07/10/01 00:25:12 caYSZWiB
■
ヒィッツカラルドはそれを詰まらなさそうに眺めていた。
所詮は死にかけ、しかも馬鹿正直に一直線に向かってくる。
指を一度鳴らしただけで、また地面に這いずるだろう。
―少々興ざめかな?
そんなことを思いながら空いている方の指を鳴らそうとした時、ゆたかを吊り上げた腕に何かが刺さった。
ゆたかは無我夢中だった。
Dボゥイが生きていた、それは嬉しい。
けれどこの危険な男は、またDボゥイを傷つけようとしている。
―なんとか、なんとかしなくちゃ。
必死に考え、とっさに身近なものでヒィッツカラルドの腕を突き刺したのだ。
後のことを考える余裕は、ゆたかにはなかった。
「Dボゥイさん!」 どんな意味で叫んだかは、ゆたか本人にも分からなかった。
生きてほしかった。生きたかった。
みんなで帰りたかった。
その思いは、螺旋力となってヒィッツカラルドを貫いた。
250:ただ撃ち貫くのみ
07/10/01 00:26:17 caYSZWiB
■
ヒィッツカラルドは自身に起きたことが信じられなかった。
―なんだ!これは!
ヒィッツカラルドの二の腕、コアドリルが突き刺さった場所に風穴が空いていた。
手に力が入らず、ゆたかが開放される。
「きゃっ!」
ゆたかはろくに着地もできず尻餅をつき、自らの行為に呆然とする。
ただのアクセサリーだと思っていたものが、まったくの別物だとやっと気がついたのだ。
「貴様ぁ!」
ヒィッツカラルドは激昂した。油断した自分が悪いのだが、愉快な気分に一気に水をさされたのだ。
この責任を取ってもらおうと、無事な方の手で指を鳴らそうと構えた。
そして、Dボゥイの握るM500ハンターがヒィッツカラルドの額に押し付けられた。
「零距離、とったぞ」
火薬の音が響く。 銃弾はヒィッツカラルドの骨を砕き、肉を抉り、脳を滅茶苦茶に掻き回した。
―馬鹿な、十傑集の私がこんなところで!
その答えは、簡単だった。 素晴らしきヒィッツカラルドは単に遊びすぎたのだ。
251:ただ撃ち貫くのみ
07/10/01 00:26:18 fx28daaU
■
Dボゥイは銃弾を受け倒れたヒィッツカラルドに重なるようにぶっ倒れた。
カマイタチの傷跡は相変わらず血を流しており、しかも短い距離とはいえ全力疾走をしたのだから当然といえる。
「Dボゥイさん!」
頭に血が回らなくて、誰の声か分からなかった。
ただ、今度こそ守れたような気がした。
そこまで考えて、Dボゥイの意識は闇に沈んだ。
「Dボゥイさん!Dボゥイさん!」
人を傷つけたことも、人が死んだこともゆたかにはショックだった。
でも今は全て後回しだ。逃避かもしれないが、今はDボゥイのことが心配だった。
そして、何回目になるか分からない衝撃を受けることになった。
「え、傷が・・・・・・」
Dボゥイの傷は、ゆっくりとだが回復していたのだ。
もっとも血が止まっただけで、傷はなまなましく残っていたのだが。
―Dボゥイさんって何者なんだろう?
目が覚めたら、もっと話し合おう。
私のこととか、私の友達のこととか、学校のこととか話してみよう。
それから、あらためてお願いしてみよう。
一緒に帰ろう、て。
そこまで考えて、小早川ゆたかの意識は闇に沈んだ。
安心した瞬間に気が抜けたのだ。
普段のゆたかでは考えられないほど動き回ったのだ。その反動だろうか。
ゆたかはゆっくりと仰向けになって寝転んだ。
■
死に絶えたヒィッツカラルドの内ポケットの中で、月の石のかけらは徐々にその光を失っていた。
Dボゥイを回復させたのは、月の石のかけらの効果だった。
ヒィッツカラルドの倒れ込んだDボゥイが偶然にも光を浴びた、それだけだった。
月の石のかけらはついにその光を失い、ただの石に戻った。
墓石にしては、その石はあまりに小さかった。