♂倒錯シンジきゅんハァハァスレ♀ 9at EVA
♂倒錯シンジきゅんハァハァスレ♀ 9 - 暇つぶし2ch2:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/27 09:31:56
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3:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/27 09:34:01
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4:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/27 09:37:46
シンジキュンの萌え画像キボンヌ2
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5:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/27 09:38:40
女シンジきゅんA(先天・女装)
女シンジきゅんB(先天・男装)
女シンジきゅんC(先天・強制女装)
女シンジきゅんD(先天・強制男装)
女シンジきゅんE(後天・女装)
女シンジきゅんF(後天・男装)
女シンジきゅんG(後天・強制女装)
女シンジきゅんH(後天・強制男装)

ふたなりシンジきゅんA(先天・女装)
ふたなりシンジきゅんB(先天・男装)
ふたなりシンジきゅんC(先天・強制女装)
ふたなりシンジきゅんD(先天・強制男装)
ふたなりシンジきゅんE(後天・女装)
ふたなりシンジきゅんF(後天・男装)
ふたなりシンジきゅんG(後天・強制女装)
ふたなりシンジきゅんH(後天・強制男装)

男シンジきゅん(自ら女装)
男シンジきゅん(強制女装)

6:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/27 09:39:58
女シンジ×フタナリアスカ
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7:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/27 09:40:27
では、またみんなでシンジ(*゚∀゚)キュンキュン!していきましょう

8:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/27 11:40:46


9:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/27 12:01:06
>>1おちゅ

10:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/27 12:21:41
もつかれー

11:621の続きで
06/08/27 16:44:54
「まーた考え事して。あんたって本当にガキね」
「な、なんでアスカはいつも私を子供扱いするのさ!?」
「だってそうでしょ。ノーブラで鈴原や相田とつるんでるわ。
 ファザコンだわ。大体好きな男のタイプが父親と真逆な人だなんてさ」
「な!ブラはするようになったでしょ!それにあれはたとえばの話だよ!」
前にアスカと話していたことを思い出す。なんとなく言っただけなのに。
どんな男の子が好きと言われて、具体的に男の子をどうこう思ったことはないから。
私の傍にずっといてくれる優しくて暖かい、太陽みたいな人。
父さんとは違う人。でも、その時点て父さんを意識している私。
どっちにしろ、私をそんな風に思ってくれる人も、私がそんな風に思う人もいるのだろうか?
また考え始める頭を振り払う。このまま言われっぱなしも嫌だったのでアスカにも聞いた。
「じゃあ、アスカはどうなの?」
「決まってるでしょ、加持さんよ。加持さん以外のまともな男なんていないわ」
「加持さんか…」
あの、優しくてどこか影のある人。
ミサトさんに優しく笑いかける人。
あの人がアスカの好きな人。
「あんたの好きは、皆好きと一緒なのよ。だからガキだって言ってるのよ」
「…え?」
「あんたの好きは、『みかんが好き』の好きと同じでしょ?
 誰かを好きになるってのはそういうことじゃないわ。
 好きだけの感情じゃなくても、特別誰かを思ったことないんでしょ?」
「そんなこと…ない」
言葉尻が小さくなってしまう自分が嫌だった。
「あーぁ、あんた女で良かったわね。男でそんなウジウジした性格だったら
 誰も相手にしてらんないわよ」
「ち、違うもん!私が男の子だったらもっと…」
「あら、言うじゃない。でもきっとそうよ。今と変わらないわ
 いや、男な分今よりタチ悪いかもね~」

12:621の続きで
06/08/27 16:49:12
私はずっと男の子になりたかった。
男の子だったらこんな自分にはならなかったとおもうから。
男の子だったら父さんとの関係もうまくいってたかもしれないから。
それは願望にしか過ぎないのだろうけど。
面と向かって言われると、それはそれで傷つく。
そのまま黙っているのも癪だったので、反論すると
アスカはさらにとんでもないことを言い出した。
「男でも変わんないわよ。臆病で、キスするのも怖くてできない子よ」
「え!?き、き、キス!?」
「ま、あんたが男だったら暇つぶしにあたしがキスしてやってもいいけど」
「な、な、な、何馬鹿な事言ってるの!?」
「それはこっちの台詞よ。あたしはもしもの話をしてるのよ。
 あんたは男みたいな名前で 見た目も男みたいだけど、
 中身は女なんだから絶対にごめんよ!」
そりゃそうだ。私だってごめんだ。ファーストキスが女の子だなんて。
ホッとしていると、アスカは良いことに気が付いたように愉快気に私に尋ねてきた。
「でも、もしもの話だけでそんなに動揺するなんて、やっぱり怖いんでしょ?」
ニヤニヤと笑いながらとアスカが言う。だから私もつい強がってしまう。
「別に怖くないよ!キスなんて!」
「へぇ~、どうだか。そんなに真っ赤になっちゃって」
「なってない!キスくらい私にだってできるもん!」
「あらそう?へぇ~、お子様のシンジちゃんがキスねぇ~。
 このあたしもした事がないのに、あんたにできるのかしらぁ?」
アスカは必死な私を楽しそうにからかう。完璧に面白がっている…。
だから私もよけいムキになる。
その悪循環を止めるように、前触れもなく辺りに眩い光が降り注いだ。
電気が、戻ったんだ。明るい光に目が慣れずにいると、
横のエレベーターがチンッという小気味良い音を立てた。
ゆっくりと開くそのドアを、やっと慣れ始めた目で追った。
そしてそこにいたのは…。


13:621の続きで
06/08/27 16:53:35

「…………なにやってるんですか?二人とも」
「…………なにやってるの?二人とも」

物凄くきまずい顔で絡み合う二人の男女。加持さんとミサトさん。
探していた張本人達だった。
アスカの顔がザーッと音を立てるかのような勢いで真っ青になった。
「なにやってるのよぉぉおおぉ!!」
「ち、違うんだってばぁああぁ!っていうかト、トイレ!」
光を取り戻した世界で怒号が響いた。


「ギャ!ギャッ!」
「はい、ペンペン。美味しい?」
ミサトさんがいない朝の日課であるペンペンの餌やり。
嬉しそうに羽をバタつかせ、ペンペンは魚を食べている。
ミサトさんは今日も帰ってこなかった。あんな後だからしょうがないかもしれないけど。
本部も後処理で大変そうだし…。あれは、一体なんだったんだろう?
リツコさんの言葉を思い出す。

『ブレーカーは落ちたというより、故意に落とされたと考えるべきね』

誰か外部の人間の手が入ったってこと?だったら、何故…。
「って、私が考えてもしかたないか…」
「クェ~?」
心配そうに伺うペンペンになんでもないと伝えると、学校に行く準備をした。
「アスカ、まだ寝てるの?もう学校行く時間だよ」
この間の騒ぎから、イマイチ元気のないアスカはまだ自分の部屋から出てこない。
誤解とは言え、あんなの見ちゃったしな。ミサトさんと加持さんがエレベーターの中で…。
結局、脱出をしようと奮闘中に起きた事故らしいけど、
加持さんの事が好きなアスカにとってはショックだったのだろう。
「ねぇ、私先に行くからね」

14:621の続きで
06/08/27 16:55:31
最後にもう一声かけると、アスカの部屋の引き戸が開き
顔色が悪いアスカが出てきた。まだ気にしてるのかな?
いや、これは…。ひょっとして体調が悪いのかも。
そう思ってると、アスカは口を開いた。
「シンジ、学校行っちゃ駄目!」
「………はぁ?」
何で?テストも近いし、今日はトウジとケンスケ二人と遊ぶ約束してるし、
委員長に借してもらった料理の本を返さなきゃいけないし。
それに、いつまた行けなくなるかもわからないのに!
「駄目ったら駄目!今から本部に行くの!」
「えぇえぇえ!?な、なんでだよ!?」
「加持さんとミサトが本当に何も無かったのか聞いてきてよ!
 それから学校行って!」
「だから何で!?疑惑は解けたでしょ?あれは誤解だって…。
 現にミサトさんトイレに直行だったし!」
「そんなのわかんないわよ!だから本当に何も無かったか聞いてきてって言ってるの!」
顔色は悪い癖に、口の達者さはいつもと変わらない。
「だったら自分で聞けばいいでしょ?何で私が!?」
「あたしだって自分で行けるんだったらそうしてるわよ!
 でも今日生理2日めで死ぬほどお腹が痛いのよう!!」
「………わかった」
そうか、顔色が悪いのはそのせいか。
何だか一気に力が抜けた。アスカは生理が重いんだった。
私は軽い方だけど、来た日はさすがにぐったりしてしまうから。
その苦しみと不快感はわかる。私とアスカで唯一共有できる感覚。
周期的にやってくる自分が女だと思い知らされる現象。
ため息を付きつつ、部屋を出ようとするとアスカが伏せ目がちにポツリと呟いた。

15:621の続きで
06/08/27 16:58:39
「それに、本当に何かあったらって思ったら…」
「…アスカ」
気の強い彼女が時折見せる素の表情。普通の14歳の少女だと思わされる一瞬。
私はこのときが一番苦手だった。何もできなくなってしまうから。
アスカは本当に加持さんが好きなのだろう。
「じゃ、お願いね!絶対聞いてきてよ!」
アスカはわざわざ玄関から私を見送った。
そんなに心配なら、辛くても自分で行けばいいのに…。
口には出さなかったけど、心の中で思う。
1個言ったら、10個返ってくるのがアスカの性格だ。
より面倒くさい事態になるのは極力避けたい。
廊下の角で振り返ると、アスカはまだ私を見ていた。
でも、その目は私を見ていなかった。私じゃなくて、他の誰かを見ていた。
あの優しくて明るい性格とは裏腹にどこか影のある男性。
加持さん。あの人がアスカの好きな人。

『あんたが男だったら暇つぶしにあたしがキスしてやってもいいけど』

そんな事言っていたくせに。好きな人以外のキスなんか遊びだと言っていたくせに。
気丈な少女は、今は不安そうな小さな女の子みたいだった。
私が男だったら、アスカみたいな女の子を好きになっていたのかな?

好き…。

何だかアスカが少し羨ましかった。


そういえば、私は。
誰かに『好き』と言ったことも、『好き』と言われたこともなかったから。

16:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/27 17:24:12
gj!

17:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/27 18:36:01
今日もお~つ!!

18:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/27 20:58:58
乙!

19:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/28 16:14:42
シンジきゅん、心配するな。
ここにいる沢山の人達が『好き』って言ってくれるからw

20:621の続きで
06/08/29 00:26:19
ギギギッ

力を入れて、非常用の手動ハンドルを回す。
不愉快な音を立てて、ドアがゆっくりと開く。
まだ電気が完全に戻っていないせいで、移動にも困難な状態だ。
「ふぅ…。やっと開いた」
額にうっすらと吹き出た汗を拭う。
ここのフロアは、いや他もきっとそうだろう。
施設の復旧は今現在進行中らしく、
どの自動扉も手動で開けるほかは開かなかった。
「だめだ。ここも開かない」
ちゃんと自動で開く自動ドアを探して歩き回っていると、ふと気が付いた。
……ここ、どこ?
「まずい…。完璧に迷子だ」
せめてもと来た場所に戻ろうとすると、足音が聞こえた。
良かった。職員かな?とりあえず道を聞こう。
「ミサトさん…?」
振り返り、足音の主を確認する。
しかし、彼女は私の事には気が付いていないみたいだった。
声をかけようとして、躊躇した。
その横顔は、私の知ってるミサトさんじゃなかった。
険しい顔をした彼女は、まるで別人のようだった。
そのまま戸惑っていると、いつのまにか見失ってしまった。
あてもなく歩く。確かこっちに来たと思ったのに。
どこも同じようなドアが並ぶ廊下で、それまでとは違うものを見つけた。
私は何故かそこに足を運んだ。
何故か行かなくてはいけない気がした。

立ち入り禁止区域、ターミナルドグマへ。


21:621の続きで
06/08/29 00:28:02
声がする。
誰かが言い争っている。
でも、その声もよく聞こえない。
どこから?どこから声がするの?

誰かいるの…?

声のする方向へ歩く。勝手に足が動く。
行きたくはないけれど、行かなくてはいけない気がした。
電源が復帰し、光が戻った施設で闇を見つけた。
暗く閉ざされた部屋。
立ち止まった時、カツンと軽く靴音が鳴った。

「シンちゃん…!?」

その部屋にはミサトさんと加持さんがいた。
そして、もう一つ。
いいえ、あれは。
もう一人?

十字架に貼り付けられた、白い、巨人。
突き出た真っ白な腹の下は、何もなかった。
ちぎれてしまったのか、生えている途中なのか。
いくつもの目が私を見下ろしている。
憐憫なのか、慈愛なのか、憎しみなのか。
それとも「何も無い」のか。
読み取れない感情を持ったそれは、神様みたいだった。
断罪を、最後の審判を待っているかのような。

「どうしてここにいるの!?」


22:621の続きで
06/08/29 00:34:26
ミサトさんが私をアレから遠ざけようと、ブラウスを掴む。
私は何も感じなかった。何も聞こえなかった。ミサトさんの肩越しの白い巨人だけを見ていた。

父さん。父さんは一体、何をしようとしてるの?こんな私には考えも及ばないもので。

父さんのことを考えることは、手で水を掬うことに似ている。
掌で受け止めた水は零れ落ちてしまった。
指先に残った雫は、蒸発して消えてなくなる瞬間、意味をくれた。
たった一つの本当のこと。

母さんの墓標に一緒に添えた、白い花。
父さんは母さんを愛してる。
だったら、ねぇ、父さん。
だったら、私は?
私のことは?

ねぇ、父さんは。私のことを、愛してる?

たった一つの本当のこと。ずっと思っていた。ずっと聞きたかった。
たった一つの疑問。

でも、もう雫は消えてなくなってしまった。

私は、気付いてしまった。もう父さんには近づけない。どんなに手を伸ばしても、届かない。
たまに見る悪夢みたいだった。目が覚めると忘れてしまう。
血と機械油の匂いのする夢。掴みかけた瞬間に儚く消えてしまう。
指先に残った、最後の雫のように。

母さんの墓標に添えた花も、もう枯れてしまっただろうか?

『自分の力で地に立って歩け』
それが、父さんのくれた最初で最後の父親らしい言葉だった。

23:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/29 02:53:56
乙彼!

24:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/29 06:28:25
頻繁な更新に感謝します。乙鰈。

25:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/29 15:58:04
このシーン、おにゃのこだとより健気っていうか、可哀相になるね

26:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/29 18:09:00


うーん
もうちっとオリジナリティがほしいところ
…というかこのへんはやりようがないか

27:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/29 19:05:16
文句言うならおまいが書け

28:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/29 20:14:32
>>27
白痴かお前??

29:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/29 21:29:06
俺SSとか書いた事ないんですが、脳内妄想ぶちまけてもいい?

30:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/29 21:47:44
叩き覚悟で投下するならば
反対する理由なない、存分にやりたまえ

31:621の続きで
06/08/29 22:29:44
エヴァのエントリープラグ。
何よりも居心地が悪くて、何よりも居心地が良いこの空間。
血の匂いがするLCL。いつかの悪夢のような。

「シンちゃん、どうしたの?」
「…何がですか?」
シンクロテストの後、リツコさんがいつものように結果を教えてくれた。
でも、今日はいつもと違い何か問題が合ったらしい。
「前回はハーモニクスが8も伸びていたのに。こんなに極端に下がるなんて」
「伸びたって言っても、あたしより50も少ないじゃない」
「あら、この短期間でこれだけ伸びたのよ。たいしたものだわ」
「たいしたことないわよ。実際今は下がってるじゃない!」
リツコさんとアスカの言葉も、もう私には何も感じない。
シンクロ率の著しい低下。きっと、あれを見てしまったせいだと思った。。
そうか、私はまだあんなことを気にしているのか。
父さんに捨てられて泣いていた、三つか四つの子供のように。
ミサトさんも言っていた。忘れて、と。
そうだ、全て忘れてしまおう。良いことなんて、一つも無いから。

プラグスーツを脱ぎ、シャワーを浴びた。温かいお湯が心地よい。
青い制服に袖を通す。スカートは相変わらず落ち着かない。
もう、血の匂いはしなかった。
「碇さん、どうかしたの?」
「…綾波」
帰り支度をしていたロッカールームで、綾波が話しかけてきた。
忘れようと勤めていたはずなのに、
自分でも知らないうちに元気がない顔をしていたらしい。
普段元気いっぱいとは決して言いがたい私だけど、
綾波にすら分かるということはよっぽどなのだろう。

32:621の続きで
06/08/29 22:30:43
「綾波の言った通り、この間父さんと話をしてみたの」
あそこで、母さんの墓の前で父さんを見たとき。
父さんが、私と同じ母さんの好きだった白い花を添えていたとき。
…嬉しかった。父さんと話ができることが嬉しかった。でも。
「でも、駄目だった。きっと、もう私は父さんと話ができる日なんて
 もう二度とこないと思う」
「そう…」
「私は私が男の子だったら父さんのことが理解できたのかなって、
 いつも思っていたんだけど。…そういうことじゃなかったの」
綾波は少し悲しそうな顔をした。けれど、私はその顔は横目で捕らえただけで
彼女の顔をはっきり見ることはできなかった。
「シンジ、こないだのことだけど。あんたちゃんと聞いてくれた?」
微妙な空気の中、アスカが割って入ってきた。
あの状態で、あんなことが聞けるはずもなく
実際あれから加持さんの顔は見ていない。
「ごめん。気持ちはわかるけどでもああいう事は、
 人に頼まないで自分で聞いたほうがいいと思う」
後ろで何か言っているアスカを背中で感じながら、私はネルフ本部を出た。

空が青い。蝉が鳴いている。日差しが優しく降り注いでいた。
もうやめよう。父さんのことを考えるのは。
綾波は言った。エヴァの乗るのは絆のためだと。
アスカはいった。エヴァに乗るのは自分を褒めてあげるためだと。
じゃあ、私は。私がエヴァに乗る理由は?
ずっと、憎んでいた。でも、どこかで理解したいと思っていた。
だから、エヴァに乗った。あれに乗っていれば、敵を倒せば
父さんが喜んでくれるような気がしたから。私を認めてくれるような気がしたから。
でも、違っていた。それももう…。

33:621の続きで
06/08/29 22:33:58
「どうした?そんなボーっとしていたら悪いお兄さんにナンパされちゃうぞ」
「…加持さん?」
横付けされた車から明るく声をかけられた。
あのときのことなんて、何もなかったかのように加持さんは話しかけてきた。
「…この間のことだったら。私何も言いませんよ」
「そうしてくれるとありがたいな。なぁ、帰るんだろ?送ってくよ」
そう言われても、こんなところアスカに見られたりしたらまた面倒なことに
なりそうだし。それに、加持さんは見た目通り女の人が大好きみたいだ。
まさかとは思うけど、一応言っておく。
「私、一応女ですよ?」
「ははっ。俺がナンパする悪いお兄さんか?まぁ、そう警戒するなって。
 ……君とも少し話しがしたいしね。お兄さんとデートでもしようか」
にこやかに笑う加持さんのサングラス越しの目を見ながら、私は助手席に乗り込んだ。

「綺麗…。こんな所があったんですね」
「どうだい?お嬢さん、デートのセッティングは気に入ってもらえたかな」
「…加持さんってもっと真面目な人だと思ってました」
「あははっ。冗談だよ」
街のはずれにあった小さな水族館。男の人とこんな所へ来たのは初めてだ。
空気のある薄暗いこちらとは違い、水の中の世界は明るく輝いていた。
目の前には、ガラス越しに色取り取りの魚達が楽しそうに泳いでいる。
ここから出たら、死んでしまう。そんな命。
「シンちゃん。ネルフについてどれくらい知っている?」
「使徒と呼ばれる正体不明の敵を倒すための特殊機関じゃないんですか?
 あと、未然に予想されるサードインパクトを防ぐとか。これはアスカの受け売りですけど…」
ここに来た意味も。加持さんが何を言いたいのかもわからない。
そして、父さんのこともネルフのことも。
わからない。違う。きっとどうでもいいんだ。それなのに、加持さんは語りだす。
私が知ってもどうしようもないこと。私が知りたくも無いこと。
「待ってください…」
それでも彼は語る。そんなこと。知りたくも無い。聞きたくも無い。
私がそんなことを知ったっていまさらどうしようもない。

34:621の続きで
06/08/29 22:35:08
震える手でスカートを握り締める。
指先の雫は消えてなくなってしまった。
墓標の白い花はきっと枯れてしまった。
「私がそんなこと知ったって、どうしようもないじゃないですか!!」
「君には真実を知る権利と、その義務がある。君は前に進まなくちゃいけない」
進むって…どこへ?私はこの場所で十分だ。
聞きたくない。今更何も変えられやしない。
そんなこと言わないで欲しい。
どうしたらいいのかわからなくなる。
「碇ゲンドウと、エヴァを作り出した碇ユイとの間に生まれた娘ならね」
「…母さん?」
私の知ってる母さんは、普通の母さんだった。科学者なんかじゃなかった。
顔も覚えていない母さん。でも、その手の温もりは何となく覚えている。
もう二度と触れることは無い母さんの手。だって、母さんは死んだから。

『かわいそうに。あの子の父親は自分の妻を…』

父さんの実験の犠牲になって、そして死んだって…。
「そう人から聞いたのか?それともそう思い込んでいるだけかい?
 君は見たはずだ。お母さんが目の前から消える瞬間を」
「母さんは…」
「君は辛いことを無意識に頭から忘れようとしてるだけだ」
ふらふらとベンチから立ち上がり、目の前の水槽に両手を付く。
掌にガラスの冷たい温度を感じた。魚が楽しそうに泳いでる。
透明な板一枚の向こうには、いくつもの命。
どこかで同じ光景を見たことがある。
そう経験したことがある。でもこの手はもっと小さかった。
ガラスの向こうにあるのはいくつもの命じゃない。
たった一つの命。
…母さん?


35:621の続きで
06/08/29 22:36:38

『何故ここに子供がいる?』
『この子には明るい未来を見せておきたいんです』
『脳波、心音、共に停止!』
『被験者生命反応がありません!』
『実験中止だ!!』

あの血と機械油の匂いのする夢。
目を覚ませば全て忘れてしまう夢。
あれが夢じゃないとしたら…?
父さん。母さん。そして、エヴァ。
私はエヴァを知っていた?
今まで忘れていただけ?
記憶が渦となって押し寄せる。
けれどそれは、もう少しのところで掴めない。
思い出せない。思い出したくない。
忘れてしまった。忘れてしまいたかった。
でもきっと、忘れてはいけなかった。
私の中に閉じ込めた、私だけの記憶。

胸が痛い。身体が軋む。心も軋む。
寒い。寒くなんかないのに。
声を出そうと思っているのに、上手く声が出てこない。
音が出てこない。
掠れた喉から嗚咽のような吐息が出るだけだった。

「すまない。無理に思い出さなくてもいい。それでも背けちゃいけない。真実から」

小さく震える私の肩を、加持さんがそっと抱いた。
その腕はとても暖かく、煙草の匂いがした。


36:621の続きで
06/08/29 22:38:25
次、四人目の適格者

37:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/29 22:53:06
まじ乙!しかもこんなに大量にww

38:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/30 00:17:14
乙彼!

39:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/30 08:57:30
乙彼。
この光景を見られてアスカ精神崩壊の余寒。

40:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/30 12:55:23
四人目の適格者ってことは、そろそろ欝展開が近付いてきたな

41:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/30 13:01:24
こっからがシンジきゅんの正念場だな…

42:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/30 20:07:30
EDはやっぱりEOEな感じの欝エンドなんだろうか

43:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/30 21:09:06
早い段階で、ゲンドウと決別しそう。

44:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/30 21:14:49
このシンジきゅんは女の子なのに男の庵シンジよりも芯が強いコだからねww

45:621の続きで
06/08/30 22:49:16


「真実から逃げてはいけない」


優しい腕とは裏腹に、囁かれたのはそんな残酷な言葉。


そんなこと、そんなこと言われても、
私はどうしたらいいのかわからない。
真実なんていらない。
そんなもの私には必要ない。
今の私にはそんなものいらない。
楽しいことを見つけたんだ。
やっと楽しいと思えたんだ。
せっかく見つけた居心地のいい世界。
そこにずっといたいと思うことは、いけないことなの?

加地さん。
私は、今までそんな風生きてこなかった。
私はあなたみたいにはなれない。
私はあなたの様に生きる事なんてできない。
知りたい物が何なのか、何を知りたいのかすらわからないのに。


今更全てを背負って生きていくだなんて、私には重すぎて歩けない。



46:621の続きで
06/08/30 22:50:36
「シンジ、どうしたんだ?」
「……あ」
声をかけられてハッと顔を上げた。
あぁ、そうだ。もうお昼なんだ。考え事に夢中で気付かなかったらしい。
「シンジ!お弁当、お弁当!」
アスカが催促している。
アスカは私に女としての身だしなみをどうこう言う割に、家事がまったくできない。
だから私がアスカの分もお弁当を作っているのだ。
アスカは私を女らしくないと良く言うけれど、私から見ればお互い様だと思う。
「はい。残さないでね」
「わかってるわよ。あんたって見た目によらず料理の腕はまぁまぁイケるわよね」
「そ、そうかな?」
昨日は宿題がいっぱいでお弁当を作るのは疲れて大変だったけど、
そう言われると悪い気はしないな…。
「シンジ母ちゃんみたいやなぁ」
「案外主婦とか似合ってたりして」
「なにそれ…」
自分もお昼を済ませようと弁当箱を開くが、食欲がない。
ずっとあの日のことを考えていたせいだ。
私があの日に見たもの。
幼い私があの日に見たもの。
どちらも知らなくてはいけない真実なんだろうか。
だとしたら、私は…。
「シンジ、具合悪いのか?」
「え…?あ、うん。食欲ないんだ。代わりに食べない?」
二、三度箸を付けただけのお弁当を差し出す。
「えぇー。早く言えよ。俺もう食べちゃったよ」
「せやったらワシが貰うわ」
そう言うと、トウジは私の箸とお弁当を受け取った。

47:621の続きで
06/08/30 22:51:35
「え?トウジ、まだ食べるの?」
「男やったらこれくらい当たり前やで」
「私にとっては『これくらい』じゃなくて『こんなにも』なんだけど…」
トウジの机の上を見ると、牛乳や菓子パンや惣菜パンの空袋でいっぱいだった。
その上さらに私のお弁当を美味しそうに食べている。
その胃袋の容量に関心しているうちに、トウジはすでにお弁当を半分くらいにしていた。
そりゃ、体格も良くなるはずだ。
「うまいなぁ。シンジ、料理上手やな」
そう言って、彼は笑う。
口一杯におかずを頬張っている姿は何だか滑稽だったけれど。
「お世辞言ったって何も出ないよ?」
「いや、ほんまやで」
「私のはただの義務みたいなもんだよ。彩りとか結構いい加減だし。
 料理上手ってのは委員長みたいなのを言うんだよ。盛り付けも綺麗だしさ」
「や、やだ!碇さんたら」
「いいんちょも弁当自分で作っとるんか?」
「え!!う、うん、そうなの」
トウジはアスカと一緒に食べていた委員長のお弁当を覗き込んでいる。
委員長は薄らと頬を染めていた。
トウジと話しているときの委員長は何か変だ。
ケンカしてても何か楽しそうだし。かと思えばあんな風に真っ赤になるし。
トウジは何ともないのにな。どうしてだろう?不思議だなぁ…。
なんとなく二人を眺めていると、雑誌をめくっていたケンスケが声を上げた。
「あー!この新作ゲーム、今日発売だったんだ!なぁ、今日新湯本まで行かないか?」
「私はいいよ。買いたいCDあるし」
「すまん、ワシはパスや」
そう言って、トウジは帰り支度をし始めた。まだ午後の授業は残っているのに。
「ほなシンジ、ごっそさん。あ、買うたらワシにも見せてな」
不思議に思う暇もなく、トウジは空のお弁当箱を返すと教室を出ていってしまった。
私はその広い背中をただ見送った。

48:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/30 22:57:48
初めてリアルタイムでみれたーー!!

49:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/30 23:58:57
ヒカリの嫉妬フラグが立つ前にうまく話を持っていったなw
やはりこのシンジ、空気読むことに関しては本編より数段上手だ。

50:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 00:18:56
ブラックヒカリを見てみたかったw

51:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 00:37:09
女シンジ←トウジのフラグ立つ←ヒカリ嫉妬

バルディエル戦、トウジ死亡

ヒカリ「どうして助けてくれなかったの!?鈴原を返してっ!!返してよぅ……」
シンジ、ヒカリの言葉で父親に怒りをぶつけることも出来ず、しかもこの時トウジが自分のことを好きだったと知らされ鬱突入

絶望的なゼルエル戦へ


なんて話を考えたこともありました

52:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 00:41:32
ここで話題をぶった切ってSSを投下するぜ

53:鋼鉄のBoyfriends(前編)
06/08/31 00:44:18
 シンクロテスト中の、突然の事故。
「初号機のシンクロ率が異常な数値を示しています!」
 マヤが叫んだ。
「今回の実験は…失敗だったかしらね」
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ!?この馬鹿リツコ!」
 静かにモニターを見詰めるリツコに、ミサトは声を荒げる。
「ミサト、どうなってんの!?初号機に何も繋がんないだけど!」
「落ち着いて、アスカ!こっちでも現在調査中よ!レイは平気?」
「はい…」
 回線が繋がったままの弐号機と零号機の無事は確認できた。
 だが、この突然の事故によって、初号機との回線は断絶状態になっていた。
「一部回線は回復、音声のみですが繋がります!」
「繋いで。シンジ君?シンジ君大丈夫なの!?」
 ミサトの呼び掛けに、返事はない。
 ただ、スピーカーから聞こえていたノイズに中には、微かだがシンジの声が混ざっていた。
「ザザッ…たす…ザザザ…」
「ノイズ絞って!」
「は、はい!」
 怒鳴るようなミサトの指示に、オペレーターは焦りながら指示を実行する。
 徐々にだが、ノイズは解消されていく。
 そして聞こえていたのは、絶叫だった。

54:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 00:45:06
好きにやりんしゃいな

55:鋼鉄のBoyfriends(前編)
06/08/31 00:46:39
「嫌だぁぁ!なんだよこれ!?助けて!出して、出してよぉ!!」
 何かに怯え、シンジは声を上げ続ける。
「シンジ君!?しっかりしてシンジ君!リツコ、どうなっているの!?」
「…わからないわ」
「わからないじゃないでしょ!?」
「え!?プラグ、強制排出されます!」
 ミサトとリツコが喧嘩のようなやりとりをしている最中、マヤが驚きながら報告をした。
 ミサトも、リツコも、皆が話すことさえ忘れ、室内は一瞬の沈黙に包まれる。
「シンジ君…!」
 蒼褪めたミサトが部屋を飛び出した。
「先輩…シンジ君は…」
「恐らく無事よ、自信はないけどね…」

「もしもし、リツコ?シンジ君、学校に行ったわ…アスカに付き添われてだけど」
『そう。“現在のシンジ君”の身体に異常はないはずだわ』
「異常はない、わけがないでしょ?」
『肉体の女性化、そして感情の欠落…そのことかしら?』
「そうよ…あんな状態でよく登校許可なんて出せたわね」
 カーテンの隙間から、リツコと通話中のミサトは二人の少女の登校風景を見ていた。
 一人はいつも見慣れたアスカである。
 もう一人は、女子の制服を着てはいるが、シンジであった。

56:鋼鉄のBoyfriends(前編)
06/08/31 00:50:52
「いつもみたいに朝食もちゃんと作ってくれだけど…初めて会った時のレイみたいでどう接したらいいか」
『言い得て妙ね。でも感情の欠落は事故が直接の原因ではないはずよ』
「どういうこと?」
『シンジ君の肉体はあの事故で自我境界線を失って、一度はLCLと同化したの』
「……」
 受話器の向こうからミサトの唸り声が聞こえてくる。
『…つまり、一度は肉体を失い、そしてまた再構成された。なんの因果か女性の体でね』
「シンジ君が叫んでいたのは?前だったの?後だったの?」
『後ね。プラグスーツからも離れてしまったようだから、自身の体を見て激しく混乱してしまったのよ』
「裸の状態で、スーツ共々排出されてたのはそういうことだったの…」
 ミサトはもう一度窓の外を見た。
 シンジとアスカは、既にそこにはいない。
『感情の欠落はその際のショックによるものだと思われるわ』
「元に戻る可能性があるってこと?」
『確証はないけど』
「はっきりしなさいよ」
『本人と周囲の対応次第よ。頑張ってね、保護者さん』
 リツコはそう言うと電話を切る。
 保護者。痛いところを突かれて、ミサトの眉がヒクヒクと動いた。

57:鋼鉄のBoyfriends(前編)
06/08/31 00:52:25

 通学路をシンジとアスカは歩く。
 時折、アスカはシンジを見た。
「さっきから僕を見てるけど何?」
 ちらちらと自分に向けられた視線に気付いていたシンジは、静かにアスカに訊いた。
「べっつにー。ただ、いつものシンジならそんな格好するの、泣いてでも拒むと思ってさ」
「そう」
「ほら、そうやって。そうとかうんとかあぁとか」
「ごめん。どうやって人と話をするのか…よく覚えてないや」
 前を向いたままシンジが言う。
 表情という表情を見せず、まるで人間の顔をした人形のようだった。
(ママみたい…)
 アスカの顔が歪む。
 今のシンジは、アスカ自身も含めて何に対しても興味を示さない。
 本来なら男であるはずの自分が、今は女であるという違和感も、感じてはいないのだろう。
「惣流やないか。おはよーさん」
「おはよう惣流。あれ?じゃあ隣にいるのは…?」
「なんやケンスケ、惣流の隣におんのは旦那様のシンジと決まって…って誰やこのお嬢さんは」
 やってきたトウジとケンスケ。
 いつもならここにシンジが加わって三馬鹿として騒がしくなるのだが、今日は違っていた。

58:鋼鉄のBoyfriends(前編)
06/08/31 00:54:24
「誰の旦那様よ、馬鹿。シンジなら、あたしの隣にいるじゃない」
「誰が馬鹿や!?それにどこにシンジがおんねん!?」
「じゃあやっぱり、あのことホントだったんだ…」
「ケンスケもなんや?さっきからわけわからんで」
「パパのパソコンにあったんだ。エヴァの事故で、パイロットがヤバイことになったって」
「じゃあ、惣流の隣に…誰もおらへんやないかい!!」
 トウジのツッコミもよそに、シンジはすたすたと先を歩いていた。
「待ちなさいよ!馬鹿シンジ!」
「な、なんか綾波が一人増えたみたいだな…」
「せやな…」
「私がどうかしたの?」
「うわぁ!!なんやねんいきなり!?」
「あ、綾波…」
 いつの間にかレイがひょっこりとそこにいた。
「それじゃ」
「あ、うん」
「あやつは忍者かい…」
「鈴原!相田君!遅刻するわよ!」
 そして最後にヒカリがやってくる。
 いつものメンバー。
 ただ、そこには、あるはずのものが何が足りなかった。

 無表情なシンジの顔を、ぺたぺたとトウジが触る。
「はあ~…ほんまにおなごなんやなぁ」
「うん」
「なぁなぁシンジ、一枚で良いから撮らせてくれよ~」
「それはヤダ」

59:鋼鉄のBoyfriends(前編)
06/08/31 00:57:19
 いきなり女生徒となって現れたシンジに一度は騒然とした教室だったが、
ホームルームが始まる頃にはいつもの教室に戻っていた。
 しかし、今のシンジを見れば、誰もが少女と見間違うだろう。
 顔も髪型も、どこも変わってはいないのに、シンジは一人の少女として形成されていた。
「二人共、席につきなさい!」
「なんやそんなに慌てんでも、利根川せんせなら平気やろ」
「実は今日、転校生が来るのよ」
「へえ。なんかもう驚きもしないなぁ」
 ヒカリの注意にトウジは渋々といった具合いに席につく。
 ケンスケも席に戻り、カメラのレンズを拭きながら鼻唄を口ずさんでいた。
「ねえねえ転校生だって、男かしら?男だったら加持さんぐらいの奴でなくちゃね」
「そう」
「シンジ…ほんとにあんたファーストみたいね」
「碇君と私は違うわ」
「そんなのわかってるわよ!てゆーか地獄耳ねアンタ」
 アスカがレイに対して、一方的に火花を散らしている。
 レイが口を挟むが、シンジはアスカに相槌を打っただけで、ただ前を見詰めていた。
 そんな中、利根川が教室に入ってくる。その後には、茶褐色の肌をした少年が入ってきた。

60:鋼鉄のBoyfriends(前編)
06/08/31 00:59:06
「え~、ホームルームの前に転入生を紹介します」
「ムサシ・リー・ストラスバーグだ、よろしく」
 簡潔にムサシと名乗った少年は言った。
 そしてそのまま、シンジの隣の席へと歩いていく。
「ここが空いているな、使わせてもらうぞ」
「そこは今日休みの子の席よ!」
「じゃあ次に来たら席を変わってもらってくれ」
 ヒカリの言葉に聞く耳を持たず、ムサシはシンジの隣の席に座った。
「さっきも挨拶したが、ムサシ・リー・ストラスバーグだ。君は?」
「碇シンジ」
「碇…シンジ?」
 一瞬、ムサシの顔が曇る。
(この子が…?)

 昼休み。
「さーて、今日も食うでぇ!」
「コンビニのサンドイッチと焼きそばパンを?」
「うっさいわいいんちょ!」
「そんなものばっかだと栄養摂れないんじゃない?」
「やかましいわ!むしゃむしゃばくばく」
 トウジとヒカリがいつものように痴話喧嘩をしている。
 ケンスケは軍用ヘリのプラモデルに色付けをしている。
 レイはじっと座ったまま動かない。ただ、少しだけシンジが気になっているようだった。
 アスカはそわそわとしていた。
(あいつ…お弁当ちゃんと食べられるのかしら)

61:鋼鉄のBoyfriends(前編)
06/08/31 01:00:40
 目線はレイと同じくシンジに向かっている。
「アスカ、一緒にお弁当食べましょ」
「そ、そうね、ヒカリ」
「どうかした?」
「なんでもない!」
 ヒカリに声をかけられ、アスカはシンジから注意がそれた。
 レイの近くでは生徒達が雑談を始め、シンジへの視界が遮られる。
 シンジは立ち上がり、教室を出ていった。
 そんな一部始終をムサシは黙って見届けると、出ていったシンジを追い掛けた。
「碇さん!」
「…ストラスバーグ君」
「ムサシでいいよ、昼は弁当なんだな。知らなかったから、学食か売店があったら案内してくれないか?」
「うん」
 案外簡単にシンジが承諾し、ムサシは少々呆気にとられる。
 そういえばずっとこの少女は淡々と受け答えしていたと、ムサシは思い出した。
「聞いたんだけど、君ってロボットのパイロットらしいな」
「そう。エヴァのパイロット」
「エヴァ…」
 シンジの言葉を、ムサシは繰り返す。
「…碇さん、あの」
「うわっ!!」
「あ…」
 ムサシがシンジに話しかけようとした途端、廊下の角から少年が飛び出してくる。
 飛び出してきた少年はシンジとぶつかり、二人はその場に倒れ込んだ。

62:鋼鉄のBoyfriends(前編)
06/08/31 01:04:53
「いてて…」
「ケイタじゃないか」
「あれ?ムサシ?」
「どうした?」
 ケイタと呼んだ少年と、ムサシが驚いたように目をあわせる。
「う、後ろ…」
 ケイタはおどおどしながらそう言った。
「転校生く~ん、逃げてんなよ」
 やってきたのは上級生に見える生徒だった。
「俺の友達になんの用だ?」
「もしかして君も転校生?良かったからお金貸してほしいんだけど」
「断る」
「あぁ?調子乗ってんなよ!」
 上級生の生徒がムサシに向かって殴りかかってくる。
 だが、ムサシは睨むような瞳を崩さず、振り降ろされた
拳を掴むとそのまま腕ごと捻って上級生の生徒を組み倒した。
「このまま腕を折ってやろうか?」
「や…やめてくれ…」
 ムサシが手を離すと、上級生の生徒は一目散にその場から逃げていく。
「大丈夫か、ケイタ、碇さ…ん!?」
 何かを見たムサシの声が裏返った。
「この子がどうかし…たの……」
 続くケイタも、それを目撃すると絶句する。
 そして、二人の顔は真っ赤に染まり上がっていた。
「どうしたの、ムサシ君?」
「い…碇さん、パパパパパパパンティが見えています!!」
「パンティ?……あ。」

63:鋼鉄のBoyfriends(前編)
06/08/31 01:06:23
 焦り過ぎてムサシは思わず敬語になる。
 倒れたまま身動きせずにいたシンジの制服のスカートは、これでもかというくらい捲り上がっていた。
 そして、ミサトから借りたランジェリーや、柔らかそうな太股がムサシとケイタを照らす。
「ごめん」
 シンジは物怖じもせず、捲り上がったスカートを直すと何事もなかったように立ち上がった。
「シンジ!!」
 そんな一騒動が終わると同時、アスカ達がやってくる。
「あんた何一人でほっつき歩いてんのよ!」
「何って、トイレ」

 明らかに心配しているように見えるアスカに、シンジは平然と答えた。
「なんやこんな大騒ぎする必要もあらへんかったやないかい」
「まだ塗装が終わってなかったんだけどなぁ」
「じゃあアスカ、お弁当食べに行きましょう」
「そ、そうね…」
「…早とちりだったようね」
「うるさいわねファースト!あんただって探すの手伝ってるじゃない!」
 いつものメンバーが、いつも通りに揃って、いつも通りに騒いでいる。
 いつも通りのはずなのに、いつも通りではない。
「…トイレまだ行ってないや」
「ちょっと!漏らすんじゃないわよ!!」

64:鋼鉄のBoyfriends(前編)
06/08/31 01:08:43
「漏らしてくれたら絶好のシャッターチャンスなんだけなぁ」
「ケンスケそら変態過ぎやで…」
「……不潔」
「トウジ!委員長まで……」
 そんないつものメンバーのやりとりに、ムサシとケイタは置いてき堀を食っていた。
 話についていけない二人に気付いたのは、シンジだった。
「そういえば、ムサシ君お昼どうするの?」「あ…そうだった」
「君も、もしかしたらお弁当なかったりする?」
「あ、はい。あの、浅利ケイタです…」
 心配をしてか、それともムサシに言われたことを思い出してか、シンジは二人に訊いてみる。
 そんなシンジの瞳は、未だどこか冷たい。
「なんや転校生、お前ら弁当ないんかい」
「あぁ、知らなかったからな」
「じゃあ僕のお弁当、食べる?」
 シンジはまた平然とそう言ってくる。
「ちょっと!あんたはどうすんのよ?」
「なんか…いらないや」
 食欲がないわけではなかったが、何故か食べる気がしなかった。
 アスカに短くそう返すと、シンジは「トイレ」と一言告げて、一人その場からいなくなる。
「………」
「ア、アスカ…」

65:鋼鉄のBoyfriends(前編)
06/08/31 01:10:45
 シンジの後ろ姿を睨みながら見送るアスカを、冷や汗を流したヒカリが恐る恐る声をかけた。
「やるわよ」
「な、何を…?」
「転校生の歓迎会!場所はあたし達のマンション!!」
 アスカは叫ぶ。
「ファースト、あんたも参加しなさい!」
「私は、関係ないわ」
「いいから!」
 アスカの目がシンジの行ってしまった方向を一瞬見た。
 レイは、それに気付く。
「…わかったわ」
「よし!じゃあ転校生、たっぷり歓迎してあげるから覚悟しなさいね!!」
「どういう意味の歓迎やねん……」
 ムサシとケイタを置いて、話はどんどん進んでいくのだった。

66:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 01:11:18
GJ。
まさかシンジとムサシかケイタがくっついたりはしないよなぁ…

67:鋼鉄のBoyfriends作者
06/08/31 01:13:28
鋼鉄なんてサターン版を昔やったきりで全然覚えてないです
マナは出てきません
シンジの感情がどうなるかはまだ決めてないです

68:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 01:16:22
GJ!!
世にも珍しいムサシ×シンジものか
まぁ性別が変わったならそっちんのが自然だねww
期待しとるよ

69:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 03:02:59
ミサトのエロパンティと太股丸出しのシンジが目の前にいたら男なら襲うぞ

70:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 07:59:34
ムサシ&ケイタ 「逃げなきゃダメだ」

71:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 08:05:08
シンジきゅんのお漏らし生写真撮ってくれケンスケ

72:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 18:18:42
あまり好きじゃない・・・・

73:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 18:41:51
そういう場合はスルーですよ


74:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 19:12:11
鋼鉄知らない俺はスルー
やらなくてもわかるサイトとかある?

75:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 19:29:17
2ndは更迭じゃない

76:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 19:36:12
これ元ネタはゲームなの?

77:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/08/31 20:37:03
まぁ、マターリと続きを見てみようぜ
面白くないからとかで叩くにしてもまだ早いんジャマイカ?

78:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 01:23:17
なんか書き慣れてない感があるので生暖かく見守りたい


79:621の続きで
06/09/01 01:44:43
「トウジ、どうしたのかな?」
「あぁ。今日は火曜日だから、妹のお見舞いだよ」
「…え?」
「何か負担かけちゃいけないって、昼からの面会になったんだってさ」
「…そうだったんだ」
トウジの妹は私が初めて初号機に乗ったときに、
めちゃめちゃに暴れたために怪我をしたのだ。
もう随分たつけど、経過が良くないのだろうか。
そういえば、まだ小学生だったけ。
「私も…一度お見舞いに行った方がいいのかな?」
ポツリと小さな声で呟いた。
言葉は疑問として出たけれど、誰に答えを求めるものでもなかった。
けれど、聞きつけたケンスケは不思議そうな顔をした。
「やだなぁ、責任感じてるの?」
「だって…トウジだって言ってたじゃない。妹が怪我したのは私のせいだって」
トウジが食べた空っぽのお弁当箱を片付けながら考える。
いつも優しく笑いかけてくれるから、気が付かなかった。
忘れていたわけじゃないけど、考えないようにしていた。
そうだ、私が傷つけたんだ。彼の肉親を。彼の心を。
初めて会ったときも、トウジは怒っていた。
あの時は何も感じなかったけれど、今思えば
あんなに素直に感情をぶつけてきた人は初めてだった。
たとえ、それが憎しみでも怒りでも。
けれどあの日、二人が私を心配してミサトさんのアパートに来てくれた日。
駅で私を出迎えてくれたあの日。
あの日にすでにトウジは私を許してくれてはいるのだろう。
それでも、私が傷つけたということに変わりはないのだ。
その事実を今更ながら思い出して、俯いた顔を上げられない。
「来てほしいんだったら、アイツから言うだろ。それにシンジが同情じゃなくて、
 本当に行きたくなったら行けばいいよ。アイツそう言うの大嫌いだから」

80:621の続きで
06/09/01 01:46:30
同情なんかではないだろうけど。
きっと、恐いんだ。私が傷つけたという事実を再確認するのが。
友達の悲しそうな顔を見るのが。
そして、私にもう笑いかけてくれなくなるかもしれないのが。
「妹のこと。お前に下手に気を使ってもらいたくないから、
 あまり言わないんだと思うよ。そんな暗い顔するなって。大丈夫だよ。
 トウジは嫌いな奴と一緒にいたら、あんな風に笑わないよ。」
私の心情を察したかのようにケンスケが声をかけてくれた。
それでようやく私は顔を上げた。
「…ケンスケって、トウジの事よくわかってるね」
「まーねー、付き合い長いし。アイツ単純だし」
「そんなこと言ったらトウジに怒られるよ」
そして二人で笑った。

青い空の下、悪戯っ子のように笑う黒いジャージの少年。
時々見せる、憂いを帯びた表情。
きっと妹のことを考えているのだろう。
私は、トウジを、他人のことをどれくらい解っているんだろう。
どれだけ解ることができるんだろう。
きっと私は何も解っていないのだろう。
ここへ来て出会った色んな人達のこと。
それだけじゃなく、自分自身のことすら。

81:621の続きで
06/09/01 01:48:04
「試作されたダミープラグです」
薄暗い部屋の天井には、エントリープラグが吊るされていた。
普段の白いそれではなく、真っ赤なエントリープラグが。
「レイのパーソナルが移植されてます。ただ、人の心…魂のデジタル化は出来ませんので
 …あくまでフェイク。擬似的なものです。人間の真似をする、ただの機械です」
リツコがそう告げると、ゲンドウがいつもの冷静な口調で答えた。
「信号パターンをエヴァに送り込む。エヴァがそこにパイロットがいると思い込み、
 シンクロさえすればいいのだ。初号機と弐号機にはデータを入れておけ」
「しかし、まだ実験中の問題が残っていますが」
「構わん。エヴァが動けばいい」
こちらを見ることなく、淡々と命令を下す。
だからこちらも科学者としての意見を述べ、そして従った。
それでいい。それでいいはずだ。
「機体の運搬はUNに一任してある。週末には届くだろう。後は君の方でやってくれ」
「はい。調整並びに起動試験は松代で行います」
「テストパイロットは?」
上部は無数のパイプが繋がっていた。その中央には液体に満たされた大きなガラスケース。
ぼんやりと光るその中には彼女が居た。私を誰よりも不安にさせる存在が。
「ダミープラグはまだ危険です。現候補者の中から」
「四人目を選ぶか」
「一人生理学的に持ち上げれば可能な子供が一人います」
「任せる。――レイ、上がっていいぞ」
その言葉に、今まで眠っているかのように目を瞑っていたレイが
ゆっくりと目を開く。露わになる赤い瞳。あのダミープラグのような。
「食事にしよう」
『はい』
彼は一度もこちらを見ない。
だが、いつもの表情に比べ明らかに柔らかな表情になったのが手に取るようにわかる。
私を見ない背中が今は逆に有難かった。レイを見る彼のそんな顔など、見たくはないから。

82:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 01:52:37
ナイスジョブ!

83:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 02:41:34
GJ

84:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 04:27:23
グッジョブ


あー死ぬんだな
トウジ死ぬんだな
あー

85:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 04:35:35
ほう死にそうなのか
今まであぼんしてたけどトウジガ死んだら読んでみるかな
生死の結果だけ報告ヨロ

86:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 04:46:26
鬱好きなの?
まぁ俺も鬱好きだけど

予想だけどね
貞版を踏襲してるから多分そうだろうかなと。


87:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 06:38:48
>>86
どっちかというと好きかな?

まあ、今まで読んでなかったわけだし、作者氏が書きたいのを書くのが一番なんで、
是非欝にしてくれっていうわけでもないんだけど……

88:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 20:18:19
そもそも始まりが、鬱展開の話してて作者さんがじゃあちょっと書いてみようかみたいな感じだったような

毎日更新はすごいね
夏休みの宿題も7月中に終わらせるタイプとみた

89:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 20:47:53
確かにすごいよなww
まさかこんなにすごいものがくるとは思わなかった。しかも更新速度の速いこと速いこと!

90:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 20:50:29
バジメちゃんの人(エヴァπだっけ?)も毎日だったな
ここの職人は凄いw

91:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 20:52:14
バジメって凄く・・・バジルっぽいです・・・正しくはハジメだな
LCLの海に飛び込んでくる

92:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 21:07:31
大丈夫
そのうち人の形を取れるようになる
安心して溶けてきな

93:621の続きで
06/09/01 21:30:34
窓に手を付いて、外の景色を眺める。
掌にはガラスの冷たい感触。
どこか遠い昔に感じた同じ感触。
血と、機械油の匂いを残して消えてしまう夢。
ガラスの向こうに確かに存在した命。微かな記憶。
二度と会えない母さん。もう二度と語り合うことのない父さん。
エヴァ。新しく出会った人たち。使徒。地下の巨人。そして私。
本当のことが、どこにあるのか自分でもわからない。
手に入れたと思った瞬間、指の隙間から砂のように零れてゆく真実。
その真実に手が届くものならば、私は。

私は…、どうするんだろう?

「…さん。碇さん?」
「え?あ、ごめん。委員長」
気が付くと、委員長が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
なんでもないと、笑いかけると彼女も安心したように笑った。
「どうしたの?ボーっとして。考え事?」
「ううん。なんでもないよ。さ、掃除しなきゃね」
私は今週掃除当番だったので、気を取り直してモップを手に取って教室を出た。
今週の掃除区域は、廊下と階段だ。下校する生徒がひしめく中でゴミを掃う。
そうしていると、いつもの見知った少年が雑巾がけをしているのに気が付いた。
掃除のときは、遊んでよく怒られてるトウジが珍しく働いている。
不思議に思って隣にしゃがんで彼と同じ目線になってみた。
天井が高く感じる。そのまま何となく目線を上げてみた。
「…うわぁ」
まぁ、なんてイヤらしい景色。
下から見上げてみると、階段を上る女子生徒のスカートの中が丸見えだった。
なるほど、だからか…。ぼそっと雑巾掛けをしていた彼に声をかけた。
「女の敵だね…。トウジ」
「シンジ!?お前何やっとんねん!」

94:621の続きで
06/09/01 21:33:31
って言うか、それはこっちの台詞だと思う。
今まで私には気が付かなかったらしい。それだけ夢中だったのか…。
男の子って皆こうなのかな?そういえばアスカも言ってたっけ。
「男の子ってバカでスケベで信じられない」って。
一理あると思う。冷ややかな目線になってしまうのが否めない。
「アホ!男がスケベやなかったら人類滅びてまうわ!」
「そりゃそうだけどさ…」
だからって、私に熱弁しないで欲しいと心底思う。
こんな階段の踊り場で一般男子の代表意見を聞いたって、私にはどうしようもない。
と言うか、委員長やアスカがよく言うアレだ。

「不潔」だ…。

その辺り、私も女の子だなぁと改めて自覚した。
なので、その一般男子に一般女子として率直な意見を申し上げた。
「そんなんじゃ、好きな子できたときに確実に嫌われるよ?」
「…マジで?」
「…マジで。普通はそうだよ…。でもトウジ好きな子いるの?」
そういうと、トウジの顔が少し赤くなった。
トウジの肌は褐色に日焼けしているから、わかりにくいけれど、
確かに頬が赤く染まったのがありありと見て取れた。
………へぇ~。何か面白い。
アスカが私をからかった時もこんな感じだったのかな?
「人のことはどうでもええやろ!お前はどうやねん」
「人のことはどうでもいいのに私は聞くんだ…。私?う~ん…。
 いないんじゃないかな。そういうのよくわかんないし」
「そ、そうか…」
それとなく答えるが、トウジの受け答えもあまり耳に入らない。
さっきから、何故か私もトウジと一緒にしゃがんだままなので、
見上げると視界に入る何とも言えない景色に魅入っていた。
最近の女の子の下着はカラフルで可愛いのが多いなぁ、と
恐ろしくどうでもいいことを考えた。

95:621の続きで
06/09/01 21:35:30
そして、はたと気付く。まさかとは思うけど…。
「…私のは見てないよね?」
「お前のは前にモロ見とるからなぁ…」
赤い顔はそのままに、記憶を反芻するかのようにトウジが言う。
…ちょっと待って。
勢い良く立ち上がってトウジを見下ろした。
前に、とは。ミサトさんの昇進パーティーのときだ。
昔の写真を見られるのが恥ずかしくて、着替えもそこそこに飛び出したあのとき。
確かあの時は見てないって言った!見てないって言ってたのに!
「やっぱり見てたんじゃないかぁ!」
「みみみ見てへん!水色のレースなんて見てへん!」
「しっかり見てるじゃないか!嘘つきー!!」
ぎゃあぎゃあ喚いていると、階段上から高くよく通る声が響いた。
「鈴原!もぅ、ちゃんと掃除しなさいよ!」
委員長だ。
…あ。まずい、その位置だと。
「…白や」
「え?あ!きゃあぁあああぁあ!!!」
「………外道だね、トウジ」
委員長は真っ赤になってスカートを押さえていた。
「こらまた、ええもん見たわぁ」
「す~ず~は~らぁ~!今日と言う今日は許さないから!待ちなさい!」
階段から降りてきた委員長が逃げるトウジを追い回している。
委員長には女の子の代表として、是非とも一発殴って頂きたいと思った。
本当に男の子って…。別次元の生き物だと実感する。
私はずっと男の子になりたかったけど、こういうのを見るとやっぱり思い止まる。

ああ、でも…。
そうだ、私はきっと。



96:621の続きで
06/09/01 21:37:57
「こら!待ちなさいってば!」
「助けろ!シンジ!」
「嫌だよ!って、わぁあぁああ!」

ガシャン

トウジを追いかける委員長と、逃げ回るトウジにぶつかって
立て掛けてあった掃除道具が私に倒れてきた。
「だ、大丈夫か?:
「碇さん!大丈夫!?」
「び、びっくりした…」
幸い、モップやらバケツやらの軽いものだったので
大事には至らなかった。と、思っていると委員長が声を上げた。
「碇さん!血!」
「え?」
よく見ると、腕にモップの金具で傷ついたのかかすり傷ができていた。
でも、言われるまで気付かなかったし、全然痛くないし大丈夫だと思うんだけどな。
「たいへん!保健室いかなくちゃ!」
「平気だよ。こんなのかすり傷だし。痛くないよ」
「今はびっくりして感じないだけなのよ。駄目よ、女の子が傷作っちゃ!」
これくらいの傷は日常茶飯事だし、平気だと思ったけれど、委員長は慌てていた。
ついでにトウジも。でも、こちらはただ慌てているだけで特に役に立ちそうになかった。
「早く消毒しないと!」
「だ、大丈夫なんか?」
「あんたが着いてきてもしょうがないでしょ!ちゃんと掃除してなさい!」
いざ緊急事態になると、男より女の方が強いなぁと、頭の隅で考えた。

「ごめんね」
委員長が私の傷に消毒液をかけながらそんなことを呟いた。
「どうして?」
「だって、半分は私の責任じゃない」
「そんなことないよ。言っちゃえば、全面的にトウジが悪いと思う」

97:621の続きで
06/09/01 21:40:07
ぶつかったのは、二人にだけど原因を作ったのは確実に彼だ。
だから、委員長が反省する点は何もないと思う。
「男の子ってどうしてああなのかしらね」
「それは私も思う」
ああいうのもそうだけど、ケンスケの趣味とかも全くわからないし。
ここに来てから初めてできた友達。
よく遊ぶのはトウジとケンスケだけど、たまに委員長と遊びに行くと
やっぱり男の子と女の子は違うなぁと思うことがある。
二人とはとても気があって、一緒に居るのは楽しいけれど。
まぁ、多分ケンスケの趣味はきっと特殊だ。
同じ性別で、私より付き合いの長いトウジさえ引いている時があるし。
「碇さんて、鈴原と仲良いよね。なんであんなバカと仲良くしてるの?」
「なんでって…?」
「さっきだって、ああだったし」
手馴れた手付きで傷の手当をしながら委員長が言った。
まぁ、男の子だからしょうがないって言うのを差し引いても
さっきのは私もどうかと思う。女として。
でも、それでも。
「そりゃトウジは、あんな風なことあるけど…。私よりずっとしっかりしてるし。
 何だかんだいって面倒見がいいし。凄く良い奴だよ」
委員長は、傷の手当ては一度止めて、私を見つめた。
それに、きっと私は…。
「私ね、ずっと男の子に生まれたかったって思ってたんだ。さっきみたいなのは
 ちょっと嫌だけど、きっとトウジみたいな男の子に」
そうだ、あんな風になりたかった。
あんな風に、はっきりと物が言えて、しっかりした意思を持った、強い男の子に。
もう二度と父さんとは話ができないとは思うけど、あんな風に生きれたら
その前に何とかできたのかもしれない。
そんなことは夢物語でしかないことはよくわかってるけれど。
「あんな風な男の子に生まれてたら、私も少しは強くなれたかなって…」


98:621の続きで
06/09/01 21:42:23
そこまで言うと、何だか照れくさくなって頭を掻いた。
そうしていると、委員長が言った。
「碇さんは十分強いわよ。私、碇さんが羨ましいな…」
「え…?」
その言葉はあまりに小さくて、私はよく聞き取れなかった。
「あ、なんでもないの。さ、早く済ませちゃわないとね!」
「あ、うん」
そういうと、委員長は手当を再開し始めた。
そして、最もな結論を告げた。

「でもバカはバカよね」
「うん、バカはバカだね」




投下する作品は休みの日に一週間分まとめてます。
というわけで明日は休みなんで、投下は日曜か月曜に。

99:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 21:51:47
GJ!!!
やっぱラブコメ(?)はええなぁ~
シンジ←トウジに思えたんだけど、多分フィルターかかってる


100:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 22:36:04
なぬっ!?そんなにというかそこまで真剣に取り組んでくれてるのか?

このスレは恵まれてるなぁ…( ̄∀ ̄*)

101:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 22:45:59
やっぱオリジナル部分は光る

102:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/01 23:24:48
この展開だと時かけ的な人間関係でもしっくりくるなw

103:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 00:11:28
職人のおかげでなんかスレよく伸びてるなw

104:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 00:20:17
レスが書きにくくなった人も居るけどな。

投下してる人は木にするな。

105:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 00:57:18
>>104
終わったら存分に喋ってやるよ

106:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 01:15:36
>>104確かにそうだが、それを犠牲にしてでも得るものは多いなww

107:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 01:26:51
つか過疎スレだし
別に今でも語ろうと思えば語れる


最近女装シンジきゅん割合が少ないなぁ
ギャグならいくらでも書けそうだが

108:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 01:34:49
evaに乗って性転換。
ショックのあまりうじうじ鬱鬱でツンツン街道まっしぐらなシンジキュンが好きなので
以下略

109:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 01:36:17
何を持って過疎と断言できるのか小一時間問い正したい

110:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 01:46:17
>>108
エヴァに溶けて、出てきた時には女のシンジと男のシンジに別れてましたーってのは考えたことがある
しかも二人とも同じシンジとしての記憶を持ってて、意識もシンジ
でも片方は女で、女であるから周りからシンジ扱いされずに居場所がどんどん無くなってしまう
シンジだけどシンジでありえないの。女だから


これが第一話の時点だったらギャグですむけど、
人間関係を形成した後じゃ鬱まっしぐら

111:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 02:14:11
性転換コメディー→女シンジきゅんの自分探しか
落差が素晴らしい良い欝じゃないの
YOU書いちゃいなYO!

112:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 02:19:41
YOUここで諦めたら終りだYO! ←(前HEY×3で赤西[亀梨?]がジャニーズ落ちた時にジャニーから言われたって言ってた)

113:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 02:50:51
今思ったんだけど女の子シンジきゅんはBLOOD+の小夜の声が似合う気がする
まぁ、声だけね。中の人は整形してるらしいし

114:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 02:58:24
そーいえばさ、暴走したときってダミーシステム付きのプラグで乗ってるんだよね?
てことは、下手に再構成に成功してたら、やっぱ綾波の情報と混ざって二身合体状態だったんだろうか?

115:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 03:01:46
そうなる場合もあれば、ユイママの加護があるかもしれない
要は作り手次第

116:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 03:03:47
シンジ自体が疎まれるのはやだお
だから>>110
そこをなんとか幸せにしてやって

でもちゃんとしたのを実際書こうとしたらなかなか難しいんだろうね…

117:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 03:11:28
人間関係が崩壊し始めたゼルエル戦くらいなら分裂してもイケそうな気ガス
いっそLSSとかにしてそれから起こることに2人でなんとかかんとか互いを支えあってくみたいな

118:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 03:21:25
女シンジが逆行してシンジの妹になりシンジとセックスしまくるSSを思い出した

119:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 03:54:34
女シンジきゅんだとEOEで、「私と一つになりたいんでしょう?」と言う
ミサトやアスカやレイは、トウジやケンスケや加地になるのだろうか…

120:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 04:15:29
>>119なんか前にもその書き込みあったな

121:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 04:18:05
実際どうなんだろう?
性的な意味じゃなくて、ただ子供のように抱き締めて貰いたいとか
そういう願望だったら女でもいいんじゃ?


122:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 12:10:49
母胎回帰願望みたいなもんかと


123:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 12:31:22
あんま難しく考えなくてもいいジャマイカ

124:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 13:52:36
でも女が、同級生の女にそれを感じるのは変ジャマイカ?
せめてミサトぐらいで…

125:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 14:37:18
大人が恐くて、男に走る女にも恐くてなれないから、同世代の女子に縋るのはアリじゃないかと

126:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 14:43:28
>>125百合?

127:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 14:48:22
うわー…
今そういうの書いてるわ。

128:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 14:57:25
俺もそんなプロットばっかり考えてるw

129:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 15:20:45
>>125
父性を求める女シンジきゅんが名も無きオヤジと援交しちゃうやつなら書いたことある
24話後のボロボロになったシンジきゅんが淋しさのあまりに

なんだかちまたの女子高生が読みそうな内容になってきたので止めた

130:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 15:44:57
百合じゃなくて、あれくらいの年ごろだったら
親や男よりも同性の友人を頼りにしそうだからさ

131:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 20:01:55
>>130
あるなぁ。アスカに縋りそう。

って変わんねーじゃんw

132:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 20:09:22
女が女を頼りにしたら即百合なのか?
恋人とか親とかよりも、友達と一緒にいた方が癒されるってことあるじゃん
そういうことじゃないか?

133:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 20:13:20
>>132まぁ、たしかにね…

134:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 20:14:12
>>132
だって百合にしたほうが萌えるだろ?

135:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 20:16:18
まぁ、職人さんは好きに書いて投下してくれればいいよ。
墓標にゲンドウと同じ花添える下りがうまいなと思った。


136:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 23:04:45
思春期の女子は一時的に同性に傾倒する傾向にあるらしい。
その後異性を意識しだしたりして精神的に女性になっていくんだって。
だから中学生が百合っぽくなるのはリアルでもあり。

137:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 23:11:34
それ、女子だけじゃなく男子にも言えるらしいな
あのくらいの年ごろの子供は同性に擬似恋愛感情抱きやすいんだと
まぁ、あくまで擬似だけど

138:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 23:20:47
>>137やめてくれ、さむぼろが…

139:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 23:27:54
インドとか異性に触れたり話したりできない文化を持ったところは凄いらしいな
男女で触れられない分、女同士、男同士でハグキス。でも同性愛ではない

140:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/02 23:30:46
まぁ、中学生くらいだったら同性に依存するよな
高校入ったらいきなり異性意識したり、モテはじめたり

141:621の続きで
06/09/03 22:17:37
細く女の子らしい手が手早く包帯を巻きつける。
その手付きに感心していると、委員長が少し言いにくそうにポツリと呟いた。
「ねぇ、碇さん。鈴原、私のこと、その…何か言ってない?」
突然の言葉に、私は疑問符しか浮かばなかった。
「あ!意味は特に無いんだけどね!私、委員長として色々注意しなきゃいけないでしょ?
 だから、口うるさいとか、仕切りやとか、おせっかいとか言われてないかなって!」
不思議に思って見つめていると、委員長の白い頬が赤く染まり、
いつものはきはきした口調ではなく、しどろもどろに言葉を紡いだ。
この様子はなんとなくどこかで見たことがある。
そう、委員長は注意とかお小言以外でトウジと話すとき、こういう風になるのだ。
「別に、何とも言ってないんだったら…それでいいんだけど…」
委員長は更に真っ赤になって、一瞬黙った。
そして、ちょっと困った顔をして決意したように私に問いかけた。
予想も付かないとんでもないことを。
「鈴原って…、アスカのこと好きなのかな…?」
…………………………。数秒かかって、脳がようやくその言葉を認識した。
「…………………はぁ!?」
つい、大声をだしてしまうのは許されることだと思う。
何をどうしたらそういう結論になるのだろう。
「だ、だって…いつも仲よさそうにしてるし…」
え…?アレが? 日頃の二人の関係を思い出す。
今日だって、アスカをからかうトウジに彼女は盛大な蹴りをお見舞いしていた。
アレが仲が良いって言うならば、戦争がこの世から消えると思う。
そして、世界中の男女はもっと簡単に恋人同士になると思う。
「ありえない…。それはありえないよ…」
うん、絶対違う。ぶんぶんとクビを横に振った。
まぁ、あの二人ケンカ友達みたいなものだし。
そこにある感情は決して「嫌い」ではないだろうけど、
そういう意味の「好き」ではないだろう。
アレが「好き」って言うんだったら、私の考える「好き」とは違う世界だ。
それとも、私の常識が覆されつつあるのか…。
ちょっと考える。…いや、きっと私の方が正しいよね?

142:621の続きで
06/09/03 22:25:28
「やだ、ごめんね!私ったら変なこと聞いて」
自問自答していると、委員長がそこで質問を終了した。
良かった。このままだと思考が無限ループに突入するところだった。
手馴れた手付きで私の包帯を巻きなおす。
その手付きを眺めていると、彼女はチラチラと私を見つめてきた。
そういえば、赤い頬は先ほどと変わらない。
「あの、碇さん…。もう一ついいかしら?」
さっきの質問より凄いことはもうないだろう。というより、そう思いたい。
肯定の返事をすると、彼女は一呼吸置いてまた決意の目で私を見つめた。
「あのね…、碇さんって…」

「おーい!シンジ」
委員長の言葉が最後まで終わらないうちに、誰かが保健室のドアを開き、私に声をかけてきた。
「…ケンスケ。どうしたの?」
「お前、今日当番だろ?昼の授業で使った教材そのままだったから
 先生が早く片付けろって言ってたぜ」
そう教えてくれると、ケンスケは帰っていった。今日もまた軍艦や戦車だかを見に行くのだろう。
その姿を見送ると、委員長に向き直った。まだ質問の途中だったからだ。
「邪魔が入っちゃったね。で、続きは?」
「あ!いいの。やっぱりもういいの」
「え…?でも…」
「いいの、たいしたことじゃないから。手当ても済んだし」
腕を見ると、包帯はきちんと巻かれていた。
教材の片付けと、掃除に戻ろうと保健室のドアに手をかけて
救急箱を片付ける彼女を振り返る。丁寧に手当てされた傷。
ああ、本当に委員長は良い子だ。
「ねぇ、委員長」
「…え?」
「トウジはきっと、アスカみたいなタイプじゃなくて、もっと家庭的な優しい子が好みだと思うよ?」
そういうと、彼女は嬉しそうに笑った。それを見て、私も何だか嬉しくなった。
だから彼女がどうしてあんなに嬉しそうに笑うのか、どうしてあんなことを聞いてきたのか
私に聞きたかったことが何なのかは忘れてしまった。

143:621の続きで
06/09/03 22:27:24
下校を告げるチャイムが鳴り響く。掃除も無事終了。残った生徒達のまばらになった。
今日も無事に委員長としての私の一日が終わる。あっと、いけない。まだ一つ残ってたっけ。
カバンを持って帰ろうとしている鈴原に声をかけた。
「なんやねん、いいんちょ」
「あなた今日週番でしょ。これプリント。休んでた分届けてあげて」
「えぇ~。そんなん相方がおるやん」
「その相方が休みなのよ」
「あぁ、綾波か」
プリントの束を渡すと、彼は露骨に面倒臭そうな顔をした。
でも、ダメ。だって週番は週番だもの。ちゃんと役割を果たさなきゃ。
「そんな顔してもダメよ。ちゃんと届けてね」
「せやかて、女の家に一人で行くんもなぁ…」
そういえば鈴原はそんな硬派な性格だった。
そこが良いところでもあるんだけど。
一人で女の子の家に行くのは抵抗があるのだろう。
そうだ。だったら、私が一緒に行ってあげれば…。
これは委員長としての義務であって、
別に一緒に帰りたいとかそう言う訳じゃないんだから。
いいわよね、これくらい。
誰が聞いてるわけでもないのに、頭の中で言い訳をしてしまう。
提案しようと声を出しかけると同時に鈴原が口を開いた。
「おーい、シンジ。お前一緒に付いてきてくれへんか?お前綾波と仲ええやろ」
鈴原は下校しようと教室の引き戸を開けている碇さんに声をかけた。
女の子とはあまり話をしない鈴原だけど、碇さんとは仲が良い。
さっぱりした性格の彼女は、男の子と気が合うのだろう。
相田君とも仲が良いし。
「別にいいけど。綾波いないかもよ」
「せやったら、郵便受けかなんかに入れとけばええやろ。な、いいんちょ?」
「え!?そ、そうね。できれば手渡しがいいんだけど」
「綾波の郵便受けっていっぱいだからなぁ…。気付くかな?」
「まぁ、ええやん。行くで。じゃあな、いいんちょ」
「ええ、また明日ね」

144:621の続きで
06/09/03 22:28:51
そう行って鈴原は碇さんと行ってしまった。
はぁ、私ってダメだなぁ…。ため息を付いてしまう。
せめて二人に付いて一緒に行こうとかすれば良かった。
もっと鈴原とちゃんと話ができたらいいのに。
あの二人って…。そんな素振りは全くないけど…。
でも碇さんは本人はわかってないけど、可愛くていい子だし。
今日、保健室で傷の手当てをしているときに尋ねようと思ったけど、
つい聞きそびれてしまった。
「もう!私らしくない、やめやめ!」
パシッと両手で頬を叩いて気合いを入れた。最後に教室の点検をしなくちゃ。
ヒカリは思考を入れ替えて見回りを始めた。

恋する少女は色々複雑らしかった。


「綾波、いる?」
相変わらず無機質で殺風景な綾波のマンション。
ドアを叩いて在宅を確認する。
「おい、何でチャイム鳴らさへんねん」
「それ、壊れてるの」
何回かドアを叩いたが、反応はなかった。どうやら彼女は留守らしい。
ちらりと郵便受けに目をやると、そこは相変わらずいっぱいだった。
しょうがないか。ひんやりとした感触のする金属のドアノブに手をかける。
「待てや、勝手に入ってもええんかい!」
「だって、こんな状態の郵便受けに入れたってきっと見ないよ。
 大事なプリントもあるんだし」
事実、郵便受けはすでにゴミ箱と化している。
これに突っ込んだって、ただゴミを増やすだけだ。
何か言いたげなトウジと一緒に部屋に入った。

145:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/03 23:02:13


146:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/04 06:52:03
乙。

147:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/04 20:43:10


148:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/04 21:21:10


149:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/04 21:35:56
この流れがウザイので感想をば
家庭的という表現がシンジ自身を含めて言ってるようだ
シンジ、怖い子…

150:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/04 21:57:22
いや、シンジきゅんは自分でよくわかってないから天然で言ってるんだ!
そうだ!きっとそうだ!
と思ってみる

151:621の続きで
06/09/05 00:24:04
「うはぁ…。これが女の部屋かいな」
綾波の部屋は、物が無いと言うか、殺風景と言うか。
とにかく生活感がまるでない部屋だった。
いつか見たシンジの部屋もおおよそ女らしいとは言い難いが、これよりましだ。
とりあえず、頼まれたプリントをベッドの上に置く。
これで仕事は終わった。と思っていると、シンジが床に屈んで何かをし始めた。
「お前何しとんのや?」
「掃除。ほらゴミがいっぱいだし。トウジも手伝ってよ」
「嫌や!男のすることやない」
「そういうのって、ミサトさんに嫌われるかもよ」
シンジのもう一人の同居人兼上司である葛城ミサト。
自分やケンスケは彼女に憧れを抱いていた。
今の男は家事くらいできないと駄目なのだろう。
自分だって母親がいないので、一通りのことはできる。
しかし、いくらなんでも男の自分が勝手に女の部屋を弄るのは抵抗がある。
「かまへん!ワシの信念が許さへんねん!」
古いなぁとぼやくシンジを尻目にそこらにあった椅子に座る。
そうして甲斐甲斐しく働くシンジをぼんやりと眺めていた。
「ねえ、綾波ってちゃんとご飯食べてるのかな?」
「あー?急にどうした?」
「さっき台所通ったでしょ。でも紅茶くらいしかなかったから」
「綾波って何や食わんでも生きていけそうな感じやもんな」
「でも綾波って以外とニンニクとか香辛料好きなんだよ。
 こないだミサトさんが私達にラーメン奢ってくれたんだけど、
 そのときもニンニクラーメン食べてたし」
「へぇー」
「コンビニでもよって、何か買ってきてあげればよかったかなぁ?」
彼女は掃除の手は休めずに楽しそうに話す。
昔の彼女はこんな風に人の事を気にするような性格だったろうか。
いや、違うな。そう、初めて会ったときは…。その事実を認識して何だかおかしくなった。
「どうしたの?そんなに笑って」

152:621の続きで
06/09/05 00:24:52
無意識に笑っていたらしい。
ゴミ袋を持ったシンジはきょとんとした顔でこちらを見つめていた。
その仕草が何だか小さな子供のようで微笑ましかった。
「お前、変わったなぁ。他人に関心見せるようになるなんぞ」
「え?」
「何や最初会うたときは、ウジウジしていけすかん女や思ったんやけどな」
初めて会った時、無気力で無関心で妹の事も、
自分のことすらどうでもよさげな彼女にムカついた。
いや、その時は「彼女」とは露とも思っていなかったが。
接しているうちに少しづつ表情が増え、感情も豊になっていった。
「まぁ、余裕ができたんやろな。心の。前見た写真よりも、今の方がずっとええで」
いつか見た彼女の昔の写真。
白い肌によく似合うワンピースを着て
長い黒髪をなびかせた彼女は確かに綺麗だった。
だけど、どの写真の彼女も、笑顔で写っているものはひとつもなかった。
感情と言うものがなかった。
今は違う。
ぎこちなさはまだあるが、本当に嬉しそうに、楽しそうに笑う。
その笑顔を見るのが、何だか楽しかった。
そこまで言うとシンジは、明らかに戸惑った表情を浮かべていた。
どうしたらいいのかわからないといった風だった。
大きく目を開いて自分を見つめる。
吸い込まれそうな瞳だった。
あぁ、そういえば彼女はこんな目の色をしていた。


153:621の続きで
06/09/05 00:28:17
トウジの言った言葉を理解するのにしばらく時間がかかった。
ここに来て、私は変わったと思った。でも、それは私の世界だけだと思っていた。
だけど、それは他人の世界にも影響を及ぼしていたらしい。
私は変われるのかもしれない。だけど、それが私には信じられない。
だって、そんな風には生きてこなかったから。そんな風に言ってくれる人はいなかったから。
自分でも思ってもいないことだったから。

「…碇さん。鈴原君?」
何も出来ずにいると、ドアが開き綾波が帰ってきた。思考を打ち切るにはちょうど良かった。
「おかえり、綾波。ごめんね、勝手に入っちゃって」
「プリント届けにきたんや。ほれ、そこ置いといたで」
「そう…」
綾波は辺りを見回す。部屋の変化に気付いたようだ。
「あの、部屋片付けておいたから」
「え?」
「大丈夫、ゴミ以外触ってないから」
そう言って、ゴミ袋を手渡した。
綾波は不思議そうな、驚いたような顔をして僅かに頬を赤く染めた。
あまり感情を見せない綾波にしては珍しい。そして、思いもかけない言葉を貰った。
「あ、ありがと…」
「え、あ?ど、どういたしまして」
綾波は小さくお礼の言葉を口にした。私も返事を返す。
ありがとうなんて言われるの、久しぶりだ。こうして返事を返すのも。
当たり前だけど、父さんにだって言ったことも言われた事もない。
何となく恥ずかしくなって、私も顔が赤くなってしまった。
「お前ら何二人で気恥ずかしいことしとんねん…」
「へ?あ、その。えへへ…」
微妙な空気の中、トウジがそんなコメントをくれた。
そう、何でこんなに恥ずかしいんだろう?気を取り直して、綾波に話しかけた。
「そうだ、綾波ちゃんとご飯食べてる?紅茶くらいしかないし」
「一応食べているわ。でも紅茶ってあってもいれたことなかったから…」
その後、綾波の家で紅茶を飲んで帰った。それは少し苦かったけど、とても暖かかった。

154:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/05 02:35:22
レイとトウジって意外な組み合わせだよなぁ
新鮮だ

155:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/05 05:56:54
GJ!

156:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/05 08:05:07
これってトウシンになるの?
でもこの先トウジは死ぬんだよな

157:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/05 14:02:32
分かんないぞ
分かんないぞ


158:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/05 15:33:52
7巻22ページで、ゲンドウに殴りかかるシンジきゅんが
おにゃのこにしか見えない俺はもう駄目ですか?
何か、胸あるように見えるし

159:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/05 16:04:09
>>158ああ、もう手遅れだ…
すでに、戻れないくらい君もナカーマだよ

160:621の続きで
06/09/05 21:55:56
白い湯気がゆらゆらと立ち昇る。
良い香りのする茶色い温かな飲み物。
舌に感じた僅かな苦味。
火傷した指先が少し痛む。
だけど、痛みは生きていることの証。

「綾波、大丈夫?ちゃんと冷たい水で冷やしておいてね」

碇さんが、熱湯の入ったやかんを触ってしまった私を気遣う。
黒い瞳が心配そうに彼女は私を見つめた。
そして、もうひとつの瞳が私達を眺めているのに気付く。
幾分背の高い彼が、私達を見下ろしながら言った。
とても興味深げに。

「なんやお前ら姉妹みたいやな」

姉妹。
私達が。
同じものから生まれたもの。
似てるということ。
仲がいいということ。
彼が言いたいのはそういうことだろう。
でも、わからない。
そういうことは、よくわからない。


161:621の続きで
06/09/05 21:58:17

「でも綾波はお姉さんというより、『お母さん』みたいだよね」

そう言って、彼女は笑う。
何故そう思うのだろうか?
意図が分からず彼女を見つめるていると
少し考えた後、何かを思い出したように言った。

「前の掃除のときの雑巾の絞り方。あれが何だかお母さんみたいだったから」


母親。
何かを生み出せるもの。
何かを育てることができるもの。
彼は私達を姉妹のようだと言う。
彼女は私を母親のようだと言う。
よくわからない。
そういうことは、わからない。

けれど。

「なにを言うのよ…」

けれど、不思議と悪い気はしなかった。


162:621の続きで
06/09/05 21:59:15
「じゃあ、綾波。また明日ね。紅茶ご馳走様」
「じゃあな」
「火傷、ちゃんと手当てしてね。薬が無いときはバター塗るといいって聞いたことがある」
「年寄りかお前は…」

彼女達はそう言って帰っていった。
いつもは無機質で殺風景な部屋は、綺麗に片付けられ
彼女の温かさがまだ残っているような気がした。
いつもの、無機質な空間。
私はそれが一番落ち着くのに。
それなのに、どうしてだろう。
ベッドにうつ伏せになって考える。
初めて言った言葉を。

 『ありがとう』

感謝の言葉。
あの人にさえ言ったことがなかったのに。
私の心の中にある空っぽの部分。
そこにあるのは、闇なのか、穿たれた穴なのか、
それとも「何も無い」のか。
けれど、その空っぽの空洞を碇司令を思うことで
埋められると思っていた。
私と碇司令の絆。私とこの世界の絆。
けれど、今は違うもので埋めようとしているのかもしれない。
以前に碇さんに言った言葉を思い出す。
何も始まっていないのは、きっと私の方だ。

紅茶の温度は、心まで温めたようだった。


163:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/05 23:40:57
綾波…

164:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/06 00:28:04
アロエ貼ったほうがいいっておばあちゃんに聞いたよ

165:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/06 01:23:14
このまま行ったらEOEどうなるのか楽しみ

166:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/06 22:37:03
今日のトリビアのシンジきゅんが女の子にしか聞こえなかった
可愛いよ、可愛いよシンジきゅん

むしろ快感です
むしろ快感です
むしろ快感です

167:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/06 22:44:17
あぁ、シンジきゅん愛してるよ。

168:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/06 23:23:57
やっぱ女シンジきゅんでも声は緒方さんだなぁ

169:621の続きで
06/09/07 00:02:11
マンションを出ると、もうだいぶ夕闇が迫っていた。
オレンジ色の雲がいくつか空に浮かんでいる。

「はぁ…エヴァのパイロットっちうんは、ホンマ変り者が選ばれるんやなぁ」
「だから、なんだよそれ…」
帰り道、トウジはまたそんな事を呟いた。
咎めつつも、完全に否定ができない事実が痛い。
「まぁ、怒るな。でもアレやな。変り者もそうやけど。
 エヴァのパイロットっちうんは顔で選んどるんか?
 なんや、綾波も惣流も綺麗な顔しとるからな。中身はともかく」
「あぁ…確かにね」
うん、中身はともかく。
「お前も根性悪やけど顔は綺麗やからな」
「へ?」
思わず、素っ頓狂な声をあげてしまう。トウジは、今何を言った?
「お前なぁ…。女やったらそこで礼言うか、照れるかしろや」
「私がそんなことしたって気持ち悪いだけじゃない」
私が綺麗?何を言ってるんだろう。
綺麗って言うのは、綾波やアスカや委員長やミサトさんの事を言うのだ。
私以外の女の人のことを言うのだ。
私なんてちっとも綺麗なんかじゃない。
だからトウジは何を言ってるのかわからない。
「お前ちっとは客観的に物事見たほうがええで。そのうちエライ目にあってまうわ」
やれやれ、と言った感じでトウジが肩を竦める。
その仕草が何ともからかわれたような、子供扱いされたような感じがする。
アスカといいトウジといい、何だって人を子ども扱いするのだろう。
このまま黙っているのも何なので、意趣返しをすることにした。
「良かったね。じゃあ、トウジは一生パイロットに選ばれることなんてないよ。
 変わり者っていうのは当たってるけどね」

170:621の続きで
06/09/07 00:03:38
一瞬ポカンとしたトウジが私を見る。数秒のち、やっと言葉を認識したようだった。
「何やとコラァ!!シンジ!もう一辺言ってみぃ!」
「わぁ!うそ!うそだってば!」
案の定怒りだしたトウジが私の頭を抱えて、拳骨をぐりぐりした。
痛いっ!痛いって!
笑いながら、言った。今度は本当のことを。
「嘘だよ。トウジは格好いいよ。本当にそう思うよ」
「ななななな!何言うとんねん!と、当然や!!」
トウジの夕日に照らされた赤い顔がもっと赤くなった。
…おもしろい。
青い空の下で笑う、無邪気な少年。
きっと彼はこのまま大人になって、優しい綺麗な女の人と結婚して、
子供をいっぱい作って。愛して、愛される人生を送るのだろう。
私が、ずっと欲しかった家庭を彼は作るのだろう。
「どうしたの?」
トウジは口の中でもごもご言葉を繰り返していて、よく聞こえなかった。

目の前には赤い夕日。
どこまでも伸びる影。
子供のときのあの頃とどこか似た光景。
でも、全然違う光景。
私もこんな日々が過ごせるなんて、思いもよらなかった。
早足になったトウジのあとを追いながら、私はまた笑った。

171:621の続きで
06/09/07 00:04:33

「松代での参号機の起動実験。パイロットは四人目を使うわよ」
「四人目?フォースチルドレンが見つかったの?」
リツコに呼び出され、研究室に訪れたミサトは思いもかけない言葉を聞いた。
「マルドゥック機関からの報告は受けて無いわよ」
「昨日報告を受けたのよ。正式な書類は明日届くわ」
コーヒーの香りとキーボードを叩くカタカタという音が部屋に広がる。
ミサトは淡々と告げるリツコの姿に眉をひそめた。
「リツコ、私に何か隠し事してない?」
「別に…」
「ふぅん…。まぁ、いいわ」
こんな時期に都合よく四人目が見つかるなんて…。
疑問はまだ残るが、それは頭の隅に追いやった。
彼女を問い質したところで大した情報は得られないだろう。
ならば、なりふりはかまってられない。
しかし、その前に確認はしておかなくては。
「で、その選ばれた子って?」
リツコが手馴れた動作でキーを叩く。そこに記された真実に言葉を失った。
「…よりにもよって、この子なの?」
液晶モニターは鈍く光を放ち、ただ一人の子供のデーターを映し出していた。


【TOUJI・SUZUHARA】



172:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/07 00:37:33
死亡フラグktkr

173:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/07 00:41:33
ウワァァァァァァン

174:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/07 00:48:17
トウジー死ぬなー(つД`)

175:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/07 01:03:24
サヨナラ、トウジ…

176:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/07 01:17:45
片足がなくなってもいいから助かってほしいが
…無理だなorz

177:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/07 01:24:07
やばい、展開を知ってるからさらに切ない…

178:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/07 01:36:48
初恋は実らないんだなぁ

179:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/07 07:06:05
この先の展開知ってると>>170がすげえ哀しいな
知らないと単にラブに発展する布石としか取らないんだが

180:621の続きで
06/09/07 22:02:24
夕飯のおかずはもう作り終えた。
あとは、ご飯が炊けるのを待つだけだ。炊飯器から白い蒸気が立ち上る。
もうすることはないので、テレビのスイッチを付けた。
今日はミサトさんが仕事でいないから、加持さんが来てくれることになっている。
今日はエビチリに棒々鶏。コンセプトは中華。
ご飯、足りるかな?まだ時間あるからついでにスープも作っちゃおうかな…。
そんなことを思いながらテレビを見ていると、同居人の少女の悲鳴が響いた。
「あっつうぅぅぅぅぅい!!何よあのお風呂の温度!火傷しちゃうわ!」
見ると、バスタオル一枚のアスカがバスルームから駆け出してきた。
人のことはとやかく言うくせに、自分はそんな格好で…。
「ご、ごめん。でもそんなに熱くなかったと思うよ」
「熱いものは熱いのよ!何度で設定したの?」
「41℃」
「めちゃめちゃ熱いじゃない!!」
そんなことない。日本人ならお風呂の温度は41℃だ。
あ、そうかアスカはクォーターで、今まで外国で暮らしてたんだっけ。
「水で薄めれば?」
「今そうしているのよ。まったくもう」
アスカは、バスタオル一枚の格好はそのままで
お湯が冷めるまで私と一緒にテレビを見ることにしたらしい。
「こんなババ臭い番組のどこが面白いわけ?もっとマシなのにしなさいよ」
そう言って、アスカはチャンネルを変えた。
テレビからは、アイドルが歌う歌謡曲が流れている。
特別見たい番組があったわけでもないので、私は台所に戻った。
「なに?なに作ってるのよ?」
「スープだよ。アスカも手伝ってよ」
「何すればいいの?」
くつくつと煮える鍋に興味を持ったのか、アスカが覗き込んできた。
そうだ。ここで料理の一つや二つ覚えてもらえば、私も楽になるかも。
ミサトさんは、家事とか料理とかそういう問題ではないから…。
いつか作ってもらったカレーは凄かったな。
普通はカレーって誰が作っても、大体食べられるレベルになるんだけど。

181:621の続きで
06/09/07 22:04:56
「じゃあ、おたまで灰汁すくって」
「『あく』って何よ?出汁と違うの?」
「……やっぱり味見だけでいい」
「えぇ?何で?」
いきなりやらせようって言うのが間違っていたのかもしれない…。
そんなやりとりをしながら、チラチラとアスカを横目で見る。
綺麗な顔をしていると思う。それに、女の子らしい体つきで…。
「なによ?なに見てるのよ?」
視線に気付いたアスカが不思議そうに私を見つめた。
「あ、アスカは胸が大きくていいなぁって…。どうしたらそんな風になれるの?」
「そうねぇ…」
アスカは興味ありげに隣の私をじろじろ眺めると、またしてもとんでもない行動にでた。
「ぎゃぁ!!」
「うわっ!胸って言うより、骨って感触が…」
「ひ、ひどい…!」
アスカは私の胸を後ろから鷲掴みにしたのだ。そしてこの感想…。
まぁ、もともと掴むほどないから…ってそういうことじゃなくて。
彼女は掌に残った感触を思い出しているようだった。
何か凄い失礼だと思うんだけど…。
「あんたは細すぎなのよ。そうね、そこだけ暖めれば大きくなるんじゃない?
 物は暖めると大きくなるのよ。熱膨張の原理ね。お風呂で揉めば?」
「熱膨張って、人体にも応用できるの?」
「やってみなきゃわからないじゃない。あんた、その大きさじゃ
 胸囲で言ったら相田や鈴原の方があるわよ」
「…………」
「………悪かったわよ。そんなに落ち込むことないじゃない」
薄々感じていたが、はっきり言われると…。
いい。どうせアスカの言うとおりだ。うじうじと床に「の」の字を書いた。
でも一応今日お風呂に入ったらやってみようかな…。
しかし、アスカの格好にも困ったものだ。バスタオル一枚でうろついて。
同じ女同士だけど、こっちまで恥ずかしくなる。…まぁ、私が言えた義理じゃないんだけど。

182:621の続きで
06/09/07 22:06:13
「アスカ、もうすぐ加持さんがくるんだから…」
「何言ってるのよ!加持さんが来るからこそ、清潔にしたいじゃない?
 あーん、あんたがいなかったら加持さんと熱い夜を過ごせたかもしれないのにぃ」
そうじゃなくて、その格好…。まぁ、いいか。まだ時間あるし。
熱い夜…ねぇ。そうだ、アスカは加持さんが好きなんだっけ。
この間帰りに水族館に行ったことがばれたらまた何か言われるかな…。
子供の憧れとは違う意味で、アスカは加持さんが好きなのだろう。
だから、きっと昼間のあの質問はありえない。
「ねぇ、アスカ」
「なによ」
それでも一応確認しておこう。
「トウジのこと好き?」
「はぁぁ!?何であたしがあんなゾウリムシのことなんて
 好きにならなきゃいけないのよ!気色悪い!」
「ゾウリムシ…」
確かこの間はサルだった気がする。
霊長類からいきなり微生物に格下げらしい。物凄い退化の道を辿っている。
「決まってるでしょ。鈴原がゾウリムシで相田がミトコンドリア。
 あんたはそうね、ハムスターかしら?」
私は、げっ歯類とはいえ最初から哺乳類らしい。別に嬉しくはないが。
まぁ、それは置いといて。とにかくありえないってことだ。
アスカは好きな人には優しくして、ちゃんと好きと伝えるタイプだ。
トウジに聞いてもきっと似たような反応だろう。
良かった。よくわからないけど、何だかホッとした。
でもどうしてこんなに安心したのかな?
そうだ。きっと私の常識は正しかったと再認識したからだろう。
「でも何でそんなこと聞くのよ」
「別に…」
つらつらとそんな事を考えていると、アスカが仕返しのように言い出した。
口の端を少し吊り上げて、意地悪っぽく笑う。

183:621の続きで
06/09/07 22:07:17
「あんたが好きだのなんだの、そういうこと聞いてくるなんて
 以外と女らしいとこあったのね~。どういう風の垂れ流し?」
「なんだよそれ…」
「早く例のあんた好みの男が現れるといいわねぇ」
アスカがからかうように笑った。
私の好みって…。アレか…。
もう!また私を馬鹿にしている!
以前、考えていたことを思い出す。

『私が男の子だったら、アスカみたいな女の子を好きになってたのかな』

前言撤回。これこそ、ありえない。
我ながら馬鹿な考えをしたものだ。
自嘲気味に冷ややかな眼差しになってしまった。
「ちょっと!何なのよ!なに人の顔見て笑ってるのよ!」
「べっつにぃ~。ちなみにアスカ。『風の垂れ流し』じゃなくて
 それを言うなら『風の吹き回し』だよ?」
「…ッ…うるっさいわね!あんたって奴は人の揚げ足ばっか取って!」

また怒り始めたアスカを笑って宥める。
もうすぐ、加持さんが来て三人でご飯を食べる。
明日の朝はミサトさんもきっと帰って来る。
学校では、皆と勉強をする。
委員長やトウジやケンスケ達と遊ぶ。

私はそんな楽しい日常がずっと続くとは思っていない。
でも、それが壊れる日がくるのはまだまだ先のことだと思っていた。

184:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/07 22:19:26
乙!!
可愛いなぁこのふたり…
加持さんうらやましいなぁ…

185:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/07 22:20:53
シンジきゅんをハムスターにたとえるということは
つまりシンジきゅんは小動物系で可愛いという解釈で(ry

186:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/07 22:29:26
完璧に死亡フラグたったな…

187:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/09/07 22:35:38
トウジ「碇…この戦争が終わったら俺たち結婚しよう」

188:621の続きで
06/09/08 23:30:50
「センセ!頼む!数学の宿題見せてんか!?」

トウジが手を擦り合わせて私を拝んでいる。
いつもの朝の風物詩。そんな風物詩、はっきり言っていらないんだけど。
「…また?最近私の宿題あてにしてない?」
「ええやん。一生のお願いや!」
その台詞もとうの昔に常套句になっている。
トウジの一生って何回あるんだろう…。
輪廻について思いを馳せながら、ノートを手渡すと
彼は素早く自分のノートに写し取っていた。
「たまに間違った答えも書いとかんとな。ワシはお前みたいに
 頭の出来がようないし」
そういう事には頭の回転が速い。
その発想を他の事に使えば宿題なんて自分でできるだろうに。
半ば呆れながら、トウジを見てると視線を感じた。
ふと顔を上げると、前の席から委員長が振り返って私を見ていた。
私を。違う、彼女が見ているのは…。
それに気付いてもう一度彼女を見ると、薄っすらと頬を染めて
視線を戻してしまった。こないだのことと言い、委員長は何か変だ。
「ねぇ」
「ん~?」
黙々と宿題を写す目の前のジャージの少年に声をかけた。
「たまには他の人に見せてもらったら?たとえば委員長とか」
「アホか!あんな堅物ドケチが見せてくれるわけないやろが!」
トウジは気付いているのかいないのか、わざわざ委員長を指をさして言った。
ああ、またそんなこと言って…。
「何ですってぇ!誰が堅物ドケチよ!!」
「誰もお前のことゆうてないやんか!」
「しっかり指さして言ってたじゃない!宿題くらい自分でしなさいよ!」

189:621の続きで
06/09/08 23:31:44
案の定、戦争勃発。
これまたいつもの風物詩。お決まりのケンカが始まった。
でも、良かった。いつもの二人だ。
昨日委員長が少し変だったので、何かあったのかなって思ったのだけど
この様子なら安心できそうだ。
でも…。
「なんでお前はいっつもワシを怒るんや!」
「あんたがいつも怒られるようなことするからでしょ!」
「………」
私を無視してケンカはまだ続いている。
よく飽きないと思う。仲良いなぁ。
なんか、一生やってなさいって感じ…?
その時、校内放送が入った。
二人のケンカが一瞬にしてピタリと止んだ。

『…2年A組の鈴原トウジ。至急校長室まで来なさい』

「トウジ、呼んでるよ」
「あぁ?なんねんな、一体」
「あなた何かやったの?」
委員長が怪訝そうに聞いた。
「アホ。心当たり無いわ。まぁ、何や知らんけど。とりあえず行ってくるわ」
そう言ってトウジは校長室に向かった。
その背中を、委員長が心配そうに眺めていた。
「何かあったのかな?校長室だなんて」
近くにいたアスカに声をかけると、私の質問は無視して彼女は立ち上がった。
「あーあ、見てられないわね。行くわよ!シンジ!」
「へ?あ、あの。アスカ?」
疑問符だらけの私を引きずって、アスカは委員長の肩を叩いた。

190:621の続きで
06/09/08 23:32:44
「まったくもう~、駄目じゃん。そんなんじゃいつまで経っても進展なしよ!」
開かれた屋上は空が近い。青い空にはいくつかの雲。
風が気持ちいい。きっとこういう状況じゃなきゃそう思えただろうに。
アスカがなんで委員長をここに呼び出したのかわからない。
何故私が引っ張り出されるのかはもっとわからない。
そんな私は関係無しに話は進んでいるようだった。
「水臭いんだから!何でもっと早くあたしに相談しないのよ」
「なんのこと?私にはさっぱり…」
「もう!とぼけるのもいい加減にしなさいよ!ヒカリの態度を見てたら
 誰だってわかるわよ!」
いや、わからない人がここに一名いるんですけど。
でも、ここで口を出すとせっかくの話の腰を折ってしまいそうで黙っていた。
委員長は伏せ目がちに言いにくそうに切り出した。
「いいのよ。私は別に、このままでも…」
「駄目よ!そんなの!」
びっくりした。
アスカは普段声を荒げることはよくあるけど
普段のそれとはまったく違っていた。
アスカは真面目な顔をすると、精一杯の言葉を紡いだ。
それはまるで、委員長だけじゃなく自分自身にも言い聞かせてるみたいだった。
「今のこの時代のことを考えて御覧なさいよ。あたし達、今はこうして
 のほほんとしてるけど、明日はどうなるかわからないのよ」
いつまたあの敵が攻めてくるのかわからないそんな毎日。
だからこそ、悔いが残らないようにと彼女は言う。
「伝えたい気持があるなら、ちゃんと伝えないと」
そして、アスカは悪戯っぽく片目を瞑った。
そのまっすぐな言葉は私の心に強く残った。
そして、それはきっと委員長にも。
「そう…よね…」
委員長は、そう小さく呟いた。
その呟きは本当に小さなものだったけど、しっかりとした決意に満ちていた。

191:621の続きで
06/09/08 23:34:00
ようやく話の本題に入れそうだ。
その前に、一つ聞いておかなければならないことがある。
「あの、アスカさん。一ついいですか?」
「はい、シンジさん。手早くね」
「あの…結局なんの話をしているの?」
私の言葉に、アスカの顔が一瞬歪んだ。
信じられないものを見るような眼差しのあと、呆れた声で言った。
「あんたバカぁ!?本当ッ鈍いわね!ヒカリはね、鈴原のことが好きなのよ!!」
「へぇ、そうだったんだぁ。…………って、えぇぇえぇえぇえ!?」
近くなった空に私の奇声が響いた。
だって、二人はいつもケンカばっかりしてるし。
そんな風には全然…。
「ふぅ…。お子様のあんたに恋心を理解させるってことが土台無理な話だったわ…」
「お、お子様!?だって…!」
「鈍いにも程があるわね…。恋をすると人は気を引くために色んな行動を取るの!
 それが女心よ!気付いてないのはあんたと鈴原本人くらいよ」
アスカがうんざりしたようにため息を付いた。
また馬鹿にされたような気がしたけど今はそんなのどうでも良かった。
やっと気付く。そうか、委員長が何かにつけてトウジに注意したり
話しかけていたのは、好きだったからなんだ。
そう考えると合点が付く。
でも、好きな人に冷たくしちゃうのも女心か…。
ミサトさんも加持さんに冷たいし。
じゃあ、私は好きな人が出来たら、どうなるんだろう。
私はずっと思ってた。
私を一人にしないで傍に居てくれる人。
優しく抱きしめてくれる暖かい太陽みたいな人。
そんな人がいるのかどうかはわからないけど。
そんな人がいたとしても、私を好きにはなってくれないだろうけど。
思考が違う方向に行きそうになるのを止めた。

192:621の続きで
06/09/08 23:35:00
「じゃあ、前保健室で色々聞いてきたのは…」
「あ、あの、碇さん。そのことなんだけどね…」
委員長が組んだ手を胸に添えながら私の前に来た。
その姿はまるで祈りの姿のようだった。
そして、あの日の保健室で見たときのような赤い顔で私に言った。
「碇さんって…。鈴原と、付き合ってるの?」
「違うよ」
「即答ね。シンジ」
脳内で言葉を認識すると同時に答えを出した。
だって、違うものは違うんだもん。
それでも、しばらく押し問答は続いた。
「でも…」
「うん?だって、違うし。ありえないし」
「本当?」
「こんなので嘘吐かないよ」
だってトウジは友達だ。
一緒にいて楽しいし、話していると面白いし。
それにトウジには私なんかふさわしくない。
彼は私なんか好きにならないだろう。
彼には幸せになって欲しい。
だってトウジは私が夢見た、ずっとなりたかった理想の男の子だから。
綺麗で、優しい人と一緒になるんだ。
優しい彼は、同じ優しくて綺麗な人を愛して、愛されて。
私が幼い頃夢見た温かい家庭を作る人だ。作れる人なんだ。
そうだ、委員長みたいな可愛くて優しい女の子と。
そんな想像を思い描き、うんうんと一人で頷いた。
「じゃあ、話は早いわ。シンジ!」
アスカは私に向き直ると指をさして言った。
「あんた鈴原と仲良いんだからわかるでしょ?」
「何が?」
「どうしたらあの熱血ジャージとヒカリがラブラブになれるかよ!」
なるほど。だから私が呼ばれたのか…。でも。

193:621の続きで
06/09/08 23:35:51
「そんなのわかんないよ…」
「あんた達、大体いつも一緒につるんでるんだから
 あいつの好きなものとか、何でもいいから心当たりあるでしょ?」
そんなこと言われたって…。
さっきまで、鈍いだのお子様だの言われて実際そうだった私が
どう考えたらクラスメイト達の恋のキューピッド役ができるのだろう。
それでも、何か言わなきゃ罵倒されそうだし…。
何か言わなきゃ。何か…。
トウジは何が好きだったけ?
いつもどんなことをしてたっけ…?
「……あ、そうだ」
「何か浮かんだ?言いなさいよ」
「えーっと、お弁当とかどうかな?あいつ、いっつも購買のパンばっかだし
 委員長、料理上手だから手作り弁当とか作ってあげたら…?」
トウジが、以前私のお弁当を美味しそうに食べていたのを思い出した。
トウジも母親がいないし、他の大人は忙しいので誰もお弁当を作ってくれる人が
いないらしい。だからきっと、喜ぶと思うんだけど…。
「ど、どうかな?」
「………」
そう提案すると、アスカは腕を組んで考え事をし始めた。
青い瞳が私を見つめる。
………また罵倒?
審判を待っているとアスカは言った。
「それ採用!あんたにしては上出来!単純かつ古典的だけど
 あのバカには効き目ありそう!」

…良かった。しかも何か褒められた。




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