アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ4at ANICHARA
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ4 - 暇つぶし2ch301:何が彼女を壊したか? ◆lbhhgwAtQE
07/10/24 17:52:15 F5CQ08Ey
放送は6時丁度、支給された時計の長身と秒針がぴったり頂点で重なり合ったその時に始まった。
時計を片手に放送を待っていた明智は、螺旋王が時間に極めて正確に放送を開始したことに感心しながら、それを聞く。

放送にて、螺旋王が告げた情報の中で重要な事項は2つ。
一つは、立ち入りが禁止されるエリア3箇所。
そしてもう一つは、この6時間の間に命を散らした死者の名前。

「海上、市街地、山間部……なるほど。バランスよくってところですか」
禁止エリアに関して言えば、施設を含まないエリアが指定されていた。
殺し合いもまだ序盤であり、早々に参加者に爆死されても興ざめということで、人が集まりにくいであろう場所を意図的に選んだのだろう。
―明智は、そう推理する。
「しかし、注意に越したことはありませんね。うっかり禁止エリアに足を入れてズガンなんてことになったら、金田一君や剣持警部に腹を抱えて笑われてしまいますし」
明智はそう呟くと、彼ら二人が抱腹絶倒している姿を思い浮かべ、苦笑する。
幸いなことに、放送で告げられた名前の中に、彼ら二人の名前は無かった。
まだ、あの下品な笑いを見る機会は残っているようだ。
……しかし。
「9人……か」
それでも、この6時間の間に9人の人間が死んだ、と放送は告げた。
9人全員が自殺や事故死をしている可能性は極めて低く、かといって同じ人間が全員を殺したともいえない。
つまり、この舞台にはロイ・マスタングのように殺し合いに乗った参加者が確実に複数存在しているという事だ。
死亡者一人につき、殺害者がそれぞれ一人いるとするならば最低でも9人。
そして殺し合いに乗っているもののまだ誰も殺せていない参加者が同じ数だけ存在すると仮定すると倍の18人。
18人……それが、現状から明智が考えた、6時までの段階で殺人を犯した、犯そうと目論む者の人数だった。
しかし、これだけでは終らない。
この放送によって、心変わりする人物も出てくるだろう、と明智は考える。
主催者は言った。優勝すれば、その者が望むことを何でも叶えてやることにする。と
ならば、こう考えるものも出てくるだろう。

―優勝して、死者を蘇生してもらうしかない。

非常に短絡的で非現実的な考えだが、親しい人物を失い精神が不安定な状態にある者ならば、それにすがる可能性は大いにある。
詳細名簿を見れば、今回兄妹や友人を失った事を知ることになる参加者が複数いることが分かる。
そんな彼らのうちの何割かが先述のような理由で殺し合いに改めて乗ったのだとしたら――
「20人強……全体の4分の1は殺し合いに乗ってると考えるべき、といったところですか」
その中にはあの焔の錬金術師ロイ・マスタングも当然含まれている。
彼もまた、友人であるというエドワード・エルリックの死を知って、残った仲間を守るべく改めて殺し合いに乗ったことだろう。
「やはり護身の為の道具が欲しいところですね……」
マスタングの錬金術のように、参加者の中には自分のいた世界での科学技術からは考えられないような能力を持った人間が多くいるようだ。
この前のヨットハーバーの時のように毎度都合のいい場所で彼らと出会えるわけではない。
もし今、丸腰の自分にそんな殺し合いに乗った能力者が襲い掛かってきたとしたら……。
そう考えれば考えるほど、明智は手元が寂しく感じてきた。
そして、その寂しさを紛らわすように彼は腰に差していた白い銃を手にする。
「せめて、これが使えれば、どれだけ良かったことか……」
『申し訳ありません』
愚痴を垂れていても仕方ない、そう思い明智は銃を腰に差しなおし、立ち上がろうとした。
……が、その時彼は耳にしたのだ。男性の明瞭な声を、それも極めて近距離で。
「…………………………え? 今、どこから……」
『こちらです。あなたの手にしている銃からです』
声に言われるままに明智は腰に差そうとしていた銃を目にする。
「まさか……音声機能がついているとでも?」
『そうです。私はクロスミラージュ。インテリジェントデバイスとして生み出された存在です』
明智は質問に答える手元の銃に呆然とするしかなかった。

(……銃が喋る? これも錬金術の力なのだろうか?)

302:何が彼女を壊したか? ◆lbhhgwAtQE
07/10/24 17:53:31 F5CQ08Ey


放送は午前6時丁度に行われた。
だが、そのようなことは時計をはじめとした支給品を一切合財手放したティアナが知る由も無かった。
彼女は放送が始まってもなお、無我夢中で走り続けた。
しかし……

―キャロ・ル・ルシエ

死亡者を読み上げる中で呼ばれたその名前を聞いた瞬間、彼女はぴたりと立ち止まった。
そして、その場に膝を突いて崩れる。
「キャロ…………キャロ…………!」
キャロの死。
それは、彼女の目の前で起きた出来事であり、目を背けたかったことだった。
だが、それは放送が告げるように事実であり、決して逃れようの無いことであった。
「ごめんね…………守れなくってごめんね…………」
地に手をつき、ティアナは涙を零しながら項垂れる。
彼女の脳裏に浮かぶのは、元気だった頃の彼女。
ともに訓練をして汗をかき、ともにシャワーを浴びながら歓談し、ともに食事をしながら笑いあい――
しかし、もうキャロはいない。
彼女は頭を撃ち抜かれ、その後原形を止めないほどに頭部を破壊されたのだ。
それも自分の目の前で。
楽しかった頃の記憶を上書きするように、その時の記憶が彼女の脳をどす黒く塗りつぶしてゆく。
「……うっ! ぐ……ぐ……げ、げえぇぇぇ!!!」
そして、そんな記憶の上書きに拒絶反応を起したのか、彼女は反射的に嘔吐した。
最初の嘔吐で胃の中の物をあらかた吐き出した彼女の口から零れるのは、今や透明な胃液のみ。
その胃液の酸っぱさに反応すると、ティアナは起き上がる。
そうだ、いつまでも下を向いている場合ではない。
キャロのような犠牲者を六課から出さないためにはどうしたらいいのか?
つい先ほど決めたではないか。
六課の仲間以外は“敵”なのだ。
例えどんな善人面していようと、どんな小さい子供であろうと。赤の他人の腹の底など理解できないものなのだ。
殺し合いの場において、仲間を殺そうとする敵がいたら、殺さなければならない。
そう、知らない参加者はみんな殺していけばいいのだ。
“敵”を殺し尽くしたら、その後は、どうしたらいいかは分からない。
だが、今彼女に出来るのはそれだけなのだ。やるしかなかった。
「待っててね、スバル、エリオ、八神部隊長、シャマルさん……私が……私が全部片付けるから!」
虚ろな瞳に歪んだ決意を浮かべ、彼女は走り出す。

そうして、彼女が走っていった先にあったもの。
それが、モノレールの駅であり――


303:何が彼女を壊したか? ◆lbhhgwAtQE
07/10/24 17:54:39 F5CQ08Ey


クロスミラージュは考えていた。
主の元を離れた自分を手にした見ず知らずの男が殺し合いに乗らない、信用に足る人物であるのかどうかを。
信用に足る人物ならば、自分もこの状況を打破するべく知恵を貸すなりして協力したいが、もしそうでなかった場合は、自分を人殺しの道具として悪用されてしまう可能性がある。
だから沈黙を守り、ただの撃てない拳銃のふりをしていた。
こうして沈黙している間に、男が信用にたるかどうか調べる為に。
そうして沈黙すること6時間。
今までの男の様子を観察した結果、彼が殺し合いに乗らないことを確認したクロスミラージュは、ついに言葉を発した。

―これが、あの時の博物館での出来事の顛末だった。

「つまり、私はあなたに認められたと」
『そういうことになります』
「それは実に光栄なことです。ありがとうございます」
そんな会話をしながら、彼……もとい彼“ら”は歩いていた。
目指すはモノレールの駅。
乗るにしろ、乗らないにしろ、一度運行状況を把握しておいたほうが後々の為になる。
そう考え、彼らは駅に向かっていたのだ。
「ところで、クロスミラージュ君。君に質問があるのですが」
『何ですか。Mr.明智』
「君は先ほど、自分を魔法を補助する為の道具だといっていましたが……その魔法というのはどういったものか説明できますか?」
『はい。少し長くなるとは思いますが―』
錬金術といい魔法といい、自分からすれば、それこそフィクションの産物のような力を持つ人間が沢山いる。
そして、自分はそういった力にもいずれ対抗しなければならないかもしれない。
対抗するには、その力がどのような原理の元に働いているのか。
それを知る必要があり、明智はそのような意図の下クロスミラージュから説明を受けることにしたのだ。
『―と、いうことなのですが……分かりましたか?』
「ふむ……つまり、自身というコンピュータの中で詠唱というコマンド入力をすることによって、魔法というプログラムを起動させる……といった形態なんですよね。
 そして、あなたはその詠唱を簡略化する、いわばショートカットコマンドを持った道具である、と」
『理解が早くて嬉しい限りです』
元々プログラミングにも精通していた明智は、それを理解するように魔法という存在を理解した。
どうやら、クロスミラージュの知る“魔法”は、自分の知る物理や数学の世界の延長線上にあり、随分と体系化された技術のようだ。
……が、それは同時に、その魔法という技術が、ある日突然使えるようになるものではなく、魔力という媒介と一定の修練がなければ使えないということも意味している。
「どうやら、私には使いこなせないようですね」
『申し訳ありません……』
「いえ、あなたが謝る様な事ではありませんよ。魔法について理解できただけでも収穫が―と、喋っている間に到着したようですね」
クロスミラージュとの会話の途中。
彼らはようやく目的地であるモノレール駅にたどり着いたのだった。

304:何が彼女を壊したか? ◆lbhhgwAtQE
07/10/24 17:56:09 F5CQ08Ey
明智達がたどり着いた『出石(でいし)駅』は、地上部から伸びる階段の先にある中二階部分に駅舎が、さらにそこから階段を昇った2階部分にホームがあるという様式だった。
モノレールを通す軌道は一本、単線であり、待機線はない。
全ての駅を同じ構造と仮定するなら、ここでは一編成のモノレールを終点に着くたびに折り返させながら運行しているものと考えられる。
「実に効率の悪い運行をするのですね、螺旋王。これでは赤字確定ですよ?」
ホームに立ち、軌道を観察する明智は、盗聴しているだろう螺旋王に向かって愚痴をこぼしてみる。
それに意味が無いと分かっていながらも。
そして、次に彼はホームの看板にあった時刻表を眺める。
「ふむ……7時丁度到着の20分出発ですか」
『直に到着するという事ですね』
モノレールの到着はそう遠くないらしい。
ちなみにモノレールが進む方向は、D-1方面。
水族館やらドーム球場といったアミューズメント施設が近くにはあるようだ。
『市街の中心から離れた場所に向かうようですが、どうするのですか? Mr.明智』
「確かに中心街から離れた場所に向かうことになりそうですが……あの博物館に興味深い事実があったように、あちらの施設にも何か隠されている可能性があります。行ってみる価値はあるかもしれませんよ?」
『そう言われて見ると、その判断にも一理あります』
「どちらにせよ、まだ到着までいくらか時間があります。それまでに駅舎の内部をもう少し調べてみるとしましょう」
時計を見れば、まだ10分強の猶予がある。
その間、ただ何もせずに待っているというのも時間の無駄だと明智は判断し、階段を下っていった。

中二階にある駅舎フロアは電灯が灯っていない為に薄暗く、そして極めて簡素な作りになっていた。
ホームへ続く階段、地上へ下りるための階段、自動券売機、自動改札、トイレ、そして駅員の詰所。
そこにあるのは大まかに分けて、6つの設備、フロアしかなかった。
そして、その6つのうち、券売機と自動改札はホームに上がる前に電源が入っていないのか、作動していないことを確認してある。
よって、明智が次に調べたとしたのは……
「……ふむ。さすがに武器らしい武器が置いてあるわけありません、か」
明智は詰所のドアを開き、中を調べていった。
しかし、そこには事務用品や帳簿のようなものしかなく、有益そうなものといえばモノレールの運行状況を示した表、ダイヤグラムがあったくらいだった。
それを見るに、モノレールは明智の予想通り、一編成の折り返し運転によって運行されているようだ。
明智はいつか役に立つかもしれないと考え、それを詰所の隅にあったコピー機で複写してデイパックにしまうと、部屋を出ようとする。
するとその時、彼は物音を耳にすることになる。
それはドアの向こう、地上部に繋がる階段の方向から聞こえてくる声で……

305:何が彼女を壊したか? ◆lbhhgwAtQE
07/10/24 17:57:44 F5CQ08Ey


ティアナがモノレールの駅の階段を上っていったのはただの気紛れだった。
あえて理由をつけるならば、「そこに駅があったから」と言うべきだろうか。
とにかく、そんなわけで彼女は今、駅舎のフロアにたどり着いたのだ。
「…………」
だが、先述の通り彼女は当てもなくここにやってきたわけで、駅に来て何かをしようと思っていたわけでもない。
故に彼女はただ、何もせずにただ立ち尽くすだけだった。
しかし、そんな時だった。
「おはようございます」
突如、左前方にあったドアが開いたかと思うと、眼鏡を掛けた長身の男性が姿を現した。
男は、ティアナと同じフロアに立つと、ドアを閉め、こちらに微笑みかけてきた。
「あなたはティアナ・ランスターさんですね?」
「……!?」
「あぁ、すみません。まだ自己紹介してませんでしたね。私は日本の警視庁刑事部捜査第一課の明智という者で―」
男は自己紹介を続けるが、それはティアナの耳には届いていなかった。
彼女の脳裏では、何故この男が自分の名前を知っているのかという疑問が渦巻いていた。
自分はこの男に会ったことも無ければ、雑誌やテレビで見かけたこともない。
正真正銘の初対面のはず。

なのに、何故知っているのか?
誰かから伝え聞いた?
その“誰か”とは?
……決まってるじゃないか。自分を知っている“誰か”とは“六課の仲間”だ。
そして、この場にその仲間がいないということは、つまりこの男は六課の仲間から情報を聞きだした後、卑劣にも殺害したに決まっているわけで……。

「―というわけで、あなたに戦意がないのであれば、是非協力して……」
「うっさい……」
「……え?」
「うっさいって言ってるでしょ!!!」
叫ぶと同時にティアナはチャージしていた魔力を解放、複数の光弾を男目掛けて放った。
だが、それは男が間一髪で回避したために、男の代わりに駅舎の壁に直撃する。
すると、壁は轟音を立てて崩れてゆく。―非殺傷設定など、遠の昔に解除していたのだ。
「突然どうしたのですか? 私にあなたを攻撃する意志は―」
「うるさいうるさい! うるさいうるさいうるさい!! そんな言葉に騙されるものか! お前達は……全員敵なんだ!!」
男目掛けて、再度光弾を発射するも、それはまたしても壁を抉るだけに終わる。
「―だったら!」
ティアナは光弾を生み出すと、今度は軌道を大きく上方に変更して発射する。
すると、弾は男の真上にあった案内板を支えるポールを直撃、天井との接点を失った案内板は真下の男を襲うことになり―
「くっ―」
回避運動を行う隙を彼女は見逃していなかった。
「シュート!!!」
今度こそ当たれ! そんな意志を乗せて光弾は男へとまっすぐに突き進む。
しかし、男は今度は屈むことでその直撃を免れた。
ただし、彼の肩を弾のひとつが掠めたようだったが。
「チィッ!」
精製した魔力弾は、今ので弾切れだ。
ティアナは目の前の男に角の影へと隠れるチャンスを与えてしまった。

……だが、これで終ったわけではない。
駅の唯一の出口である階段前は自分が押さえている。
ホームに逃げるにしても、上り階段へ向かうには自分の前へと一度姿を見せなくてはならない。
ならば、ティアナはそこを突くまで。
彼女は冷静にそのような考えに落ち着くと、再度魔力弾を精製し始めた。

306:何が彼女を壊したか? ◆lbhhgwAtQE
07/10/24 17:59:03 F5CQ08Ey


ティアナが階段前で待ち構えている頃。

「やれやれ……参りましたね」
弾が掠め、血が流れる左肩を押さえながら明智は、その端正な顔に焦りの表情を見せる。
「あなたの言う魔法というものが、我々の知る銃火器に近い存在であることを身をもって痛感しましたよ」
『一体どういうことなのでしょうか……。何故マスターが……』
クロスミラージュは動揺しているような声を発する。
無理もない。
いくつもの作戦で行動をともにしてきた彼にとって、今のティアナの様子は信じられないほど変わっていたのだから。

―詰所で物音を聞いた時。
誰かが近づいてくることを察知した明智は、改札横の窓からティアナが近づいてきたのを確認した。
そしてその事実をクロスミラージュが知ると、彼は「ティアナと合流してみてはどうか?」と提案してきた。
クロスミラージュは知っていたのだ。
彼女が決して殺し合いに乗るような人間ではなく、生真面目で明智と同じような正義感を持ったパートナーである、と。

だが、行動の結果からすると、そのクロスミラージュの思惑は見事に外れたことになる。
彼女は、明智の話を遮って突如として攻撃してきたのだ。それも非殺傷設定を解除した状態で。
『何故このようなことに……』
「元から殺人狂や疑心暗鬼に駆られやすい性格でなかったとするなら、原因は恐らく……キャロ・ル・ルシエの死でしょうね」
放送で呼ばれた中にいた一人、キャロ・ル・ルシエ。
詳細名簿によれば、ティアナと彼女は、同じ職場の仲間らしい。
互いにまだ子供、しかも同性とくれば、恐らくはそれなりに親しかったのだろう。
そのような人物が死亡したとなれば、彼が博物館で危惧していたような“心変わり”を起しても何ら違和感は無い。
「よくよく見てみれば、彼女の衣服には血痕が多数付着していましたし……私としたことが油断していましたね」
『いいえ、私がマスターの様子を十分に観察する前に、顔を出そうと言ったのがそもそもの原因で……』
「クロスミラージュ君、今はそのようなことを延々と言っている場合ではなさそうですよ」
隠れた影から、ティアナのいるほうを覗く明智。
すると、そこには無数の魔力弾を空中に浮かせ、階段前に陣取る彼女の姿がありありと見えた。
「まずは、この状況をどうにかしないと……」
下に逃げるにも上に逃げるにも、ティアナの前へと飛び出なくてはいけない状況下。
あの魔力弾の弾幕を単純に掻い潜るのは困難だろう。
―といって、いつまでもここに留まっているわけにもいかない。
ならばどうすればいいのか。

……明智はその脳をフルに回転させながら考えていた。

307:何が彼女を壊したか? ◆lbhhgwAtQE
07/10/24 18:00:44 F5CQ08Ey


隠れる明智と、構えるティアナ。
二人の間で続いた膠着状態を最初に破ったのは、明智の方だった。
「ティアナさん、聞こえますか?」
壁に身を隠したまま、明智はティアナに聞こえるような声で尋ねる。
だが、彼女はそんな彼の問いには反応しない。
いや、聞こえてはいるのだが、無視しているのであった。
敵の言葉に耳を貸す必要などないのだから。
「もう一度言いますが、私にはあなたを殺そうとする意志はありません」
ティアナはそれでも返事をしない。
「出来れば、あなたもその物騒な弾丸を収めてくれると嬉しいのですが……無理ですかね―と、おっと!」
問いかけながら角から顔を出した明智目掛けて、ティアナは魔力弾を数発撃ちこむ。
だが、結果は相変わらず壁を抉るだけ。
すると、壁の向こうに隠れた明智は再度ティアナに質問をぶつけてきた。
「では、一つだけ質問を。……何故あなたはこのようなことを? このようなこと、あなたの友達や上司は望んでいるのですか?」
「―!!」
「聞き及んだところによると、あなた達は向こうの世界では治安維持の為に働いていたとのこと。そんなあなたが何故このような殺し合いに乗ってしまったのですか?」
その言葉を聞いて、ティアナの頭には血が上ってゆく。
何故こんなことにしているかだと?
決まってるではないか。
自分達六課の仲間を、見ず知らずの“敵”から守るためだ。
キャロのような悲劇はもう繰り返してはいけない。
だから、自分が人を殺したり出来ないであろうスバルやエリオに成り代わって、参加者を殺そうと決意したのだ。
それだというのに、あの男は……!
「それと、私はあなたの相棒であるクロスm―」
「何も分かってないくせに……私達のこと何も知らないくせに……そんな言葉に誰が乗せられるものかっっ!!!」
明智の言葉を遮りティアナは、魔力弾を一気に明智の隠れている場所に撃ち込む。
今度は今までのような直線軌道の弾丸ではない。
自分の遺志である程度のコントロールが出来る誘導弾だ。
誘導する先は勿論、男の来ていたスーツが見え隠れする角の向こう。すると―
「ぐあぁぁぁぁ!!!!」
弾がその向こうに消えて間もなく、男の叫び声が聞こえてきた。
先ほどまで、余裕を持ったいけすかない喋り方をしていた男の声だ。
今まで真っ直ぐにしか飛んでいなかった弾が突然曲がって、しかも大量にやってきたのだから、ひとたまりも無いだろう。
「やった……のよね?」
ティアナは、男の被弾を確認するために奥へと進んでゆく。
すると、そこには確かに穴が空き、焼き爛れたスーツの上着があったのだが…………
「―!?」
ティアナの目の前にはスーツの残骸はあれども、それを着ていた人間の方がいなかった。
あるのは、黒焦げの上着と横倒しになった同じく黒焦げの背の高い観葉植物のみ。
このとき、ティアナがもし六課の普段の教導の時のように冷静であれば、これが囮であり、すぐ傍にこれを仕掛けた張本人がいることに気付いていたであろう。
だが、今の興奮した状態のティアナにそのような判断は下せなかったようで……背後の存在に気付くのも一歩遅かった。
「……な、は、離して!!」
「ここで離してしまうほど私も愚かではないのでね」
気付けばティアナはうつ伏せに押し倒され、両腕を後ろに捻りあげられていた。
「こ、殺してやる!! あんたなんかにあんたなんかに殺されてる場合じゃないのよ!!」
「うぉっと……やはり訓練を受けているだけありますね……。しかし、私も今のあなたを野放しになど出来ません。……少し頭を冷やしてもらいましょうか!」
「―ぐぁっ!」
首筋に鈍い痛みを感じると同時に、ティアナの意識は深い闇に包まれていった。
そして、彼女は意識を完全に失う直前、懐かしい声を耳にすることになる。
『申……あ……せん、……ター……』

―あ……れ? この声……って……クロ……スミラー………………

308:何が彼女を壊したか? ◆lbhhgwAtQE
07/10/24 18:02:21 F5CQ08Ey


「とりあえず……今はこれでいいでしょう」
何とかティアナを取り押さえることに成功した明智は、少女が完全に意識を失ったことを確認して、大きく息を吐いた。
「次に目を覚ました時は少しは冷静になってくれているといいのですが……」
『マスター……』
「今はそっとしておきましょう。それよりも……」
明智は立ち上がると、焼き爛れた上着の元まで歩き、それを拾い上げる。
「直撃なら今頃、私がこのスーツの穴のある場所に穴をあけていたわけですか……。事前に貴方に誘導弾の事を聞いておいて本当に良かった」
『マスターなら、あの状況で誘導弾を使わないはずがなかったですから……』
ティアナを説得しようとしていたあの時。
彼はクロスミラージュから、ティアナの砲撃魔法について簡単に説明を受けていた。
もし、彼女が本気ならば、そろそろ誘導弾が発射されてもおかしくない、と。
そのような忠告を受けていたからこそ、彼は観葉植物の木をスーツを組み合わせる事でダミー人形を作ることを思いついた。
角から見え隠れする位置にそのようなダミーがあれば、誘導弾の目標もそちらに定めるだろういう見込みだったのだが、どうやらそれは的中したようだった。
「せっかくの上着が台無しになったのは切ないですが、今回はまぁ仕方のなかったということで―」
明智は焼けた布切れと化した上着をその場に置くと、再びティアナの元に。
そして彼は、彼女を抱きかかえた。
『マスターをどうするつもりで?』
「このまま放置しておくのも男として恥ずべきことですしね、詰所で寝かせてあげようかと」

詰所には丁度いい具合に、人を寝かせられるサイズのソファがあった。
明智はそこに彼女を寝かせると、今度はどこからか荷造り用のナイロンロープを持ってくる。
『Mr.明智。まさかあなた、特殊な趣味が……』
「違います。あのような出来事がありましたから、一応の処置ですよ。起きてすぐに私の顔を見て暴れだされたら、それはそれで困りますし」
『ということはつまり、あなたはマスターが起きるまで、付き添うと?』
「そういうことになりますね。女性を放置しておけるほど私も腐ってはいません」
目の前で眠る少女は、ふとした衝撃で心にひびが入り、そのひびが大きくなることで暴走を始めたに過ぎたに違いない。
犯罪を芸術と見る高遠や、最初から仲間を守ると決意してゲームに乗ったロイとは違う。
だからこそ、まだ救えるかもしれない。まだ正気に戻ってくれるかもしれない。
警察とは、犯罪者を取り締まるだけの組織ではない。
犯罪を犯した者に更生させるための機会を与える組織なのだ。
そんな組織に属する明智だったからこそ、ティアナには立ち直ってほしいと思っていた。
だが、ここには明智と思いを同じにする―いや、明智以上にそれを願うものがいた。
『Mr.明智。ここは私に任せてもらえないでしょうか?』
クロスミラージュは、ティアナの両手を拘束しようとしていた明智を呼びとめ、そんな提案をしてきた。
当然、明智は驚いたようにクロスミラージュの方を振り返る。
「いえ、任せるとは言っても、あなたには手がないですからロープを縛るという行為が―」
『そうではありません。私に任せてもらいたいのは―マスターの説得です』
作業を続けようとしていた明智の手が止まる。
『あなたは非常に聡明だ。ここで時間を潰しているよりも、他の施設を回ったり、あなたと同じ意志を持つ仲間を探したほうが有益なはずです』
「しかし、私があなたを放置してこの場を離れてしまっては、もしもの時に……」
『私を信じてください。私がマスターを……絶対に説得してみせます』
語気を強くしてクロスミラージュは主張する。
今まで常に冷静であった彼がそこまで言うのであれば……と、明智は考える。
確かに、彼女が目を覚ました時、自分を気絶させた張本人が目の前にいては錯乱状態を再度陥るかもしれない。
説得をするなら、彼女が信じているパートナーの方が適しているはずだ。
ただし、もし説得に失敗した場合は、ティアナは得物を手に入れた状態で殺戮の舞台に舞い戻ることになる。

クロスミラージュに任せるか、それともやはり自分が残留するか。

明智が考えた末に出した結論は――

309:何が彼女を壊したか? ◆lbhhgwAtQE
07/10/24 18:04:20 F5CQ08Ey
「ほぅ、車両自体は立派なものですね」
ホームに待機しているモノレールを眺めながら、明智は呟く。
単線かつ一両編成の折り返し運転という環境から、質素な車両を想像していた彼にとって、目の前にあった車両は外観も内装も意外なほどに綺麗に見えたのだ。
ただし、「らせん号」と書かれたネームプレートだけはいただけなかったが。
「―と、こうして眺めている場合ではありませんでしたね」
時計を見れば、時間は7時20分になろうとしている。
明智は車内に足を踏み入れ、出発を待つ。
そして、それから間もなく発車ベルがホームに鳴り響き、ドアが閉まるとモノレールはゆっくりと北上を始めた。
窓を覗けば出石駅がどんどん遠ざかっていく。
明智は、その駅を見ながら、そこに残していった仲間の無事を祈った

(……後は任せましたよ、クロスミラージュ君)





明智がモノレールに乗り北上を始めた頃。
クロスミラージュは詰所のデスクの上にいた。
そしてそのデスクの傍では、ティアナがソファに眠っている。
そう、結論から言えば、彼は明智に説得を任されたのだ。

―「では、ティアナさんの説得は任せます。私はひとまずモノレールでD-1へと向かってみようと思います」
―「しかし、特に何もなければ、10時50分発の便でこちらに戻ってくるつもりです。彼女のことも気がかりですし」
―「ではまた後ほど。それまでの間、彼女をお願いしますよ、クロスミラージュ君」

人ではない、道具に過ぎない自分を彼は信用してくれた。
ならば、クロスミラージュもそんな明智の信頼に応えなくてはならない。
自分はティアナのパートナーだ。
壊れた彼女を元の少し厳しいところもあるが根は優しい彼女に戻すのは、当然の義務だ。
「う、うぅん…………」
依然、深い眠りについたままのティアナ。
彼女の壊れた心は、本当に直せるのだろうか?

それは、誰にも分からない。

310:何が彼女を壊したか? ◆lbhhgwAtQE
07/10/24 18:06:44 F5CQ08Ey
【C-4・モノレール車内/一日目・朝】
【明智健吾@金田一少年の事件簿】
[状態]:若干疲労、右肩に裂傷、服も乾いてきた頃(上着喪失)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ジャン・ハボックの煙草(残り16本)@鋼の錬金術師、参加者詳細名簿、予備カートリッジ8
    ダイヤグラムのコピー
[思考]
基本思考:犯罪芸術家「高遠遙一」の確保。ゲームからの脱出。
1:ゲームに乗っていない人間を探しつつ施設を回る。
2:D-1駅に到着次第、付近を調査(水族館かドーム球場を回りたい)
3:D-1駅から10:50発のモノレールに乗ってD-4駅へと戻り、クロスミラージュと合流。
4:金田一、剣持を探す。
5:明日の正午以降に博物館の先に進む。信頼できる人物にはこのことを伝える。

[備考]
※参戦時期はアニメ最終回(怪奇サーカスの殺人)後
※リリカルなのはの世界の魔法の原理について把握しました。

【D-4・D-4駅駅員詰所/一日目・朝】
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:精神崩壊、血塗れ、気絶
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
1:…………
2:スバル、エリオ、はやてが危険に晒される前に他の参加者を皆殺しにする。
3:映画館近辺には戻りたくない。が、あの二人(ジェットとチェス)はいつか殺す。
[備考]
※キャロ殺害の真犯人はジェット、帽子の少年(チェス)はグル、と思い込んでいます。
 これはキャロのバラバラ遺体を見たショックにより齎された突発的な発想であり、この結果に結びつけることで、辛うじて自己を保っています。
 この事実が否定されたとき、さらなる精神崩壊を引き起こす恐れがあります。
※銃器に対するトラウマはまだ若干残っていますが、相手に対する殺意が強ければなんとか握れるものと思われます。
※冷静さを多少欠けていますが、戦闘を行うことは十分可能なようです。
※説得をクロスミラージュに一任している為に、手足は拘束されずに済みました。


[全体備考]
※D-4駅には戦闘の痕跡が残っており、明智の上着が放置されています。
※「クロスミラージュ@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ4/4) x2」が詰所のテーブルに置かれています。

311:三つの心が一つにならない  ◆DNdG5hiFT6
07/10/24 18:22:53 Ism2cGKG
『―エドワード・エルリック、キャロ・ル・ルシエ、―枢木スザク』

その名前が呼ばれた瞬間、名簿片手に放送を聴いていたルルーシュは自分の耳を疑った。

(スザクが……死んだ……?)

脳裏に浮かぶのは、はにかむ様に笑う親友の笑顔。

「何故だ……どうしてお前が死ななければならない……!」

最高の親友。
多少甘いところもあるがいずれは最も大切な妹すら任せようと思っていた男。

幼少の頃の出会い、互いに世界を変えようと誓い合ったこと、そして時を経ての再会。
それらがフラッシュバックし、
そのたびにその身を削られるような悔恨の念が自分を責め立てる。
まるで半身を失ったかのような感覚―ああ、これが“絶望”でなくて何というのだろう。

「そこにいるのは誰だっ!」

だからそんな声がかけられてから初めて
ルルーシュは自分が地面にへたり込んでいることに気付いたのであった。

「出て来い! 10秒数える間に出てこなければ撃つ!」

***


放送を聞き終えた糸色望は大きく息をつく。
とりあえずは自分の知り合いの名前が呼ばれなかったからである。
が、カレンの表情が僅かに曇っていることに気付く。
この状況でそんな表情の意味するところは一つ。

「……お知り合いの名前が呼ばれたのですね」
「はい……」
「こういう場合どういっていいのか分かりませんが……ご愁傷さまです」
「……いえ、いつかは倒さなければいけなかった相手です」
「? それはどういう……」

望が詳しく聞こうとしたその時、近くのトイレの裏から何かが崩れ落ちるような音がした。

「そこにいるのは誰だっ!」

今までとはうって変わった機敏な動作でカレンがディパックから取り出したのは黒い鉄塊―ワルサーP38だ。

「出て来い! 10秒数える間に出てこなければ撃つ!」

硬直する“ゼロ”を尻目にカレンは鋭い視線を物陰に向けたまま銃を構える。

312:三つの心が一つにならない  ◆DNdG5hiFT6
07/10/24 18:24:06 Ism2cGKG
糸色望は絶望した。

背後で物音がしたと思ったらいつの間にかカレンさんが銃を構えているではないですか!
しかもどう聞いても物騒なこと極まりない台詞を口にしながら!
ハッ、いけませんよこの状況は!

・出てきたのが凶悪な殺人鬼⇒カレンさんがやられる⇒私の監督責任
・出てきたのが無害な一般人⇒カレンさんが誤射する⇒私の監督責任

どちらにしろ私の監督責任になってしまうではないですか!
教育者の責任問題が取りざたされている昨今、そんな時事問題に巻き込まれたくありません!

「ま、待ってくださいカレンさん!」
「何を悠長な! あそこに隠れているのが
 この殺し合いに乗った輩だった場合どうするんですか!」
「(監督責任を追及されたくないので)私は貴女を危険な目に合わせたくはないのです!」
「え……」

カレンさんの体から力が抜けたのをいいことに、後ろに追いやります。
カレンさんの顔が何やら赤いようですが風邪でしょうか。
まぁずぶ濡れですからね。この問題を素早く解決して着替えないといけません。

「……私たちはこの争いには乗っていません。
 貴方も乗っていないのであれば姿を現してはいけないでしょうか。
 いえ、姿を現さなくともかまいません。
 それならば私たちがここから去るまでの間―そうですね5分ほどでいいので
 大人しくしてはいただけないでしょうか」

そして待つこと数秒。
反応がないのでこの場所から離れようかと思い始めたときでした、物影から少年が出てきたのは。
一見普通の少年……ですが彼を見たカレンさんが驚きの表情に変わりました。

「お知り合いで?」
「はい、学校の……クラスメイトです」
「なるほど。カレンさんのご学友の方ですか。
 はじめまして。一応今は色々あってゼロと名乗らせていただいてます」

とはいってもルルーシュ君はこちら―というか私を怪しんでいるようです。
まぁ目の前に怪しい仮面とマントの男がいたら不信でしょうしね。
ええ、その気持ちは十分に分かります。
そんな彼と私の間にカレンさんが庇うように立ちはだかります。

「ルルーシュ……これは、その……」
「俺だって馬鹿じゃない。“ゼロ”と親しげに話しているってことは“そういうこと”なんだろう?
 まさか黒の騎士団に参加していたとは予想外だったがな」

少し苛立たしげに言うルルーシュ君。
しかしまさかカレンさん以外にも“ゼロ”とやらを知っている人物がいらっしゃるとは。
もしかして若者の間では流行っているの人物なのでしょうか?
私も教師という職業柄、時事には敏感なほうだと思ったのですがそうでもないようです。
しかしそれにしてもひどい顔色です。こちらも風邪でも引いたのでしょうか。

313:三つの心が一つにならない  ◆DNdG5hiFT6
07/10/24 18:26:48 Ism2cGKG
「大丈夫ですか? その、顔色が優れないようですが」

私の言葉に反応したのはルルーシュ君よりもむしろカレンさんでした。
先ほど以上に沈痛な表情を浮かべ、ルルーシュ君に話しかけます。

「ルルーシュ、その、放送は……」
「ああ、聞いたよ……くそっ!
 こんなところで死んでいい人間じゃなかったはずだ、あいつは!」

そう言って拳を握り締めるルルーシュ君。
話から察するに先ほど放送で呼ばれた人間とは相当親しかったのでしょう。

「……ルルーシュはこれからどうする予定?」
「……まだ決めていないな。まずはスザクと合流するつもりだったから」
「……なら、私たちといっしょに来ないか。
 私たちはこれからゲームを倒す同志を集めて回るつもりだ。それに協力して欲しい」

―はい?
ちょっと待ってください。それは初めて聞いたのですが
ルルーシュ君も訝しげな目でこっちを見ているじゃありませんか。

「……それはその……ゼロがそう言ったのか?」
「いえ、私は「ああ、ゼロはそう言ってくれた!!」」

いえ、言ってません! 言ってませんよそんなこと!
何なら前回を読み直して頂いても結構です!

「ゼロは言ってくれた。『貴女の目的に力をお貸しすることにしましょう』と。
 私の―いや、黒の騎士団は『すべての武器を持たないものの味方』だ。
 だからこのゲームに巻き込まれたお前みたいな人々を助けるために私たちは活動しようと思っている!」

……どうやら彼女の中で最早それは決定事項のようです。
こちらも『貴女の目的に力をお貸しすることにしましょう』と言ったことと
『ゼロを演じきる』と決めたことは事実なので下手に反論出来ないじゃあないですか!
ルルーシュ君も何か考え込んでないで異論や反論の一つでも言ってくれればいいのですが……

314:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/24 18:29:04 llAXnKB5


315:三つの心が一つにならない  ◆DNdG5hiFT6
07/10/24 18:31:09 Ism2cGKG
「……そうだな、悪くない考えかもしれない。
 どちらにしろこのゲーム中で確実に信用できる人間はカレンぐらいしかいないしな。

って、ちょっと待ってください! 貴方も何故賛成しているのですか!

「それじゃあ……」
「ああ、“何の力もない”学生だが
 スザクの敵を討つため……このふざけたゲームを潰すために協力させてくれ、ゼロ」

そう言って右手を差し出してくるルルーシュ君。
ああ……ここで今更断れるわけもありません。諦めて大人しく右手を差し出すこととしましょう……

「はい……よろしくお願いします……」

流されるままに他人を演じることになったと思ったら、いつの間にか勝手に期待される始末。
しかもその期待が偶然の出会いによって2倍に増えてしまいました。
ああっ、期待が、期待が重い!
大体この世の中は期待されるとろくなことがないのです!
・『出来る新人』というレッテル
・『ここでボケて!』というネタ振り
・好きな作品のアニメ化(つ○き○、デ○ンベ○ン……etc)
・好きなシリーズの続編(Gダ○ガイオー、スター○ーシャ○3……etc)
・サッカー日本代表(急にボールが来たので)

嗚呼、絶望した! 
過度な期待を背負わせる少年少女たちに絶望した!


*   *   *


一人頭を抱えるゼロの隣でカレンは決意する。
その発端となったのは放送で『枢木スザク』の名が呼ばれたことだった。

放送で名前を呼ばれた枢木スザク。
名誉ブリタニア人にして軍の新型KMFのパイロット。
自分たち黒の騎士団にとっては目下最大の障害の一つであった。

その男が死んだのだ。
ゼロの―黒の騎士団の目的からすれば喜ぶべきことに他ならない。
事実、放送でスザクの名前が呼ばれた瞬間、どこか安心した気持ちがあった。
これでゼロの障害が一つ減った、と。

だが自分にとっては敵でも目の前のルルーシュにとってはそうではない。
何時も何処か飄々としていた彼が人前であそこまで激しい感情をあらわにしたことがあっただろうか?
―いや、ない。つまりそれだけ大きかったのだ。
ルルーシュ・ランペルージにとって枢木スザクという存在は。
そう、自分にとっての母やゼロのように。

そう考えると心のどこかとはいえ喜んだ自分がひどく醜く感じてしまった。
だから決意する。この闘いに巻き込まれた力なき人々を私が守ろう。
そして出来うる限り行動を共にして、ルルーシュを守ろう。
彼をあの平和な学園生活に返すことがせめてもの罪滅ぼしになると信じて。

316:三つの心が一つにならない  ◆DNdG5hiFT6
07/10/24 18:34:04 Ism2cGKG
*   *   *

ルルーシュは思考する。

落ち着け。冷静になれルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
期せずして偽ゼロと合流してしまったが
考えようによってはこれで堂々と常時監視下におけるということでもあるのだ。
状況は悪いと言わざるを得ないがまだ最悪ではない。

あの時、出て行かずに二人が離れるのを待ち、別行動を取るという手はあった。
だが多少のリスクを犯してでも“ゼロの衣装”を手に入れておきたい理由がある。

漆黒の仮面にマントといったゼロの出で立ちは初めて見た者に強い猜疑心を抱かせる。
だが最初の猜疑心が大きければ大きいほど自身の指揮が成功したときの信頼も強まる。
それは黒の騎士団で実証済みだ。
また、反主催のシンボルとしても有効に働いてくれるに違いない。

だが不安要素も勿論ある。
最も大きいのが目の前の“偽ゼロ”だ。
実際に会話を交わしても目の前のゼロを名乗る男の真意は読めない。
とりあえずスタンスは反主催のようだが、仮面の裏側で何を考えているか分かったものではない。
その証拠に仮面の下からでも俺の目を決して見ようとはしなかった。
ギアスのことを知っているとは思えないが、予想以上に用心深い相手ではあるようだ。

そしてもう一つの不安要素が“時間”である。
もし仮にこれから先、このまま誰か他人に出会ってしまえば
その他人にとっては『ゼロ』=『袴にマント姿のあの男』と認識されるのである。
その後、自分がマントと仮面を奪い返し、ゼロを名乗ったとしても
不信の目で見られるのが関の山だ。
ゼロに心酔しているカレンならばともかく他の人間ではそううまくはいくまい。

つまりそれはこれから先、何としても他人に会うまでに偽ゼロの正体を暴き、
―場合によってはギアスを用いてでも―その真意を問いただし、
ゼロの衣装を奪い返すことが最優先事項ということだ。

だがここで人気のない方向へ誘導するのは明らかに不自然だ。
まずは二人の要求を聞き出し、それをかなえた後、すかさず適当な理由をでっちあげ人気のない方向
―ここからすれば南の方角にある森だろうか―に誘導し、行動に移す。現状ではこれがベストな選択だろう。

「……ところで、二人はこれからの具体的な行動案は?」
「特には決めていないのですが。まぁこの服を乾かさないと。
 ええ、二人が別々のところに衣服が干せるぐらいの場所がベストですね」

仮面の下をカレンには見せたくないと言うことか。
フン、予想以上に用心深い男だ。やはり油断は出来ない。
だがそれならばここからでもいくつか民家が見える。
適当なところに侵入し、着替えてさせればいいだろう。その後、適当な理由をつけて南下すれば良いだけだ。

317:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/24 18:34:26 NS466PIq
 

318:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/24 18:35:52 llAXnKB5


319:三つの心が一つにならない  ◆DNdG5hiFT6
07/10/24 18:35:59 Ism2cGKG
―スザク、お前さえいればゼロの衣装など見切りをつけて行動を共にしたのにな。
だがスザクは死んだ。それは何故か。
誰か弱者を庇って死んだか、それとも誰かに騙され後ろからやられたか。
どちらにしろここで出会った“誰かのために”戦って死んだのだろう。
甘い―だがそれでも、

(でも俺はお前のそんなところに憧れていたし、好きだったんだ)

自分たちに負けず劣らずの生い立ちでありながら真直ぐに育った彼がまぶしかった。
『ブリタニアを内部から変えていく』などという自分以上の夢物語を大真面目に話す彼が腹立たしくもどこかで好ましかった。

だがスザクはもういない。このふざけたゲームに連れて来られたばかりに。
故にこんな馬鹿げたゲームを主催するロージェノムには相応の報いを受けさせねばなるまい。
俺はこの殺し合いを破壊し、ナナリーの元へ戻ってみせる!

(見守っていてくれスザク。お前の仇は俺が討ってみせる……!)


***


その決意は苛烈にして強靭。
ルルーシュ・ランペルージの主催者打倒の決意は親友の死に発端を発する怒りによってより一層強まったと言えるだろう。

だが、かつてあるガンダムファイターは言った。
怒りは人間から冷静な心を奪い去り、敵に多くのスキを与えてしまう事になるのだと。

その証拠が一つある。
この時点でルルーシュは“早くゼロの衣装を取り戻す”ということに拘るあまり、
『すでに民家に誰かがいる可能性』と『この時点で学校のほうから誰かが向かってくる可能性』を考慮していないのである。
静かな“怒り”に囚われたルルーシュ。
このことがどのような意味を持つのか、この時点ではまだ、誰も知りようがない。

320:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/24 18:37:09 llAXnKB5


321:三つの心が一つにならない  ◆DNdG5hiFT6
07/10/24 18:37:33 Ism2cGKG
【G-5/河川敷-川のほとり/一日目-朝】
【糸色望@さよなら絶望先生】
 [状態]:絶望(デフォルト)、ずぶ濡れ
 [装備]:ゼロの仮面とマント
 [道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品(0~2個)
 [思考]:1、カレンがあまりに不憫なので、ゼロとして支えながら正しい絶望へ導く
     2、服を乾かしたい

【カレン・シュタットフェルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
 [状態]:ずぶ濡れ
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック、支給品一式、ワルサーP38(残弾8/8)@カウボーイビバップ、不明支給品(0~2個)
 [思考]:1、ゼロを守る
     2、ルルーシュも守る(ただしゼロが最優先)
     3、服を乾かしたい
     4、その後、仲間を集め、このゲームの主催者に立ち向かう
 [備考]:スザクがランスロットの搭乗者であることを知っている時期(17話以降)からの参戦です。

【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
 [状態]:精神的疲労(大)、頭部及び手先・足首に痒み
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック、支給品一式、メロン×11
 [思考]1:人に出会う前に“ゼロ”の衣装を奪い返す
    2:このゲームをぶっ壊すための駒と情報を集める
 [備考]:参戦時期は第13話以前。スザクがランスロットの搭乗者であること、マオの存在を知りません
     偽ゼロ(糸色望)を警戒しています。

322:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/24 19:26:06 x6D2EpWf
さて、参加者どうする?
・参加者リスト・(作中での基本支給品の『名簿』には作品別でなく50音順に記載されています)

6/7【魔法少女リリカルなのはStrikerS】
○スバル・ナカジマ/○ティアナ・ランスター/○エリオ・モンディアル/●キャロ・ル・ルシエ/○八神はやて/○シャマル/○クアットロ
6/6【BACCANO バッカーノ!】
○アイザック・ディアン/○ミリア・ハーヴァント/○ジャグジー・スプロット/○ラッド・ルッソ/○チェスワフ・メイエル/○クレア・スタンフィールド
6/6【Fate/stay night】
○衛宮士郎/○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/○ランサー/○間桐慎二/○ギルガメッシュ/○言峰綺礼
4/6【コードギアス 反逆のルルーシュ】
○ルルーシュ・ランペルージ/●枢木スザク/○カレン・シュタットフェルト/●ジェレミア・ゴットバルト/○ロイド・アスプルンド/○マオ
5/6【鋼の錬金術師】
●エドワード・エルリック/○アルフォンス・エルリック/○ロイ・マスタング/○リザ・ホークアイ/○スカー(傷の男)/○マース・ヒューズ
5/5【天元突破グレンラガン】
○シモン/○カミナ/○ヨーコ/○ニア/○ヴィラル
4/4【カウボーイビバップ】
○スパイク・スピーゲル/○ジェット・ブラック/○エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世/○ヴィシャス
3/4【らき☆すた】
○泉こなた/○柊かがみ/●柊つかさ/○小早川ゆたか
3/4【機動武闘伝Gガンダム】
○ドモン・カッシュ/○東方不敗/●シュバルツ・ブルーダー/○アレンビー・ビアズリー
4/4【金田一少年の事件簿】
○金田一一/○剣持勇/○明智健悟/○高遠遙一
4/4【金色のガッシュベル!!】
○ガッシュ・ベル/○高嶺清麿/○パルコ・フォルゴレ/○ビクトリーム
4/4【天空の城ラピュタ】
○パズー/○リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ/○ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ/○ドーラ
4/4【舞-HiME】
○鴇羽舞衣/○玖我なつき/○藤乃静留/○結城奈緒
2/3【R.O.D(シリーズ)】
●アニタ・キング/○読子・リードマン/○菫川ねねね
3/3【サイボーグクロちゃん】
○クロ/○ミー/○マタタビ
3/3【さよなら絶望先生】
○糸色望/○風浦可符香/○木津千里
2/3【ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
○神行太保・戴宗/○衝撃のアルベルト/●素晴らしきヒィッツカラルド
2/2【トライガン】
○ヴァッシュ・ザ・スタンピード/○ニコラス・D・ウルフウッド
2/2【宇宙の騎士テッカマンブレード】
○Dボゥイ/○相羽シンヤ
2/2【王ドロボウJING】
○ジン/○キール

【残り74名】

とか勝手に向こう側で決めてるけど

323:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/24 21:00:59 EDZ43ser
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

324:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/24 22:07:11 cuzS+a4r
投票制そのものをやめたらどうだ?

325:S・O・S ◆1sC7CjNPu2
07/10/25 01:12:58 ACf1XjPQ
 舞衣はC-5の東南にある橋の、東側の端で座り込んでいた。
 手には地図とペンが握られており、禁止エリアと放送された死亡者の欄にはバッテンが書かれていた。
 死亡者の数は九人。そのうち、三分の一が舞衣の近くで死んでいた。
 一人はシモンで、一人は道に転がっていた死体で、一人は舞衣が絞め殺した帽子の少年だ。
 実の所最後の一人は違うのだが、舞衣には知りようはなかった。

「私、周りを不幸にする力でも持っているのかしら?」

 舞衣は、ポツリと呟いた。
 飛躍した考えだった。でもなんだが正解のような気がして、段々と笑いがこみ上げてくる。

 「くく、そっか。私、ぷっ……はは、不幸を呼んでたんだ……あはは」

 次第に、舞衣は口を大きく開けて笑っていた。大爆笑だ。

 「あはははははははははっ、あはははははははははははははは!」

 そっか、私がいたからお母さんが死んで、巧海が難病にかかって結局死んで、シモンも死んだ。
 そうかそうか、なのほど―冗談じゃない!!
 笑い顔から一転して、舞衣の顔は憤怒に染まった。

 「私はもう、これ以上苦しまないから!誰の思い通りにもなんないからね!」

 誰に聞かれようと構わず、舞衣は何かに対して叫んでいた。
 よほど興奮したのか、呼吸は荒く、鼓動は早鐘のようだった。

 ■

326:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:14:35 UD+27gwy
 

327:S・O・S ◆1sC7CjNPu2
07/10/25 01:14:38 ACf1XjPQ
 呼吸が落ち着いてきた所で、舞衣は移動することにした。
 つい先ほど馬鹿みたいに声を張り上げたというのに、人が近づいてくる気配はない。
 つまり周囲に人がいないのか、それともこちらの様子を窺っているのかだ。
 空を飛べば人影が確認できるかもしれないし、何者かが潜んでいた場合は何らかの反応が期待できる。
 そう思って舞衣は地図とペンをデイパックに戻し、立ち上がった。
 そして、エレメントを発動させようとして―

 「……あれ?」

 ―エレメントが、現れることはなかった。

 思わず、舞衣は自分の手首を見つめる。そこに彼女のエレメントは存在せず、細い腕があるだけだ。
 再度試して見たが、結果は同じだった。指を動かすように自然に行えていた行為が、急に出来なくなっていた。

 「嘘!どうして!」

 舞衣は身震いした。
 カグツチに加え、エレメントまで呼び出せなくなった。舞衣はただの一介の女子高生に戻ってしまったのだ。
 この異常な、殺し合いの最中でだ。
 舞衣は恐怖した。このままでは自分は何も奪えず、また何かを奪われて終わってしまう。
 必死になって、考える。前兆はあった、カグツチが呼び出せなかったことだ。
 そして、エレメントすら呼び出せなくなった。
 HiMEの力が消えた。そういうことだ。でもなぜ、しかもこんなタイミングで?

 「もう、訳が分かんないわよぉ」

 頭を振って、一度考えを整理する。
 そもそも、HiMEの力とはいったい―そこまで考えて、舞衣は一つの答えを見つけた。

328:S・O・S ◆1sC7CjNPu2
07/10/25 01:16:06 ACf1XjPQ
 「……あ、そうか。なんだ簡単なことじゃない」

 HiMEの力には、大切な人への思慕の思いが関係している。
 舞衣は詳しいことを知らない。しかし、これだけは分かる。
 大切な人がいなければ、HiMEの力は使えない。
 つまりは、舞衣に大切な人がいないということが証明されたのだ。

 「あはは、なんだ。そういうことなら、むしろ大歓迎じゃない。ははははは」

 ―きっと帽子の少年を殺した時だ。私が、大切なものを奪う側に回ると決めた時からだ!
 ―その時から、私はHiMEの宿命なんてものから解放されたんだ!
 舞衣は再び笑い出した。笑いながら、喜びに打ち震える。
 殺し合いの最中だろうと関係無い。忌むべきものから解放されたのだ。
 もう二度と、戦うための操り人形になって踊ることなんてない!

 ―ああ、でも、この寂しさはいったい何なんだろう?



 舞衣の考えた通り、転機は帽子の少年を殺した時だ。
 その時から、舞衣は人を信じることが出来なくなった。そう決意してしまったのだ。
 人への思いが無かれば、HiMEの力は現れない。そういうことだ。

 しかし、舞衣はまだHiMEだ。

 チャイルドが倒されるか、本当に大切な人が死ぬまで、HiMEの宿命は付きまとう。
 そのことが舞衣にとって吉と出るのか凶と出るのか、答えはまだ分からない。

 ■

329:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:17:40 UD+27gwy
 

330:S・O・S ◆1sC7CjNPu2
07/10/25 01:18:09 ACf1XjPQ
 舞衣は、周囲に誰もいないと判断した。馬鹿みたいに騒いだのに何の反応もないのだから、当然とも言える。
 舞衣は、まず武器を調達することにした。
 HiMEの力を失っても、舞衣のやることに変わりはない。そしてエレメントが使えない以上、代わりになるものが必要だった。

 「近くだと、病院と学校かな……」

 舞衣は、地図を眺めながら呟いた。
 映画館も近くであったが、舞衣は意図的に外した。できるなら、思い出したくもなかったことだ。

 「……学校かな」

 病院より、学校の方がよく知っている。
 舞衣は短絡的にそう考え、B-6の学校に向かうことにした。
 普段の舞衣なら、もっと考えて行動を決めていただろう。もちろん、これには理由がある。

 舞衣は、思考を単純化することで心を保たせていたのだ。
 大切なものを奪う側になったから、殺す。
 大切なものを作らないために、殺す。
 そうしなければ、舞衣はきっとシモンが死んだ時に廃人のようになっていただろう。
 憎しみでも何でもいい、この状況から生き残るためには強い感情が必要だったのだ。

 「……?あれ、なんで?」

 そしてHiMEの力を使えなくなったことで、それはさらにひどくなった。
 余計なことは考えず、思考はできるだけシンプルに。
 これ以上苦しむことのないように、過剰に排他的に。


 だから、舞衣には自分が泣いている理由が分からなかった。


 「おかしいな、目にゴミでも入ったかな?あれ?」

 目をゴシゴシと擦りながら、舞衣は頭を捻る。
 なかなか涙が止まらないので、舞衣はしかたなく泣きながら歩くことにした。


 誰かに、気が付いて欲しくて。

331:S・O・S ◆1sC7CjNPu2
07/10/25 01:20:09 ACf1XjPQ
【C-5・南東部/一日目/朝】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:精神崩壊、全身各所に擦り傷、全身が血塗れ
[装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式
[思考]:かなり短絡的になっています。
1:大切なものを奪う側に回る(=皆殺し)。
2:もう二度と、大切なものは作らない。
3:B-6の学校に行って、武器を手に入れる。
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※エレメントが呼び出せなくなりました。舞衣が心を開いたら再度使用可能になります。
※クラールヴィントの正体に気づいておらず、ただの指輪だと思っています。HIMEの能力と魔力に近い物があるかどうかは不明。
※参戦時期の影響で、静留がHIMEである事は知りませんでしたが、ゲームに呼ばれている事から「もしかしたら…」と思っています。
※帽子の少年(チェス)を殺したものと思っています。

332:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:21:07 UD+27gwy
 

333:片道きゃっちぼーる2・伝言編 ◇F.EmGSxYug(代理投下)
07/10/25 01:42:52 UD+27gwy
放送を聞いて、僅かではあるがアルベルトは胸をなで下ろしていた。
死亡者の数が少ないと言う事実は彼にとっても幸運であったのだ。
死亡者が少ないと言うことはつまり、戦いがそれほど起こっていないということ。
マスターアジアのように、まだ小手調べ程度に抑えている者が多いのか―?
これは所詮、推測に過ぎない。だが、僅かではあるが焦りを落ち着かせることが出来た。
もっとも、これはあくまで副次的な効果。
アルベルトにとって真に有り難かったこととは、高速道路の下にいる少女の注意を逸らしてくれたことである。

(……あの男の遺体がまずい)

高速道路にいるアルベルトは、自然その少女を見下ろす形になる。その状態で、彼はそう思案した。
無論、アルベルトにとっては好敵手たる戴宋の情報を集めるのが第一。隠れて行動することはその方針から遠ざかることだ。
彼にとってすべきことは、呼びかけるなり何かして情報交換を求めることだろう。
だがまずいことに、道路から高速道路に接続されているインターチェンジは、
遺体がはっきり見える向きで高速道路と繋がっていた。
しかもアルベルトは負傷を遺体の衣服で手当てしている、という状態。
これでは自分が殺しましたと公言しているも同然だ。
もしあの少女に姿を見せ、インターチェンジから高速道路に上がらせれば……遺体と負傷について問い詰められるのは間違いない。
死人に口なしとあらぬ罪を着せることも出来よう。だが、そういった虚言はアルベルトには好ましいことではない。
余計な危険を避けるならば、今のうちに退くべきだろうが……

アルベルトは放送を聞きながらも、眼下で放送に耳を傾けている少女を見やる。
やはりこちらに注意を向けている様子は無い。それどころか正反対の方向を向いている。
退くなら今が好機―。

―しかし。


                    ※




334:片道きゃっちぼーる2・伝言編 ◇F.EmGSxYug(代理投下)
07/10/25 01:43:54 UD+27gwy

放送を聞いて、とりあえず俺は溜め息を吐いた。安心して吐いたものでは決して無い。
既に死者が出てしまったこと。そして、俺はその人達を守れなかったこと。それだけが事実。
知り合いが死んでいないなんてことに安心している余裕なんてないし、何より厳密に言えばそれも間違い。
放送で呼ばれた一人、シュバルツ・ブルーダー。
突如現れて意味不明な問答を仕掛けてきた、あの男で間違いないだろう。

「玖我の奴……大丈夫なのか?」

考えれば考えるほど、焦る。
シュバルツとかいう奴は……俺じゃ例え不意打ちしたとしても、そうそう簡単に倒せる相手じゃない。
それがこうも早期に死んだ。つまり、この周辺にシュバルツを倒せるほどの人間がいる、ということだ。
幸運なのか不幸なのか。玖我を追って高速道路を歩いていた俺は放送後すぐ、
そのシュバルツ当人の遺体を発見してしまっていた。
高速道路の路上で、誰にも省みられぬことなく。遺体はただの遺体として。
……思わず、歯を噛み締めた。

「……あんたが何を言いたかったのか分からないけど、悪い人間じゃないことは分かってる」

せめてもの追悼として、水を掛けてシュバルツの遺体を洗っておく。
人一人埋める穴を作るにもそれなりの手間が掛かるというのは、切嗣の葬儀で知っている。
ましてや高速道路の上だ、ちゃんとした地面の上まで運ぶだけでかなり時間を喰ってしまうだろう。
だから最低限のことをする。それでも追悼する。救えたのかも知れない命のために。

一分ほど黙祷しただろうか。とりあえず目を開けて周囲を見渡して……気付いた。
眼下に見える町並みの警察署。そこへ入っていく人影が見える。玖我じゃないようだが。

「……一応会って、玖我を見なかったか聞いた方がいいか」

そう決意して高速道路を降りる決意をしたが……結果から言えば無駄だった。
簡略化されたインターチェンジの中ほどまで歩いたところで、玖我本人が下から歩いてきたのだ。
どうやら彼女も気付いたらしい。あっちの方から先に声を掛けた。

「お前もどうやら無事だったらしいな」
「俺も同じことを言いたいさ。それにしても、ちょうどいいタイミングだな」
「ああ……少し前に高速道路から降りて来た奴がいたからな。
 一応ここも自分で確認しようと思って上がって来た」




335:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 01:44:55 uPcEdE+5
エリオの意識は朦朧としていた。
ほとんど途絶えかけていたと言ってもいい。
実際、ついさっきまでエリオの意識は闇に閉ざされていた。
現在も意識が回復したというより、夢とも現つともつかない境を曖昧にさ迷っている状態である。
傍から見ている分には気絶者と何ら変わらないだろう。
閾値ぎりぎりのラインで保たれているエリオの意識は、無意識下の雑多な記憶を掘り起こしていた。

それは、暴れ回る自分を全身全霊をかけて受け止めようとするフェイトの姿であったり。
毎日の教導でぼろぼろになりながらも、どこか充実感を感じさせる仲間達の笑顔であったり。
相棒の槍、ストラーダと共に駆けた空の青さであったり。
致命傷を負いながらなおも意志の焔を燃え上がらせる、軍服の男の瞳であったりした。

ああ、走馬灯ってこういうものかとエリオは思った。
ならもうすぐ自分は死のか、とも。
死ぬ。実感をもって捉えたことは…全く無い訳ではない。
機動六課での仕事は、命の危険が伴う実戦任務も多かった。
撃墜されたこともあったし、殺されてもおかしくないような状況は幾度か経験している。
敵を殺す、という覚悟はランサーに諭されるまでろくに考えたことも無いくらいの甘さであったが自分が死ぬ、殺されることへの覚悟はそれなりにしてきたつもりだった。
目の前に着実に死が迫りつつある状況にあって、冷静でいられるのがそのためと言うつもりはないが。
単に死を恐れる気力も残っていないか、あるいはそのための器官などとうに焼け落ちてしまっただけだろう。
そこまで思考を垂れ流したとき、エリオは心中でかぶりを振った。

(……ダメ、だ。弱気になっちゃ。死ぬことなんて考てたら……)
自分が今冷静なのは、これからも生き続けるから。ただそれだけだ。
幸い即死にいたる傷では無かったし、頼もしい同行者が病院へと運んでくれている。
今は足手まといにならないように、治療に専念することだけを考えなければ。


336:片道きゃっちぼーる2・伝言編 ◇F.EmGSxYug(代理投下)
07/10/25 01:44:58 UD+27gwy

降りて来た奴……その様子だと、さっき警察署に入っていった人影のことか。
玖我の様子を見る限り、戦闘があった可能性は低そうだ。

「その様子だと、特に何かあったわけでもないのか?」
「ああ、放送で知り合いが呼ばれたりもしていない。それと、ドモンも見つかっていない」

玖我の声は平坦だ。とはいえ、彼女が冷たいという訳ではないと思う。
多分、彼女の知り合いも玖我と同じ位の実力があるんだろう。
だから生き残っていてもおかしくないと思っているから、それほど露骨には喜びない。
なら、今話題にすべきなのはそっちじゃない。探し人の方だ。

「だが、アルベルトという奴に伝言を頼んである。
 南に行くとか言っていたから、その方角は探さないで済むはずだ」
「……ちょっと待て玖我。実はその子供、偽名を使ってるかもしれない」
「え?」

玖我の話を途中で切り替えて、あっちの『ドモン』から聞いた話を説明する。
まあ色々と説明したけれど、要するに一言で言えば「あの男はゲームに乗っていない本物のドモンだ」ということになる。
……聞いていくうちに、玖我の表情は加速度的に不機嫌そうになっていった。
まあこれが真実だと、玖我は騙された挙句無駄に歩き回ったことになるから当たり前かもしれない。

「……証拠はあるのか?」
「俺がここにこうしているのが証拠にならないか? あっちの『ドモン』が殺し合いに乗ってたら、俺は死んでるだろ」
「…………」

少し無茶苦茶な論理だとは思うが、俺だって殺意を持って襲い掛かる相手の判別くらいできる。
玖我もわざと射撃を外すくらいだし、殺意を持たない戦い方があるのは知ってるはずだ。
とはいえ、反論されても仕方の無い論理だろう。現に玖我は余計機嫌が悪そうな表情だ。

「まあ、文句があるなら言ってくれ。実際俺は玖我が言う『ドモン』に会ってないし、
 玖我は俺が言うドモンに会ってない。どっちがどっちかなんて詳しく話さないと……」
「……悪いが今は思いつかない」

ところが、帰ってきたのは意外な言葉だった。




337:片道きゃっちぼーる2・伝言編 ◇F.EmGSxYug(代理投下)
07/10/25 01:45:59 UD+27gwy

「なんでさ?」
「さっき会ったアルベルトという奴にも同じことを言われた。
 情報交換が終わったらすぐにいなくなったのも同じだ」

ああ、と思わず声が漏れる。納得いった。
要するに玖我は俺があっちのドモンを信頼したのと同じ理由でアルベルトなる人を信用し、
情報交換をしたというわけだ。確かに、それだと俺に反論しようがない。

「そいつに会うために一旦戻ろう。それに東は袋小路だし、北も同じ。
 子供の方を効率よく探すにしても、西に行った方がいいだろうし……
 何より、伝言では『18:00に図書館へ来てくれ』と言ってある」
「なるほど。とりあえず早く見つけて、何で偽名使ったか確かめないとな」
「……偽名を使ったと決まったわけでもないだろう」

まだ心のどこかで納得がいかないのか、それとも騙されたことが腹立たしいのか。
玖我は微妙にふくれっ面をしてそう返してきた。……なんかこういう所も遠坂に似てる気がする。
まあこの様子なら俺に実害はないだろう。問題はむしろ、玖我を騙している可能性がある子供の方。
とはいえ、俺はそっちの方はまだなんとかなると思っている。
少なくとも、何か裏で考えていても子供なら止めることはできると。

―イリヤという、前例があるのだから。

                    ※




338:片道きゃっちぼーる2・伝言編 ◇F.EmGSxYug(代理投下)
07/10/25 01:47:12 UD+27gwy

警察署。その中に今、くつろぎながら葉巻を吸う男が一人。衝撃のアルベルトである。
警察と言う言葉は彼に少し考えさせるものであったが、
流石に下らない理由で警察署に入るのを止める気は無い。
彼が巻きつけていた服の布地は、全て白い包帯に取り替えられている。

十数分前、警察署に入ったアルベルトがまず行ったことは医療器具の捜索だった。
幸いと言うべきか予想通りと言うべきか、消毒液や包帯と言った最低限の医療道具は警察署の中に存在した。
目的は怪我の手当てと、遺体と結びつきかねない布地の破棄の二つ。
故に服を切り裂いた急造の包帯はここで破棄し、新しい包帯に取り替えたのだ。

―アルベルトとしてはできるだけ早く出発したい所だが、今は体を休めている。いや、休まざるを得なかった。
単独行動を取りたいアルベルトとしては、怪我をしていることで余計な心配や侮りを受けるのは好ましくないのだ。
そのためなつきと話す際も、負傷を感じさせないよう気を遣う必要が生じ……
普段のアルベルトなら容易くできることも、二人のガンダムファイターから傷を受けた今の彼にはかなりの負担となっていた。
……もっとも。この程度の状況で隠れてやり過ごすことなどアルベルトはお断りだったからこそ、
敢えて自分から高速道路を降りてなつきと情報交換を図ったわけだが。

「……フン、だがこれでやっと一段落か」

出立する決意と共に包帯を締め直しながら、アルベルトは息を吐く。
とにもかくにも、結果的には成功だ。初と言ってもいい。
情報は得られなかったが一応伝言をするように要請し、
相手が高速道路にある遺体に気付く前にその場を離れることができた。
こちらも伝言をするように頼まれたが、元々アルベルトから提案した『条件』であり負担にもならない。
早い段階で適当に済ませれば問題ないだろう。
そう結論付けて、アルベルトは南を目指すべく休憩を終え立ち上がった。

ちなみに今回受け取った伝言とは、『ドモン・カッシュ』へのものである。
ただし―アルベルトにとって名前しか知らず、容姿などは全く検討の付かない相手であり。
彼と話していた時のなつきは、チェスが偽名を使っていたことなど知らないのだが。




339:片道きゃっちぼーる2・伝言編 ◇F.EmGSxYug(代理投下)
07/10/25 01:48:20 UD+27gwy

【A-6/高速道路上/1日目/朝】
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(中)
[装備]:デリンジャー(2/2)@トライガン
[道具]:支給品一式、暗視ゴーグル、デリンジャーの予備弾20
[思考]
1:西へ。まずはドモンがいたところへ。
2:イリヤの保護。
3:できる限り悪人でも救いたい(改心させたい)が、やむを得ない場合は―
4:18:00に図書館へ行く
※投影した剣は放っておいても30分ほどで消えます。
真名解放などをした場合は、その瞬間に消えます。
※本編終了後から参戦。
※士郎はなつきが凄まじい銃の腕を持っていると思い込んでいます。
※ドモンと名乗った少年(チェス)に軽度の不信感を持っています
※ドモンが弱者にも戦いを挑むつもりだとは気づいていません。
※ドモンが向かった先について確認できたかどうかは、後の書き手さんにお任せします。

【玖我なつき@舞-HiME】
[状態]:疲労(中)、チェスに軽度の不信感
[装備]:ライダースーツ@舞-HiME
[道具]:支給品一式、風華学園高等部制服@舞-HiME、不明支給品2(本人確認済み)
[思考]
1:今は西へ行き、ドモン(本物偽者含め)を探す。
2:18:00に図書館へ行く。
3:舞衣、静留、奈緒と合流する
4:この殺し合いから脱出する
 [備考]
※チェスの名前をドモン・カッシュだと思っています
士郎の情報を元になつきは以下の仮説を立てました。
* 今回の殺し合いは蝕の祭や聖杯戦争をモデルにした物
* テッカマンとHiMEとサーヴァントは似たような存在
* 螺旋力=高次物質化能力=魔術に近い特殊な力
* 螺旋遺伝子を持った者=特殊能力者
* この殺し合いの参加者は皆、何かしらの特殊能力を持っている
※参戦時期は蝕の祭が終了した後です
※アルベルトから伝言を聞きました。




340:片道きゃっちぼーる2・伝言編 ◇F.EmGSxYug(代理投下)
07/10/25 01:49:22 UD+27gwy

【A-6/警察署/1日目/朝】
【衝撃のアルベルト@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
[状態]:疲労大 全身にダメージ 右足に刺し傷(それぞれ消毒液や軟膏・包帯で応急措置済み)
    スーツがズダボロ やや精神不安定
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 シガレットケースと葉巻(葉巻3本使用) 不明支給品0~2(本人確認済み)
    ボイスレコーダー@現実 シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム
    赤絵の具@王ドロボウJING 自殺用ロープ@さよなら絶望先生 
[思考]:
基本方針:戴宗を一刻も早く探して合流し、決着をつける
1:戴宗を再び失うことに対する恐れ。そうならないために戴宗の情報を集める
2:とりあえず南へ向かう
3:脱出の情報を集める
4:いずれマスターアジアと決着をつける
5:他の参加者と馴れ合うつもりはない
6:脱出不可能の場合はゲームに乗る
[備考]:
※上海電磁ネットワイヤー作戦失敗後からの参加です
※素晴らしきヒィッツカラルドの存在を確認しました
※ボイスレコーダーにはなつきによるドモン(と名乗ったチェス)への伝言が記録されていますが、
 アルベルトはドモンについて名前しか聞いていません。




341:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 01:50:40 uPcEdE+5
(でも……腕…無くなっちゃったな)
しかし、後ろ向きな思考は中々止んではくれなかった。
エリオの意識に再び闇が濃くなる。
燃える管理局。
窓のない部屋。
脳内で展開される映像は先程よりも鮮明さをなくし、時間も整合性も無視したまま次々に展開される。
フェイト。
なのはとヴィヴィオ。
八神家の面々。隊の仲間達。スバル。ギンガ。ティアナ。ルーテシア。キャロ。

―キャロ・ル・ルシエ

「キャロ!」

頭の中でではなく、はっきりとした肉声でキャロの名を呼ばれた気がしてエリオは跳ね起きた。
つもりであったが、実際には顎を少し揺らす程度の力しか出すことができなかった。
大声を上げたつもりの叫び声も、同行者の耳に何とか届くだけの音量でしかない。
「ん……。目ぇ覚ましたか。タフな野郎だぜ、ったく」
「あ、あの、ランサ-さん。今誰かが……キャロの名前を呼んだような……」
弱々しいながらも、傷ついた体に精一杯の力を込めて聞く。
そんなエリオを同行者、ランサ-は静かに見下ろしていた。
かなりの疲労の色が見て取れるが、人一人を抱えて走ってきたことを思えばそれでも驚異的な体力である。

「気のせいだ、と言ってやれればいいんだがな。
たった今放送が入った。ご丁寧に、この6時間で死んだ連中の名前を教えてくれるそうだ。キャロって名前はそこで呼ばれた」
「え……?それってどういう……」
いまいち飲み込めない、という風にエリオが聞き返す。
「そのままの意味でしかない。
お前の仲間だというキャロという人間は、もう死んだ」
憐れむでもなく隠すでもなく、ランサーは事実をただそのまま伝えた。
固く引き締められた表情には、安っぽい感情は一切含まれていない。

「キャロが死んだ…」
エリオはショックを持て余しているような、実感の込められていない口調で呟いた。
困惑に揺れる瞳を見れば、脳がその情報を正しく処理仕切れていないということが分かる。
あるいは、重傷を負った身体がこれ以上の負担を避けようと、無意識に理解を拒んだのかも知れない。
「おら、入るぞ。やっとこご到着だ」
ああ疲れた、とでもいうような気だるげな口調で、ランサーが言った。
いつの間にか、真っ白な病院の建物が目の前にあった。


342:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:51:00 UD+27gwy
 

343:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 01:51:41 uPcEdE+5





ムスカが目を覚ましたのは、放送が終了した直後だった。
病院の入り口で休むのはさすがに危険すぎると、適当な病室に入って休んでいたのだが、いつの間にか意識を失っていた。
最低でも放送は聞き逃すまいと十分に注意していたのに、である。
最初は立って放送を待とうとしていた。
だがそれではさして休憩にならないと、椅子に座った。
しかし、布団の上の方が軟らかそうだとすぐそちらに移った。
ふかふかに整えられた布団の誘惑に屈し、少しだけならばと横になった。
自然重くなる目蓋に、意識さえしっかりしていればと目をつぶった。
次に目を明けたら放送が終わっていた。

「しまった……!私としたことが……」
ムスカに聞き取れたのは、末尾の僅かな言葉だけである。
それすらも、起き抜けに見た夢のように記憶の彼方へ消え去ってしまった。
「ちぃ…。まあいい、所詮私には必要のないことだ」
誰が死んだかなどという情報は、命を一方的に奪う側であるムスカにとってさして重要ではないのである。
最後に残るのは神たる自分であると最初から決まっている。
禁止エリアと言ったところで、一歩足を踏み入れただけで即爆破されるという訳でもあるまい。恐らく。
そう考え、休息を優先させた無意識の判断力をムスカは褒めてやりたくなった。

「ハハハ。私の判断に狂いはない。あの東洋人にも思い知らせてやらなくてはな」
ムスカはあっという間に意識を切り替えた。
デイパックを持ち、出発しようと立ち上がる。
睡眠を取ることで気分が変わったのか、威風堂々とした立ち振る舞いから放送前の惨めさを感じることはできない。
一人でも多くの参加者にラピュタの威光を見せ付ける。
そして、最後には自らを差し置いて王を名乗った愚か者に神の雷を。
ムスカは病室の扉に手を掛けた。

「む……?」
ムスカの手が止まった。
かすかにだが、病院内を移動する足音が聞こえる。
不用心に歩いている様子ではない。
だが、澄み切った空気と病院の硬質の床は、音を想像以上に遠くまで伝えるものである。
「フフフ。獲物の方から飛び込んで来てくれるとは、上出来じゃあないか」
ムスカは慎重に息を潜め、新たな標的の気配を探り始めた。


344:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:51:54 ACf1XjPQ


345:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 01:53:51 uPcEdE+5





エリオは自分の体がいつの間にか布の様なものに包まれていたことに全く気が付いていなかった。
聞けば途中でちょいと拝借した、とのことらしい。
傷口を外気にさらし続けることの危険性を思えば、正しい判断だと言える。
そのお陰なのか、目を覚ましたときよりも体が動かし易くなっているような気がした。
もちろん、これ程の傷で受けた疲労が僅かな睡眠だけで回復する道理などない。
エリオは、これはいよいよ痛みを感じる必要が無くなってきたのか、などと諦めにも似た冷静さで分析していた。

エリオの精神は、先程よりも一層暗い淵の中に沈んでいた。
キャロが死んだという。
悲しい、という言葉が頭の中に浮かんだ。
ただ、それはそれだけのもので、具体的な感情は伴ってこない。
心中は激しくかき乱されているかのようで、それでいて静かに凪いでいるかのようでもある。
自分で自分の感情が判然としない。

エリオの体は病室のベッドに横たえられていた。
その身を包んでいた布は、乱雑に丸められ、床に放置されている。
今から治療に使える物を漁ってくる、その間身動きがとれないのはまずい。
ベッドを狙撃されにくい場所に移しながら、ランサーはそう説明した。
「こいつも持ってろ。俺にとっちゃいけ好かねぇが、こんだけ派手なら威嚇ぐらいにはなるだろ」
気休めだがな、と付け加えてエリオの手に偽・螺旋剣を握らせる。
エリオはその間、返事をしているのか息が漏れているだけなのか分からない応対をしながら、されるがままになっていた。

瞳はどことも知れない場所を見ている。
思考はキャロのことで埋め尽くされていた。
正確にはキャロに関する情報がランダムに随時再生去れ続けていた、と言うべき状態だった。
相変わらず、そこに感情は伴われない。


346:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:53:55 ACf1XjPQ


347:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:53:55 Uw9zbUYz
 

348:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 01:54:53 uPcEdE+5
「ランサーさん……」
「何だ?」
頭まですっぽりと布団を覆い被せようとしていたランサーに呟く。
自分でも、何を言おうとして口を開いたのか分からない。
ただ、混乱の極みにあるエリオの脳内にもまだ現状を正しく認識している部分があるのか、続けて次のような言葉を呟いていた。

「あの…僕の槍……ストラーダですけど、もし見つけたら……ランサーさんが…」
「今すぐもう一走りしてお前を捨てにいこうか?」
「え…」
視線を上げる。そこには不機嫌さを隠そうともしないランサーの顔があった。
「俺がわざわざこんなとこまでマラソンさせられたのは何か?
死にたがりに快適な寝床を提供するためだったって訳か?」」
「あ…の……」
エリオは自分が口走った言葉の意味をようやく理解した。
言葉を探すエリオに背を向け、病室の扉を開けながらランサ-が告げる。

「仲間が死んで悲しいのは分かるがな、だからってそれで自分まで…って、言わせんなわざわざこんなこと。
とっくに分かってるだろうが」
「はい…済みませんでした……」
申し訳なさ気に目を伏せる。
その殊勝さにランサーは舌打ちし、首だけをエリオに向けて付け加えた。
「いいか、感情なんてもんは後になれば嫌でも付いてくる。
今はとにかく休め。寝ちまえ。分かったな」
それだけ言うと、ランサーは病室から出ていった。
一人ベッドに横たわりながら、エリオは先程の自分の言動を反芻する。
(ひどいこと…言っちゃったな……)
多少冷静さを取り戻した頭で考えれば、本当に見捨てられても文句が言えないようなことを言っていたと分かる。

(ランサーさんの言う通り、今は、休もう……)
片手で布団を被り直し、エリオは目を閉じた。
休息が必要だ。心にも。体にも。
そうすれば、キャロの死を悼むことだってできるようになる。
だから、今は休もう。
(ごめん…キャロ……)
やっと、涙を流すことができた。


349:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:54:57 Uw9zbUYz
 

350:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:55:13 ACf1XjPQ


351:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:56:17 Uw9zbUYz
 

352:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 01:57:57 uPcEdE+5





奴が目を覚ましたのは最悪のタイミングだと、薬棚を漁りながらランサーは思った。
もう少し寝ていれば自分が適当なタイミングを見計らって放送の内容を伝えられたものを。
それが、変に感覚が鋭いせいで余計に心身に負担をかけている。
その結果がさっきのあれだ。
衰弱しきっていたせいで分かりにくいが、仲間の死を処理しきれずに恐慌に近い状態になっていた。
ランサーの柄にも無い説教を聞き入れる理性が残っていたのがせめてもの救いか。

とにかく、一刻も早く専門的な治療を受けさせる必要がある。
ランサーは病院内に設けられた薬局のような部屋から出た。
収穫はない。
見るものが見れば有益なものばかりなのだろうが、現代医療に関する専門的な知識を持たないランサーにはどれがそうなのか判別できない。
消毒薬と書かれた液体をそのままぶっかける、という訳にもいくまい。
中途半端な知識しか与えない聖杯を恨みながら、ランサーは考えた。
情報交換をした際に、シャマルという人物が医療関係者であると聞いた。
幸い病院内は設備だけは十分なものがあるし、専門家が治療できないということはないだろう。
この広い会場から特定の人物を探し出し、戻ってくるまでの間エリオの体力が保つのか、という問題はあるが。

だが、他ならぬランサー自身が見込んだのだ。そう簡単に死んでもらう訳にはいかない。
もし、傷が治った後にも一緒にいるようなことがあれば、稽古をつけてやってもいい。
片手での戦い方など、いくらでも教えてやる。
後続を育てる楽しみ、とやらを味わってみるのも悪くない。
「さっきのは気の迷いだと思っておくさ。だから死んでくれるなよ、坊主」
今できることは氷や包帯の確保がせいぜいだろう。
シャマルという人物の捜索をするにしても応急処置はしなくてはならない。
そう判断し、目当てのもを探すためにランサーは病院の奥へと進んでいった。
とはいえ、できるだけ早く戻らなければならない。
エリオを一人にしておくのは危険だ。

もし誰かからの襲撃を受ければ、今のエリオではひとたまりもない。


353:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:58:26 UD+27gwy
 

354:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:59:13 Uw9zbUYz
 

355:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 01:59:26 ACf1XjPQ


356:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 01:59:40 uPcEdE+5





病院内を探り歩く何ものかの足跡に気付いき、エリオはまどろみの中から現実に引き戻された。
緩慢な動作で布団を被り直し、気配を押し殺す。
依然として焼けどの傷がうずくが、意識はさっきよりかは多少ましになっていた。
足音の主は病室を一つずつ見て回っているらしい。
音がだんだんと近づいてくる。
エリオは偽・螺旋剣を持った手に力を込めようとし、左手にほとんど力が入らないことに気付いた。

(駄目だ…今襲われたりしたら)
半死どころか瀕死の状態にあるエリオに為す術はない。
もし足音の主が獲物を探し歩いているのだとしたら、エリオなどは格好の標的である。
音はすぐ隣の部屋にまで来ている。じきにこの部屋にも来るだろう。
そしてエリオを殺し、荷物を奪い取って悠々と去っていくのだ。
(ころ…される)
思考がクリアになったことで、より現実味を持って自分の死を感じてしまう。
静かに、そして着実に近づいてくる死の恐怖は戦場のそれとは全く異質であり、抗いがたい力を以てエリオの心を蝕んでいった。
病室の扉を閉める音がした。エリオの瞳孔が収縮する。
こつ、こつと、足音が移動する。
息を殺そうとすればするほど逆に呼吸は荒くなっていった。
布団で隠れていたところで、一部屋ずつ検分されていては意味がない。
襲撃者は立ち所にエリオの存在に気が付くだろう。
エリオ自身に抵抗する力は残っていない。ランサーが戻ってくるまで持たせるしかない。
敵が近づくと同時に偽・螺旋剣を突き付ける、それができなくても投げ付けるなり何なりして大きな音を立てる。
とにかく派手に暴れて騒ぎを聞き付けたランサーに戻ってきてもらうのだ。
それがエリオの立てた、完全に他人頼りの、作戦だった。

足音は、聞こえなくなっていた。
(おか…しいな……入ってこな……あ)
エリオが、襲撃者が扉の外からでも攻撃可能な武器を持っている可能性に思い至ったとき、バァンと派手な音がした。
その音だけで、エリオは自分の体が数十センチは浮き上がったのではないかと思える程の衝撃を覚えた。
だが、それは襲撃者の攻撃によるものではなく、単に扉が勢いよく開かれたことで立てられた音だった。
扉を開けた人物はエリオが反応する間もなくツカツカとベッドに近づくと乱暴に布団をはぎ取った。

「あ……」
自分でもいやになるくらいの情けない声だと、エリオは思った。
体はぴくりとも動かない。顔だけを何とか動かす。
これから自分の命を奪うのだろう、その人物は。
完全に予想外のものを見たといった表情でエリオを見下ろしていた。


357:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:00:12 ACf1XjPQ


358:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:00:39 UD+27gwy
 

359:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:01:08 +khNgITB


360:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 02:02:19 uPcEdE+5


「いや、すまねぇ。てっきり俺が捜してる野郎が隠れてるのかと思ったんでな。
随分と驚かせちまった」
「いえ…」
奇妙な出で立ちをした中年の男は、戴宗と名乗った。
ある危険人物を捜して病院内を歩き回っていたのだという。
襲撃者どころか、エリオと志を同じくする人物だった訳だ。
「いつから、ここにいる?」
「え、と…ついさっきです」
「そうかい。俺が屋上から降りた後に来たってぇ訳だな」
戴宗は、自分が現在追っている危険人物がこの近くに潜んでいる可能性があると言っていた。
屋上から周囲を見渡したが、それらしい人影が見当たらなかったため、まだ中にいるのではと病院内を探っていたという。

「だが~どうやらそれもハズレ、だな。上にゃ誰もいねぇし、おめぇ、え~…」
「エリオ…です」
「おぅ、エリオが無事ここに辿り着いたとこを見ると、もうこの辺りにはいねぇ様だなぁ」
どこ行きゃあがったと、首を捻る戴宗。
「勘違いさせてしまって…すいません……」
「謝るこたぁねぇ。俺のミスだ。
そりゃこれだけの傷を負って隠れてたんだ。呼吸だって荒くならぁな」
戴宗が部屋に押し入るまで間があったのは、中に人がいるのを察しタイミングを図っていたためであった。
追い詰められた野郎が焦ってるとばかり思ったのよ、と多少気恥ずかしそうに戴宗は言った。
それを聞いたときには、部屋の外からでも分かるくらい慌てていたのかと、エリオこそ恥ずかしい思いがした。

「で、だ。その傷……誰に、やられた?」
エリオの右半身を覆う焼けどを見ながら戴宗が言う。
口調は穏やかだが、視線には人をここまで傷つけたことに対する怒りが込められていた。
「青い軍服を着た…男の人で……もうこの辺りには」
「そうかい。いやケガ人に無理させちまったな。
だが一人でよぉっく頑張ったぁ!あとはこの戴宗さんにどぉんとまかせろい!」
「は…はぁ……」
急に戴宗が大声を出したことに驚き、反射的にエリオは頷く。
だが驚きながらもエリオは、その声は傷ついた自分を励まそうとする気遣から発せられたのだと感じていた。


361:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:03:36 ACf1XjPQ


362:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 02:03:47 uPcEdE+5
「ほら、茶だ。本当は酒を渡してやりてぇんだが、俺も我慢してるんだ。勘弁してくれ」
「あ……僕、未成年なんで」
「固ぇこと言うんじゃねぇ!はっはっはっはぁ!」
顔を合わせたばかりのときの真剣な表情から一変して柔らかい表情を見せる。
豪傑という表現がぴったりだと、快活な笑い声を聞きながらエリオは思った。
渡された水筒のなかのお茶を口に含む。

(何かさっきより元気になってきたような…)
戴宗の豪気のなせる技か、心なし軽くなった体は驚く程の勢いで水筒のお茶を飲み干していく。
半分程を一気に飲み干してエリオは水筒を戴宗に返した。
「ありがとうございます…おいしかったです」
「どうってことねぇよ。
いよぉし!エリオ、これからは俺がお前を守ってやる。
傷が痛むかもしれねぇが、そんなもん俺が吹き飛ばしてやる。
大船に乗ったつもりでいろい!」
「あの、それなんですけど僕の仲間のシャマルっていう人もここに来てて、その人がお医者さんで…」

冷静になった頭は、傷という言葉から仲間の一人を連想していた。
よく考えてみると、治療に使えるものを探しに行くと言っていたランサーだが、
ここの設備を扱えるだけの知識を持っているのだろうか。
それよりはどこにいるかは分からないが、専門家であるシャマルを連れてくる方が確実な気がする。
連れてくるのにどれだけ時間がかかるかという問題はあるが、
戴宗と話していると自分はまだまだ大丈夫という気がしてくるから不思議だ。
「なんでぇ!じゃあ万事解決って訳じゃねぇか!」
再び豪快に笑いだした戴宗を見、エリオは大きな安心感に包まれた。

「さて、じゃあそのシャマルさんを連れてくるとして、だ。その前に俺はちょいと上に行ってくる」
ひとしきり笑い終えた後、戴宗は再び真剣な表情になってそう言った。
「上、ですか…」
「おう。宿直室で冷蔵庫を見かけたんでな。ちょいと氷を作ってくらぁ」
「あ…なるほど」
冷やすという、火傷に対する最も基本的な処置さえも怠ってきたことにエリオは気付いた。
どれ程自分達が余裕を無くしていたか知れるというものだ。
今頃病院内を回ってくれているのだろうランサーのことを思い、エリオはそこで戴宗に自分は一人でここまで来たと思われていることに気が付いた。

「あ、あの!言い忘れてたんですけど……」
「す~ぐ戻ってくるからな。良い子はちょっとだけお留守番してな」
しかし、エリオが声を掛けたときには既に戴宗は出発しようとしていた。
そしてそのままエリオの声には気付かず、部屋を出ていっってしまった。
後には戴宗が階段を昇る音と、いつの間にか置いていった呑みさしの虎柄の水筒だけが残された。
「まあ…いいか」
エリオは気楽に考えることにした。
二人が戻ってきたときに説明すればいいだけのことである。

何も心配は、いらない。


363:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:04:32 +khNgITB
 

364:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 02:04:48 uPcEdE+5





最初にエリオを見たときまた子供の死体とご対面かと、戴宗は肝を冷やした。
それほどまでにエリオ傷の惨状は凄まじく、その瞳は弱弱しかった。
廊下から中の様子を探ったときに感じた気配は、怯える動物そのものであった。
そのため自分が追っている男が、発見を恐れ怯えているのだと勘違いしてしまった。
だが結果的にそれは幸運だったと、宿直室を目指しながら戴宗は思った。
何の因果かこの場にきてから若くして散った命を連続で見せられ、いい加減戴宗も嫌になっている。
エリオの前で急に大声をだしたのは、無意識に生を諦めつつあるエリオを鼓舞するためであったが、
これ以上誰も死なせてなるものかという自らの決意を固める意味もあった。

放送で十傑集の名前が呼ばれた。
僅か6時間足らずでBF団最強のエージェントが命を落とす程に、この場は危険なのだ。
重傷を負った少年が一人でここまで辿り着けたことすら、奇跡と言っていい。
これから先は、その命は自分が絶対に守らなくてはならない。
エリオという少年、最初は弱弱しかったが茶を呑ませ段々元気が出てくると、その瞳は強い意志を感じさせた。
大作と同じ、いや心のどこかで自らの使命を重荷に感じている節のある今の大作以上に強い心をもっているかもしれない。
恐らくあの傷も、一方的に攻撃を受けたのではなく戦ってついたものなのだろう。
死なせるには全く惜しい、何だったら傷を癒した後に国際警察機構にスカウトしても良いかもしれない。
梁山箔で鍛え上げれば、かなりのものになるだろう。
片手での戦い方など、どうにでもなる。

そのためにも、今はこの場に巣食う悪漢どもを一刻も早く駆逐し、ロージェノムを打倒しなくてはならない。
傷ついた者を仲間にすることを負担に思うどころか、より一層自らの決意を強固なものとし、戴宗は駆ける。
幾千もの修羅場をくぐりぬけた豪傑のみが纏うことのできる気迫がそこにあった。
その脳裏に一つの閃きが舞い降りる。
(医者だっていうシャマルってぇ人は…名前からして女だよなぁ)
医者。女。
女医!
うちのエリオが大変お世話になりました戴宗さんって凄く素敵な方なんですね。
私一目惚れしてしまいましたどうですかこの後ご一緒に私と。
「いやいやいやそりゃまずいって!
状況ってもんが…ああでもそんなに言うならおじさんちょっとだけご一緒しちゃおうかなぁ。
ぐふふ、よろしくお願いしますぅ……ぶべら!?」
浮かれきった豪傑は天井に思い切り頭をぶつけた。


365:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 02:06:30 uPcEdE+5





「ふぅ…」
再び一人になったエリオは、水筒のお茶を飲んで息を吐いた。
さっき動けたのは戴宗の気迫に充てられたことが原因かと思ったが、実際水分を補給するだけでも体調は大分ましになった。
もちろん出歩く、などということはできない。
だが、冷静に思考をめぐらせるぐらいのことはできた。
そうしてみると、さっきまでの自分がいかに混乱していたかが分かってくる。
パニックになって遺言めいたことを口走るわ、人任せの作戦で立ち向かっている気になるわ、思い出すだに恥ずかしい。

(キャロのことも…探してあげないと)
正直キャロのことに関してはまだ受け止めかねているが、ランサーの言ったとおり感情は嫌でも後からついてくるのだろう。
ならば、今はできることをするだけだ。
ランサーが戻ってきたらシャマルのことを伝えよう。
一応情報交換したさいに名前は伝えてあるが、様々な情報を交換したためどれくらい覚えているか分からない。
早く言えと怒られるかもしれないが、それを受けとめるぐらいの元気はある。
襲われもしたが頼もしい人物に2人も会うことができたのだ。
自分は決して不幸ではないし、諦めるにはまだ早すぎる。

(腕だって…何とかなるかもしれない)
この事件を解決し帰還すれば、エリオは余りミッドチルダの最先端医療には詳しくはないが、腕の欠損を治す術があるかもしれない。
戦闘機人、プロジェクトFのような技術を用いれば、あるいは。
どちらもエリオにとっては非常に苦い過去を思い出させる言葉である。
だが、同時にそれらはフェイト、スバル、ギンガといった掛け替えのない仲間や家族を生み出した技術でもある。
自分が使い方を誤りさえしなければ大丈夫と、エリオは動悸する胸に強い心で言い聞かせた。
最悪の場合でも片手で戦えるように訓練するだけだ。
エリオはいつか見せられた、戦技教官である高町なのはのリハビリ映像を思い出していた。

(なのはさんだって最初からあんなに強かった訳じゃない。
再起不能って言われたこともあったんだ。
頼りになる人達が仲間になってくれたし…僕はまだ、やれる)
強い決意とともに、エリオは左手で偽・螺旋剣を握った。
「う…」
目眩がする。さすがに無理をし過ぎたらしい。
エリオは再び布団を被り直した。
すぐに眠気が襲い掛かってくる。
だが、さっきまでのブレイカーが落ちるような強制的な睡魔ではない。
安心して身を任せられる、穏やかで心地よいものだ。困憊した心身が静かに閉じていく。
意識は既に現実を離れ、夢の中にさ迷いだそうとしている。
そして、完全に眠り落ちる直前に。
鋭敏なエリオの聴覚が、何者かが扉を開ける気配を捉えた。

「ランサ…さん?たい…そうさん?」
布団から顔を出しむにゃむにゃと呟く。
帰ってきたのがどちらであれ、これでは完全に寝呆けていると思われてしまうだろう。
視線を上げる。
そこには。
見たことのない金髪の男が、口の端を釣り上げて笑っていた。

「私はムスカ大佐だ」
何かがエリオの胸に振り下ろされた。


366:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:06:37 ACf1XjPQ


367:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 02:07:36 uPcEdE+5





頭の痛みをこらえながらありったけの氷を掻き集めて戴宗が戻ったとき、病室の様子は一変していた。
足を曲げ、引っ繰り返ったベッドはかつての清潔感など見る影もない。
割れた花瓶の破片が散乱し、中の液体がぶちまけられている。
粉々に砕かれた窓ガラスから乱暴な風が入り込み、カーテンが引っきりなしに揺れている。
白くまとめられた室内のあちこちに、真っ赤な血しぶきが飛び散っている。
そして。
腹部を螺旋状の剣で深々と貫き通された、エリオの死体が転がっていた。

「ちくしょうがあああああああ!!」
あらんかぎりの怒りを込めて、戴宗は叫んだ。
誰だ。誰がやった。
自分が目を離した僅かな隙に、傷ついた子供の命を奪った糞野郎はどこのどいつだ。
まさか自分が追っていたあの男がまだこの辺りにいたのか。
「それなら俺はどうしようもねぇ馬鹿野郎じゃねぇか!くそ!」
まだ遠くには行っていないだろう。
戴宗は病室から飛び出そうと凄まじい勢いで床を蹴った。
が、腹から剣を突き出し横たわるエリオの死体を視界の端に写し、戴宗は無理やり足を止める。
「く…」
僅かな時間とはいえ気心を通わせた人物の死体。
放っておくには、その姿は余りにも無惨すぎた。

「ぐぅ…!最後だ!これで最後だからなぁ!」
これ以上絶対に自分の周りで死人は出さない。
その邪魔をする畜生どもは、一人残らず成敗する。
そう決心すると戴宗はエリオの死体に近付き、腹に刺さった剣に手をかけた。
「済まねぇ」
自分のどうしようもない未熟さを詫びながら、剣を抜こうと手に力を込めた。
そのとき、病室の入り口から凄まじい殺気が放たれた。

「貴様、何をしている…?」
「な…!」
咄嗟に戴宗がそちらを向くとそこには鉄の棒を構え、殺意に漲った目でこちらを睨み付ける長身の男の姿があった。
子供の死体から突き出した剣。
それを握る己の両手。
馬鹿な妄想にふけり、幼い命を救えなかった救い様のない愚かさ。
戴宗は、ほんの僅か、怯んだ。
「お、俺じゃあねぇ…!」
豹のように鋭さを持つ男の目が、ギラリと光った


368:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:07:40 GS9OK69s
  

369:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:07:56 ACf1XjPQ


370:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:08:19 Ccs0FFfF


371:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:08:45 UD+27gwy
 

372:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:09:12 ACf1XjPQ


373:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 02:09:58 uPcEdE+5


【D-6/病院内の一室/1日目/午前】
【神行太保・戴宗@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
[状態]:若干の疲労  自分への激しい怒り
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-[握り飯、3日分])
 エリオの治療用の氷
アサシンナイフ@さよなら絶望先生×11本、乖離剣・エア@Fate/stay night
『涼宮ハルヒの憂鬱』全巻セット@らき☆すた(『分裂』まで。『憂鬱』が抜けています)
    不明支給品1~2個(確認済み)
[思考]: 基本:不義は見逃さず。悪は成敗する
0:目の前の男に対処
1.エリオを弔った後、全力で殺し合いを止める。
2.どこかで酒を調達したい。
3.菫川ねねねを捜し、少女(アニタ)との関連性を探ってみる。
4.死んでいた少年(エド)の身内や仲間を探してみる。
最終:螺旋王ロージェノムを打倒し、元の世界へと帰還する
※空になった虎柄の水筒が病室に転がっています

 【ランサー@Fate/stay night】
 [状態]:疲労(中)、激しい怒り
 [装備]:鉄棒(折ったポール)
 [道具]:デイバック、支給品一式(-地図、-名簿)、ヴァッシュの手配書、不明支給品0~2個(槍・デバイスは無い)
エリオの治療用の氷と包帯
 [思考] 0:目の前の男に対処
  基本:このゲームに乗ったもの、そして管理している者との戦いを愉しませてもらう
  1.戦闘準備を整える(体力の回復、まともな槍の調達)
  2.言峰、ギルガメッシュ、ヴァッシュと出会えば、それぞれに借りを返す
    言峰とギルガメッシュは殺す。ヴァッシュに対してはまだ未定
  3.ゲームに乗っていなくとも、強者とは手合わせしたい
※まともな槍が博物館にあるかも知れないと考えています


374:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:10:10 GS9OK69s
  

375:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:10:27 UD+27gwy
 

376:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:11:16 ACf1XjPQ


377:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 02:11:22 uPcEdE+5





やはり最初からキャノン砲を使っておくべきだったと、病院を抜け北に進みながらムスカは思った。
全身に大小様々な傷が付き、その歩みは遅い。
片足など、ほとんどひきずるようにして歩いていた。

こんなはずではなかったと、ムスカは呟いた。
やってきた二人の内、熟練した雰囲気を感じさせる長身の男が病院の奥に消えたのを見計らって、ムスカは移動を開始した。
途中から聞こえ出した憎き東洋人の声を辿ってみれば、辿り着いた先に東洋人の姿は既になく、代わりに半死人のような子供がいた。
漏れ聞こえた会話の流れから、この子供は東洋人の仲間であり、本人はすぐに戻ってくるつもりであることが分かっていた。
待ち伏せてキャノン砲でもろともに吹き飛ばしてやろうかと思ったが、そのときムスカの中で別の考えが浮かんだ。
あの東洋人が帰ってきたときに、仲間であるあの少年が死んでいればどれだけショックを受けるだろうかと考えたのである。
絶望に打ちひしがれたところにキャノン砲を打ち込む己の姿を想像し、ムスカは笑いをこらえるのに苦労した。

簡単なことのはずだった。
轟音を立てると予想されるキャノン砲を一旦デイパックに納め、酒瓶を取り出した。
少し離れた場所で割り、刃物と化したそれを少年に突き刺す。
少年は既に死人と変わらないような状態であり、ムスカは最後の一押しをするだけで良いはずだった。
だが、少年はその状態からは想像もできないような俊敏さでムスカの一撃を回避すると、あろうことかそのまま立ち向かってきた。
完全に虚を突かれたムスカ大慌てで酒瓶を取り落としてしまった。
それから後のことは、無我夢中で余り記憶が残っていない。
覚えているのは、少年が破片の一つを、自らの出血も構わず握り締め、ムスカの脇腹に突き刺したこと。
傷自体は重傷という程ではないが、筋肉にがっちり食い込んだそれは未だ抜くことができずにムスカの体に刺さり続けている。
そして、偶々手に触れた剣でムスカが少年の腹部を貫いたこと。
腹を抉り込む剣の感触がまだ両手に残っている。

散々な醜態を演じたとはいえ、それで終わりのはずだった。
だがと、ムスカはその時の光景を思い出し身を震わせる。
半身を失った上から腹に剣をぶち込まれ、大量の血を吐き出しながらもその瞳は屈することなく爛々とした光を放っていた。
既に顔は土気色に染まり、目の下にくっきりと隈を浮かび上がらせた死相をさらしながらも、その目は生きることを諦めてはいなかった。

―ひざまづけえぇぇ…!貴様は…!貴様はラピュタ神の前にいるのだぞぉおお……!!

必死で手に力を込めながら、ムスカそう叫んでいた。
だが少年はそれでも死ななかった。

―しでん、いっせぇん!!

断末魔の叫びとともに繰り出された拳がムスカを吹き飛ばしたとき、衝撃とともに電流が体をかけめぐった。
そして、少年が事切れたことを確認するのもそこそこに、ムスカは痺れる体を無理やり引きずり逃げるようにその場を立ち去った。
東洋人のことなど頭から吹き飛んでいた。
逃げるように、ではない。真実ムスカは自分が殺した少年に怯え、逃げ出したのである。
今にいたってもそのときの恐怖はムスカの心の奥底に巣食い続けている。
「あの子供に…東洋人の男…!雷は神である私にのみ扱うことを許された力だぞぉ…!」
身一つで雷を操る者達への怒りで何とか己を保ちながら、ムスカは歩き続ける。
その右腕には少年の拳がつけた焦げあとが強く、強く刻み込まれていた


378:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/25 02:11:56 GS9OK69s
  

379:不屈の心は、この胸に ◆10fcvoEbko
07/10/25 02:12:45 uPcEdE+5


【D-6/病院北側を移動中/1日目/午前】
【ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ(ムスカ大佐)@天空の城ラピュタ】
[状態]:精神・肉体共に激しく疲労。右わき腹にガラス片。右腕負傷。
[装備]:ダブルキャノン@サイボーグクロちゃん (残弾30/30)
[道具]:デイバック、支給品一式(食料-[大量のチョコレート][紅茶][エドの食料(詳細不明)])
[思考]基本:すべての生きとし生ける者に、ラピュタ神の力を見せつける。
1.今はとにかく病院から離れたい
2.東洋人(戴宗)に復讐する。
3.パズーらに復讐する。
4.出来れば『平賀源内のエレキテル』のような派手な攻撃が出来る武器も欲しい。
  最終:最後まで生き残り、ロージェノムに神の怒りを与える。

【エリオ・モンディアル@魔法少女リリカルなのはStrikerS 死亡】




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