もしシンジきゅんが男娼だったら 2at EVA
もしシンジきゅんが男娼だったら 2 - 暇つぶし2ch250:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/18 23:47:48
保守
孔雀氏がんがって

251:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/02/20 01:30:50
>>248-250
有難うございます、泣きそうです

エロい所を除けば完成しているので、もうすぐ投下にやってきます。エロいの書けないです。
別スレに落としたの書く為にサボってたワケじゃないです、何かすんません。

252:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/21 01:42:27
ちょっと質問

このスレや過去ログに出てくる
「レイプスレ」って↓のスレであってる?

シンジをレイプしたい
スレリンク(eva板)

そのスレなら

URLリンク(220.254.5.211:8000)スレリンク(animetr板)

で見られるよ
(なんとかして見ようと試行錯誤してevaじゃなくてanimetrにしてみたら見つけられた)

253:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/21 18:26:00
>>252
うおおGJ!ずっとこれ見たかったんだ

254:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/21 18:43:31
>>252
おまいああああああ
だいすきだああああああああ
最近凹むこと多かったけど復活した!
マジでありがとう

255:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/22 14:27:33
>>253-254
あってたのか、よかった
ちんこ握りながら必死に探した甲斐があったよ

256:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/23 15:54:41
>>252
おおお!!幻のレイプスレが!!


257:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/23 23:43:29
まあ俺はログ持ってたから読めてたけどね

258:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/24 18:02:46
目出鯛

259:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 00:51:51
孔雀氏ってカヲシン好きなんだな

260:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 01:25:56
まぁ、あんな避難所にまで投下するくらいには好きなのだろう

261:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:02:13
まあまあまあ
せっかく構想し執筆した作品は見せたくなるものさ
特定のカプが好きだからとかじゃなくてもね


昔、嫌いなカップリング小説を無理やり書いてみたことあるけど、
嫌いでも自分が書いたものは公開してみたくなるもんだよ

262:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:05:45
嫌いならわざわざ書かんだろうw
嫌いだけどシンジ萌えのため…とかだったらそっちの方が嫌だ

263:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:13:33
読めるだけいいじゃん。
俺なんかカヲシン嫌いだから読めないんだぞ?
触りだけ読んだけど無理だった…
せっかくの投下作品なのに!

264:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:15:10
まああれは男娼モノ、というよりカヲシンだったからな

265:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:20:43
シンジ萌えのためにカヲシン書いた
手っ取り早くトウジを鬼畜キャラにした

ってのが真実なら嫌だぞ
好きじゃないけど萌えのためって姿勢が


266:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:24:37
カヲシンはともかく、トウジの非道っぷりで挫折したww
アレだな。トウシンスレの優しいトウジに慣れてたからだな

267:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:27:51
まぁカヲシン好きだろうが別にいいけど
でも続きならこっちに投下して欲しかったかも
探すのに苦労したし。全年齢板じゃないし


268:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:29:46
カヲシンスレに「別にカヲシンは好きじゃないけど書いたから投下した」
なんて姿勢だったら好きな住民はいい気しないだろうし、カヲルの描写からして氏も好きなんではなかろうか。
いつもの如くシンジに愛はあったね

269:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:31:30
作品読むためにピンク板に行った21未満もいただろうね…

270:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:34:58
ぶっちゃけカヲシンは2ちゃんじゃなくてもサイトいっぱいあるから
それだったらいつもみたいな違うの読みたかった

はい、我儘です

271:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:39:46
一応ここ全年齢板だから、ピンク板に投下したのはここで話題にするべきではなかったね
やってることは変わらなくても、21歳未満は行けないから

272:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:45:27
孔雀氏にもアンチっているんだな

273:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:51:30
意見はアンチの発言かよ

274:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:54:51
アンチってほどのもんでもないな
シンジばかりに偏重するな!とか言い出したらアンチなんだろうけどさ
そんな人間はここにはいないだろう

275:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:58:24
おらぁ、シンジきゅんが可愛ければそれでいいだ

276:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 02:59:27
こういう一人のネ申で成り立ってるスレは
信者がマンセーじゃない書き込みはアンチって捉えがちになるよな


277:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 03:05:14
孔雀氏しか職人いないしな
おちおち意見もできやしない

278:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 03:05:39
まあ孔雀氏が消える→すなわちこのスレの死を意味してるからな
まあ俺は孔雀氏が何を書こうが愛してるからいいんだけどな



てか自分自身が満足出来る作品を読めれば、職人が他に何を書こうが別に関係ないしな、ぶっちゃけ
んなもん個人の趣味だし勝手だし、読者側がとやかく言うもんでもない

279:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 03:08:25
まぁ、職人を繋ぎ止めるためにマンセーだけしろってのもアレだけどな
意見は意見としてだな
でもそんなやつはいないし、そんな作品もないけど

280:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 03:10:56
カヲシンの続きを読みたいけど、21未満でピンク板行けない私はどうしたら良いですか?

281:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 03:11:27
作品についての批評ならともかくだなと
しかし孔雀氏の作品は完成度高すぎて批判する要素ねえと思ってしまう

282:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 03:12:24
>>280
じゃあ読まなくていいと思います

283:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 03:14:26
シンジは男娼から抜け出せないのかな

284:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 03:16:35
ここの男女比ってどれくらいなんだろう
男×男作品多いから

285:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 03:17:42
>>282
そう言わず
まぁこっそり行ってくるわ

286:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 03:19:38
何か前スレ読んだら最初は投下してもいい?っていう職人は結構いたんだな
でもカプ論争やら何やらで残ったのは孔雀氏だけか
惜しいことしたね

287:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 03:28:31
レイプスレには本郷もいたじゃん
投下途中でスレストされたが

288:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 03:31:15
あ、なんか勘違いした。このスレのことね。
確かにカプ論争で消えた職人もいたな

289:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 05:33:38
>>267
ここでカプ物やると大抵荒れるんだよ。
今エヴァ板にカヲシンスレ無いし(立ててもすぐ荒れる)
だからピンク板のスレに投下したんだろ。孔雀氏はちゃんと配慮してる

290:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 19:47:48
エロいシンジきゅんが見られればカプものだろうがそうでなかろうがどうでもいい
孔雀氏長編がんがれ
わっふるわっふる

291:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 20:15:02
いや、前スレならともかく今のスレならカプ物大丈夫じゃね?
孔雀氏が書くならカヲシンだろうが何だろうが荒れないよ
そこらのキャラ萌え腐女子の作品とはわけが違う

292:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 21:11:36
この状況でまたカヲシン投下したら絶対に荒れると思うけど

293:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 22:38:01
そもそも何でカヲシンって荒れるんだ?

294:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 22:55:47
わかんね


295:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/25 22:56:43
【にちゃんねるに生息するアヤナミストの特徴】
①レイと同じで読書は好きだが論理的思考はできない。
②理数系科目全般に弱い。
③うわべの情報量は多いが深い知識を持たない。
④知ったかぶりの知識を指摘されると逆切れする。
⑤本を読まずネットの検索だけで知った気になる。
⑥自分でLRSの話題を振って醜態を晒す。
⑦都合が悪くなるとアスカいらねと言って逃げる。
⑧たかがアニメキャラに必死になるなよと開き直る。
⑨現実の女性との区別がつかない。
⑩現在の科学は万能ではないと言い訳して綾波レイに逃げる。


296:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/26 02:46:12
カヲシンはシンジストとカヲルスキーが互いに我が強すぎてスレが上手く回らなくなった感じ
どちらかに愛が偏る、設定に好き嫌いがある等々

297:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/26 03:04:44
「ギャ!グッワ!待ってくれ!待ってくれ!」
 オヤジは、叫んだ。
 「許してくれよ!入れたかっただけなんだから」
 「バキッ!ボコッ!」
 ケンはかまわず殴り続ける。
 「ヒッー!助けてー!助けてー!」
 オヤジが悲鳴に近い叫び声をあげた。
 「お前みたいな奴がいるからいけないんだ!」
 ケンが叫びながら殴り続ける。
 「ギャー」
 オヤジの血があたりに飛び散った。ケンのコブシも血で染まっている。
 「世の中!狂ってんだよ!狂ってんだよ!」
 ケンの形相は、もうフツウではなかった。その様子を見ていた、ミクも従業員も言葉を失ってしまっていた。思わずミクが言った。
 「店長!それ以上やったら死んじゃう!」
 「ガッシ!ボカ!」
 ケンには、まったく聞こえていない。オヤジも失神したのか動かなくなった。
 「キャー、やめて!」
 ミクが叫んだ。
 「あっ……はい」
 従業員が後ろからケンを押さえた。


298:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/26 22:13:10
>>292
ダウト

299:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/27 12:59:13
カヲシンスレが荒れたのは自己中心的なカヲル厨のSSが投下されたからだよ

300:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/27 15:54:26
もういいじゃないかその話
カヲシンにそこまで興味ねー

それより最初のほうのリツシンに萌えたんだけど…
リツコとの関係、また出てこんかな…

301:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/27 17:17:38
とりあえずカプに関しては>>9

302:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/27 18:10:30
カプ話が過ぎるとスレチになるよ
つかカヲシンも新しいほうは充分スレチだと思うんだが。

303:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/02/27 22:30:26
カプ重視の話だったから向こうに投下したんだろ
スレの空気を読んだ孔雀氏乙

304:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/01 21:20:53
遅レスですが。

別のスレの話や俺がどのカプを好きかどうかよりシンジきゅんの話をしましょうよ。
つーか俺以外の投下職人さんがここに来れば良いだけの話になってるっぽいんで、もし何か書いてる人が居たら投下して下さいです。
自分ももう少ししたら長いヤツの最初の部分位は投下出来そうです。

305:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/01 21:41:23
ハゲド

306:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/02 00:35:49
正論

307:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/08 20:32:44


308:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:08:33
投下にきました。長い話の一部分で短い方かもしれませんがやっぱり長いので、
携帯の人は気を付けて下さい。
後、下記にも注意してもらえると嬉しいです。

・名無し女性とセクースしてるっぽい
・っぽいだけで、所謂本番じゃない
・あと、後半男しか出てこなくてホモっぽい

309:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:10:10
 高級とまではいかないが、決して質素ではない1DKマンションの1室。床はフローリング。日当たりは良くも悪くもないが、湿度は高くない。壁にはカレンダーが1枚と掛け時計が1つのみ。
 理由は「掃除、しやすいでしょ?」の一言。
 一人暮らしの女性らしい、と思った。同時にミサトさんもそう考えて部屋を買えば良かったのに……と心で呟いた。
 フローリングは確かに掃除をしやすい。絨毯と違ってどんなに汚れても洗剤を付けた雑巾で磨けば綺麗になる。
 だが絨毯と違って冷たい。
 そんなフローリングに背をべったりと付けながら、全身の暑さを放出しようと碇シンジは汗を流していた。

「う……ぐ、う……」
 先程までひんやりと冷たかった背は今やすっかり自分の体温が移って生温かい。不愉快な程に。
 両方の膝の下に自らの手を入れて開き、更にその足を自分の体へと寄せる姿勢。
 口にはポールギャグ。穴の開いた口枷で猿轡を、言葉を封じる為にさせられ、それ以外は何も身に着けてはいない。
 否、尻には身に着けている。まるで尾のように何かを生やしている。生やさせられている。
「ふふ、本真珠で出来ていたらもっともっと綺麗だったのにね。ま、そんなお金無いけど」
「ぐ……むぅっ……」
―つぷっ
「ふむぅッ!!」
 音を立ててもう1粒、偽真珠が肛へと飲み込まれていく。
 数にして幾つになるだろう。見た時は一体どれだけの数が繋がっているかわからないパールともビーズともいえない球体達は、今はすっかりシンジの直腸に収まってしまった。
「ふ、ふぐ、ふぁ……」

310:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:11:57
「なぁに? もっと挿れて欲しいの? もう残りは3つよ。それに、1番大きいのは今挿れてあげたじゃない」
 粒の大きさがそれぞれ違うビーズは先端に丸い輪がついている。キーホルダーを連想させるそれだけが鈍い金色で、ビーズ自体は全て白い。
 ふん、と鼻で笑って立ち上がる女性。今日の―ここ数週間の雇い主。
「こっちの可愛いアナルと違って、君のそこはいつまで立ってもお粗末で、なのに堂々と大きくしちゃって……」
 そっと細長い足が伸びて、性器に触れる。
「……ふ」
 少し汗ばんで乾ききってはいない足の裏の感触が気持ち良い。
「女の子みたいな、下手したら女の子より可愛い顔してるのに、どうしてこんな物が付いてるのかしら……」
 五指がゆっくりと性器の決して長くはない上下を繰り返し移動する。
 その間にもタイトなミニスカートの間から覗くオレンジ色に白いレースの付いた下着がいやらしい。
「裸は駄目ね。華奢なのは良いけど、やっぱり男の子って感じがするし……今日も服用意すれば良かった。でも汚されるのはもう嫌だし……」
 足の親指がカリ首に辺り、そのまま4本の指が性器を持ったまま閉じたり開いたりと刺激を与えてきた。
 言葉ではなく声を、声に近い息をシンジは漏らす。
「……それに、牡奴隷のアンタに着せる服なんて無いわよねぇ?」
 解放する……というよりも折角の刺激を取り上げるように女は足を放し、床に膝をついた。
「全部挿れて欲しいんでしょ?」
 肛門を親指でなぞるように、女はもう1つビーズを押し込む。
「んぐっ! む、むぐぅ、ん……う、うぅぐ!」
「何言ってんのかわかんないわよ」

311:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:13:09
 少し低めに出した声で侮蔑を吐いた女の左手がシンジの頭を、頭頂部の髪を掴んだ。
 体に多いかぶさる女の黒髪は真っ直ぐに長く、何もまとわない肌をなぞる。
「ん、ンう、ぐ……」
「あぁ、挿れてもらいたいんじゃなくて、早く抜いてもらいたいのね」
 髪の毛を引っ張り上げながら、右手の人差し指がビーズの先端の輪に掛かる。
 視線をそちらへ向けずに指に掛けられるのだから、彼女は相当器用らしい。しかし、今のシンジにはそんな事を考える余裕は無い。
「う……ウい、む……」
 抜いてもらいたい。パンパンになった排泄器官を早く何とかしてもらいたい。女性らしく細長い指で髪を掴まれたままの頭を、小さく上下させた。
「知ってるのね、これ、抜く時が1番気持ち良いって」
 女の言葉が汲み取れずシンジの眉根が寄る。
「挿れる為の道具じゃなくって抜く為の道具だって知ってるなんて、子供に見せかけてとんだ淫売男児ね! でもどれだけ気持ち良いかは知らないでしょ? アンタみたいな堪え性の無い子供、きったない精子びゅーびゅー噴き出しちゃうわよっはは! あはははっ!」
 言葉の最後は笑いになっていて上手く聞き取れなかった。
「ぐ、む……」
 いきなり女は左手を放す。
 ゴン、と鈍くダサい音を立てて頭が床と激突した。
「うウぐ……いぅ」
 下半身よりも後頭部の方が余程痛いとは。そそり立った性器がふるりと震える程の羞恥。
 再び体を放した女は自分で持ち上げているシンジの太股を更に奥へと押した。親指と輪に通した人指し指で未だ肛に入っていないビーズを摘み、勢い良く―引く。
「う゛ぐうぅゥーっ!」

312:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:14:25
 掠れた声をBGMに大小様々な粒のビーズがシンジの肛より産み落とされた。
 時に菊の花を引き裂くように大きく、また排泄の快感を思い出させるように小さなそれらか直腸を通って抜け出ていく至福。それも短時間でどちらも強制的に与えられる悦楽。
―プシュッ、ぐしゅっ
 苦痛を快楽にと前以て大量に注がれていたローションが潮を噴くようにビーズと共に飛び出し、尻を伝って床を汚してゆく。
 最後の―最初、に挿れられていた―2つのビーズが抜け出て宙を舞うのと同じ瞬間に、シンジは射精した。
―びゅる、ぴゅぴゅっ
 疲れているのか不足しているのか体質なのか、精は透明に近い。
 火照った体に更に熱く降り注ぐ。
「汚いモン射してんじゃないわよ」
 あくまで性器にも精にも触れないように女の足がシンジの体を蹴った。
「ンっ!」
 どすっ、と鈍い音を1つ立てた後もしっとりと汗ばんだ足の裏でシンジの腰を、圧迫して骨を砕かんばかりに押し付けて放れない。
「口、それ取ってあげるから、自分で射したのは自分で舐め取るのよ……あら?」
 シンジから目を逸らすと同時に、偶然見たテーブルの上のピンクの携帯電話のライトがチカチカと緑に点滅しているのに気付いて小突く足を止める。
「メールだわ……誰だろ? あぁ、ちょっと待ってなさい」
 漸く足が放れ、目も放れた。シンジは力の抜けきった手を下ろし、解放された足も床へ下ろす。
 とはいえ、それなりに長い間Mの字に開いていた足は膝を少し曲げた状態から戻らない。

313:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:15:54
 閉じたがっている目蓋を何とか開いたまま食事用のテーブルを見ると、女は立ったまま腰に左手を当てて気怠そうに右手だけで素早く携帯電話を操作していた。
 誰にどんなメールを返していても構わないが、約束通り早くこの口枷を外して欲しい。このままでは口が2度閉じられなくなってしまうかもしれない。
 シンジの意思を無視して部屋には携帯電話のボタンプッシュ音だけが虚しくも響く。

 女は必ず行為の前に夕食を済ませる。仕事の都合上で金曜日は昼食が相当早いから、が理由らしい。
 反対にシンジは行為の前に食べる事は無かった。
 この客の女に買われた2日目の晩は食べてから挑んだ。お陰で栓をされて溜められるわ、その栓を抜かれて脱糞するわ、吐き戻すわ、最終的にはそれを食わされかけるわ、と酷い目に遭ったのが最たる理由。
 他の客とは違い体には極端な疲労が残り、また精神面でもとても食欲等沸き起こらない事後に食事を取れるワケが無い。
 故に事後―また後に交わるので『事後』とはまた違うが―2人で食事を取る事は無い。代わりに軽くお茶をする。
 いつも本格的から最も離れている紅茶と、油分の多そうなスナック菓子と、貰い物が有って尚且つ気が向けば向いてくれるフルーツを、2人椅子に座ってテーブルを挟んで向かい合って、この部屋の広さには不釣合いな小さいテレビを見て食べた。
 土曜日の昼間から会って女の部屋に持ち帰りされて、肌を重ねて……終える時間はテレビ業界で言うならばゴールデンタイム、を少し過ぎた辺り。どこの局でも中途半端に下らないバラエティ番組ばかり。

314:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:17:31
 それでもこの粉っぽくて妙に甘いホットレモンティーは嫌いにはならなかった。
「あのね……悪いんだけど」
 口火を切った女は落ち度が有るのか自分のカップから目を放さない。
 女は特に何をしたワケでもないが汗をかいたとの事で、部屋着にしては洒落ているストライプのブラウスと先程同様に丈の短いタイトスカート。
 シンジは着替えを持ってきていないので、ここに来る為に着てきた先週目の前の女が買い与えた肩の膨らんだ女性物と思しきカットソー。
 色合いも寒色系と似ているので、傍から見れば一人暮らしの姉の家に弟が遊びに来たようにも見える。
「……何ですか?」
 その弟が些か不安を持って尋ね返した。
「さっきメールが来て、映画の約束明日になっちゃって」
「あの見たいって言ってた映画?」
「うん」
 楽しみにしていたのか口元が微笑を作る。
「でねぇ」
 急に顔を上げると、既にまた申し訳無さそうな表情だった。
「ファーストショー見に行く事になったの。ほら、その日1番最初にやるやつは少し安いでしょ?」
 そうだったか? と思ったが、取り敢えず頷く。
「一緒に行く子フリーターだからさ、それにしないかって。その子中・高と一緒だったんだけど、大学行かないでずっとバイトしてるんだ。女の子なんだけど工場勤務なの。体力勝負って感じの」
 テーブルの上に置かれたピンク色の薄い携帯電話を怨めしく思ったのか女は溜め息を1つ吐いた。
「……だからね、明日は一緒に居れないの。多分映画終わった後も遊びに回るだろうし」
「そうなんですか? ……僕、帰った方が良いですか?」
「私が帰ってくるまで待っててくれるの?」

315:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:18:45
「いや、そうじゃなく……」
「あぁ、今からね」
 わかりやすく肩を落とす姿に、シンジは嫌がおうにも罪悪感を覚える。
「お家大丈夫? 駄目なら泊まってっても良いし、勿論帰っちゃっても良いよ。私、結構早く家出るから、今日の分は今払っとくね」
 カップを置いて立ち上がり、衣服ラックの下に置かれた幾つかのバッグの1つから女は財布を取り出した。
 それをぼんやりと見ながら、一体給料は幾ら貰っているのかと想像を膨らませる。ほぼ毎週気前良く払ってくれるのは有り難いが、いつか破産してしまうのではないかとの不安が生まれる。
 別に破産しようと職も家も失おうと知った事ではない筈だが、こうしてほぼ毎週時間を共有し、他にも携帯電話で簡単なメールをやり取りしていれば何らかの感情が湧き、それが勝手に心配してしまう。
 傍から見れば簡単な言葉で「年の差カップル」と呼ばれても可笑しくない事に、シンジは未だ気付けないでいた。
「はい」
 使う事を躊躇う位のピン札が数枚テーブルの前に並べられる。
「有難うございます」
「ちょっと笑顔、笑顔! 愛想無いとこのお仕事辛いんじゃない? お金払う時の『お愛想』って、金貰う側なんだから愛想見せなさいって意味なのよ?」
「へぇ、そうなんですか」
「勉強してる場合じゃなくて、笑って見せる。大人になってからは笑顔が大切なんだからね!」
 言い終えると女は今の金切り声に似合わず容姿にはよく似合う大人しそうな微笑を見せた。
「事務員の私はそんなに必要無いけど」
「……事務員は、笑顔とか要らないんですか?」

316:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:20:14
「そんな事無いわよ、上司にもお客さんにもニコニコしてなきゃいけないから。まぁ受付の子よりはマシだろうけど」
 再び女は席に着いてカップを手にする。
「ねぇ、シンジ君の家ってどの辺? あ、家に押し掛けたりするんじゃないよ。ら電車が有る内に帰った方が良いかなぁって」
「電車で2駅分位です。……だから、逆にタクシーに乗っても大丈夫ですけど……」
「親御さん驚かない? 子供が真夜中にタクシーで帰ってきて……あ、親御さんと一緒じゃないんだっけ」
 上司に当たる人と、同じ上司を持つクラスメート―と、ペット1匹―と同居していると話の流れで伝えていた。
 上司と言った直後にクラスメートと言ったのだから、良い印象を持っていない教師か何かだろうと勝手に捉えてくれたらしい。
「でも未だ子供なんだし……」
「電車で帰ります。無くならない内に、もう行きます」
 札数枚を握り締めてシンジは立ち上がる。
「うん、その方が良いわ。また来週……その前にまたメールするから」
 シンジの声の低さで機嫌を損ねたとすぐにわかった女は、同じく立ち上がってシンジの後ろへと回った。
 歩き出す姿を止めるのではなく見送る為に。
 一人暮らしのマンションなので情け程度の廊下しか無く、すぐに玄関に辿り着く。
「夜は危ないから気を付けてね。車出そっか?」
「そこまでしなくても大丈夫ですよ」
「じゃあ、徒歩でも駅まで送る?」
「その方が危ないです。駅までの分と駅からの分を歩かなきゃならないんですよ?」
 優しい言葉を吐きながら座り込んで、スニーカーを履いて立ち上がったシンジは先に言われた愛想程度の笑顔を向けた。
「ありがと」

317:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:21:46
 嬉しそうな笑顔で頭を撫でられる。
 こんな継ぎ接ぎだらけの嘘臭い笑顔がそんなに嬉しいのか。
 それよりも、礼を言われたり誉められたりする程の笑顔が作れているのか。
 手が放れると急いでシンジは背を向けて玄関扉の取っ手に手を伸ばした。
「気を付けてね」
 背中で受けた言葉に短く「はい」とだけ告げて家を出る。
 追ってきたりしないで欲しいと外から扉を閉める際に開かないようにずっと手を押し当てていた。
―カチャリ
 鍵の掛かる音。これで大丈夫。彼女はもう自分を監視していない。
「……はぁ」
 悪い人ではないけれど、恐ろしい人だと思う。あんなにも優しいのにあんなにも酷い面を持っている、恐ろしい人。体がギシギシと音を立てそうな程に不調と疲れを訴えてくる。
 最後の挨拶も社交辞令に過ぎず、本当にシンジを心配しているとは限らない。寧ろその確率の方が低い程。
 ……それでも充分嬉しいと思う自分は、体だけではなく心も疲れているのだろうか。くたくたに。

「……あ」
 またやった、とシンジは足を止めた。
 曲がる所で曲がり損ねた。過去にも1度やらかしているので、これで2度目。
 同じような建物が続く団地なので仕方無いが、せめてもう少しわかりやすくしてほしい。
 本来曲がる道は1つ前で、今日も来る時は女の車でそこを通った。道が開けると横断歩道を挟んで真正面に駅が見える。
 ―余談だが女は高校時代に免許を取得してここ約6年一切乗らなかっただけある運転能力のレベルで、交通費は要らないから1番家に近い駅で待ち合わせようと約束している。―

318:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:23:53
―しかし本人は折角買った軽自動車を余程乗りたいのか、その駅まで車で迎えに来てしまうので有難迷惑だったりもする。―
 未だ夜更けと呼ぶには早い時間だが、一般的な家庭だらけであろう団地の中央のこの道を人っ子1人歩いていない。
 寂しい街というよりは暖かな街なのだろう。家族や恋人・友達同士が各家に集まっていたり娯楽施設に居たりするような。
 そんな暖かさとは関係無いだろうが、今日も気温は容赦無く高く、釣られた湿度もなかなかに高い。
 暑い、喉が渇く、腹も空いた。
 この通りの丁度中間には1件のコンビニエンスストアが有る。
 コンビニ弁当は好きじゃないし飲み物だって経済的にスーパーで買いたい。しかし材料や飲料を販売してくれる店はこの時間、こんなコンビニしかない。
―ウィーン
「いらっしゃいませー」
 結局シンジはコンビニに足を踏み入れた。

 どこででも聞く語尾が伸びた挨拶を受けながらぐるりと1周した。
 今は用事の無い本と絶対に買う事の無いアルコールの棚を抜けて、オレンジジュースの入った500ミリリットルのパック1つと安いおにぎりを2つ手にする。
「これ、下さい」
 1つしか空いていないレジにその3点を乗せた。
 店員は恐らくこの1人……ではなく、トイレにでも居るのだろう。丑三つ時の深夜ならば兎も角、この時間帯ならばまばらだろうと今は居なかろうと客が入る。
 例えば余りにも使われないコンビニで、店長がこうして1人同然で経営しているなら……とは考えられない。おにぎり2つは済ませたがパックのバーコードが上手く読み取れないでいる店員はどう見ても20代。良くて後半、悪ければ老けた10代かもしれない。

319:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:26:24
 黒い髪をだらしなく伸ばし、前髪を含めたあちこちに金色のメッシュが入っている。コンビニ制服は真面目に着ているが、大学生のアルバイトか何かだろう。
 呑気な物だ。きっと折角入った大学でまともに勉強もせず、適当な接客バイトで小遣いを得て、それでも周りの人々からは愛されて自分もニコニコしているのだ。
「お客さん?」
「え?」
 出した金を見ていた顔を上げると、男はニコニコどころか不安そうな表情をしている。
「……あ、足りないですか?」
「いやそうじゃなくて、なんか凄ぇ顔色悪いみたいで……具合悪いんですか?」
 でたらめな敬語だが相当心配されているのだろう。
 何だか目眩がする。空腹もここまでくればたいしたものだ。
 意識すれば体の節々も痛むし、何より激しい頭痛が襲ってきた。シンジは両手をレジ台について体を支える。
「……くっ……」
 低い声が漏れる。女の弾けぶりは今日も一段と激しかった。
「早く、会計……」
「あ、あぁ、357円になります」
 予想通りの金額。男はシンジの手元の360円を取り、釣りの1円玉3枚を持つ。
「どうした? 本当に大丈夫?」
「大丈夫です」
 何がだ、煩い。いや煩いのは耳鳴りだ。
「……もしさ、凄い腹減ってるとかだったら……いや違うのかもしれないんだけど、もしそうだったら休憩室でこれ食ってけば?」
 心配そうに1つのビニール袋に3点を入れて男は差し出す。
「見た所中学生……あ、いや、高校生位だからさ、家出少年なのかなって」
 そういえば過去に1度家出をした時はコンビニで食事を買ったりしなかった。

320:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:27:38
 当時から―寧ろ『先生』の家に預けられていた頃から―コンビニの飲食物は何でも保存料を大量に使っていて味が濃い、簡単に言えば悪い印象しかない。そしてそれ以上に高いイメージが強い。
 家出をした時は本当に暫く戻らないつもりだったのかコンビニには入らないようにしていた。こんな所で買い物をしていてはすぐに金が尽きる。
 しかし今は無尽蔵に金が入る。余程高価な物でもない限りは買える。楽器をどんと買うのには数ヶ月貯めなくてはならないが、それで演奏したい楽譜ならば簡単だ。
 ……思い返せば最初は何らかの理由で金が欲しかった気がしなくもないが。
「お客さん、聞いてる? それとも何、本気でヤバそう?」
 声に気付いてもう1度顔を上げて、シンジは首を横に振った。
「本当ですかぁ? でもさ、この辺の子……っと、人じゃないだろ? 見ない顔だし」
「はい。今も駅に行く所で」
「あぁー……そっか、ここも一応駅前だもんな。余り人来ないから忘れてましたよー。この通り超暇」
 客に話しているとは思えない見た目相応の適当な口調で普段ならば不愉快になってしまいそうだが、頭が上手く回らない今では軽口の方が耳によく入ってくる。
「しかもいっつもこうなんだよ? 俺週に5日入ってんだけど……」
「週に、5日も?」
「そ。あぁ、俺フリーターなんだわ。掛け持ちとかしてない。んで、土日祝日関係無く入ってんの」
 言葉を区切るように大きく溜息を吐く男。

321:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:29:36
「年末年始だって実家に帰れやしねぇし、残業は無いけど有休も無いっていうか時給全然上がんないし、女子高生入ってきたと思えば時間合わねぇし、美人人妻入ってきたと思えばワケわからん早朝だし……あれ、俺何でここでバイトしてんだ? つーか何の話してたっけ?」
「ははっ」
 堪えきれずにビニール袋の取っ手を掴みながらシンジは笑ってしまった。
「人が来ない話ですよ」
「そうそう。だからさ、1人でも充分回せるんだけど、やっぱ休憩時間が必要なんだよ。実は今もう1人は休憩室で飯食ってんだわ。これまたただのオッサンで……」
 こんなに脈絡無く展開していく話、それも自分とは全く関係ない個人的な愚痴話。ぼんやりと聞いている分には面白い。
「……あぁ、また話逸れたな。兎に角、そのオッサンが出てきたらすぐ俺も休憩室行くんだ。良かったら……お客さん、名前何?」
 客とは自分の事では、と言い掛けてシンジは口をつぐむ。
 コンビニに買い物に来た客が自分で、目の前の男は自分を買おうとなんて思ってもいないただのコンビニ店員だ。
「碇シンジ」
「ふーん、碇シンジさんね。駅に行くって言ってたけど、家帰んの? 帰るにしろこれからどっか行く不良にしろ、腹が減っては戦も出来ぬって言うじゃん」
 男は顔を上げてシンジの頭を通過して店内奥の時計を見る。
「後2分も無いし。ここから駅まで3分位有るよ。ここで食ってった方が早くて良いじゃん。つーかお前駅で食べるつもりだったの? だらしないぞ」
「だらしないって……」
 客に向かってそんな口調を使う店員の方が、と笑い返そうとしていた時。
「おーい、悪いね~」

322:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:30:43
 2人が同時に振り向いた入り口とは反対側―飲み物が陳列されている側―から1人の男が呑気な声を出しながら歩いてきた。
 コンビニ制服を着ている、所謂『ただのオッサン』。中肉中背と本人は言いながらも、周りは小太りと判断していそうな体系の五十路近い男性。
「まぁた遅れちゃったよ」
 ヘラヘラと笑ってレジへと入り、男の背を軽く叩く。
「だから君も少し早く休憩入って良いよ。あれ? その子お友達かい? いや、後輩さん?」
「少しって、俺もう1分位で休憩なんですけど」
 そう言いながらも笑顔で男はレジから出てきた。そしてシンジの隣へと並ぶように立つ。
「この後輩連れて休憩入っても良いっすか?」
「勿論だよ。やっぱり後輩さんかぁ。ん、じゃあ地元の子だよね? 遠い所から遥々よく来たね」
 肉付きの良過ぎる手が伸びてきてシンジの頭を撫でた。
「はぁ……」
 初対面の相手からいきなり髪を触られる事もこの『お仕事』を始めてからは多かったが、こんなにも無害そうな手は初めてだと感じた。……気の所為かもしれないが。
「そんな子供扱いしないでやって下さいよ。さ、行こっか、碇」
「……はい」
 不思議に思いながら返事をすると、頭に触れていた手は放れる。
 両手を上げて大きく伸びをしながら男は飲み物側へとどんどん歩いていく。置いていかれてはいけない。
「ま、待って!」
 慌ててビニール袋を左手で強く掴んだ。
「鍵閉めるワケじゃないんだから」
 振り向いて苦笑を見せる男は置いていかれる恐怖をきっと知らない。
 その恐怖を嫌という程知っている、嫌で嫌で仕方が無いシンジは急いで男の開けて消えた扉へ自分も入る。

323:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/09 01:32:01
 疲れた体で走るのは辛い筈なのに、それを忘れているのか思ったよりも速く走れた。
「戻るのは時間通りに頼むよ~!」
 人畜無害そうな『ただのオッサン』はニコニコと見送る。
 今初めて会った店員と客の間柄だなんて疑いもしない。愛する奥さんとの間に子供は生まれなかったが、この店内で誰よりも愛情を持っている幸せな人間。
 どちらに押しても開く関係者用休憩室への扉はギィギィと煩い音を立てて完全に閉まりきらないながらも彼と2人を遮った。

続く

324:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/09 23:40:01
乙!

325:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/10 22:28:07
さがってきたのであげ

326:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/10 22:40:32
ウホッ
楽しみ

327:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/11 13:05:57
最近イボ痔になった自分には辛い描写だ

328:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/16 14:22:16
保守

329:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/16 21:07:29

孔雀様最高


330:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/22 17:39:14
とりあえず保守

331:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/23 10:55:01
孔雀氏GJ

332:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/23 22:49:32
投下しにきました。ちょっと短めです。つーか見直したら男しかいなくて変な感じです。
後、話と話のつなぎめみたいなヤツだから「後半の展開が無茶苦茶だ」と言わない人なら
別に読まなくても良い感じの話になってしまいました。精進します。


>>327
お大事に。

333:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/23 22:50:43
 目の前の初対面の少年は、見た目通りの少年だった。
 大人しい。寧ろ警戒している、ともいえる態度で自分達2人を挟むテーブルの中央に線を引いてピリピリした空気を壁張っている。
 まるで食事中に喋るのは行儀が悪いと躾られてきたのか極力無口に見せようとしているみたいだ。
 話しても話しても、なかなか目を合わせてもらえない。
 難攻不落の城を目指すのは別に趣味じゃない。
 ただ食事中に話せる相手が欲しかっただけなのにこんなに苦労をしなくてはならないとは。
 ……良い方向に考えれば何でも聞いてくれて相槌を打ってくれて、しかも周りからは仲が良さそうに見えるのだから問題無いのだが。
 それに運良く目が合えば―無理して繕った物だが―恥じらいを含んだ笑みを見せてくれた。
 それは先程シンジが学ばされたばかりの愛想だと、男もちゃんと気付いている。
「でもさ、そりゃバスは便利かもしれないけれど、ネルフなんか行く理由有んの?」
 話の流れは互いの住んでいる地域からその建物の状況、そして交通の利便に移っていた。
「え?」
「あれ、まさか学生に見せかけてネルフに勤めてるとか? 幾つ?」
「14です」
 14歳。予想通りの反面、年の差は7つも有る。……自分がそれだけ年を重ねていたという事か。
「じゃあ親が働いてるって所か?」
「えぇ、まぁ」
 父親が働いているのは事実。
「違うの?」
「違わないんですけど……前のも違わないです」
 意味がわからず男は首を傾げる。
「……僕も一応、勤めているから」
 間を置いてからシンジが答える。その続きは何も言わないと決め込んで残り1つとなったおにぎりに口をつけた。

334:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/23 22:52:16
「んー……と、14でもバイトで雇ってもらえる、とか? いやあそこはバイトとってなかったか。でも14ったら未だ中学生だよな。義務教育じゃねぇの?」
 男も弁当―期限が切れたので廃棄処分する予定だった物を密かに避けておいた餃子弁当―に再び食べ始める。
「……何とか言ってよ」
 溜息混じりに数秒ももたない男が音を上げた。
「余り言っちゃいけないみたいだから」
「極秘勤務? っていうか極秘任務か? 格好良いなー、ネルフってそういうのやってそうだもんな。ね、どんな事やってんの?」
 だから言ってはならないのだ、と返されると思いながら2切れしか入っていない沢庵の1つを噛んでいると。
「パイロット」
 唐突な言葉に、銜えてた沢庵が口から落ちた。
「汚い……」
「あ、ごめ」
 テーブルを汚した沢庵を箸で拾って弁当の蓋に置く。
「で、パイロットって何? 宇宙飛行士にでもなるのか?」
 そんなに驚かせるつもりは無かったのだが、シンジが掴んだ飲み物のパックのストローからは中身が少し出てしまった。
「違いますよ!」
「違うの? じゃあ……あぁ、あれか? 『エヴァンゲリオン』のパイロットとか」
「はい」
「え、マジで?」
 疑われた事を疑っているようにシンジは小首を傾げつつ頷く。
「うっそ、あれ本当に乗って動かすの? リモコンとかじゃないんだ、危なくね?」
 おにぎりを置いて視線を下ろすシンジ。
「……多分、危ない」
「そんな仕事中学生にやらせてんの? 体力有る若者でも老い先短い爺婆でもがやりゃ良いじゃん」
「14歳しか動かせないから……」
「何で?」

335:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/23 22:54:11
「さぁ……でも僕以外のパイロットも14歳だから、多分本当にそれ以外は駄目なんだと思います」
「ふぅん……大変なんだな」
 この短い会話でシンジが笑いながら肯定する事は無いと踏んでいたが、予想通り。
 更にそんな事は無いと、やんわりとかわしたりもしない。
 ただ表情が一層寂しそうな、苦しそうなものになっていた。
「食う?」
 口を付けていない餃子を1つ蓋の上に乗せてシンジの方へ押してみる。
「いいです」
 手を伸ばさないので恐らく不要の意味の「いい」だろう。
 期限は切れているし箸も持っていないのだから当然の反応ではあるが。
「あのさ、あれだよな。あの……エヴァンゲリオンってでっかいよな。でも空から降ってくるヤツのがでかかったな。あれは流石に引いた」
「空から? この前の使徒ですか?」
「シト?」
 よくわからない単語だが、まぁ訊いてもわからないだろう。
「何か先週有ったじゃん、市内全員避難しろってヤツ。その時空から来た目玉みたいな模様してた、汚いオレンジ色してたヤツ。アレ降ってきた時ばかりは避難勧告に受け入れたかったな」
「避難しなかったんですか……?」
「そりゃあな。だってここコンビニだぜ? 24時間営業が基本」
「基本って……」
「あの日は時間変わってくれって言われててさ。誰も客来ねぇのに俺1人……」
「そんな、何か有ったらどうするんですか!?」
 柔和な顔を目一杯怒らせての大声には少し驚いた。
「……別に何も無かったんだから良いじゃん」
 子供が子供なりに真剣になるのは悪い事ではないが、体に力の入った妙に生真面目な言い方をされてはこちらの力が抜けてしまう。

336:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/23 22:56:01
「怒った? 責任感強いね。ゴメン、ゴメン」
「別に……別にそうじゃなくて。責任感とか、そういうのじゃないんです。ただ僕は……」
 人間として当然の事、なのだろう。生憎男にはわからないだけで。

「……あのさ、そんなに儲かんの? エヴァンゲリオンのパイロットって」
 折角食事中に会話という音を持たせる為に招き入れたのに無言同士では意味が無いと思った男は唐突に言葉を吐く。
 なる気は無いけど、と付け加えて尋ねると、シンジは顎を引いて視線を右上から左上へと移動させた。
 時給制なのか日給制なのか、はたまた月固定給なのか。1番可能性が高いのは出来高制で敵を倒したら幾ら、辺りだろう。
「さ、あ……僕が直接貰うワケじゃないので……一緒に住んでる人に任せているんです」
 その人は決して金銭面で頼れるとは思わないとか、そもそも貰っていないかもしれない、なんて可能性は黙っておくシンジ。
「んじゃ普通の中学生の小遣い程度? それじゃ日本守ってやってんのにあんまりじゃん」
 『使徒』を好戦的な外国人か何かと思っていそうな口調を使ってしまったが、シンジは小さく首を横に振る。
「お金に関しては、ちょっとアルバイトしてます」
「バイト? ふぅん、ネルフは掛け持ち出来んのか」
 そもそも義務教育と掛け持っているのだから当然かもしれない。
「どんな仕事? 中坊だから新聞配達とかしか無いか」
「んー……少し違います」
 これは教えても大丈夫だと言われているのか、シンジの口調は焦らすように楽しそうだ。
「何、何? どんな仕事?」
「……エンコウ、です」
「は?」
 エンコウ、えんこー、援交……

337:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/23 22:58:38
 色々な言葉―といっても語彙が多いワケではないので限られているが―に脳内が変換してゆく。
 しかしどんなに変えても、最終的には『援交』になってしまう。無論男の中でも援交といえば援助交際の省略語で、援助交際といえば売春の現代バージョン。いや、現代よりは少し古いかもしれない。
「……援交してんの?」
 目の前で、まるで作文で取った賞を誉めてもらえるかとでもいうように目を輝かせている少年が、援助交際?
「……どんな……?」
 自分でも心の奥底でこの質問の仕方は可笑しい気がした。
「どんなって言われても……言葉通りです。悪い事だと思います」
「そんな事簡単に言って良いのかよ」
「良くないとは思うんですけど、何かお兄さんには言いたかったんです」
 信頼しているから? 否、赤の他人だから。
「……いや、まあ働くのは良い事なんだろうけどさ。金盗むのとは違って。でも人前じゃ言わない方が良いぞ。犯罪に抵触するっつーか立派な犯罪だからな。14歳未満はエッチするだけで相手が捕まるんだぞ」
「僕14ですけど」
「あぁ、じゃあ未満じゃないのか。でもあれだ、悪い事なんだって。そりゃお前なら美人なおねーさんが手ぇ出したいとか思うんだろうけど」
「だと良いんですけど、怖い人とか居ますから……偶に男の人も居ますし」
「マジで!? 掘られんの!? すっげ、世の中本当に有んのか!」
 自分とは関係無い世界の出来事に男は喜々として食事を放棄した。
 その目には好奇心と自らよりも下等な物を見る意識が混ざっているのがシンジにもわかる。
「あ、飯食ってる時にする話題じゃねぇか。……じゃあ今仕事帰り? それとも客が居ないから帰る所とか?」

338:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/23 23:00:37
「どっちも、です」
 自分から振った割りにはこちらの態度が気に入らなかったのか、シンジは俯きがちに飲み物に口を付けた。
 飲んでいるのか、そのフリだけなのか。口は放さないが喉が鳴らない。
「……あー……俺そろそろ休憩終わっちまうんだけど、事務所残ってく?」
「いえ! すぐ出ます。すみません」
 口を放してすぐ喋り出せる辺り、やはり飲んでいなかったらしい。
「謝んなくて良いよ。こっちこそ付き合わせて悪かったね」
「あの、お陰で楽に、元気になりました。ありがとうございます」
「いやいや」
 すっかり忘れていた。空腹で具合が悪そうだからと誘ったのだった。
 シンジは急いで残りのおにぎりを口に含んだ。自分こそ遅れてはならない。残り僅かの餃子と米をかきこむ。
 2人揃って大きく喉を鳴らして口の中を綺麗に飲み込んだ。
「う……」
「大丈夫か?」
 シンジの呻きに不安そうに尋ねると、当然と言わんばかりに頷く。
「飲み物、残っちゃったから。どうしようって」
「持ってけば? 電車で飲み食いすんな、なんて前時代的だし。駅弁とか有るじゃん」
 後半はかなり的外れだが、シンジは零れないようにパックの角を掴んで持った。
 男の手によっておにぎり2つの包みと餃子弁当の箱と、それから男が飲んでいた清涼飲料水のペットボトルまでもが分別されずにゴミ箱に捨てられる。
 罰の悪そうな顔をしながらもシンジは文句を言わず、休憩室の扉を開ける男についていった。

 こうして見るとコンビニ店内はかなり明るい。もとい、事務所と呼んでいる裏側はかなり暗かった。
「おぉ~い! ちょっと遅いから、次から気を付けてね!」

339:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/23 23:02:54
 レジを空にして自分で入荷したお菓子の在庫をチェックしていた『ただのオッサン』が声を大にして言ってきた。
「すんませーん」
 距離が有るからこちらも声が大きくなる。
 シンジはそれが、大声か仕事に遅れる事かが嫌いなのか、どこか不満そうに目を伏せた。
 男はレジに入り、シンジはそのままレジの外―事務所から見ると左側―を通る。
 その目に、ふと半額シールの付けられた苺大福が目に入った。
 レジの隣に有るそれは、いつでもどこでも定番商品。
 だからなのか、それともスタッフルームに入ったのにこのまま帰るのは気が引けるのか、シンジはそれを手に取った。
「これ下さい」
「ん? 大福ね。はい……」
―バぁンっ
 大きな音を立てて入り口扉が開かれる。
 余りの音の大きさに男は苺大福を、『ただのオッサン』は整理中の新商品のお菓子を落としかけた。
「いらっしゃい、ませ……」
 恐る恐る挨拶をしてみる。
 背は高く、決して太ってはいない所かスマートと形容したくなる体型に見えるのに、服の下はきっと筋骨隆々だと思われる男。
 無精髭を生やし、手入れを忘れたフリをして伸ばした髪を後ろにまとめ、だらしなく見せようとしているのに顔立ちが良い。
 精悍なその顔を、まるで世界中を敵に回したように険しくして、振り向かないながらも扉の外に意識を集中させている。
 開けた時の音よりも、この隠そうともしない存在感に圧倒されて店員2人はまともな挨拶も出来ない。
「……諦めたか」
 低過ぎず耳に残る綺麗な呟きが客―寧ろ侵入者か?―の口から漏れた。
「加持さん!」
 この固まりきった空気を破壊したのは、驚きと喜びを同居させたシンジの声。

340:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/23 23:05:02
「おぉ? シンジ君じゃないか。どうしたんだ、こんな所で」
「加持さんこそ」
 会計前の苺大福を置いて駆け寄る。
「どうしてこんなコンビニに?」
 こんなと言うな、こんなと。
 バイトとはいえ店員としては複雑な気分になる。
「俺の今の家はここの近くなんでね」
「そうなんですか」
「で、君はどうしてこっちまで?」
 言葉を失うシンジ。男からすればどんな関係かは知らないが、それでもベッドタウンのコンビニに1人で立ち寄る理由を言える関係ではないのは明白だ。
「……さては、俺に会いに来てくれたか」
「え?」
「違うのか?」
 加持―と呼ばれる客―がこの辺りに住んでいる事を今知ったシンジが、そんな事をする筈が無い。
 つまりは彼なりの気遣い、なのだろう。
 教師になれば生徒からは好かれ愛されるが、同じ教師陣や放任主義の親からは煙たがられるタイプと見える。
「これからどっか行くか? ……と言いたいんだが、これから葛城ん家で飲もうと思っててね。車に酒積んであるんだよ。ツマミを買いに寄っただけ」
 先程の全てを撃ち殺しかねない強張った表情から一転、少しルーズだが人当たりの良い好青年といわんばかりの笑顔と口調。
「シンジ君は何か食べたい菓子は無いか?」
「僕の、ですか?」
「あぁ。いや別に無理して酒飲めとは言わないよ。飲みたければ飲んでも構わないけど、一応未成年だから止めないとな。ただツマミを一緒に食う位はしてくれるだろ?」

 それからシンジと加持は3列目の菓子コーナーを往復して適当に安っぽい菓子を見繕う。
 会計前の苺大福をすっかり忘れてしまったように。共に昼食をとっただけのコンビニの店員も忘れてしまったように。

341:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/03/23 23:06:02
 聞こえる話から考えると加持がシンジにとって例の援交の客ではない事は確かで、また血縁ではないけれどシンジからは信頼に近い物を向けているのがわかった。
 だからどうした。自分には関係無い。
「会計頼むよ」
 漸く思考回路が仕事へと動き始めて苺大福をレジ前の小さなかごに戻した時に加持の声が掛かる。
「あ、はい」
 少し間の抜けた返事をしてバーコードを読み込んでゆく。加持から1歩下がった所に居るシンジは先程の具合の悪さを一切見せない。
 本当に腹が減っていただけかもしれない。レジに置かれた菓子は腹に溜まりそうなクッキーだった。
「315円になります」
 加持は長財布から千円札を取り出した。『ただのオッサン』は自分の仕入れた菓子の売れ行きに嫌良さそうに笑ってる。
「こんな夜中まで大変だな」
「は? あ、あぁ、はい。315円丁度お預かします」
 話し掛けてきた加持がどんな仕事をしているかなんて男は当然知らない。
 ただ、アルバイトではない予感はしていた。
 自分とは圧倒的に違う経済力でシンジに菓子を買ってやったのだろうと。
「レシートお使いになりますか?」
「いや、要らないんで捨てておいてくれ」
「かしこまりました。有難うございました」
 大きな手で菓子3つが入った袋を掴む加持。
「ご利用有難うございました」
「有難うございましたぁ~」
 マニュアル通りのもう1回の挨拶と間延びした挨拶に送られて加持はコンビニを出る。シンジを後ろに連れて。
 家出少年が警察に保護されているような印象を受ける後姿を見送った後、店員とアルバイトの2人はまた誰も来ないコンビニでただ無駄に時間を潰すだけに戻った。

続く。

342:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/25 03:26:49
なんか面白そうだwktk

バイトの兄ちゃんのシンジに対する会話が、なんつか、リアルに一般人でなんかワロタし引き込まれた

343:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/28 08:18:11
すげええええ…エヴァの世界で出てきたら絵になるシーンだ…

344:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/03/29 02:41:55
wktk

345:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/06 20:05:03
まだかな

346:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/07 00:28:40
まだ65%しかできてないらしいよ

347:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/13 21:53:16
ほしゅ

348:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/18 20:26:18
hosyu

349:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/22 00:20:09
URLリンク(ki-ki-ze99.o0o0.jp)

ゲンドウ×シンジだがめら萌える
いっぺんのぞいてみそ

350:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/22 00:55:55 BFsXS51B
ちなみに精神汚染を受ける可能性があるから
覗くときは注意しテナー

ついでにあげるぞな

351:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/22 02:05:34
>>349
目覚めてしまった
どうしてくれる

352:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/22 02:27:21
>>350
むしろ碇さんのお宅が精神汚染しまくり

正直親近相姦苦手だがこれは拒否反応出なかった

353:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/22 02:39:36
>>350
無意味にageんなとだけ言っておく

354:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/28 23:14:19
加持さんキタ━━(゚∀゚)━━ !!!!!

355:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/29 02:14:45
なんの話や

356:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/29 10:54:27
立場が逆スレの誤爆か?

357:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/04/29 11:45:34
孔雀ネ申待ち

358:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/02 08:31:35
>>354
kwsk

359:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/02 22:03:19
1.誤爆
2.>>354の前に加持がきた
3.実は>>354が加持

360:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/02 23:19:28
いや、単に>>354が久々にこのスレを開いて
孔雀氏の作品に加持が登場していたというだけの事じゃないのか?

361:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/03 22:14:18
すごい亀レスだな
和んだ

362:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/06 00:43:32
>>360
正解だ

363:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/10 17:39:42
シンジきゅんのお値段をおしえてください

364:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/10 23:50:07
国が一つ傾くよ

365:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/11 01:06:16
一晩3万5千円(ホテル代別)

366:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/13 22:33:48
シンジきゅん
デリヘルお願いします

367:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/19 01:38:36
>>365
安すぎませんか?

368:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/19 08:30:43
シンジきゅんとなら一生かかってでも返済するから前払いでやらせて下さい

369:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/19 09:29:43
なにげなく孔雀神の作品をまとめサイトで読み返していて気付いたのだが、シンジきゅん一晩二万円で二人を相手にお仕事していた
シンジきゅんは自分の価値を知らなさすぎる
だが、そんなところも激萌えポイントかも試練


370:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/21 23:02:32
性病が怖いお

371:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/22 18:51:39
シンジきゅんとヤれるのなら性病くらい

372:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/23 08:49:45
性病なんてならないよ
だってシンジきゅんだし

373:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/23 09:34:41
>>350
すごくいいお話だったよ。
実はゲンドウも・・・の部分はびっくりしたけど、
「家に来い」と言って、シンジが手をつなぐシーンはすごくよかった。

374:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/05/24 09:43:10
>>370
シンジきゅんが悪い奴に買われて変な病気を移されたらどうしよう…
とかフィクションに余計な心配をする俺
だけどこれからの男娼展開にもワクテカしている俺
一体どっちが本当の俺なんだ
くそう、これもシンジきゅんが愛らしすぎるせいか


375:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 00:39:14
(´・ω・`)

(´;ω;`)ブワッ


投下しにきました。日が空きましたが一応前からの続き物です。

諸注意
・前と違って少し長い
・男女の性描写っぽいの有る
・かといって似非ホモっぽいのも有る
・気持ちNTR
・とある病気の描写がございますが、当方はけっして該当する方を非難しているわけではございません。
・…方言有ったら言って下さいorz

何かスレタイからズレてたり一部の方は視点に不満が有ったりすると思いますが、
一応続く事を考えてなんでご了承下さいです。

376:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 00:41:07
 今日はもう聞かないと思っていた声で「ただいま」と聞こえた瞬間、葛城ミサトは体をこわばらせた。
 碇シンジの帰宅が嫌なワケでは決してない。ただ、何故か妙に悪い予感がした。
 だが、やはり玄関を開いて「ただいま」と挨拶してくれる同居人が居るのは、なかなか悪くない。
 ダイニングキッチンのテーブルにビールの缶を空1つ、現在飲んでいる物を1つ、それからツマミに期限の近い納豆を広げている。
 この散らかし具合は怒られないだろうか。……と心配するのは、どちらが保護者かわからないと笑われそうだ。
「おかえりー……ゲッ」
 いつも通り気の緩んだ笑顔から一転、ミサトの顔は見事なまでに引きつって固まる。
「ただいまー土産だぞー」
 中途半端に開いた口が閉まらない。
「ほら、有名な地酒……」
「ぬぁにがただいまよッ!」
 当然シンジ1人が手ぶらで帰宅したものだと思っていた。
 この際何がどれだけ入っているか見当付かない手土産の買い物袋を持っているのは良いとして。
 まさか後ろに同じように買い物袋を、それも2つも持った加持リョウジが居ようとは。
「帰宅した時の挨拶はただいまが基本だぞ」
「そうじゃな……」
「シンジ君、葛城はお帰りの一言も無いのか?」
「いつもはそんな事無いですよ」
「お帰り、シンジ君」
 嫌味たっぷりに引きつったままの笑顔で言ってやったが、気まずそうな顔をしたのはシンジのみ。
「シンジ君、ただいまは?」
「ただいま」
 よしよしとシンジの頭を撫でる加持。来るとわかっていればせめて今日の昼間職場たるNERVで着ていた服のままで居たのに。
 想像もしていなかったミサトはすっかり、いつでも寝られるようにと素肌に黄色いタンクトップ1枚、下も太股を過激に露出したデニムを履いて素足の状態。

377:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 00:42:13
 不幸中の幸いは相手たる加持も詰襟の制服ではなくいつものワイシャツにネクタイを締めただけのラフな姿だった事。ネクタイも彼程緩めればフォーマルさが抜ける。
「お? アスカはどうした?」
「とっくに寝たわよ、だーいぶ前に。こんな時間にお客さんが来るってのは迷惑なのよ」
「この時間なら。アスカ未だ寝てないんじゃ……」
 鋭い。もしくは空気とミサトの気持ちが読めていない。
 同じ家に暮らしているとはこういう事だと今回は嫌な意味で実感させられた。
 自分が加持と暮らしていたあの懐かしい時分にも、こんな事が有っただろうか?
「……何でも明日朝から友達と映画見に行くんだそうよ」
 だから夕食を簡単に用意してくれていったのは助かった。と言おうとして、加持が居る手前言葉を飲み込む。
「あの、皆が言ってるヤツですか?」
「多分ね。お陰で早くお風呂入らされちゃって困ってたのよ」
「そりゃ大変だ。じゃあシンジ君、グラス3つ用意してくれ。出来れば余りデカくないヤツを頼む」
「はい」
「何がじゃあなのよ! シンジ君もいちいち返事をしない! っていうか本当に出さない! その前に何で私じゃなくてシンジ君に言うのよ!!」
 バン、とテーブルを叩いて立ち上がる。
「全部まとめてツッコミ入れるとは、やるな葛城」
「誉められても嬉しかないわよ!」
 そもそも誉められている気がしない。
 そんなやり取りを気にせずに、シンジは加持に言われた通り食器棚からグラスを3つ持ってきていた。
「これで良いですか?」
「有難う。お、これこの前の結婚式の引き出物だな」
 運ばれたグラスを手に取って加持は目を細める。
「そうよ。ったく、どいつもコイツも結婚しちゃってさ」

378:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 00:43:28
 グラスと言われたのでシンジは安いコップではなくワイングラスを持ってきた。
 ペアのグラスと、もう1つはそれより一回り小さい、こちらは水色掛かったグラス。
 加持が手にしているペアのグラスは透明だが、取っ手部分に綺麗だが邪魔な、よくわからない一応アールヌーボー調の模様が入っている。
 別に貰っても嬉しくはないが、名前やら顔写真やらが入っている皿と比べれば何倍も使い勝手が良い。
「酒って言っても地酒が美味い所じゃなかったんでな。普通にワイン買ってきたんだよ。ほれ」
 1番重たそうな買い物袋から出てきたのは赤ワイン。
 見た事の無いラベルだが、決して安物じゃない。しかし年を重ねて宅飲みを良しとしなくなったらしい加持が高級品を買ってくるだろうか。
 そもそも、どこに行って良い地酒が無いと言っているのだろうか。
 ……別にそんな事を訊く必要は無いし、今は訊ける立場でも関係でもない。
「美味しいの? それ」
「不味い時の為にもう1本」
 同じ袋から出てきたのは瓶ビール。
「葛城はこっちのが良いだろ」
「それいつも飲んでるわよ」
 今もまさに飲んでいた。
 だが、口ではそう言いながらも目はそのビールを見ている。
「そうか? んじゃあチューハイとか」
 同じ袋から缶チューハイ。
「気分を変えてカクテルとか」
 同じ袋から缶ジュース……にしか見えない最新の安物カクテル。
「普通に酒だって買ってきたぞ。これは家の近くのコンビニでだが」
 同じ袋から、遂には25度の焼酎瓶。
「最近のコンビニは何でも有るな、数年前と大違いだ」
「どんだけ買ってきてんのよ……」
「明日は休みなんだから良いだろ」
「加持さんも明日休みなんですか?」

379:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 00:44:48
 袋に入っていた持参品のソムリエナイフを手に、どうやって使うか模索していたシンジが尋ねる。
「あぁ。シンジ君は学校が休みで、葛城も明日は休み。だから今日は3人でめいっぱい飲もうな」
「僕は未成年だから飲めませんよ」
「なぁに言ってるんだ」
 シンジの手からひょいとソムリエナイフを取り上げる。
「ここまで来て飲まないなんて言わせないよ。別に誰に迷惑が掛かるでもなし、酒で成長が止まるワケでもない。シンジ君の健康状態からすりゃ、俺達がちょいと飲むより良い位だ」
 口八丁とはまさにこの事。加持は口が上手い。
 よく喋るとか語彙が豊富とか、そんな段階ではない。上手いのだ。自分の言いたい事を最後まで聞かせるように運び、相手が気付けば笑いながらYesと言ってしまっている。それに声も良い。
 最初はその話と長身で顔の作りが良い所が気に入った。
 だがその言葉達はセカンドインパクトの傷の1つでしかなく、その暗い過去やらギャップやらが格好良かった。
 其の頃は自分も若く、そんな彼を受け入れてやれると驕っていた。
 加持もミサトの過去の傷を、胸と心の傷を舐めて慰めてくれた。
 愛し合っていると信じていたし、事実愛し合っていた。
 最後は互いに溺れ合っていくその愛情の行く末がただただ怖かった。
―シュポン
 もう8年近くも前の事を思い出している間に、加持はワインのコルクをどの袋からか取り出したスクリューで抜いている。
「まぁ1杯位は付き合えって。2杯目からは葛城と同じビールで良いから。あ、栓抜き取ってきてくれ」
「はい」
 ビールもアルコール飲料だと言う暇も無く、シンジは素直に再び食器棚に向かった。

380:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 00:46:10
「葛城も最初の1杯位はワインにしてくれよ。折角手に入れたんだから」
「そんな良いワインなワケぇ? 諜報部の給料はよっぽどお宜しいようで」
 加持にとって都合の悪い事はワインを注ぐコポコポという音に掻き消された。
 ワイン独特の、でもどこか甘ったるさを覚える香りがテーブルの上に伸び広がる。
「年代物じゃないが日本人の好みやすいタイプらしい。話の種にでも飲んでみたって罰は当たらないさ」
「罰当たったって飲みたきゃ飲むのが基本よ」
 神様の下す罰なんて少しも怖くない。
 観念し、寧ろ楽しむ勢いでミサトはグラスを手に取った。
「シンジ君は少しの方が良いかな?」
「僕は……本当に結構です」
「じゃあ1口飲んで駄目そうだったら止めれば良い。大丈夫そうだったら少しずつ飲めば良い。これ以外に土産が無いんだ、受け取ってくれ」
 拒む余裕を与えず、しかしペアではない方の小さめのグラスに少量だけ注ぐ。
 香りも色も鮮やか過ぎて、まるでグレープジュース。
 そう思えたからなのか、結局シンジもグラスを手に取りいつもの席へ座った。
「さて……特に乾杯する理由も無いな、乾杯!」
「か、乾杯」
 アスカの座る席へ着いた加持のタイミングの掴みにくい音頭に続いたのはシンジのみ。
 既にミサトは座り直し、グラスに口を付けている。
「あまっ」
 そしてミサトの苦情。
「こりゃちょっと酒っぽくなかったな」
「赤ワインなんて小洒落た物にしようとするからよ」
「やっぱワインは寝かせた物じゃなきゃ駄目だな。でもまぁ、この方がどんどん飲めるだろ」
「次のビールまで、すぐっぽいわね」
 ぐっ、とグラスの中を一気に飲み干すミサト。

381:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 00:47:25
 普段ビールを飲んでいると、アルコール度数の高い酒でもついハイペースで飲んでいってしまう。
 このままではすぐに悪酔いしてしまう。ただでさえ目の前の晩酌相手がこの男なのに。
 空になって置かれたグラスにミサトの心情を知ってか知らずか、加持は再びワインを注いだ。
 加持もかなり早いペースで飲むつもりらしく、ボトルの中身はどんどんミサトと加持とのグラスへと分けられていく。
 どちらが先に酔い潰れるか、何かにも似た駆け引きが始まった。


 しかしその駆け引きは意外な決着を迎える。
 寧ろ決着を、終わりを迎えられなくなってしまった。
「んーペンペンあったきゃーい……」
 強く強く抱き締めてくるシンジにペンペンは唸り声を返そうにも返せない。
「シンちゃんが笑い上戸なのはちょっと意外だったわね」
「全くだ。泣き出すか……もしくは父親に似てちっとも酔わないか、だと踏んでたが」
「碇司令って酒強いの?」
「一緒に飲んだ事は無いがな」
 確かにゲンドウが酔い潰れてヘラヘラ笑っている姿やいきなり号泣し出す姿は想像が付かない。飲めば荒れる、という想像も何故か今は出来そうにない。
「ねぇっ」
 いつの間にかペンペンを放したシンジが顔を真っ赤にして、テーブルに手を付いて向かいに座るミサトへと乗り出す。
「父さんのお話ぃ?」
「ん、違うわよ」
「なぁーんだぁー」
 わざとらしい膨れっ面でガタンと椅子に座り直すシンジ。
 ほんの1時間前までアルコールのアの字も知らなかった子供が、こんなにも酒を楽しめるようになるとは。
 楽しむどころか完全に酒に飲まれているのだが。その所為で父親のゲンドウの怒り上戸で酔う姿が想像出来ないのだろう。

382:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 00:48:59
 そんなシンジの姿を見せられては、ミサトも加持も酔うに酔えない。……だが、一応純粋な酒の味は楽しめている。
「じゃあ2人で何のお話してるんですかぁー」
 椅子から落ちてしまいそうな程身を乗り出して加持に擦り寄る。
「さぁ、何の話だろうな?」
 シンジの右肩に腕を回して加持もシンジを抱き寄せる。椅子が不安定に傾き、全体重を預けたような格好。
「加持さん、またヒゲ伸びてる」
 身長差は有るが座っているので座高の違い程度しか無く、自然と顔と顔とが近付く。この距離なら互いの息遣い―確実に酒臭い―までわかる筈だ。
「剃らないのぉ?」
「んー……面倒臭くてな」
 空いている左手でグラスを取り、加持は新製品の毒々しいカクテルを飲む。
「剃らないのぉ? 剃った方が良いのにぃ!」
 普段ならば絶対使わない言葉は相手の男に気が有る女が使うそれで、見ているだけで何やら苛立たしい。
「ヒゲは嫌いか?」
「いつも位なら良いけどぉ、あんまり伸ばすと父さんみたいになっちゃうから駄目!」
「そうか、駄目か」
 くつくつと笑う加持の顔はいつも彼が繕っている調子に乗っている顔に見えるが、酔いが回っているようには見えない。寧ろ酔えなくて必死に酔ったフリをしているような……
 隣のシンジが酔い過ぎているからそう見えるだけかもしれないが。
「シンジ君に嫌われるワケにはいかないから、そろそろ剃るとするかな」
 自らの手でザラザラともジョリジョリともいえない顎を擦る。と、その手にシンジの右手が触れた。
「剃った方が良い?」
「うん」
「剃ったらキスしてくれるか?」
「うん」
 大きく頷いたシンジは加持の左手を払い、唇を押し当てる。

383:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 00:50:11
 ……ヒゲの有る頬に。
「ちょっとぉッ!」
 ドン、と大きな音を立ててグラスを持ったミサトの手がテーブルを叩いた。
「おい、割れちまうぞ」
「うっさいわね! アンタ何考えてんのよ!!」
「何って……なんにも、なぁ?」
「なー」
 ペンペンの次の犠牲者は加持といわんばかりに、椅子から立ち上がって首に両腕を巻き付ける形でシンジは抱き付く。
「例えアンタにそっちのケが有ったとしても、シンジ君には手ぇ出させないわよ!」
「そんなつもり無いよ。シンジ君は、いわば俺の娘みたいなモンだからな」
 お手上げ、言葉通りに加持は両手を海外ドラマの要領で上げて見せた。
「娘じゃないよ、息子だよー」
「そもそも子供じゃないでしょ」
 シンジの方は邪気が一切無いらしく間伸びした言葉を吐いてそのまま寝入るように体の力を抜いた。重たそうに、そして満足そうに加持は微笑む。
「息子はどっちかっていうとアスカだな。父親と遊んでもらいたくて母親に反抗的な息子。シンジ君は父親にオドオドしながらも本当は懐いてて、でもつい母親の方にいっちまう娘。で、どうだ?」
 どうだと訊かれても何と答えれば良いのか。
「まぁ、そんな感じは有るのかもしれないけど……そのお母さんって私の事?」
「勿論」
 悪びれる様子も無くどこか満足気に加持は頷く。
「こんな大きい子供、いきなり出来たら困るわよ」
「だが2人はきっと喜ぶぞ」
「そんなワケ無いわよ。……多分」
 そういえば2人揃って両親に、家庭環境に恵まれているとは決して言えないのだった。
 かといってミサトと加持の間の子供だったとしても、それはそれで宜しくないだろう。
「ま、これだけ家の中の仕事出来ない奴が母親ってのは、確かになぁ」

384:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 00:51:29
「うっさいわねー。これから家事は男がやる時代なのよ」
 もう何年も前からどこでも誰でも言っているような台詞に加持は口の端を上げた。
「なら丁度良いな。一人暮らしを長年やってきた甲斐が有った」
「アンタみたいな浮気症の男……」
 続く言葉が出てこない。それが彼の、仕事と人生の一部をスムーズにする為フェイクに過ぎないと知っているから。
 軽そうな彼の容姿にかっちりと当てはまった、彼らしく彼の本性とはかすりもしない上辺。
「……アンタの子供なんて、見たくもないわよ」
「そうか」
「ッ!?」
 今、自分は何と言った?
 ミサトは慌ててほぼ空のグラスを押し当てて口―から知られかねない表情―を隠した。
 目の前の加持は楽しそうにシンジに首を抱かせたまま、しかし悲しそうに視線を、2人を挟むテーブルの端から端までを泳がせている。
 こんな事を言う筈じゃなかったのに。寧ろ正反対の事をずっと胸に秘めてきたのに。
 そうだ、あの頃から何ら変わり無く今も未だ思い続けている。
「ち、がう……のよ……」
 何を言っても後の祭りだが、それでも頭は言い訳を必死に探した。
「残念だな、そりゃ」
 いつも通りの軽い口調なのに違いがはっきりとわかる。
 その違いはシンジにはわからなかったのか、何かを探すように眠たそうな体を加持から離した。
 その背を加持の手は子供を寝かし付けるように優しく叩く。
「俺は葛城の子供だったら是非見てみたかったんだけどな。出来れば俺とお前の子をさ」
 ほろり、と。
 止める気すら無い涙がミサトの右目から零れた。
「な、何馬鹿言ってんのよ、馬鹿!」

385:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 01:02:24
 続いて左目の涙が零れる。それらを追い掛けるように両目から涙が次から次へと溢れて顎まで伝う道を作る。
 欲しかった。あの頃、『それ』をする切っ掛けに、けじめに子供が欲しかった。
 万が一出来たら「ちゃんと付けないから」なんて怒って、周りからも「お前達は」と肩を落とされて、そんなぐっだくだの流れで『それ』が出来てしまうものだと思っていた。
 しかし叶わぬ夢。そんな平凡で、他者からすると恥ずかしい位の日常は、非日常を体験して非日常に生きる道を互いに選んだ2人には降りてこない。
 セカンドインパクトはあれだけの痛手だったのだ。胸の消えない傷と心の癒えない苦しみの他に、治る事の無い病も残してくれた。
「無理なのよ、私には……」
「あぁ、知ってる」
「だから嫌になったんでしょ」
「別れを切り出したのはお前だ。それにお前を嫌だなんて思った事は無い。例え子供が産めなかろうと、育てられなかろうと、お前の部分コピーよりもお前自身の方が良い」
 それこそ今更だ。付き合って輝いていたあの時代に、何とは無しに欲しいと言っていたのだから。今しがた、再び見てみたいと漏らしたのだから。
 もしも自分が普通の女性だったら、きっと加持の言葉は何よりも嬉しかったのだろう。しかし自分は普通の『女性』ではない。
 父と、それから母を失ったあの日に、自らが母になる資格すら失っている。
「ミサトさん」
 テーブルを濡らす雫ばかりを眺めていた顔を上げると、視線の定まらないシンジがこちらを見ていた。
 誰が見ても酔っ払いの顔を、心配そうに歪めている。
「あっ、ゴメンねシンちゃん、ちょっち感傷的になっちゃったみたいでさ! これだから年取るのは……」

386:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 01:04:41
 目を真っ赤にしたままのミサトの言葉は、シンジが抱き付く事によって遮られた。
「シンジ君?」
 酒が回っているのか体が温かい。
 控えめではあるけれど柔らかな温もりに包まれてしまっては、涙も止まる事が出来ない。
「良かったじゃないか、ちょっと酒に弱いみたいだが、健康で優しい子供が出来て」
 そんな言葉は涙腺を更に弱くする。もう泣き止まなくても良いのだと許しを得たように、ミサトは久々に素直になって、シンジを抱き締める。


「ちょっとぉ……」
 数十分後、ミサトは遂に不満の声を上げた。
「寝るなら布団で寝なさいよぉ~」
 抱き締めたのではなく、体を預けた……正確には寄りかかって全体重をかけてくるシンジの体は、引き剥がそうにも離れない。
「シーツ洗濯しちゃったんですー」
 我儘な子供そのものの語尾の伸ばし方をシンジがしているのを初めて聞いた。この状況ではちっとも嬉しくないが。
「じゃあシンジ君、どこで寝るつもりだったんだい?」
 加持も加持なりに酔いが回っているのだろう。いつもの軽快な舌の動きとは少し違う。
「泊まる筈だったから、良いかなぁって。あぁーどうしよう、ミサトさん、僕どうすれば良いんですかぁ?」
「知らないわよもぉー! 私の部屋で寝れば良いでしょ。ほら」
 よいしょ、と掛け声を付けてシンジを抱える形で立ち上がった。
「そのまま運ぶのか?」
「そう、よ……重いぃ!」
 どちらかといえば体重の少ないシンジだが、それでも14歳の少年ともなれば女の細腕―それなりに逞しくはあるが、一応女性なので―しか持ち合わせていないミサトには軽々と運べる程ではない。
「どれ、貸せって」
「良いわよ。ほらシンちゃん、歩きなさい」

387:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 01:06:27
 引き摺る形でふらつきながらもミサトは奥の自室へと向かう。
「布団位敷いてやるか?」
「もう敷いてあるから平気!」
 さり気無く万年床宣言をしてしまった事を後悔するのは、部屋に入って戸を閉めて、電気を付けるより先にシンジを布団に寝かせてから。
 やばい、アイツ絶対勘違いしたわ。
 勘違いも何も、事実なのだから言い訳も思い付かない。
「……ミサトさん」
「ん、なぁに?」
 早々に目が慣れてきたのか、真っ暗な部屋の筈なのにシンジの顔はよく見えた。
 布団の上に仰向けに横たわるシンジ。未だ赤らんだ頬は戻らず、重たい目蓋を必死に下ろさぬように黒目だけでこちらを見ている。
「眠い」
「はいはい、寝て良いから」
「うん」
 遂にシンジは目蓋を下ろし、「ねぇ、ここミサトさんのお部屋ですよね? ミサトさん、今日どこで寝るんですか?」控えめな声で既に寝言のように呟いた。
「私はどこででも寝れるわよ」
 布団の足元側にぐっちゃぐちゃに畳んで置いた薄手の掛け布団を腹に掛けてやる。
「僕も、どこでも平気です」
 そう言いながらもシンジは目を開けず、呼吸音を徐々に大きくしてゆく。……しかし、心なしか先程よりも口調はしっかりとしている気がした。
 今にも寝入りそうな子供の顔。染まった頬もまるで遊び疲れた幼い子供。そんなつもりは決してないが、子守りをしているような錯覚に陥る。
 腹部を布団越しにポンポンと優しく撫で、ゆったりとしたリズムで軽く叩く。1つでも子守唄を知っていれば歌って聞かせてやれるのに。
 寝入るまで見守っていたいが、戸の向こうで加持が1人寂しく飲んでいると考えると、向こうにも早く行ってやらねばなるまい。これでは2人の子供の面倒を見ているようだ。

388:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 01:08:06
「ん……」
 そう思って手を離すと同時に、シンジは声を漏らして掛け布団の右端を抱き締める。
「何か……眠くなっちゃって……」
 手が離れると寂しい、とでもいいたいのだろうか。
 だとしたらこの子供は随分と手間のかかる、そして自分に近い可愛い子供だ。
 ふふ、と女性らしい穏やかな何かがミサトの唇に乗る。
「……じゃ、私も寝っちゃおっかな!」
 そんな笑みを隠すようにとシンジの体の左側にどん、と勢い良く寝転んだ。
 その際に頭だけ敷布団に受け止めてもらえず、床にごんとぶつけてしまったが、少し痛いだけなので気にしない。
「ねぇ、ねぇ! 一緒に寝ちゃおうかなぁー」
 嫌がられるのを承知で、寧ろ望んでシンジに右手を回してしがみ付くミサト。
「そうして下さい」
 短い言葉を吐いてシンジはミサトの予想と180度違う行動に出た。ミサトの手が放れると同時に自分も掛け布団を放し、体をそれこそ180度回転させて、ミサトと向かい合う形になる。
「……シンちゃん?」
「いっしょ」
 それだけ呟いて布団代わりにミサトに抱き締める。
「シンちゃ、ちょ、ちょっと! シンジ君!?」
 今にも寝付いてくれそうな息遣いなので声を余り大きくしなかった……のがいけなかったのか、繰り返し呼んでも返事も無しに抱き付いたまま離れない。
「あのーもしもし? シンジ君? おーいシンジ、起きろー。起きなくて良いから放してー」
「嫌です」
 目を閉じたままきっぱりと断言したシンジは豊満すぎるミサトの胸に顔を埋めた。
「あのねぇ……」
 もしこんな所を加持に見られたら何と冷やかされるかわからないのに。下手をするとあらぬ誤解を受けるかもしれない。

389:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 01:09:56
 否、誤解は誤解だが、別に誤解されてはならない関係ではない筈だ。ミサトと加持は。少なくとも今この時点では。
 それでも気になってしまうのは、やはり意識しているからだろうか。別れてから今までずっと心の奥底の片隅で意識してきたからだろうか。
「……あのねぇ」
 もう1度、今度は自分に対してミサトは呟く。
「寝るまでよ、寝るまで」
 子供が眠るまで父親の傍から離れる母親位、居ても良いだろう。
 自分もシンジの事を笑えない程度には酔いが回っているからと決めて、シンジの頭を更に埋めさせ、優しく髪に指を通した。


 シンジの鼻からは健康的な息が漏れているが、起きている証に少し不規則。目も閉じたままではなく瞬きを不定期的に繰り返していた。
 その所為で、鼻息も睫毛もくすぐったい。
 大きいと感度が鈍るとの噂―迷信、だろうか―が有るが、それはミサトに当て嵌まらない。胸と胸の間、両方の胸の内側を指先で撫でられているようなもどかしさに、長い足と足を擦り合わせてしまう。
 子供―当然娘ではないが、やはり加持のいうように息子も違う気がする―として見るにしてもシンジは既に14歳。子供から大人へ向かう青春の、更に1歩手前の思春期。誰よりも子供扱いしてはならない年頃。
「14、か……」
 自分が14の頃はどんな考えを持っていただろうかと考えようとして、すぐに止める。丁度14歳だった、セカンドインパクトが有ったのは。
 そういえば、加持が14の頃はどんな考えを持っていたのだろう。
 ふと締め切っているので明かりも漏れてこない戸の方に目を向ける。奥で1人飲んでいるのか、もしかすると珍しく酒に潰れてテーブルに突っ伏して寝ているかもしれない。

390:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 01:12:08
「大人というより、オジさんよね。って言ったら、私も充分オバさんだけど」
 そんな独り言を吐いているこの時分こそオバさん臭い、と付け足そうとした瞬間。
「そんな事無いですよ」
 胸元がくすぐったく喋る。
「女の人は30歳からって、よく言うじゃないですか」
 未だ29だが……いや、始まっていないと言いたいのだろう。これからだと言ってくれるのだろう。そうであって欲しい。
「家の中の事に関しては大雑把というよりズボラで、もう何やっても駄目ですけど……」
「シンちゃーん、私を貶したいのかしらぁ?」
「でもお仕事はちゃんとしてるし。それに、中身もこう……」
「中身若いって言われたって嬉しかないわよ」
 ぐぃとシンジの頭を掴んで体から引き離した。
「じゃあ何で言えば良いんですか?」
 寝惚け眼で不貞腐れた物言いをしたシンジだが、ミサトが口を開くより先に表情を一転させる。
 それはどこか、少年なのに艶かしい雰囲気を持つものに。
「行動で示した方が良い?」
「えっ?」
「『貴女は魅力的です』って、言うよりも……」
 顔が近付いてくる。右頬に、シンジの左頬が当たる。
「……駄目、よ」
 言いながら、何故か止める気が起きない。手持ち無沙汰の両手は自分タンクトップの裾を掴む事しか出来ない。こうしている間にもシンジの頬はミサトの首筋へと降り、角度を変えて唇を押し当てているのに。
 子供がじゃれ付いてきているだけに思えない。肌に掛かる息が酒の所為で熱く、酒気を移されているのか? それだけじゃない、ミサトも最初は何だかんだと言いながら数分前まで結局楽しく飲んでいた。

391:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 01:13:27
 あれだ、思春期ド真ん中の14歳の男となれば、きっとそういう盛りなのだろう。こんな女子供のような顔をしていても、頭の中は『それ』でいっぱいで、酒や眠気で欲望が剥き出しになってしまった、なんて所だろう。
 もしくは覚えたて、だからなのかもしれない。いつ頃からかはわからないが、可愛い部下の嫌な噂をミサトだって聞いた事が有る。話していたのは誰だったか忘れてしまったし、第一言っていた人も「まさかね」程度に流していた筈。
 だがもしそれが本当だったら、覚えてしまったばかりなら、自意識過剰にも出る所は出て締まる所は締まった女の体が目の前に無防備に置いてあるのだから、仕方無い。
 年上の女性と交際している。それも1人ではなく複数と。もしくは年上の男性と。
 アバウト過ぎる気もしたが、噂なんてそんな物だ。女か男か両方かは知らないが、年上の人間と交際していると噂されるシンジは唸るように息を熱くしている。
 何をしているんだろう、と思いながらミサトはシンジの唇に自分のそれをゆっくりと滑らせた。
 抵抗はされない。それどころか、まるで待ってましたと言わんばかりにシンジも顔の角度を変えて応えてくる。
 やがてミサトの意識もこれが至極当然との考えに変わる。薄暗闇の中、多少年が離れていようとも男女が布団の上で抱き寄せ合っているのだから、これは仕方が無い。
 そう思う頃にはミサトの舌は2人の唇を割ってシンジの咥内へと進んでいた。
「ん―」
 先に声を漏らしたのはシンジ。
 ミサトは慌てて唇を放し、「しっ」と黙るように促して再び口付ける。
 少年の咥内は熱い。しかしこの熱さと妙な苦さは酒が原因だろう。時にぶつかり合う鼻から酒の匂いが入ってきて、更に思考を鈍らせた。

392:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 01:14:49
 くちゅくちゅと淫らで小さな音は徐々にテンポを落とし、やがて互いの唇が暗闇の中糸を引きながら離れる。
「ミサトさん……」
 体を起こしたミサトに掛けられる呼び声。切なげに訴える声は掠れている。明かり1つ無い部屋で更にミサト自身の影も落とされて、それでもシンジの表情はよく見えた。
 声に合った寂しげで貪欲な顔。まるでこちらに無理矢理押し倒された少女のよう。
 慣れていない、もっと正確に言えば気が引ける、そんな状況。しかしミサトの豊富に見えて乏しい知識の中では男をこれだけ欲情させてしまったならば、きちんと責任を取ってやるのが女、となっている。
 悪ふざけとはいえ、不覚にも最初に仕掛けたのは自分だ。……電気の一切無い自室がミサトの取るべき行動を間違えさせた。
―バサッ
 布団へと落ちる黄色いタンクトップ。露になる下着を身に付けていない恥ずかしい程に成熟した乳房。
「シンジ君」
 名を呼ぶ女性に向けて手を伸ばすシンジ。暗闇の中でもそのプロポーションが女性として理想的過ぎる程に整っているのがわかる。
「ん……」
 寝起きのそれに似た声を出しながら伸ばされたシンジの手が無造作にミサトの左胸を掴んだ。手の平の中央に当たる突起の主張が硬い。
 この闇の中ならば傷も見えまい。
「出す物出してスッキリして、良い子はとっとと寝るのよ」


 下から伸ばされた両手が初めて触れる大きな胸に戸惑いを見せずに形を変えようと揉んでくる。愛撫とは程遠い好奇心だけの手付きが、くすぐったくて肌がぷつぷつと粟立つ。
 シンジは、シンジの手はただ純粋に「大きな物」に触れたいだけなのだろう。外から内へと遠慮無く形と感触を楽しむ手。中央には敢えて触れない。

393:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 01:16:18
 まるで時間が有る日の、彼の悪戯な手だ。
「ッ!!」
 そうだ、その『彼』は引き戸を開けばすぐそこに居るのだ。思わず息を呑み、ミサトはシンジの手首を掴む。
「……駄目?」
 自由気侭にしていた手の行方を拒まれたシンジは唇を尖らせる。
「え、あっ……」
 慌ててその手を解放してやるミサト。
「ごめん、そうじゃないわ」
 何も言われていない。でも見透かされているかもしれない。別の男の事を考えていたと。
 それを知られて何だと言うのか。別にシンジと付き合っているワケでなければ、今は悲しい事に加持と付き合っているワケでもない。
 1つ溜息を吐いて、ミサトは再びシンジの手首を掴む。そして今度は反対に自分の胸へと引き寄せる。
「柔らかい……おっきいし、気持ち良い……僕、大きいおっぱいの方が好き、かもしれません」
 自分の趣味嗜好の話でも断言しきらないシンジらしい口調に苦笑いを浮かべ、その指先を胸の尖端に触れるように運ぶ。
「大きい方が好き?」
「……多分」
「煮え切らないなぁ、好き?」
 息の多い、少し低い声になっている事に、ミサト自身も気付かない。細い指先の掠める感触がもどかしい。
「こんな大きなの、触った事無い……」
「そう……大きいとね、こういう事も出来るのよ」
 足を滑らせてシンジの視界から消えるミサト。何事かと上半身を起こしたシンジの体の丁度曲がっている部分、つまりは股間へと露になった胸を押し付ける。
 カチャカチャと音を立ててシンジの下半身を下着ごと脱がす。
「う……」
 急に性器が冷気に触れてシンジは声を漏らした。

394:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 01:17:58
 同居初日にもシンジの性器を目にしたな、と思い出す。激動なんて言葉すら陳腐に聞こえる程の毎日だったのですっかり忘れていたが、確か中高生向けの教科書に出てきても可笑しくなさそうな色形をしていたが……今は違う。
「なぁんか、可愛い形してるわね」
 茶化すとシンジはムッと眉間に皺を作って顔を真横に背けた。
 さて洗おうとしていたあの時の様子とは違い、先は天井へと向かっている。向かおうとしている。上手く勃ちきっていないような、所謂半勃ち状態。
 興奮してもらえなかったのか……と思いたくないのか、ミサトの頭の中では「これが酒の威力なのだろう」とまとめられた。
 未だ下がっても見える性器を胸の中央に当てる。
 まるで憎い傷を自ら犯しているような、少し嫌な気分になったが、気にしてはいらなれない。思い返せれば、それはいつもの事だったのだから。
 胸と胸の間に暖かいを通り越して熱い感触。久々の行為にミサト自身も興奮してきた。
 大き過ぎる胸はコンプレックスの1つで大きさを誉められてもちっとも嬉しくなかった。だから胸の形なり何なりを誉められた時に初めてこうして奉仕してやっている。
 そもそもこれ自体余り好きではない。子供を、赤子を育てる為の器官を育った大人がこうして使うなんて。
「ん、ぐにぐにする……んっ、ん……」
 性器とは全く違う、当然誰かの手とも違う感触が勃ちきらない性器を無理矢理こそうとしてくる。
 潤滑油が無い為に擦れて少し痛い。恐らくシンジとしても多少痛いだろう。痛痒い、のような感触。
 ドクドクと脈打つ性器は先程の手付きより余程愛撫されている錯覚を与えてくる。わざとぶつけられているようなミサトの好む雄々しさが有り、挟んだ胸を動かす手に力が入った。

395:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 02:02:43
「ちゃんと感じてくれちゃってるのね」
 性器の熱さも硬さもどんどん増していく。
「おっぱい、気持ち良いから、アぅ……」
 この調子ならすぐにでも射精してしまうだろう。
 胸を汚されるのは不本意だが、服を汚されるよりはマシだろう。白くねばついたそれの臭いが体に付くなんて考えたくないが、拭けば取れる筈。若い子の物はどうかわからないが。
 髪に掛けられては拭くのに時間が掛かる。もし遅いと加持が見に来ては大変だ。きちんと胸に吐き出せるように更に性器を埋めさせる。
―ずりゅっ、ずりゅっ
 上を向いた性器の小さな点から先走りが漏れて潤滑油の役割を果たし、同時に淫らな音を暗闇に轟かせる。
 2つの尖端が同時に性器に触れ、尚且つそれを自ら擦る。……ミサトの体はビクリと跳ねた。
「ンっ、それ良い……コリコリしたの何? すご、く、イイんっ!」
「じゃあ、さ……さっさとイッちゃって、くれないッ?」
 声が上擦る。首を使うのはミサト自身も感じてしまうので良くない。自分まで一緒に達するつもりは無いのだから。
 しかしシンジは相当気に入ったのか胸の尖端を探して腰を浮かせてくる。
「ん……ね、口でシた方が良い?」
 良い? と訊くよりも早い? と訊きたい。早く終わらせたい。
 決して自分が悦しんでいないワケではない。悦しんではならないだけで。すぐ近くに加持が居るだけに、声を上げて楽しむのはミサト自身が許さない。
 でも、もしこのままシンジの収まりがつかなければ。その時は自分の秘所を差し出すしか……
「んうンっ、駄目……僕、もっ……イキたいのに……」
「私の胸じゃイケないっての?」

396:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 02:04:40
 もどかしげに起こした背を丸めてシンジは喘ぐが、性器は少しずつ先走りを漏らすのみ。ミサトが不満そうな口振りで両の尖端を擦り合わせても互いの口から熱い息が出る以上の事は無い。
「あのね……気持ち良いけど、何か変で、変ッえぅ……イケないの、おちんちん変で……」
 もどかしさの余り自ら不器用そうに腰を動かすが、やはり達せそうにない。酒の威力はシンジにとって相当大きく、勃起だけではなく射精にも影響を及ぼしていた。
 風邪で寝込んだ際に熱が下がらずに何時間も苦しいままの、あのどうしようも無い疲労感に似た物がシンジの体を支配してくる。ずるずると悦にまみれていられるのも最初は楽しいが、限界がずっと続き過ぎれば苛立ちすら出てくる。
―カタンッ
 突然後から戸が動くような音がした。
 と同時に、ミサトは大袈裟な動きでシンジから体を放す。
「……気の所為か」
 寄せていた胸を撫で下ろす。心音がバクバクと煩いのは自分も興奮しているから。もっと興奮すれば加持がダイニングで待っているなんて気にしなくなる筈だ。
 いい加減断ち切ろう。母親になれないなら良妻になれる筈も無い。彼の妻を気取れる日は来ない。
 いきなり今まで与えられていた快楽が消えてしまい不思議そうにこちらを見るシンジに対して、母親を演じるべきではない。そんな資格は無い。
 自分には所詮、娼婦の真似事程度がお似合いだ。
「ね、一層の事シちゃおっか」
 妖艶な誘い方等知らない。知りたくもない。本当はこんな事、子供を作る前提以外でするべきではない。どんなに古風な考え方だと言われようとも。
 8年前とは違う。誘った行為の意味が、その重たさが。今の彼はわかってくれるだろうか……なんて考えはそろそろ捨ててしまおう。

397:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 02:06:43
 戸を開けてこないのは、案外テーブルに並べた酒の肴としてシンジと情事に耽る自分を想像しているのかもしれないし。……その妄想は酷く惨めな気がして、ミサトはシンジの体に擦り寄った。
 どうせ酒に飲まれて泥酔しきっている子供だ、朝になればすっかり忘れてしまうのがオチ。
「嫌なら止めます」
 丁寧な口調ながら、どこか冷たくシンジが言う。
「何か嫌そう……僕、嫌な思いさせる為に来たとかじゃない……」
「嫌じゃないわよ!」
 大声で怒鳴ったミサトの唇がシンジのそれで塞がれ、そのまま位置が逆転した。


 口付けを交わしたまま、しかし舌を交える事無く。ミサトはいつも寝ている布団に背を預けて天井を見上げる形になる。普段眠る直前に目にする光景で、違う所は近過ぎて何も見えなくなる位置にシンジが居る事のみ。これが日常なのか非日常なのかわからない。
 シンジに似合わない乱暴な手付きがミサトの下着をショートパンツごと剥ぎ取って下半身を曝け出させる。
「ヴっ……」
 疑似強姦のような流れにミサトは低い声を漏らして体を硬くした。
 今までに秘所へと触れてきたそれよりもだいぶ細い指が2本揃って湿った茂みを撫で上げる。
 未だ柔らかな秘芯が2つの指の腹に捕えられて、グリグリと押し付けてくる。乱暴ではないが自分勝手な指。
 こんなに高揚しているのにどこか不愉快。それでも体が素直に反応して何度も指が通過する小さな秘穴から微かに零れ出る蜜を止められない。
 人差し指が遂に性器へと侵入を試みた。
―ヌプッ
 悔しい程に愛液は分泌されているのだから抵抗は全く無い。細く穏やかな人柄を持っていそうな人差し指は爪が短いので傷付けられる事無く、膣は安心したように指を飲み込んだ。

398:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 02:08:39
 シンジの頬が甘えるように首筋に擦り寄る。くすぐったさともどかしさの交差した信号が足の指の先まで流れて動けない。
 拒みたいのか受け入れたいのか自分でもわからないので動かない。その間にもシンジの指は出し入れする距離を伸ばして、挿れる度に深くまでえぐられた。
 皮を持たない秘肉がキュウキュウと指に絡み付いてもシンジの指は止まらない。愛液が人差し指をどろどろにしたのを見計らい、1度引き抜かれる。
「ふンぅっ!」
 次いで乾いた中指を添えてまた性器が拡げられる。再びゆっくりと、爪の分しか入らない小さなピストン運動は声を止めさせてくれなかった。
 す、とシンジの体が離れる。
 熱過ぎる体が離れると同時に、珍しく涼しい部屋の風が体の上を通った。
 冷房を付けていないこの部屋がこんなに涼しいワケが無い。結局自分も興奮している。
 そう考えると益々顔が熱くなっていきも荒くなった。
―ぐに、ぐにににっ
「い、痛ッ……」
 2本に増えた指は無邪気に動いてビラビラと誘う襞を引っ掻く。爪ではなく指の先なので決して痛くはない筈だが、馴れない手付きでは何をされるのかわからず言葉が先行する。
 呻いたり痛いと言ってみたりはするが、一向に「止めて」とは言えない自分が居る、とミサトは自覚していた。
 指の動きに合わせて、寧ろそれを追いかけるように尻肉がいつも寝ているシーツの上をずり下がっていく。
 キュポン、と空気の音を立てて肉びらを引きずり出すように2本共指が抜ける。指2本分の穴が開いたそこへ、指とは大きさも太さも違う物が押し当てられた。
 ドキドキと胸が高鳴る。緊張して足の先まで力が入る。手の指なんて、しっかりとシーツを掴んでいる。

399:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 02:10:26
「んぅッ……あのぉ……」
 声を漏らしながら猫の子のように顔を擦り寄せてくるシンジ。
 セックスの最中なのに甘えられているのが可笑しいと思い、すぐに「それも1つの行為」だと気付く。声を殺す男ばかりじゃない、リードしたがる男ばかりじゃない。当たり前かもしれないが、ミサトは今この瞬間まで気付けないでいた。
「早く、挿れてっ!」
 そして早く終わらせて。
 相変わらず色の無い誘い文句しか吐けないミサトの両足が持ち上げられて広げられる。
 長いそれは局部を晒される羞恥に自ら折り曲げた。
 恥ずかしい……カエルか何かみたいな、こんなものだったかしら……?
 調子が狂うのは交わりに夢中だったあの頃からもう何年も経っているからだろう。それにおっぱじめればすぐ思い出すに違いない。
 すっかり先走りで濡れた性器は電気の灯る下で見れば淫猥に光っているのだろう。息を荒くしたシンジはそれをミサトの入り口の上、とろっとろに濡れた割れ目部分に3回擦り付けて、再び入り口へと当て直す。
―ずぷ……ずぶぶぶ……
 こんなにも蜜に濡れているのに鈍い音が響く。息苦しい。このまま窒息死してしまいそうな程に。
 最も敏感な箇所へ異物を挿れるのだから当然であり、そんな事を思う自分に違和感を覚えていたりもする。
 やがて短い距離を単調に前後するだけでも、ミサトの愛液が奥から次々に溢れてきた。
「んっ、んッ……ンッ……」
 息も声も上がってくる。何も考えていないような腰を打ち付ける音が、ミサト自身も何も考えさせなくなる。
 抜き出す際に内臓の一部がニュルリと音を立てて引き出されてしまいそうで、このまま続けられては吐き出してしまう。

400:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 02:12:40
 その焦燥感も良い。どこかの誰かと体を重ねていた時はそんな事を考える余裕なんて無かった。
 テクニックを使われるから、悔しくて自分も力を入れて。どうすれば良いか探りを入れていくのも楽しいが、今はこうしてただ互いに貪り合う方が良い。
 体の熱い部分に更に熱い物をぶつけられる。それが抉るように胎内に侵入してくる。
 否、実際に抉られている。敏感な部分は勿論、対してそうでもない部分、もどこもかしこも乱暴に何かを探すように性器が擦り付けられてくる。
―ぶちゅ、ぐちゅっ、ぎちゅっ!
 汚く派手な音女性の箇所から響いて恥ずかしい。
 この奥まで犯しきれないもどかしさがまた良い。焦らされているような、物足りないと言わされそうな、自分が淫乱だと認めさせられて刻印を押されてしまいそうな。そして自ら腰を動かしたくなる。
「ふゥ、あっ! んッ!!」
 声を殺す事を諦めたミサトは、過去に受け入れていたそれよりも幾分細くてたよりない性器がしっかり挿入っているか確かめるように膣に力を込めた。
 ある日不意に覚えた膣壁の動かし方は未だ覚えている。こうすれば男の口から少し頼りなくて愛しい声が漏れる事も。
 奥まで届かないが、それでも1番弱い所には狙ったように突き刺さる。太さも頼りない筈なのに、そのもどかしさ故に自ら締め付けてしまう。
 熱い粘液が体に響く箇所を叩いては逃げ出そうと動く。不器用ながらもどんどん激しくなる腰の動きに、目が勝手に閉じた。
「……あっ、は、あ……もう、ん……め、駄目、付けてないのに出ちゃ、あ……」
 体の上でシンジの辛そうな言葉が聞こえる。
 嫌でも比べてしまう。そしてこの状況で誰かと違って余裕が無いのは、寧ろ可愛いと思ってしまう。

401:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 02:14:21
「ナカに、出しちゃって……良いのよ? アんっ!」
 腰を掴んでくる手の力が強過ぎる。見るからにか細い子供のシンジも、こんな所は男だと主張するように。
「あ、ウぅ、ンッ!!」
―ドクン、どくどくどく……
 今まで聞いてきた低い呻きとは全く違う、どちらかといえば自分が出す部類の甘い声を大きく漏らしながら子宮までの狭い道をシンジの精が駆け上った。
「く、うゥ……」
 気持ち良い以前に熱く圧迫される感覚は苦しい。
 見えもしないのに精がどんどん奥へと流れ込み、子宮も内臓も越えて口から吐き出してしまいそうになる。
 それでもミサトの上ではまるで残尿感に苛立つようにシンジはビクビクと体を震わせて嚢の中身全てを注ぎ混んでいた。
 膣がただれそうな程熱い粘液を注がれながらミサトは上げた足の先をピクンと動かす。
「……はっ、あん……シンちゃん、早いんじゃない……?」
 回らない舌を何とか動かして出た艶っぽい軽口。
 それに答える代わりに、体重は少ないだろうが力を抜ききって重たい体が倒れ込んできた。
「僕……そのまま、出しちゃっ……」
 荒い息の合間の言葉は膣出しを詫びる言葉。……決して妊娠する事への期待も不安すらも無い。
「……良いのよ」
 性器は萎えても結合したままだが、ミサト自身は冷めきっていた。豊かな胸の少し上に乗せられたシンジの頭に手を添える。
「気にする事無いわ」
 性交も、膣内射精も、こうして甘え眠る事も。
 シンジはミサトの返事を待たず眠りに落ちた。規則正しい寝息がくすぐったく、触れ合う汗ばんだ胸の上下も心地良い。
「どうせ出来やしないし、出来たら……嬉しいわ」

402:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 02:16:25
 たっぷりと子宮を埋め尽した精液は早々に逆流を始めて2人の繋がる箇所をミサトの内側から溢れようとしている。
 もう少し収まっていれば良いのに。どうせ何も変わらないんでしょうけど。
 自嘲の笑みを浮かべたミサトは2人分の体重に苦しみながら体を起こし、今まで自分がしていたように眠ったシンジを布団の上へ寝かせた。
 暑い夜にうなされて寝汗をかいたような、どこか疲れきったシンジの寝顔。
 汗張り付いた短い前髪を上げてその寝顔を覗く役割は母親ではない自分でも許されるだろうか。
「何だか、ね」
 早く眠らせる為にしてみた筈なのに、こうも簡単に終わってしまうのは味気無い。
 よいしょ、と心の中で―そのまま口から出ていた気もするが考えずに―呟いてミサトは立ち上がる。
 低い天井。普段自分が生活している自分だけの部屋。
 いつもと違う所といえば、色々な匂いが入り混じって鼻をつく所位。
 汗と精液と愛液がミサトの太股を流れ落ち、その匂いが部屋に充満している。嫌いな匂いとは言わないが、冷めた今では好きともいえない。
 ふと手を自分の下腹部に当てる。
 触れただけで宿った事がわかるとは思えないが、それでも今回もまた何も得られなかったのがわかった。


 汚い部屋の中で更に汚い机の上の唯一綺麗なティッシュを取る。
 局部を拭いて、もう1枚取って額や胸の谷間等の汗を拭く。ゴミ箱は遠かったので後で捨てようとそのまま足元に落とした。
 明らかに行為の後だと思われるだろうが、一応最後の抵抗に桃色のTシャツを引っ張り出して被った。ボトムも洗濯に出し忘れたハーフパンツが有るので履いておく。

403:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 02:18:23
 下着も履き替えようと思ったが、面倒なので今履いていた物のままにした。
 どんな顔で加持と向き合うか。
 なんて考えていればずっと出られなくなるので、考える前にフスマを引いてリビングへ出る。
「加持……」
 当然といえば当然、加持は酔い潰れて眠っていたりはしなかった。
 テーブルの上の酒瓶は虚しい位に空で、つまみ類もちらほらとしか残っていない。
「もう残ってないぞ」
 どこか不機嫌そうな声音が怖い。
「何? 買ってこいっての?」
「いや……飲みきって悪かったな、と思って」
 遠回しに遅かった事を指摘しているのだろうか? だとしたら、それ程頭が回るのなら、今のミサトの姿が何をした後かはすぐにわかるだろう。
「何、してたの?」
 聞かれるより先に聞いてみる。
 飲み終えていたのかはわからないが、口にする物が無くなってからどうしていたのか。
「……いつの事を聞きたい?」
 しかし加持は勘違いをしたらしい。心やましい事が有るからだろうか。
「葛城になら何でも話してやるさ」
「嘘」素早く否定して目を反らし「別にアンタの嘘なんか聞きたくないわよ」
「ま、話す義務は無いしな。俺も聞く権利を持ち合わせていないし。……今は」
 ふざけているのか今更本気で口説きたいのか。焦点は捉えているのに酒の所為で充血した目ではよくわからない。
「話したいってんなら聞いてやるわよ?」
 ならば冗談で片付けてしまおう。どうせ酒の勢い、明日になって目を覚ませば忘れている。
 きっと、シンジも明日にはけろっと忘れてくれている筈だ。
 都合の良い事だけを考えながらミサトはいつもの自分の席―アスカの席に居る加持から見れば斜め前―に座る。

404:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 02:20:34
「じゃあ話すか。……シンジ君の事でも」
 一瞬嫌味か? と思ったが、そうではないらしい。赤く濁った目はどこか真剣だ。
「アンタが何知ってるってのよ」
 同居して、仕事の面でも直属の上司である自分より知る事は無い筈。
 その自信を遮って加持は呟く。
「よくわからない所への出入りが激しいみたいだ。……って事は知ってるか」
 まぁね、とだけ返す。確かにここ数ヶ月週末は家に居ない。出るようになり始めた頃からの「友人の家に泊まりに行く」は、もういい加減通用していない。
 今日だって、今こそミサトの部屋で寝息を立てているが、本来なら嘘を吐いてどこかへ出掛けていったのだった。
「何やってるか、アンタ知ってるの?」
「……いや、俺は余り知らない方だよ」
 軽い笑いを浮かべているのは知らない自分を自嘲しているのでも、知らなさそうなミサトを嘲っているのでもない。
「お前が勘違いしているか真実を見ているかは知らないが、止める権利は俺にはない。代わりにお前には有る。シンジ君はきっと、切っ掛けが無ければ始めもしないし辞めもしないだろう」
 加持は空になった菓子の袋の下から煙草を取り出す。残り2本の内の1つを唇に銜え、貼り付けた状態で言葉を続ける。
「そういやリッちゃんが詳しく知ってるみたいだったな」
「え!?」
 思わず声が引っ繰り返った。
「行き先が毎回リッちゃんの所だったら逆に安心出来るな」
「何でリツコは止めないのよ?」
「いやはや、赤木博士の立場は諜報部よりもずっと上だな。って、そりゃ当然か。な? もっと上の三佐殿」
「ねぇ」
 ポケットの中から漸く探り当てたライターで煙草に火をつける。副流煙は風が無く蒸している部屋をぼんやりとただ上っていく。

405:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 09:35:27
 対して白くならない煙を見ていると、自分も吸いたくなってしまう。普段は臭くて体に悪い物にしか見えないのに。
「ねぇ!」
「まぁそう苛立つな。1本どうだ?」
 途端、ミサトは黙り込む。
 欲しい。だが、欲しいとは言えない。まるで麻薬から足を洗ったばかりの人間が出来心を主張している瞬間の様な心境。
「……子供にだってきちんとした理由が必要だ。悪い事をしたからと頭ごなしに叱る、それだけじゃ駄目だ。シンジ君が俺の知ってる通りの子供なら怒鳴り付ければ同じ事はしなくなるだろうが、それは解決にならない」
「叱っちゃ駄目、怒っちゃ駄目って事?」
「そうじゃない、理由が必要なだけだ」
 煙草の煙をくゆらせながら控えめな声量で続けた。
 例えば今まで口を付けていたグラスをシンジが意図的に割ったとして。その場で叱ればもう2度と割らなくなるだろう。
 何故割らなくなるか。怒られるのが怖いから。
 それだけではいけない。教育論を振り翳すつもりも、そのまま政治の世界にまで飛び込むつもりも一切無いが、子供を育てる―敢えて加持は面倒を見る、という言葉を使っていたが―のなら「何故割ってはいけないか」を説明しなくてはならない。
 グラスが高いから。思い出の品だから。2つで1つのセットだから。贈り主が悲しむから。割れた破片で手を怪我するから。掃除をするのが面倒だから。
 本当の理由を探せば哲学的な話に広がって怒っている方も意味がわからなくなってしまいかねない。が、だからと言って取り敢えず声を大きくしておけば良いというのは有り得ない。
 やがて自分なりの理由を見つけられれば、グラスを割ってはいけないと認識する。そしてそれを他の人にも伝えられる。

406:孔雀 ◆nULfbdzH0k
07/06/02 09:37:38
 シンジの消極性を見ると他者が割る所を止められそうにないが、と軽口を叩いて加持の煙草は空のビール缶の中に落とされた。
「シンジ君がしてる事を、お前はきちんと叱ってやれるか?」
「……叱って、やれるわよ」
 自信は、今は未だ余り無いが。
「リッちゃんは叱れなかった。それだけだろう」
「でも! ……そうね。何かアンタの長い話、疲れるわ」
「そりゃ悪い」
 ミサトは机の上に突っ伏した。コンビニの買い物袋が嵩張る音を立てる。
「アンタ今日泊まってくんでしょ?」
「泊まってって欲しい?」
「馬鹿。ベロンベロンに酔っ払って運転したら捕まるわよ」
「てっきり代行タクシー呼んで帰れって言われるかと思ったんだが」
「思っちゃないでしょ」
 ははは、と短く笑う。どうせこの笑いは適当に濁そうとする、つまりは肯定の笑いだ。
「どこで寝るつもりよ? 私の部屋の布団、シンジ君が占領してるからね」
「部屋に泊めてくれるつもりだったのか?」
「帰れ」
 ぷいっと顔を背けるように横に動かして頬を机に押し付ける。無機質にひんやりとしたテーブルが酒と情事で火照りに火照った頬に気持ち良い。
「そこの座椅子伸ばしても良いし、別に床の上に寝たって良いさ」
「風邪引かないように腹にシャツかけてあげるわ」
「ついでに添い寝してくれたら良い夢が見られそうだな」
「やっぱり帰れ」
 しかしミサト自身も眠る布団は無い。参った……と思いながら目を閉じると、急に世界が真っ白く染まる。
 絶対に気の所為なのに、戸1枚隔てた自室からシンジの寝息が聞こえてきた。


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