07/11/12 22:06:50 KzGPZmVv
作業をしていた机から離れ、クアットロはヴァッシュの眠る寝室へと赴いた。
ステルス機能を有した彼女の固有装備『シルバーケープ』が取り上げている現状、隠密行動には不安があったが、
お人よしのヴァッシュ相手なら、万が一相手が目覚めても、『シルバーカーテン』で誤魔化しが利く。
息を殺して歩み寄ると、ヴァッシュは安らかな寝息が聞こえてきた。その表情は、微かな苦悶。
初見の印象はアホ面のお人よしだったが、どうやら、彼は彼なりに殺し合いの現状を受け止めていたらしい。
だとすれば、今彼が見ているのは、クロを死なせてしまったことに対する後悔の悪夢か。
己が不甲斐なさと現実の悲惨な推移に、腹を立てているのやもしれない。
(なんて可哀想なヴァッシュさん。いっそこの場で楽にしてあげたほうが幸せかもしれませんわねぇ)
ベッド上のヴァッシュを睥睨しながら、クアットロは口元だけで笑う。
その妖艶な眼差しは、実験用のモルモットを見つめる科学者のようだった。
(この場で楽になるか、それとも、今後も私のために働いてもらうか……すべては『実験』の結果しだい)
クアットロは、仰向けになっていたヴァッシュの体を、そっと横に倒す。すると、彼の首輪の後部が見えるようになった。
そこには二つの溝があり、間には『Vash the stampede』の文字が刻まれている。
ここまではクロとまったく同じ。やはり目で確認することはできないが、クアットロの首輪にも『Quattro』と名が刻まれているのだろう。
問題はここから先。ヴァッシュの首輪が、果たしてクロのそれと同じ仕掛けかどうか……。
手で摩り、確認する。窪みはあった。爪で、刻印の付近を擦ってみる。なにかが引っかかった。
それを摘み、引っ張ってみる。ベリベリという音が鳴り、『Vash the stampede』の刻印が剥がれていく。
そして、クロの首輪と同じくネジが露見した。
(ビンゴ……♪)
ヴァッシュの首輪も、サイズ以外は全てクロのものと同じ。
偽装工作のためのネームシールが付いており、それを剥がしたところに、プラスのネジ。
想像通り、そして期待通り。これで、問題なく実験が行える。
「ん……んん……」