アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ4at ANICHARA
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd 作品投下スレ4 - 暇つぶし2ch400:ログ保全1
07/10/12 21:38:01 pB9fWppG
1 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 22:02:01 ID:5x9.wqL.0
なんでもありスレpart2です
2 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 22:23:59 ID:hoEXug8o0
スレタテ乙ぶるわああああああああああああああ
3 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 22:39:10 ID:Fr7g9bmIO
乙。
感想以外雑談スレってとこかな?
議論までいかない疑問や指摘もここになるか。
4 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:03:14 ID:hoEXug8o0
ならば今話題の放送前に終わらしておきたいパートで雑談。
5 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:07:32 ID:gIfj/7KY0
エドのトコ、発電所がらみでどでかいイベント起こすには良いタイミングだと思ったり。
作中時間でも結構余裕あるし、放送直前or直後にイベント発動、って風にすれば……とかな。
大停電とか、電化製品暴走とか……??
まあ、肝心のイベントそのものが思いつかないから意味無いんだけどorz
6 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:07:37 ID:NBfI1OO60
エドで考察話か…。
ロワに一切貢献しないあさっての方向向いてる考察ならしそうなんだがw
7 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:08:38 ID:OnrPmCvg0
そんじゃまー、時間帯別表のコピペ&最新版に弄った奴を張ってみますか
再び、いつもの人勝手な事してゴメン
【黎明】
(無予約)
エド/マオ/シータ/ヴィラル/スバル/ヒューズ/泉こなた/アル
(予約済み)
ミー/クレア/シモン/舞衣/ウルフウッド/チェス/スパイク/読子/はやて
かがみ/間桐慎二/ギル/奈緒/言峰
【早朝】
(無予約)
剣持勇/ねねね/フォルゴレ/イリヤ/絶望/カレン/ルルーシュ/ドモン/士郎/なつき
Dボゥイ/ゆたか/木津千里/ヴィシャス/相羽シンヤ/ヨーコ/ジン/清麿/ラッド/東方不敗
クロ/ヴァッシュ/クアットロ/ロイ/エリオ/ランサー/戴宗
スカー/ロイド/金田一/ミリア/カミナ/V/シャマル/アイザック/可符香/高遠
静留/ジャグジー/キール/ガッシュ/アレンビー/マタタビ/衝撃
(予約済み)
ジェット/ティアナ
【放送前】
ホークアイ/ニア/ドーラ/パズー/ムスカ/明智

401:ログ保全2
07/10/12 21:41:05 pB9fWppG
8 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:16:09 ID:NBfI1OO60
>>5
そういうの考えてみようとして、自分の中に
発電所の内部に関するイメージが全然無いことに気づいた。
9 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:24:56 ID:cdZlLIoQ0
>>7
このまま放送後に送ってもいい連中がちらほらと
……第一回放送が投下されてから、放送前の話を投下してもいいんだろうか?
いいなら問題なさそうだけど
10 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:27:35 ID:gIfj/7KY0
>>8
よし、じゃあ俺のメチャ曖昧な情報を披露してやる!

発電所っつうのは、特定のエネルギーを電力に変えるところ。
火力・水力・風力・潮力・原子力……といったところのコト。
ただ、水力はダムが必要。
火力と原子力はかなりでかい設備が必要になるのだが……あと燃料が大量に貯蔵してあることになり、文字通り火薬庫状態。
風力と潮力は、まあ有り得るカンジなんだが、俺が良く知りません。
そして最後の選択肢こそが……「螺旋力」だ!!!
未知のエネルギーで発電、っつうのも有り得る話なんですな。
内部は、まあ水なり蒸気なりでモーターを回して発電するので、そのためのでかい機械と管理部屋があるカンジだね。
あと、起こした電気は基本直流なので、それを交流に変える変電所も併設してるかも。
まあ、発電所なんかで下手に暴れたら取り返しのつかない大惨事になってもおかしくはねーぞ!
11 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:32:13 ID:cdZlLIoQ0
>そして最後の選択肢こそが……「螺旋力」だ!!!
内部にグレンラガンがあるのを想像したのはきっと俺だけじゃないぞー!
12 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:34:20 ID:XQxmFyG2O
螺旋力発電所って……人力?w
13 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:35:02 ID:gqaSiy760
>>11
起動した瞬間に首輪が爆破されそうだな。
起動キーがアレな豪華客船がカテドラル・テラだと思ったのは俺だけでいい。
14 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:37:45 ID:NBfI1OO60
>>10
おお、thk。そんなんなってんのか。
螺旋力は面白そうだが。エドの螺旋力ってチェスでもしたら発揮されるかな?
15 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:38:54 ID:hoEXug8o0
発電ねえ。シズマドライブか原子力か、それとも螺旋力か?
自分の発想だと各作品に関係する動力はそれぐらいしか……
そういえば、ゴッドガンダムって感情エネルギーを出力に付加していたっけ?


402:ログ保全3
07/10/12 21:42:42 pB9fWppG
16 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:43:02 ID:OnrPmCvg0
>>13
ちょwwww月サイズwwww
アークグレンだとしてもでかすぎるってのに、カテドラル・テラとか絶対にロワ会場よりもでかいぞwww
しかし螺旋力で発電、となると…>>12の通り人力以外だとすると難しいんだよな…
人間が持つ未知のパワー=螺旋力だし
……もしかしてあれか。今回未参戦だった某白い冥王とか某あかいあくまとかが発電所に囚われてバッテリーにされてるとかかw
17 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:44:37 ID:OnrPmCvg0
>>15
シズマドライブだとするとオイシイ展開を思いついたぞ…
アンチ・シズマドライブが『三本』用意されているとしたら、もしかしたらその用途は……
18 :名無しセカンド:2007/10/11(木) 23:50:33 ID:gIfj/7KY0
……と、唯の地図上の一点だったハズの施設が途端にアツいスポットに早変わり、っと。
コレが発想の転換、コレが螺旋の力だッ!!!
19 :名無しセカンド:2007/10/12(金) 01:53:06 ID:6kknzP1s0
今んところ、あんまり触れられてない場所は卸売り市場、刑務所、デパート、フェリー発着所か。
ところでさ、高速道路ってどこが入り口と出口なの?
20 :名無しセカンド:2007/10/12(金) 02:10:57 ID:joBzqZUY0
書き手が描写したところに出入り口があることになる。多少多目でも問題はないだろう。
21 :名無しセカンド:2007/10/12(金) 07:49:43 ID:HkFQ8bho0
とりあえずアレンビー達が高速道路に上がったからあの辺には一個ある
22 :名無しセカンド:2007/10/12(金) 10:22:48 ID:DD3R04J60
そういや高速道路E-3封鎖されてたなと思い出したが
このメンバーじゃ支給品と気づかず飛び越えて行きそう
23 :名無しセカンド:2007/10/12(金) 14:20:31 ID:mUYdnQFU0
>>10
風力はでかい風車が並んでるから見ればわかる、「風力発電」で画像検索すれば出てくる。
潮力は海専用だからここは違うかな?海だとあと温度差発電・波力発電ってのもある。
他にはソーラーパネルが並ぶ太陽光、立地条件が限定される地熱なんてのも。
24 :名無しセカンド:2007/10/12(金) 14:21:52 ID:eGDEsPl60
しかしポルヴォーラを抱えたままそんな危険なことするかな?
あいつ、ちょっと高い所から落としただけで大爆発するんだぜ……。
25 :名無しセカンド:2007/10/12(金) 19:17:21 ID:baglIhRY0
発電所でできるのは最初から交流だってのは誰も突っ込まないのね。
電圧を変える変電施設とかも一緒にあると思う。
フェンスやカメラとかの警備体制はいいはず。(良くなかったら怖い)
あと、立地条件からすれば水力と風力は無いと思う。
水力は山の中でやるものだし(水を高いところから落とすために)、
風力発電するには周りの風通しが悪そうだから。
26 :名無しセカンド:2007/10/12(金) 20:57:52 ID:wtDDqlkIO
むしろ発電所は異世界からのエネルギーを云々ってフラグに使うとか…
エドが書けるなら書いてはみたいけど

403:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 21:55:37 09I1rHdF
>>400-403
何そのシムシティ

404:阿修羅姫(前編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:32:29 u8HW3Rwm

 人生は絶え間なく連続した問題集と同じだ。
 揃って複雑、選択肢は極小、加えて時間制限がある。
 一番最低なのは、夢のような解決を待って何一つ選ばないことだ。
 最良の方法を瞬時に選べ、私たちは神とは違う。

 万能でないだけ鬼に成る必要がある。


 ◇ ◇ ◇



405:阿修羅姫(前編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:34:26 u8HW3Rwm
 某月某日明朝名もなき市街地にて―

 微かな街頭に照らされるだけの心許ない道路は、なんとかバイクを走らせられる程度には明るくなった。
 それでも、肝心の運転手―鴇羽舞衣には、免許証はもちろん、自動二輪車を動かした経験すらない。
 たどたどしい運転は今にも転倒しそうな危うさで、どうにか二人乗りの車体を垂直に保つので精一杯。
 周りの警戒は愚か、後ろの乗客の異常すぎるテンションにも気が回らなかった。


 シモンは思った。
 俺がやるしかない、と。


(ニア……待っていてくれ、ニア……!)

 シモンがアニキと慕う男、カミナはもういない。
 グレンの搭乗者であり、大グレン団のリーダーであり、何よりシモンの心の支えであった存在は、もうここにはいないのだ。

(……そうだ、アニキは死んだ。だから俺が、俺がアニキの分まで戦わなきゃいけないんだ……!
 獣人たちを、四天王を、ロージェノムを倒して! 俺が……アニキにならなきゃいけないんだ!)

 獣人の駆逐と地上の解放、それがシモンたち大グレン団の掲げる目標だ。
 人間たちは、遥か昔から獣人たちの圧力により地中での生活を強いられてきた。
 だが、それももうすぐ終わる。カミナやグレンラガンの勇姿に感銘を受け、集った仲間たち、大グレン団の結束力を持ってすれば。

(無理を通して道理を蹴っ飛ばす。できるさ、俺たちならきっとできる。そのためにも、早くダイグレン戻らなくちゃ!
 ニアと、それからヨーコとも合流して……アニキなら、アニキならまずそうするはずだ!)

 シモンの中で大仏のように力強く鎮座する『アニキ像』は、決して揺るがない。
 幼少の頃より可愛がられ、誰よりも近くで見てきたその背中、その心意気、その生き様。
 シモンは追いかけてばかりだった。昔からずっと、憧れのアニキの背中を見つめてばかりだった。

 だが、見つめていた背中は、ある日突然消失した。
 いつも追いかけていた目標を見失い、シモンは戸惑った。
 明日から俺は、何を目指して進めばいい。何を信じて生きればいい。
 自問して、そのたびにシモンの内にいるアニキが答えてくれた。

 おまえが信じる俺を信じろ。

 それは、シモンの精神を正常に繋ぎとめる薬であり、毒でもあった。
 いつまで経ってもアニキという存在に固執し、泥濘から抜け出せない。
 ニアと出会ってからも、新たな四天王と相対して、挙句ラガンに拒絶されても、それは変わらない。
 シモンはまだ、カミナの死を乗り越えられていなかった。
 ニアを助けたいという思い、そこに焦りが孕むのも、仕方がないことだった。
 アニキならそうする―そう思わずにはいられなかったから。
 
 重すぎたのだ。シモンにとって、カミナという存在は。
 そして、カミナはもういない。

(だから、俺がアニキの代わりに―ん?)

 血走った目で、シモンはゴーグル越しに進路方向を注視する。
 朝焼けのおかげでだいぶ明るくなってきた街路、その路上に、人影が転がっている。
 運転手の舞衣はバランスを保つことで精一杯なのか、数十メートル先のそれにはまだ気づいていない。

406:阿修羅姫(前編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:36:01 u8HW3Rwm
「舞衣、あれ見てくれ。あそこ、前のほうで誰か寝てる!」
「はい~っ!? 寝てるって、ここ道路よ!? ってか私それどころじゃ……って、ホントだ」

 シモンに促されて、舞衣も前方の人影にようやく気づく。
 元々低速だったバイクのスピードをさらに緩め、ノロノロと接近していく。
 徐々に、徐々に、路上に転がっているそれの実態が、シモンと舞衣の瞳に映し出されていく。
 微かに黒ずんでいるように見えるそれは、どうにか人の形を保っている。
 周囲の地面でアメーバのように広がっている染みは……血、だろうか。
 いくら朝方とはいえ、こんな道のど真ん中で、人が寝ているはずもない。
 とくれば、答えは単純。寝ているのではなく、起き上がれないのだ。
 つまり。

「……おい舞衣、あれって……」
「まさか…………」

 ―脳裏を、不吉な影が横切った。
 しかし、シモンも舞衣も、言葉にするには至らず。
 唐突に、世界が途切れた。


 ◇ ◇ ◇


 彼女にとって、炎は忌むべきものだった。
 炎。それは彼女、鴇羽舞衣のエレメントの象徴ともいえるものであり、攻防の両方を担ってきた。
 当初はオーファンと戦うための術として、かつてはHiME同士の争い、蝕の祭を勝ち抜くための術として。
 そして現在は、82名による殺し合いを生き抜くための術として。
 なぜ、炎だったのかは分からない。舞衣と炎になんらかの因果関係があるのか、それよる恩恵が与えられでもしているのか。
 定かではない。どちらにせよ、舞衣は炎が、自身の持つ炎の能力が好きではない。
 森を焼き、友達を焼き、闘争の渦中へと導いた……HiMEの能力。
 こんな能力、いらなかった。こんなものがなければ、舞衣は今も弟の巧海と幸せに暮らせていた。
 オーファンと戦って傷つくことも、シアーズ財団や一番地等とも無関係の日常を過ごし、命を焼き殺すことだってなかった。
 望まざる能力。舞衣にとって炎は、カグツチを含めたHiMEの能力は、忌むべき力だったのだ。


 舞衣は思った。
 私はなぜ、生きているのだろう、と。


 路上に転がっていた異物を確認し、遅行運転で進んでいたはずの数秒前。
 舞衣の意識は気づかぬ内に一旦途切れ、いつの間にかバイクのシートから身を落としていた。

407:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:36:42 f8SFo9OZ
 

408:阿修羅姫(前編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:37:15 u8HW3Rwm
「あ、れ?」

 弱々しい、少女とも聞こえるその声は、路地に転がるボロボロの身体から漏れ出ている。
 ずぶ濡れだった制服を一瞬で乾かすほどに身を焦がし、爛れた顔に皹を走らせ、土埃と煤に塗れたその姿は、爆撃の残滓とも見えた。
 が、彼女はまだ生きている。熱の篭った瞳で目の前の惨状を見渡し、混乱する頭で必死に状況を理解しようと努めた。
 燃えている。何もかも燃えている。
 乗り回していたバイクが、近隣の建物の外壁が、進路上に転がっていた『何者かの死体』が、粉々に砕け、燃え盛りながら散布している。
 舞衣は思い出す。こんな状況に陥る寸前、自分はいったいどうしていただろうか。
 バイクを運転し、転がっていた何かに近づき、どうやらそれが他の参加者の死体らしいと気づいて―そこで、意識が途絶した。
 そして、気づいたらこうだ。

(だれかに、襲われた?)

 そうとしか考えられなかった。
 バイクを木っ端微塵にし、なにもかも吹き飛ばした惨状、爆弾か何かを投げ込まれただろうと舞衣は推測した。

(ふざけんじゃ……)

 茫漠として定まらない脳裏に揺れる、数々の闘争とそこからの一時的な離脱、そしてシモンとの記憶。
 この場にHiME同士の戦いなどという低俗な競争はない。あるのは、生きるか死ぬかの生存競争のみ。
 舞衣は抗うつもりだった。もう二度と間違いは犯したくない、復讐心に駆られて友達を焼き殺すのも、後悔の念に苛まれるのも御免だったから。
 シモンに協力し、ニアを助け出し、螺旋王に敵対するという形で、舞衣はこの世界を生きていこうとした、のに。

「……女の子の死体餌にして、寄ってきた女子供を爆撃、か。なるほど、外道やな」

 自分と、そして数時間前まで同じようなことをしていた人物に向けて吐き捨てたセリフが、舞衣には酷く不快に感じた。
 舞衣の生きようという意志も、シモンの膨れ上がりすぎた決意も、この男が全部台無しにしてしまった。
 この、真新しい黒いスーツを着こなし、燃え盛る戦場をさも興味なさげに闊歩し、あろうことか神に対して祈りを捧げる仕草を見せる、ふざけた男に。

(こいつが……私を、シモン、を……!)

 舞衣の中で、沸々と激情が燃える。
 燃焼する怒りに身を委ねると、外傷と熱により苦しんでいたはずの身体は、意外にも自然と持ち上がった。
 糸で吊られたマリオネットのように、緩やかに、それでいて確かな敵意を全身に宿して、舞衣は立ち上がる。
 まだ男が気づかぬ内に、そっとエレメント―両腕に宝輪を具現化し、戦闘体勢を取る。

「……許さない」

 その囁きで、男は舞衣のほうへ振り向いた。
 顔を俯かせ、幽鬼のように立ち尽くす彼女を見て、男が何を思ったかは分からない。
 ただ面倒くさそうに苦笑いして、軽く舌打ちをした後、右手に銃を握っていた。

「……寝とけや。死に掛けの女いたぶるんは趣味やない」
「ここまでしといて何言ってんのよ……!」

 舞衣の両腕に装着された宝輪に、僅かな炎が宿る。
 風華学園に現れる異形―オーファンを撃退するために用いられてきた炎は、今や人殺しの道具へと変わり果てた。
 他のHiMEのチャイルドを、命を、そして今は、目の前の男を焼き殺すために。
 それでも舞衣は、はち切れんばかりの感情を寸前で押し留め、男に尋ねる。

「なんでよ。なんで、こんなことするのよ? そんなに死にたくない?
 誰かを蹴落として、誰かを殺して、誰かの大切なものを奪ってまで、生き残りたいわけ?」

409:阿修羅姫(前編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:38:53 u8HW3Rwm
「……それが、この殺し合いっちゅーもんやろ。……それにな。わい、とっくの昔に死んだ人間やねん。
 この銃かて、今になって初めて握ったわけとちゃう。女の子に説教されて自分見つめなおすようなアマチャンともちゃう」

 冷徹な眼光を放ちながら、男は黒光りする銃口を舞衣に向けた。

 ―キャロ・ル・ルシエの死体を餌に通行人を誘き寄せ、タイミングを見計らって近隣のビルの屋上から、手榴弾を投下する。
 男が殺し合いに乗る上で最初に実行した狩りは、なんとも下劣で、人の道から外れたものだった。
 しかし、それも今さらだ。
 男は、一度は死んだ人間。言うならば、螺旋王によって無理矢理蘇らせられたゾンビだ。
 そんな男に今さら人道を説いて、なんになるというのか。
 これはやり直しの機会などではない。冥府へ旅立つ際の、ちょっとした寄り道のようなものだ。
 螺旋王の実験を円滑に進めるための駒。それが今の男―ニコラス・D・ウルフウッドの役目なのだと悟った。

「……そっか。そうだよね。何勘違いしてたんだろう、私。シモンみたいな奴ばっかなはず、ないじゃん。
 だって、殺し合いしてるんだもん。あんたみたいなのが、普通だよね。だってこれ、殺し合いなんだからさ」

 舞衣の視線は、眼下の焦げ爛れたアスファルトに奪われていた。
 何もかもが焼けた。バイクも、死体も、道も、シモンも、唯一燃え滓のような舞衣だけが残った。
 少し前までは、シモンとこれからの方針を論じていたはずだったのに。展開が激変するには、あまりにも早い。
 だが、正常だ。これがこの世界にとっての、普通なんだ。舞衣はようやく理解した。
 理解して―もはや怒りしかなかった。

「……あんたは! あんたみたいなヤツを! 私は絶対に許さない―ッ! カグツチィィィィィィィィィィィッ!!」

 怒りに狂った表情を、燃え滾るような赤で染めて―舞衣は、腹の底から我が子の名を叫んだ。
 我が子、即ちチャイルド。HiMEの能力の根底にして、最強の保有戦力。
 その実態は神話から抜け出たモンスターのようであり、HiMEの心象をその身に宿したものである。
 舞衣の使役するチャイルド、カグツチは、記紀神話における火之迦具土神を模した火竜の化身だ。
 その戦闘力は人智を超えており、高次物質化能力を中和できもしない人間が太刀打ちするのは到底不可能。
 極論を言えば、チャイルドを出したHiMEを殺すのは、同じくチャイルドを有するHiME以外存在し得ない。
 こんな殺し合いなど、HiMEが複数介入している時点で成り立たない……はずだ。
 しかし、主である舞衣が呼びかけても―彼女のチャイルド、カグツチは答えてはくれなかった。

「……カ、グ、ツチ? なんで、どうして……?」
「……助け呼ぶつもりなら無駄やで。引き金引くのなんざ、一秒とかからん」

 いっこうに姿を現さないカグツチ。訳が分からず、舞衣は呆然と立ち尽くした。
 チャイルドの召喚は、螺旋王によって封じられている―そのような事実に気づく間もなく、舞衣は死の瞬間を直視する。
 ウルフウッドに憐憫の情は欠片もない。銃口は逸れず、ぶれず、真っ直ぐ舞衣の胸元を射抜いていた。
 あとは引き金を引くだけだ。たったそれだけで、舞衣は死ぬ。
 ……あるいは、それもいいか、と思った。
 端から不要と感じ始めていた命、生への執着もなくしかけていた。
 それを寸でのところで繋ぎとめてくれたシモンも、もういない。
 これでいいか。これで終わろう、舞衣はシモンの熱弁を思い出しながら、再び諦めようとしていた。

(結局私は、いつだって奪われる側の人間なんだ。幸福なんて訪れやしない、勝ち取ろうにもいつも品切れ。
 ……あーあ、最後まで不幸だったなぁ……でも、ま、それも私らしいか)

 カグツチが呼び出せない。銃弾くらいならエレメントでも防げるだろうが、今さらそんな気は起こらなかった。
 巧海を失い、命を失い、今度はついに、自分を失う。それが鴇羽舞衣の末路なのだと、受け入れた。

410:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:38:57 k1j242kf


411:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:40:03 k1j242kf


412:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:40:32 gO/kL+nO
 

413:阿修羅姫(前編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:40:43 u8HW3Rwm
「ふざけるなッ!」

 ―そのとき。
 死を与える者とそれを受け入れる者、二者の間に、小柄な影が割って入った。
 ブルーカラーだった服を土色と赤で汚し、それでもなお、常の勇ましさを誇示する少年こそ、シモンだった。
 ウルフウッドが投擲した手榴弾の爆発に巻き込まれ、舞衣が掠り傷程度で生き永らえたのは、運が良かったとしか言えない。
 しかしこのシモンも、キャロのように身体が木っ端微塵になることはなく、どうにか一命を取り留めていた。
 ただ彼は舞衣とは違い、その姿を以前とはまるで違う様相へと変貌させていた。

「なんだよおまえ……ッ! 俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ……舞衣だって死なせやしない!
 ニアを助けて、ヨーコを拾って、みんなで螺旋王を倒しにいくんだ……邪魔するってんなら容赦しないぞ!」

 一本の小さなナイフを頼りに、シモンは舞衣を庇うように立ち、ウルフウッドに敵意を向ける。
 ナイフで銃を持った殺人者に張り合うなど、冷静な思考のできる人間の行動とは思えない。
 実際、シモンはとうの昔に冷静さを欠いていた。
 ここに連れてこられ、ニアの存在を知り、そして襲撃された今となっても、それは変わらない。

 ただ、死ぬわけにはいかない。がむしゃらに生きて、大グレン団のみんなで螺旋王を倒さなくちゃいけない―そういった願望に駆られているだけ。

 自らが陥っている状況を理解し、打開することもできはしない。そういう意味では、シモンはもう手遅れだった。
 一度は発狂し、熱意が冷めると同時に死を覚悟した舞衣とて、それは理解できた。
 今のシモンは尋常ではない。尋常ではないが、だからといって何かができるわけでもない。

「……アホくさ」

 鼬の最後っ屁として、勇猛に戦意を振り翳して……死のうとしている。ただそれだけだ。

「おまえ、わいが何もせんでも死にそうやんけ。死人に無駄弾使う気なんぞ起こるかい」

 冷たく吐き捨てると、ウルフウッドは銃を収めた。
 シモンと舞衣の殺害を諦めたわけではない。今さら撃つ意味がないと判断したからだ。
 なにせ、一人は軽傷とはいえ心身ともにボロボロの状態。それくらいは、彼女の事情を知らないウルフウッドにも分かった。
 そしてもう一人は、棺桶に片足を突っ込んだ状態―ーつまり、死ぬ寸前だ。
 これから死に逝く者に、数少ない銃弾を割くのは不合理と言えた。

 実際、シモンが死ぬ一歩手前であるという表現は、的を射たものだった。
 それが誰でも理解せざるを得ないであろう決定的な箇所を挙げるなら、頭部。
 シモンの頭部は脳天から額に欠けてパックリと割れ、夥しい量の血を外部に紛失、首から上を深紅に染めていた。
 立ち上がってナイフを握っていること自体が、不思議なくらいの有様。
 単なる女子高校生であれば、直視した瞬間に失神してもおかしくない。それほどの傷だった。

 シモンが生きていた。だが、もうすぐ死ぬ。
 新たに飛び込んできた情報を頭で整理して、それでもやはり、舞衣は絶望から抜け出せずにいた。


 ◇ ◇ ◇



414:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:42:29 gO/kL+nO
 

415:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:42:45 k1j242kf


416:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:42:48 gQBxTF1K
 

417:阿修羅姫(前編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:43:00 u8HW3Rwm
「けったくそ悪い……」

 いくら胸ポケットを探ろうとも、愛しの煙草の感触は戻ってこない。
 胸糞が悪い。イライラする。いつものように血塗られた腕で人を殺め、外道として振舞ってきただけなのに。


 ウルフウッドは思った。
 ……ひどく疲れた、と。


「……今さら後悔してどないすんねん。わいは死人やぞ。誰に恨まれようが関係あらへん。こんな悪夢さっさと終わらして、向こうでヨロシクやりたいわ」

 シモンと舞衣を襲撃し、退散した後のウルフウッドの後姿は、とても穏やかなものとは言えなかった。
 人を殺した後の背中など、どこぞの殺人狂でもない限りは後悔の念と罪悪感でいっぱいになるものだ。
 それは、最強の重兵器を担ぎ砂漠の星を渡り歩いてきたウルフウッドとて、例外ではない。
 人の死は嫌というほど見てきた。目の前で誰かを殺されるのも、誰かの目の前で殺すのも、それこそ星の数だ。
 それでも、善良な女子供を死に至らしめ、その怒りの矛先を向けられるのは、気分がいいものではない。
 憂さ晴らしに煙草が欲しい……心底からそう願い、しかし叶えられはしない。

「……いいかげん割り切れや、自分。女子供がどうやあらへんやろ……ああそうや、そうやな」

 あの名も知らぬ少女の死体には、謝罪してもしきれないほどの祈りを捧げておいた。それで許されるとも思っていないが。
 ウルフウッドは既に冥府魔道に落ちた愚者だ。それを自覚しているからこそ、あんな外道なやり方を思いつき、実戦した。
 彼の目的はただ一つ。死んだはずのこの身がここに存在する意味……それを果たすだけだ。
 殺し合い。つまりはそれだ。
 迷いなどない。孤児院の子供たちと同年代くらいの少年を殺した今となっては、迷いも何もない。
 胸糞は悪いが、それを受け止めて、殺し続けるしかない。それが、この地に存在するニコラス・D・ウルフウッドの意味だった。

「だからなぁ……せめて、煙草くれるくらいの温情は働いてくれや。聞こえてへんのやろうけどな」

 人知れず、螺旋王に愚痴るウルフウッド。
 覚悟だとか、迷いだとか、そういう次元の話ではない。ウルフウッドは逡巡する間もなく、既に外道なのだ。
 初めてこの手を血で汚したあの日から、今に至るまで。人間は、そう簡単に変わりなどしない。

 ただやはり、胸糞は悪かった。
 それだけの問題だ。


 ◇ ◇ ◇



418:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:43:32 gO/kL+nO
 

419:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:44:02 f8SFo9OZ
 

420:阿修羅姫(前編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:44:06 u8HW3Rwm
 ―いいか、シモン。忘れるな。お前を信じろ。俺が信じるお前でもない。お前が信じる俺でもない。お前が信じる、お前を信じろ。


 シモンは思った。
 俺は……俺が信じる俺を、最後まで信じることができたのだろうか、と。


(アニキ……俺、やっぱりアニキみたいに……)

 虚ろな意識がガラスのように罅割れて、カミナの虚像を歪めていく。
 カミナは死んだ。もういない。
 分かっていた。分かっていたはずなのに、シモンはそれを乗り越えることができず、偶像のアニキに縋ってばかりだった。

(ニア……すまない、俺……)

 ―穴を掘るなら天をつく。墓穴掘っても堀り抜けて、突き抜けたならシモンの勝ち。
 ―シモンはシモンだ、カミナのアニキじゃない。シモンはシモン、穴掘りシモンだ。

 答えは用意されていたはずなのに、掴み取ることができなかった。
 シモンは、この殺し合いという環境に順応する前に、不遇な運命を迎えた。

(舞衣も……ごめんよ……)

 シモンの瞳にはもう、泣きじゃくりながら死を嘆く舞衣の顔すら映っていない。
 カミナやヨーコ、ニアやリーロン、ロシウ、ダヤッカ、キタン……仲間たちとの思い出、走馬灯で視界が埋め尽くされていた。
 決意も無念も、全てが死という名の虚無に埋没されていく。螺旋王と敵対する大グレン団筆頭の意志は、ここで潰えるのだ。

(俺も、アニキみたいになりたかった。でも俺は、アニキにはなれなかったんだ)

 最後まで間違いに気づくことはなく、シモンは『アニキ』という大きすぎる存在を抱えて、死んだ。
 後に残されたのは、いつものように泣く少女だけだった。


 ◇ ◇ ◇



421:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:44:18 k1j242kf


422:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:46:26 f8SFo9OZ
 

423:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:46:36 gQBxTF1K
 

424:阿修羅姫(後編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:47:15 u8HW3Rwm
 まるで、雨が降っているようだった。
 爆発により炎上したバイクの破片は、未だにそこら中で熱気を作っている。
 そのど真ん中に身を置いても、舞衣の心は冷めていた。すっかり乾いた制服も、頭から水を被ったかのように重い。


 舞衣は思った。
 どうして私は、いつも失う側なんだろう、と。


 腕の中には、事切れたシモンの遺体。それを抱いて泣き喚いたせいか、服には血がびっしりこびりついている。
 死因は失血死だった。バイク爆破の際に吹き飛ばされた身体は路上を転がり、頭皮を削ってそこから多量の血を奪い取った。
 身体が粉々にならなかっただけマシと考えるか、即死でない分僅かでも生を謳歌できたのは幸いと捉えるべきかは、人それぞれだ。
 どちらにせよ、シモンは死んだ。もういない。
 巧海と同じように、もうこの手に戻ることはない。
 あれだけニアを助ける、螺旋王を倒すと息巻いていた元気な姿は、もう戻ってこない。
 舞衣は、もう何度目か分からない消失による悲しみを痛感した。

(なんでよ……なんで、いつもいつもいつも、私ばっかりこんな思いしなくちゃならないのよ……!)

 シモンはこんなにも重傷を負ったというのに、当の自分は五体満足、出血らしい出血も見当たらない。
 精々肘や膝が擦り切れて、ヒリヒリと痛むくらい。普通なら幸運だったと喜ぶべきなのだろうが、今の舞衣にはこの幸運も、神様の皮肉にしか思えなかった。
 殺すなど生温い。許す限り生き永らえ、永遠に消失の苦しみを味わえと……そんな神託すら聞こえてくるようだった。

 巧海を失い、命を自らの手で殺め、そしてこの世界でもこうして、シモンを失った。
 会話など数時間しかしていないが、彼の志しは悲痛にもがく舞衣に多大すぎる影響を与えた。
 だからこそ、彼に付き合おうとここまで来たのに。運命は、それすらも容易く刈り取る。
 結局は、何も変わらない。
 蝕の祭も、殺し合いも、舞衣が失う側の人間であるという現実は、何も変わりはしない。

(……もう、死んじゃおうかな)

 今回ばかりは、本気でそう思った。
 もう、失うのには疲れた。誰かに大切なものを奪われて、そのことに憤慨して、駄々こねて生き続けるのには。
 立ち直ってまた前を進もうにも、待っている運命はまた同じものに違いない。
 奪われて、嘆いて、その繰り返し。
 何度後悔すれば許されるのか。
 そもそも、なんで自分ばかりがこんな目に遭わなければいけないのか。
 分からない。舞衣には何も分からない。
 こんな不公平すぎる人生、もはや価値などない。
 巧海もいない、命もいない、帰ったところで、待っているのはあの無神経な馬鹿面ぐらいだ。
 やってられない。もう人生に未練などない。あるとすれば……

「……なんで、私はいつもこうなのかな? 私、そんなに神様に恨まれるようなこと、した? ねぇ、ねぇ?」

425:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:47:55 k1j242kf


426:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:48:11 gO/kL+nO
 

427:阿修羅姫(後編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:48:23 u8HW3Rwm
 白く、そして青く。夜天が明けて、すっかり爽やかな景色になっていた空は、何も答えてはくれない。
 それでも舞衣は、天を仰ぎながら懸命に語りかける。

「どうして? ねぇどうして? なんで、なんで私ばっかり、いつもいつも、こんな損な役回りばっかり……
 HiMEなんていう訳の分からない戦いに巻き込まれて、今度は殺し合えって言われて、それで何?
 真っ先に死んだのは私じゃなくて、巧海と同じくらいの男の子よ? 何よこれ、どう考えてもおかしいじゃない」

 運命なんてものはきっと、誰かが面白おかしくなるよう仕組んだ下手な脚本なんだ。
 舞衣というキャラクターは決して報われることのない悲劇のヒロインとして、一生涙を流し続けるだけで終わるに違いない。

「ふざけてるの? 私が落ち込むのを見るのが、そんなに楽しい? 悪趣味よ、そんなの……ええ悪趣味だわ!
 私は、あんたの思い通りになんかならない! もう、失うのも奪われるのもうんざり! 
 私は……私は、あんたのオモチャなんかじゃないッ! あんたのオモチャにされて一生を終えるくらいなら、私は―」

 シモンから離れ、天の向こうにいる誰かに訴えかける舞衣の表情は、明らかに狼狽していた。
 それでいて、覇気は十代の女子高生とは思えぬほどに鋭い。
 この世の全ての憎しみを背負って立つような、鬼神の如き勇ましさが、その顔には宿っていた。

「―……そこにいるの、誰?」

 発狂する舞衣の口から微かに、凍てついた問いかけが零れた。
 その照準は、騒ぎを聞きつけてきたのだろう、舞衣に恐る恐る近寄ろうとしていた、ある少年に向けて。

「ひっ……あ、あの僕……お姉ちゃんがここで泣いてるのが見えて、それで、その、どうしたんだろうと思って……」

 おっかなびっくり返事を返す少年の容姿は、巧海やシモンよりずっと若い。
 利発そうな顔つきに、服装はいかにもな金持ち坊ちゃまの礼装だった。
 舞衣と同じく首輪をつけているということは、つまりは彼も、シモンと同じ殺し合いの犠牲者。

「ぼく、名前は?」
「え? あ、あの、僕は―」
「……ううん、ごめん。やっぱりいいや」

 初対面の少年の前とあってか、落ち着きを取り戻した舞衣は、穏やかな声をしていた。
 しかし、その瞳は虚ろで、整然としているかに思われた足つきは、フラフラしていてどこか危なっかしい。
 悪く言えば酔っ払いのような、さらに悪く言えば、精神を磨耗した異常者のような危うさ。
 この時点で舞衣が何を思い立ったのかなど、少年には分かりもしない。
 ただ一つ決定的なことは、この場に踏み入れた不幸―それが、間違いなく少年の身に降りかかろうとしている。

「おねがいがあるの。決心、つけさせて」
「え?」

 一言断って、舞衣は少年の首に手を差し出した。
 そして、そのまま掴む。
 掴んで、握り締める。
 強く、強く、ありったけの力を込めて。

428:阿修羅姫(後編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:49:48 u8HW3Rwm
「……ッが、お、でぇ……」

 少年のおどおどした表情は次第に苦悶に染め上げられ、か細い喘ぎを漏らしながら舞衣の手を外そうとする。
 しかし、まったく抗えない。少年の首を絞める舞衣の手には、尋常でないほどの力が込められていた。
 それこそ、殺さんばかり握力で。

「痛い? ねぇ苦しい? ……巧海や命やシモンも、あんたみたいに苦しんだんだよね。
 本当なら、私が受けるはずの苦しみだったのにさ。……私、また一人になっちゃった」

 右手と左手、両の五指が、それぞれ少年の首にめり込む。
 親指はまだ発達しきっていない喉仏を潰し、人差し指の爪は皮膚を裂いて血が滲んでいる。
 首輪のせいで締めにくかったが、少年の首が細いこともあってか、別段問題ではない。

「苦しいよね。でも、私はもーっと苦しいの……たった一人残されて、泣いて、嘆いて、もう疲れちゃった。
 なんで私ばっかりこんな目に遭うんだろうって、考えたの。答えなんか、分からなかったけどさ……」

 少年の顔色が、次第に青ざめていく。
 血色のいい肌はどんどん生気を失っていき、瞳の色からも活力が見られなくなってきた。

「私は、許せない。あんたが許せない。私から何もかも奪おうとする……あんたがッ!
 奪われるのはもうたくさん! また奪われて後悔するくらいなら……私はずっと一人でいい!」

 少年にか、それともここには存在しない誰かにか、舞衣は怒りの赴くままに言葉を紡いだ。
 聞いているかどうかは問題ではない。激情を発散する術として、舞衣は辺り構わず喚き散らす。

「私は―奪う側に回るッ! あんたなんか……死んでしまえぇぇぇぇぇっ!」

 コキャッ、と。小気味のいい音が鳴ったような気がした。
 その音がスイッチとなって、舞衣は叫ぶのをやめる。
 そして、改めて覗く少年の顔は……初見の際の利発そうな表情は微塵もない。
 肌は青ざめ、瞳は焦点が定まらない……完全なる、死者の顔だった。

「……なんだ、なんてこと、ないじゃない」

 舞衣が首から手を離すと、少年の身体は一切の抵抗を見せることなく地面に沈んだ。
 もう、自らの力で立つこともままならない。いや、できない。
 少年は既に事切れていた。舞衣が首を握り締めただけで、あっけなく死んだ。
 つまりは、そういうことだ。この、殺し合いというものは。

「あは、あははははは。なぁ~んだ、全然たいしたことないじゃん。誰かから、大切な何かを奪うのってさ。
 そうだよね、こんなに簡単だったんなら、罪悪感なんてあるはずないよね。みんな踊らされるはずだぁ。
 奪われる側だった頃の私が、まるで馬鹿みたい。本当に、馬鹿だったんだ私。はは、ははははは。ははははは」

 すっかり動かなくなった少年の死体を踏みつけてから、舞衣はあてもなく歩き出した。
 その顔を、怨嗟を越えた、異常とも取れる哄笑で満たしながら。彼女は向こう側の境界線に踏み込んだのだ。
 もう、あんな思いをする生活には戻らない。自分だけが苦しむ世界はもうたくさんだ。
 心身を削られ、それでも絶望より怒りが先行した結果、舞衣は壊れた。殺し合いに順応するという形で、正常に壊れた。

 彼女にはもう、何も残されてはいない。
 大切なものも、守るべきものも、守りたいと思えるものも。


 ◇ ◇ ◇



429:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:49:58 gQBxTF1K
  

430:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:51:17 k1j242kf


431:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:51:43 29nYnTNE


432:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:51:46 gQBxTF1K
        

433:阿修羅姫(後編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:52:00 u8HW3Rwm
 朝焼けの眩しい光に照らされて、低速ながらも修復が始まる。
 どんな傷を負おうとそれが死に繋がることはなく、かつての姿に維持しなおす。
 そんな、不死者にとっては当たり前の活動が、昇り始めた日の下で行われている。


 チェスワフ・メイエルは思った。
 想定外―だが、悪くはない結果だ、と。


 首を絞められ、呼吸困難に陥る苦しみとそれによる死はなかなかのものだったが……外的殺傷に比べれば、些か楽なほうではある。
 不死者とはいえ、殺害に伴う苦痛が皆無というわけではない。痛みは一般の生者と等しく与えられる。
 先ほども、チェスは舞衣に絞殺されて死んだ。だが、すぐに生き返った。
 散々締め付けられて青くなっていた痣は、艶やかな肌色に戻っている。潰された喉や爪で裂かれた皮膚も、また同じく。

(彼女が玖我なつきの知り合いならば、あるいは……とも思ったが、予想の斜め上をいく顛末を迎えてくれたようだ)

 なつきに失望し会場内をさ迷い歩く内、チェスはウルフウッドの放った手榴弾による爆音を聞きつけ、ここまで駆けつけた。
 もっとも、辿り着いたときにはもうウルフウッドの姿はなく、息絶えたシモンの死体と、それを抱えて号泣する舞衣を見かけたのみ。
 何者かに襲われ、何者かが死に、なつきの言っていた『鴇羽舞衣』の外見的特徴に酷似する少女が、何者かの死を悲しんでいる。
 状況は決して良好とは言えなかったが、彼女が本当になつきの知り合いであるなら、利用価値は見い出せると判断したのだ。
 しかし、いざ話をしてみればこのとおり。チェスは、あっという間に舞衣の手にかかった。
 不死者でなければ、なんとも救えない散り方をしていたところだろう。
 彼女が何を思い、何を決意して殺人者側に回ったのかは、図りきれない。
 だが残った結果として、ゲームに乗った参加者が一人増えた。
 つまり、生き残る上で邪魔となる存在を消してくれる人間が、一人増えたのだ。
 舞衣がチェスの知らぬところで勝手に暴れまわってくれるなら好都合。
 彼女はチェスを殺したものと思っているだろうし、ここに戻ってくることもないはずだ。

(ならば彼女が去っていった先……南東方面を避けて行動すれば、まだやりようはある―おっと、誰か寄ってきたようだ)

 爆発音を耳にし遅れながらも偵察に来たのか、それとも未だ燃え盛っているバイクの残骸を察知したのか。
 どちらにせよ、このような場に走りながら寄ってくるような人間だ。単なる殺人者である可能性は低いだろう。

(『不死者のチェスワフ・メイエル』ではなく、『無害で善良なチェスくん』として接触してみるか……)

 決めると、チェスはまたその場に倒れこんだ。


 ◇ ◇ ◇



434:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:53:05 29nYnTNE


435:阿修羅姫(後編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:53:37 u8HW3Rwm
 時は少しだけ遡る。
 映画館入り口のロビー、頼りない電灯が照らす内部に、朝焼けが差し込んで微かに明るくなった頃。
 小刻みに震える身体を懸命に押さえつけながら、彼女は思案を続けていた。


 ティアナ・ランスターは思った。
 やはり、自分は馬鹿だ。ヴィータ副隊長に叱咤されたあの日から、何も変わっちゃいない……、と。


 キャロを不可抗力で銃殺し、罪悪感に苛まれながら民間人の男性に銃を向け、逆に拘束されてしまう体たらく。
 おかげでいくらかは落ち着けたが、ティアナの身体の震えはまだ治まらなかった。
 それを案じてか、ティアナを拘束し、成り行きで保護した体格のいい男性―ジェット・ブラックは、未だ彼女から目を離そうとしない。
 彼からしてみれば、ティアナは訳も分からないまま殺し合いに参加させられ、動転して錯乱した可愛そうな素人。
 ティアナが時空管理局機動六課に所属する魔導師であり、幾多の死線を乗り越えてきたことなど、露とも思っていないだろう。
 当たり前だ。今のティアナは、どう見ても異常事態に混乱した小市民。救助される側の人間だ。
 同僚である機動六課の面々、相棒であるクロスミラージュ、激励をくれる存在は身近になく、彼女は未だ、立ち上がることができないでいた。

「だいぶ、落ち着いたか?」
「……ええ」

 ジェットの問いかけに力なく答えながら、ティアナは数時間前のことについて、もう一度思案していた。
 キャロの突然の死。警告の意を込めて向けた銃口は、親友の身体を射抜き、命を奪い取った。これは、紛れもない事実だ。
 だが、幾分か冷静になった頭で今一度考える。
 あれは、本当に自分が撃ったのか?―と。

 何も責任転嫁をしようというわけではない。ただ、ここにきて腑に落ちない点が思い浮かぶので、考えてみただけだ。
 実銃でないとはいえ、ティアナは管理局勤めを志し今日に至るまで、ずっと銃型のデバイスを愛用してきた、いわば専門家だ。
 そんなティアナが、誤って引き金を引き、それが顔見知りであるキャロに直撃するなど、どんな確率か。
 例えば、こうとは考えられないだろうか―ティアナが誤ってキャロに銃口を向け、寸でのところで銃を引こうとするも、
 そのタイミングに合わせ、何者かが遠方からキャロを狙撃、その結果をティアナが『自分が撃った』と誤認した場合は?
 都合のいい解釈というのは百も承知だ。だが、冷静になろうとすればするほど、その可能性もありうるような気がしてならなかった。

(そういえば、私の持っていた銃の残弾……もし、残弾が一発も減っていなかったとしたら……)

 ティアナはここにきてから、一発も銃を撃っていない―つまり、キャロを撃ったのも別人ということになる。
 今まで考えもしなかったが、この腑に落ちない疑問点を解決するには、最も有効的な方法だった。
 ティアナは取り上げられた銃の残弾を調べようと、ジェットに声をかける。

「あの―」
「落ち着いたってんなら、ひとまずは安心だ。俺はちょっと外の様子を見てくるから、しばらくここで待っていてくれ」

 しかしジェットはティアナの言葉を遮り、映画館の外へと足を向けていた。

「え、ちょっと、待って。外の様子、って?」
「さっきの爆発音だ。誰かが、そう遠くない場所でドンパチやらかしてるらしい。まさか、聞こえてなかったのか?」
「あ……」

 首を傾げるティアナを見て、ジェットは溜め息をつく。そして、映画館から出て行ってしまった。
 近隣で爆発音が鳴り響いたのは、ほんの数十分前。まだティアナが荒れていて、とても目を離すことができない状態の頃だった。
 近くということもあり気にはなったが、ティアナを放っておくこともできず、ジェットは彼女が落ち着くまで待っていたのだ。
 しかし当のティアナは、そんな爆発音があったことすら覚えていない。
 キャロの死で、頭がいっぱいだった証拠である。

436:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:53:52 k1j242kf


437:阿修羅姫(後編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:55:13 u8HW3Rwm
(ダメだな、私……)

 震える身体を体育座りの体勢で縮ませて、また思案の海に耽る。
 銃の残弾を確かめるのは、ジェットが戻ってきてからにしよう。そう決めたところで、ある重大な点に気づいた。

(外……爆発音……あれ? そういえばキャロは―)

 映画館。外。そう遠くない場所。路上に放置したままの、キャロの死体はどうなったのだろうか。
 真実がどうであれ、仲間の死体の場所を知りながら放置しておくのは居た堪れない。

(強く、ならなきゃ。立ち上がって、前を見なくちゃ駄目だよね)

 思い立ち、ティアナは自らの足で外へと飛び出した。
 キャロをあの場所に放置しておくわけにはいかない。然るべき場所へ移してやろう、と。

 それが、修羅道へと続く第一歩であるとも知らずに―


 ◇ ◇ ◇


 燃え盛る鉄の残骸、蔓延する血と肉の焼ける臭い、そして血達磨と化した少年の遺体。
 駆けつけた先に広がっていた光景は、まるで。


 ジェット・ブラックは思った。
 なんだここは、地獄か、と。


 ジェットがティアナを宥めている間、ここで何が起こり、誰がどうなったのか、定かではない。
 ただ確かな結果として、ここで誰かが爆発を起こし、バイクらしきものと人らしきものを粉砕し、血塗れの少年を作り出した。
 犯人は既に去った後だろうか。ジェットはティアナから没収した銃を片手に被害現場を検分する。
 そして、血塗れで既に死亡していた少年とは別に、割りと小奇麗な姿の少年が倒れているのを発見した。

「おいボウズ、生きてるか!?」

 警戒しがちに歩み寄り、その少年を抱き起こす。
 見たところ、目立った外傷はない。精々服が土に汚れているくらいで、それ以外はまったくの無傷と言っていい。
 しかし意識を失っているのか、ジェットが揺さぶってもすぐには起き上がらず、何度か声をかけてやっと目を開いた。

「うっ……あぁ…………」
「……どうやら、生きてはいるみたいだな」

 苦しそうに呻く少年の姿を確認し、ジェットは安堵した。
 ここで何があったのか、そこで死んでいる少年は誰なのか、どこまで把握しているかは知らないが、事情を聞くにしてもここでは場所が悪い。
 ジェットが少年を抱えて映画館に戻ろうとした―そのときだった。

438:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:55:22 29nYnTNE


439:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:55:41 gQBxTF1K
           

440:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:55:44 k1j242kf


441:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:56:21 29nYnTNE


442:阿修羅姫(後編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:57:00 u8HW3Rwm
「嫌ァァァァァッ! キャィヤァロロロオオオオオォォォォォッ―!」

 眼前に広がる惨状を目撃して、絶叫するティアナの姿があった。
 ようやく取り戻したかと思った整然さは表情からして崩壊し、涙と涎を垂らしながら頭を掻き毟っていた。
 落ち着いたなんてとんでもない。さっきの十倍は取り乱し、感情を暴発させている。
 このままでは、何をやらかすか分かったもんじゃない。ジェットはティアナを鎮めるため歩み寄ろうとするが、

「……ゥッ! 近寄るなァァァ!」

 容姿端麗な外見からは想像もできないほどの声量で威嚇され、ジェットは思わずたじろいでしまう。
 少年のほうもティアナの咆哮に驚いたのか、完全に覚醒しジェットの脚に縋りついていた。

「アンタが……アンタが、キャロを! よくも、よくもよくもよくも……アンタもグルだったの?
 そうなんでしょ? 二人で私を嵌めようとして……その上、キャロの……キャロの身体をこんなにしてぇぇぇ……」

 泣きじゃくりながら、ティアナはジェットと少年の二人を拒絶した。
 彼女がなぜ再び発狂しているのか、ジェットには考えつかない。
『アンタ』というのが自分と少年のことを指しているのだとしても、いったい何がきっかけでこうなったのか。
 異常患者の思考などジェットには理解しえない範疇だが、可能性があるとするならば、この惨事に散ったあの少年か。
 いや、ティアナが主張するキャロという名前は、どう考えても女の子の名前だ。だとすれば、彼女の発狂の理由は一つしかない。
 血塗れの少年ではなく、ティアナの足元に転がっている……少女らしき人物の、バラバラ遺体。
 おそらくはジェットをここに呼び寄せた根底たる爆発の最大の被害者なのだろうが、その有様は見るも無残で、原型を留めていない。
 なのに、何故ティアナはそのバラバラの遺体を、キャロという名の知人だと断定できたのか。
 もしくは、落ち着きかけていた錯乱状態が再発し、この被害を誇大解釈しているだけなのかもしれない。

「落ち着け、そこに転がっているのは、お前さんの言うキャロって子じゃ―」

 ジェットが負けずに弁解を試みるが、

「嘘だッッッ!」

 すぐさまティアナの怒号に打ち消され、後ずさる。
 決してジェットが臆病者なわけではない。そうさせるだけの意外な迫力が、今のティアナにあっただけの話だ。

「キャロはキャロよ! 私が……ううん、違う、アンタが殺したんだ! その銃で!
 そうよ、私は騙されていた……けど、ようやく気づけた! アンタが、アンタがキャロを!
 キャロをおおおおおぉぉぉぉぉ――うぷっ、げ…………ぇぇぇぇぇ」

 心臓がはち切れんばかりの勢いで喋っていたせいか、肉片に気持ち悪くなったのか、ティアナは堪えきれずその場に嘔吐した。
 滝のように流れる胃液を全て吐き出すと、余韻に浸ることなく口元を拭う。そして、間髪入れずに再起した。
 ジェットをキッと睨みつけ、脱兎のごとく逃げ出した。
 去り際の言葉は何もない。ただ、その女の子のものとは思えぬ形相は、この世の怨念を一身に受け止めた、阿修羅の化身のようだった。

「クソッ、何考えてやがんだあの女……ッ!」

 ジェットはすぐに後を追おうとするが、踏み出そうとした脚は、まだ名も知らぬ少年にひっしと抱き止められていた。
 ティアナの覇気にやられたのか、小動物のように竦み上がり、振り払うのも不憫な様子に見える。
 別に子供愛護団体に所属したつもりはないが、彼を無碍にしてティアナを追うというのも、それはそれで胸にしこりが残る。
 それに、少年からはこの場で起こった一部始終を聞きだす必要もあった。
 二兎を追える状況ではない。ジェットは決断し、ままならない歯がゆさを舌打ちに変えて、遠ざかっていくティアナの背中を見送った。

 すぐ後ろで妖艶な微笑を浮かべる、チェスの腹の底も知らずに。


 ◇ ◇ ◇



443:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:57:05 tz09pVL5
 

444:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:57:35 gQBxTF1K
 

445:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:58:03 f8SFo9OZ
 

446:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:58:11 tz09pVL5
 

447:阿修羅姫(後編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:58:18 u8HW3Rwm
 視界に入ったのは、数多の肉片。
 黒焦げに変わり果てたもの、辛うじて肌色を保っているもの、血の赤に染まったもの、大小様々な、人のバラ肉。
 確証を得たわけではない。あれがキャロである証拠など、何もないのだ。
 それでも。


 ティアナは思った。
 あれはやっぱり―キャロだった、と。


 なぜなら、キャロの死体は確かにあそこに放置されたままであり、あの場所は、確かにキャロが息を引き取った場所だったから。

(やっぱり私のせい? 私があのとき逃げ出さず、あの男を早急に確保しておけば……キャロはああはならなかった!?)

 動悸の激しい胸元を押さえながら、ティアナは懸命に走った。
 あの場から逃げ出したくて、あの場にいる変わり果てたキャロと向き合うのが怖くて、たまらず逃げ出した。
 ティアナが錯乱していた最中、爆発音が鳴り響いたと、あの男はいった。
 キャロは、おそらくそのときに身体を破壊されたんだ。そうに違いない。
 ティアナは心中で断言し、そして改めて、あの二人組に憤怒の炎を燃やした。

(私がキャロを殺したと思い込ませて……私を利用しようとしたんだ! なんて卑劣な……許せない、絶対に、絶対に許すもんか!)

 遠方からキャロを狙撃し、勘違いをきっかけにティアナを錯乱状態に追い込む。知人を目の前で射殺されて、精神が揺るがない人間などいない。
 そこからティアナと接触し、保護という形で銃を強奪。残弾を確認させないための意味もあったのだろう。
 そして先ほどのような形でキャロのバラバラ死体を見せつけ、ティアナの精神をさらに壊し、あわよくば懐柔。
 あのジェットという男と、爆発の最中にいたはずなのに、無傷にも見えた少年。二人でティアナを嵌めようとしたに違いない。

(あいつらの思い通りになんてなってたまるか……ッ! 私は騙されない。誰にも、誰にだって、私を謀らせたりは―)

 ふと、ティアナは怒りの表情を収めると同時に足も止めた。
 胸中に宿ったある不安を反芻して、顔の血色を青白く染め変えていく。

(……あいつらの仲間が、他にもいるとしたら? ううん、仲間じゃないにしても……あいつらと同じような奴等が、スバルや、エリオや、八神隊長を……キャロみたいに……)

 ―殺し合い。
 自然と、脳裏に今回の趣旨である単語が浮かび上がってくる。
 誰かが誰かを殺し、最後の一人になるまで続ける。それが殺し合いだ。
 様々な謀略を巡らし、暴力を持って他者を制するのが当たり前の環境。
 そんな状況下で、スバルやエリオやはやてが、ティアナと同じように騙されたら。キャロと同じように……殺されたら。

(ダメ! 絶対……! そうなる前に、敵は片っ端から確保して……ううん、それでもダメ!
 確保なんかじゃ生温い。やらなきゃやられる……キャロみたいに、キャロみたいに殺されちゃう!
 そうよ、あの男だって善人ぶって私を謀ろうとした。敵なんだ、ここにいる奴等はみんな、殺し合いに乗った敵……敵、敵、敵、敵!)

 必死の形相で前を見つめなおすと、ティアナは再び走り出した。
 ここに、六課が保護するに値するような民間人はいない。殺し合いという言葉に踊らされ、仲間を傷つける愚か者ばかりだ。
 ティアナは、先ほどそれを思い知らされた。知るのが遅すぎたために、キャロを死なせ、供養しなければならなかった遺体をも破壊された。
 既に手遅れになる一歩手前なのだ。このまま決断を遅らせていては、いずれはスバルたちも殺されてしまう。

448:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:58:44 29nYnTNE


449:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:58:45 k1j242kf


450:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 22:59:54 tz09pVL5
 

451:阿修羅姫(後編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 22:59:56 u8HW3Rwm
(そんなの、私が絶対に許さない! 殺す……殺す、殺す、殺す! これは殺し合いなんだ!)

 そしてティアナは心を閉ざし―聞く耳を失った。
 行動方針を、見敵必殺へシフト。仲間を傷つける輩を、事前に排除する。
 ここはミッドチルダではない。上司が見守ってくれている仕事場でもない。
 本当の意味での、戦場なんだ―ティアナは、やっと『殺し合い』の意味を理解して、狂った。


 ◇ ◇ ◇


 牧師が撒いた種は、大いなる少年を殺し、悲運な少女を狂わせ、不死の小悪魔を呼び、男に災厄を与え、また少女の精神を壊した。
 この醜悪な連鎖こそが、この世界の美学であり、日常であると言えた。
 殺め合い、求め合い、胸深く、哀しみの剣を突き刺して―また、誰かが狂う。



【C-5・北部/一日目/早朝】
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:やや不機嫌
[装備]:ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾4/6)@トライガン
[道具]:支給品一式
[思考]
基本思考:ゲームに乗る
1:自分の手でゲームを終わらせる。進路は北。
2:女子供にも容赦はしない。迷いもない。
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。
※ウルフウッドの最後の不明支給品は、手榴弾@現実でした。


【C-5・南東部/一日目/早朝】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:精神崩壊、全身各所に擦り傷、全身が血塗れ
[装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:シモンを手伝う
1:大切なものを奪う側に回る(=皆殺し)。進路は南東。
2:もう二度と、大切なものは作らない。
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※クラールヴィントの正体に気づいておらず、ただの指輪だと思っています。HIMEの能力と魔力に近い物があるかどうかは不明。
※参戦時期の影響で、静留がHIMEである事は知りませんでしたが、ゲームに呼ばれている事から「もしかしたら…」と思っています。
※シモンが別の世界からやって来たのではないかと考えていますが、荒唐無稽な考えだとも思っています。
※帽子の少年(チェス)を殺したものと思っています。
※ポスティーノのバイク@王ドロボウJINGは、ウルフウッドの手榴弾によって破壊されました。


452:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 23:00:23 k1j242kf


453:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 23:01:30 tz09pVL5
 

454:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 23:01:31 29nYnTNE


455:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 23:01:32 f8SFo9OZ
 

456:阿修羅姫(後編) ◆LXe12sNRSs
07/10/12 23:01:40 u8HW3Rwm
【C-5・映画館近くの路地裏/一日目/早朝】
【チェスワフ・メイエル@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、アゾット剣@Fate/stay night、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
[思考]
1:ジェットを利用できるかどうか見定める。
2:ゲームに役立ちそうな人間と接触する。
3:アイザック、ミリア、ジャグジーに警戒。
4:自分以外に不死者が存在するなら、喰われないよう警戒する。
5:舞衣が向かった先(映画館南東部)には行きたくない。
[備考]
※なつきにはドモン・カッシュと名乗っています。
※不死者に対する制限(致命傷を負ったら絶命する)には気付いていません。
※チェスが目撃したのはシモンの死に泣く舞衣のみ。ウルフウッドの姿は確認していません。

【ジェット・ブラック@カウボーイビバップ】
[状態]:健康
[装備]:コルトガバメント(残弾6発)
[道具]:支給品一式(ランダムアイテム0~1つ 本人確認済み)
    テッカマンブレードのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
    アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION
[思考] 基本: 情報を集め、この場から脱出する
1:ティアナを追いたいが、ひとまずはチェスから事情を聞く。
2:種々の情報を得るため、図書館or博物館or警察署に向かいたい。
3:スパイクとエドが心配。
4:初対面の人間には用心する。
[備考]
※テッカマンのことをパワードスーツだと思い込んでいます。
※ティアナについては、名前を聞き出したのみ。その他プロフィールについては知りません。


【C-5・南西部/一日目/早朝】
【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:精神崩壊、血塗れ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
1:スバル、エリオ、はやてが危険に晒される前に他の参加者を皆殺しにする。進路は南西。
2:映画館近辺には戻りたくない。が、あの二人(ジェットとチェス)はいつか殺す。
[備考]
※キャロ殺害の真犯人はジェット、帽子の少年(チェス)はグル、と思い込んでいます。
 これはキャロのバラバラ遺体を見たショックにより齎された突発的な発想であり、この結果に結びつけることで、辛うじて自己を保っています。
 この事実が否定されたとき、さらなる精神崩壊を引き起こす恐れがあります。
※銃器に対するトラウマはまだ若干残っていますが、相手に対する殺意が強ければなんとか握れるものと思われます。



【シモン@天元突破グレンラガン 死亡】
【残り73人】

※シモンの死体と荷物(フィーロのナイフ@BACCANO バッカーノ!、マタタビ@サイボーグクロちゃん(?)、支給品一式、ランダム支給品0~1個(本人確認済み・武器以外ないし、シモンの理解できない物))は、その場に放置。
※キャロの死体は木っ端微塵に砕け散りました。原型を留めていないため、判別は不可能です。

457:名無しさん@お腹いっぱい。
07/10/12 23:02:23 k1j242kf



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