07/01/16 22:38:53
第四十九話『落ち着く事が大事なんだよ』(後編)
「ここからは長丁場になるな。ここらでひとまず、気分転換と行こうぜ。」
カトックの手に握られていたのはガムの袋であった。シンはそれをまじまじと見ながらカトックの神経を疑った。
「あんた、なんだってこんな時にそんなに落ち着いてられんだよ? ここは敵陣だってのに、そんなにのんきに構えてて良いのか?」
「敵のど真ん中だからこそ、落ち着く事が大事なんだよ。焦ったって奴さんが引いてくれるわけじゃねぇだろ? とっとと食え。塩味が効いてて、うまいぞ。」
「ハハ、塩味のガムか…。」
ガロードは彼の手から躊躇することなくガムを受け取る。ガロードのその様子を見たシンも自分だけ取らないわけには行かないと持ったのかしぶしぶガムに手を伸ばした。
「うへっ…! なんて味だよ…。」
「おいおい、吐くんじゃねぇぞ? 食べ物を粗末にするなってママにいわれなかったか?」
「大きなお世話だ!!」
カトックの言葉に顔を赤くしながらも、シンは海水の滲みたガムを奥歯で噛み締めた。
クチャクチャとガムをかみながら3人はこの状況をどう打開すべきか議論を始める。敵は上に3人、しかも暗視スコープ付きのライフルでいつでもこちらを狙撃できる状態。
対してこちらは弾数であれば負けはしないものの、敵が見えない以上こうやってコンテナの陰に隠れていることしかできない。
「とりあえずは、どうしようもないってことだな…。」
ジジジジジ……
3人がどうしたものかと頭をひねっていると、緊急用のシャッターを閉じた入り口の方から異音が響き始めた。入り口の方に目を向けるとシャッターから2本の青白い炎が飛び出している。
「やばいぞ、あいつらガス溶接機でシャッターを強引に破る気だ!!」
「この状況で奴らに入られたら、いよいよアウトだ。それに、あいつをどうにか手に入れないと…!!」
今まで余裕の表情だったカトックから余裕が消え、初めて焦りの色が見えた。シンたちには退路はなく、シャッターの向こう側にいる兵士と比較したら弾薬も少ない。
状況は彼らに不利な方向へと動き始めた。
「一か八か突っ込むか…。」
「バカ、狙い撃ちにされるのがオチだって!」
「…いやまてよ? そうでもないかも知れねぇぞ…。」
溶接機でどんどん切断されてゆくシャッターを眺めながらカトックの頭の中で一つの状況要素がまとまっていく。導き出された答えはなかなかできない発想のものであった。
「二人とも、俺に命を預けられらるか?」
真剣な表情で、カトックは二人を見つめた。