07/04/08 00:50:52 lKLD2eDo
「もう開けていいわ」
目を開いた時、既に世界は変わっていた。雑音一つ無いセピア調に彩られた世界。
ここにいるのは俺と橘京子だけ、確かに他の奴に聞かれる心配は無いな。
「それにこっちの方が落ち着くし、時間の流れも向こうよりゆっくりだから」
「そうか。そいつはよかったな。じゃぁ聞かせてもらおう、佐々木のことで話ってのはなんだ?」
正直ここに長居はしたくない。ハルヒの閉鎖空間よりはマシだがそれでも特異な空間ってことには変わりないからな。
だが俺の問いに橘京子は答えず、少し黙り込んでから、
「……少し、歩きましょう」
すっくと立ち上がった。俺の質問は無視か。無視なのか。
俺にだって時間が無限にあるわけじゃない。ついでに現実世界の俺の体のことだって心配だ。どうして一日二十四時間以上活動しなきゃならん。
「閉鎖空間の案内なら間に合ってる。さっさと本題に移れ」
立ち上がった橘は少し悲しそうな顔をすると、渋々、といった感じで再び席に腰を下ろす。なんで超能力者にはこうも話の通じない奴が多いんだろうね。古泉は余計なことまで言い出すがこいつは何も言わないのか。困った奴だ。
だが橘京子は席に着いても中々話し出そうとはせず、「佐々木さんが……」「森さん怖……」「みんな協力してくれない……」とかぼやき始め、終いには、
「ほ、本当は話なんてないの! ただ、えーっと、その、キョ、キョンさんとお話できたらいいな、じゃなくて! 佐々木さんが『キョンは鈍いから印象に残るようなことをしてあげないと人の好意に気付かない』とか言うから…… その……」
その姿があまりにも健気で、このまま放っておくと空回りして自爆してしまいそうだったので、俺は仕方なく閉鎖空間で彼女と何時間か話した後、現実世界に戻った。