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そしてよろけて崩れそうになった。俺は肩を抱いて支えた。どうすりゃいいんだ? 救急車を呼ぶべきか?
「―大丈夫……大丈夫です―いつものことなんです―」
彼女は大きく呼吸しながら言った。息が耳にかかる。
「いつものことって言っても……」
地面に落ちているカバンから、生徒手帳がはみ出ていた。
周防九曜……彼女の名前か。住所は……なんだ、すぐ近くじゃないか。
「―そうです……だから……心配しないで―?」
「いや、送っていくよ」
もともと俺の不注意だ。彼女……九曜は長いこと俺を見ている。ちょっと距離が近すぎるぜ。
「―ありがとう―」
九曜は見つめあっていることにようやく気付いたのか、慌てて視線を落とした。なぜか俺まで恥ずかしくなった。
「立てるか?」
ごまかすためにそう言うと、九曜は俺にすがって、よろけながら立ち上がった。
俺より頭ひとつ低い。立てたのはいいがかなりあぶなっかしい。また倒れそうになり、俺の腕を抱えるようにしてなんとかとどまった。
「―じゃあ……おねがいします―」
おい、このまま送ってくのか? やむを得ないとはいえ端から見れば真っ昼間からベタベタしてるカップルみたいだぞ。
そんな俺の心の声にもかかわらず俺達は歩きだした。九曜にあわせるのでひどくゆっくりだ。
「―あの……ありがとうございます…………また迷惑をかけちゃって―」
いや、何回も言うけど悪いのは俺だ。ていうか『また』ってどういうことだ?
九曜はうつむいている。
「―距離ゼロの範囲で同時存在……」
「なにか言ったか?」
「―い、いいえ―」
九曜はいっそううつむいた。
『また』か……。長門といいこの周防九曜といい、こっちの世界の俺はやたらと恩を売ってるらしいな。
「―じゃ、じゃあ……このへんで―」
九曜が俺を見上げながら言い、俺の腕から離れた。なんだ、この胸を締め付けられるような感覚は。
「―ありがとう……ございました――」
九曜はそう言いながらふらっと倒れそうになり……、またも俺はとっさに九曜を抱え込んだ。
そして俺は九曜に黒と白以外の色を見つけた。腕の中でぼんやりと俺を見つめる九曜の頬に薄く桃色がさしている。
ああ、もうずっとこの世界にいちまってもいいかな。そんなことを、俺は思った。
了