06/06/10 01:14:41
深夜にネタ投下… 大手の1次試験とおったは良いけど今後が大変…
第十九話『何でこの船にはスーパーマンがいっぱいいるんだ?』(前編)
ガロードより早く戦闘中に落としたライフルを回収したシンは、先にフリーデンに戻っていた。機体をメカマンたちに任せた後、なんとなく海を見たくなり海岸へと足を運んだ。
「…海…か。」
空には青白い光を放つ月が漆黒の闇を照らす。風も無く穏やかな岩場に腰掛け、波の音だけが響く水平線に目を向けた。
あちら側にいた頃に海辺で体験したいろいろな出来事が思い出される。家族で行った海水浴、友人といった釣り、ユニウス7が落下した後に久しぶりに訪れたオーブ…。
「…ま、一番の思い出はやっぱりステラだよなぁ…。」
血のバレンタインからずっと戦争ばかりの世界にいた彼にとって彼女とともに過ごした時間は何事にも変えがたいものであった。たとえその後敵味方に分かれて戦って、助ける事ができなかったとしても。
「静かだな…、ここは。だけど温かい…。」
あちら側では軍という組織柄階級やエリートが幅を利かせていて自由な交友関係を築く事ができなかったが、フリーデンの中ではその規制がゆるいためいろいろな人と話をする事ができる。彼の自分勝手がある程度許されるこの艦をシンは好きになっていた。
「いや、こっちのみんなが大人なだけか…、あっちじゃみんな人生経験が同じような奴ばっかで相談なんかもろくできなかったもんな…。」
彼がミネルバのクルーで悩み打ち明ける事ができる相手はせいぜいレイにルナマリア、艦長であるタリア・グラディスぐらいのものだ。その他の仲間には個人的にあまり信用を置いていなかった。自然と彼の周りにできる交友関係の輪も小さくなっていった。
「アカデミーのときはわりと分け隔てなく話をしてたんだけどなぁ…。」
戦いで功績をあげ称えられはしても、功績を上げればあげるほど友人たちは自分から離れていく。シンは今更ながらそのことに気づいた。
「そういえばあっちにいた最後の頃って話してたのレイだけだったな。ルナマリアはまた別だし…。」
ディスティニープランについてもいろいろ話をしていたがレイ以外の人間とこのことについて話をした記憶は無い。世界各国の反応と同様にどうしたらいいのかわからないといった
反応をミネルバの談話室で見たことはあったが、それは見ただけで実際に彼らがどう思っているのか非常に謎である。
「今になって考えるとおかしいよな? 何でレイはあそこまで俺にプランを守るための礎になるようにいったんだろう。」
彼自身、ディスティニープランについてはよくわからない。遺伝子解析による職業の割り当てが主軸となっていたが、遺伝子のパターンだけでその人の職業をきめていいものなのかシンには迷う事柄だった。
めまぐるしく変化していたあちら側とは違い、今彼の周りはゆっくりと時間が過ぎてゆく。だからこそ、こうやってあのときの状況を整理する事ができるのだろう。
ヘブンズベース、オーブ、さらに月にまで続いた戦いに明け暮れる日々のおかげでゆっくりと考えることもできなかった。いや、むしろ彼に考えさせようとしていなかったのかもしれない。
パシャ…
海面に響く水音に目を向けると体長1mぐらいの大きな魚が数匹群れを成して泳いでいる。よく見ると背中に大きなヒレがついていた。
「イルカ…? こんなに陸のそばで…?」
イルカの群れはシンに見向きもせず別の方向へ泳いでいく。歩いて彼らの向かう方向へと体を向けると、途中でようやく武器を回収したGXが戻ってくるのが見えた。
「…ま、いっか。」
シンは海に背を向け艦へと戻ってゆく。戦闘中にイルカがガロードを助けた事がふと頭によぎったが偶然の出来事に違いない。そう思うとさっきのイルカのことはどうでもいいことになってしまうのだった。
艦に戻ってゆくシンを海面から頭を出し見つめるものがいたが、彼がその視線に気づくことは無かった。