07/08/29 00:23:16 kEB82zSp
たぶん歩くのは早いほうだと思う。
町を歩けば何人も追い抜かすし、他人に対して何でこんなに歩くのが遅いのよ、と心の中で罵った事もある。
だからあたしにとって他人は邪魔なものだった。
だから一緒に他人と歩くなんて嫌だった。
その分あたしが歩くのも遅くなって損をすると思っていたから。
キョンもそうだった。
遅いから引っ張ってでもついてこさせた。
あたし一人だったらもっと早いのに。
でもキョンをついてこさせたかった。なんでだろう
引っ張るにしろ引っ張らないにしろキョンはいつもあたしの後ろを歩く。
なんだかんだでちゃんとついてくるのはキョンも嫌じゃないからだろう。
キョンは素直じゃないところがあるみたい。
あたしに感謝すべきよね。
あまりキョンのことを引っ張らなくなった。
「キョンついて来なさい」とだけ言い歩く。
あたしはめったに振り向かない。
きっとキョンはついてきてるって思うから。
でも時々不安になることもある。
そんなときは足を止める。
「っと、どうしたハルヒ」
驚いて立ち止まるキョン。うん、大丈夫。
今あたしはSOS団のみんなを引き連れて歩いてる。
みんなと歩幅をあわせてゆっくりと下校。
今日もすごく楽しかった。
あんなに早く歩いていても楽しいことなんて見つからなかったのに、今はみんなで話しながらゆっくりと歩くことが楽しい。
「涼宮は変わったな」
なんて知らない声が聞こえた。どういう意図かはわからない。
でも前より楽しいってことは何か変わったんだと思う。
キョンと二人で歩いてる。
どっちに合わすということもなく自然に同じ歩幅。
いつからこんなことができるようになったんだろう。
きっとキョンに会ってから、キョンと一緒にいるようになってから。
二人で歩くと遅いほうに合わせるので効率が落ちるなんて言ったのは誰だったか。
その言葉がつまらない人生を送っている人の言葉に思える。
いくら早く歩いたって見つからないものがたくさんあった。
でもゆっくり歩いて見つかったものがたくさんあった。
このSOS団のみんなはきっとあたしの一生の中でもかけがえのないものだろうって思う。
時々みんながバラバラになることを想像して怖くなる。
永遠なんてないってわかってる。それでもずっとこのままでいたかった。
「何ぼーっとしてるんだ」
キョンの声で我に返る。
「あぶなっかしいな」
反論しようとしたら手を握られた。
「転んで怪我でもされたら困るんでな」
キョンの手は大きくて暖かかった。
前言撤回。あたし達はバラバラになんてならない。少なくともキョンはあたしのそばにいてくれる。
だったら、あたしたち二人だったらきっとみんなを見つけられる。そう、信じられる。
「なんだニヤニヤして、いいことでもあったか?」
「そうね、キョンが手繋いでくれたわ」
「な…!」
顔を背けるキョン。ああキョンってこういうのに弱いんだ。一緒に歩くといろんなものが見つかる。
だから歩こう。キョンと一緒に。みんなと一緒に。