【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】at ANICHARA
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】 - 暇つぶし2ch550:ぴんはっ(3)
06/04/29 03:52:19 nTwIXXBI

翠星石は風呂の中で、かなりのぼせたらしい赤い顔で、湯船の中に首まで浸かっていた
風呂場には少しでも使うと怒られるのり専用シャワーソープの、椿の匂いが充満している

「あの・・チビ・・・・チビ人間・・・・その・・・チビ・・・・隠したら?・・・・」
別に子供相手に隠すものなど何もないので手ブラで風呂場に入ったが、翠星石は背中を向ける
「うっせーな、ほら入るからつめろ、端につめろ」 両足を抱えてダルマ状態の翠を押しやった
湯船に浸かり、僕がいつも通り「森の石松」を唸り始めると、黙って体を抱えていた翠星石が口を開く
「チビ人間・・・ジュン・・・ジュンはわたしのこと・・・・嫌いになっちゃったですかぁ・・・?」
「嫌いじゃない、それよりここからがシブいんだ、聞け!」二代目広沢虎造の名調子を聞かせてやった
湯船から上がると、かけ湯が苦手な僕は熱いシャワーを出し、薬局の安物シャンプーで頭を洗い始めた
「チビ人間・・・ひどいですぅ・・・わたしを子供扱いして・・・蒼星石より、真紅よりお姉さんなのに・・・」
「相撲甚句」を唸りながら頭を洗う事に集中した、また何かすねてるな、としか思わなかった
「真紅より・・・蒼星石より・・・・ジュンを・・・・男だと思って・・・・ジュンのことを・・・」
洗い終わった頭を振って目を開けると、目の前には翠星石の体があった、湯船から上がった翠星石が居た
「ジュン・・・わたしは・・・子供ですか?・・・わたしが嫌いなジュンは・・・女だと思ってくれないですか・・・」

僕は、すこし震える手でシャワーのコックを持ち、冷水に切り替えたシャワーを翠星石にブっかけた
「バーカ、色気づいてるんじゃねぇ!その貧相な球体関節バディをしまえ!・・・その・・・危ないだろ?」
のぼせて甘ったれてる翠を飛び上がらせてやった、僕の「チビ」も少し冷ます必要があったし
「ひぁっ冷ゃっこい!こ・・・このチビ人間!何するですか!この変態!意地悪!チビチンチン・・・バカぁっ・・・・」
翠星石は僕に怒り狂いながら体当たりしてきて、そのまま裸の体をしがみつかせた、熱い、芯まで熱い
何か聞き捨てならないコトを言ったような気もしたが気のせいだろう、気のせいじゃなきゃ熱のせいだ
「お願い・・・ジュンに可愛がってもらうまで・・・・・お風呂から出さないです・・・お願いです・・・
一生・・・ずっと・・・このままで・・・このままチビチ・・・ジュンを・・・お風呂で蒸し焼きにするですぅ」

僕や僕のチビが翠星石焼ビビンバになるのも困る、僕は翠の熱い体、両肩に手を添えた、皆、真紅・・・すまん
翠が唇を突き出し、目を閉じる、そして・・・翠星石に・・・キスをした・・・もう戻れない・・・真紅・・・許せ


551:ぴんはっ(4)
06/04/29 03:53:38 nTwIXXBI

キスの時に舌を入れる事を知らない翠星石は、キスの間中、唇を「ちゅう」の形にしたまんまだった
「翠・・・今日は、これまで!わかるだろ?、僕らは今はここまでしかダメなんだ、キスはイヤかい?」
裸で迫ってきた翠星石はというと、僕がキスをしただけで、翡翠と瑪瑙のヘテロ・アイズをぐるぐる回し
そのまま棒のようにバターン!と後ろに倒れた・・・こういう時、男はどうすれば?・・・お姫様抱っこで
介抱すればいいんだろうか?・・・考えた結果、僕はケロリンの桶に冷たい水を汲み、翠星石にブっかけた
心はデリケートなドールだけど、体はラグビーのフォワードのように丈夫だって事は今までの付き合いで
知っているつもりだった、チャージを食らってノビたフォワードには、ヤカンの水をブっかけるに限る

「っきゃぁ!ちべたい!ちべたい!冷たいですぅ!何してくれてんだこのチビ人間!バカバカバカぁ!」
ローザ・ミスティカがもしもCPUのような精密機械なら、熱暴走した時はやっぱ空冷より水冷だろ?
一瞬で飛び上がった翠星石は僕の胸を拳でドンドン殴り、そのまま握り拳を僕の背中に、ぎゅっと回した

「ジュン・・・みずはつめたいです・・・・・」
「うん」
「ジュンはあったかいです・・・・」
「そうさ」
「翠星石は、あ、あついです・・・・・」
「そうだな」

一日に二回、いや三回の水責めを食らった翠星石はまだ熱暴走中だった、きっと長湯のせいじゃない
彼女を創った人形師ローゼンはなぜ頭にアルミのヒートシンクでもつけてやらなかったんだろうか?
頭のレース布がそれなんだろうか?、そういえばドール達は皆、何かしら被り物をお召しになっている

「もう、上がろうか?」
「また・・・・・・・・一緒に・・・・・・・・おフロ入って欲しいですぅ・・・・・・・・・・・」
「また今度、また、今度、な」

また今度、な・・・・・・言葉で出来る約束はそれまで・・・僕らはもう、言葉じゃない約束を交わしたから・・・



552:ぴんはっ(5)
06/04/29 03:54:26 nTwIXXBI

翠星石を先に上がらせ、僕も湯上りの気持ちいい体で「爆弾三勇士」を唸りながら翠の待つ居間に向かう

風呂上りの翠は、自分の深緑のドレスを着ていた、幾年も着続けた物なのになぜか窮屈そうに見える
僕は日向干しした洗濯物を背中に隠して翠星石を鏡の前に連れていき、髪にドライヤーをかけてあげた
鏡に映る翠星石、洗い髪のせいか少し艶っぽく見える、確かに真紅達よりお姉さんだ・・・ほんの少しね
栗色の髪を僕に委ね、夢見るような瞳をしている鏡の翠星石の前に、若草色のエプロンドレスを当てた
「ジュン・・・・これは・・・」
「さぁ、着てみな」

翠星石はエプロンドレスを身に纏い、自分で自分の体を抱きながら、うっとりと目を閉じている
「お日さまの・・・・匂いですぅ・・・・・」

「翠星石、この服は「魔法の服」なんだ、一回洗うとヨロヨロになるような安物のレース服とは違う
厚手の、とびきり上等な木綿布をたっぷりと使ってるから、何十回洗濯してもビクともしない、
破れても繕える、サイズが変わってもお直しできる、たとえ擦りきれたってリフォーム出来る」

翠星石が体をひん曲げながらドレスのタグを読んだ、タグを残してくれた縫い手には感謝したい
「・・・・ピンク・・・・ハウス・・・・・」

「翠星石、この服はね、時が経ち世界が変わっても、ずっと少女のままで居る少女達のために
いつの日か、少女が自分でお金を稼ぐようになった時のために、ボーナスを注ぎこんで買えるように
イサオ・カネコっていう人が作った夢の服・・・ピンクハウスは・・・何度でも蘇る魔法の服なんだ」

そうさ、魔法さ・・・人間の魔法、少女への憧れが創った魔法、少女は、その存在そのものが奇跡なんだ


553:ぴんはっ(6)
06/04/29 03:55:23 nTwIXXBI

少女は自分を包む若草色のドレスを、腕や胸を掌で撫でた、呼び戻された魂を、魔法を確かめるように

「翠星石、何があっても僕に任せろ、汚れたら洗って、破れたら縫ってやる、直してやる
何があっても・・・翠星石がどうなっても、僕に任せろ、僕が必ず、魂を呼び戻す」

翠星石の瞳から涙がこぼれる、ぱたたたた・・・と頬を伝い、顎から滴り、ドレスに染み込んだ
今日4回目の水責めにカウントするか、きっと翠星石は水の星の下に生まれたドールなんだろう

翠星石は突然僕を振りほどき、手の甲で顔をぐいと拭うと「チ、チビ人間にしては上出来ですぅ!」と
叫び、そのまま若草色のエプロンドレスを翻して走り去った、ドアから出る間際、一瞬こちらを見ると
何も言わず廊下を走り去った、僕らはまた、何か言葉にならない密やかな約束を交わしたような気がした

その時、出かけてたはずの真紅が絶妙のタイミングで、別の入り口から居間に入ってきた、ドキリとする
別にやましいことをしていた訳じゃないが見られなくてよかった、真紅は訝しげに僕の匂いを嗅いでいる
真紅は険しい顔で僕を見て一言「だらしないわよ」、考え事をしていた僕はにやけた顔をしていたのかも

翠星石は夜、寝る時にはまた甘ったれてくるんだろうか、それなら・・・それでもいい、一緒でもいい
水遊びが過ぎて寝小便でもして、本日五度目の水責めを食うのもカワイソーだし・・・おねしょは火遊びだっけ?
まぁその時はまた洗濯機で洗ってやるよ、そのドレスを何度でも綺麗に洗ってやる、中身ごと洗ってやる
翠星石、水のドール、水はぶっかかると冷たいものだけど、キタナイ物を洗って蘇らせるのも、水なんだ

濡れても、汚れても、破れても、少女は決して終わりなんかじゃない
繕ってシミを抜いて「お直し」をして、水で洗って、キレイにして

少女は、何度でも蘇る


ぴんはっ!(完)


554:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/29 03:57:34 nTwIXXBI

あとがき

登場した服の詳細については、いくつか架空の記述もあります、ご了承ください
(金子いさお氏は奥さんに似合う服を作りたい一心でピンクハウスを作ったそうです)
あと、今回初めて「取材」をしました、おウチの洗濯機とお風呂を調査しました
最後に、ボクの女のコ服への乏しい知識を補足してくれた友人に礼を言っときます

では、今回はこれで
                                  吝嗇



555:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 04:36:40 DLpJ0c3R
ジュン・・・頭の上から冷水を何度もぶっ掛けるとは
何故だw

GJ!

556:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 09:09:18 Om3Rt+A7
流石翠星石、ドールズ達の中でも群を抜いてツンデレだぜぇ!
そこに痺れる、憧れる~~~!!

557:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 12:35:06 IcRcY0V4
GoooD・J!!!
ピンクハウスだとかジェーンマープルだとか書かれると(書いてないって)
イメエヂが沸いてきてしまうので不思議ですねぇ。
しっかし、森の石松たぁ、渋いねェ兄さん。スシ食いねェ。
というか、翠とジュンの掛け合いがソレを踏まえての推移なのかいな?
などと途中で思いつき、このオチはきっと
「バカはァ~死ななきゃ~なおらないぃ~」だ!などと妄想してしまいましたとさ。
しかも爆弾三勇士ときましたか…二曲あるから(廟行鎮の敵の陣~と、廟行鎮の夜は明けて~)
どっちかはワカラねど、鎮(チン)という歌詞が妙に気になったり気にならなかったりww。

それにしても、お風呂ネタですかぁ…
熱いシャワーとか冷水ぶっ掛けとか、やろうとしてた事、結構やられちゃったよ。
おいらは今から後編書きなおさなきゃ…というか、前後編に分けるんじゃなかった…。

558:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 13:40:22 xkKPZBhT
うおおおお!
GJです!翠の子がかわゆすぎる…
しかしここでピンハ創立の裏話を知る人がいるとはw

>>547
ジェーン知ってる男の人って凄いですね。
口調から察するに、コルベ神父の話の方ですか?
金銀入れ代わりも楽しみにしてますよーノシ

559:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 13:42:02 xkKPZBhT
レスアンカー間違えたorz
正しくは>>557宛です。

560:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 17:38:32 jxMTgTHa
>>554
何故か深い悲しみと情熱を中に感じた
GJ

561:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 19:32:23 IcRcY0V4
>>558

そうでーす。
コミケなんかでヘタレな同人マンガ描いてたりするもので、
そっち方面とかチェックしとかないと
妄想力が貧困だから絵が描けないの…orz


562:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 15:57:47 q3ZsPKGt
それでは、金銀入れ替わりの後編を投下です。

>>481

一方みっちゃんは…バスルームに一人全裸で壊れ気味。
「カナに…カナに嫌われたぁ…くすん」
とか言いながら、心ここに在らずという感じで大量の石膏をこねくり回していた。
心も体も真っ白である。
悲しみの余り珍妙な巨大石膏オブジェが完成されようとしている。
それは、『ミとッとキーとマとウとス』が付く危険な記号を秘めたオブジェであった。

そこに水銀カナが戻ってきた。
無表情の奥に復讐の念を秘め、金糸雀のミーディアムに襲い掛からんとする水銀カナ。
「さっきはごめんなさぁーい、一緒に楽しい事しましょぉねぇ」
優しいような、甘いような声がみっちゃんを誘う。
「カナ?」
瞬時に反応するみっちゃんの見えない尻尾がピンと立つ。
バスタオル姿のまま喜び勇んでバスルームの外に出ると、鏡台の傍らで金糸雀が待っている。
「ああっカナァ!帰ってきてくれたのねぇぇぇ!」
犬の様に駆け寄るみっちゃんの顔は、喜びの涙と鼻水で緩みっ放し。しかも両手は石膏で真っ白状態。
バスタオルで谷間の強調された少し大きめな胸が、ぷりんぷりんに揺れている。
*お見せできなくてすみません。
その狂喜の顔にこもるみっちゃんの気迫に、水銀カナはびびり気味。
この状態で抱きつかれたら、きっと胸に押し潰されて身動きも取れず、
みっちゃんの成すがままくしゃくしゃにされてしまうであろう。堪った物ではない。
水銀カナの背筋に寒いものが走る。
『抱きつかれる前に決めてやるわよぉ、覚悟しなさぁい』
冷や汗を流しながら気合を入れなおすのだった。


563:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 15:59:07 q3ZsPKGt
その時、消えていたはずのTVにノイズが走った。その現象に気づいてみっちゃんは立ち止まる。
ザザザザザザザザ――という雑音の後に
ブラウン管から銀色の髪を振り乱した人間?がずるずると這い出してくる。
みっちゃんの脳裏に甦る、とある恐怖映画の一場面。
「ひいいいいえぇ―――!貞子っ!?」
腰を抜かしてひっくり返るみっちゃん。それは、水銀燈の意図を察知して戻ってきたカナ水銀だった。
まさに間一髪のタイミング。
「危ないみっちゃん!!そのカナはみっちゃんの命を狙っているかしら!!」
しかし、みっちゃんから見ればこの場合、『あんたの方が怖いわよ!』と突っ込みを入れたくなるのが必定。
気が動転し、あたふたと慌てふためきながら屋外に逃げようとする。
もちろん全裸で。
「みっちゃん、ちょっと落ち着くかしら、何もしないから!」
水銀カナが口元に笑みを浮かべながら二人の会話に割って入る。
「あらあら、その子は危険よぉ、見ず知らずのドールなんか信用しちゃダメよぉ」
「みっちゃんだまされちゃダメ!!そいつはカナであってカナではないのかしら!!」
カナ水銀は、みっちゃんの側に駆け寄ると、挑発する水銀カナを睨み返す。
事態がさっぱり飲み込めないみっちゃんは、カナと水銀燈を交互に見ては、目をしばたかせている。
「何を言ってるのかしらぁ、私はミーディアムと遊びたいだけよぉ~」
「水銀燈!あなたの考えなんて、お見通しなんだから!」
「ふふん、だったら止めてみなさいよおばかさん、できるものならね」
水銀カナは二人の方向に歩み始める。だが、ミーディアムを守ろうとする金糸雀の決意は何よりも強い。


564:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:00:07 q3ZsPKGt
「みっちゃんに何かしたら承知しないんだから!力を使い果たして壊れてやるんだから!!」
毅然としたその言葉に水銀カナの足がぴたりと止まる。先程までの不敵な笑みが困惑の色へとみるみる変わる。
「な!?あなた何を言ってるのか解っている訳?」
今の金糸雀なら本当にやりかねない、攻撃の手段を封じられた水銀カナには、それ以上なすすべが無い。
自分の体とめぐを人質に捕られた様なものである。
「カナはみっちゃんを守る為だったら何だってするんだから―っ!!!」
みっちゃんの為なら壊れることなど覚悟の上である。金糸雀の言葉には、ミーディアムを思う気持ちが強く溢れていた。
思う気持ちは勇気と力を生み、対峙する相手の心にも何かしらの変化を与えるものである。
が、その言葉に劇的に変化したのは、当の水銀燈ではなく、みっちゃんの方だった。
もはや、みっちゃんのハートは完全に撃ち抜かれていた。
カナ水銀をガバッと抱きしめ、みっちゃん必殺のまさちゅーせっちゅで攻撃開始。
「うわぁぁぁぁぁ!!なんて健気な子なのっ!カナも素敵なんだけどこの子も好いわっ!!
ね、ね、一緒にここで暮らさない?というか、うちの子におなりっ!ね、ねっ?」
水銀カナのほっぺたを、ものすごい勢いですりすりし続けるみっちゃん。
こうなったらもう、嫌と言おうが何と言おうが放さないだろう。
「も、ちろん当然かしらぁ…って摩擦、摩擦ぅっ!」
「ああっ、かあいいわぁっ!さだこ(仮)ちゃーん!!」
勝手に名前まで付けられ、2人の世界は桃色に染まる。
みっちゃんのバスタオルは床にはらりと落ち、もはやあられもない姿で仁王立ちである。
*本当にお見せできなくてすみません。
そんな中、いつの間にか忘れ去られている水銀カナは、2人の世界について行けずにボーゼンと成り行きを眺めている。
「こいつらって…いつもこんな事やってるの…」

565:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:01:26 q3ZsPKGt
もわーんとしたラブな世界がしばらく演じられた後、更なるラブへのステップが始まろうとしていた。お風呂タイムである。
「うふふ…ちょっと汚れちゃったわね、お風呂にはいって綺麗にしましょうね~」
二人の世界は夢の中。みっちゃんの涙や鼻水や石膏まみれの手でくしゃくしゃにされたので
ちょっとどころの汚れでは無いのだが、確かめ合った二人の絆の前ではそんなことは些細なことなのである。
思考が停止していた水銀カナが我に返る。もはや第三者扱い。
何でお風呂?という突っ込みを入れる間もなく、カナ水銀は早くも服を脱ぎ始めていた。
温泉ぽくて面白そうなバスルームに、ルンルン気分でもう入る気満々。
自分の体が人前に晒される、もとより自分の体にコンプレックスを感じている水銀燈にとって、それは屈辱にも等しい行為だった。
「やめてよぉぉぉ!私の体を弄ばないで!!」
咄嗟に駆け出して止めようとしたものの、足がもつれて勢い良く2人に体当たりした水銀カナは
そのままみんなを巻き込んで『とてもじゃないが言葉で言い表せないネズミオブジェ』に突っ込んだ。
バスルームに大轟音が響き渡る。
『とてもじゃないが言葉で言い表せないネズミオブジェ』がクッションとなり、大事には至らなかったものの、
2体のドールは下着姿のまま、つぶれたカエルの様にそのボディににめり込むのだった。
ど根性なんとか風。
「やったわねぇ!」
めり込んだ顔を引きはがし、金糸雀は水銀燈に掴みかかる。
水銀燈も感情を抑えられずにこれに応じ、
あらん限りの罵詈雑言の応酬の果てに、髪を引っ張ったり噛み付いたり引っ掻いたりと、
両者ともに半裸状態のままで、取っ組み合いの喧嘩が始まった。

みっちゃんは、倒れた瞬間に頭をシャワー水栓にしこたまぶっつけて気を失ってしまい、
『デンジャラスキャラクターの首』は、あらぬ方向にねじ曲がってひしゃげ、
その歪んだ顔には、みっちゃんの大きなお尻がスタンプされて、鼻がくっきりとへこんでいた。
あらゆる方面で危険なオブジェの完成である。
全裸でのびるみっちゃんを放ったらかしにして、低レベルな戦いは夜半まで続く。
いつの間にか元の体に人格が戻っていた事にも気付かずに、半泣きになりながら不毛な猫の喧嘩は白熱してゆくのだった。


566:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:02:31 q3ZsPKGt
水銀燈はフカフカなソファーに座って、みっちゃんに髪を梳かれている。
水銀燈の服はみっちゃんが手洗いして現在乾燥中なので、代わりに真っ白なビクトリア調のドレスを着せられていた。
水銀燈は部屋一杯に香るリンスの匂いの中で、清楚な白いレースドレスの裾を持て余しながら、
鏡台に写る自分の顔をみては少々赤くなったりしている。
みっちゃんの趣味により、一連の着せ替えを笑顔で強要され、水銀燈は今だけ黒から白へと変身を遂げている。
「ほらほら、銀色の髪こんなに綺麗よ、ああん、サラサラの長い髪って良いわぁ~」
その言葉にふと振り向いた瞬間、ニコニコ顔のみっちゃんと目が合った水銀燈は、慌てて目をそらし前を向く。
勢いに乗ったみっちゃんが水銀燈の髪を編み編みしはじめた。
良い様にいじくられる中で、水銀燈は黙ってうつむきながら小さな声で自問自答するのだった。
「なんで私、あんな事したんだろう…」
おとなしく座る水銀燈を良い事に、みっちゃんの髪いじりは徐々にエスカレートしてゆく。
おさげ、おだんご、ポニーテールにツインテールと、パトスのままにやりたい放題。

あの後、意識を取り戻したみっちゃんの仲裁で、その場は何とかとりなしたものの、
結局3人でお風呂に入り、体を洗ったり、シャンプーしたり、仲良くバスタブに浸かったりしてしまったのだ。
髪もくしゃくしゃだったし、体もかなり汚れていたので仕方なく付き合ったのだけど
その事を思い出すと、恥ずかしさの余り湯気がでる程に顔が火照ってしまう。
こうなると普段の強がりもどこかに消えうせて、ずいぶんしおらしくなってしまうものである。

金糸雀は何事も無かったかのように、湯上りの牛乳を飲んでいる。
「あ~、やっぱりお風呂上がりに牛乳は欠かせないかしら~」
すかさず金糸雀をくすぐり笑わせ始めるみっちゃん。
「カ~ナァ~、コチョコチョコチョコチョ」
「ぶふっ、むははははははは、やめてみっちゃん~」
思いっきりみっちゃんの顔に牛乳を噴出す金糸雀。みっちゃん自業自得。
そんな光景をぼんやり眺めながら、今の笑顔の裏にある、あの時の金糸雀の決死の表情を思い出し、
きっと自分と違う大事なものを見つけたのだろう。と、そう感じるのだった。


567:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:03:36 q3ZsPKGt
「さー、今日はみんなで一緒に寝るわよ―!」
夜中にもかかわらず、妙にハイテンションのみっちゃんが、唐突に
「え?…ええーっ!!」
「ふふふっ、さだこちゃん、お泊り会は友達の第一歩よ!」
シドロモドロの水銀燈に、根拠の無い自信を持ってきっぱりと言い切るみっちゃん。
「……」
すっかりペースに呑まれて威勢を削がれた水銀燈には、もう名前の訂正も反論する気力も残っていない。
終始「みっちゃん(攻)×水銀燈(受)」の状態で、夜は更けて行くのであった。

やがて金糸雀とみっちゃんは眠りに付く。初めての経験になかなか寝付けない水銀燈は、
寝返りを打ったみっちゃんに抱きつかれ、お風呂で見たみっちゃんの裸を思い出して真っ赤になる。
静かな夜の奇妙な安らぎの中、ふと病院に残しためぐを思い出し、水銀燈はみっちゃんの部屋から抜け出した。
二人の寝顔を少し見つめた後、煌々と照る月明かりの中に飛び去っていった。

こうして不思議な縁が交差して、一日がかりで紡ぎあげられたパッチワークは終わりを告げた。


568:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:04:44 q3ZsPKGt
「やっぱり帰っちゃったのね…」
いつもの様に爽やかな朝が到来した。
みっちゃんと金糸雀は一緒に歯磨きをしながら、水銀燈の事を話し合っていた。
「んーでも、壊したみっちゃんの作品を直していくなんて、ちょっと見直したかしら」
金糸雀は、昨日壊れたはずの危険なオブジェが、ちゃんと直されてるのを見つけて感心していた。
へこんだ所を新たに石膏で埋め、曲がったところを直しただけの、完璧な修理ではなかったけれど、
それでも、気持ちというものは伝わるものである。
「…ねぇみっちゃん、それでこの像って一体何なのかしら?」
みっちゃんにしてみれば、単に妄想で作っただけの産物に過ぎず、意味なんて全く無い。
楽しい事を想像してワクワクする金糸雀の瞳に見つめられて、みっちゃんはしばし言葉に窮する。
本当に禁句を言わせたいのかよ、金糸雀?
「えー、あの、その…アレよ、アレ!」
「アレ???」
「そう、アレよ…こんど一緒にその遊園地にでも行きましょうか」
そんな風にみっちゃんが誤魔化していると、ピシピシ…と言う音と共に『アレ』の補修跡にヒビが入りはじめ、
水銀燈が直した石膏がポロポロ剥れ落ち、バランスを失った『アレ』は倒壊して粉々に砕けてしまった。
その残骸の中からは、半裸状態で乱闘していた時にめり込んだ金糸雀と水銀燈の石膏型と、
みっちゃんが尻餅を付いた時のお尻の型が、二人の前にきれいにぽろりと転がったのだった。
歯ブラシを咥えて呆然とする二人の前で、出来たばかりの金糸雀と水銀燈の石膏型は、
一夜の心の交流を確かめ合うかのように、みっちゃんの大きなお尻の石膏型を
仲良くお触りしていたのだった。


隣人に愛を、人類に平和を、ラブ&ピース。
もう収拾つかないので強引におわり。
お風呂バトルの書き直しキッツ―  orz


569:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:41:57 +2uYE18p
>>568
笑った
和んだ
GJ!!

570:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:48:31 0E8ZGI/a
銀様やさしいよ銀様

571:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 19:16:50 Xesr46ND
>>562-568
ミーディアム思いのカナとしおらしい銀ちゃん萌え
オチワロタ

572:薔薇乙女戦争
06/04/30 20:28:56 hS6F9Y25
>>542

「逃げるわよッ」
 真紅がそう言うのと同時に、花びらの盾が霧散して消えた。金糸雀の休む間もない攻撃に力負けしてしまったのだ。
 執拗な砲撃に曝された二人は、みっともなく見えるくらい必死になってかわす。
 かわされた空気の砲弾が硬く凍った大地を掘る。こんなのを一発でも喰らったら怪我では済まない。必死になって当然だ。

 真紅はいきなり追い詰められていた。見晴らしのいい平原で逃げ回っていても埒が明かない。彼女は賭けに出る事にした。
「ジュンはここで見てて」
 真紅はジュンから離れて戦う事を告げる。マスターと距離を取れば、ドールに攻撃を集中してくれると考えたのだ。
 彼が何かを言おうとする前に、真紅は金糸雀に向かって駆け出した。

「く、来るのかしら―ッ!!」

 防戦一方から転じて反攻してきた真紅にやや焦る金糸雀。
 バイオリンでの攻撃は近接戦闘に向かない。あの大きな楽器を持って殴り合いはできない。近寄らせまいと真紅に集中砲火を浴びせる。

 しかし、真紅には一発も当たらない。彼女は確実に砲撃の軌道を見切り、虚しく外れた弾が雪煙の柱を無数に立たせた。
 あっという間に距離を詰められ、金糸雀の瞳が恐怖で震える。
 真紅の顔が手の届く位置にある。そして、彼女の手は攻撃のために固く握り締められている。絶対に殴られる!

「ヒィッ……!!」

 悲鳴を上げた瞬間、殴られたのは真紅だった。
 金糸雀の視界の左から凄まじいスピードで細長い腕が割り込み、真紅の右頬をぶち抜いた。
 もんどりうって地べたに激突し、数十メートルは雪上を転げ回る。殴られた真紅も何が起こったのか判らなかった。

573:薔薇乙女戦争
06/04/30 20:30:05 hS6F9Y25

「真紅ッ!!」

 ジュンが彼女の名を叫び、血相を変えて助けに向かう。
 吹っ飛ばされた真紅は両手を付いて起き上がろうとする。が、ダメージが深いのか、その動作も鈍重で覚束ない。
 長い助走を取り全体重を掛けた拳にカウンターを合わせられたのだ。その破壊力は凄まじいの一言に尽きる。立てなくても無理はないだろう。
 渾身の一撃を間近で見た金糸雀は、その破壊力の大きさに怯えを隠せなかった。殴っただけであれだ。助けが無かったら、地べたにへばりついていたのは自分だった。

「た……助かったかしら。一応、礼は言っておくわ」

 薔薇水晶は金糸雀の礼には関心が無かった。真紅が思うように動けない今がチャンスなのだ。すかさず彼女は追い撃ちへと向かう。移動の間際に水晶の剣を創って手にする。

 真紅の所には先にジュンが駆けつけていた。だが、そんなものは関係ない。まとめて斬り伏せてしまえばいい。薔薇水晶は勢いをそのままに剣を振りかぶる。だが、彼女の考えは甘かった。

「―何ッ!?」

 薔薇水晶の驚愕の声が上がる。アメジストの剣が硬い壁に阻まれて止まったのだ。彼女はとっさに真紅を見る。まだ立つのがやっとの状態で、何かをしている様子はない。
 では、この力は?
 ジュンが真紅を庇うように背を向けていた。そして、薔薇水晶は彼の指輪が際立った光を放っていることに気が付いた。ルビーよりも鮮やかな紅い光が目に熱い。

「ミーディアムが力を行使していると言うの!?」


574:薔薇乙女戦争
06/04/30 20:31:47 hS6F9Y25
 それは、本来ならあり得ないイレギュラーだった。ミーディアムは薔薇乙女にエネルギーを送るパイプラインでしかない。薔薇の契約を交わしてもドールの能力は手に入らない。それなのに、ジュンは真紅が汲み上げた力を操れていた。

 驚く薔薇水晶の一方で、ジュンはただ必死になっているだけだった。
 真紅を守ると約束した。二度と翆星石の時のような思いはしたくない。
 その一念が彼を突き動かしていた。

 守ろうとする強い想いが少女に流れ込む。少女の中で彼の存在がどんどん大きくなっていき、体中に力がみなぎる。マスターとの絆が深まるほど、ドールはより強くなれる。

「もう大丈夫よ、ジュン」

 真紅が地をしっかり踏みしめて立ち、剣に対抗してステッキを手に取った。
 今は誰にも負ける気がしない。
 彼女は薔薇水晶に向かって突進した。



575:薔薇乙女戦争
06/04/30 20:33:05 hS6F9Y25
 杖と剣が高速でぶつかり合い火花を散らす。二人の斬り合いは常識外れの動きの連続だった。傍からでも見るのがやっとの剣筋を二人は的確に捉えて打ち落とし、場合によっては体の動きで避ける。

 ドールズの本気の戦いは、その体の大きさに似合わず迫力があった。人間のジュンは見守ることしかできない。しかし、金糸雀は違った。彼女も同じドールなのだ。

「この時を待ってたかしら」

 不敵な笑みを浮かべてバイオリンを構える。そして、大きく深呼吸して目を伏せた。

「最終楽章、薔薇人形へのレクイエム」

 ゆったりとした演奏が始まり、周辺の大気が静まり返る。
 今度は先程のような騒音ではなく、重厚と言える曲だった。彼女のバイオリンの腕前は確かなのだ。
 しかし、それは嵐の前の静けさ。
 演奏の盛り上がりと共に一帯の空気が震え、次第に円を描いて流れ始める。



576:薔薇乙女戦争
06/04/30 20:34:23 hS6F9Y25
「この風は?」
 剣を交えていた真紅の手が止まる。
 だが、気付くのが遅すぎた。すでに金糸雀の術中に嵌っていたのだ。
 真紅は薔薇水晶諸共、巨大な竜巻の中に閉じ込められていた。金糸雀は二人まとめて葬るつもりなのだ。

 金糸雀は薔薇水晶と手を組む前から、この時を待っていた。真紅と薔薇水晶がやり合っている間の漁夫の利を狙っていたのだ。
 ドールを確実に負かすには出来得る限りの大技を使いたい。だが、大技は発動までに時間が掛かる。それで、足止めを兼ねて薔薇水晶を引き込んだのだ。
 真紅が二つのローザミスティカを確保したと薔薇水晶が知れば、金糸雀が最初に狙われる公算が高い。その回避も含め、金糸雀は一石二鳥の作戦を立てたのだ。

 薔薇水晶も仲間の裏切りを察知して攻撃の手を休めた。
 金糸雀とはこの場限りの同盟なので、それほどのショックはない。しかし、この状況は不味すぎる。

「貴女も危険なのではなくて?」
「そのようです」

 落ち着いて会話を交わす真紅と薔薇水晶だが、実はかなり焦っていた。お互い、敵の前では弱味を見せられないだけだ。
 話している間にも暴風の壁は着実に迫る。あんなのに巻き込まれたら、手足がもがれて壊れた人形になってしまう。正面から突っ込んで突破する気は起きない。しかし、周りを何度見ても逃げ道は無かった。



つづく

577:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 21:05:53 ar78Bnm1
GJ!
続きが気になります……が、

「あべこべろ-ぜんめいでん」の続きはありますか?
「薔薇乙女戦争」の勢いが強いので流れ的にお蔵入りしそうで怖いんですが。

578:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 22:35:31 IA5ti9lF
>>576
乙!
こちらのカナは頭使って動いているな

579:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 23:28:56 4pv+0f6v
>「そのようです」
冷静さを装ったにせよ
絶体絶命の状況下でそんな台詞が出るとは
さすがだねw

580:14行縛りの人
06/05/01 00:32:16 nMV01t4d
なんとなく、バロン西とウラヌスを担ぎ出してみたくなったのだけど
話が巧くまとまらない(つД`)
てか、薔薇乙女の誰を絡ませるべき? お知恵を拝借いたしたく。

581:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 00:41:04 BrZ9CVyr
>>577
大丈夫じゃないかなぁ。
元々、こっちの方を先に書いていたんだし。
途中で放り出すような人じゃないと思う。

582:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 12:37:14 9FgggFtp
>>580
やりようによっては何でもアリだと思う。
バロン西繋がりで思い出したけど
血闘絶対防衛圏というKKノベルでもバロン西が日本版ヘッツアーを指揮して
サイパンで南雲中将と一緒にハルぜーの首取ったり、メイドさんや巫女さんが出てきたり
っていうのも商業で通用するくらいだから。
というか、バロン西の場合、舞台を欧州にするか南方戦線にするかで大きく違うけど。

583:14行縛りの人
06/05/01 12:52:43 nMV01t4d
>>582
ベルリン五輪のあたりを考えてます。

584:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 13:21:56 7jNJ3Yc8
ドイツあたりなら水銀燈が適任のような
真紅はソヴィエト前のロシアかイギリスというイメージがあるし
翠蒼はなにか日本ぽい属性が強い

585:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 17:56:24 /UgHVQoV
下手に軍事系に手を出すなよ。
軍艦ヲタ暦十年の俺の逆鱗に触れることになるからな。

586:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 18:03:45 2qXJRdI7
キムの昔のマスターは山本五十六連合艦隊司令長官に間違いない。

587:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 18:35:49 9FgggFtp
金糸雀だったら李香蘭とか甘粕とか、満映を思いつくがなァ…。

588:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 20:24:42 /UgHVQoV
どうでもいい話だな下らない。

589:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 22:54:44 Rtihltx0
キムの元マスターは牟田口中将。


590:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 23:10:08 V6boKfq4
じゃあ真紅はトム・フィリップスか
誰も知らないと思うけど

591:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 23:18:01 HUF25sNt
あれ?ここ軍板だったのか?

592:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 23:19:13 mpBaxMYp
じゃジュンとメガネつながりで翠は摂政宮殿下ねw


593:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 00:09:19 K5dXLg9A
だから軍オタは嫌いなんだよ

594:熊のブーさん
06/05/02 00:55:11 PXBRloGQ
久しぶりに投下。
色々パクってますが、この際開き直ります。
これからも色々パクるので今後は「パクリのブーさん」と(ry

595:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/02 00:56:13 PXBRloGQ
 DELUSION1 いつもの朝

ジリリリリリリリリリイr(バチン)
あぁ、目覚ましが響いてる―もう朝か―学校行かなきゃ―
めんどくさ、さぼっちまえ……

ガチャリ
「ジュン。今日は学校に行かないの?」
「今日は日曜日だぞ……」
「我が家のTVは壊れたのかしら?ちょうど今、月曜日にやってる“オハヨウくんくん”が終わったところよ」
「今日はしんどいから学校休む……」
「蒼星石、雛苺。JUMがぐずってるわ」
「ジュン君、髪型の保障は出来ないよ」
「落書きしちゃうの~」
鋏を開け閉めする音と絵筆を水に浸してかき回している音が聞こえる。無視、無視。
ガチャリ
また誰か入ってきたようだ。
「あらあらあらぁ。寝坊すけさんがいるわよぉ」
「姐さんお早うなの~」「お早う」「珍しいわね」
「じゅ~ん~。覚えてるかしらぁこの前の約束」
何か重いものがしなだれかかってくる。この声、パターンから察するに―
「今度私に起こされたらなんでも言うこと聞くって約束。うふふ、楽しみだわぁジュンを好きなように出来るって。」
ジュンに危機が訪れた。
「そのまま寝てて良いわよぉ。ふふふふふ」
「ジュン君。そろそろ起きないと襲われちゃうよ」
「ごめんなさいごめんなさい!! 起きる!起きるからぁー」
「チッ」
「お早う。ジュン君」
「……お早う。姉さん達」
四人の女性がジュンを見下ろしていた。

今日も一日が始まった。


596:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/02 00:57:08 PXBRloGQ

ジュンが覚醒した途端、ぞろぞろと姉達は出て行った。
心なしか部屋が広くなった。
「僕の朝の日課はまず起きることだ」
もうジュンは起きている。ベットからのそりと這い出す。
「次にご飯を食べなくてはならない」
「顔を洗ったりしないのぉ?不潔ねぇ」
ギョッと振り向くと黒基調の服に身を包んだ女性が立っていた。
肌の色は透けるように白く、一見すると病気のような痩せた女性だ。
それでも出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。さらに冷たい感じはするが美女の部類に入る顔つきだ。
「水銀燈姉さん……」
桜田水銀燈。桜田家薔薇乙女軍団の長女である。
「銀姉でいいわよぅ、家の中なんだから。顔、ちゃんと手入れをしないと大変な目に遭うわよぅ」
全く気配が感じられなかった。部屋から出て行ったのでは無かったのだろうか?
「姉さん、いちいち茶々を入れるなよな。何の用だよ」
ジュンはさっさと居間に行くことにした。朝御飯が呼んでるぜー!
「あらぁ素っ気無い。いいのぉそんな態度で」
後ろから抱きつかれた。
(当たってる当たってる! 胸が……)
「貴方は今しがた私に起こされた。約束は守らなきゃねぇ」

(ホント起きるのが遅いわねぇジュン)
(うるさいな。次はちゃんと起きるよ)
(信じられないわぁ)
(じゃあ賭けをしてみようか)
(へぇ?)
(一週間姉ちゃん達より早く起きてこれたらご褒美くれ)
(早く起きるのは普通の事だと思うけど?ま、いいわ。失敗したら私の言うこと何でも聞きなさいよぉ)

ジュンの頭につい先日のことがフラッシュバック。


597:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/02 00:58:49 PXBRloGQ
「しまったぁぁぁぁァァ!! 今日が七日目かあ!」
「大方、すっかり忘れてたんでしょうねぇ。お馬鹿さぁん」
ジュンの首筋に水銀燈が甘噛みした。最近彼女がやるようになった悪癖の一つである。
「うふふ、今夜は徹夜確定~♪」
踊るような足取りで水銀燈は部屋を出て行った。部屋には灰のように白く燃え尽きた青年が残された。
「神よ……」
ジュンは胸の前で十字を切った。
「この哀れな子羊めをお救いください。夜には姉さんが約束を忘れていますように……」
水銀燈とは対照的に、今しがた掘り起こされたゾンビのような足取りでジュンは部屋を出た。

居間ではすでに食べ始めていた。もうほとんど食べ終わっているものもいる。
皆揃ってから食べ始めるという習慣は桜田家には無い。各々、仕事や学校といった予定が詰まっているからだ。
なお、桜田家の構成員は全部で十人。大家族だ。それ故にかなり騒がしい。
新調したての大きな四角テーブルはまさに戦場と化していた。
「誰か醤油を取りやがれです!」「自分で取りなさい」「……」
ザワザワガヤガヤ
「はい、醤油」「ヒナが先なのー」「カナが先かしら!」
ザワザワガヤガヤ
「みっともないわねぇ」「ジャンクは黙れかしらー」「醤油ゲットですぅ」
ザワザワガヤガヤ
「……」「今ジャンクって言ったの誰!?名乗り出なさい!」「僕じゃないよ」「ごちそうさまかしらー」
ジュンは自分が座るべき椅子を探した。が、間の悪いことに開いていない。
残るはテレビの前にある小さなテーブルだけなのだが、そこには先客がいた。
「あら、遅かったわね。ジュン」
桜田家五女、桜田真紅だった。
うまい具合に真紅の反対側に手付かずの朝食が並べられている。そこに座ることにした。
「いつものことながら騒がしい朝ね」
真紅は紅茶を入れている。ある意味場違いな程落ち着いていた。
ジュンは返事を返さない。ひたすら目の前の食べ物を食べることに専念していた。
「寝起きなのによく食べるわね。お先に」
真紅は朝食の入っていた食器を持つと、流しに置きに行った。
大テーブルの方でも一人、二人と席を立つ。
戦場は静かになりつつあった。
(何でこうなったんだろうなぁ)
箸が止まった。ジュンは静かに頭の中の思い出のページを開き、回想する。
少なくとも、真紅達は人形だったはずだ。―以前は。
今の彼女らの体は立派な人間である。
薔薇水晶にローゼンメイデンが敗れたあの日から、桜田家の内情は大きく変化していた。
なにより、ジュンが復学したことは人類の大いなる一歩だろう。その他にも―
ジュンは「あの日」以来何度もため息をついた。
そして今日もまた一つため息をついた。


598:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/02 01:00:15 PXBRloGQ
―“こうなった”のは三年程前のことだったような気がする。
まだ僕が中学二年生。引き篭もりのときだった。
当時、真紅達ローゼンメイデンは生ける人形であり、アリスになるために姉妹で戦っていた。なんとも救われない話だ。
最終的にアリスゲームは偽ローゼンメイデンの薔薇水晶が勝利した。が、ローザミスティカを体に取り入れると自壊し、作り主であるエンジュと共に消え去った。アリスは誕生しなかった。
その後、ローゼン本人が現れた。
その時のことは良く覚えていない。でもある程度なら思い出せる。
真紅達が椅子に座らせられていた。ローゼンが一人一人の服装を直している。
エンジュに似ていたような気がする。顔がはっきりと思い出せない。
そして彼は作業をしながら独り言のように呟いた。
「アリスというのは存在しない」「美に関する感覚は人それぞれ」
「アリスの概念は矛盾している」「では、矛盾を追い求めたら?」
「錬金術師として名高い私でも」「どうなるかは分からなかった」
「私の持つ全ての錬金術の知識」「応用すれば分かるかも知れん」
「そこで人格を持った人形達に」「人間に限りなく近い人形達に」
「アリスゲームをさせてみたが」「結果は未だにはっきりしない」
「方法を変えてみることにする」「アリスゲームではない方法に」
ローゼンが真紅の前に来た。服装を直しつつはっきりと言った。
「アリスゲームだけが、アリスになる道ではない」
「またすぐに会おうではないか」「ネジを巻いただけの神業少年」
ローゼンの姿はもう無かった。

人形達をそのままにしておくのもなんか釈然としないのでとりあえず全員連れて帰った。
真紅以外覚醒していないのでどうすべきか迷ったがソファに雛苺と蒼星石に並べて座らせておくことにした。
後はのりが何とかするだろう。
それから疲れきった僕は眠ったのだが……やけにはっきりした変な夢を見た。


599:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/02 01:01:09 PXBRloGQ

『ジュン君、ジュン君』
「何だお前?くんくん?」
『その答えは正解とも言えるしそうでもない。僕は誰だろう?』
この人をバカにしたような口調は一匹しか思い当たらない。
「ラプラスだろ。何の用だ」
『残念。覚えてないのかい?ネジを巻いただけの神業少年?』
「あー……アリスゲームの首謀者?」
『もう分かったようだから本題に入るよ。時間が無いもんでね』
このくんくんはローゼンのようだ。何しに来たんだろう。
『アリスゲームのやり方を変えてみようかと思ってね。アリスという矛盾を追い求めた時の過程と、その結果が分れば良いのだから発想を転換させてみる』
「僕には関係ないだろう」
『まあ聞いてくれ。前回のアリスゲームの問題点は三つ』
くんくん(ローゼン)はさくさくと話を進めていく。
『一つ目は彼女らが人形だった事。人形では経験できないこともあるしね。二つ目は動力源ともいえるローザミスティカを奪いあわせた事。真紅のように罪悪感から戦いを放棄されてしまうかもしれない。』
「……」
僕はほとんど話を聞いていなかった。
『三つ目は思わぬ横槍が入った事だ。エンジュがあれ程にも完成度の高い人形を完成させるとは……正直思っても見なかった。弟子を過小評価しすぎたな』
エンジュはローゼンの弟子だった説は本当だったようだ。
僕は赤の他人だと思っていたのだが。
『正直な所、エンジュに無いものはローザ・ミスティカの精製法ぐらいだ。人形師としての腕前は僕に匹敵する。』
「ひょっとして、エンジュ達が飲み込まれた光はお前の仕業か?」
『おや、ご名答。薔薇水晶がこのまま壊れてしまうのは惜しかったから、とっさに九秒前の白に送った。オマケも付いてきたようだがね。壊れるのだけは食い止めれただろう』
最初から最後までこいつはアリスゲームを観察し続けたのか。
真紅なんか水銀燈のことであんなに悩んだっていうのに……なんか頭にくる。
『話を本線に戻すよ。結論として、ローゼンメイデンとプラスαを人間にしてみようと思う』
「……はい?」
『まじめな話なんだよ。究極の少女ではなくて女性を目指す、というのでもほとんど同じだと思うが』
くんくんはパイプをくゆらせている。
『それに、戦わせるようなことはさせない。約束しよう』
「究極の女性か……なんかニュアンス狂う……」
『しょうがないだろう。人間の生活で得られる経験も新アリスゲームには必要だ』
「人間には寿命があるじゃないか」
『色々突っ込んでくるね。しかし全ての疑問は一言で解決』
「?」


600:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/02 01:02:58 PXBRloGQ

『現代の錬金術師ローゼンの力を見せてやろう。全ての事象は僕の思うがままだ』

断固たる自信に満ちた口調だった。
しかし、くんくんの声、口調で無かったらとてもかっこよかっただろうに。
『楽しみにしていてくれ。君はまだ真紅のミーディアム。これからの変化は必ず君の周りで起こるのだから―』
急にくんくんが透けていった。
『ん、時間切れかな。……また会おう。意見を聞かせて欲しい』
「二度と御免だ」
くんくんは消え去った。


「……はっ」
目が覚めた。何も変わった所は無い。
何も起こってないじゃないか。変化なんて

ジュンの視界に、鞄を抱いて気持ち良さそうに寝ている十七、八の女性が目に入った。
漫画的表現をするならメガネに小さなヒビが入ったような衝撃だった。

「し……んく?」
服装から判断して真紅っぽい。あ、覚醒した。
「お早うジュン」
何事も無かったかのように挨拶されても困るんですが。
「挨拶も出来ないの?無礼な下僕ね」
「真紅なのか?真紅なんですか?真紅じゃないよな誰ですかアナタ!」
「騒々しい。朝からテンションが高いわね」
「人形が人間になってたら驚くわ!」
「お父様が夢の中に出てきておっしゃられたの……」
真紅、夢見る乙女モード突入。
「これからは人形としてでなく人間として生き、究極の女性を目指しなさいって……」
背筋に走る嫌な予感。急いで一階の様子を見に行く。
予感は現実のものとなっていた。
ソファの上ではお互いに寄り添うようにして眠っている五人の女性が―


「ジュン」
「ん、はい?」
思い出の日誌が勢いよく閉められた。
「妄想の世界に浸るのは勝手よ。でも、時間を考えなさい」
ジュンは時計を見た。もうすぐ家を出ないと間に合わない。
「じゃあね。学校で会いましょう」
真紅はもう身支度を終えていた。すたすたと玄関まで行ってしまう。
居間はガランとしていた。ジュン含めて三人しか残っていない。
「遅刻だぁぁぁ」
ジュンは大急ぎでご飯を片付け、準備を始める。
「はい、お弁当」
のりが弁当を差し出した。
「おい姉ちゃん!! なんで声かけてくれなかったんだよ!」
「だってジュン君、声かけづらい雰囲気だったんだもの……」
「遅刻するぞ」
新聞を広げていたエンジュがポツリと呟いた。

今日も一日が始まった。

     終わり


601:熊のブーさん
06/05/02 01:06:20 PXBRloGQ
えーと、「終わり」と書きましたが、まだ短編(?)連作の形式で続けていこうかと思います。
元ネタ……分かっても糾弾するのは勘弁してください。
「これじゃないか?」は一向に構いませんので。

602:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/05/02 09:49:03 KOJX4iet
銀姉さん・・・JUM羨まし過ぎるぞ?グッジョブ!

>>580
チンタラしとっとワレがかいてまうど?ってことで仁義破りのネタ頂き失礼!
まずは僭越ながらボクから、雑談の一環ということで、どうかお許しを


     初めに言葉あり、言葉は神なりき    ~ヨハネの福音書 第一句~

その島は、米軍の熾烈な艦砲射撃によって人ならざる者が住む処の様相をなしていた
強襲揚陸艦の艦長は、傍らに立つ副官、奇妙な外見に似合わず非常に優秀な女性少佐を、そっと見た
「水銀燈、どうか許してくれ、君とニシとの事は知っている、しかし・・・ステイツを守るためなんだ」
「サー、わたしのことはお気遣いなく、・・・しかし、提督、ひとつだけ・・・お願いがあります」
水銀燈は海兵隊による上陸作戦の直前、提督の許しを得てブリッジに立ち、マイクのスイッチを入れた
初めに言葉あり、言葉は大切な人を守る最強の武器、そして最後の武器・・・ぜんぶ嘘っぱちだ
人間は最初に武力で争い、最後に武力で片をつける、言葉の力なんて、武力で勝った者の言い草だ
「・・・バロン西、バロン西、どうか投降してください、バロン西、わたしは、あなたを失いたくない」
・・・・・・・・島の日本兵は玉砕した、そして西竹一少尉の死体は、後の調査でも見つからなかった
最近になって、この投降勧告が米軍の創作であるとの論評が発表された
水銀燈は黙して語らない、真相を知る水銀燈は、決して何も話さない
だって初めに言葉あり、言葉は最強の武器、いつだって愛するひとを守る最後の武器なのだから



603:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 12:28:39 ytWs17nd
いやぁ~哀・戦士ですなぁ~

604:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 15:55:14 xW3NUt0/
馬鹿だな。
アメリカから見れば日本人なんて現地猿だよ。
ミッチャーもそう思ってる。

605:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 16:01:39 aq8pbQaN
せっかくブーが流れ変えたのにまた軍オタかよ…

606:Web of Love  1/7
06/05/02 17:00:00 mIxuZ0pE
こくり。 アッサムを一口味わい、傍らの本を閉じて嘆息。

なんて穏やかな午後。
静かに時を刻む針の音だけが、私とうつつを繋いでいるよう。

窓の外に目をやれば、青く済んだ空が柔らかな光を投げかける。
とても清か。 とても静か。 日ごろ机の前に陣取っている少年も、今はいない。

ジュンはどうしているかしら。
いつも来て貰ってばかりでは悪いからと、今日は彼の方から巴に会いに行った。
いえ……会いに行かされた。

のりに根負けした時の悪態を思い出して、自然に微笑がこぼれる。
いつか。 いつか、私が永い眠りにつくとしても。
この記憶が癒してくれるでしょう。 この想いが暖めてくれるでしょう。

ひとりでいても、ひとりではない。
時を渡し、夢を渡し。 私を明日へと歩ませてくれるでしょう。
それは、なんて幸せで、優しいこと。


気付けば、窓から差し込む日が低くなっている。
うとうとしていたかもしれない。 でもまだ、私はひとり。

ゆっくりと背を傾けていき、ぽふん、と床に寝転がった。
……少し、はしたないかしら。
でも、今日はひとりだもの。 このくらい、いいわよね。

何を見るでもなく、漫然と部屋に目を巡らす。
今ごろは雛苺も、翠星石も、待ち人との逢瀬を楽しんでいるのかしら。

くすり。
いやね。 逢瀬だなんて、大袈裟な。
らしからぬ言の端に、自分で自分がおかしくなる。

家に一人きりという事実が、少しだけ私を大胆にさせていた。

607:Web of Love  2/7
06/05/02 17:01:00 mIxuZ0pE
だからだろうか。 頭に浮かんだ悪戯っ気を、打ち消すでもなく受け容れたのは。

……あった。 ここね……。
目の前に置かれた黒い箱。 探り当てたその一部を押すと、箱が低く唸りはじめる。

これはピー・シー。 パーソナル・コンピューターというものだ。
そう。 私も、してみようと思ったのだ。
ジュンがいつも夢中になっている、「インターネット」というものを……。


目覚めの声と共に、ピー・シーが映像を映し出す。 いい子ね。
あれは雛苺がここに来てすぐの頃だったかしら。 水銀燈はこの子の中から現れた。
それは魂を宿すものの証。 この子もまた生きている。 闘っている。

ふわり。 微笑むと、心の中で語りかける。
突然起こしてしまって御免なさいね。 でも、ジュンに仕えるという事は私に仕えるのと同じ。
いい? 今日の事は私と貴方の秘密。 ジュンに教えては駄目よ。
応えるように起動音。 素直な子。

この子の扱い方は、ジュンを観察していた過程で熟知したと言ってもいい。
本、人、心。 知識は知恵へ、経験は直感へ。 いつしか私は時の川をたゆたうレクシコンとなる。
インターネット・エクスプローラ。 これを素早く2回押して……。

かち、かち。 確かな手応えと共に、渇いた音が主無き部屋に響く。
私は「インターネット」を満喫していた。

凄い。 なんと凄いのだろう。 まるで知識の世界樹。 これこそ本当のレクシコンだわ。
キーワードを尋ねただけで、無数の情報が返される。 紅茶、ドレス、くんくん……あらゆる答えがそこに、在る。
なんて魔法。 なんて不思議。 なんて素敵。


お茶も忘れて、埋没。 ふと顔を上げれば、空は朱に染まり始めていた。 でもまだ、私はひとり。
夢のような一時だけれど……少し、疲れてしまった。 私はこれで最後にしようと、その言葉を入力した。
 ___________  ___
 | R o z e n M a i d e n | | 検索 |
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄

608:Web of Love  3/7
06/05/02 17:01:59 mIxuZ0pE
「ありがとう桜田くん。 私、パソコンの事なんて全然分からなくて……。」
「いいよ。 ……よし、セキュリティもオーケー、と。 ほら。 もう使えるから。」

すやすやと眠る雛苺の髪に、そっと手櫛を入れる。
桜田くんが来てくれてよかった。
パソコンを買ってから半月。 ようやく使える時が来たのだ。

私の家は古風だ。 電話は未だに黒電話。 パソコンともなれば、もう完全に別世界。
少しでも文明の火を入れようと、購入したはいいけれど。
買ったのは格安の中古。 大型電気店で売っているような、最初から何もかもお膳立てされたものではなくて。
情けない事に、家族の中の誰ひとり、動かし方が分からなかったのだ。

桜田くんが気にするだろうから、誰が動かしてくれたのか、家のみんなには内緒にするつもり。

……でも。 なんだかくすぐったいな。 大きくなって、疎遠になって。 桜田くんは「男子」になって。 私は「女子」になって。
この間まで、話もしなかったのに。 いま、私達はおんなじ「秘密」を抱える仲。
あなたのおかげね。 微笑って、眠る雛苺のほほをつつく。 ふにっ。


「……でさ。 真紅が動かなくなった時、ヒントになったのがこのサイトで……」

いけない。 考え事にかまけて、桜田くんの話を聞き流してたみたい。
話を把握しようと、慌てて意識を集中する。 今話しているのは、どうやらインターネット掲示板の話題。
真紅が動かなくなってしまった時に、桜田くんはインターネットで色々調べたらしい。

……楽な事じゃ無かったろうな。 モニターをぼんやり見つめる。
ローゼンメイデンは幻のドール。 その実態を知っている人なんて、世界にほんの一握り。


> 462 : 銀様最高! あの目、あの足、あの背中……(;´Д`),、ァハァハァ/、ァ/ヽァ/ヽァ
> 463 : 翠星石と一日中ストロベり隊
> 464 : ウホッ!いい罵声。 OK、こみ上げてきた。 ちょっと荒縄買ってくる ノシ


………のはずだったんだけど。 …………何これ…………。

609:Web of Love  4/7
06/05/02 17:03:00 mIxuZ0pE
「……あの……桜田くん…………」
「凄いだろ? みんなローゼンメイデンにやたらと詳しい人ばっかりなんだ。 いやぁ、やっぱりインターネットは頼りになるよ。」

なんで嬉しそうなのよ。 喉まで出かけた言葉をぐっと飲み込み、再び画面に目を移す。

> 465 : 今日も死ぬほど乳酸菌を摂取した。 いずれこの身も乳酸菌となり、銀様の一部にして頂けるだろう。
> 466 : カカカナのおデコでままままさちゅーせっちゅーしてぇぇええぇ
> 467 : イッチゴッアジノォスッパゲッチィ~♪ウォォ~アンマァエアウェァ~♪クハッ!キャハ!ケヘァ! カハァ!

くらり。 なによ、この病人の群れは……。

「か、柏葉!? どうしたんだ、大丈夫か?」

へたり込んだ私をいっちょまえに心配する変質者(故・桜田くん)。 妊娠するから話しかけないでくれる?
そんな私の内心など知る由も無く、変態の解説は続く。

「この掲示板は凄く流れが速いんだ。 ほとんどチャット状態だから、見てる分にも面白いってわけ。」

ハァ、面白い。 これが面白い、と。 そうね。 あるイミ面白いね、ほんと。
適当に話を合わせる振りをしながら、私はこのよく分からない炭素化合物に帰ってもらう理由を考え始めた。

……それにしても、本当に頭が痛くなる文面だわ……。 思いつつ、なんとはなしに雛苺に触れたレスポンスをチェックする私。
この子を穢すような書き込みがあったら許さないんだから!

と意気込んだものの、度を過ぎた内容のものは無さそう。 それが分かると、少しだけ気分も落ち着いてきた。
どうも大別すると、翠星石(オッドアイのあの子ね)と水銀燈(誰かしら…)の魅力を讃えるレスポンスがほとんどのようだ。

「まぁ、その二人がツートップだろうな。 実はこの掲示板で、今日締め切りの人気投票をやっててさ。
 二大勢力である銀派と翠派の動きが活発ってわけなんだ。 ……真紅なんて、名前すら見かけないけど。」

確かに真紅の「し」の字も見かけない。 ……無いのかな、人気。 そんな事を喋りながら、更新ボタンをカチッ。
何分も経ってないのに、もう書き込みが増えてるみたい。
ぷっ。 桜田くんが小さく噴き出した。 何かしら……。 つられて覗き込んだ私も、思わず微笑ってしまう。 すごいタイミング。

> 480 : やはりドールズで一番かわいい真紅に投票するのが、人として自然だと思うのだわ。

610:Web of Love  5/7
06/05/02 17:04:00 mIxuZ0pE
「なに笑ってるんだよ……プフッ。」
「そういう桜田くんだって……。」

くすくすくす。 ふたり、顔を見合わせて笑う。 何の変哲も無い書き込みなのだけれど。
初めて真紅に触れたレスポンスが、何の偶然か、あの子の喋り方そっくり。 それが私達には妙におかしかった。

> 481 : >>480 寝言は寝てこけ
> 482 : やっぱりドールズで一番可愛い雛苺に投票するのが、人として当然だと思うのよ~
> 483 : 1日1票だからなぁ。 真紅に入れるくらいなら銀様に入れる。
> 484 : 人気のある真紅(笑)
> 485 : >>480 >>480 >>480
> 486 : ごめん、もう翠に入れちゃったし…
> 487 : 3票持ってても全て蒼の子に入れますが何か?
> 488 : >>480 の人気に嫉妬

「プッ! サンドバッグだな、こりゃ。 あいつがブチ切れる様子が目に浮かぶよ。
 『私より水銀燈に入れるですってぇ!許せないわ!節穴なのだわ!ジュン!お茶を淹れて頂戴!すぐによ!』 なんてな。」
「もぅ、やだ、桜田くんったら……。」

笑いすぎておなかが痛い。 桜田くん、すっごい特徴掴んでるんだもん。

> 489 : 真紅より水銀燈に入れるですってぇ!許せないわ!節穴なのだわ!撤回を要求するのだわ!

……。 この人、なんでこんなに必死なんだろう。 人気って、そんなにムキになるほど大事なのかな。

「……この人、凄くムキになってるな。 少なくとも僕は。 こんな得票数なんかじゃ、人の気持ちは測れないと思うけど。」
ドキリとする。 桜田くんも、おんなじ事考えてたんだ。 私の方を見ないで、桜田くんは続ける。

「例え世界の片隅に置かれてたって。 皆にそっぽを向かれてたって。 きっと誰かが気付いてくれる。 必要だって言ってくれる。
 それなら。 もし一人でも、自分を見てくれる人がいたなら、それは。 ……凄く、幸せな事なんじゃないか。」

僕は、そう思うけど。 段々声が小さくなって、頼りない言葉尻。 ……でも。 何かが、私の胸にこみ上げてくる。
それは、すごくすごく強くて、深くて、暖かい何か。 私はその気持ちを表す一言を探して、呟いた。 そうだね。

桜田くんはそんな私の呟きに、照れくさそうに微笑み返すと、おもむろに翠星石に一票入れた。 くたばれ。

611:Web of Love  6/7
06/05/02 17:05:01 mIxuZ0pE
○月×日(晴れ)

今日はとってもいいお天気だったかしら。 いわゆる潜入日和って奴かしら!
今日はおうちに真紅しかいない事は調査済み。 ローザミスティカを奪うには絶好のチャンスだったかしら。

というわけで、カナはいつも通りジュンのお部屋を見張ったの。
あっさり真紅発見! どうやら本当に一人みたい。 怖いくらい順調かしら!
真紅は今日も湯水みたいに紅茶をがぶ飲み中。 なんてただれた食生活なのかしら、ぷんぷん。

でも、異変はその時起こったのかしら。 どさっ。 床に倒れこむ真紅。
? 一体どうしたのかしら……。 くすくすくす。 い、いきなり真紅が笑いだしたかしら!
どこに笑うネタがあったのかしら? ひょっとしてカナの事がバレてるかしら!? いやいやまさか……

と思ってたら、真紅の目が油断なく周囲をぐるり。 はぅあ!? か、隠れるかしら!
どうやら見つからずに済んだみたい。 けれど口元には、相変わらずギタリと不敵な笑みが浮かんでいる。
うぅ、やっぱり真紅は一筋縄じゃいかないかしら……。 ここはもうちょっと様子見かしら!

そうこうしてる内に、真紅は机の前に座ってごそごそし始めたかしら。
カナ知ってるかしら! あれは「いんたぁねっと」って言うのよ、ピチカート。 みっちゃんもよく使ってるかしら。
でも、画面に向かってグフグフ笑ったり、顔を赤らめたり……きょ、今日の真紅はおかしいかしら……。

はっ! 真紅は今「いんたぁねっと」に夢中……。 ひょっとしてこれは絶好のアタックチャンスではないかしら?
そうよねそうよねやっぱりそうよね! 後ろからソロソロ近づいて、ポカポカポカリのばたんきゅーかしら!

ふっふっ……薔薇乙女仕事人、金糸雀の本領発揮かしら。
真紅、あなたが弱いわけではないのよ。 ただ、カナがあまりにも賢すぎただけかしら……!
一歩、二歩、三歩……。 ターゲット・ロック・オン! もらったかs

『 ズ ガ ン ! ! ! ! 』

うきゃー! ぴきゃー! みきゃー! 何かしら? 何かしら! 心臓止まると思ったかしら!
え、何、ピチカート? 心臓無いでしょって? それもそうかしら。
慌てて部屋の入口まで戻って、恐る恐る覗き込むと……はわわわゎわわわゎわ!!

紅蓮の瘴気も明らかに、真紅の剛拳雨あられ。 「いんたぁねっと」は今まさに公開処刑中だったのかしら……。

612:Web of Love  7/7
06/05/02 17:06:30 mIxuZ0pE
「うっ……ううっ……うっうっ…………液晶薄型……20万……」
「ジュンー、泣かないでぇー。 いい子いい子なのよー。」

夜は7時を回ったばかり。 最近おなじみ、桜田くんの部屋。
桜田くんは、パソコンの亡骸を抱えて、かれこれ20分ほど泣き尽くしていた。 お腹空いたなぁ。

「ひどい……ひどいよ……何で……僕のPCに、何の恨みがあってこんな……」
「ごめんなさい、ジュン……。 私も必死で守ろうとしたのだけれど、力及ばなかったのだわ。
 水銀燈は、ジュンのピー・シーを完膚無きまでに叩き壊すと、高笑いしながら帰って行ったのだわ……。」

もうスクラップなんてレベルじゃなかった。 目の前にある、ソフトボール大の鉄球。
それが、かつて桜田くんのパソコンだったものの全てだと言う。

一体どれだけの力があったら、一体どれだけの怒りを覚えたら、巨大なパソコンをここまで小さく圧縮できるのだろう。
私は、未だ会った事もない、水銀燈というドールの力に身震いした。

「うっうっ……そんな……銀様がこんな酷い事を……。」
銀様て。 気のせいかしら? 真紅のこめかみに血管が浮いたような……。 でも、ドールに血管がある筈無いわよね。

「なんて可哀想なジュン。 水銀燈は見た目はともかく、中身は血も涙も無い、ルール無用の残虐ドールなのだわ。
 今回の事で、貴方もそれが身に染みて分かったと思うのだわ。
 やはりドールを選ぶなら、真紅のような、可愛くて、優しくて、正義をこよなく愛するドールが一番だと思うのだわ。
 あくまで一般論だけど。 客観的に見て。 大衆の意見としては。
 貴方もこれからは邪心を捨てて、ピュアな心で真紅に仕えると良いと思うのだわ……。」

雛苺に頭を撫でられながら、子供みたいにうんうん頷く桜田くん。 お姉さんになったね、雛苺……ふふっ。

「しかし、広域無差別破壊ドールの水銀燈にしては、えらくピンポイントに破壊してったもんですねぇ~。」
時計を見ながら、心底どうでも良さそうに呟く翠星石。 お腹空いたねぇ。

「シャラーップ!貴方の意見など聞いていないのだわ! へっ、すいませんね。 あっし如きが、王者さまにこんな偉そうな口叩いて……」
「し、真紅?一体どうしたんですぅ!?」

どうでもいいから、早くお夕飯にしようよ。 そう思いながら、黙って喧騒を眺め続けるだけの私。
私、柏葉巴、中学2年生。 いっつもそう。 言いたい事、誰にも言えないの。
                                                        おわり

613:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 17:12:52 0noUMb0U
>>595-600
ジュンくん、一日だけ代わって下さい。というか代われ!
>吝嗇さん
仁義破りなどとそのような…。おかげで腹が据わりました。



今晩中に投下します。
勿論14行で。

614:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 19:08:43 ytWs17nd
>>612

思わずロートロスレ410以降をチェックしちまったよ。

615:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 19:16:36 9eKllZuM
>>612
ちょw
でだしの詩みたいにきれいな文に騙された(いい意味で)
真紅も巴もいい感じに壊れててワラタ
不思議な読後感が残ったGJ

>>601
エンジュいたのかw
最後のエンジュがツボったGJ

>>577
遅レスすみません。書くつもりはありますよ~。
でも、暗い方を終わらせてからにしようかと思ってます。
雰囲気が違いすぎますしね。

616:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 19:36:54 KCZRs/Dk
真紅もタイミング悪いな
今日に昼間なら真紅大隊来てたのにw

617:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 20:40:17 K5dXLg9A
>>610
> 桜田くんはそんな私の呟きに、照れくさそうに微笑み返すと、おもむろに翠星石に一票入れた。 くたばれ。
ちょwww

618:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 21:18:40 GrDkiWe2
>>612
上手いw

619:14行縛りの人
06/05/02 23:32:28 Sa1f8uvr
はい、約束どおり?投下します。
最初はもう少し会話文があったのですが、手を入れに入れたらこんな風になってしまいました。
一応、ベルリン五輪の直前ということで。
というか、水銀燈を色物キャラ化してしまったようで、申し訳ないなと。


「馬、好きなのかい?」
 ドイツ軍・馬術教練場。外埒沿いにいた水銀燈に、軍服姿の東洋人の男が、馬上から屈
託の無い笑顔で話しかけてきた。突然の事で戸惑う水銀燈を馬が銜え上げた。
「ちょ、ちょっとぉ! 離しなさいよぉ!」
 男はもがく水銀燈を自分の前に座らせ、馬を外埒沿いに走らせる。そして、加速がつい
たところで、巨大な生垣障害へと馬の進路を変えた。悲鳴を上げる水銀燈をよそに、男が
裂帛の気合を発する。同時に浮遊感。馬は見事に障害を飛越し着地した。
「お、下ろしなさいよぉ!」
 泣きべそをかく水銀燈に、男は「すまんすまん」と、悪びれた様子も無く快活に笑った。
そして先ほど同様、馬に水銀燈を銜えさせると、埒の外に解放した。
「こ、こんな目に遭わせて……お、覚えておきなさいよぉ!」
「またウラヌスに乗りたくなったらここに来なさい」
 背中ごしに男の声が聞こえたが、水銀燈は涙を拭き拭き、後をも見ずにその場を去った。
 その男―『バロン西』こと西竹一が、その後戦死した事を、水銀燈は知るよしも無い。


終わりです。

620:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/03 10:24:59 R6R0ExKb
何か水銀燈は動物には好かれるっぽい、GJ!

これを読んで、エロパロ向けに銀様獣姦物を書こうと思った俺は、汚れている

621:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/03 12:18:51 Oy3Z22Hy
このスレ専用の保管庫を、誰か作ってくんないかなあ とか思ったり。
ごめんなさい。一人言っす。

622:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/03 15:26:45 ckJtTJ82
自分で動こうとしない人間の独り言は醜いな

623:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/03 15:43:18 MjibFoED
提案という行動を否定するつもりか

624:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/03 16:15:21 OPhF0/j+
ローゼン+ミンサガというかなり人を選ぶネタ。
だ が 投 下 す る 。空気も読まずに。 許せ。
一応ギャグのつもり。

――確かにそこには違和感があった。
位置してはいけないはずの場所に、位置している。
それは真紅にとって障害物だった。
行かねばならない道を塞ぎ、悪びれた形相も無く鎮座している。
それをこの場所に置いたままでは、目的は果たせない。
それを取り除くのに大した力は要らない。
ただ、心臓を止めれば良い。

真紅の魂――ローザミスティカが、震える。
球体関節が、軋む。
瞳が、燃える――



「真紅、止めろッ」
ミーディアムからの静止が掛かる。
ジュンは、それの防衛者だった。共存者、かもしれない。
――真紅の気持ちは解る。確かにこのままじゃいけない。だけど…ッ
真紅が何をしようとしているのか。そんなことは簡単に理解出来てしまう。
だからこそ必死になっている。あと少しで最善の処置がとれる。
「止めろよ、真紅…止めてくれぇ…ッ」

「女々しいわね。」
先に約束を破ったのはあなた。
気遣ってなど…やるものか。
真紅は一歩ずつ『心臓』へと近づいていく。
人工精霊を使うまでも無い。一呼吸の間で、この陳腐な劇もお仕舞いだ――

625:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/03 16:18:03 OPhF0/j+

…ぷちん、と気の抜けた音がした。


「ジュン、いい加減にゲームを止めなさい。くんくんの時間よ。」
さ、急がないと、と真紅はリモコンを操作する。
コンセントを抜かれたハードからは何の音もしない。
――これでいい。これがあるべき『かたち』。
後ろで下僕が何か言っているような気もするけれど、何も聞こえない。聞こえても無視。



「オマエさえいなければ…ハトは、妹は幸せになれたんだぁ!」
「落ち着くんだクマゲラ!スズメを殺したってあの娘は戻って来ないんだぞ!」
「アンタに何がわかるっていうんだ、くんくん!」
…これって、普通のドラマにしたら良いんじゃないのかなぁ。
蒼星石の『たんてい犬くんくん』に対しての感想はそんなものだった。
真紅や雛苺が語るように、この番組は非常に興味深い。
動物のぬいぐるみで人間のような憎悪劇などを繰り広げる。
このアンバランスさが自分達、ローゼンメイデンに似ているのではないだろうか。
姉妹で殺しあう。そんなことをした自分だからこそ、人形劇にそんなことを思ってしまうのだろう。
だからこそ、隣に翠星石が、みんなが居てくれる平和な今が蒼星石はとても好きだった。

「ジュン君、元気出してよ。ゲームなんてまたやり直せばいいじゃない。」
「君に何がわかるっていうんだ、蒼星石…」
慰めようとする蒼星石にジュンが先程終わった番組のセリフになぞらえて返事を返す。
「チビ人間の事なんて放っとくです、蒼星石。
 しばらくしたら勝手に元気になるですよ。」
テレビを見終え、のりと食事の準備をしている翠星石が台所から妹にそう言う。
それもそうだね、とその言葉に共感した蒼星石は姉を手伝いに行こうと立ち上がった。
「ジュン君、もうすぐご飯だからテーブルの準備をお願いね。」
のりがそう頼まれると、ジュンは立ち上がった。
何とか、吹っ切れたらしい。

626:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/03 16:20:27 OPhF0/j+
 


「で、ジュン。あなたは何のゲームをしていたの?」
午後8時、真紅がふと思い出したらしく、そうジュンに尋ねた。
「ん?ああ、これだよ。ロマンシングサガ。」
完全に吹っ切れたらしいジュンがパッケージを取り出し、真紅の目の前に持っていく。
それはかつて販売された物の移植作らしい。
物語に決まった筋道は無く、自分でやりたいことを出来るのだとか。
嫌なイベントがあればしなければいい。
そのことは真紅にとってとても魅力的に思えた。
「ジュン、興味が湧いたわ、やってみましょう」

ながいよるが はじまる…


Romancing Rozen-真紅と愉快ななかまたち-


「みんなで、遊んでみましょう。」
真紅が提案した。
このゲームでは主人公以外のキャラクターを四人まで仲間にすることができる。
それらを真紅、雛苺、翠星石、蒼星石で振り分けて遊ぶのだという。(ジュンは不参加)
ある種、それは最もRPGの遊び方に相応しいのかもしれない。
ジュンの取り出した攻略本を広げ、四人はロール(役割)を選び始めた。

とりあえずここまで。
人いるならキャラを当てはめてみてください。最後まで頑張ってみます。

627:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/03 20:13:25 XjqZTDf+
ロマサガはSFCでしかプレイしてないけど当てはめてみる
真紅 ホーク
ヒナ ゲラハ
翠 シフ
蒼 アルベルト

628:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/03 21:14:12 OPhF0/j+
>>627 ㌧クス。
最初は真紅をシフにしようとしてたけどホークのが面白そーだ。
でも…雛苺がゲラ=ハとは思いもせんかった。
雛「げっこぞくはとりがせいりてきにねー、キライなのー!」

629:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/03 21:21:36 tNMS8OLc
蒼=アルベルトというのは俺も思ったw

630:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/03 22:43:32 OPhF0/j+
読み返してみて後半のgdgd感に凹むorz。
ま、いいや。
主人公=真紅≒ホークということなので追放されてからの序盤のイベントは
ワロン(アロン)島関係にしようかな。
翠「私はバルハル族のシフですぅ」
あいてにしない→翠「あいそが悪い ぼーやですぅ のたれ死んじまうですよ?」

631:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/04 04:40:20 RMZ3Fx8t
麻生タンのスピーチ
URLリンク(www.mofa.go.jp)

これはすごい!
解り易くて、論旨が明確で、人を引きつける。
太郎さに外務大臣をやらして大正解だよ。

632:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/04 10:39:02 JSmR2vk8
こんな場末のとこまで街宣する暇人がいたとは

633:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/04 12:42:47 bUxH3SBf
わっがんね~
ロマサガ知らないし。人を選ぶSSになりそうな予感。

それより、このスレの容量あと何k位なん?
2立てる?あっちと合流するん?
1の意見とか知りたいこの頃。

634:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/04 21:30:07 tmJdANnK
最近元ネタわかりにくいやつ多いな

635:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/04 21:42:21 68fjyVSW
>>634
……?元ネタはローゼンメイデンだろ?

636:1
06/05/04 21:46:15 jCUnj+Fj
>633
容量は現在436KBで残りは60KB
虐待・ヘイトからの脱却がスレを新しく立てた理由でもありますし、個人的には合流は不要かと思います。
容量が480KB近くになったら次スレを立てて誘導でいいんじゃないでしょうか。

637:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/04 21:47:21 tmJdANnK
>>635
そうじゃなくて映画とかゲームとかそういうのを使った時。

638:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/04 22:06:16 68fjyVSW
>>637
書き手側からしたら「元ネタの分かりやすさ」について配慮しにくいんでは?
完全に理解せんでも
「あぁ、なんか軍関係の事がバックボーンなんだなー」
「今回のお話はゲーム関係なんだなーよく分からんけど」
ぐらいに考えておけば良いと思う。

639:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/04 22:25:43 tH10JlbQ
>>612
面白いw

640:熊のブーさん
06/05/05 00:06:25 KJBAgrEg
GWなのに忙しいのは何故ですか?熊ブーです。

《桜田さんちの薔薇少年》の続き投下です。


641:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/05 00:08:00 KJBAgrEg

 DELUSION2 桜田家の居候(前編)

「えーと、今日はレッスン1の途中からね」
学校の教室に英語教師の声が響く。それにしてもよく通る声だ。
場所にして高等部の一年A組、時にして一限目のことであった。
我らがジュンは机に突っ伏していた。
「眠い……」
引き篭もりを卒業して今年で三年目。様々な受難がありつつもジュンは高校へと進学していた。
ジュンの学校は高校、大学とが同じ敷地内に入っている。
広大な敷地を有し、多方面で活躍できる人材を育成するようにと高校の段階から凄まじい数のコースに分かれている。
ジュンは普通科の生徒だった。
「予習はしてきたぁ?」
そして、卒業した中学校もすぐ近くにあった。交通面、将来性の面からこの中学校からの進学率はかなり多い。
「だるい……」
しかし、ここまで立地的に揃っていると新鮮味が無いのである。
クラスメイトには中学の同期がちょこちょこいる。
通学の方法、距離もほとんど変わらない。
ついでにジュンの完全夜型の生活習慣も変わらなかった。

「……この文のと同じ意味の“ことわざ”はー……」
「もうダメだぁ―」
ジュンは先生に見つからずこっそり寝る達人だった。
今日も職人(?)の技が光る。

だが、英語教師は女性だが恐ろしいことで有名だった。体罰など屁とも思わない。
ジュンは眠りの世界に駆け足で走り出したが引き返してきた。
「うう、一応ノートだけは取っておくか……」
うつらうつらする頭で授業を聞く。
ふと、ジュンの頭に真紅達が人間になった時の事がよぎった。
「眠気覚ましにはちょうど良いかも知れん……」
ジュンは居候が増えたときのことを眠い頭で思い出した。


642:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/05 00:09:25 KJBAgrEg
ジュンが人間となった真紅と一階に降り、同じく人間となった薔薇乙女達を見つけてから約5分。
「ちょっとぉ!! 解きなさいよ!」
水銀燈がじたばたと暴れている。
彼女の体はもう人形ではない。人間だ。
しかし、縄でぐるぐる巻きにされて椅子に縛り付けられている様はとても「人間らしい」とは言えなかった。
「静かにするですぅ」
「解かなかったら酷いわよぉ皆ジャンクにしてやるんだから!!」
「雛苺」
「うゆ?」
「さるぐつわを噛ませなさい」
「分かったの~」
「やめて!ちょっとぉ…ムグムグ」
雛苺のあまりの手際のよさにジュンは戦慄した。
これから何が始まろうというのか。
のりがいればもう少し平和的になっただろうが、出かけている。
「うう、真紅が怖いかしら~」
「水銀燈……貴女にはいくつか質問に答えてもらうわ」
「ムグー(なによぉ)」
「イエスなら首を縦に、ノーなら首を横に振って頂戴。分かった?」
「……」
水銀燈は真紅を半目で睨んだだけで首を動かさない。
「もう一度聞くわ……今の話を分かった?」
水銀燈は微動だにしない。
「翠星石、蒼星石。水銀燈をくすぐりなさい」

「いい加減に素直になるですぅ~」
「言うことを聞いておいた方が良いよ。水銀燈」
「ムグ!ムグググゥムムグ(きゃは!あひゃひゃぁあは)」
「もういいわ」
水銀燈は椅子ごと床に転がって荒い息をしている。
焦点の合っていない涙目で小刻みに痙攣されるとかなり怖い。
「質問をするわ、良いわね」
翠、蒼の二人に起こしてもらった水銀燈は恨みがましい目で真紅を睨んだ。
さっきの睨みよりも殺意二十%増しだ。ジュンは寒気がした。

643:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/05 00:10:31 KJBAgrEg
「またくすぐられたいのかしら?よ・い・わ・ね」
水銀燈はブンブンと首を上下に降った。
「よろしい。では聞かせて頂戴」
場に神妙な空気が流れる。
「ヤクルト好き?」
緊張の糸が音を立てて千切れた。
「真紅! ふざけるなですぅ」
「このためだけに水銀燈を縛ったの……?」
「真紅はSかしら」
「ヒナはヤクルト好きなの~」
「なぁ真紅。何のつもりなんだよ」
「いいから外野は黙ってなさい。水銀燈、答えて」
水銀燈はゆっくりと頷く。
「どんどん行くわよ」

しばらく質問攻めが続いた。
「何のつもりなんだろうな」
「考えでもあるのかしら?」
「さっきから意味の無いような質問ばっかりですぅ」
「政治がどうとか、何年前何処にいたとか」
「ヒナもう眠いの~」
外野は固まってヒソヒソと話していた。
どんどん質問はペースが上がっているような気がする。
「次よ」
「ムグ」
「めぐという娘は貴方のミーディアム?」
「ムグ」
水銀燈が首を縦に振った。
「めぐは元気?」
「ムググ」
首を横に振った。
「私達を襲ったのはめぐのため?」
「ムグ……ム!!」
首を縦に振りかけて、水銀燈ははっと我に返った。
「惜しいわね」
「ムググゥ!ムグムグムグググー!!(ちょっと! 今のは無しよぉー!!)」
水銀燈がかつて無いほど焦っている。

644:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/05 00:12:20 KJBAgrEg
「リズム良く質問を出しといて本命の答えを聞きだすとは……」
「恐るべきですぅ」
「うにゅ~」
「ムググググ、ムググッ!(汚いわよ、真紅!)」
「初めからストレートに聞くと嘘つくでしょうからね」
平然と真紅は答える。やっぱり恐ろしい。
「聞きたいことは聞き出せたわ。薔薇水晶と戦った時、貴女が言った言葉が気になってね」
「言葉ってなんだったの?」
「“ごめんね、めぐ”って言ってたわ」
水銀燈の顔が真っ赤になった。
「貴女のローザ・ミスティカを貰ったときに見た記憶が何なのかこれではっきりしたわ」
「ムグゥ……(生き恥よぉ……)」
「水銀燈が……意外かしら~」
真紅がそっと、うなだれている水銀燈を抱きしめた。
「もう、大丈夫だから。人間になってアリスゲームの目的が変わった以上、姉妹で争うことも無いわ」
水銀燈は驚いたように目を見開いた。が、すぐに泣いているのか笑っているのかいまいち分からない表情になる。
「なぁ真紅。じゃあミーディアムの僕はどうなるんだ?この指輪外れるのか?」
水銀燈の表情が一変した。
「まだ分からないわ。追々調べていく必要があるわね」
「人工精霊は機能しているみたいだけど」
蒼星石がレンピカを突っついている。
皆の目が飛んでいる人工精霊に移った瞬間、ゾン! と聞き慣れない音が響いた。
水銀燈の背中から巨大な羽が生えて(?)いる
「力を使えるのか!?」
「なまじ人間サイズ分だけ大きいわね」
あっというまに水銀燈は縄を切り裂き、さるぐつわを取り自由の身になっていた。
水銀燈が叩き壊すかのように桜田家の窓ガラスを叩くとガラスが波打った。
「nのフィールドの入り口ですぅ!」
「真紅! どうするんだ!」
「泳がせるわ。ホーリエ」
水銀燈はもうガラスの中に消えていた。
「水銀燈を追って頂戴。気付かれては駄目よ」
後を追うようにホーリエがガラスの中に飛び込む。
「ホーリエの帰還待ちね……ジュン、お茶を入れて頂戴」
真紅は淡々と指示を飛ばす。
「うう……なんかかっこいいかしら……でもカナ負けないかしら」
密かにライバル意識を燃やしている黄色いやつがいた。
有能な指揮官は辛いな。真紅。

「お茶がぬるいわ」
ビシィ!!
「いってぇぇ」
すごい音がした。
でかくなった分、髪の毛鞭も威力が上がっているようだ。

しばらくしてホーリエが帰ってきた。
「場所は割れたわ。突入よ」
「やっぱりかっこいいかしら……」


645:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/05 00:13:40 KJBAgrEg
しばらくnのフィールドを進んでいくと目的の位置に着いたようだ。
出口は病院の廊下に取り付けてある大きな鏡らしい。
「行くわよ」
ひょいひょいと鏡から出ていく。
この光景を一般の人が見たら色々やばいだろうが、幸い周囲に人の影は無かった。
ホーリエがとある病室の前で旋回し始めた。
「ここみたいだね」
「突入なの~」
ドアを蹴破って病室に入る―ようなことはしない。意気込んでいた割に普通に入った。
「おじゃましま……す……」
先陣を切ったジュンだったが病室に入った瞬間後悔した。
水銀燈が床にへたり込んで呆けたようにベッドを見て、なにやらブツブツと口走っていた。
「うわぁ……」
ジュンのトラウマに新たなる一ページが刻まれる。
後続が続々と病室に入ってくるが誰しも水銀燈を見るなり黙ってしまった。
次第にこそこそと小声で話し始める。
「これじゃ鬱銀燈ですぅ」
「なにがあったのかな?」
「誰か聞いてみるのかしら~」
一同、また黙ってしまった。
「だって……ねぇ?」
「やっぱり……」
「ちょっとなあ」
「ヒナ、あんな電波な水銀燈に話しかけたくないの~」
幼い感性は時として残酷な表現をする。
あまりにストレートな表現すぎて話題に上がっている本人に聞かれたらえらいことになるだろう。
聞かれてはいないようだったが。
「ジュン」
「なんだよ……」
まさかこのタイミングでは……
「水銀燈に何があったか聞き出しなさい」
やっぱりか。
「何で僕なんだよ! 他当たれ」
「頑張って、ジュン君」
「やるときはやる男だって信じてたですぅ」
「男気かしら~」
「生贄なの~」
うう、皆酷い。
「分かったよ。全く……」
そろりそろりと水銀燈に近づく。
正直気が引けるが仕方が無い。ジュンは思い切って話しかけてみた。
「どうしたんだ?」
ギチギチと錆びた歯車同士がゆっくり回るような速度で水銀燈はジュンに振り向いた。
さりげなく目の焦点が合っていない。その上、口が半開きだ。
ジュンは会話を続けずに逃げ出したい気分に駆られたが踏みとどまる。
「どうしたんだ?」
もう一度聞いてみた。
「めぐが……めぐが……」
水銀燈に気をとられていて今まで気付かなかったが、ジュンはベットを見た。
「いなくなっちゃったぁ……」
ベッドは空だった。
とどめとばかりにベットの横のテーブルには菊の花が生けてあった。

              つづく

646:熊のブーさん
06/05/05 00:15:59 KJBAgrEg
いきなり前編、後編に分かれてしまいました。
全然短編じゃありません。

なんとかせねば……

647:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/05 05:27:32 gR7xBZt4
このまま続いていいよ

648:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/05 18:21:09 9D0WoTX3
このまま続けてもらって問題ありませんよ
この話は、短編じゃ収まりそうにありませんしw

649:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/05 19:17:01 ubHpzKQu
むしろ長く楽しませてくれ。
1レスずつとか変に小出しにしないから、不満は無い。

650:薔薇乙女戦争
06/05/05 21:07:56 FqdWBkhE
>>576

 この危機に、ジュンは傍観している場合ではなくなった。竜巻の外に居た彼は、意を決して金糸雀の元へと走る。

「やめろッ!!」

 雑音が入り、演奏に陶酔していた金糸雀が薄っすらと瞼を開ける。そして、つまらないものを見るような目をジュンに向ける。

「命が惜しかったら邪魔しないで」

 破壊の演奏は止まらない。冷たく言い放った金糸雀は、すぐに全身を使って曲を表現する。演奏中の彼女は別人のようだった。
 ジュンはそう言われて黙っている訳にはいかない。言って駄目なら行動で止めるしかない。彼は恐れず前に進む。
 金糸雀はそれを見て呆れた。

「忠告したのに……」

 直後、ジュンの情けない叫び声が上がる。
 数歩進んだ所で突風に吹き飛ばされたのだ。数メートルは舞い上がった体が重力のまま落下し、全身をしたたかに打ちつけた。
「あがっ……うぅ……」
 這いつくばっているジュンが痛みで呻きながら身をよじる。幸いにも、命と手足の骨は無事だった。彼はすぐに立ち上がり、よろよろと足を前に出した。

「まだ懲りないの!?」

 鬼気迫るジュンの行動に、金糸雀も動揺を見せる。人形のためにここまで命を張る人間は初めてだった。所詮は薔薇乙女も人間から見ればただの人形。物のために命を捨てる奇特な人は稀だ。

651:薔薇乙女戦争
06/05/05 21:09:09 FqdWBkhE

「お願いだから来ないで! 本当に死んじゃうかしらっ」

 再三の忠告は、やはり聞かれなかった。ジュンは痛む体でゆっくりと、だが確実に近づいてくる。
 いつの間にか、金糸雀はお願いする立場になっていた。彼女はマスターが殺されて非情になっていただけで、本当は優しい子なのだ。
 しかし、完璧な勝利を目前にして立ち止まる事はできなかった。彼女は目に涙を湛えて風に命令する。
 これで、彼は再び宙に舞うはずだった。

「どうしてッ!?」

 金糸雀が驚いて叫ぶ。ジュンが今もこちらに向かって歩いて来ているのだ。
 何も起こらなかった訳ではない。一度目に劣らない風が確かに吹き荒れた。しかし、彼は何事も無かったかのように歩を進める。
 よく見ると、左手の指輪が強い輝きを放っていた。彼も同じ力で対抗していたのだ。
 こうなっては金糸雀に成す術は一つも無い。力の大半は巨大な竜巻に取られているのだ。

「い……いやっ。こっちに来ないでっ」

 怯えて後ずさる金糸雀。それでも、演奏の手は休めない。
 最後の仕上げまで来てしくじりたくない。
 そう思っても、ジュンはすぐそこまで来ている。

 ついにジュンが眼前に立ちはだかった。
 金糸雀は強張った顔で彼を見上げる。依然、バイオリンの音は止まない。
 そして、思ってもなかった方法で演奏が止められる。
 ジュンは力尽きたように膝から地面に落ち、そのまま倒れて金糸雀を下敷きにした。
「きゃあっ」

652:薔薇乙女戦争
06/05/05 21:09:54 FqdWBkhE
 小さな悲鳴と共に、バイオリンが手を離れて凍った雪の上を滑る。
 演奏が止まったのと同時に、成長を続けていた竜巻が徐々に小規模になっていく。

 急激に静寂が戻りつつある中、金糸雀は動けないでいた。
 ジュンに押し倒された形になったままなのだ。
 彼の肩口から頭は出せているが、体はすっぽりと下敷きにされていた。ジュンがそのまま耳元で説得する。

「こんなの、お前に似合わないって……」

 ジュンのか細い声が金糸雀の胸に響いた。久しく忘れていた暖かいものがこみ上げてくる。
 そして、今は亡きマスターとの日々が思い返され、今戦っている彼との日々と重ね合わせられる。
 雛苺と遊ぶことが多かった金糸雀は、よくジュンに叱られた。落書きしたり、物を壊したり、散らかしたり。彼を怒らせて楽しんでいた。
 楽しかった時間を思い出した彼女は、完全に戦意を喪失した。





653:薔薇乙女戦争
06/05/05 21:11:16 FqdWBkhE
 次第に破壊力が減衰する竜巻の中、薔薇水晶が先に脱出を試みた。
 弱まったといっても竜巻には変わりない。風の弱い中心でも立っているのがやっとだ。かなり危険な行為だった。

「まだ早いわっ」

 制止する真紅を振り切り、薔薇水晶は暴風へと身を投げ出した。彼女の姿が瞬く間に消える。
 真紅はわずかに逡巡した後、彼女を追って風の壁へと飛び込んだ。



654:薔薇乙女戦争
06/05/05 21:12:08 FqdWBkhE
「どうでもいいけど、早くどいてほしいのかしら」
 金糸雀が半分投げやりな口調でぼやいた。彼女は今も押し倒されたままだった。
「わるい、動けないんだ……」
 ジュンが弱々しい声で謝る。彼は本当に動けないでいた。
 慣れない力の使い方をした上に怪我までして、立っていられない状態だったのだ。あの演奏の止め方をしたのは、倒れ込むしか方法が無かったからだった。

 金糸雀はなんとなくこのままでもいいと思った。ジュンの重みは嫌じゃなかった。
 だが、そんな甘い考えが許されるはずもない。今は戦いの最中なのだ。その事を忘れた者には、手痛いしっぺ返しが訪れるのが世の常。

「薔薇水晶……ッ!!」

 その名の姿を目にして叫ぶ金糸雀。
 だが、叫ぶのが精一杯だった。
 なぜなら、彼女の腹には細長い水晶が突き刺さっているのだから。当然、その上の彼にも……。

 金糸雀とジュンは剣で串刺しにされ、一つに繋がっていた。
 背中から一突きにされたジュンは、声も無く絶命していた。心臓を貫かれての即死だった。

 金糸雀の傷口から彼の熱い血潮が大量に流れ込む。
 この死の間際で人の体温を感じられた事を、彼女は幸せだと感じた。どうとでもない事かもしれないが、最期の時はどんな小さな幸せでも見つけたくなるものだ。

「策に溺れたかしら……」

 それが彼女の最期の言葉だった。
 血みどろの剣が引き抜かれると、金糸雀が淡い光で輝き出した。二つの魂が折り重なるジュンを突き抜けて浮上する。その様子は、まるで金糸雀とジュンの魂のようにも見えた。

 薔薇水晶は二つの輝きを掌に載せて鑑賞する。ローザミスティカの輝きには、即賞味するには惜しいと思える魅力があった。彼女はその美しさに恍惚となって微笑んだ。



つづく

655:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/05 21:29:18 AhsYzzKZ
>>650-654
乙です
続きが気になる、一体どうなっちゃうんだ……

656:乙女馬鹿一代
06/05/05 21:30:16 HImHKZ6r
~深夜~
「うぃ~、ねむれないの~、こまったの~」
昼寝のしすぎで眠ることのできない雛苺が鞄から起きだしていく。
真紅の鞄の前に立ち、真紅を起こそうとするがそんなことをすれば
激怒することは雛苺にも分かるので流石に諦める。
「ね~ジュン~、ジュンってば~、起きてぇ~」
だがジュンはどんなに揺り起こしても目を覚ますことはなかった。
仕方なく雛苺は所在なさげに1階へと降りていく。
「うゆ~、まっくらなの~」
暗い階段を恐る恐る降り、リビングに入る。
「うゆ~、お昼と違うの~」
プチン
「きゃっ」
床にあったTVのリモコンを踏んでしまい、突然TVがつく。
「なんなの~これ~、この人たちなにしてるのなの~」
雛苺はTV画面を食い入るように見ていた。
のりが気づいてTVを消すまで・・・・


「あ~、翠星石、それヒナのうにゅ~なの~」
「知らねぇですぅ、そんなに大事なものなら名前でも書きやがれですぅ」
いつも通りのやりとり、のりもいない今、雛苺の泣き寝入りとなるところだ。
だが今日は違った・・・あらゆる意味で・・・
「うぃ~、翠星石!ヒナは怒ったのよ!」
言うが早いか猛然と翠星石に襲い掛かる。
「ご~わんらりあーとなの~」
小さな右腕を翠星石の喉元に叩きつける。
「ひぃ!ぐお!!」
勢いよく翠星石がダウンした。雛苺は訳の分からない咆哮をする。
側で見ていた真紅もジュンも呆気にとられ雛苺の暴走を止められない。
「ヒナいくの!せいしゅんのにぎりこぶしなの~!!」
言うが早いかテーブルに登り猛然とアタックする。
ドシィッ!!
雛苺のムーンサルトプレスが翠星石にクリティカルヒットした。
「真紅~!真紅~!はやく~カウントなの~!」
「・・え?あ、アイン・ツヴァイ・ドライ・・・」
「ちがうの!ちがうの~!!ジュ~ン!!」
「・・え、あ、ああ、ワン・ツー・スリー」
ジュンがしっかり床まで叩いてカウントする。
ジュンに無理矢理勝ち名乗りまでやらせ、雛苺は両手を高々と上げた。


後に格闘乙女と呼ばれる彼女のデビュー戦だった・・・。


657:乙女馬鹿一代
06/05/05 21:32:15 HImHKZ6r
>>650-654
乙っす!!
続き期待してます。

658:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/05 21:57:53 VdruCoJs
>>650-654
一人二人とミーディアムが死んでいく…
もう鬱エンド一直線ですね。

>>656
雛苺ぉぉ~~!!
筋肉ムキムキの雛を想像してしまったじゃないかw


659:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/05 22:00:05 AhsYzzKZ
>>656
ヒナww

660:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/06 12:30:51 KFalewo1
久々に初心に返ってトロイメントのサイドストーリーを投下。
スレの容量的に見ると、オイラのSS投下はこれが最後かもw

661:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/06 12:33:51 KFalewo1
巴は夢を見ていた。
雛苺と手を繋ぎながら長い道をずっと歩いていた。
突然立ち止まった雛苺が、自分に何かを語りかけている。
だけど、その言葉を巴は聞き取る事が出来なかった。
繋いだ手を離そうとする雛苺を励ましたり、抱っこしたりして一緒に歩こうとするけれど、
雛苺は困惑するだけで、その場から一歩も動こうとはしなかった。
心の中の一抹の不安。
手を離したら消えてしまいそうで、巴は雛苺の手を離す事ができなかった。


明け方の窓に残る夜露が、燃えるような朝焼けに染まりながら巴の部屋の窓を濡らしている。
眠りから醒めた巴の頬に残る涙の乾いた跡は、昨日の悲しい出来事を物語っていた。
雛苺は巴の胸の中で動かなくなっていった。ありがとうの言葉を残して。
魔法の時間は終わり、夏の夜の夢は足早に過ぎ去っていった。
白い残月が儚く透き通って空に浮かぶ。
巴は雛苺を看取った後、泣きつかれてそのまま眠ってしまった。
部屋は雛苺が眠りについた時のままに散らかり、そこかしこに少女の面影が溢れている。
巴は夜明けの薄明かりの中で一人、ただ一人でその思い出の中に埋もれていた。
雛苺の残していった古い宝物。物に染みこんだ思いが、巴にそんな夢を見させたのだろうか。

662:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/06 12:35:17 KFalewo1
いつのまにか、巴はドールショップエンジュに足を向けていた。
未だ昨日の悲しみは癒えず、思い出を追いかけていたらここにたどり着いたのだ。
ドールショップの扉は固く閉ざされて、人の気配は無い。
ガラス越しに中を覗くと、店の品物が綺麗に梱包されている。
「閉店しちゃったのかな」
巴の心に数々の思い出が甦り、同時にやるせない寂寥感が心を捉えて、彼女はその場に立ちつくす。

「柏葉さん」
ふいに後ろから、耳なれた言葉を掛けられてふり返ると、そこに白崎が立っていた。
「お店はエンジュ先生の都合で、移転する事になりまして…って、どうしたんです?泣いているんですか?」
堪えきれない寂しさがこみ上げて、巴は白崎に抱きついて、泣いた。


「どう?落ち着いた?」
「あの…ごめんなさい、突然あんな事を…」
ガランとした引越し途中の店の中で、冷たいサイダーがグラスに泡を立てている。
たおやかに流れる朝の静寂の中で、巴は幼い友達の死を切々と打ち明けた。
目を閉じて彼女の話を聞いていた白崎が、やがて静かに口を開きはじめた。
「その子はあなたの大切なパートナーだったんですね。
だけど、これからもきっと、その子はあなたの人生を思い出させてくれるはずですよ」
白崎は話を続ける。
巴には、それがまるで雛苺のためのレクイエムの様に響いていく。
「去って行った少女に思いを伝えることは出来ないけれど、でも、伝わらなくてもいい、
その思いを大切にしてください。あなたはその子の心を受け取っているのですから」
雛苺がくれた笑顔、生活の中で出会った人たち、精一杯に遊んだ日々。
それは巴にとって、両手で持ちきれないほどの綺麗な花々となって胸に咲き誇っている。
「あなたならきっと大丈夫、人生をふり帰った時、愚かしいものだった…なんて決して思わない筈ですよ」
巴は黙って聞いていた。我慢しようと思っていてもどうにもならず、涙の雫が白いテーブルクロスに落ちて広がり、目の前がにじむ。
「思い出は心の支えであって、荷物ではないのですから…って、ぁぁ、ごめんね、
やっぱり僕の話って安っぽすぎるかなぁーなんて…」


663:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/06 12:36:29 KFalewo1
「さて、そろそろ僕はいかなくちゃならないので、失礼しますよ」
「あの…ありがとう、聞いてくれて」
白崎は立ち上がると、役目を終えた店の中を見回して、寂しそうに言葉を繋ぐ。
「僕は好きでしたよ、このお店。たとえ無くなっちゃってもね。
ここは僕の人生そのものじゃないけど、人生を思い出させてくれる場所でしたから」
そして、白崎はにっこりと笑って去って行った。
「役目を終えた魂に別れを告げ、再会の時のために乾杯し、自分の人生に戻っていってください。
あなたの心は溢れるほど豊かですよ」


店の外に降り注ぐ陽光の、その暖かさを肌に感じながら仰ぎ見る高い空。
ひび割れた心に染み入る初夏の空の青さ。
白崎の言葉に、不思議と少女の心は癒されていた。
「光と闇は常に選択を求めているんですよ。過ぎ行くものであれ、残されるものであれ、全ては美しいものです」
今は光りさす空に届かなくても、いつかこの想いは空へ届くのだろうか。


664:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/06 12:37:24 KFalewo1
夢を見ている。
夢の中の雛苺は、声にならない声で何かを伝えようとしている。
少女の声は巴には届かない。
だけど、巴は少女に微笑を返す。
「あなたの言葉はもう聞こえないけど…でも分かるよ、雛苺。いままでありがとう…私の方こそありがとう」
巴の手が、ゆっくりと少女から離れて行く。一緒にいてくれてありがとう。
その言葉に、金髪の少女は笑顔を浮かべ、やがて光の泡となって巴を包み込み、消えた。
こぼれ落ちる涙を拭いもせずに、その光の泡を静かに見送った後、
二人で歩く筈だった道を、巴は一人で歩き出した。

少女は伝えたかったのだ。もう一緒に歩く事が出来ない事を。
だから、ひとりで歩き出して欲しいと。


665:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/06 12:38:18 KFalewo1
「桜田君…一緒に帰っていいかしら」
巴が図書館帰りのジュンを待っていた。

そして、巴は数日の間に起こった出来事を知った。
彼女は「そう…」とだけ呟くと、何も言わずに歩き出した。
夏のかげろうの中で、言葉少なく2人は並んで歩いてゆく。
ふと、ジュンは足を止めた。
強い日差しが巴の横顔をきらめかせ、
汗でにじんだ白いブラウスから、白い肌が透けるようにまぶしく輝いている。
いままで気付かなかった事が、少年の瞳に新鮮に写る。
「…おまえ、なんだか変わったな」
悪戯な風は、少年の言葉を少女に届ける代わりに、少女の髪の匂いをふわりと少年に運ぶ。
「え、何?桜田君」
振り向く巴の姿を見て、少し顔を赤らめた少年は、足早に巴に駆け寄って俯きながら言葉を返す。
「いや…なんでもないよ」
いつもの飾らない巴の中に、知らない目をした少女がいた。


もう彼女は未来を歩いて行ける。
雛苺は巴に成長という遺産を残していった。巴はそれを受け取った。
夏が過ぎ、時が流れて夢が色褪せたとしても
金色の髪の少女の思い出は、彼女の胸のアルバムに時を止めて、
いつも笑っていることだろう。


666:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/06 18:42:21 QIxHTBIY
泣いた

667:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/06 19:07:52 LLeoACVr
トゥモエ。・゚・(ノД`)・゚・。

668:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/06 20:09:10 Qk+6UVB8
まるで雛が復活しな(r

669:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/06 21:23:20 3n92ei39
>>624,>>625,>>626の続き。



(めんどいんで割愛)

………一週間後。

「なあ真紅。」
「どうしたの?」

「ガラハドを殺すのはもうやめにしないか…?」

話が進まないしネタが繋げられないんでオチないまま終わる。

真剣に後悔してる。オナ行為と言われてもいい。

670:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/06 22:08:59 GYM5DO5E
真紅VS水銀燈と烈海王VSドイルのバトルコラボ物、以前思いつきかけて、
やられの方があまりに悲惨過ぎて挫折した事があったなぁ。

671:アルテマ
06/05/06 22:25:22 WjGUXVXF
>>505-519-538の続き


薔薇水晶「・・・・・」

スィドリームを掴んだまま薔薇水晶はうろたえる翠星石を見据えていた。

翠星石「コラァ!スィドリームを離しやがれですぅ!このデク人形!」

虚無の世界に翠星石の怒号がこだまする。

薔薇水晶「・・・・・」

ググッ・・・

翠星石の言葉が勘に触ったのか、左手に力を込める薔薇水晶。

翠星石「!?や、やめて!」

一瞬で薔薇水晶がスィドリームを握り潰そうとしているのを悟る翠星石。スィドリームを取り返そうと踏み出したその瞬間・・・・

ザシュンッ!

翠星石「!!」

足元から二つの水晶の巨槍が翠星石を突き上げる様にして出現する。

翠星石「しまった・・・!」

翠星石の両腕は二つの巨槍によって拘束され、宙吊り状態で身動きが全く取れない。

翠星石「何しやがるですか!離しやがれですぅ!」

ジタバタと藻掻く翠星石。

薔薇水晶「・・・・・」

悪あがきを続ける翠星石にゆっくりと近づく薔薇水晶。

翠星石「く、来るなですぅ!あっち行けですぅ!」

薔薇水晶「・・・・・」

翠星石の遠吠えなどまるで聞こえていないかのように一歩、また一歩と、翠星石へと近づいていく・・・

ザッ

翠星石「ヒッ・・・・!」

翠星石との距離僅かに数センチ、それでも尚、薔薇水晶の表情に変化は無い。
 笑う訳でも、怒る訳でも無く、ただその冷徹な視線で翠星石を見つめるだけであった・・・・



672:薔薇乙女戦争
06/05/07 12:42:17 pF2wROpO
>>654

 遅れて竜巻から脱出した真紅は、目にした現実が悪い夢としか思えなかった。
 白銀の大地を汚す血の色の染み。その上に重なって倒れる金糸雀とジュン。その横で宝石を手に載せて微笑んでいる薔薇水晶。彼女の手には、紅い水が滴り落ちる剣。

 薔薇水晶が気配に気付いて振り向いた。
 面が合い、立ち尽くす真紅の表情が呆然のそれから無表情のそれへと変わる。

「ジュンを、どうしたの……?」

 一見、穏やかな声で尋ねる真紅。
 しかし、その奥底には計り知れない激情が垣間見える。訊くまでもなく、彼女は事態を把握していた。
 薔薇水晶もそれを知りながら、一切の怯みも見せず淡々と答える。

「彼は死にました。でも、心配はいりません。苦しまないよう、一瞬でしてあげましたから」

 瞬間的に真紅の感情が爆発した。
 今の彼女の心を支配しているのは悲しみではない。目前の妹に対する憎しみだけだ。
 これまで憎まれてばかりだった真紅は、初めて憎む側に立ったのだ。

 薔薇水晶は並ならぬ怒気を肌で感じ、宝石鑑賞を早々と切り上げた。
 二つの輝きが掌から舞い、彼女の胸元へと吸い上げられる。そして、彼女は金糸雀と雛苺の魂を吸い込んだ。

「胸が、熱い……!」

 体内でローザミスティカの吸収が始まり、薔薇水晶の胸を焦がす。言いようの無い高揚感に満たされ、体の底から力が湧き上がる。

 一方の真紅も、相手の力が増すのをただ傍観しているだけではなかった。どこから取り出したのか、掌にはローザミスティカが。

「薔薇水晶……貴女は地獄に堕ちるべきだわ」

 手の中のローザミスティカが呼応するように輝きを増す。翠星石の魂も愛する者の仇を許せないのだろう。
 真紅は両手を胸元に当て、翠星石の命を吸収した。もはや、彼女に姉妹を思いやる心はわずかも残っていなかった。



673:薔薇乙女戦争
06/05/07 12:43:11 pF2wROpO
 睨み合って対峙する真紅と薔薇水晶。
 ローザミスティカの持ち数は真紅が二、薔薇水晶が四。数値上は薔薇水晶が有利な感は否めない。
 しかし、真紅には別の力の源があった。それは、凄まじい憎悪で燃え盛る心だ。
 かつての水銀燈がそうだったように、狂気は時に恐ろしいまでの力を生む。
 ジュンの亡骸を前に、真紅の感情は天井知らずで昂ぶっていた。

 先に動いたのは薔薇水晶だった。前方に翳した掌から、水晶の飛礫を無数に放つ。先の尖った水晶は、弓矢の雨と同じだ。
 真紅は花びらの舞で反撃しながら回避運動を取る。薔薇水晶も花びらから回避するために後ろに跳ぶ。
 激闘の幕が再び上げられた。

 薔薇水晶は水晶を放って距離を置こうとする。
 真紅はそれを嫌い、花びらの盾で防ぎながら突撃を繰り返す。闘争心剥き出しの彼女は、一秒でも早く薔薇水晶を叩きのめしたかった。

 殺気を異常なほど振り撒く真紅に、薔薇水晶は押される形となった。それでも、ローザミスティカの数が上回る相手の攻撃を掻い潜って接近するのは至難の業だ。

「くっ……なかなか近づけないわ」

 逆上して闇雲に突っ込んでいた真紅も、戦法を考えざるを得なくなった。忌々しく吐き捨てた彼女は、思案を巡らす。
 その時、不思議とすぐにアイデアが浮かんだ。なんとなく、真紅は誰かに助言された気がしたのだ。そして、彼女は道具を出す。

674:薔薇乙女戦争
06/05/07 12:45:03 pF2wROpO

「スィドリーム!」

 翠星石の人工精霊の名を呼ぶと、手元に如雨露が現れた。翠星石愛用の庭師の如雨露だ。

 真紅は如雨露を持って駆け回る。すると、いつしか周りには濃い霧が立ち込めていた。

「どこ……?」

 薔薇水晶は濃霧で真紅を完全に見失っていた。しかし、焦りは無い。彼女にも考えが思い浮かんだのだ。

「ピチカート」

 薔薇水晶の手には金糸雀のバイオリンが現れる。
 このバイオリンの力で霧を振り払おうと言うのだ。彼女は弓を構えて音を奏でる。

 しかし、それは失策だった。音を出してしまっては、位置を教えているようなもの。
 真紅はここまで計算していたのか、少しも霧が晴れないうちに薔薇水晶の位置を捉えた。

 死角から真紅がスピードを上げて忍び寄る。
 霧と楽音が隠れ蓑になり、気付かれる様子は無い。薔薇水晶の思いつきはことごとく裏目に出ていた。
 この思いつきは、彼女が身体に宿している金糸雀、雛苺、蒼星石の抵抗だったのかもしれない。ジュンは、彼女達の誰からも好かれていたのだから。

 千歳一隅の好機。背後を取った真紅は必殺の意を込めて掌の一点に力を集中し、至近距離から花びらの大砲を撃ち抜いた。

「―ッ!?」

 突然、薔薇水晶の背中に衝撃が起こる。
 叫び声を上げる間も無く前方に吹き飛ばされた。
 その威力は半端ではなく、体に風穴が開くかと思ったほどだ。真紅の攻撃は背後からでも容赦無しだった。




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