07/08/02 01:01:22 5oMpwHtF
「…………ジロウさん。……山狗は何億円かのお金で転んでくれたわ。
……まだ私の手元には1億ちょっと残ってる。…あなたは、いくら払えば転んでくれるの…?」
「……君が一番ほしいものが、いくらで買えるかを、考えてみるといい。」
「…………………こんな時にキザな例えだこと。……お金では買えないって、言わせたいのね。」
「……………諦めるんだ。山狗は飼いならせても、僕は飼いならせない。」
「それを、転ばせたいと言ってるの。……あなたが望むなら、……お金だけじゃない。…何でも与えるわ。
私の髪の毛一本から、爪先の先端まで、あなたのものにしていい。
靴を舐めろというなら、今この場で舐めてもいいわ。 ………それでもまだ足りない?」
富竹は何も答えなかった。…それは沈黙という名の肯定ではなく、…鷹野に伝えたいことは全て伝えた
という意味の、 …今の鷹野にとって最も寂しい形での沈黙だった。
「……あなたより毎朝早く起きて、朝食を作るわ。……待ち合わせ場所には必ずあなたより先に来る。
……二度とあなたを待たせて試すような真似をしない。
…………それでも、………駄目なの……? …………ジロウさん…。」
もう富竹は、…何も答えなかった…。
……机の下に伏せる富竹には鷹野の表情は見えない。……でも、…わかる気がした。
だからこそ、……今は不必要な言葉をかける時ではない。
…富竹の今かけられるたったひとつの気遣いだった…。