おう、おつかれ!
もう少しで最後か、少し寂しいな。

639:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/30 01:24:06
GJ
残り少ないけど続き楽しみにしてる

640:転載初号機
07/10/30 01:39:09
とりあえず何番のレスがパッチン氏の作品かどなたかまとめていただければ
まとめスレへ転載してみようと思うのですが、需要ありますか?

641:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/30 01:50:57
>>640
今からまとめてみる
いつもお疲れさんです。

642:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/30 01:58:23
>>489-498 >>503-504
>>507-511 >>523-527
>>538-541 >>545-549

「>>が多い」ってorz

643:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/30 01:59:23
>>555-559 >>567-572
>>579-583 >>608-612
>>618-623 >>629-635

これで全部か?
誰か確認頼む。

644:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/30 02:22:18
あそこに作品載るの久しぶりじゃね?
パッチンさんおめでと

個人的には題名が欲しいなw

645:転載初号機
07/10/30 02:57:30
とりあえず確認しましたー。
時間かかりますが順次転載進めたいと思います。
それがめでたいかどうかはわかりませんが(笑)。

646:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/30 03:10:03
中坊がやる話はでらでおなかいっぱい
ひくわ

647:パッチン
07/10/30 18:28:58
題名『二つの涙』でお願いします
あそこに載るのうれしいですね。めでたいことです

648:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/31 23:16:07
◆8CG3/fgH3Eさんの作品を待ちわびる俺

649:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/31 23:32:24 J5AvxU3N
◆8CG3/fgH3E

俺もこの人のが待ち遠しい

650:パッチン
07/11/01 01:10:26
ずっと2人だけでいたい。2人だけなら幸せだから
みんなと一緒にいたい。一緒に幸せになりたい
アスカとシンジ君の中にある二つの思いが、中途半端なサルベージを引き起こしたらしい



第3新成田空港
「私がシンジ君を引き取ります
だから心配しないで下さいね」
手を上げたのはマヤだった。そして渚君も
「こんなことで罪滅ぼしになるなら、僕は一生シンジ君のお兄さんでいいよ」
そう言うと、しゃがみ込んだ渚君は青いベビーカーで眠るシンジ君の頭を優しく撫でる
「アスカは私が育てます。イタイ…
だから安心して行って下さい。ヤメテ…」
続いて手を上げたのはレイ
最初は赤いベビーカーに乗っていたアスカだが、じっとしてるのが嫌らしく、今はレイに抱かれながら青い髪の毛を不思議そうに引っ張っている
「…レイ1人じゃ心配じゃない?」
彼女には悪いが、レイ1人に任せるのは不安でしょうがない
「私も居るから大丈夫よ」
「リツコ?」
先程まで無言を貫いていたリツコが口を開いた
「リツコ…。あんたでも碇司令…」
「飛行機出るわよ。早く行ったら?ミサト」
確かに時間はあまり無い…
しゃあない。少々不安だが、マヤも近くに居るし大丈夫だろう

651:パッチン
07/11/01 01:13:12
「ふぅ、じゃあそろそろ行くわ」
私はそう言うと、レイが抱っこしているアスカに顔を寄せる
「ふふっ、今度はもっと素直な可愛い性格になるのよアスカ?」
好奇心旺盛の蒼い瞳で私をパチクリ見やるアスカのプルプルほっぺにソッとキスする

可愛い私の妹ちゃん。今度は天才じゃなくてもいいんだよ?
幸せになってくれたらそれでいい

続いてベビーカーで眠るシンジ君に顔を寄せる
「あんたはもっと男らしくなること。もうウジウジ悩んだりしちゃ駄目よ?」

可愛い私の弟くん。今度は苦しまなくていいんだよ?
元気に育ってくれたらそれでいい

私は眠るシンジ君のほっぺに唇を寄せる…
「あぅ~!!た~う~っ!!!」
「ん?・・・ぷっ、なに?アスカ嫉妬してるの?」
ほっぺに唇が触れる寸前にアスカがもの凄いうめき声をあげる
私はクスクスと笑いながらほっぺから狙いを変えて、寝ているシンジ君のプリプリの唇に唇を重ねる
「あ゛う゛~!!!あ゛あ゛~め゛~!!!」
私は唇を離してアスカの方を見て、ニヤリと笑う

「葛城三佐…。根性悪い…」
暴れまわるアスカを抑えながら、レイは呟く

652:パッチン
07/11/01 01:15:13
「みんな~バイバ~イ♪」
スーツケース片手に私は搭乗口にむかう
「また14年後会いに来るわね~!!」
ブンブンと手を振る私
最後まで明るくね
お別れの寂しさは、あのバカにだけ話そう
そして14年後…、再会の喜びはみんなでね♪

653:パッチン
07/11/01 01:17:12
『ああああ~っ!!シンジぃ好き!!好きぃ~イクイクぅぅ~っ!!
あああ~んっ好きぃ~!!』
バタバタドタンッ

「はぁ…。なによ、人がせっかく思い出に浸ってる時に…」
屋内から響く、聞いてるだけでも恥ずかしい声にリツコは現実に引き戻される
「思い出?14年前のことですか?」
「まあね。
・・・ふぅ、ミサトが帰ってくるまで、あと3日か…」
やっと静かになったベランダに、ライターで煙草に火を灯す音が小さく響く
「この前ひさしぶりに連絡ありましたよ。『リツコはちゃんと母親してるの?』って」
「ふふふっ、想像つかないでしょうね。私のこんな姿」
「そうですね。でも、エプロン姿の先輩も素敵ですよ♪」
「ありがと。もう『ママ』って呼ばれることにも違和感ゼロだもの」
そう言うとリツコママは再び煙を吐き出す
「あら、もうこんな時間ね…。昼ご飯作らなきゃ」
煙草をくわえて腕時計を見やる
おそらくお腹ペコペコで昼飯にありつくであろう2人のためにリツコは主婦に戻る
「じゃあシンジ君のお昼はこっちで作るから
マヤ。また後でね」
「あ、はい。じゃあよろしくお願いします」
リツコが部屋に戻ったのを確認すると、マヤも布団叩き片手に部屋に戻った

654:パッチン
07/11/01 01:23:08
カラカラカラ…
「ふぅ、暑かった…」
ベランダから部屋に戻ったリツコは、後ろ手に窓を閉めるとキッチンに行き、冷蔵庫を開ける
額にたまった汗に当たる、ヒンヤリとした冷気が心地いい
「…チャーハンでいいわね」
材料を取り出し、まな板の上に並べる
「ん?・・・あ、これ…」
ふと目に止まった戸棚を開ける。中には黒っぽい液体の入った小ビンが転がっている
…ハッキリ言って毒薬である
「そうか…。14才の誕生日に…」
14年前の私…。アスカを憎んでいた私…。
14才のアスカを。碇司令を殺した『14才のアスカ』を殺したかった私
アスカを殺すためにアスカを育てる決意をした私
14年前の私は今の瞬間を待ち望んでいただろうに…。14才のアスカに料理を振る舞う瞬間を…
でも・・・「くすっ、忘れてたわね…。」
本当に忘れていた

「幸せすぎて…」

目の前に広がる世界に小さくため息を吐く
3才のアスカが書いてくれた私の絵
額縁に飾ってある素敵な思い出
10才のアスカと24才のレイと、3人で芦ノ湖に行った時の写真
テレビの上に飾ってある素敵な思い出

流し台の排水溝に黒っぽい液体が流れていく…

『し、シンジ~っ!!激しいよぉ~!!
2回目だから優しくしてよぉ~っ!!』
「無様ね…」

655:パッチン
07/11/01 01:26:56
今回ここまでで、次回ラストです
そして◆8CG3/fgH3Eさんの連載待ち遠しいです…。

656:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/01 03:26:00
GJ
リツコ…ほんと素敵なママになったなぁ。・゚・(ノ∀`)・゚・。

657:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/01 04:35:30
GJ
りっちゃんはあまり幸せ感が漂ってない人だから
こうやって温かみのある生活になじめてよかったなって思えます。
LASで回りも幸せになれるなんて、素敵☆

658: ◆8CG3/fgH3E
07/11/01 19:21:31

     2
     再び


僕はミサトさんと別れを済ますと、すぐ側に停車して僕を待っていた黒く光る車に乗り込み、黒服の運転でモノレールの駅へ向かった。
流れる街の風景を眺めながら、ミサトさんへ去りがけに告げた言葉を思い出す。
「アスカに伝えてください。」
ミサトさんはその時、怪訝そうな顔をしていた。
「アスカに伝えて下さい。『僕は君を憎みつづける。』って。」

我ながら陰湿な仕打ちだと思う。アスカには直接会わずに憎しみを伝え、暗にこれからもその憎しみを糧として生きると宣言した。
思わず、平生の僕には似合わない陰湿な笑みが漏れる。
その上に、一通の“ラブレター”をアスカの部屋の襖に挟んできた。その書面には、如何にアスカが僕に対して酷い仕打をしてきたか書いてある。直接にはとてもじゃないが言えないし、二度とは会うつもりもなかった。
あのアスカに効くとは到底思えないけれども、無いよりはましだろう。
駅が見えてくる。もうすぐこの街ともお別れと思うと、清々とすらした。
しかし雲行が怪しくなる。気持ちが既に決まっていると言うのに、前部座席の黒服二人が騒がしくなったかと思うと、車が突然駅側のロータリーでUターンし、来た道を引き返し始めた。
「なんで引き返すんですか!」
僕は抗議の声を上げたが、黒服はまったく取り合わずに淡々と感情のない声で告げた。
「使徒が現れた。君の解任は不許可になった。これより引き返す。」
なぜ今頃引き返さねばならないのか。僕は愕然とし、震えた。
時間から言って、アスカは僕の残した例の手紙を読んだ筈だ。今から戻るなんて冗談ではない。逃げ出したくなるが、それは出来ない相談だった。
「僕はもうエヴァには乗らないって決めたんだ!」
黒服はもう一言も喋らなかった。
やがて僕は喚き疲れて車のシートに体を埋め、頭を抱えた。



659: ◆8CG3/fgH3E
07/11/01 19:33:28

そうして僕は、またエヴァに乗った。しかしこの本部への帰りがけに見た光景で、いくぶん気分がいい。
無様に両手頭を切り取られて、血をダラダラと垂れ流しながら棒のように立ち尽くす弐号機。爽快だ。きっとこれはトウジにアスカがしたことの報いだ。
普段の僕ならそんなことは思えないが、今僕の精神状態は―自分で言うのもなんだが―かなり不安定でおかしいと思うので、問題ない。
父さんに直訴して乗せてもらうっていうのも気に触るけど、仕方がない。この際なんでもいいじゃないか。ケイジの拘束具が外れる。しばらく歩くと目の前には今まさに下に降りて行こうとする使徒の姿。僕は何も武器を持たず突進した。

◇報告書

 エヴァ初号機は暴走、第十四使徒を捕食したエヴァンゲリオン初号機の専属パイロット碇シンジは、現在乗機内に取り込まれ、赤木リツコ博士を筆頭とする技術部は総力を上げてサルヴェージ計画が進行中である。



ここはどこだろう……。
エヴァ? ミサトさん、綾波、アスカ。僕の世界? 狭いんだな……。
優しくしてる? ウソだ。アスカ……優しくなんかない。
「優しくしてるわよ。」
とミサトさん、アスカ、綾波が言った。
「優しくなんてない。」
アスカなんて嫌いだ。もう戻りたくない。



「シンジ。」
母さん?
「僕はここにいていいの?」
行きたい。母さんの所へ行きたい。ここに居たい。でも。
「どこだって天国になるわ。」
足が動かない。香りがする。いい香りだ。誰だろう? 会ってみたい。僕は、一向に母さんへ進まなかった足を、海原の向こうへ向けた。

660: ◆8CG3/fgH3E
07/11/01 19:50:12

     3
     アスカの日記


○月×日


今日日本に着いた。
ホントにふざけんじゃないと言いたい! 加持サンはアタシに見向きもしないし、それどころか初めて会ったサードチルドレンは情けなくて意気地無しで、しかも無意味にアタシの母性本能をくすぐりやがる。
それにあの中性的な顔だち! これまでアタシの周りにまったくいなかったタイプだ。それにルックスは悪いどころかAあげてもいいぐらい。それに強気のアタシと組めばちょうどよくなりそうな弱気具合い。ある意味釣り合いが―って何書いてんのよアタシは……。
万年筆で書かなきゃ良かった……。


△月□日

未だにアタシの頭は混乱のきわみだ。
日記をつける気分ではないのだけれど、気持ちの整理をつけるために事の一部始終をここに記したいと思う。
なにから書いたらよいのか分からないので、結論から書く。
使徒に負けて、碇シンジと同居することになった。
もちろんアタシは断固拒否した。だけどミサトに「作戦上必要だ」なんて言われたら断れる訳がない!
そうしてアタシは仕方なしに渋々承諾した。
まぁバカシンジの部屋はトーゼンアタシが頂いた。ところが! 荷物が半分も入らない!
なんでこんな狭い部屋に住まなきゃならないのよ。あ~ホント! 日本なんて嫌いだ。





661: ◆8CG3/fgH3E
07/11/01 19:51:44

い月は日

もうムカツク! ホントにシンジはドンクサイったらありゃしない! 前にA評価なんていったけどありゃ撤回する! C評価に降格することにした!
そりゃあんまりじゃないかと言われそうだけど、フザケるなと言いたい! これでも一中のヤツらの中では最高評価なのだから。
アイツったら、楽器やってたみたいに音感だけはいいんだけど、運動神経がまるでナシ。アタシのダンスとなんテンポも遅れているし、何度も転んでアタシの足を引っ張る。
ホントにいい加減にして欲しい。
大体、なんでこんなショボイ男が使徒を三体も倒せたのかまったくわからない。なんかの間違いじゃない?


●月■日

決戦日はいよいよ明日。流石にシンジも様になってきた。完璧とはいかないケド。
まあ太平洋艦隊の戦いの時に、アイツは本番に力を出すヤツだって分かったから、きっとなんとかなると思う。うん、きっと大丈夫。もししくじりやがったらシメてやることにする!
と言うわけでアタシはもう寝ることにする。
Gute nacht Mama.


朝起きたら、アタシはシンジの布団で寝ていた。
何故だろう……?


▽月△日

今日アタシは死に掛けた……。シンジやミサトには何も言わなかったけど、実はさっきになって体が震え始めたところ。
火山に飛込むなんてバカな作戦立てたヤツは誰かしら。まったく……。
不本意なんだけど、アタシを助けてくれたのはシンジだった。
認めるわ、シンジ、アンタはA-に昇格させてあげる。
だけどすぐに借りを返さないことにはアタシのプライドが許さない!
だけどすぐにシンジはC評価にしてやる。


662: ◆8CG3/fgH3E
07/11/01 19:53:18

◎月〇日

やばい、じつにやばい。そりゃシンジに借りは返したし、シンクロ率も断トツトップ←ここ重要! だし、シンジと毎日のように遊びに出掛けて楽しいのたけれど……。
あの浅間山で助けてもらった夜から、いつもシンジの事ばかり見てる。加持さんの居場所が、アタシの中から消えていってる。前より電話の数も少なくなってしまって、シンジと遊ぶ程、顔を見る機会も極端に少なくなってしまった。
加持さんはアタシにとってそれだけの存在だったの……?
シンジの影がアタシの中でどんどん大きくなっていく。
それに今日、アタシはシンジにファーストキスを捧げてしまった。アタシ自身はあんなヤツ好きじゃないって信じてるけど、心がホワっと暖かくなって今までに経験しなかった心地良さを、アイツの側にいると感じてしまう。
それにキスの後急に恥ずかしくなって思わず洗面所に逃げ込んでしまった。ホントに、アタシらしくない。
シンジはアタシにとって特別なのだろうか……?


□月■日

どうしたらいいのか解らない。
アタシは取り返しのつかないことをしてしまった。
鈴原の片足を奪ってしまった。
何年も訓練してきたけど、親友の、ヒカリの好きな人を傷付けた時にどうしたらいいのかなんて、誰も教えてはくれなかった。
アタシの心が、らしくない後悔で一杯になってしまう。
家に帰ってから、アタシはもうどうしていいのか分からなかった。
家にシンジはいなかった。
部屋を覗くと、荷物は全部ダンボールに詰められていて、まるで引っ越しのようだった。
台所の食器とか調理器具は、不審なくらい丁寧に片付けられていて、嫌味なくらい詳細に家事のノウハウが紙に書かれて冷蔵庫に貼ってあった。洗濯の仕方やあるコロッケや肉じゃがなど程度の料理のレシピ。
掃除の重点区域とか安いスーパーの場所まで、それこそ重箱の隅をつつくぐらい細かく。
自分の部屋に戻ると、置き手紙があった。



663: ◆8CG3/fgH3E
07/11/01 19:55:35

アタシはその手紙をさっき読み終わったところだ。
涙が止まらない。泣かないって決めたはずなのに、日記の紙面も涙で歪んでよく見えない。
思い出すのも辛いのだけれど、一応のあらすじを書いておく。じゃないと真正面からこのことを受け止められそうにないから。シンジは、不本意ながらもアタシの心で重要な位置を占めていたから。
手紙の書き出しはアタシへの恨みつらみだった。シンジはアタシとの関係をただの召し使いとご主人様の関係に思っていて、アタシはシンクロ率で目立って、シンジの上げた戦績を埋めさせてシンジの居場所を奪い、挙げ句に鈴原のことを傷付けさせた。
まるで逆恨みのように書かれていた。
その手紙を読んでやっとわかった。全てはアタシの思い込みで、シンジはアタシのことをただの傲慢な女だと思ってたんだ。
バカみたい。
一人で悩んで、一人でシンジのことを大切な位置につけたりして。
ホンット、バッカみたい。アタシ。

いま携帯が鳴った。
使徒が来たらしい。
はぁ、なんかヤル気なくなっちゃった。心になんか大きな穴が空いたみたい……。もうどうでもいいかな……。


●月△日

シンジがエヴァに取り込まれて三日が経った。
突然だけど今日からしばらく日記をつけるのを止めようと思う。
五日かそれ以上、ちょっと遠くまで行こうと思い立ったの。
本当は第三から離れられる状況ではないのだけど、何故かあっさりと許可が下りたのよ。使徒がしばらくこないとが分かっているみたいに。
と言うことでみんなとも―といっても誰にこの日記を見せる気は無いのだけれど―お別れ。
Bis bald!



アスカの日記はここで途切れていた。


664: ◆8CG3/fgH3E
07/11/01 19:59:40
2章&3章投下終了
アスカのシンジへの想いを幾分示したかったので『アスカの日記』を書いた
2章の最後、精神世界のパートは最後までつけるかどうか迷ったものなので、できればこのシーンについては言及無しで……

665:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/01 20:39:22
GJ
続きが楽しみだ

666:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/02 10:17:15


667:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/03 00:36:12
二作品ともGJ!

668:パッチン
07/11/03 04:39:00
「ねぇママぁ~まだ着かないの?
ていうか、どこ行くのよ?」
平日だというのに、学校を休まされた僕とアスカは、リツコおばさんの車の後部座席に並んでいる
「さぁ?どこかしらね」
「もう!朝からそればっかりなんだから!!」
どこに行くのかもわからない車に乗せられ、アスカはかなりカリカリしている
…僕は学校サボれて嬉しいけどね
「ふふっ、もうすぐだから安心しなさい
邪魔しないから、その間2人でイチャイチャしてたら?」
「な、なに言ってんのよママ!!アタシとシンジはそんなんじゃないわよ!!」
…と、叫びながらバックミラーの死角を利用して僕と絡めている指を、キュッと握り直した



第3新成田空港
空港に着いて、ロビーをうろついていた僕達3人。
はじめはポカンとした表情で僕の隣を歩いていたアスカだが、徐々に顔がニヤけ始める
「旅行!?旅行だったのねママ!?嬉しいぃ~っ♪♪」
「違うわよ」
「ガーーーン!!」
アスカの喜びピョンピョン運動は、おばさんの一言で完全停止した
「なによなによ…
なによもうっ!!」
ドスドスと地団太を踏むアスカに苦笑いを浮かべながら、僕はリツコおばさんの方に振り向く
「ねぇリツコおばさん?」
「なに?」
僕は、『何故この場所にいるのか?』という疑問をリツコさんにぶつけ…

「しっ、シンちゃーーーんっ!!!!」

…ようとしたが、僕の開きかけた口は巨大な胸に押さえつけられた

669:パッチン
07/11/03 04:40:42
「うぅ…。シンちゃん、シンちゃん…」
むりむりと胸を押し付けられながら、ワシャワシャと頭を撫でられる
凄まじい混乱の中聞こえるのは、どこか懐かしい女性の泣き声と、怒髪天を突くアスカの絶叫
「だ、誰よアンタぁーーー!!
こら糞ババア!!さっさとシンジから離れろぉぉ!!」
「あぁ!!アスカぁーーー!!!」
ぎゅぅぅぅっ
「ぎゃああああ!!!」
そして僕を抱き締めていた女性は僕から離れ、そのまま怒り狂うアスカを抱き締め始めた
ハグ魔か…?
「ヤダぁぁ離れろぉぉ!!シンジ見ないでぇぇ!!」
無茶苦茶に撫で回す手によってアスカの髪はグチャグチャになっている
ごめんねアスカ。ちょっと面白いから見ちゃうや
「アスカもすっかり大きくなってぇ~!!あの頃と変わらないじゃないのよぉ♪♪」
『大きくなった』『あの頃と変わらない』
矛盾しまくりな言葉を発しながら、アスカのほっぺにキスの乱れ撃ちをする
「ひぃぃっ!!やめてぇぇーーーーー!!!!」
・・・こんな目に合わせるために僕達を連れてきたんですか…
リツコおばさん…?

670:パッチン
07/11/03 04:42:32
コンフォート17
「ただいま~♪嗚呼久々の我が家!!」
「シンジの家よ!!アンタの家じゃない!!」
空港、車内、そしてマンションに着いてからも常にハイテンションな葛城さん

葛城ミサトさん今年よんじゅう××才
元ネルフ職員で、僕とアスカも赤ちゃんの頃可愛がってもらったらしい
…正直こういう人に会うと、どうしていいかわからない
相手はノリノリで僕らに話し掛けてくるが、こちらは苦笑いを浮かべるしか対処のしようがない
…まあアスカは『空港抱きつき事件』から、ずっと葛城さんのこと毛嫌いしてるみたいだけどね

「おかえりなさいみんな!葛城さんもお久しぶりです!!」
キッチンから、スリッパをパタパタいわせながら走ってきたマヤさん
「久しぶりぃマヤ!う~んっ、あんたはあんま変わってないわね」
そう言うと、葛城さんはリツコおばさんをチラリと見る
「ふふっ、先輩が変わり過ぎなんですよ
葛城さんも老けた以外は昔と変わらないですね♪」
「・・・あんた、やっぱ変わったわ」
葛城さんとマヤさんが話をしてる間に、僕とアスカはキッチンに行くことにした
「おかえり、シンジ君。アスカちゃん」
「2人共おかえりなさい」

671:パッチン
07/11/03 04:44:14
キッチンで調理中だったカヲルお兄ちゃんと、レイお姉ちゃん
「ただいま。ねぇあのババアって、レイ姉さんの知り合い?」
「えぇそうよ。昔はあなた達も可愛がってもらったのよ」
「はいはい。その可愛がってもらった話は、あのババアから腐るほど聞きましたよ~だ」
耳にタコをぶら下げたアスカはムスッとしながら、調理場のお皿に目を移し…
「すっご~い!ご馳走じゃない♪」
すぐに機嫌を直した

「おぉっ!!渚君もレイも大人になったわね!!
そっか、もうあの時のあたしと同い年だもんねぇ~」
ウキウキした様子でキッチンに入ってきた葛城さんは、2人を交互に見やりながら、ニタニタ笑う
「お久しぶりです葛城三佐」
「ふふっ、再会はいいね。心まで昔に戻れる気がするよ」
3人共幸せそう
僕とアスカは、置いてけぼりをくらったような気分で、ちょっと寂しくなり、小指同士をつなぎ合わせてその様子を傍観していた

672:パッチン
07/11/03 04:46:54
「それじゃ!みんなの再会を祝して、かんぱ~い♪♪」
その一言を残し、猛烈な勢いでビールを飲み干す葛城さん
「飲みすぎですよ葛城さん…。肝臓とか大丈夫ですか…?」
「あははっ、へっちゃらへっちゃらよん♪
リツコママ~?ビールおかわりぃ~」
若干引き気味なマヤさんの発言を無視して、グビグビとビールを流し込んでいく
「はぁ…。マヤの言う通りよ、肝臓の検査とか行ったら?」
「をぉっ!!さっすがリツコママ!優しいわねんっ♪」
「・・・酔いどれババー」
ぼそりと呟くアスカ
「あっ、そうだそうだ!ちょっちアスカとシンちゃんに渡す物があんのよねぇ」
「へ?僕とアスカにですか?」
「そうよんっ。今のあんた達に渡したいのよ
他の人は悪いけど、出て行ってくんない?」
キョトンとする僕とアスカにそう言うと、他の4人にキッチンから出て行くように指示する葛城さん
「ん…。わかったわ行きましょみんな
・・・アスカ、シンジ君?ミサトの言うことよく聞くのよ。いいわね?」
リツコおばさんはそう言うと、いち早くここから退散していく
その後に続いて3人もキッチンを出て行った

そして残された僕とアスカは、葛城さんと向かい合う形で座っている

673:パッチン
07/11/03 04:52:12
「なによプレゼントってさぁ?」
アスカは疑いの目で葛城さんを見ている
まあ顔には出さないが、僕も不安でいっぱいだ
「うふふっ、懐かしいわ…。ホントに懐かしい…」
「はぁ?」
先程までの『酔いどれババー』から一転『センチメンタルばばあ』に進化した葛城さんを不思議そうに見つめる僕とアスカ
「ホントにあたしまで若返ったみたいね…。
ぐすっ…こうして14才のあんた達と、この部屋で、このテーブルでさぁ…」
「あのさぁ?全然話が見えてこないんだけど。あんた何が言いたいの?」
しまいには涙まで流し始めた葛城さん
はっきり言って意味不明だ
「ねぇ?あんた達付き合ってるんでしょ?」
ボンっ!!
急な爆弾投下に真っ赤に熟す僕ら2人の顔
「な、な、アンタ馬鹿あああ!?」
「そ、そんなこと誰に聞いたんですか!?」
「照れなくてもいいじゃない。ホントのことでしょ?
愛し合う事を恥ずかしがることはないわ」
今度は真面目な顔になる葛城さん。彼女のキャラがわからない…
「そうよ!付き合ってるわよ!!悪い!?」
「愛し合ってるんでしょ?」
「…愛し合ってます」
「好きで好きでたまんないでしょ?」
「好きで好きでたまんないわよ!!」
「なんでかわかる?」
「「…え?」」

「なんでかわかる?」

674:パッチン
07/11/03 04:54:06
そう言うと葛城さんは、スーツケースから一本のビンを取り出す
中にはオレンジ色の液体が…
っ??

な?ん?だ?こ?れ?

「変な気分でしょ?」
隣を見るとアスカもビンをボーっと見つめている
「無理もないわ。あなた達の半身だもん」
半?身?
「何故この液体が半身なのか、何故あなた達に親がいないのか、何故2人が愛し合うのか
今からあたしが説明するわ」
隣のアスカがブルブルと震えだす
「この液体はLCLという液体よ」
あ…れ…?
「そして、あなた達に絶対に知ってもらわなくてはいけないこと…」
僕も震えてる…?
「14年前、あなた達は…」
怖い…!!
「エヴァという…」
僕じゃなくなる…!!
「あなた達は、エヴァに乗っていた14年前の…」
あ…あ…あ…

「うるさーーーーーーい!!!!」

突如ダイニングにアスカの叫び声が響いた

675:パッチン
07/11/03 04:55:43
「うるさいうるさいうるさいうるさーーーい!!!
アタシはアタシよ!!
シンジはシンジよ!!
他の何者でもないわ!!
アタシ達に親がいない!?笑わせんじゃないわよ!!
アタシのママは赤木リツコよ!!
シンジのママは伊吹マヤよ!!
変わりなんて存在しない!!そこに嘘なんか欠片も無いんだから!!
アタシ達が愛し合う理由!?
アンタなんかに何がわかんのよ!!
アタシがシンジを愛した理由なんて、アタシにも説明できないわよ!!
ただ好きで好きでたまらないだけよ!!
それ以外に理由が必要!?
もし、その理由が無くなったらアタシはシンジを嫌いになるとでも言うの!?
なめんじゃないわよ!!
アタシはシンジに何があっても、シンジが何かしたって、アタシは一生シンジのこと愛し抜いてやるわ!!
ここで証明しろって言うんなら、いくらだって証明してやるわ!!
アタシ達がどれだけ愛し合ってるか見せてやるわよ!!
シンジ!!服脱ぎなさい!!セックスするわよ!!」


アスカ暴走

676:パッチン
07/11/03 04:57:54
シンジ・・・シンジ・・・

なになに・・・アスカ・・・

お外に・・・変な3人がいるの・・・

ホントだ・・・ケンカしてるね・・・

でも・・・悲しい顔じゃないよ・・・

3人共・・・お互いが大好きなんだよ・・・

ねぇシンジ・・・シンジ・・・

なになに・・・アスカ・・・

アタシも・・・シンジのこと好き・・・

うん・・・僕もアスカのこと好き・・・

シンジ・・・好き・・・


おわり

677:パッチン
07/11/03 04:59:10
あとがき

以上で『二つの涙』終了です。
長かったですね、ごめんなさいorz
自分の頭の中では、もっと短くまとめるハズが…。ねぇ…
え~、題名は私の愛するサンボマスターさんの曲名から取り、実際この曲を聞いて思いついた感じです
(一応、涙がLCLのつもりです)
では、また短編をちょこちょこポトリしていこうと思います。ではさようなら

◆8CG3/fgH3Eさんへ
頑張って下さい!!
続きめちゃ楽しみです!!

678:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/03 12:31:00
いや、良かったGJ
でも海外に身を隠した加持は何処行ったの?
ミサトが追いかけて海外に出たんだと思ってたから、一緒に戻ってくるんだとばかり(´・ω・`)


679:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/03 13:10:53
ビミョーと言うか、話が見えない。

680:パッチン
07/11/03 13:17:50
>>678
身を隠したから帰ってきませんでしたw
家でゴロゴロしてると思います
…ホントは出したかったんですが、『名前を変えて海外で暮らす人』って、日本に帰っと来れんのかな?
とか考えたら、ちょっと出しづらかったんです(鋼鉄のマナも二度と会えないオチがあったし)
そんな理由で削除しました。すいません…
あと冬月と一中の生徒達にもすいません…

681:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/03 15:49:08
GJ!!
最後のアスカの独白が良かったね

682:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/03 19:17:18
GJ
なかなか良かったです

683:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/04 00:39:35
最近LAS長編でアタリが無かったが、やっとありつけた気がする・・・
文章がイマイチあっさりしすぎな気がするが、台詞まわしと意外な展開の連続が良かったと思う

684: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 16:56:31

     4
     謝罪


目が醒める。
やはりそこは白くて最近やっと知り合ったばかりの天井だった。
ピッピッと生命維持装置の電子音と、アルコール消毒液の鼻を突く匂い。
首を傾けてみるとそこにはカレンダーが掛けてあって、それは僕が無理矢理エヴァに押し込められてから一ヶ月近くか、それ以上経っていることを示していた。

ボストンバッグを肩にぶら下げて病院から出ると、正面の道端にアルピーヌA110が停めてあった。ミサトさんはその車にもたれていたが、僕の姿を認めると体を車から離して片手を上げた。
僕もミサトさんに倣って片手を上げて挨拶すると、車に駆け寄ってボストンバッグを肩から下ろした。
「お久しぶりですね、ミサトさん。」
と僕は軽く微笑みながら言った。
しかしミサトさんは無言のまま、冷たく車の助手席を開けて乗るように促し、僕は素直に従った。
僕の乗り込んだ助手席を閉めたミサトさんは、運転席に座るとキーを回してエンジンをスタートさせた。
ガチガチとギアレバーを動かし、クラッチペダルをゆっくり開放させてギアを噛ませると、アルピーヌは見事なくらいゆっくりとスタートした。
本部病院の敷地内を出てジオフロントから地上に出たアルピーヌは、いくつかの見慣れた角を曲がり、直進し、結局僕が予想した通りの場所に辿り着いた。
アルピーヌはコンフォート17の正面玄関前で停車した。ミサトさんはサイドブレーキレバーを引き起こし、ステアリングから手を離すと僕に向き直り、ただ一言降りるようにと言った。
「あんまりここには戻りたくないんですけど……。」
「分かってる。アスカの事でしょう?」
ミサトさんはサングラスを外して、未だに助手席に座る僕の顔をジッと見た。図星だった。
「いやなの?」
「……いやですね。」
と僕が言うと、ミサトさんは溜め息を一つ吐いて、ステアリングに再び両手を置いた。
「貴方がアスカを嫌っているのは分かる。それが鈴原君の事が原因だと言うのもね。」
ミサトさんは諭すように言ってくれるが、僕はミサトさんの顔も見ないし、声も出さない。僕が何も喋ろうとしないのを見ると、また一つ深い溜め息を吐いて諦めたようにかぶりを振った。


685: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 16:58:56

「いいわ、そうじゃないかと思ってた。家に入りなさい。アスカはもう部屋を引き払ったから。」
とミサトさんは言った。
いないのか、アスカは。
僕は荷物を持ち、やっと車を降りた。まるで駄駄っ児のようだなと少々恥ずかしくもなるが、それはあまり後を引かずに霧散した。
僕は形式だけの挨拶をミサトさんと交してコンフォート17へ入り、部屋へ向かった。
部屋は一ヶ月前とは何一つ変わってはいなかった。アスカがいないこと以外は。

玄関からはアスカの靴は消えていた。部屋の前からは拙い筆跡で書かれた立ち入り禁止の札は外され、代わりに僕の部屋を示す札が架けられていた。
家の中は驚くほど綺麗に整頓されていて、帰ってきて早々の掃除にならなかった事に心中でほっとした。
ダイニングに入り、ふと時計を見てみると時刻は既に正午近く、腹も減っていたのでとりあえず昼食を作る事にした。
ボストンバッグをダイニングテーブルの側に置くと、冷蔵庫を物色する。中にはそれなりの食材が入っていたが、僕はその中から葱とほうれん草、豚肉を取り出して調理台に置いた。
キッチンキャビネットからインスタントラーメンを取り出して他の食材と一緒に調理台へ置く。その隣のキャビネットから鍋を取りだし、それに水を入れて沸騰させる。
せっかく退院したのにインスタント麺なんてどうかと思ったが、まともな料理をする気が起きないのだから仕方がないし、野菜や豚肉をプラスするのだから栄養面でもまあいいだろう。
煮立った鍋に乾麺を投入し、煮込む。ある程度柔らかくなるまで、僕はダイニングチェアを引っ張り出して座り、目を閉じて口笛を吹いた。
しばらく自分の吹いている曲が何か分からなかったが、前半を一吹きしたところで思い出した。そうだ、これはユニゾン訓練の時使った曲だ。そう、あの時はアスカが寝惚けて僕の寝床に入り込み、僕は危うくキスをしてしまうところだった。
少しの後悔が頭をよぎる。どうせならあの時、アスカにキスしとけば良かったかな……。僕は口笛を吹くのを止め、目を開いた。
でも……嫌いだ、あんなヤツ。
調理台の方に目をやると、コンロの上ではグツグツと麺が湯だっていた。




686: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 17:01:29

僕はダイニングチェアから腰を上げ、菜箸を箸立てから取って麺を一本掬い口に運ぶ。
目を瞑っていた時間はそれほど長く感じなかったが、物理的には短く無かったようで、茹で上がったそれはすっかり伸びきって不味くなっていた。
僕はそれを生ゴミの袋に捨て、ラーメンに入れる筈だった食材を冷蔵庫にしまった。
食べる物が無くなる。冷蔵庫を開けたまま中を眺めていたが、改めて探してみると結局惣菜のサラダと作り置きのコロッケが見付かったので、それをダイニングテーブルに置き、ご飯を茶碗に座って昼食を済ませた。
 コ ロ ッ ケ ?
なぜ冷蔵庫の中に、ラップのかけられた手作りのコロッケがあるんだ?
僕はダイニングチェアに座りながら、目の前に置かれたコロッケの残滓がこびりついた皿を眺めてなかば自失していた。
僕は前に作った残り物の腐ったコロッケを食べたのか? いや違う、味もなんとも無かったし一ヶ月前にも作った覚えがない。
このコロッケは誰が作ったんだ? ミサトさん? いやミサトさんが作れる筈がない。ではアスカ? いやアスカだって作れる訳がないじゃないか。
僕と暮らしている間、彼女は一度もキッチンなんて立たなかったんだから。
惣菜だろうか? だが味はどこか特徴があって、惣菜のような平坦な味ではなかった。
考えても考えても、誰の顔も浮かばない。
僕はやがて考える事に疲れて、椅子の背もたれに体を預けて天井を仰いだ。
そうしてただ天井を見ていると、段々いろんな事がどうでもよくなってきた。
僕はコロッケの残滓が残る皿と、惣菜のサラダが入っていたプラスチック容器をシンクに放り込んで、床に置いていたボストンバッグを担いだ。
自室への復活を遂げた部屋の扉を開け、中に入るとボストンバッグを置き、ベッドに寝転んだ。
誰もいないんだ。
この家には 誰 も い な い 。






687: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 17:02:54



一週間が過ぎた。
何も無かった。無さすぎるほどになかった。
家の中は静まり返り、聞こえるのは僕自身の息遣いか咳払いか衣擦れの音だけだ。
ベッドの中から時計を見る。午前十時だった。外からは雨が地面を打つ音が聞こえる。
僕はベッドから抜け出し、洗面所で顔を洗って歯を磨いきうがいをし、キッチンに向かって冷蔵庫から牛乳を取り出して飲み、空になったそれをシンクに置いてリビングに入った。
テーブルの前に腰を下ろそうと屈むと、どこからか僕の携帯の呼び出し音が耳に入る。ボストンバッグの中に置き忘れたのか退院の日に着ていた服かと思ったが、一ヶ月前のネルフ脱退騒動の時に保安部へ返したのを思い出した。
僕はリビングの隅々から、自室や玄関までそれこそ虱潰しに探してみたが、一向にその殆んど使われた事のない真新しい携帯は見付からなかった。
もう一度リビングを探していると、一ヶ所だけ探していない場所があるのに気付く。僕が前に使っていた物置部屋だ。
戸に近付いてみると、やはり鳴る筈のない携帯の呼び出し音が、戸を境に多少くぐもって聞こえる。
戸を少し開けると、僕の耳に入るその音は少しクリアになった。
戸を半分まで開き、部屋に入って中を見回してみる。
そこには、荷物の入っているであろうダンボールや机が置かれ、まだ一ヶ月も経っていないというのに、それらには既に埃がうっすらと積もり胡散臭い雰囲気と重苦しい空気を漂わせていた。
机?
なんでここに机なんかがあるんだ? ミサトさんは使っている。僕の机だって部屋にある。じゃあこの机は誰の机なんだ?
携帯の呼び出し音は机から鳴っていた。僕は机に近寄って机上の携帯を取り、そこにある何かを確かめるように机の表面を撫でた。それは紛れもなく、アスカが使っていた机だった。
携帯の通話ボタンを押す。
「はい、もしもし……。」
通話の相手はミサトさんだった。




688: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 17:05:22

「あ、シンジ君?」
「なんですか?」
「いや、なにって訳じゃないんだけどね……。携帯がちゃんとシンジ君の手元に戻っているか気になってね。確かアスカが自分からシンジ君に渡すって言ってたのを思い出して……。」
「アスカが?」
「そうよ。その様子だと一応あなたに渡ってたみたいね。安心したわ。これからは特に予断を許さないから、携帯は肌身離さず持ち歩いてて頂戴ね。」
とミサトさんは言って一方的に電話を切った。
アスカが僕に渡すと言っていたって? なぜ? あれから僕とアスカは一言も喋るどころか顔を合わせていなかった。
しかし顔を合わせることぐらいは出来た筈だ―それも、僕の意思を無視して。しかし彼女はそうはしなかった。なぜか?
机上をもう一度良く見てみると、そこには最初見た時には気付かなかった封筒があった。
それは横書き用の、横に長い封筒だった。
心臓の、血液を送り出す音が、耳の奥で僕の脳を刺激する。僕の鼓動が体の芯まで響く。
封筒の口は蝋で封印がされ、『シンジへ』と宛名が書いてあり、裏には『アスカ』と差出人の名前が小さく書かれていた。
蝋の封印を外し、中身を取り出す。入っていたのは一枚の便箋だけだった。
『ごめんなさい』
手紙には、それだけが書かれてあった。
僕は震える両手で手紙を封筒に戻し、本来あった所に置き直した。



僕が物置部屋から出ると、ポケットに捩じ込んだ携帯が鳴った。電話の主はまたミサトさんだった。
僕はポケットから携帯を取り、通話ボタンを押して耳に近付けた。僕はその電話でミサトさんに、使徒が襲来した事を告げられた。
僕が外に出ると、コンフォートの前には保安部の黒い車が停車していて、保安部の黒服が待っていた。僕は促される前に車へ乗り込み、黒服の運転でネルフへ向かった。
ネルフ本部に着いた僕は誰とも会話することなく、更衣室でプラグスーツに着替えてケイジへ入った。
一週間振りにエヴァに乗った僕は、随分久し振りに感じるエントリープラグの匂いを鼻孔一杯に吸い込み、その後に流し込まれたL,C,Lを肺へ取り入れた。


689: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 17:06:55

アスカの弐号機を見る。それはいつもと変わらず、そこにいて出撃を待っていた。当然アスカの顔は見えない。
ミサトさんから通信が入る。
「シンジ君。悪いけど今回は貴方の出撃は無いわ。」
「どうして……ですか?」
「いま初号機はS2機関を搭載しているからよ。凍結されているの。」
通信が切れ、エントリープラグを沈黙が支配するが、完全な沈黙ではない。外から発進シークエンスの類の音や機械音が聞こえる。
僕は溜め息を吐いてシートに体を沈めた。
まあいい。休めるんじゃないか。使徒はアスカと綾波に任せよう。
僕は右腕で両目を覆い、息を吐いた。



アスカの悲鳴が聞こえ、心臓がその悲痛な叫びを受けて不意に軋む。必死で父さんに僕を出すように言い、ミサトさんに懇願するが、一向に事態は良くならず僕の手に余った。
使徒の可視光線に犯されて苦しげに喘ぐアスカが、一言だけ僕の名前を呼んだ。だがそれだけだった。
公開されていた通信が切られ、僕とアスカを結ぶ紐は無残にも引きちぎられた。
やがて綾波が得体の知れぬ槍を持って出撃し、使徒を殲滅した。
僕は、アスカがエントリープラグから下ろされて病院送りになるところまで、その一部始終をただ黙って眺めていた。

結局、僕は何も出来ないままエントリープラグから降りるしか無かった。
僕は更衣室に戻り、帰り支度を始める。さっきの事を、着替えながら改めて考えてみると僕の思った事が酷く矛盾しているように思えた。
僕は確かに何かをしたかったと言う風に考え、現に父さんやミサトさんに出撃させてくれるように懇願した。
なぜ? なんで僕は憎んでいるアスカを助けようと思ったんだろう?
僕はそれについて、シャワーを浴びるときまでも理由を探し続けたが、結局その答えは見付からなかった。



690: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 17:08:55



僕が制服に着替えて廊下に出ると、そこにはネルフの制服を着たミサトさんが真剣な面持ちで僕が出てくるのを待っていた。
「どうしたんですか? 何か用ですか?」
と僕が尋ねるとミサトさんは「ええ、チョッチね。」と独特の言い回しで用があると告げた。
さらに僕が何かと訊くと、ミサトさんは来て欲しいと言って僕の腕を掴んだ。僕の腕を捕まえたミサトさんは医療区域へと僕を連れて行く。
僕はささやかな抗議と目的地を設問したが、ミサトさんはほとんど取り合わない。十分ほど歩き、ようやくミサトさんが立ち止まる。
医療区域に向かった時点で既になにか嫌な雲行ではあったが、結局その悪い予感は当たっていた。
立ち止まった場所はとある普通の病室。303号室、名札には『惣流・アスカ・ラングレー』と書かれていた。
「ここにはアスカが入院しているわ。」
僕はハッとして振り返る。ミサトさんは僕の背後に立ち、逃げる事の出来ないようにしていた。
「ノックして。」
抵抗するのは無駄だと解っていた。僕は二度三度、病室の無機質な扉をノックする。帰ってくる答えはなく、静寂だけが漂った。
このまま病室の前から逃げてしまいたかった。もしかして、ミサトさんに止まるよう言われて腕などを捕まれても、喚けば見逃してくれるかもしれない。
しかし僕は知らず知らずのうちに「逃げちゃ駄目だ。」と心中で呟き、リノリウムの床の上に残留していた。まるで裸山にポツンとしぶとく残る枯れ木のように。
その姿がしぶっているように見えたのだろう、ミサトさんは立ち竦む僕をしり目にドアノブを回し、扉を開けた。
病室内の白い壁と大口の窓、そして電源の切れた見慣れて久しい生命維持装置とベッド。
アスカはそのベッドの上に蹲っていた。彼女はシーツを体に纏い、膝を抱えて顔をそこに埋めていた。
「アスカ? 大丈夫?」
とミサトさんは言い、僕を病室内へ手招きした。
「大丈夫な訳ないでしょ……?」
それは酷く疲れたような、擦れた声だった。
「それもそうね。」
僕は黙って病室の敷居を跨いだ。僕の姿は見えていないようだ。
「なんの用よ?」
微かにアスカが動き、衣擦れの音が聞こえた。




691: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 17:10:09

「会わせたい人がいるのよ。お見舞いがてらね。」
それが僕の事であると言う事は即座に分かった。ミサトさんはちらりと僕を見た。
「イヤよ。」
とアスカが言った。
ミサトさんは驚いたような目でアスカを見た。
「なぜかしら?」
「シンジとは会いたくない。」
きっぱりと、それは絶対に無いのだと断定した口調でアスカが言った。ミサトさんは黙りこくり、俯いて頭を人差し指でカリカリ掻きながらしばらく考えていが、やがて顔を上げた。
「分かった。行くわよシンジ君。」
僕の名前が響き、アスカの耳に入ると彼女の肩が強張ったように見えた。僕はそれに黙って従い、部屋を出た。

それが僕の一ヶ月と一週間振りに目にしたアスカの姿だった。



目が覚める。暗い、ひたすら暗い。枕元の時計を見ると時刻はまだ三時、早朝の三時だった。
「なんだよ……こんな時間に……。」
掌で目を擦り、時計を置く。玄関の方からチャイムの耳障りな電子音が鳴り響き、僕の耳朶を打った。眠りの阻害の主はそれだった。
僕は眠り眼のまま、呆けた体を引きずって玄関へ出るとドアのロックとチェーンを外してドアを開けた。
「こんな時間にどちら様ですか?」
と言おうとしたが、僕の口からは空気しか漏れなかった。僕の口は壊れたポンプのように空気だけを吐き出した。
最初に口をきいたのは、僕ではなく彼の方だった。
「よっ、センセ! ご無沙汰やったなぁ! なんや黙りこくってからに、パクパクしよって鯉みたいやぞ!」
「トウジ……。」
「やっと喋ったのがそれかいな……。ま、立ち話もなんやし、お邪魔するで。」
その場にいる筈のない鈴原トウジは、僕の意思を聞くこともなく敷居を跨ぎ、かつてのように変わらない所作で振る舞い、僕の横を通り抜けた。一つ、違うものがあるとすれば、彼には片足がないと言う事だけだった。



692: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 17:11:28

銀色の目立つステンレス製の松葉杖を突いたトウジは、僕を後ろに従える形で部屋の中へ推し進む。
「惣流はどこや?」
トウジはリビングの入り口で振り向く。
「おらんのか?」
トウジの視線が僕を鋭く貫き、覚えのない罪悪感を掻き立てる。僕はゆっくりと首を振った。
「なんでや。」
とトウジは僕を責めるような口調で言った。
僕が黙ったままそこにつっ立っていると、彼は一つ溜め息を吐き、カーペットの上に座った。
「座れや。」
僕はトウジのテーブル向かいに座った。
傍らに松葉杖が置かれる。
「大丈夫なの?」
「ん……ああ、これか。」
とトウジは言い、左足の切断されたであろう場所を二度叩いて撫でる。
「なんでもあらへん。今はぎょうさん立派な義足があるさかい。すぐ歩けるようになるて病院の先生も言っとったがな。」
そう言うとトウジは快活そうに笑った。
「病院……抜け出して来たの?」
「おう、意外と難儀せなんだわ! 病院の看護士はん達出し抜く程度なんでもあらへん。」
「よくここまで来れたね……。」
僕は、トウジの入院した病院の場所を松代だと聞かされていた。
トウジはここまでの旅路を話してくれる。
彼は病院を抜け出したあと、親の財布からくすねた金―2000円程度―で電車に乗り、道中安い弁当や公園の水道などで空腹を満たしてやっと甲府まで辿り着くと、そこに住んでいる年上の友人に頼み、車でここまで送って貰ったのだと言った。
「大変、だったんだね。」
「なんも……大変な事なんてあらへん。センセが間違った事しとらんか気になったからやし……。ま、悪い予感は当たったけどな。」
とトウジは言って、座り心地が悪そうに体勢を変えた。
「悪い……予感?」
僕がそう言うと、トウジはしまったと言う風に自らの頭を叩いてポリポリと掻き「そうやそうや、肝心な事うっかり忘れとったわ。」と言った。


693: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 17:13:24

「おのれ、惣流ん事恨んどるやろ?」
とトウジの言った瞬間に僕の五体は、指先から真の髄までもがまるで氷水に浸けられたようにひやっと冷たくなった。
「な……だ、だからなんなのさ……だってあいつはトウジの足を……。」
と僕は吃りながら呟くように言うと、トウジの目線を避けて俯いた。
「それはセンセが気にしたり、恨んだりする事やない。」
それは妙に冷めた、トウジには到底似合わない口調の言いだった。
僕ははっと俯いていた顔をあるべき正常な場所へ戻し、トウジの顔を見た。彼の目線は明らかに僕を責めている。人と触れ合う事の乏しく、相手の心境を推し図る経験のなかった僕でも、何故だかそれが分かった。
「惣流な……ワシのとこに来たんや。」
その言葉を脳内で言語として認識した僕は「え!」と驚きの声をあげ、訝むようにトウジを見た。
「んで、謝った。ワシや無いぞ! あの惣流がやぞ! あの惣流が、ワシの前で両手ついて謝りおったんや。」
俄かには信じられなかった。
「あいつの手、両手がな、肩とか、震えとった。おのれのプライドとと、必死になって殺りあってたんがワシにでもよう分かった。多分、あの髪の下じゃ歯ぁ食い縛ってたんやろな。隣にいた委員長も苦しそうにしとった。」
そこまで話してトウジは一息吐き、座る体勢を変えた。
「だけどな、ワシはなんも恨んどらんのや。それどころか感謝しとる……。」
「感謝……?」
と僕は顔を引き攣らせて言った。
「そうや、感謝や。そやな……考えてみい、もし……もしワシの事を惣流が止めてくれなんだら……。ワシは、ワシはセンセを殺してたかも知れん。」
「あ……。」
と僕は声を上げた。
「センセ殺すぐらいなら……それに比べたら足一本くらいなんともないわ。」
とトウジは言い、笑った。



トウジは帰っていった。
最期にこの三日間、第三に泊まる場所の住所と電話番号を手渡して。


694: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 17:19:33

僕が早く帰らなくて良いのかと聞くと、
トウジは「しばらくこの町見てから帰りたいんや。最近はキナ臭い噂で出ていくヤツばかりやからな、妹にも家の様子伝えよ思うてな、
それに保安部の兄ちゃん達にワザと見付かれば、タダで松代まで送ってくれるかも知れんし。」と言って何でもないように笑った。
そして僕とトウジは別れた。
トウジを見送り、部屋に戻って渡された紙切れを見てみると、そこに書かれた住所はここから反対側の町中にある団地だった。
時計を見ると短針は四時のところを過ぎていて、僕は少し小腹が空いたのに気付く。しかし何故か食欲というものが湧かなかった。
僕はキッチンに入って薬缶に水を入れるとそれを沸かし、インスタントの珈琲を煎れて飲んだ。
不味いその黒い液体は喉を通って胃に落ち込み、多少の空腹を満たして喉を潤した。
一息つくと何もする事がないと気付く。
今から寝るのも難しかった。コーヒーではなく、ミルクでものんで置けば良かったと後悔する。
僕はしばらくダイニングテーブルの前で逡巡していたが、やがて思い立ったように自室へ向かい、久方振りにチェロをケースから取り出した。
手に取るのはアスカと苦い―と言っても本当に苦くはなく、むしろ甘かった―キスした日以来だと思い出す。
僕は軽くチェロ調弦し、一心不乱に知っている曲を弾いた。
バッハにベートーヴェン、そしてドヴォルザーク、果ては名もよく知らぬジャズの一節まで、自分のレパートリーを絞り尽すように。
実はチェロなんてもう二度と弾きたくなかったし、持ちたくもなかった。
しかし時間を潰し、朝の夜明けを待つには他にない。
つくづく自分の人間の薄さを思い知らされる。
チェロを弾いていると脳裏に様々な記憶が蘇り、頭の中を支配した。アスカにあの時掛けた言葉や、取った態度。
思えばアスカは、トウジに傷を負わせた後からかなりおかしくなっていた。
もしかすれば、僕が気絶された後に病室で言った言葉。あれはもしかして僕を慰める言葉だったのか? 僕の回復を願う言葉だったのか?
そう考えると僕の行ってきた行為全てが、まるで悪意に満ち満ちているように感ぜられ、一旦客観的視点から改めて見てみると、酷く子供染みて見えた。


695: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 17:21:51

しかし僕は最初のうち、その感情が何であるか分からなかった。
それに僕は、例えあのプライドの塊のようなアスカがトウジに謝り、そしてトウジがアスカを許せと言っても、とてもではないが許す気にはなれなかった。
僕はこれまであまり意地を張らずに生きてきた。預けられていた先生のところでも、「素直な子だね。」と言われた―もっとも、僕がなにを考えているかなんて分かってくれてはいなかっただろう―くらいだ。
しかし今回ばかりは、あの傍若無人なアスカを許せないと僕は思った。

金属の切れる音と共に演奏がいかれた。閉じていた瞼を上げてチェロを見てみる。チェロの弦は見事に全てが切れ、飛んでいた。
弦を押さえていた手が急に痛み出し、顔を思わず顰めて痛む指を見た。その指はチェロの切れた弦が跳ね、綺麗なほどに赤いミミズ腫れをつけていた。
僕は弦の切れて弾けなくなったチェロをケースにしまい、キッチンの水道で腫れたところを冷やした。
指を冷やしていると、ふと気付く。そうだ、あの感情は後悔だ。僕は後悔しているんだ。
蛇口を捻り水を止める。水道水で濡れて腫れた手をタオルで拭った。
でもなんで、僕は後悔しているんだろう?
リビングへ振り返り、テーブルに立掛けたチェロを手に取ると、リビングに開いた大きな窓を見た。いつの間にか夜は明けていた。
僕の見た部屋の中には、朝日の陽光が差し込み僕の体や部屋のカーペットを優しく暖めていた。





696: ◆8CG3/fgH3E
07/11/04 17:33:21
第4章~謝罪~、投下終了

伏線張ったけど、わかりやす過ぎたかorz

アスカが手を突いた事については、アスカ自身がヒカリから恋愛相談を受けていたと言うのを加味し、ヒカリへの罪悪感を重視しました。
アスカを謝らさせないととてもハッピーエンドとはほど遠いので……
クライマックスはまだ先です……orz いいですよね?451氏!


697:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/04 17:38:15
神乙

698:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/04 17:41:34
ktkr!
あんた最高w
乙!

699:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/04 17:43:22
リアルタイムGJ
トウジ良い奴だな(ノД`)

700:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/04 18:57:33
なかなかの自演だなw

701:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/04 19:10:22


702:パッチン
07/11/04 21:16:24
文章上手いなぁ…。すごい神様です!GJ!
今更暴露ですけど、>>451あれ僕ですw
あぁ…すっごい続きが楽しみです!

703:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/05 09:11:20
乙です!

704:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/05 11:20:21
トウジktkr

超GJです。

705:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/05 12:10:16
◆8CG3/fgH3E氏 GJ!

>>702
SS投下時以外はコテ名乗らない方が身の為だよ

706:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/07 17:43:27


707:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/07 22:18:13
>>533 で書き上がってる発言があったのに続き遅いな
手直し時間かかってるのか?

708:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/11/07 23:51:17
まったり待とう


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