07/09/30 00:09:35 naRYdLxQ
「カレンさん」 糸色はカレンへ向き直り、姿勢を正す。
「なんでしょう」 カレンもまた、フェンスから手を離して糸色を見遣った。
「ゼロという方について、もう一度確認しておきたいのですが」 「……構いませんが」
カレンはあからさまに怪訝な表情を見せる。しかし構うことなく、軽く一呼吸を置いて糸色は続けた。
「ゼロは貴女たち黒の騎士団を率いるリーダー、でしたね」
「さっき言ったばかりじゃないですか」
「つまり、ゼロとは智略に長け」
「はい」
「行動力に満ち溢れ」
「ええ」
「カリスマ性を兼ね備えた」
「そう思います」
「すばらしく前向きな人物なのですね」
「それはまぁ、反国家組織を立ち上げるほどですから」
真顔で答えるカレン。それを見て、糸色は微笑を浮かべる。
「ではこれから、私がゼロでないことを身をもって証明しましょう。一度しかできませんので、よく見ていてください」
「……は?」
言うが早いか、糸色はフェンスへ手を掛けると、慣れた手つきで一気によじ登った。
大人四人分ほどの高さはあろうかというフェンス。その頂に片脚を乗せ、半身を捻ってカレンを見下ろす。
「ゼロ、何をしてるんですか!?」
「下を見てください」
糸色の指差す先には、川が流れている。
特に濁ってもいなければ、澄んでいるともいえず。流れは激しくもなく、緩やかというわけでもない。
なんのことはない、ごくごく普通の川である。
「下って……まさか」
問題は、その位置関係。彼らの居る場所はかなりの高地であり、フェンスの向こうは切り立った崖になっている。
糸色の指した川は、その姿がかすかに滲んで見えるほど、遥か下方に存在していたのである。
「こんな手段でしか自分がゼロでないことを証明できなくてすみません……でも、私にできることはこれしかないのです」
「な、なにを言ってるんです!?」
「おっと、遺言を忘れるところでした。いいですか。このゲームで生き延びたければ、
・脇役な流れなのにいきなり出しゃばったり、
・別れ際に再会を誓ったり、
・『生きて帰ったら結婚するんだ』と婚約をカミングアウトしたりしては、絶対にいけませんよ……!」
「えっ、いや、意味がわかりませんが!」
「では、お元気で……」
「冗談でしょう、ゼロ! ゼロっ!!」
「さよなら」
糸色の足が、フェンスの頂を後ろへ向かって軽く蹴る。
全身が重力の赴くままゆっくりと傾き、水平になり、やがて頭からスムーズに落下を始める。
「あ……ああっ…………!!」