07/10/09 03:15:34 MPx9w3Ou
いきなりだった。
汝を殺害するという思考が言葉を介さず炎となったかのように、草を松明の如く燃え上がらせる。
いや、違う。エリオは両手で握る偽・螺旋剣の柄に汗を滲ませながら思う。
―もし避けていなかったら、松明になっていたのは、僕らだ。
ぞくり、とする。もし、なのはさんの教導を受けていなかったら、体が動かず、自分は炎に包まれていただろう。
そう、そこらで燃え盛る草のように。
炎の先を見やる。白みかかっているとはいえ、未だ闇色の世界。それを引き裂く赤い光の中、それとは対照的な男が佇んでいた。
蒼い軍服。短い黒髪に、右手に拳銃、左手にランタンを握っていた。
炎……シグナム副隊長と似た能力かな。
ならば、あの銃はデバイスか、それに値する何か……と思考を巡らせるエリオの前を、ランサーが遮るように立つ。
対峙する、蒼と蒼。だが、けして混ざり合わぬと宣言するかのように、ランサーは短剣を突きつけた。
「よう。問答無用たぁ、穏やかじゃねぇな」
「無論だ。こちらも、穏やかに済ますつもりなど、微塵もない」
それは、今から貴様らを殺すという宣言。非殺傷設定という『殺さない事が当たり前の戦場』に身を置いていたエリオにとって、初めての殺意。
その響きに、一瞬だけ縮こまった心臓に活を入れる。
―覚悟は、とうに決めたはずだ。
「そぉかい。そんじゃあ―こちらも往かせてもらうぜぇ!」
瞬間、ランサーの体躯がバネのように縮み―跳ねた。
地面スレスレを這うような、肉食獣に近い疾走。両の瞳を剣呑に煌かせた彼は、右の手で握り締めた刃を神速で薙いだ。
速い。そして、鋭い。まるでカマイタチだ。
しかし、神速といえども、距離を詰めるには数瞬という時間が必要だ。
もっとも、彼の得物が槍であったのなら、その程度のタイムラグを物ともせずに、男の心臓を刺し貫いた事だろう。
だが、ランサーが右手に持つのは、その名を冠す槍では断じてなく、宝具と比べれば貧相とも言えるハンティングナイフ。
そして、身体能力の制限。それらが、間合いを詰める時間を一秒近く引き延ばす。
たかが一秒。されど一秒。戦いという刹那の命のせめぎ合いにおいて、それは永劫とも言える隙である。
そして軍服の男―ロイはその隙を無駄にする愚か者ではなかった。