04/06/19 03:10
「ねえ、碇君」
とのヒカリの呼びかけに、シンジは雑巾を絞るのを止め、顔を上げた。
掃除の時間。そこに生まれた一瞬の空白。偶然が教室に二人だけの時間を与えた。
「碇君は好きな人いる?」
「えっ、好きな人って…」
ヒカリは頬を僅かに赤く染め、さらに言葉を続けた。
「アスカとは、どうなの?」
「……アスカ?」
「そっ、」
「別に、アスカとは何でもないよ」
「でも、一緒に住んでいるじゃない」
「そうだけど……、そんなんじゃないんだ。アスカは同じエヴァのパイロット仲間だよ」
「じゃあ、綾波さんは?」
「綾波とも、やっぱり仲間だと思う」
「そっか。アスカとも綾波さんとも何でもないんだ」
「うん。でも、どうしてそんなこと訊くの?」
「えっ、あ、」
ヒカリは一転して慌てると、
「えっと、友達に頼まれたのよ。ほら、バレンタインが近いでしょ」
「ああ。ということは、その、そうなんだ」
「そ、そう」
彼女の返事に、シンジは照れてしまい、窓を拭くからと言って離れてしまった。
そんな彼の後ろ背中を見ながら、
「そっかぁ。碇くん、誰もいないのか」
と言ったヒカリのくちびるは微熱を持っていた。
そして、再び訪れる喧噪。教室の中に人が溢れる。
ヒカリはいつもの委員長としての顔を作る。
けれど、微熱は彼女のくちびるから頬へと広がっていた。