【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】at ANICHARA
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】 - 暇つぶし2ch450:あべこべろーぜんめいでん
06/04/21 23:13:27 YxDWa/GC
 真紅の態度が一変する。このタイミングで「人形の友達」と聞けば、あの生きている人形しか思い浮かばない。
 真紅は後ろに振り向き、雛苺の両肩に手を置いて尋ねる。

「貴女もローゼンメイデンを所持しているの?」
「うん、真紅は聞いてないの? ヒナは水銀燈から聞いたのよ。真紅もお人形さんとお友達になったって」
「聞いてないわ……」

 雛苺は真紅がマスターになったことを聞かされていた。何も聞かされてなかった真紅は、のけ者にされたようで気分が悪かった。だが、これは自業自得と言える。一日中、部屋に篭って家族とのコミュニケーションを疎かにしていれば、こうなっても仕方がない。
 真紅はしがみつく雛苺を引き剥がし、まさかと思って聞いてみる。
「他にもあの人形を所持している人はいないでしょうね」
「多分、いないと思う。それより、早く捜すの」
「そうね」
 二人は協力してドールの捜索を再開した。



451:あべこべろーぜんめいでん
06/04/21 23:14:14 YxDWa/GC
 廊下の真ん中を三体の人形が歩く。子供より小さい人形が歩くと、広い廊下が更に広く見える。ジュンの両隣にはめぐと巴が陣取っている。まさに両手に花の状態だ。
 だが、二人に挟まれたジュンは生きた心地がしなかった。度々、めぐと巴は互いを牽制し合って視線で火花を散らす。先程、ドロップキックの応酬をしたばかりなのもあり、二人の仲は最悪だった。
 そんな中、我慢を知らないめぐが、さりげなく手を繋ごうとする。当然のように、目を光らせていた巴は見逃さなかった。彼女はジュンの後ろを回ってめぐを突き飛ばした。

「桜田君に触らないで」

 めぐは倒れそうになるのを堪えて、キッと睨み返す。二人の間の険悪度が一気に増す。
 一触即発の空気の中、ジュンは声を震わせて仲裁に入る。見た目によらず、勇気のある男だ。

「仲良くしようよ。久しぶりに会ったばかりだし。ね?」
「ジュンが言うならそうする~。私っていい子でしょ? そう思うでしょ?」
「あ、ああ」

 急に明るく振舞うめぐに気圧され、ジュンは仕方なく頷く。返答に満足しためぐは、子供のような屈託の無い笑顔を見せる。本当に喜んでいるようだ。
 時々、ジュンはめぐのことが解らなくなる。このような笑顔を見せる子が、真顔で襲い掛かってくるのだ。それがアリスゲームのためだとしたら、彼はやめさせたかった。そんなのは悲しすぎるからだ。
 複雑な表情でめぐを見つめるジュンを、巴は心配そうに見ていた。



452:あべこべろーぜんめいでん
06/04/21 23:15:05 YxDWa/GC
「トモエーっ」
 大きな声で呼ばれ、人形達が一斉にそちらに振り向く。声の先には、駆けてくる雛苺と、その後ろを歩く真紅の姿があった。
「捜したのよ。突然いなくなるから……」
「ごめんなさい」
 やはり、雛苺は巴のマスターだった。巴を抱き上げて軽く叱る。
 遅れてきた真紅は、何も言えずにそれを眺めていた。そして、ジュンと目が合う。

「僕を捜しにきてくれたの?」

 真紅は返答に詰まる。彼の言う通りなのだが、それを認めると負けなような気がしてならない。
「違うわ。そこの雛苺に頼まれただけなのだわ」
 ジュンが落ち込んで俯く。その分かりやすい反応が、真紅をじわじわと責め立てる。真紅は彼に背を向けながら言う。
「ジュン、部屋に戻るわよ」
「いいの?」
 ジュンはまだ部屋を追い出されたことを気に病んでいた。黙ってついてこればいいのに、と真紅は心の中で髪の毛を掻き回す。
「人形に家の中を歩き回られても困るのよ。誰かに見られたらどうするの」
「わかったよ」
 真紅は適当な言い訳を考えてジュンを連れ帰った。彼女は本当に強情なマスターだった。



つづく

453:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/22 00:53:18 bVv+uK97
続きを期待。

でも次の投下は鬱話の方?

454:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/22 03:55:25 lt9GwWFe
コンセプトは『14行縛り』。



「ねぇ水銀燈。あなたの姉妹にも、羽はあるの?」
 不意に、めぐが尋ねてきた。姉妹と聞いて、思い出したくもないあの子の顔が、私の
頭の中をよぎった。
「―ないわ。私だけよ」
「そう……あなたは『お父様』から愛されているのね。羨ましいな」
 そう言うと、めぐは寂しそうに笑った。愛されている? 私が?
「他の子にはないものを、あなたは持っているのよ? 愛されている証拠だと思うよ?」
「私は愛されてなんかいない。愛されようとも愛そうとも思わないわ」
 私にだけ羽をくれたお父様は大好き。白い羽をくれなかったお父様なんか大嫌い。
 でもお父様に会いたい。会って、どうして黒い羽なのかを確かめたい。
 フフッと、めぐが悪戯っぽく笑った。私の胸の内を見透かしたように。
「……二度と馬鹿な質問をしないで頂戴」
「水銀燈って、ホント屈折してるよね♪」
 あなたほどじゃないわ。めぐの言葉を聞いて、私は心の中でそう反論した。



終わりです。

455:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/23 06:53:40 /3xE337k
ツンデレデレw

456:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/23 17:44:29 JodXDikc
ちゃんとお話が成立して14行。すごいですね

457:ケットシー
06/04/23 20:02:26 BvhBhrN0
総合スレの続きいきます。
陰鬱な話ですので、苦手な方はご注意ください。

458:薔薇乙女戦争
06/04/23 20:03:56 BvhBhrN0
>>総合スレ5の782

 夜が明けて、今度は翠星石と雛苺が帰らなくなったのをのりが知る。真紅から聞いた彼女は、用意した朝食を見て悲嘆に暮れた。
 そして、自分の事以上に弟の心配をした。立ち直りを見せていた所なのに、これが原因で再びひきこもってしまうかもしれない。のりは様子を聞いてみた。

「それで、ジュン君は……?」
「ジュンなら心配ないわ。今、自分にできる事をしようとしている。強くなったものだわ」


 二階のジュンのベッドはすでに空だった。いや、昨晩からベッドは使われていない。寝床の主は朝になってもカーテンも開けず、机で一心に針を操る。手には深緑の鮮やかなドレス。彼のために命を落とした者のドレス。彼には一つの想いがあった。



459:薔薇乙女戦争
06/04/23 20:04:44 BvhBhrN0
 ある日の午後、裁縫道具を片付けたジュンは、大きな鞄を片手に外へ出た。薔薇の金細工が施されたその鞄は、ローゼンメイデンの持ち物だ。
 向かう先は人形の専門店。そこは巴に教えてもらった人形工房で、ジュンは足繁く通っていた。彼が通うのには理由がある。そこの人形師は得体の知れない技術を持っているようなのだ。
 一度、人形に生命を吹き込む所を見せてもらったが、その光景が薔薇乙女と重なって見えたのだ。無論、彼女達のように自在に動いたわけではないが、その神業には恐怖すら覚えた。


「桜田君、いらっしゃい」
 人形売り場に入ってすぐ、店員の白崎が声を掛ける。ジュンとは人形制作の手伝いをする仲なので、客相手のよそよそしさはない。棚の埃を掃っていた白崎は、ジュンの鞄を見て手を止めた。

「随分と大きな鞄だねぇ。それにとても古そうだ。何が入ってるんだい?」
「人形です。先生に見てもらおうと思って……」
「それは君の人形かい?」
「そうです」

 はっきりと持ち主だと主張するジュン。少し前までの彼なら「男が人形なんて」といった感じで恥ずかしがっただろう。だが、今の彼にそんな思いは微塵も無い。人形である彼女のあの生き様を見たら、恥ずかしいとはとても言えない。
「彼ならいるよ。行こうか」
 変化を感じた白崎は、ジュンの顔を確かめるように眺めてから奥の工房へ招き入れた。


460:薔薇乙女戦争
06/04/23 20:05:50 BvhBhrN0
 店内から仕切りのカーテンを潜れば、そこは職人の領域だ。一般人は見慣れない素材や機材が並ぶ。
 そして、その先に彼は居た。奥の作業机で人形の制作に打ち込んでいた。職人気質な彼は、人の気配に気付いても構わず作業を続ける。
 終わるのを待っても仕方がないので、白崎が無遠慮に声を掛ける。

「桜田君が来たよ。何か見せたい物があるんだって」

 槐は手を休め、のっそりした動作で振り向く。別に機嫌が悪いわけではないのだが、どことなく怖い。そして、彼の目も鞄で留まる。視線に気付いたジュンは改めてお願いする。
「僕の人形なんです。見てくれませんか」
「持って来て」
 ジュンは言われてすぐ、鞄を手渡しに奥に行く。槐は作業中だった机の上を片付け、受け取った鞄を置いた。
 鞄の留め具を外して開ける。中から光が溢れ、薄暗かった工房を照らす。その光を見た槐は、鞄の蓋を持ったまま動かなくなった。驚いているのを見てジュンが説明を始める。

「生きている人形ローゼンメイデン―人形師ローゼンの傑作と名高いあれです。でも、壊れてしまって……。それで、先生なら直せるんじゃないかと」
「美しい……」

 今の槐の耳には何も入らない。この光に魅入ってしまっているのだ。白崎はそんな彼の様子に驚き、鼻眼鏡を掛け直す。

「光っているのはローザミスティカと言って、人形の命みたいなものらしいです」

 説明は続けられるが、槐は歓喜の笑みを浮かべてローザミスティカを手にする。そして、静かに眠る翠星石を見て涙した。その涙には喜びと悲しみが入り混じっていた。

「この子は素敵な主人と巡り逢えたんだね。この命の輝きを見れば判る。今はゆっくりおやすみ。愛しい私の娘よ……」


461:薔薇乙女戦争
06/04/23 20:06:50 BvhBhrN0
 ジュンはそれを聞き逃さなかった。私の娘―彼は確かにそう言った。前からもしかしてとは思っていたが、今は驚きよりも期待が先を行く。生みの親なら生き返らせることも可能なはずだ。あの水銀燈のように。

「あなたがローゼンだったんですね。お願いです。翠星石を直してください」
「残念だけど、それはできない」

 返事は無情なものだった。娘に命の奪い合いをさせているのは彼なのだから、この返事は想像できた。だが、あと一歩の所まで来たジュンに、そんな考えはできない。いや、したくない。

「どうしてッ! あなたの娘なんだろ。今だって泣いてるじゃないか!」

 槐は今も流れる涙を隠そうともしない。彼も悲しいのは同じだった。しかし、考えは変わらない。憤るジュンを諭すように話す。

「君もこのローザミスティカを見るんだ。この輝きはアリスに相応しいと思わないか? 彼女はドールとして生をまっとうしたんだよ。そんな彼女を認めてあげないでどうする」

 話を聞いてジュンは愕然とした。価値観があまりにも違いすぎる。アリスゲームを強いた彼を以前から疑問に思っていたが、これは決定的だった。ジュンは肩を震わせて咆える。

「翠星石はアリスに拘ってなかった。もっと生きたいと言っていた。勝手に決めるなよ! 離れていたあなたに翠星石の何が分かるッ!!」

 言うだけ言ったジュンは肩で息を切らす。それをじっと聞いていた槐は、悪いと思いながらも微笑んだ。

「今のだけでも君の愛情の深さが分かるよ。君になら娘を嫁がせてもいいとさえ思った。娘達が揃って成長する訳だ……」
「真面目に聞けよ!」
「私は至って真面目だよ。だから忠告しておく。ローザミスティカは有効に使うんだ。でないと、君のもう一人のパートナーも無事では済まない」

 そう言った槐は、ジュンの薬指の指輪を見やる。真紅のことを思い出したジュンは言葉に詰まる。最近の彼は翠星石のことしか頭に無かった。姉妹を亡くした真紅はもっと辛いはず。
 そのまま勢いを失くしたジュンは、槐ことローゼンを説得できず、工房を出る羽目になった。



つづく

462:ケットシー
06/04/23 20:08:57 BvhBhrN0
設定の違いで混乱すると思ったので、ここで言っておきます。
アニメと違って槐をローゼンにしました。したがって、薔薇水晶も本物の第七ドールです。
偽者だと話がややこしくなるので、アニメのひねりをなくしました。(単にめんどくさかったとも言う)
当分の間は、こっちの投下がメインになると思います。
もう片方は話が煮詰まってからにしようかと……。すみません。

463:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/23 21:47:02 rqcIEhPh
まあ気長にやってください。
続きを楽しむのは読者の特権ですw

464:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/23 21:54:38 L0X5w6k+
蒼星石「アッー!」

465:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/23 22:00:16 LO8x75h3
・・・・グッジョブ

466:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 01:28:07 3rl8RoWD
槐の「ローザミスティカは有効に使うんだ」という台詞が気になりますね。
今後の展開に期待してますw




467:放蕩作家
06/04/24 03:07:48 3rl8RoWD
>>298の続きです。
書くのが遅すぎですね、すみません。
それと作者は原作をほとんど読んだことがありません。
原作をろくに読んでないパットでがssなんて書くんじゃねぇ、という方は
スルーしてくださってかまいません。
それではどうぞ。



468:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 03:07:54 AK2XMAko
翠星石。・゚・(ノД`)・゚・。



469:放蕩作家
06/04/24 03:10:33 3rl8RoWD
図書館で日ごろ溜まった熱いパトスを開放したジュン(違
その後あらゆる苦労をして、なんとか図書館の奥で見つけた本を借りることができた。が、その途中経過は本編と
なんの関係もないし、書くのもたるいので省略(J ひどっ!!  
とにもかくにも、ジュンは本を家に持ち帰った。
自分の部屋に上がる時、居間にいた真紅たちに「ただいま」と声をかけたが、誰一人としてジュンの方を見ず、上
の空に「お帰り」というだけだった。全員『人形探偵くんくん』に夢中になっているからだ。「あんな子供騙しな番
組のどこがいいんだ?」とぼやきつつも、この本を見られずにすんだので、少なからずほっとしていた。
 ジュンは人形劇に夢中になる真紅たちを横目に階段を登っていった。テレビではくんくんが「犯人はあなたです!
こうもり伯爵!!」と決め台詞を決めているところだった。



「まず目次から見てみるか。えーと、なになに」
 目次は次のようになっていた。

P4~P95   第一章 製作記  
P96~P170  第二章 ローゼンメイデン  
P171~P190 第三章 アリスゲーム  
P191~P224 第五章 ローザミスティカ  
P225~P256 こ  を  だ ー    へ

「最後のところだけ字が消えかかって読めないな・・・。とりあえず『製作記』のところを・・・」
パラパラと流し読みするジュン。
「十二月二日 どんな宝石よりも輝かしい乙女、アリス。ああ、彼女のバラのような、いやそれ以上の微笑みを早く
見たい。・・・製作記、ね。ようは性悪人形どもの製作日記ってとこか」
 関心したように呟くジュン。
「・・・ってそういえば何でこんな本、存在するんだ?」
 かなり大きな謎だったが、今考えるべきではないと思い、とりあえず保留にしておくことにしたジュン。

470:ローゼンメイデンの秘密
06/04/24 03:19:14 3rl8RoWD
 しばらくの間ジュンは、ローゼンメイデン製作日記ともいえる物を読んでいった。
最初の方はなにか重要なことが載っているかも、と思い、一日一日を丁寧に読んでいったが、案外どう
でもいいと思われる事が書かれていることが多く、だんだんと流し読みしていた。
 それでもこれを書いたと思われる人形師、ローゼンの薔薇乙女への、いやアリスへの執着を感じずに
はいられなかった。
 最初は「どんな宝石よりも輝かしい」とかそのくらいだったアリスの表現が、次第に「夜空に輝く満
天の星々や、女神のように煌く月ですら、彼女に比べればガラス玉でしかないだろう・・・」というよ
うにアリスを(ジュンからしてみれば)大げさ過ぎる美麗美句でかざっているのだ。
 ジュンはさらに読み進めていった。本の右ページ、右下の数字がどんどんと増えていく。数字が74ま
でいった時、ジュンの手が止まった。気になる単語と文章を幾つか読み取ったからだ。
「一月二十三日 錬金術最高の奥義、『夜空のかけら』から作られし生命石『ローザミスティカ』。
 私はこの奇跡の石をさまざまな文献や研究書を読みながら作ったが、できたこと自体、奇跡だろう。
 ただでさえ製作するのが困難、いやほぼ無理といっていい『夜空のかけら』を作り、生命を創り出す
 という神の所業を可能とする『ローザミスティカ』を作ったのだ。奇跡といわずなんといおう。
 ・・・古来から『夜空のかけら』を求める者は後を絶たない。なにせこれがあるだけで、錬金術の夢
 (例えば不老不死、銅を金に変える、等々)全てが叶うのだから。
 ・・・『夜空のかけら』、ね。今度ネットで調べてみるか。怪しげなグッズに混じって、あるかも」
 いや、ないだろ。
 さらに数ページめくる。
「一月二十七日 だめだ!だめだ!!だめだ!!!どうしてもだめだ!私の創った娘たちは誰一人とし
 てアリスには程遠い。彼女たちには何かが足りない。それが埋まらない限り私の理想の乙女、アリスは
 誕生しないのだろう。一体なにが足りない? その答えはまだ出ない。
 ・・・あいつらはアリスを目指すためにアリスゲームをしている、っていってたよな。ということは、
 アリスゲームの勝者はその『足りないもの』が埋まるといことなのか?」
 疑問を口にするジュン。無論それに答える者はいない。
 ジュンはまたページをめくり、ローゼンメイデンのさらなる謎を解き明かしてくれるだろう、正体不
明の本を読み進めていった・・・。



471:454
06/04/24 03:29:26 Qs65RrRK
>>456
長文を書くと、まとまりがなかなかつかなくて。逆転の発想で、短い文で何が
どれだけ書けるかにチャレンジしてみました。
とはいえ、残り行数を気にするあまりに、あちこちいじりまわし、結局ラスト
1行はケツカッチン気味。
すごい、と言われると、面映ゆい限りですが、感想ありがとうございます。

472:放蕩作家
06/04/24 04:31:34 3rl8RoWD
>>470
とりあえずここまでで。
続きます。
そういえばローゼンメイデンが一人も出でない・・・。

473:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 12:40:54 hn4XSSE7
それなんてラヴクラフト??

474:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 15:35:42 3fOWnXC1
謎が謎を生み、どんどん深まっていくんですね
続きwktk

475:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:14:27 hn4XSSE7
では、以前リク貰った水銀燈と金糸雀が入れ替わる話しを投下。

476:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:18:09 hn4XSSE7
「第1楽章ぉぉっ、攻撃のワルツゥーッ!!」
金糸雀のバイオリンが衝撃波を打つ。
nのフィールド中の空気が水銀燈の攻撃を阻む。
攻撃の性質上、金糸雀は接近戦を得意としない。特に格闘に至っては水銀燈にかなり遅れをとっている。
それを知る水銀燈は、このゲームを自分の有利に進めるべく、何度となく接近を試みてはいるものの、
音波の攻撃に阻まれて思うような戦いを仕掛けられないでいた。
決定打に欠ける金糸雀は、攻防を繰り返しながら充分な距離を稼ぎつつ、既に退散の機会を伺っている。
埒があかないと判断した水銀燈は、一時体制を整えるために、攻撃の手を緩め、上空高く舞い上がる。
「しめた、その間にカナは逃っげるかしら~」
しかし、それは水銀燈の予想した行動であった。
「ふっ、あなたの思考なんてお見通しよぉ!」
そそくさと逃走に入る金糸雀を見計らったように水銀燈が攻勢をかける。
いっきに勝負を決しようと、上空から金糸雀に急接近し一撃を加えようとする。
「と、見せかけて…最終楽章!破壊のシンフォニィィィ!!」
金糸雀もそれを読んでいた。きびすを返し楽章飛ばしの攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ああっ、ずるいわよ金糸雀!次は追撃のカノンとやらじゃない!!」
その攻撃を避け切れないと判断した水銀燈は、衝撃波の中にモロに突っ込んだ。
そのまま金糸雀を仕留めようとの魂胆だったが、思いのほか厚い金糸雀の放つ空気の壁に目測を誤り、
また金糸雀も水銀燈が肉を切らせて骨を絶つような真似をするとはおもいもよらず、
両者は急接近の末、激突して気を失った。


水銀燈が目を覚ました時、静けさを取り戻したnのフィールド内にはもはや金糸雀の姿は無かった。
「くっ、逃がしたか……」
しかし、体を起こした水銀燈が上を見ると、ピチカートがくるくる回っている。
「は?ピチカート??」
水銀燈に緊張が走る。
金糸雀がまだ近くに潜んでいる、そう考えた水銀燈は安全圏である上空に避難しようとしたが、飛ぶ事が出来ない。
「あれ…?」
ようやく体の変化に気付いた水銀燈は、自分の状況を客観的に理解して愕然とした。
水銀燈は金糸雀の体と入れ替わっていたのだ。
「な、何これぇぇぇぇ!!」
右手で素早くピチカートを捕まえた水銀カナは、人工精霊を脅迫するかのように説明を求めた。
「これはいったいどういう事よぉ!!」


477:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:19:14 hn4XSSE7
「カナ―おかえりー!」
金糸雀と入れ替わった水銀燈をみっちゃんが出迎える。
ピチカートの話から状況を理解した水銀カナは、とりあえず金糸雀を見つけるために、金糸雀のミーディアムの家で網を張ることにしたのだ。
とりあえず、他のドールが尋ねてこなかったかを聞くために、声のした方向に目をやると、みっちゃんはバスルームで粘土作業をしていた。
「あんた、なにやってるのよ?」
「見て、見てぇ!カナが一度入りたいって言った露天風呂みたいにしてみたのよ、どう?」
それは昨日のTV番組の影響だった。温泉旅行に興味を示し、「一度行ってみたいかしら~」
などと言ったものだから、みっちゃんがバスルームを1日がかりで改造したのだった。
壁一面に紅葉の風景写真を貼り、無骨な蛇口には石膏でライオンを模ったり、岩のオブジェが配置されていたりした。
石膏は水に弱い事がたまに傷なのだが、そんな事は気にしない。金糸雀のためなら何でもやるのがみっちゃんスピリットである。
「さー、私も汚れちゃった、カナ一、一緒に温泉しましょー」
そう言ってみっちゃんは水銀カナの目の前で服を脱ぎはじめた。
『なんなの?この人間…』
唖然としながらみっちゃんの裸を見ていた水銀カナだったが、はっと一つの結論が脳裏をよぎった。
『こ、このままじゃ、私、剥がされる!!』
案の定、普段の着せ替えで鍛えたみっちゃんの早業に抵抗虚しく脱がされて行く水銀カナ。
「ち…ちょっとぉ…」
神業的な手捌きが水銀カナを襲い、気付いた時にはもう下着を残すのみ。しかも、みっちゃんは既にバスタオル姿。
逃げるにしても攻撃するにしても、金糸雀のボディでは勝手が解らず、あたふたとするだけで好い様にあしらわれてしまう。
「カナ~、温泉の元は何がいいカナ~なんちゃって……カナ?」
恥ずかしさと憤りで水銀カナが切れた。
「いいかげんにしなさいよー!」
ガブリ!とみっちゃんの手をかじり、そのままぷらーんと垂れ下がり状態。
事態が飲み込めずにしばらく固まっていたみっちゃんだったが、やがて手の痛さが彼女を現実にひき戻した。
「イャ――!カナが家庭内暴力を――!!」
パニック状態で手をブンブン振り回すが、そのままスッポンの様に放さない。
ようやくみっちゃんの魔の手を逃れた水銀カナは、近くの窓のカーテンで自分の体を隠しながら、真っ赤になってみっちゃんを睨む。
「あ、あんたばっかじゃないの、そんなブサイクなお風呂なんて聞いたことないわ!」
打ちひしがれるみっちゃんを後に、そのままカーテンを引きちぎった水銀カナは外に飛び出したのだった。
『こ…こんな所になんかいられないわよ!』
みっちゃん轟沈。


478:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:20:28 hn4XSSE7
その頃、カナ水銀は上機嫌で夜空の散歩を楽しんでいた。
「うっはぁ~最高の気分かしら~、一時はどうなっちゃうのかと思ったけど、これはこれで良いってことかしら。
でもおなかがスースーする…なんでお父様はおなかを作らなかったのかしら…」
月齢14.7の月が街を明るく照らし出している。月の光りを受けた夜間飛行はカナ水銀の一つの疑問を解決した。
「そうよ、この体におなかが無いって事=軽量化ってことよ。飛ぶ事に特化した体には最適の設計だったのよ!
さすがお父様…でもカナは遠慮したいかしら……」
そんなこんなで暫く月光浴を楽しんだカナ水銀だったが、一人でいても楽しくない。
そこでちょっとした妙案をおもいついた。
「そうよ、この体で真紅たちをぎゃふんと言わせに行こうかしら。
しかも何やっても水銀燈に責任をなすりつけられるじゃないかしら~ふっふっふ!」
これといってやる事もないので、とりあえず桜田家にちょっかいをだしにむかったのだった。

「たーのーもー!」
夕食を楽しんでいた桜田家のドールズは、その声を無視しておかずの争奪戦を繰り広げている。
「あー!だめなの!これはヒナのソーセージなの!」
「そんなの知らないですぅ!隙あらばいっただきですぅ!」
「おまえら、いいかげんにしろよな!いっつもいっつもおかずの取り合いばっかしやがって!!」
見事に無視を決め込まれたカナ水銀。怒りに任せてトイレの窓から室内に進入しドアを開けて食卓に乱入する。
「って、あんた達!!こっち向きなさいよ!!」
迷惑な奴が来た…という視線が一斉にカナ水銀に注がれる。
「な、なにかしらその目は…」
たじろぐカナ水銀に雛苺のソーセージをぱくつきながら、翠星石が食卓代表として質問する。
「一体、何しにきやがったのです?」
何しにきたのかと言われても、何しに来たわけではないのだが、何かしなくてはやっぱりいけないと考えたカナ水銀は、
食卓にたまごやきを見つけて、つい、こう口走ってしまった。
「たまごやき…おいしそ~」
瞬時におかずの皿を抱え、一目散に庭へ逃げ出すドールズ。
「ああっ、ちょ、待っ、たまごやきぃー!」
カナ水銀もドールズを追って外に出る。
やれやれ…とばかりにのりとジュンは食事を済ませて後片付けを始め出す。


479:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:21:40 hn4XSSE7
上空からドールズめがけて黒い羽が降り注ぐ。
3体のドール達はこれを巧みにかわしながら、カナ水銀の攻撃から逃げ回っている。
「くう~っ、おかず如きを本気になって横取りしようとは、薔薇乙女の風上にもおけねーです!!」
おかずを死守しながら叫ぶ翠星石は、いつもの自分の行いを棚にあげておく。
当のカナ水銀は、ドールズが自分の攻撃に手も足も出ない事に恍惚を感じていたのだった。
「うはっ!これは良い気分かしらぁ~!一度でいいから真紅たちをギャフンと言わせてやりたかったのよ!」
恍に浸るカナ水銀に、真紅が訝しげに問う。
「水銀燈…あなた、キャラ変わった?」

カナ水銀はこの戦いに感動しまくっていた。勝利の気分に酔いながら、高らかに自分の強さを宣言する。
「ふっふっふーあなたたちって、やーっぱりローゼンメイデン一の策士、金糸雀がいないと何にもできないのかしら~!」
「はぁ?金糸雀…?なんであんなのがローゼンメイデン一の策士って事になるのですぅ?」
「金糸雀はヒナのお友達なのー」
「まぁ、ドジっ子であることは確実なのだわ。雛苺といい勝負ね、本人の前では言えないけど」
好き勝手言うものである。
そんな言葉に、さっきまでの爽快感が一転し、金糸雀の自尊心が音を立てて崩れて行く。
「あ、あなた達!私を何だと思ってるのかしら!!あームカムカするかしら!!」
「何で水銀燈が反応するです?あなたには関係ない事です!」
「水銀燈…もしかして金糸雀に遅れをとった事でもある訳?」
「ヒナは金糸雀怖くないもん」
ドールズの会話は、徐々に金糸雀にたいする暴露大会の様相を呈してゆく。
「そう言えばこの前、nのフィールドからの帰りに、金糸雀ったらおしりが大きすぎてつまっちゃったのよね」
「うわ!トロイですぅ。静岡県は丸子名物むぎとろろ汁ですぅ」
「ヒナねー、かにみそが隣の家の屋根から落っこちる所を何度も見たのー」
ドールズの会話を聞いていたカナ水銀は、恥ずかしさの余りぷるぷると体を痙攣さながら、
顔を真っ赤にして3人の井戸端会議を力ずくで遮った。
「ええいうるさーい、みんなこれでも喰らうかしらーっ、まっくろなビーム!!」
カナ水銀の放つ漆黒の龍が襲い掛かる…が、何ともセンスの無いネーミングである。
目からナントカと同じセンスが伺えるような気がするのは気のせいだろうか?
「あなたたちなんか!あなたたちなんか――!!!」
半泣きでわめきながらめちゃくちゃに乱射する。
土はほじくり返され、庭木は折れ、塀が半壊する。
「わぁぁぁぁあ、止めるです水銀燈!ていうか、なぁんであんたが一々反応しやがるのです?!」
逃げ回るドールズ。収拾が付かなくなって、もう家のそこら中が穴だらけである。


480:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:23:01 hn4XSSE7
ボロロン!!
カナ水銀の後方から、弦を爪弾く音が夜空にひびきわたる。
「いいかげんにしときなさいよ」
静かな怒気を含んだその声に、カナ水銀が弾かれた様にふり返る。
「誰!かしら?!」
そこにはバイオリンをアコースティックギターの様に演奏しながら、満月をバックにした水銀カナが、
電柱の上からドールズを見下ろして立っていた。羽織ったマントが月明かりに翻る。
中は当然肌着だけ状態。ちょっと間違うとストリーキング。
彼女の肩が怒りに震えていた。水銀カナはみっちゃんの所から逃走した後、めぐの病院に向かったのだが、
そこで見た光景は悶え苦しみながら運ばれて行くめぐの姿だった。
どうやら調子に乗って力を使いすぎ、金糸雀はミーディアムを疲弊させてしまったらしい。
「あなたのせいで…あなたのせいで、めぐが集中治療室に入っちゃったじゃないのよぉ!!」
しかし、そんな事言われても、金糸雀はめぐなんて誰なのか知らない。
復讐の決意を胸に秘めて白いマントをなびかせながら、といってもみっちゃん家のカーテンなのだが、
カルメンの第3幕への前奏曲を情熱的に掻き鳴らす。
ジャン ジャジャ ジャンジャンジャンジャン!ジャン ジャジャ ジャンジャンジャンジャン!
ジャン ジャジャ ジャンジャンジャンジャン!!!
薔薇が宙を舞い、ドールズたちは一斉に掛け声を上げる。
「オ・レ!!」
…マンボだったら「ウ!!」とでも返したに違いない。
だがカナ水銀だけは、演奏の超絶技巧を見抜いて動揺していた。デキル!心の中でそう思ったけれど言葉には出さない。
「おほ、おほほ、おほほほほほ、何かしらぁ?どっかの渡り鳥にでもなったつもりなのかしら~ぁ?」
そのネタは古いぞ、カナ水銀。


481:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:24:09 hn4XSSE7
各々外野がエールになっていないエールを飛ばす。
「カナガワーがんばるですぅ!」
「かにみそーがんばるのー!」
「将軍さまーまんせーなのだわー!」
顔を真っ赤にしたカナ水銀のヒステリーじみた声が響き渡る。
「そこっ!!今喋ったの誰かしら!!?」
全員です。
「だから、なーんで水銀燈が反応するです?」
カナ水銀が気をとられたその一瞬を衝いて、水銀カナが素早く攻撃を仕掛けた。
「いっくわよぉ、序曲!背徳の不協和音!!!」
遅れをとったカナ水銀の顔に緊張が走る。
『わわっ!一体どんな演奏が奏でられるって言うのかしら!?』
しかし、思わず身構えたカナ水銀の予想とは裏腹に、バイオリンの弓を空中に投げ捨てた水銀カナは、
爪で弦を直につまんでそのままゆっくりと上下にしごきだした。
ギャキキキィィィイイ!!!!
そこから放たれる音は黒板を引っ掻く様な強烈に不快な音。
桜田家の窓が粉々に割れて吹き飛ぶ。屋根がビリビリと共鳴しだす。
「わあぁぁぁぁ!!これはたまらないですぅぅぅ!!!」
「くぅぅぅ、金糸雀、止めるのだわ!!」
この攻撃にはカナ水銀も耐え切れずに、失速して地面に突っ伏しのたうち回る。
「ひいいいいぃ、何てハイレベルの演奏なのかしらー!!ジョン・ケージも真っ青かしらぁ!!」
いや、これを演奏とは言わないぞ。
予想外の攻撃にカナ水銀は這いずりながら逃げに入る。逃げ足だけはローゼンメイデン一。
「ちょっと、待ちなさい!」
水銀カナが追撃に移行する。だが、金糸雀の体では水銀燈に追いつく筈が無い。
遠く逃げゆくカナ水銀を見ながら、水銀カナは攻撃の手段を変えることにした。
「…金糸雀、めぐの仕返しはあなたのミーディアムにさせてもらうわよぉ」

2体が去った後、ドールズは穴だらけの庭に呆然と佇んでいた。
「金糸雀…おそるべき嫌がらせ攻撃ですぅ…」
「…水銀燈の攻撃の名前って『まっくろなビーム』って言うのね…」
「ダッサイ名前ですぅ」
「ほんと、最低のセンスだわ」
「うにゅー、たまごやきがじゃりじゃりなのー」
こうして水銀燈の黒龍波は、まっくろなビームと呼ばれることになった。


後編へつづく。

482:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:26:52 hn4XSSE7
ついカッとなって前後分割をやってしまいました。今は反省している。

後半の場面はみっちゃん家の御風呂シーン再び。1週間後位に予定。

483:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:40:47 lz9Scdsa
笑わせていただきましたw

484:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:55:14 j2FPrOJW
笑ったwww
期待して待ってます

485:DOLL HOUSE  1/8
06/04/25 00:19:55 DLzHsNc9
「誇り高き我が名前、真紅にかけて誓う。 貴方をここで。 処刑するわ。」

「ヒナねぇ、こんな気持ちになったの初めて。 これからすっごくすごく酷い事するつもりなのに。
 ……ちっとも可哀想に思えないの。」

「お前のボキャブラリーなんてタカが知れてますけどぉ、命乞いするだけしてみたらどうですかぁ?
 ひょっとしたら気が変わっちゃうかもしれないですよぉ。 に・ん・げ・ん。」

クスクスと笑う声に総毛立つ。 愛らしい声。 だが、その双眸には情なんて一かけらも見当たらない。
憎悪。 そうだ。 人形達の瞳が秘めたもの。 それは、憎悪と……殺意だった。

恐ろしい。 心の底から恐ろしい。
もし人間だったら、これほどまでの憎悪を抱えていても、なお笑えるものなのだろうか。
少なくとも僕にとっては、笑いは喜びの発露だった。

これは何なんだ? 夢なら、夢なら今すぐ覚めてくれ。
いつもと同じように起きて、いつもと同じように過ごした日。 いつもお馴染みの桜田家で。

僕はいま、命を落とそうとしている。


何なんだ、この状況は。 本当にここは、あの憩いの桜田家なのか。
逃げる。 動かないに等しい頭に、その単語が浮かんだ。
そうだ、逃げなくては。 ここから、この状況から、逃げなくては。

「はっ……ひは……」

なのに。 走ろうとすると膝に力が入らない。 何か言おうとすると言葉にならない。
ただただ怖い。 恐怖という感情がこれほどのものだなんて、知らなかった。
それでも、生きてこれたのだ。 今日までは。

シンクが静かに動いた。 瞳がそれを認識した瞬間。 僕は弾かれたように走り出した。

でも、それでは遅く。
明確な殺意を持った拳が、僕の顔面に叩き込まれた。

486:DOLL HOUSE  2/8
06/04/25 00:20:54 DLzHsNc9
「えふぁ……!」

顔面を襲う衝撃。 僕は「痛い」という単語が浮かぶ間もなく吹き飛んだ。
あっけなく床に転がる僕。 慌てて立ち上がろうともがく。
だが、焦れば焦るほど、直ぐに立てない。 早く! 早くしないと!

痛いっ。 手に何か刺さった。 何かの破片だ。
横を見ると、僕がぶつかったせいなのか、花瓶が割れて辺りが水浸しだ。

……化物だ。 改めて思い知った。 理性で考えまいとしても、絶望感が押し寄せる。
人は殴られたくらいじゃ、何メートルも吹き飛んだりしない。
それを、あんな小さな人形が。

喋る。 動く。   人を…殺す。
あいつらは、あの人形は紛れも無く化け物なのだ。


周りを見回す。 ここはリビングを出て直ぐの場所だ。
そしてまだ、人形たちはリビングから出て来ない。
生存本能がなんとか僕を立たせた。 …玄関はすぐそこだ。 外に出さえすれば…!

一歩。 二歩。 三歩。 駆け出すと、体に力が湧いてきたような気がする。
やった、追いつかれてない! 何とかなる……!


はずだった。

「え……?」

玄関など無かった。
いや、あったはずなのだ。 あったはずのものが 消 え た 。

「ジュン……」
背中から声。 正しいかどうか、考えもしなかった。 そんな余裕は無かったのだ。
僕は立ち止まって、後ろを振り返ってしまった。

487:DOLL HOUSE  3/8
06/04/25 00:22:14 DLzHsNc9
シンクがいた。
近い。 5メートルも離れてない。 死ぬ。 殺される。
死を予感する自暴自棄な気持ちと、最後まで生を諦めきれない気持ち。

感情が僕の口をついて出た。

「なんでこんな事するんだ!? 一体、僕が何をしたって言うんだ!!」
「理由なんて無いわ。」

シンクはさらりと即答した。


は?
僕の頭の中が真っ白になる。 無い。 理由なんて無いって言ったのか。
怪奇現象には理由がある。 その原因を解消すれば、命は助かる。 恐怖映画でお馴染みのパターン。

その可能性にすがっていた。 助かりたかった。
でも。 一縷の望みは、今、ゼロになったと宣告されたのだ。

「理由が無くてはこんな事をしてはいけない?
 あなたがいるのが気に入らないの。 同じ空気を吸うなんて耐えられないの。 ただ、それだけ。」

「痛くないわ。」
一歩、近付かれた。

「それは、とても甘美な眠り。 起こす者も無く。 もう誰も貴方を傷つけない。」
そしてまた一歩。

動けない。 すくんだままの僕に、最期の時が迫る。 助けて……助けて…!
前後も分からない、この奇妙な空間。 それを見つけたのは偶然だった。
学校の上履き。 頼りない筆跡で書かれた「JUM」。 学校。 そうだ。 こんな所で、終われない…!

瞬間、金縛りが解ける。 僕は弾かれたように体を翻し、この場から遠ざかろうと走り出した。

「翠星石。 そちらに行ったわ。 始末して頂戴。」
背中から聞こえてきた言葉は最悪なものだったが、止まる訳にはいかなかった。

488:DOLL HOUSE  4/8
06/04/25 00:23:12 DLzHsNc9
鼻の周りが腫れぼったい。
感覚が鈍くなっていて、痛いのかどうかも、鼻があるのかすら分からない。

おかげで口だけで息をしなければならない。 それがどうにも辛い。 肺に余計な負担が掛かっている。
喉が痛い。 服が重い。 こんな事なら、もっとラフな格好をしておくんだった。

「止まるです。」
正面に小さな影。 スイセイセキだ。 誰が止まるか!

ガクッ。 !? 心とは裏腹に、僕はもんどりうって倒れた。
あ、足が! 足が誰かに掴まれてる! ……いや、これは……草?

「うふふふ……ヒナもいるのよ♪ ふ、ふ。 ふふふ。 ヒナがやったの。 ヒナがやったのぉ~♪」
やられた! 正面は囮だったのだ。 無邪気に、楽しそうに笑いながら。 ヒナが暗がりから、僕の顔を覗きこんでいた。
神経を直接掴まれたような足の痛み。 元凶である彼女の笑みは、怖いくらいに無垢。

狂っている。 この人形達は狂っている。

「無様な成りですねぇ。 n のフィールドで私達から逃げきるなんて、最初から不可能なのです。」
止まってしまった事で、走り続けてきた疲労が一気に押し寄せて来る。
あぁ……もう駄目だ。 恐怖、後悔、悲しみ。 絶望感に、僕は怨嗟を吐き出さずにはいられなかった。

「……どうして。 どうしてこんな事するんだ。 ……理由も、無いなん、て。 じゃあなんで。 なんで僕なんだ……」
溢れてきた嗚咽が、視覚と直結して引っ込んだ。 スイセイセキ。 彼女の顔が、憤怒で、歪んでいた。
恐怖と……美。 動けない。 動く人形と、動けない人間。 なんという悪夢だろう。

「どうして? 理由が無い? ……お前が、言うですか。 …………よくも、抜け抜けと……!」
「……おやめなさいな。 言って聞かせたって駄目。 自分で気付かせなければ、なんの意味も無いのよ。」
理由? 理由がある、のか。 理由って何だ? どんな理由か知らないけれど、こんなの非道いじゃないか。
私刑。 自分の尺度で善悪を決めて。 それを僕に押し付けてるだけじゃないか……。

でも、もうどうでもいい。 もうどうしようもないのだ。 真紅の手が迫り、激痛。 僕の意識が失われていく。


「何してるんだ君たちは!!」
闇を払い。 失われた僕の意識を呼び戻した、その声。 なぜだか僕はその声を酷く懐かしいと思った……。

489:DOLL HOUSE  5/8
06/04/25 00:24:24 DLzHsNc9
「あっとゆーま♪ あっとゆーま♪」

うるさいな、まったく……日曜日くらいゆっくり寝させてくれよ。
まぁ、日曜日以外もゆっくり寝てるけど。
ふわぁ~と伸びをして眼鏡をかける。 んむ、09:20。 ……そう早くもないか。

「ジューン! 凄いのよー! 今日は朝からプリンなのー!」
失われた僕の意識を呼び戻した、その声。 苺の奴はいつも通りエンジン全開だ。
子供って、何でこんなにエネルギーが余ってるんだろう。

「にっちようびー♪ にっちようびー♪ きょうはいっしょぉー♪
 ジュンものりもずっといっしょぉー♪ にちようび、だぁ~いすき!」
……ったく。 何だよその歌は。 ……僕は顔を赤くなんてしないぞ。 しないったらしない。


「ほらほらチビチビ! くんくんが始まっちゃうですよ! ダッシュダッシュですぅー。」
性悪人形ご登場。 くんくんと聞いて、雛苺はスーパーダッシュで部屋から出て行った。

それを目で追った後、こちらに目をやってくる翠星石。 悪戯っぽく微笑むと、いつもの軽口を叩いてきた。

「んー、相変わらずジュンは寝坊助ですねぇー。 このまま永眠しちまうかと思ったですぅー。」
言葉は相変わらずだけど、いつもみたいな含みのある笑顔ではなくて。
なんだか純粋に……。 まだ半分寝惚けた頭で、そんな事を考えながらぼんやり彼女を見つめていると。

「な、何ですか、ジュン……そんなにじっと見て。 言いたい事があるなら、男らしくハッキリ言いやがれですぅ!」
「え? いや、なんか可愛いなって。」

っておい!! 何言ってんだ僕!! 思わず返答してしまったが、もう遅い。
あぁあ、赤い。 翠星石は今や完全にユデダコと化していた。 やばいやばいやばいヤバイやばい!

「と、突然何を言うですか! こ、心の準備ってものが…じゃなくて! ま、真っ赤な顔して、いきなり変なこと言うなですぅー!」
「こ、言葉のアヤって奴だよ! いつもと比べたらっつぅか……そもそもお前の顔の方が絶対に赤い!」
「ジュンの方が赤いですぅー! もうにんじん同然です! トマトです! パプリカです! 真紅よりも真紅ですぅー!」
「真紅って言う奴が真紅だ! アイデンティティの崩壊だ! 人気投票を怖れてももう遅いわ!」

「誰が私ですって?」

490:DOLL HOUSE  6/8
06/04/25 00:25:17 DLzHsNc9
戸口を見ると、そこには仁王立ちの真紅。 顔は笑っているが、目はマジだ。

「誰の人気が何ですって?」
「い……いえ……真紅様のミリキを得票数で計ろうとする馬鹿どもの愚を力説していた所で……」
「そう……良かったわ、ジュン。 惨劇には似つかわしくない朝だものね……。」

どうやら生存ルートに入れたようだ。
朝っぱらから人生を綱渡りしてしまった。 たぶん残機も1機減った。

「す、翠星石はもう行くですぅー。」
う。 翠星石が顔を伏せたまま、小走りに立ち去った。
まだビミョーに気まずい気はするが、なんとか有耶無耶になってくれたか。
なんか危ないムードだったよな、さっきのは……。

くいくい。 ん? 気付けば真紅が服の裾を引っ張っている。
……心なしか、顔がムスッとしている…ような?

「いつまでボケッとしているの、気の利かない下僕ね。
 ……下まで抱っこして頂戴。 それで、先刻の無礼は忘れてあげるから。」

苦笑する僕。 かなわないな、こいつには。

「はいはい。 これでいいですか、お姫様。」
「はい、は一回よ。 ……よろしい。」

真紅を抱き上げると、甘えるように頭をもたせ掛けてきた。
こいつのこういう仕草には、いつまでたってもドキッとさせられる。

それに、なんだろう、今日はみんな……やけに、優しい、ような気がする。
何だか恥ずかしくって、取り繕うように言葉を紡ぐ。

「まったく……ひょっとして僕は自分から憑り殺されようとしてるんじゃないだろうな。」
それに対する真紅の返答には……なぜだろう。 妙に真剣な響きがあった。

「馬鹿な事を言わないで。 私達が貴方を傷つける事なんて無いわ。 絶対に。」

491:DOLL HOUSE  7/8
06/04/25 00:26:56 DLzHsNc9
「貴方はもう、私達にとってかけがえの無い人間なのよ。
 私も、雛苺も、翠星石も、みんな貴方のことを大切に思ってる。」
 
「貴方がミーディアムだから、なんて理由ではないわ。
 知っているから。 貴方の強さを。 包みたいから。 貴方の弱さも。
 寄り添っていたいから。 貴方の優しさに。 …桜田ジュンを知ったから。 いま、私達は此処にいる。」

「貴方の喜びは私達の喜び。 貴方を喜ばせるもの全てに接吻て回りたいくらい。
 貴方の敵は私達の敵。 百の夜を越えて必ず償いをさせるわ。
 貴方の未来は私達の未来。 できるなら……これからも共にありたい。」

「ねぇ、ジュン。 こんな事を言うのは恥ずかしいけれど、私達は当世の常識に欠けているわよね。
 だから、たまにやり過ぎる事があると思う。 でも、それは真心の裏返し。

 それだけは、分かってほしいのだわ。 …………せめて、貴方には。」

……真紅は、真剣だ。 罪のない嘘をつく事はあっても。 冗談でこんな事を言うような奴じゃない。
胸が熱くなる。 こんな気持ち、言葉なんかで表せるはずがない。
それなら。 言葉になんか、しなくてもいい。 僕と真紅。 言葉が無くても、きっと。 「伝わる」気がするから。


だから居間に入った時、僕は何度も目をこすった。 ごし、ごし。  ごしごしごしごしごし!!
……梅岡。 うん、梅岡先生だ。 パンツ一丁で手足を縛られ、ボコボコにされてる点を除けば、不審な点は全く無い。
そう言えば昨日来るとかなんとか、柏葉が教えてくれてたし。

教師の癖に約束破ってんじゃねーよとか思ってたけど、来なかったんじゃなくて来れなかったんだね、先生。
あぁ、なるほどね。 さっきの熱弁はこれの予防線だったのね。 凄い力説だったよね。 うんうん。

真紅、これはアウト。

「……分かってほしいのだわ。 …………だめなの?」
真紅がどんなにかわいこぶった所で、目の前の梅岡が無かった事になるわけでもなく。
僕はあらん限りの声で叫んだ。

「何してるんだキミタチはぁァァァーーーーーーー!!!」

492:DOLL HOUSE  8/8
06/04/25 00:28:16 DLzHsNc9
「うっうぅぅ……本当なんだよ、桜田さん……。 人形が僕を襲ってきたんだよ……」
「きっと疲れて悪夢でも見たんですよぅ~。 先生、いつも一所懸命でいらっしゃるからぁ…。」
苦しい言い訳をしながら、姉ちゃんが梅岡を送りに行った。 苦手極まりない人だが、こうなると哀れだ。

「だって泥棒さんかと思ったの……」
スーツ姿で堂々と玄関から入ってくる泥棒などいない。

「気絶させてひっ捕えたんですけど、そしたら丁度おやつの時間になって……てへ☆ 今朝まで忘れてたですぅ~。」
含みのありすぎる笑顔が炸裂した。 おやつ>>>梅岡なのか。

「何より、対・水銀燈用に編み出した新必殺技『絆クロー』の威力を試したかったのだわ……」
そう言いながらアイアンクローでリンゴを軽々粉砕する真紅。 試すまでもないだろ、それ!

「…でも、お前らはこういう事しないと思ってた。 いくらなんでも、やり過ぎ…だろ?」
「…………だって。」
だっても何もあるかよ、と言おうとした刹那。

「だって、あの男。 以前ジュンを苦しめた人間に、似ていた、から。」

とか言うもんだから。 僕は二の句が継げなくなった。
似ていたも何も、本人なのだが……だから、許せなかった? …………僕の、ため?
見回して、気付く。 ………あぁ、そうなんだ。 雛苺も、翠星石も。 真紅と同じ理由なんだ。
薔薇乙女の矜持に触れても。 ……僕を、守ってくれようとしたんだ。 ……僕の心を、風がひとつ吹き抜けた。

「……分かったよ。 別に、責めたりしない。 ……って言うか、その……」

僕はくるりと背を向けて、小さな声で呟いた。 ありがとう。
恥ずかしくて、顔なんて見られたくない。 今、真紅たちがどんな顔をしてるかなんて知りたくもない。
でも、言葉には。 カタチにはしておきたかった。 だって分かったんだ。

真紅達が僕を想ってくれるように、僕も真紅達を想いたいから。

いつだって彼女達には曇りの無い笑顔でいてほしいから。


梅岡とかどうでもいいから。
                                         おわり

493:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 00:36:43 A2Q2prEt
GJ

梅岡哀れwwww

494:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 00:48:00 pC8QA9/A
GJ!

UMEOKAが~w
冒頭の夢はこれの伏線だったのか!

495:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 01:01:51 jXtajDIo
梅岡センセイご愁傷さまです。というか、最後の一行で吹きました。



懲りずに14行縛り。


「おはようです、蒼星石お姉ちゃん♪ 朝ご飯の準備が出来たですよ♪」
 いささか唐突な翠星石の言葉に、蒼星石は目が点になった。
「後から生まれた方が双子の兄、または姉なのです。だから、蒼星石は翠星石のお姉ちゃ
んですぅ♪」
 その日、翠星石は蒼星石の事を「お姉ちゃん」と呼び続けた。蒼星石の当惑なぞどこ吹
く風といった具合に。その夜、翠星石が寝付いたのを見計らって、蒼星石はジュンに事の
子細を説明した。
「―という訳なんだよ。すっかり調子が狂っちゃった」
「あ、ごめん。それを教えたのは僕」
「……頼むから、翠星石に余計な事を吹き込まないでよ」
「あくまでも、人間の場合として教えたんだけどなぁ……」
 蒼星石が刺した釘の穴を、少しでも広げるようにジュンは呟いた。蒼星石はキレた。
「それが余計な事なの! 被害を受けた僕の身にもなってよ!」
 それからしばらくの間、蒼星石がジュンと口を利かなかったのは言うまでも無い。


終わりです。

496:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 01:32:57 RZOneD4c
>>485
GJ!
まったく、真紅たちの想いとは裏腹に
JUMはひどいなw

>>495
まぁ、一生もんの失態だからねw

497:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 02:27:56 FpwZm5Yg
>>492
> 梅岡とかどうでもいいから。
声だしてワロタw

498:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 08:35:07 AItfTDBU
水銀燈「真紅ぅ~、今日こそジャンクししてあげるわぁ」
金糸雀「アリスゲームなんて下らねぇ!俺の歌を聞け!かしら」
真紅 「ヤック、デカルチャ~」


499:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 12:45:46 qCCg9Xf1
>>476
まっくろビーム、物の形を即座に表現し
命名された大変無駄のないネーミングですねw

続きwktk

500:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 13:39:06 95GlSkRk
>>492
アップルクラッシュは握力100㌔以上ないと出来ない荒技・・・恐ろしい

501:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 13:46:55 TNUsQMqB
ローゼンメイデンのエッチぃ漫画貼ったよ
女性管理人が趣味でやってる掲示板だから只だし安心
18歳以上の人~覗きに来てください(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
URLリンク(bbs7.fc2.com)

502:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 16:14:50 UcvuU5iP
・・・の多様は避けた方がいい。
文章が安っぽく見えるし、点だけで何がしたいのか伝わりにくい。

503:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 17:40:02 AItfTDBU
俺は・・・を多用した文章を書くのも読むのも好きだったりする。
過去に感動を受けた神作品や、二次やエロだけでなく好きな商業作品を読んだ結果。
普通にドバっと使ってるし読んで面白いし、使うべき調味料はドバっと使うのがうまい料理。

もちろん・・・の多用を控えた文章にもいいのがあるよ、
そういうのが共存できるのがこのスレのいいところ。

504:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 17:56:08 0SOz2XSc
>>492
シリアスシーンとギャグシーンの使い分けが絶妙ですw
>>495
14行という限られた行数で巧妙に物語を展開していて、見事です。
>>502>>503
ようするに、職人が・・・をうまく使い分けれるかどうか、ってことかな。
この前投下した自分の作品は出来ているかどうか不安だけど・・・。

505:アルテマ
06/04/25 18:46:17 voDgzcuJ
薄暗い世界、空もなく、雲もなく、ただ殺風景な景色だけが広がる空虚な世界。
そんな空っぽな世界には凡そ不似合いな轟音が鳴り響く・・・・

ビシュン!ガキィィン!

nのフィールドと呼ばれる異次元空間で日夜繰り広げられる血で血を洗う戦い、
アリスゲーム

人形師ローゼンが作り上げし7体の薔薇乙女達によるローザミスティカを賭けた戦い。

六つのローザミスティカを得た者だけがなれる完璧なる乙女、アリス。
そのアリスになる為、この虚無の世界で今宵も2体の薔薇乙女が死闘を繰り広げていた・・・・・・・・



506:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 19:03:48 4h2Urafu
>>505
え、終り?w

507:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 19:09:21 O4wM2z9V
ジャームーオージーサーン
ハーーーーーーーーーイ

508:薔薇乙女戦争
06/04/25 19:40:49 rbUz2kmo
>>461

 薔薇乙女の父に会った。そう聞いた真紅は初め、何かの冗談かと笑い飛ばした。
 アリスにならなければ会えないとされるドールズの創造主。その偉大な存在とジュンがとうに出会っている。近所の店で「槐」と名を変えて人形師をしていると彼は言うのだ。
 話をするジュンの顔は、真剣そのものだった。もしかしたら、と彼女が思い始めるのに、そうは時間は掛からなかった。
 薔薇乙女の誰もが恋焦がれた「お父様」がすぐ手の届く所にいる。真紅はいても立ってもいられなくなり、帰ったばかりのジュンを連れて外へと飛び出した。


「ジュン、本当にここなの?」
「ああ、そうなんだけど……」
 道路上で佇むジュンと、それに抱っこされている真紅。二人が見ている先はただの空き地。
 それも普通の空き地ではなく、土地はアスファルトで舗装され、街路樹や小さな花壇で整備されている。まるで、ここには最初から建物など無かったかのようだ。
 ジュンは狐につままれた顔で突っ立っていた。今さっきあった店が消えているのだ。ここに店が建っていた痕跡が微塵も無い。魔法でも使ったのか、そうでなければ、本当に店があったのか。ジュンは記憶に自信が持てなくなりそうだった。
 この怪奇現象を確かめたかったジュンは、通行人を捕まえて尋ねてみることにした。彼はちょうど通りかかった地元の人らしい私服の青年を捕まえた。
「すいません、ここに人形の店ってありましたよね?」

509:薔薇乙女戦争
06/04/25 19:41:47 rbUz2kmo
 青年は抱いている真紅を見て奇異な視線を向けたが、質問に答えてくれた。

「そういえば、あったな。あれ? でも、いつの間になくなったんだ……?」

 青年は店があった場所を見て首を捻る。やはり、ジュンの思い違いなどではなかったのだ。
「それは確かなの?」
「おう、確かに―」
 青年の動作が固まる。
 やたらと目立っていた人形が喋ったのだ。そして、その人形と目が合う。

「何? 私の顔に何か付いてる?」

 異様に自然な動作で頬に手をやる真紅。青年の顔は真っ青になる。まずいと思ったジュンは慌てて取り繕おうと苦笑する。

「ぼ、僕の腹話術、上手いでしょ? 将来は芸人を目指してるんです」
「ジュン、何を言ってるの?」
「いいから、黙って合わせろ」
「私に命令する気?」
「そんなんじゃないって!」
「じゃあなんなのよ」

 喧嘩を始めた二人を見て後退する青年。数歩下がって距離を取り、一気に背を向けて走り去った。真紅のことがばれてなくても、危ない人だと思われたのは確実だ。ジュンは髪を掻き毟った。



510:薔薇乙女戦争
06/04/25 19:43:00 rbUz2kmo
 真紅はジュンの言っていた事が信じるに値するものだと確信した。確かに人形店は存在し、ローゼンはそこにいたのだ。真紅が出向くなり消えた店が、それを裏付けているようなものだ。 
 自室に帰宅した真紅はもう一度、槐について詳しく聞いた。そして、ジュンはその事について苦々しく語った。

「あの人は壊れた翠星石を見て「自分の娘だ」って泣いたんだ。それで、翠星石を直してもらおうとした。だけど、駄目だった。どうしてだと思う?」

 真紅には辛い質問だった。お父様はアリスの誕生を望んでいる。それを考えれば、答えは明確だった。

「翠星石は……今のままの私達は、お父様に望まれていないから……」

 最終的に求められているのは完璧な少女。不完全な命の欠片を持つ薔薇乙女などは、そこへ行き着くまでの過程でしかない。それは、真紅が生まれた時から承知していた事だった。
 それでも彼女が父親を愛せたのは、確かな愛情を受けて生まれたからだった。ローゼンは、いずれはアリスになる娘達に等しく愛情を注いだ。例え道具として創られたとしても、その愛情は本物だった。

「そうだよ。ローゼンは翠星石のローザミスティカを見て「アリスに相応しい」なんて言ったんだ。ふざけるなッ。翠星石は翠星石だ!」

 思い出して熱くなるジュン。ふと、真紅は彼女が羨ましく思えた。傍にいられなくなっても、想い続けてくれる人がいる。私が遠くへ行ってしまっても、この人は同じように想ってくれるのだろうか。

「翠星石はジュンの心の中で生きている。あの子もきっと喜んでいるわ」
「まだ僕は諦めてない」

 翠星石が死んだように言われ、ジュンは気分を悪くした。だが、絶望的なのは彼も解っていた。頼みの綱の槐には断られ、しかも、その槐がローゼン本人だったのだ。他に薔薇乙女を修理できそうな当ては無かった。

「わかってるわ。でも、これだけは言わせて」
「何だよ」
「もし、私が倒れても、ジュンの心の中に居させてくれる? 居場所はほんの小さなスペースでいいの……」


511:薔薇乙女戦争
06/04/25 19:43:50 rbUz2kmo
 ジュンは言葉を失った。激情に駆られて、またも真紅のことを忘れてしまっていたのだ。忘れていたばかりか、彼女を追い込むような質問さえしている。
 目の前の真紅は怯えているのか、いつもより小さく見えた。それに、あの真紅が負けを考えるような弱気になっているのだ。その心情は察して余りある。ジュンは不甲斐ない己に腹を立たせ、拳をぎゅっと固くした。

「そんなスペースはない」

 真紅は呆然と目を見開いて放心した。そして、俯いて肩を落とす。最後の居場所まで無くなったのだ、と……。
 だが、ジュンにそんなつもりはなかった。

「真紅は倒れない。僕が倒れさせない。だから、そんなスペースは用意してない」
「ジュン……!」

 感極まった真紅は、目頭が熱くなるのを感じた。しかし、気丈な彼女は涙は見せない。彼女は誇り高い薔薇乙女なのだから。
 そして、ジュンはその彼女に相応しい男に育ちつつあった。出逢ったばかりの頃の彼の暗さは影を潜めている。自暴自棄の彼に励ましの手を差し伸べ続けた成果が表れ始めたのだ。
 真紅は己のマスターを誇らしく思えた。同時に、不甲斐ないドールで申し訳なく思えた。いつしか戦いを恐れるようになり、蒼星石との戦いではマスターの負担を顧みない愚を犯してしまったのだ。
 ドールはマスターの期待に応えなければならない。真紅はジュンの想いに応えるべく、新たに決意を固める。
 二度と情けない姿は見せない。
 ゆっくりとだが、彼女の闘志は戻りつつあった。





512:薔薇乙女戦争
06/04/25 19:44:52 rbUz2kmo
 金糸雀は日傘を片手にnのフィールドを彷徨っていた。と言っても、当ても無くぶらついている訳ではない。彼女には目的があった。
 そして間も無く、彼女は目的の人物と遭遇する。

「アリスゲームを、始めましょう」

 白い髪の少女の開口一番は宣戦布告だった。
 それでも、金糸雀は驚かない。一斉に脱落者が出た今、これは至極当然の成り行きなのだ。

「まずは話を聞いて。ゲームはその後でもできるのかしら」

 日傘を差したまま、彼女は落ち着いて不戦の意志を告げる。薔薇水晶は何も言わずに静止する。それを了解と受け止め、金糸雀が話を始める。

「私は雛苺のローザミスティカを手に入れたわ。だから、持ってるのは二つかしら。あなたは?」
「答える必要がありません」
「そうね。でも、多くて三つかしら。真紅が少なくとも二つは持ってるもの」

 金糸雀は頭脳派と自称するだけあり、情報の収集に余念が無かった。住居が特定されている真紅の監視は比較的やりやすい。これを見逃すのは愚かだ。
 彼女は人工精霊のピチカートを偵察に連日送り、翠星石の脱落を知ったのだ。隙を突いて雛苺を襲えたのも、その努力があっての事だった。

513:アルテマ
06/04/25 19:45:22 voDgzcuJ
翠星石「ハァ・・ハァ・・・・」

息を切らす一体の人形、エメラルドとルビーの左右で色の違うオッドアイ、草原をイメージさせる様な緑のドレスに自身の背丈以上に長いブラウンの髪・・・・・・
 彼女の名は翠星石。人形師ローゼンが作り上げし第3ドール、人の夢の扉を開き、心を育て、癒す夢の庭師。
彼女もまた、自身の宿命に従い、アリスを目指して戦う者の一人である。

この日は自身の双子の妹である第4ドール・蒼星石に会いに行くため、nのフィールドを通って蒼星石が世話になっている家え迎う所だった。

普段は鞄に乗って空を飛んで移動しているのだが、生憎この日は大雨で、空を飛んで行くの不可能だった。そのため、普段は戦いの時ぐらいしか入らないnのフィールドを通って向かおうと考えたのだ。だが・・・

それが全ての間違いだった
―――
――




翠星石「ハァハァ・・・・・クッ!」

ジャキィィン!ズオォォン!

満身創痍の翠星石に水晶の巨槍が襲う。

ヒュンッ!

足元から不規則に出現する巨槍を紙一重で躱す翠星石。その表情からは余裕は感じられず、動くだけで精一杯だった。

514:薔薇乙女戦争
06/04/25 19:45:49 rbUz2kmo

「あちらはローザミスティカ二つに加えて、ミーディアムのジュンまで居る。正直、カナの勝ち目は薄いかしら」

 マスターを殺された金糸雀の戦力は、大幅にダウンしていた。ローザミスティカを一つ奪ったが、相手も同じように強くなっていては戦いが有利にはならない。真紅が翠星石のローザミスティカを使えば、金糸雀と同じ数になる。
 彼女はこの差を埋めるために薔薇水晶と接触したのだ。今から、そのための交渉に入る。

「もしもあなたにマスターがいないとしたら、やっぱり真紅には勝てないと思うわ」

 仮定が当たっていても、薔薇水晶の表情は変わらない。彼女も指輪の契約はまだだった。ローザミスティカも蒼星石から奪っただけなので、真紅とぶつかれば苦戦を強いられるのは確実だろう。
 だが、彼女はどんな状況でも真紅に負けるつもりはなかった。分が悪いのなら、目の前の少女の力を奪うまでだ。自然と瞳に殺気が宿る。
 敏感に危うい空気を感じ取った金糸雀は、事が起こる前に本題を述べた。

「そこで提案だけど、私と手を組んで欲しいのかしら」

 それは、同盟の提案だった。アリスゲームに明確なルールは無い。これも立派な作戦だ。

「もちろん、真紅を黙らせるまでの一時的なものよ。ダメなら、ここで命の取り合いをするしかないのかしら」

 共闘の誘いを受け、薔薇水晶は熟考する。
 ここで金糸雀を潰すのも悪くない。しかし、万が一にも手傷を負わされでもしたら、その後の強敵真紅に勝てる見込みは無くなる。
 アリスに選ばれるのは一人だけ。最後まで生き延びなければ意味がないのだ。最も優位な立場の者を蹴落としたいなら、下位で無用な争いをするべきではない。益々、上位が楽になるだけだ。
 それに、ここで誘いを蹴っても損をするだけだ。下手をすれば、金糸雀が他のドールと組む事もありえる。金糸雀があくまで最終的な勝ちを狙うなら、真紅を誘っても何ら不思議ではない。
 結論は出た。

「いいでしょう」

 その返事に満足し、金糸雀は不敵な笑みを浮かべる。薔薇水晶も同じ笑みでそれに返した。



つづく

515:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 20:11:51 HgjdDmIt
おまえら総合スレのほうも見てやれよ

516:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 20:37:37 AItfTDBU
当然、関連のスレは一通り拝読させて頂いている。
各々のスレがいい書き手を抱え、良質なSSを輩出している。
極めて良好な状態に見えるが?


517:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 20:43:09 4h2Urafu
>>514
まってました!
翠星石の死すは翠派としてつらい物がありますが
物語が整っていて大変、自然と感情投入してしまいます
もうGJとしか言い様がありませんね

次回作wktk!

518:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 21:01:18 HgjdDmIt
>516
コンディションなんて誰が聞いたよ?

519:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 21:07:48 voDgzcuJ
薔薇水晶「・・・・・・。」

翠星石から数メートル先、金色の瞳、左目には薔薇のアイガード、紫電の髪を靡かせ、紫のドレスを纏うその姿はまさに悠然の二文字。

自身の手掌から繰り出される攻撃を必死に回避する翠星石を無表情で見つめ、一切手加減する事なく、非情なまでに攻撃を加え続ける・・・・・

薔薇水晶―――

ローゼンメイデン第7ドールにして薔薇乙女最強の戦士。冷酷にして非情・・・・・勝つの為なら手段を選ばない戦いぶりに畏怖する者も多い。

ドドドドッ!ガシュゥン!

翠星石「クッ!」

薔薇水晶の攻撃を躱し続ける翠星石。そしてそれを尚も冷徹な面持ちで見つめる薔薇水晶。

翠星石「ハァ・・・ハァ・・・・何なんですかアイツは!?しつこい野郎ですぅ!」

薔薇水晶の猛攻に曝され、満身創痍になりながらも自身の苛立ちを吐き捨てるように翠星石が叫んだ。

事の発端は一時間前、蒼星石の元へ向かうべくnのフィールドを一人意気揚揚と歩いている所を突如薔薇水晶に強襲され、有無も言わさず戦闘になったのだ。
 序盤こそ善戦していたが、その実力差故に徐々に押され始め、今では首を落とされる寸前にまで追い詰められている。

翠星石「(こんな事なら黙って家に入れば良かったですぅ~)」

自分の愚行に対して今更ながらに後悔する翠星石。
そもそもnのフィールドというのはドール達にとっては庭の様なものであり、自分の力を最大限まで引き出して戦える場所である。

そんな世界に一歩でも足を踏み入れれば、それを自身に戦う意志があるという証明であり、例え襲われても文句は言えない。それはドールである翠星石自身もよく知っている筈だったが、桜田家での平穏な生活がそれを忘れさせていた・・・・



520:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/25 21:59:54 FpwZm5Yg
書きながら貼るより、一度メモ帳に纏めて(携帯なら下書き保存して)完成してから貼った方がいいよ。

521:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/26 01:06:57 aoOQLIPO
>>514
続きwktk

522:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/26 03:14:19 F8Nq2vig
良作投下のラッシュ、嬉しい悲鳴を上げながらこのスレを読んでます
ボクも微力ながら向こうを張る気持ちで、一本書き上げました

では、SS「されざる者たち」、投下します

523:されざる者たち
06/04/26 03:16:45 F8Nq2vig

ある日

ニュースでもネットでも、不自然なほどの平穏が保たれた、とても平和なように思えた日
僕は真紅に呼ばれた、神妙で無表情な顔、僕は知っていた、真紅のその顔の意味、青く冷たい瞳の意味
とても辛く悲しい事を封じ込めた顔、ローゼン・メイデン達がその永い営みの中で数多く経験した悲しみ
どうにもならない別れ、忍従、諦念、無力感、そして怒り、それらを湛えた青い瞳が僕を見つめる

背を向けたまま何も話そうとしないまま歩く真紅の導きで、僕は階段の下、僕の家の玄関に降りていった
開け放された玄関には既に他のローゼン・メイデン達が集結していた、揃って無言で僕を見つめる
真紅を加えて7体、七人のドール達が黙って僕を見つめる、そして真紅がやっと重い口を開いた

「ジュン、私達、貴方に言わなきゃならないことがあるの」
それだけ言って口篭もる真紅に、何故か今日は大人しく他のドール達と一緒にいた水銀燈が割り込んだ
「人間・・・私達、あんたらとおさらばするって事よぉ・・・丁度いい厄介払いでしょお?」
水銀燈の瞳は微かに泣き腫らされていた、ここに来る前にあの病床のマスターに別れを告げて来たのか
「う・・・うぅ~、ツライですぅ~・・・・翠星石はせっかくチビ人間を真人間にしてやろうと・・・」
翠星石はいつもの意地っ張りが嘘のように泣きじゃくってる、僕らはいつだって、手遅れの繰り返し
「仕方ないんだよ・・・これが歴史の必然・・・もう僕たちは、明るいおもてを歩けないんだ・・・」
なぜか最も冷静を保っている蒼星石の姿から、一番大きい泣き声が聞こえた気がした・・・泣きたくなった
「ヒナはこんなのいやなのー!ヒナわかんないもん!なにもわるいことしてないのに!おわかれなんて!」
怒りと悲しみに地団駄を踏みながら涙を流す雛苺、それが彼女だけでなく皆の本当の姿なんだろう
「命は・・・大事なのよ・・・みんな自分の命が大事・・・・愛する者の命ならどうかしら?」
薔薇水晶の無感動な顔、彼女は目の前の僕じゃなく、もっと大きい物と戦っている、そして嘆いてる
「皆気づかないのかしら!誰の為にお別れしなきゃいけないの?私やマスターじゃない奴等の為かしら!」
みんな気づいてる、「奴等」の正体も意図も、それに何も出来ない僕らの無力さも・・・正義は、死んだ

僕は立ち尽くした、僕は無力、僕は正しくない、僕は異端、でも、奪われていいものなんて何もない
「そんな・・・そんな突然・・・何でだよ!何とかならないのか?何か方法が・・・せめてもう少し時間を・・・」



524:されざる者たち(2)
06/04/26 03:17:32 F8Nq2vig

それでも、何もない僕には、言葉しか術は無い、僕は空に向け、絶対言いたくなかった言葉を叫んだ

「ローゼン・・・見てるんだろ!・・・・こんなこと許していいのか?・・・何とかしてくれよ・・・・頼むよ・・・」
僕は跪いて涙を零した、ロクでもない人形師のためじゃない、僕らを引き裂く「力」のためじゃない

その時・・・曇り空の間から光が射した、決して晴れないと思われた雲が、ほんの少しの光明を落とした

天空から「矢」が飛んできた、無数の黒い矢がドール達の顔面に降り注いだ
ドール達は強い電流に撃たれた、1千ボルトもあろうかという電圧、絶縁体強度検査のような過酷な電圧
彼女達は倒れない、矢の衝撃にも、確実に寿命を縮める高い電圧にも、彼女達は決して倒れない
矢はドールの顔面に刺さり、それは紋章となって焼き付けられた、3つのアルファベットの紋章

静かになった

顔面に矢を食らったドール達は、お互いの顔を見合わせた、真紅は右頬に、水銀燈は目の周りに、
ドールの顔のあちこちに刻みつけられた矢の紋章を見て、笑い出した、涙を出しながら笑いつづける
「奇跡よ・・・奇跡が起きたのだわ・・・・」
「あぁ・・・お父さま・・・ありがとうございます・・・こんな私の事も、認めて下さるんですね」
「あはは・・・しょーがねぇからこれからも居てやるです、でも・・・あと少しだけ・・・ですぅ・・・・」

「真紅・・・みんな・・・ソレは一体」
誇り高き薔薇乙女達は、顔に紋章をつけた物凄くみっともない姿で、高らかに声を合わせて謳った

                 「PSEマークよ!」

「ジュン・・・私は真紅、誇り高きローゼンメイデンの第五ドール、経済産業省認定のお人形」


525:されざる者たち(3)
06/04/26 03:18:53 F8Nq2vig
パン!パン!パン!パン!

「トリビァル!見事な茶番でしたな、とりあえずあなた方には、ほんの少しの「飴」を与えましょう
販売はレンタル、猶予期間の延長、『消費者保護』は誰の保護?お神の為でない法があるでしょうか?」

「ウサギ」から与えられた時間はほんの少し、無力な僕らが足掻く様を彼らは笑う、でも、僕らは・・・

「私達が、必ず何とかしてみせるのだわ!」
真紅がウサギに、いつも雲の上から弱き者に痛みを強いるウサギに一歩も退かず、意思の声を上げた

「あんまりあざといマネで私ら零細な者をシメ上げると・・・何するかわかんないわよぉ」
水銀燈は本当に何するかわからない不気味な笑みを浮かべた、海の向こうの悪魔とさえ契るだろう

「そうですぅ!私達はゴマじゃないんだから、絞れるだけ絞ろうなんて奴等は痛い目に遭えです!」
翠星石はたくましくしたたかな、鳴かぬ者が鳴くまで待つタヌキのような食えない笑顔を浮かべた

「僕たちは生かさぬよう殺さぬように搾り取られてきた、それなら僕らにも考えがある」
蒼星石は努めて争わず決して退かない、しぶとく忍耐強い三河武士のような強い意思をみなぎらせる

「みなしレンタル、オブジェ扱い、偽装輸出、この私にかかればあいつらなんて穴だらけかしら!」
金糸雀の猿知恵、でも追い詰められた者の知恵は何よりも怖い、その知恵の結論は「法の無視」

「フランスはデモとかしてこわいのー!でもヒナは何もしない日本の若いひとの方が怖いの」
雛苺は見た・・・オイ!僕のことか?僕は何もしてない、何も生み出さない、それが何だってんだ

「何もしない事・・・それは最大の破壊、それは彼らが最も恐れる、富を還流するシステムの破壊」
薔薇水晶の言ってる事がわからなかった、僕は、ひきこもりの僕はずっと、わからないふりをしていた

確かに僕は限りある富を食い続けるだけで、何一つ世の中に富をもたらしていない、それはいけないと
思っていた、「彼ら」に富を返さなくちゃいけないと思ってた、でも、彼らが信用出来なくなった時
僕はそういう努力をやめてしまうだろう、ガッコ行って働いて、そういうのへの義務感は鈍るだろう
僕ひとりがそうなった所で何かが変わるとは思えないが、僕みたいなのがゴマンと出てきたら・・・
「彼ら」はその時、気づくんだろうか、愛さない者は愛されない、えげつない奴等は早暁に破滅する
破壊する者達、奪われざる者達、支配されざる者達、僕は・・・・・・・・・もう少しひきこもろうかな


誇り高き薔薇乙女、とても幸せな僕のお人形達は揃って見つめた、彼らを見つめた、そして、宣言した

「私達ローゼン・メイデンは電気用品安全法に反対します!」



されざる者たち(完)

526:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/26 03:20:06 F8Nq2vig

あとがき

先立って成立した「自動車リサイクル法」に涙を呑んだ者として、この話を書きました

家電の流通を許可するPSEマークを付与する為の検査は、1千ボルト近い電圧をかけるらしいです

旧い楽器を愛好する人達、家電板に居る「冷蔵庫や洗濯機を型番で呼ぶヤツラ」そんな熱い奴等に
願わくば試練よりも福音がもたらされることを祈ります、様々な物々の進化を創るのは彼らだから

では、また近いうちに

                               吝嗇

527:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/26 08:36:07 vMlqp5Ei
GJ!
読みごたえがありました

528:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/26 08:54:27 N0veIz/b
>>526
なんだかよくわからないが熱い志を持つことは理解できた

529:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/26 14:28:25 GBGhDLBX
経済産業省認定・・・(´A`)

面白かったですw

530:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/26 16:16:07 YlUii6fo
長い

531:妄想のままに
06/04/26 18:38:26 e7CJ0QeV
タイトルは「お菓子選挙」

532:妄想のままに
06/04/26 18:39:23 e7CJ0QeV
「スコーンですぅ!」
「いいえっ、クッキーだわ」
春の暖かな日差しに包まれる桜田家で
今小さな争いが繰り広げられている
リビングで言い争う翠星石と真紅、何でこんな事になったのか
そんな2人を眺めながら、ジュンは頭の中で呟いていた

533:妄想のままに
06/04/26 18:42:03 e7CJ0QeV
ご飯を食べ終わり、各々が自由な時間を過していた
雛苺と真紅、翠星石はソファーで何時ものくんくんを楽しみTV鑑賞会
蒼星石はのりと食器の後片付けをしていた
「くんくんっ、誰なの?犯人は誰なの?」
「犯人は絶対あの猫娘ですー、今にあの犬探偵の口から語られるはずですぅ♪」
「うー、くんくんすごいのー、頑張るのくんくんー!」
3人がTVに熱中している中
食器を洗いながら、のりがふと真紅達に訊ねた・・・。
「今日のおやつ、何がいいかしら?」
いつもなら大体彼女のおまかせで作られているのだが、今日はリクエストに応えてくれるらしい
ドール達に問い掛けたあと、最初に雛苺が声をあげる
「ヒナはねぇー、のりが作ってくれるおやつならなんでもいいのー」
「僕も特には、のりさんのおまかせでいいよ」
一緒に食器を洗っている蒼星石からも同じ返事が返ってきて
2人の言葉にのりは少し嬉しくなった
自分はみんなから信用されてるのかな、何てバカな事を頭の中でぼやきながら
思わず表情に漏れて微笑んでしまう
「そっかぁ~、じゃーわかったわ!今日も私が頑張って
「そうですねぇ~、翠星石はスコーンが食べたいですぅー」
と言おうとしたが、途中で翠星石からのリクエストに阻まれてしまった
少し笑顔が歪んだが、元々自分が言い出した事なのですぐ立ち直る
「スコーン~?雛苺も食べたいのー!」
「姉さんがそう言うなら」
他の2人も異論はない様なので、今日のおやつはスコーンに決まるかに見えた
だが
「じゃー翠星石ちゃんの言う通り、今日はスコーンに
「まって、のり、私はクッキーが食べたいのだわ」
今度は真紅からの声に、また言いそびれてしまった
「クッキー?んー、ヒナも食べたいのー」
「へぇー、きみが他人の意見に口を出すなんて意外だね」
のりが作ってくれる物なら何でもいい雛苺に
真紅の普段見せない反応に意外性を浮ばせる蒼星石
それに真紅が迷いなく答えた
「今日のくんくんはクッキーを食べていたの、私はくんくんの一番の助手ですもの
そんな私がくんくんと同じ物を食べなくてどうするのだわっ!くんくんと同じ物を食べて、同じ生き方を貫かなきゃ
真にくんくんと心を通じ合わせるのは不可能なのだわ」
恥らう様子もなく、淡々とくんくんへの愛を語る
「うぬー?くんくんがクッキー?、食べてたっけーなのー」
「そう言えば食べてた気もしますけど・・・多分ほんの一瞬ですぅ、よく覚えてましたね真紅」
同じTVを見ていた2人だが、返事は疑問形で返って来た
「貴女達にはくんくんへの愛が足りないのよ!」
大真面目に一喝を入れる
おそらく、くんくんを見ている間の彼女は動体視力が飛躍的に揚がるのだろう。愛は常識を凌駕するらしい
しかし、その二つのリクエストにのりはやや困った顔を見せる
「えーと、どうしましょう・・・今日は卵と小麦粉をあまり沢山用意してなかったから
二つも一緒に作れそうにないのよ」
ちょっとしたトラブルの発生に、今日のおやつの献立を決め兼ねているのりだが
戸惑う彼女に真紅が愛の名の元に畳み掛けた
「クッキーは今日でなきゃ意味がないの、私のくんくんは今日クッキーを食べていたのよ
明日じゃダメなの、そう言うわけだから翠星石、今日のスコーンは諦めてちょうだい」
きっぱりと言い切る。だが、それに翠星石が応じようとしなかった
「ちょ、ちょーっと待つです!昨日もクッキーは食べたですよ
何で2日も続けて同じ物を食べなきゃならないのですかぁ~、断然今日はスコーンですぅ!」
「あなた、私とくんくんとの愛を引き裂こうって言うの!?」
「そんなの知らないですぅ、花よりだんごですよ!」
「ちょ、ちょっと2人とも・・・」

534:妄想のままに
06/04/26 18:43:06 e7CJ0QeV
とまぁ、僕が2階から降りて見たらこんな感じである
「大体スコーンなんて、お菓子は味もそうだけれどそのシェフが奏でた繊細な形を楽しむ物よ
生地と言うキャンバスに描かれた小さな芸術品なのだわ、それを何?
あんな何も手を加えずに無造作に膨らませた様な外形は。まったく、洋菓子の風上にもおけないわ」
まだ言い争っている様だ
「クッキーも作れない真紅にお菓子のなんたるかを語る資格はねーですぅ!
あの雲の様で、口に入れた瞬間に広がる柔らかさ~♪さらに中にレーズンを入れるともっと美味しさが増すですよ~
あんな石を食べてる様なお菓子より絶対スコーンですぅ」
なんです~!なんなのだわ!
2人による互いのお菓子の罵り合いは激しく続いた
そんな中、まるで自分の腕を否定されているかの様で途端に落ち込んでしまった娘が一人いるのは
言うまでもないだろう
「わたしなんて・・わたしなんて・・・」
「けんかはやめるの~」
「そうだよ、2人とも落ち着いて」
言い争う翠星石と真紅を、見兼ねた2人が引き止める
その言葉が届いたのか、ハッと2人が我に返った
「そうね・・・、私ともあろう者がちょっと熱くなり過ぎたわ」
「所詮お菓子くらいの事で、大人げなかったですね」
これでやっと事が治まったかに思えた、ジュンも騒動の終着に1つ安堵の息を付く
のだが
「けど、私はやっぱりクッキーが食べたいのだわ」
諦めてないらしい、そこで次に真紅が1つの妙案を言い出した
「それなら今日のおやつをどちらかにするか
みんなに決めてもらうって言うのはどう?票を多く勝ち取った方が今日のおやつよ」
その妙案に、勝負好きの翠星石が快く受け入れる
「それは名案ですぅ~♪受けて起ちますよ真紅」
「負けないのだわっ!」
「こっちこそです!」
蒼星石や雛苺、落ち込む姉ちゃんや僕を他所にどんどん話を進めていく2人
まったく、そのお菓子を作るのは誰だと思ってるんだか・・・

535:妄想のままに
06/04/26 18:45:02 e7CJ0QeV
一通り張り合った後、さっそく翠星石が行動に出た
「と言うわけでチビ苺、クッキーとスコーンどっちが食べたいです?」
「うゆー?えーっとねー、ヒナはねぇー」
迷っている雛苺に、そっと耳元で囁き掛ける
「スコーンはですねぇ、苺ジャムを浸けるととっても美味しいのですよー」
「苺っ!?ヒナ、スコーンがいいー!」
有権者の好物を利用した見事な戦術で一票を獲得した
「ず、ずるいのだわ翠星石っ」
「スコーンの利を生かしたまでです~♪これで一票ゲットです~」
負けじと真紅も蒼星石に問い詰める
「蒼星石、貴女はどちらがいいの?」
「僕は別に、どっちでも」
そんな特に関心の無さそうな返事に
「貴女、昨日の・・・・いいのね?」
「ク、クッキーが食べたいなぁ~」
見事な精神操作で一票を巻き返した
「昨日って、何があったですか蒼星石・・・」
「な、なんでもないよ!それより早くどっちにするか決めようよ!」
相当まずいのか、慌てて話を逸らそうとする。本当に何があったのやら
「くぅぅ、妹を脅迫で揺さ振るとは卑怯ですよ真紅」
「やったもの勝ちなのだわっ」
これで1-1、次に狙うのは・・・
グリンッ、今まで様子を眺めていた僕に一斉に顔を向けてきた2人、少し怯んでしまう
しかし、そんなジュンの動揺もお構いなしにズンズンと近寄ってくる
「チビ人間っスコーンかクッキーどっちがいいんです!」
「ジュン、クッキーとスコーンどちらがいいの!」
「わ、まて、そんな同時に言われても」
いきなり叫ばれてまた戸惑うジュン
それからじっと2人が見詰めてくるものだから、意味もなく頬が赤くなり慌てて目を逸らした
何を動揺してるんだ僕は
「・・・どっちも、じゃダメか?」
「ダメです!」
「ダメだわっ」
んな事言われても、どちらか一方を選べばどっちかに殴られるのは目に見えている
そうジュンが返事を迷っていると、ふと翠星石が訊ねて来た
「チビ人間っ、フワフワとカチカチ、どっちが好きです?」
「え?えーと・・・フワフワかな?」
この返事に、してやったりの笑みで勝ち誇る
「でしたらー、ジュンはスコーンの方が好きに決まってるですぅ~これで2票ゲットです♪」
「ま、待つのだわ!クッキーはサクサクなのよ、カチカチじゃないのだわっ!」
「どっちでも一緒です~、ジュンは硬いのより柔らかいのを選んだんですぅ~♪」
「ジュ・・・ジュンッ!」
真紅が睨みながらこちらを振り向いた・・、いや、これは違っ
「おい、ま、まって」
左ストレート絆パンチ!
「グハッ」
カンカンカーンッ!WINNER赤いのッ!

536:妄想のままに
06/04/26 18:47:07 e7CJ0QeV
倒れたジュンは放って置いて、雛苺がしゃがみながら指で突っつき、ジュンの頭の上にお線香を焚いてお祈りをしている
「まだよ、まだのりがいるわっ」
必死に挽回を謀ろうとする真紅だが
「のりはもうダメです~」
そう告げると、翠星石が目をのりに向ける
そこには俯いたまま、すっかり自暴自棄になってしまった彼女
「わたしなんて・・わたしなんて・・・」
「のりー!のりーー!」もはや返事を訊ける状態ではなかった
「これで決まりですねぇ~、今度こそ今日のおやつはスコーンですー♪」
「ま、待つのだわ!まだあの子がいるのだわっ」
そう言ったかと思うと突然片手から花びらを舞い上がらせた
え、何する気ですか・・・
それは手から滞りなく舞い続け、頭上に桜色の集合体を形成して行く・・、
一通り放出した、次の瞬間、勢い良くその花びら達をドアに向けて飛ばし出したっ
リビングの中を、桜色の一線が駆け抜けるっ
そして、バーンッ!
花びらがぶち当たり、そのままドアが勢い良く開いたっ
ひっ、いきなり何をやらかすですかこの娘は
翠星石がそう驚嘆の表情を見せていると
「うぅ・・・」ドアの外で花びらに埋もれた金糸雀が顔を揚げた
「さぁ、話は聞いていたんでしょ?貴女はどっちなの?」
「いきなり、この仕打ちはひどいかしらー・・」
途端に隠密がばれてしまった金糸雀、突然の攻撃に埋もれて、意識がもうろうとするが
「うぅ、カナはーー、えーっとー」
睨み付け、金糸雀に見える様に拳を握る
「ク、クッキーがいいかしらぁ~!」
「これで同点だわっ!」
「い、色々とずるいですー!」
こうしてまた、振り出しに戻ってしまった。
もう他のドール達は2人に振り回されてぐったり
頭に線香を乗せたまま意識の戻らないジュン、祈り続ける雛苺
翠星石もさすがにはしゃぎ過ぎたと言った感じで、ソファーにぐったり倒れ込んでいる
そんな疲れ切った雰囲気の中、真紅が一言呟いた
「そうよ」


「ジャンケンだわっ」

537:妄想のままに
06/04/26 18:49:07 e7CJ0QeV



間違えて二度もageてしまいました、すいません
本当にありがとうございました。

538:アルテマ
06/04/26 23:31:05 knRyyDa8
ビシュン!ガシュゥン!

翠星石「きゃあ!」

尚も続く薔薇水晶の容赦無い攻撃。隙の無い攻撃に反撃する事すら出来ずに追い詰められる一方の翠星石。

翠星石「もう!雨なんか降らなきゃこんな事にならなかったのに!っていうか蒼星石が一緒に暮らさないのが悪いんですぅ!」

自らの軽率な行動を雨と蒼星石のせいにして逃げ惑う翠星石。

薔薇水晶「・・・・・・・」

薔薇水晶は依然として攻撃の手を緩める事無く、執拗に翠星石を追い詰めていく。相変わらずその表情からは一切の「情」は感じられない・・・

翠星石「この・・・・いつまでも調子に乗るんじゃねーですよ!スィドリーム!!」

一か八か・・・薔薇水晶の容赦無い攻撃に手を拱いていた翠星石が人工精霊を呼び出し攻撃を仕掛ける。

キィィィーーン!

頭上から薔薇水晶の頭部目がけてスィドリームが高速で飛来する。しかし・・・

ガシィッ!

スィドリームが頭部に命中する寸前、薔薇水晶の左手がスィドリームを素早く掴み取る。スィドリームが飛来する方向に視線を移す事もなく・・・・・

翠星石「スィドリーム!」

完全に死角を突いたつもりが、簡単に防がれた事に驚きの色を隠せない翠星石。
薔薇水晶「馬鹿正直・・・・こんなものを攻撃とは言わない・・・・・」

薔薇水晶が無機質な声で呟く。

翠星石「クッ!」


539:薔薇乙女戦争
06/04/27 20:50:48 12EYk/7X
>>514

 ある日の午後、ジュンの家に久々の来客があった。
 しかし、客人と言っても人ではない。その小さな客人は金糸雀だった。
 彼女は堂々と正面から玄関の呼び鈴を鳴らし、のりにリビングへと通された。雛苺の事を知らされてないのりは、上機嫌で紅茶と菓子を出す。

「カナちゃん、どこへ行ってたの? 心配してたのよぅ」
「どこってほどの所はないかしら」

 金糸雀はソファーで紅茶を一口飲み、部屋を見る。他には誰も居ない。この部屋も静かになったものだ、と感慨に耽る。この時間、少し前までは薔薇乙女の憩いの場だったというのに……。

「真紅は?」
「たぶん、二階ね。呼んでこよっか」
「お願いするわ」

 金糸雀はカップを置き、気を引き締める。今から会う真紅は仇であり敵なのだ。呑気にお茶を楽しむ事は許されない。
 そんなことになっているとは露知らず、のりは軽い足取りでリビングを出た。

 のりが呼びに行ってすぐ、真紅が硬い表情で金糸雀の前に現れた。後ろにはジュンの姿も見える。アリスゲームの真っ最中の今、マスターの彼が付きっ切りになるのは当然だ。
「真紅、元気そうでなによりかしら」
「貴女もね」
 金糸雀の挨拶には皮肉の意が込めてある。真紅もそれを解って返している。のりだけが普通の挨拶だと受け取っていた。金糸雀はソファーから降り、真紅の前へ出た。

「私がここへ来た意味、言わなくても判るかしら」


540:薔薇乙女戦争
06/04/27 20:51:57 12EYk/7X
 真紅は判っていた。だが、それを認めてしまっては悲劇を避けられない。もう手遅れなのは彼女もひしひしと感じている。それでも、言わずにはいられなかった。

「金糸雀、まだ遅くないわ。ここに戻ってきて。雛苺の事は水に流すわ」
「別に流さなくても構わないかしら。カナはみっちゃんの事を水に流すつもりないもの」

 まさに、聞く耳持たず。金糸雀は真紅の言葉を一笑に付した。これには、ジュンも何かを言いたくなる。

「お前はそれで本当にいいのか?」
「それはこっちのセリフかしら」

 金糸雀はきっと睨み、ジュンの物言いに反発を見せる。彼が気に入らないようだ。

「ジュンはどうして真紅の味方ができるのかしら。悪いのは全部真紅よ」
「まだそうと決まったわけじゃ……!」
「決まってるのかしら!」

 眼前で繰り広げられる剣呑な言葉の応酬に、のりはおろおろとうろたえるばかりだ。
 言い合ってても仕方がないと、金糸雀が一歩一歩と足を前に出し始める。

「ついて来るのかしら」

 それは戦いへの誘い。アリスゲームを申し込まれた以上、無視する事はできない。仮に無視しても、ここが戦場になるだけだ。
 やはり、こうなるしかなかったのか。真紅とジュンは、諦めに似た思いで金糸雀の後に続いた。そこが、最後の決戦の場になるとも知らずに。





541:薔薇乙女戦争
06/04/27 20:53:40 12EYk/7X
 金糸雀に連れてこられた異世界は殺風景な所だった。
 辺り一面が真っ白な雪原で、地平線の彼方まで全方位に建物の一つ、木の一本も見えない。空はどんよりと厚い雲に覆われ、微かに粉雪がちらついている。
 金糸雀は二人と距離を置いて対峙する。戦いの幕開けが目前に迫っていた。

「そろそろ始めるかしら」

 武器であるバイオリンを形にした時、彼女の上空に異世界からの扉が開く。
 そこから飛び出したのは薔薇水晶だった。
 金糸雀と薔薇水晶が当然のように並んで立つ。完全に罠だったのだ。

「お前達、二人掛かりなんて卑怯じゃないかッ」
「何が卑怯なのかしら。真紅とジュンで二人。カナと薔薇水晶で二人。とっても公平な戦いかしら」

 ジュンが抗議するが、金糸雀はそれを一蹴する。それを言い出したら、最初に同盟を組み始めたのは真紅の方なのだ。ジュンの所に集まっている真紅達に金糸雀も一度は戦いを挑んだ。
 彼女には罪悪感の欠片もない。バイオリンを喉元に構え、宴の始まりを奏でる。

「第一楽章、白雪のプレリュード!」

 弓が弦を激しく擦り、かなり騒々しい前奏曲で始まった。耳をつんざく音の連続は、曲と言うのもおこがましいものだった。ちなみに、曲目に意味はあまりない。彼女がその場の気分で付けているだけだ。

542:薔薇乙女戦争
06/04/27 20:55:59 12EYk/7X

「うわっ、耳が……ッ!!」

 騒音攻撃だと思ったジュンが両手で耳を塞ぐ。
 だが、それは間違いだ。本当の攻撃はこれから来る。
 演奏の高鳴りと同時に金糸雀の姿が陽炎のように揺らぐ。空気が大きく振動しているのだ。そして、その揺らいだ空気の塊が前方に何発も撃ち出される。
 それが見えていたジュンは、驚いて逃げようとした。
 しかし、耳を塞いでいては体勢が悪く、見事に逃げ遅れた。瞬間的に体が逃げるのを諦め、頭だけを守ろうと顔を逸らす。
 その時、小さな影が彼の前に躍り出る。彼女は手を翳し、薔薇の花びらを集めた盾で空気の砲弾を吸収した。

「ジュン、音くらい我慢なさいっ」

 チラリと後ろを見て叱責する真紅。
 来るであろう痛みを、目を閉じて待っていたジュンは、助かったのを知って表情を緩める。
 しかし、安心するのはまだ早い。金糸雀の砲撃は止まずに続いているのだ。
 真紅の顔が焦りで歪む。花びらの防壁が突破されそうだった。
 この時、金糸雀は違和感を覚えていた。真紅に手応えが無さ過ぎるのだ。疑問に思った彼女は挑発してみることにした。

「真紅~、どうしたのかしら。ローザミスティカを奪ってもこの程度?」
「私は奪ってなんかないのだわ」

 返ってきたのは意外な答えだった。だが、敵の言う事を鵜呑みにするのは危険だ。金糸雀は確認するためにも追求する。

「この金糸雀が知らないとでも? あなたが翠星石のローザミスティカを持っているのは調査済みかしら」
「それなら別の場所に残してあるわ。あの子は必ず生き返ると信じているもの」

 真紅は手元にあったローザミスティカを吸収してはなかった。それをしてしまったら、彼女が忌み嫌うアリスゲームを容認する事になる。一度は不戦を誓った彼女なりのけじめだった。
 それを聞いた金糸雀は、呆れるのを通り越して怒りさえ覚えた。せっかく手に入れたローザミスティカを、骨董品よろしく蔵に仕舞い込んだと言うのだ。この命を狙われている時期に、だ。

「カナも随分となめられたものね。いいわ、ここで後悔するだけなのかしら!」

 弓を扱う手の動きが激しさを増し、倍加した空気の砲弾が雨のように降り注いだ。



つづく

543:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/27 21:30:55 UJJIbG85
>>542
続きwktkです~

544:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/28 00:28:45 u7S3xpZ3
カナががんばってる半面バラスィ全く動いてないなw
続き期待。

新学期始まったのに何かと色々な書き手が投下してるな。
漏れもまたがんばってみるか……


545:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/28 11:41:58 cY5GYtWn
>>544
期待して待ってるよwwww






全裸で

546:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/28 14:48:28 gLjttvzE
>545
エロ小説を期待すんなよw

547:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/29 03:47:42 nTwIXXBI

一本投下します
エロが少々入ってますが、15禁くらいってことでご容赦を

SS「ぴんはっ!」全6話です

548:ぴんはっ(1)
06/04/29 03:49:03 nTwIXXBI

翠星石が泣いていた

全身ビショ濡れになって泣いていた
「チビ人間がかまってくれないのがいけないのですぅ!」と言って泣いていた
その日の翠星石は、例のごとく僕に何かのイタズラを仕掛け、いつも通り自爆し
何か僕にぶっかかる仕掛けだったらしきバケツの水を自分の頭にかぶってしまった
この性悪人形は水で濡れたくらいで泣くタマじゃないが
今日の翠星石は、彼女のお気に入りの服を、濡らしてしまった


その日、僕はいつも通り、ネットの物々を買う気もなく眺め、見るだけの物欲を満たしていた
真紅はそういう時、傍らに座って自分の読書を愉しむが、翠星石は横からちょっかいを出す
その日も、僕が画像を見るために開いたオークションの画面を見て、ドール服の映像に騒ぎ始めた
翠星石は、裁縫好きな主婦が出品した若草色のエプロンドレスの画像を、何度も何度も拡大表示させる
自分の着たきりの服と画像の服を交互に見て、「欲しい欲しい!欲しいですぅ!」と騒ぎ出した
その服は手作り服の古着一斉処分にしては高い値だったが、某ブランド服をドール用に直したって事を
考えればまぁ安価い方だった、翠も最近不安定だし、こんなもので機嫌直してくれるなら安いもんか
いやいや、口先だけでも感謝してくれる真紅や蒼星石と違って、翠は甘やかすとつけあがるだけだ


「えっ・・・うぇぇん、お洋服、濡らしちゃったぁ、汚しちゃったぁ、ゴメンなさいですぅ
せっかくジュンに買ってもらったお洋服、ダメになっちゃったですぅ・・・えぇぇん・・・」
床の水たまりの中にへたりこんで泣く失禁状態の翠星石に、僕はガラにもなくドギマギしてしまった
「翠星石・・・とりあえず、カゼひくから、風呂入ろうか?、一緒に入ってやるから、泣くな、な?」



549:ぴんはっ(2)
06/04/29 03:49:56 nTwIXXBI

あの後、翠星石が居なくなった後で、そのエプロンドレスを最初の予想よりほんの少し高価く落札した
途中で、同じドール服マニアだがやたら資金力があるらしいmi-chan~kana02(846)とかいう奴が
競ってきたが、ショップ系じゃなく手作り系だと気づいたらしく、あっさり退いてくれた
縫製への目利きはまだ鈍いらしい、僕が見てもショップ物よりはるかに丁寧な作りだというのに


翠星石は僕の言葉に顔を赤らめる、服が乾きそうなほどの湯気を体から出しながら両の拳を振り回し
「な・・・な・・・何言ってるですかこのチビ人間!スケベ!変態!一緒にお風呂なんて・・・一緒なんてぇ・・・」
僕は、両手を握り地面をばたばたと踏み、「あわわ」とか「あうう」と呻く翠星石の頭をベシっと叩き
「何イッチョマエに照れてんだよ!お前は一人で風呂入れると必ず何かイタズラするだろ?・・・イヤか?」
僕の言葉に余計に意固地になった翠星石は怒鳴り返そうとしたが、僕が背を向けると焦ったような声で
「わ、わかったです・・・そのかわり・・・少し後で入ってきて・・・体洗った後で・・・わたし・・・キタナイから・・・」
「そうするよ・・・ちょっとやる事があるし・・・あ、そーだ、翠は汚くないよ、それとも小便でも漏らしたか?」
「バ・・・バカぁ!このバカチビ人間!・・・そ、そこで大人しく待ってろですぅ・・・脱いでるの・・・見ないで」
翠星石は濡れたエプロンドレスのまま「ィクショイ!」と威勢のいいくしゃみをすると、風呂場に向かった


言う通り少し、ほんの少し待ってから、着替えを忘れてった翠星石のドレスを持って脱衣所に向かった
翠星石はすりガラス越しに「バ・・・バカ!来るなです!体洗うまで待っててですぅ!」と怒鳴ったが
「洗濯機を使う用があるだけだ、もう少し後で入るから耳の後ろまで洗って待ってろ!」と言い返す
そしてビショ濡れなのに丁寧に畳んであったエプロンドレスを洗濯機に放り込み、スイッチを入れた

急ぎモードで洗濯の終わったエプロンドレスを、本当はいけないんだけど直射日光の下に干した
天然素材が化繊より優れてる点はそう多くないけど、時に使い手の無理に応えてくれる

「やる事」の終わった僕は着替えを持ち、いい感じに茹であがった翠星石が待つ風呂場に向かった


550:ぴんはっ(3)
06/04/29 03:52:19 nTwIXXBI

翠星石は風呂の中で、かなりのぼせたらしい赤い顔で、湯船の中に首まで浸かっていた
風呂場には少しでも使うと怒られるのり専用シャワーソープの、椿の匂いが充満している

「あの・・チビ・・・・チビ人間・・・・その・・・チビ・・・・隠したら?・・・・」
別に子供相手に隠すものなど何もないので手ブラで風呂場に入ったが、翠星石は背中を向ける
「うっせーな、ほら入るからつめろ、端につめろ」 両足を抱えてダルマ状態の翠を押しやった
湯船に浸かり、僕がいつも通り「森の石松」を唸り始めると、黙って体を抱えていた翠星石が口を開く
「チビ人間・・・ジュン・・・ジュンはわたしのこと・・・・嫌いになっちゃったですかぁ・・・?」
「嫌いじゃない、それよりここからがシブいんだ、聞け!」二代目広沢虎造の名調子を聞かせてやった
湯船から上がると、かけ湯が苦手な僕は熱いシャワーを出し、薬局の安物シャンプーで頭を洗い始めた
「チビ人間・・・ひどいですぅ・・・わたしを子供扱いして・・・蒼星石より、真紅よりお姉さんなのに・・・」
「相撲甚句」を唸りながら頭を洗う事に集中した、また何かすねてるな、としか思わなかった
「真紅より・・・蒼星石より・・・・ジュンを・・・・男だと思って・・・・ジュンのことを・・・」
洗い終わった頭を振って目を開けると、目の前には翠星石の体があった、湯船から上がった翠星石が居た
「ジュン・・・わたしは・・・子供ですか?・・・わたしが嫌いなジュンは・・・女だと思ってくれないですか・・・」

僕は、すこし震える手でシャワーのコックを持ち、冷水に切り替えたシャワーを翠星石にブっかけた
「バーカ、色気づいてるんじゃねぇ!その貧相な球体関節バディをしまえ!・・・その・・・危ないだろ?」
のぼせて甘ったれてる翠を飛び上がらせてやった、僕の「チビ」も少し冷ます必要があったし
「ひぁっ冷ゃっこい!こ・・・このチビ人間!何するですか!この変態!意地悪!チビチンチン・・・バカぁっ・・・・」
翠星石は僕に怒り狂いながら体当たりしてきて、そのまま裸の体をしがみつかせた、熱い、芯まで熱い
何か聞き捨てならないコトを言ったような気もしたが気のせいだろう、気のせいじゃなきゃ熱のせいだ
「お願い・・・ジュンに可愛がってもらうまで・・・・・お風呂から出さないです・・・お願いです・・・
一生・・・ずっと・・・このままで・・・このままチビチ・・・ジュンを・・・お風呂で蒸し焼きにするですぅ」

僕や僕のチビが翠星石焼ビビンバになるのも困る、僕は翠の熱い体、両肩に手を添えた、皆、真紅・・・すまん
翠が唇を突き出し、目を閉じる、そして・・・翠星石に・・・キスをした・・・もう戻れない・・・真紅・・・許せ


551:ぴんはっ(4)
06/04/29 03:53:38 nTwIXXBI

キスの時に舌を入れる事を知らない翠星石は、キスの間中、唇を「ちゅう」の形にしたまんまだった
「翠・・・今日は、これまで!わかるだろ?、僕らは今はここまでしかダメなんだ、キスはイヤかい?」
裸で迫ってきた翠星石はというと、僕がキスをしただけで、翡翠と瑪瑙のヘテロ・アイズをぐるぐる回し
そのまま棒のようにバターン!と後ろに倒れた・・・こういう時、男はどうすれば?・・・お姫様抱っこで
介抱すればいいんだろうか?・・・考えた結果、僕はケロリンの桶に冷たい水を汲み、翠星石にブっかけた
心はデリケートなドールだけど、体はラグビーのフォワードのように丈夫だって事は今までの付き合いで
知っているつもりだった、チャージを食らってノビたフォワードには、ヤカンの水をブっかけるに限る

「っきゃぁ!ちべたい!ちべたい!冷たいですぅ!何してくれてんだこのチビ人間!バカバカバカぁ!」
ローザ・ミスティカがもしもCPUのような精密機械なら、熱暴走した時はやっぱ空冷より水冷だろ?
一瞬で飛び上がった翠星石は僕の胸を拳でドンドン殴り、そのまま握り拳を僕の背中に、ぎゅっと回した

「ジュン・・・みずはつめたいです・・・・・」
「うん」
「ジュンはあったかいです・・・・」
「そうさ」
「翠星石は、あ、あついです・・・・・」
「そうだな」

一日に二回、いや三回の水責めを食らった翠星石はまだ熱暴走中だった、きっと長湯のせいじゃない
彼女を創った人形師ローゼンはなぜ頭にアルミのヒートシンクでもつけてやらなかったんだろうか?
頭のレース布がそれなんだろうか?、そういえばドール達は皆、何かしら被り物をお召しになっている

「もう、上がろうか?」
「また・・・・・・・・一緒に・・・・・・・・おフロ入って欲しいですぅ・・・・・・・・・・・」
「また今度、また、今度、な」

また今度、な・・・・・・言葉で出来る約束はそれまで・・・僕らはもう、言葉じゃない約束を交わしたから・・・



552:ぴんはっ(5)
06/04/29 03:54:26 nTwIXXBI

翠星石を先に上がらせ、僕も湯上りの気持ちいい体で「爆弾三勇士」を唸りながら翠の待つ居間に向かう

風呂上りの翠は、自分の深緑のドレスを着ていた、幾年も着続けた物なのになぜか窮屈そうに見える
僕は日向干しした洗濯物を背中に隠して翠星石を鏡の前に連れていき、髪にドライヤーをかけてあげた
鏡に映る翠星石、洗い髪のせいか少し艶っぽく見える、確かに真紅達よりお姉さんだ・・・ほんの少しね
栗色の髪を僕に委ね、夢見るような瞳をしている鏡の翠星石の前に、若草色のエプロンドレスを当てた
「ジュン・・・・これは・・・」
「さぁ、着てみな」

翠星石はエプロンドレスを身に纏い、自分で自分の体を抱きながら、うっとりと目を閉じている
「お日さまの・・・・匂いですぅ・・・・・」

「翠星石、この服は「魔法の服」なんだ、一回洗うとヨロヨロになるような安物のレース服とは違う
厚手の、とびきり上等な木綿布をたっぷりと使ってるから、何十回洗濯してもビクともしない、
破れても繕える、サイズが変わってもお直しできる、たとえ擦りきれたってリフォーム出来る」

翠星石が体をひん曲げながらドレスのタグを読んだ、タグを残してくれた縫い手には感謝したい
「・・・・ピンク・・・・ハウス・・・・・」

「翠星石、この服はね、時が経ち世界が変わっても、ずっと少女のままで居る少女達のために
いつの日か、少女が自分でお金を稼ぐようになった時のために、ボーナスを注ぎこんで買えるように
イサオ・カネコっていう人が作った夢の服・・・ピンクハウスは・・・何度でも蘇る魔法の服なんだ」

そうさ、魔法さ・・・人間の魔法、少女への憧れが創った魔法、少女は、その存在そのものが奇跡なんだ


553:ぴんはっ(6)
06/04/29 03:55:23 nTwIXXBI

少女は自分を包む若草色のドレスを、腕や胸を掌で撫でた、呼び戻された魂を、魔法を確かめるように

「翠星石、何があっても僕に任せろ、汚れたら洗って、破れたら縫ってやる、直してやる
何があっても・・・翠星石がどうなっても、僕に任せろ、僕が必ず、魂を呼び戻す」

翠星石の瞳から涙がこぼれる、ぱたたたた・・・と頬を伝い、顎から滴り、ドレスに染み込んだ
今日4回目の水責めにカウントするか、きっと翠星石は水の星の下に生まれたドールなんだろう

翠星石は突然僕を振りほどき、手の甲で顔をぐいと拭うと「チ、チビ人間にしては上出来ですぅ!」と
叫び、そのまま若草色のエプロンドレスを翻して走り去った、ドアから出る間際、一瞬こちらを見ると
何も言わず廊下を走り去った、僕らはまた、何か言葉にならない密やかな約束を交わしたような気がした

その時、出かけてたはずの真紅が絶妙のタイミングで、別の入り口から居間に入ってきた、ドキリとする
別にやましいことをしていた訳じゃないが見られなくてよかった、真紅は訝しげに僕の匂いを嗅いでいる
真紅は険しい顔で僕を見て一言「だらしないわよ」、考え事をしていた僕はにやけた顔をしていたのかも

翠星石は夜、寝る時にはまた甘ったれてくるんだろうか、それなら・・・それでもいい、一緒でもいい
水遊びが過ぎて寝小便でもして、本日五度目の水責めを食うのもカワイソーだし・・・おねしょは火遊びだっけ?
まぁその時はまた洗濯機で洗ってやるよ、そのドレスを何度でも綺麗に洗ってやる、中身ごと洗ってやる
翠星石、水のドール、水はぶっかかると冷たいものだけど、キタナイ物を洗って蘇らせるのも、水なんだ

濡れても、汚れても、破れても、少女は決して終わりなんかじゃない
繕ってシミを抜いて「お直し」をして、水で洗って、キレイにして

少女は、何度でも蘇る


ぴんはっ!(完)


554:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/29 03:57:34 nTwIXXBI

あとがき

登場した服の詳細については、いくつか架空の記述もあります、ご了承ください
(金子いさお氏は奥さんに似合う服を作りたい一心でピンクハウスを作ったそうです)
あと、今回初めて「取材」をしました、おウチの洗濯機とお風呂を調査しました
最後に、ボクの女のコ服への乏しい知識を補足してくれた友人に礼を言っときます

では、今回はこれで
                                  吝嗇



555:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 04:36:40 DLpJ0c3R
ジュン・・・頭の上から冷水を何度もぶっ掛けるとは
何故だw

GJ!

556:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 09:09:18 Om3Rt+A7
流石翠星石、ドールズ達の中でも群を抜いてツンデレだぜぇ!
そこに痺れる、憧れる~~~!!

557:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 12:35:06 IcRcY0V4
GoooD・J!!!
ピンクハウスだとかジェーンマープルだとか書かれると(書いてないって)
イメエヂが沸いてきてしまうので不思議ですねぇ。
しっかし、森の石松たぁ、渋いねェ兄さん。スシ食いねェ。
というか、翠とジュンの掛け合いがソレを踏まえての推移なのかいな?
などと途中で思いつき、このオチはきっと
「バカはァ~死ななきゃ~なおらないぃ~」だ!などと妄想してしまいましたとさ。
しかも爆弾三勇士ときましたか…二曲あるから(廟行鎮の敵の陣~と、廟行鎮の夜は明けて~)
どっちかはワカラねど、鎮(チン)という歌詞が妙に気になったり気にならなかったりww。

それにしても、お風呂ネタですかぁ…
熱いシャワーとか冷水ぶっ掛けとか、やろうとしてた事、結構やられちゃったよ。
おいらは今から後編書きなおさなきゃ…というか、前後編に分けるんじゃなかった…。

558:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 13:40:22 xkKPZBhT
うおおおお!
GJです!翠の子がかわゆすぎる…
しかしここでピンハ創立の裏話を知る人がいるとはw

>>547
ジェーン知ってる男の人って凄いですね。
口調から察するに、コルベ神父の話の方ですか?
金銀入れ代わりも楽しみにしてますよーノシ

559:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 13:42:02 xkKPZBhT
レスアンカー間違えたorz
正しくは>>557宛です。

560:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 17:38:32 jxMTgTHa
>>554
何故か深い悲しみと情熱を中に感じた
GJ

561:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/29 19:32:23 IcRcY0V4
>>558

そうでーす。
コミケなんかでヘタレな同人マンガ描いてたりするもので、
そっち方面とかチェックしとかないと
妄想力が貧困だから絵が描けないの…orz



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