06/09/03 00:23:43
第三十二話『そのための捨て駒だ』(中編)
「総括官、キラ・ヤマトを連れて参りました。」
キラはシャギアとオルバと共に、アイムザットの自室を訪れていた。目立った調度品などはなく、来客用の机とソファー、書類作業用の大きなデスクという簡素な部屋でアイムザットはキラ達を睨みながら迎えた。
「ご苦労、早速本題に入るが、キラ・ヤマト。今この場に呼び出された理由は、わかっているだろうな?」
デスクに座って腕を組み、眉間に深くしわを寄せたアイムザットからは激しく燃える怒りが感じられる。キラは刺すような視線を受けながらただ淡々と答えた。
「この間の戦闘での命令無視、勝手に勧告を出したことに対しての処分・・・ですか?」
「そうだ。」
おもむろに席を立つと、アイムザットはキラの前に立ち、上から見下ろす。頭一つ背の高いアイムザットが憤怒の形相で睨みを利かせる。
「貴様のやったことは、本来ならば銃殺物だ。」
彼の表情は硬い。平静を装っているが、沸騰した水が水蒸気を撒き散らすように怒りを完全に隠すことはできない。
「だが、貴様のパイロットとしての能力は正直惜しい。今回はこれで勘弁してやる。」
そう言うと彼はうなだれたままのキラの襟首を掴み右手で思い切り殴りつけた。殴られたキラのほうは殴られた勢いのまま床にたたきつけられる。
ドアの横に待機していたシャギアとオルバはその様子を何も口にすることなく見ていた。
『兄さん、どう思う?』
『短気なアイムザットのことだ、いつもだったらこの場で銃殺しているところだろう。』
『じゃあ・・・?』
『ああ、おそらく何かカードがあるな・・・。』
声を出さずとも彼ら双子は心を通わせる事ができる。上官の前で黙って立っていてもこの力を使えば会話をすることは難しいことでは無かった。
「貴様にはこの艦を下りて、ある場所に行ってもらう。」
「ある場所・・・?」
殴られた左頬を押さえながら上半身を起こしたキラはアイムザットの疑問符を浮かべた。新連邦のことを深く知らない彼には、向かわされる場所にまったく見当がつかないからだ。
「どこに行けというんですか?」
「更生所だ、それも参謀本部のお膝元にある特製更生所”ケルベロスの檻”!」
アイムザットの出した更生所の名前にさすがのシャギアたちも驚きの表情を見せた。
『兄さん!? ”ケルベロスの檻”って…!』
『ああ・・・、獰猛で手が着けられ無い三つ頭の炎の魔物、地獄の番犬”ケルベロス”の住むと言われるほど手荒い歓迎を受ける最終更生所。
ここに入った者で更生が終わるまで生き残った者は誰一人としていない。』
『入ったら最後、二度と出てこられないといわれる言わば”地獄の一丁目”・・・。』
『そんなところに彼を入れて一体何をしようというのだ・・・?』
「”ケルベロスの檻”って・・・?」
シャギアたちが驚きの表情を浮かべる中、キラは眉をひそめて怪訝の表情を浮かべた。名前だけを聞くと恐ろしさを感じるが、どうにも実感がわかない。そんな彼にアイムザットはさらに続ける。
「貴様のような大バカ者を更生する訓練所だ。そこでみっちり”兵士として基本”を叩き込まれてこい!!」