【野菜】 アスカの家庭菜園 【栽培】at EVA
【野菜】 アスカの家庭菜園 【栽培】 - 暇つぶし2ch412: ◆KEVrvVR6eo
07/09/16 22:43:41
日本へ来て数ヶ月。ここでの生活もかなり慣れてきた。でも、この蒸し暑さだけはどうしても慣れない。
吹き出る汗を拭いながら、村の中心部へと向かう。

ショッピング、とは言っても、ここ第三新東京市にはそれほど店がある訳ではない。
唯一のブティック、『ファッションセンター・しまむら』で洋服を見る。
ミサトから貰ったすずめの涙ほどの小遣いでも買えるぐらい安いことは安いのだが、いかんせんセンスがない。
でも値段の割にはそこそこなので、そこは我慢。
来るべき加持さんとのデート用に、グリーンのワンピースとボレロのような上着のセットを購入する。
(実際にはヒカリのお姉さんの友達とのデートで着ることになってしまったのだけど…)
しばらくウインドウショッピングを堪能した後、『Aコープ』でスイカバーを購入し、食べながら外をふらついてみる。

使徒の襲撃がない時は、毎日田畑の管理をするだけの代わり映えのない日常。
そこから逃れたいと思ったからかもしれない。
アタシは普段は行かない、村のはずれへ行ってみようと思った。

バスの時刻表を見る。…次のバスまでは一時間以上もあった。
イライラに任せてバス停を蹴飛ばすと、アタシは歩き出した。

413: ◆KEVrvVR6eo
07/09/16 22:45:40
左右一面にどこまでも広がる田園風景。そして遥か彼方まで延びてゆく一本道。
別に何か目的がある訳でもないし、急ぐ旅でもない。だらだらとかたつむりのように歩を進めていく。
照りつける太陽の日差しにウンザリしながら、アタシは物思いに耽る。ずっと昔の記憶が鮮明に蘇ってくる。


ママはドイツの大学で、園芸学の准教授をしていた。
その影響もあって、アタシも同じ道に進むことを決意したのだった。
家では家庭菜園もしていた。ママはそこで採れた野菜を料理していつも食卓に並べてくれた。
どの料理も全部美味しかったけれど、ママの作るトマト料理は何よりもダントツ一番美味しかった。
だからトマトには人一倍思い入れがあった。
アタシの書いた論文、『トマトのハイポニカ農法の確立』が評価され、
ネルフの専属就農者に選ばれた時は本当に嬉しかった。
1本の苗から1万5千個のトマトを成らせる養液栽培法、ハイポニカ農法。
人類の食糧危機を救うエリートとして選ばれたのだ。世界一。だから私を見て。
でも。その喜びを分かち合えないまま、ママは死んでしまった。自ら命を絶ってしまった。
そのときから、アタシはひたすらトマトの育成に励んだ。
アタシにはトマトしかないのだ。トマトを育てるしか…


現実と記憶の残像の狭間で、感傷的な気分に陥ったその時だった。
とても芳しいコーヒーの薫りに、急に現実に戻される。頭の中の思い出が遠ざかってゆく。
ふと顔を上げると、田んぼの傍らに、おおよそ不釣り合いな洒落た店構えの喫茶店が目の前に現れた。
白いしっくい塗りの外壁の下半分はレンガ張りになっており、三角屋根のてっぺんに大きな風見鶏が立っている。
何故こんな場所にカフェが?
そんな疑問が頭をよぎったが、その香りに引き寄せられるように、アタシはその店に入っていった。

414: ◆KEVrvVR6eo
07/09/16 22:48:53
「いらっしゃいませ!」

『風見鶏』と店の名前の書かれた看板がぶら下がっている分厚いドアを開け、中に入ると、
年齢不詳の髭のマスターとそのご婦人らしき長い髪の綺麗な女の人がアタシを出迎えた。
大きな出窓のおかげで店の中はおだやかに明るい。意外にも小奇麗な店内に少し驚く。
アタシの他に客はいない。当たり前だろう。こんな辺鄙な場所にわざわざ来る酔狂な客などいるはずがない。
アイスコーヒーをオーダーすると、開け放たれている出窓側の席に座る。
店内から流れてくるジャズのアルトサックスの音色に耳を傾けながら、アタシは再び記憶の海へと沈んでゆく。


ママがいなくなってから、アタシは自分の殻の中に閉じこもるようになっていた。
いつも自室に引き篭もり、TVばかり見ていた。
そんな時、あのアニメに出逢ったのだった。「機動戦士ガンダム」だ。
はじめは、なんて前時代的、面白くないアニメだろう、と思っていた。
だけど。話が進んでいくにつれ、ある人物に興味を惹かれていったのだった。
そう、赤い彗星、シャア・アズナブルに。
ララァを失ったシャアの気持ちが、アタシには痛いほど共感できた。
プライドが高く、超優秀。でも、心のどこかに闇を抱えている… そんな彼。
だからアタシは、シャアと自分とを重ねあわせるようになっていった。
いつしかアタシはシャアに傾倒し、その言動を真似る癖がついていた。
アタシ専用のコンバインが作られることになった時、そのカラーを赤にしたのは言うまでもない。
そういえばあのアニメ、最後、シャアはどうなったのだったっけ?


…そんなことを考えていた時。
マスターの声に、再度現実に引き戻されてしまった。

415: ◆KEVrvVR6eo
07/09/16 22:50:56
「お待たせしました。今日も暑いですねぇ。お嬢さんは学生さんかな?」
物思いの邪魔をされた苛立ち。非常に不愉快だ。
そんな人の気も知らず、余程暇だったのか、
はたまた喋ることもサービスの一つとでも考えているのだろうか、マスターがしきりに話しかけてくる。
アタシは、物思いの邪魔をされた苛立ちから、皮肉っぽくマスターに突っかける。
「こんな辺鄙な場所にカフェなんてビックリ。お客さんなんてほとんど来ないでしょ?」
「ええ。開店休業状態で商売あがったりですよ。」
テーブル上の草物盆栽を持ち上げて、布巾でその下を拭きながらそうマスターは答える。
「でも、私の淹れるコーヒーを楽しみにしてくれている方がいる限り、続けていくつもりです。」
アタシにはそこまでして営業を続けていく神経が理解できなかった。
「ここのマスターは、口は悪いけれどとっても美味しいコーヒーを淹れるのよ。」
ステレオの前でCDを選んでいる女の人が微笑みながら口を挟む。
「お前はいつも一言多いんだよ、カレン。」 マスターが子供のように口を尖らせる。
「あらー、でも本当のことじゃない?お兄ちゃんのコーヒーは世界一だって。」
美人でおっとりとしたこの女の人は、どうやらマスターの妹さんらしい。
「う… そう、かな…」 照れて顔を赤らめながら顎鬚を撫でさするマスター。
そんな微笑ましい二人のやり取りを見つめながら、アタシはアイスコーヒーをゆっくりと味わう。
妹さんとマスターの自負した通り、とても美味しいコーヒーだった。

何かのはずみで、ふと話が途切れる。
刹那、出窓の隙間からふわっと夏の風が震え、アタシの顔を撫でて通り過ぎていった。
その風は、朝に感じたような嫌悪感は全くなく、逆に涼しく、とても快いものだった。
朝からずっと抱えていたモヤモヤとした気持ちは、既にどこかへ消えていた。
今度来る時は加持さんと一緒に来ようかな。
ヒカリと一緒にお茶するのもいいな。ついでにバカシンジも連れて。そしてファーストも…
アタシはそう心に決めた。

「ご馳走さまでした~」
代金を支払うと、マスターとその妹さんにお礼をし、弾んだ心でアタシは店を出た。

416: ◆KEVrvVR6eo
07/09/16 22:52:28
帰りのバスは幸いにもすぐに来てくれた。足早にバスに飛び乗る。
誰もいないガラガラのバスの中。アタシは農場に寄ってみようと思った。
無性にトマト畑が気になり、見ておきたくなったのだ。
田んぼの中の案山子と、その周りを飛び交うトンボの群れを眺めながら、目的地への到着を心待ちにする。

バスを降り、農場へ向かう。アタシのトマト畑の隣で、シンジがナスに追肥をやっているのが目に入る。
シンジはアタシに気付いていない。視線をトマト畑へと戻す。
第七使徒イスラフェル(スギナ)戦の時にシンジと一緒に植えたトマトの苗は、
いまや背丈以上に大きくなり、美味しそうな実をいくつもつけていた。
真っ赤なトマト。畑に入ると、アタシは手を伸ばし、それを二個もいだ。
キュッという、なんともいえない感触が手に残る。
アタシはおもむろに、一つをシンジに向かって放り投げた。
「うわっ、アスカ!?危ないじゃないか!」
突然自分に向かって飛んできたトマトに驚き、慌てて受け止めるシンジ。その呆けた顔に言い放つ。
「いいから食べなさいよ!アタシのトマトが食べられない訳?」
ブツブツと文句を言っているシンジを横目に、アタシは手の中のトマトを見つめる。
光沢のある真っ赤なそれは、まるで神様の気まぐれで作られた宝石のようだ。
食べる前にそっと匂いを嗅いでみる。
夏の太陽の香りと甘酸っぱくて青臭いトマト特有の香り。服で軽く拭うと、アタシはたまらずかぶりつく。
張りのある外皮が破れると同時に、口中にさわやかな酸味がさっと広がっていく。
噛みしめていくほどに、じわじわと甘味が増してゆき、思わず顔がほころんでしまう。
もぎたてのトマトは少々生暖かったけれど、何よりも新鮮でとてもおいしかった。
食卓塩がこの場にないのが本当に恨めしい。
滴り落ちる果汁が手を汚すが、構わず何度も口へと運んでいく。
シンジの方を見やると、アイツも同じように一心にトマトをほおばっていた。
自分の作ったトマトを美味しそうに食べているのを見ていると、それだけで嬉しくなった。

417: ◆KEVrvVR6eo
07/09/16 22:53:38
ふと、先程のカフェのマスターが言っていた言葉を思い出す。
『私の淹れるコーヒーを楽しみにしてくれている方がいる限り、続けていくつもりです。』
今なら彼の言っていた意味がわかる。
今まで、アタシはいかにトマトの生産性を高められるかだけを考えて栽培に取り組んできた。
でも。ただ作るだけが目的じゃない。食べてくれる人がいるのだ。目の前のシンジのように。
きっとママも、アタシが美味しそうに食べるのを楽しみにして、家庭菜園をずっと続けてきたのだろう。
アタシの作ったトマトを食べてくれる消費者。その人たちへの真心を忘れていたことに、今更ながら気付いた。
これからはその気持ちも大切にして栽培していこう。そう思った。

トマトを食べ終えたシンジと目が合ってしまう。
手と口の周りを汚したカッコの悪い状況。そんなお互いの姿に笑い合う。
「ありがとう、アスカ。すごく美味しかったよ。」
思ったことを素直に口にするバカシンジ。いつもアイツはアタシの意表をついてくる。
不覚にも少しドギマギしてしまう。照れ隠しにシンジの服で手と口を拭ってやった。
「ちょっ、アスカ止めてよ!」
「…すっごく汗臭い。ちゃんとお風呂入ってるの?」
「あ、当たり前だろ!今日は朝から農作業してたんだからしょうがないじゃないか!
あ~あ、シャツが汚れちゃったよ…」
シンジにはお気の毒様だけれど、アタシの心は今日一番の爽快な気分だった。

いつの間にか、もう日は暮れかかっていた。
「ねぇシンジ、そろそろ帰ろっか?」
「うん、帰ろう。」
農場を後にして、アタシ達は並んで歩き出す。
トマトと同じくらい真っ赤な夕焼け。
それによって作られた影法師を踏みしめながら、アタシ達は家路につく。



~side story #1 Garden City Life ―アスカ編― Fin~

418: ◆KEVrvVR6eo
07/09/16 22:56:52
アスカの設定の補完を兼ねて投下。
TVシリーズ本編とは若干違いますが、ご容赦下さいませ。

…もしアレでしたら、いつかまたレイ編でも書いてみますです。

419:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/09/17 00:07:23
GJ
レイ編期待してる

420:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/09/17 01:02:00
GJ!
そういや前、トマトの天麩羅の話あったけどトマトのフライはちゃんとしたメニューに
あるのな…  
なんか漬物に出来そうなくらい青いトマトを輪切りにして・種抜きして小麦粉・溶き卵
パン粉の順に絡めて揚げる料理だったよ… なぜかケチャップつけて食うらしい。

青いトマトなんざ自分で作らねーと手に入らねーよ!

真っ赤に熟した桃太郎トマト万歳!

421:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/09/20 01:44:32
アスカのトマト好きにはそんな訳があったのか
冷やしトマト食いたくなったぜ

422:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/09/20 14:02:53
>>412
しまむら
ワロタ

423:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/09/22 15:24:55
うちのトマトはこの前の台風でほとんど落ちてしまった
もったいないから拾って醤油漬けにしたんだが
ちょっとぐらい天麩羅にしてみれば良かったな・・・

424:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/09/25 20:58:44
青いトマトのフライにケチャップ…
どんな味なんだろうか?

前回の台風で、菜園家や農家の皆様は大変だったみたいですね。
家はジャガイモが不作だった…

425:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/09/29 21:43:26
保守

426:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/03 09:41:51
保守

427:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/03 22:13:40 77UCBmb1
         ハ,,ハ
        ('(゚∀゚∩_ おいらをどこかのスレに送って!
      /ヽ   〈/\ お別れの時にはお土産を持たせてね!
     /| ̄ ̄ ̄|.\/
       | .モツ煮..|/
        ̄ ̄ ̄
現在の所持品:たばこ・ブラウザゲー・デストロイヤー・モロゴ石・菌・大便・大輔・魔界村・処女膜
真紅はいらない子

428:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/04 09:36:03
>真紅はいらない子
てめぇ!

429:党員
07/10/06 00:21:53
>>428
事実よぉ
おばかさぁんwww

430:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/07 14:46:48
アスカ「へえ、これが加持さん自慢のスイカ畑」
加持「どうだい、一つ持っていくか?」
アスカ「それじゃこれとこれと二つもらっていい?」
加持「ああ、構わないが…?」
アスカ「ねえ加持さん見て見て!





   ス イ カ ッ プ !





加持、即死…

431:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/07 22:05:27
スイカップwww

432:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/13 09:25:13
新米の季節

433:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/10/20 12:41:59 iZegqi6Y
保守


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