06/05/02 12:13:57
遅れてすいません…。 昨日は帰ったのも遅くてネットを開く気力すらありませんでした…。
第11話『ここが俺の自慢の故郷だ』
「久しぶりだな…親父、パステル。」
ひっそりとした森の奥にある墓地の一画にウイッツは立っていた。日は頂点よりも少し傾き、春にしては少し強い光であたりを放っている。宗教上の関係で棺は土の中に埋まり死者は静かな眠りについていた。ウイッツの前にはわりときれいな二つの墓が並んでいる。
「馬鹿だよお前は…、コロニー風邪なんぞにやられて。それでなくても末っ子ってのは親といる時間が一番短いんだぜ? あわてて天国に行かなくても良いのによ…。」
ウイッツは答えがくるはずもない相手に話しかける。ここに眠っているのは彼の父と、彼の一番年の離れた弟である。父はMS乗りに殺され、弟は疫病で死んだ。何もできなかった悔しさ、家族の苦しい生活を良くするために彼は家を飛び出しMS乗りになったのである。
「土産を受け取ってくれよ。お袋たちにはもっとすげぇ土産があるんだぜ。」
それぞれの墓に父が好きだった酒と弟が好きだったチョコレートを置く。そして彼が持っていた大きなスポーツバッグから”家族への土産”を見せた。
「こいつをしこたま持ってきた、これでみんな楽ができるだろう。」
見せたものは俗に言う”金塊”であった。彼が2年間必死に働いてためた金塊の量はすさまじいく、金額に換算すると億は軽く超える額になるだろう。だがそれを語るウイッツの表情は暗い。
「こいつを稼ぐために俺…、MS乗りになったんだ。お袋が世界で一番嫌いなMS乗りに…。」
MS乗りの仕事はとても実の入りがよく、仕事を一つこなすたびに金塊の一つや二つは楽に稼げてしまうのである。しかし、彼にとってMS乗りという仕事は一つの禁忌であった。
父を殺したMS乗りになった息子を母は認めるだろうか、そんな不安が頭をよぎる。
「お兄…ちゃん?」
後ろから声がかかった。戦争で秩序が崩壊しているこの世界では信じることのできるものは本当に信頼できる仲間と自分の力だけ、無意識に荷物をわきに抱え懐のリボルバーに手を伸ばす。だが、彼が振り返って相手の顔を見るとリボルバーのグリップを握る手の力が一気に抜けた。
「やっぱりお兄ちゃんだ!!」
「帰ってきてくれたんだ!!」
「コルトル!? サエリア!!?」
声の主は彼の妹たちであった。二人ともウイッツと同じ短めの金髪を二つに結び、ウイッツと同じ碧色の目をしている。この二人は一卵性双生児で見た目も行動パターンもとてもよく似ている。
ウイッツは長男として昔はよく彼女たちの面倒を見ていたのであった。三人は喜びの抱擁を交わした。
「大きくなったな二人とも…!」
「だってもう9歳だもん。」
「そうか…、もう2年だもんなぁ。」
ウイッツは家を飛び出す前の二人の姿を思い出した。あの頃はまだまだ背が低く、本当に二人は本当に子供だった。
「コルトル、久しぶりにあれ、やってみる?」
「うん! お兄ちゃん、あっち向いてて。」
「お? おう…。」
ウイッツは妹たちに背を向ける。後ろからは妹たちの楽しげな声が響く
「もう良いよ~♪」
「何がしたいんだ?」
『どっちがど~ちだ!?』
二人は位置を入れ替わっている。だがこの一卵性双生児たちは顔のパーツや位置がほとんど変わらないため、どっちがコルトルでどっちがサエリアなのかぱっと見ではわからない。彼女たちは昔から良くこうやって遊んでいたのだ。
判断するにはそれぞれの髪の生え際を見る必要がある。コルトルは右寄り、サエリアは左寄りなのだが…。
「う~ん、久しぶりだからさすがに見分けがつかないか…。おねしょの癖は直ったか?」
「!? もうしないよ!!」
「わぁかった!! お前がサエリアだ!!」
ウイッツの質問に思わずサエリアが声を出す。2年間はなれて生活をしていてもやはり兄妹、一緒に過ごした時間は早々忘れることはなかった。
ずるいとかレディーに対して失礼だとかいろいろ文句を言う二人の表情にもウイッツは再開の喜びを感じていた。