07/07/10 19:02:40 KhLm4Q1V
「私は、自分の想い人が理不尽に傷つけられて、安穏としていられるほど寛大ではないわ。
もし今後もあなたが反省せず、同じことを続けるのなら、目には目を、たとえでっち上げ
てでもあなたに同様の苦しみをしてもらうから」
覚悟して、と言いよどむことすらない、一方的な通告をしてのけた。この状況で、あの
迫力で言われて、戦意を保っていられ人間は果たして何人いるのだろう。
これが本気の佐々木さんか。思わず僕は舌を巻いた。敵に回らなくて本当によかった。
多少肩身の狭い思いをしても、キョンと接し続けて本当によかった。キョン、僕も今君と
の友情をかみ締めているよ。
けれど、佐々木さんがすごかったのはここからだったのだ。
完膚なきまでに言い負かされ、うつむく彼女に
「あなたも誰かを好きになったのなら、この気持ち解るでしょ?」
一転して優しい言葉をかけた。
それはそれは見事な手際だった。叩かれ、罵られ、制裁通告され、ぼこぼこにされた彼
女にとって、それは救いの言葉となったんだ。不意に掛けられた言葉に、彼女は泣き崩れ
た。同時に頑なになった心もほどけたのだろう、
「ご……、ごめんなさい」
と素直に口にしていた。
「その言葉はキョンに言ってあげて。私のほうこそ、叩いたりしてごめんね」
謝罪をあっさり受け止める佐々木さん。
感動の和解だ。クラスの皆もさっきとは違い温かい眼差しを二人に向けている。
もしもあのまま打ち負かせただけだったら、彼女はクラスから浮いた存在になっていた
かもしれない。佐々木さんはその口から謝罪の言葉を引き出し、自分があっさり受け入
れることで、無理やりハッピーエンドを作り上げたのだ。なんて手腕だ。
まあ、なんにせよ、これでこの騒動も一件落着かな。さっきまでの緊張も解け、思わず
顔が弛緩する。クラスのみんなも同じようで、暖かな空気が教室を包んでいた。
けれど、そんな空気などこれっぽっちも読まない男がいた。そう、キョンだ。
「お~い、国木田。次の古文の予習見せてくれよ。日付から見て今日俺当たるかもしれな
いんだ」
間抜けな声が耳に入ってきた。
暖かい空気が一瞬で凍りついた。みんなが恐る恐る佐々木さんのほうを見やる。僕の角
度からは顔が見えないけど、向こう側にいた中河には見えたようだ。固まっている。
「い、いや、今はちょっと……」
「何だよ、他の奴に貸してんのか。しょうがねえな」
必死になって現状を伝えようとするけれど、そこはキングオブ鈍感、まるで気付きもし
ない。そして
「じゃあいいや。おい、佐々木、古文のノート見せてくれ」
よりにもよって一番選んじゃいけない選択をしてしまった。
「……キミってやつは……」
「ん?何だ?お前も誰かに貸してるのか?」
「キミのために僕がどれだけ……」
「どうしたんだ、佐々木?体調でも悪いのか?」
「くぅっ!!」
スパアァーーン
本日二度目の音が教室内に響き渡り、クラス全員のため息が合唱された。
ここまででまた一段落
まだ続きます 申し訳ない