06/05/07 23:25:00 NLCxQRvr
「君達の尺度で計らないでくれるかな。 これは悲劇なんかじゃない。 後悔なんて全く無い。
僕と翠星石は、二人で一人なんだ。 今までも、これからも。
二つに一つだったんだ。 彼女が僕の中に生きるか。 僕が彼女の中に生きるか。
……それが、アリスゲームなんだ。 ………彼女は………僕を、抱きしめて………笑って………逝ったんだ。」
今にも膝からくず折れてしまいそうだった。 不意打ちではなかったのだ。 翠星石は『誰に殺されるのか』を知っていたのだ。
間違っていなかった。 彼女は。 翠星石は。 笑って、斬られる事を、選んだのだ。
「馬鹿な事を言わないで頂戴、蒼星石! ……後悔なんて全く無いですって? なら、なぜ貴女は泣いているの。」
「え?」
そうだ。 泣いている。 蒼星石の瞳からは、とめどなく涙が溢れていた。 蒼星石だけじゃない。
僕も。 姉ちゃんも。 真紅も、雛苺も、金糸雀も。 みんなが泣いていた。
こんなのがアリスゲームだって言うなら。 ローゼンなんて、くたばっちまえばいいんだ。
僕ら全員が命の危機に瀕している事も、アリスゲームの功罪も、もうどうでも良かった。
僕らは無心に泣き続けた。 ただ、ただ、翠星石の事を想って。
どれくらいの時が経ったのだろう。 ふと顔を上げた時。 蒼星石の姿はどこかに消えていた……。
その晩。 僕らは、翠星石の霊を弔っていた。 蒼星石は結局戻って来なかった。 これからも、会えない気がする。
それとも、時が来ればお互いの意思に関わらずまみえる事になるのだろうか。 アリスゲームの名の下に。
昨日まで仲睦まじく暮らしていたのに、なぜ急に心変わりしたのか。 今となっては、蒼星石にしか分からない事だった。
「やりきれない事件だったな……。」
短くなってしまった翠星石の髪を撫で付ける。 思えば、こいつとは喧嘩してばっかりで、ちっとも構ってやらなかったように感じる。
ひとしきり拗ねた後の、はにかんだような笑顔を思い出して、何だか無性に悲しくなった。
「それにしても……大胆なトリックだったな。 なぁ、真紅。 一体いつから入れ替わりを疑ってたんだ?」
「言ったでしょ。 最初からよ。 あの子が戸口に姿を現した瞬間に、もう分かっていたのだわ。」
何だって? いや、確かに僕も違和感を感じはしたけれど。 それにしたって、姿を現した瞬間だなんて。
少し見栄っ張りが過ぎやしないか? 僕は、意地悪く聞き返してやる事にした。
「そりゃあちょっと言い過ぎじゃないですか、名探偵さん? 私めにも分かるよう、筋道だった説明をお願いしたいもんですねぇ。」
真紅は心底哀れんだ目で僕を見ると、溜息混じりに言ったのだった。
「本当に本気で言ってるのかしら? あのね、ジュンくん。 そうめんは喋ったりしないのよ。」
<完>