アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ7at ANICHARA
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ7 - 暇つぶし2ch78:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 02:26:35 9UbI/1FE

>>61

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         確かにそちらが出て行けばこちらは何もしないという形で話し合いは終わってるが
                           どうなっているのかね

79:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 13:27:40 /VMXwwMC
うむ

80:カサブタだらけの情熱を忘れたくない ◆LXe12sNRSs
07/11/02 18:51:26 py5DJ716
 先端に鋭さを秘めたシャープなフォルムが、水を切りながら爆音を撒き散らす。
 時刻は、一般大衆が通学や出勤に出向く頃。ライトを灯さずとも、前方の様子は楽に把握できた。
 水上を駆ける男二人乗りのオートバイ。その運転手が、横目にチラッと視線をやる。
 自身が乗る水上バイクなどとは、比べものにもならないほどの巨大な船体―あれが、運転手たちの目的地である豪華客船だろう。
 陸地が近づいてくると、水上バイクは徐々にスピードを緩め、適当な桟橋を見つけてそこに停車する。
 水上バイクは運転手の付き添いが背負っていた四次元デイパックに収納され、二人は改めて側に聳える巨大船を見やる。
 庶民なら誰もが憧れるであろう豪華絢爛な全景。清潔感を漂わせる純白のフォルムは、直視もしがたいほど。
 殺し合いという前提を考えれば、臆病者が隠れ家とするのに適しているようにも思える。
 逆に、狡猾な殺人者が身を潜める居住区としても使えそうだ。
 その巨大すぎる船体からは、人の気配が感じられない。
 だが、運転手の男は特別躊躇する様を見せることもなく、豪華客船内へと足を伸ばした。
 すっかり明るくなった外とは違い、内部の通路は微かに薄暗い。
 何者かが意図的に暗くしているのか、それとも元々この程度の光量なのか。
 どちらにせよ、目的の部屋を目指すには十分な照明だった……その目的の部屋が、そもそもどこにあるのかわからないのだが。
 二人の男は虱潰しに船内を徘徊し、程なくして食堂室に辿り着いた。
 入り口を潜ってみると、そこは今まで通ってきた通路とは違い、眩しいほどに明るい部屋だった。
 室内には大きめのテーブルが複数台置かれており、片隅にはバーカウンターまでもが設置されていた。
 正に、豪華客船の食堂を名乗るに相応しい広さと言えよう。
 見ると、片隅にあるバーカウンターのさらに端っこに、背広の男が一人座っている。
 半透明な液体の注がれたワイングラス。両脇には複数のナイフとフォーク。
 食堂内に残っていた食材を使って調理したのだろう、食べかけの料理が盛られた銀食器も確認できた。
 そして肝心の男はというと、食休みでもしていたのか、手にイタリア語表記のハードカバー小説を携えている。
 男は二人の闖入者の存在に気付くと、静かな動作で本を閉じ、立ち上がった。

「なにやら騒がしい声がすると思えば……」

 突然の無礼な来客ではあったが、男は礼節の成った作法でそれを歓迎する。

「最初の来訪者があなたとは……いや、些か驚きですよ。剣持警部」

 食堂室で対峙する、警察と犯罪者。
 犯罪芸術家を自称する『地獄の傀儡師』高遠遙一。
 警視庁刑事部捜査一課の警部、剣持勇。
 そして彼に同行してここまで来た、ガッシュ・ベル。

 異様な空気に包まれる食堂室。
 犬猿の関係にある二者の再会は、どのような展開を見せるのか―


 ◇ ◇ ◇


「さて」

 場所は変わらず、食堂室。
 ややサイズの余るテーブルを挟み、剣持とガッシュ、高遠の三人は、二体一の形で向かい合っていた。

「さて、じゃねぇ! これはいったいどういうことなのか……説明してもらおうか、高遠遙一ィッ!」

 テーブルを叩くと同時に口火を切ったのは、剣持勇だった。

「どういうこと……とはまた、質問の意図が飲み込めませんね。何か疑問点でも?」

81:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 18:52:11 BgSiFFnv


82:カサブタだらけの情熱を忘れたくない ◆LXe12sNRSs
07/11/02 18:52:36 py5DJ716
「どうもこうも、ガッシュたちを使ってここに人を集めようとしたこと、
 俺たちに一時休戦なんつーメッセージを残したこと、その他諸々全部だ!」

 テーブルを乗り越えんばかりの勢いで、剣持は高遠に肉薄する。
 その迫力たるや、数々の凶悪犯を検挙してきたベテラン刑事ならではの凄みがあったが、高遠もその程度で気圧されたりはしない。
 直接的、もしくは間接的に殺人を繰り返し、幾度逮捕されようとすぐに脱獄を果たす、奇術師のような犯罪者。それが高遠遙一だ。
 客観的に見れば、豪華客船の食堂室。見方を少し変えれば、殺し合いの一空間。
 場の状況を考えるならば、この二通りの答えが出せるだろう。
 だが、この二人が一対一となっている今の構図は、実のところ警察署の取調室となんら変わりない。
 犯罪を実行する者と、それを暴き裁く者。
 正義と悪の関係を明確にするため、刑事である剣持は犯罪者である高遠に詰め寄る。

「私の考えは、そこにいるガッシュ君たちに全てお伝えしたはずですが。
 いえ、それでも納得できない。信用などもってのほか。剣持警部、あなたはつまりそう言いたいのでしょう?」
「ああ、そうだ。幻想魔術団の左近寺殺し、その後の脱獄、その他諸々、おまえにゃ罪状が山ほどあるんだ。
 いくら今が一大事だからってなぁ、危険な殺人者を野放しにしておくほど、俺も耄碌しちゃいねぇんだよ!」

 片や猛剣幕で、片や不敵なほど冷静に、敵同士の間柄にある二人は、口論を続ける。
 付き添いでやってきたガッシュは、剣持の態度の変貌ぶりに目を白黒させ、話についていけない様子だった。
 そもそもガッシュは、高遠が前科持ちの犯罪者であるという事実すら、今の今まで知らなかったのだ。
 お互いの共通認識を元にした会話に、まだ子供のガッシュは、小まめに目配りしながら静聴することしかできない。

「ところで、つかぬことをお聞きしますが……ずいぶんと服が汚れているようですね。なにかあったのですか?」

 終着の見えない口論を続ける中、ふと、高遠が剣持の身の汚れを指摘した。
 見ると、剣持が普段着としている背広は煤と土に汚れ、少々乱れた頭髪も相まって、どこか草臥れた印象が感じられる。
 これは、剣持にとって忘れがたい例の一件―枢木スザクとヴィラルを巻き込んだ紛争、そのときの副産物だ。
 その外見は傍から見たらやや汚らしく、街を歩くのも恥ずかしく思えるほど。だが、それがいったいなんだというのか。

「いえ、答えずとも私にはわかりますよ。剣持警部、あなたは既に知っているんじゃないですか? この殺し合いの、実状を」

 長く瞬きをしながら、高遠はゆっくりと、そう問いかけた。

「……なにが言いたい?」
「警察という立場からして、現状、最も危険視するべき人物はいったい誰か。その、答えはなにかという話です」

 服の汚れを指摘し、そのままの流れから、高遠は含みのある問いを促した。
 これがいったいなにを意味するというのか。“いつものように”第三者の立場であったならば、すぐには理解できなかったかもしれない。
 だが剣持は、自分の身がどうして汚れたのか、その根底にどんな人物のどのような思惑があったのかを思い出し、言葉を詰まらせた。
 声には出さずとも、相手を蔑むような冷笑で剣持を見つめる高遠。
 剣持はそんな高遠相手に、普段の覇気ある反論を出せないまま、奥歯を強く噛み締めた。
 両者ともにそのまま黙りこくり、しばし睨み合う。
 隣で冷や汗を浮かべながら唸るガッシュの声だけが、音として存在した。

「……チッ」

 均衡を破るかのように、剣持が舌打ちをした。
 テーブルを拳骨で一回殴りつけると、それに驚いたガッシュを促して、椅子から立ち上がる。

「おや、どこへ行かれるのですか?」
「おまえみたいなやつと、一分一秒も同じ空間にいられるか。俺とガッシュは帰る」

 高遠とはろくに視線も合わせず、剣持は背を向けて食堂出入り口へと歩を進める。

「まさか、あなたともあろう方が職務放棄ですか?
 地獄の傀儡師を前にして、手錠を嵌めるでもなく、武器を奪うでもなく、ただ見逃すと?」

83:カサブタだらけの情熱を忘れたくない ◆LXe12sNRSs
07/11/02 18:54:00 py5DJ716
「見逃す? ふざけたことぬかすな。今逮捕しても意味がない、そう考えただけだ」
「なるほど。決着は法が裁きを下せる世界にて……ということですか」

 ふふっ、と。今度は声に出しての冷笑。いや、もしくは嘲笑。
 剣持はそれに対抗心を燃やしたのか、一度だけ振り向くと、

「勘違いするなよ。おまえがここに立て篭もっている以上、俺はおまえから目を離さん。
 逃げようとしたり、怪しい動きを見せようもんなら、力ずくで止めてやる。
 なにを企んでるかは知らんがな、これからおまえがやらかすこと、全部俺が見張ってやる。
 そこんとこ、肝に銘じとけ!」

 そう甲高く言い切ってみせ、顔を赤くしながら再び出入り口へと進み出した。
 高遠はその様子を見てやれやれと首を振り、剣持とガッシュが出入り口を潜るか潜らないかというところで、再び、

「ああ、そうそうガッシュ君。そういえば、他のお二人はどうしたのですか?」

 と質問し、根が素直なガッシュは、足を止めそれに返答した。

「ウヌウ、アレンビーとキールなら、今は別行動中なのだ。二人とも、今頃は清麿たちを見つけておるかもしれぬ」
「そうですか。では―金田一君や明智君がここに訪れるのも、時間の問題かもしれませんね」

 ガッシュの回答にそう返した高遠。その語り口には、確かな含みがあった。
 されども、剣持は足を止めない。なにも聞かなかったかのように、足早に食堂室を離れていく。
 そのペースに慌てたガッシュも、早足で剣持を追いかけていった。そして、食堂室には高遠一人が残される。

「…………ふぅ」

 高遠は深く、呆れた風に溜め息をついた。だが、顔は微かに笑っている。
 そのまま立ち上がると、すっかり冷めてしまった朝食を生ゴミに捨て、食器類は適当に流し場に放り込む。
 船長室の本棚から持ち出した本はバーカウンターに放置し、そのまま食堂室を出ていく。
 その足取りは軽快で、天敵との衝突など微塵も意に介していないようだった。
 薄暗い通路を一人歩く高遠の胸中に、どのような思惑が渦巻いていたかはわからない。
 確かな事実として、剣持という刑事―脱獄囚の身である高遠にとって最も警戒すべき人物の来訪は、彼になんの変化も与えていなかった。


 ◇ ◇ ◇


 金田一、明智、剣持―高遠を犯罪者であると知る三人が、いつかここを訪れるであろうことは予期していた。
 特に、警察であるがため市民の信頼を得やすいであろう明智と剣持の存在は、高遠にとって疎ましいことこの上ない。
 が……それも最初期の悩みであり、休戦メッセージを伝えた今となっては、特別慌てることでもなかった。

 犯罪者。だがしかし、この世界においては脱出派―高遠が演じている配役がそれだ。
 先ほどの剣持のように、自らの職を矛にして無理矢理高遠を処断しようとしても、他者がそれに同調するとは限らない。
 剣持に付き添っていたガッシュがいい例だ。
 彼は高遠が犯罪者であると知ってなお、最後まで高遠自身に敵意を向けることはなかった。
 剣持の証言だけでは、脱出派を自称する高遠を敵と見なすことができなかったのだ。

 今の高遠は、言ってみれば『心を入れ替えた元犯罪者』。
 個人的な因縁や恨みがあるならともかく、そのような人物を貶めようなど、高遠の犯歴を知らぬ第三者ならまず思わない。
 それでもあの剣持は高遠を悪だと断定し、周囲にもそのイメージを植えつけようとするかもしれないが、彼にそこまでの発言能力があるとは思えない。
 でも今は悪いことしないって言ってるんだし、ここは信用してあげてもいいんじゃない?―それが良識人として当然の反応だ。
 また、そういった力に任せた善悪の断定は、集団の調和を崩しかねず、最悪疑心暗鬼を引き起こす恐れすらある。
 さすがの剣持とて、そこまで愚かではないだろう。混乱を防ぐため、高遠の正体を語るかどうか一考するはずだ。
 そして恐らく、金田一や明智なら休戦メッセージを聞いた途端に高遠の思惑に気付き、彼の正体を広めることをやめるだろう。
 この、誰が敵で誰が味方か、明確な図がない実験場。言葉一つでは、善悪を決定付けることなどできはしない。
 警察であろうと、探偵であろうと。

84:カサブタだらけの情熱を忘れたくない ◆LXe12sNRSs
07/11/02 18:55:36 py5DJ716
 天敵を前にした高遠、彼が成すべきは、慌てふためいて目の前の障害を排除することではない。
 あくまでも、善良な高遠遙一として、第三者たちの信頼を築く。金田一、明智、剣持たち以上に。
 それが達成できれば、いざ殺人が起こったとしても、高遠が無闇に疑われることはないはずだ。

「……とはいえ、初の来訪者が彼とは、私も運が悪い」

 剣持は金田一や明智ほど聡明というわけではないが、正義感だけは人一倍強い。
 刑事という職務に誇りを持っている彼だ、金田一たちの言があるならまだしも、単独である限りは高遠を疑い続けるだろう。
 彼と行動を共にするらしいガッシュもまた、純真そうな子供であるがゆえに、剣持に肩入れする可能性は高い。
 瑣末な勢力には違いないが、後々の障害と成りうるなら、小さな芽の内に葬っておくのも一つの手か。

「と考えたところで、手元にはこの玩具とナイフのみ……リスクや手間、あらゆる面から見ても、それは無茶無謀無駄というものですか」

 一頻り考え抜いて―高遠はもといた情報管制室の椅子に腰を下ろす。
 監視カメラの映像に人影はなし。剣持とガッシュは、既に船の外に出たらしい。
 彼らが今後どうアクションを起こすかはわからないが……どう転んだとしても、それは高遠の思慮の範疇だろう。
 この実験の参加者全員が、剣持のような愚直な正義感を持った者でもない限り、高遠の優位は崩れない。
 だからこうして、待ちに徹する。剣持の来訪も、結局は些事でしかない。

「……いっそ、金田一君や明智君との正面切っての前面対決というのもおもしろいかもしれませんね」

 高遠がフッと微笑んだ―そのときだった。

「―っ!?」

 不意に、体が揺れた。体だけではなく、椅子が、床が、天井が、船体自体が揺れている。

(地震? いや―)

 ほどなくして揺れは収まった。すぐさま監視カメラで船内を見渡してみるが、特に変わった様子はない。

(外でなにかが起きた―? まさか、あの二人がなにか思慮外のアクションを起こしたというのか?)

 剣持とガッシュが船を出て行ってから、そう時間は経っていない。
 今の揺れが人為的なものだとしたら、関わっているのは十中八九あの二人に違いない。

(外に出て確かめてみるか……それとも、次の来訪者が訪れるまで待ちに徹するか)

 乱れた着衣を整えつつ、高遠は次なるアクションを想定する―


 ◇ ◇ ◇



85:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 18:57:22 WScpTmaI
支援


86:カサブタだらけの情熱を忘れたくない ◆LXe12sNRSs
07/11/02 18:57:31 py5DJ716
 豪華客船の停泊する埠頭、その岸壁に腰を下ろし、剣持は煙草を吸いながら海を眺めていた。
 吸引した煙を空に吐き捨て、憂鬱顔で波濤の伸び縮みする様を観察している。
 その背中にはどこか哀愁が漂っており、背後に立つガッシュが声をかけるのを躊躇うほどだった。

「……なぁにやってんのかねぇ、俺は」

 視線を海に向けたまま、剣持が悔いるように呟く。
 その様子に黙っていられなくなったガッシュは、躊躇いがちに言葉を投げかける。

「ウヌ……剣持よ、これからいったいどうするのだ? やはり、高遠の言うように他の者を集めるのか? それとも……」
「……正直言うと、まだ悩んでる。刑事として、高遠と仲良しこよしするわけにゃいかんし……
 かといって、このまま高遠の正体を悪戯に広めるのも、周りが混乱するだけだ。
 だからといって、あいつがなにかやらかすのを黙って見ているわけにもいかん」
「ウヌウ、ならばどうするのだ?」

 ガッシュが問いかけると、剣持はまだ火の点いた煙草を地面で消し、立ち上がり際に答える。

「見張る。やつがなにを企んでいようが関係ない。それが実行に移しづらくなるよう、ここで見張り続ける。
 俺からことを荒立てる気はないさ。しばらくは、な。……それに、こりゃ情けないことなんだがな。
 ここで待ってりゃ、いつか金田一たちもやってくるんじゃないか、あいつらと一緒ならどうにかなるんじゃないか。
 そう思うんだよ……そう、相手があの地獄の傀儡師、高遠遙一でも、ってな」

 スッと立ち上がった剣持の瞳には、確かな決意の色が浮かんでいた。
 正義感に奮い立つ男の佇まい。それは、三十代後半の草臥れた様相を微塵も感じさせない。
 金田一や明智のような明晰な頭脳は持ち合わせていない。だが、彼とてノンキャリアで警部の座まで上り詰めた実績を持つ。
 その最大の要因が、市民を守りたいという正義感だ。この正義感だけは、誰にも負けない。
 出会った頃とはまるで違う印象を肌で感じ、ガッシュはその高い体躯を見上げながら言う。

「私は、高遠のことはよく知らないのだ。だが、どんなに根が悪い者でも、懸命に説得すればわかってくれると思うのだ。
 パティやビョンコがそうであったように……だから、剣持が必死に説得すれば、きっと高遠も」
「つまりガッシュ、おまえは高遠を信用したいってわけか?」
「ウヌ……だが、ゾフィスのようにどうしようもなく悪い者もおるのだ……ひょっとしたら、高遠も……」
「おいおい、どっちなんだよ」

 言いたいことはわかる。ガッシュも剣持と同じで、高遠については計りかねているのだ。
 信じるべきか、疑うべきか。答えが出せないから、こうやって側で見張ることしかできない。
 清麿や金田一ならもっとベストな選択ができたのだろうが、この二人ではこれが限界だった。

「なぁガッシュ。おまえ、将来の夢ってなんだ?」

 剣持は、申し訳なさそうな顔で立つガッシュに失笑し、こんな質問を投げかける。

「ウヌ? 夢……それならあるぞ! 私の夢は、優しい王様になることなのだ!」
「優しい……王様ぁ~!? くく……くはははは、なんだそりゃ!」
「ヌゥ~! 笑うなんてひどいのだぁ!」
「はははははっ、はっ、いや、すまん。いい夢じゃねぇか、優しい王様、ね」

 子供ならではの夢らしい夢、幼稚園児などがよく憧れる「ウルトラマンになりたい!」なんていうのと同程度のものだと思っているのだろう。
 魔界の王を決める戦いなどという異世界の抗争は、剣持が知るよしもない話だ。
 だが、笑うことなどできはしない。ガッシュにとっては大真面目な『夢』であり、その夢は今も実現に向かっている。
 もちろん、剣持とてわざわざ爆笑するためにこのような質問をしたわけではないだろう。
 含み笑いの裏に、年の功を感じさせる優しげな眼差しが窺えた。

「ガッシュ。刑事ってのはな、おまえみたいな子供の夢を守るのが仕事なんだよ」
「ヌ?」

87:カサブタだらけの情熱を忘れたくない ◆LXe12sNRSs
07/11/02 18:59:37 py5DJ716
 剣持の大きな手が、ガッシュの小さな頭を優しく包み込む。

「そりゃ、善悪がはっきり分かれる世界だ。きれいごとだけじゃやっていけないし、汚ねぇ現場もたくさんあった。
 だけどな、そういうのは全部、市民の平和と安全を守るためにやってることだ。少なくとも、俺はそのつもりで続けてきた。
 けど……俺はここにきていきなり、前途ある若者を死なせちまった。守ってやることができなかったんだ。
 クルクル君を殺した野郎のことを考えりゃ、高遠なんかに構ってる暇はないのかもしれない。
 ……でも、ま、ウダウダ考えても始まんないしな! 俺は俺の職務を全力で全うするだけだ!
 ガッシュ……おまえみたいな夢を持った子供を、こんなところで死なせやしない。俺の命に代えてもだ!」

 なんという、直向な正義。悪の組織と戦うヒーローなどではない。あくまでも、一人の刑事として。
 スザクのときのような悔しい思いをしないためにも、剣持は今ここで、ガッシュに己の職務を果たすことを誓うのだった。

「剣持……」

 ガッシュのくりくりとした大きめの瞳が、爛々と輝く。
 それは、剣持に対する尊敬の眼差しであるようにも思えた。

「私も……私も! 我が身に変えてでも剣持を守るのだ!」
「見くびるなよ? 俺は子供なんぞに守ってもらわにゃならんほど弱くねぇやい」
「ウヌウ! 私だって、普通の人間よりはずっと丈夫なのだ! いざというときは、剣持の盾にだってなろうぞ!」

 ガッシュの人知れぬ決意を他所に、剣持は声に出して呵呵大笑する。
 ガッシュが人よりもずっと頑丈な魔物であるなど、やはり剣持は知らない。
 その実は人間と魔物だが、剣持にとってはどこまでいっても大人と子供なのだろう。
 互いに立場の相違はあれど、信頼する心には変わりない。
 剣持はガッシュを、ガッシュは剣持を、ともに共通の信念を燃やす存在だと、認めていた。

「あーその剣持っての、できたらやめてくれないか? 呼び捨てにされるのはまぁ別にいいんだが、子供に苗字を呼び捨てられるってのはなぁ」
「ならば、なんと呼べばいいのだ?」
「剣持さん。もしくは剣持警部」
「ウヌ……長くて呼びにくいのだ」
「ははっ、そうかい。なら下の名前、勇って呼べ。これなら問題ないだろ?」
「ウヌ! では、これからは剣持のことを勇と呼ぶのだ! よろしく頼むぞ勇!」

 ガッシュの元気のいい返事を褒めるかのように、剣持は彼の頭をわしゃわしゃと撫で回した。
 異変に気付いたのは、そんなときだった。

「ん? ガッシュ、なんかおまえの背中、光ってるぞ?」
「ウ、ウヌ?」

 剣持に指摘され、ガッシュは背負っていたデイパックを下ろす。
 その様子は、誰が見てもわかるほどに強く、そして眩しく変貌していた。

「これはどうしたことなのだ……ま、まさか!」

 ハッとなにかに気付いたガッシュは、慌てながらもデイパックの口を開き、中から一冊の本を取り出した。
 表紙は赤く、裏表紙も赤く、だが眩く発光する本。
 懐中電灯のような人工的な光ではなく、線香花火のような幻想的な輝き。
 得体の知れぬ光に剣持は首を傾げ、ガッシュは驚きから脱せずにいた。

「光る本とは、またけったいなもんがあるんだなぁ。こいつはガッシュの支給品か?」
「そうだが……なぜ、私の本が輝いているのだ? まさか、近くに清麿が―!?」

88:カサブタだらけの情熱を忘れたくない ◆LXe12sNRSs
07/11/02 19:00:58 py5DJ716
 本の突然の発光が、パートナーである高嶺清麿の存在を感知したと思ったらしいガッシュは、付近を忙しなく探し回る。
 一方の剣持は、不可解な現象にただただ唖然とするばかりだ。
 とりあえず、発光の源である赤い本を手に取り、観察してみる。

「豆電球でもくっついてんのか? にしても、難しそうな文字が書かれてんなぁ。何語だこれ?」

 表紙を艶かしく見回し、次いでペラペラと中を捲ってみる。
 その間際、ガッシュは海に向かって「清麿ォー!」などと叫んでいた。
 その声を背景音に、剣持はなおもページを捲る。
 すると、あるページに差し掛かったところで、ふと手が止まった。
 それまでと同じで、珍妙な文字列が綴られた一頁。だが、そこには剣持が手を止めるだけの理由があった。

「なんだこりゃ……ここだけ読めるぞ? えーと……第一の術……ザケル?」

 と、口にした瞬間。
 剣持の背後、緩やかな波が漂うだけの水面から、轟音が鳴った。
 即座に振り向くと、空中を目視できるほどの強力な電撃が奔り、それが水面に衝突して、巨大な水柱を上げる。
 舞い上がった飛沫は雨となって剣持に降り注ぎ、豪華客船は衝撃の余波を受けたのか、微かに揺れていた。
 そして剣持はその光景と合わさって、もう一つの衝撃映像も目にしてしまった。
 水面を叩いた突然の電撃、それが、岸壁に立つガッシュの口元から放たれたところを。

「……え?」
「……ウヌウ」

 開いたままの本を持ち、呆然と立ち尽くす剣持。
 電撃を放った反動で、僅かの間気を失っていたガッシュ。
 二者が視線を合わせ、それでも状況が飲み込めない。

 語るべき事実はただ一つ。
 両者が持つ共通観念、正義の心に呼応した赤い魔本が、不思議な力を齎した。
 その結果として、清麿にしか読めないはずの本を、剣持が読んでしまった。
 つまり、そういうことだ。


【E-3/豪華客船内・情報管制室/1日目/午前】
【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[装備]:スペツナズナイフ@現実x6
[道具]:デイバッグ、支給品一式、バルカン300@金色のガッシュベル!!、豪華客船のメインキーと船に関する資料
[思考]
基本行動方針:心の弱いものを殺人者に仕立て上げる。
0:善良な高遠遙一を装う。
1:外の騒ぎを確認しに行くか、ここに留まるか考える。
2:しばらくは客船に近寄ってくる人間に"希望の船"の情報を流し、船へ誘う。状況によって事件を起こす。
3:殺人教唆。自らの手による殺人は足がつかない事を前提。
4:剣持とガッシュのことを気に留めておく。今のところは特に問題ないと判断し、保留。
5:剣持と明智は優先的に死んでもらう。
6:ただし5に拘泥する気はなく、もっと面白そうなことを思いついたらそちらを優先
[備考]
※【希望の船】
高遠が豪華客船に人を集める為に作り上げた嘘。
主な内容としては
・対主催グループの拠点を築く
・船の鍵を探す(実際には高遠が所持)
・金田一達へのメッセージ
で構成されています。
※船の起動に螺旋力が関わっている可能性あり。また他の道具を使って起動できる可能性も。

89:カサブタだらけの情熱を忘れたくない ◆LXe12sNRSs
07/11/02 19:02:39 py5DJ716
【E-3/埠頭/1日目/午前】
【剣持勇@金田一少年の事件簿】
[状態]:背中を強く打撲、刑事としての使命感、ヴィラルに対する憎悪、高遠遙一への疑念
[装備]:ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、
    スパイクの煙草(マルボロの赤)(18/20)@カウボーイビバップ
[道具]:ドミノのバック×2@カウボーイビバップ
[思考]
基本:殺し合いを止める
1:……え?
2:豪華客船付近に留まり、高遠が行動を起こさないか見張る。
3:高遠の言葉に乗って集まってきた人物の対処をどうするか考える。
4:殺し合いに乗っている者を無力化・確保する。
5:殺し合いに乗っていない弱者を保護する。
6:情報を収集する。
[備考]
※高遠揺一の存在を知っているどこかから参戦しています。
※スザクの知り合い、その関係について知りました。(一応真実だとして受け止めています)
※ヴィラルがどうなったのかを知りません。
※ガッシュ、アレンビー、キールと情報交換済み
※高遠を信用すべきか疑うべきか、計りかねています。
※ガッシュの持っていた名簿から、金田一、明智、高遠が参加していることを把握しました。
※ビシャスの日本刀は、持ち運びにくいためガッシュのデイパックに移しました。

【ガッシュ・ベル@金色のガッシュベル!!】
[状態]:健康、おでこに少々擦り傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、ビシャスの日本刀@カウボーイビバップ、水上オートバイ
[思考]
基本:螺旋王を見つけ出してバオウ・ザケルガ!!
1:……ウヌウ。
2:なんとしてでも高嶺清麿と再会する。
3:剣持と行動。剣持を守る。
4:ジンとドモンと金田一と明智を捜す。
[備考]
※高遠を信用すべきか疑うべきか、計りかねています。
※剣持、アレンビー、キールと情報交換済み
※聞き逃した第一放送の内容を剣持から聞きました。

90:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 19:02:48 pvlR600r


91:来るなら来い!  復讐のイシュヴァール人!  ◆DNdG5hiFT6
07/11/02 19:38:09 WScpTmaI
―やはり体が重い。

ドモン・カッシュは高速道路を爆走しながらも、そう確信していた。
違和感が確信に変わったのは先程の双剣使いの少年と戦った時からだ。
僅かだが常に両手両足に何か重りをつけられているような重さを感じるのだ。
先程の少年あたりならば問題はないが、シャッフル同盟クラスの相手には致命的な遅れとなるだろう。

(ならば尚更あの少女の言うように修行を積まねばならんな……)

と、そんなことを考え、分かれた道を右に向かって進んだころ、スピーカーから耳障りな声で死者の名が読みあげられる。
その放送の中でドモンは意外な名前を聞くことになる。

「シュバルツだと……!?」

シュバルツ=ブルーダー。
ネオドイツのガンダムファイター。ゲルマン忍法の達人で自分を導いてきた謎の覆面男。
その正体はデビルガンダムに取り込まれた兄・キョウジが自分のコピーとしてDG細胞で作り上げたサイボーグである。
だがシュバルツはガンダムファイト決勝戦でオリジナルである兄と共に死亡したはずだ。
その男の名が何故呼ばれるのか? まさかデビルガンダムが再活動を始めたというのか?
様々な推論がドモンの頭の中を駆け巡る。
と、そこでドモンはある恐るべき可能性に思い至ることとなる。
即ち『この会場内にはシュバルツを倒すほどの強敵が潜んでいる』という可能性である。
その可能性にドモンは思わず息を呑む。
はっきり言って自分はまだ未熟だ。
シュバルツにも一度は勝ったものの、二度は勝てる自信はない。
その男を倒したとなれば自分より実力は上―そう考えねばなるまい。

「……もっと強くならねば」

想いが口を突いて出る。
シュバルツが、兄が何故ここにいたのかは気になるが螺旋王に直接訊けばすむことだ。
そのためにも今は修行を積まねば―ドモンはそう意志を固めるとスピードを上げて高速道路を西へと突き進むのであった。

92:来るなら来い!  復讐のイシュヴァール人!  ◆DNdG5hiFT6
07/11/02 19:40:26 WScpTmaI
***






第1回放送時、時刻にして6:00。
傷の男―スカーはその時刻にはすでに禁止区域であるB-1ではなくA-3の地図で言うと右隅あたりにいた。
元々体力の回復を図るためギリギリまであの場所を動かないはずであったスカー。
だが実際は自らのミスで愛くるしい猫の写真を粉砕してしまった直後、行動を開始した。
というのもこれから戦って行くに当たり、脇腹と右手の傷が気になったのだ。
特に右手の傷は“破壊”を切り札とするスカーにとって致命傷となりかねない。
だが処置をしようにも、布すらないこの状況ではどうしようもない。
故に彼は移動を始めた。海から川といったの水辺に沿って。
そのルートを選択した理由は特に無かったが、彼の故郷が水の少ない土地であった故の珍しさもあったのかも知れない。
そして程なくして発見した民家に忍び込み服を発見。
川の水で傷を洗うと、服を千切って作った布で傷口を覆い、処置を始めた。
そんな時であった。彼がその放送を聞いたのは。

「死んだか、鋼の錬金術師」

スカーは川のほとりでそう呟いた。
それと同時、自身の心の隅に黒いものが沈んでいく。
すべての国家錬金術師に自分の手で裁きを与えたかった―だが、もうそれも叶わないようだ。
ならば残ったもう一人、焔の錬金術師はこの手で確実に殺そう。
そして元の世界に帰り、国家錬金術師を、ホムンクルスを殺すために目の前の命をすべて奪おう。
そう、仄暗い決意をスカーが固めていたときだった。
遥か頭上から声がかけられたのは。

「おい、そこのお前!」

視線を上げると高い建築物―スカーは知らないが高速道路の橋脚である―の上に男がいた。
赤いマントをなびかせて、一人の男がこちらを見下ろしている。

「お前はこの殺し合いに乗っているのか?」

―殺し合いに乗っているか、だと?
答えは簡単だ。このふざけた殺し合いに巻き込まれずとも、自身が出来ることなど最早壊すことしかないのだから。

「ふん……その殺気が答えというわけか」

男は不敵に微笑み、高所からスカーの目の前に飛び降りる。
スカーは構える。そこには僅かな油断もない。
この世界には錬金術を使えなくとも相当な実力者がそろっている。
右手と両脇腹の怪我―授業料としては高かったがその教訓はスカーの中に完全に根付き、油断を消し去った。
最早スカーの思考はたった一つ。目の前の男がどんな存在であろうと全力で叩き潰すのみ。
だがそれはドモンも同じだった。
目の前の男の構えは明らかに何らかの武術を―それもかなりのレベルで―体得している構えだ。
シュバルツを倒したのがこの男でないと言う保証はない。ならば持てる全力を持ってこの男と戦うまで。

「行くぞぉっ! ガンダムファイト、レディィィィィゴォォォォォ!」

93:来るなら来い!  復讐のイシュヴァール人!  ◆DNdG5hiFT6
07/11/02 19:41:55 WScpTmaI
ドモンの宣言を鬨の声として二人の男はぶつかり合った。
ファーストヒットは同時。轟音と共に互いの拳同士がぶつかり合う。

―重い!

それが拳をあわせたドモンの感想であった。
男の体がアルゴのような2m近い巨躯だからというだけではない。
その一撃にしっかりと腰が入っている。弛まぬ基礎鍛錬を行ってきた証拠だ。

「ならばッ!」

ドモンは走りながらのヒット&アウェイに切り替える。
スカーもそれに習い、二人は川縁を併走しながら拳打を交し合う。

「おおおおおっ!」

咆哮と共に2m近いスカーの巨躯から一撃が繰り出される。
更にそのすべては力任せなどではなく、円の動きを持った無駄のない一撃だ。
例えるならばそれは激流。流麗であると同時に触れたものすべてを巻き込む破壊の流れの如し。

「ぬぅん! 肘撃ち! 裏拳! 正拳! とぉりゃあああああああ!」

対するドモンの攻撃。
その激しさはスカー以上。鋭い一撃を雨霰と叩きつける。
例えるならばそれは烈火。相手を容赦なく侵略し焼き尽くさんとする灼熱の炎の如し。
二人は併走しながら何度もぶつかり合い、拳を交わしていく。
そして拳を通し、得た感想は一致する。

((この男……できる!))

ドモンは思う。
傷面の男の動きはまさに攻防一体。
サイ・サイシーの少林寺拳法にも通じる流水の如き受け流しと洪水の如き攻め手。
油断すればその濁流を髣髴とさせる流れに巻き込まれることは確定!
スカーは思う。
目の前の男の攻撃はまさに苛烈の一言。
こちらが1を与える間に相手は2や3を返してくる。
更には一撃一撃も無視できないほどに強烈で、気を抜けばその炎に灼かれることは必死!

「うおおおおおおおおっ!」
「はぃぃぃぃいいいいっ!」

空中で蹴り同士がぶつかり合い、互いにその反動を利用し距離をとる。
そして決して構えを解くことなくドモンは名乗りを上げる。

「俺の名はドモン・カッシュ! 流派東方不敗継承者にしてキング・オブ・ハート!
 名を名乗るがいい、傷面の男!」
「己の名は捨てた。それに今から死に逝く者に名乗ったところで意味はない」

この台詞を吐くのはここに来て二度目だ。
だがその反応は似ているようで決定的に違っていた。
黒の男は死者のような笑みを浮かべたが、目の前の男は生き生きとした不敵な笑みを返したのだ。

94:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 19:42:01 9+nS94al
 

95:来るなら来い!  復讐のイシュヴァール人!  ◆DNdG5hiFT6
07/11/02 19:44:01 WScpTmaI
「フッ、この俺を前にして良くぞ吠えた! ならば拳に訊くまでだ!」

その言葉と同時、再び激突する両雄。
先程までとは一転し、二人の男は足を止めたまま至近距離で打ち合う。
至近距離での打ち合いは攻撃の速さよりも“繋ぎ”が重要視される。
打ち、払い、薙ぎ、蹴り、突き、捌き、かわし、避け、止め、流し……
数多の選択肢から最良の次手を選択し、如何にして無駄なく接続するか。
それこそが密着状態での勝敗を決定付けると言っても過言ではない。
そしてその結果はドモンの優勢という形で現れ始めた。
その原因は二人の戦闘スタイルにある。
かたや1年間、様々な形での1対1の戦いを続けてきた男。
かたや奇襲殺法・一撃必殺を心掛け、暗殺を行った男。
どちらが優れているというわけでもない。ただ、この場ではドモンの方が有利であった。

「どうした! 貴様の力はその程度か!」

そう言いながらも油断はしない。
何故ならば、不利でありながらも傷の男の殺気は一つも弱まっていないからだ。
と、ドモンの技の継ぎ目を狙い、スカーが脚払いを仕掛ける。
スウェーではかわしきれないと判断し、宙へと跳ぶドモン。
だが、それこそがスカーにとっての目的。素早く態勢を立て直し、右腕を振るう。
それ見てドモンは思う。

(あの豪腕、当たれば無傷とはいかんが、防御に徹すれば決して耐え切れないほどでは―)

だがその考えは右腕から放たれる殺気によって否定された。
ドモン・カッシュは幼少の頃から文字通りその半生を闘いへと投じてきた。
だから気付いた。この一撃は文字通りの“必殺”の技だということに。

「う、おおおおおおおおおおおっ!!」

裂帛の気合をもって空中で身をひねり、マントで相手の視界を遮る。
0.001秒でも時間を稼げればいい。
―果たして、その願いは叶えられた。
空中で回転することで僅かに落下タイミングをずらしたドモンはその回転を生かしたままスカーの右腕を受け流す。
その結果、薄皮一枚分の差で回避に成功する。
力を殺ぐことなくかわされた矛先は背後の建物の壁へと突き刺さる。
と、その男の右腕から紫電が走った瞬間、轟音と共にドモンの背後の建物が粉々に砕け散った。

「!!」

馬鹿力で砕いた―否、そんなものではない。
僅かに触れただけのマントがボロ布と化している事実がそれを物語っている。
どうやら原理は分からないが、あの右腕の一撃は触れただけで“破壊”する力があるらしい。
そんなものを人の身で受ければどうなるかなど考えるまでもない。
まさに文字通りの“一撃必殺”。
攻撃力だけに限定するならば、ドモンがこの世界に来るまでを含めて、これまで戦った相手の中でもトップクラスに分類されるだろう。
ここで常人ならばその威力を警戒し、または恐怖するはずであった。
だが、その凶悪な業を目にしたドモンの心は高鳴っていた。
今まで戦ってきた相手にもこれほどの破壊力を持ったファイターはいなかった。
未知の技と強敵に、格闘家としてのドモンの心は否応無しに高まってゆく。
出来うることならばもっと拳をあわせていたいが、そろそろ突き止めなければならない。
先程から拳をかわすごとに伝わってくる男の感情の正体を。

96:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 19:44:43 2gedrwHE


97:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 19:46:45 2gedrwHE


98:来るなら来い!  復讐のイシュヴァール人!  ◆DNdG5hiFT6
07/11/02 19:46:52 WScpTmaI
***


スカーは驚愕した。
先程の一撃はタイミング、速度共に完璧。まさしく不可避の一撃のはずであった。
だが目の前の男は超人的な身のこなしと恐るべき勘の良さによってそれを覆した。
『単身でアメストリス兵十人分の戦力に匹敵する』と言われるイシュヴァールの武僧にもこれほどの手練がいただろうか?
答えは否。そう、認めよう。目の前の男はまごう事なき本物の強者だ。
だが自分も錬金術師やホムンクルスを皆殺しにするまでは死ぬわけにはいかない。
右手の種がばれた以上最早隠し立てする必要もない。再度“破壊”を仕掛けようと構えたそのときであった。

「―貴様に聞きたいことがある」

目の前の男は視線をはずさずに問いかける。

「貴様は何故戦う。先程から貴様の拳からは怒りと悲しみが伝わってきた……
 だから分かる。貴様は決して殺人を楽しむタイプの人間ではない。
 ならば何故、この殺し合いに乗っている!」

ドモンの問いにスカーは答えない。
だがドモンはサングラスの奥にある目を見据える。
拳を通して伝わる怒りと悲しみ。そしてそこに理由を問った時の“自分ではないものへの”敵意が混ざるとなれば答えは自ずと姿を現

す。
それが自分の良く知るものならば尚更だ。

「……復讐か」

スカーの体がピクリと動く。それは肯定のサイン。

「それならば一つ忠告しといてやる……復讐は何も生みはせん。
 それどころか貴様のその怒りと悲しみは誰かに利用され、更なる悲劇を引き起こすだろう」

その言葉はまるで預言者のように確信に満ち溢れていた。
だがその言葉はイシュヴァールの惨劇からのスカーの人生すべてを否定する言葉でもあった。
人には例え挑発だったとしても許せぬ言葉があるのだ。

「貴様に―何が分かる!」


99:来るなら来い!  復讐のイシュヴァール人!  ◆DNdG5hiFT6
07/11/02 19:48:10 WScpTmaI
***


挑発したつもりはない。ただ、事実をぶつけただけ。
怒りと悲しみのまま動き、母の敵に騙され、兄を追ったという自身の過去にあった事実を。

「分かるさ……何故ならばかつて俺もそうだったのだからな!」

紫電を放ちながら破壊の右腕が迫る。
必殺必壊の魔腕―迸る殺気の大きさからして今度のは掠っただけでも大怪我を負ってしまうだろう。
だがそれを目の前にしてもドモンの心は研ぎ澄まされていた。
その心、明鏡止水。怒りも悲しみも超えたところにある極地。
怒りによって揺らいだ拳はあっさりとかわされ、逆に懐にもぐりこまれる。
驚愕するスカーとサングラス越しに視線を合わせたまま、

「貴様が破壊の腕ならば、俺は黄金の指ッ!」

カウンターとして放たれたのは掌底。
壁すら砕く一撃がスカーの額に直撃する。更にドモンはそのまま体ごと数メートル跳躍し―

「必ィッ殺!! シャァァァァイニング、フィンガァァァァァ!!」

かつての愛機・シャイニングガンダムの必殺技の名を叫びながら、スカーの体を大地に叩き付けた。

100:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 19:49:21 9+nS94al
 

101:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 19:49:31 2gedrwHE


102:来るなら来い!  復讐のイシュヴァール人!  ◆DNdG5hiFT6
07/11/02 19:51:12 WScpTmaI
***


スカーを大地に沈めたドモンは額に浮かんだ汗をぬぐう。
紙一重の勝利だった。男がもう少し冷静であったならば闘いは長引き、また違う局面を見せていたであろう。
それによく見ればこの男、すでに脇腹と右手に傷を負っている。

(この男が五体満足であれば負けていたのは俺の方だったのかもしれん)

世界は広い。世の中にはまだまだ見知らぬ強敵がいるのだ。
と、そこでドモンは奇妙なことに気付く。
闘いに集中していて気付かなかったが、先程までと周囲の風景が一変しているのだ。
戦闘を開始したときにはアスファルトだった足元もいつの間にか鬱蒼とした木々の茂る山の中へと変わっている。
確かに移動しながら戦っていたが、それでも精々1km程度が限界だろう。
だというのに周囲を見回しても木ばかりで、先程まで隣にあったはずの川の姿すら消えている。

「……どういうことだ?」

疑問は深まるばかりだが、それよりも当面の問題は倒したこの男をどうするか、と言うことだ。
この傷の男、放っておけば弱者と言えど容赦なく殺すだろう。あの殺意はそういうものだ。
だが、ドモンも一度は復讐に身を焦がした身。このままこの男の命を絶つことには躊躇いがあった。
そして何よりあれほどのファイトをした男をむざむざ死なせたくは無かった。

「―先程のファイトはいいものだった。
 あれほどの闘いが出来るならばこの男も別の道を歩めるはずだ」

独り言のように呟いた。だから、

「―最早戻れはしない。そして戻る気も、ない」

返答が返ってきたことに驚愕した。

「なっ!?」

しばらくは起き上がれまいと踏んでいたのだが、すでに復活していたというのか!?
身構えるドモン。しかしスカーは倒れたままで、右腕の『破壊』を地面に向けて発動する。
その瞬間地面は粉砕されて大量の土煙と爆風を上げ、更に数本の大樹をドモンに向かって倒れこませる。

「おおおおおおおおおおおおっ!」

倒れこむ木々をかわすドモン。
だが土煙が晴れたとき、スカーの姿は煙のように掻き消えていた。

「くっ……逃げられたか」

あの状態で何処か遠くに行けるとも思わないが、本気で隠れられては見つけるのも一苦労だ。
ドモンは最後に見たあの男の赤い瞳を思い出す。
怒りと憎しみに囚われ、復讐することでのみ自分を保つ。
あれではまるで地球に下りたばかりの自分そのものではないか。
あのままではこの会場にいるであろう外道に利用され、奴自身も死ぬだろう。

―ならば奴を止めるのはこの俺の役目だ。
かつて兄が、シュバルツが自分にしてくれたように。
ドモンはそう決意するとスカーの姿を探すためにその場を後にした。



103:来るなら来い!  復讐のイシュヴァール人!  ◆DNdG5hiFT6
07/11/02 19:52:53 WScpTmaI
そしてドモンが去ってから約10分後。
倒れた木々の間の地面がかすかに動き、土を振るい落としながら褐色の巨躯が姿を現した。
そう、スカーは先程巻き上げた土砂の下に自分自身を隠したのだ。
隠れられるかどうかは一種の賭けだったが、どうやら自分はその賭けに勝ったようだ。
スカーは土を払い、倒れた木に背中を預ける。

―ここはどこだ。
確かに攻撃を喰らう前までは川縁の変わった石畳の上だったはずなのに、目が覚めた時には深い森の中だった。
ドモン・カッシュと名乗ったあの男に運ばれたのかとも思ったが、奴自身も戸惑っている様子だったし、そうではないらしい。
どうやら、この舞台自体に妙な仕掛けがあるようだ。
だがそこまで考えたところでスカーは膝から崩れ落ちる。
無理もない。ドモン・カッシュの一撃は制限下で無ければコンクリート壁すら砕く威力を持つ。
制限されているとはいえその直撃を喰らったのだ。
数秒意識を失っただけですんだスカーの打たれ強さが異常なだけである。
さらにそこに“破壊の力”を連続して使ったのだ。
先程から僅かばかり回復した体力もすぐに底を突いてしまった。
スカーは自らが倒した巨木に背を預け、息をつく。

『それならば一つ忠告しといてやる……復讐は何も生みはせん。
 それどころか貴様のその怒りと悲しみは誰かに利用され、更なる悲劇を引き起こすだろう』

あの男はイシュヴァールの惨劇のことも何も知るまい。だから勝手なことが言えるのだ。
国家錬金術師によって引き起こされた大虐殺のことを。悪夢としか形容しようのないあの光景を。
だが―あの男が最後に見せた曇りのない澄んだ目。
かつて同じ復讐者だったというのならば、どの様な体験をすればあの境地に辿り着けるのだろうか。
それは敵意か、それとも羨望か。その答えに辿り着く前にスカーの意識は闇へと落ちて行った。

104:来るなら来い!  復讐のイシュヴァール人!  ◆DNdG5hiFT6
07/11/02 19:54:02 WScpTmaI
【H-4/山中/1日目-朝】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、螺旋王をヒートエンド
1:傷の男(スカー)を止める
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む (ある程度力を持った者には全力、ある程度以下の者には稽古をつける)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護する
4:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する

[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※参加者名簿に目を通していません
※地図にも目を通していません。フィーリングで会場を回っています
※正々堂々と戦闘することは悪いことだとは考えていません
※なつきはかなりの腕前だと思い込んでいます。
※自身の能力が落ちているという感触を得ました
※マントはボロボロになってしまいました。


【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
 [状態]:左脇腹と右脇腹、右手の親指を除いた四本それぞれ損傷中(応急処置済)。疲労(大)、気絶中
 [装備]:なし
 [道具]:
 [思考]
  基本:参加者全員の皆殺し、元の世界に戻って国家錬金術師の殲滅
  0:……
  1:皆殺し
  2:現在位置を確認し、回復したら中央へ向かう
 [備考]:


※スカーのディパック(中身は支給品一式、猫の写真@アニロワ2ndオリジナル×50、
 時計仕掛けのブドウ@王ドロボウJING×9(ダンボール入り))がA-4あたりに放置されています。
※スカーの破壊によってH-4で数本の木が倒壊しました。
 その音は周囲に響いた可能性があります。

105:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 22:10:31 9UbI/1FE
面白くない

106:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 22:54:54 YqYI+MsC
4322 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:04:54 ID:???0
>>4308
カミナに全力で投げられたらそれだけでゆーちゃん死んじゃいそうで怖いよ…
頑張れコアドリル!!
4323 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:04:59 ID:???0
>>4321
久保乙
4324 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:05:10 ID:???O
長生きしたければ空気になれ
4325 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:05:19 ID:???0
むしろクレアだったら「俺が世界の中心だ」とか言って
グレンラガンで地球まるごと取り込みそうな気がする。
なんでも可能と信じているキャラだけあって不可能を可能にする意志は薄めだから、
逆に言うとそこ止まりな気もするが。
4326 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:06:06 ID:???0
アークグレンラガンって全長何キロだっけ?
確か、100万人の人間が乗れる戦艦が変形合体した物だから…とりあえずロワ会場よりも余裕ででかいか
4327 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:07:48 ID:???0
>>4323
違う、違うんだ! 確かに因子が足りない番人の事も頭をよぎったけど、俺は某魔を断つ剣のつもりd(ry
4328 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:08:03 ID:???O
クレア「俺はアンチスパイラルから世界を救ってみせる」
クレア「なぜなら、大切なお客様がいるからだ」
4329 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:09:00 ID:???O
そろそろクレア自重
4330 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:09:23 ID:???0
とりあえずゆたかが「私を誰だと思っているんですか!!」と
腕組みしながら啖呵を切るシーンを妄想してニヤニヤしてるのは俺以外にいるんだろうか
4331 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:10:18 ID:???O
>>4330
俺いつ書き込んだっけ
4332 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:12:20 ID:???0
お前ら本当にゆたかが好きだなw
たまにはこなたのことも思い出して(ry
4333 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:12:26 ID:???0
>>4320
もしもこなたが最終決戦まで生き残って、ガンメンに乗り込んで戦う事があったら
きっと溢れるオタパワーを強大な螺旋力に変えて一騎当千の戦いぶりを見せてくれる筈…
と思ったが、こなたってロボアニメはあんま好きじゃなかったのを思い出したorz


107:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 22:56:33 YqYI+MsC
k4334 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:12:30 ID:???0
>>4320
身近と言えば絶望も絵柄をパロったり4話のアレがネタになったりしてるな。
あとFateの原作者がグレン信者なんだっけか
4335 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:13:02 ID:???0
>>4327
旧神ED風にしたら非難轟々じゃすまねーぞ!w
4336 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:13:40 ID:???0
>>4326
大きさ的には
天元突破グレンラガン>超銀河グレンラガン>アークグレンラガン>グレンラガン>グレン>ラガン
天元突破グレンラガンで銀河レベル
超銀河グレンラガンが惑星レベル
グレンラガンは普通の巨大ロボットレベル
でアークグレンラガンはその間くらいかな
まあ、ラスボスは精々ラゼンガンレベルにしとかないと収拾つかない
4337 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:16:23 ID:???0
螺旋力前回でガンメンを操るゆたかの後部座席でただハドロン砲を撃ちまくり
美味しいとこかっさらって高笑いするルルーシュを幻視した
4338 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:16:31 ID:???0
>>4336
天元突破は銀河レベル軽く超えてね?
同サイズのグランゼボーマが両手にそれぞれ銀河掴んでこねこねしてビッグバン起こしたりとかしてるし
4339 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:16:55 ID:???O
>>4333
「ああもう、やる気ないなら代わんなさいよ!」とでしゃばって操縦管を握ったかがみが
螺旋銃をうちまくるが下手くそすぎて即撃沈という展開が浮かんだ
4340 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:17:43 ID:???0
幼女を働かせるなよルルーシュ…
いや、実際は一歳違うだけだけどさぁw
4341 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:18:36 ID:???O
おい、老けすぎだぞルルーシュ


108:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 22:57:42 YqYI+MsC
4342 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:19:05 ID:???0
うーん…ゴズー(雑魚ガンメン)にミーくんを加えて、隠し味にスバルを少々…
4343 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:19:18 ID:???0
天元突破の腹から超級覇王でぶっ飛んでいく先生を幻視した
4344 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:20:22 ID:???0
このときはまだ、ムスカ優勝エンドを迎えることを誰も知らなかった。
4345 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:20:46 ID:???O
ゴズー……ゴズー……コスー……バルサミコスー……
あははバルサミコスー
4346 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:21:47 ID:???O
>>4344
あるあ……あるある
4347 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:21:56 ID:???0
アニロワ2ndの面子で天元突破だしたら、各キャラの特徴とかにじみ出るんだよね
ビシャスで刀とか、ビクトリームでV字ビームとか
4348 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:22:30 ID:???0
>>4343
マーダーだが、東方不敗やアルベルト辺りなら生身でそれを…
いや流石に銀河サイズじゃどうしようもないか
4349 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:22:54 ID:???O
ギガキールロワイヤル!
4350 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:23:03 ID:???O
やめろよ―
楽太郎が絶体絶命な事を思い出してブルーな気分になったじゃないかw
4351 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:23:13 ID:???0
師匠で顔とかな。
ヴィラル優勝エンドになったら、螺旋王怒るかな?
4352 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:24:06 ID:???0
>>4343
東方不敗「やれぇい!ゆたかぁぁぁぁぁぁぁ!」
ゆたか「ちょうきゅうはおう!でんえ~だん!」
4353 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:24:14 ID:???0
>>4347
Vの体勢を取る天元突破想像したら腹筋が崩壊したぞ、どうしてくれるwww
なんとなくだが、もしV様がラストまで生き残ったらアーテンボローポジションになりそうだな
生き残れる可能性はかなり低そうだが
4354 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:24:54 ID:???0
>>4348
天元突破が出るのは認識(≒気合と覚悟)が具現化する空間だから、まったく問題ない気がするw
4355 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:26:01 ID:???0
>>4351
そーいや、ヴィラル優勝になったら螺旋王的には不満が残りそうだなww
ロージェノム「何故優勝たし」
ヴィラル「そりゃないっすよ……orz」


109:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 22:58:51 YqYI+MsC
嗚呼これが中間管理職
4356 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:26:36 ID:???0
ゆーちゃん大活躍すぐるwwwwww
こなたやつかさやかがみを差し置いてゆたかがここまで優遇されてるなんて当選当初は予想もしなかったぞ…
むしろみなみが居ない事でズガンも覚悟していたのに…やっぱ初期装備がコアドリル&まさかのシモン早期退場が効いたな
4357 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:26:51 ID:???0
>>4351
螺旋王「なんで螺旋族もっと頑張らんのん?(´・ω・`)」
4358 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:27:02 ID:fP96AsMEO
>>4354
やべえwwwガンダムファイターインフレフラグじゃねーかwwwww
グレンラガンにげてー!
4359 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:27:14 ID:???0
>>4330
とりあえず口上を数パターン考えている
4360 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:27:40 ID:???0
>>4349
何そのシモン覚醒ネタで考えてた技名
4361 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:28:39 ID:???0
螺旋王「ヴィラルさぁ。空気読めよ」
4362 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:29:06 ID:???O
ヴィラル優勝ネタに激しくワラタwwww
螺旋王どうするんだろ
4363 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:29:20 ID:???O
>>4360
サーセンwwwww
でも自分もシモン覚醒に期待してたクチだから同士っすよ同士!
4364 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:29:28 ID:???0
ゆたかはある意味1stのしんのすけポジションだな
いや、完全に斜め上方向に突っ走っている気がしてならないがw
4365 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:30:12 ID:???O
公務王カワイソス……w
4366 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:30:35 ID:???0
>>4355
ジョーカーとして参加させたのに、特に凄い支給品も支給してないし…
……なんでヴィラル参加させたんだよロージェノムw ただいじめたいだけじゃないのかwww
4367 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:31:23 ID:???O
ロージェノムはドS
4368 :やってられない名無しさん:2007/10/30(火) 02:31:33 ID:???0
この熱すぎる流れを見て、鬱蒼とした優勝or全滅ENDに持ち込みたい気持ちが沸々と……
おまえら妄想もいいですが、対主催なんてのは面倒くさいフラグ云々を順序付けて処理してかなきゃならないんだからな。
こんなのロワ終盤に携わった書き手しか理解できない苦労だろうけど。

110:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/02 23:00:17 YqYI+MsC
まあまいどばかばかしいお話を

111:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/03 00:09:55 pjgfOpY4
フラグなんて処理しないで
適当にやりゃいいやん

112:POROROCCANO! -ポロロッカーノ-
07/11/03 06:02:37 HCkm1BB/
「ねぇ、ちょっと待ってキール! 」
「んー何か落し物でもしたのかい?
 こぼれ落ちる君の美しさなら俺が一秒単位で拾っているから安心してくれよ。さぁ早く俺に愛の遺失物届けを……」
「ほらあれ! あそこには誰かいないのかな? 」

アレンビーが指を差す先にあるもの。それはエリアE-4に聳え立つごみ処理場だ。
彼女が予定の指針である北東とは別の方角の建物に興味を持つのも無理はない。
仲間探しのために都市部へ向かうとはいえ自分たちの移動手段は徒歩。
この広い世界で尋ね人を全員見つけるには、太陽が何回地球を周っても足りない作業になるのかもしれないのだ。
彼女が手間を惜まないはずがなく、目と鼻の先にある建物に食いつくのは自然な行為だろう。

「地図を見る限りじゃあそこはごみ処分場みてぇだ。高貴な俺には一生縁のない所だな」
「でも、誰もいないなんて言えないでしょ? ごみはごみでも『人ごみ』に会えたらラッキーじゃない! 」
「そんな五月蝿い連中、すでに『生ごみ』にされてるかもな。かーそれにしても翼の折れる仕事だぜぇ。
 そもそもだな、人探しとか郵便配達には鳥にだってちゃんとその道のプロってもんが……」
「泥棒は見つけるのが本職でしょ。ほら、行こうよ」

渋るキールをなだめ、アレンビーはごみ処理場へと進んでゆく。
東から差し込む太陽の光が、彼女のボディラインとブリにコーディネイトをしている。
そこはかとなくただよう薄幸さ、川の上流のようなブルー・アイズ・ブルー。
これら全てのシェークが醸す美しさにキールは芸術だ、とつぶやいた。
どんなにヘソを曲げていても、女のソレはこの好色鳥にとって特効薬クラスの『気分治し』。


113:POROROCCANO! -ポロロッカーノ- ◆hNG3vL8qjA
07/11/03 06:04:31 HCkm1BB/
■ ■ ■

アレンビーたちがごみ処理場に向かう少し前、エリアD-3南東。
そこには高速道路を降り終えて、軽快に入り口を飛び出す2人組みがいた。

「よぉ~し高速道路おしまいィィ! 」
「おしまいィィ!」
「そしてッ!見、え、て、き、た、ぞ、ごみ処分場ォォォォォ! 」
「ごみ処分場ォォォォォ! 」
「親父の奴、どんな顔するかなぁ……今すぐにでも連絡とりてーなァ! 」
「テレフォンだね! 」
「記憶を失くしたはずの俺たちがガン首揃えてやってくる……びっくりするだろうなァ!」
「ショッキングだね! 」
「でもよ、俺たちはそこを狙うんだ! そのままノリと勢いで押し切っちまうんだよ! 」
「おもいッきりにね!」
「だが親父のことだからきっと顔を真っ赤にして説教してくるんだろうなァ!『別れなさい、ロクな女じゃないよ!』ってさァ! 」
「うん! 午後まで怒られそうだね! 」

半裸男とハッピー女。己が道をひたすら走る天然勘違いカップルは、相変わらず楽しく笑いあっていた。
彼らの騒動にはいつも幸せが満ち溢れていて、世を偲ぶ市民たちを楽しませる。
彼らを知る者はみんな口を揃える。
『あの2人が泥棒だって!? そりゃ大変だ。さっきすれ違い様に、私の腹の虫を盗んでいったんだよ! 』と。
今回の騒動は親愛なるお父上、螺旋王が中心。2人の結婚に反対して頭が茹蛸になっちゃった。
だが負けない。アイザックたちは自分たちのヴァージンロードよろしくスパイラルロードをひた走る。

「ところでアイザック、ポロロッカ星ってどんなどころだっけ? 」
「おいおいミリア、今ポロロッカはこの宇宙上で最もホットな星なんだぜ!? もうすぐ14年に一度の春が訪れるんだからなぁ! 」
「ホットでスプリングなのォーッ!? 」
「そう! まるで温泉みてぇにそこら中の地面から桜吹雪が湧き出すんだ! 」
「それホントォ!? 」
「あ……いやぁーどうだろうな。今は工事中かもしんねぇ。今度の春には間に合わなくなるかもなぁ……」
「じゃあ間に合わせればいいんだよ! 」
「それだァーーッ!! 王子様権限を使ってみんなに協力してもらえばいいんだ! 」
「アイザックあったまいぃー! ダンゴーだよダンゴー!」
「よぉーし、そうと決まれば善は急げだ。行くぜごみ処分場ォォォォォ! 」
「ごみ処分場ォォォォォ……ってあれ? アイザック、誰かが私たちより先に走ってるよ!? 」


114:POROROCCANO! -ポロロッカーノ- ◆hNG3vL8qjA
07/11/03 06:05:33 HCkm1BB/
■ ■ ■

アイザックたちがアレンビーたちを呼び止めたのは、彼女たちがごみ処理場の入り口に入ろうとしていた瞬間だった。
ここで彼女に先に処理場に入られては、サプライズが水の泡。説得が失敗するかもしれない。
アイザックたちは思いつく限りの言葉で説得をし、なんとかアレンビーたちを引きとどまらせる。
アレンビーは突然の質問にあっけにとられていたが、彼らが剣持の友人である金田一一と一度接触していたことを知ったので
戸惑いながらも次第に彼らの勢いに打ち解けていった。

「ら……螺旋の王子様!? 」
「そぉーゆぅーわけなんだよ! 」
「COOLでしょ! 」

……はずだった。
お互いの住んでいた世界のことや、自分たちがこの場所で知り合った仲間、第一回放送の内容の情報交換はまだいい。
しかしここから先が悪かった。
ごみ処分場には自分たちの結婚を許そうとしない父である螺旋王がいることや、ノリで結婚の許しを得ようとしていること。
またそのための「ノリで押し切る作戦」を実行するにあたって、侵入の一番手の譲渡。
そしてこの「実験」がポロロッカ星の入国審査であり、アイザックはポロロッカ星人であるという驚愕の真相。

「その、カ……カフカって子や一は一緒じゃないの? 」
「今は別行動さぁ! あいつらも用があるみたいだしな」
「多分あっちの方にいると思うよ! 」

高速道路を指差しながら笑うミリアに、アレンビーはただ口を開いて相槌を打つしかなかった。
見るからに怪しい格好だが、とても嘘をついているようには見えない純朴な視線。
見るからに怪しい演説だが、すでにキールと出会っているため頭ごなしに否定しきれない異世界の紹介。
そして口伝いでは知っているものの、アレンビー自身が直接死体を見ていないという事実がよりリアルさを増す。

「ア、アタシ、一の仲間の剣持のオジサンさんから人が死んでる話を聞いてるんだけど」
「だから言ったろ? その死んだ人ってのは脱落者。つまり元の世界に返ったってわけだぁ。安心したまえ」
「でも死体を見間違うかなぁ……剣持のオジサン、嘘をついてるようには見えなかっ」
「死体? いやだねぇ、殺人事件なんて、実際に起こるわけないじゃないか!
 これは言ってしまえば……アレンビーからすれば夢の世界のようなものなんだ。だから現実と体は別々。
 つまり、脱落したそいつは意識だけが元の世界の体に戻り、こっちの死体はそのままなのさ! 」
「リアル&ファンタジーなんだね! 」
「へ、へぇ~……ははは」

アイザックとミリアの満面の笑みと喜びのダンスにアレンビーはさっきよりも口を大きく開けた。
何がなんだかわからなくなってきたらしい。彼女もいつのまにか彼らにつられて笑い始めていた。
しかし彼女はハッと思い出す。そう、頼れるストーカー鳥キールだ。
いい加減で大口だが、女好きである彼ならきっと自分の代わりに『お前ら何言ってんの?』で手助けしてくれるはず。
彼女は空を見上げて救済の視線を向ける。言葉はでない。しかし伝達はアイコンタクトだけでも充分。

「なるほどねぇ。螺旋王ってのも空気が読めない頑固ジジイってわけだ。
 ミリアちゃん、本当は君と一晩語り明かしたかったんだけど、もうツバがついちゃってるのなら俺は引くぜ。悔しいけど。
 目の前で結婚式挙げられる位なら、既に俺は経験アリよ。愛とナンパと説得にかけちゃ俺はその道のプロなんだ。
 だから君たちの縁結び、良かったらこの幸せの青い鳥に任せてくれないか? 」

そこは紺でしょ、とアレンビーは心の中で叫んだ。


115:POROROCCANO! -ポロロッカーノ- ◆hNG3vL8qjA
07/11/03 06:07:46 HCkm1BB/
■ ■ ■

アレンビーの視線に構わず、キールはアイザックたちに自慢のトークマシンガンを浴びせている。
結論から言うとキールは御伽噺のようなアイザックたちの話をほぼ真実だと受け止めていた。
『ポロロッカの王子が地球人の娘との結婚を許されず、父親のわがままに振り回されて試練を受けさせられる。
 挙句の果てに記憶喪失にまでさせられ、この場所で死んだ者は魂だけが元の世界へ戻る』
なぜなら、こんなことは彼にとって理解の範疇だったからだ。
幽霊船、時の都、爆弾生物、不死の都、夢の世界の牢獄、仮面武闘会、色彩都市……飽くなき泥棒稼業の毎日。
物だって町だって欲だって夢だって太陽だって盗んできた。
記憶喪失だの異世界だのは彼にとって『近所で猫が行方不明になりました』レベルなのだ。
さすがに星(生まれ)が違う人間に出会うのは初めてのことだったが、だからといって驚くことでもない。
ポイントは『未知の世界でもいかに自分らしく行動できるか』、これに尽きるのだ。
タネがわかればこっちのもので、後はいつものように茶化して欺いて何かお宝を頂戴すれば万々歳。
そもそもお宝目的でここに来たわけでもないのだし、
キールにとってはアレンビーがいなければさっさと死んでトンズラすれば終わる話なのだ。

「じゃ、早速俺たちは親父のところに行くぜ」
「2人の結婚を許してくれるようにお願いするの! アドバイスありがとうキール」
「ミリアちゃんたちは、説得が駄目だったらどうするんだい? 」
「「やっつける!」」
「おいおい、結婚後の親との付き合いも考えろよー」
「「んー……じゃあ逃げて隠れる! 」」
「愛の逃避行もオツなもんだが、それは最後の手段だ。心から祝福してくれる人は、一人でも多くいたほうがいいんだぜ? 」
「大丈夫だよ! ね、アイザック! いざとなったらッ!」
「そう! いざとなったらッ! 俺の……」
「ちょ、ちょっと待って!! 」

アレンビーはキールを掴んだまま走り、アイザックとミリアから少し離れる。
再び自分に渋るキールをなだめ、彼女は耳打ちをした。

(ねぇ! ちょっと本気であの2人のこと信じてるの? )
(ああそうだぜ。いい話じゃねぇか。恋に勘違いはあるけど偽はないからな)
(だって……ポロロッカとか、王子様とか、そりゃガッシュや剣持のオジサンのことがあるから違う世界ってのは本当っぽいけどさ)
(あのなアレンビー、死ぬのが嫌な気持ちはわかるが今回は話が別だぜ?
 生き残ったらポロロッカ星に移住するだけ。死んだなら元の世界に還る。そんだけじゃん。
 第一俺たいはお堅い壷頭の八つ当たりのはけ口になってるんだぜ。全く危うく損をするところだったぜ。
 人探しも手間いらず。清麿たちも見つけて死なせてやればいい。ぶっちゃけほっとけば勝手に死んで還ってくれるんじゃねーの?
 それと、俺を引き止めてるのは、海のように青い君だという事を忘れちゃダ・メ・だ・ぜ? )
(で、でもさ、彼らがその『偽』だったとしたらどうするの? なんか、想像を絶するというか。
 アイザックたちだって『カフカ』って女の子に言われて初めて記憶喪失に気がついたんでしょ?
 あの人たちあんまり頭良くなさそうだし……流石のアタシでも素直にハイそうですか、とは言えないよ)
(頭が固いねぇ。君は今誰と愛を語り合ってるのか忘れたのかい。君の世界に俺のように喋る鳥はいる?
 ここで君の方程式は通らないぜ。第一、カフカって子が元からアイザックの知り合いだっただけなんじゃねーの。
 俺がもしあのゴールイン直前の2人を騙すんなら、殺した分だけキャッシュバックの幸せプランを薦めるぜ?
 ポロロッカの話を知らずに、螺旋王の実験とやらをただの殺し合いと勘違いしてる奴になら尚更だ。
 ……アイザックはともかく、ミリアちゃんは見え見えの嘘に簡単にひっかかるとは思えねぇけどなぁ。
俺様だって一応汚い仕事柄で食ってるだしよ、人を見る目は結構自信あるほうだぜ? )
(ア、アタシだって本当ならそれでいいけど……)
(ふーん、じゃあ賭けをしようぜアレンビー。イカサマ無しの50/50、聞いてくれるかい)


116:POROROCCANO! -ポロロッカーノ- ◆hNG3vL8qjA
07/11/03 06:09:06 HCkm1BB/
■ ■ ■

(おいミリア、アレンビーとキールは一体何を話してるんだろうな? )
(なんだろうね? あたしたちに知られちゃマズイ事かな? )
(マズイ事ってなんだ?……うーん……)
(マズイ事……マズイ事……うーん……)

(( パ ー テ ィ ー !? ))

(おいおいおいおいこれってまさかあの2人……)
(そうだよ! そうに違いないよ! あの人たちもハジメとカフカなんだよ! パーティしてくれるんだよ!)
(そうか……皆して祝ってくれるなんて、幸せ者だなぁ俺たち)
(ハッピーエンドだね!)
(でもなぁ……たった4人でのパーティを2回もやるなんて寂しいよなァ! どうせだったら人が多いほうが良いよなァ!)
(いっそ2つのパーティを一緒にやっちゃえばいいんだよ! )
(やっぱそうだよなぁ! そうすれば4プラス2で6人パーティ! 2人の3倍だぜ3倍!)
(でもあたしたちは気づかないフリをしなきゃいけないんじゃないかな? )
(うまい事ハジメたちと会わせることが出来ればいいんだが)
(あたしたちがパーティの事に気づいていないようにして、なおかつうまく会わせなきゃダメだね!)
(ん~そうだな……ん?待てよ、オイオイミリア! これでもし親父を説得できたら……親父もパーティに加えるってのはどうだ! )
(すごーい! お父さんも加わって7人! ラッキーセブンだよォォォアイザックゥゥゥ! )
(よおっしゃァァァ燃えてきたァァァァ!!)

「あーミリアちゃんに王子様、ちょっといいかな」
「ん~何だキー……ってうおおおッ! すげーぞキール! それどうやってんだァ!? 」
「アイザック! が、合体だよ!合体! 」
「皆どうしてそうやって次から次へと手品を思いつくんだぁ!? 」
「イリュージョンだね! 」


117:POROROCCANO! -ポロロッカーノ- ◆hNG3vL8qjA
07/11/03 06:10:20 HCkm1BB/
楽しそうなミリアたちの声援が辺りに響く。
そんな彼らとはうってかわって、アレンビーはいつもより深刻な顔をしていた。"凶器”として右手に溶け込んだキールを携えて。
標的は半裸で構えるアイザック。目的は“手品”という名の“賭け”。
アイザックの話が真実なのかを確かめるのは、まず彼が嘘つきではない事を確認しなければならない。
『アイザックがこの会場にいる全ての人間から手品で殺されたという名目を手に入れなければならない』のは真実なのか。
自分たちの一撃で全てがわかるはず。無論本当に殺すつもりはない。
ただ、腕か足に軽く当てて負傷の状態をチェックし、治りの経過を調べるだけだ。
アイザックの言葉を借りるのならば彼は刃物で突き刺されてもすぐに傷が治る体になっている、というわけだ。
ではタネも仕掛けも無い『これ』のダメージを受けても、彼の怪我は完治するのか。

「大した事はねーよ。意識を集中して、銃を撃つイメージでとにかくぶっ放したいと思えばいいんだ。
 照準は気にすんな。初っ端から馴染むわけじゃねぇよ。ただし威力の調整に注意してくれ。俺もアイザックも共倒れになる。
名前は、『キールロワイアル A LA Allenby(アレンビー風)』でいいかな? 」
「ううん……名前はもう決めてあるの。初めてキールロワイアルの話を聞いたときから」
「じゃあ聞かせてくれよアレンビー。ネオノルウェーの天才による、この世界での記念すべき初のロワイアルを。
 あのおバカで幸せ一杯な新郎新婦への祝砲をなァッ! 」

アレンビーの右腕とキールの融合体が緑色の輝きを魅せる。張り詰めた空気が音を鳴らす。
銃口は大きく開かれ、光り輝くエネルギーが渦巻いている。賽は投げられた。
それは王ドロボウの愛用の品。放たれる刺激は、まるで杯に弾けるアペリティフ。
あとはお好きなように口付けをするだけ。



「ノォォォォォォォォベルゥゥゥゥゥゥゥ…………ロワイアルッッッ!!」



■ ■ ■

118:POROROCCANO! -ポロロッカーノ- ◆hNG3vL8qjA
07/11/03 06:11:39 HCkm1BB/
■ ■ ■

「ンモー! 手品をやらせてくれってならそう言えばいいのによォ! 」
「いいのによォ! 」
「悪いね。だがマジックにはサプライズは多ければ多いほどいいだろう? 」
「キール、よくしゃべる癖に変な時だけ気ィ使ってんじゃねーよ……って鳥なのに喋ってるゥ!? 」
「えェー!? キールが喋ってるゥー! 」
「今頃になってかよ……それより、本当だったんだな。人サマの体がリアルタイムで完全修復するのを見たのは初めてだぜ」
「またまたぁ~そっちこそ旨い手品だったぜ? ポロロッカの試練……まだまだ先は長そうだけどなァ! 」
「頑張れアイザック! あたしも頑張るよッ!」
「お詫びと言っちゃあ何だが、このキール、螺旋王子とその未来のご婦人に挙式の手続きを申し入れたき……」
「俺たち!嘘つかない! 」
「嘘つかない! 」
「話聞けよ。まぁいいや、じゃあ前祝いということで2人に俺の美声を送ろう! え~ゴホン。
 日は白く、町に照り、枝枝からァ、もれるささやき……葉むらのかげにィ~おお愛するひとよ……」

2人と1羽が談笑している横で、アレンビーはただ呆然と彼らを見ていた。
威力を抑えていたとはいえ、彼女は確かに怪我をさせるつもりで撃ったのだ。手品でもないのに。
しかしどうだろう、結果はご覧のとおり。アイザックはノーベルロワイアルの弾を受けながらも傷を回復させたのだ。
傷の治り方にキールも当のアイザックたちも驚いているのだから、
彼らが螺旋王に呼び出される直前までいた世界では有り得ない技術なのは間違いない。

(ポロロッカ星のパワーなんだろうか……すごい。ということはやっぱりアイザックはポロロッカ星の人間?
 じゃあこのまま生き残って、アイザックが螺旋王を説得すれば皆でポロロッカにいける?
 前の世界にも未練はあるけど……この世界で出会った良い人たちには、もう会うことは出来ないんだよね。
 ガッシュ、高遠、剣持のオジサン、アイザック、ミリア、あと一応キール。それに……君に二度と会えなくなるのは寂しいなぁ)

アレンビーは自分が担いでいたディバッグを開けてポルヴォーラを取り出す。
両手で抱っこをするように支えられた愛玩動物は、つぶらな瞳でアレンビーを見つめながら、彼女の胸に顔をうずめた。
アレンビーもポルヴォーラの背中をなでながら、優しく微笑みかける。

(ドモンはこの話を聞いたらきっと元の世界に帰っちゃうんだろうな……大事な人、ここにいないもんね
 今のアタシには、どっちに行くほうが幸せなんだろう)

アレンビーは自分が小さかったころを思いだす。
戦争のせいで亡き者にされた自分の両親。そして戦災孤児として一人ぼっちだった自分。
トラウマは、幼い彼女の心に少なからず傷を残している。
自分のことを母親のように擦り寄ってくれるポルヴォーラが、アレンビーには昔の自分に見えた。

(でも……魂だけがこっちにあるのなら、アタシのいた世界の、アタシやドモンの体はどうなってるんだろう。
 ……それってヤバくない!? みんな、死んでる死んでるって大騒ぎしてるんじゃないの!?
 いや、アタシはまだいいよ。でもドモンはよくない! 急いで帰らなきゃ! 待ってる人がいるんだから!)

アレンビーが気にかける人物―ドモン・カッシュ。彼にはレイン・ミカムラという相思相愛の恋人がいる。
アレンビーがドモンへの思いを譲るほどのベスト・カップルだった。その二人の仲がこの実験のせいで引き裂かれようとしている。
ドモンの幸せは自分の幸せ。それがあの時、ドモンに告白の後押ししたアレンビーのけじめだった。
アレンビーの心に、あのときの思いが甦る。


119:POROROCCANO! -ポロロッカーノ- ◆hNG3vL8qjA
07/11/03 06:14:06 HCkm1BB/
■ ■ ■

「よぉーしそれでは俺たちはこれから、このごみ処分場に侵入して親父の隠れ家を見つける! お前たち、準備はいいか! 」
「バッチリだよアイザック! 」
「こっちもOKだ。そっちはどうだいアレンビーちゃん」
「いつでも良いよ。急いで螺旋王を探さないと……アイザック、ミリア、絶対説得しなきゃダメだよ! 」
「まぁ~かしとけって! いざとなったら俺の……」
「それは説得の時までとっとけよアイザック。切り札は最後に出すから切り札なんだぜ? 」
「わぁかってるって! 周りに流されず!自分で流れを生み出す! ポロロッカ魂ってヤツを見せてやるさ! 」
「反逆だね! 」
「その通りだ! あ、そうそうキール。親父の説得が無事すんだら一度ハジメたちにあったほうがい~んじゃないかなぁ? 」
「あなたたち、あの2人と相談する必要があると思うの! 」
「んー……なんか面倒くさいことになりそうな予感だぜ」
「どのみち清麿やジンを探すんだからいいじゃない」
「いやむしろその逆さァ! 人が増える分楽になるであろう事さァ!」
「合体だね! 」

陸上競技のスタートラインのように横一文字に並ぶ3人と1羽。視線の先は全員はごみ処理場の入り口だ。
作戦は単純。螺旋王の隠れ家への入り口と、どこかに隠れているかもしれない参加者をみんなで探す。それだけだ。
アイザックはポキポキと両手の骨を鳴らし、ミリアはぐるぐると首を回し、キールは毛づくろいして準備をしている。
そして……ひと際深刻な表情で深呼吸するアレンビー。

(探すしかないよね。探して探して探しまくって……この事をみんなに知らせなきゃ。
 ドモンだけじゃない。ポロロッカに興味を持ってない人も、自分の帰りを好きな人に待たせている人もきっと沢山いる!
 元の世界へ帰りたい人にこのことを話して、『帰して』あげなきゃね! )

深い鏡の池に写るような、愛に仕える各々の思い。
しかし彼らの心には、風しのび泣く黒いやなぎのシルエットが……。


夢を見ましょう。いまはそのとき。






120:POROROCCANO! -ポロロッカーノ- ◆hNG3vL8qjA
07/11/03 06:15:21 HCkm1BB/
【E-4/ごみ処分場前/1日目-午前】

【チーム:ポロロッカ・ザ・ホットライン】
 [共通思考]
  1.螺旋王(親父)に会って、話し合いで解決できないか挑戦してみる。
  2.其々の思いを成し遂げる
    ※アイザック&ミリアは螺旋王からの試練の突破と2人の婚約の承諾。
    ※キールは自分が本当の意味で死ななければOK。
    ※アレンビーはこの世界から帰りたい人を元の世界へ『帰す』(つまり殺害)。
  3.螺旋王の二の次だが、互いの知り合いを探す。
  4.目指せポロロッカ(もしくはこの世界から逃避行)。

 ※殺し合いの意味を完全に勘違いしています(アイザックに課せられた試練で、終了条件は全員に手品で殺される事。)
 ※アイザックはポロロッカ星の王子で、螺旋王は彼の父親。それを記憶喪失で忘れていたと思い込んでいます。
 ※この世界は死ねば元の世界に帰還。生き残ればポロロッカへご招待されると勘違いしています。
 ※それぞれの作品からの参加者の情報はおおまかに共有してます。

【アイザック・ディアン@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:ボロボロになったパンツ一丁
[道具]:支給品一式、賢者の石@鋼の錬金術師、ずぶ濡れのカウボーイ風の服とハット(※本来アイザックが着ていたもの)
[思考]
1:ゴミ処分場に向かい、そこに隠された王城への入り口を探す。
2:親父の説得が終わったら、ミリアと結婚してポロロッカの王様になる。赤い宝石はミリアへ結婚指輪として贈ろう。
3:パーティー楽しみだなミリア! みんな一緒にやれば楽しいだろうなァ! あとでハジメたちと合流しようか?
[備考]
※アイザックの参戦時期は1931年のフライング・プッシーフット号事件直後です。
※一と可符香、キールとアレンビーはそれぞれ自分たちに内緒でパーティの開催を考えてると勘違いしています。

【ミリア・ハーヴェント@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:拡声器、珠洲城遥の腕章@舞-HiME
[道具]:支給品一式
[思考]
1:ゴミ処分場に向かう。
2:ジャグジー、チェス、剣持、明智、高遠、ドモン、清麿、ジンを探す。
3:パーティー楽しみだねアイザック! みんなでやればもっと楽しそう! あとでカフカたちと合流しようか?

※少なくとも「悲恋湖伝説」「雪夜叉伝説」「瞬間消失の謎」については把握済み。
※可符香とアイザックの話を全面的に信用しています。


121:POROROCCANO! -ポロロッカーノ- ◆hNG3vL8qjA
07/11/03 06:16:23 HCkm1BB/
【アレンビー・ビアズリー@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:健康 (キールロワイアルのアレンビーVer.『ノーベルロワイアル』修得)
[装備]:背中にブリ
[道具]:支給品一式、ブリ@金色のガッシュベル!!(鮮度:生きてる)
    爆弾生物ポルヴォーラ@王ドロボウJING
    注射器と各種薬剤、スコップ
[思考]
1:とりあえずごみ処理場に侵入。螺旋王か他の参加者を探す。豪華客船にゲームに乗っていない人間を集める。
  元の世界に帰りたい人は帰してあげる。最優先でドモン。清麿、ジン、金田一、明智、ジャグジー、チェス。
2:ごみ処分場捜索後は北東に進み、人の多そうな町の中心部に向かう予定。
3:悪いヤツにはビームブリをブチかます!でも強い人が居たら、ファイトしてみたいと心の片隅では思ってたり……。

[備考]
※いきなりアレンビーを口説いてから今までノンストップなので、名簿の確認はまだ。
※シュバルツと東方不敗は死人と認識。
※ガッシュ、剣持と情報交換済み。
※高遠を信用できそうな人物と認識。
※第一放送の内容を把握しました。

【キール@王ドロボウJING】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、ジンの仕込みナイフ@王ドロボウJING
[思考]
1:元の世界に帰ろうがポロロッカに行こうがどっちでもいいけど、とりあえずごみ処分場にいく。
2:人探しも豪華客船にゲームに乗っていない人間を集めるのも面倒臭くなってきた。
3:アレンビーと二人でウエディングブリに入刀したい。
4:他にも女性が居たら口説くつもり、野郎には興味なし

[備考]
※いきなりアレンビーを口説いてから今までノンストップなので、名簿の確認はまだ。
※ガッシュ、剣持と情報交換済み。
※高遠を信用できそうな人物と認識。
※第一放送の内容を把握しました。

122:虐殺天使きっちりちゃん ◆h8c9tcxOcc
07/11/03 07:09:20 t4+r2/Ue
 真一文字に寝そべり、波に揺られるまま、かがみは水面を漂っていた。
 貝を抱えるラッコのように、腹の上でひたすら大切に、妹の生首だけを抱き締めて。
 やや流れの速い川をくだり、大きな橋の下をくぐって、いつしかかがみは海に流れ出ていた。
「潮風が気持ちいい……」
 さざ波の音や海鳥の鳴く声が、途切れること無く鼓膜を優しく撫でる。
 陸を離れるまで昂り続けていた感情も、今となっては嘘のように思えるほど穏やかだった。
 かがみはつかさの首を手に取り、自分の顔と向き合うように掲げる。
 水に浸しつづけたそれはくしゃくしゃにふやけ、もはや原型を留めないほどに歪んでしまっていた。
 それでも、つかさと居られると思えば、そんなものは些細なことでしかなかった。
 二人で過ごせるということが、何より大切だったのだから。
「これで、よかったんだよね。これからはずっと、つかさと……」
『ビィ――――――――――』
 しかし、永遠に続くと思っていた二人の時間は、あっさりと終焉を迎えることとなる。
 センチメンタルな独り言を掻き消し、けたたましいブザー音が鳴り響いた。
「な、なに、なんなの!?」
 耳障りな音響はかがみの体内に共鳴するように振動を伝え、緊迫感は鼓動を高鳴らせた。
 戸惑うかがみを嘲笑うように、やがてブザー音はフェードアウトする。
 そして一定の音量で安定すると、それに被さってまた別の音声が響いた。
『この界隈は現在、進入禁止エリアと定められている。速やかに移動を開始し、当該エリア外へと退避せよ』
 聞こえたのは、主催ロージェノムの声だった。二度と耳にしたくはなかったが、そんなことを考える場合ではない。
 禁止エリア。聞き覚えの無い単語だったが、意味するところの見当はつく。警告に従わなければ、首輪の爆弾が作動するに違いない。
 背筋に悪寒が走る。既に一度、実際にそれが破裂するのを見ているのだ。これが脅しでないことは理解済みである。
 作動したとて、不死身であるかがみの首はすぐに元通りになるだろう。
 それでも、首を刎ねられるという未知数の痛みを味わうことには変わりない。そんな体験は、御免被る。
「でも、でもっ。ああっ、もぅ、どこへ逃げろっていうのよぉ!!」
 されど、周囲は見渡す限りの水溜り。どちらへ泳げば禁止エリアを脱することができるのかはわからない。
 たった今警告が始まったということは、エリアの端に触れてしまったに違いない。
 そう考え、パニックを起こしながらも海面を右往左往してみる。だが、警告音は一向に止まなかった。
 追い討ちをかけるように、螺旋王はかがみに冷徹な最後通告を突きつける。
『―残り十秒だ。急げ』
「急げったって……んあっ!」
 緊張に身を強張らせるあまり、脚が、それもあろうことが両脚が、一度に吊ってしまった。
 突然の痛みに動揺し、海水を大量に飲んでしまう。下半身に力が入らず、身体が少しずつ水中へと引きずり込まれていく。
 抱えていたものを無意識に手放し、腕を振り回して必死に浮き上がろうとするが、もがけばもがくほど身体は水に沈む。
「ひゃ、ごほ、げほっ」
 鼻腔の粘膜に触れた潮水が、激痛を伴い体内へ次々と侵入する。
『8、7、6』
 かがみの余命を告げるカウントダウンが開始された。しかしそれを聴く余裕すら、今のかがみには存在しない。
『5、4』
「ばっ、あぼぼぶぼ」
 いよいよ頭頂部まで水に浸り、天に翳した手先だけがじたばたと海面で飛沫をあげる。
『3、2』
「がぼがぼごぼ」
 視界が暗くなり、朦朧としてくる。
『1』
「ごぽ……」
 頭の中が真っ白になった。




123:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/03 07:11:02 HDqBqPR4



124:虐殺天使きっちりちゃん ◆h8c9tcxOcc
07/11/03 07:11:18 t4+r2/Ue
 千里の苛立ちは頂点に達していた。螺旋王に対するやり場のない怒りに、小さな胸は強く締め付けられた。
 腐葉土を踏み締める足取りは重く、肩は小刻みに震え、吐く息は荒い。
 ふと、握り締めたコンパスに視線を落とす。ひと呼吸を置いてから、力任せにそれを足元へ叩きつける。
 コンパスは手応えの無い音とともに、湿った地面にへばり付いた。
 がたがたと雑音を発しながら、コンパスの針はひたすら踊り狂っている。この森へ迷い込んでからというもの、ずっとこの調子なのだ。
 つい先ほど、市街地の外れに辿り着くまでは、何ら異常は無かったというのに。
 おかげで現在自分がどこに居るのか、どちらへ向かって歩いているのか、皆目見当がつかない。
 されど、苛立ちの原因は、ただそれだけではなかった。

 午前六時。千里の起床予定時刻に、螺旋王の放送は始まった。
 きちんと整頓された荷物の、一番上に詰めておいた筆記具は既に手の中にあり、万端の備えで放送に臨む。
『殺し合いは―あまり、はかどって……』
 冗長な駄弁を聞き流し、いよいよ脱落者の発表が近付くと、千里の心は大いに昂った。
 “実験”の進行度合いを知ることのできるそれは、千里にとってなにより重要な情報である。決して聞き逃すわけにいかない。
 だが、その瞬間は唐突に訪れた。
『さて、禁止エリアについて説明しようではないか。
 死亡者から話しては、自我を喪失し、放送を聞き取れなくなる者もいるやもしれんからな』
「……へ?」
 千里は目を丸くする。放送で流されるのは、脱落者の情報だけではなかったのか。
「禁止、エリア、て……」
『B-1、D-5、G-6、以上を禁止エリアと定める』
 螺旋王は坦々と英数字の羅列を述べる。千里はほぼ反射的に、人名が並ぶはずであったメモ用紙に、それらをきっちりと書き連ねた。
 B-1、D-5、そしてG-6。記入した内容に間違いは無い。脳を小突く重たい声が、耳鳴りでもない限りは。
『最初に言った通り、ここに足を踏み入れれば、首輪が爆発する事になる。
 そう、始めに我に歯向かってきた、あの男のように血肉の塊と化すだろう』
 禁止エリア。その名の通り、侵入することを禁じられた区域。何人も寄り付くことのない、デッドスペースである。
 ……デッドスペース。口にするのもおぞましい。その邪悪な響きに、千里の精神は急速に蝕まれていく。
『もっとも、この場には字が読めぬ者がいるのでな。警告後一分以内に離れれば、首輪は爆発しない』
 会場を虱潰しに踏破すること。それが千里の目的であり、また至福でもある。
 だが補足説明によると、当該エリア内で行動可能な時間は一分。たった一分で、中を調べ上げることなどできるはずがない。
 入れない。調べられない。きっちりできない。無情な現実に打ちひしがれ、千里は枯葉の絨毯に膝を衝いた。
『戦わずして吹き飛ぶ事ほどつまらぬモノはないのだからな。十分に、気をつける事だ』
「きっちり……したい……のに……」
『さて、最後の一人を目指す者、このゲームを破壊しようと目論む者』
「……うっ、うう……う」
『どちらにとっても感心があるだろう、死亡者の発表に』
「うな―――――――――――――――――っ!!」
 千里の理性はいよいよ崩壊した。傍らに広げた地図を乱暴に拾い上げ、そして絶叫する。
 地図の両端を握り締め、外側へと力一杯引っ張る。地図は中央を縦方向に走る折り目に沿って、綺麗に真二つになった。
 ……そこからは、一切の記憶が無かった。完全に自我を喪失していたらしい。


125:虐殺天使きっちりちゃん ◆h8c9tcxOcc
07/11/03 07:12:46 t4+r2/Ue
「もう、どうしてくれるのよ。折角立てた予定が、全部台無しじゃない!」
 落とした顔を両手で覆い隠し、首を左右に振るいながら千里は嘆く。
 唐突な場面転換のおかげで自分の居場所すらわからず。禁止エリアの存在するせいで、会場を隅々まで調べて歩くこともできず。
 死亡者数を聞けなかったために、今後のペース配分を考えることもできない。すべてが曖昧模糊とした、まさに最悪の状況。
「禁止エリアなんて設けるくらいなら、はじめから小さな会場にすればいいでしょう。どうしてわざわざ無駄な土地を用意するのよ。
 いま先進国の人口密度は飽和状態なの。こんな少人数のために割く土地なんか、これっぽっちも余ってなんかいないの。
 科学者なら、そのくらい分かっているでしょ? 現代人としての身の丈くらい、きっちり弁えなさいよっ!」
 実験という語に固執するあまり、螺旋王イコール科学者という誤解が生じていたが、千里にそれを気に留める余裕はない。
 ある意味では、千里は螺旋王の考えにいたく共感していた。
 安定した現代社会の恩恵に感け緩み切った人類を、互いに競わせ、篩いにかけることで、有能な人間のみを選び出す。
 その一点に措いては、千里はこのゲームが開催されたことに感謝の念すら覚えている。
 しかしながら、過程についてはその限りではない。螺旋王という人間のやり方には、疑問視すべき点が多すぎた。
 この度知らされた、禁止エリアの概念もそのひとつである。
 デッドスペースを生じさせるばかりか、主目的である競争行為以外での脱落者を生み出す可能性をもつそれ。
 まさに百害あって一理なしの、大失策に他ならない。
 千里は考える。螺旋王が有能な科学者だというのであれば、実験そのものの無駄も最小限に留めるべきであると。
「ああ、もう。考えただけでイライラするっ!!」
 頭を掻き毟りたい衝動を呑み込みながら、千里は足元のコンパスを思い切り蹴飛ばした。
 コンパスは小気味好い音を立てながら短い間隔で三回ほどバウンドした後、真っ直ぐに地面を転がる。
 やがてコンパスは大きな倒木にぶつかると、その場で仰向けに倒れた。
 その様子を目で追ってから、千里は溜息を吐きながらコンパスを回収に向かう。
 使い物にならない道具を所持し続けることも苦痛だったが、屑籠以外にゴミを棄てるという行為はさらに許し難いからだ。
 土まみれに汚れたであろうコンパスの下へ辿り着き、気だるげに上体を落として手を差し伸べる。
「え……っ?」
 コンパスを握り締めたそのとき、視界がおぼろげな白い光に包まれた。
 慌てて後ずさり、謎の光源から充分に距離を取る。しかし光はすぐに弱まり、間もなくして消えた。
 それだけでも驚くに値する出来事ではあったが、事態はさらなる展開を見せる。
 千里は眼を擦り、唖然とした。大口を開いたまま、光の現れ消えたただ一点を見つめる。
 視線の先には、ほんの数秒前までは無かったはずの、全身ずぶ濡れで横たわる少女の姿があった。




126:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/03 07:13:35 bXlMM53e
 

127:虐殺天使きっちりちゃん ◆h8c9tcxOcc
07/11/03 07:15:10 t4+r2/Ue
「かはっ!」
 喉を逆流する異物感に苛まれ、かがみは堰きたてられるように身を起こした。
 口の中は粟立った塩の味で満ちており、不快感などという言葉では表しきれない。
「がほ、げほげほ、おぇっ」
 さらに込み上げるものを感じ、咳き込みながら海水を勢い良く吐き出す。
 見てくれに構ってなど居られない。とにかく早く異物を排出することを、体内の自浄作用が訴えた。
「よかった。やっと意識が戻ったのね」
 背中を撫でる感触にはっとして、涙をぼろぼろ溢しながら声の主を見遣る。
 すぐ隣に、かがみの背中へと手を伸ばす、髪を真ん中分けにした少女の姿があった。その腰には、二本の刀が提げられている。
「……いやっ」
 半ば恐慌し、少女を反射的に突き飛ばした。少女は小さく呻きながら、べったりと尻餅をつく。
 少女の怯んだ様子を確認し、かがみはすぐさま逆方向へと駆け出そうとする。
「あぐぅっ!!」
 ところが、踏み出した右脚に激痛が走り、再び地面に突っ伏してしまった。
 すぐさま上体を捻って少女へ向き直り、上目遣いで様子を窺う。
 相手を不用意に刺激した上、逃げることもできない。絶体絶命の状況に、かがみの心臓は破裂しそうなほどに早鐘を打った。
 しかし少女は得物を抜きもしなければ、殺意に顔を歪めてもいなかった。
「まったく、不躾な人ね。あなたは学校で、人工呼吸をしてもらった相手には仇で返せとでも教わったの?」
 突き飛ばされた少女は不機嫌に眉を顰め、スカートの泥を入念にはたきながらゆっくり立ち上がった。
 人工呼吸という語を聞き、頭に疑問符が浮かぶ。そういえば、自分は海で溺れていたはずだ。
 いまだ脚がいうことを聞かないことからして、あれからそう時間は経っていない。
 それなのに、どういう訳か海岸も見えない森の只中に居て、さらにこの少女が自分の面倒を看ていたのだという。
「怯える必要はないわ。少なくとも、今あなたに危害を加えるつもりはないもの。
 それに考えてもごらんなさいな。あなたを襲おうと思うなら、普通は目を覚ます前にやっているはずでしょう?」
「…………」
 まるでこうなることが想定済みであるような口振りにやや疑念は残るものの、彼女の言い分はもっともである。
 まだ安心はできないが、ひとまず敵意はないと判断しておくべきだろうか。
 それに、咄嗟に逃げることの叶わぬ今、彼女にこれ以上の不信感を与えるのは危険極まる。
 体格はほぼ互角。丸腰、それも動かない脚を引いて喧嘩を吹っ掛けたところで、まず勝ち目は無い。
「まあいいわ。無事だっただけでも、運が良かったんだから」
 どこか意味深な言葉を吐き棄て、少女はかがみへ歩み寄る。そして右の手を、かがみの眼前へ差し出した。
 一瞬びくりと身を縮こまらせるが、右手を掴んでしまえば逆に危険は少ないと思い至り、すぐに平静を取り戻す。
 かがみは厚意の手を素直に受け取ると、自重の殆どを少女に支えられながら、恐る恐る傍らの倒木に腰掛ける。
 肌に貼り付く湿った衣服に不快感を覚えつつ、かがみは少女へ向けてぎこちない笑顔を見せた。
「あ……ありがと」
「どういたしまして」
 搾り出すように吐いた謝意に、少女の眉間に寄った皺はたちどころに消え去った。代わりに、人受けの良さそうな笑みが浮かぶ。
 その屈託の無い立ち振る舞いを見ていると、かがみは彼女に抱いた疑念を申し訳無くすら感じ始めた。
「その、さっきは……ごめん」
「気にしないで。きちんと反省のできる人は、嫌いじゃないから」
 さっぱりとした口調で、少女は応えた。どこかしら上から目線を感じるが、その気性が逆に安心感を与える。
 かがみもまた、仲間内では保護者的な役回りにあることが多かったが、それとはまた違った印象である。
 言うなれば、彼女のそれはリーダー的な気質で人を惹きつけるのを得意とするような感覚だった。
 その安堵に包まれたためだろうか。かがみは、忘れかけていた重要なことをようやく思い出した。
 つかさが、どこにもいない。

128:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/03 07:16:13 HDqBqPR4



129:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/03 07:16:32 bXlMM53e
 

130:虐殺天使きっちりちゃん ◆h8c9tcxOcc
07/11/03 07:16:58 t4+r2/Ue
「そうだ、つかさ! つかさは!?
 ねぇ、つかさのく……い、いや、私の他に、何か流れて来なかった?」
 焦燥しながらも機転をはたらかせ、軌道を修正しつつ質問を投げかける。
 妹の生首を抱えていたなどと告白しては、異常者扱いされるのが関の山である。尤も、既に正常でないことは自覚しているが。
「そうね、あなたが倒れている他には何も無かったけど……」
 軽く腕組みをしながら、少女は応える。
「それにしても、おかしな人ね。全身塩水まみれだったり、流れるなんて言い回しをしたり。
 まるで今し方まで、海の中にでも居たみたいじゃない」
 さらに首を傾げて、怪訝そうに眉間に皺を寄せた。彼女の言動に、かがみもまた顔を顰めた。
 おかしなことを言うのはどちらか。かがみにとっては、水のないことのほうが余程奇怪なのだ。
 海から遠く離れたこの場所に、身動きの取れないはずの自分が居ることが。
「それはこっちの台詞よ。なんで海に居たのにいきなりこんな森の中に倒れてたのか、わけわかんないわ」
「……え?」
 少女は目を見開き、身を乗り出してかがみへ強い好奇の視線を寄せる。
「ねぇ。その話、少し詳しく聞かせてくださる?」
 愚痴まがいな言い回しで吐き捨てるように言ったつもりの言葉。その何気ない一言に、少女は異様なほどに関心を示していた。



「……わかった!」
 首を左右に傾けてばかりいるかがみを尻目に、広げた地図と睨み合いながら、少女はひとり満足げに頷いた。
 そのはしゃぎ様は、さながら積年の研究が実を結んだ科学者のようである。
「この会場は、東西南北の端同士が繋がっているんじゃないかしら」
 それというと、RPGの世界地図なんかによくあるあれだろうか。それと現在の状況が、どう関係するというのか。
 百歩譲ったとて、この悪夢と楽しいテレビゲームとの接点は、これっぽっちも見当たらないが。
「まず、あなたが流されていたのがB-1。出発点がここで、川の途中で見た大きな橋と、鳴り出した首輪の警告音がその証拠。
 警告が鳴り始めてから六十秒以内にここへ来たということは、七時零分には西の端ぎりぎりに居たことになるわね」
 半分ずつに分かれた地図の上でペンの頭を行ったり来たりさせながら、少女は爛々と目を輝かせている。
「私はA-1の西端に辿り着き、やはりこの森の中に居た。そして真っ直ぐ数百メートル程歩いてきて、ここであなたと遭う。
 私が移動してきた方角がほぼ真北だとすれば、全部辻褄が合うのよ」
 なるほどたしかに、その理屈ならば点と点とが綺麗に線で結ばれる。その理屈が、現実に通用する概念ならば。
 どう頭を捻ったところで、到底納得はできない。非現実的にも程がある、突飛な妄想である。
「でも、そんなことができるわけ……」
「できるわけがない。でも、この際そうでも考えなければ、一から百まで全部が有耶無耶になってしまうだけ。
 街や海から森の中への唐突な場面転換は、既に起きてしまった事実。私達の常識からは、どのみち逸脱しているわ。
 ならいっそ、この現象の法則性だけでも突き止めておきたいと思わない?」
「はぁ……そういうもんですか」
 かがみは同調とも異議ともつかない、中性的な反応を返した。
 なんだか問題点を擦りかえられた感はあるが、一理ある意見な気もするからタチが悪い。
 常識外れの出来事が幾度となく起こっているのは紛れもない事実であり、今更概念がどうこうと考える次元にはないのだろう。
 それでも、首を縦に振る気にはなれなかった。ほんの少しでも、数奇な現実から乖離していたかったのかもしれない。
 とうに実証済みであるこの不死の体を現実のものと認めることを、未だ心のどこかでは拒んでいるのと同じように。

131:名無しさん@お腹いっぱい。
07/11/03 07:18:07 bXlMM53e
 

132:虐殺天使きっちりちゃん ◆h8c9tcxOcc
07/11/03 07:18:30 t4+r2/Ue
「でも、どうやって確かめるのよ。仮に、ここから西の端に出られたって、向こうは禁止エリアで首刎ねられるわよ」
 屁理屈は承知の上での反抗だった。言い切ってから、今居るエリアから逸れれば解決する話であることに思い当たるが、まぁいい。
 できれば、そんな証明をしたくないというのが、一番の本音であるのだから。
「そうね。実際に試してみれば、一番手っ取り早く真相が分かる。
 あなた、なかなか飲み込みが早いわね。じゃあ、早速実験してみましょうか」
 しかし反意のつもりの一言は、流れに竿をさす結果を招いてしまった様子だった。
 二枚の地図へ向ける好奇心に満ちた目をそのままこちらへ向け、少女はかがみへじわじわとにじり寄った。
「え、ちょっと……まさか」
 嫌な汗が頬を伝う。思わず逃げ出したい衝動に駆られたが、この倒木の椅子から離れるのは容易ではない。
 逃げなければ。でも、どうやって。堂々巡りをしているうちに、少女はかがみの胸に手を着き、思い切り突き飛ばしていた。
「げぇっ!?」
 掴まるべき支えなど無く、かがみの体はあっさりと後方へ投げ出される。
 一瞬の浮遊感の後、かがみの視界は明転した。

 光の幕が晴れたとき、そこに緑の木立は存在しなかった。
 さらに地面までもが消え去り、体は冷たい水溜りに放り込まれる。
 波の音。潮の香り。海鳥の声。問答無用で、そこは海だった。
『この界隈は現在、進入禁止エリアと』
「やかましい!」
 二度目となる警告を一蹴し、海面で必死にもがくかがみ。一分間の猶予を認識しているので、先刻ほどの焦りはない。
「ぶは、がほげほ」
 とはいえ、吊ったままの脚を引きずる状態に変わりはなく、かがみの体はぐんぐん水に沈んだ。
「ぺっぺっ。ええと、木の後ろのところで、背中からワープしたから……」
 脚の痛みに四苦八苦しながらも、冷静かつ迅速に思考を廻らせ。
「こっち!」
 正面へ向かって水を数回掻き分けると、かがみは三度、淡い光に包まれた。



「おんどりゃあ、いきなり何さらすんじゃ!!」
 森の中へ実体化した瞬間、かがみは目と鼻の先で待ち構えていた少女に食って掛かる。
 少女は動じることも無く、ロケットの打ち上げに成功したNASA研究員のような面持ちでかがみを見詰めた。
「ああ、やっぱり思ったとおりだったわ。これでひとつ、曖昧だった事象がきっちりと証明されたのね」
「はいはい、そいつはようござんしたね。お陰で私ゃ、危うくまた溺れかけたわよ」
 下目遣いで厭味たらたらに突っ掛かるかがみ。しかし少女は反省の色を示すどころか、呆れ半分に手の平を振るった。
「まぁ落ち着きなさいな。そんなに鼻息を荒げて、あなたったらサルみたいよ。
 人っていうのは、常に知的好奇心を満たし続け、それにより進化をしてきた生き物なの。
 物事をきっちり明確にするということは、身を張ってでも尊ぶべきものなのよ」
「言わせておけばいけしゃあしゃあと……そんなら、自分の身張ればいいでしょうが!」
「あら、だって向こうは海なんでしょう? 初めから濡れねずみのあなたが行くほうが、負うべきリスクが軽く済むじゃない」
「ふざけんな!!」
 いよいよ殴り掛かりたい衝動に駆られる。だが同時に、手応えのないやりとりに空しさを覚え、かがみは少女から顔を背けた。
 こうしてそっぽを向き、ひとまず曲者を視界の外へ追い出すことで、場の空気を切り替える。
 日常の中で身に付けた、勝ち目の無い言い争いを終結させる最善の策であった。
 尤も、それが泣き寝入りの一種であるということも理解はしていたが。
「それにしても……」
「……なによ」
 不機嫌に鼻息を吐きながら、かがみは横目で少女の方を見遣る。
 何度目ともつかぬ疑問の表情を浮かべ、少女はかがみの足元を見つめていた。
「靴だけを脱いで海に、って……もしかして、あなた自殺志願者?」
「あ…………」
 かがみは、しばし沈黙した。そういえば、あのケースは何と表現すべきなのだろうか。
 自殺がしたい訳ではなかったものの、当たらずとも遠からずのシチュエーションである。
 世捨て人を気取ったという意味では、やはり自殺にあたるのだろうか。
 やや思案し、溜息。考えるだけ馬鹿馬鹿しくなって、単純に否定しておくことにした。
「そう。なら、いいのよ」
「いや、何がどういいのか意味が分からんのだが」
 自己完結する少女に呆れて溜息を吐く。少女の顔にはどこか安堵の色が浮かんでいたが、特に追及する気にはなれなかった。


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