06/06/11 13:33:37
朝が来た。起きるとすでにレイは起きていた。
「今日は起きるの早いね。何かあったの？」
「いえ…、なんでもないの。」
普段は、寝ているレイを僕が起こしに行くので、何でも無いって事は無いと思うが、あれでレイは結構頑固な所がある。
下手に問い詰めて機嫌を悪くされたら困るので、それ以上は聞かなかった。
それから、見送ってくれるレイからいきなりキスをされ、驚きつつ家を出た。
確かに嬉しいが、今日のレイはいつになくおかしい。やはり何かあったのだろうか。
騒々しい満員電車を乗り継ぎ、会社に辿り着いた。
今、僕は小さい会社の雑誌のライターをやっている。
美味しそうな店があればそこのおすすめや料理を紹介したり、新しい製品が出たらレビューを書いたり。
まあ今はもっぱら雑用の仕事の方が多いけど、僕もいつかは作家として独立して、自分の本を出版するのが密かな夢だ。
「おい、シンジ君。」
「あ、はい？」
急に上司に話し掛けられた。
「君は…、何個もらったかね？」
「何がですか？」
「チョコだよチョコ。今日はバレンタインデーだろ？」
そうか、バレンタインデーか。
一部の男性社員が、今日やたら落ち込んでいるのはそのせいか。…理由は聞かなくても分かるが。
「いや、僕はまだ一個も貰ってませんけど…。」
「うん、そうだろうねえ。私は既に四個は貰っているかなあ。まったく…、仕事中は持ってくるなといってあるのに。」
しかし、顔は少しも「まったく…」などという表情ではなかった。
嫌味な上司なのは昔から知ってるし、別に腹も立たないがチョコを一つも貰えない事が少し淋しかった。