07/06/24 00:01:46 +1M77JMH
プロローグ
それは親友というよりも、子供に対する親の愛情に近かったのかもしれない。
私はせめて自分が死ぬまで、この永遠に終わらない6月の「その時」が来るまで、沙都子の笑顔を見て過ごしたかった。
「沙都子…………?」
でも、私はそんなわずかな望みさえ叶えることができない。買い物から帰って、誰もいない家の中のがらんとした沈黙が私にそれを知らしめた。
手からスーパーのビニール袋がするりと抜けて落ちた。買ってきた野菜が袋からこぼれ出て床を転がる。
学校の帰り、沙都子は今日は洗濯物を取り込む用事があるから、買い物に行っておいてほしいと私に言って先に家へ帰ったはずだった。
無機質な沈黙が部屋の中を覆い尽くしていた。取り込まれていない洗濯物、置手紙一つもなしに消えてしまった沙都子、これらの意味することは一つしかない。沙都子の叔父が帰ってきたのだ。
私は落ちた野菜を拾うこともせずに、そのまま家を出た。向かう先は北条の家。沙都子の叔父が帰ってきて、沙都子を連れて行ってしまったならば、今彼女はそこにいるはずだ。
本心ではその時点で半分あきらめていたのかもしれない。過去にこんなことは何度もあった。そのたびに沙都子の顔から笑顔が失われていくのを見てきた。
辛かった。土色に濁らせた目を下に向けた沙都子の姿をもう二度と見たくなかった。
でも、運命は無情にもまた最悪の目を出した。ここは私が最も望まない世界。私にとって死ぬより辛い、沙都子が壊れてしまう世界だった。
どうせ私が死ぬことは決まっている。だから、いっそここで腹を裂いて死ねるならそうしたかった。そうすれば少なくとも、沙都子の泣き顔を見ることをしなくてすむのだから。