【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 2【一般】at ANICHARA
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 2【一般】 - 暇つぶし2ch25:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/08 22:18:02 b40twCVj
翠星石とジュンを仲良くするために尽力する蒼星石。
そして仲良くなった二人を見て、自分の本当の気持ちに気づく。
「そうか、僕はジュン君のことを…」

こんな展開キボン。

26:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/08 22:24:43 CBNEr9c5
>>25
現実にありうるのが恐ろしい件について

27:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/09 11:57:38 +PUnNu6w
>>25
どこかでそういうシュチュのゲームがあったな。

ジュンが普通に中学に通学してて、授業中いきなり教室にナイフ持った奴らが入ってきて
(または特殊部隊が)そいつらぶっとばしてヒーローになる展開をキボン。

28:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/09 12:47:21 HVfqBLsW
>>27
そいつは
オシイ監督の人形物語なんでないかい?

29:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/09 17:22:11 IGyXmIFy
某ゲームをプレイしてショットガン乱射でいいよ

30:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/10 11:08:37 ak33Q5t8
保守 期待あげ

31:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/10 19:40:06 tMBGGzUd
>>17
そして総合スレ1の初めに続く……

32:薔薇乙女戦争
06/05/10 21:42:24 8CKcu+Hq
>>前スレ676

 薔薇水晶から奪ったローザミスティカを手に、真紅は雪原をふらふらと歩く。
 虚ろな目で向かうのは、彼女のマスターの所。ジュンの倒れている所。

 仇を取ってしまった彼女は、抜け殻のようになっていた。
 全ての姉妹を失い、最も大切な人を失い、それで残されたのは六つのローザミスティカだけ。
 そう―「だけ」なのだ。彼女のアリスへの拘りは日に日に薄れていた。
 それは、今、彼女が逢いたいと思っている少年の影響が大きかった。

 あまりに未熟な彼との日常は、大変でもあり、楽しくもあった。手の掛かる子供ほど可愛いとよく言われるが、まさにそんな感じだった。
 人は人の成長を助けることで己も成長できる。人の悪い所を見て、己を省みることができるからだ。
 真紅もジュンを見守ることにより、大きく心が成長した。
 彼女だけではない。ジュンの周りに居た雛苺、翠星石、蒼星石、金糸雀。多くの薔薇乙女達が、彼と共に成長した。

 そして、いつも薔薇乙女達の中心には彼が居た。
 年頃のジュンは表立って見せようとしなかったが、本当に心優しい少年だった。そんな彼だから、人形達も心を開いたのだろう。

 ジュンをマスターにしてからの生活は、真紅の長い人生の中でも際立って光り輝いていた。黄金時代と言ってもいい。
 姉妹達とより深く親しみ合い、犬猿の仲だった水銀燈とも一時は話ができるようになった。
 知らぬ間に、真紅はジュンとの毎日に満足するようになっていた。
 お父様のためにアリスにはなりたいけれど、姉妹達との生活も捨て難い。真紅はそう思うようになっていた。

 しかし、楽しかった日々はもう戻らない。
 残ってしまったのは彼女一人だけ。
 もう、喧嘩をする姉妹すら居ないのだ。
 真紅の心は空っぽだった。



33:薔薇乙女戦争
06/05/10 21:44:15 8CKcu+Hq
 夢遊病のように歩いていた真紅が立ち止まる。思わぬ人物と出くわしたのだ。

「アリスゲームを終わりにしましょう」

 聞き慣れた声に驚いて立ち尽くす真紅。翠星石に倒されたと思っていた水銀燈が、今になって現れたのだ。
 翠星石との戦い以後、水銀燈は全く姿を見せなかったのだが、それには理由があった。それは、彼女の姿を見れば解る。

「貴女、その体……」

 真紅からやっとのことで出た言葉はこれだった。真紅は水銀燈から目を逸らせたくても、それができない。何故なら、彼女の姿があまりにも強烈な執念を撒き散らしていたからだ。
 水銀燈の姿は壮絶の一言に尽きた。左腕は肩の部分からごっそりと失くし、残った右腕も袖から手が出ていない。服の肘から先の部分がひらひらと風に揺れている。あれでは、髪の手入れもできない。翠星石の捨て身の攻撃により、両腕を失う深手を負っていたのだ。
 手が使えない状態で戦いを挑むのは自殺行為に等しい。その辺りは、いくら好戦的な水銀燈でも理解できた。
 だが、戦わなくてはアリスゲームの勝者にはなれない。
 そこで、彼女はわずかな望みに賭けて、最後の最後まで隠れ通す事にした。ドールズの残りが二体になる時まで逃げ切れば、戦いは一度で済む。その一度に勝利すれば、アリスになれるのだ。
 それまでにローザミスティカの数に差はついてしまうが、そこは目を瞑るしかない。早期に手負いだと知られ、集中的に狙われるのだけは避けたかった。

 水銀燈は右、左と喪失した自分の腕を見てから、真紅の思わず出た問いに答える。

「これねぇ、翠星石にやられちゃったぁ。あのイカレ女、よりによって道連れを謀ってくれたのよ。いい迷惑だわ……!!」

 初めは軽かった水銀燈の口調も、次第に怒気が含まれていく。よほど、辛酸を舐めさせられたのだろう。最後には歯噛みまでしていた。
 険しい表情をしていた水銀燈だが、急にはっとなって不敵な笑みを作る。真紅に苦渋の顔は見せられない。こんな姿でも、彼女のプライドは健在だった。

「でも、残ってくれたのが真紅でよかったわぁ。やっぱり、あなたは私に葬られる運命なのよ。そう思うでしょう?」

 水銀燈は同意を求め、暗に真紅を責める。
 ジュンを亡くしたばかりの真紅には、とても厳しい言葉だった。今となっては、水銀燈の気持ちが痛いほど解る。

「私のジュンも、もう……」
「ええ、死んだわね。あの子も可哀想に……あっちに転がってたわ。でも、それが何?」


34:薔薇乙女戦争
06/05/10 21:46:01 8CKcu+Hq
 真紅の言い訳がましい言葉に、棘のある言葉を返す水銀燈。亡くなった今では、わずかでもジュンに思う所があるようだが、真紅を許す気は毛頭無かった。
 真紅はそれが悲しくて堪らなかった。水銀燈は、絶望に落ちる寸前に出会えた、今ではたった一人の姉妹なのだ。

「もう姉妹は貴女しかいないの。私には戦えないわ」
「戦えない? 馬鹿言わないで。薔薇水晶を嬲り殺しにしたあなたが、よく言えるわねぇ」

 この期に及んで引け腰になる真紅を水銀燈は笑い飛ばす。
 水銀燈は遠見の能力を使って全てを見ていた。ジュンを失った真紅が修羅の形相で戦うのを、身震いしながら観戦していた。
 勿論、その寒気は恐怖からのものではない。それとは全く逆の、歓喜からくるものだった。
 遠い昔から、水銀燈にとって真紅は目の上のこぶだった。いつも上品ぶって、安っぽい常識を振りかざす真紅が我慢ならなかった。そのくせ、実力は水銀燈に劣らない。真紅とは幾度と剣を交わしても、勝敗は決まらなかった。
 その真紅が先程の戦いで、水銀燈も唸るような残虐さを見せた。いつも冷静にお澄まししていた真紅が、目の前で化けの皮を剥がしたのだ。これを喜ばずにいられようか。

「あれは……我を忘れただけよ……」
「嘘言いなさぁい。見事な戦いぶりだったじゃないの。あれがあなたの本性なのよ。ねぇ、真紅ぅ」

 水銀燈がねっとりと絡みつくような言葉でいたぶる。その顔は実に嬉しそうだ。
 すでに力無かった真紅の反論も、これで沈黙した。水銀燈が言う事を完全に否定できなかったのだ。

 激しい憎悪に支配された中での暴力は、それは甘美なものだった。
 薔薇水晶の背後から襲った時。腕を折った時。瞳を砕いた時。真紅の脳髄はしびれるような快感で満たされた。あの充足感ははっきりと覚えている。
 今、姉妹を破壊した感触を思い出しても嫌悪感しか湧かないが、あの時の真紅は別だった。彼女の心の奥底にも、誰もが飼っている悪魔が住み着いているのだ。

「やめてッ!」

 己のおぞましい心を理解したくない真紅は、思考を振り払うように頭を左右に振る。
 それは、水銀燈が望んだ反応そのものだった。否定しようと苦しむ真紅を見て「ふふ」と笑い声を漏らす。
「今更、何を恐れているの? あなたは私も殺せるはず。そう、めぐの首を絞めたように、あなたは簡単に人を殺せるはず」
「違うっ、違うの……っ!!」
「いいえ、違わない。真紅は人殺しなの。私と同じように」
 執拗になじられ、真紅は親に叱られる子供のようにしか反論できない。大切なものを失いすぎた彼女に、この責め苦は酷だった。
 思う存分、言葉で真紅を追い詰めた水銀燈は、満足げな笑みを浮かべる。

「真紅、あなたとなら最後を飾るに相応しい戦いになりそうだわぁ」

 黒い羽が舞い、戦いの始まりを告げた。



35:薔薇乙女戦争
06/05/10 21:47:19 8CKcu+Hq
 真紅は四つのローザミスティカを握り締め、水銀燈の攻撃から逃げ回る。上空から黒い羽が雨のように降り注ぎ、凍った大地に突き刺さる。
 空を飛ぶ水銀燈に、手も足も出ない真紅。そう見えるかもしれないが、問題の根はずっと深かった。
 それは、ここにきて真紅の病気とも言える戦闘恐怖症が再発してしまったのだ。
 真紅は一度はジュンを支えにして立ち直れた。彼を守りたい、彼の期待に応たい、と決意した時、彼女は己を奮い立たせることに成功した。
 だが、その彼も今は遠い所へと行ってしまった。
 支えを無くした真紅は、立ち直る以前へと逆戻り―いや、それよりも症状が悪化していた。
 姉妹やジュンとの別れが相次いだため、以前に増して、彼女は失う事を恐れるようになっていた。

 こうなってしまっては、薔薇乙女の悲願である父との邂逅も、真紅には見えなくなる。
 無論、彼女も父とは逢いたいが、その前に立ちはだかる恐怖に足が竦んでしまう。
 ジュンの存在が大きくなりすぎてしまった彼女を引っ張るには、生みの親の願いを以ってしても不充分だった。

「真紅ぅ、いつまで遊んでるつもりぃ? ちっとも盛り上がらないじゃないのぉ」

 水銀燈がおちょくるように文句を垂れるが、真紅にはそれを聞く余裕さえない。
 着地した水銀燈の翼が蛇のように伸び、真紅を呑み込もうとする。真紅は鈍い動きで羽を避けるのがやっとだ。
 真紅はローザミスティカの数で上回り、身体にも大きな損傷は無い。圧倒的に有利な戦いのはずなのに、完全に圧されていた。

 伸縮自在の黒い両翼が、執拗に真紅を追う。
 水銀燈は二匹の蛇を巧みに操り、じっくりと獲物を追い詰めていく。
 水銀燈がチロリと舌なめずりした時、獲物が網に掛かった。
「いやぁっ」
 悲鳴と共に、真紅が黒蛇に呑み込まれた。



つづく

36:∀・`)ヤァ
06/05/10 21:56:23 aDG7F0YN
俺も書いてみたよ。
長いうえに続き物だけど、投下するよ。

37:『終章』
06/05/10 21:58:32 aDG7F0YN
薔薇水晶は力なく地に伏せている。
六つのローザミスティカを取り込むことに失敗し、自壊した体はすでに器としての機能を果たしていない。動くことも喋ることもできないが、意識だけは辛うじて保っていた。
少女の意識を壊れかけた体に繋ぎとめているもの、それは単純明確な憎悪である。

――壊してやる。

自分を受け入れなかった六体のドール達。
忌々しいその姿は、今でも瞼の裏に焼きついている。
内側から破壊された腹部がズキリと痛んだ。

―― 一体残らず、全て壊してやる。
 
哀れな贋物と嘲った白いドール。
お父様によって作られた完璧な人形の自分が贋物のはずがない。そう叫びたかったが、口が動かなかった。
やがて白いドールは消えうせたが、胸中に溢れかえる怒りは消えることはなく、皮肉にも薔薇水晶と体の結びつきを強めることになった。それこそが白いドールの思惑だともしらずに。

――壊してやる、壊してやる、壊してやる。

行き場のない負の感情は、いまや少女にとっての生の糧である。そして創造主から与えられた崇高な使命は、少女の精神を堅固なものにしていた。
全ては自分がローゼンメイデンシリーズを超える存在だと証明するために。
全てはお父様のためだけに。

38:『終章』
06/05/10 21:59:51 aDG7F0YN
だが、薔薇水晶は知らなかった。それがすでに失われた目的だということを。
あの時、光に包み込まれた二人を待っていたのは、無限に広がるnのフィールドの虚空空間だった。どこまでも続く世界と悠久の時は、薔薇水晶に朽ちを、槐に死を与えたのだ。
最愛のお父様が動かなくなったわけを、闘うことしか知らない少女には理解できなかった。理解できたとしても、その死を受け入れることはできなかっただろう。

「おやおや、まだ迷子になられていないご様子で」

視界の隅に見慣れたタキシードが映った。
音も気配も出さずに現れた訪問者は、ゆっくりとした足取りで薔薇水晶に近づいてくる。
少女の眼球がその何者かを捉えようとぎこちなく動くが、その必要はなくなった。

「その器はもはや限界でしょう? 何故そうまでして、その器にしがみつく必要があるのでしょうか? 森の奥でお菓子の家に巡り得たヘンデルとグレーテルのように、迷いは時には思いもしない物をもたらします」

 ククッと笑い、「彼らの場合、悪い魔女に捕らわれましたが」と肩をすくませながら付け加える。
この独特の口調と道化的な言動には聞き覚えがあった。
ラプラスの魔。nのフィールドを自由に闊歩することができる唯一無二の存在。
歯をかみ締めて睨みつけている薔薇水晶に気づいていないのか、それとも眼中にすらないのか、人型の白ウサギは平然と頭上のシルクハットを持ち上げた。


39:『終章』
06/05/10 22:01:06 aDG7F0YN
「お久しぶりで、精巧に作られた贋物のお嬢さん。 狭間での幽閉はさすがに堪えましたかね?」

薔薇水晶が目を剥く。
やはりこの空間の干渉を断ち、閉鎖したのはこの道化の仕業だったようだ。だとすれば、お父様が動かなくなったのもラプラスの魔の所為に違いない。
事実がどうであれ、もはや薔薇水晶の双眸は眼前の憎き敵しか捉えていなかった。怒りで顔が歪み、頬を走る亀裂が大きさを増しても、少女の視線はただ一点に注がれ続けた。

「そう怖い顔をなさらずに。 美しい顔が歪むのは、私としても気分が良いものではありません」

ギシギシと軋む球体間接を無理矢理動かし、緩慢ながらも残った片腕で上半身を支え上げる。

「ほぉ……」

ラプラスの魔から感嘆の声が洩れた。

「人を突き動かすには憎悪と怨恨が最適だといいますが……失礼、貴女は人ではありませんでしたね」

細い両足がしっかりと地を踏みしめる。安定はしていなかったが、薔薇水晶は確かに立ち上がっていた。それは彼女にとって数年ぶりの直立だったが、nのフィールドは少女の時間感覚を完全に狂わせていた。


40:『終章』
06/05/10 22:02:41 aDG7F0YN
「いやはや、素晴らしい。 あのお方がここにいないのが心残りなぐらい、実に素晴らしい」

――うるさい。

「よほど私が気に食わないご様子で。 いえ、貴女が本当に嫌いなのは五番目のお嬢さんでしょうか? それならご安心を、すでに彼女は――」

――うるさいッ!!

 紫の光が、空間に走った。
辺り一面に突き出した水晶は、瞬く間に空間を埋め尽くしていく。止まることなく増え続ける水晶の群れは意思を持っているかのごとく、ラプラスの魔をグルリと囲い込んだ。
殺風景な空間が、紫水晶に彩られていく様は幻想的である。

「……美しい」

ラプラスの魔が陶酔した声で呟いた。
たとえその水晶が攻撃手段だったとしても、誰もがその光景には目を奪われてしまうだろう。気づいた瞬間に、貫かれていたとしても。
途端、一際大きな水晶が地を這った。ラプラスの魔の瞳は自分めがけて迫る水晶を捉えていたが、動こうとはしなかった。
薔薇水晶の脳裏に疑念がよぎる。しかし、すぐさま頭から振り払う。
もはや少女の頭の中には、眼前の道化を壊す目的だけで占められていたのだ。
だから彼女は気がつかなかった。
背後から音もなく忍び寄る影に。


41:『終章』
06/05/10 22:04:14 aDG7F0YN


――え……?



背中から胸に突き抜けるような衝撃が伝わった。
状況が飲み込めず泳ぐ瞳は、無傷のラプラスの魔へと向けられる。

「恐れることはありません。 ドールに死という概念はあらず、故に終焉はなく、言うならば眠りにつくのと同じです」

その言葉を合図に、遅れて違和感が滲みわたった。
自らの体に起きている事態を把握できないまま足から力が抜けていく。
ゆっくりと地に崩れ落ちた薔薇水晶は、ふと顔を伏せた。
そして見た。
胸から突き出した一本の白い茨を。
少女の表情は驚愕、次いで絶望へと変化していった。
辺り一面に広がっていた水晶が、甲高い音をたてて砕け散る。それは薔薇水晶の終わりを意味していたのだろう。
不意に、ラプラスの魔ではない、透き通った声が響いた。

「それはしばしの眠り。 いつかは覚める泡沫の夢」

背後から伸びた繊細な指先がひび割れた頬に触れた。
その手が誰のものかはわからない。でも、優しく撫でられる度にこの心を満たすような温かいモノは何なのか。大切なモノが頭の中から零れ落ちていく、この感覚は何なのだろうか。
朦朧とした意識の中、薔薇水晶は、耳元で囁く心地よい声を聞いた。

「だから今はお休みなさい。 深い眠りを、楽しい夢を」





42:『終章』
06/05/10 22:05:13 aDG7F0YN




夢を見た。

眼鏡をかけた黒髪の少年が泣いている。
肩を小さく震わせながら、その弱々しい背中を丸め、嗚咽を繰り返す。
そんな彼の腕の中には、可愛らしい西洋人形が見えた。ところどころが破損しているのが痛々しいが、その精巧な作りの前では少々の破損でも見劣りしない。

この少年は、人形が壊れてしまって泣いているのだろうか。
それほど大切な人形だったのだろうか。
どんな理由であれど、これほどまでに少年に思われている人形は、幸せだったに違いない。




夢はそこで途切れた。



続く


43:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/11 00:29:49 7FQxLeOp
いやぁ、気になるな

てか誰がミーディアムを殺したんだろうな
本物に真紅なのか?まぁ最後に全部分かると思うけど

44:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/11 20:40:20 SoovZ85j
ご両人供にいい仕事してますねぇ~w
>>43
オイラもそれが気になるところ。
これからラプラスがどう絡んでくるかが見所と踏んだ。
終盤の展開に期待大ですよ。

>>42
薔薇水晶のイントロダクションに興味津々ですよ、もう。
これからの展開wktk

45:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/11 23:20:38 7FQxLeOp
銀様には生きててほしいけど


これは真紅も銀様も死(ry

まぁドールに死は無いさ

46:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/12 00:17:03 rdHhyCF7
>>35
今まで私用で一週間ほどパソコンから離れていたんですが
ひさびさにこのスレを見させてもらって
いやぁ、お話進んでますねw
薔薇戦争の2回3回分を一気に読ませていただいて
何か得した気分ですw
ジュンまで死するとは予想外の展開でしたが
続き期待していますー

47:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/12 06:21:49 The/Q7Zv
保守

48:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/12 23:37:04 The/Q7Zv
保守

49:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/13 15:56:10 yWt4XdwW
保守替わりにおひとつ


真紅   「ふぅ、疲れたのだわ、大体何でこの私が長距離バスなんて、新幹線位使えなかったの?」
JUM  「すいませんねェ真紅様、文句は実行委員会にお願いします、巴はもっと大変だったんだぞ」
雛苺   「柏葉トモエに~、けいれ~い!」ビシッ
JUM  「巴・・・無茶しやがって・・・・」
 
のり   「じゃ、みなさんコメント録りますからお願いしま~す」
真紅   「え・・・ちょっ、待ちなさい、JUM!急いで髪と服を直して頂戴!あと霧吹きも」
のり   「じゃ、3,2,1、キュー!」

真紅   「え~、この私に勝るとも劣らない素晴らしい人形達との触れ合い、素敵だったのだわ」
JUM  「人形好きの僕にとっても、とても楽しい時間でした、やっぱ外に出るのっていいですよね」
雛苺   「JUMみたいなひとがいっぱいいて、楽しかったの~!」

のり   「カットぉ!、じゃ、皆さんでシメのセリフどうぞ~」



一同   「あしや人形祭にお越しの皆様、ありがとうございました~」



のり    「はいオッケーで~す!じゃ、皆さんお疲れでした!・・・雛ちゃん、後で録り直しましょうね」
  

50:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/13 20:00:45 73KNAo8B
あしやかぁ…遠いよなァ~


51:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/14 10:40:13 Ub+Bd3OD
期待上げ

52:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/14 19:20:47 H//lDtAF
ちょっと質問エエですか?

『大きな古時計』の歌をモチーフに元治のSS構想してたんですが
イマイチあのキャラ分からなくて…
誰か、どっか良い解説サイト教えてくだされ。


53:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/14 19:56:42 1K3Vc9GN
ドゾ
URLリンク(www.geocities.jp)

54:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/14 20:32:03 H//lDtAF
・・・信じたオイラがバカでした~。_/ ̄/○

因みに感じとしては、二期終了二ヶ月後
元治を喜ばせようと、ジュンに書かせた蒼星石の手紙。
久しぶりの頼りを喜ぶ元治に、本当の事が言えない翠星石。
二通、三通と出しつづける内にジュンが怪我して手紙が書けなくなる。
途方にくれる翠星石の気持ちを知らずに、元治は手紙を待ちつづけ…そして

…て感じだったけど、まぁいいや。ゆっくり書くよ~。

そして全てが終わった後、
空を仰いで号泣する翠星石を静かに包み込みながら
雪は未だに降り止まず…

55:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/15 00:07:56 h+QXrIA0
おおお!切ない系でいいですねー。
ever snowとかNORTH WINDが頭の中で流れていきましたよ(音ゲーの曲だから知ってる人いないだろうけど)
のんびりwktkして待ってます。

56:熊のブーさん
06/05/15 01:55:13 y42KjgYD
前スレ>645あたりからの続き投下。

今、地震があってびっくりした……

57:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/15 01:56:04 y42KjgYD

 DELUSION3 桜田家の居候(後編)

~~~前編のあらすじ~~~
   めぐがいなくなりました。

「あははは……めぐぅ……何処に行ったのぉ……アハハハ」
「水銀燈が壊れたですぅ!」
「元々壊れてるかしら~」
生けてある菊の花。
意味はおそらく、いや、確実にアレだろう。
このまま水銀燈を放っておくべきかどうかジュンは判断しかねた。
指示を仰ぐために真紅の方を振り向くが何処にもいない。
「逃げやがったな……」
となると、この中で一番の良識派の蒼星石と相談すべきだ。
彼女も例のごとく病室内にいなかった。賢い奴は行動が速い。
さて、どうするべきか。
どうすれば自然にこの場から去ることが出来る?
ジュンはひたすら考えた。こんなに考えたのは久しぶりかもしれない。
だが、その思案が命取りだった。
「ねぇ……じゅ~ん~……」
水銀燈の方から接近してきた。
「ここはお悔やみの一つでも言って逃げ―うおわぁ!」
ジュンが気付いたときには水銀燈はジュンの胸倉をつかんでいた。
ジュンより水銀燈の方が背が高い。
それでも水銀燈が立て膝を付いているのでジュンの太股の辺りに彼女の顔があった。
「私はぁどうしたらいいと思うぅ?じゅん……」
水銀燈の顔が見る見るうちに曇ってきた。大雨注意報だ。
下から半泣きの表情で迫られるのはかなり怖い。ゲームなんてものは所詮仮想現実なんだとジュンは思い知った。
「おい……」
ジュンは水銀燈と目線を合わせるべく少し屈んだ。
「助けられたかもしれないのに。初めてあんな気持ちになったのに……」
「落ち着け水銀燈。まずは深呼吸しろ」
「なんで?私がジャンクだから?誰のせい?私のせい?」
このままでは発狂してしまうんじゃないか?
ジュンの脳裏にいつぞやの時計屋の人が思い浮かんだ。大切な存在を失うショックは、かくも大きいものか。
「絆チョップ!!」
「あぐっ……」
「ああ! ジュンが傷心の乙女に手を上げたですぅ!」
真紅の真似をしてみたが、効果は抜群のようだ。首筋に一撃を受けた水銀燈はあっさりと気絶した。ちょっと力が強すぎたかもしれないが気にしない。
「さて、帰ろうか」
「ジュン、責任とってお前が水銀燈を運べですぅ」
「ヒナ、お腹すいたの~」
「……私は寄るところがあるかしら」
金糸雀はそう告げるとさっさと出て行った。
「さあ、キリキリ働けですぅ」
「どうやって運べばいいんだよ」
ジュンは気絶した水銀燈を見下ろして呟いた。


58:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/15 01:57:57 y42KjgYD

水銀燈を背負ったジュンはnのフィールド経由でようやく家にたどり着いた。途中水銀燈が気絶状態にも関わらず、寝言のように狂った笑い声を上げていたが一向は無視を決め込んだ。
「重い~疲れた~」
「力仕事は男の特権ですぅ」
「ジュン、あいとあいとー」
「あら、遅かったわね」
優雅に紅茶を飲んでいる逃亡犯(赤)と逃亡犯(蒼)を発見。
ジュン探検隊はついでに、のりも発見した
「おかえり。みんな」
「イッタイ、オマエタチハ、ナニヲ、シテイルノデスカ?」
「お茶を飲んでるのよ。見て分からないかしら?」
ジュンの怒りメーターが振り切れた。
「何様のつもりだ貴様―!! よくも逃げやがったなこの逃亡者Aめ!!」
「黙りなさい」
縦横無尽に動くツインテールが横殴りに飛んできた。しかし、ジュンはとっさの判断で下に屈む。
回避成功のようだ。
「真紅ツインテール破れたり!」
「甘いわね」
ツインテールは弧を描くように急に軌道を変えた。ジュンを上から叩きのめすべく襲い掛かる。
いい音がした。
「あべし!」
「まだまだね。それに私と蒼星石は逃げたのではないわよ。人聞きの悪い」
「戦略的撤退とか?」
「……もう一度叩かれたいのかしら?」
ジュンは、ものすごい勢いで土下座した。
「よろしい。ちょっと調査をしてたのだわ」
「要するに聞き込みだね」
「水銀燈は何処?」
ジュンは黙って部屋の隅を指差す。
いつの間に目が覚めたのか、水銀燈が壁に向かって体操座りをしてブツブツと呪詛のように何かを言っている。完全に鬱銀燈になってしまっていた。
「水銀燈」
「なぁにぃ真紅ぅ~。ウフフフフ。惨めなジャンクにぃ何か用?」

「貴女のミーディアムは死んでいない」

時間が止まった。
一番初めに動き出したのは水銀灯だった。
「なぁにそれぇ。気休めのつもりぃ?無駄よ無駄。めぐは確かにあの病室にいたもの」
「調査結果を。蒼星石」
「はい、これ」
蒼星石は大き目の茶封筒を差し出した。
水銀燈が興味なさげに中身を引っ張り出す。ジュン達も中身を覗いてみた。
「病院内での聞き込み結果と最近の入院患者のリストよ。入院した人、退院した人、亡くなった人、全部載ってるわ」
「思いっきり個人情報入ってないか?これ。どうやって調べたんだ?」
「秘密よ」
真紅が即答した。


59:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/15 02:00:22 y42KjgYD
「しいていうなら、世の中便利になったものだよね」
今度は蒼星石がやけに笑顔で答えた。爽やか過ぎる笑顔の裏には一体……?
「おっと、これ以上は聞かないでね」
笑顔の蒼星石の手には家庭用鋏が握られていた。
ジュンはこれ以上の追及を諦めた。
「嘘よ……」
水銀燈が資料を捲りながら呟く。心なしか声が震えている。
「めぐの名前が無いなんて……間違えるはずが無いわ。あの病院で、あの病室で私はめぐと一緒にいたのに……ありえない……」
入院患者のリストには『柿崎めぐ』という名前は無かった。
「私たちが人間になったことだってありえないわ。それとね」
「な…なによぉ」
「大切なものを失う気持ちは分かった?」
「!」
水銀燈には色々と前科があった。今、この場にいる誰もが知っている。
それを知っての上での真紅の一言は場に響いた。
「今後どうすればいいか考えなさい。これはお父様が貴女に与えた課題なのかもしれないわね」
「…………」
水銀燈は資料を片手に黙りこくってしまった。
真紅は踵を返して立ち去ろうとした。
「何処にいくですぅ?」
「非常にまずいわ…緊急事態よ」
「どうしたんだ。いきなり」
「今日、私達は何処で寝ればいいの?」
「あーーーー……」
確かに緊急事態だった。

時間は少し遡る。
病院を飛び出してきた金糸雀は、道路の端をせっせと走っていた。
ゴールはみっちゃん宅。もう少しで到着するだろう。
「まさか、みっちゃんが居なくなるなんてことは無いと思うけど」
金糸雀は心配した。
「確認ぐらいは取っておいたほうが良いかしら」
かの、人形好きなみっちゃんも居なくなってしまうのではないかと。
金糸雀はひた走る。走れ金糸雀。
「nのフィールド使えばすぐだったかしら~」
アパートの階段を大急ぎで駆け上る。息を切らせてようやくゴールにたどり着いた。
「と……到着かしら……」
肩で息をしつつ、ドアノブに手をかけ、回す。
開かない。
もう一度回して手前に引いてみる。やっぱり開かない。
「きっと出かけてるのかしら! すぐ帰ってくるかし…ら?」
ドアの下に挟まっている手紙が目に入った。
引き抜いて読んでみる。
「みっちゃんの字。え~と、なになに」


60:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/15 02:01:18 y42KjgYD
「おじゃまするかしら~」
桜田家では大掃除の真っ最中だった。そこらじゅうで忙しく人が出入りしている。
「何事かしら!?」
「あ、神奈川が帰ってきたの~」
三角巾にマスクにエプロン、チリトリ装備の雛苺が現れた。
「カナリアかしら!! 何故、こんな時期に大掃除なんて」
「寝る場所を確保するためよ。こんな体では鞄で眠れないわ」
お掃除セットで重装備の真紅がのしのしとやって来た。頭の三角巾にはクモの巣のおまけ付き。
想像できない姿に金糸雀は思わず噴き出した。
「笑っていられるのも今の内だわ。貴女も手伝いなさい」
「状況がつかめないのだけど」
「後で説明するわ。とにかくこれ」
真紅は持っていた雑巾入りバケツを手渡した。
中の水はそうとう汚い。
「拒否権はないのかしら?」
「あるはずが無いでしょう。それの水を入れ替えて二階に来なさい」
掃除は夕方まで及んだ。

「あー終わった終わった」
居間でジュンは大きく伸びていた。腕を上に伸ばし手を組み、上半身を左右に振りつつ動き回る。
「なんか見たことある動きだね」
「……正直、目障りですぅ」
「ヒナもやるの~」
「カナも負けないかしら」
ジュンの後に雛苺、金糸雀と続いて同じ動きでついてまわる。動きが全く同じリズムの奇怪な行列が出来上がった。
「バッチコーイかしら~」
「セイセイなの~」
なんか間違っていた。
しかし、突っ込むものは誰もいない。ある者はテーブルに突っ伏し、ある者は紅茶を入れ、またある者は見向きもしなかった。
「ここで重要な話があるのだわ」
何事も無かったかのように真紅が切り出した。
「人間になって大きくなった私達はもう鞄で寝られないし、ちゃんと人間らしい生活を始めなければならないのだわ。」
皆が動きを止め、真紅のスピーチを聞き入った。
「お父様の意思なのだからしょうがないけれど、衣住食の確保は難しいもの。」
「住むところなら、今まで通りここに住めばいいじゃない」
のりが提案した。何気なく話の腰を折ったのは賞賛すべきかもしれない。
「ありがとう、のり。でも、全て今まで通りにするわけにもいかないの」


61:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/15 02:03:02 y42KjgYD
「それがお父様の意思、だからか?」
「話の腰を折らないで、黙って聞いてなさい」
真紅が眉を吊り上げて糾弾した。
このやるせなさは何でしょう、とジュンは床に両手を付いて落ち込んだ。
「“住”は今まで通りにするとしても……“衣”、“食”については極力自分達でしていかなければならないのだわ。問題なのは、お金ね」
先立つものはやはり金だった。場に重い雰囲気が流れる。
真紅は苦虫をつぶしたような顔をしたまま、何も言わない。
「……皆の意見を聞きたいのだわ」
ようやく言った言葉はそれだった。
つまり、真紅でも具体的にどうすればいいのか分からないらしい。
「アルバイトなんてどうだろう?」
「私達は戸籍が無いのよ?年齢不詳、出身地不明、過去経歴無し」
「そんな怪しい奴をぉ雇う合法的な所なんて、今の御時世あるのかしらねぇ」
真紅と水銀燈の連携ツッコミが炸裂した。さすが姉妹。
「障害は多いわね」
真紅がため息をつく。
「できるだけ早急に策を練らなければね。このままだと人間になった意味が無いわ」
会議はこれにて終了のようだ。真紅はかぶりを振って部屋から出て行った。
「食費に関しては人形だった時からバクバク食ってるから問題無い……」
髪の毛鞭が飛んできた。如雨露も飛んできた。とどめに鋏が飛んできた。
全段命中。ジュンは動かなくなった。
「ねぇ、黒の服着てる人と黄色の服を着ている人」
何事も無かったかのようにのりが尋ねる。
「貴女達の名前は?」
水銀燈はチラとのりを一瞥し、さも面倒臭そうに、
「水銀燈……」
端的に呟いた。
一方で金糸雀は
「ローゼンメイデン一の策士、金糸雀かしら!」
元気に自己紹介。
「へぇ~水銀燈ちゃんに金糸雀ちゃんね。貴女達も此処に住まない?」
さっきまでピクリとも動かなかったジュンの指が突如動いた。
ガバッ! とジュン復活。
「まるでゾンビですぅ」
「ゴルァ洗濯のり!! どういう事だ!」
「え……だって、一緒に暮らした方が賑やかかな~って」
「是非ともお願いするのかしら!」
金糸雀が土下座した。
「お前はミーディアムが居たんじゃないのか」
「みっちゃんは……」
「うぐっ」
ジュンは水銀灯のミーディアムがどうなったかを思い出した。
もしかして、コイツも……
「とにかく、ここに住まわせて欲しいのかしら!!」
「賑やかになるわねぇ。よろしくね、二人とも」
「私はまだ何も言ってないわよぉ」
「さて、夕御飯の準備をしなくちゃ。何人分?ひぃふぅみぃ……
のりは指を折りながら台所に消えていった。
「あの……ちょっと?もしもーし」
水銀燈の声は、のりに届くことは無かった。


62:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/15 02:04:22 y42KjgYD
その日の夕食は、賑やかなものとなった。
一つのテーブルに総勢八人で食べる夕食である。それぞれが話す会話、食器の触れある音、桜田家の食卓には色々な音が溢れていた。
奏でるその旋律は楽しそうだが、どこか物悲しかった。

結局、真紅達は人間になっても、「寝るのは九時」ルールを守ることにしたようだ。が、
「この部屋にあったものは何処にいった!!」
彼女らが寝るのは鏡があった部屋。物置だったはずだが、いつの間にかきれいさっぱり整理されていた。物が無い部屋のなんと広いことか。
「必要な物は別の部屋よ。物置にもあるわ」
「物置?家にあったかそんなの」
「nのフィールドに置く案もあったけど、却下したのだわ。結局、貴方の通販グッズを使ったわよ」
「“中でこっくりさんをしたら幸せになれる簡易物置”ってやつだよ」
「そんなの買ったっけな……」
「組み立て式のチャチでインチキな物置ですぅ。翠星石と蒼星石が作ったんですよぅ」
ジュンは凄まじい速度で庭に出た。
小さい物置が、あたかも十年前からそこに在りました、と自己主張するかのように、悠然と立っていた。
「僕の知らないところで自分の家が変わっていく~~」
夜は更ける。

そろそろ、お化けが出始める丑満つ時。
時間にして午前二時。辺りはすっかり静まり返っていた。
「…………」
水銀燈は屋根の淵に腰掛け、じっと夜空を眺めていた。
「一体、どうすれば良いのかしらね……」
めぐは、いなくなった。今までと同じ、ただ水銀燈の力となるだけのミーディアムだと切り捨てられない、大切な存在がいなくなった。
失くしてから、大切さが身に染みた。
「なにやら鬱オーラ出しまくりかしら」
「何しに来たのよぉ」
いつの間にか金糸雀が後ろに立っていた。しかし、水銀燈は驚くようなそぶりを全く見せず、振り返りもしない。
「これで今日から晴れて鬱銀燈かしら~。やーい鬱銀とーう」
水銀燈のこめかみに青筋が走った。
「……それは宣戦布告と見なしていいのぉ……」
「あらあら怖い怖い。でも鬱銀燈には、戦う気力なんてこれっぽっちも残ってはいないのかしら」
「うぐ……」
「カナなら、待つかしら」


63:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/15 02:05:20 y42KjgYD
「大好きなマスターがもし居なくなったら、カナならずっと待つわ。みっちゃんはきっと帰ってくる。そう信じて、いつまでもいつまでも待つかしら」
「ふぅん……なんかどこかの犬みたいねぇ」
「うるさいかしら!」
ビシっと、金糸雀は水銀燈に指を突きつける。
「とにかく、いつまでもウダウダしてないで、カナみたいにどうするかはっきり決めるかしら! 鬱オーラ出されてると、こっちまで気が滅入るかしら!」
水銀燈は俯いてプルプル震えている。拳を握り締め、背中からは黒い羽が湧き出すように生えてきた。
ゆっくりと金糸雀の方に振り返る。
「言いたいことはそれだけぇ……ふざけたこと言ってんじゃないわよ!!」
怒号と共に羽が大きく広がった。瞬く間に黒い壁が出来上がる。
「ひぃぃぃ撤退かしら~」
金糸雀は回れ右して、物凄いスピードで逃げ出した。掛けてあった梯子をスルスルと降りていく。水銀燈は逃げる金糸雀を胡乱な目つきで見ていた。
「何よ何よ何よ。絶対私の事、馬鹿にしてるわぁ。どうせ真紅の差し金だろうし……うー腹立つぅ」
「お腹が無いのに何をぬかしてるのかしら~」
まだ庭の方に居たようだ。ボディブローのような指摘に、思わず水銀燈は仰け反った。
「黙りなさい! これが見えないのコレが!」
服をたくし上げ、腹部を下に向かって見せた。服の構造上、服をたくし上げると下着まで見えてしまうのだが、頭に血が上った水銀燈は気が付かない。
しかし金糸雀は、すでに庭に居なかった。夜風が水銀燈の体に吹き付ける。
「なんか私、丸っきりお馬鹿さんじゃないのよぉ……なんか、落ちるトコまで落ちましたって感じぃ……」
また、夜風が吹く。
「うう、寒い寒い」
ひょいと水銀燈は屋根から下の屋根に跳んだ。
手近な窓から侵入を試みる。鍵は掛かっていなかった。
音も無く窓を開け、窓縁に足を掛ける。泥棒のような動き方だ。
「あらぁ」
ジュンの部屋だった。窓際のベットの中では、部屋の主が気持ち良さそうに、寝息を立てている。
「人が悩んで、寒い思いをしている時に、こんな姿見せられるのは何かむかつくわぁ」
水銀燈はジロジロとジュンの寝顔を眺める。ぶるっと水銀燈が身震いした。
「……暖かそうねぇ」
するりと水銀燈はジュンの布団の中に潜入した。布団の中から手だけ出して窓を閉める。
「あー……急に眠気が……」
布団に入って数秒で、水銀燈は眠りの世界へ足を踏み入れた。

翌朝、
「ちーびにーんげーん、あーさですぅー」
翠星石がフライパンと、おたまを持ってやってきた。
「とっとと起きないと騒音攻撃……」
フライパンとおたまが床に落ち、派手な音を立てた。

「違う! 僕は無実だ!」
「しらばっくれんじゃねぇですぅジュン!!」
「他になにか言い残すことはあるかい?」
「無実だ~~~~」
ジュンは椅子に縛りつけられ、尋問を受けていた。
現在、朝食を取らずに行われている。
「何で水銀燈と絡み合って寝てるですか!」
「ジュン君も大人になったのねぇ……」
「あーんなことや、こーんなことしたんじゃ……」
「Hなの~」
「違う~~~~僕は何も知ら~~ん!」
「水銀燈」
「なぁにぃ?真紅ぅ」
「……貴女からも何か弁明が欲しいのだわ」
「うふふ。何度も言わせないで。私は欲しいものは全て自分から手に入れる……待つことなんてしないわぁ」
「そう……元気になったようで何よりだけど……色々な意味で取れるわね。その言葉」
「さあねぇ」
水銀燈は笑いながら朝食のパンを齧った。


64:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/15 02:06:24 y42KjgYD


「あの後、大変だったな~」
頬杖を付きながら、ジュンはしみじみと呟いた。
「へ~ぇ、何が大変だったのぉ?」
「!?」
恐る恐るジュンが視線を上げるとそこには仁王立ちの英語教師が立っていた。
流れるような銀色の髪。白い肌。
腕組みをした水銀燈が頬をひくつかせながら立っていた。
「私の授業そっちのけで、な~に自分の世界に入ってるのよ」
ぐわしと片腕で顔面を掴まれた。必殺アイアンクローだ。
クラスメイト全員が桜田ジュンの冥福を祈り、合掌した。
「イっちゃいなさぁい」
「ぐあぁぁぁぁぁ」
悲鳴が響いた。

      終わり


65:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/15 02:33:43 mlULWM03
なかなかに楽しませていただきました
ただ、>>61のりは金糸雀のことは知ってるのでは
クッキーの時に会ってるし
あと >黒の服着てる人と黄色の服を着ている人
これはちょっと違和感感じましたね

66:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/15 03:07:04 0tqvCKzy
珍しくくんくんではなく洋物ドラマを見ている真紅。
「あれ、真紅。何見てるんだ?」
「TWENTY FOURシーズン1よ。CTUの裏切り者が誰なのか気になるわ」
「だろ。このドラマ先が気になってついネタバレ見たくなるんだよなあ」
「同感ね。今もジャックがこの先どうなるのか心配だわ」
「ああ、その先ジャックは敵のボス殺すよ。ちなみに裏切り者はジェイミーで裏で操ってるのはニーナ。ちなみに大統領は死なない。最後はジャックの奥さんがニーナに殺されて終わる、ってところかな」
「な、なんてこと言うの!この先の展開知ったら面白くなくなってしまうのだわ!」
激怒する真紅にジュンは冷静に答えた。
「だって展開気になるんだろ?ま、ネバタレ聞いちゃったくらいでつまらなくなるようなドラマじゃないから安心しろよ」
「こ、こいつは・・・」




67:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/15 19:01:03 Y+d/MZ9n
>>64
JUN大変だなw
めぐとみっちゃんがどこに行ってしまったのか気になります。

68:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/15 19:05:08 XCpeMs0v
祖母が守れなかった約束を果たすため、雛苺を迎えに行ったひとりの少女
ジュン達に拒まれたオディールは、否応なしにアリスゲームに巻き込まれていく

それを聞いたオディールの頼もしき友人達が彼女のため立ち上がった
日本語しか話せない仏移民系英国人 アナ=オディール=フォッセー=コッポラと
4人の苺達の奇想天外な雛苺奪還作戦が始まる

69:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/15 20:02:48 7aLFSt4S
題名は「雛苺ましまろ」とでも?

70:薔薇乙女戦争
06/05/15 21:05:16 ZrtYzSKm
>>35

 真紅は十字架にはりつけにされたような格好で宙に持ち上げられていた。
 両手両足が羽の鎖で拘束されたその姿は、いつかの光景を思い起こさせる。あの時も、二人は死闘を繰り広げていた。

「ローザミスティカちょうだぁい」

 水銀燈の目が真紅の握られた右手を見る。その手には、薔薇水晶から奪ったローザミスティカが未だに残されていた。
 途端に、真紅の両腕に圧迫感が走る。腕が強く引っ張られているのだ。
「いっ……ああ……!!」
 球体間接がギチギチと嫌な音を立てて軋む。あの時と全く同じ痛みが、真紅の頭にその後に起こった出来事を再現させる。
 そして間もなく、頭の中の再現が実際に起こる。
 ブチブチと衣服が破れる音がしたすぐ後、絶叫が響き渡る。

「―ああっあぁあああああっっ!!」

 肩から外れた腕が、ゴトリと硬い音を立てて地面に落ちる。外れたのは左腕だった。
「ごめんなさぁい、間違えちゃったぁ。でも、私も両方無いし、もう一本いいわよねぇ?」
 水銀燈は意味の無い断りを入れて悦に入る。それに対して、真紅は激痛と恐怖で泣き叫ぶ。
「う、腕がっ……!! ジュン! ジュンっ!!」
 必死になって助けを呼ぶ真紅。あの時は、片腕になってすぐ、ジュンが助けに来てくれた。
 だが、今はそれもありえない。もう彼はこの世に存在しないのだ。
 それでも、精神的にも肉体的にも追い詰められた真紅は、マスターの名を叫び続ける。
 それが無駄な行為だと判っている水銀燈だが、以前の苦い思い出に顔を顰める。初めて味わった敗北は、忘れられなかった。
 水銀燈は喚く真紅を地に降ろし、目の前まで歩み出る。

「ねえねえ、顔だけじゃなく頭までおかしくなっちゃたのぉ? あの人間は死んだのよ」
 報復と言わんばかりにありったけの嫌味を詰め込んで、真紅に厳しい現実を教えてあげる。
「い~い? 死・ん・だ・の」
 仕舞いには、一字置きに間を取って、もう一度言い聞かせる。
 酷い言葉を受けた真紅は、急に黙って静かになった。

「ジュンは、死んだ……?」
「そうよぉ。もう忘れちゃったの? あの坊やが本当にかわいそぉ」


71:薔薇乙女戦争
06/05/15 21:06:42 ZrtYzSKm
 真紅の脳裏に倒れているジュンの映像が鮮明に映し出される。彼の下に広がる血痕まではっきりと思い出せた。
 最初にその光景と出くわした時、彼女は怒りで我を失った。
 しかし、今は違った。身の危険に晒されている彼女は、怒りに染まることはなかった。
 ジュンの死を正面から受け入れられた真紅は、情けなくて叫びたい衝動に駆られる。
 マスターを守れなかった。その上、もう二度と見せないと誓った弱い自分を曝け出してしまった。
 悔恨の念が尽きない真紅だったが、今は悔やんでいる場合ではない。
 守ると言ってくれた彼のためにも、こんな形では負けられない。
 真紅の右腕に力が篭る。

「水銀燈、お遊びはここまでよ」
「え……!?」

 鎖となっていた羽が、ひらひらと舞い散る。真紅が自力で手足の拘束から逃れたのだ。
 様子が一変した真紅に驚き、水銀燈は風に舞う羽を見たまま棒立ちしてしまう。
 目の前の真紅はすでに手足を自由に動かせる。水銀燈は判断を誤った。
 真紅はそれを見逃さなかった。残った右腕を一気に振り抜く。
 ミスに気付いた水銀燈は、慌てて後方に跳んで離れようとする。
 だが、出遅れは決定的だった。
 ローザミスティカを握り締めた拳が顔面の中央を強打する。
 大きく吹き飛んだ水銀燈は、雪の上を何度も転がり滑って止まった。
「ぐく……っ!」
 水銀燈は追撃を嫌ってすぐに立ち上がろうとする。肘までしかない右腕だけで懸命に体を起こす。
 その間に、真紅は手の中のローザミスティカを己の力へと変える。もう、彼女に迷いは無かった。
 四つの宝石が真紅の胸に吸い込まれ、体内で爆発的なエネルギーが生み出される。有り余る力が、真紅の全身から赤い炎の光を放つ。

 その様を、水銀燈は尻餅をついたまま眺めていた。
 圧倒的すぎる。力の差は歴然だ。勝てる訳が無い。
 一気に、彼女の思考は後ろ向きへと加速する。
 真紅から溢れ出る力を肌で感じ取った水銀燈は、どうやっても勝てそうに無いのを思い知る。賢い彼女は、それが正しい答えだと解ってしまう。

 水銀燈にとっては大誤算だった。ローザミスティカの数が、ここまで決定的な差になるとは思っていなかった。そう思っていたからこそ、彼女は最後まで隠れていたのだ。
 真紅が精神的に復活する前なら、まだ勝ち目はあっただろう。最初に外れたのが真紅の右腕だったら、立場は逆転していただろう。
 運命は、真紅に味方していた。



72:薔薇乙女戦争
06/05/15 21:08:19 ZrtYzSKm
 六つのローザミスティカを手中に収め、現時点で最もアリスに近い存在となった真紅。
 その桁違いの力を前に、水銀燈は腰が抜けたように動けないでいた。動くにしても、逃げる以外の作戦が思い浮かばない。しかし、真紅が見逃してくれるとは思えない。遊びで済ませるには遅すぎた。
 打開策を模索する間にも真紅は待ってはくれない。今もへたりこむ水銀燈は、間近に迫ってきた真紅を見上げる羽目になっていた。
 凛とした青い瞳が、揺れる赤い瞳を射抜く。その青い瞳に、もう迷いは見えない。水銀燈は死を覚悟した。
 しかし、真紅が出た行動は最初と変わらなかった。

「これが最後よ、水銀燈。もうアリスゲームはしないと約束して。貴女もこのまま消えたくはないでしょ」

 どこまでもお人好しな―いや、頑固な真紅だった。
 アリスまであと一歩の所まで来て、未だにアリスゲームを拒むというのだ。これには水銀燈も開いた口が塞がらなかった。そして、その甘さを胸の内で嘲笑った。
 真紅の「これが最後」という言葉は嘘ではないだろう。提案を拒めば、この場で水銀燈を始末するつもりだ。生き延びたかったら、嘘でも彼女に従うのが常道だ。
 これに、水銀燈は不敵な笑みを浮かべて答えた。

「いいわよぉ。だから、起こしてくれなぁい? 両手が使えなくて大変なのぉ」

 いやにあっさりと承諾したことを不審に思わない真紅ではない。それでも、相手を信じないことには約束は成立しない。真紅は水銀燈の隣で膝を折って肩を貸そうとした。
 その時、耳元で水銀燈が囁いた。

「本当におバカさぁん」


73:薔薇乙女戦争
06/05/15 21:09:39 ZrtYzSKm
 黒い翼が別の生き物のように伸び、瞬く間に二人をすっぽり包み込む。真紅はまんまと騙されたのだ。
 そして、あろう事か、水銀燈は自身も包む翼に火を放つ。羽が青い炎で勢いよく燃え上がる。
 翼の中で抱き合った状態のまま、水銀燈は囁き続ける。

「一緒に灰になってくれるわよね? だって、姉妹ですもの」

 それは、道連れを宣言するものだった。勝つのは無理だと悟った水銀燈は、勝者の生まれない戦いを選んだ。真紅にだけは死んでも勝ちを譲れない。彼女の意地でもあった。
 青い炎は勢いを増し、ドレスへと火の手を伸ばす。だが、真紅の顔に焦りは見えなかった。なぜなら、彼女の大きな力の前に、火の手が届かなかったのだ。着実に炎に追い詰められていたのは、水銀燈だけだった。
 真紅は悲哀の表情さえ浮かべて、残った右腕で水銀燈を抱き寄せた。

「ごめんなさい、一緒には逝けないの。だから、さようなら……」

 服が焼け、水銀燈は裸同然の姿で抱き締められていた。
 この散々な結末になっては、彼女も認めるしかない。真紅に敗北したのだ。それも、とても惨めな形で。
 燃え盛る炎は、彼女の表皮を墨色へと変えていく。もう、焼け死ぬのも時間の問題だった。水銀燈は最後の憎まれ口を叩く。

「あなたは最低の妹だったわ。このままアリスになれるなんて思わないことね」
「貴女は最低の姉だったわ。でも、嫌いではなかったのだわ」
「ふふ、私は嫌いよ」

 ふっと笑った水銀燈の全身から力が抜ける。その笑みは、何を意味しているのか。思いのほか安らかな寝顔の彼女は、真紅の腕の中で粉々の灰になった。





74:薔薇乙女戦争
06/05/15 21:11:57 ZrtYzSKm
 真紅はアリスゲームを勝ち残った。
 全てのローザミスティカを集め、アリスに生まれ変わる権利を獲得した。
 しかし、彼女はすぐにアリスになろうとは思わなかった。アリスになる前に、逢いたい人がいたからだ。その人とは、真紅のままの姿で逢いたかった。

 硬い雪を踏みしめて歩く真紅の目に、大切な人の姿が入る。
 それは、遠くで倒れているジュンの亡骸だった。
 やはり、彼は倒れたまま動かない。
 馬鹿げているかもしれないが、彼女はほんのわずかでも期待を抱いていた。
 もしかしたら夢だったのかもしれない、と思っても無理は無い。現実があまりに酷い悪夢のようなのだから……。

 真紅はどうしようもならない現実を目の当たりにし、ここで初めて涙を流す。
 際限無く溢れる涙と共に、どこか冷めていた感情が熱を帯び始めた。
 真紅はジュンの元へと駆け出した。


 間近でジュンを見た真紅は、一目で彼の死を理解した。
 背中にある深い刺し傷。おびただしい量の出血。白い顔。全ての事実が死亡を物語っている。

「貴女は幸せそうね……」

 抱き合うように倒れていた金糸雀を見つけ、こんな状況でも真紅は羨ましく思えた。
 できるなら、ジュンと一緒に最期を迎えたかった。こんなことを彼に言ったら怒られるだろうか……。
 ふと、そんなことを考えてしまった彼女は、それが叶わない願いだと気付いて余計に悲しくなった。

 真紅は右腕一本で苦労しながら、覆い被さるジュンを仰向けにし、二人を並べて寝かす。金糸雀の衣服には血がべったりと付き、紅に染まっていた。
 それを見て、真紅は再び金糸雀と自分を取り替えてしまいたくなった。真っ赤な服が自分と重なる。

「馬鹿ね、私……。こんなのが幸せなわけないわよね」

 真紅は自嘲し、金糸雀の寝顔を見る。
 そう言いながらも、その安らかな寝顔が幸せそうにしか見えなかった。



75:薔薇乙女戦争
06/05/15 21:13:06 ZrtYzSKm
 ジュンのきれいな死に顔を見つめたまま、真紅はかかしのように突っ立っていた。彼の死は理解している。それでも、別れが惜しくて離れられなかった。
 そのまま、映画を二本は見終えることができる程の時間が経過した頃、彼女を見かねてこのフィールドに新たな客が入り込む。

「まずはおめでとうと言っておきましょう。あなたがアリスゲームの勝者です。第五のドール」

 ジュンの遺体を挟んで、真紅の前に突然現れたのは、ラプラスの魔だった。ウサギ顔のつぶらな瞳がぱちくりと瞬きする。
 祝いの言葉を貰った真紅だが、彼女の顔は怒りで歪んでいた。
 彼女が怒るのも当然だ。アリスゲームの開始を決定付けたのは、このウサギの発言だったのだ。真紅をミーディアム殺しの犯人だと言い出したのはラプラスの魔なのだ。
 真紅はラプラスの魔を探していたのだが、アリスゲームでそれどころではなかった。それが、今になってひょっこりと現れたのだ。真紅のはらわたは煮えくり返っていた。

「どうして嘘を吐いたの! 貴方が犯人なのでしょッ!!」

 珍しく真紅が感情に任せて怒鳴り散らす。
 彼女は無実だった。ラプラスの魔は薔薇乙女達に嘘を吹き込んだのだ。
 ウサギがどう返答するのか見ものだ。真紅は睨んで凄みを利かせる。だが、ラプラスの魔の態度に変化はない。普段どおり、人を馬鹿にしていると思えるほど落ち着いている。

「虚偽は私の美徳に反します。ですから、あれは私も本意ではなかったのです」

 ラプラスの魔は偽証を認め、犯行を否定しなかった。これは、真紅の言葉の全面肯定に等しい。
「貴方がやったのね」
 真紅が追求すると、ラプラスの魔は悪びれもせずに訳を話した。

「あの方のご意向には背けません。あしからず」
「あの方?」
「はい、あの方です。あなたのお父様ですよ」


76:薔薇乙女戦争
06/05/15 21:14:39 ZrtYzSKm
 真実を知った真紅は、足場が崩れ落ちるような感覚に襲われた。
 あのお方の意向。あのお方はお父様。お父様がラプラスの魔に指示を出した。
 これらの情報が導き出す答えは一つしかない。それは、薔薇乙女の真紅が信じられるようなものではなかった。

「嘘はよしなさいと言ったはずよ。お父様がそんなこと……」
「嘘は好まないと私も申したはずですが」

 ラプラスの魔が嘘を吐いているようには見えない。
 真紅は混乱して取り乱してもおかしくない状態だった。何が真実で何が嘘なのか分からない。
 アリスゲームが終わり、ジュンを亡くした今、彼女が身を寄せたいと思える相手はお父様だけだ。そのお父様が、真紅をここまで追い込んだ本人だとしたら?
 全てを知った真紅は本当の孤独に襲われかけていた。
 寒くて震えそうな心が、温もりを求める。自然と真紅の瞳は、静かに眠るジュンの顔へと向けられる。

 逢えないお父様のことはわからない。
 でも、私には絶対に信じられる人がいる。全てをなげうって守ってくれた人がいる。

 真紅はわずかな希望に賭けてみる決心をした。


77:薔薇乙女戦争
06/05/15 21:16:15 ZrtYzSKm

「さあ、あの方はアリスの誕生をお望みです。今こそ、ローザミスティカを一つに!」

 ラプラスの魔が両腕を大きく広げて高らかにアリスの誕生を促す。
 真紅はその声を合図に、右手を胸元に押し当てて瞼を閉じた。掌の中には、水銀燈が残した最後のローザミスティカが。その輝きは、胸の中へと消えていった。
 全身が神々しい光を放ち、アリスの誕生を予感させる。ついに、全てのローザミスティカが揃ったのだ。
 身体が焼けるように熱い。大きな変化が始まろうとしていた。真紅がおもむろに瞼を上げる。

「ラプラスの魔、お願いがあるの」
「なんでしょう」
「もし、貴方がお父様と会うことがあったらこう伝えて。わがままな娘でごめんなさい、と」
「なぜ、そのようなお願いをするのでしょうか……?」
 ラプラスの魔は依頼の意味が解らなくて首を傾げる。アリスとなった彼女なら、ローゼンと対面できないはずがない。彼女は父親と会いたくないのか。
「私はお父様と会えないからよ」
「おっしゃっていることが分かりません。あなたはアリスになられるのですよ」
「私はアリスにはなれない。こうするから―」
 真紅の胸に置いてあった手が、ドレスを突き破ってズブズブと沈んでいく。まるで、手と胸が同化していくようだった。
 ラプラスの魔は、その一部始終を興味津々と眺めていた。彼には何を考えているのか分からないところがある。

「なにをするつもりですか?」
「私の命をジュンに与えるの」
「お父様が悲しまれますよ」
「今は……このローザミスティカをジュンのために使いたいの」
「はたして、うまくいくでしょうか」
「わからないわ。でも、私はジュンに生きて欲しいの」

 淡々と問答を済ませたラプラスの魔は、真紅の意志の固さを知ってやれやれと首を振る。止める気はないようだ。
 真紅が胸に刺した腕を引き抜く。その手には、一つの宝石となったローザミスティカが。その輝きは、どんな至宝でも到底及ばないと思わせるものだった。それほどまでに、薔薇乙女達の命は美しかった。
 ローザミスティカが手を離れ、ジュンの心臓へと吸い込まれる。
 それを見届けた真紅は、よろよろと覚束ない足取りで彼の元へと向かう。
 そして、力尽きた彼女はジュンの胸へと倒れこんだ。

「お願い、ジュン。私の居場所になって―」

 真紅はささやかな願いを口にして永い眠りに就いた。彼の胸の中で生き続けることを夢見て……。





78:薔薇乙女戦争
06/05/15 21:17:15 ZrtYzSKm
 街路樹の木漏れ日がそよ風に揺れる。人がまばらな通りを、その少女は歩いていた。
 白のサマードレスに白の帽子。そして、白の靴。純白で統一された少女の姿は、人の目には眩しかった。単に太陽の光で眩しいだけなのだが、少女を見た人は誰もがそうとは思わなかった。
 彼女を見た人は、男女を問わず全員が一目で釘付けになる。別に、少女の容姿が特別に美しい訳ではない。確かにきれいだが、彼女より美しい女性なら、それほど珍しくもないだろう。
 それでも、誰もが彼女を美しいと思えてならなかった。常識では測れない特別な何かが、その少女にはあった。

 少女が艶のある黒髪を風になびかせて歩く。すれ違う歩行者は足を止め、時を忘れたようにその後姿を眺める。決して、話しかけようとする者はなかった。完璧なまでに美しいと思えたものを、汚してしまいそうだから。
 そんな中、白の少女を見つけて追いかける者が一人いた。セーラー服の少女が手を振って駆け寄る。

「桜田君っ」

 白の少女が振り向いた。




おわり

79:薔薇乙女戦争
06/05/15 21:18:18 ZrtYzSKm
終わったぁ~。長かったぁ~。
気が重くなるようなお話に付き合っていただいてありがとうございます。
ちょっとダークな感じにするのは、初めから決めていたんですよ。
だから、ミーディアムがことごとく碌な目に遭わないこの終わり方もありかなと。
この先のジュンが心配です(無責任なw)
ともかく、最後まで書けて一安心です。
ありがとうございました。

80:ケットシー
06/05/15 21:19:46 ZrtYzSKm
肝心な最後に名前変えるの忘れてた。
ダメだなぁ俺orz

81:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/15 21:23:18 KiXJ7OsO
GJ!

真紅ぅー!(つд;)
自分を殺してジュンを生かすとは……

82:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/15 21:42:09 ySX7iYNy
>>80
大作完成お疲れ様です
しかし、
・・・えとJUMの戸籍とかどうしたんだと世俗的なことを考えて俺は下賎な人間ですw

83:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/15 22:04:31 HDJTfrew
ここって、ジュンがもし○○(状態)でもおk?

84:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/15 22:30:18 HDJTfrew
質問、真紅の性格が違ってもOK?

85:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/15 22:41:10 7aLFSt4S
大作GJでした。
…きっと白い少女は、全てのドール達の心を胸に秘めているんだろうなぁ…
真紅の絆や翠星石の献身、金糸雀の思いや薔薇水晶の盲目な愛、水銀燈のやるせない哀しみ…
それがひとつに共鳴し合って、思い出のリフレインを少女の心に奏でるような。
そんな気がした。

86:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/16 02:56:26 Bc/2Cfwj
GJ!

いや、いやGJなんだけど・・・
なんだけど・・・・翠ぃ~(っД`)・゜。

87:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/16 08:07:40 NbjCtD6t
乙でした。
ただ、このあとローゼンはどこに行くのかちょっと気になりますが…
まあ、それは話にあまり関わりの無いこと
これもアリスゲームのひとつの形ということ、でしょうね

88:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/16 12:29:15 4KE+zMnG
>>83.84
空気嫁

89:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/16 16:06:28 NpmgsNjv
つまんね

90:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/16 17:41:05 BCzUosY+
前スレもめでたく順調に使い切り、DAT落ちも近い。
ログはローゼンの過去ログ倉庫で読めるみたいだが
長い作品はスレではさっと読み、保管庫収録後にじっくり読むので
前スレ作品の保管庫収録が待ち遠しい。
非エロ系の所は色々大変で止まってるみたいだけど
更新停止が長引くようなら、俺が頑張ってみるか

91:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/16 18:01:12 yuxXDX8M
個別板のほうのもきっちり使えよ
こっちじゃ下手でも叩かれないから別に良いけどさ

92:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/16 20:11:43 U9mGQu6s
>>80
真紅……みんな……

93:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/16 20:55:58 kaPZ5JWF
銀様が不幸過ぎる



うわーーーーーーーーーーーー

94:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/16 21:34:27 ps+j3mAt
せつねぇ…せつねぇよコレ…

95:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/16 22:59:01 ofGsKLou
ローゼンシネ

96:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/17 00:06:30 Mhi+lmmm
銀様が~~~

97:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/17 18:39:55 ptVf/s65

俺もSSが書きたくなったが、3点リーダの使い方で少々迷ってしまう。
3点を2連で使うのが正しいとも聞くし、どうでもいいとも聞く。
ケットシー氏や>>81>>92のように、3点半角をスペース入れて2連ってのが
一番すっきりして見えるんだろうか・・・ ・・・


98:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/17 18:46:05 i6Ma/yWs
>>97
スペース入れてるんじゃない。
さんてん で変換してみろ。

99:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/17 18:57:41 afl+n5Gh
…の多様は下手糞の証拠

100:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/17 20:35:54 WwhmW7If
ローゼンは原作自体が非常に三点リーダの多い漫画なので、(殆ど全てに近いページで使われている)
二次創作の方向性としては正しいんジャマイカ?

101:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/17 21:54:09 SxIHm2PK
>>99
貴方はとてつもなく軽率な発言をした

私も書きたくなってきた・・・
前のスレで質の悪いSS投下しちゃったからね

名誉挽回だ!まってろよ

102:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/17 22:00:40 afl+n5Gh
>>100
…ならどの漫画でも結構頻繁に使ってるよ

103:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/17 22:33:30 JiEuKaa2
>>99じゃないけど
マツテル

104:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/18 15:56:17 PzOJ/Err
>>97
三点リーダは「……」が一般的だと言われているだけ。正しいとかではないよ。
商業出版を目指すとかならともかく、楽しんで書くSSなら自由な使い方でいいでしょ。
漫画やゲームだと「…」一個だったり、「…………」何個も繋げたりするのも当たり前になってるから。
ただ、間を表現するのに三点リーダに頼りすぎると、文が雑に見えるのは確か。
漫画やゲームは絵や音楽で表現を補えるけど、小説では無理だから。

個人的に気になってしまうのは「…」と「・・・」が混在している文。
なんか気持ち悪い。

105:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/18 17:32:19 WTbi3bro
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

106:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/18 17:37:26 zMTqYKmN
やあ薔薇水晶

107:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/18 22:37:58 CQWi1t3f
たかがSSごときで…論争してんじゃないのだわ!

108:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/19 21:59:10 yIpVs7mo
保守

109:妄想のままに
06/05/20 19:12:54 unQY2s4E
タイトル「5月の結婚記念日」

110:妄想のままに
06/05/20 19:14:30 unQY2s4E
「ふわぁ~」
いつもと変わらない桜田家、そんな家からは眠りを誘うあくびが一つ
昼間の沢山遊んだせいで、ドール達の目はうとうと
時刻はすっかり夜の9時を指していて、もういつもの眠る時間である。
「おやすみなの~」
「おやすみなさい」
「なさいですぅ~」
「あぁ、おやすみ」
ドール達が順々に眠りの挨拶を済ませると、真紅と雛苺は鞄を閉じて、深い眠りに付いた
ジュンはと言えば机に体を向けたまま教科書と睨めっこ
そんな彼の背中を、鞄の中から眺めながら
「こんな夜中にまで実らない勉学なんて、よくやるですねぇ」
「う、うるさいな、お前には関係ないだろ」
別に本心なんかではないのだけれど、このちび人間と一緒にいる時は
何か小言を言わないと落ち着かない
「いいから、お前も早く寝ろよ」
「言われなくても寝るですー」
いつもの言い合いを済ませた後、彼女も鞄を閉めた
鞄の中で、翠星石は今日在った出来事を思い返していた
雛苺や蒼星石、幼馴染のドール達と一緒に過ごした思い出、夕飯に食べた花丸ハンバーグの美味しさ
そして、一際ジュンとの思い出が脳裏に強く思い浮かんだ
自然と顔が赤くなる、誰に恥じるわけでもないのに、鞄の中で両手で顔を隠す
彼を思い返す度、私の胸の中が熱くなる
妄想に耽る翠星石だが睡魔は徐々に彼女を覆い、上瞼も次第に重くなっていく
揺らいでいく意識の中で、彼女の心が囁く
ずっと、ジュンと一緒に居れたらいいのに・・・
無意識の内に声に呟いたが、次にはもう寝息しか聞こえてこない
胸いっぱいのまま、彼女も眠りに付いた。

111:妄想のままに
06/05/20 19:16:32 unQY2s4E
次に目を開けた翠星石は、辺りの光景に唖然とした
今まで鞄の中に居たはずなのに、見渡せば四角い大きな広間が広がっている
上を見上げると天井は三角に高く伸び、天井と天井とが先端で重なり合っている
左右の壁には様々な色ガラスが散りばめられた大きな縦長の窓が片方に、二枚ずつ貼られていて
目の前には赤い布が、一直線に敷かれている、その先には両開きの扉
赤い布は、扉の先まで伸びている
敷かれた布の両向かいには木で作られた椅子が左右に5、6席、横一列に並べられていて
その椅子が後ろに等間隔で並んでいる
左右のガラス窓からは柔らかな太陽の光が差込み、広間の中を光で包み込む
光は色ガラスを介し、七色の光が彼女を照らす
そんな光を浴びながら、翠星石は呆然としていた
突然の事で、何がどうなっているのか訳が解らない
なんですかここは、なんで鞄の中からこんな所にいるんですか?
突如の世界の変わり様に、辺りをキョロキョロしながら困惑していると
「おやおや、どうしたのですか?」
聞き覚えのある声、横から問い掛けられ、弾かれた様に振り向いく
そこには木で出来た机を境に、一寸高い台の上に男が一人立っている。白い毛並み、赤い目に鼻をヒクヒクとさせ、長い耳を立てた
「ラプラスの魔!さてはお前の仕業ですか!」
「はてさて、何を仰っているので?」
表情一つ変えず、首を傾げるだけのラプラスの魔に
熱い気持ちが次第に沸いてくる
「とぼけるなですっ!この悪戯の」
「悪戯?お嬢さん、こんな晴れ舞台でそんなに興奮しちゃいけませんよ、お気を沈めて」
興奮冷め止まぬ中、兎の言葉に今度は翠星石が傾げる
「・・・晴れ舞台?」
「はい、せっかくのドレスも乱れてしまいます」
淡々と答えるラプラスの魔に、釣られて着ている衣装に目線を落とす
それにまた唖然とした
「な、なんですかこれは・・・」
着ている衣類は白で統一され、さっきまでの着慣れたドレスはどこへやら
レースの生地で作られたドレスを纏っている
見知らぬ場所に、今度は着換えた覚えのないドレス
もう何が正しいのか解らない
「あぁ~、もう訳わかんないです~」
両手で頭を抱え、混乱を全身でアピールする翠星石に
「おやおや、」すまし顔でラプラスの魔が眺めている

112:妄想のままに
06/05/20 19:20:08 unQY2s4E
収集の付かない状況に、今度は後ろの方からも声が跳んできた
「おめでとーなのー」
「おめでとーかしらー」
突然の歓声、振り返ると椅子にはいつの間にか巴やのり、蒼星石達が座っていて
なぜかみんなして笑顔で見詰めている
「ちょ、ちょっとー、なんなんですかー?」
「おめでとう」
「幸せになってねぇ」
「姉さん、おめでとう」
「だ、だからなんなんですかー・・」
突然浴びせられる祝福の声に、ますます頭が混乱していく
パチパチパチパチ!
とどめとばかりに、客席からは拍手が鳴り響いた
もう目まで回ってくる
足もおぼつか無い、あぁ、もうダメ、倒れるです・・・
そう心の中で妥協を決意すると
ふっと力が抜け、頭の圧迫感が消えると同時に意識が遠退いていく
体が落ち葉の様に揺れる、ドレスもそれに合わせてレースのスカートをなびかせながら
ついにバランスを崩し、棒立ちのまま足元の赤い布の地面に背中から倒れこんだ。
ボフッ、
下に落ちて背中に衝撃が走る、が、不思議と痛くない
朦朧とする意識の中でゆっくりと瞼を開けると、体は地面に落ちる寸前に抱きかかえられていて
顔のすぐ目の前にはなぜかジュンが・・・
「ハニー、大丈夫かい?」
「ハ、ハハ・・・ハニー!?」

113:妄想のままに
06/05/20 19:23:02 unQY2s4E
「おい、あまり僕のフィアンセを苛めないでくれ」
ジュンは見ていた兎に振り向き、忠告を告げる
よく見ると、ジュンも服が少し違う、いつかの学校と言う所の制服を着込んでいた
「はぁ、その様なつもりはなかったのですが」
ジュンの忠告に対し、ラプラスの魔は私達に体を向け、謝罪の会釈を一つ
それを見届けたあと、または私に顔を振り向いた
もう顔と顔とがくっ付いてしまうのではと思うくらいの距離
同時に胸が一回大きく高鳴る
「大丈夫かい、痛い所は?」
「へ、平気ですよ」
お姫様だっこのまま、覚束ない口調で告げると
その言葉に彼の表情が安堵の笑顔に変わり、次に別人の様な甘い言葉を綴り出してきた
「そうか、良かった。もし君が痛みで悲しい想いをしたら、僕はどうしようかと」
「え、えーと」
「こんな小さな体で、そんなに頑張らなくてもいいんだよ?時間は沢山あるんだから、二人でゆっくり、頑張ろう・・ハニー」
そう言ったかと思うと、突然翠星石を抱えていた左腕が反対側に回り込り、その腕が背筋まで伸びてくる
背中でジュンの腕と腕とが交差し、お互いの体を抱き合わせてきた
頬と頬とが密着し合い、突然の事に瞬時に恥ずかしさがマックスを越える
「い、いきなりぃ!なんですかぁー!?」
「ハニー・・・」
お構いなしに耳元でその呼び名を囁かれ、ますます顔が赤くなる
「だぁー、だからぁ!ハニーってぇー!」
いきなり始まったラブラブ(一方的)な展開に、客席の観客達は
「大胆なのー」
「ジュン君ったら・・」
小恥ずかしそうに、けれども微笑ましくその光景を眺めている
そ、そんなのいきなり、色々と困るです!とりあえず離れるですー!
くっ付いてるジュンは、引っ張っても取れる気配がない
代わりにこの状況を何とか打開すべく、抱き付かれながらも部屋中を必死に見回す
武器は、――なさそうだ。

114:妄想のままに
06/05/20 19:25:32 unQY2s4E
あ、蒼星石!助けてですー!このおかしくなったチビ人間をぉ~~

・・
・・・フリフリ

ちぃー、違うですぅー!なんで笑顔で手なんか振ってやがるですか!そうじゃないですー!
このままじゃあーなってこーなって!あぁ、何想像してるですか翠星石はぁー!
されるがままのパニック状態は続き
そんな中、このピンチを救ってくれたのは意外にも兎だった
「困りますねお二方、誓いの儀は私を通していただかないと」
兎が忠告を促すと、我に返ったのかジュンの絡み付く腕がわずかに緩む
それを逃すまいと翠星石が緩んだ腕を振り解き、勢い良く後ろに蹴り跳んだ
ドレスが宙を舞い、レースのスカートが風で膨れ上がる
そのまま腕を左右に伸ばしてポーズを取り綺麗に着地。心の中で、初めてラプラスの魔に感謝を告げる
「ゆっくり過ごそうと言ったのは僕なのに、先に急がせてしまったね」
「きぃぃーー!」
態度を変えないジュンに、翠星石の気持ちが高ぶる
次に溜まりに溜まったイライラを、目の前の変態ミーディアムに言い放った
「や、やぁいチビ人間!いきなり抱きつくなですこの変態!
変な台詞をごたごたと言いやがりやがってぇ、です!
あ、あぁーと、さっきそこの兎にさりげなくフィアンセなんてぇ、ひゃ、100万年早いです!おととい来やがれですーぅ!」
指をビシッと突き刺し、この変な世界のうやむや感もまとめて言ってやった
ざまーみやがれですぅ、こぉーれでこのチビ人間も
何て勝ち誇ろうとしたが
事態は全く解決しなかった
「あぁ、いきなり抱きついて悪かった
けど、この愛は本当だ!お前は僕が幸せにする!
100万年か、じゃあその100万年、ずっと傍に居てくれるんだね?
僕はその君との時間の中で、フィアンセに相応しいミーディアムに、人間になるよ
これから二人で、100万年間、ずっと一緒に居ようねハニー」
愛たっぷりの返事が返ってきた
ひゃ、100万年って、そう言う意味じゃ・・・
呆然としたまま、突き刺した指も垂れ下がってしまった

115:妄想のままに
06/05/20 19:28:16 unQY2s4E
「大胆なのー」
「桜田君・・・」
場が静まった(?)所で
「コホン」ラプラスの魔がわざとらしく咳を一つ、周りの注目を煽る
辺りがしんと静まり、目の前のジュンも急に神妙な顔付きになる
場の状況に、翠星石も慌てて上げた腕を後ろに回した
「ではこれより、ローゼンメイデン第3ドール翠星石、桜田ジュンとの誓いの儀を執り行います」
広間全体に響き渡る様、高らかに儀の始まりを告げる
誓い?の儀?・・・なんです?
頭の中で考えを巡らす中、その答えはすぐに、嫌でも知る事となった
ラプラスの魔はジュンに首を傾け、一言一言間を置いて問い始めた
「なんじ桜田ジュンは、翠星石を妻とし
病める時も、健やかなる時も、共に支え合い、変わらぬ愛を誓いますか?」
兎の頭上には、金属の黄色く大きな十字架が掲げられている
こ、これって・・・
問い掛けられ、躊躇なくジュンが答える
「誓います!」
えぇー!
でもこれって、つまり・・結こ
考えが導き出される寸前、今度は私の方に問い掛けてきた
「なんじローゼンメイデン、第3ドール翠星石は
病める時も、健やかなる時も、共に」
「ちょ、ちょーっと待つですぅ!」
慌てて兎の口を制止させる
「す、翠星石はぁ・・その・・・」
「変わらぬ愛を、誓いますか?」
制止を無視し、ほんの少し間を置いてから続きを朗読し、問い掛けた
今彼女は、生まれてから一番に混乱している
えと、えーと、
翠星石とジュンはドールのミーディアムです!でも、別に嫌いってわけじゃ、ないですけど!
でも、えーといきなり色々言われても!でも、でもジュンがそこまで言うなやら・・・
でも、色々、えーと・・・・
周りの注目が、一斉に白ドレスのドールに注がれる
広間が静まってから数分、翠星石がついに決断を告げようと、口を開けたその時
「す、翠星石は、ジュンを・・・」
「ちょーっと待つのだわっ!」

116:妄想のままに
06/05/20 19:31:06 unQY2s4E
バターン!突然の衝撃音、聞き慣れた声、足元の赤い布を目で辿った先の両開きの扉が勢い良く開き
そこから差し込んだ光が、突如現れた黄色い髪の少女を眩しく照らしつける
「わ、し、真紅ー!?」
「はぁはぁ・・・翠星石!ジュンは渡さないわ!」
差し込んだ光が弱まり、真紅も同じ白のドレスを着込んでいる
走ってでも来たのだろうか、やや息を切らしている
「真紅!」
「えぇー・・・」
先ほどまでのジュンが、突然迷いだし表情を曇らせる
目の前のミーディアムの一変した態度に、翠星石も呆気に取られる
そこでラプラスの魔が動き出した
「今は誓いの儀の最中、例えお知り合いのドールであろうとも
その儀に割って入る事は神もお許しにはなりません、しばしのご退席を願いましょう!おのおの方!」
さっと兎が手を扉に差し向ける
すると、それまで椅子に座っていた蒼星石や巴達が一斉に席を立ち始めた
参列客らが、駆け足で間の赤い布に序列の陣形を組んで行く
突然の事態に真紅がわずかにたじろぎ
目の前の陣形が組み上がり、足踏みも止まる
「3、2、1・・・ファイア!」
指し示すラプラスの魔が一声を上げると
それを合図に、一斉に参列客らが人の波と化し、一直線に真紅にぶち当たった
「「「わ~~!!!」」」
「ジュン!ジューン!」
人波にもみくちゃになりながら、それでも懸命に振り抜けようとする
だが次第にドレスは埋もれ、真紅は人の塊に沈んで行く
あぁ、真紅、す、すまないですぅ・・・
「さぁ、今のうちに、誓いの口付けを」
ラプラスの魔が首を傾け、翠星石にそれを促す
えぇー!?、あの、えと
「ハニー、二人で幸せになろう」
ジュンが両手を広げ、腰を屈めて待っている
え、えーと!真紅!のり!それからぁ・・・、色々とすまんです!
よく解らない事だらけですけど、翠星石は今から一人の女になるです!
誰も恨むんじゃねーですよーー!
意を決して、ジュンに跳び付き口と口とを重ね合わせ、た

117:妄想のままに
06/05/20 19:35:51 unQY2s4E
鞄の上板に顔面から突っ込み、ドスンと音を発てて拍子に鞄が打ち開いた
真っ赤になった顔を両手で覆い懸命に痛みに耐える
「く、うぅ~~、ゆ、夢?」
「ん、おい、大丈夫か?」
見渡せばすぐ横にパソコン、申し訳ない程度の棚、いつもの狭い部屋である
「はぁ・・・元に戻ったです」
痛みもやっと引き、ベッドから持たれて自分を窺っているジュンがいる
寝ていたジュンは突然の衝撃音に起こされて、中からはもがく翠星石が出てきたものだから
事態がわからず、とりあえず訊いてみる
「おい、どうしたんだ?」
「・・・・」
返事が返ってこない、どこか悪いのか
すこし心配に
「おい、どうしたん」
「・・・チビ」
いきなり嫌味の一声が跳んでくる、この分だと大丈夫そうだ
「なんだよ、人がせっかく気遣ってやってるってのに
こんな夜中にいきなり起こされて、それでチビってどう言う事だよ!おい、聞いてるのか性悪人形」
「・・・・」
また黙ってしまった
今度はぼーっと翠星石が目を見詰めている。嫌味が返って来ないのでわずかにたじろぐ
何か企んでるのか?
「な、なんだよ」
「やっぱり、そっちの方がいいです」
「え?」
「おやすみです」
バタン
小言の一つも言わずに、また鞄を閉じてしまった
「・・・なんだあいつ」
鞄の中で、翠星石は寝ずにいた
外は夜明けを告げる太陽が顔を出し、ジュンの部屋の窓を通して
鞄の隙間からは淡い光が差し込んでくる
いつもの起きる時間には、まだ少し早い
瞼を閉じ、差し込む暖かな光の中で
少女はあと少しだけ、眠る事にした。

118:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/20 22:50:30 9Xz6Bpg8
>>117
GJ!!
花嫁(婿だけど)略奪は絶対くると思ったけど、失敗する真紅に笑ってしまったw

119:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/21 01:11:42 5Ige4G3j
まさに辛苦

120:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/21 21:12:53 CNfXxM80
なかなか、おもしろい。次もガンガッテクレ。

121:SPOON  1/7
06/05/22 06:46:00 s2zaLcVp
「ジュン、紅茶を淹れてきて頂戴。」
「ったく……なんでいつもいつも僕が……。 たまには自分で淹れてこいよ。」
「まぁ、口答えね。 えい。 絆パーンチ。」

ぺちり。 ジュンのほっぺに真紅の手が触れる。
悪戯っぽく笑う真紅。 苦笑を返すも、満更でもなさそうに立ち上がるジュン。

……。
面白くないです。 まったくもって面白くないです。
最近、ジュンは真紅に構ってばかり。 ツーと言えばカー。 山と言えば川。
何だか、二人の関係が出来上がっちゃってるような気さえします。

さらに癇に障るのがあの言葉。

きずな。


それは真紅とジュンの間にあって、私とジュンの間に無いもの。
ううん、きっと、私にもあるのかもしれないけれど。 真紅たちほど強くはないもの。

胸の内がモヤモヤする。 真紅の事は好き。 ジュンの事だって、嫌いじゃない。
なのにどうして、二人が仲良くしてるのを見ると、こんなにイヤな気持ちになるのだろう。

ジュンは。 真紅みたいな子が好きなのだろうか。
真紅は一見すると高慢ちきに見えるけれど、本当の所は誠実で、優しくて、おまけに女の子らしくて可愛い。
私はどうだろう。 ちっとも素直じゃなくて。 うるさくて。 おまけに意地悪だ。

これじゃあ、私に勝ち目なんて無いじゃない。

……勝ち目? ぶんぶんぶん。 何を考えているのか。 そういう話じゃないのに。
駄目。 この方向に考え続けては駄目。

ぺしん。 ほっぺたを引っぱたいて気合を入れる。
そうです! なんで私が悩まなくちゃいけないのですか。 ぜんぶあの唐変木が悪いのです。
ここらで一つ、翠星石の有り難味というものを、じっくり分からせてやるのです……!

122:SPOON  2/7
06/05/22 06:46:50 s2zaLcVp
「ふんふんふん~♪ 一本でも日本刀~♪ 二足でも三戦(サンチン)~♪ 三蔵でもフォー師ですぅ~♪」

かここここ。 ここは結菱家の台所。 軽やかなリズムに乗せて、泡立て器も歌う。
ふんわり白い生クリーム。 目にも柔らかなスポンジ。 徐々に形をなしていくそれは、専門店も顔負けの美しさ。

「なかなか出来が良さそうじゃないか、翠星石。 私もおこぼれに預からせて貰えるのかな?」
「心配しなくても、毒見はおじじの役目ですぅ! 変な所があったら、きっちりダメ出しして欲しいです!」

元気そうな笑顔に安堵する。 ケーキを作るから台所を貸してくれ。 窓を突き破って現れた小さな来客はそう言った。
唐突なのはいつもの事だが、今日はなんだか元気が無かった。
どうしたものかと思っていたが、瞳を覗き込んで分かった。 その悩み。 遠い昔に私も持っていた、その悩み。

車椅子の背にもたれて、昔日に思いを馳せる。 それは痛みを伴う記憶でもある。
だが、もう二度と目を背けるまい。 二葉も。 あの人も。 大切な私の一部なのだと。 憎ではなく、愛だったのだと。
蒼星石が教えてくれたのだから。

「うむ……品の良い味だ。 これなら桜田くんも唸らせる事ができるだろう。」
「べっ、別にジュンのために作ってるなんて、一言も言ってないですぅー! これは自分で食べるのです!」

下手な言い訳に、思わず笑ってしまう。 娘を持つ父親の心境とは、こういうものなのだろうか。
あの少年の事を思い出す。 蒼星石が倒れた事に憤激し、人の身でありながら黒いドールに立ち向かった少年。
ローゼンメイデンの背負った悲しき宿業。 あの時、彼なら、断ち切ってくれそうな気がしたものだった。


「で、なぜこうなるですか……。」
桜田家のリビング。 こっそりジュンだけ呼び出すはずだったのに。

「いやぁん、美味しそうな苺の生クリームケーキぃ。 翠星石ちゃんったら、いつの間にこんなにお料理が上手くなったのかしらぁ。」
「……ぅゅー……だぁー……」
「雛苺、そんなに物欲しそうな目で見ては駄目よ。 これは翠星石がジュンのために作ったものなのだわ。」

出来が良すぎたせいなのか。 こっそり運び込んだ甲斐もなく、雛苺のおやつセンサーをかいくぐる事が出来なかった。
こうなると、一人前しか作ってこなかったため、誰のためのケーキなのか、白状しない訳にはいかず。 全くもって晒し者だった。

そうこうしている内に、照れ臭そうにジュンがケーキを皿に移す。 運命の時が来たのだ。

123:SPOON  3/7
06/05/22 06:47:40 s2zaLcVp
「お~っ。 見た目は凄いな。 味は知らないけど。」

ふんっ、そんな失礼なセリフを吐けるのも今の内ですからね。
ジュンのスプーンが口に運ばれていく。 何だかローザミスティカがバクバク言ってます。 どきどきどき……。
ぴたっ。 ジュンの動きが止まった。 ……? なんで食べないんですか?

「お前……まさかとは思うけど、このケーキに何か仕込んであるんじゃ……?」

うぐっ。 ううぅ、我ながら信用が無い……。 無言のまま、怒ったように睨み返す。
ジュンは視線を逸らしつつ、ケーキを口に運んだ。 まったく……。 もくもくもく。 ごくん。
彼が感想を言うだろうと待ち構えている間が、私には永遠のように感じられた。

「……ふーん。」
でも、ジュンは一言そう言ったきり、また黙々とケーキを食べ始めた。
な、なんですかそれは。 それで終わりですか? お前はもうちょっと気の利いた事が言えないのですか、このチビ人間!
「美味しかったよ」とか、「嬉しいよ」とか、「翠星石は凄いな」とか……。

かたん。 突然に。 ジュンはスプーンを置いて席を立ち上がった。

「美味かったよ。 ごっそさん。」
え? 机の上のケーキはまだ半分以上残っている。 え? ごちそうさま。 って。

「じゅ、ジュンくぅん。 まだ結構残ってるわよぅ~? 雛ちゃんが食べちゃっても知らないわよぅ~。」
「……うーん。 その、味は悪くなかったんだけどさ。 ちょっと僕には甘すぎるんだよな。 とても全部は食べられないよ。」


ぽとり。
いつもみたいに。 怒り出して、ジュンを引っぱたいて。 笑い話にしてしまえば良かったのに。
ぽとり。 ぽとりぽとりぽとり。 あれ。

「え?」
あれ。 あれ、あれ、あれ。 ちがう。 ちがうの。 そんなつもりじゃ、ない、のに。

「翠……っ……?」
私の瞳からは。 涙の粒が、一つ、また一つと、零れ出していた。

124:SPOON  4/7
06/05/22 06:48:30 s2zaLcVp
「あっ……。」
ジュンの瞳に後悔が浮かぶのが見える。 やめて。 そんなつもりじゃ無いの。
のりも、真紅も、雛苺も。 そんな目で見ないで。

こういう結果だって予想してた。 笑ったり、怒ったり、違う結末を選べるはずだった。
なのに。 今、私の頭は少しも回らなくて。 涙だけが頬を伝っている。

何ですか、この涙。 止まって。 やめて。 これじゃ、同情されたくて泣いてるみたい。
止まって。 止まれですってば。 どうして止まらないの。
ちっとも泣きたくなんて無いのに。 堪えようとすればするほど、一層涙が溢れてくる。

私は今、どれだけ嫌な女に見える事だろう。
私は今、どれだけ幼稚で情けなく見える事だろう。
私は今、どれだけみっともなくて、みじめで、いたたまれなく見える事だろう。

「翠せ……」
ジュンの声。 いや。 慰めの言葉を言おうとしている。 聞きたくない。 聞きたくない。
ジュンのせいじゃないのに。 私が、泣いたせいで。 いや。 嫌。 嫌! 私は逃げるように部屋を飛び出した。


人に見られたって構うものか。 私は当てもなく外を走っていた。
自分で自分が嫌になる。 どんなに奇麗事を並べたところで。 どんなに言い繕ったところで。
私は見返りを期待していたのだ。 絆という言葉に、見返りを要求していたのだ。

真紅とジュンの「絆」に比べて、それは酷くちっぽけなような気がして。 それはそのまま、私自身のちっぽけさで。
いやだ。 また涙がこぼれてきた。 どこまで私は弱いのだろう。

ぽつり。 ぽつぽつ。 雨が降り出した。 こんな気持ちの時に、雨なんて。 嫌い。 みんな嫌い。
泣き疲れて、走り疲れて。 気付けば私は、結菱の庭園にいた。
帰りたくないな……。 このまま雨が、やまなければいいのに。 そんな事を考えていた、その時だった。

「また泣いているの? 翠星石。」

……そんな。 この声。 私が、聞き間違えるはずが、ない。 信じられない気持ちで声の方に振り向くと。
そこには、蒼星石が立っていた。

125:SPOON  5/7
06/05/22 06:49:20 s2zaLcVp
驚きのあまり声が出ない。 自分は夢でも見ているのではないだろうか。

「あじさい……綺麗に咲いたね。 雨が嫌な季節だけれど。 この花が慰めになってくれる。」
慈しむように庭を回る。 雨が彼女を避けるように降る。 不思議な事ばかりだ。

「蒼せ……嘘……どうして……?」
「君が泣いていたから。」

蒼星石は私にみなまで言わせなかった。 暖かい手が肩に回る。 それだけで、理屈はどうでも良くなった。
気付けば、私は蒼星石にもたれ掛かって、無心に泣いていた。

「どうして泣いているの? ジュンくんに酷い事を言われた?」

優しい声。 蒼星石の指が、私の髪を梳き上げる。 それだけで、暖かい気持ちになれた。
何もかも話した。 真紅とジュンを見ていて、胸が苦しかった事も。
ケーキ作りの顛末も。 自分が相手に見返りを求めていた、その心根の小ささも、何もかも。

うん。 うん。 蒼星石がひとつ相槌を打つ度に、心がひとつ軽くなっていった。
全部話し終えて。 後は何を言うでもなく寄り添って。 そんな時間がどれくらい続いただろう。 蒼星石が問い掛けてきた。

「翠星石はどうしたかったの? 真紅を蹴落としたい……なんて考えてた?」

えっ。 ぶんぶんと首を振る。 私がしたかった事? 言われて、初めて気付いた。
ああ、そうだ。 喜んでほしかった。 いつも、喧嘩してばかりのジュンに。 笑ってほしかった。 それだけだった。

「僕は、みんな同じだと思う。 真紅も、ジュンくんも。 自分のしたいようにしているだけだと思う。
 相手に笑ってほしいから。 泣いている顔を見たくないから。 喜んでほしいから。 それは、翠星石と何も違わない。」

私は、答えなかった。 ただ黙って、蒼星石の言葉を聞いていた。

「相手に笑ってほしいと思う事を見返りと呼ぶなら。 僕は、見返りを求めてほしい。
 あの人が喜んでくれて嬉しい。 あの人が喜んでくれなくて悲しい。 なんて素敵な事だろう。
 だって、ほら。 僕は君からお返しを貰おうなんて思った事は無いけれど。 君が笑うと、こんなに嬉しい。」

そう言って。 蒼星石は綺麗な笑顔で笑ってくれた。 本当だ。 それはとっても素敵だった。

126:SPOON  6/7
06/05/22 06:50:10 s2zaLcVp
こっしゅんこっしゅん。 鍋で栗を加熱、加熱。
背中におじじの物問いたげな視線を感じるけれど、あえて無視。

「そう言えば……不思議なんだがね。 さっき、庭の方にあの子の姿が見えたような気がしたよ……ふふ。」
「蒼星石は雨女でしたからねぇ。 そういう事もあるかもですぅー。」

そう。 気が付けば蒼星石はいなくなっていて。 カバンを開ければ、そこにはいつも通りに眠る彼女。
当たり前。 ローザミスティカ無しに動ける筈が無いのだ。 じゃあ、さっきのあれは何?
分からない。 分からなくていい。 そう。 蒼星石は、いつだって私に勇気をくれる。 大事なのはその事実。

私は、覚悟を決めて、もう一勝負する事にしたのだった。


「はぁ……。」
駄目だ。 あちこち探し回ったけど、全然見つからない。 どこ行ったんだよ、まったく。
通り雨も上がって、空はすっかり夕焼けに染まっている。
下校する学生服もちらほら。 顔を隠すように歩く僕。 くそっ。 もう帰るぞ。
……と、もう何回思っただろう。 その都度、あいつの涙がちらついて。 結局、この時間まで帰れなかった。

仕方ない。 とりあえず、一度家に帰ろう。 ひょっとしたら、もう家の方に帰ってるかもしれない。

「遅いですよ! もうお夕飯の時間ですぅー!」
……。 本当に帰ってやがった。 人をこんだけ心配させといて。
そりゃあ、文句が百も二百も思い浮かんだけれど。 何だかホッとしたのも事実だった。

「それはこっちのセリフだっての。 今度からは行先言って出掛けろよな。 足にマメが出来るかと思った。」
「……ごめんなさい、です……。」
ポンと頭を叩いて、おしまい。 空元気出してるってのは、一目見て分かったから。
これでいいよ。 これで、ケーキ騒動は終わり。


と思っていたのだが。 そうではなかった。
時刻にして夜11:00。 桜田家の夜は早い。 姉ちゃんも真紅たちも、今はとっくに夢の中だ。

風呂上りにリビングでくつろいでいた僕の前に、翠星石が現れた。 手に、ケーキの皿を引っ提げて。

127:SPOON  7/7
06/05/22 06:51:00 s2zaLcVp
「翠星石は、ケンカとか嫌いですから。 絆パーンチ!とか、そういうのは無理です……けど。」
たどたどしく喋る翠星石は、いつになくしおらしくて。 僕は茶化す事ができなかった。
そして彼女が差し出したのは、手作りのモンブラン。 示す所は一つ。 これは昼間のリベンジなのだ。

「……き………絆モンブラン、です。 ありがたく噛み締めろ、です……。」
何かを怖がっているような、弱々しい瞳。 まるで出会った頃のようなその姿。
いつまでもそんな顔を見たくなかったからだろうか。 僕は、無意識の内にモンブランに手を伸ばしていた。

「ど……どうですか?」
「………甘ぁ。」
僕に合わせて、甘さ控えめに作ったのだろう。 それでも僕には、やっぱり鬼門の甘さだった。 ……けど。

「……でも悪く、ない。 うん。 ………………………美味いよ。 サンキュ。」
碧のゆらめき、緋のしずく。 彼女の瞳はみるみる潤み、破璃の涙が頬を伝った。 うん。 もう仲直り。 うん。
……れしい、です……。 え? 声が小さくてよく聞き取れない。 顔を近づけると、パタパタと手を振って慌しく彼女が言う。

「で、でも、本当に大丈夫だったですか? 本当は無理してるとか……。」
ったく。 泣き虫。 泣くなよ。 笑えって。 今、僕に出来る事。 膝の上にひょいと翠星石を抱き上げた。

「そんなに心配なら、自分でも食べてみろよ。 ほら、あーん。」


え。 え。 え。 いきなりのできごと。 にびに煌く優しいお誘い。 見つめる私はパンク寸前。
耳はガンガンうるさいし、私が薬缶なら今にも吹き零れてしまいそう。
だ、だって……このスプーンは今、ジュンが使ってて……コレで食べると言う事は……つまり…………。
私が私に押し問答。 頭の中は堂々巡り。 食べますか? 食べませんか? 今なら甘ぁいオマケが付いてくるかもです。

少しの沈黙。 ……おずおず。 はくり。 もくもくもく。 こくん。 モンブランが喉を通り過ぎてゆく。

「な? 美味いだろ?」
こくこくこく。 ほんとは、味なんて、全然分からなくて。 茹で上がったこの顔じゃ、とても彼の方は向けなくて。

あぁもぅまったくこの鈍感。 やられっぱなしじゃ収まらなくて。 彼の指からスプーンを取ると、私もケーキを一掬い。
はい、あーん。 湿り気を帯びた銀の輝き。 その煌きの意味する所に、ようやく彼も気付いたようで。
二人して、耳まで真っ赤になって。 ちょっと顔を見合わせて、すぐそっぽ。 あぁ。 もう確かめるまでもないくらい。

これは絆。

128:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/22 07:22:22 McNyA+3p
アンマァ~

129:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/22 07:39:28 c+tjhDVS
GJ!!
あま~~~い

けど、蒼い子ちょっとセツナス(´・ω・`)

130:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/22 12:53:50 +JnQ4UfB
角砂糖30個くらい混ぜ入れたコーヒー並に甘いですねw
GJ!

131:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/22 13:32:31 IfLvWI7A
「ザ・ワールドですぅ」

「絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆絆ァァァァァァ!!!」

「GJSSが台無しなの~」

132:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/22 13:39:27 QSwjpsuT
佳作

133:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/22 16:11:00 IGsY+lUI
最近駄作多いんだよボケ

134:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/22 16:38:07 JucKhJT8
まったくこんなに甘いと糖尿になりそうだぜ!

なにがいいたいかっていうとGJってこと。

135:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/22 17:49:20 0JjolC5n
>>127
…の多様は避けたほうがいい。
なんかキャラが事切れる寸前に見える。

136:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/22 19:43:05 njKgqzup
ちょっと泣いた(ノ∀`)
良作GJです。

137:ケットシー
06/05/23 21:36:58 azsCo3+1
甘いの読んで触発された
ネタが被ってるけど勘弁してちょ

138:ケットシー
06/05/23 21:38:53 azsCo3+1
初めてのなっとー


 平日お昼の番組に、健康に関する話題はつきもの。
 有り余る時間をテレビ観賞で潰していた翠星石は、ほんの気まぐれだが、その番組で紹介されていた食品に興味を持った。
「納豆ですか。そういえば、食べたことがなかったですぅ」
 翠星石の納豆への挑戦が始まった。


「今度、納豆を買ってきてほしいですぅ」
 夕食の時、翠星石が唐突に話を切り出した。お昼の番組のことを忘れずに覚えていた。
「翠星石ちゃん、納豆が好きだったのぅ?」
 家事全般を担当しているのりが尋ねた。納豆は人を選ぶ食べ物だ。確認しておいた方がいい。
「食べたことがないから食べたいだけです」
「そうなのぅ。それなら、明日買ってきてあげるね」
 のりは納豆を明日の食事に出すことを約束した。初めての納豆にどんな反応をするのか楽しみでもあった。
 これでこの話題は終わりになると思われたが、そうはならなかった。横で聞いていたジュンが口を挟む。
「やめとけ。絶対後悔するぞ」
「チビは納豆が嫌いですか?」
「ああ、大嫌いだ。あんなのを食えるやつの気が知れないよ」
「そんなに不味いですぅ?」
「あれは味以前の問題。不味さの次元が違う」
 そこまで不味いと言われると、逆に食べてみたくなるもの。ひねくれ者の彼女なら尚更だ。
「そんな好き嫌いを言ってるから、ジュンはチビなんですよ。明日は翠星石と一緒に食べるですぅ」
「一人で食ってろ」
 逆に納豆を勧められ、ジュンは黙って食事に戻った。



139:ケットシー
06/05/23 21:39:55 azsCo3+1
 約束通り、翌日の夕食には納豆が用意されていた。
 翠星石の席の前にだけ、スチロールの四角いパックが置いてある。
「これが納豆ですか?」
「そうよぅ。食べ方はわかる? まず蓋を開けて、たれとからしを出して」
 翠星石は言われるように封を切り、たれとからし、薄いフィルムを取り出す。
 その際、フィルムに付着した納豆が糸を引いた。糸を切ろうと手を振り回してもなかなか切れない。細くなった糸が風に揺れて手や顔に付く。
「すごい粘りですぅ。それに、なんだか臭うですぅ……」
 想像してなかった臭いに少し顔を顰める。
「これ、腐ってないですか?」
 素直な第一印象なのだが、のりは苦笑するしかなかった。あの臭いは、やはり悪臭に近いだろう。
 そ知らぬ顔で食事をしていたジュンが、そら見たことかと口を出す。
「それが納豆だっての。そんなの食えないだろ?」
 翠星石は勝ち誇ったようにニヤリと笑う彼を見てカチンときた。こうなったら意地でも食べてやる。
「これくらい平気です。のり、このたれを入れればいいですか?」
「あとは泡立つくらいよくかき混ぜて、ご飯と食べるそうよ」
 たれを注ぎ、ひたすら箸でかき回す。炊きたてご飯の上からかけたら、納豆ご飯の完成だ。

「い、いただきますぅ」
 茶碗を持ち、初めての納豆を恐る恐る口へ運ぶ。
 見た目と臭いは最悪だが、普通に食されている食べ物だ。死ぬことはない。
 そう自分に言い聞かせて勇気を出し、糸を引く納豆を口に放り込んだ。

「……あ、意外とおいしいですぅ」

 食べてみれば、意外に旨味の多いご馳走だった。自然に箸も進む。
 おいしそうに食べるのを見て、真紅と雛苺も食べてみたくなった。
「ヒナも食べたいのぉ」
「のり、私の分はないの?」
「はいはい」
 微笑んで返事をしたのりは、冷蔵庫から納豆のパックを二つ持ってきた。用意のいい人だ。

140:ケットシー
06/05/23 21:42:16 azsCo3+1
 薔薇乙女達が糸を引きながら納豆を食べるのを、ジュンは信じられないという顔で眺めていた。真紅と雛苺も納豆の味に順応できたのだ。
「お前ら、本当にうまいのか?」
 人がせっかくおいしく食べているのだから放っておけばいいのに、気になって仕方がなかった。
「おいしいの」
「ジュンも食べる?」
「僕はいいけど、どんな味なんだ?」
 ジュンが墓穴を掘った。あれだけ納豆を悪く言っていたのに、食べたことがなかったのだ。典型的な食わず嫌いである。
 翠星石の目が怪しく光る。何かをする前兆だ。
「ちーびーにーんーげーん。もしかして、納豆の味を知らないですか?」
「あ、いや、知ってる。もちろん知ってるさっ」
 焦った彼は勢いで嘘をついてしまう。当然、そこを追求される。
「どんな味ですぅ?」
「そんなの知るか!」
「はぁ?」
「いえ、違います。なんというか、おいしくない味です」
 逆切れしたりと見苦しい言い逃れもここまで。翠星石が箸を置いて椅子の上に立った。
「そんな嘘が通用するかです。罰として、ジュンにも納豆を食べてもらうですよ」
 そう言って、庭師の如雨露を手に持った。ドールズの力は色々と危険すぎる。ジュンは顔を青くした。
「お、おい、何をする気―」
「スィドリーム!」
 席を立とうとした瞬間、植物の蔓がぐるぐると体に巻きついて椅子に固定された。
 動きを封じた翠星石は如雨露を仕舞い、食べていた納豆ご飯と箸を持って椅子から飛び降りる。
 そして、向かうはジュンの所。彼の膝に上った翠星石は、納豆を抓んだ箸を向ける。
「チビ人間、口を開けるですぅ」
 ジュンは口を開けようとしない。この状況で抵抗できる彼は、意外と根性があるのかもしれない。
「口を開けないと、鼻から食べさせるですよ」
 納豆を挟んだ箸を鼻へと向かわせる。ただでさえ微妙な臭いが、ダイレクトに鼻腔へと侵入する。翠星石は鬼だった。
 執拗に鼻先に納豆を持ってこられ、ジュンは耐えかねて口を開く。
「いい加減にしろよ!」
「とくと味わえですぅ!」
 怒って口を開けた隙に箸を滑り込ませた。翠星石の作戦勝ちだ。
 口の中の納豆をどうしようかと、箸をくわえたままのジュン。
 少しして、口がもごもごと動く。そして、ごくんと飲み込んだ。

「……意外とうまいな」

 こうして、ジュンの納豆嫌いは克服されたのだった。
 この後、翠星石がドキドキしながら箸を使ったのは秘密だ。


おわり

141:ケットシー
06/05/23 21:43:33 azsCo3+1
ケットシーは納豆が好きです。
ご飯と一緒に食べずに、そのまま納豆だけで食べてしまうくらい好きです。
だから何だと言われればそれまでですがw

142:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/23 21:51:32 Zf37GFNR
梅干とネギを刻んでマジェマジェしてもさっぱりしておいしい

>翠星石がドキドキしながら箸を使ったのは秘密だ。
モエスwww

143:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/23 21:55:38 TqGjgKb6
>翠星石がドキドキしながら箸を使ったのは秘密だ。

いやん、あま~いw

144:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/23 21:57:40 TqGjgKb6
そっちが実は本当の目的だったりねw

145:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/23 22:32:53 fkqD8QK5
良い仕事乙

146:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/24 00:42:47 Hq/VgxrG
えっと、薔薇乙女達が女子校生な感じで、百合っちいのってここに投下しても大丈夫?

147:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/24 00:50:24 pMqv9Q7x
>>146
VIPに専門のスレがある
投下するなら向こうの>>1をよく読んでね

【夢の】ローゼンメイデンが普通の女の子だったら 【導くままに】
スレリンク(news4vip板)

148:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/24 01:00:25 Hq/VgxrG
>>147

行ってみる

149:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/24 20:06:53 J5BS6Q8O
前スレきれいにオワタ

150:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/25 18:00:04 ISFDLYf6
保守

151:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/25 19:33:10 XMMo4z3E
>>299
URLリンク(www.youtube.com)
これとか?www

152:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/25 19:38:35 XMMo4z3E
べ、べつに誤爆なんかじゃないんだからねっ!!

153:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/26 13:40:40 qrGHMOii
>>151-152犯したい

154:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/26 17:42:10 UjkhUjYU
上げますよ

155:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/28 17:25:16 ZuKYdCf/
保守

156:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/28 17:27:18 IRmHYfGB
リダイヤル

157:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/28 22:55:08 0U30zehO
いちいち保守しなくても職人来るから

158:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/05/31 03:34:40 BubtvRN7
全11話のお話を投下します
タイトルはICEの曲より頂きました


159:BABY MAYBE(1) Doll 
06/05/31 03:37:33 BubtvRN7

僕は桜田ジュン

あの時、僕は引きこもりだった
あの時、僕は「ローゼン・メイデン」という、生命を宿した奇妙な人形と出会った
あの時、僕は何ひとつ気づかなかった

あの時、僕のたったひとつの指輪から、運命が動き出した

あの時・・・・・


160:BABY MAYBE(2) Doll One(前編)
06/05/31 03:39:45 BubtvRN7



皆が寝静まった真夜中、いつも通りネットを眺めていた僕は、それが窓に当たる音に気づいた
黒い羽根、僕は窓を開けた、黒い翼、空からやってきた黒い天使が、静かに僕の部屋に入ってくる
ローゼン・メイデン第一ドール水銀燈、真紅の宿敵、ドールの破壊者、そして胴体の一部の無いドール
最初に彼女がこうして部屋に来たのも、やっぱりこんな、とても寒い、月の綺麗な夜だった

彼女はある夜、僕の部屋にやってきた、何の前触れもなく、閉めた窓を抜けて僕の部屋に入ってきた
「・・・何の用だ?」
「アリスになるため・・・真紅をジャンクにするため・・・そのミーディアムを殺しにきたの・・・
偵察は基本でしょぉ?、隙を見せた時、油断をした時・・・あなたたちのママゴト遊びを壊してあげる」
水銀燈は嘲るような笑みを浮かべると、何をするでもなく僕の部屋を漂い、長居することなく飛び去った
彼女はそれから夜になると僕の部屋を訪れ、窓の外や中で黙って僕を眺めてから飛び去るようになった

ある夜、僕は懸賞で当たった温蔵庫から熱いミルクティの缶を出し、窓枠の所に置いておいた
彼女が真紅を壊そうとしてるのも、僕を殺そうとしてるのも、その準備の行動も気に食わなかったが
毎晩のように僕の部屋に来る水銀燈がとても寒そうにしているのは、それとは別の問題だと思った

熱いお茶の缶を窓枠に置いては、彼女が目もくれなかった冷たい缶の中身を自分で飲む日々が続いた

水銀燈が暖かい缶を手に取るのには何日もの時間がかかった、缶を開けるのにはもっと時間がかかった
最初は匂いを嗅ぎ、すぐに中身を捨てていたミルクティに口をつけるまでにはさらに時間がかかった
彼女が窓枠の上で甘いお茶を飲み「ねぇ人間・・・」と話しかけるまでには、余り時間がかからなかった

水銀燈はそれから、真夜中に僕の部屋を訪れ、少しの時間を僕と一緒に過ごす事が多くなった
その時も彼女は、姉妹達から奪い合い、壊し合う熾烈なアリス・ゲームを続けていたが
真夜中を二人で過ごす時、彼女は誰も傷つけなかった、アリス・ゲームを忘れるのが暗黙の了解だった
いつか、別室で寝かせていた真紅が、くんくんの人形を取りに来たことがあった、半分寝ぼけている
見られちゃいけない気がした、とっさにに水銀燈を掴み、デスクの下、僕の膝の間に押し込め、隠した
水銀燈の天敵、最も強力なローザ・ミスティカを宿したアリス・ゲームの最大の障害が、今ここに居る
真紅は寝ぼけ眼のまま、とても無防備な姿で僕の部屋に少し居たが、ふらつく足のまま部屋を出た
水銀燈は僕の腿の間で、ただ僕に頬を当てながら目を閉じていた、水銀燈を疑った僕が恥ずかしかった
僕たち二人は、ただ、静かに過ごすのが好きだった、時折、二人の濃密な時間を過ごすのが好きだった
水銀燈の胴体の無い体は、とても美しく、とても敏感で、とても情熱的で、そしてとても軽かった

涙が出るほど、軽かった

彼女がぽつぽつと話してくれる自分のミーディアム、もう永くは生きられないミーディアム
歌が好きなミーディアム・・・水銀燈は、彼女の歌がとても好きだと言っていた

僕はその「メグ」のように歌が唄えない、替わりに、水銀燈が来た時はいつもラジオをつけてあげた
昭和の歌謡が好きだった、時折お気に入りの歌が流れると、体を揺らしながら静かに唄ってくれた
「うまくないけどね」と苦笑いする水銀燈に「そんなことないよ」と言った、そう・・・そんなことない
              

             恋は 私の恋は 空を染めて燃えたよ

  夜明けのコーヒー ふたりで飲もうと あの人が云った 恋の季節よ


161:BABY MAYBE (3)Doll One(後編)
06/05/31 03:42:53 BubtvRN7

「ねぇ・・・人間・・・・この部屋には、カレンダー・・・・無い・・・・・・の?」
カレンダーなら、デスクの端に腰掛ける水銀燈のすぐ隣の壁にある
水銀燈が嫌がるので、普段は消したままの部屋の灯りを薄く点けてあげた、カレンダーを指差す
「そう・・・あるの・・・あるの・・・・・ないの・・・・・あるの・・・・・ないの・・・こないの・・・こないの・・・」
水銀燈はかすかな声で呟きながらカレンダーを見つめている、空間の腹を撫で、数字を追いながら
指を折って日にちを数えている「・・・すこし・・・おくれてるだけ・・・・よ、ね・・・・?」
その時、僕は何も気づかなかった、それでも彼女の様子から、何かいつもと違う雰囲気を感じた
「水銀燈・・・どうした?」
「うん・・・何でもない・・・ねぇ・・・人間・・知ってる・・?・・私たちのお父さまが言ってたこと
私たちローゼン・メイデンは・・・命をもった人形・・・ヒトと同じように動き、考え、感じる事が出来る
ヒトと同じように・・・感じる事が出来るの・・・・人とだって、愛を交わす事が出来るの・・・・・」
「知ってる・・・よ」
それが愛ならば・・・僕と水銀燈の、あまりにも身勝手であまりにも不毛な二人の背徳が、愛と呼べるなら
「でもね、人とどんなに愛しあっても、人の子を宿す事は出来ないって・・・・それがドールの宿命だって」
「・・・・・・そうか」
Et Alors・・・それがどうかしたか?ただその一言が言える強さが欲しかった、あの頃の僕、無力な僕

「そうなのよ・・・・そう・・・言ってたの・・・・そう言ってた・・・・その・・・はずなのよ・・・・・
水銀燈は自分のドレスの腹、空っぽの胴体を撫で、また「ないの・・・あるの・・・ないの・・・こないの・・・」
「水銀燈、何か悩みがあるのか?話して欲しい・・・僕・・・・力に・・・・なるから・・・僕、何でもするよ!」
水銀燈はそれを聞くと、ほんの一瞬瞳を輝かせ、すぐに首を振り、目を伏せると、早口で僕に言った
「ん・・・ん~ん!私は何とも無いわぁ!ダメよ私となんて!もしなんともなくなくなくなかったとしても
ジュンには絶対、迷惑かけないからぁ!わたしは一人で・・・だから、もう、わたしのことは・・・・うううっ」
水銀燈の涙の意味、なぜ僕はその時わからなかったのか、なぜ僕はわからないふりをしたんだろうか
「ねぇジュン!何でわたしなんかに優しくしたの?何でわたしをこんな気持ちにさせたの?・・・何でよぉ・・・
何でわたしと・・・出会ったの?・・・何でわたしを抱いたの?・・・何でダメっていった日に・・・中に・・・」
水銀燈は両手で顔を覆い僕に背を向けると、泣き濡れた紫の瞳を一瞬こちらに向け、そのまま飛び去った
「さよならジュン、わたしはどこか遠くの町で、あなたによく似た子をあやしながら・・・生きていきます」

水銀燈は飛んで行ってしまった、いつもは黒い翼を力強く羽ばたかせ、凛とした姿で飛び去っていくが
その日の彼女はなぜか、ひどくぎこちない姿で飛び去っていた
まるで自分の体を、何か大切な物を、一人では抱えきれないほど重い重い物を胸に抱いて飛ぶかのように

異変が始まった


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