【涼宮ハルヒ】佐々木とくっくっ part14【変な女】at ANICHARA2
【涼宮ハルヒ】佐々木とくっくっ part14【変な女】 - 暇つぶし2ch748:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/19 04:03:28 tIR8xv41
車輪の唄

 二月の朝は寒い。世界は凍り付いており、口は煙突みたいに真っ白な煙をもくもくとはき出した。
 俺はそんな中、ふたり乗りの自転車をとばしていた。風を切り裂く自転車、寒風に凍り付く顔、
そして背中にはかすかなぬくもり。 佐々木の体温が告げるぬくもりを俺は感じていた。
「しかし、キョン。こんな朝早くからすまないね」
 いい。俺が勝手にやっていることだ。
「まさか、キミが僕の家の前で待っててくれるなんてね。今日帰宅したら両親になんと言おうかな?」
 別に、どうでもいいだろ、お前は今日の試験のことだけ気にしてろよ。お前を駅まで運ぶのは
俺の日課みたいなものだ。ましてや今日はお前の第一志望の受験日ではないか。お前には
いろいろ世話になったからな。せめてもの恩返しだよ。
「ふぅむ、持つべき物は友情、だね」
 佐々木は何かを確かめるように、そう言った。
 気合いを入れてペダルを踏み込む。赤いママチャリは重量オーバーにギシギシと悲鳴を上げる。
線路沿いの上り坂を佐々木を乗せて駆け上がる。いつものラストスパート。
「さぁ、気合いだよ、キョン。もうちょっと、あと少し」
 いつものように、佐々木は俺を応援する。今日は俺がお前を応援しに来たんだがな。
だが、その声に励まされて、自転車は俺たちふたりを坂の上に押し上げる。
 いきなり視界に広がる街には、動くものはほとんど見あたらない。正面の空は朝焼け、オレンジ
の空と紫に彩られた雲が俺たちを迎えた。
「街はまだ寝ている。あの朝日は僕たちのために昇る」
 あ、ああ。芝居がかった佐々木のセリフへに生返事を返し、俺は乱れた呼吸を整えていた。
 なぜだろう。朝日が染みた。いつもより、多めの汗が流れた。

 券売機で、佐々木が買う切符を見ていた。往復するだけで小遣いが結構な割合で吹き飛ぶような
遠くの街まで、佐々木はこれから毎日、通っていく。その金額がこれから俺たちの間に開く距離だ。
 改札口で、佐々木は振り返った。
「送ってくれてありがとう。助かったよ」
 そういって、右手を差し出す。その手をそっと握った。
「大丈夫。お前はきっと受かるよ」
 どうしようもなく、こんなことしか言えない自分がもどかしい。
「うん、ありがとう」
 そう言って、佐々木は手を離した。そして、もう振り返ることはなかった。


 動き出す街を見ながら、身を切るような風の中、自転車を走らせる。
 佐々木を乗せた電車が追い抜いていく。

 自転車が電車を追い越せるはずもない。それでも俺は走らせていた。
 なぜなのだろう。俺は佐々木が泣いているような気がしていたのだ。
 あいつはこれからもっと遠くに行くだろう。
 俺のような凡人ではたどり着けないような場所にああいう優秀な人間は進んでいく、
進んでいくことを求められるのだ。
「すまないな、佐々木」
 俺はひとりつぶやいた。
 自転車の車輪が答えるようにギシリと鳴った。


 というわけで、BumpofChickenで『車輪の唄』でした。



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