06/05/22 06:51:00 s2zaLcVp
「翠星石は、ケンカとか嫌いですから。 絆パーンチ!とか、そういうのは無理です……けど。」
たどたどしく喋る翠星石は、いつになくしおらしくて。 僕は茶化す事ができなかった。
そして彼女が差し出したのは、手作りのモンブラン。 示す所は一つ。 これは昼間のリベンジなのだ。
「……き………絆モンブラン、です。 ありがたく噛み締めろ、です……。」
何かを怖がっているような、弱々しい瞳。 まるで出会った頃のようなその姿。
いつまでもそんな顔を見たくなかったからだろうか。 僕は、無意識の内にモンブランに手を伸ばしていた。
「ど……どうですか?」
「………甘ぁ。」
僕に合わせて、甘さ控えめに作ったのだろう。 それでも僕には、やっぱり鬼門の甘さだった。 ……けど。
「……でも悪く、ない。 うん。 ………………………美味いよ。 サンキュ。」
碧のゆらめき、緋のしずく。 彼女の瞳はみるみる潤み、破璃の涙が頬を伝った。 うん。 もう仲直り。 うん。
……れしい、です……。 え? 声が小さくてよく聞き取れない。 顔を近づけると、パタパタと手を振って慌しく彼女が言う。
「で、でも、本当に大丈夫だったですか? 本当は無理してるとか……。」
ったく。 泣き虫。 泣くなよ。 笑えって。 今、僕に出来る事。 膝の上にひょいと翠星石を抱き上げた。
「そんなに心配なら、自分でも食べてみろよ。 ほら、あーん。」
え。 え。 え。 いきなりのできごと。 にびに煌く優しいお誘い。 見つめる私はパンク寸前。
耳はガンガンうるさいし、私が薬缶なら今にも吹き零れてしまいそう。
だ、だって……このスプーンは今、ジュンが使ってて……コレで食べると言う事は……つまり…………。
私が私に押し問答。 頭の中は堂々巡り。 食べますか? 食べませんか? 今なら甘ぁいオマケが付いてくるかもです。
少しの沈黙。 ……おずおず。 はくり。 もくもくもく。 こくん。 モンブランが喉を通り過ぎてゆく。
「な? 美味いだろ?」
こくこくこく。 ほんとは、味なんて、全然分からなくて。 茹で上がったこの顔じゃ、とても彼の方は向けなくて。
あぁもぅまったくこの鈍感。 やられっぱなしじゃ収まらなくて。 彼の指からスプーンを取ると、私もケーキを一掬い。
はい、あーん。 湿り気を帯びた銀の輝き。 その煌きの意味する所に、ようやく彼も気付いたようで。
二人して、耳まで真っ赤になって。 ちょっと顔を見合わせて、すぐそっぽ。 あぁ。 もう確かめるまでもないくらい。
これは絆。