07/11/06 01:59:24 pKYrHHQM
少々待つと、ピピピピ、と体温の計測が終了したことを告げる電子音が鳴り響き、俺は再びハルヒのセーラー服の裾から手を差し入れ体温計を取り出し、デジタル表示を読んだ。
「氷枕出来たわ。熱はどう?」
俺は無言で先生に体温計を渡し、代わりに氷枕を受け取り、ハルヒの頭の下に敷いた。
「まあ、三十九度八分もあるじゃない。この子、朝からこんなだった?」
「どうでしょう、俺は気付きませんでした」
「薬、一応あるけどその様子じゃ飲むのも大変そうね。起きたら出すから、教えて」
そう言って先生はカーテンを引いた。ベッドにハルヒと、傍らに俺だけが残された。
ハルヒは氷枕で多少楽になったらしく、先程までよりは苦しそうではなくなった。
「……キョン?」
「ハルヒ、気が付いたか?」
「ここ、どこ?」
ハルヒの声は今まで聞いたことが無いほどか細かった。
「保健室だよ。俺が連れてきてやったんだ。感謝しろよ」
「誰も頼んでないわよ」
「おや? お前はさっきうわ言で散々俺に助けを乞うてたんだぜ。自分で覚えてないのか?」
「……ウソだ」
「残念ながら本当だな」
ハルヒは毛布を引っ張り顔の半分まで被ってしまった。
「じゃあ、俺、授業に戻るわ」
「あっ……」
「何だ?」
「……ううん、何でもない」
「じゃあな」
「やっぱり待って、キョン」
「何なんだよ」
「て……」
「なに?」
「手を……握って。一人だと、心細いの」
迂闊にもドキッとしてしまったことをここに告白する。かつてないほど弱ったハルヒの口から飛び出た、ハルヒらしからぬ弱気な一言。
俺は再びハルヒの傍らに腰掛け、その手を握った。
沈黙の時間が流れる。長いのか短いのかもわからない。
「ごめんね」
「ん?」
「今度は、あたしが心配かける側になっちゃった……」
一瞬、意味を把握しかねた。俺がハルヒに心配をかけたこと?
「十二月か」
ハルヒは、長門のように、わずかな角度で頷いた。
「そうだよな、あの時は心配させた。もし、お前が入院することになったら、俺が三日三晩付き添ってやるよ」
「ほんとに?」
「ああ」
「ふふ……キョン、優しい」
本当に今日のハルヒはどうしたんだ? まるで、あの世界の長門みたいな変貌ぶりじゃないか。また宇宙的な何かが起こってるんじゃないだろうな。そして、そんなハルヒを俺は―はっきり言おう。
かなり可愛いと思った。
「キョンの手、あったかい……」
授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。休み時間になり、にわかに廊下が騒がしくなる。
「俺、次の授業に出なきゃ」
「……やだ」
「やだってなあ、お前……」
「後であたしが補習してあげるわよ」
「休んだお前がどうやって補習するんだ」
「あたしはちゃんと予習してるもん」
「やれやれ……」
「ありがとう、キョン……」
熱で力が込められないハルヒに握られた手を、俺はどうしても振りほどくことが出来なかった。