07/11/01 01:30:32 p1K5CbSy
「ちょっとキョン!これどういうことよ!」
目前5センチでハルヒが怒鳴る。唾が飛ぶのは狙ってやってるのかこいつは。
たいしたことのない内容なのだがなぜ俺だけ標的にされるのだろうか。
古泉はうまいこと立ち回るし朝比奈さんはそのドジが既に役回りであり長門はそもそもミスなどしない。
であるからこそ俺だけが貧乏くじを引くことになるわけだ。もう慣れたがな。
「聞いてるの!?」
この脳天を直撃せんばかりのキンキン声を間近で受けている俺に後遺症が出ないか心配になる。
もし何かあったら慰謝料を請求してやろうと思うものの今現在の状況がどうにかなるわけでもない。
わめくハルヒを見ていると古泉の言っていたことを思い出す。
「涼宮さんは猫のようですね。気高く孤高で他人になびかない」
当時は何言ってやがると思ったが、今も何言ってやがると思うね。
だいたい猫はそうそう鳴かないものではなかろうか。
まあうちのシャミセンがわりと特殊であるのを認めるにしてもここまで騒ぐ猫などいないだろう。
もしいたとしたってこんなにニャーニャーうるさい猫など願い下げだ。
こんな想像は言うまでもなく現実逃避に過ぎない。トリップと言っても問題ない。
仕方ないだろう。目の前で騒いでいる女を止める方法はなく、なるようになれが俺の信条だ。
誰でも目の前の嫌な現実からは目を背けてしまうものさ。
だから目の前のハルヒにネコ耳が生えているように見えたのも仕方ない。
さらにネコを勝っている俺がいつもの癖で頭を撫でてしまうのだって仕方ないことなのだ。
「な…う、何すんのよ!」
正気に戻った今となっては己の愚行を悔いて地獄の釜で焼かれてしまいたいなどと思うが時間を戻せないのは悠久に続くこの地球上での絶対的ルールなわけで反省だけならサルでもできるというわけだ。
獣にできることをわざわざ人間様がする理由もないのでアレンジを加えてみるとしよう。
「わかったわかった」
そう言ってハルヒの頭を撫で続けることにした。
はい、地雷確定。誰かメディック呼んでこい。
だが仲間であるはずのSOS団他3名はまるで他人のふりだ。ああ無常、レ・ミゼラブル。
自分を棚に上げて自業自得の自爆の誤爆をなんとかごまかそうと試みる。
ごまかせるのは自分の心だけ。そんな嘘では他人なんて騙せやしない。
などというまるで中学生の書いた小説の一文のごとき台詞も目の前でブルブルと震えているハルヒには何の効果もない。
こちらの意図がなんにせよ怒り心頭のご様子。その意図が何だったのか自分でも思い出せないのは致命的だ。
ここまできたら回れ右したところで前門にハルヒ後門にハルヒで逃げ道などあろうはずもない。
ならせめて撫で心地でも楽しもう。
ハルヒの頭を撫でる。具体的にはシャミセンがゴロゴロと喉を鳴らすような優しさで。
いい撫で心地だ。天然物のシャミセンにだって負けてない。まあハルヒの髪も天然物なのだが。
「いつまで触って…!」
「お前の髪は撫でてて気持ちいいな」
シャミセン的な意味でとつけくわえるのは心の中だけにしておこう。
さすがにネコと同じ扱いをされるのはいくらハルヒでも不満だろうしな。
「え…」
「本当だぞ」
ハルヒとはいえ外面は美少女なわけでその髪を触っているとなると少しばかり邪な気持ちがないこともない。
俺だって出来れば朝比奈さんの頭を撫でたいさ。でも成り行き上こうなってしまったのだから仕方ない。
どうせハルヒが怒り出すまでの幸福だ。などと思っているとなぜだかハルヒがおとなしい。
心なしか顔を赤くしながら俯いている。
もしや古泉の言うとおりハルヒはネコっぽいのかもしれない。シャミセンも撫でてるとおとなしいしな。
傍目にはむっつりと黙り込んで機嫌の悪そうなハルヒが実はネコが喉を鳴らすくらい喜んでいると想像すると実に楽しい。
まあ本当のところは怒りのあまり逆にどうしていいかわからないといったところだろう。俺の命はあと何日何時間何分何秒だろう。
「なんだかネコみたいだな。飼ったらさぞ大変だろう」
「な、か、飼うって…!」
あまりの侮辱にハルヒの顔が真っ赤に染まる。俺の命のカウントの何日部分はなくなったかもしれない。
つまりこの時間は人生のロスタイム。和風に言えば余生というところだろうか。
先立つ不幸をお許しください。息子はハルヒにとって食われます。
結局ハルヒは何もしてこず撫で得ではあったが心臓に悪かったのでトントンというところだろう。
その後も何度か撫でてみたもののその都度ハルヒは怒鳴りこそしないものの顔を真っ赤にして怒っていた。
あんなに赤くしてたら大変だな、と思うくらいに。