07/08/29 20:13:11
>>443
古畑がレイの部屋を訪ねていたその頃、現場では今泉が密室を解明すべく捜査を続けて
いた。実は古畑や今泉よりも前から現場にいた向島がそれを手伝っている。後から応援に
駆けつけた西園寺は、すでに聞き込み捜査に出掛けており、ここにはいない。
「今泉さん、本気でやるんですか?」
向島が今泉にそう問いかけた。向島は警官の制服姿で、その手にはロープを握っている。
ロープを辿っていくと、ダストシューターの前で背広を脱いだ今泉の胴体に行き着く。今
泉はロープを腹に巻きつけ、腕まくりし、靴下を脱いで裸足になっている。
「向島君、信じてるよ」
今泉は古畑がいなくなった後も現場で「密室」と格闘し、やはりダストシューターから
脱出したとしか思えない、と結論していた。そして実際に脱出できるかどうかを今、実験
しようとしていたところである。
実験にあたり、21階の住人の協力を得た。22階の犯行現場の真下に当たる部屋に住
んでいる人である。実験は、犯行現場のダストシューターから内部に入り、1階下の部屋
のダストシューターから脱出するというものである。そのため、出口となるダストシュー
ターはあらかじめ蓋を開けておかなければならず、そのための協力である。
当初、向島はその実験に反対した。今泉が何の道具も使わずにダストシューターの中に
入ろうとしたからである。足場になったり、掴めるような凸凹が無いダストシューター内
部に、徒手空拳で入るのは無謀だと主張したのだ。そこで、ロープが登場した。今泉の胴
体にロープを巻き、向島がその一端を掴んで、今泉滑落に備えるのである。
「じゃ、行ってくるよ」
今泉は躊躇いを振り切るのに十分な時間を使った。何度もダストシューターの蓋を開け
閉めし、向島と役回りの交替を申し出たりしたのだ。ようやく迷いが無くなると、足から
蓋の中に入れていき、垂直に切り立つ穴の中に身を投じた。