07/02/17 20:41:10 syosoN8Z
// V }
{ {rヘ,. -ー‐}/‐- ._
/ヽ `ヽノ ヽ`ヽ、
/ / ヽ \ \ i |、ヽ ローゼンメイデン第2ドール金糸雀が、
/ ///\、 \ \ l | ヽ ヽ 楽して、ズルして>>2ゲットかしら♪_
,' /// \、 \ n」^Y7ァ、ハ / }
l./// \\ 」 f⌒<_心rトヘT7┐ _ ,. '´ /
!_彡 u ヽ、 \辷{ _,>ェ<´_ ̄}_〈 / }‐-、,. '´ /
,∟イ >;==、、 く.〈_ {仁ト廻ノ}コ} {_」 _ノY ノ<⌒ヽ <
{./!. {〈 ;::::::}.! ,.二幺L ̄l7< ̄r<ノ ,.イノ レ \ 、 V ノ、
_,./イ | ゝ-'′ /::::ヽVL>《、__,》┘´ /, 〉 | } }.ゝ┘ノ ,ノ
rく |/、 ゝ! /// ' 廴':ノ } /!| 》 《r<}//-‐L_ 「 く {二 ‐ ノ
<ヽ\>''´ 、 「 ̄ 7 /// .イ._||_rへハ〈 =辷. ト、_,.しイ 〉
匸`ヽ∨_,.へ、\ ヽ ノ /ヲ|! リ // 〉〉 〉 K 人 〈 | )
(( >'´ ̄ r===、ー- _,. ィ.三ニ{_ ∨ // V/ ヽ ) __ ノノ {
/ / ||__/__,>ェェ====、-∠( /| |二 ー∨ ヘ ∨ Y V
rへ、{_ /  ̄{ / 8 ||\ | ||二Z /| |_>、__ ヽ、└く_/_ ノ_ノ
二ヽ、__>-; 、二} /! /‐- 、__||_\!_」|ニて_ノ-‐⌒ヽ!  ̄ ̄ \__ァ‐'⌒ ̄
>>1スレ立てご苦労様かしら~♪
>>3っちゃん、ほっぺがまさちゅーせっちゅぅ!!!
>>4様ステキ?かしら~♪
雛いち>>5は、ガキンチョかしら~♪
ジュンは昼間からゴロゴ>>6してるかしら~♪
>>7-ジャは在庫ちゃんかしら~♪
翠星石は>>8ったりかましてるかしら~♪
真>>9はオバカさんかしら~♪
水銀>>10はジャンクかしら~♪
>11-1000は、卵焼きちょうだいかしら~♪
3: ◆qrN8aillXg
07/02/17 23:47:18 FIPY0Fa7
山本少年が病院を出ると、澄み渡った秋晴れの空と、不吉な黒尽くめの青年が待っていた。白崎である。
路肩に停めた白いワンボックスにもたれ掛かっていた葬儀屋は、あの人なつっこい笑顔で片手を上げた。
「今から学校ですか」
「え、あ、いや、今日は……」
「では、良ければ、お茶でもご一緒しませんか」
白崎は、曖昧な態度を取る山本を半ば強引に助手席に乗せて、昼前の疎らな国道を走り出した。
「いやあ、先程は申し訳ありません。驚かせちゃいましたか」
あはは、と軽い笑い声を上げる葬儀屋に、両手をギプスで固めた不幸な学生はささやかな反撃を試みた。
「いえ。でも、いいんですか、待合室なんかに出入りして。失礼ですが、俺、白崎さんのこと、
少なくとも病院ではお見かけした記憶がないんですけど、もしかして……」
途中で窄まってしまったが、言わんとしていることは伝わった。若い葬儀屋は、ニッと白い歯を見せて笑った。
「正解。実は僕、もぐりなんです。君は、あの病院でボランティアをされて長いそうですね。感心感心」
葬儀業自体には監督官庁が存在せず、運送業務や割賦販売などを除き役所の許認可を必要としないが、
病院の敷地内で営業を行えるのは、当然、病院の信用を得た指定業者のみである。笑い事ではなかった。
「下手したら不法侵入じゃないですか」
「いやあ、自慢しちゃいますと、僕って危機回避力だけはあるんですよ。もうすぐ免許の更新なんですけど、
このままゴールド頂けそうな勢いで……って、ああ、車の免許証の話ですけどね」
市バスの後ろをゆるゆると付けながら、へらへらと嘯いていた。神に仕える少年は、それ以上追求しなかった。
「はあ。でしたら、また、どうしてあちらに」
「ええ、整形の梅岡先生に、先日運び込まれたマグロ、ではなくて、救急外来の方のことを覗おうと思いまして。
踏切事故だったとは存じ上げているのですが」
「それはお気の毒に。で、白崎さんが、その方のご葬儀を引き受けられようと?」
山本が仰々しく包帯巻きの右手で十字を切ったが、白崎の答えは意外なものだった。
「いえ、残念ながら、と言っては不謹慎ですけど、その患者さん、亡くなっておられないんですよ。
それどころか、病棟から抜け出してしまうほどお元気だそうで」
「え?」
「まあ、それはともかく、先程のお話の続きをよろしいですか。ローゼンメイデンのことです。
ご存じない方にこのお話をすると、僕、頭がおかしい人だと思われちゃいますから、一応お尋ねします。
山本君は、その患者さんとご一緒に礼拝堂に忍び込んで、ちょっと不思議な人形をご覧になりましたね」
白崎はハンドルを握ったまま、あの夜の出来事を見ていたかのように言った。山本は顔面蒼白だった。
「そこまで知ってて、なんでわざわざ……」
「いえね、そのお話に出てくるボランティアの方を、山田君というお名前で覗ってたもので。
僕なりに考えたところ、それ山本君の事ではないかなと思ったんですが、あ、やっぱり正解でした?」
あはは、と軽い笑い声を上げる謎の青年につられて、山本もまた、ぎこちなく笑った。
4: ◆qrN8aillXg
07/02/17 23:53:06 FIPY0Fa7
第4話 茶家 die Teekennerin
褐葉したマロニエのあるカフェテラスは、平日なのにサラリーマンの姿がなく、ほぼ女性客に占められていた。
男二人連れは苦笑いしつつ丸テーブルの席に着き、おもむろに会話を始めた。
「ローゼンメイデン、でしたっけ。何だか、ヘビメタバンドみたいな名前ですね」
「ですね。でも、このスカンジナビアのアンティークはもっと古いものです。その存在が世に知られたのは、
ヨーロッパでビスクドールが流行した19世紀以前。一説には、あのナポレオンに献上された品だとか」
「え。というと、日本で作られたものじゃないんですか?」
「その可能性もありますよ。作者の人形師ローゼンは、生没年、人種、経歴の一切が謎ですからね。
ローゼンは、無名工房の職人たちが用いた共同名とも、彼の存在自体が後世の創作とも言われています。
確かなのは、彼の一般作品が真作偽作を問わず、概ね北欧で発見されているということです」
白崎の滑舌の良さに、山本は途惑いを隠さなかった。なぜ葬儀屋がそんな話をするのか。
「何というか、お詳しいですね」
「いやあ、全部ネットで仕入れた情報です。山本君も、お怪我が良くなったらぜひご覧になってみてください」
会話が一段落付いたのを見計らったように、ギャルソンが「Bonjour. いらっしゃいませ」と注文を伺いに来た。
白崎はエスプレッソを、手の使えない山本はやや迷ってアイスティーを注文した。
「Tres bien, merci. ごゆっくり、どうぞ」
どうやら、青い目の彼はフランス人らしい。女性客が集まるわけである。
山本はそのギャルソンが離れるのを待ってから、再び口を開いた。
「あっ、どうしてアレが国産かと思ったかというと、日本語だったんです。その、つまり……」
「人形が、日本語を話していたと」
白崎は事も無げに、非現実的なことを言った。「驚かないんですか」と尋ねた山本の方が余程驚いていた。
「だって、いまの店員さんも、それに君の所の神父様も、日本語がお上手ではありませんか」
「そうじゃなくて、喋る事自体にですよ。大きな声じゃ言えませんけど、絶対悪魔か何かが憑いてますよ」
「では、日本人の霊かも知れませんねぇ。良ければ、どんなお話をされたのか、教えていただけませんか」
「はあ。ええと、何というか、おバカさん、って言われました」
山本が告白すると、白崎は手で口を覆って失笑した。ひとしきり笑って、カニ目の眼鏡を押し上げた。
「……いやあ、ごめんごめん。ありがとうございました」
「どうも。というか、外国で普通に出回ってるローゼンメイデンは、当然喋ったりしないんですよね」
「もちろん、世に知られるローゼン作品は、どんなに精巧な自動人形といえども、口を聞いたりしません。
中には内部にふいごが組み込まれていて、パパやらママやら、簡単な音声を発するものもありますが……、
伝説のローゼンメイデンシリーズは、それらとは別格のものです」
山本は、ギプスで固めた両腕を組もうとする動作をして、結局、諦めた。
「シリーズ、ですか」
5: ◆qrN8aillXg
07/02/17 23:56:50 FIPY0Fa7
山本が俯き加減に考え込んでいると、「お待たせ」と若くない女が近づいてきた。白崎がさっと立ち上がった。
「いやあ、佐原さん、せっかくのお休みのところ、まことに申し訳ございません。さ、ささ、どうぞこちらへ」
と、ぺこぺこ頭を下げて、女のために白木の椅子を引いた。このカフェは待ち合わせ場所だったようだ。
女は四十がらみのしっかりとした容貌と体型に、よそ行きっぽいメイクとベージュのスーツを纏っていた。
「いいのよ、白崎君の為だもの。あら、この子が山田君? まあまあ、大丈夫? 痛くなあい?」
山本はすっかり面食らった様子で、「はあ」やら「どうも」としか返さなかった。
「やっぱりお二人とも、ご面識がおありでないのかな。えー、山本君、こちらは佐原さんと仰いまして、
有栖川の循内の師長であられる、僕の白衣の天使様です」
「もう、やあねえ、白崎君ったら」
とにかく、佐原の職業は看護師とのことだった。葬儀屋と看護師との関係と言えば、相場は決まっていた。
腰を落ち着けた佐原は「Bonjour, monsieur!」などと、常連っぽくギャルソンを呼んでコーヒーを注文した。
その後は飲み物を楽しみながら、専ら佐原が、スペイン語教室に通い始めたが時間がないだの、
海外旅行をしたいがやはり時間がないだのと愚痴を溢し、白崎が相づちを打つばかりだった。
ビジネスの話に入ったのは、カフェを後にして、堂々と路駐してあった白崎の車に収まってからだった。
山本は助手席を遠慮して、ストレッチャーや仏式の小さな祭壇などと一緒に後部座席に埋もれた。
「柴崎のおばあちゃん、そろそろよ」
「ああ、でも、あの方、お子様がいらっしゃらないのではありませんか」
「最新情報があるのよ。これ口止めされてるんだけど、あのご主人、薔薇屋敷の執事をなさってるとか」
「ほう、薔薇屋敷とは、あの結菱の薔薇屋敷でございますか」
「そうなのよー。ひょっとしたら、大物が釣れるかも知れないわよ?」
なるほど、他愛ないオカルト話と違って、とても人前でできる相談ではなかった。しかし、山本は黙っていた。
ほくそ笑んでアクセルを踏む葬儀屋が、懺悔のために神父の養子を同乗させたとは考え難かった。
「ありがとうございます。これは、いつもより一段とお返しさせて戴かないといけませんねえ」
「そんなのいいのよ、白崎君ったら。あ、そうそう、今日は電車に轢かれかけた男の子のことだったわね。
可愛いって評判で、覚えてるスタッフが多くって、いろいろ聞けたわよ。お姉さんや彼女まで美少女だとか」
と、次に佐原は、ある少年の個人情報を暴露した。もちろん桜田ジュンのことだ。いよいよ本題だった。
「いやあ、わざわざ申し訳ございません。しかしまた、中学生のくせに彼女とは生意気ですね。ね、山本君?」
「えっ? あ、まあ。彼女がお見舞いに来てたんですか。気がつかなかっ……」
山本は言葉を途切れさせ、首を捻った。「お姉さん」は桜田のりに違いないが、「彼女」とは一体何者なのか。
「おや、何かお気づきですか」
「俺、その日、お姉さんには会ったんですけど。あの、佐原さん。その彼女のこと他に何か」
「そうねえ。その子、救急の付き添いで来たみたいで、名前も連絡先も残ってたけど、どうして?」
抜かりなく調査済みだった。佐原はハンドバッグからメモ帳を出し、あるページを後部座席の山本に示した。
そこには住所、電話番号とともに、"草笛みつ"という姓名があり─山本はもう一つ首を捻った。
6: ◆qrN8aillXg
07/02/18 00:00:37 pfCOOWPm
「どうも、すみません。俺が知ってる子かと思ったんですけど、勘違いだったみたいです」
「そう? 向こうの詰め所で聞いた名前は他に、シスターの柿崎さんと山……山本君ね、アナタだけだったわよ。
そこが不審というか、気がかりな点なのだけど、何でも、まだ親御さんと連絡が取れてないんですって」
佐原はゴシップを楽しんでいた様子だが、山本は眉をハの字にして、喉から暗い声を押し出した。
「俺は海外出張中って聞いてますけど、電話ぐらいは通じてるかと」
「そんなところよねえ、実際は。ちょっと、話に尾ヒレが付いてる感がなきにしもあらずかしら。
あとは、そう、これ噂なんだけど、他院でナルコの治療歴があったみたいなのよ」
「すみません、ナルコ、っていうのは?」
「睡眠障害、分かりやすく言うと居眠り病かしら。神内かプシ行きだから、あたしは世話したことないけどねえ」
病院の待合室で居眠りをしていた山本は、ルームミラーの白崎と目が合って、深刻そうに溜め息をついた。
結局、それらの情報で白崎が目を付けたのは、最初に挙がったジュンの彼女こと、草笛みつだった。
「もう一度、彼女さんのご住所を拝見させて戴けますか。家出少年の潜伏先なんて、大概知れてますからね」
「白崎君も、探偵みたいな仕事までして大変ねえ。早く緑ナンバー取って、ウチの指定にならなきゃね」
「勿体ないお言葉でございます。今後ともご贔屓にお願い致しますよ?」
あはは、と軽い笑い声を上げる葬儀屋の目は、全く笑っていなかった。
善は急げとでもいうつもりか、白崎が車を走らせた先は草笛みつが住むとされるマンションだった。
時刻は正午をいくらか過ぎており、市街地は昼食を求める歩行者で賑わい始めていた。
「電車の音が聞こえますね。最寄り駅まで徒歩3分と言ったところですか」
白崎は徐行しながら窓を開け、通りに面したレンガ張り5階建ての住居を、値踏みするように見上げた。
「おや、ご覧下さい。何やら、見覚えのある方がいらっしゃいますよ」
地上に視線を戻した白崎が、同乗者たちの注意を促した。草笛みつのマンションの前で、
黒衣のシスターが、エントランスの内側を覗き込んでいたのだ。両手で、大きな四角い鞄を提げて。
「うわ、どう見ても柿崎さんですね」
白崎は彼女と示し合わせていたわけあるまいが、理由を考えれば特別に数奇な遭遇ではなかった。
佐原は分かりやすく、口を噤んだままだった。白崎は車を路肩に寄せ、歩道の柿崎に白々しく声を掛けた。
「こんにちはー。柿崎さん、こちらにお住まいだったんですかー」
「はい、入り口の暗証番号忘れちゃって……。あ、白崎さん、こんにちは」
挨拶よりも先に言い訳が返ってきた。やはりオートロックに阻まれて立ち往生していたのか。
車の窓から顔を覗かせる白崎は、柿崎の持つ革張りの鞄に、ちらちらと目が行っていた。
「水くさいなあ。桜田君をお探しなら、僕もご一緒させてくださいよ」
「そんなこと言って、白崎さんはお人形が目当てなんでしょ。あげないけど。あ、山田君、生きてたんだ」
柿崎は車に近寄って中を覗き込み、葬儀道具などと一緒に詰め込まれている山本を発見した。
尼僧から、まるで死んでいたかのように思われていた少年は、がっくり肩を落とした。
「生きてたって……、夢じゃなかったんですか、あれ」
7: ◆qrN8aillXg
07/02/18 00:04:28 pfCOOWPm
柿崎は、気まずそうに目を背けている佐原には敢えて触れず、白崎の耳元に顔を寄せた。
「わざわざ山田君なんか連れ回してるってコトは、まだジュン君の顔も知らないのね」
「いやあ、これが学校もご家族もガードが堅くて。君も、草笛さんとやらのお顔まではご存じありませんよね」
「うん、ここで待ってても埒が明かないかも。電話かけてくれる?」
白崎は応じて、携帯電話機を胸ポケットから出し、草笛みつ宅へダイヤルして、それを柿崎に手渡した。
何やらこの二人、互いに気心が知れ合っている様子だった。柿崎は電話機を頬に当て、演技を始めた。
「もしもし、草笛さんのお宅ですか。私、お宅様と同じ名字の草笛と申します……、ええ、私も草笛なんです。
突然ごめんくださいませ、お宅様のお荷物が拙宅に届いてましたので、お返しに上がったのですが……。
ええ、草笛みつさん……。いえ、これも神様のお導きです。……あ、はい、いま下におります」
虚言を弄し終えた尼僧は、呆れ顔の葬儀屋に「貴方に神のお恵みを」と謝辞を添えて、電話機を返却した。
「どう致しまして。ただ、その方法だと、入り込めても柿崎さんおひとりではありませんか」
「じゃ、看護師さんとデートでも楽しんできたら?」
要するに邪魔だと言いたいらしい。つれなくあしらわれた白崎に、山本がおずおずと提案した。
「あの、俺、桜田さんの……ジュン君のお姉さんに聞きたいことがあるんですけど」
「仕方ありませんね。では、ここは柿崎さんにお任せしますか。どうせ、彼女さんご本人は今頃学校ですし」
妙に聞き分けのいい白崎に、柿崎は眉を顰めたが、結局口を開かず、走り去るワンボックスを見送った。
ややあって、エントランスから、眼鏡を掛けた女が現れた。「神様のお導き」が効いたのか、
女は一目で電話の主が分かったようだ。大きな鞄を持った尼僧に、引っ詰め髪の頭をもっさり下げた。
「草笛さんですね。わざわざ恐れ入りますー」
「いえ、草笛さん。神様に仕える者として当然のことです」
およそ二十代後半。紺のトレーナーにジーパン、裸足にサンダル履きと、妙齢の女性らしからぬ身なりだった。
女は、尼僧が持ってきた鞄をまじまじと見つめ、それから得心してぽんと両の掌を打ち合わせた。
「やっぱり、この鞄、ウチに間違って届いたのと同じメーカーっぽいです。ホント、凄い偶然ですね!」
「……メーカー?」
「えっと、多分同じところだと思います。飾りも大きさも見分けが……、あ、中は開けてませんから!」
尼僧の顔から笑みが失せたのを見て、女は慌てふためいた。柿崎は鋭い目付きで、女の手を見つめた。
彼女の指には、薔薇の指輪が─いや、嵌められていなかった。柿崎は口元を袖で覆って、ふっと息を漏らし、
それで堰を切ったかのように、大声を上げて笑い始めた。笑いが止まらないようで、女を唖然とさせた。
「あのう、そんなに……、というか、大丈夫ですか」
「ごめんなさい、平気よ。そう、本当に奇跡的ね。神様の思し召しのままに。アーメン」
尼僧の大げさな表現に、眼鏡の女は戸惑いと愛想笑いを返しておいて、踵を返そうとした。
「ええと、待ってて下さい。すぐ持ってきますから」
「そんな、往復させちゃ悪いわ。ね、みつさん。貴女のお荷物、お部屋までお持ちさせて下さらない?」
そんな押しつけがましい善意に対して、草笛みつは曖昧に頷き、拒否しなかった。
8: ◆qrN8aillXg
07/02/18 00:09:10 pfCOOWPm
さて、佐原看護師の情報によれば、草笛みつなる"美少女"が桜田少年の入院に付き添っていたそうだ。
情報の不足、見落とし、誤認、捏造、考え得る可能性は多々あるが、ひとつだけ確かなのは、
このそばかす面の女性が"美少女"に化ける見込みはほとんどないと言うことだった。
ただ、柿崎は、桜田少年や彼の事故、入院の経緯などについて、すぐさま聞き出そうとしなかった。
「ねえ、みつさん。実は貴女に謝らなきゃいけないことがあるの」
エレベーターの中で、尼僧がそんなことを言い出すと、草笛は不安そうに顔を強ばらせた。
「はい?」
「今朝、お荷物を見付けたとき、どなたの物か分からなかったから、中を見てしまったの。ごめんなさい」
尼僧の謝罪は以上だった。草笛は、別に災厄に見舞われたわけでもなかったので、ほっと胸をなで下ろした。
エレベーターを4階で降り、細くて暗い通路を先導しながら、尼僧の判断を支持した。
「あの、それ、シスターさん……草笛さんは悪くないと思いますよ。普通、そうしません?」
「私のことは、めぐ、って呼んで。ね、みつさん」
「それで、めぐさんは、中を見て私のだって分かったんですよね」
「ええ、貴女宛のメッセージカードが入ってたの。To Mitsu Kusabue, from Jun Sakurada with love」
柿崎は、また在りもしないものをでっち上げて、背後から草笛の様子を窺った。
「えっ、なんですかそれ。プレゼント?」
やはりというべきか、草笛は"Jun Sakurada"の名前に反応せず、気味悪がって口元を手で覆った。
自室の前まで戻り、ドアのノブに手を掛けたところで、もう一度尼僧に尋ねた。
「あのう、もしかしてその箱の中、人形が入ってませんでした?」
「金糸雀。いつものお願い」
瞬間、甲高いバイオリンの音色がコンクリートに反響し、草笛はノブを掴んだまま、目を見開いて硬直した。
尼僧の鞄の中に潜む人形に、弦楽器の魔力で体の自由を奪われたなどとは、夢にも思うまい。
ともかく、柿崎は勝手にドアを開けて、固まった草笛を中に押し込み、土足で部屋に上がり込んだ。
「ん……」
不法侵入者は、まず袖で顔の下半分を覆った。室内は暗く、換気が悪いのかカビっぽい臭いが充満していた。
ダイニング前の廊下に積まれたゴミ袋の上に鞄を放り出し、カーテンの閉め切られたリビングへと進んだ。
その中央には、まだ秋口なのに、堂々とこたつが鎮座していた。まあ、座卓として用いられているのだろう。
卓上には、雑誌、ティーカップ、除光液、ゲーム機、ドライヤー、カップ麺の容器─等々が所狭しと並んでいた。
「ちょっと! ゴミの上に捨てることはないんじゃないかしら!」
持参した人形の抗議は当然無視して、まずカーテンと窓を全開にした。改めて部屋を見渡すと、
足の踏み場がないという程ではないが、片付け下手な女の一人暮らしの様子が浮き彫りとなった。
部屋干ししてある洗濯物の種類と数からも、他に住人がいないことを推理できた。
「油断しちゃダメよ。貴女の姉妹が起きてるかもしれないのに」
「ううっ、この薔薇乙女一の知能犯が、押し込み強盗に成り下がるなんて」
9: ◆qrN8aillXg
07/02/18 00:12:36 pfCOOWPm
金糸雀が手近にこたつ布団をまくり上げ、人工精霊の光で照らすと、それはあっさり見つかった。
「やったわ、ピチカート!」
草笛が言ったとおり、飾りも大きさも、金糸雀のものと見分けがつかない革張りの鞄である。
ちなみに、こたつの下は丸まった靴下やら何やらの収納スペースと化していたが、詳しく触れないでおく。
「んーっ、この重さ、まだ中で寝てるのかしらぁ!」
「お手柄よ、カナ。ご褒美に、そこのカップラーメンの残り汁あげる」
柿崎は、使い魔によって引っ張り出された鞄の前にしゃがみこみ、早速、躊躇も遠慮もなく蓋を開けた。
馥郁たる花の香りと共に、鮮やかな緋色のドレスを纏った少女人形が、その寝姿を露わにした。
「待っ、心の準備が……って、真紅!」
金糸雀の声が裏返った。背を丸めて胎児のごとく眠る赤い人形に、黄色い小鳥は明らかに脅えていた。
柿崎は構わず、人形の金髪を乱暴に掴んで引っ張り上げた。目を閉ざしたまま、動き出す気配はなかった。
「へえ、これが真紅? このごろ、いろんな自動人形を見てきたけど、これが一番高く売れそうね」
彼女らが言う「真紅」とは、人形を包むベルベットのことではなく、人形の名前であるようだ。
柿崎が高く売れそう評した真紅という人形の装いは、前述の通り華やかな色の素材を用いながらも、
胸元をケープで覆い、襟首すらコサージュ付きのリボンで隠し、スカートは足首にまで届く長い丈、
長く美しい金髪にもボンネットを被せた、ビクトリア朝時代の貴族の婦女子を思わせる潔癖なものだった。
「真紅を、あの人間に売っちゃうつもりかしら?」
「私、人形なんて興味ないもの。でも、もし悪魔だったら……。ふふふ、きっちり審判しなくちゃ」
尼僧は邪悪な笑いに、頬を歪めた。眠る人形の、白いソックスに焦げ茶のリボンを巻いた踵を掴んで、
鞄から引きずり出し、窓のないダイニングキッチンへと向かった。
「火あぶりにして、燃えなかったら悪魔、燃えたらただのお人形ってことで」
「はいはい。燃えたら売り物にならないんじゃないかしら」
金糸雀は止めなかった。暗くて判りにくかったが、そのキッチンに備えられていたのは電磁調理器だった。
住人は普段、料理をしないらしく、廊下との境にゴミ袋が積んであることを除けば、意外と不潔な感はなかった。
「ここ、ガスコンロじゃないのね。ねえ、カナ、マッチ持ってる?」
「持ってないわ。水銀燈だったら、火あぶりとか得意なんだけど」
「じゃ、もういい。後は貴女に任せるね」
「ふぇっ?」
柿崎はあっさり火遊びを諦め、赤い人形をゴミ山に放り捨てて、リビングに引き返していった。
もともと、彼女がこの部屋に侵入した目的は他にあり、偶然発見した人形はそのついででしかなかったのだ。
そのとき部屋の奥から、柿崎とすれ違って、廊下を赤く照らす燐光がすうっと飛んできた。真紅の人工精霊か。
柿崎は見向きもしなかったが、その従僕は大いにうろたえた。
「ホーリエ!? カナはまだなにも……!」
赤い燐光は金糸雀の頭上を素通りし、ゴミの上に伏せる真紅の背に潜り込んだ。カチ、と音が鳴った。
10: ◆qrN8aillXg
07/02/18 00:16:16 pfCOOWPm
金糸雀は、怖々と、姉妹人形を見上げた。どんなに乱暴に扱われても指一本動かさなかった真紅が、
彼女の人工精霊との接触でスイッチが入ったのか、キリキリと嫌な音を立て始めた。
「これって、やっぱりアレなのかしら、ピチカートぉ」
金糸雀は跳び退いて、起きあがる真紅に注意しつつ、玄関に倒れている人間の女を横目で見た。
「さっきの様子じゃ、この人間は真紅が薔薇乙女だということを知らないハズ。ネジは巻かれてない。つまり……。
恐れることはないわ、金糸雀。私は、薔薇乙女一の陰謀家。まずは笑顔でご挨拶よ」
微かな光を放ち、宙に浮かんだ真紅は、背筋を真っ直ぐ伸ばし、ガサリと、ゴミ山の上に降り立った。
そして、ついにその青い眼を開き、黄金の人工精霊を従えて身構える金糸雀を見下ろした。
「この無礼者」
「お久しぶりかしら……って、えっ?」
「貴女、身動きが取れないのを良いことに、この私をローストしようとしたわね」
と、いきなり真紅は凛然たる美声で姉妹を糾弾した。何と、動かない間もしっかり意識があったのだ。
金糸雀は完全に機先を制され、俯き加減に「あの人、いつも口ばかりだから」と言い訳をした。
「お黙りなさい。またしても人間の下僕に成り下がってるなんて、この恥知らず」
「そんなの、カナだって……」
気弱な姉妹が口籠もると、このいかにも気位の高そうな人形は、ふっと息をついてゴミの上から飛び下りた。
やや背の低い金糸雀と並び立ってその肩に手を置き、一転して、柔らかく微笑みかけた。
「お久しぶりね、金糸雀。あれから何時間経ったのかしら」
「あ、うん、50万時間ぶりくらいかしら」
寛恕を得た金糸雀は、上目遣いで真紅に微笑み返した。覆しようのない姉妹の関係が、そこには存在した。
真紅は、袋詰めされたゴミの山と、ゴミのように転がっている人間を改めて視認し、眉根を寄せて鼻を抓んだ。
「ここは空気が澱んでいて、再会を喜ぶのに相応しい場所ではないわね。それに……」
緋色のドレスをひとつはたいて、リビングと廊下を隔てるガラスドアに、冷ややかな青い瞳を向けた。
「貴女が無理矢理に従属させられているというのなら、あの人間、この真紅が倒してあげてもいいのだけど」
その真紅の囁きに、金糸雀はかっと目を見開いた。真紅から一歩離れ、手の甲で額の汗を拭う仕草をした。
「何を言ってるのかしら。あの人はピチカートに選ばれて、カナのネジを巻いてくれたパートナーよ」
「そう。残念だけど、貴女、ジャンクにされるわ」
ジャンク。その単語に、金糸雀の矮躯がぶるっと震えた。しかし、同時に、小さな唇は左右につり上がった。
「今、真紅が動いてられるのは、前のマスターにネジを巻いて貰ったときの余力かしら。……ピチカート!」
金糸雀が叫ぶと、彼女の鞄からあのパラソルが飛び出した。それは空中でピチカートと合体し、
小さなバイオリンへと変じて、持ち主の手中に収まった。その行動に真紅が気色ばんだ。
「まさか、もうゲームは始まっているというの?」
「そうよ。だから、今パートナーを失うわけにはいかないわ。第一、その体で何が出来るっていうのかしら。
……でも、真紅。私と真紅とが組めば、その時点で、最後に残る二人が決まるんじゃないかしら」
11: ◆qrN8aillXg
07/02/18 00:21:23 pfCOOWPm
金糸雀は、バイオリンをギターのように腰に構え、張り詰めたE線を、ピン、と指で抓んでピチカートした。
暗がりに澄んだ音が響いたが、特に何かが起こった様子もなく、真紅はやれやれと両手を広げた。
「この私を利用しようなんて、虫の良い提案だこと。当然、私が主人で、貴女が家来よ」
「せめて参謀って呼んでくれないかしら」
「どうしてもと言うなら、召使いでも奴隷でも構わなくてよ」
二体の人形は一歩距離を置いたまま、互いに目笑を交わした。そして、場を支配していた緊張が解けた。
「そっ、それじゃ、カナが真紅の鞄を取ってきてあげようかしら!」
金糸雀は元気よく挙手し、自分の鞄を拾ってリビングへと走っていった。
「あら、気が利くわね。ついでに紅茶を淹れて頂戴。鞄に私のティーセットが……金糸雀?」
真紅の新たな家来への命令は、最後まで声にならなかった。金糸雀はガラスドアを開けてリビングに入り、
乱雑に物の置かれたこたつの上に飛び乗ったのだが、それらの動作に全く音が伴っていなかったのだ。
「金糸雀!」
真紅は異変を察知し姉妹を追った。が、廊下の半ばで、目に見えない綿のような何かに全身を包まれ、
押し戻されて尻餅をついた。それは真紅との衝突によって波打ち、リビングの景色を揺らめかせた。
「空気の壁……さっきのピチカートで!?」
真紅を見下ろす位置に立った金糸雀が、右腕を垂直に掲げると、その手にバイオリンの弓が出現した。
「こんな悲しい事ってあるかしら。真紅が言ったとおり、カナはジャンクにされちゃうかもしれないわ。
あの人の命令に逆らったりしたら……なんて言ったところで、どうせ聞こえてないかしら」
真紅に対し半身に構え、顎と肩とでバイオリンを挟み、その弦の上にゆっくりと弓を乗せた。
「24のカプリッチオ、第16番ト短調」
静から動へ。運弓に特化した人形の関節が奏でる、優雅にして鬼気迫るプレスト。
解放された窓から、室内の許容量を超えた空気が吸入され、奏者の像をさらに歪ませた。
金糸雀の奏でる狂おしいまでの奇想曲は、空気の障壁を隔てた真紅側にも微かに届いていた。
真紅から見て、右手はダイニングルームであり、背後は玄関である。逃げ場はあったが、問題もあった。
彼女の足元には、人間の雌が目を開けたまま倒れていたのだ。真紅は不本意そうに溜め息を吐いて、
人間の傍らに屈み込み、その左手の薬指に、薔薇の意匠のある契約の指輪を嵌めた。
「目覚めなさい、人間。私は薔薇乙女のドール、真紅。お前の名前は?」
耳を掴んで声を吹き込むと、微かではあったが「みつ……」と反応があった。
「では、みつ。その左手の指輪に誓いなさい。この真紅の忠実なる下僕となり、私のローザミスティカを護ると。
誓いなさい。もう時間がないのだわ。さっさと誓いなさい。誓わないと死ぬ」
執拗な囁きによって、草笛の意識が回復すると、彼女は赤い服の西洋人形と目を合わせ─絶叫した。
「ひいっ! すいません! 誓います誓いますゥ!」
不条理な脅迫にあっさり屈した瞬間、契約の指輪が目も眩む赤い閃光を発した。
同時に、金糸雀の魔曲によって圧縮された大気が弾け、狭隘な廊下に閉じこめられた真紅らを襲撃した。
12: ◆qrN8aillXg
07/02/18 00:26:59 pfCOOWPm
昼食時のマンションに、突如として爆音が轟き、在宅の何人かが戸外に飛び出した。
そのうち4階に住むとある婦人は、不幸にも事件直後の現場に遭遇し、おたまを手にしたまま立ちつくした。
草笛の部屋に面する通路には、剥離した建材が粉塵と化して、濛々と立ちこめていた。
瓦礫のみならず、コンビニ弁当やペットボトルのゴミが散乱し、その上に外れた玄関ドアが覆い被さっていた。
と、いきなりそのドアが勢いよく跳ね上がった。下から現れたのは、赤い光を帯びて横たわる女と、
赤いドレスを纏った西洋人形だった。人形はドレスの埃をはたきながら、ぶつぶつ独り言を呟いた。
「流石にゴミ袋のクッションじゃ、気休めにもならないわね」
そんな超現実的光景に出くわした婦人は、救急車がどうのと呟いた後、白目を剥いてひっくり返った。
女性が落としたおたまが、からんと目の前に転がってくると、真紅は遠慮なく拝借して、軽く素振りした。
あの気違いじみた旋律は未だ途絶えず、空気の障壁が一度消滅したことにより、大音量で響くようになった。
部屋の奥では、爆風の余波に少しだけ散らかったこたつの上で、金糸雀がその弓に二の矢を番えていた。
「何てしぶといのかしら! でも計算通り! 媒介になりうる人間さえ潰れてしまえば……!」
「お前、選択を誤ったわね」
真紅はおたまをサーベルのように右手で構え、一歩だけ室内に踏み込んだ。そこで、いつの間にか、
黒いベールをはためかせる尼僧が、金糸雀の背後に立っているのを目に留めた。
「ねえ、金糸雀。今、この家のパソコンを調べてたんだけど、いきなり電源が落ちちゃったのよ」
「そんなことより、今は真紅との戦いの……」
「うるさい」
振り返りもせず演奏し続ける金糸雀の尻を、柿崎は勢いよく蹴り飛ばした。
魔曲によって蓄えられ始めていた空気の塊が、制御を失って暴発し、一瞬にしてリビングが損壊したが、
柿崎はそのような現象などお構いなしに、壁まで吹っ飛んだ金糸雀に詰め寄った。
「何勘違いしてんのよ、この土クレが。誰が私の邪魔しろって言った? あァッ!?」
ついに尼僧が本性を現した。口汚く罵声を浴びせ、呆然と座る人形の鳩尾に容赦なく爪先をねじ込んだ。
「ごめっ……許し……!」
「死ね! 死んじまえッ!」
顔面を蹴り、バイオリンをへし折り、また腹を蹴った。度を超した制裁は人形が動かなくなるまで、
─続かなかった。ある瞬間、金糸雀の姿が掻き消え、柿崎のローファーは空振りした。
「それぐらいにしておきなさい。ドールをなぶり者にするなんて、見苦しいったらないわ」
見かねた真紅が、横から姉妹を救い出したのだ。赤いドレスの人形は、ガタガタ震える金糸雀を片手に抱き、
尼僧に向かっておたまを突きだした。柿崎は天井を睨んで舌打ちしておいて、にっこり不自然な笑みを作った。
「ごめんね、せっかくの姉妹の殺し合いを邪魔しちゃって。さ、続けて」
「流石、金糸雀の媒介ね。常軌を逸してるわ」
もちろん真紅は狂人の勧めに取り合わず、比較的被害の少ないダイニングルームへと金糸雀を連行して、
二人がけの丸テーブルに着かせた。小さな楽士は、ただの人形に成り果ててしまったかのように無抵抗だった。
13: ◆qrN8aillXg
07/02/18 00:30:51 pfCOOWPm
部屋の主改め、真紅の下僕は、玄関先で失神していた。指輪の力に守られたらしく肉体的外傷はなかった。
寝苦しげなそばかす面に、真紅がおたまを押し付けてやると、彼女は跳ね起きて周囲を見回したが、
まだ半分目が閉じており、再びその場で横になろうとした。真紅はもう一度、おたまで顔面を突いた。
「ちょっとお前、いい加減に起きなさい。夢と現実の区別も付かないの?」
草笛が寝ぼけて「おばあちゃん?」などと呟くと、とうとう真紅は草笛の引っ詰め髪をぽかりと殴った。
低く唸って頭を擡げた草笛は、廃墟と化した自宅に気づいて悲鳴を上げた。が、真紅は対応は冷酷だった。
「家が壊れたぐらいで大袈裟ね。そんなことより、紅茶を淹れて頂戴。10分以内に」
「……え、ロボット?」
「お前、自分の主人の顔も忘れてしまったのね。ああ、情けなくて涙も出ないわ」
そう嘆いた真紅よりも、草笛の方が涙目だった。そこに暗いダイニングから、尼僧の馴れ馴れしい声が掛かった。
「ねえ、真紅。お茶はムリなんじゃない。配電が切れちゃってるもの」
そう。玄関上の配電盤は破壊され、切れたケーブルが飛び出し、家電どころか照明すら使えない有様だった。
「あっ、めぐさん、助け……」
「元はと言えば、金糸雀に対する貴女の躾がなっていないせいよ。やれやれだわ」
真紅が人差し指を振ると、草笛の指輪が赤く輝き、持ち主は右手で押さえて「熱っ」と呻いた。
驚くのはその次の出来事だった。散乱した瓦礫が宙に浮かび、映像を逆再生したように壁や天井に吸着され、
部屋はすっかり元通りに修復されてしまった(ゴミ袋の山も含むが)。これには柿崎も手を叩いて感心した。
「へえ。これって、貴女の力? 幻術、ってわけじゃなさそうね」
「さあ、どうかしらね。私も、貴女には聞きたいことが山ほどあるわ。そこに掛けて頂戴」
真紅は柿崎にダイニングの席を勧め、腰を抜かした草笛をおたまで追いやってキッチンに立たせた。
草笛も、"めぐ"と名乗ったシスターが尋常の者でないと悟ったらしく、怪奇人形と睨み合う彼女を避けて通り、
シスターの向かいにもう一体、壊れたバイオリンを抱いた人形が座っていても、見て見ぬふりをした。
唯唯諾諾と命令に従って棚から紅茶の缶を取ると、早速、真紅がそれをチェックさせるよう要求してきた。
「アッサムはディクサム茶園の秋摘み、FOP。悪くない選択ね。忘れずミルクを付けなさい」
草笛はしゃくり上げつつ冷蔵庫を開き、幸運にも用意のあった牛乳パックとペットボトルの水を取り出した。
すると今度は、「あら、その水は何なの?」などと姑のごとく目を光らせてきた。
「あの……、紅茶用の超軟水……だけど」
「不正解よ。軟らかすぎる水は、秋摘みの葉の渋みを出し過ぎてしまうわ。この場合は、水道の水で充分。
茶葉と同じように、水やミルク、茶器やお菓子も、ただ高価な物ではなく、条件に適した物を選びなさい」
女主人が女中を教育して悦に入ってる間に、どこからか消防車のサイレンの音が近づいてきた。
考えてみれば、現場は間違いなくこの部屋だ。住人の誰かが通報したのだろう。柿崎はそそくさと席を立った。
「バイバイ。次に来るときはアンタたち、死んでるからね」
意味不明な挨拶をして、真紅が引き留める間もなく、玄関から逃走していった。最初からそうしなかったあたり、
この尼僧の方でも真紅に聞きたいことがあったのかも知れなかった。金糸雀は置き去りにされた。
14: ◆qrN8aillXg
07/02/18 00:35:33 pfCOOWPm
夕刻。町外れの小ぢんまりとした教会に、両手にスーパーの買い物袋を提げた柿崎が帰ると、
門前の路上には、白いワンボックスカーが停まっていた。言うまでもなく白崎の車だ。
同じく路上で、腕に箒を括った山本少年が、隣の公園から風に運ばれてくる落ち葉を掃き清めていた。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい。もしかして、買い物に行ってきてくれたんですか」
「山田君のケガが治るまで、毎日店屋物ってワケにもいかないじゃない。お台所借りていい?」
至極、まともな申し出を、山本は曖昧に肯いて了承した。断るのも恐かったのだろう。
再び歩を進めようとした柿崎は、広場のベンチで、二人の男が話しているのを目撃した。
一人は黒尽くめの白崎、もう一人はあまり年相応とはいえない灰色のスーツを着た青年だった。
「あの人、大学病院のお医者さんよね。確か……」
「ジュン君の担当だった梅岡先生です。懺悔したいことがあったとかで……、というか、白崎さんの口車で」
ジュンが異世界に連れ去られたなどと知る由もない白崎が、無駄な努力をしているようだった。
「ふぅん。そう言えば、あの後ジュン君ちにも寄ったのよね。どうだった?」
「お姉さん、留守でしたから」
答えるとき山本の目が泳いだが、柿崎はこれも「ふぅん」と受け流して追求しなかった。
白崎には声を掛けず館内に入り、厨房へと向かう柿崎を、穏やかな低い声が呼び止めた。
「今日、薔薇十字団と名乗る人物から電話があった。シスターの知り合いか?」
この教会の神父は、白いガウンを纏い、くすんだ金髪を後ろで束ねた、白い肌の美青年だった。
「さあ。そんな名前の団体、世界中にごまんとあるじゃない。またイタズラ電話だったの?」
「僕の教会に、あまり厄介事を持ち込まないで欲しい」
唐突に非難の矛先を向けられた柿崎は、「イタ電だったのね」と両手を広げて、買い物袋を揺らした。
シャリシャリ音を立てる左右のレジ袋を、神父の緑の瞳が訝しそうに往復した。
「あの人形はどうしたんだ」
「ああ、アレね。今頃、姉妹と仲良くしてるんじゃない?」
その言葉を神父がどう理解したのかは定かでないが、彼は目元に微かな笑みを湛え、「そうか」と頷いた。
柏葉巴が意識を取り戻したのは、豪奢なベッドの上の、絹のシーツの中でだった。
傍らに安らかな呼吸を感じ、視線を恐る恐る平行移動させると、そこには裸体のオディールが眠っていた。
(続く)
次回予告:
「酷いですよ、柿崎さん! 途中から出てきて主役の座を奪うなんて」
「何勘違いしてんのよ、この脇役が」
「ところで、白崎。僕の若奥様はいつ登場するんだ」
「唐突だね、槐……てゆうか、君、神父でしょ。どうしてもと言うなら、こちらの方でも」
「みっちゃんこと、草笛みつです。ただいま、永久就職活動真っ最中でーす」
「不合格。僕の教会に引きこもりは二人もいらない」
「なっ! 引きこもりとは違うのよ、引きこもりとは! したい仕事が見つからないだけよ!」
「素晴らしいクオリティです」
第5話 語り部 die Erzählerin
15: ◆qrN8aillXg
07/02/18 01:13:16 pfCOOWPm
みっちゃん関係の謎が丸ごと残ってしまいました。
なぜ、みっちゃんは平日の昼間から家にいるのか。
病院に現れた美少女とは、一体誰なのか……次回に持ち越しです。
次回ですが、巴・双子(+お凸)組を中心にするか、
それとも、真紅・みっちゃん(+凸)組を中心にするか。
そこが問題です。
16:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 06:17:17 SVtG9k9d
あ
17:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 11:15:36 RrXYRuor
新スレ>>1乙
18:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 13:18:56 XVBmCV1G
水銀燈虐待コピペは?
19:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 13:31:23 0FA7z7u0
>>18
性的な意味で?
20:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 15:45:56 qiez4+p8
>>15
みっちゃんかわいそうwww
21:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 17:16:33 I79ZRFjb
>>1
乙です記念に投下します
水銀党総選挙篇
「皆さん水銀党に清き一票を!
水銀党はあなたの暮らしを変えます!」
ドール達は揃ってテレビを見ていた
「な、なんですぅ?水銀……党?」
「真紅ぅ~!何だかアレ変なの~」
「何でも最近台頭してきた政党らしいのだわ
思想は極めて異端…」
真紅が口を開いたそのとき
党首らしき者が壇上に立って…
「みなさぁん…私が党首の水銀燈よぉ…
銀ちゃんって呼んでねぇ…」
「水銀燈!?あれ水銀燈ですぅ!」
「銀ちゃんって変な名前なの~!」
「いいえ…あれが彼女の作戦よ…
ソフト路線で支持者を獲得するのだわ」
「私が当選の暁のときわぁ…
大福主食化計画…」
「うにゅ~!水銀党大好きなの~!」
「他に…ですぅノートの映画化…」
「ふ、ふ…翠星石がそ、そんな餌に…
な、なかなかいい法案……ですぅ…」
「二人とも!騙されては駄目よ!
甘い言葉で支持者を獲得する
それが彼女の作戦なのだわ!」
「最後に私がアリスになった暁には…
くんくんを私の下僕にするのよぉ!」
「な、何ですってえ~~!!
そんなこと絶対に許すわけにはいかないのだわ!!!」
真紅は声を裏返して叫んだ
「真紅…お前は水銀党の敵ですぅ…」
「水銀党の邪魔は許さないの~!」
2体のドールは、目の焦点が定まらないまま
まるで操られた様にゆら~っと真紅に近づく…
「ふ、ふたりとも目を醒ますのだわ!」
一方その頃桜田家のリビングでは
「う~ん…う~ん…」
「真紅!目を醒ますですぅ!」
「真紅ちゃん…何だかうなされているみたい…」
「真紅可哀想なの~」
「さっきまでふて寝してたはずなのに何故…」
ジュンがテレビに目をやると
くんくんが急遽中止になった代わりの
政権放送が流れていたのであった
おしまい♪
22:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 19:19:35 vccPZrGI
>>1乙です
前スレ569の続き
バヂンッ!!
「 ?!・・・・!!~~~~~!! 」
「 あ!・・・・・ 」
めぐの唇がジュンの唇に重なるのではと思うほどに近付いた、まさにその時。
竹を割るような音と共にジュンの頭部が『 ガグンッ!! 』と揺れて
ジュンのメガネのフレームに何かが割り刺さっていた。
それが何か気付いたジュンは声にならない叫びを上げ、
彼のメガネのフレームに刺さったそれをみて、めぐは何が起きたかすぐに理解していた。
バサッ・・・
少しして羽音が聞こえ、続いて『 カツッ・・・ 』と硬いヒールの音が、開いたままだった窓枠から聞こえてきた。
「・・・めぐ、その子から離れなさぁい・・・」
少し怒気を含んだその声の主は、ローゼンメイデンドール第一女、水銀燈のものだった。
例えるなら眼前には雌狐、その先の視界には雌豹。
まるでジュンは獲物となっておびえる子ウサギそのものでしかなかった。
「お帰りなさい、天使さん♪」
めぐは緊張するジュンからそっと離れ、澄んだ声で嬉しそうに水銀燈にそう返答した。
そのめぐから開放されたジュンは、緊張しながらメガネのフレームに刺さった水銀燈の羽根を取っている。
「そう呼ぶなと・・・何度も言っているはずよ」
「今日も、戻ってきてくれたのね♪」
嬉しさを含んだめぐの言葉には答えず、水銀燈はジュンに冷ややかな言葉を静に投げかけた。
「昨日言ったはずよねぇ・・・あなたには関係無いって・・・
一体どういうつもりかしらぁ、ジュン君・・・」
ようやく羽根を抜き終えたジュンに、ゾクリとした怖気が走る。
目の前の水銀燈は、以前夢の中で真紅と共に対峙した時と同じ感情だ。
だけどここで水銀燈の威圧に飲まれちゃいけない。
喉をゴクリと鳴らし、ジュンは思いもよらぬ行動に出た。
23:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 19:23:00 vccPZrGI
彼はパイプ椅子から立ち上がり、
「ごめんっ!僕はミーディアムとしてもっとしっかりしなくちゃいけないんだ!
だからこれだけは聞いて欲しい!真紅がお前の事を思う気持ちに嘘は無い!
姉妹のお前への気持ちを本当に大事にしたいから、だから僕はここに来たんだ!」
いきなり頭を下げたかと思うと、水銀燈をまっすぐに見つめてそう喋っていた。
ジュンが何か仕掛けるだろうと身構えていた水銀燈は、虚をつかれていた。
それはすぐ側でベッドにいるめぐも同じだった。
「さ、最初は躊躇したけど、でも、真紅達の気持ちを届けなきゃって思って・・・」
最初の勢いが消え始め、彼の言葉がこもり出し
「ぼく、僕もその・・・お、お前のミーディアムが・・・し、 しんぱいになって・・・」
顔もうつむきだし、
「だ、だから・・・ ・・・だから、その・・・」
声がどんどんと小さくなる。
「こっ・・・これ! う、受け取ってくれ!!」
しかし、萎えそうな気持ちを振り絞り、顔を真っ赤にしながら、彼は水銀燈に包みを差し出す。
「 は? 」
顔を真っ赤にした、どちらかと言えば整った女顔を持つ少年が、
まっすぐな瞳で自分を、水銀燈自身を見つめてくる。
その瞳の奥には嘘の無い、必死で純粋な・・・水銀燈には眩しいとさえ感じるような心。
虚をつかれていた心に、いきなり飛び込んできたジュンの気持ち。
前まで敵として争っていた人物である、水銀燈自身の心にだ。
理解できない気持ちと、奇妙な感情、どこかで感じた記憶がある、心への暖かい波。
24:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 19:25:29 vccPZrGI
「な、・・・なによ・・・それ・・・」
何故か顔に熱が帯びてくるのを感じながら、
この奇妙な感情をどう表現していいか解らない水銀燈は、勢いの無い問いかけをした。
毒を抜かれたとはまさにこの事なのだろうなと、めぐは水銀燈の顔を見て、
真っ赤な顔で水銀燈に捧げ物を渡す少年の横顔を見つめた。
可笑しさがめぐの心にこみ上げてくる。
さっき初めてあった少年が、自分を心配したり、自分のちょっとしたからかいにドギマギとしたり、
今もまた争っていた筈の水銀燈に、何かを手渡そうと必死の思いで、
自分の目の前で、自分の存在を忘れたようにまっすぐに水銀燈を見つめている。
「うふふ・・・あはははははっ♪あははははは♪♪」
「 ?め め ぐ・・・? 」
「 !?あ、え?え? 」
この少年は不思議だ。
何か惹かれてしまうものがある。
そう思いながらめぐは、嬉しそうに、可笑しそうに、ケタケタ笑うのだった。
25:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 19:27:14 vccPZrGI
続きは今度。
26:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 19:52:59 +rl70tSj
GJ
水銀燈カッコカワイイよ水銀燈
27:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 20:10:08 0FA7z7u0
>>25
貴重なJUM×めぐイイヨイイヨ(*´Д`)
28:変態めぐ ◆b7XuiBsTpk
07/02/18 21:14:27 sbG3S7xn
.'´,ヘ ヘヽ
!〈 ((゙ "))〉 >>25 私はそんなに繊細じゃないわ
il!!|.゚ ヮ゚ノ! もっと変態よ(全裸でオナニー
il(i ゜ ゜i)l
ノl!!l |!|
|._ハ_.|
i⊃i⊃
29:変態めぐ ◆b7XuiBsTpk
07/02/18 21:54:57 sbG3S7xn
,..-:.:.:/、:.:.:.\ヽ`:.、
r:.ー:.、:.:.:ハ:ヽヽ:.ミヽ!::';.:丶
l:/:.r:.、:>;'-'ヽ:',、ヽ`:.ヽ:';.:.:.',
l/:l:.!`゙ ';',ヽ:.';.:.:.ヽ:.:.l:l
l':.イ:! _ -';!-';.:';.:.l.:i:.:.l:.l
,':/:l;l´ ,⊥_ !l:.:l::.l:.:l:.l:!
l:イ:.l:l'rrュ、 ´(__)'!l:リ:.;'!:.:l:.:!
l';l:.:l:.ヽ`" , ,'l:Y/ト:.:l:.:l
l:.:l:.l、:.ヽ 、_ァ /:,':./:ハ:.:l:.:.l
';.l:.l:ハ:.:`:ヽ.、_ /'/;イ:/_⊥ヾ_l
';∧:.l:〉/`T´ ! ノ /'l ,rヽ
/-ー7 ヽ_ ヽ,f´,>'、 ! / l
/ / '´ `´ ,:':/ ` ' ,' l
ト / .,:':/ l ト,
,イ/ .,:':./ l i l、
__ ,.':/l,' . /:./ . 〉! ',
-  ̄ `ヽ、 ,.:':./.,' l:.:.i /l l._ ',
` 、 .,:'/:.:;'rl , l:.:l /l:.l ', ヽ
', ,'/!:.:l/ノ ヽ', /:l:l:.l ', _ ',
',,'/ l:.:l1 l ` - ノ:.l:.ll:.:', ヽ'´ ` 〉
',- ' ´l 丶 //:./l:l';.:.', / /
',_ノ´ ', 、 `丶、 /,':/ l:l ヾ:', / /
ヽ ヽ、 ` 、 ノ,'/ r 、 . 〉′ ,'
ヽ ヽ `ヽ、 >' ヽ v 、 ;
', ヽ ` 、 ` 、/ _」 ヽr.、 l ,'
', `ヽ、 \ j ス - 、 .ヽr 、 l;
', ` ー '' ´  ̄`ヽ、 ヾ`ー'´l''
',
30:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 22:09:32 qiez4+p8
>>24
GJだぁぁぁぁぁ
31:鋼鉄薔薇水晶 1
07/02/18 22:22:39 0LUvOmNs
nのフィールドに異変が起きた。我々の世界と表裏一体の関係にあると言っても過言ではない
nのフィールドに何かがあれば我々の世界に及ぼす影響は計り知れない。
その異変の調査及び阻止の為に真紅達ローゼンメイデンのドールズはnのフィールドへ飛んだ。
「こ・・・これは・・・。」
nのフィールドに到着した真紅・翠星石・金糸雀の三人は愕然とした。
なんと言う事か世界樹に巨大な機械のバケモノが取り付き、食い破ろうとしていたのである。
「ななな何ですかあれはぁ! まるでジュンが持ってた映画に出てくるカラクリのバケモノみたいですぅ!」
「とりあえず・・・あれが異変の原因のようね・・・。」
「でもあんな大きな物どうやればいいのかしら~。」
機械のバケモノのサイズは数百メートルは下らなかった。ほぼ無限に近い世界樹に比べれば
遥かに小さい方ではあるが、それでも薔薇乙女達にとっては途方にくれる程巨大であった。
と、三人が呆然と機械のバケモノを眺めていた時、突如バケモノから何か小さい物が
飛び出し、三人へ向けて飛んで来たのである。
全身を金属の装甲で覆った3メートルはあろうかと言う金属人形。
これはもはやドールと言うよりロボットと呼んだ方が良い代物だった。
そして数十体にも及ぶ金属人形軍団が真紅達三人の正面30メートルの位置に降り立つ。
「お前等一体何者ですぅ!?」
「何故世界樹にあんな事をするかしら~?」
「でも何故こんな物が突然nのフィールドに・・・。」
その時金属人形軍団が一斉に道を開けた。すると明けられた道から一体のドールが現れた。
それは金属人形軍団と比べるとかなり小さい。むしろ真紅達薔薇乙女と同じ大きさだった。
『皆さんお久し振りです・・・。』
「え!?」
「お・・・お前は!?」
「まさか・・・薔薇水晶かしら!?」
薔薇水晶。ローゼンの弟子である槐が作ったローゼンメイデンのイミテイションである。
水晶を操る圧倒的な強さで真紅達を苦しめ、アリスまで後一歩と言う所まで迫るも、
真紅達6つのローザミスティカから来る不可に耐えられず自壊し、槐共々行方不明となったはずであったが・・・
「貴女確か壊れて無くなったんじゃ・・・。」
『しかし、私はこうして蘇った。ビグローゼの高度な科学力によっていっそうパワーアップして・・・。』
「ビグローゼ?」
「まさかあの世界樹に食いついてる馬鹿でかいカラクリのバケモノの事かしら~!?」
目の前にいる薔薇水晶は皆の知っている薔薇水晶では無かった。
全身を鋼鉄で覆った・・・いや、鋼鉄そのもので作られた”鋼鉄薔薇水晶”とも言うべき代物となっていた。
「そんな鉄の塊になってまで復活して・・・一体何が目的なの!?」
『それは・・・復讐・・・。』
32:鋼鉄薔薇水晶 2
07/02/18 22:25:41 0LUvOmNs
鋼鉄薔薇水晶が手を正面に翳した時、金属人形軍団が一斉に真紅達に襲い掛かった。
それを各個迎撃する為に三方向に散るドールズ。だが、鋼鉄人形を覆う金属のボディーは
余りにも固かった。
「かかか固いですぅ!!」
「痛いかしら~!」
翠星石と金糸雀が攻撃しても逆に弾かれるどころか此方の方が痛い。何と言う堅さだろう。
そして真紅は鋼鉄薔薇水晶と相対していた。
「復讐が目的なら何故あのように世界樹を食い破ろうとするの!? 直接私達を攻撃すれば良いのに・・・。」
『貴女達に復讐する事が目的ではない・・・。目的はnのフィールドで離れ離れになったお父様の敵・・・。』
「貴女のお父様と言うと槐・・・。その敵というと・・・まさかお父様!?」
鋼鉄薔薇水晶の目的はローゼンだった。
『貴女達ごとき眼中にはない。私はお父様の敵を倒してお父様の作ったドール、すなわち私こそが
アリスに・・・いや、アリスを超えた存在になる・・・。』
「じゃあ何故世界樹にあんな事をするというの!?」
『ビグローゼが動く為には力が必要。だから世界樹から力を吸い上げている・・・。』
「そ・・・そんな事はさせないのだわ!」
真紅が跳んだ。しかし、鋼鉄薔薇水晶に容易く弾き飛ばされてしまう。
「壊れたって知らないわ!」
遠くに吹っ飛ばされるもむしろそれで助走距離を稼いだ真紅は忽ち距離をつめ、鋼鉄薔薇水晶に
絆パンチを打ち込んだ。直後、金属が砕ける甲高い音と共に鋼鉄薔薇水晶の左腕が吹き飛んだ。が・・・
なんと左腕の吹き飛んだ鋼鉄薔薇水晶の左肩からコードが延び、左手を形作ると共に
金属の装甲で覆われた。すなわち再生したのだ。
「え!? 嘘・・・。」
『私の弱点はビグローゼのメインコンピューターによってすぐに補強され修復される・・・。
貴女が死に物狂いで私を倒した所で・・・私は何度でも蘇る・・・さらに強くなって・・・。
つまり貴女は永遠に私を倒せない。』
「粉みじんになってもそんな事が言えるというの!?」
『やれるものならやってみなさい!』
今度は鋼鉄薔薇水晶の拳が真紅の腹部にめり込んだ。続いて首を掴み、締め上げた。
「うがぁぁぁぁ!」
『どうしたの? さっきの勢いは何処へ行ったの? これで終わり・・・。』
そのまま鋼鉄薔薇水晶が真紅の首を握り潰そうとした時だった。突如漆黒の羽が彼女の背中に突き刺さった。
『ん?』
鋼鉄薔薇水晶が後ろを向くと、そこにはローゼンメイデン第一ドール水銀燈の姿があった。
「す・・・水銀燈!」
「勘違いしないで頂戴。別にお馬鹿さんなあんたを助けに来たわけじゃないのよぉ・・・。
私はただお父様の命を狙う者を許せないだけよぉ!」
『脆弱なドールが何人いても同じ・・・。まとめてジャンクにしてあげる・・・。』
「ジャンクにするのはこっちよぉ! 後悔しないでぇ!」
水銀燈は鋼鉄薔薇水晶に向けて跳んだ。が、あっさり殴り飛ばされてしまった。
33:鋼鉄薔薇水晶 3
07/02/18 22:28:10 0LUvOmNs
「水銀燈!」
「まだまだぁ!」
直ぐに戻ってくる水銀燈だが、鋼鉄薔薇水晶にあっさり押さえ込まれてしまった。
続いて脚を圧し折ろうとするが、それを真紅が止める。
しかし、その後鋼鉄薔薇水晶の怪光線によって二人まとめて吹き飛ばされてしまった。
なんと言う威力。もう二人は息も絶え絶えとなっていた。
「な・・・なんてバケモノなのぉ・・・。こっちは体力が落ちてきてると言うのに平然としてる・・・。」
「動ける? 水銀燈・・・。」
「気安く声を掛けないでぇ!」
「このまま行けば私達は確実に殺されるわ。もう後が無い・・・全力で二人同時にかかれば・・・。」
「わ・・・私に指図しないでぇ!」
「そ・・・その意気だわ・・・。くるわ! いいわね! 全力よ!!」
「わ・・・私に指図しないでぇぇ!!」
二人に目掛けて迫ってくる鋼鉄薔薇水晶に向けて二人は物凄い勢いで跳んだ。
そして二人による同時攻撃は鋼鉄薔薇水晶の鋼鉄の身体を突き破った。
だが、鋼鉄薔薇水晶には再生能力がある。忽ち破壊された断面からコードが伸び、
再生が開始されるが・・・
「させないわ!」
『うっ!?』
「消えてなくなりなさぁい!」
その再生面に真紅の薔薇の花弁と水銀燈の漆黒の羽が襲い掛かった。
再生が未完了の部分に負荷がかかり、鋼鉄薔薇水晶はたちまち自壊して行った・・・。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
「殆どの体力を使い切っちゃったわ・・・。」
もう二人ともに体力は限界に達しており、その場に倒れこんだ。が・・・
「!!?」
二人の目の前に倒したはずの鋼鉄薔薇水晶がいた。しかも一人だけではない。
二人・・・三人・・・十人・・・いや、もはや数百人にも及ぶ鋼鉄薔薇水晶が二人を取り囲んでいた。
「やっとこさ倒したと言うのに・・・。」
「ど・・・どうなっているのぉ・・・?」
『貴女達が倒した薔薇水晶も全てビグローゼの偉大な科学力が生み出したもの・・・。
これだけの鋼鉄薔薇水晶を敵に回して戦える力が貴女達に残っているかしら・・・。フフフフフ・・・。』
「はは・・・やっぱりやるしかないのだわ・・・。」
「め・・・目眩がするわぁ・・・。」
数百人の鋼鉄薔薇水晶軍団が一斉に二人に襲い掛かってきた。
「くるわ! うおおおおおおお!」
「お馬鹿さぁぁぁぁぁぁん!!」
残り少ない体力を振り絞って立ち向かう二人であるが、数百体の鋼鉄薔薇水晶軍団に敵うはずも無かった。
34:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 22:29:35 0LUvOmNs
久々にスレが盛り上がってる雰囲気を感じたので
勢いでバトル路線書いてみたとよ。
これから先に書き込まれてる話をまとめて読んでみようと思う。
35:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/18 22:36:25 +rl70tSj
金属人形って・・・ロボットじゃねーか!
できれば、ここから逆転してくれ
ともかくGJ
36:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 04:06:17 L2pqpbhB
水銀党マンセー!
37:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 08:37:11 +rmJgbOB
竹石圭佑…中国で生まれ名古屋で育つ20歳。小学生を狙う強姦魔
38:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 09:40:39 V7A0KlnG
ちょwwwなんだこのメタルクウラ的展開はwww
39:鋼鉄薔薇水晶 4
07/02/19 16:35:31 9kBvTVzB
「こ・・・ここは・・・。」
二人は周囲を鋼鉄の壁で覆われた広大な部屋の中で全身にコードの様な物が接続される形で釣らされていた。
『フフフ・・・ビグローゼへようこそ・・・。』
「薔薇水晶・・・何処?」
『貴女達の目の前にいるのが私・・・。』
二人の目の前にいたのは頭だけになった薔薇水晶がビグローゼの機械と融合したおぞましい姿だった。
この薔薇水晶こそが本体で、彼女がここから鋼鉄薔薇水晶や金属人形達を操っている事を想像するに難くなかった。
『その昔・・・現実世界からnのフィールドに落ち込んだ物が漂う空間に一枚のコンピューターチップがあった・・・。
それはその自らの能力で長い時間を掛け増殖していった・・・。それはnのフィールドのあらゆる物を取り込み、
その力を吸収する事で成長していった・・・。今は数百メートルにも及ぶ巨大マシン要塞がこのビグローゼ・・・。
そしてnのフィールドでお父様とはぐれ、ただただnのフィールドを漂うだけと思われた私が運良く
ビグローゼに流れ着き、メインコンピューターと融合してコアとなってビグローゼを支配した・・・。
既に殆ど残っていなかった身体は鋼鉄薔薇水晶として再生せた・・・。』
「わ・・・私達をどうするつもり!?」
『ただの木偶人形に永遠の命を与えるローザミスティカが生み出す無限の力・・・それを全て貰う・・・。』
「何ですってぇ!? うぁ!!」
その時だった。二人の全身に接続されたコードから二人の体内の力が吸い上げられていった。
恐ろしいまでの力がコードを通して吸い上げられ、ビグローゼの動力源として変換されていく。
「うああああああ!!」
『フフフ・・・いいわ・・・もっと吸い取りなさい。これからは鋼鉄薔薇乙女を何万人と持つ事も出来るのよ・・・。』
なおも二人の力が吸い上げられ、二人の絶叫が広大な部屋中に響き渡った。
「ああああああああ!!」
『フフフフ・・・いいわ・・・力がみなぎる・・・。』
そして一通り二人の力を吸い上げた後、二人は死んだように動かなくなった。
『吸いきったようね・・・。ローザミスティカの力がこれほどとはね・・・。
これ以上吸い続けるとこっちが危ない所だったわ・・・。』
が・・・まだ二人は死んではいなかった。それどころかさらに力がコードを通してビグローゼへ流れ始めたのだ。
既に許容量が限界に来ていたビグローゼはその負荷に耐えられず爆発を起こしてしまう。
『何!? どうしたと言うの!? まだ力が残っていると言うの!?』
一体この力はどこから来るのか・・・二人の身体から恐ろしい程の力が流れていき、ビグローゼが悲鳴を上げる。
『やめて! 回路は閉じたはずよ! やめてぇ! 何故流れてくるの!? と・・・とにかくコードを引き抜かないと・・・。』
慌ててコードを抜こうとするも、なんと二人は逆にコードを掴み、力を放出続けたではないか。
『やめてぇぇぇぇ!! オーバーヒートする!! 限界よぉぉぉ!! やめてぇぇぇぇ!!』
その頃、金属人形軍団の猛攻に満身創痍になった翠星石と金糸雀は取り囲まれていた。
「も・・・もうだめですぅ・・・ジュン・・・助けてですぅ・・・。」
「みっちゃん帰ってこれなくてごめんかしら~・・・。」
が、しかし、金属人形達は襲ってこなかった。それどころか一斉に機能を停止し、崩れ落ちたのだ。
数百体の鋼鉄薔薇水晶軍団共々に・・・
「え? これはどういう事ですぅ?」
「あ! あれを見るかしら~!」
金糸雀が指差した先は次々と爆発を起こしていくビグローゼの姿があった。
40:鋼鉄薔薇水晶 5
07/02/19 16:40:53 9kBvTVzB
『く・・・制御が利かない・・・ビグローゼが崩れていく・・・。ローザミスティカの力がこれ程までに
凄まじいものだったなんて・・・。』
「私達の力を甘く見たのがまちがいだった様ね・・・。こ・・・これで・・・あ・・・あともう一息なのだわ・・・。」
真紅は最後の力を振り絞って立ち上がった。
『フフフ・・・。そのさまでよくほざけるわね・・・。』
「貴女こそそんな頭しか無い格好でどうなるというの!? もう鉄で出来た薔薇水晶は
助けに来てはくれないのだわ!」
『フン・・・私自身の力はそれ程落ちてはいない・・・。ビグローゼは後ほどゆっくり直せば良い・・・。
今の貴女ごときこれで十分・・・。』
「もう二度と悪さ出来ない様にするしかないようね・・・。」
真紅は右手を翳し、残った力の全てを込めて一枚の真紅に輝く薔薇の花弁を作り出した。
それに対し薔薇水晶は彼方此方からコードを伸ばし、己の身体を形作っていった。
まさにコードの塊。もはやイミテイションとは言え薔薇乙女第七ドールを名乗った
薔薇水晶の面影は無く、幾多のコードや配線の絡み合う醜いバケモノとなっていたのだった。
『むかつくジャンクめ!!』
薔薇水晶はコードを真紅の全身に巻きつけ締め上げた。
「うあああああああ!!」
『貴女にこの私を倒す事は不可能なのよ!』
「ぐ・・・無理と分かっていても・・・やらなきゃならない時だってあるのだわぁぁぁ!!」
その時だった。一枚の漆黒の羽が真紅を締め上げるコードを切り裂いたのは・・・
『何!? 水銀燈・・・貴女ぁぁぁ!!』
「私達に出来ない事なんてぇ・・・無いのよぉ・・・。」
そう言い残し、水銀燈は倒れた。そして真紅に薔薇水晶を攻撃する隙を作ったのである。
「薔薇水晶!! これで・・・最後なのだわぁぁぁぁぁ!!」
真紅の投げた真紅に輝く一枚の薔薇の花弁が薔薇水晶の胸部、コードが幾重にも絡まった中に
かすかに見える僅かな隙間の中に吸い込まれていった。
『う・・・。うわああああああああ!!』
薔薇水晶の胸の中で大爆発を起こした薔薇の花弁は忽ちの内に薔薇水晶を吹き飛ばした。
僅かに残ったドールとしての身体ともどもに・・・。今度の今度こそ薔薇水晶の最期だった。
そして、支配者を失ったビグローゼも完全に崩壊していった・・・。
「真紅真紅! しっかりするですぅ!」
「あ・・・二人とも・・・。」
「目を覚ましたかしら~!」
真紅が目を覚ますと、そこには翠星石と金糸雀がいた。だが、水銀燈の姿は無かった。
「あら? そう言えば水銀燈は・・・?」
「水銀燈の奴ならさっさとどっかに消えたですぅ。」
「そう・・・。でも今度だけは水銀燈のおかげで助かったわ・・・。あの子の力が無かったら・・・勝てなかったわ・・・。」
水銀燈はnのフィールドを飛んでいた。そして彼女の掌には一枚のコンピューターチップがあった。
「お馬鹿さぁん・・・。」
掌のコンピューターチップを握り潰すと、水銀燈はnのフィールドの彼方へ飛んでいった。
おわり
41:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 16:44:30 9kBvTVzB
分かる人には既にわかってしまってると思うけど・・・
ギャグとして見て頂戴まし・・・orz
じゃあ吊って来る
42:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 18:23:08 laTfp1k3
まさかこのネタは劇場版のドラゴンb・・・いやいや
兎に角GJ!!
43:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 21:30:56 L2pqpbhB
おまえらバトル物が好きだなぁ
44:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 23:21:03 5mDn1r4y
>>24の続き
「じゃあ あの時・・・」
「ええ、水銀燈がこの、ナースコールボタンを押してくれたみたいなの。
すぐに私意識失っちゃったみたいだから、殆ど覚えてないんだけどね」
昨日ジュンがどういう経緯(いきさつ)で、めぐのことを知ったか改めて話した上での会話。
あの時窓枠に腰掛けていた水銀燈は、めぐの歌を聴いていたらしい。
その歌が急に途絶え、胸を押さえ苦しみだしためぐの為に、
急いでナースコールボタンを押したと、めぐは笑顔で答えてくれていた。
それにしても笑顔でそんな事を言えるなんて、この柿崎めぐという女の子は開き直っていると言うか・・・
常にそれだけ苦しんで来たから・・・死にたくても死ねないから・・・こんな風に振舞えるのか・・・
パイプ椅子に座るジュンはそう思い、何とも言えない気持ちで・・・
めぐと、ベッドの上で座る彼女の膝に抱かれた水銀燈を、形容しがたい難しい表情で見つめた。
「・・・なによぉ・・・私の事じっと見てぇ・・・そんなに抱かれてるのが可笑しいのかしらぁ?・・・」
ジュンのその視線に露骨にぶつかってしまった水銀燈が、そう仏頂面で答える。
明らかに不機嫌な声。しかしその声には嫌悪感や憎悪感と言った、負の感情は込められてはいない。
普通の少女が不機嫌そうに喋るのと何ら代わらず、
ジュンの知る、あの嘲り(あざけり)や侮蔑(ぶべつ)の込められた物言いをする水銀燈だとは到底思えなかった。
その水銀燈は、少しだけ顔を赤らめ、ジュンの視線から『 フンっ 』と居心地悪そうにそっぽを向いてしまった。
それと同時に彼女の背に生える、小さく縮んだ翼が『 ピコピコ 』と動き
めぐのパジャマの腕に『 パスパス 』とリズミカルに当たっていた。
(・・・プッ・・・まるでネコみたいだな・・・水銀燈)
犬と同様、猫も感情や機嫌が尻尾に表れるのと同じ様に、水銀燈も言葉に表れない感情が翼に出るらしい。
機嫌のいいネコが尻尾をピンと立て、
愛する飼い主や仲間と触れ合う時に尻尾をピコピコと動かしたり、巻き付ける様な仕草をするが、
今めぐの膝に抱かれて無意識に翼を動かしている水銀燈は、ジュンにとって黒猫のイメージそのものだった。
その翼の羽ばたきから見るに、嫌そうな言葉とは裏腹に、水銀燈は機嫌を損ねてはいないらしい。
そう思ってみたものの、取り合えず謝ってみるジュン。自分でも何をしているのか信じられない面持ちだった。
45:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 23:23:01 5mDn1r4y
「あ、ああ、いやその・・・な、何か僕の知ってる水銀燈じゃないみたいだなって思って・・・ご、ごめん」
「! な、何よ・・・何なら今羽ばたいてあなたの身体に羽根をつき立ててあげたっていいのよぉ!ムュゥ?」
「いいじゃない水銀燈、ジュン君きっと今のあなた、可愛いって思ってるんだから(ニコニコ)」
「ニ゙ャっ!?」 「ち、違っ!」
自分の膝から荒々しく立とうとした水銀燈を、覆いかぶさるように両腕で軽く押さえ込み、
相変わらず奥の読めない笑顔で、二人にとってギクッとさせられるような事を言うめぐ。
『 なっ!? 』と言うつもりが、めぐに押さえ込まれた為、それこそ猫のような声を出した水銀燈と、
案外心の奥にある図星を突かれたジュンは、瞬間的に頬を薄紅色に染め上げていた。
「~~~~~!! もう帰れ! 帰りなさいよぉ! お前は真紅の所に居ればそれでいいのよぉーーー!!」
いくらめぐの手前大人しくしているとは言え、姉妹達にも決して見せなかった、
自分の隠された部分をジュンに見られた水銀燈は、めぐの手を跳ね除け声をあげた。
恥ずかしさと苛立ち。
さすがに焦ったジュンは
「わ、解った、ご、ごめん!で、でも待ってくれ、せめて持ってきた花だけでも生けさせてくれ!頼むよ!」
そう言ってパイプ椅子から立ち上がり、水銀燈とめぐから目を伏せながら
「かき、柿崎さん・・・花瓶・・・か、借りてもいい・・・?」
そう、おどおどと めぐに問いかけた。
「どうぞ♪」
ジュンとは裏腹に、いたって落ち着いためぐの弾んだ声。
水銀燈の導火線に本格的に火が入る前に逃げ出せたジュンは、
ドキドキしながら、洗面台に立てられていた、中身の無い花瓶を取ろうと手にした。
「・・・あれ?これ陶器じゃないんだ?何か・・・傷だらけだよ?・・・」
花瓶が陶磁器ではなくプラスティックらしき材質だと気付いたジュンは、
めぐの方に振り向いてそう言っていた。
気を落ち着かせたとは言え、相変わらず仏頂面をした水銀燈を抱いているめぐが、
「うん、前に私が床に叩きつけて割ったからそれの代わりらしいのよ、笑っちゃうわよね。(クスクス)
そんなもの置いてたって、どうせ誰も花なんか挿してくれないし、また叩き割ってやるだけなのにね♪」
46:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 23:24:20 5mDn1r4y
「・・・そ、そう なんだ・・・」
その笑顔と裏腹に、どれだけの苦しさと苛立ちが彼女の内面を蝕んでいるんだろう・・・
だからこうして物にあたる事で・・・その恐怖や苛立ちや・・・寂しさや悲しさから・・・
目を背けようとしてるのかも知れない・・・
ジュンは、以前では考えもしなかった思いで、そっとめぐから目をそらし
苛立ちの代替となった傷だらけの花瓶に、水を注ぎ・・・翠星石と金糸雀が用意して手渡してくれた・・・
可愛らしい色とりどりの花をそっと生けて・・・
「でも、ほら・・・これからはこうして、この花瓶には花が咲いて、柿崎さんを」
めぐの方に差し出してみた。
その彼女は、先ほどとはうって変わって感情の消えた目で、ジュンを見つめ返す。
まるで死人のようなその目にゾクリとしたジュンは、言葉に詰まり、
「・・・その・・・見てくれる・・・と、思うんだ・・・ ・・・な、何言ってんだろな・・・僕 ・・・はは・・・は・・・」
逃げたしたくなる気持ちでうつむいてしまった。
47:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 23:25:37 5mDn1r4y
「・・・ありがとう・・・」
「!? ・・・ぇ、えっと・・・」
うつむいたジュンの耳に、ささやく様にめぐの静かな声が届いてきた。
そっと見上げると、死人のような目をしためぐは既にそこにはおらず、
どことなしか安堵と・・・ともすれば泣いてしまいそうな表情の・・・
薄い笑顔で・・・めぐはジュンを見つめていた。
そのめぐに抱かれている水銀燈が、やはりジュンを見つめている。
その視線に、ジュンは気付いてはいない。
(冴えなくて・・・情け無いだけの甘ったれたガキだと思ってたけど・・・)
(真紅・・・やっぱりあなた・・・いい拾い物をしたのかもねぇ・・・)
・
・
・
「じゃあ、僕そろそろ帰るよ、柿崎さんの身体の事もあるし・・・」
花瓶に花を生けて、その後どうと言うことの無い、
今の自分のドタバタとした身の周りの話をしたジュンは、
パイプ椅子からそっと立ち上がりながら、そうめぐに言葉をかけた。
「そう・・・」
彼女の柔らかく、薄い笑顔が、彼の視線を受け止める。
ベッドに座る彼女の横には、先程よりほんの少しだけ柔らかい表情をした水銀燈。
「それじゃ・・・」
軽く会釈をして病室の扉前まで足を運ぶジュン。
「待って・・・」
それを止める、めぐの柔らかい声。
彼女はベッドから身体を下ろしてガウンを羽織り直し、その場で立ち止まるジュンの元へと足を運んだ。
そして、そっとジュンの手を取ると・・・
48:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 23:27:46 5mDn1r4y
「わっ!また!!」
先ほどと同じ様に自分の手を重ね、彼の手を自分の胸へと導いていた。
まさかと直感したジュンが身構えるより早く、素早く、暖かで柔らかい胸に導かれた彼の手のひら。
先程よりもはっきりと、めぐの胸のくりっとした頂きと、その頂きの周りの丸い膨らみを感じる手の指先。
やっぱりこの人の行動は理解できない。
そうジュンの頭が感じるのとは裏腹に、抱いてはいけない気持ちに、心が早鐘の如く警鐘を鳴らす。
自分よりほんの少しだけ上の彼女の目線が、彼の瞳に入り込んでくる。
先程より更に感じる香り。
それは髪なのか、彼女自身なのか、ジュンの鼻の奥を刺激する甘酸っぱい鼻腔。
「また・・・来てくれるんでしょ・・・」
「ぁ あ あ う、・・・ぅん・・・」
顔が溶けて無くなってしまうのではないかと思うほどに上気し、
夕焼けよりも、ゆでだこよりも真っ赤な顔になったジュン。
気を失いそうな程に頭がグラグラする、根はまだまだ純情な彼。
そこにめぐの透き通るような柔らかい・・・願いを込めるような、優しい声。
「だったら、その時まで・・・忘れないで・・・この鼓動を・・・
私も忘れないでおくわ・・・あなたの・・・この今の・・・」
めぐのもう片方の手のひらが、ジュンの胸にそっと舞い降りる。
彼の鼓動を確かめ、覚える為に、優しく舞い降りる。
ジュンの胸に・・・心臓に・・・めぐの手のひらの温かさが伝わってくる。
死にたいと願う自分は・・・今こうして確かな暖かさを持って・・・あなたを感じていると・・・
まるでそう言わんばかりに・・・
「私を感じて・・・打ち続けてくれる鼓動を・・・」
ジュンの心に溶け込んでくる。
49:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 23:30:37 5mDn1r4y
続きはまた次回。
50:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 23:36:28 t8fxbimK
誰か>>49を通報してくれ。俺の心臓を止める気だ。
51:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/19 23:59:37 gGQYedGj
>>50
手遅れだ。
俺の心臓は感激のあまり、
役目を終えてしまった。
52:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/20 00:15:12 fbHVSJM9
めぐがノーブラというのはどこに行ってもデフォのようだな
だがそれがいい
53:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/20 01:11:47 uEIY1dBN
>>50-51
JUMに治して貰ってはどうだ
54:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/20 03:07:18 qSRTLbIZ
わっふるわっふる
55:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/20 17:26:24 knVUvBDh
ニ゙ャン銀燈
56:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/20 17:37:31 h73wxyHh
>>49
さよなら俺の心臓
GJGJGJGJGJ
57:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/20 18:25:41 06cymeYz
GJ!
俺の心臓オワタ\(^0^)/
58:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/20 19:45:59 3jzNOcP9
>>49
GJ!
続き期待してます
59:くんくんの最終回 1
07/02/20 22:17:26 Fv0tcvlt
ジュンが何時ものようにパソコンと向き合ってネット通販に浸っていた時だった。
突然ドタドタと音を立てて階段を駆け上がって来た真紅がジュンの部屋のドアに飛び込んで来た。
「ジュ・・・ジュン・・・!?」
「どうした?」
「最終回って・・・どういう意味かしら?」
「は?」
突然真紅の口から発せられた言葉にジュンは一瞬呆れた。しかし真紅の顔は真剣だった。
「最終回って言うのは、もうこのお話でお終いって意味だよ。」
「え・・・。」
真紅は青ざめた。まるで世界の終わりを見るかのような絶望的な顔をしていたのである。
「それじゃあ・・・くんくんは・・・嫌ぁぁぁぁぁぁ!! くんくぅぅぅぅぅぅん!!」
「おい! どうした!? どうしたんだ!? 真紅!?」
その場で頭を抱えてのた打ち回り始めた真紅にジュンは慌てて駆け寄った。
「嫌ぁぁぁぁ!! くんくんが・・・くんくんがぁぁぁぁぁ!!」
「おい! どうしたんだよ! 何があったんだよ真紅!?」
薔薇乙女の中でもクールな反面、くんくんが関わると一気に冷静さが失われる真紅であるが
今の真紅の狼狽する様は普通ではない。明らかに異常だった。そして真紅は泣きながらジュンに抱き付いた。
「ジュ・・・ジュン・・・聞いて頂戴? さっき・・・くんくんを見ていたら・・・来週・・・最終回って・・・。」
「え!?」
それ以来真紅はジュンの部屋に閉じこもってしまい、夕ご飯の時間になっても降りてこなかった。
「真紅ちゃんどうしちゃったの? 今日は花丸ハンバーグなのに・・・。」
「来週くんくんが最終回らしくてさ、それで落ち込んでるんだあいつ・・・。」
「まあ・・・。」
ジュンは夕食を食べ終わった後部屋に戻るが、真紅は明かりを付けていない真っ暗な部屋の中で
ジュンのベッドの上で体操座りした状態でいじけていた。
「おい真紅・・・。電気くらい付けろよ。それに今日は花丸ハンバーグだぞ。」
「いらない・・・。」
「おい・・・悲しいのは分かるけどせめて飯くらい食えよ・・・。」
「いらないわ・・・。くんくんのいない世界なんて私にとって何も無いも同然だもの・・・。
だから私は今度のくんくんの最終回が終わった後、私のローザミスティカを水銀燈に渡すつもりにしたわ・・・。」
「な・・・お前何血迷ってるんだよ!! 落ち着け!!」
真紅の爆弾発言にジュンは慌てて真紅の肩を掴んだ。その時の真紅の目からは大粒の涙が止め処なく流れていた。
「くんくんが終わってしまうと言う事はくんくんが死んでしまうも同然なのだわ!
だから私も一緒にくんくんの所に行くの!」
「おい! いい加減にしろよ! 確かに今度でくんくんは終わってしまうかもしれないけど
まだ今までビデオに撮った分が残ってるだろ!」
「一々うるさい下僕ね・・・。放って置いて頂戴・・・。」
「真紅・・・。」
60:くんくんの最終回 2
07/02/20 22:18:26 Fv0tcvlt
その日を境に真紅は無気力状態となり、何をするにしても気が入らなくなってしまった。
そしてついにくんくん最終回の放送日がやって来た。
「うう・・・くんくん・・・。」
放送中真紅は延々泣き続けていた。確かに最終回だけあってかなり感動的な物語が展開されていたのだが、
それ以上にもうくんくんと会えないと言う悲しみもプラスされ、真紅の悲しみは想像を絶していた。
「くんくん・・・今までありがとうなのだわ・・・。」
感動的なラストシーンの後、エンディングのシーンで真紅の悲しみは絶頂に達した。
そして真紅は立ち上がった。
「ジュン・・・のり・・・今までありがとう・・・。私はこれから水銀燈の所に行くわ・・・。」
「ちょっと待て! お前まさかマジで・・・。」
「くんくんが終わった以上生きていても仕方が無いもの・・・。」
「待て行くな真紅!」
「真紅ちゃん待って!」
部屋から出ようとする真紅をジュンとのりが止めようとした時だった。
『くんくん新シリーズ! 世界征服を企む秘密結社バラバラ団にくんくんが名推理で立ち向かう!
次回! ”新名探偵犬くんくん”に・・・よろし~くんくん!』
「え・・・。」
真紅は硬直した。
「なるほど・・・タイトルを変えて仕切りなおしと言うパターンか・・・。
にしても良かったな真紅・・・くんくんが終わらなくて・・・。」
「バンザァァァァァイ!! バンザァァァァァイ!! バンザァァァァァイ!! バンザァァァァイ!!」
「うわぁ! どうしたんだ真紅!?」
突然狂ったように万歳三唱を始めた真紅にジュンは真剣に焦った。
だが、良い意味で予想を裏切られた真紅の喜びは計り知れない。
そして真紅は嬉しさの余り大粒の涙はおろか鼻からも大量の鼻水を止め処なく流し、
挙句の果てにはジュンに抱き付いて皆の見ている前でどうどう口付けをするなどやりたい放題だった。
「バンザァァァァァイ!! バンザァァァァァイ!! バンザァァァァァイ!! バンザァァァァイ!!」
「と・・・とにかく・・・これで真紅もローザミスティカを渡さなくて済んだな。」
「そうは問屋が卸さないわぁ!」
皆の前に水銀燈が現れた。
「さあ真紅。約束通りローザミスティカを戴きにぃ・・・。」
その直後だった。水銀燈の顔面に真紅の拳がめり込まれたのは・・・。
「私とくんくんの愛の絆は何人たりとも切り離す事は出来ないのだわ!」
「そんな・・・話がちが・・・。」
水銀燈はそのままぴゅーんと吹っ飛んで行った。そしてまたも真紅の万歳三唱が始まった。
「バンザァァァァァイ!! バンザァァァァァイ!! バンザァァァァァイ!! バンザァァァァイ!!」
その日の晩、喜び疲れた真紅はすやすやと眠りに付いていた。
くんくんのぬいぐるみを抱きしめながら・・・
「くんくん・・・頑張るのだわ~・・・。」
とても良い夢を見ていそうだった。
おわり
61:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/20 22:19:41 Fv0tcvlt
>>49
猫銀に萌えた
特に
>(冴えなくて・・・情け無いだけの甘ったれたガキだと思ってたけど・・・)
>(真紅・・・やっぱりあなた・・・いい拾い物をしたのかもねぇ・・・)
↑これとか
62:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/20 23:39:09 nCFU0dp+
>>60
くんくんが最終回なら銀様も嘆き悲しむだろうよ
63:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/20 23:42:43 Fv0tcvlt
>>62
原作漫画版では銀がくんくんについてどーこーって描写は無いからそのへんで勘弁
64:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/21 02:01:53 7Fl0FlbS
>>49
これ以上はエロパロ板逝きの予感がするぜいいぞもっとやくぁwせdrftgyふじこlp;@
65:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/21 02:35:29 KP/0Fvb5
>>60
ジュンは新シリーズ終わった後のことを考えなくてはならんな
66:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/21 09:16:59 qLWTLkl2
真紅「それなら私が続きを書いてやればいいのだわ!」
真紅、同人作家としての第一歩を踏み出す
水銀燈「待ちなさい真紅!くんくんはそんなこと言わないわぁ!」
翠星石「今更ネーム切ってちゃ間に合わないです!印刷所待たせるのも限界があるですぅ!」
蒼星石「ボクはまた晴海のキンコーズで製本させられるのかい?
金糸雀「カナがせっかくラクしてズルしてスペース取ったのに無駄かしら!」
雛苺 「ヒナがコスして売って、今度こそ赤を出さないって決めてたのー!」
薔薇水晶「修羅場の夜が更ける頃・・・私は現れる・・・徹夜が三日を数えた頃・・・机の上に現れる・・・」
真紅「もしもしBIRZの編集さんですか?実は持ち込みをしたいのだわ・・・」
67:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/21 12:05:46 tmthGEN+
>>66
馬鹿野郎!
モニターに思いっきりコーヒー噴いたぢゃないかあっ!!(w
68:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/21 12:07:23 WARty4RD
>>66
昼休みの食堂でメシ噴いたじゃないか!
けど(・∀・)イイ!
69:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/21 15:04:41 2ElYuByv
少しは推古しろよ厨房
70:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/21 22:38:47 nohOsvxK
>>69
>少しは推古しろよ
「甥っ子は聖徳太子なのだわ」
71:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/21 23:32:15 s9dXBpZP
>>49の続き
・
・
・
ベッドの上で座る二人。
「うふふ・・・帰っちゃったね。・・・ねぇ・・・また来てくれると思う?・・・水銀燈」
「知らないわよ、そんな事ぉ。・・・それより、よくやるわねぇ・・・あんな事」
めぐの問い掛けに、それまでおとなしく引いていた水銀燈が呆れたように答えるのも当然だろう。
鈴の様に透き通る声でささやいたあの言葉の後、
真っ赤になってしどろもどろになっているジュンを柔らかく見つめたまま、
めぐが、「・・・揉んでみたい?」と爆弾発言を言ったからだ。
その瞬間のジュンを表現するならば、正に湯が沸いた瞬間のケトルそのものだった。
ケトルの笛が、水が沸騰し熱湯になったのを知らせる為にピーと鳴るように、
これ以上無いと言う程、ジュンの顔が紅蓮の様な赤に染まったのを見てクスクス笑うめぐに、
彼が「 ままま、また来るからっ!! 」と逃げる様に退室したのも、また当然だろう。
底の知れない彼女の誘い香にこれ以上絡め取られると、自分がどうなってしまうか判らないと言う
ジュンの気持ちが辛うじて働いた上での、勇退だったと言ってよいのかも知れない。
「あ、やきもち焼いてくれてるの~?・・・ゲホッ ゲホッ・・・ ハァ ハァ・・・あはは・・・」
少しだけ侮蔑の混じった視線の水銀燈からの返答に、めぐが苦しそうに咳き込みながら・・・
彼女なりの触れ合いをこめた言葉を、水銀燈に返す。
「・・・別に。 あなたが誰と何をしようと 私には関係ない・・・」
咳き込む彼女を見て、僅かに・・・僅かに悲しそうな表情を覗かせ・・・
何気ないようにめぐから視線をそらし、水銀燈はそう答えた。
72:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/21 23:34:08 s9dXBpZP
「・・・ ・・・フフ・・・そうよね。
どうせまた一人ぼっち・・・あなたが居ないときは・・・いつもそう・・・私はもう・・・
誰からも相手にされないジャンクだk『 ジャンクだと思うのなら、ジャンクなりに足掻いてみなさい! 』
「 ・・・水銀燈・・・ 」
「甘ったれてる暇があるのなら、ジャンクなりの努力を見せなさい!
私のミーディアムになった以上、しようともしない努力を放棄してそんな言葉を使うのは許さないわよ!」
「・・・そうよね・・・ごめんなさい・・・前にも言ってくれたわよね、そんな言葉使うものじゃ無いって・・・」
「 ・・・・・・・・・・ 」
「天使様のお告げは、守らなきゃ ね」
「・・・いい加減、その天使って言うのやめなさぁい・・・」
「じゃあ・・・はい、仲直りと、誓いの証し」
「 ・・・ ~~~~ ・・・ 」
「・・・水銀燈・・・?」
「~~~・・・ふん、しょうが無いわねぇ・・・」
人を見下し己を誇示する事で、
自身のアイデンティティを保ち続ける水銀燈がめぐに見せた、自分以外への激。
自分の生い立ちと境遇があまりに似ている、めぐへの言葉。
自分を否定せず、差し込む光が僅かでもあるのなら、必死で受け取り立ち上がる努力を見せろという激。
思いもよらない水銀燈の言葉を、めぐは真摯に受け止めながら小さな声で言葉を返し、
仲直りと言葉して、整った顔を薄く苦笑させ、左手の小指を水銀燈にそっと差し出した。
それをみた水銀燈は、およそ彼女らしからぬ・・・おそらくめぐ意外誰も知らない・・・
怒り顔と、苦笑と、優しさが入り混じったような微妙な表情をしつつ、
嫌そうでいながら、そうでもないと取れる風に、そっと、優しく、自分の小指をめぐの小指に絡ませていた。
そのめぐの薬指には、ミーディアムとなった証しの・・・契約の薔薇の指輪。
73:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/21 23:35:52 s9dXBpZP
絡ませた互いの小指が・・・少し少し静かに、上下に揺れるたび・・・
薄く・・・しかし、はっきりと輝いてゆく。それは命を吸い取る輝きではなく・・・命が結び合う・・・絆の眩やき。
ベッドに座る命。一つは小さく、もう一つはそれよりも小さい。
二人は指切りをしながら、座った身体をベッドに横たえる。
そして、窓から入る日の暖かさが・・・緩やかに二人を包みこんでゆく。
お互いを見つめる瞳。どちらの瞳にも、互いの姿が存在する。
「水銀燈・・・」
「なぁに・・・」
「あたたかいね・・・」
「・・・そぉね・・・」
その言葉の意味は、日の暖かさを意味しているのか・・・
それとも、絆の暖かさを指しているのか・・・
二人はしばらく、そのままの状態で指切りを・・・
お互いの存在を確認しあっていた。
74:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/21 23:38:58 s9dXBpZP
続きは近日中。
レスやAA、大変ありがたく思うと共に
ずっとスレ占有状態で、誠申し訳ないです…
75:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/21 23:44:15 TMRUAWit
続きwktk
占有状態っていうかただ過疎ってるだけなんだよなぁ
76:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/22 00:17:41 3g+CHTdV
wktkって…VIPPER死ね
77:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/22 00:48:32 hdFJBo9T
ああこれVIPの言葉だったのか
知らなかった、ごめんよ
78:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/22 06:59:06 paRbsleA
>>74
(・∀・)イイヨイイヨ
79:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/22 19:29:40 XVFBZ98y
書きたくてもこんな上手い人がいたんじゃ萎縮して書けません!><
80:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/22 19:43:50 MsUUoBdd
>>79
ガムバレ 君の愛情を注いで書けばいいんだよ!
81:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/22 22:39:06 WLA7xKvR
「ジャンク!!」
「!!うおおおお!!! 真紅ぅ!!」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
nのフィールドに集う乙女たちが、今日もアリスのような無垢な
笑顔で、命の宿る鏡をくぐり抜けていく。
汚れを知らないローザミスティカを包むのは、原理不明のやわらかビスク。
球体関節は見せないよう、アリスゲームには負けないよう
ミーディアムに手伝わせるのがここでのたしなみ
もちろん、姉妹ドールをジャンクなどと言う、おばかさぁんの右腕など存在していようはずもない。
ローゼンメイデン
西暦二〇〇四年放送開始のこのアニメは、もとは読み切りのつもりで描かれたという、
幻冬舎のある都市伝説系誌連載の漫画が原作である。
オーベルテューレ。カナブンのいない十九世紀初頭のヨーロッパで、妹に見守られ、
「ありがとう、真紅」から「嫌な女…」までの一貫教育がうけられる特別編
時代が移り変わり、お父様の名がサンジェルマンから三回も改まったローゼンの今日でさえ、
中学に進学すればマエストロの少年が担任の晒し上げで引き篭られる、
という仕組みが未だに残っている貴重なアニメである。
ネタ的にどっかで既出な気がするけど気にしないー
82:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 01:34:34 LQCJrsTX
>>81
乙です~
>>73の続き
「おそい! 遅いですっ! 一体チビ人間は何をやってやがるですかっ?」
桜田家のリビングのソファーで、ふくれっ面をした翠星石の甲高い声が響く。
「仕方ないかしら。行きや帰りにだって時間がかかるんだから」
そう言って金糸雀が、わめく翠星石をなだめていたりする。
「何のんきなこといってやがるですお前はっ!
あの水銀燈や、水銀燈のミーディアムに、もし何かされてるのかと思うと翠星石は気がかりで気がか(ハッ?!)」
「へぇぇ~~~・・・翠星石にもそういう気持ちがあったのねー♪以外かしらー♪」
「なっ!なななななな~~~~!!」
あながち間違っていない勘ぐりだったが、
妙な所で墓穴を掘った翠星石は、ニヤニヤした顔の金糸雀に突っ込みを入れられていた。
普段やり込めている金糸雀にからかわれた翠星石は、顔を赤くしながらワタワタして
「~~~おっ、お前ちょっと顔貸せですぅ!焼き入れてやるデスっ!!」
隣に座っていた金糸雀の胸倉をむんずと掴んで脅していた。
・・・とても薔薇乙女のする事ではない。
「ちょちょっ、ちょっと待つかしらーーー!そそっそんな事が無いようにピチカート達を行かせてるんじゃないぃいいーーーー!!
しししし、真紅からも何か言ってやって欲しいのかしらぁぁーーー!!というか助けて欲しいかしらーーーー!!」
「翠星石」
「翠星石ちゃん!やめなさいっ」
真紅とのり、少し厳しい注意の言葉を聞いた翠星石はさすがに金糸雀を開放し、
涙目で訴えた金糸雀から、のりと共に紅茶をたしなんでいた真紅に視線を移して、こう言った。
「・・・いくらスイドリーム達を向こうに行かせてジュンの護衛をさせてるとは言え、真紅は心配じゃないのですか・・・?」
その問い掛けに、真紅はいたって静かな声で、
「大丈夫だわ。今のあの子は・・・水銀燈はもうそんな事はしない。だって、あの子にはミーディアムがいるのだもの」
うっすらと微笑を浮かべてそう答えていた。
二人の会話をのりは黙って聞いている。
83:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 01:38:08 LQCJrsTX
「・・・矛盾してるです。だったら何でスィドリーム達をnのフィールドから向こうに行かせたりするです!」
「あら? 当然だわ、そんな事」
「はぁ?・・・言ってる意味が判らんです・・・」
「だって、ジュンは私と貴女の下僕よ?」
「ま、まぁ・・・そ、そうですけど(下僕じゃないです ミーディアムですぅ・・・)・・・??」
「だったら他所で粗相な行いをしていないかどうか、ちゃんと知る必要があると思わない?」
「え!?・・・ ・・・そ、それってジュンが水銀燈のミーディアムに何かしないか、監視する為・・・ってことですか?」
「そうよ」
「・・・はは・・・ぁははははは・・・はぁぁ~~~~~~~・・・」
(この女の考えは・・・翠星石なんかよりよっぽどドライです、カラッカラですぅ・・・)
(ジュンはお前の事が好きですのに、もう少し心配してやったらどうですか・・・)
(どうせその裏で、ジュンの事心配してるくせに・・・もっと表に出してみろです・・・)
(・・・絶対お前には負けんですよ、真紅っ!)
「?どうしたのかしら?? ってぇーーー!! いやぁーーーやめてぇぇ~~~ーーー!!
あはは! っく、くすぐっ! くすぐったい、く、あははははははぁあぁ~~~ーーーーん♥!!!」
真紅の飄々(ひょうひょう)とした態度に諦めのため息をついた翠星石は、
心の内で改めて真紅への恋の対抗意識を燃やしつつ、再び声をかけてきた金糸雀をとッ捕まえて
腹いせとばかりに、イジワルな笑みを浮かべて彼女の体中をくすぐりまくるのだった。
悩ましい表情で苦しみながら笑わされる金糸雀を、マスターの草笛みつが見たら悶絶死するのは間違いないだろう。
その二人のじゃれあい(?)見ながら、のりと真紅が会話する。
「翠星石ちゃんもカナちゃんも、仲直りして嬉しそうね~♪」
「・・・そう見えるの?」
「ええ♪」
「そ、・・・そう」
ああ、仲良き事は美しきカナ。
84:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 01:40:25 LQCJrsTX
また次回に。
85:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 02:58:28 s+Zf0ddg
>>84
嗚呼…
俺の…俺の心臓がぁ…
GJ!
86:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 14:47:28 VPXrGC26
>>83の続き
有栖川大学病院。
「ねぇ・・・さっきのジュン君がくれたお見舞いのお菓子、食べよっか?」
ベッドに身体を横たえていためぐが、
やはり身を横たえ、彼女と小指同士を絡ませていた水銀燈にそうもちかけた。
ジュンが水銀燈に手渡した、あの見舞い菓子の事である。
水銀燈は絡ませていた小指をそっと離しながら身を起こし、
しかしめぐの問いには答えず・・・
「メイメイ・・・」
洗面台の鏡に視線を移して、自分に仕える人工精霊の名を呼んでいた。
鏡面が薄く輝いて、逆映しの場景が波紋状に揺れたかと思うと、メイメイと呼ばれた小さな光が
スイ~~―・・・と、やや疲れたようにゆっくりと水銀燈の方に近寄ってくる。
「ゎぁ・・・綺麗・・・」
身体を起こしためぐが感嘆して
「人魂って・・・見たの初めてだわ・・・やっぱり私を導いてくれるのね♪」
「・・・違うわよ・・・」
何か違う事を言い、それを聞いた水銀燈が疲れたように否定する。
人魂と言われた当のメイメイはひときわ強く輝き、左右に揺れながら激しく明滅を繰り返しだした。
「わ~・・・踊ってる♪」
「あんたの言葉に怒ってるのよ・・・気にしなくていいわぁメイメイ・・・この子はこういう子だって知ってるでしょぉ。
それで?・・・そぉお・・・もうホーリエ達はいないのねぇ。良く頑張ったわぁ」
主人に諭されては仕方ないといった風に明滅させていた光を一定まで収縮させると、
今度は小刻みに小さな光を放ちながら、水銀燈に勤めの内容を報告していた。
争う訳ではなかったものの、やはり何かあった際には主人を、ミーディアムを守る義務がある。
水銀燈が病室にいない時、メイメイはフィールドのもう一つの入り口である、この洗面台の鏡面内でいつもめぐを見守っていた。
もしも何かあった場合にと、内心でジュンを心配した真紅が送り出したホーリエ達と、
メイメイは先ほどまで睨みあっていたという訳である。
「何 何?♪」とはしゃぐめぐに、水銀燈は煩わしそうにごまかす。
「どうでもいいでしょぉ、そんな事。 それよりあなた、何かするんじゃなかったのぉ?」
「あ、そうだったわね♪(クスクス)」
水銀燈にそう言われてめぐはベッドの横の、引き板と引き出しの付いた、
机の代わりの簡易台の上においてあった少し小ぶりな菓子包みを手に取った。
可愛い包装紙とリボンで飾られたそれを開けて、めぐは嬉しそうに小さな声をあげる。
87:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 14:51:39 VPXrGC26
「可愛い・・・それに・・・いいにおい・・・ほら、水銀燈 みて♪」
開けた包みを水銀燈に見せながらそう言うめぐと、その包みの中を見る水銀燈だったが
「そんなもの・・・私が食べるとでも思っているのぉ?・・・」
さも鬱陶しそうに、けだるそうに言いながら『 ぷいっ 』と横を向いてしまうのだった。
そのままいじける様に体育座りになる水銀燈。
めぐはそんな水銀燈からそっと視線を外し、
「うゎあー・・・これ美味しそう♪ いただきまぁ~~す♪」
と、手作りのお菓子をぱくっと食べだしたのだった。
「(カリッ…モクモク…)!おいしぃ・・・これおいしいわよ水銀燈!♪」
「・・・・・・ ・・・」
その声に少しだけ振り向く水銀燈。
しばらく見なかった、本当に嬉しそうな・・・本当のめぐが見せる笑顔。
めぐのその嬉しさと、美味しいと感じる心は確かに水銀燈に伝わってくる。
だけど素直にそんなものを認めて、真紅達の作った不確かな菓子など食べる素直な水銀燈でもない。
案の定、彼女はすぐに横を向いてしまう。
「(モグモグ)うんっ♪おいしい♪そんなに甘くないし、そこらで売ってる変なお菓子よりずっと美味しい♪」
「・・・・・・」
「あ、これなんか可愛い~♪」
「 ・・・・・・ 」
「顔かしら これ?食べちゃおっと(パクッ!)」
「 ・・・・・・ ・・・ 」
「(カリカリ… モグモグ… …)あ~・・・これシナモンの香りがすごいわ~~♪」
「 ・・・ ・・・~~ 」
「・・・何これ?(ぷっ)・・・変なの♪・・・二枚あるから一枚食べちゃおっと(サクッ!)」
「 ・・・・・・ ・・・~~~ 」
「(モグモグ…ゴクンッ…)・・・なんだろ・・・変な形なのに・・・凄く・・・優しい味・・・」
「 ~~~~~~~~ 」
「全部食べちゃおっかな~・・・誰かさんはいらないみたいだし♪」
「~~~い、要らないなんて言ってないわよ・・・」
88:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 14:52:43 VPXrGC26
「ほら、水銀燈っ♪」
「 ?? 」
自分だけが美味しそうにパクパクと食べて、なおかつ食べないのなら自分が全部食べると言う、
意地悪で嬉しそうで、可笑しそうなめぐの声に、思わず振り向き本音を漏らした水銀燈の目の前に・・・
一枚の大きな・・・水銀燈の顔ほどもある大きなクッキーが・・・
水銀燈の目の前に出現していた。
「な・・・」
小首をかしげるようににっこりと微笑んだめぐの、細く綺麗な両指に収まる何だか良く分からない物。
甘い匂いを醸し出すそれは・・・あまりに水銀燈に近いので、何だか良く分からなかった。
水銀燈は顔をしかめながら少し退きつつ、それをしげしげと眺める。
「・・・ !? ・・・」
「(クスッ)可笑しいでしょ?・・・でも・・・誰かさんに似てると・・・思わない?」
ちょっと崩れた感じの、変な『 顔 』。
だけど・・・作り手の愛情が見て取れる顔。
それは、水銀燈の顔を模して作られたクッキー。
その顔は、クッキーになった水銀燈の顔は・・・笑っていた。
ちょっと不恰好だけど、嬉しそうに・・・笑っていた。
誰が作ったかなんて言わなくても、誰に教えてもらわなくても解る。
(( 私はお菓子以外に何も用意できないけれど・・・それで十分伝わるのだわ ))
あの時以来・・・アリスゲームで薔薇水晶に打ち倒されて以来会っていない・・・
四番目の妹、真紅の・・・手製のクッキーだった。
「私が食べたの、多分あれ・・・私の顔ね(クスクス)・・・ひどいのよ、ホント変な顔でー♪」
「・・・・・・」
「でも・・・すごく優しい味が・・・ したわ・・・」
(・・・真 紅・・・)
89:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 14:53:36 VPXrGC26
「だから・・・はいっ♪」
「!・・・ ・・・」
優しい味。
めぐは微笑んでそう言いながら、改めて水銀燈にそのクッキーを・・・
チョッピリ変だけど、笑顔がいっぱいの水銀燈のクッキーを・・・彼女の前に差し出した。
水銀燈はおそるおそるその大きなクッキーを手にとって、
「こんなもの・・・」
割り砕こうとしたものの・・・
(( し、真紅達が、お前の為にも作ったお菓子なんだ・・・柿崎さんと一緒に・・・食べてくれよ・・・ ))
ジュンに手渡された時の言葉を思い出して、砕くのをやめた。
あの時以来微笑む事を捨てた自分。
愛情を注いでもらって、励まし続けられて、応援されて、裏切られた自分。
認めて貰いたかったのに、見下されていたと、同情で構ってもらっていたと、確信した自分。
あの子のブローチを砕いて、あの子の思いを踏みにじり、ジャンクと呼ばれた自分。
あの子の心の奥の奥で光る本当の想いと愛情に・・・気付けなかった自分。
(( ジャンクの癖に! ))
最も愛する妹なのに、最も憎い妹。
(( 貴女の事を、ジャンクなんて呼んで・・・))
(( 悪かったわ・・・ ))
(( だから・・・ごめんなさい・・・ ))
だけど、誰よりも解りあえるかも知れない・・・妹。
90:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 14:55:24 VPXrGC26
想いが水銀燈の脳裏を駆け巡る。
そして・・・水銀燈は自分でも知らずの内に、そのクッキーに口をつけていた。
サクッ・・・
軽い・・・想いがこぼれるような音と
甘い・・・想いが溢れ出す様な香りが
水銀燈の心を刺激する・・・
「美味しい??」
「・・・・・・ 不味ぅい ・・・・・・」
「♪ そう! よかったわね ♪」
美味しいかと問い掛け、
割合な間を置いて不味いと答えた水銀燈の態度に、めぐはさも嬉しそうな声を出す。
水銀燈はめぐからそっぽを向いて、体育座りのまま、
漆黒のドレスにクッキーの欠片がこぼれるのも気にせず・・・
「 ・・・不味い・・・(モグモグ) ・・・不味いわぁ・・・(カリカリ) 」
と、時折言い訳じみた文句を交えて、顔ほどもある大きさの
自分の笑顔のクッキーをほおばり続けている・・・
めぐは、自分に背を向け無意識にパスパスと縮んだ翼を羽ばたかせる水銀燈を・・・
愛しむ(いとおしむ)ような微笑で、ずっと見つめていた。
91:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 14:58:19 VPXrGC26
あと少し続くデス。
92:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 16:20:27 pdJhcKoD
>>91
うは~最高です
(*´Д`)銀様/lァ/lァ
93:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 19:33:04 /rJfjr/d
これは良作
94:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 20:46:34 LGF0+gxP
クッキーが食べたくなった
95:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 23:14:41 s+Zf0ddg
泣けた…。
歳相応に、涙腺の締まりが弛いからだよな…
96:名無しさん@お腹いっぱい。
07/02/23 23:48:06 O3YzEQnv
銀様の食べ方が青汁のそれだw
97:悲しみにブラックフェザー
07/02/24 09:44:29 5asXUptZ
私は水銀燈 人呼んで ファィティング・ドール
私の事をジャンクだと 笑わば笑いなさい
確かに私は 身体の半分はドールで 半分はジャンクよ
体の中にガラクタやジャンクが組み込まれ
けど 言っておくけど 私をバカにする奴は
この背中の翼 ブラックフェザーが胸に突き刺さるのを覚悟しときなさい
黒い翼が 鋭く光り フィールドに広がる 地獄絵図
ブラックフェザーで 返り血浴びる 冷たいファイティング・ドール
★(水銀燈) 苦しみを越えた時 (水銀燈) 微笑みさえ失しちまった
☆アリスでもない 人間でもない 悲しみがフィールドに こぼれ落ちる
愛を知らずに 夢にはぐれて Ah-Lonely night
シベリアの冬は厳しい 私が生まれ育ったのはそのシベリアの小さな村
できそこないのドールとして みんなに石を投げられたものよ
そして次に入ったのが ???? やられ専門のドール養成機関
けど 生まれながらに備わっている戦う本能が 負けることを許さなかったわ
私は 相手をぶちのめして雪の中を逃げたのよ
この世は勝たなければやられる だから 勝つために私は戦う
けど 言っておくが 私の体の中にも薔薇乙女の誇りがあるのよ
鉄のハートが重いおまえは 戦うことが 生きがいなのか
黒い悪魔と 仇名されても 無口なファイティング・ドール
(水銀燈) 残酷なラフ・ファイト (水銀燈) 身体の下に悲劇を隠す
アリスでもない 人間でもない 悲しみがフィールドに こぼれ落ちる
愛を知らずに 夢にはぐれて Ah-Lonely night
(水銀燈) 苦しみを超えた時 (水銀燈) 微笑みさえ無くしちまった
アリスでもない 人間でもない
悲しみがフィールドに こぼれ落ちる 愛を知らずに 夢にはぐれて Ah-Lonely night
98:ワショーイフェイトの歌作ったよー
07/02/24 10:11:42 5asXUptZ
URLリンク(www.youtube.com)
これ聞きながら読むと雰囲気がわかると思う