07/11/12 21:52:43 KzGPZmVv
殺し合いに乗った者に気付かれぬよう、家の明かりはつけず、窓からの太陽光のみで、クアットロは実験準備を進めていた。
一休みという建前で作ったこのフリーな時間。有意義なものにするため、クアットロは『首輪の調査』という選択肢を選んだ。
キャロ殺害後の不手際を思い出す。あのときは黒服のせいで回収に回れなかったが、結果的にはこうやって首輪を入手している幸運な自分がいる。
これをどう扱うかが問題だった。他者の荷物に潜ませ疑心暗鬼を誘発するなり、解析を望む者に対する餌として使うなり、用途は余りある。
大きなアドバンテージを手に入れたクアットロは、まずこう思ったのだ―この首輪の情報がもっと欲しい、と。
首輪の情報。即ち、内部を構成する物質やら、分解するための目処、起爆の条件や詳細な爆発力などだ。
それらはまた、情報だけでも脱出に有益な材料として機能する。欲する者は多く、だからこそ持っていて得をする。
クアットロは、まずこの首輪について調べることにしたのだ。
運よく生き永らえたとはいえ、全身に大きなダメージを負ったヴァッシュは、今は寝室のベッドで眠っている。
暢気なものだとは思うが、彼の殺人を憎むような言動には、並々ならぬ正義感を感じた。
それを抑えつけてまで眠っているということは、それだけ体に負担がかかっているということだろう。
どちらにせよ、クアットロにとっては好都合。この誰にも邪魔されない機会を、十分に活用させてもらうとしよう。
机には、クロから回収した首輪が一つ。自分のものより一回り小さいのは、クロが猫だったからだろう。
そして首輪の隣には、この家に置いてあった工具セットが一式。
半田鏝のような専門的なものはなく、ドライバーや鑢など日曜大工品くらいしかないのが難だが、贅沢は言っていられない。
もとより、そんなに簡単に解体できるものであるはずがない。今回の趣旨は、あくまでも調査だ。
この首輪がいったいどういった物質なのか。それだけでもわかれば、成果は十分と言える。
(さ~て、ドキドキのお調べタイムとまいりましょうか~♪)
スタンドライトに照らされた机上をにんまり眺めるクアットロの表情は、マッドサイエンティストそのものだった。
まずは肝心の物を手に取り、じっくり触ってみる。
摩り、小突き、力を加えてみた感触は、やはり金属。
弾力性があるわけでもなく、重さも極々一般的。未知の文明を用いた代物とも思えたが、どうやらその線は薄そうだ。
次に、その全姿を今一度よく観察してみる。
なんの変哲もない新円の輪。色は銀。ただし純銀というわけではなく、鍍金のような色感だ。
外周部分には『KURO』と、持ち主の名が英語で刻まれている。これでどの首輪が誰のものか判別できるのだろう。
それ以外は目立った装飾もない。ただ一つ、爪が入り込めるほどの繋ぎ目らしき溝が二つあったが、それだけだ。
ここにドライバーを捻り込み、無理矢理分解しようものなら即ドカンだろう。これは安易すぎる。
クアットロは自身に嵌っているほうの首輪を撫で、クロのものと同様の溝を確認する。
位置は、ちょうど首の真後ろ。無論、自分で気付く可能性は限りなく低く、銀一色のため溝自体が判別しにくいだろう。
クアットロのように長髪だったり、襟のある服を着た者では、他者からも気付かれにくい。
もちろんこの溝が参加者全員の首輪にあり、首の後ろ側に付いているという確証はないが、クアットロとクロの場合は一致した。
(『KURO』の刻印はこの溝と溝の間に刻まれてますわね。鏡はあれど、首の後ろまでは届かず。私の名前も溝と溝の間に?)
クアットロは机に置かれていた化粧用の手鏡を持て余しつつ、自身の首輪とクロの首輪を見比べる。
首輪が全参加者共通である確証などないが、逆に考えれば、各々別のものを用意する理由も思い浮かばない。
クアットロとクロの首輪のサイズが違うのは、単純に首周りのサイズを考慮しての結果だろうし、深い意味はないはずだ。
もちろん、中身も同じはず。爆薬の量は多少増減するかもしれないが、いずれにしても必殺の威力分はあると思われる。
でなければ首輪による抑止力は効果が半減してしまう。そもそも、首輪の爆弾が原始的な火薬によるものかは不明だが。