種・種死のキャラがX世界に来たらat SHAR
種・種死のキャラがX世界に来たら - 暇つぶし2ch816:GX1/144 ◆nru729E2n2
06/11/06 21:14:16
ようやくできました…。満足できるしていただけると幸いです。

第四十話『”月の魔力を借りた悪魔の兵器”だよ』(前編)

 夜空には幾万もの星が瞬いていた。満月を過ぎ、月の出が遅くなるにつれて星々が主役になる時間が長くなる。月光の強さとはかけ離れた小さなその光は、満月の夜空とは違う儚げな光で夜空を彩る。
 星たちの瞬きの下、漆黒の海面に白波を立てながら風のように飛ぶ1機の蒼い鳥のようなMAがあった。名は『エスペランサ』、戦後に作られたハンドメイドMAでその名は『希望』を意味する。
「ようやく島のある海域に入ったみたいね……。」
エニル・エルはコックピットの中で1人呟いた。
 品の良い輪郭に赤みをおびた黒い髪、長い睫毛やパッチリとした猫を思わせる大きな瞳は彼女の女性としての魅力を引き立てる。
MSに乗る人間はあまり肌を露出しない服装をしているのだが、彼女は逆に肩や背中を大きく露出させ、成熟した大人の女としての色気をかもし出していた。
彼女は戦後間もない頃に宇宙革命軍の将校だった父親を目の前で殺され、母と二人で動乱期を生き抜いてきた。秩序の崩壊した世界で、女が経験する苦労は一つや二つではない。
その中で自分を守る術を覚え、父と同じようにMSに乗り、今日生きている。
父親が優れたパイロットであったためか、彼女も優れたMS乗りになっていた。MS乗りとして殺伐とした毎日を送る中で彼女が一番に感じたのは『女が幸せを掴むのは戦争で勝つことよりも難しい』ということであった。
「いてもたってもいられなくなって飛び出してきたけど…、これからどうしようかしら…。」
北米大陸でのゴタゴタで嫌気がさしたエニルは一度MSを降り、普通の生活をするために新天地としてセインズアイランドを選んだ。治安の管理が行き届いたセインズアイランドは彼女にひと時の安らぎを与える。
自分なりの楽しい生活もやっていたし新しい恋も見つけた。だが、満足できる環境にいるはずの彼女は、その環境で新しい人生を歩むべきか、元のMS乗りとしての世界に戻るべきか、二つの中で大きく揺れていた。
「フリーデン……か。」
 北米大陸で起こったゴタゴタの一番の原因であるフリーデン。その白い艦体が再び目の前に表れたことにエニルは驚愕し、同時に少しだけまったく別な感情を覚えた。
「ホント、人生ってなにが起こるかわからないわね……。」
いたずら好きな運命に喜びと諦めのため息をつきつつ、エニルはディスプレイに映る一つの島に目指した。
 その島は、戦前に作られた海図には載っていなかった。しかし、コロニー落としのおかげで地球連邦の本部の有った南アメリカは大陸の形そのものが変わってしまっている。
それに比べたら海上に島が一つ二つ増えたことはたいしたことではない。そう、その島がただの島であればどうでも良いことであった。

島に入った途端、島のあちこちから警報が鳴り響き、ライトが夜の闇を照らす。エニルは島の異常な反応に舌打ちをした。
「こんな所で一体なんだって言うのさ!?」
着陸態勢に入っていた機体を強引に動かし森の中を突っ切る。うっそうとした森の中で急反転などすれば最悪の場合バーニア等に損傷が出かねない。
 このMAに乗ってまだたいした時間はたっていないが、そういったことは機体を買ったときに既に理解していた。
「このまま島の反対側まで突っ切るしかない!」
操縦艦を押し込み、島を縦断すべくエスペランサはものすごい速度で進んだ。
「無人島かと思ったのに、たいした歓迎ね!!」
地面からはいくつもの対MS用機銃が火を噴き、エスペランサを撃ち落そうと弾丸を繰り出す。
進行方向には大きな山がある。山越えをしていては最悪の場合蜂の巣になりかねない。
エニルは山を迂回するために山の右側へと機首を向けた。



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