06/05/01 02:33:59
シャワーの音でとりとめの無い思考の渦から抜け出す。
「ね、シンジ君」
「……はい」
「顔、見せて……女の子になってから、じっくり見てなかったから」
背中にまわしていた腕をほどいて、こぶしをつくってシンジの顎を持ち上げる。
少し面長の綺麗な顔立ち。
胸に顔を押し付けられて暑かったのだろうか、紅潮した頬、
熱に浮かされたような目、半開きの薄い唇から白い歯が覗いている。
視線が絡まる。シンジの漆黒の瞳に吸い込まれるような感覚。
胸がドキドキする。こんな感覚は生まれてはじめてだ。顔が熱くなってきて、嫌じゃないけど落ち着かない。
こんなのは駄目だ。冗談もほどほどにしないといけない。なにせ朝の時間は貴重なのだ。
シンジと見詰め合っていると、最後の戦いの時の別れを思い出す。
そうだ、あの時の冗談の続きで、今の居心地の悪い状況を終わらせてしまおう。
避けられない死を間近にした再会の約束。本当にたちの悪い冗談。
シンジの顎をのせたこぶしから親指を伸ばして、あの時の感触を思い出させるように、
薄く柔らかな下唇をなぞる。
「ねえ、シンジ君、大人のキスを覚えてる?」
シンジは、震えていたマブタを大きく見開き、呆然と、呟くように答える。
「……血の味が、しました」
口の中が乾いて、いよいよ動機がはげしくなる。、
おどけた顔で、ふざけた口調であの冗談が言えるだろうか?
「あの時の続き……約束の続き、する?」