07/08/25 10:44:32
古畑がアルバムをレイに返す。
「えー、お時間取らせましたぁ。そろそろお暇します」
古畑が立ち上がる。テーブルを片付けようとするレイを制して、自分でテーブルを裏返
し、脚を折りたたみ、元の場所に戻した。
「今日はずっとこちらにいらっしゃるんですか?」
「命令次第ね」
「そうですか。では」
革靴を履き、ドアノブに手を掛けて外に出ようとする古畑。それを呼び止めたのはレイ
の声だった。
「古畑さん」
部屋の中を振り返る古畑。レイは光溢れる窓を背負って、古畑と向き合っていた。影と
なったその顔面の、2つの赤い瞳が古畑を見つめていた。
「ミネラルウォーター」
「ミネラルウォーター?」
「そう。司令は料理するとき、水道水を使わないの」
微かに笑っている赤い瞳。
「えー、しかし、料理の前には手を洗います。その時はさすがに……」
「その時もミネラルウォーターよ」
レイの小さな唇が言っているのは、蛇口の指紋のことだった。
「私が司令と一緒に食事をするときは、全部、私が食器を洗うの」
「つまり、蛇口に指紋がついたのは、昨夜ではなく、それ以前だと。そして、それ以降、
司令は蛇口をたまたま捻らなかった。だから、いま蛇口にあなたの指紋が残っている、と
おっしゃりたいのですね?」
コクリ、と頷くレイ。
「ありがとうございました、参考になりました」
古畑は会釈をして、外に出る。
厳しい顔つきのまま、憎々しげに夏の日差しを見上げ、舌打ちを一つ鳴らした。
事件編その2ここまで