07/05/13 23:48:35 jae4boRu
>>814
「……まだ帰って来てないか……」
元々生活感の薄い部屋は住人がたった一人居なくなっただけでがらりと雰囲気が変わってしまった。
「君が鍵も持たずに出て行ったから毎日戸締りも出来ずに出かけているのだぞ……」
誰も居ないリビングでここに居ない彼へ愚痴ってみてもなんら変わらない事は分かっているのだが、
気がつくと彼への恨み言が口から紡がれる。
こうやって口にしなくてはここに居ない彼がこの世界から居なくなるんじゃないか?
そんな子供じみた考えが頭から離れない。
「くくく……これではまるで恋人が行方不明にでもなってオロオロしているようではないか」
そんな自分を嘲笑った所で自分の気持ちを誤魔化す事はとても出来そうにない。
こんなにも彼がここで生活していた事が自分にとってどれだけ大切だったか、今更に気づかされる。
「こうなると……高野にでも頼むしか……いや、彼女に弱みを見せるわけには……」
自分で探せる範囲は探した、しかしここ数日は同じ場所をグルグルと周るだけ。
どうやら自分でも驚く程、頭が働いていないようだ。
サングラスをかけた男が全部彼に見えてくる。
長髪で髭を生やした男が全部彼に見えてくる。
「いい加減に何かあると姿をくらますのは止めてくれないか……」
彼の予備のサングラスを睨み付けながら言ったが彼に届くわけがない。
「早く帰って来てくれないか……拳児くん……」
今日も深酒しなければ寝れそうにないな。
って感じに心配してるはずさ、絃子さんは