ヒカリ×シンジの可能性を(以下略) 2時限目at EVA
ヒカリ×シンジの可能性を(以下略) 2時限目 - 暇つぶし2ch740:res698
06/10/09 21:54:34
 ヒカリはコダマさんへ詰め寄ると、
「わたし、頑張るから、お願い」
 それでもコダマさんはう~んと考え込んでいたが、シンジへ視線を向けると、
「あなた、碇くんと言ったわよね? 碇くん、あなたがこのコを見つけたんでしょ?」
「あ、はい、」
「だったら、半分くらい責任を取りなさい。もしヒカリがこのコに関して困ったことが起きたら、
ちゃんと助けてあげなさい。それが条件よ」
「は、はい。僕、必ず約束は守ります」
「なら、OKよ。よかったわね、ヒカリ。碇くんが手伝ってくれるって」
「ありがとう。碇くん」
 と言ったヒカリに、シンジは照れたのか少し顔を赤くすると、子犬をなで始めた。
「よかったな。ぶんぶん丸。洞木さんが飼ってくれるってさ。僕もよく見に来るからな」
「……碇くん、ぶんぶん丸って、なに?」
 ヒカリが驚いたように目を大きくさせていた。
「なにって、子犬の名前だけど」
「勝手に名付けないでよ。このコはマイケル。マイケルなのよ」
「なんだよ、マイケルって。ぶんぶん丸だろ、この子は」
「いや、絶対に嫌」
 と、二人はいつものケンカモードに入っていった。アタシはふーっと溜め息をついたが、
「仲がいいわね」
 と、コダマさんは楽しげに呟いていた。
 数日後、昼休みにアタシたち3人は子犬についてしゃべり合っていた。
「ふーん、そうかぁ。じゃあ、ぶんぶん丸はやんちゃしてるのか」
「そうなのよ。ぶんぶん丸はもう大変。でも、ホント、かわいいよ。碇くんも見に来なよ。」
「行っていいの?」
「いつでもいいよ。半分は碇くんもぶんぶん丸の飼い主なんだから」
「ヒカリ、マイケルじゃなかったの?」
 とアタシがツッコミを入れると、ヒカリはアッと言って口を両手で押さえたが、
「うー、もう、ぶんぶん丸でいいよ」
 と言って、恥ずかしさを笑うことで誤魔化したのだった。

つづく

741:res698
06/10/15 23:47:41
 学校での昼休み。
 アタシはヘッドフォンから流れるポップスを聴きながら雑誌を読んでいた。
 視界の片隅ではシンジとヒカリが雑談をしているのが見える。時折、ヒカリが笑いってい
る様子もうかがえ、こうしているとどうしてケンカが多いのか理解不能。
 でもって、クラスの中ではあの二人のケンカは夫婦ゲンカとか言われていたりする。
 って、ちょっと前までそう言われていたのはアタシとじゃなかった?
 まあ、いいけどさ。……やっぱり、なんだかなぁ。
 ヒカリはシンジのことはタイプじゃないって言うけど、なんかねぇ。
 シンジはどうだろう。
 ま、あの二人が付き合おうとアタシには関係ないけどね。
 アタシはシンジ達から目線を戻し、また雑誌を読もうとしたが、今度は反対側の教室のド
ア側にマユミが来たのを見てしまった。
 あれからマユミとは会えば話をするというか、けっこう遊び友達になってしまった。マユミは
アタシと正反対な感じなんだけど、気が合うのよね。
 マユミはアタシにペコリと頭を下げてから、小さな声でシンジを呼んだ。
 それから1、2分くらいドアのところで二人は話して、シンジはまたヒカリのもとへ戻った。
 と、そのとたん、ヒカリとシンジは何か言い合いを始めて、またいつものケンカになった。
 これって、やっぱりそうなのかなぁ。
 うーん、まあ、アタシには関係ないけどね。
 アタシは二人の痴話ゲンカを放っておくことにして、再び雑誌を読み始めた。

 その夜、アタシとママはシンジの家へおじゃましていた。
 シンジの両親とママは職場が同じで、ついでに同じ社宅のマンションに住んでいる。
 いま住んでいるコンフォート17の前もシンジの家とは同じ社宅だったし、そんなわけで
シンジとは幼なじみの腐れ縁。毎朝、シンジを迎えに行っているのもそういうわけ。
 でも、それもそろそろ止めようかなとアタシが考えているのが秘密だったりする。
 それはともかく、一緒の夕食も大人達には宴会に変わり始めていた。シンジのママ、ユイさ
んはけっこうお酒を飲む方で、意外なところではシンジのパパはあまり飲める方じゃなかった
りする。アタシのママは……やっぱり大酒飲みだった。あんな童顔なのにねえ。

742:res698
06/10/16 00:09:39
 アタシはまだお酒には興味が無くて、ユイさんの美味しい料理を食べ終えると、ダイニ
ングから退散して、リビングでテレビを見始めた。
 今、学校で話題になっているドラマで、アタシも当然、毎週見ている。
 幼なじみの二人の恋はどうなってしまうのか、アタシはテレビの画面に釘付けだった。
 そんな時、シンジが隣に来て、
「はい、コーヒー」
 と言って、アタシの前のテーブルにマグカップを置いた。
「ん、ありがとう」
 アタシは画面から目を離さずにカップを取ると、そのままコーヒーを口に含んだ。
 この頃はダイエットを兼ねて、コーヒーはブラックで飲んでいるけど、わりとこれが好き。
コーヒーの香りもストレートに感じられるし。でも、今はドラマの方に感覚が向いているから
香りもよくわからないけど。
 そんなこんなでドラマも終わり、シンジはまだアタシの隣に座っていた。
 時計を見ると10時近くになっていて、明日が土曜だとしてもそろそろ自分の家に戻った
方がいいのかなと思う。だけど、ダイニングからはママたちの楽しげな声が聞こえていて、
宴会はまだまだ終わりそうになかった。
 アタシは先に家へ戻ろうかなと考えていた時、
「アスカ。コーヒーのお代わりはいる?」
 と、シンジが訊いてきた。
 アタシは絨毯から立ち上がろうとした腰を戻して、
「じゃあ、せっかくだからもう一杯飲もうかな」
 と答えた。
 それからすぐにシンジはコーヒーを持ってくると、またアタシの隣に座った。
 そして、アタシがコーヒーを飲んでいるのをチラチラと見て、くちびるに人差し指を当てていた。
 さっきから何かおかしいと思っていたけど、そういうことか。
 シンジのくちびるを指でなぞるのは、何か言いたいのをためらっている時に出る仕草だ
 アタシはそれでもシンジから言い出すのを待っていたが、コーヒーを飲み干しても黙っている。
 いい加減、家にも戻りたいし、かといってシンジをこのままにしておくのも気になるし、
「シンジ。アタシに何か言いたいことがあるんじゃないの?」
 と自分から切り出してみた。

743:res698
06/10/16 00:41:04
 シンジはそれでもまだためらっていたが、ようやく口を開き始めた。
「あのさ、トウジと洞木さん、よりを戻したの?」
「えっ、そうなの? アタシ、何にも聞いてないわよ」
「アスカ、聞いてないんだ?」
 アタシはここ最近のヒカリの様子を思い出していたが、鈴原とのことなんて全く思いつか
なかった。そりゃあ、アタシに報告する義務はないけど、言ってくれてもいいのに。
「ねえ、アスカ。……洞木さんにその……訊いてもらえないかな?」
 って、こいつはなに言ってんの?
「イヤよ。アンタが訊けばいいじゃない。普通にそういうのはアンタが鈴原に訊くことでしょ。
なんでアタシはヒカリに訊かなくちゃなんないのよ。アンタ、バカ?」
「だって、トウジには訊きづらいから」
「なに、それ? わけわかんない。だいたい、どうして知りたいのよ? あの二人がよりを戻
そうとシンジには関係なじゃない」
 シンジは少し考え込むように目を伏せてから、
「そうなんだけど、前に二人が別れた時、洞木さん、すごく落ち込んでいたから。また同じこ
とを繰り返してしまったら……」
「アンタ、鈴原のことが信じられないの?」
 無言を通すことでシンジは返事をした。アタシは小さく溜め息を吐いてから、
「ところで、ヒカリたちがよりを戻したって、本当なの?」
「たぶん。洞木さん、日曜にトウジとデートするって言っていたから」
「シンジにそんなこと言ったんだ」
「うん。今日の昼休み、ちょっと言い合いしている時に洞木さんが……」
「ふーん、そう。まあ、アタシに何も言わないのは気に障るけど、どうでもいいわよ」
 シンジはまだ訊きたいような素振りをしていたが、アタシは無視することにした。
 そして、アタシは立ち上がり、
「じゃあ、先に帰るわ。おじゃましたわね」
 と言って玄関の方へ向かったが、再びシンジへ振り返り、
「シンジ。来週から朝、アンタを迎えには行かないから」
 と言った。
 シンジの驚く顔を背中にして、ひどくイライラしながらアタシは家に戻った。

つづく

744:res698
06/10/17 21:06:24
 日曜日。アタシはソフトの練習試合が終わり、帰り道を歩いていた。
 チームメイトとファミレスで3時間ほど反省会をしていたから、もう太陽はだいぶ斜めに
なっている。残暑が厳しく、熱を持った陽射しを避けるため帽子を深くかぶっていた。
 自転車のスピードが作る風は髪をなびかせ、肌に心地よさを与える。
 次々と変わっていく通りの景色をアタシは時たま眺めながら、自転車をこいでいた。
 曲がり角を過ぎ、コンビニの横を通り抜ける。
 と、アタシは自転車を止めて、再びコンビニまで戻った。
 そして、その中で雑誌を立ち読みしているコにアタシは視線を向けた。
 やっぱり、ヒカリだった。
 向こうはまだアタシに気づいていない。
 どうしようかなと少し思案する。なんとなく、このまま立ち去ろうかなとも思った。
 でも、やっぱりアタシはコンビニのドアをくぐることにした。
 アタシはヒカリの横に立ち、
「なに立ち読みしてんの?」
 と言った。
 声をかけられるまで全く気づいていなかったヒカリは肩をびくっと震わせて、
「アスカ? びっくりした」
 と、ホッと息をついてから、
「今日、試合だったんだ。勝った?」
「あったりまえよ。このアタシが投げてるのよ。負けるわけがないじゃない」
「じゃあ、0点に抑えたんだ?」
「……3点、取られた。ちょーっと、調子がでなかったのよね。で、ヒカリは?」
「甘いものが食べたくなって」
「ふーん。それで、ついでに立ち読みか」
「そういうとこね」
 と言って、ヒカリはくすっと笑った。
「ねえ、ヒカリ。甘いものなら、あそこで食べない?」
 アタシはコンビニの斜め向かいにある喫茶店を視線で指した。
 その後、アタシたちは喫茶店の中でパフェを食べていた。
 アタシはチョコレートで、ヒカリはストロベリー。
 ファミレスでけっこう食べたのに、甘いものはおなかに入るのよね。今日は試合もあったし、
大丈夫。太ることはないない。

745:res698
06/10/17 21:31:30
 そう思うと、チョコレートと生クリームで包まれたアイスを大きな口の中に含んだ。
 相変わらずこの店のパフェは美味しい。
 そして、パフェを食べるスピードは加速していき、ヒカリが半分くらいの時にアタシは
もう食べ終えていた。
 チョコレートの付いたくちびるを軽く拭いて、アタシはここに来たもう一つの目的を果た
そうと口を開いた。
「ねえ、ヒカリ」
「ん?」
 ヒカリはスプーンを口に入れたままアタシを見た。
「今日、鈴原とデートじゃなかったの?」
 一瞬、スプーンをくわえていたヒカリの口が小さく開いた。しかし、ヒカリは何事もなかっ
たかのようにもう一口、パフェを食べてから、
「碇くんに聞いたんだ?」
「まあね。それで、どうしてデートしているはずのヒカリがここにいるのよ?」
「あー、あれね。あれはウソなの」
「うそ?」
「うん。なんとなく、つい」
 アタシがまっすぐにヒカリを見ると、彼女は困ったような笑みを小さく浮かべた。
 ここ、こういう状況になるということは明らかにそういうことなんだろう。
 アタシはなんだかムカムカと腹が立ってくるのを覚え、
「バッカみたい」
 と呟いていた。
 今度は自嘲するような笑みを作ってヒカリは、
「そうね。わたし、馬鹿よね。だけど、アスカ。わたしも考えたんだ」
「なにを?」
「クラスの中でわたしと碇くんがちょっと噂になっているでしょ? あれ、あんまりにもバカバ
カしいからそのままにしていたけど、碇くんからすれば迷惑だったんじゃないかなって」
「シンジは気にしてないわよ」
 ヒカリはグラスの中に入ったスプーンを数回ほど回しながら、
「そうかな。会えばいつもケンカになっちゃうような女の子とそんな噂されても迷惑なだけだよ。
でも、笑っちゃうよね。いつもケンカばかりしているのに、そんな噂が立っちゃうなんて」
 そして、ヒカリはグラスの中のパフェを見つめながら小さく笑った。

746:res698
06/10/17 21:57:42
「山岸さんと一緒にいる碇くん。楽しそうに笑うんだよね。わたしなんかと噂が立って
いたら、碇くんにも山岸さんにもよくないから。これでよかったの。もう碇くんとは離れ
た方がいいのよ」
 そう言って、ヒカリは口をつぐんだ。
 しばし、沈黙が続いた後、
「ヒカリはそれでいの?」
「……わたしは、……、碇くんなんかタイプじゃないから。」
 と、ヒカリはグラスを見つめながら小さく呟いた。
 そのグラスの中ではアイスがもう溶けていて、ストロベリーの赤が白いクリームの中で
浮遊していた。
 アタシは一瞬、シンジが落ち込んでいたことを伝えようかとも考えたが、
「そう。なら、アタシはもう何も言わない」
「うん、」
「だけど、ヒカリ。アンタがもしシンジをどうしようもなく傷つけたら、アタシ、許さないから」
「……アスカ、」
 ヒカリが顔を上げ、アタシを見る。
 だが、アタシは視線を交差させることはせず、立ち上がろうと両手をテーブルについたが、
ヒカリの声がその後の動作を止めた。
「アスカは碇くんと幼なじみなんだよね? だから、心配してるの?」
「そうよ」
 ヒカリは再びグラスの中のスプーンをくるくるとかき回せながら、
「……アスカや碇くんとは中学の時から一緒だけど、ずっとアスカは碇くんのことが好きだと
思ってた。でも、高校受験の頃からちょっとずつ、そういうのとはなんだか違うっていうのが
わかってきて、あー、これが幼なじみなのかなって、最近、やっとわかってきた」
「……」
「アスカがうらやましいな」
「アタシが?」
 ヒカリはグラスを見つめたまま小さくうなずいて、
「うん。わたしも碇くんと幼なじみだったらよかったのに。そうしたら……」
 それっきりヒカリは黙ってしまい、アタシもまた無言のままイスに座り続けていた。

つづく

747:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/10/18 01:04:24
読みごたえある小説ですね
人物の動かし方が上手いというのかな?しっかり構成が練れてるんでしょうね
LHS描写に重きを置くなら難しいのかもしれないけど、アスカ視点にしたのが大成功で、小説的には面白さ増加したんじゃないかと
あとマユミが新鮮で、もっと見てみたいと思っちゃいました
GJ



748:res698
06/10/19 20:30:52
 月曜日の朝。アタシはコンフォート17マンションの敷地を出ると、歩みを止めた。
 週末の苛ついた気持ちはどこかへ消え去り、代わりに浮かんできた感情がアタシの足を
踏みとどまらせた。落ち込んでいたアイツの表情が気になる。
 アタシは街路樹を背にして、マンションの門の方を見た。
 数分して、シンジが現れた。
 シンジはアタシを見つけ、アタシはそっぽを向く。
 アタシのそばまでやって来たシンジは、
「アスカ。もう迎えには来ないって」
「バーカ。アンタなんか待っているわけないじゃない。いつもの時間通りに家を出たら、たまたま
アンタと一緒になっただけよ」
 横を向いたままの顔はきっと赤くなっているだろう。そう自分でも感じていた。
 シンジは初め驚いたような表情をしていたが、やがて小さな笑みを浮かべて、
「おはよう、アスカ」
 と言った。
 なんか、シンジに心を見透かされているような気がして恥ずかしかったけど、
「お、おはよう」
 と、アタシは素直に挨拶を返していた。
 それからはいつも通りにシンジとおしゃべりをしながら学校へ向かって歩いていた。
 そして、あともう少しで学校に着くというところで、シンジの雰囲気が変わった。
 シンジはまっすぐ前の方を見ながら、
「あれから、いろいろと考えたんだ。トウジと洞木さんの仲が元通りになるらな、僕らがそれを
応援してあげなくちゃならないんだよね。そうしなくちゃならないんだ」
 と言った。
 それは自分自身に言い聞かせているような感じで、そんな言葉を言わせたヒカリにアタシは
腹立ちを覚えていた。
 だから、アタシはヒカリのついた嘘をシンジへ教えようとは思わなかった。

 それから数日が経ち、アタシは学校の教室で頬杖をつきながら小さく溜め息をついていた。
 ヒカリがあからさまにシンジを避ける態度を取っていた。
 シンジはただただ戸惑っていて、そんなシンジをアタシも突き放すことなんかできなくて、
毎朝、一緒に学校へ行っていた。今までシンジの家へ迎えに行ってたのが、マンションの前
に変わっただけになってしまった。

749:res698
06/10/19 20:55:24
 ただ、アタシとヒカリの仲がギクシャクしてしまったのは正直まいってしまった。
 クラスの中で友達と呼べる女子はヒカリしかいないのよね。
 だから、休み時間とかは暇で暇で。
 そんなわけで、今日の昼休みはふと思い立って、図書室へ向かった。
 アタシは図書室のドアから中を窺い、マユミの姿を探した。
 案の定、マユミは机で何か本を読んでいて、アタシは小声で
「マユミ、」
 と呼んだ。
 小さな声のつもりだったが、静けさに満ちていた図書室の中ではそれが響き渡ってしまい、
マユミはちょっと恥ずかしそうにアタシを見て、小さく手を振った。
 それから図書室の中でおしゃべりは無理ということになって、アタシたちは廊下に出た。
 廊下の窓からは校庭が見え、男のたちがサッカーをしているのが見える。
 アタシは窓に上半身を預けながら、
「本を読んでいたの邪魔しちゃったかな?」
 と言った。
 マユミは小さく首を横に振り、
「本はいつでも読めるから」
 と答えた。
 アタシは冗談交じりに
「しっかし、アタシも友達が少ないけど、マユミもホント少ないわね」
 と言った。
 以前だったら、こんなことを言ったらマユミは泣いていたかもしれない。だけど、今のアタシた
ちの距離はとても近くなっていて、
「そうですね。でも、今はアスカさんが友達ですから」
 と。マユミは笑顔で答えた。
 それはとても純粋できれいな笑みで、言われたアタシが照れてしまった。
 その後は何気ないおしゃべりをマユミとしていたが、
「今日は洞木さん、お休みなんですか?」
 と訊かれた。
「なんで?」
「いえ、いつも一緒にいるのに、今日は私のところに来たから」
 と言った。

750:res698
06/10/19 21:23:33
 アタシは頬を人差し指で掻いてから、
「んー、ちょっとね。ヒカリは学校に来ているんだけどさ」
 マユミはアタシの気持ちを察してくれたのか、それ以上のことは訊かなかった。
 そんなマユミがとても好きで、だからとても心配だった。
「マユミはシンジが好きなのよね?」
 と、アタシは訊いた。
 急に言われたのでマユミは驚いたようだったが、小さく微笑んで、
「はい」
 と、しっかりした口調で答えた。
 恋愛に関しては恥ずかしがり屋なマユミがそんな返事をするとは想像もしていなくて、
アタシの方が驚いてしまった。
 だけど、シンジはマユミの気持ちに気づいていないだろう。
「マユミ。シンジは……」
 と言いかけた時、マユミの声が遮った。
「わかってます。シンジ君は私のことをそういう風には想っていないって」
「……マユミ、」
「シンジ君には好きな人がもういるんだと思います。私ではない誰か。たぶん、それは……」
 マユミの声が暗く落ち込み、その視線も床へ落ちていた。
 私は慰めようと彼女の肩へ手を伸ばそうとしたが、次の瞬間、マユミは顔を上げた。そして、
「でも、私、全くあきらめたわけでもないんですよ。精一杯、努力してみようと思います。失恋す
るにしても、頑張って失恋したいですから」
 と、マユミは言った。
 その表情は泣いているようでもあり、けれど、とてもきれいな笑みに満ちていた。
 アタシはギュッとマユミを抱きしめて、
「アタシ、アンタが大好きよ」
「え、あ、わ、私、女の人を好きになるような趣味は、……え、あっ、」
 すごく慌てているマユミがおかしくて、アタシは彼女から離れると、ちょこっと舌を出して、
「アンタ、バカァ? そういう意味じゃないわよ」
 マユミはくすっと笑って、
「はい、」
 と返事をした。
 少しの間、二人で笑い合った後、

751:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/10/19 21:44:53
「でもさ、マユミが頑張っても、向こうの方がマユミと争う気はないのよねぇ」
「そうなんですか?」
「そう。あのバカ女、強情っぱりだから」
 マユミは少し考え込むような仕草を見せて、
「なら、私にもまだチャンスはあるのかな」
「そうね。でも、問題はシンジをどうやって自分の方へ向かせるかじゃない」
「……そうですね」
 と言って、マユミは黙りこくった。しばらくして、マユミはアタシの目をまっすぐに見つめて、
「アスカさんはいいんですか?」
「なにをよ?」
「シンジ君のことです」
「なっ、なんでアタシが。あいつはただの幼なじみそれだけよ。バカなこと言わないで」
 あせった口調になってしまったアタシをマユミは見つめ続けていて、
「そうなんですか?」
「そう。アンタもヘンなこと訊くんじゃないわよ」
「アスカさんと洞木さん、とっても似ていますね」
 とマユミが言った時、昼休み終了のチャイムが鳴った。
 教室へ戻ろうと背中を向けたマユミへアタシは、
「どこが似てんのよ?」
 と訊いた。マユミは背中を見せたまま、
「意地っ張りなところです」
 と言った後、くるっとアタシの方を向いて、
「このままだと、本当に私が碇くんを取っちゃいますよ。いいんですか?」
「ば、バカ。アタシには関係ないわよ」
 しかし、そんな言葉をマユミは聞いていなかったかのように、
「アスカさん。私、負けませんよ」
 と言い、教室へ走っていった。
 アタシはしばし立ち尽くしていたが、
「バカシンジとは幼なじみ。それだけよ」
 と呟いてから教室へ戻ったのだった。

つづく

752:res698
06/10/21 19:34:23
 中間テストも終わり、その順位が公表された。
 まったく、廊下に人の点数を張り出すなんて前時代的なのよ。プライバシーも
何もないじゃない。
 まあ、でも、アタシはちっとも恥ずかしくないけどね。
 前回よりも一つ順位が上がって3番か。苦手の国語系を頑張れば、トップは手の
届かないこともないわね。
 それでシンジはと、……順位が落ちているじゃん。
 えっ、ヒカリなんて、どうしてこの順位なのよ。
 これって、やっぱりそういうことなのかねぇ。
 と、そんなことがあった日の昼休み。アタシはサンドイッチをひとりで食べながら
考えていた。最近、すっかり話をしなくなったヒカリとのことを。
 女の友達って、些細なことで絶縁したりと、つまんないことが多いんだけど、ヒカリとは
ずっと仲良くいられると何となく思っていたのよね。
 でも、このままだと本当に友達じゃなくなっちゃいそうで、アタシはそんなの嫌だから、
自分から歩み寄ろうと、ヒカリのところへ小さく笑みを作りながら行った。
 自分の机で文庫本を読んでいたヒカリへアタシは声をかけた。
「ヒカリ、何を読んでんの?」
 少し驚いた表情でヒカリはアタシを振り返った。
「あ、アスカ、」
 アタシはヒカリの隣の席に座ると、その文庫本をのぞき見て、
「太宰の『人間失格』? いくらなんでもそりゃないんじゃない?」
「いいじゃない。わたしは今これを読みたい気分なの」
「ふーん。まあ、いいけど。ところでさ、今度の日曜日ってヒマ?」
「日曜日? うん、大丈夫だけど」
「じゃあ、決まりね」
 と言って、アタシはヒカリへ微笑んだ。
「ママからディズニーランドのパスをもらったんだ。2枚よ」
「……わたしでいいの?」
 少し緊張気味な目でヒカリは訊いてきた。
 アタシはさらに大きな笑みで、
「あったりまえじゃない。他に誰と行くっていうのよ。じゃあ、今度の日曜日はおもいっきり
いろんなのに乗ろうね」

753:res698
06/10/21 19:51:52
 ヒカリはホッとしたように頬をゆるめ、笑みを浮かべると、
「うん、」
 と、答えを返した。
 それからアタシとヒカリは日曜日の計画を立てていたが、
「洞木さん、ちょっといい?」
 と、突然、シンジが声をかけてきた。
 その表情はかなり深刻そうで、アタシは席を立つと、
「じゃあ、日曜日のことはまた話そう」
 と言って、二人に背を向けて歩き出した。
 が、制服の裾をつかまれて、アタシは動けなかった。
 振り返ると、裾を持っていたのはヒカリで、その瞳はうるうると潤んでいる。
 うーん、まいったなあ。
 シンジを窺うようにアタシは声を出した。
「アタシが一緒じゃ、まずいわよね?」
 シンジは少し考えた後、
「洞木さんがいいなら、別にかまわないよ。それに、アスカにも訊きたいし」
 というわけで、アタシたち3人は人気の少ない音楽室前の廊下に移った。
 そして、シンジはヒカリをまっすぐに見ると、
「トウジに聞いたよ。デートなんてしてないんだってね。洞木さん、どうして嘘なんかつ
いたのさ? 僕には全然わからないよ」
 と言い、次にアタシへ視線を移して、
「アスカ、知っていたんだろ?」
「……まあね。シンジに聞いてからすぐの日曜日にね」
「なんで黙っていたんだよ?」
「だって、アタシには関係ないことじゃん。違う?」
 シンジは黙ってアタシを見ていたが、
「そうだけど」
 と呟くように言った。
 しかし、シンジはすぐにヒカリへ振り返り、
「洞木さん、ねえ、どうして?」
 と訊いた。
 ヒカリは俯いたまま無言を通している。

754:res698
06/10/21 20:15:20
 シンジは語気を強めて、
「洞木さん、」
 と言った。 
 その声にようやくヒカリは反応し、微かに聞こえるくらいの声で、
「だって、碇くんが山岸さんとデートするって言うから」
「デート? 僕、そんなこと言ってないよ」
「言った」
「言ってないって。あれは山岸さんとコンサートに行くって話じゃないか」
「それのどこがデートじゃないのよ。どう見てもデートじゃない」
 ヒカリは顔を上げて、きっとした目でシンジを見る。
「デートじゃないよ。だいたい、僕が山岸さんとコンサートへ行くのと、洞木さんが
嘘をついたのは何の関係があるのさ? ホント、僕にはわかんないよ」
「あれは……」
 と、ヒカリは言いよどむ。
 シンジはヒカリから少し視線を外すと、
「見栄なんて張らなくてもいいのにさ」
 と言った。
 その瞬間、ヒカリの顔がこわばり、
「見栄?」
「僕がデートするからって、自分も見栄を張ってデートするなんて言わなくてもいいのに」
「碇君、それ、どういうこと?」
 そう言ったヒカリの声は明らかに怒気を含んでいた。
「見栄でしょ? いつもの僕に対抗しようとするアレでしょ? そんなんだからさ、洞木さんは
いつまでたってもカレシができないんだよ」
 と言った刹那、シンジはアッと声を出した口を両手で押さえた。
 言い過ぎてしまった、どうしようというシ表情をシンジはして、対してヒカリは俯いて肩を細か
く震わせている。

755:res698
06/10/21 20:27:12
 そして、ヒカリは小さな声で、
「碇くんなんて大嫌い」
 と言うと、背中を向けて走り出した。
「泣いてた、」
 と呟くシンジへアタシは、
「なにつっ立ってんのよ。早く追いかけなさい」
 と言った。
 シンジはヒカリの後ろ姿を見つめたまま、
「う、うん」
 と返事をし、そして走っていった。
 その後、廊下の向こうで二人が話し合っている様子が窺え、それは休み時間が終わ
るまで続いていた。
「雨降って地固まる、か……」
 アタシは二人を見ながらそう呟いていた。
 その後、午後の授業が終わり掃除の時間になってから、アタシは雑巾掛けをしている
ヒカリへ声をかけた。
「ヒカリってさ、そうやっていると、なんかお母さんって感じがするわね」
 雑巾を絞っている手をヒカリは止めると、
「変なこと言わないでよ」
「ところでさ、アレからどうなったの? アンタたち付き合うことになったの?」
 ヒカリは不思議そうな顔でアタシを見て、
「どうして、そうなるの?」
「だって、ヒカリはシンジが好きなんじゃないの?」
 ヒカリは恥ずかしがるわけでもなく、くすっと笑い、
「アスカも冗談ばかり言うんだから。わたし、前に言ったでしょ。碇くんはタイプじゃないって」
 そう言ったヒカリの表情はマジで、アタシは彼女から顔をそらすと、
「この意地っ張り」
 と口の中で呟いた。


つづく

756:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/10/23 05:42:20 r2xs1J27
GJ

757:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/10/23 05:44:43
あげてしまった。吊ってくる…

758:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/10/25 04:14:02
スレッド情報局から宅急便です。
つ●

759:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/10/25 04:19:16
ウンコ●●●ヽ(ヽ(゚ヽ(゚∀ヽ(゚∀゚ヽ(゚∀゚)ノ゚∀゚)ノ∀゚)ノ゚)ノ)ノ●●●!

760:res698
06/10/26 21:20:47
 ここ数日、シンジの様子がおかしい。
 放課後、部活(オケ)の練習を休んでどこかへ行っているらしい。
 おわりのSHRがすむと急いで廊下へ出て行くし。
 本人に直接、訊いてみてもいいんだけど、それだとアタシがいつもシンジを
気にしているみたいでなんかイヤ。
 でも、やっぱり何をしているか気になっちゃうんだよなあ。
 そんなわけで今日、アタシはシンジを尾行することにした。
 気付かれずに後をついて行くって、案外、難しい。
 つかず離れずって感じでいるんだけど、なかなか校舎から出るのも一苦労。
 って、校門のところで、
「ヒカリ、なにやってんのよ?」
 と、ばったりとヒカリに会ってしまった。
 ヒカリはドギマギしたような感じで、
「ア、アスカこそ何なの? 部活は?」
「ソシュトの練習は休みなの」
「そしゅと?」
 アタシは口がうまく回らなかったみたいで、、顔を真っ赤にして
「ソフトよ!」
 と訂正した。
「アタシはいいからヒカリはなんなのよ?」
「わたしは……」
「……?」
「そ、そう。委員長として碇くんの後をつけているの?」
「は?」
「だから、碇くんが非行に走らないように注意しようと」
「あんた、ばか? って、そんなことより、シンジはどこよ?」
 アタシたちがバカなことをしている間に、シンジの姿が見えなくなっていた。
 ヒカリも周りを探し始め、
「あ、あそこ」
 と、街中へ続く道を指さした。

761:res698
06/10/26 21:40:48
 アタシたちは成りゆき上、二人でシンジの後をつけ始めた。
 途中、シンジはコンビニで買い物をして、市街地の方へどんどんと進んでいく。
 そして、30分くらい歩いただろうか、シンジは病院の中へ入っていった。
「ここって?」
 と、アタシは呟いた。
 ここはアタシのママやシンジの両親が勤めている研究所の付属病院だった。医大とか
じゃなく一研究所にどうして付属病院があるのか謎だけど、そうなんだからしょうがない。
 まあ、それはともかく、アタシはヒカリを引っぱって、
「行こう」
 と、病院へ入っていった。
 ママたちは研究所本部の方にいるから、ここで会うことはないと思うけど、ちょっと緊張する。
 ヒカリは始めてここに来たみたいで、少しキョロキョロと周りを見ながら、
「碇くん、どこか悪いのかな」
 と少し心配そうに呟いた。
 でも、シンジは外来受付に行くこともなく、病棟の方へ進んでいった。
 病院独特の薬品の満ちているような匂いがアタシの鼻孔を刺激する。
 アタシ、病院ってあまり好きじゃない。そりゃあ好きって言う人は少ないだろうけど、病院には
あまり良い思い出がないから。
 それはともかく、シンジは内科病棟の4人部屋の病室へ入っていった。
 シンジの姿が中に消えてから、アタシたちはそのドアの前に行った。
 そして、その部屋の入院患者名が書かれているプレートを見る。
 4人とも女性の名前で、その中の一つが知っているものだった。
「綾波さん?」
 と、ヒカリが声を出した。
「そういえば、優等生。ここ最近、見なかったわね」
「うん」
 レイとは仲が良いとはいえ、クラスが違うから気づかなかった。
 気づかれないように、アタシとヒカリはドアを少しだけ開けて、中の様子を窺った。
 すると、そこにはベッドの中で眠るレイと、それを見守るシンジの姿が見えたのだった。

つづく

762:res698
06/10/28 23:34:14
 シンジに隠れてついてきたアタシたちはレイが心配だったけど、ばつの悪さもあって
そこから立ち去るしかなかった。
 病院から出て、一言も交わさずに帰り道を歩く。
 やがて、別れ道にさしかかった時、ヒカリが俯きながら、
「綾波さん、大丈夫かな」
 と言った。
 アタシはヒカリの背中をポンと叩いて、
「あったりまえじゃない。なーに、心配してんのよ、ヒカリは、」
「そうよね。……でも、碇くんもみずくさい。言ってくれてもいいのに」
「ほーんと、頭に来ちゃうわよ、あのバカシンジ。明日、蹴り入れてやる」
 と、アタシは右足で蹴る仕草をした。
「碇くんに訊いてみようかな。綾波さんのこと」
「アタシも電話してみる」
「うん、」
 そして、アタシたちはバイバイと言って、別れた。
 それからシンジに電話してもずっと繋がらず、翌朝も一緒に登校は出来なかった。
 結局、シンジは2時間目の授業から出席して、その休み時間にようやく話しをした。
 シンジの机を囲むように立っているアタシとヒカリは、まさか昨日の尾行のことを言うわ
けにもいかず、
「今日、どうして遅刻してきのよ?」
 と訊いた。
「それに昨日、何回も電話したのよ。なんで電話してこないの?」
 シンジはえっと驚くと、鞄からケータイを取りだして、
「あっ、本当だ。ごめん。すっかり気づかなくって」
「バカ。で、今日はどうしたの?」
「あっ、ちょっと病院に行って来たんだ」
「病院?」
 とヒカリが聞き返すと、シンジはコクッとうなずいて、
「ちょっと、綾波のところに」

763:res698
06/10/28 23:50:29
 いよいよ話の核心に近づいて、アタシははやる気持ちを抑えきれなく、
「レイがどうしたのよ? 入院でもしてんの?」
「うん。ちょっとね」
「ちょっとじゃ、わかんないでしょ」
 アタシはシンジの襟首を掴んで、がくがくと揺らした。
 あわわわ、とシンジが白目をむきそうになっているのアタシは気づかなく、
「あ、アスカ。ちょっと、やめなさい」
 と、ヒカリに止められた。
 しばらくして、シンジがやっと息を整えてから、
「ねえ、碇くん。綾波さん、どこか体が悪いの?」
「綾波、手術したんだ」
「「手術!?」」
 と、アタシとヒカリは声を揃えて驚いていた。
「ちょっ、シンジ。レイはいったいどうしたのよ?」
 アタシが取り乱し気味なのに、シンジは全然平気そうな感じで、
「虫垂炎になって手術したんだよ」
「へっ、虫垂炎?」
「そっ、盲腸っても言うよね」
「そうなんだ。よかった」
 と、ヒカリは心からホッとしたように声を出した。
「でも、今どき盲腸で手術するなんてよっぽどだったのね」
 アタシはそう言ってからハッと気づいた。
「シンジ。アンタ、どうしてアタシたちにそのことを言わないのよ」
「あっ、あー、忘れてた」
「ばか」
 と言ったのはヒカリで、さらにごつんとシンジの頭を叩いてもいた。
 アタシも叩こうと手を挙げていたのに、なーんか役目を取られちゃった。
「ご、ごめん。でも、本当に忙しくて大変だったんだ」
 シンジは叩かれた頭を両手で押さえながら言った。
「綾波、一人暮らしだから母さんと一緒にいろいろと用意したりとかさ」
「あー、そう言えば、レイって一人暮らしなのよね」

764:res698
06/10/29 00:11:48
 レイの部屋に何回か行ったけど、本当になんにもない部屋で、そんなに
用意で大変なのかと疑問だったけど、まあ、それなら仕方がないかと思った。
 ヒカリはくちびるに軽く指を当てながら、
「綾波さんって、碇くんのいとこなのよね?」
 と言った。
「うん、」
 とシンジは返事をしてから、
「綾波、かなり我慢していたみたいで、母さんが綾波のところへ行くのがもう少し
遅れていたら大変なことになっていたみたいなんだ」
「そうだったんだ。レイって、妙に我慢しちゃうところがあるのよねえ」
「ねえ、碇くん」
 ヒカリが僅かにシンジの方へ身体を乗り出させて、
「私も綾波さんのお見舞いに行ってもいいかな?」
 と言った。
「あっ、そうしてもらえると綾波も喜ぶと思うよ。きっと退屈してるから」
「優等生が退屈にしてるわけ無いじゃない。本さえあれば、何時間でも読んでいるのよ」
「そうかなあ。アスカや洞木さんと一緒にいる時の綾波って、楽しそうに見えるけど」
 そんな恥ずかしい台詞を屈託もなく言うシンジに、逆にアタシたちの方が恥ずかしくなって、
「ば、バカ。アンタ、なに言ってんのよ」
「じゃあ、今日の放課後も行くから、一緒に行こうよ」
「お見舞いって、何がいいかな?」
 ヒカリがそう訊くと、シンジは笑みを浮かべて、
「何もいらないと思うよ。まだ、食べられないし」
「そう。でも、それなら他に何かあったら」
「うーん、どうかな。本だったら山岸さんにいくつから選んでもらっったし、思いつかないや」
 そうシンジが言った瞬間、ヒカリの顔色がさっと変わる、
 アタシはヒカリがまた話をぶち壊しにしないかハラハラしたけど、
「そう。なら、放課後までに私、考えてみる」
「洞木さん、ありがとう」
 と言う鈍感男に、アタシは後ろから蹴りを入れたくなるのをぐっとこらえた。

つづく

765:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/10/29 18:28:59
スレッド情報局の方から来ました

766:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/11/05 23:46:29
シンジ「ふん。また懲りずに挑戦する気なのか。」

ヒカリ「ええ!あたし、今度こそ絶対に負けないんだから!」

シンジ「・・・・。まあ相手してやるか。俺は一体だけでいい。お前は3体まで使え。」

ヒカリ「~~~!!馬鹿にしないでよ!いけーっ ポッチャマ!」

シンジ「ヒコザル。火炎放射。」

ポッチャマ「効果ねーよ^^タコ^^」

~終了~


767:res698
06/11/18 15:05:48
 それからいろいろあったけど省略しておくとして、レイは退院後、シンジの家にしばらく
お世話されることとなった。それはユさんが一人暮らしのレイを気づかってということで。
 そんなわけでアタシとヒカリは週末にお見舞いでシンジの家へ行った。
 シンジの両親もお休みだったようで、みんな勢ぞろいだった。
 アタシはユイさんたちと幼いころから付き合いがあるけど、ヒカリはおじさんと初対面だっ
たらしく、とても緊張していた。まあ、あのヒゲにはびっくりするわよね。
 アタシたち三人はレイの部屋で-前はおじさんの書斎だったみたいで、いるところがなく
なったおじさんが居心地悪そうにダイニングのテーブルで新聞を読んでいたのはおかしかっ
た-おしゃべりしてから、ユイさんも一緒にリビングでお茶を飲み始めた。ユイさんの作っ
たクッキーは美味しくて、ちょっと食べ過ぎるくらい。
 で、その頃には遊びに行っていたシンジも帰ってきていて、リビングとつなっがっている
ダイニングのテーブルにおじさんと向かい合って、お茶していた。
 それが二人とも無言で、なんか笑える光景だった。
 と、まあ、アタシたちのおしゃべりが止まらないとき、不意にユイさんが、
「ねえ、レイちゃん。このまま、おばさんたちとずっと暮らさない?」
 と言った。レイはただユイさんを黙って見つめるだけ。
「今までもそうだけど、レイちゃんはおばさんたちの子だと思っているのよ。ね、あなた?」
「……うむ」
 おじさんは話を聞いていたみたいで、そう返事をして肯いた。
「レイ。家族になりましょ」
「……家族、」
「そうよ。家族。私としてはレイがシンジのお嫁さんになって、本当の娘になってくれたらうれ
しいんだけどな」
「か、母さん。なに馬鹿なことを言ってんだよ」
 と、シンジは大慌てで反応し、ユイさんはくすっとアタシたちに微笑んだ。
 まーた、いつものユイさんの冗談が始まり、そんなおもしろい反応をするのはシンジだけね
と思ったが、アタシの隣から
「バッカみたい。綾波さんが結婚してくれるわけないでしょ」
 と、ヒカリが怒り声で呟いていた。
 あー、ここにもいたわね。冗談を真に受ける人が。

つづく

768:res698
06/11/18 15:33:54
 季節は秋から冬へと移り始め、ここ第3新東京市が位置する箱根も
白い風が吹くようになった。
 アタシの誕生日も再来週となった。今年もママと外で買い物と食事に
なると思う。毎年、そんな感じ。
 それはともかく、学校の中はバカっプルで溢れかえっていた。いや、
数は少ないんだけど、そのいちゃつき度がひどくなってる感じで。
 それに、この時期になると急に付き合い始める人たちが。
 そりゃあ、クリスマスも近いからわからないこともないけど、いくらなん
でもみんな必死すぎ。
 アタシなんて、この17年間ずっと恋人なんかいたことないのよ。
 ほーんと、みんなバッカみたい。
 と、アタシは昼休みの教室で頬杖をつきながら溜め息をついていた。
 でも、向かい側の席に座っているヒカリは目を輝かせながら雑誌のク
リスマス記事を読んでいて、
「ねえ、ヒカリはそれ見てどうすんの? カレシいないのに」
「いいじゃない。彼がいなくても。それにこれからできるかもしれないし」
「ふーん、彼ができる可能性あるんだ?」
「…あるわよ。0.000000001%くらいは」
 って、ほとんど0%じゃんと思って呆れてしまった。
「アスカはどうなの?」
「アタシ? アタシはいいや。今はカレとかそういうの興味ないし」
「ふーん、」
「けど、ヒカリはさ、そろそろ何とかした方がいいんじゃない」
「どういうこと?」
 アタシはちらっと教室の隅にいるシンジを見てから、
「そういえばさ、マユミが手袋を編んでいたわよ。あれ、プレゼントなのかもね」
 と、話題を変えた。
 ヒカリからの声は返ってこなく、何か考え込んでいるようだった。
 ちょっと意地悪しすぎたかな。
 と、アタシは少し反省していた。

769:res698
06/11/18 15:54:24
 それから数日後、薄闇に包まれた夕暮れ時。クラブ活動の終わる時間が
たまたま同じになったシンジと一緒に家路へついていた。
 粉雪が空に舞い始めていて、肌を刺すように空気が冷たい。
 アタシは首に巻いているロングマフラーを少しほどいて、
「シンジ。マフラーを片方、貸してあげようか」
 と言って、シンジの首に巻きつけた。
 シンジはかなり慌てて、
「い、いいよ。そんな恥ずかしい」
「恥ずかしいって、なによ?」
「だって、そうだろ。恋人みたいじゃないか」
「あっ、あー」
 と、アタシは肯いた。
 まあ、一つのマフラーを二人で巻いたらねえ。
 でも、シンジもそんなことを気にするようになったんだと思い、なんだか
ちょっと心にくるものがあった。
 アタシはまたマフラーを自分へ巻きなおして、シンジを横目で見る。
 と、そのとき初めて気づいたけど、シンジは毛糸の手袋をしていた。
「ねえ、シンジ。その手袋、マユミからもらったの?」
「アスカ、どうして知っているの?」
 と、シンジはちょっと目を見開いて訊いてきた。
「まあね。でさ、シンジ。アンタ、マユミと付き合ってんの?」
「ええっ!」
 今度はもっと驚いたのか、シンジは立ち止まってしまった。
「別に、そんな驚くことじゃないでしょ。手編みのものをプレゼントされて、
それを使うなんて恋人同士じゃなきゃしないわよ」
 シンジは一呼吸、ふた呼吸おいてから、
「そうなの?」
「アンタ、バカァ? そんなの当たり前でしょ」
「そうだったのか。全然わからなかった」
 アタシは心底、シンジのバカさ加減に呆れてしまった。

つづく

770:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/11/22 01:22:59
GJ
ヒカリ萌えの人はどうなのかわからんけど俺が読んだヒカリSSのなかではクオリティ高かった

771:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/11/22 01:24:39
>770
ヒカリSSのなかではクオリティ高かった

ヒカリSSのなかでは最もクオリティ高かった

772:res698
06/11/23 06:09:51
 そのまた数日後、日直で次の授業の準備をアタシたちはしていた。
 アタシたち、そう相方はメガネこと相田だった。
「惣流、なんでオマエの方が荷物すくないんだよ?」
「あったりまえじゃない。アタシはか弱き女の子なの。そんな重いもの無理」
「どこがか弱きだよ」
 と、相田は人気のない廊下でプリントの束を抱えながらボソッと呟いた。
「なんか言った?」
「いや、なにも」
 そして、午後一から始まる授業で使う視聴覚室に入って、用意をした。
 しばらくして一段落すると、相田がポケットから何かのチケットを取り出して、
「なあ、惣流。今度の日曜日、映画を見に行かないか。これ、今、流行の……」
「パス」
 と、アタシは速攻で答える。
「あのなあ。俺に最後まで言わせろよ」
「アンタ、バカァ? どうして、アンタなんかデートしなくちゃなんないのよ?」
「いいじゃないか。たまにはさあ」
「アンタとだけは絶対にイヤ。死んでもイヤよ」
「また、そんなこと言う」
「だいたい、アンタ、これで何回目? よく毎度毎度こりないわねえ」
 相田はメガネの縁に指を置いて考え込むと、
「17回目だな」
「って、アンタ、数えてんの?」
「まあな。それだけ俺の勲章のようなもんだし」
「……ふー、ほんとバカね」
「自分でもそう思うよ」
「そんなにしつこいと、女に嫌われるわよ」
 相田は小さく笑って、
「まだ惣流には本気で嫌われてないさ。それくらいはわかる」
「思い込みかもよ」
「かもね。でも、まだ大丈夫」

773:res698
06/11/23 06:26:03
 アタシは疲れて、はーっと溜め息をついた。
 相田はもう一度、小さく笑って、
「まあ、そう心配すんなよ。惣流にカレシができたら、そん時は本当にあきらめるから」
「本当かしらね」
「あー、本当さ。いくら俺でもそこまでしつこくはない」
「そう。なら、安心したわ」
「うわっ、酷いよ。それ」
 アタシは視聴覚室のドアを開け、廊下へ足を踏み出しながら、
「アンタをマジで嫌わないだけ感謝しなさい」
 と言った。
 それから昼休みの廊下を教室へアタシたちは戻っていたが、
「なあ、惣流。シンジと委員長、あの二人はどうなんてんだ?」
 と、相田が訊いてきた。
「なんかさ。じれったいんだよな。傍目から見ていて、じれったいんだよ」
「……」
「早く、くっつけってさ」
「まあ、ほっとけばいいんじゃない」
「でもよ、どう見ても好き合っているだろ。こっちとしては、いらいらするっていうか」
「アタシはどうでもいいわ。それこそ好きにすればいいんじゃない」
 そうアタシが言うと、一転して相田がまじめな声で話してきた。
「なあ、惣流はそれでいいのか?」
「……」
「俺、あんまり言いたかなかったんだけど、オマエ、シンジのこと…」
「うっさいわね。女の子にそんな話するなんて最低。もう絶好よ」
「わるかったよ。ごめん」
 その後、アタシと相田は教室にまで入るまで口をきかなかった。
 で、自分の席に戻ると、シンジが近づいてきて、
「アスカ、おかえり」
 と、言ってきた。

774:res698
06/11/23 06:39:32
 アタシはなんか返事をするのもメンドくさくなって、そのまま席に腰を下ろした。
 シンジはそばにいた相田に向かって、
「ねえ、なんかあったの?」
 と訊いた。
「なんかじゃないよ。シンジ、お前のせいで俺までとばっちりだよ?」
「どうして?」
「あのなあ。お前が委員長と早く、くっつかないからなあ」
「まってよ。どうして僕と洞木さんが?」
「どうしてって、俺に言わせんのか?」
「だって、洞木さんは友達なんだよ。僕と洞木さんがくっつくなんて、そんなことあるわけ
ないじゃない」
 とシンジは言ったが、相田は驚いたように目を見広げてシンジの背後を見ていた。
「え、あ、そうだ。俺はちょっと用事があったんだ。じゃあな、シンジ」
 と言って、相田は立ち去り、そこに残ったのはシンジと
「友達の碇くん。そこ、どいてくれる?」
 と顔は笑っているけど目は据わっているヒカリだった。
 その迫力に気おされたのか、シンジは
「う、うん。まってよ、ケンスケ」
 と言って、相田を追いかけていった。
 そして、ヒカリはアタシの前の席に座ると、ただ黙ってうつむいていた。
 ずっと、ずっーと。
 しばらくして、昼休み終了のチャイムが近づき、
「ヒカリ。早く視聴覚室に行かないと遅れちゃうわよ」
「うん、」
 そう言って、ヒカリは立ち上がって、荷物を取りに自分の席に足を向けたが、
「…・…友達か」
 と去り際に呟いていた。そして、目に微かな涙も。
 いつもはよく『碇くんなんて友達よ』と自分で言っていたくせに。
 アタシはそう思ったが口に出すことはなかった。

つづく

775:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/11/23 20:23:56
 それからなんとなくヒカリとはあまり話さなくなり、退屈な毎日が続いていた。
 日に日に箱根の空気は冷たさを増し、登校する時はマフラーがかかせない。
 隣を歩くシンジもショートコートを着ていて、手袋をしているけど、
「シンジさ、あの手袋はどうしたのよ?」
「……山岸さんからのはもう使ってないよ」
「どうして?」
「なんとなくわかっていたんだ。山岸さんの気持ち。僕に優しくしてくれて、居心
地がよくて。でも、自分にそんな気持ちがないのに、いつもでもそのままじゃい
けないよね」
「アンタ、気持ち伝えたんだ」
 シンジは学校へ向かう足を一瞬だけ止めて、
「三日前に」
「……そう」
 とだけアタシは声を返した。
「山岸さんとは友達でいたかったんだけど、そんなのは虫がよすぎるよね」
「どうかしら。時間が解決してくれることもあるし。もし、どこかで心の道がつな
がっているなら、また通い合うことができるんじゃないの」
 シンジは驚いたような顔でアタシを見て、
「アスカって、ときどき大人みたいなこと言うよね」
「ばーか、時々じゃないわよ。アタシはシンジみたいにお子様じゃないんだから」
「……そっか」
「そうよ」
 通学路に同じ制服を着た人影が増えていた。
 もうすぐ学校に着くだろう。
 自然と歩みが速度を上げていたが、横にいるシンジが急に立ち止まった。
「どうしたのよ? 早くしないと遅れちゃうわよ」
 シンジはしばし考え込むように黙って地面を見ていたが、再び歩き出して、
「昨日、洞木さんに告白されたんだ。
「……」
「僕が好きだって」

776:res698
06/11/23 20:44:17
 今度はアタシが立ち止まってしまい、
「ヒカリが言ったの? 好きって?」
「正確に言うと、もう友達として僕を見られないって。イヴに僕と一緒にいたいって。
それって、やっぱりそういうことだと思うから」
「まあ、そうよね。それで、シンジはどう返事をしたの?」
 シンジは小さく首を横に振って、
「なにも。洞木さん、すぐに行っちゃったし」
「シンジはさ、ヒカリのことをどう思っているわけ?」
 シンジはしばらく黙り込んでいたが、また歩き出して、
「わかんないよ」
「アンタ、わかんないって、自分の気持ちでしょ」
「わかんないよ。だって、洞木さんはトウジの彼女だったし、アスカの親友だし、
それに僕の大事な友達だったから」
「……」
「急に好きだって言われても、すぐに答えなんか出てこないよ」
 アタシは道の前方をまっすぐに見ながら言った。
「シンジさ、今まで女の子を好きになったことある?」
「なんだよ。急に?」
「いいから答えない」
「どうでもいいだろ。そんなこと」
「アタシが相談に乗ってあげてんのよ。恥ずかしがらずに答えなさい」
 シンジは顔を赤くして俯きながら、小さな声で、
「中二のとき」
「んー、中二? それって、アイツのこと? 霧島マナ?」
「……うん」
「ふーん、やっぱりそうだったんだ。で、告白したの?」
「ううん。何も言えないまま霧島さんは転校しちゃったから」
「そういや、半年くらいしかいなかったものね」
「うん、」
 アタシはもうすぐ校門に着くところで、別の道へ角を曲がると、


777:res698
06/11/23 20:57:21
「じゃあ、アタシのこと、シンジはどう思ってんの?」
 と訊いた。
 シンジは豆鉄砲を食らったような目で、
「え、どういうこと?」
「アタシはアンタが好き。アンタはアタシのこと好き?」
「それはどういう好きってこと?」
 と、シンジは探るように訊いた。
「そんなこと自分で考えなさい」
「どう答えていいか、わからないよ」
 アタシは小さく息を吐いて、
「まあ、そんなとこよね」
 と言った。
「アスカ、僕をからかったの?」
「さあ、どうかしら。それより、ヒカリへの答えは出た?」
「……まだ。でも、自分で答えを出すしかないんだよな」
「そうね」
 アタシはそう言うと、再び学校へ向かって歩き始めた。
 そして、校舎の中に入り、教室の前まで来たとき、
「ねえ、シンジ。今度の土曜日はひま?」
「土曜日?」
「そう。アタシの誕生日の前日よ」
「誕生日は知ってる。プレゼント、何がいい?」
「プレゼントはいらない」
「でも、」
「アタシ、土曜日、暇なのよ。だから、シンジ、一日つきあいなさい」
 そう言って、アタシはシンジへやわらかく笑みを送っていた。


つづく

778:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/11/24 05:42:53
ウズウズしてきた。激しく続きを楽しみにしてます。
アスカ視点なのでヒカリとマユミがシンジに告白するときの心理描写がないのは仕方ないけど、
告白前のヒカリたちの様子の描写などあったら、もっと良かったかも。
全体的にシンジを好きになる理由が感じにくいかな?今後書くつもりだったらゴメン
シンジがモテル設定のSSは、作者はシンジをかっこよく書いてるつもりでも読者から見るとダサイだけだったりして
いわゆるハーレム物はセンスない作者が多いが、このSSはそういったヘボさが無いのが良いです。
作者氏の姿勢がシンジをもてさそうとしてるわけじゃないからハーレム物とはおもいませんけどね。

779:res698
06/11/26 03:15:27
 土曜日の午前、アタシの家の窓から見える風景は白く薄化粧をしていた。
 暖房の効いたリビングでコタツに入ってお茶を飲んでいるアタシとシンジ。
 テレビの画面では吉本芸人がコントをしていた。
 シンジは時計の針をちらっと見てから、
「アスカのお母さん、今日はずっと仕事なの?」
「そうよ。シンジの家もそうだけど、研究所勤めは大変みたいね。明日、フルで
休むからっていうのもあるみたいだけど」
「よかったね」
 と、シンジは笑顔で言った。
 誕生日をずっとママと一緒にいられることがうれしいけど、それをシンジに
気づかれるのはちょっと恥ずかしく、
「ばか、」
 と小さく照れ隠しをしてしまった。
「ねえ、アスカ。本当に街の方へ遊びに行かなくてもいいの? せっかくなんだしさ」
「いいわよ。こんな寒いのに外へなんか出かけたくないわよ」
「映画を見るとかさ」
「行くのがめんどくさーい」
「じゃあ、なにするのさ?」
 アタシはずずっとお茶を飲んでから、
「一日中、こうしているのもいいんじゃない」
 と言った。
 シンジは窓の外を少し見ていたが、
「仕方ないか。今日はずっとアスカに付き合うって約束したしね」
「アンタ、自分の立場がわかっているじゃん」
「はい、はい」
「ハイは一回でよろしい」
「はい、」
 と、またシンジが返事をしてからアタシたちはお互いにぷっと笑いあった。

780:res698
06/11/26 03:37:37
 それからアタシたちがDVDで映画を一つ見終えた頃、時計の針は
二つとも一番上の数字を指していた。
 コタツに入ってニュースを見ていたシンジが、
「昼ごはん、どうする? どこか食べに行く?」
「この雪の中?」
 とアタシが言うと、シンジは窓へ視線を移した。
 外はもうすっかり雪が舞っていて、完全防備にしないと凍えそうな感じ。
「じゃあ、そこのコンビニで何か買ってこようか?」
「シンジが買い出しに行ってくれるの?」
「いいよ。それくらい」
「んー、そうねえ」
 アタシは頬に人差し指を当ててキッチンの様子を思い浮かべる。
「やっぱり、いいわ。お昼はアタシが作ってあげる」
「アスカが?」
「そうよ。わるい?」
「そうじゃないけど、僕が作るよ。アスカの誕生日で来ているんだしさ」
「いいの。アンタはそこで座って待ってなさい。アタシが作りたいのよ」
「だけど、大丈夫?」
 アタシはシンジのおでこをコツンとつついて、
「ばーか。これでもアタシは料理が上手いのよ」
「ほんとう?」
「十何年もママと二人暮しなのよ。それくらい当たり前じゃない」
「じゃあ、期待して待ってるよ」
「そうそう。それでいいのよ」
 と言って、アタシはコタツから出るとキッチンへ向かった。
 そして、十数分後、盛りつけした皿を持って戻ると、
「これ、料理?」
「バカにするんじゃないわよ。立派な料理でしょ」
「でも、スパゲッティーじゃん。しかもミートソースは缶詰めみたいだし」
 アタシはトマトの盛り付けをコタツテーブルにおいて、
「シ~ン~ジ、お礼の言葉は?」
 と言った。

781:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/11/26 04:02:17
 その時、アタシの額に青筋でも浮いていたのかもしれない。
 シンジは慌てたように、
「う、うん。ありがとう。美味しそうだなあ」
「ほら、早く食べなさい。冷めちゃうでしょ」
「いただきまーす」
「いただきます」
 と、アタシもくるくるっとフォークに巻いて食べ始めた。
「アスカ。これ、ホントに美味いよ。茹で方が違うのかな? ちょっとびっくりした」
「どう? アタシの料理の腕前は? でも、パスタは得意なのよ」
「そうなんだ」
 それから暫くしてお昼を食べ終えると、食後の紅茶をアタシたちは飲んでいた。
 とりあえず、おなかはいっぱいで、ゆくっりとした時間の流れを感じる。
「アスカの料理を食べたのは初めてかもしれない」
 と、不意にシンジが言った。
「そう?」
「たぶん、」
「そっか。シンジとは付き合い長いのに意外ね」
「意外かなぁ?」
「意外よ」
 アタシはティーカップの縁を人差し指でなぞりながら、
「シンジと二人でこうやって家で遊ぶのって何年ぶりかな?」
「中学以来?」
「小学校の時じゃない。中学に入ると、シンジ、思春期でアタシを避けてたことが
あったでしょ。あーれはちょっとねえ」
「ば、ばか。なに言ってんのさ」
 シンジの焦りぶりにアタシは笑いをこらえて、
「でもね、今だから言うけど、アレはちょっと寂しかった。アタシ、なにかシンジに
嫌われるようなことしたかと悩んだし」
「そうだったの?」
 と、シンジはすまなそうに訊いてきた。

782:res698
06/11/26 04:21:24
「まあ、シンジのママに相談したら、思春期で照れてるだけって言うのを
聞いて、シンジがかわいく見えたけどね」
「なんだよ。それ?」
「そういうこともあったということよ」
 シンジはちょっとむくれてしまったけど、またそれも可愛かったりする。
 そう思ってしまうアタシもバカなんだろうな。
「ねえ、シンジ。ヒカリヘ返事はした?」
 と、アタシは唐突に訊いた。
 不意をつかれたのか、シンジは一瞬息をのんで、
「まだ、」
「そう。まだ答えが出ないんだ」
「……」
「アタシが答えを出してあげようか?」
「えっ、」
「ヒカリと付き合っちゃいなさいよ。嫌いじゃないんでしょ? だったら、いいじゃない」
 シンジは少しうつむいて、
「でも、そんな中途半端な気持ちで……」
「付き合っているうちに好きになるっていうこともあるのよ」
 しばし、シンジは考え込んでいたが、
「やっぱり、よくないよ。そういうのは」
「シンジがそう思うなら仕方がないけど、そう深く考え込まなくてもいいんじゃない」
「そうかな」
「まだ高校生なんだし、そんなもんよ」
 その後、アタシとシンジはゲームをしたり、雑談をしたりで午後を過ごしていた。
 で、なんとなーくすることもなくなり、コタツに入りながらお互いに本や雑誌を読ん
でいたが、
「ねえ、シンジ?」
「ん? なに?」
「アンタさ、男なの?」
「急になんだよ」
 と言って、シンジは雑誌から目線をあげて、アタシを見た。
 アタシは文庫本を読み続けながら、

783:res698
06/11/26 04:39:06
「だって、そうでしょ。このアタシという美少女と二人っきりになりながら、
こうムラムラってこないの?」
「そんなのあるわけないだろ」
「ほんとう?」
「うそ言ってどうすんのさ?」
 とシンジは言ったが、すぐに、
「って、うそかな。そりゃあ、やっぱり僕も男だし」
「ダメよ。アタシには加持さんが」
 と、アタシはオーバーなリアクションで言った。
「ときどき思っちゃうだけだよ。でも、アスカは小さい頃からの友達だし、
本気でそんなことは考えたことないから」
「ふーん、そうなんだあ」
「そうだよ」
「じゃあ、今は?」
「思うわけないだろ。だからさ、僕も恥ずかしいいんだから、もう訊かないでよ」
「はい、はい。わかりました」
 と、その時、電話のベルが鳴った。
「あ、ママ。……ん、そう。……わかった・じゃあ、待ってる」
 アタシが電話の受話器を置くと、
「アスカのお母さんから?」
 と、シンジが訊いてきた。
「そう。今日の晩御飯のおかずをどうするって」
「あっ、もうそんな時間か」
 と、シンジは外を見た。
 すっかり空は闇に包まれ、月は厚い雲に隠れている。
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
 と言って、シンジはコタツから立ち上がった。
 玄関でシンジが靴を履き終えて、
「シンジ。今日は付き合ってくれて、ありがとう」
「僕、何もしていないけど、これでよかったの?」
「いいのよ。これで。なーんかさ、アンタといると落ち着くのよね」
 アタシは照れのため、ちょっと顔を横にしながら頬を指でかいた。

784:res698
06/11/26 04:59:14
「僕もアスカといると気が楽なんだ」
「そっか。……じゃあ、シンジ。またね」
「うん、また」
 そう言ってシンジは帰っていき、アタシは閉められた玄関のドアを見続けていた。
 そっか。シンジはアタシといると落ち着くのか。
 今日ずっとアタシはシンジと一緒にいてドキドキしていたのにな。
「バカ」
 と、アタシはドアに向かって呟いた。
 その時、ドアフォンが鳴った。そして、ドアを開けるとシンジが立っていて、
「一日早いけど、アスカ、誕生日おめでとう」
 と言って、アタシに淡いミルク色のロングマフラーを渡した。
「これは?」
「母さんと一緒に編んだんだ。と言っても、ほとんどは母さんで、僕はちょこっとなん
だけどね。あ、材料費は父さんが出したんだ」
「……」
「今年は寒くなるみたいだし、マフラーはいくつ持っててもいいかなって」
 うつむいて黙っていたアタシに気づいたのか、不安そうにシンジは、
「気に入らなかったかな?」
「バカ。ユイさんの編んだものが気に入らないわけないでしょ」
「そうだよね。よかった。じゃあ、アスカ、またね」
 と言って背を向けたシンジにアタシは、
「ありがとう」
 と言った。
 シンジはそのままうんと返事して、帰っていった。
 そのマフラーをアタシは首に巻くと、急いでドアを開けて出ると、遠くのエレベータに
シンジが乗り込むところが見えて、アタシはもう一度、
「ありがとう」
 と小さな声で言ったのだった。


つづく

785:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/11/26 07:46:24
おつ セツナイブルー

786:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/11/30 05:42:51
redmoonでヒカリの日記というタイトルに惹かれて読んでみたが日記になっていなかった
日記スレ立ててもキツいのは明らかだしスレタイ的に問題なさそうなんで
此処で日記書いてくれる職人さんキボン
ヒカリが日記書くのって、もろ合うと思うけど・・

787:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/12/01 00:30:38
>>786
まぁ、日記風の投下があっても問題はないだろうが、仮に書いてくれる職人が居たとして、
カップリングがヒカリ×シンジになることを承知の上での希望なんだろうな?

788:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/12/01 06:59:26
>>787もちろん。そうじゃなきゃこのスレで書き込まんでしょ。

789:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/12/01 22:40:44
エヴァ板の日記スレを見ると、日記でなく単なる一人称文がほとんどなんだよなあ

790:res698
06/12/04 22:14:18
 それは突然だった。
 アタシの誕生日にイタリアン・レストランでママと食事をしている時、
「アスカ、驚かないで聞いてほしいの」
「なに? ママ。まさか再婚するとか?」
 と、アタシは軽い感じだった。
「そんなことではないわ。ドイツの研究所に転勤することになったの」
「えっ!」
 あまりにも意外なことでアタシは言葉を失ってしまい、
「2ヶ月後に行くことになったわ。アスカはまだ高校があるから無理強いはできない
けど、できればママと一緒に行ってほしいと思っているの」

 その夜、アタシはよく眠れず、いろんなことを考えていた。
 そのせいで翌朝は重いまぶたを抱えながら学校へ行くはめになり、一緒に登校す
るシンジは相変わらず元気だった。
 夜に降っていた雪はすっかり止んでいたけど、辺り一面ゆき化粧となり、きゅっきゅと
5cmくらい積もった雪を踏みしめながら歩く。
 シンジは途中途中で小さな雪だるまを作りながら歩いていて、まるで小学生みたいに
はしゃいでいた。
「アンタさ、ホント、ガキよね」
「うるさいなあ。アスカだって、ちょっと前までは雪が積もると大喜びだったろ」
「そんな昔のことは忘れたわよ」
「いや、ほんの2,3年前だけど」
「忘れたのよ」
 シンジは手袋についた雪をパンパンと叩いて取ると、
「僕は憶えているよ。アスカと始めて会った時のことも憶えているしね」
 と言って笑みを浮かべて、
「アスカがさ、公園のジャングルジムから降りられなくなって、泣いちゃったんだよねえ」
「あー、あー、アタシは知らない。そんなことは何にも無かった」
 シンジはくすっと笑って、
「アスカと一緒だと退屈しないですむから楽しいんだよな」
「ばーか、それはアンタの方よ。いっつもギャグみたいなドジをしているくせに」
「うーん、そうかもしれないなあ」

791:res698
06/12/04 22:38:55
 シンジはそう言うと、雪玉を一つ作って、遠くへ投げた。
「これからも退屈しそうにないなあ」
 と呟いて、シンジは笑った。
 たぶん、シンジはこれからもアタシがずっとそばにいると思っているのだろう。
 もし、ここでアタシがドイツへ行くかもしれないと言ったら、シンジはどんな顔を
するんだろう。アタシはとても見てみたい欲求にかられたが、その言葉を告げる
時期ではまだ無かった。
 教室に入ると、ヒカリがすぐにやってきて、
「アスカ、一日遅れだけど、お誕生日おめでとう」
「ありがとう。ヒカリ」
「これ、よかったら使って」
 と言って、ヒカリが渡したものは深い青のイヤリングで、
「お姉ちゃんからもらったんだけど、私には似合わないから」
「でも……」
「アスカにはきっと似合うと思うの。お姉ちゃんもそう言っていたから、ねっ」
 アタシはちょっと涙目になっていたと思う。
 そんなアタシをヒカリはただ微笑んで見ていた。
 それから始業時間のチャイムがなるまでずっとヒカリと雑談していた。
 久しぶりに長く話していたような気がする。
 やっぱりヒカリはアタシにとって一番の友達で、それはずっと変わらないと思う。
 だから、昼休みにお弁当を一緒に食べていた時、
「碇くんに告白したの」
 とヒカリが言ったことに対して、アタシは
「ヒカリ、がんばったね」
 と、優しく言葉を返した。
 アタシたちは少し遅れて昼ご飯を食べていたから、教室の中はもう喧噪にまみ
れて、アタシたちの話している声はかき消されてしまうだろう。それでも、ヒカリは
周りを気にするように小声で、
「アスカ、ごめんね。今まで黙っていて」
「いいわよ。やっぱり、そういうことって相談しづらいしさ」
「でも、ごめん」
 本当に謝っているヒカリに対して、アタシは少しばつが悪くなって、

792:res698
06/12/04 23:03:14
「アタシも本当のことを言うと、知っていたんだ」
「……碇くんから?」
 と、ヒカリは窺うように訊いた。
「そう。いくら幼なじみとはいえ、そういう大事なことは相談しないでほしいわよねぇ」
「そっか。碇くん、アスカに相談したんだ」
「あ、相談って言っても、全然そんなんじゃないから。それにアイツ、自分で考えるって
言っていたし」
「考える……」
 ちょっと落ち込んでしまったようなヒカリの気分を変えようと、
「ねえ、ヒカリ。急にどうして告白しようと思ったの? シンジのどこが好きになったの?」
 と訊いた。
 ヒカリはちらっと横目で教室の隅にいるシンジを見てから、
「私、たぶんずっと前から碇くんが好きだったんだと思う。でも、ずっと自分の気持ちを
隠していて。鈴原とのことがあったからかな。もう男の子を好きにならないって、決めて
いたような気がする。けれど、もうダメ。碇くんには私だけを見ていてほしい」
「恋って、そういうものじゃない」
「うん、」
 ヒカリはアタシからわずかに逸らして、
「本当のことを言うと、私、アスカに嫉妬しているんだ。さっきも碇くんがアスカに相談し
たって聞いて、そう感じた。私にはあまり言ってくれないのに、アスカには何でも言うの
かなって。……本当に、嫌な女よね。もう何にでも嫉妬しちゃって」
「だから、それはそんなじゃないって。ほら、アイツ、友達が少ないから。それで幼なじ
みのアタシに相談する癖がついちゃったのよ」
「わかってる。アスカ」
 とヒカリは小さく笑ったが、それは寂しそうな笑みだった。

 放課後、ソフトボールの練習が終わってから、アタシは一人で雪道を歩いていた。
 今日はママの帰りが遅くなるとメールが来ていて、コンビニでお弁当でも買って帰ろう
かなと思った。これから料理をするのも面倒くさいし。
 と、そんな時、車道からアタシを呼ぶ声が聞こえた。
「アスカー、元気ー?」
 アタシが声の方を振り向くと、車の窓から手を振っているミサトの姿があった。

793:res698
06/12/04 23:24:22
 それからミサトに家まで送ってもらうことになって、アタシは助手席に乗った。
 雪道を慎重に運転するミサトに意外さを感じていたアタシに、
「こんなに遅くまで部活?」
「あったりまえじゃない。これでもアタシはソフトボール少女なの。エースで4番。
アタシがいなきゃ始まらないんだから」
「相変わらずね」
 とミサトは笑った。
「じゃあ、帰ったらキョウコさんが料理を作って待っているわね」
「ううん。今日は遅くなるって。だから、どこかコンビニに寄って。弁当を買うから」
「コンビニ弁当じゃ栄養のバランスが取れないわよ」
「別に一食くらいいいわよ」
「だーめ。育ち盛りなんだから。でないと、私みたいにボイーンにならないわよ」
 ダメだ。この人は。相変わらず下品で脳天気で、でも意外に優しくて。
「じゃあ、ファミレスにでも寄っていきましょ。私がおごっちゃうから」
 と言って、ミサトは急ハンドルを切り、雪道に後輪を滑らせながら交差点を曲がった。
 そして、ファミレスでアタシはエッグハンバーグを、ミサトはトンカツ定食を食べていた。
 ミサトは口いっぱいにトンカツを頬張りながら、
「今日は私もコンビニ弁当にしようと思っていたのよ」
 と言った。
「加持君も今日は出張でいないのよね。っと、アスカには禁句だったかしら」
「ばーか、アタシも高校生なのよ。今さら禁句とかバッカじゃない」
「ごみん、ごみん」
 と舌を出して謝る。
 でも、未だにアタシはそのように思われているのかなとも考えていた。
 ミサトは中2の時の担任で、アタシやシンジの親とも古くからの顔見知りだった。
 それで、加持さんはアタシの憧れの人だった。
 アタシが中学を卒業する時に、加持さんとミサトが結婚したけれど、その時のことは
あまり思い出したくない。結局、まだアタシはガキだったのよね。もう大騒ぎを起こして、
周りに迷惑をかけまくっていたのを思い出すたびに、恥ずかしくなってくる。
「まあ、でも、そんな様子じゃ、アスカにも恋人ができたのかな?」
 と、ミサトが茶化すように言った。
「シンちゃんかな~」

794:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/12/04 23:44:53
「ミサト、馬鹿じゃないの。シンジとそんな風になるわけないでしょ」
「そう? お似合いだと思うわよ」
「絶対にありえない。だって、アタシ、幼稚園の頃、シンジがお漏らししたことま
で憶えているのよ。小学校の時なんて、シンジがよくいじめられていて、アタシ
が助けたことなんて、一度や二度じゃすまないし」
「へ~、よく憶えているわね」
 そう言って、ミサトはにへらと笑った。
「幼なじみじゃ、トキメキっていうものがないのよ」
「そんなものかしらねえ」
「そうなの」
「はい、はい。わかりました」
 そして、ミサトはまた大口でトンカツを食べ始めた。
 それから食事が終わってから、アタシたちは食後のコーヒーを飲んでいた。
 アタシはその間、ずっと考えていた。ミサトはこれでもいろんな経験をしているんだし、
いいアドバイスをしてくれるかもしれないと。
「ねえ、ミサト」
「ん?」
 と、ミサトはコーヒーカップから口を離した。
「友達の話なんだけど、その友達、親友と同じ人を好きになったらしいの」
「……」
「でね、その親友は彼に告白をしたんだけど、友達は自分も好きと言えずにいるんだって。
ここでそう言ったら親友との仲が壊れそうだし、ずっと親友でいたいと思っているのよ。でも、
その親友と同じくらい、もしかすると親友よりもずっとその彼が好きかもしれないって」
「ふーん、アスカにそんな友達がいるんだ」
「まあ、そうなのよ。それで、そんな時、その友達のママが転勤することになっちゃって、ママ
は残っていてもいいと言っているけど、今は一緒にママと行った方がいいかなっても考えて
いるみたいで。ほら、ここで一緒に行った方がずっと親友でいられるし、その彼も自分を恋人
とかそういう風には見てくれそうにもないから、残っていてもつらいだけなのよ」
 と、アタシはいつの間にか自分のことのように話していたのを気づいた。
 アタシはおそるおそるミサトを見たが、ミサトにからかうような気配はなく、真剣に考えている
ようだった。
 ミサトはしばらく腕組みをしていたが、

795:res698
06/12/05 00:03:05
「そのアスカの友達、自分の気持ちを伝えずに行ったら、後悔しないかしら」
「後悔?」
「そっ。私、大学生の頃、加持君と一回、別れたことがあるのよ。私の方から別れ
話を持ち出したんだけど、本当は捨てられそうな予感がしてね」
「……」
「でも、あとで聞いてみたら、そんなことは全然なくて。ただ、加持君の方も私に
他の男ができたように思っていたみたいで、そんなこと聞けなかったんだってさ。
アイツ、プレイボーイに見えるけど、けっこう可愛いとこがあるのよね」
「……」
「それからまた出会うまで何年も私は加持君のこと引きずっちゃってね。あの時、
こうすればよかったとか、あーすればよかったのかなとか、よく考え込んじゃった
りね。私と加持君はそれから運良くまた出会ったけど、もしかするともうそれっきり
だったかもそれないのよね。案外、人の縁って簡単に切れちゃうものなのよ」
「……」
「だから、アスカ、どういう選択をするとしても、後悔しないようにね」
 そうミサトはアタシの目をまっすぐに見ながら言った。そして、
「あっ、そういうふうにその友達へ伝えるといいんじゃないかな」
 あはは、と困ったようにミサトは笑った。
 アタシもくすっと笑ってから、
「ミサトも案外、先生っぽいこと言うのね」
「案外って何よ? 案外って」
「褒めてあげているのよ」
「担任にそういう言い方はしないの」
「元・担任でしょ」
 そして、アタシたちはまた笑い合った。
 その後、ミサトと別れて自宅に戻ったアタシは、コタツに入ってテレビを見ながら考え
ていた。アタシはどうすればいいんだろうかと。
「やっぱり、言えないよね」
 そうアタシは呟いていた。

つづく

796:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/12/08 21:57:49 8B9Cm7F2
ここいらで一回あげよう

797:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/12/23 03:53:53
hosyu

798:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/12/27 22:58:57
ヒカリシンジか
Galaxy Dream
Galaxy Dream
夢銀河渡ればふたりIt's all right ♪

799:名無しが氏んでも代わりはいるもの
06/12/28 21:45:46
>>798
オルガニックフォーメーション発射かw
主人公に金髪の幼馴染がいてシンジ君と呼ばれてるのがよい。

800:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/01/04 18:42:58
保守

801:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/01/09 22:08:54
中川氏が久し振りに書いてるの誰か突っ込んでやれ

802:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/01/10 12:26:30
>>801
日記見てるとかなり痛いからスルーしてた。

803:名無しが氏んでも代わりはいるもの
07/01/10 14:12:17
もうLHS界は終わりなのか
F氏、S氏は更新ないし、N氏はあんなだし
ヽ(`Д´)ノ


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