落ち着いてLRS小説を投下するスレ3at EVA
落ち着いてLRS小説を投下するスレ3 - 暇つぶし2ch302:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/17 09:49:17
角は死ねよハゲ!

303:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/17 12:00:45
>>301


でもカレーラーメン結構好きだぞおれ。カップヌードルでもカレー味あるし

304:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/17 17:11:56
た。た。た。た。た。た。た。た。

典型だな。

305:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/17 17:47:37
>>301
乙。
また人称がぶれてるよw

>>302
鳥つけられたからってw
どっちかって言うと藻前が死ぬことを望むよ。 bless you.

>>304
角 ◆uTN4HfUPlw について言ってるんなら、事実誤認だろうな。

306:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/17 18:07:46
自演乙

307:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/17 18:34:36
>>305
お前が死ねwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

308:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:28:29
暗くしたくないな。まあしばらくお待ちを。
とりあえず一気に三章終わらせちゃうよ。

>>305
フォローありがとうございます。
人称のことなんですが、そもそも登場人物二人だけなので許してやって下さいw


309:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:29:45
久しぶりにドラム缶風呂を沸かすことにした。
僕は一ヶ月、綾波は一週間以上、風呂に入っていないのだ。

濡らしたタオルで体中を拭いたとしても限界がある。
僕、あるいは綾波が異臭を放ちながら歩き回るようなことは得策とはいえまい。
それに溜まって来た疲れを飛ばすには風呂が一番だということは学習済みだ。

石鹸は調達した。
燃料は足りなかったものの、かなりの量の湯を沸かすことができた。
肩まで浸かることは諦めなければならないとはいえ、湯を気が済むまで浴びることはできるはずだ。

とりあえず先に綾波に入ってもらって後で浴びることにした。

かなり疲れが取れるのではないかとは期待してはいたが、最近の疲れはかなり本格的で湯を浴びたくらいではどうにもならないようだ。
第一、ドラム缶で湯を沸かす事自体重労働だ。いたずらに疲れただけかもしれない。
黙々と体を擦る。やれやれ。



310:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:31:09
突然、後ろでボソッと声がした。

「碇君。」

「綾波!?」

「背中、流すわ。」

「ぼ…僕、裸なんだよ!?」
慌ててタオルを腰に巻きつける。

「それがどうかしたの?」

「どうかしたのって…僕は男なんだよっ?」

「そのタオル、貸して。流すから。」

駄目だ、全く聞く耳を持ってくれない。
そもそも意味が通じていない。
僕は観念した。

綾波は力をこめて背中を擦ってくれた。
僕は間違いなく真っ赤になっていたと思う。
でも、背中を擦ってくれたあの感触は、何故だか忘れられなかった。

311:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:32:07
旅立ちから十日余り、碇君が倒れた。

ある日、出発しようと私が立ち上がったとき、後ろで『どさっ』という音がした。
振り返ると碇君が地面に突っ伏していた。

私が駆け寄ると、
「あ、あぁ、大丈夫…大丈夫だから…」
彼はか細い声を返したが、その声はいたく頼りなかった。

そして彼は私の肩を手がかりに再び立ち上がろうとして、バランスを崩して転んだ。
私は彼に押し倒される格好になった。

地面に彼の脂汗がぽとぽとっと落ちた。
彼の口から苦しそうな吐息が漏れる。
ここで私は彼の状態を理解した。

「碇君!」

「う…」

額を触ると驚くほど熱く、呼吸も速い。

慌ててテントのビニルシートを天蓋状にして即席の日陰を作り、そこに彼を寝かした。
恐らくは風邪だろうが楽観はできない。

水で湿らせたタオルを額に乗せ、一時しのぎとした。
だが出発した時点で長い行程になるであろうことは明白であるにも関わらず、
一切風邪薬の類を調達していなかったのは大きな失策だった。



312:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:33:34

「碇君、そこで待ってて。薬探してくるわ。」

一時間ほどしてやっと発見した薬局。

割れたショーウィンドウの向こうの床には何組もの衣服が無造作に散らばっていた。
私自身はこのような光景を目撃するのは初めてだったにも関わらず、特にこれといった感情は持たなかった。

「風邪薬、これね。」

念のため数種類の風邪薬を確保して、私は薬局を後にした。
そして彼のところに駆け戻った。


313:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:35:52
風に揺れる天蓋の下、彼の額に乗せたタオルが地面に落ちていた。
碇君が、いない。

私はパニックに陥った。
彼のあの病状で出歩くなんて自殺行為だ。
あの熱で。歩くことさえ難しいのに。

数分後、100mほど離れたビルの陰で碇君が壁にもたれているのを発見した。
私は彼の顔に荒っぽく冷水をかけた。乱暴だとは思うがとにかく解熱剤を飲ませなければ彼が危ない。

辛うじて目覚めた彼はうわ言のように呟いた。

「う…く…薬くらい…僕が…探してくるよ…綾波は…待っててよ…」

「碇君、薬ならここにあるわ。飲んで。」

私は無理やり彼の口に解熱剤を放り込み、飲み込ませた。

「ごめん…ごめんよ…綾波…」
意識が朦朧としながらも彼は何かを謝った。
彼がよく反射的に口にする「ごめん」とは何か違っているような気がした。

彼が再び気を失ったのでテントの中に引きずり込み、そこで寝かせた。
二時間ほど見守っているうちに呼吸が安定してきたので私は安心した。

だが、一つ気になる事柄があった。

…彼はさっき何を謝っていたの?

私には全く思い当たる点がなかった。


314:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:36:48
彼は数時間おきに私が水分と薬を与える時以外は昏々と眠り続けた。
翌日の夕方、熱が下がり、やっと彼は話をできる状態に戻った。

「また迷惑…かけちゃった…ごめん…」

「碇君、あなたは昨日何を謝っていたの。」
私は不用意にも聞いてしまった。

彼の声のトーンが突然上がった。

「綾波は…君は…見てしまったんだろ、あれを。
 君には…君にだけはあれを見てほしくなかったのに…」

「碇君…私は別に何も…」

「あれを見て苦しむのは僕だけでよかったんだ!
 なのに…なのに…!」

彼は一気にまくしたてた。

315:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:39:08
私の脳裏にふと、閃くものがあった。

薬局の薄く埃の積もった床に散らばる衣服。 
ヒトがその場所で形を失った証。

私はあの時初めてその光景を目撃した。

…何故?

いままで壊れた食料品店や工務店に物資を得るために入り込んだのは碇君ただ一人だから。

…何故?

私が入ろうとした時、常に碇君はやさしく私に話しかけた。
「中は狭いし、ガラスが飛び散ってて危ないから綾波は外で待ってて。」

それは嘘だ。
彼は私にそれを見せたくなかった。

…何故?

彼は、他の人々を消してしまったのは彼の深層心理と私だということを知っている。
彼は加害者意識に苦しんでいた。
『僕が、みんなを消してしまった…』
もしかして、もう一人の加害者である私にも同じ苦しみを与えたくなかったの?



316:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:40:29
しかし、あの光景を見ても私は何も感じなかった。

…何故?

私が大切なのは碇君ただ一人だから。
既にいなくなってしまった人の事を考えても意味が無いと感じたから。

これは、変なの?
私が変で碇君が正しいの?
私が正しくて碇君が変なの?

地上に二人しかいない現在、いつまで経ってもこの問いに結論は出ないように感じた。

しかし。

赤城博士が生きていたらきっとこう言ったでしょう。
「あなたは人間じゃないから。造られた存在だからよ。」

確かに私は周囲の人間とは違った。
心も、体も。
今考えてみれば違っていて当然だ。
しかし私はその言葉を否定し続けていた。

だが今、その言葉が急に現実味を帯びてきたように感じた。

317:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:43:11
私は現実に引き戻された。
目の前の碇君は寝袋の上にうずくまっていた。

「碇君…ごめんなさい。」

私は声を絞り出した。
生まれて初めて自分自身を憎いと感じた。

暫くの沈黙の後。
「…もういいよ。」


318:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:44:42
あの日の晩、明かりを消したテントの中で綾波はポツリと言った。

「私は碇君に対して何もできなかった。」

声が震えていた。
綾波はそれでも言葉を続けた。

「私はただの足手まといでしかなかったわ。」

僕は思わず大声を出した。

「そんなことないよ!」

「いえ、私は碇君に無理をさせていた。
 碇君が無理をしていたのにも気づかなかった。
 それなのに、私は碇君に対して何もできなかったわ。」

「違う!違うよ…、綾波が…君がいなかったら僕は生きていけなかったよ!
 僕には綾波が必要なんだ。
 自分は要らないなんて考えたら駄目だよ!
 僕こそ、君に隠し事ばっかりしていた。
 僕こそもっと早く、君に相談するべきだったんだ…」

テントの中は真っ暗だったけれど。
僕は綾波の顔を、綾波は僕の顔を、暫らくの間じっとみつめた。



319:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:46:00

「碇君、あなたは私が必要なのね?」

「うん。」

「私は要らない人間じゃない…」

「もちろんだよ。」

「…」

綾波は何も言わなかった。

320:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:47:30

僕は倒れた電柱を乗り越えた。

30kgを超える荷物を担ぎながら朝から晩まで歩き続けることは苦痛以外の何でもなかったが、
先行する綾波の姿をみていると不思議と心が落ち着いた。
 
あの一件以来、僕と綾波の関係は微妙に変化していた。
何かが。確実に。

旅は僕が風邪で倒れていた日を除いても二週間以上歩きっぱなしだった。

昨日の夜、綾波のかかとに血が滲んでいた。
ひどい靴ズレにも関わらず綾波は一切そのことを話さなかった。

だが記憶では前方のあの丘を越えればその向こうは以前と変わらない日本があるはずだった。


321:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:49:39

そして、僕達は丘を越えた。

「あっ」

綾波が小さく声を上げた。
綾波、どうしたの、と聞こうとしたとき、僕にもその理由が分かった。

視界に広がる森が黄色や紅色に変わっていた。

セカンドインパクト。
僕が生まれた年、世界は季節というものを失った。
紅葉というものを僕も綾波も記録映画や写真でしかみたことがなかった。
十五年間続いた夏。でも僕も綾波も特に変だとは感じなかった。

セミの鳴き声が聞こえなくなったのはいつからだろうか。

そして今、日本と呼ばれていた島々に絶えて久しい秋が訪れようとしていた。


僕が拾ってきたデジタル腕時計によると、2016年4月2日。

澄んだ秋晴れの下、ついに僕と綾波は我が家を手に入れた。

322:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/18 08:53:01
ストック使いきっちゃいました。
頑張ってまた書きます。

第三章はこれで終わりです。
次の投稿は遅れます。


323:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 11:35:57
ニート乙

324:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 12:33:47
、 /⌒⌒丶
、 ′ 从 从)
、 ヽゝ゚ ‐゚νボイーン 
⊂二二ヽ・人・ノ二二⊃
   | ./
    ( ヽノ
   ノ>ノ
 三 レレ


325:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 12:36:01

    /∵∴∵∴\
   /∵∴∵∴∵∴\
  /∵∴//   \|
  |∵/   (・)  (・) |
  (6       つ  |   長沢てめー 生意気なんだよ
  |    ___ |   
   \   \_/ /     ▲
     \____/    /川\
  /⌒  - - ⌒\ ../     \
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\ \|    亠  |  |  ⊂・⊃ ⊂・⊃| 
  \⊇  /干\|( |  ∴  ∪ ∴ |)
    |       |  \    <=>  /   ふん、本当は気持ちがいいくせに
   ( /⌒v⌒\_  \____ /
パンパン|     丶/⌒ - - \
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326:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 12:37:18

    /∵∴∵∴\
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  (6       つ  |   長沢てめー 生意気なんだよ
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  \⊇  /干\|( |  ∴  ∪ ∴ |)
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   ( /⌒v⌒\_  \____ /
パンパン|     丶/⌒ - - \
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327:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:14:09

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   /∵∴∵∴∵∴\
  /∵∴//   \|
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  (6       つ  |   角てめー 生意気なんだよ
  |    ___ |   
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     \____/    /川\
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  \⊇  /干\|( |  ∴  ∪ ∴ |)
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   ( /⌒v⌒\_  \____ /
パンパン|     丶/⌒ - - \
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    /  ノ\__|  |__三_ノ|  |
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328:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:15:46
>>322
職人さん乙。
第四章からはシンジとレイの新婚生活?

329:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:24:59

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330:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:43:40

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331:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:45:17

    /∵∴∵∴\
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332:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:50:48

    /∵∴∵∴\
   /∵∴∵∴∵∴\
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  (6       つ  |   角てめー 生意気なんだよ
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  \⊇  /干\|( |  ∴  ∪ ∴ |)
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333:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 13:58:04

    /∵∴∵∴\
   /∵∴∵∴∵∴\
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  (6       つ  |   角てめー 生意気なんだよ
  |    ___ |   
   \   \_/ /     ▲
     \____/    /川\
  /⌒  - - ⌒\ ../     \
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\ \|    亠  |  |  ⊂・⊃ ⊂・⊃| 
  \⊇  /干\|( |  ∴  ∪ ∴ |)
    |       |  \    <=>  /   ふん、本当は気持ちがいいくせに
   ( /⌒v⌒\_  \____ /
パンパン|     丶/⌒ - - \
    / \    |  |     / |
    /  ノ\__|  |__三_ノ|  |
   /  /パンパン|  |      |  |
  /__/     |  |      |  |
          ⊆ |     | ⊇



334:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 15:21:07
>>322
おつ

335:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/18 17:20:21
>>322
乙。

336:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:33:39
スレ読みにくいようなのでとりあえず一集から三集までまとめときました。

URLリンク(www.geocities.jp)
URLリンク(www.geocities.jp)
URLリンク(www.geocities.jp)



337:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:35:10
この家に居を構えてから二日。

もう歩かなくてもいいという安堵からか碇君はこの家から動こうとしなかった。
一日中、ごろごろしているだけだ。

その気持ちは分からなくもないが、私はこの町をもっと知りたいと思った。

「碇君、少し散歩してくるわ。」

私は玄関で靴を履きながら暗い家の中に向かって呼びかけたが返事は無かった。
おおかた、また眠ってしまったのだろう。

大きな庭のある私たちの家。
近代的な二階建てで二人で住むには十分すぎる大きさだ。
庭にはアロエや名前は分からないけれど様々な低木が植わっている。

当然ではあるが周囲は閑散としていた。
銀杏並木が黄色く色づいている。

誰もいない大通りを秋風が吹き抜ける。
本当にいい天気。雲ひとつない。

特に行き先も考えずに彷徨っているとある建物の前を通りかかった。

「大杉市立図書館」

不思議と、本を読みたい衝動にかられた。


338:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:37:24
入り口の自動ドアは閉じていたが隙間に手を入れて力を入れるとあっさりと開いた。

中は埃っぽかった。

一階は子供用の絵本や小学校低学年向けの本。
二階から三階は大人向けの難しい本が並んでいる。

二階から本を物色して回った。

小説には興味はないので一冊も読まずに棚の前を通り過ぎた。
政治経済…ドキュメンタリー…駄目、全く読む気が起こらない。

実用書コーナーで数冊を借りた。
「はじめてのクッキング」「旦那が喜ぶ料理百選」…など。
いつまでも碇君に負けてるわけにはいかない。

その他、サバイバル本を一冊。
怪我をしたときに応急処置の一つも分からないと困ると思った。
現に怪我しかけたことが二週間に幾度もあった。

三階の資料室には向かわないでそのまま一階に降りた。

339:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:38:13
もう日は暮れつつある。
一階を少し回ってから帰ることにした。
幼児向けの本はほとんど私の興味を引かなかったが、立ち去る間際、絵本の書棚の向こうにもうひとつ小部屋があるのに気がついた。

そこは紙芝居部屋だった。
百いくつもの紙芝居が小さな本棚に所狭しと押し込められていた。
ビニールの大きなファイルに入れられた紙芝居セット。
部屋の奥にある教壇の上で子供達に向かって読まれていたことだろう。


レイはそのうちの一つを手に取りビニールファイルから紙芝居の束を取り出した。
題名が気になったのだ。
そして教卓の上にきれいに並べると静かに、はっきりとした声で読み出した。
誰もいない紙芝居部屋にレイの声が響いた。

「100万年も しなない ねこが いました … 」

340:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:39:02
私が家に着いたとき、空は暮色に変わっていた。

「ただいま…」

碇君が出迎えてくれた。
エプロン姿の碇君。かなり似合っている。

「おかえり。遅かったね。」

「図書館に行ってたの。」

「へえ…本を読むのが好きなんだ。綾波って。」

「ええ…」

ここで私は家の中が明るいことに気がついた。

「そういえば電気がついてるけどどうしたの?」

「あ、そうそう。裏の倉庫を探ってたら発電機が出てきたんだよ。
 ガソリンは十分余ってるから使うことにしたんだ。
 一階だけだけど、電気が使えるよ。
 じきに二階も使えるようにするつもりなんだ。」

私が出かけている間に発電機を配線に取り付けて電気系統を生き返らせたという。
彼にそんなことが出来たなんて。私は感心した。

341:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:39:51
「すごいわね、碇君。」

「いや、それほどじゃあないよ…」

彼は赤くなった、が突然、

「しまったっ」

突然何か焦げ臭い匂いがしたのだ。
彼は庭に駆けつけた。

「うわー、やっちゃった…」

冷凍の秋刀魚を七輪で炙っていたようだが、話に夢中になってしまって焦がしてしまったようだ。
焦げる、というよりも火がつく寸前のような状態に見えた。
うちわが地面に放り出してある。
失敗ではない。大失敗である。
何故だか、少し嬉しかった。

「これはもう食べられないなぁ…」

至極残念そうだ。

「碇君、焼きなおすのなら私にやらせて。」

「えっ、綾波、いいの?
 ならお願いしてもいいかな。」

意外とすんなりと彼は了承した。
私は地面に落ちているうちわを片手にした。

342:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:41:34
彼に少しくらいいいところを見せなければ。
私がこんなことを考えるのは初めてのことだと気づいたのはずっと後のことだった。

数分後、彼は言い出しにくそうに私に話しかけた。
「あの…綾波…?」

「何…?」

「そんなに…七輪をみつめなくてもいいんじゃないかな…」

彼は言い終わるとぷっと吹き出した。

「何を笑っているの?」

大笑いしながら碇君は話を続けた。

「だって、綾波がじっとサンマとにらめっこしてるんだもの。面白くないわけないじゃないか。」

私もつられて笑い出すのを感じた。
私、笑っている。

「あはは…綾波も笑うんだ…」

「何を言うのよ…ふふ…あはは…」

すっかり暗くなった空に二人の笑い声が響いた。

343:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:42:30
その日の晩、碇君が発電機の電源を落としにいっている間、私は和室に二人分の布団を準備していた。

その時、窓辺に赤いプラグスーツが丁寧に折りたたんで置いてあるのが目に入った。
突然心の奥に冷水をかけられたように感じた。

私はその赤いプラグスーツはセカンドの遺品であると認識している。
だが彼の中では位置づけが違うのだ。

彼にとっては自らの無力さの象徴であり、
彼がいろいろな意味で憧れていた存在の最後のひとかけらであり、
彼に対してライバル意識を抱きながらも彼に理解してもらいたいと欲した少女の遺品でもあるのだ。

私が欠けた心の埋め合わせとして碇司令を想っていたころ、司令の眼鏡を司令の分身のように大事にしていた時期があった。

しかし、司令の眼鏡とセカンドのプラグスーツを同等のものだと考えるのは早計だろう。

私は思った。
彼はこれを捨てることは絶対にできないでしょうね。

そして、私は急に怖くなった。
私は彼の中ではこれに押し退けられているのではないだろうか。

これは、嫉妬という感情?


344:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:43:40
「モノ」に嫉妬するほど情けないことはない。
赤木博士はかつてそのようなことを言っていた。

いえ。私は赤木博士とは違う。
そう信じたかった。
だが、事実、私は確実に目の前の赤いプラグスーツに嫉妬していた。

他に碇君の気持ちを惹きつける存在があるのが許せなかったのだ。


急に部屋の明かりが消えて私は現実に引き戻された。

碇君が戻ってきた。

「綾波、戻ったよ。」
 
「じゃあ寝ましょう。」

私は平静な声を装った。
彼にこの醜い感情を知られたくは無かった。

345:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 09:46:06
それじゃ、今日はこれくらいで。
明日かあさってまた更新します。

346:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/19 11:49:07
>>345
乙。

347:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/19 12:20:50
シンジは「冷凍の秋刀魚」なんてどこで手に入れたんだろう?
電気無しでは、冷凍されていても既に溶けて腐ってるんじゃないかと思うんだが。

348:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/19 21:18:58
ニート乙

349:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/19 23:01:34
そこを突っ込んじゃマズイ

350:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:05:28
2016年4月5日、この町に来て四日目。

綾波がどうしてもというので僕は屋外にひきずりだされた。

誰もいない大通りを僕達は並んで歩いた。
何百枚もの黄色く色づいた銀杏の葉が風に舞っている。

ここへ来て数日、もう秋は終わろうとしていた。
これからやって来るのは冬。
生まれてから初めて体験するであろう冬に対して微かな不安を感じた。

「綾波、僕達これからどこへ行くの?」

「図書館よ。」

僕は意外な行き先に面食らった。

「図書館?なんでさ?」

「私たちは今年15才よ。本の一冊でも読まなければ馬鹿になるわ。」

「そうかなあ…」



351:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:07:26
図書館に着いた後、僕はすぐさま実用書コーナーに足を運んだ。

『家庭菜園入門』『季節の作物』…
来春には二人が食べる野菜を作らなければならない。
いつまでも乾燥野菜やインスタントに頼っているわけにはいかないからだ。
このままじゃいずれ栄養失調になってしまうし、既存の製品はいずれ腐ってしまう。

困ったことに電気配線に関する本が見つからない。
早く二階の電源も生き返らさなければならないのに。

「貸し出し中か…」
仕方が無い。
どうせ配線も調達しなければならないので専門店をみつけたらそこで探してみよう。

『渓流釣りを極める』…
フィッシング…僕は釣りをしたことはなかったがそろそろ新鮮な魚を食べたいものだ。
道具さえ揃えば…間抜けな魚くらいなら…釣れてくれるかも…。
この本も借りよう。

僕はあまり図書館に行ったことはなかったが、こうしてみると知識の宝庫のように感じる。
僕達は生きていくのにはこれらの知識をフル活用しなければならないのだ。

学問の本の書棚が並ぶ。
タイトルを読むだけで頭が痛くなりそうな本がずらっと並んでいる。

少しくらい馬鹿になったとしても構うものか…
しかし、僕は数ヶ月も本一冊読んでいなかった。
既に少なからず馬鹿になっているだろう。
やはり気になるので適当に数学と物理の参考書を数冊借りていった。
小説コーナーでも数冊面白そうな本をみつけたのでついでに借りていくことにした。

352:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:08:59
ところで、さっきから綾波の姿が見えない。
二階と三階には姿はなかった。

「綾波、どこにいるの?」

薄暗い館内に僕の声が響く。
一階にも綾波の姿は見えなかった。

その時、ふと一階の図書室の奥から微かに人の声が聞こえてきた。
声は図書室の奥の小部屋から聞こえてくるようだ。

「ねこは、白い ねこの そばに いって、
『おれは、100万回も しんだんだぜ!』と いいました。 …」

間違いなく綾波の声だ。
でも綾波は一人でなにをやっているのだろうか。
僕は部屋に踏み込むことができずに、聞き耳を立てた。

「『そばに いても いいかい。』と、白い ねこに たずねました。 

「白い ねこは、『ええ。』と いいました。」

静かで、はっきりした声だ。
綾波は何か絵本を読んでいるようだ。
まるで誰かに読みきかせているかのような声。

「ねこは、白い ねこと いっしょに、いつまでも 生きていたいと 思いました」



353:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:09:50
ここで僕は気づいた。
綾波の読んでいる絵本は、僕も知っている。
もう四十年も昔の絵本だ。

僕がまだ子供のころ、母さんがひざの上で読んで聞かせてくれた。
当時の僕はその絵本の意味は分からなかった。
ただ、何か悲しい話みたいだということは覚えている。

「ねこは、はじめて なきました。」

そう。百万回の人生で、百万人の人から百万人分の寵愛を受けながらも自分からは誰一人愛することの出来なかったねこ。
何千匹、何万匹ものねこから求婚されても誰一人愛することの出来なかったねこ。
しかし、百万一回目の人生にして初めて心の底から一匹の白いねこを愛することができた。
自分自身の存在よりも大切なものを得たのだ。

そしてある日、必然的にその白いねこの寿命が尽きたのだ。
ねこは初めて愛するものを失う悲しみを味わった。
百万日間、朝から晩まで嘆き続け、そしてある日のお昼。

「ねこは、白い ねこの となりで、しずかに うごかなく なりました。」

「ねこは もう、けっして 生きかえりませんでした。…」

綾波の声が途絶えた。
僕はしばらくその場から動けなかったが、そっと小部屋から離れることにした。

頭の中で、綾波の声がまだ響いていた。


354:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:10:39
私はこの紙芝居を理解しようと反芻していた。幾度も幾度も。

昨日も碇君は家から出ようとしなかったので私は一人で図書館に通っていた。
そしてこの紙芝居を何回も音読していたのだ。
私はこれを完全に理解できるまで続けるつもりだった。

このねこにとって白いねこはどのような位置づけだったのかしら。

大切なもの…?

このねこにとって白いねこは大切なものだった。
自分自身よりも大切なもの…失いたくない…

私にとっての大切なものは何?
それは碇君…
碇君は私にとって大切なもの…自分自身よりも大切なもの…失いたくない…

頭の中で声がした。
本当にそれは正しいの?

355:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:12:04
かつての私が碇司令の割れた眼鏡を大切に保存していた時期があった。

何故?

何故なら司令は私にとって大切なものだったから。
私にとって司令の存在は自分よりも大切だった。
あの眼鏡は司令の分身だった。
あの眼鏡を守るためだけにであっても自分の命を懸けてさえ惜しくはなかったであろう。

そして私は司令を自分のものにしたかった。
誰のものでもない、私一人のものに。

所有欲。

司令への憧れや想いに紛れてそれは潜んでいた。
司令はモノではなかった。


そして、もちろん碇君もモノではない。
碇君は一人の人間だ。
彼を私一人のものにしたいという発想自体が間違えていた。
私は無意識のうちに碇君をモノとしてとらえていたのだ。


356:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:13:21

セカンドのプラグスーツ。
碇君はモノに心を奪われていたのではない。
あのプラグスーツは既に碇君の心の一部なのだ。
欠けた心の埋め合わせとしての眼鏡とは比べてはならないモノ。

私はそれを見誤っていた。

意地汚い欲望に惑わされ、真実が見えていなかったのは私のほうなのだ。

357:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:14:18
この瞬間から、私は彼を自分のものにしようという発想を放棄した。
彼は彼、私は私だ。彼は私のものではないし、私は彼のものではない。
彼の心の中にむやみに私が干渉するべきではないし、私も彼の心に影響を受けてはならない。

私は対等に碇君と付き合えばよい。

碇君が赤い海の浜辺で力なく横たわっていたあの時、私は必死で彼を助けようとした。
私がひとりこの世界に取り残されるのが怖かったのではない。
大切なモノを失ってしまうのが怖かったのでもなかった。


それなら、彼は私の中でどのような位置づけなの?
ふと、疑問が湧いた。

このねこは白いねこを愛していた。
世界中の何よりも。

私は碇シンジという一人の人間を愛している。
世界中の何よりも。

仮に見返りが無くても構わない。
彼が何を思っていても構わない。
それでも私は碇君を愛することができる。

358:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/19 23:16:57
第四集はこれで終了です。
明日投稿する予定だったのですが、マッハで書いてしまいました。

第五集に続きます。
今度こそ、ちょっと遅れます。

359:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/19 23:27:57
GJ。

『red moon』にリツコがレイに同じ話をする作品があった気がする…。

360:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 00:39:56
角死ね

361:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 02:09:59
>>358
乙。

362:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 13:36:54
>>358
乙~。続き待ち。

363:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/20 16:29:48
僕が玄関の外で小一時間ほどまったところで綾波が出てきた。

「綾波、もういいの?」

「ええ。寒いのに待たせてしまって。ごめんなさい。」

「別にいいんだよ。早く家に帰って夕食にしよう。」

綾波の表情が何か晴れ晴れとしているように感じた。
まるで、胸のつかえが取れたような。そんな表情だった。


364:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/20 16:31:41
今日の夕食は、綾波に味噌汁を作って貰うことにした。

綾波の手料理は既に経験済みだが、どうしてもと言われては断ることもできない。
僕はある程度覚悟を決めていた。

だが、万が一味噌汁が甘かったらぼくはどのように対処したらよいのだろうか。
そして綾波は賞味期限内の食材を使ってくれるだろうか。
この状況下では食あたりは命に関わりかねないのに注意し忘れた自分を呪った。
いずれにしろもう手遅れだ。

脳内で恐ろしい妄想が繰り広げられていたところで綾波が二人分持ってきてくれた。

見た目は正常だ。
だが中身は…
以前、綾波がミサトカレー改を作った時のころ。
僕はただのカレーにみえたそれにフォークを差し入れた際、何か麺のようなものが大量に絡み付いてきたので戦慄したものだ。
綾波には失礼だとは思うが、今回も同じようなことが無いとは限らない。

とりあえず心を空にして味噌汁を口に運ぶ。
綾波、緊張するから僕が食べてるのをみつめないでよ。


365:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/20 16:32:44
…美味しい?

以外にも綾波の味噌汁は美味しかった。
隠し味で調味料も色々加えているらしいし、材料も足りないのに色々工夫している。
野菜も多くてとても健康的だ。
そう。間違いなく綾波の味噌汁は美味しい。

僕はきっと狐につままれたような顔をしていたのだろう。
綾波は心配になったのか、僕に話しかけてきた。

「碇君、お味噌汁…どうだった?」

「あ…うん…とても美味しかったよ。
 綾波、味噌汁作るの上手いんだ。」

「ええ…あ、ありがとう」

そして少し戸惑うそぶりを見せてから、言った。
 
「次から私が夕食作っても構わないかしら。」

断る理由は無いし、綾波の実力は証明済みだ。
前回のは何かの間違いに違いない。
僕は夕食担当を綾波に一任することにした。

「もちろん。僕も綾波の料理、もっと食べたいな。」

自分でいっておきながら、つい僕は赤くなってしまった。
でも、綾波は本当に嬉しそうだった。

366:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/20 16:33:43
一日の終わり、碇君は発電機の電源を消しに屋外に出た。

私は窓辺に折りたたんでいる赤いプラグスーツに目を移した。
そして、私はそっと窓辺に近寄りプラグスーツを手に取った。

懐かしい感触だった。
柔らかいが極めて耐久性の高い繊維のそれ。
私たちがEVAに搭乗していたころ、彼女はこれを着ていた。
彼女とともに幾度も死地を乗り越えてきた赤いプラグスーツ。

一昨日のような醜い感情はもう湧いてはこなかった。

ごめんなさいセカンド。
ごめんなさい碇君。

赤いプラグスーツにぽとり、と涙が落ちた。
一滴、二滴…。

発電機のエンジン音が聞こえなくなり、明かりがふっと消えた。

私は涙を拭うとそっとセカンドのプラグスーツをもとの窓際に戻した。

おやすみなさい。
私はそっと呟いた。



367:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/20 16:36:43
すんません、やっぱしこれで第四集は終了とします。
区切りの良いとこまでいかないとね、ってことで書いちゃいました。

368:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 16:41:16
>>367


369:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 17:26:38
>>367
死ね!くたばれチンカス野郎!もう2chくんな!

370:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 19:07:42
>>367
乙。

> 材料も足りないのに色々工夫している。
> 野菜も多くてとても健康的だ。

足りないの?潤沢なの?

371:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/20 21:15:38
ニート乙

372:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/21 14:54:04
>>370

ヒント:乾燥野菜

373:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:04:01
>>366書き直し



一日の終わり、碇君は発電機の電源を消しに屋外に出た。

私は窓辺に折りたたんでいる赤いプラグスーツに目を移した。
そして、私は静かに窓辺に近寄るとプラグスーツを手に取った。

懐かしい感触だった。
柔らかいが極めて耐久性の高い繊維のそれ。
私たちがEVAに搭乗していたころ、彼女はこれを着ていた。
彼女とともに幾度も死地を乗り越えてきた赤いプラグスーツ。

一昨日のような醜い感情はもう湧いてはこなかった。

ごめんなさいセカンド。
ごめんなさい碇君。

赤いプラグスーツにぽとり、と涙が落ちた。
一滴、二滴…。

発電機のエンジン音が聞こえなくなり、明かりがふっと消えた。

私は涙を拭うとそっとセカンドのプラグスーツをもとの窓際に戻した。

おやすみなさい。
私は呟いた。


374:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:07:11
「綾波、しっかりつかまっててよ。」

次第に砂利で粗くなる山道に自転車を走らせながら碇君は言った。

「ええ。」

この日、4月8日。
私たちは釣りをするために家から5kmほど離れた山の谷間にある渓流に向かった。
図書館で借りた本によるとこの川にはかなり豊富な種類の魚が生息しているという。

当初、碇君は自転車で現地に向かう計画を立てていたのだが、私が自転車を上手に乗りこなすことが出来なかったため、
苦肉の策として碇君の運転する自転車の後部に乗せてもらうことになった。
私はこれまで自転車に乗った事などなかったのだ。

碇君が運転手。私は自転車の後部に釣具を持って座らせてもらうことにした。
お尻が痛かったがこの際文句は言っていられない。

朝、家を出てから一時間と少し。
もう目的地は目の前だがだんだん山道が不親切になってきており、さすがの碇君もかなり息が切れてきたようだ。

倒木も多くなってきた。もう自転車で行くのは限界だろう。

私たちはここから歩いていることにした。
山の中は晩秋の香りが漂っていた。
何百枚もの色づいた木の葉が舞い降りるなか私たちは歩いた。

「碇君、もっとゆっくり歩きましょう。」

「ごめん、早すぎた?」

「いえ、もっと周りを見て歩きましょう。」


375:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:08:30
大体この辺りが本にも書いてあった釣りポイントだろうか。
私は川の上にかけられた木橋から、碇君は数mほど離れた大岩の上から釣り糸を垂らした。

鮎だろうか、たくさんの川魚が泳いでいるのが見て取れる。
15年続いた夏の影響か、巨大なものも泳いでいる。
にもかかわらず全く糸にかかってはくれない。
餌だけ見事にかすめ取られてしまうのだ。

「まあ…僕達、初心者だからね…仕方ないよ…」

碇君は苦笑していた。
だが、今日は昼食をあまり持ってきていなかった。
ここで魚を釣れなければかなりひもじい思いをするのは確実だ。
内心、彼はかなり焦っていたのかもしれない。

だがチャレンジから二時間ほど経ったあるとき、遂に私は一匹目を釣り上げた。
人生で初めて釣った魚にしては食べるには勿体無い程見事なものだった。鮎のようだ。

この魚が馬鹿だっただけかもしれない、と考えたが直後に、二匹目、三匹目と続いた。
ここの魚は余程馬鹿なのね。

だがそれにしても碇君は全く釣れなかった。
昼はとうに過ぎていたがせめて彼が一匹目を釣り上げてから昼食にしよう。


376:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:09:54
そして、昼の二時過ぎについに一匹目を彼は釣り上げた。
やや小ぶりだが立派な鮎だ。

彼は、余程嬉しかったのだろうか釣り糸の先で暴れている鮎をみつめている。
が、糸をぶらさげているだけで何故か魚を糸から外そうとしない。

数秒後、彼はかなり言いにくそうに私に話しかけた。

「…あ…綾波…できれば…魚…外してくれない…?」

「…?」

かなり元気な鮎らしく、釣り糸の先で猛烈に暴れている。
要するに彼は鮎を触ることができないのだ。

「あなたは鮎が怖いの?」

「う…その…死んでる鮎なら触れるんだけど…」

「生きてる鮎は触れないの?」

「…」

彼は赤くなってうつむいた。


377:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:11:30
私たちはその場で生きた鮎を串刺しにして塩焼きにした。
串に刺したのは私なのは言うまでもない。

久しぶりの新鮮な魚に私も碇君も無言でかぶりつく。
冷凍や真空パックの魚とは比べ物にならない。
たまにはこういうのもいいのかも知れない。

隣で豪快に鮎にかぶりついている碇君に目をやる。

私を後ろに乗せて何kmも自転車で走ることができる碇君。
30kgもの荷物を背負って朝から晩まで歩き続けることができる碇君。
どのような家事も楽々こなしてしまう碇君。

その彼が、生きた魚一匹触ることが出来ない。

私は思わず吹き出してしまった。
碇君と目が合った。

駄目、笑いが止まらない。

碇君の顔は真っ赤だったけれど。
その様子があまりに滑稽だったのだ。


378:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:13:20
「綾波?」

僕は後ろの綾波に呼びかけたが、彼女は返事をしなかった。
僕の背中にもたれかかっているようだ。
おおかた、眠ってしまったのだろう。
今日は一日、本当に楽しかったから…

横に吊り下げたクーラーボックスには魚が唸るほど詰め込まれている。
八割は綾波の戦果だ。

今日の夕飯を何にしようかということを考えても良かった。
でも、僕には気になって仕方が無いことがあった。
この数ヶ月間で幾度も反芻していながらも消化しきれずにいたこと。


僕達は世界で二人だけだ。
僕達が生きている間に他の人々が戻ってくることはまず望めない。

そして、綾波はこの世界で唯一の他人だ。
これからの一生、僕は綾波と暮らしていかなければならない。
僕は綾波なしでは生きていけないし、綾波は僕なしでは生きてはいけない。

僕は背中に綾波の体温を感じながら考えた。


綾波は僕の中でどのような位置づけなのだろうか。

379:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:14:43

大切な存在…?

綾波は僕を精神的に支えてくれている。
綾波がいなかったら僕はとうの昔に壊れてしまっていた。
綾波は僕を幾度も死から救ってくれた。
今の僕がいるのは間違いなく綾波のお陰だ。

でも、何か違う。
僕が綾波に対して抱く感情はそれだけでは説明できないのだ。

380:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:16:44

僕は綾波が好きなのかもしれない。
それは僕の勘違いだろうか。

だが、何故だろう。

綾波は異性だから…?
華奢な綾波は僕が護るべき存在だから…?

僕は綾波に近寄りがたい何かを感じていたころがあった。
周りのみんなもそうだった。
誰も綾波を少しも理解することはできなかった。
綾波も誰一人さえ理解することはできなかった。

だがそれを言うなら僕だって同じだ。僕が誰の心を理解できたというのだろう。
ミサトさんの心、リツコさんの心、アスカの心、それとも父さんの心か?
そう、僕だって誰の心も理解できなかった。

人と人とが完全に理解し合うことは決してできぬ、だっけ。

でも、今なら僕と綾波は分かり合える。
互いに分かり合える唯一の存在。
それが僕にとっての綾波であって綾波にとっての僕なのかもしれない。

だからこそ僕は綾波がこんなにも愛おしく感じるのだろうか。

381:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:27:31
「碇君、前。」

綾波の声で僕は現実に引き戻された。

「おっ、とっとっ」

僕は慌てて急ブレーキをかけた。
綾波の顔がごつん、と背中にぶつかる感触がした。
避けられたから良かったものの、危うく電柱に突っ込むところだった。

「考えごとしてたみたい、大丈夫?」

「別にいいわ。碇君、ここ、どのあたりかしら。
 私、眠ってたみたい。」

「あ、うん。この坂下って、川渡ったら僕達の町だよ。
 あと二十分くらいかな。ゆっくり運転するからさ、綾波は寝といていいよ。」

「ありがとう碇君。今日、本当に疲れちゃって…」

綾波は再び僕の背中にもたれかかって寝てしまった。
余程、疲れていたのかもしれない。

早く家に戻って綾波を寝かせてあげなくては。
そんなことを考えながら僕は夕日を背に受けて自転車を走らせた。

382:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/21 15:32:29
今日はこれくらいで。


第四集改訂版うpしときました
URLリンク(www.geocities.jp)

383:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/21 15:44:12
>>382

さりげないフォロー GJ

384:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/21 17:04:43
>>382
超GJ。

385:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/21 21:49:30
なんか久しぶりに盛り上がってるね。

386:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/22 00:45:18
GJ!いいです

387:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/22 01:07:32
ニート乙

388:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/22 12:41:11
ひっそり投下待ち

389:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:12:25
4月も終わりに近いある日、初雪が降った。
朝が寒くて起きたら窓の外は一面の銀世界が広がっていた。
家も、木も、田んぼも、遠くに望む山々まで真っ白だ。

「綾波!雪だよ。」

僕はつい興奮して綾波を叩き起こしてしまった。
綾波は朝早くに叩き起こされた上に布団から引きずり出されて相当機嫌が悪そうだったが、
僕と同じようにその不思議な光景に思わず心を奪われてしまったみたいだった。

僕と綾波は玄関から足を踏み出した。
薄暗い灰色の空から白いものが次々と舞い降りてきてる。

綾波が手を差し伸べて落ちてくる雪を触ろうとしていた。
でも、綾波の素肌よりも白い雪の欠片は手のひらにくっついた途端に体温で消えてしまう。
不思議そうな顔をしていた。


僕達は十五年間、終わらない夏を享受してきた。
だから相当、冬は体に堪える季節になるだろうな、とは思っていたが。
多少自覚が足りなかったようだ。

寒い。本当に寒い。
そのうち指先がかじかんできた。

僕は発電機の電源を入れるために家の裏に回った。
が、なかなかエンジンが動いてくれなかった。この寒さが原因かもしれない。

390:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/23 08:15:33
角死ね!

391:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:20:33

まあ、そんなことより早く朝食でも食べよう。
暖かいものでも飲まないと体が持たないよ。

そんなことを考えながら玄関の前まで戻ってきたとき。


綾波が門の前に仰向けで大の字になって倒れていた。
さらに目と口を空に向かって大きく開いている。
寝ているわけでもなさそうだ。

この奇怪極まりない光景を目の前にして僕はどう行動すればいいのだろうか。
僕はしばらく思考が停止していたような気がするが、覚悟を決めて話しかけてみることにした。

「綾波…何してるの…?」

しばらく気まずい沈黙が流れた。

「雪って味がしないのね。」

392:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:22:55
今修羅場ってるんで投稿が少し遅れるかもしれませn…

393:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:27:36
今日の朝は寒かった。
初雪からそろそろ一週間、雪は毎日のように降り続いていた。
積雪も30cmを超えているようだ。

太平洋沿いのこの地域ではセカンドインパクト以前は全くと言っていいほど雪は積もらなかったそうだ。
だから冬が始まったばかりなのにこの降雪は異常としかいいようがない。
季節が戻ったとはいえ、まだかなり気候に混乱があるからかもしれない。
考えたくはないが今度は冬が10年くらい続くことになったらどうしよう。
本当に夏が恋しい。

綾波が布団の中からかすれた声で話しかけてきた。
「ごめんなさい。私、体がだるいの。
 今日は起きれそうにないわ。」

初雪以来、僕が出来るだけ外に出ないように努力していたのに対し、綾波は事あることに外を出歩いていた。
余程、雪というものが物珍しかったのだろうか。
だが、さすがの綾波もここまで寒い日が続いたためか体調を崩してしまったようだ。。

「あ、ならそのまま寝といてよ。暖かいものと薬持ってくるから。」

僕は台所に降りるとハチミツと砂糖漬けのフルーツを使って即席の暖かいレモネードを作った。

が、僕も何か調子が悪い。熱っぽいし寒気がする。
さては、二人で仲良く風邪を引いてしまったようだ。

出来るだけこのような事態を避けるために努力してはいたのだが、無駄だったか。
風邪をこじらせないように一日中暖まっていたほうがいいのかもしれない。

僕はとりあえず綾波にレモネードを持っていった後、僕自身も隣で布団にくるまった。


394:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:29:13
「碇君…?」

「ごめんよ。僕も風邪引いちゃったみたいだ。
 今日は一日寝て治そう。」

「ええ…碇君も寒いの?」

小さく咳き込みながら綾波は僕に話しかけた。

「うん…。」

部屋は温めているはずなのに、なぜこんなにも寒いのだろう。
布団は何枚も重ねているのに。

そのまましばらくの間、僕は寝付けなかったので目だけつむっていた。

「碇君…寝ていたらごめんなさい。」

綾波が小さな声で呼びかけてきた。

「どうかしたの?」

「寒いの…碇君の布団で一緒に寝てもいいかしら。」

「…!」

…嬉しくないわけではないのだけれども。


395:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:29:57
でも、綾波は本当に寒そうだった。
断るわけにもいくまい。

僕は掛け布団を綾波の寝床に寄せてそこに潜り込むことにした。

「あたたかい…」

綾波がポツリと言った。
数分も経たないうちに隣で安らかな寝息が聞こえた。

一方僕はというと…案の定、眠気が吹き飛んでしまっている。
我ながら単純な男だと思う。

綾波が突然寝返りを打って顔を僕の胸に押し付けてきた。
さらさらした青い髪が何本か僕の顔に触れて、暖かい吐息が僕にかかった。
全てを僕に委ねたような、無防備な寝顔だ。

反射的に片手を綾波の背中に回してしまった。

これはマズい。
落ち着け、落ち着けよ俺。

もう安眠は期待できなさそうだ。
事実、そうなった。


396:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:32:00
私は部屋の中に一人座っていた。
ベッドと、医療機器と、ビーカーと薬の空き箱だけが転がる殺風景な部屋だ。

突然、赤木博士が部屋に入ってきた。
ノックも何も無かった。

唐突に赤木博士はこう切り出した。
鋭い棘を含んだ声。

「あなたは何のために生きているの?レイ。」

「何故そのようなことを訊くのですか?」

「あなたの存在意義が消えたからよ。
 サードインパクトの誘発があなたの役目だった。
 そしてあなたは役目を果たした。
 あなたはその時点で消え去るべきだったの。
 それなのにあなたはまだ未練がましく生きている。
 だから訊いてみたのよ。」

「違う。まだ消えてないわ。
 私にはまだ碇君がいる…」

私の声は嘲笑に遮られた。

「ふふ…まだ碇君がいるの…そう…。
 確かにあなたは碇君に対して尽くしてきたわね。
 折角手に入れた肉体を捨ててまでも。
 あなたと碇君で好きなだけ愛し合えばいいわ。
 それはそれで結構。」

397:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:33:17
「あなたは何が言いたいの。」

自分の声が震えているのを感じる。
赤木博士は構わず言葉を続けた。

「でも碇君はいずれ死ぬわ。あなたもいずれ死ぬ。
 そして、あなたは人間との間には決して新しい生命を宿すことはできない。
 あなたも知っているはずよ。」

「どんな下等な動物でも子孫を残すことくらいはできる。
 彼らはそれで未来に希望を残すのよ。
 でもあなた方にはそれができない。
 人間の最後の生き残りと、人の容姿をした化け物の間にはいかなる形の生命も許されないのよ。」
 
「私は…私は…化け物じゃないッ…」

怒りと恐怖で部屋がぐらぐらと揺れているような感覚がする。

「そして、あなた達が死に絶えた後には赤い海だけが残るわ。
 これが正しい世界の形よ。」

突然目の前の赤木博士の像に歪みが走った。
声も次第に変調されてゆく…

赤く蠢く口腔だけが異様に拡大された赤木博士はとどめの一言を付け加えた。
「せいぜい碇君を大切にすることね。」

不快な笑いがはじけ、世界が砕け散った。

398:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:37:02

僕が片手で抱き寄せていた綾波の体がびくん、と痙攣した。

「綾波…?」

突然、綾波は目を大きく見開くと僕の腕を払いのけた。
同時に胸に鈍い衝撃を感じ、息が止まるかと思った。
綾波が僕の胸を渾身の力で殴りつけたのだ。
息が荒い。

「綾波!?どうしたんだよ!」

綾波は再び僕の胸に顔をうずめるとさめざめと泣き出した。

普通、ただの夢でこれほどまで取り乱すことはない。
これはただごとではない、と直感した。

綾波はしばらくの間、話せる状態ではなかった。

僕はそっと綾波の頭を撫でながら、言った。
この数ヶ月間、言いたくても言えなかった言葉。

「綾波はこれまで何度も僕を助けてくれた…今度は僕が君を助ける番なんだ。
 綾波が…君が…本当に辛くて耐えられないくらい心が張り詰めた時は僕が力になるって誓ったんだ。
 もし…もしそうなら…僕に…その苦しみを分けてくれないかい?」


綾波は僕に全てを話した。
全てを。


399:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 08:39:37
今日はこれくらいで。
ストック使い果たしちゃいました…
また書かなきゃ。

400:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/23 11:35:00


いいとこで切れちゃったな

401:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/23 15:23:58
つか、この荒らし何時までやる気なんだ?
マジで鬱陶しいんだが

402:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/23 15:49:24
もう荒らすの日課なんじゃね?よっぽどなLAS厨なんだろ。無駄だからほっとけ

403:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/23 16:03:57

URLリンク(www.geocities.jp)

第五集はさっきので終わりです。
まだ校正の余地ありだけど一応うpしときました。

今、結構正念場なんで次の投稿は明後日以降になりそうです。


404:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/23 21:51:51
つか、宣伝は余所でやれよ。

405:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 01:06:15
結構いい感じ?

>>404
Not found

406:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 13:32:04
角死ね

407:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 14:38:04
>>404
ログ読めよ馬鹿

408:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:20:55
私…寝てしまったの…?

私が全てを碇君に話した後、私は彼の胸の中で気が済むまで泣いた。
彼は私を抱きしめながら一緒に泣いてくれた。
結局、泣き疲れて眠ってしまったようだ。

部屋の中は真っ暗だった。

汗で湿った寝間着や布団のシーツは寝ている間に新しいのに取り替えられており、額には濡れたタオルが当てられている。
熱は大分下がったようだ。身体のだるさも無くなっている。

だが隣に碇君の姿はない。
台所のほうからか、扉の隙間から微かに光が漏れている。

探しに行かないほうがいいのかもしれない。
私はそう感じた。

409:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:21:41
真っ暗な天井を見上げていた時、私は初めてかつて彼を襲った絶望が何であったのかを知った。

彼がかつて自分自身を消そうとしたのはたった独りだったことが寂しかったからではなかった。
自分が仮に今を生きぬいたとしても、未来に何も残すものが無いと悟ったからだ。
いや、どうあがいても何も未来に残すことはできない。
彼はそう考えたに違いない…そして…

今の私達も同じだ。

私はこれまでそのことを考えもしなかった。
いや、ただ考えることから逃げていただけかもしれない。

私が彼に全てを捧げ互いに愛し合ったとしても、またそれがいかに幸福であったとしても。
それはただの退廃的享楽だ。

私も、彼も、年老いて死んでいく。
夢の中の赤城博士が言ったように、未来に希望をつなぐことさえ許されない。
誰の記憶の中に残ることもない。

私たちは滅びの宿命を背負っているのだ。
フィフスや他の使徒達と同じように。

410:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:22:56
しばらくして、碇君が暖かそうな雑炊を作ってきてくれた。
上に、細かく切った野菜が乗っている。

「熱いから、ゆっくり食べてよ。」

彼も自分の分を用意してきたようだが、全く箸をつけようとしなかった。
そして、私も同じだった。食欲が湧かないのだ。

私はぽつりと、言った。

「ごめんなさい…私が…私が人間じゃないせいで…」

「何を言うんだよ…」

「私が…私が人間だったら…こんなことにはならなかったのにっ…」

私は布団の上に座り込んで噛み殺すように嗚咽した。
その時、突然碇君が立ち上がって部屋から出て行った、と思うと、すぐに戻ってきた。
片手に何かスケッチブックのようなものを抱えている。

411:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:24:20
彼はそれを私に差し出した。
「それ、読んで。」

突然のことでしばらく呆気にとられていたが、彼の言うとおり読むことにした。

「私の…顔…?」

私の寝顔がスケッチブックに大きく描かれていた。
鉛筆一本で描いたようだ。

髪の毛の一本一本まで丁寧に描写されている。
微かな乾いた涙の跡までしっかりと。
本当に安らかそうな寝顔だ。

私…こんな顔して寝ていたの…

「さっき…ちょっとした悪戯心で描いたんだ。」

彼は少し照れながら言った。

「前のページもみてみなよ。」

次は場面が変わった。
私が釣りあげた魚を手に、晩秋の渓流を背景に微笑んでいた。

「君が初めて魚を釣り上げた時のことを思い出して描いたんだ。」
 
あの時、私は知らずに微笑んでいた…

412:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:25:14
「悲しんだり、泣いたり、笑ったりすることができるのは人間だけだよ。
 君にはちゃんと人の心があるじゃないか。
 それに僕は君を一人の人間として考えているんだ。
 だから、自分が人間じゃないなんて考えるのは間違えてるよ。」

私は何も言えなかった。
心の中で凝固していたものが次第に溶けていくのを感じた。

彼は一呼吸置いて、また話し出した。

「さっき君が話していたことについてなんだ…
 僕達にはこれは運命だって諦めることも出来るんだ。
 何も出来ずに死んでいく運命だからってね。
 綾波はどう思う?
 僕達はこのまま生きていても意味が無いって思う?」

「…」 

「でも、まだ結論を出すのは早すぎるよ。
 僕はもうちょっともがいてみようと思うんだ。この世界で。
 一つお願いがあるんだ。
 君が…もしそれでも構わないと思うのなら…僕と一緒に…」

彼はそのあとの言葉は続けなかった。

私は「ええ。」と言った。

413:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:27:33
今日はこれくらいで。
なかなか微妙な場所なんで書きにくかった。
明日こそは多分投稿できません。

414:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 20:44:57
乙。
……あの、「正念場」を台無しにするなよ? よけいな御世話だけどな。

415:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/24 20:53:22
>>414
SSが、じゃなくて仕事が、ですw

416:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 21:10:54
乙。淡々としてるけどこういうの好きだ。

417:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 22:44:33
>>415
うん。
「正念場だから投稿きびしー」って話だったけどな……って思ったわけだ。
まぁ乙。

418:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 23:28:07
ニート頑張れ

419:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/24 23:46:23
ここなのか?

420:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/25 00:52:03
↑なにがここ?

421:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/25 00:53:42
りっちゃん怖えーな

422:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:17:19
2016年8月14日

最近、雪も以前ほど降ることは無くなった。
依然、積雪はあるもののもう冬は終わりかもしれない。
木々に積もった雪は次第に溶け出していた。

日中の最高気温が氷点を僅かに上回る程度の日がこれまで一ヵ月半ほど続いていたのだ。
晴れた日の明け方の空気は肌を刺すようだった。一体どれほど冷え込んでいたのか想像もつかない。
ひどいときは屋根が軋むほど雪が積もり、数回ほど雪掻きで屋根に登る羽目にもなった。
家から余り出なかったので綾波は読書、僕はその様子をスケッチしたりして暇を潰していた。

だから、僕達は次に訪れる春に期待に胸を膨らませていた。

この日の朝、綾波が痺れを切らして言った。

「碇君、久しぶりに外にでましょう。
 身体がなまってしまうわ。」

「うん。ちょっと遠くまで行こうか?」

「ええ。以前釣りに行った山なんてどうかしら。
 今なら朝も早いし歩いて行けるわ。」

「そうするかい?じゃ、弁当でも作ってくるよ。」


だが、多少見込みが甘かったらしい。

423:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:18:51
以前通った山道は完全に雪に埋もれていた。
どうもあの渓谷には辿りつけそうに無い。
平地には春の兆しが見えているのに、山はまだ完全な雪山の様相を示している。
このまま無理をしたら遭難してしまう。

この時点で膝の上まで雪で埋まるほど積もっている。
そろそろ疲れてきた。
仕方ないのでこの辺りで昼食にして帰ろうか、と考えていたとき、

ぼすっ、という心地よい音とともに僕の後頭部に雪球が命中した。
反射的に振り返ったところ、二個目が顔面に命中した。

「ぶわっ!!?」

雪が鼻腔まで入ってきた。

雪まみれの顔を拭うと綾波が笑っていた。三個目の雪球を片手に握りながら。

「碇君…その顔…くすっ…」

「奇襲なんてっ、ズルイぞ綾波!」

僕が慌てて雪をかき集めている僕の横顔に三個目が命中した。
速球だ。

上手い。どこで練習したんだろう。



424:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:20:49
「お返しだっ」

僕も負けじと投げ返した。
綾波の青い髪が一瞬で雪まみれになる。

「やったわね…」

綾波が復讐を宣言する。直後に四個目と五個目の雪球が飛んできた。


数分後、僕も綾波は雪に大の字になって倒れこんでしまっていた。
二人とも頭から爪先まで雪まみれだ。
笑いながら走り回ったせいか、息も上がっている。

「たまにはこんなのもいいね…」

「ええ…」

「そういえば…さあ…僕達、ここに来てからよく笑うようになったよね。
 昔はこんなことなかったのに。
 でも最近、心の底から遠慮せずに笑うことができるようになったんだ。」

425:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:22:44

「私も…そうね。
 昔、初めて碇君が私のアパートに来た時…
 あの時のこと…覚えてる…?」

えっと…
僕がミサトさんに頼まれてカード届けに行ったときのことだよな…
………!!

「今考えてみるとあの時ほど面白かったことはなかったわ。
 碇君、真っ赤になって、意味の分からないことばかり言っていたわね。」

今更あのことを蒸し返されるとは思わなかった…

「でも、あの時は何も感じなかったの。
 嫌だとも感じなかったけれど面白いとも感じなかった。
 そもそも面白いというのが何かということさえ知らなかったのよ。
 でも、あなたに逢ってから何かが変わったの。」

一瞬、綾波と僕の目が合った。
赤い瞳に何か普段とは違う感情が宿っていた。

426:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:23:46
綾波は目を逸らすと、思い出したようにこう言った。

「あ、碇君、さっきこんなの見つけてきたの。
 雪の下に生えていたのよ。
 これ食べられるかしら。」

綾波はポケットから緑色の塊のようなものを取り出した。

「それってフキノトウじゃない?食べたこと無いけれど天ぷらとかにできるらしいよ。」

「フキノトウ?」

「そう。冷たい雪の下でずっと春を待ち続けるんだ。何ヶ月もね。
 だからいまの季節が一番美味しいんだよ。」

「私たちみたいね…」

「え…?」

綾波がポツリと言った…ような気がした。
それともただの聞き違えだったのだろうか。

427:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:25:36
春が来た。

2016年9月。

地表を覆っていた雪は消え、黒い土壌が再び現れた。
川には澄んだ冷たい雪解け水が勢い良く流れていた。

春のうららかな日差しの下、冬の間抑圧されていた植物が再び活動を始めた。
始めは小さな若芽から。次は低木が。

桜だ。桜が咲いた。
セカンドインパクト後の十五年間、桜は春を奪い取られていた。
桜の木は一年中緑を絶やすことはなかったが、常に情けないくすんだ色の花を幾つか枝につけていただけだった。
その鬱憤を晴らすがごとく、今年は本当に見事な花を咲かせた。

綾波が桜並木の間を歩いている。
しばらく歩くと立ち止まって上を見上げた。
桜吹雪が綾波に降りそそいでいる。

綾波も僕も、春を待っていた。
そして本当の意味での春は僕達にはまだ訪れてはいない。
でも、待ち続けるしかないと思うんだ。
雪の下で春を待ちわびるフキノトウのように。

428:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:26:52

そして夏が来て…年が代わり…その夏も暮れてゆき…秋が過ぎ去り…冬が…

時は、2018年。

僕達は「あの日」を迎えた


429:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 01:28:38
#なんか脊髄反射で明日のぶんまでかいちまった。
#だから明日は投稿できそうにありません。
#全く何やってるんだ俺は。

430:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/25 02:23:58
>>429
乙。

431:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/25 03:00:43
角さん乙です。レイはいいよな。本当に・・
続き期待です

432:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/25 07:03:49
同じく期待

433:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/25 21:53:27
次は明日の深夜または明後日になりそうです。
一気に最後まで行きたいと思います。
ちょっと量はかさばりますが。

434:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/26 01:39:40
オ~、激しく期待

435:綾にゃみレイ
06/07/26 02:20:58
気持ち悪いスレ‥‥‥

436:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/26 12:50:27
最近、野茂とホモの違いが分からないとよく耳にします。

完投して喜ぶのが野茂、浣腸して喜ぶのがホモ
打たれるのをいやがるのが野茂、打たれるのを喜ぶのがホモ
野茂はホモを狙わないが、ホモは野茂を狙うことがある
好プレーするのが野茂、チンプレーするのがホモ
家族で楽しく見るのが野茂のプレー、家族で楽しく見れないのがホモのプレー
お尻を見せて球を投げるのが野茂、お尻を見せて玉を揺らすのがホモ
フォークが得意なのが野茂、トークが得意なのがホモ。
アメリカで観戦するのが野茂、アメリカで感染するのがホモ。
野茂は講演に行くが、ホモは公園に行く。
野茂はカレーが好きだが、ホモは彼が好き。
野茂のプレーは素晴らしいが、ホモのプレーは凄いらしい。
優勝して感動するのが野茂、融合して浣腸するのがホモ。
タマを投げてチームを守るが野茂、タマを触って彼を攻めるのがホモ。
野茂はバーモントカレーが好きらしいが、ホモはバーの元彼が好きらしい。
野茂は投手、ホモは同種。
野茂はお尻を向けて投げるが、ホモはお尻を向けて誘う。
野茂はあまり喋らないが、ホモはよくしゃぶる

437:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/26 12:54:43
第壱話    谷岡、襲来
第弐話    見知らぬ、ベンツ
第参話    帰らない、免許証
第四話    四つんばい、脱いだ後
第伍話    TDN、尻のむこうに
第六話    決戦、汚い尻の穴
第七話    後輩の造りしもの
第八話    HTN、来襲
第九話    瞬間、竿、しゃぶって
第拾話    ンギモヂイイ!!
第拾壱話   静止した菊門の中で
第拾弐話   挿入の価値は
第拾参話   TDN、侵入
第拾四話   DB、ホモの座
第拾伍話   嘘と沈黙
第拾六話   死に至る絶頂、そして
第拾七話   四人目の適格者
第拾八話   命の選択を
第拾九話   男の戦い
第弐拾話   竿のかたち 玉のかたち
第弐拾壱話 イサキ、誕生
第弐拾弐話 せめて、人間らしく
第弐拾参話 精液
第弐拾四話 最後のアッー!
第弐拾伍話 終わる選手生命
最終話    世界の中心でアッー!を叫んだけもの

438:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/26 13:11:27
うーん……このスレまだ落ち着いた状況になってみたいだな。
でもそんな状態でも投下してくれる角さん乙。
焦る必要はないので頑張ってくれ。

439:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/26 13:24:28
>>438
日本語でOK

440:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/27 13:23:26
ば、バームクーヘン

441:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:03:45
#予想以上に長くなりそうなんで、ちょっと先に出来た分投稿しときます。

僕達は今年で17歳を迎える。

綾波と共同生活を始めてからそろそろ二年が過ぎようとしている。

僕は今、育ち盛りだ。声も少し低くなったようだ。
以前は動かすことも出来なかったであろう荷物を苦もなく持ち上げることができる。
今では綾波とも頭一つ分近く身長が違う。

綾波は以前と変わらず、華奢だ。
でも、紅い瞳に宿る強い意志の光は決して消えることはなかった。

僕達はこの二年間に畑を耕し、まだ実験的ではあるが食物を自給自足することを学んだ。
そのこと自体、かなり身体に負担を強いるものだった。
二人だけで生きていくのは本当に難しいのだ。

だが、初めて作った野菜類を収穫したときの達成感は決して忘れられない。
何が悪かったのか、収穫前の最後の段階でスイカが虫に食われてしまった。そのときの悔しさも。

綾波に負けない大物を釣り上げたときの喜び。
一方、半日糸を垂らしたのに全く釣れなかったときは忍耐力を鍛えることが出来た。

失敗を繰り返すたびに僕達は貴重な経験を得たし、成功は自信に繋がった。


442:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:05:09

仕事の合間をぬって効果的にストレスを解消することも学んだ。

僕は今、木工版画に取り組んでいる。
面倒くさいが、完成したときの達成感は相当なものだ。
勿論、仕上げの段階で失敗したときなど、放り出したくなるような衝動にかられたものだった。
いずれにしても良い気晴らしになる。

綾波も綾波なりの趣味をみつけた。
荒れていた庭を精魂こめて手入れするようになったのだ。
彼女の剪定のお陰で庭は元のカタチを取り戻しつつある。
天気の良い日の午前中は心地の良いハサミの音が聞こえる。


二人だけで生きることは全く辛くなかったといえば嘘になる。
気持ちが張り裂けそうになったことがこの二年間で何度あったのだろうか。
両の手の指でも数え切れない。
でも、綾波と一緒だったからこそ、僕は耐えられないような困難だって乗り越えることができた。

本当に満ち足りた日々だった。

だが、それも今日で終わりだ。
確証はない。ただそんな気がするだけだ。

2018年3月2日。

443:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:06:37
私は帰路を急いでいた。
ついつい図書館で長居してしまったようだ。
日が暮れる前に帰らなければ碇君が心配してしまう。
穏やかな秋の夕暮れだ。

「…?」

何か人の声がしたような気がしたのだ。
私は足を止めた。

誰も通らなくなって久しい大通りの上を落ち葉が風に吹かれて舞っている。

気のせいだったのかしら。
私は歩き出そうとした。

こんどこそ聞こえた…ような気がした。
私は振り返った

「誰か…いるの?」

返事は無かった。
すっかり葉を落としたポプラの木々が枝を揺らしているだけだ。
誰の姿もない…
再び前を向いたその時。

誰かが呟いているような声。
だがその呟き声は間違いなく私に向けていた。

気がついたとき、私は駆け出していた。

444:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:08:00
涼しい風が真っ暗な部屋を吹き抜けている。

決して寝苦しい夜ではないのに、私も碇君も全く眠ることができない。
布団に仰向けになって天井を見上げているだけだ。

「綾波…」

碇君が口を開いた。

「ええ…碇君も…」

やはり、彼も同じなのだ。
そういえば、今日の私たちは言葉少なめだった。

「変な気分がしてたんだ…一日中…
 虫の予感ってよく言うけど、違うんだ。
 何かが僕の心の中に小さな声でしつこく話しかけてくるような感じがするんだよ。」

「でも、声に耳を傾けようとするとそれは消えてしまう…」


445:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:10:00
「僕も全く同じなんだ…
 それに…それに…」

彼は一瞬、言葉に詰まった。

「それ以上は言わないで…」

これ以上、碇君に喋って欲しくない。
彼が考えている事はきっと私と同じ…

「明日…明日で…もう綾波に会えなくなってしまうような気がするんだ…
 まさか…気のせいだよね…アハハ…」

部屋の中の暗闇がいきなり深くなったように感じられた。

私はかすれるような声で言った。

「あなたの考えていること…多分間違えてはないわ…」

「…!!」

彼が息を呑む気配が伝わってくる。

「明日、何が起こるかは私にも分からない。
 でも…私はもうこの世界には留まれない…
 そんな気がするの。」


446:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:11:39
そして、その日が訪れた。

僕も綾波もたった一晩の間に憔悴しきってしまった。
その日は一日中、僕達はは全く物事に集中できなかった。
奇妙なな脱力感に見舞われていたのだ。

僕は部屋の片隅に座り込んでいるだけで何をするでもない。
綾波は時折思い出したようにすすり泣くだけだ。
僕達は互いにほとんど言葉を交わさなかった…

447:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:13:10
「綾波、君を描きたいんだ」

日もかなり傾いてきたころ、僕は覚悟を決めて綾波に話しかけた。

「…今?」

綾波の声はこれ以上ないほど微かだった。
今にも消えてしまいそうな声だ。

「ああ、今しか出来ないんだよ。お願いだ。」

「でも…こんな姿、描いて欲しくない…」

「構わないんだ。そこに座ってよ。」

僕は半ば力ずくで綾波を庭の隅に座らせて、スケッチブックを広げた。
綾波が特に気にかけて手入れしていた梅の幼木の前だ。

綾波は確かにこちらを向いてはいるが、みるからにやつれている。

これは多分、僕の最後の作品だ。
そう思って僕は筆を手に取った。

手の震えを無理やり押さえつける。
もう、僕と綾波に残された時間は余りに少ない…

448:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:14:38
碇君は一気に描ききった。
丁寧に、かつスピーディに。

「出来た。みてごらんよ。」

彼は私に出来上がったスケッチを見せてくれた。

絵の中に私がいた。
庭の片隅にちょこんと座りながらこちらに顔を向けている。
絵の中の私に笑顔はなかった。
だが、夕日に照らされたその顔に悲しみや憂いはもはや存在しない。
その目には強い意思の光だけが宿っている。

「これが私なの…私はこんな顔をしていたの…?」

「違う。違うんだよ綾波。
 これはスケッチじゃないんだ。
 これは僕が君に望む姿なんだよ。」

「私に望む姿…」

絵の中の綾波レイはまっすぐと私を見据えていた…


449:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 18:17:25
「僕の事なんか忘れてくれても構わない。
 でも…この絵だけは…忘れないでくれないか?
 君には最後まで自分自身を見失って欲しくはないんだ…。」

「ありがとう…碇君…」

「この先…何が起ころうとも…ね…」

搾り出すような声で碇君が言った。


鮮やかなオレンジ色の空に刷毛で掃いたような雲が浮かんでいる。
その空の彼方で何かが鋭く光った。


#十行書いては八行消してる状態です。
#最後の投稿は今日中か明日になると思います…



450:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/27 18:20:03
>>449
乙。

唐突な展開。警告は覚えてるけど、恐いね。

451:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/27 19:00:23
なんだこれ
長いだけで内容が糞
自己陶酔型の馬鹿はマジで鬱陶しい

452:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/27 19:10:52
>>451

>>197

453:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/27 19:24:46
>>449

>>452

え、>>451 っていつもの無条件罵倒粘着じゃないの?

454:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/27 20:25:50
>>449

ただこの作品全体を通して、場面場面が切り変わるの早いように思う
いい場面がきて、おっと思ったらすぐ翌日になってたり

455:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/27 21:38:08
荒らしに構うから荒れるんだよ^^

456:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/27 21:52:55
>>454

だよなあー

我ながらそう思います。
さっさと終わらせなきゃって生き急ぎすぎてたとこがありました。

次、何かを書くとしたらの話だけれど、大きな反省点だとは思います。


今?
うまいこといったら夜中の三時ぐらいまでには書き終わってうpできると思います。

457:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/28 00:15:41
お願いします。待ってますよ

458:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/28 00:29:38 +rgezqBi
うむ

459:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:31:33
何かが炎の線を残し、信じられない速度で空を横切ってゆく。

僕達はその光景をただみつめていた。
うまく思考がまとまらない。

次の瞬間、鼓膜が破れるような雷鳴がこだました。
窓ガラスが衝撃で次々と破裂していく様子が見える。
超高速の物体に風穴を開けられた地球の大気があげる悲鳴だ。

僕はとっさに地面に伏せた。
そして再び顔を天に向けたその時…

紫の鬼神が炎の翼を広げて天を下ってくる。
千もの光の欠片をまき散らしながら。

「エヴァンゲリオン…初号機…」

綾波が呟くのが聞こえた。


460:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:32:34
エヴァンゲリオン初号機はA.T.フィールドの羽根を展開して急激に減速すると、僕達の家から少し離れた緑地公園に着地した。
腹の底に響くような地響きとともに巨大な土埃が舞い上がる。

遅れて落下してきた巨大な槍が公園の傍らにある市庁舎を粉砕する。

ウォォォォ…ォォ…ォ…ォ…ォォ…

咆哮だ。エヴァがあらん限りの力で咆哮している。
奇跡的に生き残っていた窓ガラスまでが割れていく音が混じる。

エヴァが僕達を呼んでいる。
何故だかそう感じた。

「行きましょう、碇君…。時間が来たわ…」と綾波が言った。


461:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:34:09
周囲の木々は衝撃で薙ぎ倒されていた。
根元から引っこ抜かれているものもある。

僕と綾波は公園の入り口に並んで立ちながら、一言も口を利かずに前方を凝視している。

僕達の視線の先、土埃の雲の中から初号機が現れた。
その色褪せた装甲には無数の傷がついており、コアも露出しているが、その威容は以前とは全く変わっていない。

ただ、頭部装甲は完全に剥がれ落ち、素体の頭がむき出しになっている。
それは…まるで…

「母さん…」

その頭部は疑いも無く僕の母親のものだった。
茶色の長髪が腰まで伸びている…

だが、その表情は人間性というものを全て捨て去っている。
まるで能面だ。
そして、その目にも全く感情はこもっていない。
黄色く光る目は確かに僕達の方向を向いている…だが本当に僕達を見ているのだろうか?
そして、喉元からは低い唸り声のようなものが聞こえてくる…

初号機が突然、地面に片膝をつき右手を僕達に差し出した。
まるで、乗れとでも言っているような…そんな仕草だ。


462:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:35:06
「やっぱり…」

綾波が小声で呟いた。

「綾波、何か知ってるの!?」

「たぶん…エヴァは…生命を創造しようとしているの…」

「生命を…?」

「ええ。いくら知恵の実と生命の実の両方を所持していたとしても…
 エヴァには自由に生命を創造する力は無いわ…」

「そして…だからこそ…エヴァには…私の…身体が必要なのよ…
 私は直接リリスから生み出された存在だから…」

「だから…どうだって…」

声に力が入らない。
足元がぐらつくような感覚に襲われる。

綾波が震える声で言った…

「だから…私は…行かなくてはならないの…」



463:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:36:31
まさか、こんなカタチで彼と別れなければならないなんて想像もつかなかった。

エヴァは私のカラダを利用して無限の創造力を手に入れようとしている。

そして、私がこのカラダをエヴァに捧げれば、私もまた無限の可能性を手に入れることができる
考え方を変えれば、これが私の存在を活かす最大にして唯一の方法なのかもしれない。
私がこの二年間、求めていたものが目の前にあるのだ…

私は無意識のうちに半歩、前に進んでいた…


でも、私がいなくなった後、碇君はどうなるの…?
彼はこの世界に独り取り残されて…そして死んでいくのよ…

心の中で冷静な声がした。

その通り。駄目だ。
私は行ってはならない。
絶対にそれだけは許されない。


私は碇君を心の底から愛している。
今でもその気持ちは全く変わることはない。
彼のためなら私はどんな犠牲を払っても構わないと思っている。

それなのに、こんなにまで揺れ動いている私の心が憎かった。
何故、私は迷っているの?

464:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:37:33
「碇君…」

私は彼の名前を呼んだ。
まるで彼に縋るように。

「私は…本当に…行くべきなのかしら…」

彼なら、私が行くのを踏みとどめてくれる。
そして力づくでも私を引き戻してくれるだろう。

そう私は期待していた。
だが…

「僕は君じゃない…
 それは君が自分で考えることだよ。」

碇君が静かな声で言った。

私はその言葉に動揺した。
彼が…私を突き放した…?

465:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:39:16
「いいかい?
 君は君が正しいと思う道に進めばいいんだ。」
 
「でも…」

「いいんだよ。
 僕は僕のしなければならないことを見つけたんだ。」

「…」

「僕は全てを見届ける。
 君が何を選択しようとも、ね。必ず。
 これが僕がここに存在している理由なんだ。」

彼はきっぱりと言い切った。
私は選択しなければならない。自分の意思で。

永遠にも等しい時間が流れた。


「あなたの絵…忘れないわ…」

「ありがとう…綾波…」

紫色の巨人はその間、みじろぎもせずに私たちを見下ろしていた。

466:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:40:49

「碇君…」「綾波…」

私たちは同時に互いの名を呼んだ。

「あ…綾波から言っていいよ…」

「いえ、碇君から言って…」

「え…えっと…君を…抱きしめてもいいかい?」

「ええ…」

私たちは最後の抱擁を交わした。

「さようなら…碇君…」「さよなら。綾波。」

私の首筋に何滴か、涙が落ちたのを感じた。

467:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:43:18

私はエヴァンゲリオン初号機の手のひらの上に乗った。
途端に音も無くその腕が上にあがる。

地面で私を見上げている碇君の姿がどんどん小さくなっていく。

黒光りするコアの表面が近づいてきた。
こうしてみると巨大な壁だ。
奥に微かな光が踊っているのがみてとれる。

コアを目の前にしてその手が止まった。
そのまま入り込めということらしい。

硬質にみえるコアは私が入り込むその瞬間、液体のように振舞った。
指先が、手が、肩が、吸収されていく。

私は最後に碇君を振り向いた。
その顔は例えようもなく、穏やかだった。

さようなら。


コアの奥には、光が満ちていた。


468:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:45:00
真っ白な光に満ちた世界。

その中に一人、私は立っていた。
服はどこかに溶けて消えてしまったようだ。

暖かい。そして音も無い。
そこに存在するのは光だけ。

その彼方から音も無く人影が近づいてくる。
はじめはぼんやりとしていたが、次第にはっきりとしてきた。

背の高い人間の女性だ。
その顔には神秘的な微笑を浮かべている。
全ての不安を消し去ってしまうような微笑みだ。

私によく似た女性だ。
ただ、その髪は茶色で目の色は赤くない。

「あなた…誰…?」

その女性は何も言わなかった。
ただ、微笑んでいる。

「碇君の…お母さん…?」

469:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:46:17
『シンジのお友達ね…
 そして、あなたは本当に大切な私の子供…』

今まで生きてきた中で聞いた事もないような優しい声だ。
反響するものもないのにいろんな方向から声が聞こえてくる…

「何故…あなたはエヴァと一緒に生きているの?」

『人類の進化の行方をこの目で確かめるためよ。』

「でも…その人類は滅んでしまったわ…
 残っているのは碇君だけ…」

『あなたも人類の可能性の一形態よ。
 もちろん、このままではあなたはいずれ滅んでしまう。」

「だから…人類を…私を…人工進化させるのね…あなたの望む形に…」

『エヴァは人類に真の福音をもたらす存在ですもの。
 あなたの力があれば私は人類の歴史に新たな1ページを刻むことができるわ。
 私は再び人類の母となるの。』


470:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:47:21
『私とひとつになりましょう…』

いつのまにか、「彼女」は私のすぐ前に立っていた。
次の瞬間、「彼女」は私を力いっぱい抱きしめた。

暖かい。

私の意志に関わりなく、私のカラダが「彼女」のカラダに融合しはじめた。
手が…肩が…乳房が…

私は自分自身がカタチを失ってゆくのを感じた。
心が生きることの重荷から解放されていく…
霧がかかったように視界がぼんやりとしてくる…

471:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:48:34
本当にこれでいいのかしら…?
薄れ行く意識の中で小さな疑問が生まれた。

「彼女」との融合が止まった。
既に半分近くが「彼女」に吸収されているが、私は辛うじて自我を保っていた…

『どうかしたの…? 
 心を開いて…さあ…』

様子がおかしいことに気がついたのか「彼女」が声をかけてくる。
その拍子に弱った自我が崩れそうになる…

でも、私は声を振絞った。

「嫌…」

『どうして嫌なの…?』
 
「あなたは勝手よ…
 生き物の誕生や進化に個人的な意思を影響させてはならないわ…」

その女性の優しい声に微かに感情がこもったように聞こえた。

『いい?人類は今滅びかけている…
 もし神に等しき力を得ることが出来るのならば、その力を人類のために使うのは当然のことよ…
 だからあなたは私に協力する義務があるわ…』

「でも、あなたのそれはただの人間の傲慢よ。
 あなたに生命を弄ぶ権利はないもの…
 私やフィフスのような存在は二度と生まれてはならないの。」

472:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:52:08
『あなたが協力を拒めば、人類の未来を潰すことになるのよ。
 あなたは自分の可能性を最大限活かすべきだわ…』

「私のカラダを返して頂戴…」

これ以上話をしても得るものはない。
私は無理矢理手を振りほどき、からだを引き抜いた…



473:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:53:28
恐ろしい悲鳴が周囲にこだました。
周囲の空間そのものが絶叫しているようだ。

「彼女」はのた打ち回って悲鳴を上げていた。
私と融合していた部分は彼女の身体から完全に抜け落ちていた。

『どうして…どうして…私を…私を拒絶するのっ…!』

「私と碇君は…人間として自分の運命を決める権利があるもの…
 あなたの好きにはならないわ…」

自らの体積が半分以下になってもなお、力を振絞って「彼女」はこちらに顔をむけた。
その目は真っ赤に充血し、顔の半分は消えうせている…

『私を消せば…あなたもお終いよ…!それでもいいの!?』

「私は分かったの。
 私は…人間が犯した過ちを振り出しに戻すために存在しているのよ…
 さようなら。碇君のお母さん。」

私は「彼女」を消した。

世界が、崩れてゆく…

同時に私の意識は光の中に溶け込んでいった…


474:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:54:54
突然、エヴァンゲリオン初号機が吼えた。
エヴァの咆哮ではない…長々とした人間の悲鳴だ。

僕の母親の顔をした頭部は苦痛に歪んでいる…

どこからか、大量の水滴が僕に降りかかった。
僕は一瞬にしてびしょぬれになった。

懐かしい匂いがする…血の匂い…?
これは…L.C.L…?

一体エヴァに何が起こっているんだ?
僕は思わず後ずさった。

振り乱されたエヴァの頭髪が先端からだんだんと溶けてゆく…
装甲の間からも勢いよくL.C.Lが流れ出ている。
エヴァは絶叫しながら地面をのた打ち回っていた。

エヴァが、死にかけている…

蜘蛛の巣状のヒビがむき出しになったコアに入ると同時に、
エヴァの頭部が一瞬透き通ったかと思うとオレンジ色のL.C.Lの塊となって地面に落下した。

数瞬後、コアが砕け散り、エヴァはL.C.Lを撒き散らしながら地面に崩れ落ちた。
後には捻じ曲がった外部骨格とL.C.Lの水溜りだけが残った…

公園の傍らに突き刺さっていたロンギヌスの槍も、もはやただの金属の塊と化している。

475:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:56:07
「綾波っ!」

ショックから辛うじて立ち直った僕はエヴァの残骸に駆け寄った。


数分後、ぐしゃぐしゃになった胸部装甲の下で力なく横たわっている綾波を発見した。
僕は綾波を蒸気を上げる装甲の下から引きずり出した。

その身体は信じられないほど冷たかった。
まるで氷のようだ。

僕は彼女を抱きしめた。

「死んじゃ駄目だ!死んじゃ駄目なんだよ!綾波!」


476:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:57:04
まだ生きている…
僕が強く揺さぶると、綾波は勢いよくL.C.Lを吐き出してゆっくりと目を開けた。

「ゴホッ…う…い…碇君…!?」

「綾波!しっかり!」

「私…生きてるの…」

次第に頬に赤みがさしてきた。
綾波は気管に残るL.C.Lに咽ながらも僕に訊いた。

「エヴァは…エヴァはどうなったの…?」

僕はエヴァの残骸をあごでしゃくった。

「エヴァは…死んだよ…」

「そう…」

綾波は目を閉じるとそれっきり喋らなくなった。

477:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:58:18
私は碇君に背負われながら家に向かっていた。
月の光が誰もいない街に降りそそいでいる。


478:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/28 01:58:45
終わったか?



つまんねえよ




マジで糞



479:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 01:59:12

「ねえ…綾波…?」

碇君がそっと私に呼びかけた。

「なに?碇君。」

「エヴァの中で…何があったの?」

「私が存在している意味をみつけだすことが出来たの。」

これでは答えにはなっていないと思ったけれど、碇君はある程度は納得してくれたようだ。

「君は…馬鹿だよ…」と、彼が言った。でも、優しい声で。

「いいの。もう取り返しはつかないから。」私は明るい声で言った。

「それは…そうだね。」

彼は吹き出した。
そして、私もつられて笑い出した。

「いずれ、後悔するよ?」

「その時はその時よ。」

私たちは大笑いした。
その様子を青白い月の光が照らしている。

いまの二人は、ただの人間だった。


480:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/28 02:07:50
これで終わりです。
駄作に最後まで付き合って頂きまことにありがとうございました。

一応、下のURLに原稿うpしときました。
読みにくかった場合はどうぞ。
URLリンク(www.geocities.jp)
URLリンク(www.geocities.jp)


481:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/28 02:09:08
>>480 乙。

482:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/28 02:11:10
なんか切ない終わりでしたね。
でも乙です。また機会があったら
書いてほしいです。

483:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/28 02:44:23
角気持ち悪いわ、マジ死んでくれよ

484:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/28 14:52:21
せつねえーw

485:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/28 22:41:21
舌噛んで死ねばいいのに

486:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/28 23:20:49
角さん乙です
毎回楽しみに読ませてもらいました。
ラストはレイがいなくなるか心配だったんですけど
僕的には嬉しいかたちで完結してくれて
とても満足してます
機会があったらまた書いてくださいね

487:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/29 00:51:39
自演がとても気持ち悪くてひさしぶりにゾクゾクしました

488:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/29 08:52:13
読んで下さった皆様、ありがとうございました。


今回投稿した中編LRSについて少し。

「会話シーンを無駄に増やさない」「シンジ、レイの心理描写を出来る限り増やす」という二点にこだわって書きました。
お陰でかなり重い?作品になってしまいました。
もうちょい軽くしてもよかったのかな?

場面展開が速すぎるという指摘がありました。
個人的にはもっと落ち着いて書けばよかったかなあ、と少々後悔しています。
まだ構想段階ですが、次回作では決してそのようなことがないよう、心がけたいと思います。

なお、個人的には「登場人物の片方を舞台から退場させる」という結末にだけは出来るだけ収束させたくなかったのです。
そのお陰でこのような終わり方になってしまいましたわけですが。


無計画、行き当たりばったりに書き始めてしまったSSですが、皆様の応援とご指摘のお陰で最後まで書き終わることが出来ました。
本当に感謝しています。






489:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/29 12:51:55
糞コテ死ね!

490:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/29 13:33:57
>>488
乙かれさん

491:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/29 13:55:11 sLD9kvi+


492:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/29 15:06:06


493:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/29 15:40:25
後付けの弁明はマジでウザイ
何なんだこの馬鹿は…

494:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/29 21:46:52
>>478 >>485 >>487 >>489 >>491-493
  楽  し  い  か  ?

>>478
深夜帯まで本当にご苦労様です。
最近の中学生はガッツあるな。気に入ったよ。





495:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/29 22:14:50
角さん、次回作待ってます

496:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/30 00:43:18
乙です!

497:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/30 04:51:10
自分だけ擁護カプキメエ

498:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/30 04:56:16
ヤバい、本当に糞コテぶっ潰したい

499:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/30 05:11:31
>>498
コテハン叩きはルール違反ですよ あんた


500:綾にゃみレイ
06/07/30 05:16:07
角気持ち悪い・・・・

501:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/30 08:40:29
>>499
夏厨にルールもへったくれも通用せんよ。

皆さんも分かりきってる事でしょうが、ブラウザの読み込み段階で消すのが得策。

ホットゾヌ2の設定でage入力してる奴は大抵消しちゃう。
46個のレスを消去しました、って出てきて結構スレが綺麗になる。
後は一つ一つ手動で消していけばおk

すっげえスレが綺麗になる。
夏厨ども、だからお前らのやってることは無駄なんだよwwww
ブラウザサイコー

502:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/30 12:26:38
脳内ルールを押し付ける馬鹿はどこにでもいるよなぁ…

503:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/30 14:03:22
角キモイよ死ね!








これでいい?wwww

504:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/30 18:31:44
気になった事二つだけ
>>462>>463への些か突然な視点変更
・「蒸気をあげる装甲」の下にいた綾波が信じられない程冷たいっていうのも…
何かくだらないところで質が少し落ちているような。

とはいえGJ、ストーリーとか完璧だと思う



505:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/30 20:29:18
>>504
wwwwwwwwwwwwwww
必死に熱く語ってやがるwww







やっぱコテじゃないやつもキモイな、死ねよ!

506:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/30 20:44:49
だって自演だもん
コテ消しても体臭までは消せないさ

507:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/30 21:11:07
くっせーーーーーーーーーーー505

508:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/31 08:31:24
なんかできたので明日かあとで投稿します。

とりあえず相談したい事↓

・リナレイはスレ違い?
・僕の好きに書いてもいいですか?

509:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/31 11:47:20
書くならば早くしろ、でなければ帰れ。

510:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/31 13:11:43
>>508
お前馬鹿じゃねーの?きめぇんだよ帰れ!

511:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/07/31 13:32:31
書かなくて良い、帰れ

512:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/31 15:17:54
>>509
逃げちゃ駄m(ry

513:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/31 15:18:54
第二新東京市国際空港の特別搭乗口前に僕は立っていた。

窓の向こうには翼をきらめかせながら政府専用X-33超高高度飛行艇が待機している。
流れるような流線型で矢じりのような形のその特異なフォルムは否応でも人目を引く。
詳しいことは知らないけれど高度110kmをマッハ十いくつで飛行可能なのだそうだ。
科学も進んだものだとつくづく思う。

「おっまたせ!シンジ。ずっと待ってくれてたの?」

山吹色の髪の少女が荷物を転がしながらこちらに駆けてくる。
息がかなり上がっているようだ。

「うん。でも時間ギリギリだね。
 もう飛行機出ちゃうよ?」

「大丈夫よ、私たちが乗らないと意味ないんだから。
 あ、シンジのお父さん達なら後から来るよ!
 シンジのお父さん、荷物検査で引っかかっちゃってね。」

「え、なんで?」

「金属探知で反応が出てね、係員に呼び止められちゃったの。
 そしたらポケットから文鎮が出てきちゃったのよ、信じられる?」

目の前のアスカは腹を捩じらせて大笑いしている。
いい年して何やってるんだ父さん…

「それで質問の嵐に遭っちゃったんだけど、『ぶ…文鎮って英語で何ていうんだ…?ユイ?』だって!
 お父さん、しどろもどろしちゃってさあ、アハハハハハハハ…ヒイヒイ…」

514:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/31 15:20:02
アスカが父親の声色を真似た。
もう情けなくなってくる。

「あ、そう…
 向こうって結構寒いんでしょ?
 風邪ひかないよう気をつけてね。」

とりあえず話題を変えなくては。

「当ったり前でしょう!
 それに、私のこと心配するのもいいけどね、アンタこそ新しい学校でイジメられるんじゃないわよ!」

そんなに僕、イジメられたこと無いけどな…




515:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/31 15:21:20
あ、お父さん達来たみたいだよ!こっちこっち!」

グラサンを光らせながら父親がこちらに向かって歩いてくる。
後ろに必死で笑いを噛み殺している母親と、若い研究者達が続く。

「シンジか…」

「あ、父さん…」

「…」

「…」

「…なんで文鎮なんかポッケに入れてたの?」

母さんがプッと吹き出した。

「…お前には関係のない話だ。」

精一杯威厳を保とうとしているように見えるが、全く効果を発揮していない。

「私も知りたいな。碇。」

「…!
 冬月先生…やめて下さい…」

飛行艇の後部からは白い霧のようなものが漏れている。
燃料補給も完了したようだ。

516:角 ◆uTN4HfUPlw
06/07/31 15:22:41
「これがジオフロントへの通行証だ。常に身に着けておけ。」

父親が僕に赤いIDカードを手渡した。
裏に僕の顔写真が張ってある。

ジオフロントとは箱根山地下数百メートル付近で十五年前に発見された巨大地下空洞だ。
空洞内部は大型の粒子加速器が数台設置されている他、多数の研究施設が林立している。
まさに、「最先端科学の街・第三新東京市」の象徴ともいえる存在だ。
その中心部に両親の勤務先である人工知能研究所の本部があるが、僕は一度も行ったことがない。
ちなみにジオフロントは一部区域を除き、一般人の立ち入りは厳しく制限されている。
これがあることは、空洞内部を自由に歩き回ることが出来ることとほぼ同義だ。

「研究所の赤木博士には何度か世話になるだろう。
 着いたらあいさつのひとつくらいしていけ。」

「あ、ありがとう父さん。」

「礼には及ばん…」

そろそろ出発時刻だ。
アナウンスが聞こえる。

「行きましょうか、あなた。」

「ああ。」

「シンジ…
 二年間、本当に迷惑をかけるけれど…」

母さんの目が潤んでいる。



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