07/05/16 22:49:27 l1d+H7CY
>>910
「もうここに来る理由もねぇな……」
二年間通った校門を屋上から眺めるのもこれで最後か、桜舞う通学路を帰る彼女の隣にはアイツがいる。
初めはスカした嫌なヤローだと思ってた、ましてや彼女の想い人、敵以外の何でもなかった。
「でもよ……アイツが居なきゃきっと辞めてたよ……漫画……」
まさかテメェの恋敵が好きな漫画家だなんて思わねぇだろ、だってよ、それこそ漫画みてぇだろ。
だからアイツに負けたくねぇ、見返してぇと思って頑張れた。
勿論一番は彼女の為だった。
色々あって漫画もあの子も諦めてどっかに消えちまおうて思ってた。
やっぱ諦めたくなかった。
でもよ、今更どうすりゃ良い?
お嬢を振ろうとすりゃ、俺の独りよがり、彼女が俺の為に漫画書いてくれたと思えば漫画家目指すって言われるし。
学校にゃやっぱ戻れねぇ、漫画だって今更書いた所であの編集長が許してくれるわけがねぇ。
「でも、アイツが言ったんだ『諦めたら終わりだ』って」
原稿書く為に部屋まで貸してくれた、プロとしてアドバイスもくれた、編集長にかけあってもくれた。
「新連載も何とか間に合った。全部アイツのお陰だよ」
きっと大丈夫、俺はこれからも漫画家としてやってける。
彼女の事はきっとアイツが大事にしてくれる。
あの最高の笑顔をアイツは守ってくる。
「ここに来る理由なんてもうねぇよ、来ねぇ方がアイツらの為だろ」
もう一度二人を眺める。
早咲きの桜はその身を削りながらアイツらをピンク色に染める、まるで春の妖精たちに祝福されてるみてぇだ。
そう、アイツらの側に俺のいる場所なんざねぇ、いや、居ちゃいけねぇ。
あの子への想いを抱えたままアイツらと友達でいられるほど俺は器用じゃねぇ。
きっと悲しませる、きっと傷つける、俺の大切な人を。
「だから、もう来ねぇ方がいい、いやこの町から居なくなった方が……」
お互いの為だろ……。
「それでまた君は逃げるのかい?」
振り返ったそこには、一番面倒なヤツが居やがった。
長い黒髪は夕日に染まって、まるで燃えてるみてぇだ。
「そんなんじゃねぇ、第一厄介者が居なくなって嬉しんだろ?」
コイツとこれ以上話す事はねぇ、どうせ一通りからかわれて終わりだ。
さっさと帰る、それが一番だろ。
足早に屋上を出ようとドアに手を伸ばそうとしたとき、
「君はまた私の前から居なくなるのかい?」
聞いたことの無い声、間違いないアイツの声だ。
でも俺はこんな声は知らねぇ。
「結局君にとって全てが彼女の為かい?それ以外はどうでも良いのかい?」
怒っている訳じゃねぇ。大体怒っていりゃ俺は今頃蜂の巣だ。
どうもオカシイ、何企んでやがる。
「何故、何も言わない。それとももう私とは話す事も無いのかね?」
こりゃ間違いねぇ、そう最後までからかわれちゃたまんねぇ。どうせ最後だ、今までも分も込めてやり返しておくか。
そう、ここで嫌われりゃもっと楽にココから居なくなれるしよ。
「おう、絃子いつまでも……」
振り返った先には俺の知らねぇ女が居やがった。
いや、間違いなく絃子だ。
でもよ、こんな絃子、俺は知らねぇ。
「私は君にとってどうでもいい存在かい、私との生活は窮屈なだけかい」
赤く染まった頬を静かに一筋、涙を流しながら彼女は言う。
静かに、静かに、じっと俺を睨み付けながら、ただ淡々と話す。
「私は君との生活が楽しかったよ、君にとってはそれすら迷惑かね」
余りにも夕日に溶け込んで、ここから消えちまいそうな絃子。
俺を睨んでいた目は悲しげで、睨まれてる方が百倍、いや千倍マシだった。
さんざん世話になったイトコを最後の最後で泣かせちまった。
「私は……一緒居たい……下らない話で笑って……君をからかって、困らせて……」
自然と体が動いてた。
気がついたら絃子を
こうですか?わかりません