【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】at ANICHARA
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】 - 暇つぶし2ch500:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 13:39:06 95GlSkRk
>>492
アップルクラッシュは握力100㌔以上ないと出来ない荒技・・・恐ろしい

501:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 13:46:55 TNUsQMqB
ローゼンメイデンのエッチぃ漫画貼ったよ
女性管理人が趣味でやってる掲示板だから只だし安心
18歳以上の人~覗きに来てください(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
URLリンク(bbs7.fc2.com)

502:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 16:14:50 UcvuU5iP
・・・の多様は避けた方がいい。
文章が安っぽく見えるし、点だけで何がしたいのか伝わりにくい。

503:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 17:40:02 AItfTDBU
俺は・・・を多用した文章を書くのも読むのも好きだったりする。
過去に感動を受けた神作品や、二次やエロだけでなく好きな商業作品を読んだ結果。
普通にドバっと使ってるし読んで面白いし、使うべき調味料はドバっと使うのがうまい料理。

もちろん・・・の多用を控えた文章にもいいのがあるよ、
そういうのが共存できるのがこのスレのいいところ。

504:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 17:56:08 0SOz2XSc
>>492
シリアスシーンとギャグシーンの使い分けが絶妙ですw
>>495
14行という限られた行数で巧妙に物語を展開していて、見事です。
>>502>>503
ようするに、職人が・・・をうまく使い分けれるかどうか、ってことかな。
この前投下した自分の作品は出来ているかどうか不安だけど・・・。

505:アルテマ
06/04/25 18:46:17 voDgzcuJ
薄暗い世界、空もなく、雲もなく、ただ殺風景な景色だけが広がる空虚な世界。
そんな空っぽな世界には凡そ不似合いな轟音が鳴り響く・・・・

ビシュン!ガキィィン!

nのフィールドと呼ばれる異次元空間で日夜繰り広げられる血で血を洗う戦い、
アリスゲーム

人形師ローゼンが作り上げし7体の薔薇乙女達によるローザミスティカを賭けた戦い。

六つのローザミスティカを得た者だけがなれる完璧なる乙女、アリス。
そのアリスになる為、この虚無の世界で今宵も2体の薔薇乙女が死闘を繰り広げていた・・・・・・・・



506:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 19:03:48 4h2Urafu
>>505
え、終り?w

507:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 19:09:21 O4wM2z9V
ジャームーオージーサーン
ハーーーーーーーーーイ

508:薔薇乙女戦争
06/04/25 19:40:49 rbUz2kmo
>>461

 薔薇乙女の父に会った。そう聞いた真紅は初め、何かの冗談かと笑い飛ばした。
 アリスにならなければ会えないとされるドールズの創造主。その偉大な存在とジュンがとうに出会っている。近所の店で「槐」と名を変えて人形師をしていると彼は言うのだ。
 話をするジュンの顔は、真剣そのものだった。もしかしたら、と彼女が思い始めるのに、そうは時間は掛からなかった。
 薔薇乙女の誰もが恋焦がれた「お父様」がすぐ手の届く所にいる。真紅はいても立ってもいられなくなり、帰ったばかりのジュンを連れて外へと飛び出した。


「ジュン、本当にここなの?」
「ああ、そうなんだけど……」
 道路上で佇むジュンと、それに抱っこされている真紅。二人が見ている先はただの空き地。
 それも普通の空き地ではなく、土地はアスファルトで舗装され、街路樹や小さな花壇で整備されている。まるで、ここには最初から建物など無かったかのようだ。
 ジュンは狐につままれた顔で突っ立っていた。今さっきあった店が消えているのだ。ここに店が建っていた痕跡が微塵も無い。魔法でも使ったのか、そうでなければ、本当に店があったのか。ジュンは記憶に自信が持てなくなりそうだった。
 この怪奇現象を確かめたかったジュンは、通行人を捕まえて尋ねてみることにした。彼はちょうど通りかかった地元の人らしい私服の青年を捕まえた。
「すいません、ここに人形の店ってありましたよね?」

509:薔薇乙女戦争
06/04/25 19:41:47 rbUz2kmo
 青年は抱いている真紅を見て奇異な視線を向けたが、質問に答えてくれた。

「そういえば、あったな。あれ? でも、いつの間になくなったんだ……?」

 青年は店があった場所を見て首を捻る。やはり、ジュンの思い違いなどではなかったのだ。
「それは確かなの?」
「おう、確かに―」
 青年の動作が固まる。
 やたらと目立っていた人形が喋ったのだ。そして、その人形と目が合う。

「何? 私の顔に何か付いてる?」

 異様に自然な動作で頬に手をやる真紅。青年の顔は真っ青になる。まずいと思ったジュンは慌てて取り繕おうと苦笑する。

「ぼ、僕の腹話術、上手いでしょ? 将来は芸人を目指してるんです」
「ジュン、何を言ってるの?」
「いいから、黙って合わせろ」
「私に命令する気?」
「そんなんじゃないって!」
「じゃあなんなのよ」

 喧嘩を始めた二人を見て後退する青年。数歩下がって距離を取り、一気に背を向けて走り去った。真紅のことがばれてなくても、危ない人だと思われたのは確実だ。ジュンは髪を掻き毟った。



510:薔薇乙女戦争
06/04/25 19:43:00 rbUz2kmo
 真紅はジュンの言っていた事が信じるに値するものだと確信した。確かに人形店は存在し、ローゼンはそこにいたのだ。真紅が出向くなり消えた店が、それを裏付けているようなものだ。 
 自室に帰宅した真紅はもう一度、槐について詳しく聞いた。そして、ジュンはその事について苦々しく語った。

「あの人は壊れた翠星石を見て「自分の娘だ」って泣いたんだ。それで、翠星石を直してもらおうとした。だけど、駄目だった。どうしてだと思う?」

 真紅には辛い質問だった。お父様はアリスの誕生を望んでいる。それを考えれば、答えは明確だった。

「翠星石は……今のままの私達は、お父様に望まれていないから……」

 最終的に求められているのは完璧な少女。不完全な命の欠片を持つ薔薇乙女などは、そこへ行き着くまでの過程でしかない。それは、真紅が生まれた時から承知していた事だった。
 それでも彼女が父親を愛せたのは、確かな愛情を受けて生まれたからだった。ローゼンは、いずれはアリスになる娘達に等しく愛情を注いだ。例え道具として創られたとしても、その愛情は本物だった。

「そうだよ。ローゼンは翠星石のローザミスティカを見て「アリスに相応しい」なんて言ったんだ。ふざけるなッ。翠星石は翠星石だ!」

 思い出して熱くなるジュン。ふと、真紅は彼女が羨ましく思えた。傍にいられなくなっても、想い続けてくれる人がいる。私が遠くへ行ってしまっても、この人は同じように想ってくれるのだろうか。

「翠星石はジュンの心の中で生きている。あの子もきっと喜んでいるわ」
「まだ僕は諦めてない」

 翠星石が死んだように言われ、ジュンは気分を悪くした。だが、絶望的なのは彼も解っていた。頼みの綱の槐には断られ、しかも、その槐がローゼン本人だったのだ。他に薔薇乙女を修理できそうな当ては無かった。

「わかってるわ。でも、これだけは言わせて」
「何だよ」
「もし、私が倒れても、ジュンの心の中に居させてくれる? 居場所はほんの小さなスペースでいいの……」


511:薔薇乙女戦争
06/04/25 19:43:50 rbUz2kmo
 ジュンは言葉を失った。激情に駆られて、またも真紅のことを忘れてしまっていたのだ。忘れていたばかりか、彼女を追い込むような質問さえしている。
 目の前の真紅は怯えているのか、いつもより小さく見えた。それに、あの真紅が負けを考えるような弱気になっているのだ。その心情は察して余りある。ジュンは不甲斐ない己に腹を立たせ、拳をぎゅっと固くした。

「そんなスペースはない」

 真紅は呆然と目を見開いて放心した。そして、俯いて肩を落とす。最後の居場所まで無くなったのだ、と……。
 だが、ジュンにそんなつもりはなかった。

「真紅は倒れない。僕が倒れさせない。だから、そんなスペースは用意してない」
「ジュン……!」

 感極まった真紅は、目頭が熱くなるのを感じた。しかし、気丈な彼女は涙は見せない。彼女は誇り高い薔薇乙女なのだから。
 そして、ジュンはその彼女に相応しい男に育ちつつあった。出逢ったばかりの頃の彼の暗さは影を潜めている。自暴自棄の彼に励ましの手を差し伸べ続けた成果が表れ始めたのだ。
 真紅は己のマスターを誇らしく思えた。同時に、不甲斐ないドールで申し訳なく思えた。いつしか戦いを恐れるようになり、蒼星石との戦いではマスターの負担を顧みない愚を犯してしまったのだ。
 ドールはマスターの期待に応えなければならない。真紅はジュンの想いに応えるべく、新たに決意を固める。
 二度と情けない姿は見せない。
 ゆっくりとだが、彼女の闘志は戻りつつあった。





512:薔薇乙女戦争
06/04/25 19:44:52 rbUz2kmo
 金糸雀は日傘を片手にnのフィールドを彷徨っていた。と言っても、当ても無くぶらついている訳ではない。彼女には目的があった。
 そして間も無く、彼女は目的の人物と遭遇する。

「アリスゲームを、始めましょう」

 白い髪の少女の開口一番は宣戦布告だった。
 それでも、金糸雀は驚かない。一斉に脱落者が出た今、これは至極当然の成り行きなのだ。

「まずは話を聞いて。ゲームはその後でもできるのかしら」

 日傘を差したまま、彼女は落ち着いて不戦の意志を告げる。薔薇水晶は何も言わずに静止する。それを了解と受け止め、金糸雀が話を始める。

「私は雛苺のローザミスティカを手に入れたわ。だから、持ってるのは二つかしら。あなたは?」
「答える必要がありません」
「そうね。でも、多くて三つかしら。真紅が少なくとも二つは持ってるもの」

 金糸雀は頭脳派と自称するだけあり、情報の収集に余念が無かった。住居が特定されている真紅の監視は比較的やりやすい。これを見逃すのは愚かだ。
 彼女は人工精霊のピチカートを偵察に連日送り、翠星石の脱落を知ったのだ。隙を突いて雛苺を襲えたのも、その努力があっての事だった。

513:アルテマ
06/04/25 19:45:22 voDgzcuJ
翠星石「ハァ・・ハァ・・・・」

息を切らす一体の人形、エメラルドとルビーの左右で色の違うオッドアイ、草原をイメージさせる様な緑のドレスに自身の背丈以上に長いブラウンの髪・・・・・・
 彼女の名は翠星石。人形師ローゼンが作り上げし第3ドール、人の夢の扉を開き、心を育て、癒す夢の庭師。
彼女もまた、自身の宿命に従い、アリスを目指して戦う者の一人である。

この日は自身の双子の妹である第4ドール・蒼星石に会いに行くため、nのフィールドを通って蒼星石が世話になっている家え迎う所だった。

普段は鞄に乗って空を飛んで移動しているのだが、生憎この日は大雨で、空を飛んで行くの不可能だった。そのため、普段は戦いの時ぐらいしか入らないnのフィールドを通って向かおうと考えたのだ。だが・・・

それが全ての間違いだった
―――
――




翠星石「ハァハァ・・・・・クッ!」

ジャキィィン!ズオォォン!

満身創痍の翠星石に水晶の巨槍が襲う。

ヒュンッ!

足元から不規則に出現する巨槍を紙一重で躱す翠星石。その表情からは余裕は感じられず、動くだけで精一杯だった。

514:薔薇乙女戦争
06/04/25 19:45:49 rbUz2kmo

「あちらはローザミスティカ二つに加えて、ミーディアムのジュンまで居る。正直、カナの勝ち目は薄いかしら」

 マスターを殺された金糸雀の戦力は、大幅にダウンしていた。ローザミスティカを一つ奪ったが、相手も同じように強くなっていては戦いが有利にはならない。真紅が翠星石のローザミスティカを使えば、金糸雀と同じ数になる。
 彼女はこの差を埋めるために薔薇水晶と接触したのだ。今から、そのための交渉に入る。

「もしもあなたにマスターがいないとしたら、やっぱり真紅には勝てないと思うわ」

 仮定が当たっていても、薔薇水晶の表情は変わらない。彼女も指輪の契約はまだだった。ローザミスティカも蒼星石から奪っただけなので、真紅とぶつかれば苦戦を強いられるのは確実だろう。
 だが、彼女はどんな状況でも真紅に負けるつもりはなかった。分が悪いのなら、目の前の少女の力を奪うまでだ。自然と瞳に殺気が宿る。
 敏感に危うい空気を感じ取った金糸雀は、事が起こる前に本題を述べた。

「そこで提案だけど、私と手を組んで欲しいのかしら」

 それは、同盟の提案だった。アリスゲームに明確なルールは無い。これも立派な作戦だ。

「もちろん、真紅を黙らせるまでの一時的なものよ。ダメなら、ここで命の取り合いをするしかないのかしら」

 共闘の誘いを受け、薔薇水晶は熟考する。
 ここで金糸雀を潰すのも悪くない。しかし、万が一にも手傷を負わされでもしたら、その後の強敵真紅に勝てる見込みは無くなる。
 アリスに選ばれるのは一人だけ。最後まで生き延びなければ意味がないのだ。最も優位な立場の者を蹴落としたいなら、下位で無用な争いをするべきではない。益々、上位が楽になるだけだ。
 それに、ここで誘いを蹴っても損をするだけだ。下手をすれば、金糸雀が他のドールと組む事もありえる。金糸雀があくまで最終的な勝ちを狙うなら、真紅を誘っても何ら不思議ではない。
 結論は出た。

「いいでしょう」

 その返事に満足し、金糸雀は不敵な笑みを浮かべる。薔薇水晶も同じ笑みでそれに返した。



つづく

515:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 20:11:51 HgjdDmIt
おまえら総合スレのほうも見てやれよ

516:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 20:37:37 AItfTDBU
当然、関連のスレは一通り拝読させて頂いている。
各々のスレがいい書き手を抱え、良質なSSを輩出している。
極めて良好な状態に見えるが?


517:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 20:43:09 4h2Urafu
>>514
まってました!
翠星石の死すは翠派としてつらい物がありますが
物語が整っていて大変、自然と感情投入してしまいます
もうGJとしか言い様がありませんね

次回作wktk!

518:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 21:01:18 HgjdDmIt
>516
コンディションなんて誰が聞いたよ?

519:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 21:07:48 voDgzcuJ
薔薇水晶「・・・・・・。」

翠星石から数メートル先、金色の瞳、左目には薔薇のアイガード、紫電の髪を靡かせ、紫のドレスを纏うその姿はまさに悠然の二文字。

自身の手掌から繰り出される攻撃を必死に回避する翠星石を無表情で見つめ、一切手加減する事なく、非情なまでに攻撃を加え続ける・・・・・

薔薇水晶―――

ローゼンメイデン第7ドールにして薔薇乙女最強の戦士。冷酷にして非情・・・・・勝つの為なら手段を選ばない戦いぶりに畏怖する者も多い。

ドドドドッ!ガシュゥン!

翠星石「クッ!」

薔薇水晶の攻撃を躱し続ける翠星石。そしてそれを尚も冷徹な面持ちで見つめる薔薇水晶。

翠星石「ハァ・・・ハァ・・・・何なんですかアイツは!?しつこい野郎ですぅ!」

薔薇水晶の猛攻に曝され、満身創痍になりながらも自身の苛立ちを吐き捨てるように翠星石が叫んだ。

事の発端は一時間前、蒼星石の元へ向かうべくnのフィールドを一人意気揚揚と歩いている所を突如薔薇水晶に強襲され、有無も言わさず戦闘になったのだ。
 序盤こそ善戦していたが、その実力差故に徐々に押され始め、今では首を落とされる寸前にまで追い詰められている。

翠星石「(こんな事なら黙って家に入れば良かったですぅ~)」

自分の愚行に対して今更ながらに後悔する翠星石。
そもそもnのフィールドというのはドール達にとっては庭の様なものであり、自分の力を最大限まで引き出して戦える場所である。

そんな世界に一歩でも足を踏み入れれば、それを自身に戦う意志があるという証明であり、例え襲われても文句は言えない。それはドールである翠星石自身もよく知っている筈だったが、桜田家での平穏な生活がそれを忘れさせていた・・・・



520:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 21:59:54 FpwZm5Yg
書きながら貼るより、一度メモ帳に纏めて(携帯なら下書き保存して)完成してから貼った方がいいよ。

521:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/26 01:06:57 aoOQLIPO
>>514
続きwktk

522:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/26 03:14:19 F8Nq2vig
良作投下のラッシュ、嬉しい悲鳴を上げながらこのスレを読んでます
ボクも微力ながら向こうを張る気持ちで、一本書き上げました

では、SS「されざる者たち」、投下します

523:されざる者たち
06/04/26 03:16:45 F8Nq2vig

ある日

ニュースでもネットでも、不自然なほどの平穏が保たれた、とても平和なように思えた日
僕は真紅に呼ばれた、神妙で無表情な顔、僕は知っていた、真紅のその顔の意味、青く冷たい瞳の意味
とても辛く悲しい事を封じ込めた顔、ローゼン・メイデン達がその永い営みの中で数多く経験した悲しみ
どうにもならない別れ、忍従、諦念、無力感、そして怒り、それらを湛えた青い瞳が僕を見つめる

背を向けたまま何も話そうとしないまま歩く真紅の導きで、僕は階段の下、僕の家の玄関に降りていった
開け放された玄関には既に他のローゼン・メイデン達が集結していた、揃って無言で僕を見つめる
真紅を加えて7体、七人のドール達が黙って僕を見つめる、そして真紅がやっと重い口を開いた

「ジュン、私達、貴方に言わなきゃならないことがあるの」
それだけ言って口篭もる真紅に、何故か今日は大人しく他のドール達と一緒にいた水銀燈が割り込んだ
「人間・・・私達、あんたらとおさらばするって事よぉ・・・丁度いい厄介払いでしょお?」
水銀燈の瞳は微かに泣き腫らされていた、ここに来る前にあの病床のマスターに別れを告げて来たのか
「う・・・うぅ~、ツライですぅ~・・・・翠星石はせっかくチビ人間を真人間にしてやろうと・・・」
翠星石はいつもの意地っ張りが嘘のように泣きじゃくってる、僕らはいつだって、手遅れの繰り返し
「仕方ないんだよ・・・これが歴史の必然・・・もう僕たちは、明るいおもてを歩けないんだ・・・」
なぜか最も冷静を保っている蒼星石の姿から、一番大きい泣き声が聞こえた気がした・・・泣きたくなった
「ヒナはこんなのいやなのー!ヒナわかんないもん!なにもわるいことしてないのに!おわかれなんて!」
怒りと悲しみに地団駄を踏みながら涙を流す雛苺、それが彼女だけでなく皆の本当の姿なんだろう
「命は・・・大事なのよ・・・みんな自分の命が大事・・・・愛する者の命ならどうかしら?」
薔薇水晶の無感動な顔、彼女は目の前の僕じゃなく、もっと大きい物と戦っている、そして嘆いてる
「皆気づかないのかしら!誰の為にお別れしなきゃいけないの?私やマスターじゃない奴等の為かしら!」
みんな気づいてる、「奴等」の正体も意図も、それに何も出来ない僕らの無力さも・・・正義は、死んだ

僕は立ち尽くした、僕は無力、僕は正しくない、僕は異端、でも、奪われていいものなんて何もない
「そんな・・・そんな突然・・・何でだよ!何とかならないのか?何か方法が・・・せめてもう少し時間を・・・」



524:されざる者たち(2)
06/04/26 03:17:32 F8Nq2vig

それでも、何もない僕には、言葉しか術は無い、僕は空に向け、絶対言いたくなかった言葉を叫んだ

「ローゼン・・・見てるんだろ!・・・・こんなこと許していいのか?・・・何とかしてくれよ・・・・頼むよ・・・」
僕は跪いて涙を零した、ロクでもない人形師のためじゃない、僕らを引き裂く「力」のためじゃない

その時・・・曇り空の間から光が射した、決して晴れないと思われた雲が、ほんの少しの光明を落とした

天空から「矢」が飛んできた、無数の黒い矢がドール達の顔面に降り注いだ
ドール達は強い電流に撃たれた、1千ボルトもあろうかという電圧、絶縁体強度検査のような過酷な電圧
彼女達は倒れない、矢の衝撃にも、確実に寿命を縮める高い電圧にも、彼女達は決して倒れない
矢はドールの顔面に刺さり、それは紋章となって焼き付けられた、3つのアルファベットの紋章

静かになった

顔面に矢を食らったドール達は、お互いの顔を見合わせた、真紅は右頬に、水銀燈は目の周りに、
ドールの顔のあちこちに刻みつけられた矢の紋章を見て、笑い出した、涙を出しながら笑いつづける
「奇跡よ・・・奇跡が起きたのだわ・・・・」
「あぁ・・・お父さま・・・ありがとうございます・・・こんな私の事も、認めて下さるんですね」
「あはは・・・しょーがねぇからこれからも居てやるです、でも・・・あと少しだけ・・・ですぅ・・・・」

「真紅・・・みんな・・・ソレは一体」
誇り高き薔薇乙女達は、顔に紋章をつけた物凄くみっともない姿で、高らかに声を合わせて謳った

                 「PSEマークよ!」

「ジュン・・・私は真紅、誇り高きローゼンメイデンの第五ドール、経済産業省認定のお人形」


525:されざる者たち(3)
06/04/26 03:18:53 F8Nq2vig
パン!パン!パン!パン!

「トリビァル!見事な茶番でしたな、とりあえずあなた方には、ほんの少しの「飴」を与えましょう
販売はレンタル、猶予期間の延長、『消費者保護』は誰の保護?お神の為でない法があるでしょうか?」

「ウサギ」から与えられた時間はほんの少し、無力な僕らが足掻く様を彼らは笑う、でも、僕らは・・・

「私達が、必ず何とかしてみせるのだわ!」
真紅がウサギに、いつも雲の上から弱き者に痛みを強いるウサギに一歩も退かず、意思の声を上げた

「あんまりあざといマネで私ら零細な者をシメ上げると・・・何するかわかんないわよぉ」
水銀燈は本当に何するかわからない不気味な笑みを浮かべた、海の向こうの悪魔とさえ契るだろう

「そうですぅ!私達はゴマじゃないんだから、絞れるだけ絞ろうなんて奴等は痛い目に遭えです!」
翠星石はたくましくしたたかな、鳴かぬ者が鳴くまで待つタヌキのような食えない笑顔を浮かべた

「僕たちは生かさぬよう殺さぬように搾り取られてきた、それなら僕らにも考えがある」
蒼星石は努めて争わず決して退かない、しぶとく忍耐強い三河武士のような強い意思をみなぎらせる

「みなしレンタル、オブジェ扱い、偽装輸出、この私にかかればあいつらなんて穴だらけかしら!」
金糸雀の猿知恵、でも追い詰められた者の知恵は何よりも怖い、その知恵の結論は「法の無視」

「フランスはデモとかしてこわいのー!でもヒナは何もしない日本の若いひとの方が怖いの」
雛苺は見た・・・オイ!僕のことか?僕は何もしてない、何も生み出さない、それが何だってんだ

「何もしない事・・・それは最大の破壊、それは彼らが最も恐れる、富を還流するシステムの破壊」
薔薇水晶の言ってる事がわからなかった、僕は、ひきこもりの僕はずっと、わからないふりをしていた

確かに僕は限りある富を食い続けるだけで、何一つ世の中に富をもたらしていない、それはいけないと
思っていた、「彼ら」に富を返さなくちゃいけないと思ってた、でも、彼らが信用出来なくなった時
僕はそういう努力をやめてしまうだろう、ガッコ行って働いて、そういうのへの義務感は鈍るだろう
僕ひとりがそうなった所で何かが変わるとは思えないが、僕みたいなのがゴマンと出てきたら・・・
「彼ら」はその時、気づくんだろうか、愛さない者は愛されない、えげつない奴等は早暁に破滅する
破壊する者達、奪われざる者達、支配されざる者達、僕は・・・・・・・・・もう少しひきこもろうかな


誇り高き薔薇乙女、とても幸せな僕のお人形達は揃って見つめた、彼らを見つめた、そして、宣言した

「私達ローゼン・メイデンは電気用品安全法に反対します!」



されざる者たち(完)

526:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/26 03:20:06 F8Nq2vig

あとがき

先立って成立した「自動車リサイクル法」に涙を呑んだ者として、この話を書きました

家電の流通を許可するPSEマークを付与する為の検査は、1千ボルト近い電圧をかけるらしいです

旧い楽器を愛好する人達、家電板に居る「冷蔵庫や洗濯機を型番で呼ぶヤツラ」そんな熱い奴等に
願わくば試練よりも福音がもたらされることを祈ります、様々な物々の進化を創るのは彼らだから

では、また近いうちに

                               吝嗇

527:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/26 08:36:07 vMlqp5Ei
GJ!
読みごたえがありました

528:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/26 08:54:27 N0veIz/b
>>526
なんだかよくわからないが熱い志を持つことは理解できた

529:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/26 14:28:25 GBGhDLBX
経済産業省認定・・・(´A`)

面白かったですw

530:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/26 16:16:07 YlUii6fo
長い

531:妄想のままに
06/04/26 18:38:26 e7CJ0QeV
タイトルは「お菓子選挙」

532:妄想のままに
06/04/26 18:39:23 e7CJ0QeV
「スコーンですぅ!」
「いいえっ、クッキーだわ」
春の暖かな日差しに包まれる桜田家で
今小さな争いが繰り広げられている
リビングで言い争う翠星石と真紅、何でこんな事になったのか
そんな2人を眺めながら、ジュンは頭の中で呟いていた

533:妄想のままに
06/04/26 18:42:03 e7CJ0QeV
ご飯を食べ終わり、各々が自由な時間を過していた
雛苺と真紅、翠星石はソファーで何時ものくんくんを楽しみTV鑑賞会
蒼星石はのりと食器の後片付けをしていた
「くんくんっ、誰なの?犯人は誰なの?」
「犯人は絶対あの猫娘ですー、今にあの犬探偵の口から語られるはずですぅ♪」
「うー、くんくんすごいのー、頑張るのくんくんー!」
3人がTVに熱中している中
食器を洗いながら、のりがふと真紅達に訊ねた・・・。
「今日のおやつ、何がいいかしら?」
いつもなら大体彼女のおまかせで作られているのだが、今日はリクエストに応えてくれるらしい
ドール達に問い掛けたあと、最初に雛苺が声をあげる
「ヒナはねぇー、のりが作ってくれるおやつならなんでもいいのー」
「僕も特には、のりさんのおまかせでいいよ」
一緒に食器を洗っている蒼星石からも同じ返事が返ってきて
2人の言葉にのりは少し嬉しくなった
自分はみんなから信用されてるのかな、何てバカな事を頭の中でぼやきながら
思わず表情に漏れて微笑んでしまう
「そっかぁ~、じゃーわかったわ!今日も私が頑張って
「そうですねぇ~、翠星石はスコーンが食べたいですぅー」
と言おうとしたが、途中で翠星石からのリクエストに阻まれてしまった
少し笑顔が歪んだが、元々自分が言い出した事なのですぐ立ち直る
「スコーン~?雛苺も食べたいのー!」
「姉さんがそう言うなら」
他の2人も異論はない様なので、今日のおやつはスコーンに決まるかに見えた
だが
「じゃー翠星石ちゃんの言う通り、今日はスコーンに
「まって、のり、私はクッキーが食べたいのだわ」
今度は真紅からの声に、また言いそびれてしまった
「クッキー?んー、ヒナも食べたいのー」
「へぇー、きみが他人の意見に口を出すなんて意外だね」
のりが作ってくれる物なら何でもいい雛苺に
真紅の普段見せない反応に意外性を浮ばせる蒼星石
それに真紅が迷いなく答えた
「今日のくんくんはクッキーを食べていたの、私はくんくんの一番の助手ですもの
そんな私がくんくんと同じ物を食べなくてどうするのだわっ!くんくんと同じ物を食べて、同じ生き方を貫かなきゃ
真にくんくんと心を通じ合わせるのは不可能なのだわ」
恥らう様子もなく、淡々とくんくんへの愛を語る
「うぬー?くんくんがクッキー?、食べてたっけーなのー」
「そう言えば食べてた気もしますけど・・・多分ほんの一瞬ですぅ、よく覚えてましたね真紅」
同じTVを見ていた2人だが、返事は疑問形で返って来た
「貴女達にはくんくんへの愛が足りないのよ!」
大真面目に一喝を入れる
おそらく、くんくんを見ている間の彼女は動体視力が飛躍的に揚がるのだろう。愛は常識を凌駕するらしい
しかし、その二つのリクエストにのりはやや困った顔を見せる
「えーと、どうしましょう・・・今日は卵と小麦粉をあまり沢山用意してなかったから
二つも一緒に作れそうにないのよ」
ちょっとしたトラブルの発生に、今日のおやつの献立を決め兼ねているのりだが
戸惑う彼女に真紅が愛の名の元に畳み掛けた
「クッキーは今日でなきゃ意味がないの、私のくんくんは今日クッキーを食べていたのよ
明日じゃダメなの、そう言うわけだから翠星石、今日のスコーンは諦めてちょうだい」
きっぱりと言い切る。だが、それに翠星石が応じようとしなかった
「ちょ、ちょーっと待つです!昨日もクッキーは食べたですよ
何で2日も続けて同じ物を食べなきゃならないのですかぁ~、断然今日はスコーンですぅ!」
「あなた、私とくんくんとの愛を引き裂こうって言うの!?」
「そんなの知らないですぅ、花よりだんごですよ!」
「ちょ、ちょっと2人とも・・・」

534:妄想のままに
06/04/26 18:43:06 e7CJ0QeV
とまぁ、僕が2階から降りて見たらこんな感じである
「大体スコーンなんて、お菓子は味もそうだけれどそのシェフが奏でた繊細な形を楽しむ物よ
生地と言うキャンバスに描かれた小さな芸術品なのだわ、それを何?
あんな何も手を加えずに無造作に膨らませた様な外形は。まったく、洋菓子の風上にもおけないわ」
まだ言い争っている様だ
「クッキーも作れない真紅にお菓子のなんたるかを語る資格はねーですぅ!
あの雲の様で、口に入れた瞬間に広がる柔らかさ~♪さらに中にレーズンを入れるともっと美味しさが増すですよ~
あんな石を食べてる様なお菓子より絶対スコーンですぅ」
なんです~!なんなのだわ!
2人による互いのお菓子の罵り合いは激しく続いた
そんな中、まるで自分の腕を否定されているかの様で途端に落ち込んでしまった娘が一人いるのは
言うまでもないだろう
「わたしなんて・・わたしなんて・・・」
「けんかはやめるの~」
「そうだよ、2人とも落ち着いて」
言い争う翠星石と真紅を、見兼ねた2人が引き止める
その言葉が届いたのか、ハッと2人が我に返った
「そうね・・・、私ともあろう者がちょっと熱くなり過ぎたわ」
「所詮お菓子くらいの事で、大人げなかったですね」
これでやっと事が治まったかに思えた、ジュンも騒動の終着に1つ安堵の息を付く
のだが
「けど、私はやっぱりクッキーが食べたいのだわ」
諦めてないらしい、そこで次に真紅が1つの妙案を言い出した
「それなら今日のおやつをどちらかにするか
みんなに決めてもらうって言うのはどう?票を多く勝ち取った方が今日のおやつよ」
その妙案に、勝負好きの翠星石が快く受け入れる
「それは名案ですぅ~♪受けて起ちますよ真紅」
「負けないのだわっ!」
「こっちこそです!」
蒼星石や雛苺、落ち込む姉ちゃんや僕を他所にどんどん話を進めていく2人
まったく、そのお菓子を作るのは誰だと思ってるんだか・・・

535:妄想のままに
06/04/26 18:45:02 e7CJ0QeV
一通り張り合った後、さっそく翠星石が行動に出た
「と言うわけでチビ苺、クッキーとスコーンどっちが食べたいです?」
「うゆー?えーっとねー、ヒナはねぇー」
迷っている雛苺に、そっと耳元で囁き掛ける
「スコーンはですねぇ、苺ジャムを浸けるととっても美味しいのですよー」
「苺っ!?ヒナ、スコーンがいいー!」
有権者の好物を利用した見事な戦術で一票を獲得した
「ず、ずるいのだわ翠星石っ」
「スコーンの利を生かしたまでです~♪これで一票ゲットです~」
負けじと真紅も蒼星石に問い詰める
「蒼星石、貴女はどちらがいいの?」
「僕は別に、どっちでも」
そんな特に関心の無さそうな返事に
「貴女、昨日の・・・・いいのね?」
「ク、クッキーが食べたいなぁ~」
見事な精神操作で一票を巻き返した
「昨日って、何があったですか蒼星石・・・」
「な、なんでもないよ!それより早くどっちにするか決めようよ!」
相当まずいのか、慌てて話を逸らそうとする。本当に何があったのやら
「くぅぅ、妹を脅迫で揺さ振るとは卑怯ですよ真紅」
「やったもの勝ちなのだわっ」
これで1-1、次に狙うのは・・・
グリンッ、今まで様子を眺めていた僕に一斉に顔を向けてきた2人、少し怯んでしまう
しかし、そんなジュンの動揺もお構いなしにズンズンと近寄ってくる
「チビ人間っスコーンかクッキーどっちがいいんです!」
「ジュン、クッキーとスコーンどちらがいいの!」
「わ、まて、そんな同時に言われても」
いきなり叫ばれてまた戸惑うジュン
それからじっと2人が見詰めてくるものだから、意味もなく頬が赤くなり慌てて目を逸らした
何を動揺してるんだ僕は
「・・・どっちも、じゃダメか?」
「ダメです!」
「ダメだわっ」
んな事言われても、どちらか一方を選べばどっちかに殴られるのは目に見えている
そうジュンが返事を迷っていると、ふと翠星石が訊ねて来た
「チビ人間っ、フワフワとカチカチ、どっちが好きです?」
「え?えーと・・・フワフワかな?」
この返事に、してやったりの笑みで勝ち誇る
「でしたらー、ジュンはスコーンの方が好きに決まってるですぅ~これで2票ゲットです♪」
「ま、待つのだわ!クッキーはサクサクなのよ、カチカチじゃないのだわっ!」
「どっちでも一緒です~、ジュンは硬いのより柔らかいのを選んだんですぅ~♪」
「ジュ・・・ジュンッ!」
真紅が睨みながらこちらを振り向いた・・、いや、これは違っ
「おい、ま、まって」
左ストレート絆パンチ!
「グハッ」
カンカンカーンッ!WINNER赤いのッ!

536:妄想のままに
06/04/26 18:47:07 e7CJ0QeV
倒れたジュンは放って置いて、雛苺がしゃがみながら指で突っつき、ジュンの頭の上にお線香を焚いてお祈りをしている
「まだよ、まだのりがいるわっ」
必死に挽回を謀ろうとする真紅だが
「のりはもうダメです~」
そう告げると、翠星石が目をのりに向ける
そこには俯いたまま、すっかり自暴自棄になってしまった彼女
「わたしなんて・・わたしなんて・・・」
「のりー!のりーー!」もはや返事を訊ける状態ではなかった
「これで決まりですねぇ~、今度こそ今日のおやつはスコーンですー♪」
「ま、待つのだわ!まだあの子がいるのだわっ」
そう言ったかと思うと突然片手から花びらを舞い上がらせた
え、何する気ですか・・・
それは手から滞りなく舞い続け、頭上に桜色の集合体を形成して行く・・、
一通り放出した、次の瞬間、勢い良くその花びら達をドアに向けて飛ばし出したっ
リビングの中を、桜色の一線が駆け抜けるっ
そして、バーンッ!
花びらがぶち当たり、そのままドアが勢い良く開いたっ
ひっ、いきなり何をやらかすですかこの娘は
翠星石がそう驚嘆の表情を見せていると
「うぅ・・・」ドアの外で花びらに埋もれた金糸雀が顔を揚げた
「さぁ、話は聞いていたんでしょ?貴女はどっちなの?」
「いきなり、この仕打ちはひどいかしらー・・」
途端に隠密がばれてしまった金糸雀、突然の攻撃に埋もれて、意識がもうろうとするが
「うぅ、カナはーー、えーっとー」
睨み付け、金糸雀に見える様に拳を握る
「ク、クッキーがいいかしらぁ~!」
「これで同点だわっ!」
「い、色々とずるいですー!」
こうしてまた、振り出しに戻ってしまった。
もう他のドール達は2人に振り回されてぐったり
頭に線香を乗せたまま意識の戻らないジュン、祈り続ける雛苺
翠星石もさすがにはしゃぎ過ぎたと言った感じで、ソファーにぐったり倒れ込んでいる
そんな疲れ切った雰囲気の中、真紅が一言呟いた
「そうよ」


「ジャンケンだわっ」

537:妄想のままに
06/04/26 18:49:07 e7CJ0QeV



間違えて二度もageてしまいました、すいません
本当にありがとうございました。

538:アルテマ
06/04/26 23:31:05 knRyyDa8
ビシュン!ガシュゥン!

翠星石「きゃあ!」

尚も続く薔薇水晶の容赦無い攻撃。隙の無い攻撃に反撃する事すら出来ずに追い詰められる一方の翠星石。

翠星石「もう!雨なんか降らなきゃこんな事にならなかったのに!っていうか蒼星石が一緒に暮らさないのが悪いんですぅ!」

自らの軽率な行動を雨と蒼星石のせいにして逃げ惑う翠星石。

薔薇水晶「・・・・・・・」

薔薇水晶は依然として攻撃の手を緩める事無く、執拗に翠星石を追い詰めていく。相変わらずその表情からは一切の「情」は感じられない・・・

翠星石「この・・・・いつまでも調子に乗るんじゃねーですよ!スィドリーム!!」

一か八か・・・薔薇水晶の容赦無い攻撃に手を拱いていた翠星石が人工精霊を呼び出し攻撃を仕掛ける。

キィィィーーン!

頭上から薔薇水晶の頭部目がけてスィドリームが高速で飛来する。しかし・・・

ガシィッ!

スィドリームが頭部に命中する寸前、薔薇水晶の左手がスィドリームを素早く掴み取る。スィドリームが飛来する方向に視線を移す事もなく・・・・・

翠星石「スィドリーム!」

完全に死角を突いたつもりが、簡単に防がれた事に驚きの色を隠せない翠星石。
薔薇水晶「馬鹿正直・・・・こんなものを攻撃とは言わない・・・・・」

薔薇水晶が無機質な声で呟く。

翠星石「クッ!」


539:薔薇乙女戦争
06/04/27 20:50:48 12EYk/7X
>>514

 ある日の午後、ジュンの家に久々の来客があった。
 しかし、客人と言っても人ではない。その小さな客人は金糸雀だった。
 彼女は堂々と正面から玄関の呼び鈴を鳴らし、のりにリビングへと通された。雛苺の事を知らされてないのりは、上機嫌で紅茶と菓子を出す。

「カナちゃん、どこへ行ってたの? 心配してたのよぅ」
「どこってほどの所はないかしら」

 金糸雀はソファーで紅茶を一口飲み、部屋を見る。他には誰も居ない。この部屋も静かになったものだ、と感慨に耽る。この時間、少し前までは薔薇乙女の憩いの場だったというのに……。

「真紅は?」
「たぶん、二階ね。呼んでこよっか」
「お願いするわ」

 金糸雀はカップを置き、気を引き締める。今から会う真紅は仇であり敵なのだ。呑気にお茶を楽しむ事は許されない。
 そんなことになっているとは露知らず、のりは軽い足取りでリビングを出た。

 のりが呼びに行ってすぐ、真紅が硬い表情で金糸雀の前に現れた。後ろにはジュンの姿も見える。アリスゲームの真っ最中の今、マスターの彼が付きっ切りになるのは当然だ。
「真紅、元気そうでなによりかしら」
「貴女もね」
 金糸雀の挨拶には皮肉の意が込めてある。真紅もそれを解って返している。のりだけが普通の挨拶だと受け取っていた。金糸雀はソファーから降り、真紅の前へ出た。

「私がここへ来た意味、言わなくても判るかしら」


540:薔薇乙女戦争
06/04/27 20:51:57 12EYk/7X
 真紅は判っていた。だが、それを認めてしまっては悲劇を避けられない。もう手遅れなのは彼女もひしひしと感じている。それでも、言わずにはいられなかった。

「金糸雀、まだ遅くないわ。ここに戻ってきて。雛苺の事は水に流すわ」
「別に流さなくても構わないかしら。カナはみっちゃんの事を水に流すつもりないもの」

 まさに、聞く耳持たず。金糸雀は真紅の言葉を一笑に付した。これには、ジュンも何かを言いたくなる。

「お前はそれで本当にいいのか?」
「それはこっちのセリフかしら」

 金糸雀はきっと睨み、ジュンの物言いに反発を見せる。彼が気に入らないようだ。

「ジュンはどうして真紅の味方ができるのかしら。悪いのは全部真紅よ」
「まだそうと決まったわけじゃ……!」
「決まってるのかしら!」

 眼前で繰り広げられる剣呑な言葉の応酬に、のりはおろおろとうろたえるばかりだ。
 言い合ってても仕方がないと、金糸雀が一歩一歩と足を前に出し始める。

「ついて来るのかしら」

 それは戦いへの誘い。アリスゲームを申し込まれた以上、無視する事はできない。仮に無視しても、ここが戦場になるだけだ。
 やはり、こうなるしかなかったのか。真紅とジュンは、諦めに似た思いで金糸雀の後に続いた。そこが、最後の決戦の場になるとも知らずに。





541:薔薇乙女戦争
06/04/27 20:53:40 12EYk/7X
 金糸雀に連れてこられた異世界は殺風景な所だった。
 辺り一面が真っ白な雪原で、地平線の彼方まで全方位に建物の一つ、木の一本も見えない。空はどんよりと厚い雲に覆われ、微かに粉雪がちらついている。
 金糸雀は二人と距離を置いて対峙する。戦いの幕開けが目前に迫っていた。

「そろそろ始めるかしら」

 武器であるバイオリンを形にした時、彼女の上空に異世界からの扉が開く。
 そこから飛び出したのは薔薇水晶だった。
 金糸雀と薔薇水晶が当然のように並んで立つ。完全に罠だったのだ。

「お前達、二人掛かりなんて卑怯じゃないかッ」
「何が卑怯なのかしら。真紅とジュンで二人。カナと薔薇水晶で二人。とっても公平な戦いかしら」

 ジュンが抗議するが、金糸雀はそれを一蹴する。それを言い出したら、最初に同盟を組み始めたのは真紅の方なのだ。ジュンの所に集まっている真紅達に金糸雀も一度は戦いを挑んだ。
 彼女には罪悪感の欠片もない。バイオリンを喉元に構え、宴の始まりを奏でる。

「第一楽章、白雪のプレリュード!」

 弓が弦を激しく擦り、かなり騒々しい前奏曲で始まった。耳をつんざく音の連続は、曲と言うのもおこがましいものだった。ちなみに、曲目に意味はあまりない。彼女がその場の気分で付けているだけだ。

542:薔薇乙女戦争
06/04/27 20:55:59 12EYk/7X

「うわっ、耳が……ッ!!」

 騒音攻撃だと思ったジュンが両手で耳を塞ぐ。
 だが、それは間違いだ。本当の攻撃はこれから来る。
 演奏の高鳴りと同時に金糸雀の姿が陽炎のように揺らぐ。空気が大きく振動しているのだ。そして、その揺らいだ空気の塊が前方に何発も撃ち出される。
 それが見えていたジュンは、驚いて逃げようとした。
 しかし、耳を塞いでいては体勢が悪く、見事に逃げ遅れた。瞬間的に体が逃げるのを諦め、頭だけを守ろうと顔を逸らす。
 その時、小さな影が彼の前に躍り出る。彼女は手を翳し、薔薇の花びらを集めた盾で空気の砲弾を吸収した。

「ジュン、音くらい我慢なさいっ」

 チラリと後ろを見て叱責する真紅。
 来るであろう痛みを、目を閉じて待っていたジュンは、助かったのを知って表情を緩める。
 しかし、安心するのはまだ早い。金糸雀の砲撃は止まずに続いているのだ。
 真紅の顔が焦りで歪む。花びらの防壁が突破されそうだった。
 この時、金糸雀は違和感を覚えていた。真紅に手応えが無さ過ぎるのだ。疑問に思った彼女は挑発してみることにした。

「真紅~、どうしたのかしら。ローザミスティカを奪ってもこの程度?」
「私は奪ってなんかないのだわ」

 返ってきたのは意外な答えだった。だが、敵の言う事を鵜呑みにするのは危険だ。金糸雀は確認するためにも追求する。

「この金糸雀が知らないとでも? あなたが翠星石のローザミスティカを持っているのは調査済みかしら」
「それなら別の場所に残してあるわ。あの子は必ず生き返ると信じているもの」

 真紅は手元にあったローザミスティカを吸収してはなかった。それをしてしまったら、彼女が忌み嫌うアリスゲームを容認する事になる。一度は不戦を誓った彼女なりのけじめだった。
 それを聞いた金糸雀は、呆れるのを通り越して怒りさえ覚えた。せっかく手に入れたローザミスティカを、骨董品よろしく蔵に仕舞い込んだと言うのだ。この命を狙われている時期に、だ。

「カナも随分となめられたものね。いいわ、ここで後悔するだけなのかしら!」

 弓を扱う手の動きが激しさを増し、倍加した空気の砲弾が雨のように降り注いだ。



つづく

543:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/27 21:30:55 UJJIbG85
>>542
続きwktkです~

544:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/28 00:28:45 u7S3xpZ3
カナががんばってる半面バラスィ全く動いてないなw
続き期待。

新学期始まったのに何かと色々な書き手が投下してるな。
漏れもまたがんばってみるか……


545:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/28 11:41:58 cY5GYtWn
>>544
期待して待ってるよwwww






全裸で

546:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/28 14:48:28 gLjttvzE
>545
エロ小説を期待すんなよw

547:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/29 03:47:42 nTwIXXBI

一本投下します
エロが少々入ってますが、15禁くらいってことでご容赦を

SS「ぴんはっ!」全6話です

548:ぴんはっ(1)
06/04/29 03:49:03 nTwIXXBI

翠星石が泣いていた

全身ビショ濡れになって泣いていた
「チビ人間がかまってくれないのがいけないのですぅ!」と言って泣いていた
その日の翠星石は、例のごとく僕に何かのイタズラを仕掛け、いつも通り自爆し
何か僕にぶっかかる仕掛けだったらしきバケツの水を自分の頭にかぶってしまった
この性悪人形は水で濡れたくらいで泣くタマじゃないが
今日の翠星石は、彼女のお気に入りの服を、濡らしてしまった


その日、僕はいつも通り、ネットの物々を買う気もなく眺め、見るだけの物欲を満たしていた
真紅はそういう時、傍らに座って自分の読書を愉しむが、翠星石は横からちょっかいを出す
その日も、僕が画像を見るために開いたオークションの画面を見て、ドール服の映像に騒ぎ始めた
翠星石は、裁縫好きな主婦が出品した若草色のエプロンドレスの画像を、何度も何度も拡大表示させる
自分の着たきりの服と画像の服を交互に見て、「欲しい欲しい!欲しいですぅ!」と騒ぎ出した
その服は手作り服の古着一斉処分にしては高い値だったが、某ブランド服をドール用に直したって事を
考えればまぁ安価い方だった、翠も最近不安定だし、こんなもので機嫌直してくれるなら安いもんか
いやいや、口先だけでも感謝してくれる真紅や蒼星石と違って、翠は甘やかすとつけあがるだけだ


「えっ・・・うぇぇん、お洋服、濡らしちゃったぁ、汚しちゃったぁ、ゴメンなさいですぅ
せっかくジュンに買ってもらったお洋服、ダメになっちゃったですぅ・・・えぇぇん・・・」
床の水たまりの中にへたりこんで泣く失禁状態の翠星石に、僕はガラにもなくドギマギしてしまった
「翠星石・・・とりあえず、カゼひくから、風呂入ろうか?、一緒に入ってやるから、泣くな、な?」



549:ぴんはっ(2)
06/04/29 03:49:56 nTwIXXBI

あの後、翠星石が居なくなった後で、そのエプロンドレスを最初の予想よりほんの少し高価く落札した
途中で、同じドール服マニアだがやたら資金力があるらしいmi-chan~kana02(846)とかいう奴が
競ってきたが、ショップ系じゃなく手作り系だと気づいたらしく、あっさり退いてくれた
縫製への目利きはまだ鈍いらしい、僕が見てもショップ物よりはるかに丁寧な作りだというのに


翠星石は僕の言葉に顔を赤らめる、服が乾きそうなほどの湯気を体から出しながら両の拳を振り回し
「な・・・な・・・何言ってるですかこのチビ人間!スケベ!変態!一緒にお風呂なんて・・・一緒なんてぇ・・・」
僕は、両手を握り地面をばたばたと踏み、「あわわ」とか「あうう」と呻く翠星石の頭をベシっと叩き
「何イッチョマエに照れてんだよ!お前は一人で風呂入れると必ず何かイタズラするだろ?・・・イヤか?」
僕の言葉に余計に意固地になった翠星石は怒鳴り返そうとしたが、僕が背を向けると焦ったような声で
「わ、わかったです・・・そのかわり・・・少し後で入ってきて・・・体洗った後で・・・わたし・・・キタナイから・・・」
「そうするよ・・・ちょっとやる事があるし・・・あ、そーだ、翠は汚くないよ、それとも小便でも漏らしたか?」
「バ・・・バカぁ!このバカチビ人間!・・・そ、そこで大人しく待ってろですぅ・・・脱いでるの・・・見ないで」
翠星石は濡れたエプロンドレスのまま「ィクショイ!」と威勢のいいくしゃみをすると、風呂場に向かった


言う通り少し、ほんの少し待ってから、着替えを忘れてった翠星石のドレスを持って脱衣所に向かった
翠星石はすりガラス越しに「バ・・・バカ!来るなです!体洗うまで待っててですぅ!」と怒鳴ったが
「洗濯機を使う用があるだけだ、もう少し後で入るから耳の後ろまで洗って待ってろ!」と言い返す
そしてビショ濡れなのに丁寧に畳んであったエプロンドレスを洗濯機に放り込み、スイッチを入れた

急ぎモードで洗濯の終わったエプロンドレスを、本当はいけないんだけど直射日光の下に干した
天然素材が化繊より優れてる点はそう多くないけど、時に使い手の無理に応えてくれる

「やる事」の終わった僕は着替えを持ち、いい感じに茹であがった翠星石が待つ風呂場に向かった


550:ぴんはっ(3)
06/04/29 03:52:19 nTwIXXBI

翠星石は風呂の中で、かなりのぼせたらしい赤い顔で、湯船の中に首まで浸かっていた
風呂場には少しでも使うと怒られるのり専用シャワーソープの、椿の匂いが充満している

「あの・・チビ・・・・チビ人間・・・・その・・・チビ・・・・隠したら?・・・・」
別に子供相手に隠すものなど何もないので手ブラで風呂場に入ったが、翠星石は背中を向ける
「うっせーな、ほら入るからつめろ、端につめろ」 両足を抱えてダルマ状態の翠を押しやった
湯船に浸かり、僕がいつも通り「森の石松」を唸り始めると、黙って体を抱えていた翠星石が口を開く
「チビ人間・・・ジュン・・・ジュンはわたしのこと・・・・嫌いになっちゃったですかぁ・・・?」
「嫌いじゃない、それよりここからがシブいんだ、聞け!」二代目広沢虎造の名調子を聞かせてやった
湯船から上がると、かけ湯が苦手な僕は熱いシャワーを出し、薬局の安物シャンプーで頭を洗い始めた
「チビ人間・・・ひどいですぅ・・・わたしを子供扱いして・・・蒼星石より、真紅よりお姉さんなのに・・・」
「相撲甚句」を唸りながら頭を洗う事に集中した、また何かすねてるな、としか思わなかった
「真紅より・・・蒼星石より・・・・ジュンを・・・・男だと思って・・・・ジュンのことを・・・」
洗い終わった頭を振って目を開けると、目の前には翠星石の体があった、湯船から上がった翠星石が居た
「ジュン・・・わたしは・・・子供ですか?・・・わたしが嫌いなジュンは・・・女だと思ってくれないですか・・・」

僕は、すこし震える手でシャワーのコックを持ち、冷水に切り替えたシャワーを翠星石にブっかけた
「バーカ、色気づいてるんじゃねぇ!その貧相な球体関節バディをしまえ!・・・その・・・危ないだろ?」
のぼせて甘ったれてる翠を飛び上がらせてやった、僕の「チビ」も少し冷ます必要があったし
「ひぁっ冷ゃっこい!こ・・・このチビ人間!何するですか!この変態!意地悪!チビチンチン・・・バカぁっ・・・・」
翠星石は僕に怒り狂いながら体当たりしてきて、そのまま裸の体をしがみつかせた、熱い、芯まで熱い
何か聞き捨てならないコトを言ったような気もしたが気のせいだろう、気のせいじゃなきゃ熱のせいだ
「お願い・・・ジュンに可愛がってもらうまで・・・・・お風呂から出さないです・・・お願いです・・・
一生・・・ずっと・・・このままで・・・このままチビチ・・・ジュンを・・・お風呂で蒸し焼きにするですぅ」

僕や僕のチビが翠星石焼ビビンバになるのも困る、僕は翠の熱い体、両肩に手を添えた、皆、真紅・・・すまん
翠が唇を突き出し、目を閉じる、そして・・・翠星石に・・・キスをした・・・もう戻れない・・・真紅・・・許せ


551:ぴんはっ(4)
06/04/29 03:53:38 nTwIXXBI

キスの時に舌を入れる事を知らない翠星石は、キスの間中、唇を「ちゅう」の形にしたまんまだった
「翠・・・今日は、これまで!わかるだろ?、僕らは今はここまでしかダメなんだ、キスはイヤかい?」
裸で迫ってきた翠星石はというと、僕がキスをしただけで、翡翠と瑪瑙のヘテロ・アイズをぐるぐる回し
そのまま棒のようにバターン!と後ろに倒れた・・・こういう時、男はどうすれば?・・・お姫様抱っこで
介抱すればいいんだろうか?・・・考えた結果、僕はケロリンの桶に冷たい水を汲み、翠星石にブっかけた
心はデリケートなドールだけど、体はラグビーのフォワードのように丈夫だって事は今までの付き合いで
知っているつもりだった、チャージを食らってノビたフォワードには、ヤカンの水をブっかけるに限る

「っきゃぁ!ちべたい!ちべたい!冷たいですぅ!何してくれてんだこのチビ人間!バカバカバカぁ!」
ローザ・ミスティカがもしもCPUのような精密機械なら、熱暴走した時はやっぱ空冷より水冷だろ?
一瞬で飛び上がった翠星石は僕の胸を拳でドンドン殴り、そのまま握り拳を僕の背中に、ぎゅっと回した

「ジュン・・・みずはつめたいです・・・・・」
「うん」
「ジュンはあったかいです・・・・」
「そうさ」
「翠星石は、あ、あついです・・・・・」
「そうだな」

一日に二回、いや三回の水責めを食らった翠星石はまだ熱暴走中だった、きっと長湯のせいじゃない
彼女を創った人形師ローゼンはなぜ頭にアルミのヒートシンクでもつけてやらなかったんだろうか?
頭のレース布がそれなんだろうか?、そういえばドール達は皆、何かしら被り物をお召しになっている

「もう、上がろうか?」
「また・・・・・・・・一緒に・・・・・・・・おフロ入って欲しいですぅ・・・・・・・・・・・」
「また今度、また、今度、な」

また今度、な・・・・・・言葉で出来る約束はそれまで・・・僕らはもう、言葉じゃない約束を交わしたから・・・



552:ぴんはっ(5)
06/04/29 03:54:26 nTwIXXBI

翠星石を先に上がらせ、僕も湯上りの気持ちいい体で「爆弾三勇士」を唸りながら翠の待つ居間に向かう

風呂上りの翠は、自分の深緑のドレスを着ていた、幾年も着続けた物なのになぜか窮屈そうに見える
僕は日向干しした洗濯物を背中に隠して翠星石を鏡の前に連れていき、髪にドライヤーをかけてあげた
鏡に映る翠星石、洗い髪のせいか少し艶っぽく見える、確かに真紅達よりお姉さんだ・・・ほんの少しね
栗色の髪を僕に委ね、夢見るような瞳をしている鏡の翠星石の前に、若草色のエプロンドレスを当てた
「ジュン・・・・これは・・・」
「さぁ、着てみな」

翠星石はエプロンドレスを身に纏い、自分で自分の体を抱きながら、うっとりと目を閉じている
「お日さまの・・・・匂いですぅ・・・・・」

「翠星石、この服は「魔法の服」なんだ、一回洗うとヨロヨロになるような安物のレース服とは違う
厚手の、とびきり上等な木綿布をたっぷりと使ってるから、何十回洗濯してもビクともしない、
破れても繕える、サイズが変わってもお直しできる、たとえ擦りきれたってリフォーム出来る」

翠星石が体をひん曲げながらドレスのタグを読んだ、タグを残してくれた縫い手には感謝したい
「・・・・ピンク・・・・ハウス・・・・・」

「翠星石、この服はね、時が経ち世界が変わっても、ずっと少女のままで居る少女達のために
いつの日か、少女が自分でお金を稼ぐようになった時のために、ボーナスを注ぎこんで買えるように
イサオ・カネコっていう人が作った夢の服・・・ピンクハウスは・・・何度でも蘇る魔法の服なんだ」

そうさ、魔法さ・・・人間の魔法、少女への憧れが創った魔法、少女は、その存在そのものが奇跡なんだ


553:ぴんはっ(6)
06/04/29 03:55:23 nTwIXXBI

少女は自分を包む若草色のドレスを、腕や胸を掌で撫でた、呼び戻された魂を、魔法を確かめるように

「翠星石、何があっても僕に任せろ、汚れたら洗って、破れたら縫ってやる、直してやる
何があっても・・・翠星石がどうなっても、僕に任せろ、僕が必ず、魂を呼び戻す」

翠星石の瞳から涙がこぼれる、ぱたたたた・・・と頬を伝い、顎から滴り、ドレスに染み込んだ
今日4回目の水責めにカウントするか、きっと翠星石は水の星の下に生まれたドールなんだろう

翠星石は突然僕を振りほどき、手の甲で顔をぐいと拭うと「チ、チビ人間にしては上出来ですぅ!」と
叫び、そのまま若草色のエプロンドレスを翻して走り去った、ドアから出る間際、一瞬こちらを見ると
何も言わず廊下を走り去った、僕らはまた、何か言葉にならない密やかな約束を交わしたような気がした

その時、出かけてたはずの真紅が絶妙のタイミングで、別の入り口から居間に入ってきた、ドキリとする
別にやましいことをしていた訳じゃないが見られなくてよかった、真紅は訝しげに僕の匂いを嗅いでいる
真紅は険しい顔で僕を見て一言「だらしないわよ」、考え事をしていた僕はにやけた顔をしていたのかも

翠星石は夜、寝る時にはまた甘ったれてくるんだろうか、それなら・・・それでもいい、一緒でもいい
水遊びが過ぎて寝小便でもして、本日五度目の水責めを食うのもカワイソーだし・・・おねしょは火遊びだっけ?
まぁその時はまた洗濯機で洗ってやるよ、そのドレスを何度でも綺麗に洗ってやる、中身ごと洗ってやる
翠星石、水のドール、水はぶっかかると冷たいものだけど、キタナイ物を洗って蘇らせるのも、水なんだ

濡れても、汚れても、破れても、少女は決して終わりなんかじゃない
繕ってシミを抜いて「お直し」をして、水で洗って、キレイにして

少女は、何度でも蘇る


ぴんはっ!(完)


554:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/29 03:57:34 nTwIXXBI

あとがき

登場した服の詳細については、いくつか架空の記述もあります、ご了承ください
(金子いさお氏は奥さんに似合う服を作りたい一心でピンクハウスを作ったそうです)
あと、今回初めて「取材」をしました、おウチの洗濯機とお風呂を調査しました
最後に、ボクの女のコ服への乏しい知識を補足してくれた友人に礼を言っときます

では、今回はこれで
                                  吝嗇



555:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 04:36:40 DLpJ0c3R
ジュン・・・頭の上から冷水を何度もぶっ掛けるとは
何故だw

GJ!

556:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 09:09:18 Om3Rt+A7
流石翠星石、ドールズ達の中でも群を抜いてツンデレだぜぇ!
そこに痺れる、憧れる~~~!!

557:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 12:35:06 IcRcY0V4
GoooD・J!!!
ピンクハウスだとかジェーンマープルだとか書かれると(書いてないって)
イメエヂが沸いてきてしまうので不思議ですねぇ。
しっかし、森の石松たぁ、渋いねェ兄さん。スシ食いねェ。
というか、翠とジュンの掛け合いがソレを踏まえての推移なのかいな?
などと途中で思いつき、このオチはきっと
「バカはァ~死ななきゃ~なおらないぃ~」だ!などと妄想してしまいましたとさ。
しかも爆弾三勇士ときましたか…二曲あるから(廟行鎮の敵の陣~と、廟行鎮の夜は明けて~)
どっちかはワカラねど、鎮(チン)という歌詞が妙に気になったり気にならなかったりww。

それにしても、お風呂ネタですかぁ…
熱いシャワーとか冷水ぶっ掛けとか、やろうとしてた事、結構やられちゃったよ。
おいらは今から後編書きなおさなきゃ…というか、前後編に分けるんじゃなかった…。

558:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 13:40:22 xkKPZBhT
うおおおお!
GJです!翠の子がかわゆすぎる…
しかしここでピンハ創立の裏話を知る人がいるとはw

>>547
ジェーン知ってる男の人って凄いですね。
口調から察するに、コルベ神父の話の方ですか?
金銀入れ代わりも楽しみにしてますよーノシ

559:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 13:42:02 xkKPZBhT
レスアンカー間違えたorz
正しくは>>557宛です。

560:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 17:38:32 jxMTgTHa
>>554
何故か深い悲しみと情熱を中に感じた
GJ

561:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 19:32:23 IcRcY0V4
>>558

そうでーす。
コミケなんかでヘタレな同人マンガ描いてたりするもので、
そっち方面とかチェックしとかないと
妄想力が貧困だから絵が描けないの…orz


562:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 15:57:47 q3ZsPKGt
それでは、金銀入れ替わりの後編を投下です。

>>481

一方みっちゃんは…バスルームに一人全裸で壊れ気味。
「カナに…カナに嫌われたぁ…くすん」
とか言いながら、心ここに在らずという感じで大量の石膏をこねくり回していた。
心も体も真っ白である。
悲しみの余り珍妙な巨大石膏オブジェが完成されようとしている。
それは、『ミとッとキーとマとウとス』が付く危険な記号を秘めたオブジェであった。

そこに水銀カナが戻ってきた。
無表情の奥に復讐の念を秘め、金糸雀のミーディアムに襲い掛からんとする水銀カナ。
「さっきはごめんなさぁーい、一緒に楽しい事しましょぉねぇ」
優しいような、甘いような声がみっちゃんを誘う。
「カナ?」
瞬時に反応するみっちゃんの見えない尻尾がピンと立つ。
バスタオル姿のまま喜び勇んでバスルームの外に出ると、鏡台の傍らで金糸雀が待っている。
「ああっカナァ!帰ってきてくれたのねぇぇぇ!」
犬の様に駆け寄るみっちゃんの顔は、喜びの涙と鼻水で緩みっ放し。しかも両手は石膏で真っ白状態。
バスタオルで谷間の強調された少し大きめな胸が、ぷりんぷりんに揺れている。
*お見せできなくてすみません。
その狂喜の顔にこもるみっちゃんの気迫に、水銀カナはびびり気味。
この状態で抱きつかれたら、きっと胸に押し潰されて身動きも取れず、
みっちゃんの成すがままくしゃくしゃにされてしまうであろう。堪った物ではない。
水銀カナの背筋に寒いものが走る。
『抱きつかれる前に決めてやるわよぉ、覚悟しなさぁい』
冷や汗を流しながら気合を入れなおすのだった。


563:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 15:59:07 q3ZsPKGt
その時、消えていたはずのTVにノイズが走った。その現象に気づいてみっちゃんは立ち止まる。
ザザザザザザザザ――という雑音の後に
ブラウン管から銀色の髪を振り乱した人間?がずるずると這い出してくる。
みっちゃんの脳裏に甦る、とある恐怖映画の一場面。
「ひいいいいえぇ―――!貞子っ!?」
腰を抜かしてひっくり返るみっちゃん。それは、水銀燈の意図を察知して戻ってきたカナ水銀だった。
まさに間一髪のタイミング。
「危ないみっちゃん!!そのカナはみっちゃんの命を狙っているかしら!!」
しかし、みっちゃんから見ればこの場合、『あんたの方が怖いわよ!』と突っ込みを入れたくなるのが必定。
気が動転し、あたふたと慌てふためきながら屋外に逃げようとする。
もちろん全裸で。
「みっちゃん、ちょっと落ち着くかしら、何もしないから!」
水銀カナが口元に笑みを浮かべながら二人の会話に割って入る。
「あらあら、その子は危険よぉ、見ず知らずのドールなんか信用しちゃダメよぉ」
「みっちゃんだまされちゃダメ!!そいつはカナであってカナではないのかしら!!」
カナ水銀は、みっちゃんの側に駆け寄ると、挑発する水銀カナを睨み返す。
事態がさっぱり飲み込めないみっちゃんは、カナと水銀燈を交互に見ては、目をしばたかせている。
「何を言ってるのかしらぁ、私はミーディアムと遊びたいだけよぉ~」
「水銀燈!あなたの考えなんて、お見通しなんだから!」
「ふふん、だったら止めてみなさいよおばかさん、できるものならね」
水銀カナは二人の方向に歩み始める。だが、ミーディアムを守ろうとする金糸雀の決意は何よりも強い。


564:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:00:07 q3ZsPKGt
「みっちゃんに何かしたら承知しないんだから!力を使い果たして壊れてやるんだから!!」
毅然としたその言葉に水銀カナの足がぴたりと止まる。先程までの不敵な笑みが困惑の色へとみるみる変わる。
「な!?あなた何を言ってるのか解っている訳?」
今の金糸雀なら本当にやりかねない、攻撃の手段を封じられた水銀カナには、それ以上なすすべが無い。
自分の体とめぐを人質に捕られた様なものである。
「カナはみっちゃんを守る為だったら何だってするんだから―っ!!!」
みっちゃんの為なら壊れることなど覚悟の上である。金糸雀の言葉には、ミーディアムを思う気持ちが強く溢れていた。
思う気持ちは勇気と力を生み、対峙する相手の心にも何かしらの変化を与えるものである。
が、その言葉に劇的に変化したのは、当の水銀燈ではなく、みっちゃんの方だった。
もはや、みっちゃんのハートは完全に撃ち抜かれていた。
カナ水銀をガバッと抱きしめ、みっちゃん必殺のまさちゅーせっちゅで攻撃開始。
「うわぁぁぁぁぁ!!なんて健気な子なのっ!カナも素敵なんだけどこの子も好いわっ!!
ね、ね、一緒にここで暮らさない?というか、うちの子におなりっ!ね、ねっ?」
水銀カナのほっぺたを、ものすごい勢いですりすりし続けるみっちゃん。
こうなったらもう、嫌と言おうが何と言おうが放さないだろう。
「も、ちろん当然かしらぁ…って摩擦、摩擦ぅっ!」
「ああっ、かあいいわぁっ!さだこ(仮)ちゃーん!!」
勝手に名前まで付けられ、2人の世界は桃色に染まる。
みっちゃんのバスタオルは床にはらりと落ち、もはやあられもない姿で仁王立ちである。
*本当にお見せできなくてすみません。
そんな中、いつの間にか忘れ去られている水銀カナは、2人の世界について行けずにボーゼンと成り行きを眺めている。
「こいつらって…いつもこんな事やってるの…」

565:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:01:26 q3ZsPKGt
もわーんとしたラブな世界がしばらく演じられた後、更なるラブへのステップが始まろうとしていた。お風呂タイムである。
「うふふ…ちょっと汚れちゃったわね、お風呂にはいって綺麗にしましょうね~」
二人の世界は夢の中。みっちゃんの涙や鼻水や石膏まみれの手でくしゃくしゃにされたので
ちょっとどころの汚れでは無いのだが、確かめ合った二人の絆の前ではそんなことは些細なことなのである。
思考が停止していた水銀カナが我に返る。もはや第三者扱い。
何でお風呂?という突っ込みを入れる間もなく、カナ水銀は早くも服を脱ぎ始めていた。
温泉ぽくて面白そうなバスルームに、ルンルン気分でもう入る気満々。
自分の体が人前に晒される、もとより自分の体にコンプレックスを感じている水銀燈にとって、それは屈辱にも等しい行為だった。
「やめてよぉぉぉ!私の体を弄ばないで!!」
咄嗟に駆け出して止めようとしたものの、足がもつれて勢い良く2人に体当たりした水銀カナは
そのままみんなを巻き込んで『とてもじゃないが言葉で言い表せないネズミオブジェ』に突っ込んだ。
バスルームに大轟音が響き渡る。
『とてもじゃないが言葉で言い表せないネズミオブジェ』がクッションとなり、大事には至らなかったものの、
2体のドールは下着姿のまま、つぶれたカエルの様にそのボディににめり込むのだった。
ど根性なんとか風。
「やったわねぇ!」
めり込んだ顔を引きはがし、金糸雀は水銀燈に掴みかかる。
水銀燈も感情を抑えられずにこれに応じ、
あらん限りの罵詈雑言の応酬の果てに、髪を引っ張ったり噛み付いたり引っ掻いたりと、
両者ともに半裸状態のままで、取っ組み合いの喧嘩が始まった。

みっちゃんは、倒れた瞬間に頭をシャワー水栓にしこたまぶっつけて気を失ってしまい、
『デンジャラスキャラクターの首』は、あらぬ方向にねじ曲がってひしゃげ、
その歪んだ顔には、みっちゃんの大きなお尻がスタンプされて、鼻がくっきりとへこんでいた。
あらゆる方面で危険なオブジェの完成である。
全裸でのびるみっちゃんを放ったらかしにして、低レベルな戦いは夜半まで続く。
いつの間にか元の体に人格が戻っていた事にも気付かずに、半泣きになりながら不毛な猫の喧嘩は白熱してゆくのだった。


566:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:02:31 q3ZsPKGt
水銀燈はフカフカなソファーに座って、みっちゃんに髪を梳かれている。
水銀燈の服はみっちゃんが手洗いして現在乾燥中なので、代わりに真っ白なビクトリア調のドレスを着せられていた。
水銀燈は部屋一杯に香るリンスの匂いの中で、清楚な白いレースドレスの裾を持て余しながら、
鏡台に写る自分の顔をみては少々赤くなったりしている。
みっちゃんの趣味により、一連の着せ替えを笑顔で強要され、水銀燈は今だけ黒から白へと変身を遂げている。
「ほらほら、銀色の髪こんなに綺麗よ、ああん、サラサラの長い髪って良いわぁ~」
その言葉にふと振り向いた瞬間、ニコニコ顔のみっちゃんと目が合った水銀燈は、慌てて目をそらし前を向く。
勢いに乗ったみっちゃんが水銀燈の髪を編み編みしはじめた。
良い様にいじくられる中で、水銀燈は黙ってうつむきながら小さな声で自問自答するのだった。
「なんで私、あんな事したんだろう…」
おとなしく座る水銀燈を良い事に、みっちゃんの髪いじりは徐々にエスカレートしてゆく。
おさげ、おだんご、ポニーテールにツインテールと、パトスのままにやりたい放題。

あの後、意識を取り戻したみっちゃんの仲裁で、その場は何とかとりなしたものの、
結局3人でお風呂に入り、体を洗ったり、シャンプーしたり、仲良くバスタブに浸かったりしてしまったのだ。
髪もくしゃくしゃだったし、体もかなり汚れていたので仕方なく付き合ったのだけど
その事を思い出すと、恥ずかしさの余り湯気がでる程に顔が火照ってしまう。
こうなると普段の強がりもどこかに消えうせて、ずいぶんしおらしくなってしまうものである。

金糸雀は何事も無かったかのように、湯上りの牛乳を飲んでいる。
「あ~、やっぱりお風呂上がりに牛乳は欠かせないかしら~」
すかさず金糸雀をくすぐり笑わせ始めるみっちゃん。
「カ~ナァ~、コチョコチョコチョコチョ」
「ぶふっ、むははははははは、やめてみっちゃん~」
思いっきりみっちゃんの顔に牛乳を噴出す金糸雀。みっちゃん自業自得。
そんな光景をぼんやり眺めながら、今の笑顔の裏にある、あの時の金糸雀の決死の表情を思い出し、
きっと自分と違う大事なものを見つけたのだろう。と、そう感じるのだった。


567:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:03:36 q3ZsPKGt
「さー、今日はみんなで一緒に寝るわよ―!」
夜中にもかかわらず、妙にハイテンションのみっちゃんが、唐突に
「え?…ええーっ!!」
「ふふふっ、さだこちゃん、お泊り会は友達の第一歩よ!」
シドロモドロの水銀燈に、根拠の無い自信を持ってきっぱりと言い切るみっちゃん。
「……」
すっかりペースに呑まれて威勢を削がれた水銀燈には、もう名前の訂正も反論する気力も残っていない。
終始「みっちゃん(攻)×水銀燈(受)」の状態で、夜は更けて行くのであった。

やがて金糸雀とみっちゃんは眠りに付く。初めての経験になかなか寝付けない水銀燈は、
寝返りを打ったみっちゃんに抱きつかれ、お風呂で見たみっちゃんの裸を思い出して真っ赤になる。
静かな夜の奇妙な安らぎの中、ふと病院に残しためぐを思い出し、水銀燈はみっちゃんの部屋から抜け出した。
二人の寝顔を少し見つめた後、煌々と照る月明かりの中に飛び去っていった。

こうして不思議な縁が交差して、一日がかりで紡ぎあげられたパッチワークは終わりを告げた。


568:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:04:44 q3ZsPKGt
「やっぱり帰っちゃったのね…」
いつもの様に爽やかな朝が到来した。
みっちゃんと金糸雀は一緒に歯磨きをしながら、水銀燈の事を話し合っていた。
「んーでも、壊したみっちゃんの作品を直していくなんて、ちょっと見直したかしら」
金糸雀は、昨日壊れたはずの危険なオブジェが、ちゃんと直されてるのを見つけて感心していた。
へこんだ所を新たに石膏で埋め、曲がったところを直しただけの、完璧な修理ではなかったけれど、
それでも、気持ちというものは伝わるものである。
「…ねぇみっちゃん、それでこの像って一体何なのかしら?」
みっちゃんにしてみれば、単に妄想で作っただけの産物に過ぎず、意味なんて全く無い。
楽しい事を想像してワクワクする金糸雀の瞳に見つめられて、みっちゃんはしばし言葉に窮する。
本当に禁句を言わせたいのかよ、金糸雀?
「えー、あの、その…アレよ、アレ!」
「アレ???」
「そう、アレよ…こんど一緒にその遊園地にでも行きましょうか」
そんな風にみっちゃんが誤魔化していると、ピシピシ…と言う音と共に『アレ』の補修跡にヒビが入りはじめ、
水銀燈が直した石膏がポロポロ剥れ落ち、バランスを失った『アレ』は倒壊して粉々に砕けてしまった。
その残骸の中からは、半裸状態で乱闘していた時にめり込んだ金糸雀と水銀燈の石膏型と、
みっちゃんが尻餅を付いた時のお尻の型が、二人の前にきれいにぽろりと転がったのだった。
歯ブラシを咥えて呆然とする二人の前で、出来たばかりの金糸雀と水銀燈の石膏型は、
一夜の心の交流を確かめ合うかのように、みっちゃんの大きなお尻の石膏型を
仲良くお触りしていたのだった。


隣人に愛を、人類に平和を、ラブ&ピース。
もう収拾つかないので強引におわり。
お風呂バトルの書き直しキッツ―  orz


569:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:41:57 +2uYE18p
>>568
笑った
和んだ
GJ!!

570:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 16:48:31 0E8ZGI/a
銀様やさしいよ銀様

571:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 19:16:50 Xesr46ND
>>562-568
ミーディアム思いのカナとしおらしい銀ちゃん萌え
オチワロタ

572:薔薇乙女戦争
06/04/30 20:28:56 hS6F9Y25
>>542

「逃げるわよッ」
 真紅がそう言うのと同時に、花びらの盾が霧散して消えた。金糸雀の休む間もない攻撃に力負けしてしまったのだ。
 執拗な砲撃に曝された二人は、みっともなく見えるくらい必死になってかわす。
 かわされた空気の砲弾が硬く凍った大地を掘る。こんなのを一発でも喰らったら怪我では済まない。必死になって当然だ。

 真紅はいきなり追い詰められていた。見晴らしのいい平原で逃げ回っていても埒が明かない。彼女は賭けに出る事にした。
「ジュンはここで見てて」
 真紅はジュンから離れて戦う事を告げる。マスターと距離を取れば、ドールに攻撃を集中してくれると考えたのだ。
 彼が何かを言おうとする前に、真紅は金糸雀に向かって駆け出した。

「く、来るのかしら―ッ!!」

 防戦一方から転じて反攻してきた真紅にやや焦る金糸雀。
 バイオリンでの攻撃は近接戦闘に向かない。あの大きな楽器を持って殴り合いはできない。近寄らせまいと真紅に集中砲火を浴びせる。

 しかし、真紅には一発も当たらない。彼女は確実に砲撃の軌道を見切り、虚しく外れた弾が雪煙の柱を無数に立たせた。
 あっという間に距離を詰められ、金糸雀の瞳が恐怖で震える。
 真紅の顔が手の届く位置にある。そして、彼女の手は攻撃のために固く握り締められている。絶対に殴られる!

「ヒィッ……!!」

 悲鳴を上げた瞬間、殴られたのは真紅だった。
 金糸雀の視界の左から凄まじいスピードで細長い腕が割り込み、真紅の右頬をぶち抜いた。
 もんどりうって地べたに激突し、数十メートルは雪上を転げ回る。殴られた真紅も何が起こったのか判らなかった。

573:薔薇乙女戦争
06/04/30 20:30:05 hS6F9Y25

「真紅ッ!!」

 ジュンが彼女の名を叫び、血相を変えて助けに向かう。
 吹っ飛ばされた真紅は両手を付いて起き上がろうとする。が、ダメージが深いのか、その動作も鈍重で覚束ない。
 長い助走を取り全体重を掛けた拳にカウンターを合わせられたのだ。その破壊力は凄まじいの一言に尽きる。立てなくても無理はないだろう。
 渾身の一撃を間近で見た金糸雀は、その破壊力の大きさに怯えを隠せなかった。殴っただけであれだ。助けが無かったら、地べたにへばりついていたのは自分だった。

「た……助かったかしら。一応、礼は言っておくわ」

 薔薇水晶は金糸雀の礼には関心が無かった。真紅が思うように動けない今がチャンスなのだ。すかさず彼女は追い撃ちへと向かう。移動の間際に水晶の剣を創って手にする。

 真紅の所には先にジュンが駆けつけていた。だが、そんなものは関係ない。まとめて斬り伏せてしまえばいい。薔薇水晶は勢いをそのままに剣を振りかぶる。だが、彼女の考えは甘かった。

「―何ッ!?」

 薔薇水晶の驚愕の声が上がる。アメジストの剣が硬い壁に阻まれて止まったのだ。彼女はとっさに真紅を見る。まだ立つのがやっとの状態で、何かをしている様子はない。
 では、この力は?
 ジュンが真紅を庇うように背を向けていた。そして、薔薇水晶は彼の指輪が際立った光を放っていることに気が付いた。ルビーよりも鮮やかな紅い光が目に熱い。

「ミーディアムが力を行使していると言うの!?」


574:薔薇乙女戦争
06/04/30 20:31:47 hS6F9Y25
 それは、本来ならあり得ないイレギュラーだった。ミーディアムは薔薇乙女にエネルギーを送るパイプラインでしかない。薔薇の契約を交わしてもドールの能力は手に入らない。それなのに、ジュンは真紅が汲み上げた力を操れていた。

 驚く薔薇水晶の一方で、ジュンはただ必死になっているだけだった。
 真紅を守ると約束した。二度と翆星石の時のような思いはしたくない。
 その一念が彼を突き動かしていた。

 守ろうとする強い想いが少女に流れ込む。少女の中で彼の存在がどんどん大きくなっていき、体中に力がみなぎる。マスターとの絆が深まるほど、ドールはより強くなれる。

「もう大丈夫よ、ジュン」

 真紅が地をしっかり踏みしめて立ち、剣に対抗してステッキを手に取った。
 今は誰にも負ける気がしない。
 彼女は薔薇水晶に向かって突進した。



575:薔薇乙女戦争
06/04/30 20:33:05 hS6F9Y25
 杖と剣が高速でぶつかり合い火花を散らす。二人の斬り合いは常識外れの動きの連続だった。傍からでも見るのがやっとの剣筋を二人は的確に捉えて打ち落とし、場合によっては体の動きで避ける。

 ドールズの本気の戦いは、その体の大きさに似合わず迫力があった。人間のジュンは見守ることしかできない。しかし、金糸雀は違った。彼女も同じドールなのだ。

「この時を待ってたかしら」

 不敵な笑みを浮かべてバイオリンを構える。そして、大きく深呼吸して目を伏せた。

「最終楽章、薔薇人形へのレクイエム」

 ゆったりとした演奏が始まり、周辺の大気が静まり返る。
 今度は先程のような騒音ではなく、重厚と言える曲だった。彼女のバイオリンの腕前は確かなのだ。
 しかし、それは嵐の前の静けさ。
 演奏の盛り上がりと共に一帯の空気が震え、次第に円を描いて流れ始める。



576:薔薇乙女戦争
06/04/30 20:34:23 hS6F9Y25
「この風は?」
 剣を交えていた真紅の手が止まる。
 だが、気付くのが遅すぎた。すでに金糸雀の術中に嵌っていたのだ。
 真紅は薔薇水晶諸共、巨大な竜巻の中に閉じ込められていた。金糸雀は二人まとめて葬るつもりなのだ。

 金糸雀は薔薇水晶と手を組む前から、この時を待っていた。真紅と薔薇水晶がやり合っている間の漁夫の利を狙っていたのだ。
 ドールを確実に負かすには出来得る限りの大技を使いたい。だが、大技は発動までに時間が掛かる。それで、足止めを兼ねて薔薇水晶を引き込んだのだ。
 真紅が二つのローザミスティカを確保したと薔薇水晶が知れば、金糸雀が最初に狙われる公算が高い。その回避も含め、金糸雀は一石二鳥の作戦を立てたのだ。

 薔薇水晶も仲間の裏切りを察知して攻撃の手を休めた。
 金糸雀とはこの場限りの同盟なので、それほどのショックはない。しかし、この状況は不味すぎる。

「貴女も危険なのではなくて?」
「そのようです」

 落ち着いて会話を交わす真紅と薔薇水晶だが、実はかなり焦っていた。お互い、敵の前では弱味を見せられないだけだ。
 話している間にも暴風の壁は着実に迫る。あんなのに巻き込まれたら、手足がもがれて壊れた人形になってしまう。正面から突っ込んで突破する気は起きない。しかし、周りを何度見ても逃げ道は無かった。



つづく

577:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 21:05:53 ar78Bnm1
GJ!
続きが気になります……が、

「あべこべろ-ぜんめいでん」の続きはありますか?
「薔薇乙女戦争」の勢いが強いので流れ的にお蔵入りしそうで怖いんですが。

578:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 22:35:31 IA5ti9lF
>>576
乙!
こちらのカナは頭使って動いているな

579:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/30 23:28:56 4pv+0f6v
>「そのようです」
冷静さを装ったにせよ
絶体絶命の状況下でそんな台詞が出るとは
さすがだねw

580:14行縛りの人
06/05/01 00:32:16 nMV01t4d
なんとなく、バロン西とウラヌスを担ぎ出してみたくなったのだけど
話が巧くまとまらない(つД`)
てか、薔薇乙女の誰を絡ませるべき? お知恵を拝借いたしたく。

581:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 00:41:04 BrZ9CVyr
>>577
大丈夫じゃないかなぁ。
元々、こっちの方を先に書いていたんだし。
途中で放り出すような人じゃないと思う。

582:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 12:37:14 9FgggFtp
>>580
やりようによっては何でもアリだと思う。
バロン西繋がりで思い出したけど
血闘絶対防衛圏というKKノベルでもバロン西が日本版ヘッツアーを指揮して
サイパンで南雲中将と一緒にハルぜーの首取ったり、メイドさんや巫女さんが出てきたり
っていうのも商業で通用するくらいだから。
というか、バロン西の場合、舞台を欧州にするか南方戦線にするかで大きく違うけど。

583:14行縛りの人
06/05/01 12:52:43 nMV01t4d
>>582
ベルリン五輪のあたりを考えてます。

584:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 13:21:56 7jNJ3Yc8
ドイツあたりなら水銀燈が適任のような
真紅はソヴィエト前のロシアかイギリスというイメージがあるし
翠蒼はなにか日本ぽい属性が強い

585:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 17:56:24 /UgHVQoV
下手に軍事系に手を出すなよ。
軍艦ヲタ暦十年の俺の逆鱗に触れることになるからな。

586:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 18:03:45 2qXJRdI7
キムの昔のマスターは山本五十六連合艦隊司令長官に間違いない。

587:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 18:35:49 9FgggFtp
金糸雀だったら李香蘭とか甘粕とか、満映を思いつくがなァ…。

588:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 20:24:42 /UgHVQoV
どうでもいい話だな下らない。

589:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 22:54:44 Rtihltx0
キムの元マスターは牟田口中将。


590:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 23:10:08 V6boKfq4
じゃあ真紅はトム・フィリップスか
誰も知らないと思うけど

591:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 23:18:01 HUF25sNt
あれ?ここ軍板だったのか?

592:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/01 23:19:13 mpBaxMYp
じゃジュンとメガネつながりで翠は摂政宮殿下ねw


593:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 00:09:19 K5dXLg9A
だから軍オタは嫌いなんだよ

594:熊のブーさん
06/05/02 00:55:11 PXBRloGQ
久しぶりに投下。
色々パクってますが、この際開き直ります。
これからも色々パクるので今後は「パクリのブーさん」と(ry

595:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/02 00:56:13 PXBRloGQ
 DELUSION1 いつもの朝

ジリリリリリリリリリイr(バチン)
あぁ、目覚ましが響いてる―もう朝か―学校行かなきゃ―
めんどくさ、さぼっちまえ……

ガチャリ
「ジュン。今日は学校に行かないの?」
「今日は日曜日だぞ……」
「我が家のTVは壊れたのかしら?ちょうど今、月曜日にやってる“オハヨウくんくん”が終わったところよ」
「今日はしんどいから学校休む……」
「蒼星石、雛苺。JUMがぐずってるわ」
「ジュン君、髪型の保障は出来ないよ」
「落書きしちゃうの~」
鋏を開け閉めする音と絵筆を水に浸してかき回している音が聞こえる。無視、無視。
ガチャリ
また誰か入ってきたようだ。
「あらあらあらぁ。寝坊すけさんがいるわよぉ」
「姐さんお早うなの~」「お早う」「珍しいわね」
「じゅ~ん~。覚えてるかしらぁこの前の約束」
何か重いものがしなだれかかってくる。この声、パターンから察するに―
「今度私に起こされたらなんでも言うこと聞くって約束。うふふ、楽しみだわぁジュンを好きなように出来るって。」
ジュンに危機が訪れた。
「そのまま寝てて良いわよぉ。ふふふふふ」
「ジュン君。そろそろ起きないと襲われちゃうよ」
「ごめんなさいごめんなさい!! 起きる!起きるからぁー」
「チッ」
「お早う。ジュン君」
「……お早う。姉さん達」
四人の女性がジュンを見下ろしていた。

今日も一日が始まった。


596:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/02 00:57:08 PXBRloGQ

ジュンが覚醒した途端、ぞろぞろと姉達は出て行った。
心なしか部屋が広くなった。
「僕の朝の日課はまず起きることだ」
もうジュンは起きている。ベットからのそりと這い出す。
「次にご飯を食べなくてはならない」
「顔を洗ったりしないのぉ?不潔ねぇ」
ギョッと振り向くと黒基調の服に身を包んだ女性が立っていた。
肌の色は透けるように白く、一見すると病気のような痩せた女性だ。
それでも出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。さらに冷たい感じはするが美女の部類に入る顔つきだ。
「水銀燈姉さん……」
桜田水銀燈。桜田家薔薇乙女軍団の長女である。
「銀姉でいいわよぅ、家の中なんだから。顔、ちゃんと手入れをしないと大変な目に遭うわよぅ」
全く気配が感じられなかった。部屋から出て行ったのでは無かったのだろうか?
「姉さん、いちいち茶々を入れるなよな。何の用だよ」
ジュンはさっさと居間に行くことにした。朝御飯が呼んでるぜー!
「あらぁ素っ気無い。いいのぉそんな態度で」
後ろから抱きつかれた。
(当たってる当たってる! 胸が……)
「貴方は今しがた私に起こされた。約束は守らなきゃねぇ」

(ホント起きるのが遅いわねぇジュン)
(うるさいな。次はちゃんと起きるよ)
(信じられないわぁ)
(じゃあ賭けをしてみようか)
(へぇ?)
(一週間姉ちゃん達より早く起きてこれたらご褒美くれ)
(早く起きるのは普通の事だと思うけど?ま、いいわ。失敗したら私の言うこと何でも聞きなさいよぉ)

ジュンの頭につい先日のことがフラッシュバック。


597:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/02 00:58:49 PXBRloGQ
「しまったぁぁぁぁァァ!! 今日が七日目かあ!」
「大方、すっかり忘れてたんでしょうねぇ。お馬鹿さぁん」
ジュンの首筋に水銀燈が甘噛みした。最近彼女がやるようになった悪癖の一つである。
「うふふ、今夜は徹夜確定~♪」
踊るような足取りで水銀燈は部屋を出て行った。部屋には灰のように白く燃え尽きた青年が残された。
「神よ……」
ジュンは胸の前で十字を切った。
「この哀れな子羊めをお救いください。夜には姉さんが約束を忘れていますように……」
水銀燈とは対照的に、今しがた掘り起こされたゾンビのような足取りでジュンは部屋を出た。

居間ではすでに食べ始めていた。もうほとんど食べ終わっているものもいる。
皆揃ってから食べ始めるという習慣は桜田家には無い。各々、仕事や学校といった予定が詰まっているからだ。
なお、桜田家の構成員は全部で十人。大家族だ。それ故にかなり騒がしい。
新調したての大きな四角テーブルはまさに戦場と化していた。
「誰か醤油を取りやがれです!」「自分で取りなさい」「……」
ザワザワガヤガヤ
「はい、醤油」「ヒナが先なのー」「カナが先かしら!」
ザワザワガヤガヤ
「みっともないわねぇ」「ジャンクは黙れかしらー」「醤油ゲットですぅ」
ザワザワガヤガヤ
「……」「今ジャンクって言ったの誰!?名乗り出なさい!」「僕じゃないよ」「ごちそうさまかしらー」
ジュンは自分が座るべき椅子を探した。が、間の悪いことに開いていない。
残るはテレビの前にある小さなテーブルだけなのだが、そこには先客がいた。
「あら、遅かったわね。ジュン」
桜田家五女、桜田真紅だった。
うまい具合に真紅の反対側に手付かずの朝食が並べられている。そこに座ることにした。
「いつものことながら騒がしい朝ね」
真紅は紅茶を入れている。ある意味場違いな程落ち着いていた。
ジュンは返事を返さない。ひたすら目の前の食べ物を食べることに専念していた。
「寝起きなのによく食べるわね。お先に」
真紅は朝食の入っていた食器を持つと、流しに置きに行った。
大テーブルの方でも一人、二人と席を立つ。
戦場は静かになりつつあった。
(何でこうなったんだろうなぁ)
箸が止まった。ジュンは静かに頭の中の思い出のページを開き、回想する。
少なくとも、真紅達は人形だったはずだ。―以前は。
今の彼女らの体は立派な人間である。
薔薇水晶にローゼンメイデンが敗れたあの日から、桜田家の内情は大きく変化していた。
なにより、ジュンが復学したことは人類の大いなる一歩だろう。その他にも―
ジュンは「あの日」以来何度もため息をついた。
そして今日もまた一つため息をついた。


598:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/02 01:00:15 PXBRloGQ
―“こうなった”のは三年程前のことだったような気がする。
まだ僕が中学二年生。引き篭もりのときだった。
当時、真紅達ローゼンメイデンは生ける人形であり、アリスになるために姉妹で戦っていた。なんとも救われない話だ。
最終的にアリスゲームは偽ローゼンメイデンの薔薇水晶が勝利した。が、ローザミスティカを体に取り入れると自壊し、作り主であるエンジュと共に消え去った。アリスは誕生しなかった。
その後、ローゼン本人が現れた。
その時のことは良く覚えていない。でもある程度なら思い出せる。
真紅達が椅子に座らせられていた。ローゼンが一人一人の服装を直している。
エンジュに似ていたような気がする。顔がはっきりと思い出せない。
そして彼は作業をしながら独り言のように呟いた。
「アリスというのは存在しない」「美に関する感覚は人それぞれ」
「アリスの概念は矛盾している」「では、矛盾を追い求めたら?」
「錬金術師として名高い私でも」「どうなるかは分からなかった」
「私の持つ全ての錬金術の知識」「応用すれば分かるかも知れん」
「そこで人格を持った人形達に」「人間に限りなく近い人形達に」
「アリスゲームをさせてみたが」「結果は未だにはっきりしない」
「方法を変えてみることにする」「アリスゲームではない方法に」
ローゼンが真紅の前に来た。服装を直しつつはっきりと言った。
「アリスゲームだけが、アリスになる道ではない」
「またすぐに会おうではないか」「ネジを巻いただけの神業少年」
ローゼンの姿はもう無かった。

人形達をそのままにしておくのもなんか釈然としないのでとりあえず全員連れて帰った。
真紅以外覚醒していないのでどうすべきか迷ったがソファに雛苺と蒼星石に並べて座らせておくことにした。
後はのりが何とかするだろう。
それから疲れきった僕は眠ったのだが……やけにはっきりした変な夢を見た。


599:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/02 01:01:09 PXBRloGQ

『ジュン君、ジュン君』
「何だお前?くんくん?」
『その答えは正解とも言えるしそうでもない。僕は誰だろう?』
この人をバカにしたような口調は一匹しか思い当たらない。
「ラプラスだろ。何の用だ」
『残念。覚えてないのかい?ネジを巻いただけの神業少年?』
「あー……アリスゲームの首謀者?」
『もう分かったようだから本題に入るよ。時間が無いもんでね』
このくんくんはローゼンのようだ。何しに来たんだろう。
『アリスゲームのやり方を変えてみようかと思ってね。アリスという矛盾を追い求めた時の過程と、その結果が分れば良いのだから発想を転換させてみる』
「僕には関係ないだろう」
『まあ聞いてくれ。前回のアリスゲームの問題点は三つ』
くんくん(ローゼン)はさくさくと話を進めていく。
『一つ目は彼女らが人形だった事。人形では経験できないこともあるしね。二つ目は動力源ともいえるローザミスティカを奪いあわせた事。真紅のように罪悪感から戦いを放棄されてしまうかもしれない。』
「……」
僕はほとんど話を聞いていなかった。
『三つ目は思わぬ横槍が入った事だ。エンジュがあれ程にも完成度の高い人形を完成させるとは……正直思っても見なかった。弟子を過小評価しすぎたな』
エンジュはローゼンの弟子だった説は本当だったようだ。
僕は赤の他人だと思っていたのだが。
『正直な所、エンジュに無いものはローザ・ミスティカの精製法ぐらいだ。人形師としての腕前は僕に匹敵する。』
「ひょっとして、エンジュ達が飲み込まれた光はお前の仕業か?」
『おや、ご名答。薔薇水晶がこのまま壊れてしまうのは惜しかったから、とっさに九秒前の白に送った。オマケも付いてきたようだがね。壊れるのだけは食い止めれただろう』
最初から最後までこいつはアリスゲームを観察し続けたのか。
真紅なんか水銀燈のことであんなに悩んだっていうのに……なんか頭にくる。
『話を本線に戻すよ。結論として、ローゼンメイデンとプラスαを人間にしてみようと思う』
「……はい?」
『まじめな話なんだよ。究極の少女ではなくて女性を目指す、というのでもほとんど同じだと思うが』
くんくんはパイプをくゆらせている。
『それに、戦わせるようなことはさせない。約束しよう』
「究極の女性か……なんかニュアンス狂う……」
『しょうがないだろう。人間の生活で得られる経験も新アリスゲームには必要だ』
「人間には寿命があるじゃないか」
『色々突っ込んでくるね。しかし全ての疑問は一言で解決』
「?」


600:《桜田さんちの薔薇少年》
06/05/02 01:02:58 PXBRloGQ

『現代の錬金術師ローゼンの力を見せてやろう。全ての事象は僕の思うがままだ』

断固たる自信に満ちた口調だった。
しかし、くんくんの声、口調で無かったらとてもかっこよかっただろうに。
『楽しみにしていてくれ。君はまだ真紅のミーディアム。これからの変化は必ず君の周りで起こるのだから―』
急にくんくんが透けていった。
『ん、時間切れかな。……また会おう。意見を聞かせて欲しい』
「二度と御免だ」
くんくんは消え去った。


「……はっ」
目が覚めた。何も変わった所は無い。
何も起こってないじゃないか。変化なんて

ジュンの視界に、鞄を抱いて気持ち良さそうに寝ている十七、八の女性が目に入った。
漫画的表現をするならメガネに小さなヒビが入ったような衝撃だった。

「し……んく?」
服装から判断して真紅っぽい。あ、覚醒した。
「お早うジュン」
何事も無かったかのように挨拶されても困るんですが。
「挨拶も出来ないの?無礼な下僕ね」
「真紅なのか?真紅なんですか?真紅じゃないよな誰ですかアナタ!」
「騒々しい。朝からテンションが高いわね」
「人形が人間になってたら驚くわ!」
「お父様が夢の中に出てきておっしゃられたの……」
真紅、夢見る乙女モード突入。
「これからは人形としてでなく人間として生き、究極の女性を目指しなさいって……」
背筋に走る嫌な予感。急いで一階の様子を見に行く。
予感は現実のものとなっていた。
ソファの上ではお互いに寄り添うようにして眠っている五人の女性が―


「ジュン」
「ん、はい?」
思い出の日誌が勢いよく閉められた。
「妄想の世界に浸るのは勝手よ。でも、時間を考えなさい」
ジュンは時計を見た。もうすぐ家を出ないと間に合わない。
「じゃあね。学校で会いましょう」
真紅はもう身支度を終えていた。すたすたと玄関まで行ってしまう。
居間はガランとしていた。ジュン含めて三人しか残っていない。
「遅刻だぁぁぁ」
ジュンは大急ぎでご飯を片付け、準備を始める。
「はい、お弁当」
のりが弁当を差し出した。
「おい姉ちゃん!! なんで声かけてくれなかったんだよ!」
「だってジュン君、声かけづらい雰囲気だったんだもの……」
「遅刻するぞ」
新聞を広げていたエンジュがポツリと呟いた。

今日も一日が始まった。

     終わり


601:熊のブーさん
06/05/02 01:06:20 PXBRloGQ
えーと、「終わり」と書きましたが、まだ短編(?)連作の形式で続けていこうかと思います。
元ネタ……分かっても糾弾するのは勘弁してください。
「これじゃないか?」は一向に構いませんので。

602:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/05/02 09:49:03 KOJX4iet
銀姉さん・・・JUM羨まし過ぎるぞ?グッジョブ!

>>580
チンタラしとっとワレがかいてまうど?ってことで仁義破りのネタ頂き失礼!
まずは僭越ながらボクから、雑談の一環ということで、どうかお許しを


     初めに言葉あり、言葉は神なりき    ~ヨハネの福音書 第一句~

その島は、米軍の熾烈な艦砲射撃によって人ならざる者が住む処の様相をなしていた
強襲揚陸艦の艦長は、傍らに立つ副官、奇妙な外見に似合わず非常に優秀な女性少佐を、そっと見た
「水銀燈、どうか許してくれ、君とニシとの事は知っている、しかし・・・ステイツを守るためなんだ」
「サー、わたしのことはお気遣いなく、・・・しかし、提督、ひとつだけ・・・お願いがあります」
水銀燈は海兵隊による上陸作戦の直前、提督の許しを得てブリッジに立ち、マイクのスイッチを入れた
初めに言葉あり、言葉は大切な人を守る最強の武器、そして最後の武器・・・ぜんぶ嘘っぱちだ
人間は最初に武力で争い、最後に武力で片をつける、言葉の力なんて、武力で勝った者の言い草だ
「・・・バロン西、バロン西、どうか投降してください、バロン西、わたしは、あなたを失いたくない」
・・・・・・・・島の日本兵は玉砕した、そして西竹一少尉の死体は、後の調査でも見つからなかった
最近になって、この投降勧告が米軍の創作であるとの論評が発表された
水銀燈は黙して語らない、真相を知る水銀燈は、決して何も話さない
だって初めに言葉あり、言葉は最強の武器、いつだって愛するひとを守る最後の武器なのだから



603:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 12:28:39 ytWs17nd
いやぁ~哀・戦士ですなぁ~

604:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 15:55:14 xW3NUt0/
馬鹿だな。
アメリカから見れば日本人なんて現地猿だよ。
ミッチャーもそう思ってる。

605:名無しさん@お腹いっぱい。
06/05/02 16:01:39 aq8pbQaN
せっかくブーが流れ変えたのにまた軍オタかよ…

606:Web of Love  1/7
06/05/02 17:00:00 mIxuZ0pE
こくり。 アッサムを一口味わい、傍らの本を閉じて嘆息。

なんて穏やかな午後。
静かに時を刻む針の音だけが、私とうつつを繋いでいるよう。

窓の外に目をやれば、青く済んだ空が柔らかな光を投げかける。
とても清か。 とても静か。 日ごろ机の前に陣取っている少年も、今はいない。

ジュンはどうしているかしら。
いつも来て貰ってばかりでは悪いからと、今日は彼の方から巴に会いに行った。
いえ……会いに行かされた。

のりに根負けした時の悪態を思い出して、自然に微笑がこぼれる。
いつか。 いつか、私が永い眠りにつくとしても。
この記憶が癒してくれるでしょう。 この想いが暖めてくれるでしょう。

ひとりでいても、ひとりではない。
時を渡し、夢を渡し。 私を明日へと歩ませてくれるでしょう。
それは、なんて幸せで、優しいこと。


気付けば、窓から差し込む日が低くなっている。
うとうとしていたかもしれない。 でもまだ、私はひとり。

ゆっくりと背を傾けていき、ぽふん、と床に寝転がった。
……少し、はしたないかしら。
でも、今日はひとりだもの。 このくらい、いいわよね。

何を見るでもなく、漫然と部屋に目を巡らす。
今ごろは雛苺も、翠星石も、待ち人との逢瀬を楽しんでいるのかしら。

くすり。
いやね。 逢瀬だなんて、大袈裟な。
らしからぬ言の端に、自分で自分がおかしくなる。

家に一人きりという事実が、少しだけ私を大胆にさせていた。

607:Web of Love  2/7
06/05/02 17:01:00 mIxuZ0pE
だからだろうか。 頭に浮かんだ悪戯っ気を、打ち消すでもなく受け容れたのは。

……あった。 ここね……。
目の前に置かれた黒い箱。 探り当てたその一部を押すと、箱が低く唸りはじめる。

これはピー・シー。 パーソナル・コンピューターというものだ。
そう。 私も、してみようと思ったのだ。
ジュンがいつも夢中になっている、「インターネット」というものを……。


目覚めの声と共に、ピー・シーが映像を映し出す。 いい子ね。
あれは雛苺がここに来てすぐの頃だったかしら。 水銀燈はこの子の中から現れた。
それは魂を宿すものの証。 この子もまた生きている。 闘っている。

ふわり。 微笑むと、心の中で語りかける。
突然起こしてしまって御免なさいね。 でも、ジュンに仕えるという事は私に仕えるのと同じ。
いい? 今日の事は私と貴方の秘密。 ジュンに教えては駄目よ。
応えるように起動音。 素直な子。

この子の扱い方は、ジュンを観察していた過程で熟知したと言ってもいい。
本、人、心。 知識は知恵へ、経験は直感へ。 いつしか私は時の川をたゆたうレクシコンとなる。
インターネット・エクスプローラ。 これを素早く2回押して……。

かち、かち。 確かな手応えと共に、渇いた音が主無き部屋に響く。
私は「インターネット」を満喫していた。

凄い。 なんと凄いのだろう。 まるで知識の世界樹。 これこそ本当のレクシコンだわ。
キーワードを尋ねただけで、無数の情報が返される。 紅茶、ドレス、くんくん……あらゆる答えがそこに、在る。
なんて魔法。 なんて不思議。 なんて素敵。


お茶も忘れて、埋没。 ふと顔を上げれば、空は朱に染まり始めていた。 でもまだ、私はひとり。
夢のような一時だけれど……少し、疲れてしまった。 私はこれで最後にしようと、その言葉を入力した。
 ___________  ___
 | R o z e n M a i d e n | | 検索 |
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄

608:Web of Love  3/7
06/05/02 17:01:59 mIxuZ0pE
「ありがとう桜田くん。 私、パソコンの事なんて全然分からなくて……。」
「いいよ。 ……よし、セキュリティもオーケー、と。 ほら。 もう使えるから。」

すやすやと眠る雛苺の髪に、そっと手櫛を入れる。
桜田くんが来てくれてよかった。
パソコンを買ってから半月。 ようやく使える時が来たのだ。

私の家は古風だ。 電話は未だに黒電話。 パソコンともなれば、もう完全に別世界。
少しでも文明の火を入れようと、購入したはいいけれど。
買ったのは格安の中古。 大型電気店で売っているような、最初から何もかもお膳立てされたものではなくて。
情けない事に、家族の中の誰ひとり、動かし方が分からなかったのだ。

桜田くんが気にするだろうから、誰が動かしてくれたのか、家のみんなには内緒にするつもり。

……でも。 なんだかくすぐったいな。 大きくなって、疎遠になって。 桜田くんは「男子」になって。 私は「女子」になって。
この間まで、話もしなかったのに。 いま、私達はおんなじ「秘密」を抱える仲。
あなたのおかげね。 微笑って、眠る雛苺のほほをつつく。 ふにっ。


「……でさ。 真紅が動かなくなった時、ヒントになったのがこのサイトで……」

いけない。 考え事にかまけて、桜田くんの話を聞き流してたみたい。
話を把握しようと、慌てて意識を集中する。 今話しているのは、どうやらインターネット掲示板の話題。
真紅が動かなくなってしまった時に、桜田くんはインターネットで色々調べたらしい。

……楽な事じゃ無かったろうな。 モニターをぼんやり見つめる。
ローゼンメイデンは幻のドール。 その実態を知っている人なんて、世界にほんの一握り。


> 462 : 銀様最高! あの目、あの足、あの背中……(;´Д`),、ァハァハァ/、ァ/ヽァ/ヽァ
> 463 : 翠星石と一日中ストロベり隊
> 464 : ウホッ!いい罵声。 OK、こみ上げてきた。 ちょっと荒縄買ってくる ノシ


………のはずだったんだけど。 …………何これ…………。

609:Web of Love  4/7
06/05/02 17:03:00 mIxuZ0pE
「……あの……桜田くん…………」
「凄いだろ? みんなローゼンメイデンにやたらと詳しい人ばっかりなんだ。 いやぁ、やっぱりインターネットは頼りになるよ。」

なんで嬉しそうなのよ。 喉まで出かけた言葉をぐっと飲み込み、再び画面に目を移す。

> 465 : 今日も死ぬほど乳酸菌を摂取した。 いずれこの身も乳酸菌となり、銀様の一部にして頂けるだろう。
> 466 : カカカナのおデコでままままさちゅーせっちゅーしてぇぇええぇ
> 467 : イッチゴッアジノォスッパゲッチィ~♪ウォォ~アンマァエアウェァ~♪クハッ!キャハ!ケヘァ! カハァ!

くらり。 なによ、この病人の群れは……。

「か、柏葉!? どうしたんだ、大丈夫か?」

へたり込んだ私をいっちょまえに心配する変質者(故・桜田くん)。 妊娠するから話しかけないでくれる?
そんな私の内心など知る由も無く、変態の解説は続く。

「この掲示板は凄く流れが速いんだ。 ほとんどチャット状態だから、見てる分にも面白いってわけ。」

ハァ、面白い。 これが面白い、と。 そうね。 あるイミ面白いね、ほんと。
適当に話を合わせる振りをしながら、私はこのよく分からない炭素化合物に帰ってもらう理由を考え始めた。

……それにしても、本当に頭が痛くなる文面だわ……。 思いつつ、なんとはなしに雛苺に触れたレスポンスをチェックする私。
この子を穢すような書き込みがあったら許さないんだから!

と意気込んだものの、度を過ぎた内容のものは無さそう。 それが分かると、少しだけ気分も落ち着いてきた。
どうも大別すると、翠星石(オッドアイのあの子ね)と水銀燈(誰かしら…)の魅力を讃えるレスポンスがほとんどのようだ。

「まぁ、その二人がツートップだろうな。 実はこの掲示板で、今日締め切りの人気投票をやっててさ。
 二大勢力である銀派と翠派の動きが活発ってわけなんだ。 ……真紅なんて、名前すら見かけないけど。」

確かに真紅の「し」の字も見かけない。 ……無いのかな、人気。 そんな事を喋りながら、更新ボタンをカチッ。
何分も経ってないのに、もう書き込みが増えてるみたい。
ぷっ。 桜田くんが小さく噴き出した。 何かしら……。 つられて覗き込んだ私も、思わず微笑ってしまう。 すごいタイミング。

> 480 : やはりドールズで一番かわいい真紅に投票するのが、人として自然だと思うのだわ。

610:Web of Love  5/7
06/05/02 17:04:00 mIxuZ0pE
「なに笑ってるんだよ……プフッ。」
「そういう桜田くんだって……。」

くすくすくす。 ふたり、顔を見合わせて笑う。 何の変哲も無い書き込みなのだけれど。
初めて真紅に触れたレスポンスが、何の偶然か、あの子の喋り方そっくり。 それが私達には妙におかしかった。

> 481 : >>480 寝言は寝てこけ
> 482 : やっぱりドールズで一番可愛い雛苺に投票するのが、人として当然だと思うのよ~
> 483 : 1日1票だからなぁ。 真紅に入れるくらいなら銀様に入れる。
> 484 : 人気のある真紅(笑)
> 485 : >>480 >>480 >>480
> 486 : ごめん、もう翠に入れちゃったし…
> 487 : 3票持ってても全て蒼の子に入れますが何か?
> 488 : >>480 の人気に嫉妬

「プッ! サンドバッグだな、こりゃ。 あいつがブチ切れる様子が目に浮かぶよ。
 『私より水銀燈に入れるですってぇ!許せないわ!節穴なのだわ!ジュン!お茶を淹れて頂戴!すぐによ!』 なんてな。」
「もぅ、やだ、桜田くんったら……。」

笑いすぎておなかが痛い。 桜田くん、すっごい特徴掴んでるんだもん。

> 489 : 真紅より水銀燈に入れるですってぇ!許せないわ!節穴なのだわ!撤回を要求するのだわ!

……。 この人、なんでこんなに必死なんだろう。 人気って、そんなにムキになるほど大事なのかな。

「……この人、凄くムキになってるな。 少なくとも僕は。 こんな得票数なんかじゃ、人の気持ちは測れないと思うけど。」
ドキリとする。 桜田くんも、おんなじ事考えてたんだ。 私の方を見ないで、桜田くんは続ける。

「例え世界の片隅に置かれてたって。 皆にそっぽを向かれてたって。 きっと誰かが気付いてくれる。 必要だって言ってくれる。
 それなら。 もし一人でも、自分を見てくれる人がいたなら、それは。 ……凄く、幸せな事なんじゃないか。」

僕は、そう思うけど。 段々声が小さくなって、頼りない言葉尻。 ……でも。 何かが、私の胸にこみ上げてくる。
それは、すごくすごく強くて、深くて、暖かい何か。 私はその気持ちを表す一言を探して、呟いた。 そうだね。

桜田くんはそんな私の呟きに、照れくさそうに微笑み返すと、おもむろに翠星石に一票入れた。 くたばれ。

611:Web of Love  6/7
06/05/02 17:05:01 mIxuZ0pE
○月×日(晴れ)

今日はとってもいいお天気だったかしら。 いわゆる潜入日和って奴かしら!
今日はおうちに真紅しかいない事は調査済み。 ローザミスティカを奪うには絶好のチャンスだったかしら。

というわけで、カナはいつも通りジュンのお部屋を見張ったの。
あっさり真紅発見! どうやら本当に一人みたい。 怖いくらい順調かしら!
真紅は今日も湯水みたいに紅茶をがぶ飲み中。 なんてただれた食生活なのかしら、ぷんぷん。

でも、異変はその時起こったのかしら。 どさっ。 床に倒れこむ真紅。
? 一体どうしたのかしら……。 くすくすくす。 い、いきなり真紅が笑いだしたかしら!
どこに笑うネタがあったのかしら? ひょっとしてカナの事がバレてるかしら!? いやいやまさか……

と思ってたら、真紅の目が油断なく周囲をぐるり。 はぅあ!? か、隠れるかしら!
どうやら見つからずに済んだみたい。 けれど口元には、相変わらずギタリと不敵な笑みが浮かんでいる。
うぅ、やっぱり真紅は一筋縄じゃいかないかしら……。 ここはもうちょっと様子見かしら!

そうこうしてる内に、真紅は机の前に座ってごそごそし始めたかしら。
カナ知ってるかしら! あれは「いんたぁねっと」って言うのよ、ピチカート。 みっちゃんもよく使ってるかしら。
でも、画面に向かってグフグフ笑ったり、顔を赤らめたり……きょ、今日の真紅はおかしいかしら……。

はっ! 真紅は今「いんたぁねっと」に夢中……。 ひょっとしてこれは絶好のアタックチャンスではないかしら?
そうよねそうよねやっぱりそうよね! 後ろからソロソロ近づいて、ポカポカポカリのばたんきゅーかしら!

ふっふっ……薔薇乙女仕事人、金糸雀の本領発揮かしら。
真紅、あなたが弱いわけではないのよ。 ただ、カナがあまりにも賢すぎただけかしら……!
一歩、二歩、三歩……。 ターゲット・ロック・オン! もらったかs

『 ズ ガ ン ! ! ! ! 』

うきゃー! ぴきゃー! みきゃー! 何かしら? 何かしら! 心臓止まると思ったかしら!
え、何、ピチカート? 心臓無いでしょって? それもそうかしら。
慌てて部屋の入口まで戻って、恐る恐る覗き込むと……はわわわゎわわわゎわ!!

紅蓮の瘴気も明らかに、真紅の剛拳雨あられ。 「いんたぁねっと」は今まさに公開処刑中だったのかしら……。


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