07/07/17 01:03:31 +c4JFooy
>>548
な、なんだ(ry
551:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 01:09:45 uqR3MnHs
>>529
ぜんぜん心当たりがないので親切なほかの人を待つでござる。
佐々木さんポニーに再挑戦の巻
佐々木「中学時代の苦い思い出を踏まえ、
きちんと髪を伸ばしてからポニーにしようと思ったんだ」
橘「そうなのですか」
佐々木「でも、涼宮さんが無理やりポニーにしたという情報を妹さんから入手したので、
とりあえずウイッグで仮ポニーにして偵察してこようと思ったの」
橘「いわゆるヅラって奴ですね……ごめんなさいごめんなさい、睨まないでください」
佐々木「でも、それでは今までと変わらないと私は気づいたんだ。
おそらく私のシミュレートでは、キョンは髪型を変えても、気づかないか、
似合わないと言下に切り捨てられるかしかありえない。
ここはまず、慎重な偵察の上で、キョンにうまく髪型を意識させる
最善のタイミングを選ぶべきだと考え直したんだ」
藤原「なにをくだらないことでシミュレートなどと……ああごめんなさい!
それは癖になるからやめて!」
九曜「--ポンジーは、いい声で鳴く--」
佐々木「やあキョン……、キョン? どうしたんだね。まるっきり上の空じゃないか」
キョン「おお佐々木か、すまんすまん。
最近な、SOS団で妙なイメチェンが流行っててな。そのことを考えてた」
佐々木「イメチェン?」
キョン「ああ。長門がこの前、突然メガネを掛けてきたんだ。何かあったのかと聞いたら、
『……気分転換』とか答えるもんだから、まあそれはそれで人間ぽくっていいことだ、
って答えたら、なんか一日返事をしてくれなくってな」
佐々木「……へえ」
キョン「ところがそれを見たハルヒが、何故か突然翌日からあの髪をショートポニーに
無理やり変えてきて、「イメチェンよ!」とか怒鳴るんだよ、こっちが何も聞かないうちに」
佐々木「……そのせいか」
キョン「あいつが誤解してるようだから、お前はポニーテールの奥深さを分かってない、
って説明してやったら、何故かここ数日やたら不機嫌で活動も休止なんだ。
おまけに古泉も学校休んでるし」
佐々木「……君という奴は」
キョン「挙句に朝比奈さんも、何故か最近メイドルックやめて、朝比奈さん(大)みたいな
妙に胸元が開けたシャツ着るんだよな。『暑くなってきましたから』って。
まあ、こちらとしては正直嬉しいが、目のやり場に困るんだよな。
なあ佐々木、最近女子の間でそーゆーイメチェンって流行ってるのかね?」
佐々木「…………」
橘「佐々木さん!? いくらなんでもウイッグにメガネに豊胸パッドを一度にやるのは、
どこから見ても異様だと思います! 特に最後のがムリありすぎです! 何枚重ねてるんですか」
佐々木「わかってる! 自分でもわかっちゃいるんだよ!
でも、SOS団が自爆覚悟でああも積極的に攻勢に出ている以上、
私も何かしなきゃならないじゃないか」
橘「さ、佐々木さんが血の涙を……」
552:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 01:13:19 HF7ZhQ+L
>>529
あーと、それ個人サイトさんだよ。ここに貼っていいのか? よく出没する方なのだけれど…。
名前ならいいかな? 「あるたな」でぐぐーる。
553:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 01:18:33 A2Hk+ZKg
>>551
カオスすぎるw
最近フラグクラッシャーのせいで
物凄い苦労している古泉に萌えてきた。
554:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 01:18:58 HF7ZhQ+L
ごめん。全然違った。すみません。
555:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 02:17:39 7guEoRWS
佐々木「ファイズ!」
556:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 02:47:35 tRB+ia2R
>>何枚重ねてるんですか
ギャハアアアwwww
557:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 03:09:27 eTzBeKCq
↑のテンションにワロス
さすがきょこたんw
558:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 04:33:05 i/NglcEE
2-441 参照でみんな幸せになれ
あのまとめは全文検索なくて、あてにならんgoogleしか無いからねー
559:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 10:14:07 X7mHwq3e
保管庫更新マダー?
560:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 10:43:13 /Eu6u1zV
保管庫をwikiに移行したほうがよくないかい?
少なくとも中の人の負担は減る(可能性がある)と思うのだが。
561:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 11:18:23 RUQCcQ3E
URLリンク(www.odnir.com)
562:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 12:14:07 TKa4fvry
wikiにしても人任せで荒廃するよ
563:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 12:28:30 Dv6dUuBv
>>562
一人に任せるよりはいいだろ…。
564:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 12:36:34 ziqqL57v
>>551
神人出ないのに古泉より大変そうだな橘www
565:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 13:13:34 kG9FMCX6
需要薄いかも知らないが
自由気ままに気に入った現代のテレビゲームを遊び倒すパンジー
皆にマスコット扱いされる九曜
オフレコでは素直で良い子な橘
一人部屋の隅で静かに読書する佐々木
ホント裏佐々木団は天国だぜ!フーハハハ!
反省はしていない。
566:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 13:37:48 ziqqL57v
神パワーの入れ替えに成功したため
裏SOS団各メンバーの配置が変更になりました。
橘「○○高校から転入してきました、橘京子です!
よろしくお願いしまーす!!」
男子一同「うおおおおお!!かっわいいいいい!!」
担任「……あ、あの、九曜さん?自己紹介を……」
九曜「―」
担任「ひっ!え、あ、ごごごめんなさい!別に無理に」
九曜「―九曜―周防―」
一同(……いや、先生に向かって言われても……。というかどっちが苗字なの……)
九曜「ここは―時間と―空気が―違って―」
担任「ごごごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
担任「えー、このたび我がクラスに転校してきた」
藤原「藤原だ。以上」
ザワザワザワザワ
(え、なに、ダ、ダブリ……?)
(ど、どう見ても大学生以上でしょ……なに平然と学生服着てるの?)
橘「……というわけで、配置変更はつつがなく終了したのです。
あらためてよろしくお願いしますね、佐々木さん!」
佐々木「うん……。でも、あの、キョンは……?」
橘「転入試験で落とされました」
佐々木「うおおおおおおおお!!それ一番大事なのにィィィイィィッ!!」
567:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 14:02:42 vcyt8MjO
佐々木はダメポ
568:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 15:57:17 oDGE0z9U
旅行ネタでなんか書こうとしたが力尽きた。以下2レスくらい。
569:ある車内風景・1
07/07/17 15:58:32 oDGE0z9U
『プアァァァァァン』
列車の前の方で警笛が聞こえる。次の瞬間に列車はトンネルから抜け出し、小さな川を鉄橋で渡る。
なぜ俺がこんなローカル線に乗っているのか、それは一ヶ月前に遡る。
昼休み、谷口達とメシを食いつつ前日の失敗をぼやいていた。毎年恒例の、妹を連れての祖父の家への
小旅行のための特急の指定席券の発売日、派手に寝坊した上に帰省シーズンとあってJRの駅に着いた
時には既にその方面への全列車が満席になっていた。俺一人なら自由席で数時間立ちんぼでもいいが、
妹がそれを我慢できそうにはないし、自由席の座席を確保するために蒸し暑いホームに延々並ぶ羽目に
なりそうだ、と言ってたら隣のグループから声がかかった。
「なんだ、キョン。どっか行くのか?」
そう聞いてきたクラスメイトの顔を見て、ああ、コイツは旅行とか鉄道とか詳しかったなと思い事情を
話すと、机の脇のカバンから時刻表‐なんでそんなもん持ち歩いてるんだ?‐を取り出し、ほんの数分
ページをめくっただけで一枚のメモを俺によこした。
「そのルートならちょっと遠回りだけど多分空いてるぜ」
どうせ急ぐ旅でもない、空いてて座れるならと礼を言うと、自分の旅行に使う切符を買いに行くから、
ついでに指定席券とか買っといてやろうかと言われた。JRの駅まで出るのは面倒だと思っていたので
ありがたくその申し出に甘えさせてもらった結果、この名前も知らなかった路線に乗っているわけだ。
俺の隣では、山が見える街が見えるとはしゃいでいた妹がようやく疲れてくれたのか寝息を立てていた。
それはいいが、なんでおまえが俺の向かいの席に座ってるんだ?
「旅は道連れ、と言うじゃないか。それとも僕では不満かい?それならしばらく辛抱してくれ。終点で
僕は君とは逆の方向へ行く列車にのりかえることになっているから」
佐々木はそう言って、喉の奥でくっくっと笑った。いや、不満とかじゃなく、地元の私鉄ならまだしも
こんなローカル線で知り合いと偶然に乗り合わせるなんてことは確率論から言ってもありえないだろ。
いや、確率論なんか無視できる奴も知ってるけどな。席替えのたびに俺の後ろになる奴とか。
「ふむ、偶然か。偶然と言えば偶然なんだが、それは今日、君とこの列車に乗り合わせたこと自体では
ないんだよ」
570:ある車内風景・2
07/07/17 15:59:12 oDGE0z9U
怪訝そうな顔をしてるであろう俺に佐々木は言う。一ヶ月前、母方の実家に行くための指定券を買いに
駅に行った時に偶然中学時代のクラスメイト、そう、俺にこの列車を薦めた奴だ、に会ったこと。その
クラスメイトは佐々木の話を聞いて、佐々木が乗る予定にしていた列車は満席だろうからとこの列車を
やけに熱心に薦めたこと。
「彼が中学時代から日本中を旅行してたのは知ってるしね。その彼のアドバイスだしこの列車に乗って
みることにしたんだよ。まあ、彼が薦めてくれた理由は今日になってわかったんだがね」
確かに、景色もいいしたまにはこういう旅もいいよな。そう言うと佐々木は小さく溜息をついてから、
「駅の窓口は混んでいてね。並んでる間に随分といろんな話を聞かせてもらったよ。君も充実した高校
生活を送れているようでなによりだ」
そう言った後、付け加えるかのように、
「ただ、彼が面白おかしく話してくれた君の高校生活のエピソードの多くに涼み・・・SOS団の名が
ついてくるのが・・・」
佐々木はなぜかそこで口をつぐむと、急に思い出したかのように俺に菓子を薦めてきた。なんだろうね。
まあ、SOS団の評判はもはや近隣の全校に広まっているだろうし、主に団長様が引き起こす数多くの
エピソードを知ってれば俺を親友と呼んでくれる佐々木が心配するのも無理はないか。
大丈夫さ、SOS団って言うか、ハルヒの暴走なら最近はなんとなくブレーキをかけるコツがつかめて
きたし。そう言うと佐々木はなんとも複雑な顔をしたがそれも一瞬、すぐにいつもの顔に戻ると、
「で、彼が指定席券を渡しながらこの列車の終点まで2時間半かかると教えてくれた後、別れ際にもう
一言『ま、頑張れよ』って言ったんだよ。さて、何を頑張れと言ったんだろうね」
頑張れ、か。おまえが行ってる学校がウチと違って結構厳しい進学校なのは知ってるだろうし、2年の
うちから成績別にクラス分けされたり大変だろうけど頑張れよってエールだろ。むしろ、俺と競い合う
成績のあいつこそ頑張れって気もするがな。
「・・・実に君らしい解釈だね」
571:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 17:06:44 7guEoRWS
>>570
(・∀・)イイヨイイヨー
さりげなくアピールしてる佐々木かわいいよ佐々木
572:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 19:49:58 JyCEwLVC
こんなに近くで(長門ver)を視聴。佐々キョンMADが猛烈にみたくなった。
キョン「残念だが二期にお前の出番は多分無いぞ。親友。」
佐々木(そういう意味だけじゃ無いんだよ。くくっ)
というわけで誰か作ってください。(><)
573:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 19:52:45 tBXijsty
朝倉verが切なくて好きだが。
佐々木verは、どうやって素材を集めるかが問題だw
574:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 19:55:42 ggqwxxRM
MADは無理だけど、はじめてのSSを書いてみた。
投下しても良い?
575:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 20:04:59 Dv6dUuBv
>>574
どうぞどうぞ
576:166
07/07/17 20:05:00 4zl6i3k8
>>570
GJ!いいねえ。しっかりフラクラはお約束、と。
>>574
かむかむ。
577:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 20:09:06 ggqwxxRM
あざーす。
橘京子スレとどっちに投下しようか迷ったけど、
佐々木好きな俺はこっちに落とします。では。
↓↓↓
「ええ、そうです。ここにはアレは出ないし、最初からいないの」
その日、私はたったひとつだけ嘘をついた。
正直に全てを話せば、ひょっとしたら彼の考えを変えられたのかもしれない。
でもしなかった。そんなアンフェアなことは、彼女が一番望んでいないことだから。
私は、時の止まったようなオックスフォードホワイトの空を見上げる。
この空間に、確かにいたのだ。あの茜色に輝く優しい巨人は―――
『巨人の歌』
自分にその力が芽生えたのは、4年前のことだった。力を同じくする仲間ともすぐに会えた。
そして、私たちに力を与えた「彼女」をこの目にするのにも、それほど時間はかからなかった。
静かな人だな、というのが、私が彼女に抱いた第一印象だった。
じゃべらないという意味ではない。口数に関していえば、彼女はそれまで出合った誰よりも多かったから。
でもその語り口はあくまで穏やかで、機知に富んで、私の心に静かに染み入った。
とても同年代とは思えない、落ち着いたたたずまい。
だから私は敬意も含めて、彼女のことが好きになった。
彼女にはまだ接触しないでおこう、ということになった。そのかわり見守る、それも四六時中。
もちろん抵抗はあった。だれも好き好んで、同年代の女の子を見張りたいとは思わない。
でも、私たちにとって彼女はかけがえのない存在だ。なにより情報も不足していた。
現状を維持するために静かに彼女を見守る、それが一番いいように思えた。
彼女と話ができなかったのは、ちょっと残念ではあったけれど。
-------------------------------------------------
私たちの前に「彼」が登場したのは、彼女が中三になった春のことだった。
学習塾でたまたま同じ教室になった、中学校のクラスメイト。
ふたりはぽつぽつと話し出し、やがて笑い合うようになり、無二の親友になった。
実際、彼は彼女にとってこのうえない話し相手のようだった。
他の男子には敬遠されがちだった彼女の長口上をごく自然に聞き、
気のない返事をしたり言い負かされたりしながらも、たまに彼女すら驚くような返答をよこす。
そんな時、彼女はとびっきりの笑顔を見せた。
いつしか私も、私の仲間たちも、自転車に乗るふたりを見つめるのが楽しみになっていた。
578:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 20:11:27 ggqwxxRM
そんなある日のこと。
私が見たわけではないので伝聞になるのだけれど、
中学校の教室で、彼は彼女にこんなことを言ったそうだ。
――おまえ、回りくどくて理屈っぽい言葉遣いを直せばさぞかしモテるだろうに――と。
彼女は笑いをこらえながら、恋愛感情なんて精神病の一種だと、いつもの調子で返したという。
えー、それはあんまりじゃない? という当時の私が抱いた感想は置いておいて、
この会話がきっかけになったのだろう、ある変化が起こった。ここではない場所で。
いつものように、私は仲間とともに彼女の空間に向かった。
いままで何も起こったことはないけれど、空間に異常がないかを定期的に見回るのは私たちの慣習だ。
それに、私はこの空間が好きだった。現実感に乏しい、でも暖かな光に満ちた穏やかな世界が。
彼女の心の中のようなこの空間に入れることを、私は密かに誇りにしていたのだけれど…
その日、空間に入った私は、そこに一生忘れられない光景を見た。
オックスフォードホワイトの空を背景にそそり立つ、夕焼けのような茜色をした巨人の姿を。
何度も話合いの席を設け、でも決裂に終った組織から話は聞いていた。
もうひとつの空間の主である少女が生み出す破壊の象徴、「神人」のことは。
でも、この空間にはそんなものはいなかったし、第一私たちは戦う力など持っていない。
思わず恐怖して後ずさりする私たちの耳に、あの「音」が響いた。
―――それは、巨人の歌だった。
およそヒトの言葉ではなく、男か女かも判然としない不思議な声…でも、私にはそれが歌だと分かった。
なぜって、私はこれほど喜びに満ちた旋律を、いままで聞いたことがなかったから。
あくまで優しく穏やかに、でも高らかに響きわたる歓喜のコラール。
暖かく力強い歌声に満ちたこの空間は、喜びにうち震える彼女の心そのものだった。
彼のたったひと言が、彼女にこれほどの変化をもたらすとは。
いつしか巨人に対する恐怖は溶け、私たちはいつまでも、その歌声に聞き入っていた。
-------------------------------------------------
579:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 20:13:18 ggqwxxRM
その日を境に、巨人のいる風景は彼女の空間の常となった。
普段の巨人は何もせずただそこにいて、私たちも巨人に対して何かをすることはなかった。
でも、巨人がそこにいるだけで不思議と心は落ち着き、私は彼女同様、この巨人も好きになった。
そして巨人は、時おりあの歌を聞かせてくれた。
夕焼けの道を走る自転車の荷台で聞いた、彼がまだ小さかった頃の話に。
バス停までの星空の下、彼が贈った励ましともつかない励ましの言葉に。
昼下がりの教室、借りた本が面白かったと言いながら見せた彼の笑顔に。
何気ない日常の中の小さな輝きに、彼女はあの理屈っぽい口調で理屈っぽく答え、
いっぽうで茜色の巨人は、全身を震わせながら喜びの歌を歌い上げた。
そんな光景を何度か見ているうちに、私はあることに気がついた。
あれほど饒舌な彼女に、なぜ「静かな人」という第一印象を持ったのか…
それは、けっして彼女が本心を明かさなかったからなんだ、と。
本心を伴わない彼女の言葉はなんの刺激も与えずに、私の心にただ静かに届いたのだ。
巨人の歌を知っている私には、彼女が自分を枠にはめているように見え、それがちょっとだけ残念だった。
今になってみて思えば、この頃は私たちも楽しかったのだと思う。
微笑ましいふたりの日常風景に、優しい巨人の歌声。
穏やかな日々に、彼女を観察するのが仕事であることを私たちはしばしば忘れかけたが、
時の流れは否応なく現実を運んでくる――彼女は、卒業式を迎えた。
これも、伝え聞いた話になる。
卒業式が終った校門前で、彼女は彼に、こんな言葉をかけたという。
――これでお別れだね、キョン。でも、たまには僕のことを思い出してくれよ。
忘れ去られてしまっては、いくら僕でも寂しくなるというものだ。覚えておいてくれ――
また連絡してくれ、とは言わなかったそうだ。
私には、自分の枠を精一杯の気持ちで外した、彼女の心からの言葉に思えた。
そして、この日を最後に、茜色の巨人は歌うことをやめた。
-------------------------------------------------
580:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 20:14:53 ggqwxxRM
県内でも有数の進学校に入った彼女は、表面上はなにも変わらないように見えた。
新しい友達に囲まれて、勉強にも持ち前の才能を発揮する彼女は、いつも笑っていた。
でも変化はあったのだ。歌をなくした巨人は、まるで何かを待つように、虚空を見上げるようになった。
桜が散り、梅雨が明けた。彼からの連絡は来ていない。彼女は笑い、巨人は虚空を仰ぐ。
進学校は短い夏休みに入る。彼からの連絡は来なかった。彼女は笑い、巨人は虚空を仰ぐ。
残暑が終わり、木の葉が色付く頃。まだ連絡は来ていない。彼女は笑い、巨人は待ち続ける。
そして、冷たい雨が枯葉を濡らしていたあの日。
これは、私が実際に目にしたことだ。
その日、いつものように市内の進学塾に向かう彼女の後を付けて、やや距離をおいて私は歩いていた。
数年前からずっと続いている、彼女の観察行動。今日は私が担当だった。
彼女の正確な歩幅を追いながら、「彼に連絡入れちゃいなよ」とこのまま声をかけてしまおうかと考え、
でも観察者である自分の立場を思い出し誘惑を断ち切ったその時、彼女が止まった。
気付かれた? と視線を投げたその先、彼女の視線を横切る形で―――
彼と、もうひとりの空間の主――涼宮ハルヒが、ひとつの傘に収まって歩いて行った。
ふたりが彼女に気付くことはなかった。彼らが去って、彼女はしばらく呆然と立ち尽くした後――
何事もなかったかのように歩き始めた。歩幅を乱して。
とてつもない悪寒が、私の背中を走りぬけた。
任務も忘れて反対方向に走りだした私の脳裏に、夕焼けの自転車、星空のバス停、陽だまりの教室、
それに茜色の巨人といった光景が断片的にフラッシュバックし、現れては消えていった。
冷たい雨が肌を刺す。あれ、傘はどうしたんだっけ? …よく分からない。
私は走った、私の大好きな彼女の空間に。私は走った、優しい巨人がいるあの空間へ。
そして、壁を抜ける感覚がして世界が変わり――私は天に向かって絶叫する、巨人の姿を見た。
あの歓喜の歌がこぼれた口から、こんなにも悲しげな声が出せるのかという声を上げ、巨人は泣いていた。
頭を抱え、巨体を揺らし、大気と、おのれの魂を震わせながら全身で泣き叫び続けていた。
視界が滲む。喉が痛い。ああそうか、私も泣いてるんだ。どうりで頬が熱いわけだ。
大好きだった巨人との別れの時が来たと、子供のように泣きながら私は悟っていた。
やがて巨人は私の前で、体をのけぞらせ、ひときわ切なく叫んだ後、茜色の火花となって砕け散った。
581:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 20:17:42 ggqwxxRM
オックスフォードホワイトの空から、茜色の雪が降っている。
クリーム色を希釈したような空に映える、いつか見た夕焼け色の雪が。
その幻想的な光景の下で、私は泣いていた。
巨人のいない、引き裂かれた彼女の心の底で、私はいつまでもいつまでも泣き続けていた。
-------------------------------------------------
これも、後から仲間に聞いた話だ。
巨人が消えたあの日、塾から帰った彼女は、自室で号泣していたのだという。
お互いちぐはぐな行動をとってきた彼女と巨人は、最後の最後で、ともに泣いたのだ。
それがあまりに悲しくて、私はまた泣いてしまった。
その後、私と仲間たちは考えを変え、彼女に対して積極的に干渉することになった。
あれほどの絶望の中でも、彼女の巨人はいっさい世界を破壊することなく、逆に自らを消滅させた。
彼女を神様にしたい、彼女のような人に神様になって欲しい。みんなの思いは一緒だった。
はじめて彼女と話ができた時は、とても嬉しかった。でも、あの巨人のことは彼女には話していない。
自分の心がそこまで覗かれていることが分かったら、誰だって嫌だろう。私だって嫌だ。
まして、誇りすら感じるほどに自分を律している彼女なら、なおさらだろう。
私は自分ができる方法で、彼女にアプローチしていこうと思う。
いつか彼女とあの巨人が、ともに喜べる日が来るように。
だから、今日はじめて彼女の空間を訪れた彼に向かって、私はこう言うのだ。
「私はここにいると落ち着くの。とても平穏で、優しい空気がするでしょう、あなたはどう?」と。
↑↑↑
以上っす。読了ありがとうございましたー。
582:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 20:29:56 fs2+hzK2
俺も泣いた
GJ
583:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 20:34:27 +c4JFooy
>>581
こんな作品をリアルタイムで読めた事に感謝。思わず読み返したぜ。
確かにこれは橘スレか佐々木スレかで迷ったと思うがこっちに投下してくれて本当に感謝、感謝だぜ!!!
最後になるがGJ!!!
584:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 20:36:56 eRIu8OOR
>>581
GJ!!
ちょっと泣いた!
585:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 20:39:02 joQStRuV
これは久々に感動したね
586:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 20:43:58 eYtnyPkz
>>581
GJ!!
きょこたんが好きになって、
キョンが少し嫌いになった。
587:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 20:56:37 ggqwxxRM
ありがとうございます。
ご好評いただけたようでホッとしてます、あードキドキした。
風邪ひいて寝ながらこのスレを読んでいて、
みんなの書いたSSに刺激されて書いてみました。
設定なんかはメチャクチャなので、まぁ突っ込まんでやってください。
588:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:17:16 3olXbhoI
ちょっとガチで泣きそうになったジャマイカ…
GJ!
589:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:25:07 eRIu8OOR
ちょっと短いんだけど一つ投下してみようと思う
良いかな?
590:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:25:32 YWrnESsa
めっちゃ感動。
設定も無理はそんなにないんじゃないかな?
GJ!!
591:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:26:24 fs2+hzK2
>>589
さぁ、ぶち込め
592:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:26:40 YWrnESsa
>>589
どうぞ!!
むしろお願いします。
593:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:29:42 3olXbhoI
>>589
こい!
594:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:31:09 4zl6i3k8
>>581
素晴らしすぎ。泣ける。
>589
かむかむ。
595:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:31:21 eRIu8OOR
では投下します
↓ ↓ ↓
キ「いい日だな、佐々木」
佐「まったくだね」
キ「いいところで会ったよ」
佐「僕もそう思ったところさ」
キ「それに申し分ない散歩日和だし。このままぶらぶら家まで歩いて帰ろうと思ってな」
佐「ほんとかい?歩くのが何よりいいらしいね」
キ「ところで佐々木、近頃はずいぶん気分が良さそうじゃないか」
佐「くっくっ、嬉しいことを言ってくれるね」
キ「そうか? どうだ、お茶でも一杯」
佐「キミも俗物だなぁ。この地域では、そういうのはそうとうに趣味が劣るんだよ、
そうは思わないかい?」
キ「同調しかねるな、この場合は。しかし趣味と言えば、
お前のお気に入りの本、エラリーの国名シリーズだったか?
このあいだ図書館でちょっと読んできたさ。たった1個の証拠から、
事件の推理を巧妙に仕上げたのにはまったく関心した。
しかし俺としてはそんな本を読んでるより、ポニテにでもしたほうがお前には合うと思うがな」
佐「くっくっ、どうかなぁ。しかし一つ確かなのは、僕は趣味の議論に頭を悩ませたりしないということさ」
キ「へぇ、全然悩まないと?」
佐「正確に言えば杞憂がないね」
キ「同じものだと思うがな」
佐「それが庭訓ならの話だが、くっくっ、たいへんな違いさ」
キ「あれ、確かお前、ギターを弾くんじゃなかったか?」
佐「あぁ、あれは僕の友達だよ。あの娘はしょっちゅう変なマネをするからね。
しかし僕はご免だ、要らんギターに触るなんてのは」
突然、谷口がどこからともなく現れ、二人を発見すると、現れたときと同じように突然姿をくらます。
谷「WAWAWA・・・ハッ!ご、ごゆっくりぃ~!」
596:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:33:44 zRBPPW8B
_,,....,,_
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}ニニ{l/__l/ |ノ__i:}
l_:.:fリ `' '´ |
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: : |: : : ヽ/、;:;;;}イ: :ヽ: \
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597:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:34:00 eRIu8OOR
キ「あぁ、アレは俺のダチだよ。あいつはしょっちゅう変なマネをするからな。
しかし俺はご免だ、要らん期待に触るなんてのは」
佐「あれ、確かキミもギターを弾くんじゃなかったかい?]
キ「それが提琴ならの話だが、たいへんな違いさ」
佐「くっくっ、同じものだと思うがね」
キ「正確に言えば弓がないな」
佐「へぇ、全然悩まないと?」
キ「さぁ、どうかな。しかし一つ確かなのは、俺は趣味の議論に頭を悩ませたりしないということさ」
佐「同調しかねるね、この場合は。しかし趣味と言えば、
キミのお気に入りの髪型、ポニーテールだったかな?
このあいだ喫茶店でちょっと見かけたのさ。たった一か所結んだだけで、
あれだけの好印象に仕上げたのにはまったく関心したよ。
しかし僕としてはそんなのに興味を抱いているより、本でも読んだほうがいいと思うけどね」
キ「お前も俗物だなぁ。この地域ではそういうのはそうとうに趣味が劣るんだよ、
そうは思わないか?」
佐「そうかな? どうだ、お茶でも一杯」
キ「おう、嬉しいことを言ってくれる」
佐「ところでキョン、近頃はずいぶん気分が良さそうじゃないか」
キ「ほんとか?歩くのが何よりいいらしいな」
佐「それに申し分ない散歩日和だし。このままぶらぶら家まで歩いて帰ろうと思ってね」
キ「俺もそう思ったところさ」
佐「いいところで会ったよ」
キ「まったくだ」
佐「いい日だね、キョン」
以上です。
お目汚しすみませんしたw
598:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:36:00 3olXbhoI
WAWAWA自重www
599:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:36:14 fs2+hzK2
>>597
まぁ、なんというか頑張れ
600:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:41:23 ay34lwY7
>>581
感動した。
GJ
601:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:45:20 S7UP+q59
>>581
佐々木スレ住民全員が泣いた…
もうGJとしか言いようがない
>>597
二人のちょっとおかしなテンションに吹いたw
602:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:46:22 eRIu8OOR
>>601
・`)
逆から読んでほしいな
とか言ってみたり
603:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:49:36 S7UP+q59
>>602
言われて逆から読んでみたらこれ結構すごいな
気付かなかった
604:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:51:08 YWrnESsa
谷口=娘に笑いました。
605:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 21:55:56 USntCIfX
定期あげ
606:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 22:23:09 YnQjjZnK
>>581
目から変な汁が出た。
607:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 22:56:40 YWrnESsa
ん?そういえば今ふと思ったんだけど、
キョンって昔からフラクラだったのか?
昔からだったとしたら、
何時からなんだろうか?
幼稚園の先生や同級生をフラクラする園児とか想像できないんだけど……
608:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 23:00:14 7w2baSW/
思うに初恋の従姉妹が結婚してから、そういうことには気づかないようにしてるんじゃないだろうか?
また悲しい思いをしたくなくて、無意識にそういう気持ちを抱かないようにしてるとか。
609:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 23:04:58 6kwBaA2l
無意識のうちに「ふられるぐらいないふってやる!!」と決意してるのか・・・・・
人でなしだな、キョン。
それはそうと、>>581は切ない話を書いた責任を取って腹を切るべきだ。(棒
610:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 23:06:47 RUQCcQ3E
関係ないけど生放送中でアイドルが痴漢に
URLリンク(jp.youtube.com)
乳、揉みすぎ(*´Д`)'`ァ'`ァ
611:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 23:14:22 3olXbhoI
実は中学時代はキョン→佐々木だったりしてな
キョンはトラウマやら佐々木の発言やらが原因で一歩踏み出せなかったとかだったらおもしろい
612:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 23:31:56 l8etTovH
なんか今日は、久々のSSの多数投下があって、いい日なのかも
という訳であっしも小ネタを投下いたしやす
613:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 23:32:58 VHP1d98e
wktkで待ってます
614:キョンと佐々木のある日の放課後
07/07/17 23:34:49 l8etTovH
「キョン、僕ってむっつりすけべらしい」
なんだ、そりゃ。唐突にンなこといわれてもな
「キョン、キミはむっつりすけべと言われた事は無いかい?」
「或るわけ無いだろう」
小難しい顔をして教室に戻ってきたと思ったら、またエライ無茶振りだな
「佐々木よ、状況を説明してくれ。でなきゃ答えられん」
「そうかい、じゃあこれ」
と言って佐々木がスカートのポケットから取り出したのは一枚の便箋だ。
「今朝方、僕の下駄箱にコレが入っててね。で、さっきこの手紙の差出人の所に行ってきたのさ。」
てことは佐々木宛のラブレターかこいつは。
「結局、僕はその差出人の意に沿えなかった。で、最後に言われた言葉がむっつりすけべだったのさ」
「………」
「どうしたんだい、キョン急にしかめっ面なんかして」
佐々木を勝手に呼びつけた挙句、意に沿わないと知るや否や
先ほどの罵詈雑言、俺は佐々木の友人の一人として怒りを禁じえない。
恐らくは佐々木特有のあの言い回しのせいかもしれないが、それでも一人の女子に対しては
言っていいことと悪いことがあるんじゃないのか。どこの馬の骨か判らんがはっきり言って許せん。
「…キョン、キョン、まだ話は続きがあるんだ、いいかい。」
佐々木は便箋の中身を取り出すと一枚の写真が入っていた。
「実は、隣のクラスにいる知り合いの家で仔猫が何匹か産まれたらしくてね。
僕もできれば一匹欲しかったところなのだけど、生憎両親の反対にあってしまってね。
結局断る事にしたのさ。」
で、それがむっつりすけべとどう繋がるんだ?
「この写真を見て欲しい。一番右端にいる子だよ」
見るとあどけない表情をみせる5匹の内、1匹だけ不貞腐れたように横を向いているのがいる。
「僕はこの仔が一番カワイイというと、他のみんなはこんなむすっとしてスケベそうなのが
どこがいいの?っていうんだよ、キョン。挙句の果てには、飼い主は自分に似たタイプをペットに
選ぶとかって、そんなのどこに根拠があるっていうんだい?」
…あー俺のさっきまで有った憤りはどこにいっちまったんだ。
ていうか、佐々木さっきからクスクス笑っているのはなんでだ?
「ところで、その仔猫キョンに似ていると思わないかい?」
「やかましい!」
その後しばらく、佐々木は俺の顔を見るたびに、喉の奥であの独特の笑い声を転がすようになる。
まったくやれやれだ
615:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 23:39:27 hYHtlRKb
>>581
不謹慎だが、これでこそ佐々木って感じだな。
俺が佐々木に惹かれた理由を思い出させてくれるSSでした。GJ!
616:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 23:41:31 CwRtyKCD
>>614
GJ!
実は俺もSS書いたんだ。
投下するよ。
617:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 23:42:55 CwRtyKCD
町を歩いていると物陰から変な人に呼び止められた。
普段なら華麗にスルーを決め込むところだが今日の俺には時間がある。
少なくともどんな奴に呼び止められたのかは見たい気がした。
一歩進んで路地の裏を見る。
水晶玉にタロットカード、虫眼鏡と節操の無い置き方をした「いかにも占い師」がそこにいた。
その占い師は俺に言った。
「珍しい相が出ているね、いいような悪いような・・・・・・失敗する・・・?でも幸運に会いそうな・・・・・どうだろう、詳しく占わせてくれないか?」
物言いにはすごく興味が引かれる。
しかしこの手の占い師は一件何千円とか取ったりするものだ、俺にそんな金は無い。
「おっと、料金なら要らない。今日はもう店じまいだ、これは僕の純粋な興味だよ」
俺が金が無いという前に占い師は見透かしたかのように発言をかぶせた。
まぁ、俺みたいな何処にでもいる高校生の兄ちゃんが金持ってなさそうだなんてのは誰にだってわかることだ。
しかしそれでも俺はこの発言によってさらに興味を引かれた。
気がついたら占い師の前の椅子に座っていた。
占い師は俺が座ったのを見るとにやりと笑った。
俺は占いなんてさっぱり知らないので何をやっているかはさっぱりわからない。
生年月日と血液型を書かされ、しげしげと手相を見られたと思えば今度はカードをいじっている。
「・・・・・・で、塔か・・・・・ふーん、本当に珍しい」
塔ってのは目の前に出されたカードのことらしいが俺はさっぱりわからん。
「おっと、すまない・・・・・君はね、これから君の最もも得意なことで失敗する」
俺が占いの結果を待っているのを思い出したのか占い師は語りだした。
おいおい悪いじゃねぇか。
「だが、その失敗は君を幸福にする。矛盾するような結果だが・・・・・何か思い当たる特技ってなにかあるかい?」
特技って言われても特にそんなものは無い、強いて言うなら超常のやつらとお友達になりやすいことか。
しかし多分それに失敗したら俺を待っているのはデッドエンドだろう。
俺の人生は意外とタイトロープなのだ。
「ふーん・・・・・・なにかそれっぽいことがわかったら教えてくれるかい?占い師として非常に興味があるんだ、僕は大抵ここにいるから」
適当に占い師に礼と言ってその場を後にする。
例え解っても教えにくるかどうかは気分次第だな。
618:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 23:44:26 CwRtyKCD
「あれ?キョンじゃないか」
その後適当にぶらついていると後ろから声をかけられた。
「ん?おお、佐々木か」
声をかけてきたのは親友、佐々木だった。
「キョン、なにをやってるんだい?」
「いや、ただぶらついてるだけさ。佐々木は?」
「僕もそんなところだね、暇をもてあましているところさ」
佐々木が暇とは珍しいな。
ん?佐々木がなんだか目配せをしているような・・・・・・気のせいか。
そうだ、佐々木ならさっきのアレをうまい事分析してくれるかもしれない。
「そうだ佐々木、暇なら一緒にどっかいかないか?」
「え?・・・・・・あ、うんいいよ。キョンと一緒にいたほうが楽しそうだしね」
「んじゃとりあえず喫茶店でも行くか?」
「そうだね、任せるよキョン」
俺と佐々木は連れ立って歩き始めた。
ん?なんだか違和感がある、えーと・・・・・・なんだろう。
あ、そうか。
「佐々木、髪切ったか?」
「え、ああ。実は美容院の帰りなんだ。・・・・・・それにしてもよく気づいたね、キョンは絶対気づかないと思ってたよ」
む、なかなか心外なことをいわれた気がする。
俺にまったく洞察力が無いみたいではないか。
「おいおい、それじゃ俺がぜんぜんお前のこと見てないみたいじゃないか」
とりあえず抗議はしておかないとな。
あれ、佐々木顔赤くないか?
「・・・・・・キョン、君は恥ずかしいことをいうようになったね」
何のことだかさっぱりわからない。
そうこうしているうちに喫茶店に着いた。
当然最初の話題は例の占い師についてだ。
619:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/17 23:45:33 CwRtyKCD
「得意なことに失敗して幸せに?」
「なんかそんなようなことを言ってたな」
佐々木はしばらく考えてからハッとしたようなしぐさをした。
「あ、なるほど。そういうことか。とすると・・・・・・くっく、キョンの特技はアレか」
「お、解ったのか?」
「うーん、多分だね。今日一日で実験してみることにするよ」
「おう、そうしてくれ」
まぁ別に解らなくてもなんの支障もないだろうが気になるからな。
ん?佐々木がなにか思い立ったような顔をしている。
そうか、それなら・・・・・・とか、今ならもしかしたら・・・・・・・とか言っている。
それから佐々木は何かを決心した顔になってこちらを向いた。
「キョン。実は今日僕の家は誰もいないんだけど・・・・・・」
俺は、俺たちは占いどおり幸せになった。
占いの結果
キョンの最も得意なこと(=フラグクラッシャー)が失敗して幸せ(=フラグが成立)になる。
620:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 00:25:50 SDgPDIqi
定期あげ
621:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 00:43:11 9jhWuHTn
さて、今日も今日とてどれくらいの人間がROMってるか調べようじゃないか。
それでは我らがFCK、頼みます
キ「まったくやれやれだな……いくぞ、三分佐々木」
622:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 00:49:10 gCfTF7Z9
>>621
>>619
623:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 01:00:35 OnXxn+w9
佐々木さん意外と人気あるんだな。
ここは初めてきたんだが、こんなにスレが伸びてるとは思わなかった。
まあもちろん自分も佐々木さん好きだが。
てかまだアニメじゃあ出てきてないよな?
624:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 01:15:03 5J2KijB2
>>581
凄い。切ない。
目から変な汁が。
625:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 01:15:15 Y2SRUTA5
アニメ二期で出るかどうかすら怪しいもんだな
99%出ないだろうが
626:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 01:27:34 nRwNNolK
ものっそいどうでもいいことだがROMって何の略?ReadOnlyM・・・・かと予想してみるがMの続きが思いつかん
627:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 01:31:52 G1ks3Ql2
アニメに佐々木が出たらもう驚愕はどうでもいい
628:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 01:32:35 0Ss7U3SE
R:ろくな事がない佐々木を
O:大いに応援する
M:Mな俺
629:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 01:36:36 bJX8Kv+q
>>626
Memberじゃないかい?
ReadOnlyMember、つまり読むことだけの人ってことさ。
と言っても確かめた訳じゃないから確証はもてない。
参考程度に、と思ってくれると嬉しいよ。
630:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 01:44:47 lD+5xslt
>>629
さすが佐々木さん
物知りだな
俺はてっきりROMの略は>>628かと思ったよww
631:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 01:51:03 2cEubyUO
今日は一体なにがあったんだ。
良作が大量に投下されてるじゃないか。
遅レスだが>>572、MADはないが「こんなに近くで(佐々木ver.)」をテーマに
書かれたSSなら保管庫7-904に上がってる。
632:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 01:52:09 kydPSfOu
>>628は谷口脳、>>629は佐々木脳w
633:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 02:13:25 nRwNNolK
>>630
㌧クス
634:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 02:16:21 nRwNNolK
すまんアンカミスった。>>629
635:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 02:17:48 2cEubyUO
>>626
「ROM、“半年ROMっとく”とかで使用されるスラングだね。元々ROMというのは
コンピュータ用語として使用されているものでリードオンリーメモリー (Read Only
Memory)の略語だ。家庭用ゲーム機でいうところのロムカセット、CD-ROMなどの
言葉で意味を知らずに使っている人は多いのではないかな。基本的には不揮発性
の読み出し専用メモリのことさ。これに対して書き込めるメモリのことはRAMと呼ぶ
ね。こちらはランダムアクセスメモリ(Random Access Memory)の略語で、記憶媒
体の通称として使用されているね。DVD-RAMなどで目にしている人も多いのでは
ないかな。 ちなみにROMの対語として紹介したけれど本来メモリというものは書き
込めるのがデフォルトなのさ。だから読み出ししかできないメモリに、ROMという言
葉が生まれたのだね。ああ、脱線してしまったね。さて、スラングとしてのROMは、
>>629の言うとおりリードオンリーメンバーの略語だね、ちなみに日本ローカルの言
葉のようだよ。もう想像はついているだろうけど、掲示板を閲覧するだけの人間を揶
揄した言葉だ。使用した本人にその意図はなくとも蔑視的排他的なニュアンスを含
むから使用する際は注意するべきだね。なぜROMが蔑視されるのかというと、これ
はパソコン通信の黎明期にさかのぼってしまう。ここで、その言葉の歴史的考察に
ついて解説しても良いのだが、それは脱線だね。ウィキぺディアのROMの項目が
簡易にまとめているので興味があったら、見てみると良いよ。結局、ここ2chのよう
な大規模なBBSでは参加者の殆どがROMにならざるを得ないから、そこに差はあ
まりないね。もっとも、mixiのようなSNSだとまた話は違ってくるようだね。コミュニティ
のサイズが小さくなれば、またROM蔑視のような風潮が生まれてしまうのだろうね。
まぁ、人間はこういう仮想空間でも縄張り意識を持つことができるということをこの
スラングは思い出させてくれる。ね、キミはどう思う?」
そういって佐々木は、目を細めて、じいっと見つめた。
なんとなく懐かしい言葉にぶつかったので、つい書いてしまいました。
636:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 02:23:43 kydPSfOu
>>581
すげー泣いたよ糞!
サムデイ・イン・ザ・レインがもう見れなくなったじゃんかよGJ!!!!!
>>597
アンタ変わったSS書くね、逆さに読んだらGJ!!!!!
637:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 03:21:38 q1jlWGkD
逆さに読んでも意味がわからなかった
難解に思う奴もいる作品ってことは、分かる人には味わい深いんだろうなぁ…
638:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 03:32:19 b96N5608
>>581
橘での語りは新鮮だ
佐々木が表立って感情を出さないから余計に辛くなるぜ
639:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 03:35:49 Y/hbeBes
>>581
マジで初めて?すげえ。GJ!!
その他にも今夜は豊作だな…俺も次スレくらいで挑戦してみるわ
640:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 03:39:22 gvciMKFM
>>637
最初から↓に読んでも
最後から↑に読んでも
どっちから読んでもSSとして成り立つ
641:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 03:54:23 nRwNNolK
>>635
解りやすい説明サンクス!
642:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 05:15:23 I+W2+UZ0
>>577-581
佐々木のことを「静かな人」って表現する、その洞察力は凄いね。
佐々木の言動の多くを仲間からの伝聞として語るのも現実味を増してる。
情景描写も明晰で、かなりのイマジネーションをもってると判る。
原作との親和性も高い。
書き手のあなたに惚れそうだよ?オリジナルも書く人なのかな。
643:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 06:23:57 nNlU9Jv0
>>617
占い士が佐々木の変装だと思ったがちがったな。
644:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 08:05:28 dE5Q8cMt
俺もそう思ったwけどその後の佐々木の反応は嘘じゃなさそうだしなぁ…
645:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 09:00:10 PD6zuq79
実は未来からやってきた佐々木の変装だよ。
だから、「現在」の佐々木は知らない。
646:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 10:07:04 pUcnZ2Ix
と言う事は、ポンジーの暗躍があったのね
647:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 11:10:14 C7q8wakn
某未来人「あ、あたしとくっつけないなら、あたしをおもちゃにする涼宮さんより佐々木さんとくっつけちゃいましゅ」
648:JASRACの方からきませんように。
07/07/18 12:22:51 yztwPo70
>>581読んで、なんとなく佐々木さんにあいそうな
さだまさしを思い出した。
♪もうこれ以上 迷わせないで
気まぐれにやさしい それが辛いよ
ああ あなたの その微笑を
いっそにくめたら さらにつらい
大声で歌うだけが 歌うことではないように
抱きしめることだけが 愛の形で ないだろう
静かに 口ずさむ 恋でいい
だからもうこれ以上 迷わせないで
気まぐれにやさしい それが辛いよ
ああ あなたの その微笑を
いっそにくめたら さらにつらい♪
649:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 12:42:48 YrBMYFFw
ははあ
僕は>>581の巨人の様子を読んで、なぜかビートルズの
The Fool on the Hillが浮かんだ。
橘が雨の中を走り出してからのとこ、切ないね。
650:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 15:41:17 wsw9V0qb
>>581
素ん晴らしいSSだった。
クイズブログ経由でここのSSはいつも見させてもらっているけど、
いままで見たSSの中でも5本の指に入る。
ありがとうございました。
651:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 15:48:12 WZYw0UQ2
検索したらあのサイトだったか
捕捉とかされてるんだな凄い
652:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 16:11:10 Ork2I9AH
うは、SS投下しようかと思ったら神作が来てた
>>581 凄すぎます!
それでも挫けずに投下
かなり見劣りすると思いますが
枯れ木み山の賑わいってことで
↓↓↓
653:1
07/07/18 16:14:03 Ork2I9AH
『敗因』
「なんか佐々木さんと一緒にご飯食べるの久しぶりだねー」
向かいに座った岡本さんが嬉しそうに言った。
「そう?」
「そうだよ。最近はいつもキョンと一緒じゃない。一学期の頃はよく一緒に食べてたのに
さー。あーあ、やっぱり友情は愛情に勝てないのかな」
ため息混じりに言うが、本気で言っているわけではなさそうだ。苦笑で応える。
今は昼時、誰もが少人数のグループを作り、お弁当なりパンなり思い思いの食事を楽し
んでいる。かく言う私も岡本さんを含む女子三人と机を合わせ、自分のお弁当をつまんで
いるところだ。
「今日は何で一緒じゃないの?」
誰と、が抜けているが充分文脈から補える。平々凡々としたわりに奇妙なあだ名を持つ、
あの友人のことだろう。
「お弁当を忘れたんだって。購買でパンを買って、ついでにパン派の人たちと外で食べて
くるって言ってたかな」
「おー、さすが細かく押さえてるね」
そう言うと三人でキャイキャイと嬉しそうにはしゃいだ。
うーん、参ったな。どうもこういう空気は慣れない。彼女たちとの会話も楽しいんだけ
ど、やっぱりキョンと取りとめも無い話をつらつらと話しているほうが性に合っている。
……それも女としてどうか、とは思うのだけどね。
それから進路の話、昨日のテレビの話、芸能人の話など話題を転々としながら食事は続
いた。余分な解説は必要とせず、余計な解釈もいらない普通の会話だ。たまにはこういう
のもいいものだとは思うけど、どこか物足りない気もする。今の話題の中にもツッコミ所
はたくさんあったのだ。これがキョンとの会話だったら、すぐさま指摘して解説して、反
論してくる彼を論破して、よく解ってないのに解った振りをする彼をからかうことができ
るのに。
そんなことを考えながら少しぼうっとしてしまったのか、
「あ、佐々木さん、今あいつのこと考えてるでしょ~」
ものの見事に看破されてしまった。これが女の勘という奴だろうか。
「まあ、否定はできない、かな。ちょっとニュアンスに違いがあると思うけど……」
「も~、ぞっこんだなぁ。ささっきーは~」
後半の部分は都合よく無視されてしまった。
あとそのささっきーって何? もしかして私のことかしら。
「毎日宿題見せたりしてるし、お弁当のおかずも分けたげてるし。ささっきーって意外と
尽くすタイプ?」
「そこはほら、惚れたが負けってやつだよ。解るなー、私」
「うそつけ!」
私の疑問をよそに、彼女たちは別の方向に突き進んでいく。
まずい。何か空気が変わってきている。変なあだ名も固定化されてきているし、話題を
変えないと―
「それで、佐々木さんはあれのどんなとこが好きなの?」
たちまちに三人分の好奇に満ちた視線が注がれる。はあ、遅かったか。
キョンをあれ呼ばわりするのは、まあ置いとくとして、いい加減この手の話にも疲れて
きた。皆はどうして飽きないのだろう。
654:2
07/07/18 16:15:16 Ork2I9AH
「別にキョンとはそんな関係じゃないよ」
苦笑しながらそう答えた。
いつもどおりの答え。もう何十回と繰り返してきた、私の答え。
好きかと聞かれたらそれは好きだろう。彼は大切な友人だ。自分のまだ短い人生を振り
返っても、彼ほど親しくなれた人はいない。多分これからもできないだろう。
けれど異性として、すなわち恋人として好きかと問われれば、否定しかできない。
何故なら解らないから。
今までにそこまで進んだことが無かったから。
今までに人に恋したことが無かったから。
「彼はただの友達だもの」
私は自分が見たものしか信じない。体感したことしか信じられない。
だから感じたことの無い恋愛感情なんて、そんなもの信じることができない。
あるかないかも解らない恋より、今確かにある友情のほうが大事だ。
未知の領域に踏み込んで壊れるくらいなら、今のままでいい。
悲恋に終わるくらいなら、今のままがいい。
初恋の相手に据えてみるには、彼は大切になりすぎてしまった。
とはいえ、こんな返答では到底納得してもらえないだろう。この手の話題に対する同年
代の女子たちの粘り強さは尋常じゃないものがある。休み時間終了まであと二十分か、今
日の昼休みは潰れたかも。
ところが、彼女たちの反応は予想とはまるで異なり、
「だよねー!ありえないよね、やっぱり!」
「ないない!絶対無いって!あはははは!」
「ささっきーならあんなのよりもっと上狙えるもんねー!」
「え?あの……、へ?」
自分でも解るくらい素っ頓狂な声が出てしまった。多分顔のほうもそれに付随するもの
になっているだろう。……なんだろう、これは。話題が流れてくれてありがたいのだが、
釈然としないものが残る。
「大体、キョンってなんか面白みが無いのよねー」
「そうそう、こう普通すぎるっていうかさ」
「個性ないよね。いつもぼけーっとしてるし」
「それに頭悪いしねー。三連続赤点とかありえないっしょ」
「スポーツはどうだっけ?」
「この前のサッカーでずっこけてたよ」
「うわ、それじゃいいとこなしじゃん」
「ちょ、ちょっと待って!」
本人がいなことをいいことに、彼女たちは散々ないいざまだ。そこまで言うことはない
だろう。だんだんと腹の底からムカムカとしたものがこみ上げてきた。
655:3
07/07/18 16:17:05 Ork2I9AH
「確かに、一見するとキョンは個性に欠けたように見えるけどそんなことはないよ。会話
の最中に入れてくる相槌やツッコミは絶妙だし、聞き上手ということに関しては、この学
校内に彼の右に出る人はいないんじゃないかな。
性格は確かに怠惰なものだけど、そんな手のかかるところが逆にかわいいっていうか、
母性本能をくすぐることもあるし。
それに学校の成績なんて所詮要領のよさじゃない。そんなもので頭の良さは計れないよ。
実際いつもの会話からすると、キョンって物分りもいいし飲み込みも早いし、なんだかん
だで記憶力もいいのよ。この間なんて、前もって何も言ってなかったのに私の誕生日覚え
ててくれて、プレゼントくれたし。よくわかんないぬいぐるみだったけど。
あと、サッカーで転んでたのは敵の卑怯なチャージが原因であって、キョンに落ち度は
ないの。むしろ、怪我の痛みをこらえてプレイを続けるさまは男らしいかったと思うな。
そもそもキョンのいいところって言うのは――」
よっぽど頭にきていたのだろうか、そこまで一気にまくし立てたところで、ようやく私
は周りの状況に気が付いた。
目の前三人はにやにやした笑いを顔に浮かべており、その他のクラスメイトも何事かと
視線を送っている。
これはもしかして……はめられた? 私、ひっかかっちゃった?
「なるほどねぇ~。そんなところに惚れたってわけかぁ~」
「いや、ちが……そうじゃなくて」
「ささっきーってば普段は完璧優等生なのに、あいつのことになると隙だらけになるんだ
よねー。好きだけに隙ができるってわけね」
「だから! 今のはそういうのじゃなくて!」
「で? 続きは? そもそもキョンのいいところってのは?」
「し、知らない! もう知らない!!」
顔を背けてお弁当をかきこむ。精一杯抵抗の意を示すが、彼女たちの追及は止まない。
くう、何でこんなことに。それもこれもみんなキョンが悪いんだ!キョンが普段からし
っかりしていたら、私があんなにフォローすることもなかったのに!大体キョンはいつも、
「おい佐々木、そんなに一気に食ったら体に悪いぞ」
「!!」
気がつかないうちにキョンが背後に立っていた。い、いつの間に。
驚愕と動揺から思わず噴出しそうになるのをすんでのところでこらえる。すると今度は
逆に充分に噛み砕いてなかった唐揚げを飲み込んでしまった。
「ぐ、う。かはっ!か」
「ほらみろ。よく噛んで食べないからだ。ほら、これ飲め」
一体誰のせいでこんな苦しい思いをしているのか、とうとうと語って聞かせたいところ
だが、喉が詰まってはそれもできない。キョンが差し出したのは紙パック入りのジュース、
到底唐揚げには合いそうにないけれど、四の五の言ってはいられない。ストローに口をつ
けると、そのまま一気に飲み下した。
「はあ、はあ。あ、ありがとうキョン。責任の所在はともかくとして、今の善意には感謝
の言葉を述べさせてもらうよ」
「なんだよ、俺のせいだってのか? 普通に声をかけただけじゃねえか。なあ?」
そういってキョンは岡本さんに同意を求めた。ところが彼女はぽかんと口を開けてキョ
ンの手元をみている。他の二人も同様に、いやどころかクラスにいるほぼ全員がキョンの
手元に視線を送っていた。
656:4
07/07/18 16:19:01 Ork2I9AH
不審に思い、その手元を見るが何も変わったところはない。私がさっき飲んで返した紙
パックのジュースがあるだけだ。
……待って。紙パック? 紙パックということは当然飲み口にはストローが挿さってい
る。私もさっきそこから飲んだのだから。ところでキョンは私が喉を詰まらせてすぐにジ
ュースを差し出した。ストローの袋をあけ、伸ばし、パックに挿すにはあまりにも短い時
間だ。すなわちストローはすでにパックに挿さった状態だったということで、それはつま
りすでにキョンが口を……いやいやいや! その考えは危険だ。パックにストローが挿さ
っているということと、キョンが口をつけているということはイコールではない。たまた
まストローを挿した状態で持ち歩いたり、これから飲むところだった可能性もある。充分
ある。むしろ高いくらいだ。
「何を真剣な顔して考え込んでるんだ、お前は?」
キョンはのんきな顔をして返したジュースをチューチュー吸っていた。
……キミってやつは。
こっちの気持ちも知らないで、キョンは相変わらずとぼけた顔を向けている。あの顔は
本当に何も考えていない。私が苦しがっていたから助けた、それだけのことなんだ、彼に
とっては。
まったく。自然と顔が緩むのが解る。
まったく、適わないなキミには。
解りにくいけど個性があって、成績は悪いけど変なところで頭はよくて、時々手がかかって、時々かっこよくて、そしていつだって優しい。
さっき言いかけたキョンのいい所、それはこの優しさだ。拒むことを忘れさせるような、
何の抵抗もなくするりと入ってくる自然な善意。
私は今まで人間は皆利己的な生物だと考えていた。自己犠牲の精神にしても、無償の愛
にしても、それは目に見える利益がないだけで結局は「相手を助けたい」という自分の欲
求に従っているだけなのだと。誰もが自分の欲望のために行動する、つまりは偽善者なの
だと思っていた。
けれどキョンは違った。彼の優しさは打算も計算も、欲望すらもなかった。本当に何も
考えず、ただ相手が困っているというだけで当然のように彼は手を差し伸べる。自然体の
善意、それはもはや情景反射のようなものだった。
彼に出会い、彼の優しさに触れ、私は考えを変えた。
私の世界は変わった。彼が変えてくれた。
「はぁ、別になんでもないよ。大したことじゃない」
「そうか? なんか悩みがあるのなら相談にのるぞ?」
そう言いながらも、まだジュースを飲んでいる。悩みの種はそれだというのに。やれや
れ、これは岡本さんたちにまた色々言われそうだな。
ため息混じりに苦笑して、私はその一番大切な友人を見た。
私の世界を変えたキョン。私の大好きなキョン。
願わくは、その鈍感さをもう少し何とかして欲しいと思う。
fin
657:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 16:24:08 Ork2I9AH
以上です。お目汚し失礼しました。
前回はキャラを出しすぎて、佐々木が薄れた感があるので
今回は少なめにして佐々木視点で書いてます。
そもそもなんで佐々木がキョンごときに惚れるのか、
本編のセリフから推測(妄想)してみました。
658:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 16:32:03 yztwPo70
GJ!
659:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 16:45:14 68JfXmkS
GJ!
660:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 16:55:16 EBGpHHmu
>>657
GJ
2つ目を読みながら思わずニヤけてしまった
661:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 17:23:24 eclIZJC6
ん?なんか画面にニヤニヤした顔が映ってるんだが
662:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 17:24:17 PD24IBzG
>>656
全俺が感動した!(´・ω・`)
663:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 17:52:23 YcVBn7Wh
>>661
すまん。どうやらそれは私の顔らしい。
664:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 18:13:00 SDgPDIqi
定期あげ
665:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 18:35:30 xnyVZnkI
GJ!
>>663
おかしいな、まだ俺は書き込んでいないはずだが
666:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 18:36:38 ts2APnKs
適わないと情景が気になったけど、とても良かった。メシ前なのに満腹
667:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 18:44:11 EfZP7xar
GJ
アニメ見てたのに
いつの間にかこっちに集中してたぜ
668:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 19:06:05 2KJYOOtv
>>657
キョンごときってww
お前はキョンと佐々木好きの俺を敵に回したw
でもSSはおもしろかったよ
GJ!
669:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 19:16:17 t5FCm57n
GJ!
この後別れが待っている二人に涙
投下します。既出ならすまん。
Lost my music 佐々木Ver
星空見上げ 僕らだけの 光探して
君は今どこで 誰といるのだろう
楽しくしてた頃思うと寂しくなって
二人通った道 一人きりで歩く
大好きな君が遠い 遠すぎて切なくなるよ
明日目が覚めてもまだ この思い変わらない Good night!
I still I still I love you!
I'm waiting waiting forever
I still I still I love you
止まらないのさ
記憶の淵で君がくれた 思い出のOne day
僕が選んだこの 道に悔いはないけど
変わらないよと いつまでもと 笑いあった日々
あのときの言葉も 今は時の彼方
大好きな君の笑顔 今も記憶の中に
いつかまた君と二人 語り合える日夢見て
I lost I lost I lost you!
You're making making my music
I lost I lost I lost you!
もう逢えないの?
大好きな君が遠い 遠すぎて切なくなるよ
明日目が覚めてもまだ この思い変わらない Good night!
大好きな君の笑顔 今も記憶の中に
いつかまた君と二人 語り合える日夢見て
I still I still I love you!
I'm waiting waiting forever
I still I still I love you
止まらないのさ
I still I still I love you!
I'm waiting waiting forever
I still I still I love you
また逢えるよね? ね!!
670:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 19:18:55 lD+5xslt
>>660>>663>>665
ふんっ、どうやら僕の異時限同位体がいるようだな
671:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 19:23:35 2ULxy3Ys
>>657
(゚Д゚)ウマー
佐々木の憂鬱ってのが存在したらそれに載ってそうなエピソードですなあ。
672:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 19:25:35 2KJYOOtv
>>669
これは切ない…
この曲とFirst-goodbyeはもう佐々木の歌だな
673:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 19:38:52 AGrNykNr
橘「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶッ!」
佐「こっちに来て☆ってキョンを呼ぶー」
藤「・・・やりたくないって言ったのにぃー・・・」
九「――意外にノッてる――未来人―――」
佐「いつか成る真の佐々木団を夢み」
橘「欲しがりません勝つまではぁーッ!」
藤「我ら、4人揃って!」
九「――アンチSОS団戦隊――」
全「「「「佐・・・
涼「誰、そいつら」
キ「・・・し、知らん。断じて知らん」
なんというかその、ごめんなさい。
674:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 20:09:00 EfZP7xar
URLリンク(jp.youtube.com)
突然だけどこの曲佐々木にぴったりだと思うんだ
675:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 20:09:52 Y0t8TrE5
>>668
「で? 続きは? そもそもキョンと佐々木のいいところってのは?」
676:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 20:10:57 EfZP7xar
すまん、ミスった、上のはブラクラ
URLリンク(jp.youtube.com)
677:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 20:11:54 SDgPDIqi
定期あげ
678:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 20:17:54 kuDJlpT7
>>676
おいwww
679:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 20:28:15 AiSacVwj
>>419,422,423
*'``・* 。
| `*。
,。∩ * もうどうにでもな~れ
+ (´・ω・`) *。+゚
`*。 ヽ、 つ *゚*
`・+。*・' ゚⊃ +゚
☆ ∪~ 。*゚
`・+。*・ ゚
URLリンク(akm.cx)
ネタ作ってる間に流れが神懸ってたorz
どの作品もGJで、逃げようかと思いました^^;
680:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 20:44:35 2KJYOOtv
>>679
おお!やっぱ上手いな!
GJ!
ただちょっとカオスw
681:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 20:56:23 lD+5xslt
佐々木とくーちゃんかわいいよ
きょこたんはひぐらしのレナかと思ってしまったw
あと佐々木の母親は娘とキャラ違い杉ww
682:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 21:44:57 YcVBn7Wh
「キョンさんは協力……してくれますよね?」
「ま、待て橘。その手にある物は何だ!?」
「あはっ、あはは、あはははははははははははははははっ! アハーハー!」
683:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 21:59:48 2KJYOOtv
なんという鉈女…
684:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 22:39:17 72viDxX4
>>679
Q 佐々木に『よ!今日もいい天気だな!』と挨拶したくなっちゃうのは仕様ですか?
A 仕様です
眠かったのにGJ過ぎて一瞬で目が覚めちゃった…
てへっ☆
685:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 22:45:43 yhJWEOkn
このSSブームに便乗して長編SSを落とします。
686:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 22:47:36 3H4nE9KL
じゃあ全裸で待機しとく!
687:1
07/07/18 22:48:29 yhJWEOkn
5月のゴールデンウィークも終わり、いよいよ本格的に新年度が始まる気配に包まれる。
6月には休日がないというのが、何か国家的な秘密組織の嫌がらせに感じられるね。
今年は例年と比べて暖かいようで、まだ5月だというのに半そでで歩きたいくらいの暑さだ。
早朝強制ハイキングも1年経つともうずいぶん慣れたもんであり、これはもはや俺にとってはありきたりの日常の1ページと化している。
そのハイキングコースを踏破して、教室に入る。
これもまた、俺にとってはありきたりの光景だ。
教室の窓際、ザ・セカンドベストポジションの後ろに座る我らが団長、涼宮ハルヒ。
いつも俺よりも早く学校に来ているあいつに挨拶をして、俺の学校生活は始まる。
そう、いつも通りのありきたりの学校生活が始まるはずだった―
「よぉ、ハルヒ。」
鞄を机に置いて、椅子に腰掛がてら後ろを向いて軽く挨拶をする。
いつも通りに。
そして思えば、ここから全てがおかしかった―
一瞬ハルヒは面食らったような表情で目を丸くした後、すぐに眼光するどく、唇を尖らせ、不機嫌極まった声でこうのたまった。
「何よ。なれなれしく声かけないでよ。」
今度は俺が面食らう番だ。
いくらこいつが機嫌が悪くても、ここ最近はこんな対応を取られたことはない。
「何だよ、朝の挨拶しちゃ悪いのかよ。」
精一杯の皮肉を込めて言ってやった。
まったく、機嫌が悪いのはかまわんが、朝から俺に八つ当たりするなよ。
しかし、帰ってきた返答は俺の予想を大きく裏切るものだった。
「違うわよ。気安く名前で呼ぶなっていってんのよ。」
そう言って、ますます眼光鋭く俺をにらみつける。
なんだよ、全く。
それじゃ、まるで一年前みたいじゃないか―
さわらぬ神に祟りなし、だ。
今日一日はこいつのことは放っておこう。
「悪かったな。」
そうつぶやいて俺は前を向き直った。
なんか、こうやって相手にされないと、こう落ち着かないな。
って、ちくしょう、ハルヒとの朝の会話がそこまで俺の日常生活に当たり前のように組み込まれていたのか。
なんか、改めて驚愕の事実を押し付けられ愕然とする思いだ。
そう嘆息しながら、頬杖をつく俺に本当の意味での驚愕の事実が突きつけられたのは、それから間もなくのことであった。
688:2
07/07/18 22:50:34 yhJWEOkn
「おはよう、キョン。」
「おう、おはよう。」
そう、挨拶を返した直後に不思議な違和感が残った。
聞きなれたイントネーションだが、何かが違う。
俺にそうやって挨拶するのは、国木田か谷口くらいなものだ。
しかし、今の声はそれらよりも明らかに高い。
そして、全くの初見ではなく、俺にとってはどこか聞き慣れた声。
誰だ―
「どうしたのだい?そんなに目を丸くして。あぁ、ご心配なく。僕の風邪はもうほぼ完治したから大丈夫だよ。」
さっ―
「佐々木?」
そう俺は間の抜けた声を上げていた。
隣の席では、佐々木が席について鞄をフックにかける動作をしていた。
少し苦笑いに近い笑みを浮かべながら、
「そんなに僕が学校に来たのが不思議かい?
しかし、キミには僕はインフルエンザでもなく、ただの風邪であるとちゃんと告げたと思うのだが。
だとしたら、一般常識的に3日間の自宅療養は風邪の完治には十分なものであり、別段僕が今日登校していることに対してなんら驚愕すべき点はないと思うのだがね。」
そう苦笑いしながら俺に語りかけると、大丈夫だとでも言わんばかりに右手のひらをくるっとまわした。
違う、そうじゃないんだ―
そうじゃない。
なぜ、お前がここにいるんだっていうことだよ。
689:3
07/07/18 22:51:39 yhJWEOkn
「すまない、キョン。質問の言質が僕には取れないのだが。
これは一週間前の席替えで決まった僕の席順であり、キミもその場にいたはずだし、何よりそれから数日はこの席順で授業を受けていたと僕は記憶している。」
そこまで、しゃべると佐々木はふと気づいたように、俺の顔を覗き込んだ。
よく光る二つの双眸が俺を見ている。
違う、そんなことじゃない。
俺が訊きたいのはそんなことじゃ―
目の前の景色がチリチリする。
まるで、行き先のわからない電車に間違えて乗ってしまったみたいだ。
俺は今どこにいる?
そしてどこへ行こうとしている?
そんな俺の表情を佐々木は見つめている。
「大丈夫かい、キョン。ずいぶんと顔色が優れていないようだが。それに、その汗はあまりよくないものと見受けられる。」
心配そうな声で俺にそう優しく語り掛けてきた。
なぜか、そんなことだが、少し落ち着くことが出来た。
「いや、なんでもない。なんでもないよ。」
俺はこれと似た経験をしている。
あれは忘れもしない、12月の話だ。
現状は全く把握できないが、あの状況と酷似しているのは事実だ。
そのときの教訓。
こういう場合は無理に行動を起こさず周りに合わるほうがいい。
でないと、得られる協力も得られなくなるかもしれんしな。
「すこし、暑さでぼーっとしてしまってるだけだ。大丈夫だ。」
そう精一杯の引きつり笑いを見せる。
「しかし、その汗の量は。熱があるのではないかい?まさか、僕の風邪が―」
そういいながら佐々木は俺の額に手を伸ばしてきた。
反射的にその腕を掴んでしまう。
リアルなやわらかい感触。
間違いない、これが夢である可能性は消えた。
「大丈夫。少し暖かくなったから、つい、走って学校に来てしまっただけだ。大丈夫だ。」
そういいながら右手で佐々木を制し、もう席に着けとジェスチャーを送る。
我ながらへったくそなウソだ。
佐々木は納得いかない表情で俺を見ていたが、始業のベルを聞くとおとなしく席に着いた。
「気分が悪くなったら、いつでも言ってくれたまえ。」
そう、言い残して。
690:4
07/07/18 22:52:42 yhJWEOkn
こういうときに授業があるのは幸いだ。
誰にも話しかけられることなく、考えを巡らせられる。
いったい何が起こっているのか、今自分がどこに、どのような世界にいるのか―
それを把握するのが第一だ。
どうすればいいだろうか。
やはりここで頼りになるのはあいつしかいない。
文芸部の部室の椅子にずっと座りながら読書しっぱなしの、宇宙人製アンドロイド、長門有希。
この状況を打破できる可能性があるのはあいつしかいない。
『前のとき』も結果的にはあいつに助けられたんだ。
よし、昼休みになり次第、文芸部室に行こう。
そう、心に硬く決意を固めると、少し気分が楽になった。
そうなると、善は急げ、だ。
さっさと授業が終わってしまうことを切に願う次第である。
そう思って、やっと黒板を見上げたとき、また奇妙な感覚にとらわれた。
見たことがあるぞ―
いや、そうじゃない。
俺の記憶にある授業の内容はこれじゃない。
違うんだよ。
だって、この授業は1年のときに受けたものじゃないか。
ってことは、まさか―
気がつけば、大学出たての女性英語教師がおびえるような目で俺を見ている。
クラスメイトも全員だ。
「えっ。」
やばい、気がつけば俺は立ち上がっていた。
まずい、目立つような行動は避けると誓ったばかりなのに。
どうする―
「すみません。彼は朝から気分が悪かったみたいなので、私保健室に連れて行ってきます。」
そう言うが早いか、俺の手は隣に座っていた女子に引かれていた。
「あっ、佐々木?」
「早く保健室に行こう。今日の君は明らかにおかしい。」
そう言いながら、俺の手を引きずいずいと教室の出口へ向かっていく。
この佐々木の細い体のどこにそんな力があるのだろうか。
それとも、俺の体から力が抜けていたせいなのか。
とにかく俺は佐々木に引かれるままに歩いていった。
廊下に出る間際に、教室の中を振り返った。
クラスの全員が口をぽかーんとしていやがる。
ハルヒも含めて。
691:5
07/07/18 22:53:45 yhJWEOkn
「なぁ、佐々木。」
佐々木に腕を引かれながら、俺はそう呼びかけた。
「なんだい、キョン。」
佐々木は振り返ることなく、短く切り返してきた。
先を歩く佐々木の髪が歩くたびにサラサラとゆれている。
間の抜けまくった質問だが、ここまでくれば、もうかまわないだろう。
十分すぎるほど俺は変だと思われている。
「いったい今日は何年何月何日だ?」
あぁ、もう恥ずかしかったさ。
振り返った佐々木の目にはもはや憐れみすら浮かんでいた。
そして、佐々木から告げられた日時はやはり俺の危惧していたとおりだった。
ちょうど一年前、ハルヒの奴があの馬鹿げた団を結成した、あの5月に俺はいる。
普通の人間なら卒倒して、本当に熱が出てもおかしくない状況だったわけだが、
いかんせん1年間でたらめ極まりない現実を送ってきた俺には、この手の事件には耐性がついてしまっているようで、
熱が出るなんてこともなく、平熱そのものだった。
「平熱です。」
そう告げると、体温計を保健の先生に返した。
「熱はないみたいだけど、本当に大丈夫かい。」
俺のすぐ隣に立つ佐々木が心配そうに俺を覗き込んでいる。
保健室に着いた時点で、もう大丈夫だから帰ってくれていい、と言ったのだが、心配だ、と言い張って佐々木は俺の検温に付き添っていた。
そういえば、こいつの不安そうな顔なんてほとんど見たことがなかったな。
「あぁ。少し、なんつうか疲れたというかしんどいけどな。」
出来うることなら、家に帰って布団でもかぶって現実逃避したい。
あぁ、なんで俺ばかりこんな目に。
「今日は学校を早退するといい。キミの荷物は次の休み時間にここまで持ってくるから、それまで待っていてくれたまえ。」
悪いがそうはいかない。
昼休みに文芸部室へ行くというのは、今の俺にとって何よりも重要な予定なのだ。
一刻も早く、そうしなければ、本当に熱を出して寝込んでしまう。
「大丈夫だ。すこし、疲れているだけだから。少し休むだけで治るよ。」
佐々木は、キミの体調はキミが一番よくわかっているだろうし、としぶしぶ納得して教室に戻った。
はぁ、しかし、今日俺は朝からいったい何回大丈夫と言ったのだか。
692:6
07/07/18 22:54:52 yhJWEOkn
とりあえず保健室のベッドに横になる。
ここで状況を整理しよう。
今俺のいる世界と今まで俺のいた世界の違い。
わかっている限りでは、ここは1年前の世界であり、前回とはちがってハルヒがどっか別のクラスにいるということもない。
朝倉涼子はいないようだが、代わりに佐々木が俺の隣にいる。
この程度か。
くそ、状況を判断する材料が少なすぎる。
早くこの現状を把握しないと。
早く長門に会わないと―
そんなことを考えているうちに気がつけば眠っていたようだった。
誰かに揺り起こされて目が覚めた。
すいません、ついつい寝こけてしまい―
って、目を開けるとそこには、ハルヒがいた。
「やっと起きたわね。」
「何の用だ?」
ベッドの上半身を起こす。
ハルヒは腰に手を当てて仁王立ちで俺を見下ろしている。
いつものあの輝かんばかりの笑顔―
とまではいかないが、それでもガソリンを満タンに充填した光をその瞳は放っていた。
「ねぇ、あんた。」
獲物を見つけたかのような笑顔。
ただでさえ、いろいろと厄介なのに、これ以上何を引き起こそうっていうんだ。
「今日のあんたの振る舞い、明らかにおかしいわ。そう、まるでこう異世界から迷い込んできたみたいに。」
得意満面な笑顔。
唾を飛ばすな、まったく。
あぁ、残念ながらそのとおりだよ。
「あたしの目はごまかせないわよ。あなたきっとなにか、不思議な目にあったわね。
そう、たとえば宇宙人に誘拐されたとか、いきなり超能力に目覚めて混乱していたとか、実は自分は未来から来たということに気づいたとか!」
宇宙人には誘拐されたというより、改変された世界に放り込まれたって感じだな、前回は。
あと、それ以外はお前の身の回りの人物で説明できるよ。
百ワットの笑顔で俺を見つめるハルヒ。
まるで、ヒーローショーでサインをねだられているような気分だ。
ただ、着ぐるみの種明かしにはまだ早い。
「なんでそんなことに興味があるんだ。」
適当にすっとぼけてやる。
「だってわがSOS団はそういった不思議を求めているんだから!」
頼むから、保健室でそんな大声を出さないでくれ。
ってSOS団?
「おい、ちょっと待て、SOS団?あるのか、今この学校に?」
「何よ、知らないの?まぁ、ビラ配りは途中で邪魔されちゃったからね。」
そう、思い出し憤慨をするハルヒ。
あのバニー姿でやったあれか。
「SOS団のメンバーはどうなっている?長門や朝比奈さんや古泉もちゃんといるのか?」
「何よ、ちゃんと知ってるじゃないの、私たちのこと。だったら変なこと聞かないでよ。いや、でも変なほうがいいか。」
お前の価値観なんか知るか。
そうか、SOS団のメンバーは同じなのか。
いや、違う。
肝心なことがおかしい。
そうだよ―
「なぁ、ハルヒ。俺はSOS団のメンバーじゃないのか?」
「はぁ!?」
目を丸くして固まるハルヒ。
あぁ、名前で呼んでしまったな。
しかし、当のご本人様にはそんな些細なことはどうでもよかったらしく、
「やっぱりあんた何かおかしいわよ。
何?宇宙人が私たちの組織に送り込んできたスパイに改造でもされたの?自分がSOS団メンバーだと洗脳するような手術を受けて!」
目がキラキラしてきやがった。
同じ改造されるなら何か特殊な能力でも付けてほしいよ。
憎らしいほど今は何も出来ない自分の平凡さが身にしみる。
693:7
07/07/18 22:55:54 yhJWEOkn
「変わった組み合わせだね。」
入り口のほうから声がした。
佐々木がこちらを見て立っている。
心なしか少し声がとげとげしくないか?
「昼休みでお腹が空いただろうと思って、キミの鞄を持ってきたのだが、僕はお邪魔だったかな?」
「いや、別にそういうことはない。」
「そうかい?」
佐々木は手に持った鞄を俺に手渡した。
「本当はキミの昼食だけ持ってくればよかったんだろうが、人の鞄に許可なく手を突っ込むというのはモラルに欠ける行為に思えてね。鞄ごと持ってきたというわけだ。」
「そうか、わざわざありがとう。」
昼休みか、長門のところへ行こうと思っていたんだが、この状況じゃな。
まぁ、長門がこの学校にいるということがわかったし、放課後でも問題あるまい。
少し安心した。
「涼宮さんは彼に何の用があったのかな?」
今度は佐々木はハルヒの方へ向き直り問いかけた。
「別に。大した話じゃないわ。」
ハルヒはくるっと背を翻すと、お得意の右手を払ってどうでもいいというポーズを取った。
「そう?正直、あなたが彼の見舞いに来るなんて、意外だったから。」
見慣れたはずの佐々木の笑顔。
しかし、なんだ、この背筋が凍るような恐怖感は。
「ちょっと訊きたいことがあっただけよ。ほんじゃね。」
そう言うが早いかハルヒはサッと保健室から出て行った。
佐々木は俺のほうへ向き直り
「涼宮さんとはどんな話をしていたんだい?」
どんなって―
「俺の改造人間疑惑について。」
2秒ほど間をおいて
「まったく、彼女は。本当にそういうのが好きだね。」
そう言うとあきれ返るようにため息をついた。
694:8
07/07/18 22:56:56 yhJWEOkn
せっかく佐々木が弁当を届けてくれたので、ありがたくそれを賞味させていただこう。
しかしながら、保健室で弁当を食うというのも何か変な感じだな。
そんなことを思いながら弁当を広げていると、佐々木が俺の隣にチョコンと座った。
「?」
訝しがる俺の横で、佐々木は自分の弁当をテーブルに置き、包みを解いた。
「ん?あぁ、一人で昼食では寂しいだろうと思ってね。」
俺の視線に気づいた佐々木はそう答えた。
こいつが隣にいる昼飯は中学時代を思い出させる。
実は気が滅入ってすこし食欲が失せていたのだが、佐々木が隣にいるおかげで気分が落ち着いた。
「キミの様子がおかしいのを面白がってわざわざ保健室まで来るとは。まったく、なんとも形容しがたい人物だね、彼女は。」
と独り言のようにしゃべりながら箸を動かす。
ハルヒの奇矯な振る舞いは、俺にとってはもう慣れてしまったことなので、なんとも思わないがね。
「でも、彼女がクラスでまともに会話をするのは何の因果か、キミだけか。まったく、実にキミは人から好かれ―人に話しかけられやすい体質をしているよ。」
俺自身望んだわけではないけどな。
「しかし、涼宮さんではないが、今日のキミの振る舞いは実に奇妙だ。宇宙人に改造されたとは思わないまでも、まるで、こう白昼夢の中にいるようだよ。」
卵焼きを箸で口に運びながら、目だけを俺のほうへ向けて佐々木はそう言った。
「あまり気にしないでくれ。なんというか、こう…そういう気分だったんだ。」
最低な言い訳だが、俺にはこの状況を一切の齟齬なく伝える語彙力はない。
「そうかい。まぁ、そうやって世界の見方を変えようとすることは悪くはないと思うが。ただ、もう少し、スマートな方法を取ってもらいたいものだね。」
そして、佐々木は喉の奥からくっくっと笑い声を上げた。
「ところで、これからどうするのかね。顔色はずいぶんよくなったようだが。早退する?それとも教室に戻るかい?」
昼休みの校庭の喧騒が俺を追い立てているような気がした。
695:9
07/07/18 22:57:58 yhJWEOkn
結局、俺は教室に戻った。
正直、クラスの連中から向けられる奇異の視線は痛くて仕方なかったが、放課後文芸部室を訪問するという最優先課題があるため仕方がない。
保健室でももうこれ以上寝かせてはくれないだろうしな。
谷口のアホがうれしそうに近づいてくる。
「お、うらやましいねえ。かわいい彼女が保健室まで連れて行ってくれて、あげくお弁当まで届けてくれるなんて。」
「だって佐々木さんはわざわざ、もっとレベルが上の高校へ行けたのに、先生と両親の反対を押し切ってキョンにあわせて北高に来たくらいだからねー。」
国木田が余計なフォローを入れる。
うるさい。
悪いが、お前にかまっている余裕はないんだ。
「あー、つれないねー。俺も早く彼女作りてー。」
両手を挙げてあきれ返るようなしぐさをして谷口のアホは離れていった。
国木田もなんともいえない笑みを浮かべながら谷口についていく。
まったく。
お前だけはいっぺんくらい性格を変えられろ。
佐々木も何か言い返してやれ。
そう佐々木のほうへアイコンタクトを送る、しかし
「ん?まぁ、いつものことだ。気にする必要はないだろう。」
とあっさり笑い飛ばされてしまった。
まぁ、こんなことで今は神経を使っている場合ではないな。
席について、気がついたように後ろを振り返ってみる。
やはり、あいつの姿はない。
また、休み時間ぎりぎりまでどこかをほっつき歩いているな。
あいつだけは本当に変わらないな。
696:10
07/07/18 23:00:08 yhJWEOkn
6時間目の授業も滞りなく終わった。
最後のHRを終えて、教室がざわめきだす。
さてと、俺もこちらの世界での長門と朝比奈さんとついでに古泉の顔でも拝みに行くか。
そう思って、立ち上がろうとした俺の背中を後ろから叩く奴がいた。
涼宮ハルヒ。
俺が振り返ると「わかっているでしょ?」と言わんばかりににやっと笑った。
わかっているよ、こっちだって一刻も早く助けを求めに文芸部室に行かねばないんでね。
ただし、お前に助けを求めるわけではないけどな。
それからハルヒは何かを言いかけたが、ちらりと右隣を見ると、左手を軽く上げてさっさと教室を出て行った。
ハルヒの視線の先で佐々木がこちらの様子を見ていた。
「いつのまにか随分と親睦を深めたみたいではないか、キョン。」
そう皮肉に包まれた笑顔を俺に向ける。
何が言いたいんだ。
そんな俺の心情を察したのか、その皮肉の色合いはすぐに和らぎ、
「さてと、それじゃあ帰ろうか、キョン。」
鞄を担ぎ上げた佐々木が俺の目を見つめている。
「悪い。今日は寄るところがある。」
何かうまい嘘でもついてごまかしたいような衝動に駆られたが、別に佐々木相手に隠すようなやましいことをしているわけではない。
けど、なんで佐々木に見つめられてこんなにうしろめたい気分になるんだ。
「わかった。では、また明日。じゃあね。」
数秒ほど間をおいて、佐々木はそう挨拶すると俺より先に教室を出て行った。
なぜかこの小さなウソが、今日一番俺の心に重くのしかかった。
697:11
07/07/18 23:01:32 yhJWEOkn
歩きなれた旧校舎への道を歩く。
むかつくくらいにいつもと同じだ。
文芸部室の扉の前に立ち、ドアノブに手をかける。
おそらくハルヒがあの時言いかけた言葉は―
「やっぱり来たわね!」
ドアをあけるとハルヒが脳内核融合でも起こしているのではないか、と見間違わんばかりの笑顔で俺を出迎えた。
本当に用があるのはお前じゃないんだけどな…
部室内を見渡す。
長門はいつもの位置で時間が止まったかのように読書中。
メイド服姿の朝比奈さんが、「わ、お客さんですかー。」とかわいいらしい声を上げながら、ぱたぱたとお茶を入れる準備をしている。
古泉の奴は目が合うとむかつくくらいにさわやかなスマイルで会釈をした。
さて、果たしてこの部屋にいるメンバーがどれだけ俺の知っているSOS団なのか…
「で、なに?わがSOS団にやってきたということは当然不思議なネタを持ってきたんでしょ?宇宙人にさらわれた、実は自分が未来からやってきた未来人とか、自分の超能力者に気づいたとか!もったいぶらずに早く教えなさい。」
ハルヒ、お前にこんなことを言うだけ無駄だと思うが、敢えて言わせてもらう。
空気を読んでくれ。
それと今の俺はお前のご注文の中では異世界人に近い。
しかし―
冷静に考えればこれはネタフリとして悪くない。
そう、このSOS団の正体を確かめるんだ。
「さすが、ハルヒ。そうなんだ。俺がここへ来たのは、今朝自分の正体を知ってしまったからなんだ。」
ハルヒの瞳孔が獲物を見つけた猫のように広がる。
心なしか古泉のスマイルが若干硬くなった気がする。
「実は俺は未来から送り込まれてきた未来人であるということに今朝気がついたんだ。そして―」
「そして?」
「そこにいる朝比奈さんも俺と同じ未来からやってきた未来人だ。」
そして朝比奈さんを指差す。
お茶を入れようとポットに手をかけた朝比奈さんの表情がみるみる変わっていく。
驚愕の度合いが臨界値を超えてしまったようで、震えながら今にも泣き出しそうな目で俺を見ている。
古泉の野郎は一瞬険しい表情を見せたような気がしたが、すぐにいつものスマイルに戻った。
不気味なくらいに安定したスマイルに。
長門は―
まぁ、今の長門の表情の変化を読み取るのは俺には無理な話だ。
ハルヒの奴はぽかーんとしていやがる。
しかし、今の反応でわかった。
古泉や長門にはカマをかけてもこっちの思惑には乗ってくれないだろう。
だとすれば、この人しかいない。
純真無垢なこの人を騙すような真似をするのは心が痛むが、仕方が無い。
許してください、朝比奈さん。
けど今ので、大体わかりましたよ。
さて、この微妙な空気をどうするか―
698:12
07/07/18 23:02:48 yhJWEOkn
「なんていうのは、うそピョンだ。」
我ながら最低ここに極まれり。
その瞬間世界が停止したかと思った。
ハルヒの奴は開いた口からさらにもう一段階あごを落としたが、すぐに気を取り直し、
「ちょっと、なんなのよ、それ!」
唇をすねたペリカン状にし、俺を鋭い目でにらみつける。
「冗談だよ、ただの。」
「私は忙しくて仕方が無いっていうのに、そんなしょうもない冗談を言いにわざわざ来たわけ?」
わざわざ俺の登場を待っていたお前のどこらへんがどう忙しいのか、400字以内で説明してくれ。
「みくるちゃん!こんなアホにお茶なんて淹れる必要ないわよ!」
ポットに手をかけたまま固まっていた朝比奈さんにハルヒの一喝が飛ぶ。
朝比奈さんは正気に戻ったように、「は、はい。」と返事をするとお盆を抱えて後ろに下がった。
「まったく、ほんっとくだらない。今朝からあれはこのしょうもない冗談の前フリだったわけ?」
拗ねまくるハルヒ。
こっちも冗談だったらどれだけうれしいことかね。
「あ、わかった!」
「…なにがわかったんだ?」
「ふふーん、そういうことね。」
拗ねていたかと思うと、一転不敵な笑みを浮かべてあごに手を当てていやがる。
「何だって言うんだ?」
「あんた、みくるちゃんとお近づきになりたくてあんなしょうもない冗談をいったんでしょ!
あ、それとも有希かしら?あの子もちょっと変わってるけどマニアックなファンがいそうだわ!」
おい、何、脳内妄想を繰り広げていやがる。
「けど、あんたもねー、有希やみくるちゃんとお近づきになりたいっていうのはわかるけど、あんたにはちゃんとした彼女がいるでしょ?
そういうモラルのない恋愛は団長として断じて許せないわ。」
腰に手を当てて、どうだ、と言わんばかりに俺を不遜ににらみつける。
「悪いが、俺には彼女なんていない。」
「何言ってんの。あんたが佐々木さんと付き合っていることくらい私だって知っているのよ。それをすっとぼけてごまかそうなんていやらしい。」
「それは誤解だ。」
「何が、誤解よ。そうやって、ごまかせると思っているの?
ちゃんと、佐々木さんっていう立派な彼女がいるくせに、それでみくるちゃんや有希に手を出そうっていうんだから、ほんっとあんたって最低。人間のクズね。」
「だから違うって言っているだろ。」
「しつこいわね。この期に及んでまだ言い逃れするの!」
今朝から色々あったせいだろうか、ハルヒの軽蔑しきった目で見られた俺は一瞬で頭に血が上ってしまった。
「断じて違う!」
気がつけば自分でも信じられないくらいの大声で叫んでいた。
俺の迫力にハルヒも思わずたじろいでしまったようだった。
部室内に静寂が訪れる。
そして、その静寂を破ったのは意外な人物の声だった。
699:13
07/07/18 23:04:11 yhJWEOkn
「それは何が違うって言う意味かな?」
聞き慣れた声が俺の背後からした。
まるでナイフを後ろから突き立てられたように、俺はあわてて振り返る。
佐々木―
佐々木が両手に鞄を持って、俺が開けっ放しにしたドアのところに立っていた。
「佐々木…」
「キミの事が心配で様子を見に来ただけで、盗み聞きするつもりはなかったんだが。」
目を伏せたまま。
深海に沈んでいくような錯覚すら与える重い声だ。
「キミがそこにいる女子たちを目当てで涼宮さんに近づいたことを否定しているのか、それとも僕と恋愛関係にあることを否定しているのかは僕にはわからない。」
少し間を置くと、佐々木はその大きな瞳で俺を捕らえた。
「でも、もし後者を否定しようとしていたなら、確かに僕たちはそういう誤解を受けてきたわけで、それは僕も認めるところだ。けど―」
佐々木の瞳に今まで見たことのない表情が浮かんでいた。
「そんなに力強く否定しなくてもいいじゃないか」
空虚な笑み。
胸が痛む。
心に突き刺さる。
返す言葉が見当たらない。
どう返せばよかったんだ?
佐々木はそのまま身を翻すと、廊下を走って去っていった。
うつむいたあいつの横顔は前髪に隠れて、その表情を伺うことはできなかった。
700:14
07/07/18 23:05:24 yhJWEOkn
俺はその場にアホみたいに突っ立っていた。
完全に思考停止。
気がつけば、元の世界に戻ることなんてどうでもよくなるくらいに。
「あたしさ。」
ハルヒが重たそうに口を開いた。
「最初はあんたをSOS団に誘おうと思っていたのよ。あの英語の時間に思いついたときに。」
顔をあさっての方向へ向けながらハルヒの独白が始まった。
「で、それからあんたを連れ出してやろうと思った瞬間に、佐々木さんがこっちを見ているのに気がついたの。
なんていうか、こう、あたしまで切なくなるような目で。だから、結局わたしはあんたを誘わなかったのよ。」
そんなこと初耳だよ。
この世界では。
「あんたは馬鹿みたいに鈍感だから気づいていないかもしれないけどね。」
お前にだけは言われたくないよ。
「後で佐々木さんに謝っといて。悪かったって。」
「自分で言えよ。」
「うるさいわね。わたしの言うことにはちゃんと従いなさい、キョン。」
この世界へ来てハルヒにはじめて名前を呼ばれた。
結局のところ、俺は長門に助けを求めるような気分にとてもなれず、そのまま部室を出た。
佐々木はどこへ行ったんだろう。
そのまま家へ帰ったのだろうか。
気がつけば、そんなことばかりを考えていた。
「あの、キョンくん、でいいのかな。」
廊下を一人歩く俺を甘い声が呼び止めた。
「朝比奈さん。」
メイド服の上級生は肩で息をしている。
走って俺を追いかけてきてくれたみたいだ。
「あの、その、あの佐々木さんって女の子とはちゃんと仲直りしてくださいね。え、と、なんていうか、その…」
「わかっていますよ。俺もあいつとこのままなんていやですし。」
それは偽らざる俺の本心だ。
「はい。」
そうやって微笑みかける俺に応えるように、朝比奈さんも微笑んでくれた。
「あ!え、え~と。あのわたしが未来人っていうのは、その…」
あぁ、あなたにとってはそっちが本題ですよね。
「あぁ、それですか。それはですね…」
「それは?」
「禁則事項です。」
そう言って、俺は人差し指を口に当てた。
701:15
07/07/18 23:06:41 yhJWEOkn
部室から校門までの道で佐々木らしき影を見ることはなかった。
本来なら、走ってでも追いつくべきなのだろうが、今の俺にはあいつにかける言葉が思い当たらない。
重たい足取りで帰路に着く。
ちょうど家の前くらいの道で予想通りあいつが待ち構えていた。
「よう。待たせたか?」
「まるで僕がここであなたを待っていることを知っていたような言い草ですね。」
そいつは爽やかスマイルのまま右手で髪をかき上げる。
お前の行動なんてワンパターンだしな。
「で、俺に色々と聞きたいことがあると思うが、疲れてるんで手短に頼む、古泉。」
「わかりました。まず、取り急ぎ僕が確認しなくてはならないのはあなたの正体です。」
「ハルヒに近づく人間の身辺調査は『機関』とやらがやっているんじゃなかったのか?」
「よくご存知ですね。確かにあなたは我々の調査では涼宮さんと全く関係のない普通の人間、のはずでした。」
「過去形ってことは何だ、今は違うっていうのか。たとえば能力を発揮する場所を限られた超能力者になってしまったとか。」
古泉はふっふっ、と笑うと
「いえ、あなたは僕たちの仲間ではありません。長門さんに確認をとったところ、未来から来たわけでもない、この時代のただの何の変哲もない普通の人間であるとのことでした。」
長門のお墨付きなら間違いないな。
「そうか。んで、何がご不満だ?」
「だからこそです。あなたが我々『機関』や未来人、もしくはそれに対立するような組織と接触した形跡が全くない。
にも拘らず、我々の正体について、ひいては涼宮ハルヒの能力についてもよくご存知のようだ。
あなたはせいぜい涼宮さんがまだ少し好感を持っている程度の人物に過ぎない。
それが我々には納得できないのです。」
まぁ、それらについては体験学習させていただいたしな。
「実はそれは俺にも納得できない事態なんだ。」
「と、いうと?」
「そうだな。俺はお前にとっては一年先の未来から来た異世界人といったところか。」
古泉は額に手を当ててあきれ返るようなしぐさをすると、
「一見冗談のように聞こえますが、けど納得はできる答えですね。」
そういうことだ。
また、俺について新しい情報が入ったら教えてくれ。
「わかりました。特に問題もないようですし、今のところはあなたの説明を信じることにしましょう。」
新川さんや、森さん、多丸兄弟にもよろしく言っといてくれ。
古泉は前髪を軽く指ではねると、爽やかスマイルのまま
「伝えておきましょう。では。」
702:16
07/07/18 23:07:47 yhJWEOkn
「あぁ、そうだ。一つ訊きたいんだが。」
「なんでしょう?」
「佐々木は…いや、なんでもない。」
「あなたのお友達、でいいんですよね、あなたの言葉を信じるならば。」
その回りくどい表現は何が言いたいんだ。
「彼女は普通の人間ですよ。それこそごくありきたりの。」
「そうか。」
なぜか俺は少し安心した。
橘京子や自称藤原が出てくる心配はなさそうだな。
「ええ。」
古泉はにこやかに相槌を打つ。
「そういえば、相変わらず不思議探索という名の市内散策はやっているのか?」
「ええ。涼宮さんの気が向けば。」
「そうか。あいつは相変わらずくじ引きでグループ分けをしているのか?」
「いえ?我々は4人一緒に行動していますよ。」
「そうか。」
703:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 23:08:12 2KJYOOtv
支援
704:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 23:08:44 68JfXmkS
支援
705:17
07/07/18 23:09:01 yhJWEOkn
疲れ果てた。
一日がここまで長く感じられるとは。
家の玄関を開けると、一足先に家に帰っていた妹がうれしそうに駆け寄ってくる。
「キョンくん、おかえりー。」
ただいま。
っていうかお前はこの世界でも俺をそう呼んでいるのだな。
「ご飯出来てるよー。」
「わりぃ。今日は疲れているから少し部屋で休んでから食うよ。」
正直、妹の相手をする体力も精神力も残っていない。
「ふーん。」
お前は悩み事がなさそうでいいな、妹よ。
「ところで、お前。」
「何?」
「佐々木って知っているか?」
何気なく聞いた質問の答えは意外なものだった。
「佐々木って?佐々木のおねえちゃん?当たり前だよー。よくうちに遊びに来るもん。」
キョンくんなんか変だよ、という妹の声を無視して質問を続ける。
「あいつはよくうちに来るのか?」
「うん。キョンくんの勉強が心配だからって、勉強を教えに。あと、キョンくんが問題集を解いている間暇だからって、たまにお母さんの晩御飯の用意も手伝ったりしてるよ。それで晩御飯も一緒に食べるの。」
相変わらず俺はあいつに心配ばかりかけているのか。
いや、それ以前にこれじゃ本当に付き合っているみたいじゃないか。
「お母さんがキョンくんのお嫁さんの心配はこれでいらないわーって喜んでいるよ。」
母親と佐々木が並んで台所に立って料理しているところを想像した。
俺の文句などを言いながら、二人で笑いあって料理している姿を。
それで、佐々木と一緒に晩飯を食っている俺の姿を。
「で、晩御飯を食べたら、キョンくんが佐々木のおねえちゃんを自転車でおうちまで送っていくのー。」
俺には知りうるはずもなかった。
あいつがどんな顔で俺に勉強を教えてくれているのか。
あいつがどんな顔で母親と一緒に晩飯の支度をしているのか。
あいつがどんな顔で俺たちと食卓を共にしているのか。
そのとき俺はあいつにどんな言葉をかけているんだ。
自転車で送っていく間、あいつがどんな表情をしているんだ。
俺たちはどんなことを話しているんだ―
そう、俺には知りうるはずもなかった。
今のこの「俺」には。
706:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 23:09:06 rAxvS0Ic
支援
707:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 23:10:01 68JfXmkS
支援
708:18
07/07/18 23:10:07 yhJWEOkn
暗い部屋のベッドに腰掛ける。
そして俺は考えを巡らせていた。
この世界は以前の場合とは違って、ほとんど全てが俺の知っている世界と同じだ。
唯一の例外は佐々木、俺の中学校のクラスメイトが同じ教室にいることだけ。
あの時佐々木はどんな気持ちでいたのだろうか。
今の俺にはわからない。
この世界でのあいつとの思い出を俺は何一つ共有していないのだから。
そう思った刹那、今朝の国木田の言葉が頭に浮かんだ。
―佐々木さんはキョンと一緒にいたいから北高に来た。
確かに、そんなことを言っていたはずだ。
ベッドから跳ね上がり、俺は部屋の電気を点ける。
そして、机の上のアルバムを開いた。
ここにはあるはずだ。
この「俺」の知らないもう一人の「俺」の記憶が。
中学の卒業式の写真―
しかめっ面か笑っているのかよくわからない表情をしている俺の隣で、卒業証書を持った佐々木が笑っている。
あいつのこんなにいい笑顔、俺は見たことはなかった。
そして、次のページには、入学式。
北高の制服を着た俺と、セーラー服姿の佐々木が桜並木を背景に写っていた。
両手を後ろに組んで、少し胸を張ったあいつは年相応に幼く見えた。
そんなに嬉しそうな顔をするんじゃねえよ―
胸が締め付けられる。
俺のいた世界で、佐々木が県外の私立高校へ行くと告げたとき、あいつは何を思っていたのだろうか。
そういえば俺のいた世界であいつがどんな制服を着ていたのかすら知らなかったな。
机の上に無造作に置かれたホッチキスで留めたレポート用紙の束が目に入った。
見覚えのある字で、『中間テスト対策』と書いてある。
テストに出そうな問題と、そのチェックポイントを丁寧に色ペンで書き込んであった。
俺なんかのために、ね―
お前がどんな気持ちで、どれだけの想いで、俺と同じ高校を選んで、俺なんかの面倒を見てくれたかなんて、まるで知らないっていうのに。
お前が教えてくれた勉強も、お前の作ってくれた晩飯の味も知らないんだよ、俺は―
709:19
07/07/18 23:11:12 yhJWEOkn
ベッドの上にうなだれるように倒れこむ。
蛍光灯が憎らしいくらいに白い光を放っている。
もしも、この世界にいる俺と今の俺が入れ替わってしまったっていうなら、早く元いた場所に帰らないといけない。
俺自身のためにも、佐々木のためにも。
携帯電話を開く。
俺の予想が正しければ、そこにあいつの番号があるはずだ。
電話帳の中身を確認する。
そこにハルヒや朝比奈さんや古泉の番号は登録されていない。
長門の家には電話はつながるだろうか。
いや、今は長門を頼るべきではない。
俺が今やるべきことを俺自身がやらなくてはいけない。
携帯の着信履歴を開く。
携帯のディスプレイは佐々木の番号を表示している。
けど、コールをかける勇気が俺には出なかった。
俺はあいつの知っている俺とは違う。
俺は、この世界の俺があいつとつくってきた思い出を何も知らない。
会ってどうするっていうんだ。
どうしたらいいんだ。
710:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 23:13:35 68JfXmkS
支援
711:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 23:14:34 rAxvS0Ic
支援
712:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 23:18:54 lD+5xslt
支援する意味があるのかわからないが一応支援
713:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 23:21:29 68JfXmkS
>>712
支援は連続投稿規制を避けるために必要なのですよ
714:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 23:25:05 pjq1bG42
そうかなら大いに支援しようの団SOS団だ!!
715:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 23:27:20 rAxvS0Ic
この 間 は ソレになってしまったのでわ
716:名無しさん@お腹いっぱい。
07/07/18 23:27:23 lD+5xslt
成る程
あり?
支援してるのにもしかして引っ掛かったか?
717:20
07/07/18 23:28:04 L3ElLzp9
握り締めた携帯を開く。
漠然とした期待と不安が頭をよぎる。
受信メールボックス。
そこに昨日届いた佐々木からのメールが入っていた。
―
From: 佐々木携帯
Subject: Re:風邪
風邪は大丈夫。インフルエンザではないようです。だ
いぶ楽になってきたから明日には学校に行けると思い
ます。キミの家を訪問した夜に熱が出たので、キミに
も風邪がうつっていないかが心配です。まだ夜は冷え
るから体には気をつけて。じゃあ、明日学校で。
―
馬鹿野郎。
自分が風邪引いているくせに、俺の心配なんかすんなよ―
俺はお前との思い出なんて何も知らないのに。
携帯を持つ手が震える。
携帯のディスプレイに表示された文字が滲む。
今日の部室での俺の言葉をあいつはどんな気持ちで聞いていたんだろうか。
あいつをどれだけ傷つけたんだろうか。
もしも、俺が元の世界に帰れなかったとしても、せめてあのときのあの言葉だけは取り消させてくれ。
なぁ、悪戯好きの神様―