【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】at ANICHARA
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】 - 暇つぶし2ch350:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/13 02:11:00 P2GUeByp
・・・ここってパロ書いていいの?

351:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/13 03:01:41 sZ6i6y4q
あらすじ

ダメだ、書く気力がねえや

352:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/13 09:51:22 Dkasgkgz
ドールなのに何か特殊能力ないのか?

353:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/14 01:56:45 6auwVfXk
また寂れてきたな

354:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/14 10:51:56 iYZrqBJC
もう---何かの宿命でつか?(汗

355:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/14 18:27:50 G1QNuHvt
寂れてはいけないのか?

356:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/14 21:25:49 GHoT2auI
>>350
この板ネタスレ多いし、大丈夫…と思う
どうしてもダメなら、次スレはサロンにでも立てればいいんじゃないかな

357:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/14 22:18:54 G1QNuHvt
いやいや、流行らないから他のところに立てるってのは考え方としては間違っている。

358:熊のブーさん
06/04/15 00:48:49 PErZorpn
ちょっと間が空きました。前までのお話覚えてる人います?

パロディの是非に関しては……ご愛嬌ってことで許してください。では投下

《ターミネーター翠~第二部~》

一人と一体を乗せたバイクは市街地を抜け、郊外に出ていた。
遠くに山も見える。

「おい、どこまで行くつもりなんだよ」
「海外に高飛びするですぅ」
「……マジ?」
「冗談ですぅ」
何時間走ったのだろうか。そろそろ日も暮れる。
「いつまでに逃げ続ければいいんだ?」
「大体七十二時間程。まぁ三日前後ですぅ」
具体的なゴールが見えてきた。
「やけにはっきりしてるな。理由は?」
「極秘ですぅ。たった今翠星石がでたらめにでっちあげたなんて死んでも言えるかですぅ」
ジュンは後ろから翠星石の首を絞めたくなる衝動に駆られた。しかし楽々とショットガンをぶっ放していたとはいえ運転している翠星石は細身の体だ。ハンドル操作を間違えて事故を起こされても困るので自重する。
「もちろん冗談ですぅ」
翠星石はケラケラと笑った。
「あの手の化け物はエネルギーの消費が半端じゃないんですぅ。おまけにエネルギー源はこの時代には発明されてないはずなので補給不可。よっておよそ七十二時間程度でエネルギー切れになり、ただの液体になってしまうのですぅ」
「UMEOKAのエネルギー源って何なんだ?」
「詳しく聞いてきたわけじゃないからよく分からないですぅ。確か“ようりょくたい”なるものから精製されるエネルギー源とか言ってたような…」
ジュンのこめかみがピクリと動いた。
「ソレハ、「ハッパ」トカニフクマレテイルモノデスカ?」
「それですぅ。あ、でもあいつには精製は無理ですぅ」
「なぜに言い切れる」
「大量の“ようりょくたい”と、時間が必要になるのですよ。チビ人間。まとまった量を精製するのに1週間はかかるはずですぅ」
ジュンは安堵した。
へたをすると一生逃げ回ってないといけないのかという不安が拭い去られたからだ。
「…………桜田~……………」

359:熊のブーさん
06/04/15 00:50:06 PErZorpn
ジュンのこめかみがまたピクリと動いた。
「疲れてるのかな。幻聴が聞こえるや」
翠星石は後ろを振り返った。
「幻聴ではないのですぅ。ヤツが追いついてきました」

ジュンは恐る恐る振り返る。

UMEOKAが走っていた。笑顔で。
なんというスピードだろうか。ジュンは生まれて初めて「走っている人の足元から煙が出ている」という現象を目の当たりにした。このままでは追いつかれる。
「ついに天は我を見放したか……」
ジュンは胸の前で十字を切った。
「しつこいヤツですねぇ。そんなヤツにはこれをプレゼントですぅ」
どこから取り出したかバナナの皮。中身はもちろん翠星石が頬張っていた。
ぽいと後ろに放り投げる。完全にポイ捨てだ。
「これでこけるはずですぅ。うしししし」
ジュンはもう一度胸の前で十字を切った。もうだめかもしれない。
ちらっと後ろを振り返ってみた。
それは見事な宙返りだった。UMEOKAが宙を舞う。頭から舗装された道路に突っ込み、なんか卵を地面に思い切りたたきつけたような音がした。
後に残るのは微妙に蠢く水溜りのみ。
「楽してズルして迎撃ですぅ。おっとっと」
翠星石は巧みなハンドル操作で後ろからきた大型トラックに道を空ける。
「やっぱ世の中間違ってる」
「桜田~」
また聞こえた。
「もう追いついてきたのか」
振り向いて確認する……が、道路が続いているだけで何も無い。
「今度は前ですぅ」
先程ジュン達を追い抜いたトラックの荷台の上にUMEOKAがいた。いつの間に。
「かなりまずいですぅ。緊急事態ですぅ」
翠星石が珍しく緊張した声をあげる。
「あいつ、何のつもりか葉っぱを食べてるですぅ。意味の無いことはしないはずの化け物が何故…?」
ジュンもUMEOKAを見てみた。しかしもう辺りは薄暗い。
「よく見えないぞ」
「まぁチビ人間には無理ですぅ。暗視オッドアイ完備の翠星石だから見えるのですぅ」
さすが人造人間。
「桜田~死ねェ~!」
UMEOKAの腕が変化していく。鉤爪のような形だった。引っかかれたら痛いではすまないだろう。
「スィドリーム!」
現れたるはショットガン。
翠星石は片手でショットガンをぶっ放した。しかしUMEOKAは鉤爪を振り銃弾を弾いた。あまりのスピードにジュンの目には爪の残像が見えた。
「桜田ァァァァ!!」
こちらに飛び移ってこようとUMEOKAは大きく身を屈めた。


360:熊のブーさん
06/04/15 00:50:52 PErZorpn

刹那、UMEOKAの姿が消えた。
ジュンは自分の目を疑った。あまりの速さにまた視認できなかったのか?
「どこに行ったんだ?」
「トンネルに入ったんですぅ。小さめのトンネルなのであのトラックの車高ぎりぎりですぅ」

その頃、UMEOKAはトンネルの入り口の天井部分に張り付いていた。
「サ…クラ…ダ……ァ」


しばらく走ると巨大な木があった。もうUMEOKAは追ってこないようだ。
辺りはすっかり暗いが、月と星の光でやや明るい。
「ここらで休むですぅ」
ジュンは疲れてもう返事も言えない。休めることはありがたかった。
ジュンは木に寄りかかって一息ついた。翠星石は火を起こそうとしている。
「こういうときこそ文明の利器ですぅ」
人工精霊がライターと小枝、紙までも出した。
将来、重い荷物は全て人工精霊に持ってもらう時代が来るかもとジュンはぼんやりと考えながら
翠星石の作業を眺めていた。

無事に火がつき、だいぶ明るくなった。
ふいに、ジュンの旅行バックから賑やかな音が流れてきた。
「あー……そういや携帯持ってきてたんだっけ……」
家の番号から着信ありだ。通話ボタンを押す。
「もしもし」
「ジュンくん!? ジュンくんなのね! 良かったぁ繋がって」
のりの声だ。もう帰ってきていたのか。
「今どこにいるの?なんなの“旅に出ますもう探さないでください。”って!」
そういえば書置きにそんなことを書いたような気がする。
「もしかして家出?今どこにいるの!!」
「……」
ジュンは電話を切り、電源をOFFにした。いちいちかまっているほど余裕が無い。
「あんまり家族にそっけない態度を取るのもどうかと思うですぅ」
「大きなお世話だ」
「心配してくれる人がいるから出来ることですよ?はい、ご飯ですぅ」

携帯食料のオンパレードだったがジュンは残さずたいらげた。
「翠星石の手料理なんですからうまくて当然ですぅ!」
いや、お前は暖めたりしただけだったような気がするが。
満腹になったせいかジュンは急に眠くなった。
「見張りは翠星石がしておくですぅ。おやすみなさいですぅチビ人間」
そのままジュンは横になり寝てしまった。

「……さてっと」
焚き火の火をつつきながら翠星石は一人思案する。
「どうにも不可解ですぅ。なぜにあの化け物は葉っぱを食べていたんでしょうか?」
翠星石は自分なりの答えが出ていた。しかしそれは最悪の部類の結末だ。
火の粉がパチパチと飛んでいる。
「あくまで仮説ですが……」
誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
「自分でエネルギーを作りだせるように進化しているのかもしれないですぅ」
そうなると三日間逃げ切ればよいなどという悠長なことは言ってられない。永遠に鬼ごっこは続いてしまう。
「なにか手を打っておいた方がいいかもしれないですぅ……」
翠星石はちらと出しっ放しにされているジュンの携帯を見た。

        つづく


361:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/15 00:58:01 7Uxmq0oW
>>360
イイヨ 
イイヨー

362:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/15 13:54:05 b2HiOau3
どこまでマジなのか笑えばいいのかわからんですぅ

363:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/15 14:11:34 3HrxXVbl
ですぅ口調ウザ

364:I'veの『Imaginary affair』を聞いていて、なんとなく思いついた
06/04/15 23:25:09 iAQIlCkw
 ん~ん、いい天気ですぅ。ジュンの新しい門出を祝うには、うってつけです。
 それなのに、なんでのんびり朝寝坊を決め込みやがりますか、このチビ人間は。
 ほらっ、とっとと起きやがれですっ!
『ユサユサ……ユサユサユサッ!』
 はぁ、しょうがないですぅ。奥の手を使うです。
 この『えむぴーすりーめざましどけい』に吹き込んだ『起きろったら音頭』を聞けば、
一発でチビ人間が目を覚ます事間違いなしです。ここをこうして……っと!

 ♪おっきろーおっきろーおっきろーおっきろー
   おっきろーおっきろー おきろったら! ですぅ
  おっきろーおっきろーおっきろーおっきろー
   おっきろーおっきろー 寝ぼけてるひまはない! ですぅ

 ―あ、起きたです。効果てきめ……きゃあっ!
 何するですか、枕なんぞを投げやがって! 翠星石が潰れたらどうするですかっ!
『ブンッ! ゴスッ! バタッ!』
 きゃああああっ! こ、こらチビ人間起きろですっ! せっかく起きたのに寝るなです
っ! というか、永眠しないで、ですううううっ!



 遅いわよジュン……どうしたの、顔面が変な形に腫れ上がっているわよ?
 早く席について。のりが作ってくれた朝食を食べなさい。
『ペシッ!』
 行儀が悪いわよ。ちゃんと「いただきます」とおっしゃい。
 ―え? スープがぬるい?
『ペシッ!』
 自業自得よ。寝坊してきた分際で、偉そうな事を言わないで頂戴。
『ペシッ!』
 ズルズル、クチャクチャと音を立てないで頂戴! もっと上品に食事をなさい。
『ペシッ!』
 ジュン、「ごちそうさまでした」は? ―ん、よく言えました。
 あ、えっと……ジュン、なかなか似合うわよ、その新しい『せいふく』は。



 あ、ジュン君おはよう。ジュン君、今日から『がっこう』だよね? 今、僕と雛苺でジ
ュン君の靴を磨いていたところなんだ。ほら、見て。
 あ、そっちは雛苺が……あははは、ごめん。僕が磨き直すよ―これで良いかな?
 ―ジュン君、顔が真っ青だよ? ひょっとして、『がっこう』に行くのが、怖いの?
『ぎゅっ』
 ―大丈夫。ジュン君は、もう1人で歩けるんだから。さぁ、靴を履いて。
 もしも不安になったら、しゃがみこんでいい。振り返ってもいい。皆、ジュン君の事を
見守っているから。お姉さんも、柏葉さんも、真紅も、翠星石も、雛苺も―もちろん僕も。
 ジュン君は、決してひとりぼっちじゃないよ? だから、安心して。
 元気、出た? ―そう、良かった。
 ―え? 翠星石が? あ、あははは……よく言っとくよ。
 うん、いってらっしゃい!



終わり

365:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 01:57:33 lOXDzfyE
>>364
実際には、学業復帰に戻るのはいつのなるやら
個人的には学業復帰ENDでその際はアリスゲームも済んでいて
人形がお父様の元に戻っていて
ドールズの居なくなった桜田家のラストと思ってるんだけど

こう言うエンドもいいね

366:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/16 19:04:05 gMHgnuVM
それでは、一本投下します

「日曜夕方のブルー」を少しでも癒して頂ければ幸いです

では、SS「みっちゃんはね♪」、どうぞ

367:みっちゃんはね♪(1)
06/04/16 19:05:38 gMHgnuVM

「ハァ・・・」

ローゼン・メイデン第二ドール金糸雀のマスター、みっちゃんはため息をついていた


みっちゃんは・・・綺麗な服で着飾った可愛い女のコが好きだった、そんな写真を撮るのが夢だった
カメラマンを目指し、写真学校に入った、親の反対を押し切った手前、学費は自分でバイトして稼いだ
学校ではいい成績を維持した、卒業制作で出した東欧の少女達の写真はプロの間でも高い評価を受けた
在学中から憧れていた売れっ子カメラマンの仕事場にバイトで入り込み、卒業後はそのまま師事した
お師匠はブツ撮り、風景、何でも来いの女性カメラマンで、特に人物を撮らせれば右に出る者無しだった
生意気な新入りのみっちゃんに、自分が撮った写真が実際に媒体になるまでのすべての工程に係らせた
最初は便利屋扱いに反発したけど、対等の友人として接してくれるお師匠とは次第に打ち解けていった
キツい助手時代を数年過ごした頃、お師匠は突然、高給を貰える広告代理店の専属カメラマンをやめた
「今撮っておかなきゃいけないひとが居る」といって、カメラ片手にイラクまで飛んで行ってしまった
助手時代から、お師匠が色々な分野の撮影仕事を均等に回してくれたおかげで、その頃のみっちゃんは
何でも撮れる小器用なカメラマンになっていた、みっちゃんへの名指しでの仕事も入りつつあったので
その広告代理店からのお師匠の後釜へのお誘いを丁重に断り、このご時世に大変な独立の道を選んだ

綺麗な服で着飾った、可愛い女のコを撮りたい、みっちゃんは夢に向かって動き出した

そして・・・・


368:みっちゃんはね♪(2)
06/04/16 19:06:26 gMHgnuVM

今日の仕事は、大手スーパーのチラシに使われる商品写真の撮影、ギャラは笑っちゃうほど安い
今日のモデルはマグロの刺身だった、実際に特売で店頭に並ぶマグロよりずっと上等な代物に
さらに脂の照りを出すためにサラダ油をハケで塗り、ライトで生温くなったマグロの機嫌を伺う仕事

みっちゃんはため息をついていた、独立をしたみたはいいものの、来る仕事はつまらない仕事ばかり
夢とはほど遠い生活と、どうにも増えない残高、元より自分の写真の腕には絶対の自信を持っていた
仕事場である広告、出版業界でも、「みっちゃんに任せればいい写真撮ってくれる」との評価を得ていた
でも、いい写真を撮る人材は毎年多く吐き出されて来るが、それに回ってくる予算は年々渋くなる一方
結局、代理店時代のコネで手の届く仕事を入れてはこなすしかなかった、何でも撮ってた助手時代の
経験は役に立ったが、みっちゃんは嬉しくなかった、夢みてた未来、夢にほど遠い今、不満の多い生活

お師匠の下で広告代理店に籍を置いていた頃は、年収相当額の買い物でもすんなりローンが通った
独立した途端にガソリンスタンドや量販店のクレカ付き会員カードを作る時も審査で難癖をつけられる
「フリー・カメラマン」という職業がすでに、信販会社のブラックリストに載っているらしい


「はぁ・・・フリーでやってくのががこんなに大変なんてねぇ・・・」

みっちゃんは、またため息をついた、みっちゃんの横で、彼女のドール、金糸雀が心配そうに見る


369:みっちゃんはね♪(3)
06/04/16 19:08:55 gMHgnuVM

最初に金糸雀に会ったのは、独立してすぐの頃だった、営業下手でこなせない仕事、減りつづける貯金
何かの幻覚かと思った、幻覚なら付き合ってやれと、訳のわからないまま「まきます」に丸をつけた
あの後カナが突然やってこなかったら、多分私はろくでもない男にでも騙されてたとみっちゃんは思った

「みっちゃん・・・何か・・・疲れてるみたいかしら・・・みっちゃん・・・だいじょう・・・ぶ・・・?」
横で見つめるカナ、この感情を持つ不思議なドールの表情に気づき、みっちゃんは笑った、無理に笑った

「ハァ・・・ごめんね、カナ・・・こんな甲斐性無しのマスターで、・・・でも安心して・・・
カナには絶対、綺麗なお洋服着せてあげるし、おいしい物もいくらでも買ってあげるから・・・」

みっちゃんは決めてた、カナには決して仕事の愚痴は言わない、カナには絶対、不自由な思いをさせない
でも・・・・
みっちゃんは傍らに居るドール、端正で汚れ無き、命宿るドールを見て、もう一度・・・・繰り返した

「カナ・・・・ごめんね・・・こんな・・・私で・・・カナには・・・きっと・・・もっといいマスターが・・」

金糸雀はみっちゃんの言葉に俯いた、悩むマスター、無力なドール、金糸雀にとってみっちゃんは
ただのミーディアムではなかった、共に目覚め、眠り、一緒に生きる大切な人、たったひとりのひと
みっちゃん以外の誰かが自分に触れ、ネジを巻くなんて・・・みっちゃんと引き裂かれるなんて・・・


370:みっちゃんはね♪(4)
06/04/16 19:09:45 gMHgnuVM

金糸雀は俯いたまま叫んだ、みっちゃんに見られたくない瞳を隠しながら・・・ぽたっ・・・ぽたっ・・・

「みっちゃん!わたしはみっちゃんが・・・夢を持って生きているみっちゃんが好き・・・・こんなわたしの
・・・わたしのネジを巻いてくれたから・・・・ぐ・・・・ぐすっ・・・ひっぐ・・・ひっぐ・・・」

金糸雀はみっちゃんの横で、握った手を震わせて、涙をこぼしながらみっちゃんを見た、

「わたし・・・綺麗なお洋服もいらない、ピザ屋さんのアップルパイも・・・うぅっ・・・い、いらないかしらぁ!
みっちゃん!・・・・わたしは・・・・ムシロをまとってでもみっちゃんについていくかしら!」

金糸雀はみっちゃんの胸に飛び込んだ、綺麗な服に皺が寄り、涙で汚れるのも気にせず胸に抱きついた
いつも可愛い服を着せてくれるみっちゃんの服が、地味でくたびれたダンガリーって事に気づいて
また泣き出した

「いや・・・イヤぁ・・・みっちゃんと離れたくないの・・・・カナはみっちゃんがいいのかしらぁ~」
「カナ・・・わたしも!わたしもカナと一緒に居たい!・・・ごめんね、カナ、わたし、こんなに幸せなのに
わたし、カナと一緒に居られる・・・こんな幸せな事に気づかないなんて・・・ごめんね・・・」

金糸雀はみっちゃんの胸で大声を上げて泣いた、落ちて来るみっちゃんの涙が自分に滴るのが嬉しかった
カナはみっちゃんの胸から体を起こすと、ぐいと涙をふき、まだ赤い目のまま胸を張り、逞しく笑った

「もしみっちゃんがカメラマンでおかね貰えなくなっても、安心して!このわたしが
辻のバイオリン弾きでもやって、みっちゃんひとりくらい食べさせてあげるかしらぁ!」

みっちゃんは涙をぬぐいながら笑い出した、カナも笑った、二人で床に座り込んだまま笑った、二人で・・・
「ありがと・・・・カナ・・・・・でも私は欲張りなのよ♪カナとの暮らし、カメラの仕事、両方とも欲しいの!
ローゼン・メイデン一の頭脳派のカナリアさん、欲張りなわたしが突っ走っても、ついてこれるかしら?」
「任せてみっちゃん!カナに出来ることがあったら何でも言って!炊事洗濯用心棒、洗車に録画予約
何でも来いかしら!最もアリスになるに相応しい、この金糸雀の辞書には不可能は無いかしらぁ!」

「じゃあ・・・わたしの小さなバイオリン弾きさん・・・弾いてくれるかしら・・・・・『ニーベルングの指輪』を」
「よしきた!」

カナが生まれた時お父さまに与えられたバイオリンが、壮麗な曲の第一章「ラインの黄金」を奏で始めた

ワグナーの調べが、二人を優しく包んでいく
優しい夜が、二人を包んで流れていく


「さぁて!明日はヒラメでも撮ってくるかぁ!」


371:みっちゃんはね♪(5)
06/04/16 19:11:05 gMHgnuVM

             生まれ変わる事は出来ないけれど
                                                        
                    変わっていくことは出来るから


みっちゃんは変わっていった、少しづつ・・・少しづつ・・・

最近は仕切りを任されるようになった写真の現場では、まず時間に対して正確無比である事を心がけた
唯一、食事の時間は進行中の作業を止めてでも確保した、現場の皆で食べる「同じ釜の飯」を大切にした
本来の仕事である撮影だけでなく何でもやった、助手にやらせてた機材準備や掃除で一緒に汗を流し
スタイリストやメイクの仕事を積極的に手伝い、畑違いの構成や写植、コピーや記事書きの技術も学び
欠員は自ら補った、当然彼らの領分とプライドを尊重し、たとえ非能率的でも彼らの流儀に従った

自分の写真のクオリティは決して落とさなかった、ただ、そのために他の工程を圧迫する真似は慎んだ
それは決して難しくない事だと知った、自分の才能を発揮しながら「広く見る事」を意識すること
自分の係る作品が世に出るまでの全ての流れを広い視線で見た、全てに責任を持った

好きで集めていたロモ、希少なライカ、今の自分の仕事には高スペック過ぎるニコンのカメラ
みっちゃんの部屋には数十機のカメラがあった、それなりに使ってる物も、埃を被ってる物もあった
仕事で必要な銀塩カメラとデジカメ、ムービー各2台と、遊びには一台づつと決めて厳選した物を残し
他の物は、本当に役立ててくれる人、「腕」はあるが「武器」の無い後輩達に捨て値で譲った

金糸雀との生活も変わった

一緒に早起きをするようになった、カナと二人で毎朝6時半のラジオ体操なんて物を始めた、
出前とテイクアウトの食生活を改め、毎日ご飯を炊いた、貧乏写真学生の頃に立ち戻って自炊した
金糸雀には毎朝作ったお弁当を持たせた、カナの体の事を第一に考え、心をこめたお弁当

宅配のピザを頼むより、週末の夜に二人でおめかしして、石窯で焼いたピザを食べに行く生活

休日にはカナと思い切り遊んだ、温泉や旧跡に行った、部屋でDVDじゃなく本物の芝居を見に行った
今までやらなかった海のスポーツや雪スポーツ、登山や禅寺修行にも、カナと二人で挑戦したりした

「カメラマンズ・ワゴン」の響きに憧れ、助手時代にローンで買ったアウディ・アヴァントは売り払い
替わりに機材が積めてスタジオや現場の狭いスペースにも停められるジムニーを一括で買った

どこへでも駆けつけられるジムニーの月間走行距離は、アウディの時よりずっと多かった
色々な場所に出かけた記憶、カナと二人の思い出を、たくさん、たくさん、刻んだ


372:みっちゃんはね♪(6)
06/04/16 19:11:53 gMHgnuVM

ローゼン・メイデン達ともよく遊んだ、カナほどは人懐っこくない、気難しい姉妹達だったけれど
服が目当てだお茶が目当てだと言いながらも、入れ替わり立ちかわり部屋まで遊びに来てくれる
無愛想な黒いドールが突然やってきて、一番いい服をよこしなさいと言って来た時は傑作だった
問い詰めると彼女は顔を赤らめ「メ・・・メグのご両親が会いに来るのよ!・・・悪い?」と怒鳴り散らした
みっちゃんはひとしきり大笑いした後、うんと上等で清楚なローラ・アシュレイを見立ててあげた
その黒いドールは後でクリーニングした服を黙って置いてった・・・「ご対面」はどうなった事やら


浮いた噂と縁遠い状態は当分変わりそうにない、どうも男の心について鈍感なのは昔からの性根らしい
でも・・・花の愛好家雑誌の仕事で知り合った、やたら無愛想な初老の資産家、結菱さんって名前だったか
あの人の事は何故か頭に残った「貴女はきっと、私と同じ秘密、素敵な秘密を持っている」という言葉
何かの洒落のセリフにしては、そのひとはあまりにも透明で無垢な瞳をしていた、ドールのような瞳
その仕事の後でみっちゃんの元に届いたお誘いの手紙、古めかしい蝋封付きの便箋に綴られた夕食の招待
どうしようかと考えてると、ふふっ、と顔がほころんでしまう、でも・・・きっとまだ、早いだろう
デートのお誘いを執事とやらに任せるようでは、きっと私にはまだ早い・・・「まだ早いゾ?お坊ちゃん」
でも・・・カナとの出会いで信じられるようになった「無限の未来の可能性」の中では・・・ひょっとして・・・

みっちゃんは未来を楽しみにしていた、毎日、明日を楽しみに、仕事に遊びに生きていた
みっちゃんは生きていた、カナとふたり、生きていた



373:みっちゃんはね♪(7)
06/04/16 19:13:15 gMHgnuVM

その仕事っぷり、最初は便利に使われるだけだったが、その内周囲のみっちゃんへの評価が変わってきた
「みっちゃんはいい写真を撮る」から「みっちゃんに任せれば限られた状況での最善の物が出来上がる」

無理な納期でも間に合わせるみっちゃんの仕事は、上の人間の信頼を得はじめ
無茶な納期を押し付けるクライアントを怒鳴りつける姿に、下の人間は慕いはじめた

仕事を頼む人達も、仕事を受ける人達も、「みっちゃんなら大丈夫」と口を揃えて噂した

みっちゃんの撮影の腕は、自分でも気づかない位ゆっくりとだけど、磨かれ、冴え渡ってきた
笑顔のプロである子役モデルも、緊張で固まってる素人も、チラシ写真の鯵フライやホウレンソウさえも
みっちゃんがファインダー越しにラブコールを送ると、蕾が花開くような笑顔を浮かべた

今でもカードやローンの限度額にため息をつく事はあるけれど、みっちゃんの名前と評判を聞き
個人的な裁量で、マニュアルにある職業別限度額を大幅に越えたローンを通してくれる知人も増えた
信販会社からは限度額アップのお誘いが来るけど、どちらにしてもローンはあまり使わなくなった
仕事の出費も大きい買い物も、信用の出来ない銀行融資より自分の口座からの持ち出しで賄う事が増えた
それまで「経費」で乗せていたカナを着飾る高価なお洋服の支出を税務署に少々疑われたのには困ったが
来年明けの申告の時はこの「扶養家族」を机にドンと置いて税吏を引っくり返らせてやろうか、と思った


みっちゃんの成長に歩幅を合わせるように、金糸雀も少しづつ変わっていった
アリスゲームでいつも遅れを取っていたカナは、色々な物を見、聞き、触れ、成長と成熟を重ねていった
真紅が読書を重ねて知った心理学は、みっちゃんがカナを後学のために連れてってくれた永田町の取材で
「ひとの心理が剥き出しになる瞬間」を見た時に、カナが背中で感じた戦慄には及ばなかった
翠星石と蒼星石がnのフィールドで育んでいた巨木の自慢話も、みっちゃんと行った屋久島で
数千年の刻の輪を重ねた杉の幹に二人で抱きついた時に感じた、流れ続ける命の実感には敵わなかった
ドールのカナが宿す無限の命、人間のみっちゃんが営む老いていく命、それは全て同じ流れに在るもの

姉妹の悩みを引き受けるのは相変わらず姉御肌の真紅だったけど、彼女には経験の堆積が足りなかった
時に真紅にも裁ききれない問題が生じた時、彼女はいつも金糸雀が耳打ちしてくれる言葉に頼った
ドールのマスター達も、唯一の勤め人マスターであるみっちゃんと話す事で、多くの悩みを解きほぐした

「いつか究極の少女、アリスになる」というカナの長らくの夢は変わり始めた、カナの夢見る未来
「誰がアリスになろうと、皆でお茶して遊んで、そんな皆を誰一人犠牲にしない、誰も失わない」
ドール達の新しい未来を開こうとするカナの姿を見て、姉妹達は少しづつ変わり始めた


みっちゃんとカナは変わっていった、ある日突然ってわけにはいかないけど、少しづつ・・・少しづつ・・・

               生まれ変わる事は出来ないけれど
                                                        
                    変わっていくことは出来るから


374:みっちゃんはね♪(8)
06/04/16 19:14:25 gMHgnuVM

以前よりずっと忙しく、とても時間の流れの早い日々を送ってたある日、お師匠から手紙が届いた
なぜかベラルーシ共和国の消印の押されたエアメール、中には一枚のチラシが入ってた
郊外の大手子供服量販店の新聞折込チラシ、これでも一応は、綺麗な服を着た可愛い女のコの写真
みっちゃんが撮影だけでなく衣装、コピー、レイアウト、印刷、頒布、その他、全ての進行に係った作品
渋い予算とトラブルの連続、妥協の産物だった、でも、その状況でみっちゃんは自分の全てを発揮した
神奈川県内で配布したチラシがなぜかお師匠の手元にあり、赤いマジックで大きな花丸が書いてあった
みっちゃんは自分の写真の腕に自信を持っていた、作品を生み出すたびに顧客や同業者が誉め称えるのは
当たり前だと思っていた・・・みっちゃんは今、初めて自分が認められた気がした、初めて・・・誉められた

チラシの間に挟まっていた一枚の紙、ホテルの便箋の走り書きを見た時、みっちゃんの目に涙が溢れた



                らしくあれ
            
         神はあなたがあなたらしく生きることしか望んでいないんです

        p.s 今度あなたの小さなお友達にも会わせてね


わたしは・・・・・すぐそばで見つめてくれてるひとが居る・・・・・・・・離れていても見つめてくれるひとがいる
そのひとたちに・・・見て欲しい・・・わたしを・・・わたしの夢を・・・・・そして・・・夢に向かう、今のわたしを

遠くで見つめてくれるひと、すぐそばに居てくれるひと・・・今日もみっちゃんの横には、カナが居る

「カナ・・・ありがとう・・・・わたし・・・すべてに感謝してる・・・カナ・・・・カメラマンの仕事・・・
お師匠・・・・生んでくれたママやパパ・・・あなたを創った人形師さんや素敵な姉妹にも・・・ありがとう・・・」


「わたしの小さなバイオリン弾きさん、弾いてくれるかしら・・・・・『To love you more』を」
「まかせて!」

金糸雀のバイオリンが葉加瀬太郎のストリング・パートを誇らしく奏で始めた
みっちゃんの声が、セリーヌ・ディオンのヴォーカル・パートを静かに歌い始める

二人の旋律はいつまでも流れつづけた、二人を乗せて、未来に向かって流れつづけた

二人は、未来を信じていた




375:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/16 19:16:00 gMHgnuVM

あとがき

アニメやコミックでは一番ひどい扱いwの金糸雀には、逆に無限の可能性を感じます
唯一の勤め人マスターであるみっちゃんには、つい感情移入してしまいます
JUMもメグも結菱サンも不労者だし、柴崎爺ちゃんは自営で半隠居だし
不明な部分を思い切り俺補正してしまいましたが、まぁ10マソの服をポンと買える経済力ですから


では


376:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 19:45:32 gC2nDC4p
GJ!
金糸雀とみっちゃんはいいコンビになりそうだよね
みっちゃんがこれだけクローズアップされているのを読んだのは初めて

377:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 20:38:01 v7eRJ75w
力作GJです。
しっかし、以前のバーゼルとか今回のワグナーとか
趣味がオイラとモロカブリですっごいうれすぃ~っすよ(w
375氏は年末恒例のNHKバイロイト音楽祭放送を聴いてるとオイラは読んだ!
あそこでラインの黄金って…大丈夫かカナリア!あの分散和音は狂的だぞ!
おいらもまた何か書きたくなってきたよ(w

378:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 20:42:31 8ohJgYdC
どうも、始めまして
以前総合スレの方で、1つの妄想が流れたんですが
それが面白くて、是非こちらのSS職人の方々に
その妄想ストーリーを完全化させて貰いたく、来させて戴きました。

個人的には金⇔銀が見たい
金に入れ替わった銀は、とりあえずミーディアムであるみっちゃん宅に帰る。
するといつもの行事でまさちゅーせっちゅー。銀大混乱。
銀に入れ替わった金は、自由自在に飛びまわれる事にはしゃいで空中散歩
その後胴体が無い事に気付いて、10分程銀に対する同情、黙祷を捧げる。
そのあと、一度やってみたかった黒龍波を桜田宅で乱射
ドールズ大迷惑。


どなたかお願いします。

379:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 20:50:47 xzCMgF/1
リクエストスレは別のあった希ガス

380:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 21:45:37 8ohJgYdC
>>375
っはぁ~・・・
まさか翠派の私が、何の興味もなかったカナペアに
心を動かされるとは思いませんでした。
次第に成長して行く彼女達、そして後半部分では
心の中でジワッと感じさせられる物がありましたw

もうあとはこれだけです。
ブラボーブラボー!

381:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 22:23:52 v7eRJ75w
>>378
何か書きたくなってきたとか書いた後に
んな事書かれると、何だかオイラが書かにゃならないヨウナ気が…
しかも、ここに誘導されて書いた最初の話しが似た物ダッタヨウナ気もするヨウナ…
まぁ、前のに書いたピエールの奴とか、神父と水銀燈とか、薔薇水晶出撃前夜の話とか
そんな感じのおいらで良かったらガムバッテみますけど。

382:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 22:25:43 ktmpWBLx
>>375
あん?何言ってんだおめえ
金糸雀は今ようやく日を浴び始めたところだろうが

383:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 22:31:19 8ohJgYdC
>>381
差し支えなければ、よろしくお願いしますー♪

384:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 22:54:46 ZjMozEt+
>>367
GJ!!
自然と引き込まれる文章がすごい!

385:364
06/04/16 23:38:49 bwnF4Fmf
>>367-374
微に入り細に至る描写は、真似出来ません。脱帽。
薄っぺらな話しか書けない自分が恥ずかしいです。

386:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 23:50:36 8ohJgYdC
>>385
なぁーにをおっしゃる兎さんー

いや、マジ素晴らしかったですよ
恥じる様な個所など。むしろ誇ってもいいと思いますよ

387:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 23:55:53 ZjMozEt+
>>385
作風は人それぞれ。
心理描写が得意な人もいればギャグが得意な人もいる。
皆違うから面白いのであって一緒だったらトリビァル!

388:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 00:28:22 itYjDEXm
>>385
そう思いますよ。
ところで、起きろの歌にサクラ大戦3のエリカの歌を思い出したのは
オイラだけではあるまいて。
おっはよーおっはよーぼんじゅーる♪

370
些細な話し
舞台神聖祭典劇「ニーベルングの指輪」は
ラインの黄金=前夜
ワルキューレ=第一夜
ジークフリート=第二夜
神々の黄昏=第三夜

389:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 00:31:56 itYjDEXm
>>385
何か読み返したら意味不明だったので

「そう思いますよ。」は>>387を受けての感想ですので。

390:NOODLE  1/7
06/04/17 00:44:42 9Q8QGNbx
「やあ、ドールズ。」

カップ麺が喋った。 おいおい。 僕は熱湯を注いだだけだぞ。
予想外の事態に何のリアクションも取れずにいると、性悪人形が駆け寄ってきた。

「蒼星石…………!!!」

何言ってんの。 何言ってんの。 即席めんと聞き間違えたのだろうか。

「蒼星石………生きて………生きていたんですね。 ………ぐすっ。」
「ふふっ………相変わらず泣き虫なんだね。 …………ただいま。 翠星石。」

カップ麺が微笑んだように見えた僕は、どうかしてしまったのだろうか……。


「凄い………呼び戻したんだわ。」

いつの間にか傍らに来ていた真紅が感慨深げに、いつぞやと同じセリフを呟いた。

「いや、あの……真紅さん。 これ、麺類じゃないっすか。」

ごもっとも。 ごもっとも僕。 もう全然裁縫の腕とか関係ない。
え、何で? 何で狼狽えてるの僕だけなの?
カップ麺が喋ってるんですよ。 何でお前らちっとも驚いてないの?
おかしいよこの家! 何で僕の方が異端に見えるんだよ!

「凄いわジュン……貴方の指は、まるで美しい旋律を綴るよう……。」

出湯のボタンを押しただけなのだが。

え~。 認めたくないが、目の前の現実を整理すると。
このカップ麺はどうやら結菱の屋敷で最期を迎えたはずのローゼンメイデン第4ドール。
「あの」蒼星石という事らしい……。

391:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 00:45:42 9Q8QGNbx
日本人にはごくたま~に、猛烈にカップ麺が食べたくなる日というものが存在する。

今日は日曜日、のり姉は部活。 「麺欲」を満たすには最適の日…のはずだった。

なのになぜ自分は今も腹を空かし。 なぜ眼前には狂ったとしか言い様のない光景が展開されているのだろう。

「ふふ……こうして蒼星石の髪を梳くのも久し振りですね。」
「ごめんよ……僕も君の髪を梳いてあげたいけど、生憎と腕が無いんだ……。」
「大丈夫よ、蒼星石。 ジュンの技術なら貴女に腕をつけるくらい造作も無いわ。」

箸で嬉しそうに麺をほぐしながら、優しくカップ麺に語りかける翠星石。
返答するカップ麺。(のびてきた)
サラッと訳の分からない事を言う真紅。 ならお前やってみろ。

「あ、あのさ……言い辛いんだけど。」

苦言を呈そうとした矢先、翠星石と目が合った。
……あぁ。 ………………泣いている、のか。

当たり前だった。 そうだ、分かっているのだ、彼女だって。
こんなのは、望まれたかたちでの再会じゃない。
カップ麺は永遠ではない。 まして今は夏場だ。 あっという間に腐ってしまうだろう。
別れの時は、きっとすぐそこ。 それでも。 たとえ束の間でも。 最愛の妹と再び巡り合えたのだ。

どうして自分は、その気持ちを分かってやろうとしなかったのだろう。
今の翠星石のためを思うなら、カップ麺が喋るくらい些細な事じゃないか。

「……なんか飲むか? 入れて来るよ。 蒼星石もスープが減ってきただろ?」
「! ……ジュン。 …………………………ありがとう、です…………。」

「私には紅茶を入れて頂戴。 ミルクも忘れないでね。」
そう言った真紅の眼差しはどこか優しげで、なんだか照れ臭かった。

「そうだね……僕も紅茶を貰おうかな。 何だか酷く喉が渇いてね。」
すまん。 君は激辛キムチ味なんだ……。

392:NOODLE  3/7
06/04/17 00:46:42 9Q8QGNbx
「あ、待つですジュン。 翠星石も手伝うですぅー。」
台所に立とうとする僕に翠星石が付いてきた。

「いいのか? ……久し振りじゃないか。」
リーフを選びながら、無難な言葉を選んで聞いてみる。
束の間の再開。 1分、1秒でも惜しいはずなのに。

少しの間を置いて、翠星石がぽつりぽつりと呟いた。

「……言いたい事は沢山あるです。 あれも、これも、それも。
 でも、いざとなると、胸が詰まって言葉が出て来ないです。
 ……こんな短い時間じゃ、足りないです。 ぜんぜん、ぜんぜん、足りないです……!」

胸が締め付けられる気がした。 もし自分と姉が、最後の時を過ごすとしたら。
自分には何が言えるのだろう。 別れを受け容れて、耳に心地良い言葉を捜すのだろうか。
それとも、最後まで「今」を大切にして、さよならを飲み込むのだろうか。

……分からないけど。 今、僕には言ってやれる事がある。

「いつも通りに喋ればいいさ。 今日お前が、妹とお別れしなきゃいけないなら。
 ……何時だって、何度だって、あの子を呼び戻してやるから。 ………ぼ、僕が、さ。 」
「…………ジュン………!!」

僕にしがみついてしゃくり上げる小さい背中を、少し照れ臭いけど抱き締めた。
安請け合いをしてしまったけど。 僕にその力があるというなら、そうしたいから。



「きゃああああああーーーーーーー!!??」
突然の悲鳴で、僕らは我に還った。 この声は……真紅!?

あの真紅がこんな大声を上げるなんて……。 大慌てで居間に戻った僕達が見たものは。

「うい?」
無邪気な顔でカップ麺をすする雛苺だった……。

393:NOODLE  4/7
06/04/17 00:47:42 9Q8QGNbx
「ごめんなさいなの…………」
事情を知って散々泣き腫らした雛苺が、もう何度目か分からない謝罪を口にする。

「私が悪いのだわ……。 私が部屋にマイカップを取りに帰ったりせずに、蒼星石の側についていれば……」
真紅は真紅で、見ている方が辛くなるくらいしょげきっている。

なんて事だろう。 あまりにあんまりな結末に、僕は何も言えずにいた。
蒼星石は結局ほとんど言葉を交わす事なく、再び遠い所に旅立ってしまったのだ。

ちらりと翠星石の方を見る。 彼女は先程から俯いて押し黙ったまま。
こんなの、慰めるなんて不可能だ。 再会も別離も、何もかもが普通じゃなさすぎた。

あぁ、でも。 雛苺と真紅を見る。 今は、僕が何とかしなくっちゃ。
口を開こうとしたその瞬間、先に口を開いたのは翠星石だった。


「ほらほら皆、何て顔してるですか。 こんなの蒼星石は望んでないですよ!」
蒼星石の名前が出た瞬間、雛苺と真紅がビクッと肩を震わせる。 そんな二人に翠星石は優しく語りかけた。

「こぉら、食い意地の張ったおバカいちご。 いつまでそんな顔してるです。
 カップ麺は食べられるためにあるですよ? 雛苺がしたのは、当たり前の事です。」

「でも、あれは蒼星石だったの…………」
また泣きそうになる雛苺。 それに被せるように、翠星石が続ける。

「…確かにあれは蒼星石でした。 でも、カップ麺だったんです。
 カップ麺ですよ? 悪い冗談にも程があるです。
 本当の蒼星石の体は、ほら。 今もおじじのお屋敷で眠ってるですよ。」

「きっと蒼星石は、あんまり私が泣いてるもんだから、ちょっとの間だけ無理して帰ってきてくれたんです。
 だってそうです。 私が泣き出すと、いつだって蒼星石は飛んできて、側に付いていてくれたから。」

「だから、きっと。 また会える気がするんです。
 ……蒼星石は。 こんな形になってまで、飛んできてくれたんだから。」

394:NOODLE  5/7
06/04/17 00:48:42 9Q8QGNbx
夜。 昼間の事が気になって眠れない僕は、通販で買ったプラモデル「ガンガル」を組み立てていた。
正直こんなネタプラモ要らないが、クーリングオフできなかったのだ。

ふと。 背後に気配を感じて振り返る。 そこには予想通りの人影があった。
翠星石……そうだよな。 眠れるわけが無い。 真紅も雛苺も、今日は中々寝付けなかったみたいだった。
まして双子の姉である翠星石ともなれば、その心中は察するに余りある。

「ジュン……昼間は…………ごめんなさい、です。」
「…………なんでお前が謝らなくちゃいけないんだよ。」

誰よりも一番苦しんでるはずなのに、まだ気を遣うのか。
自分よりも真紅と雛苺の事を気に掛けて。 今、僕にまで気を遣ってる。
そんな事しなくていい。 そう言ってやりたかったけど。 今は何を言っても、苦しめてしまいそうで。

「…………ありがとう、ジュン。 …………伝わる、です……。」
……あぁそうか。 マスターとドール。 その心の海は繋がっている。
わざわざ言葉というフィルターを通さなくても、伝わるのだ。

「でも、私は、本当に大丈夫なのです。 ……だって、信じてるですから。
 ジュンのこと。 ジュンが、昼間に聞かせてくれた言葉。」
「え…………」

(何時だって、何度だって、あの子を呼び戻してやるから。)

「あ、あれは………………」
「……ジュンは、自分の可能性を否定するかもしれません。 ……でも、私は。
 信じてます。 信じられるのです。 ……ジュンの、ことば、なら。」


……胸が。 胸が痛い。 はじめて、本当の翠星石を見たような気がした。
知らず手に力がこもる。 ………あぁ、なんて、やわらかい……。
………………へ? やわらかい!? ガンガルが? ……恐る恐る手元を見る。

「やぁ。 ジュンくん。」
ガンガルが喋った。

395:NOODLE  6/7
06/04/17 00:49:41 9Q8QGNbx
次の日の朝。 ガン星石はドールズから熱烈な歓迎を受けた。

「凄い………呼び戻したんだわ。」
お前は他に言う事は無いのか。

「蒼星石かっこいいのーーー!」
ガンガルだぞ……ガンガルなんだぞ……。

「蒼星石、お久し振りなのかしらー!」
「誰だっけ?」
神奈川が泣き出した。

ああもう騒がしい……昨日のお通夜ムードは一体何だったんだ。

「ジュンくん……もう片方の腕にもデカールを貼ってくれるかい? その方が美しいよ。」
「………………」

昨日喰われたばかりだというのに、恐ろしくマイペースな奴だ。
今も乙女のドレスアップとやらで、面相筆で細部を塗装させられている。

「ひゃあっ!?」
「絆パンチ!!!」
ガンガルが奇声を上げた次の瞬間、真紅の鉄拳が僕の顔面にめり込んだ。 鼻が! 鼻が!

「まったく人間のオスは想像以上に下劣ね……塗装にかこつけて、まさか筆で乙女のあんな所を……」
「分かるかぁーーー!!!」


「まだ接着剤が乾ききってないね。 ちょっとだけ……こうしててもいいかな。」
「まぁ……フフフ、蒼星石は甘えんぼさんですね。」

肩に寄り掛かる妹?を前に、翠星石が満面の笑顔を見せる。
カーネルサンダース並の可動範囲の狭さが災いしてか、寄り掛かるというより潰されてるようだ。

まぁそんな事、今の翠星石にとってはどうでもいい事だろう。 …たぶん。

396:NOODLE  7/7
06/04/17 00:51:00 9Q8QGNbx
カップ麺からガンガル。 食物から人形へ。 見ようによっては一歩前進だ。
だが、以前より確実に騒々しくなった部屋を見て、一瞬ジュンはこれで良かったのだろうかと思わず自問してしまった。

目頭を押さえて俯くジュンに、翠星石がいつもの調子でのたまった。

「まぁ今回の事は確かにジュンのお手柄ですけどぉー。 だからってあんまり自惚れるなですぅー。」

な!? なななな!? 何だそりゃ。 そりゃ無いだろ!

お前な、昨日の夜はあんな泣いてた癖に……。
文句を言おうと顔を上げると、そこには柔らかな笑顔の翠星石がいて。


あぁ、くそ、まったく。
照れ臭くて視線を逸らすと、今度はガンガルと目が合って。



ガンガルが微笑んだように見えた僕は、何だかこんな日常も悪くないような気がしたんだ。

                                                 おわり

397:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 00:59:51 ipcbluLJ
蒼星石ぃぃーーー!!!www

もし呼び戻せるなら蒼人形を作って呼び戻せば良かったんでは?
面白すぎる!GJ

398:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 01:06:52 O/Qy41fj
ガンガル吹いたwwww

399:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 01:14:56 SQxg8xQ8
ジュンに賛同
これでよかったのか?w

400:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 01:23:06 aR5DKgqZ
カップ麺てwww此処はグロ禁止だぞwwwwww

401:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 02:36:58 UPrtBg/T
>>375
良かったけど一気に投稿せず何日かに分けてやればよかったのに
あまり集中するとまた過疎る

402:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 02:50:12 NN8ePPVw
こんにちは、蒼星石です

んー、ジュン君はまだ僕のアドバイスを聞いていないようだね
勉強をやるにしても、あの暗い部屋での勉強は大きなマイナスなんだ
小さなライト、睡魔を押し殺しての勉強、多くの面でマイナスになっているね
僕の見たいジュン君に一日でも早く戻ってくれる事を望んでいるよ

そうそう、図書館での勉強は欠かさないでくれ
沢山勉強して復学してほしいな

403:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 08:19:50 FweTYxpj
>>396
あまりのカオスっぷりにGJがとまらないwwww

404:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 14:54:30 4r0FV2Ca
>>390-396
最高wwwwwwwwwwww

405:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 17:26:55 Q61Sxj12
ちょっと質問なんですが
こちらのスレでは性的な意味を含まなければ
夜ネタのSSを投下してもよろしいのでしょうか?

406:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 17:42:09 NN8ePPVw
別に性的=夜じゃないだろ

407:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 19:55:09 TyyTEOTW
>>401
俺は一気投稿支持派、読みやすくレスしやすく、スレへの負担も少ないと思う。
連載形式での投稿も、続きを楽しみに待つ気分でスレを開くのが楽しくなる。

投下のスタイルは職人諸氏の好みや都合に合わせて、好きな方法で投下して欲しい。
直後投下とか途中投げ出しとか、やらないほうが望ましい投下方法もあるけど
そういうマナーに反しない範囲で、複数の投下方法が許容されるスレでありたい。

408:ケットシー
06/04/17 20:37:52 1a7WfB+T
>>345

 ジュンはめぐを振り切るために家の中を走り回っていた。いや、家よりも屋敷と言った方がしっくりくる。余裕で人がすれ違いできる幅の通路が何十メートルと続き、部屋数も相応にある。
 真紅は大邸宅に住まうお嬢様だったのだ。彼女の硬い口調や、値段の張りそうな本のコレクションを見れば、それも頷ける。

 しかし、今のジュンにとって真紅の素性がどうなどという話は二の次だ。背後から迫るめぐを巻けなければ、身の安全は守れないのだ。
 通路の壁に掛けられた絵画や脇に置かれた調度品には目もくれず、逃げ道だけを探してひた走る。
 だが悲しいかな、ジュンの逃走はめぐには通用しそうになかった。彼女にはジュンには無い優れた移動方法がある。それは、翼を使った飛行だ。
 全力で走るジュンの後ろを、余裕を持って追うめぐ。黒い翼を広げて飛ぶ姿は優雅にさえ見える。追う目的を知っていれば、そんなふうには断じて見えないだろうが……。

「―行き止まりッ!?」

 慣れない屋敷内で、いつまでも走り回っているのは不可能だった。
 ジュンが何度目かに曲がった角の奥は、ドアが一つだけある薄暗い行き止まりだった。
 このドアの向こうは用具置き場か何かだろう。この日当たりの悪さといい、埃臭さといい、人が住んでいるような環境には見えない。
 立ち止まった彼のすぐ後ろで、着地しためぐが翼を畳む。
 ジュン、絶体絶命のピンチだった。



409:ケットシー
06/04/17 20:38:51 1a7WfB+T
 真紅は自室で本を広げていた。
 しかし、手元の本は同じページのままで、一向に先に進まない。それもそのはずで、真紅の視線は本の文字を追ってはなかった。
 彼女の目は開いているだけで、何も見えてない。頭の中は、人形の男の子の事でいっぱいだった。もう一体の人形に襲われてないか気掛りで何も手に付かない。
 ジュンを追い出したのは真紅だが、だからこそ気になってしまう。彼女は負い目に近い感情を抱いていた。

「ジュンが悪いのよっ。私は悪くないわ」

 読書を妨げる余分な思考を振り払おうと、真紅は独り呟く。もう一度、紙に並ぶ文字に視線を落とし、読書を敢行しようとする。
 しかし、感情は荒れるばかりで、文字を強引に目で追っても内容が全く頭に入らなかった。
 落ち着いて本を読むために独りになったのに、これでは逆効果だ。

「ほんっと、手間の掛かる子なのだわ……!」

 ついに真紅が音を上げた。文句を言いながら席を立つと、本をテーブルに放って部屋を出て行った。



410:ケットシー
06/04/17 20:39:38 1a7WfB+T
 袋小路に捕まったジュンの背後から、黒い翼の悪魔が忍び寄る。その殺気を背中に感じた彼は、恐る恐る振り向く。

「もう逃げないの?」

 そこにいたのは、嬉しそうに笑みを浮かべるめぐだった。今の彼の目には、その笑みも邪悪なものにしか映らない。
 ジュンは体を敵の正面に向けて後ずさる。後が無いと判っていても、怯える身体が彼女から距離を取りたがった。

「こんな暗い所に逃げるなんて……。もしかして、私を誘ってる?」

 めぐの冗談か本気か区別のつかない発言に、ジュンは大きく首を振って否定する。
 その必死な様子が可愛く見えたのか、彼女はクスクスと笑いながら足を前に踏み出す。こうなっためぐは、ちょっとやそっとでは止まらない。
 後退するジュンの踵が閉ざされたドアに突き当たり、めぐがじりじりと距離を詰める。
 息をする音さえ聞こえそうな距離に近付いためぐは、ジュンのメガネを外して瞳を覗き込む。その目は、恐怖で大きく開かれていた。

「怖がらないで。これは、お父様の望みでもあるのだから」

 めぐはそう囁いてジュンの肩に手を置く。触れられたジュンは、悲鳴に近い声を上げた。

「めっ、めぐ―」

 めぐはこれ以上騒がれる前に強引に声を奪った。口を口で塞ぐという強引な方法で。言ってしまえば、キスである。
 途端にジュンの頭は真っ白になる。極限まで張り詰めていた彼の心は、キスだけで流されてしまったのだ。
 ショックで放心状態の彼をめぐが見逃すはずがない。その隙に、舌を彼の口に送り込む。
 腰の抜けたジュンは、背中をドアに預けたまま、ズルズルと尻餅をつく。その間も、めぐは唇を逃がさなかった。

411:ケットシー
06/04/17 20:40:35 1a7WfB+T
 長い長い口付けがようやく終わり、めぐがジュンの唇を解放する。その必要が無くなったからだ。ジュンの瞳は虚空を見たまま動かず、心ここにあらずといった様子だった。完全に陥落していた。

「可愛い子……」

 めぐはうっとりとした表情で、ジュンの頬の形を指でなぞる。顎の先までなぞり、行き場をなくした指先は、そのまま学生服のボタンへと移る。第一ボタン、第二ボタンと素通りした指先は、彼のズボンへと向かう。
 チャックに到達しようとした時、その救世主は現れた。それも、いきなり飛び蹴りで。

「桜田君、危ないッ!!」
「ほげっ!!」

 もろに両足を側頭部にもらっためぐは、頭から壁に突っ込んで倒れた。人間なら頭が割れて流血の惨事になっていただろう。
 その救世主は、セーラー服を着た少女の人形だった。髪型は健康的なショートカットで、左目の泣き黒子がチャームポイントになっている。
 新たに現れた人形は、ジュンの様子を見て慌てふためく。彼は未だに放心の真っ只中だったのだ。
 めぐに何をされたのかは知らないが、どうにかしないと……。
 そう思ったセーラー服の人形は、ジュンの前に膝を着いた。

「こういう時は、人工呼吸が基本です」

 意味の解らないことを言った彼女は、ごくりと生唾を呑む。この先の行動は、誰でも想像できる。
 そして、彼女は期待を裏切らなかった。ゆっくりと唇を寄せ、瞼を閉じる。

412:ケットシー
06/04/17 20:41:21 1a7WfB+T
 だが、唇が触れ合うことは無かった。隣で復活しためぐが、飛び蹴りをお返ししたのだ。

「ジュン、危な~いッ!!」
「はぶううぅっ!!」

 セーラー服の少女は、めぐとは反対の壁に頭を打ち付けて沈黙した。だが、めぐの蹴りは助走が少なかったせいか、すぐに立ち上がる。

「何するの!」
「何するのじゃないわよ! それはこっちのセリフ」

 初めてまともに顔を合わせた二人は、敵意を剥き出しにして大喧嘩を始めた。この二人の間には、何やら因縁めいたものがあるようだ。
 髪を掴み合って子供みたいな喧嘩を繰り広げる横で、ジュンが正気を取り戻す。

「あ……柏葉も起きてたんだ」

 二人の動きがピタリと止まる。惚れてもらわないといけない相手の前で、幼稚な姿は見せられない。利害が一致した二人は、素早く離れて笑顔を作る。

「三日前に目覚めたの。桜田君は?」
「昨日起こされたばかりだよ」

 ジュンは自分の足で立ち、お尻の埃を払う。
 これが、第六ドール柏葉巴とジュンの運命の再開だった。



つづく

413:ケットシー
06/04/17 20:43:01 1a7WfB+T
上にもありますが、考えなしで連載物を書き始めるものじゃないですねぇ。反省しております
この話でかなり苦労してます。

突然ですまないですが、スレ住人に聞いてみる。
総合スレで途中になっていた欝話の続きをここに投下してもいい?(死にまくりのあれです)
独断で投下しちゃうのもまずいかと思いまして、意見を聞いてみた次第です。
(今やってる話がつまったりはしてませんよ!つまっていませんとも!多分……)

414:にんじん
06/04/17 21:27:38 fZOMSH2z
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              ′ ///   / //
              | r'/:::::\/ ィ /
               | |'ヘ::::/ /
              ∠! へ\</´
           /  \  ヾ
           /     ヽ |!|
          /        }ヽ  〉
        { ̄ ̄  ‐-  `′ i     トリビャルですぞー!!
        ヾ- ―-     〉                 .:o:.
          \       (__,.. ソ
        _r―  ー;.,.,. '´
       _/マ==|ヽ{、
    -‐ .:::.:::.::\::\└勺!                        ,. ---,
  //.:::.:ヽヽ:::.:::.:ヽ:::.\ ゞヽ、                    / ∠二/ノ_
 |l:::.:::.:::.:i i:::.:::.:::.:i l:::.:ヽ ヾヽト、                / ´ ̄ _∠二ニ'
 |l:::.:::.:::.:j l:::.:::.:::.::|ヽ:::.::ヘ `i! l:::ヽ           ヘヽ ,.  ´
 亅L. イ /.:::.:::.:::.\\:::.:Y i! l::.::|         /:::.:::.:::i丿
 f―::: /:::.::l:.:::.:::.:::.:::.\`:::Yi! |:V|        /::.::.::.::.:/
 ヾ ∠:::.:::.:::j.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.∧i!|/::ト       /.::.::.:::/
  |   /:::.:::.:/:.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.\il!|::;ハ    /::.::.//
  |  i:::.:::.::∧:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::レ/!:\ヽ  /::/ /
  |  l:::.:::.∧ ヽ:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::/:::.:::.ヽ了/:/   /

415:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 21:49:14 xdjKgb/6
>>413
虐待でないからいいんじゃないかな。
個人的には続きが気になっていたんで書いて欲しいな。


416:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 22:02:13 lLV0yvlk
>>413是非書いてほしいです。
もうあの続きは見れないのかと軽く凹んでましたからね。

417:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 23:24:26 rv+8MUZN
>>413
私もあの話の続きはすごいみたいですが、最近ローゼンSS関係の板
全部荒れ気味だし一応反対な人は少ないと思いますけどちょっと長めに
2,3日意見聞く時間取ったほうがいいかなと思ったりしました

話かわる上に微妙に書いてた板もちがうけど双剣さんのSSもよみたいよ・・・・

418:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 00:11:26 miAkhli3
>>413
翠がお亡くなりになって俺を。・゚・(ノД`)・゚・。とさせたやつですか?
それならwktkwktk('A`)

419:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 00:28:08 P8ZUoFsi
>>413
欝話が来るのは一向に構わんが今のが楽しみで楽しみで仕方ないので打ち切りだけは勘弁してくれ

420:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 01:13:02 ZsLqHUyo
今日は私たちローゼンメイデンをケロロ軍曹に当てはめてみたのだわ
いつも通り姉妹順で水銀燈から
3「武闘派ですぅ」
2「ツンデレかしら」
ギロロ伍長がぴったりなのだわ
1「いつになったらペコポン侵略をするのぉ?お馬鹿さん」

2「次は金糸雀かしらー」
6「黄色いのー」
4「いつも変なこと考えてるよね」
クルル曹長に決定なのだわ
2「ローゼン小隊1の頭脳派かしらクーックックック」

3「翠星石の番ですぅ」
4「甘いもの大好きだよね」
1「あら、真紅がJUMと一緒に居るわぁ」
3「しぃ~んく~、真紅ばっかりJUMと一緒でずるいですぅ~・・・!!」
6「語尾も一緒なのー」
あらタママ2等兵、なにかしら?

4「次は僕の番だけど・・・」
1「影薄い」
2「影薄いかしら」
3「青いですぅ」
影が薄いのだわ
6「ドロロ兵長なのー」
4「ひどいやみんな、僕だけ僕だけ・・・」

421:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 01:14:54 ZsLqHUyo
私の番のようね、くんプラを作っている時が無常の幸せを感じるでありますのだわ
3「そうやってすぐに仕切ろうとしたがるですぅ」
2「でもそれぐらいしか役がないかしら」

6「最後は雛の番だけど、っていうか役者不足なのー」
1「全然女子高生でも恐怖の大王でもないじゃないの」
仕方がないわね、アンゴル・モアに決定でありますのだわ
6「おば様ありがとうなのー、っていうか感謝感激なのー」

さて、最後はみんなで共鳴するでありますのだわ
メイメイメイメイメイメイメイメイメイメイメイメイ
ピチピチピチピチピチピチピチピチピチピチピチ
スイスイスイスイスイスイスイスイスイスイスイ
ホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリ
ベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリ
偽7「マタ忘レラレタ」
1「宇宙探偵864(バラシー)」
2「宇宙探偵864かしら」
3「宇宙探偵864ですぅ」
宇宙探偵864でありますのだわ
6「宇宙探偵864なのー」
偽7「ハーッハッハッハッハッ・・・」
7「すみませんすみません、姉が本当にすみません」

4「ううう、僕なんか・・・僕なんか・・・・・・」

422:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 01:37:29 kTFlkbSF
>>413
>>419に同意
自分も欝話が来るのは一向に構わないから、今の話は続けてください。
楽しみにしてるんで・・・

423:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 02:00:56 l+XbjjGt
>>413
水銀燈は死に際さえ何も語られないあの話か

424:妄想のままに
06/04/18 03:17:35 F48kqBOe
今日も一日楽しかったです
蒼星石と一緒に遊んだですし、チビ苺や金糸雀を苛めて気分壮快でした
真紅とはくんくんの推理合戦で盛り上がったです。
結局は真紅に言い負かされちゃいましたけど・・・
けど、あの事件の犯人は絶対あの猫の小娘だと思うのです。翠星石が言うんだから絶対そうです。
のりの作ってくれたハンバーグも美味しかったですし
どうしようもないチビ人間も・・・・この翠星石が構ってやってるおかげで
引篭りとしては真っ当な日々を送ってるです。
とにかく、今日も楽しかったです。

425:妄想のままに
06/04/18 03:20:38 F48kqBOe
そんな風に、何気なく一日を振り返る緑のドレスに頭巾を被ったドールが一人
明日はどんな楽しい事が始まるのだろうか・・
太陽はすっかり沈んでいて、空には数多の星とまん丸のお月様が浮んでいる
時計の針は9時を指していて、もう寝床に着く時間である
「おやすみなさい」
「おやすみなのー」
「あぁ、おやすみ」
そう眠りの挨拶をすると、2人は鞄を閉め深い眠りに着く
ドールにとって、睡眠の時間は過去と今を繋ぐ大切な時間なのだ
机で勉強に勤しむジュンは、私達がせっかく声を掛けたのに
本人ときたら教科書とばかり睨めっこして
まぁったく、翠星石達が声を掛けてるんですから少しはこっちに振向いたらどうなんですー?
大体チビ人間はですね~・・・
何て頭の中で一人説教をごねていると
「おい」
「ひっ!」
「ん・・・寝ないのか?」
「い、いきなり振向くなですぅ!」
突然のジュンからの声にあわてて部屋から出る
「なんだよ・・まったく・・・」
バタン、そのまま背中に腕を組みドアにもたれ掛かる
何だろう、この胸のドキドキは・・ちょっとジュンに声を掛けられただけなのに
「こんなんじゃ、眠れないです・・」
「あら、どうしたの翠星石ちゃん」
振り向くと寝間着を着たのりが心配そうにこちらを窺っている
彼女はいつも私達を気遣ってくれて、引篭りの弟もいるのに大変な野郎ですぅ
そんな人柄から、この娘には何でも相談したくなるのだが
今回ばかりは打ち明けるわけにもいかないので、頭の中でストッパーがそれを押し止める。
「な、なんでもないですーのりはもう寝るですか?」
「うん、翠星石ちゃんも早く寝なきゃダメよ」
翠星石のその言葉を聞くと、のりの曇っていた顔が途端に晴れ渡る
この女の前じゃおちおちあくびも出来ないですねぇ
お節介にも等しい心配性の彼女だが
でも、そんな所がみんなから好かれていると翠星石はいつも思っている
「それじゃあ私もそろそろ寝るね」
そう言い残し、のりが自分の部屋に戻ろうとしていたその時
そんなのりの背中を見詰めながら、翠星石の頭の中で1つの考えが過ぎった。
そして、その考えが口に伝わり声に漏れてしまう
あわてて頭の中で揉み消そうとしたがもう遅かった
「ちょ、ちょっと待つです」
「え、何かしら」
案の定、のりの歩が留まりこちらを振り向いてしまった
思わず頭の中で後悔と混乱が渦を巻く
何で引き止めちゃったんだろう、こんな事したらどうなるか・・・
ええーい、落ち着くです翠星石!言っちゃった物は仕方ないです!こうなったらとことん貫いてやるです!
「えーと、ですねーー・・・」

426:妄想のままに
06/04/18 03:24:19 F48kqBOe
「・・・・」
翠星石が部屋を出てからもう30分くらい経つだろうか
あれからすっかり気が滅入り、一応机に座ってはいるが勉強に気合いが入らない。
「・・・僕が何したって言うんだよ」
誰もいない部屋で(2体のドールはいるが)答えの帰って来ない疑問が宙を舞う
僕が何したって言うんだよ、悪いのはあいつだろ?勝手に出てって・・・
なんでこんなに気にしているんだ僕は・・
「・・・トイレに行くだけだからな、あいつの事はついでだからな・・」
そんな言い訳をしながら、何一人で喋ってるんだろう僕は・・・
席を立ちトイレへ、もとい翠星石を探しに部屋を出ようとする
ジュンがドアの前まで歩を進め、取っ手に手を掛けようとしたその時
ガシャ、
「うわっ」
ドアが開き翠星石が戻ってきた、しかし
ジュン「なんだ、人がせっかくトイレ・・・いや、・・ん?」
「えーと・・・」
ドアが半開きで、翠星石は頬を赤らめ顔だけ出している
何と言うか、全部出てこない。
「どうしたんだよ、さっきの事気にしてるのか?
・・・えーと、何か気に障る事したんなら謝るけど」 
「そんなんじゃないです、べ、別にあれは何でもないです・・・」
どうやら自分のせいじゃないらしい。そうと解ると、少しおちょくって見たくなった
・・・が
「そうなのか、あーじゃーわかったぞ、おねsッグハッ!」
"おねしょ"と言う前に消しゴムが飛んできた、どこに隠し持っていたのやら
顎に当たってそのまま後ろのベッドに倒れ込む
「だ、だぁ~れが!ドールはチビ人間みたいに汚い老廃物なんか出さないのですー!
乙女の前でそんな汚い事吐きやがるんじゃねーです!この老廃チビ人間!」
頭を抑えながら、・・・倒れた拍子に打ったらしい。必死に言い返す
「いってて・・・、消しゴム投げる乙女何て聞いた事ないぞ!じゃーなんなんだよ」
「そ、それは・・・・」
この反論に翠星石がわずかにたじろぐ、効いたのか?
「わ・・・笑うなですよぉ・・・・」

427:妄想のままに
06/04/18 03:26:22 F48kqBOe
そう一言告げると、頬を赤らめたままドアを開き全貌を露わにする
次はどう言い負かしてやろうか、そんな事を考えていたジュンだが
翠星石の姿に途端に思考が止まってしまった
目の前にいる翠星石は、いつもの緑のドレスに頭巾を被った服装ではなく
長袖に長ズボンで首の付け根に留め具のボタンが二つ付いた、布は緑色の柄に水玉模様の
言わいるパジャマ姿の翠星石がそこに立っていた。
「ど、どうしたんだよ・・・その格好」
あまりの予想外の展開に戸惑うジュン
いや、別に服装が変わる事はおかしい事じゃないんだが、こいつらがいつもと違う服を着ている所何て
金糸雀のミーディアムの家でコスプレ何て事をしたらしいけど・・・
この目で見たのは初めてだったので、尚更なのかもしれない
「え、えーと・・・」
戸惑うジュンとはまた別に、翠星石の頭の中もてんてこ舞いになっていた
のりにお下がりのパジャマを貸して貰って、それを着たまではいい物のそこから何も考えてなかった
困り顔でちらちら自分を覗うジュン
それが更に彼女の顔を赤くさせる、もう少しで真っ赤なリンゴになってしまいそうだ。
そして、そんな時間がしばらく流れた。そして、この空気を断ち切ろうとジュンが口を開ける
「とりあえず、寝たらどうだ・・?その、ドールにとって眠りの時間は大切なんだろ?
ほら、もう9時も過ぎてるし」
ジュンは目線を時計に向ける。時刻はもう10時半だ
本来9時になると寝ているドール達、翠星石にとっては結構な夜更しだろう
「・・・いやです」
「え?」
「・・・せっかくパジャマを着たですのに、このまま鞄で寝る何て
それじゃ着た意味がないです。翠星石はごめんです」
これまた予想外の事態に困り果てるジュン
そして翠星石は顔を赤らめ俯きながら、・・・腕を揚げ、ベッドで頭を抱えて座るジュンに指を指した
「・・そこで、寝たいです・・・」

428:妄想のままに
06/04/18 03:28:16 F48kqBOe
・・・どうした物か、僕はただいつもの様に
翠星石達が鞄で寝て、机で教科書の問題を解いて、その後僕も寝て、起きて・・
そんな普通の日常を、いや、動いて喋る人形がいる何て普通じゃないか、いや、今はそんな事じゃなくて

どうしてこんな事になったんだ?

どうしてこんな成り行きになったのか、そんな多くの不確定要素が頭の中を渦巻きながら
今僕はベッドで寝ている
そして、その傍でパジャマ姿の翠星石が一緒に寝ている、同じ布団でだぞ!?
もちろん、こんな状態で易々と寝れるはずもなく
2人して目がギンギンに開いている。
お互いに背を向けて、何を喋っていいやら、この場をどうすればいいやら
1つのベッドの下で激しい心理戦が繰り広げられている
そしてそんな中、最初に口を開いたのは翠星石だった
「ジュ、ジュン・・、は・・・」
後ろから聞こえてくる声
掠れた声で、一言一言言葉に迷いながら綴られていく
「真紅の、事・・どう思ってるん・・・ですぅ?」
「え?」
これまた予想外の、これで何度目だろうか
「僕は、別に・・真紅の事は何とも、思ってないぞ・・・」
そう言葉を告げて、またしばらく沈黙が続いた

429:妄想のままに
06/04/18 03:30:01 F48kqBOe
そして、また翠星石の声が背中から聴こえてくる
「嘘です。・・・いつも真紅とばっかり、・・翠星石は解ってるんですよ?」
「別に・・そんなつもりは・・・・」
何でそんな事を聞いてくるんだろう・・・そんな事が頭を過ぎったその時
「・・・!?」
背中に衝撃が走る、けどさっきの消しゴムをぶつけられた時の様な感覚とは違う
そう、何かに抱き付かれている様な、・・・え?
「す、翠星石・・・?」
「え・・えぐっ・・・・」
背中から返って来た声は、とても掠れていて、・・泣いてるのか?
思わず振り返ろうとしたが、後ろから抱き付かれているので下手に振り向くわけにもいかず
仕方なくそのまま彼女に声を掛ける
「ど、どうしたんだよ・・また僕が何か・・・」
「ジュンは翠星石と契約したんです!もう、真紅だけのジュンじゃないんです!なのに、なのに・・・」
背中を掴む手が次第に強くなる
「でも、ジュンは真紅の事が好きなんです!翠星石はわかってるです!でも、・・・翠星石はっ!」
「泣くな!」
気付くと、自分が翠星石を抱きしめていた
何をしているのか自分でも解らない、けど
彼女が泣いてる姿をこれ以上見たくない!
「僕は、僕が真紅の事が好きかどうかは解らない、けど、僕にとって大切な人なのは本当だ」
「え・・えぐ・・・」
泣き続ける彼女を、僕は強く抱きしめ続ける
「けど、それは翠星石、お前も一緒だ!お前も僕にとって、とても・・・大切なんだ」
「お前が居なかったら、僕はここまで強くなれなかったと思う、いや、なれなかった」
「だから、そんなお前が僕の前で泣かないでくれ。お前は、僕にとって大切・・・だから・・・・」
そう一人で叫んでいると、いつの間にか胸元の彼女の泣く声はやんでいた
泣き止んでくれた事に安心するが、それから声が返ってこない
「翠星石・・・?」
あまりに何も喋らないので、心配になり声を掛ける
「ッグハ!」
胸元に顔を覗き込もうと下を向いたその時、勢い良くヘッドバットが顔面に飛んできて、そのまま倒れ込んだ。
「やぁーれやれ、チビ人間はとんだ語り野郎ですねぇ~
ちょっとの事で熱くなり過ぎなのですー」
あまりの態度の変貌ぶりに面を食らうジュン
「いきなり抱きつかれて、チビ人間の体臭が服に付いちゃったじゃないですかぁ
あーぁ、こんなチビ人間の臭いが付着した服を他の人間が着たら
その人間も引篭りに変身しちゃいますねぇー
恐ろしい呪いの引篭り増幅マシーンになっちゃったもんですぅ~」
「な、なんだとー」
「さぁーて、茶番も済んだ事ですし、翠星石はもう鞄で寝るですよー
おやすみです~~」
ジュンが反論する間もなく、瞬く間に翠星石は鞄の中に入ってしまった。
残ったのは、やり場の無くなった想いと、顎と後頭部、顔面の打撃痕が計三ヵ所
「・・・まるで僕がバカみたいじゃないか・・・・」

430:妄想のままに
06/04/18 03:31:05 F48kqBOe
鞄の中で、翠星石は寝ずにいた
まだ少し目が潤むが、手で擦り取る
だって、哀しむ事何てないのだから・・・
ジュンにはあぁ言った物の服に付いたジュンの臭いをかぎくと、自然と顔が和らぐ
ジュンに想われている実感、それがとても嬉しかった。今まで悩んでた自分がバカみたい
それから一通り妄想にふけ、翠星石は一言ぼやき、眠りついた。
「真紅には負けないですよっ!」

431:妄想のままに
06/04/18 03:32:34 F48kqBOe


ただパジャマ翠が見たかっただけ何ですが
いざ出来上がってみると予想とは大きく違う出来となってしまいましたw
本当にありがとうございました

432:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 09:01:33 PmRxoUJV
今にも萌え死にそうです
一体どうしてくれるんですか

433:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 14:20:05 r9FQiVx9
>>424-431
翠星石が実に翠星石らしくて良かった


434:熊のブーさん
06/04/18 22:41:34 LwpP9Iv9
世間では新学期が始まってはや一週間。皆様いかがお過ごしでしょうか。

……忙しすぎてSS全く書けません。だってもう(以下略)
遅くなりました。ターミネーター翠完結させておきます



435:熊のブーさん
06/04/18 22:42:39 LwpP9Iv9
《ターミネーター翠~第三部~》

ジュンが目を覚ましたときにはもうお昼頃だった。
「おはようですぅ。寝ぼすけチビ人間」

朝食を兼ねた昼食を食べて、今日も始まるバイクの旅。
ジュンは唐突にとある文庫のことを思い出し、
(旅って大変だなぁ)
と、いまいち覚醒してない頭で悟ったのはまた別の話。
「今日はどこまで行くんだ」
「とりあえず元の町まで戻るですぅ。うまくすれば入れ違いになって化け物を撒けるですぅ」
……あれ?
「もーしもーし翠星石さーん。姉ちゃんらを巻き込まないために町を出たんじゃなかったっけ?」
「そんなこと一言も言った覚えはねぇですぅ。未来から来た存在が過去に干渉したら何が起こるかわからんから極力「標的」のみに危害を加えるはずですぅ」
「今までの苦労は一体……」
「不特定多数とは接触、会話、物をあげる等もってのほかですぅ。殺害なんて論外ですぅ」
「僕を普通に殺そうとしてるじゃないか」
「ほんとはNGですけどね。平たく言えば“殺した後の歴史が変化するなら利益があるかも”と思われるから狙われるのですぅ」
「かもって……なんともいいかげんだなオイ」
「まだはっきりしないのですぅ。たとえ何か重要な発明をする過去の人間を殺しても別の人間が発明するだけで歴史は絶対に変わらないという説もあるのですぅ」
「ある意味僕はモニターだな」
「モニターと言うよりはモルモットと言ったほうがしっくりくるですぅ」
ジュンはとりあえず翠星石の髪を引っ張った。


436:熊のブーさん
06/04/18 22:43:25 LwpP9Iv9
しばらくすると町が見えた。
「なんかすごい早く付いたような気がするのは気のせい?」
「行きは遠回りに回り道に行っては帰っての連続だったのですぅ。直線距離で見ればそんなに進んでいないのですぅ。気が付かなかったのですか?」
まったく分かりませんでいた。はい。
「人がたくさんいそうなところで身を隠すですぅ。人を隠すには人の中ですぅ」
「そんなとこあるか?」
「市街地なら人がいるはずですぅ!」

今日は月曜日の真っ昼間。人通りなど無いに等しい状態だった。
「そうか……世間では今の時間帯は学校なのか」
ジュンはしみじみと思った。
「まぁ僕には関係ないけど」
「チビ人間。携帯を貸すのですぅ」
「何に使うんだ?」
「チビ人間は知らなくてもいいのですぅ」
ジュンの額に一瞬「怒りマーク」が浮かんだがすぐに消える。
護衛してもらっている手前、携帯ぐらい貸すべきだろう……ジュンはそう考えた。
「ほら」
「どーもですぅ」
「携帯使えるのか?」
「愚問ですね。翠星石をなめるんじゃねぇですぅ」
翠星石は携帯を受け取るやいなやすごい速さでキー操作をしている。さすが未来のロボット。
「もしもし?」
電話のようだ。自分の携帯を使われているので何を話しているか聞きたいところだがそんなことをするのは野暮だろう。
ジュンは手持ち無沙汰に周りを見回していると見知った顔を見つけた。
向こうもこちらへ気が付いたようで手を振って近づいてくる。
蒼星石だ。


437:熊のブーさん
06/04/18 22:45:01 LwpP9Iv9
「探したよジュン君。いきなり失踪なんてどういう事だい?」
―ちとやばい。未来の翠星石と蒼星石が出会ったらとんでもないことになるかも知れん。
「こんにちは。小さなお嬢さん」
「なッ!?」
何話しかけてんだ翠星石ぃーーー……ありゃ?
そこにいたのは翠星石では無かった。レースの付いたスカーフは何処へやら、髪はゴムで無造作に縛り、瞳の色は両方とも澄み渡るような青に変わっていた。心なしか声も違う気がする。
「……変装?」
ジュンは小声で呟いた。
「この子の知り合い?私、警察官でね」
翠星石は何処からか警察手帳らしきものを取り出し、蒼星石に見せた。お前それ、偽造だろ。
「パトロール中に駅前で浮浪少年見つけたから保護してたのよ」
「あぁ、これはどうもありがとうございました」
「いえいえ~」
なんかとんでもない設定を組まれてジュンは憤った。
その時、ジュンの五感に何かが走った。得体の知れない嫌なヨカンにジュンは戦慄する。またUMEOKAが近くにいるのだろうか?
「じゃあ連れて帰ってね。もう家出なんてさせちゃダメよ?」
翠星石はジュンの背中を押した。そっと囁く。
―向こうにUMEOKAがいたですぅ。撃退するのでこの子と共にいてください―
勘も当たるようになってきたか。
「さて、お別れよぅ。浮浪少年!」
さっと踵を返して翠星石は通りの角に姿を消した。
「いい人もいるんだね。さ、帰ろうか」
「……そうだな」
ジュンはいまいち釈然としないものを感じながらも蒼星石に手を引かれていった。そういえば携帯持ってかれたじゃないか。
「会いたかったよ……ジュン君」


438:熊のブーさん
06/04/18 22:46:51 LwpP9Iv9

「待つですぅ!!」
一方で翠星石はUMEOKAと交戦中だった。
入り組んだ市街地で屋根から屋根へ、路地から路地へとUMEOKAは移動を繰り返しつつ時折鉤爪で攻撃してくる。ヒット・アンド・アウェーだ。
―昨夜襲撃してこなかったのは地理を確かめておくためか……行動を読まれていたことに翠星石は舌打ちした。
「なめるんじゃねぇですぅ!!」
隙を見てショットガンで銃撃する。避けられた。弾かれた。なかなか当たらない。
「こんな戦い方が出来るなんて……やっぱり進化してやがるのですぅ!」
ジュンの方も気がかりだった。かなり離れてしまった。早めに合流しないと何が起こるかわからない。
しばらくして、翠星石はUMEOKAを狭い路地に追い詰めた。
「もう逃げ場は無いですぅ」
ショットガンを構える。
唐突に対峙していたUMEOKAが溶けた。
「なっ!?」
そのままUMEOKAは再生することなく液状化した。
「…………やられたですぅ」
完全に出し抜かれた。UMEOKAの目的はジュンと翠星石を離すことだったのだ。
「すると本体は何処に……あ……大ピンチですぅ!!」

やっぱり悪寒がする。ジュンはいまだに抜けない悪寒に首をかしげていた。
「寄りたいところがあるんだ。一緒に来て?」
「ん。わかったよ」
のろのろと歩いていくとそこは図書館までの道。
「図書館に行きたいのか?」
「……そうだよ」
エンジュのドールショップの脇を通ると、白崎がいた。
「あれ、こんな時間に通りかがるとは珍しいじゃないか?」
「あぁ、どーも」
蒼星石ともども、足を止める。
世間話でもして行こうかと思ったら白崎の眉根に一瞬しわが寄った。見間違いだろうか。
すると一転して玩具を見つけた子供のような目でこちらを見てくる。
「なにか僕の顔に付いてますか?」
「いやいや……ジュン君」
もったいぶるような口調で告げる。早く言えよ。
「とりあえず鏡を見てみたらどうだい?」
一言だけ告げると店の中に引っ込んでいった。


439:熊のブーさん
06/04/18 22:47:47 LwpP9Iv9
「鏡なんて……これで見てみるか」
店のショウウィンドウを覗き込んでみた。別に何もおかしいところは―
冷や汗が出た。脇にいる蒼星石のオッドアイがおかしい。
振り返ってしっかり見てみる。左右逆だった。
「ジュン君……どうしたの?……」
(冷静になれ冷静になれ冷麺になれ桜田ジュン!! 落ち着いていつも通りしていれば…っ!)
蒼星石がショウウィンドウを覗き込んだ。そのときの驚愕した表情はジュンのトラウマ確定だろう。
偽蒼星石が溶けて瞬時にUMEOKAの姿に戻った。ジュンは一目散に逃げようとしたが一足遅い。気が付いたら地面に組み伏せられていた。
「現地時間で現在時刻十五:四十二分。これより桜田ジュンの抹殺を決行」
笑顔で死刑宣告が下った。
ジュンは抵抗してみたが全く動けない。もう諦めてこれまでの人生をざっと回想してみた。
―死んでも死にきれん。
ジュンはまた暴れまくった。
「離せ変態液体教師!! この×××××な×××! ××××!! ×××××!!」
放送禁止用語の雨あられを浴びせたが全く効果が無いようだ。
「抹殺」
鉤爪が振り下ろされた。ジュンは思わず目をつぶる。
鋭い金属音がした。
ジュンは恐る恐る目を開けた。首はまだ繋がっている。
首だけ何とか動かして様子を見た。鋏が脇から鉤爪を受け止めている。


440:熊のブーさん
06/04/18 22:48:46 LwpP9Iv9
「蒼星石ぃ!!」
UMEOKAは面食らったようだったが、もう片方の手も鉤爪にしてジュンを殺そうとする。
今度は脇からステッキが鉤爪を受け止めている。
「真紅ぅ!!」
「翠星石、雛苺! 今よ!!」
店のショウウィンドウのガラスの表面がぐにゃりと歪んだ。
瞬時に無数の蔓がUMEOKAをガラスの中に引きずり込む。
「桜田ぁぁぁ……―     」
UMEOKAはガラスの中に完全に引きずりこまれ、かわりに二体の人形が出てきた。
「翠星石……雛苺……た、たすかったぁ~~~」
「で、何が起こっていたのか説明してもらおうかしら、ジュン」
「昨日の夜電話があってね。ジュンの声で“殺人鬼に追われているぅ!!”とかかかってきたんだよ」
電話をかけたのは未来版翠星石だろう。変声機かなにか使ったようだ。
「ジュンが家出した挙句壊れちゃったかと皆心配したんですよぅ」
「そしたらさっきまた電話がかかってきたのー。今度は“ドールショップ・エンジュの前でジュンが襲われている”っていってたのー」
「「「「説明しなさい」」」」
異口同音に問い詰められた。
「実はな……」
「はいーみなさんちょっとお待ちくださいー」

四体の人形が声の主を見ようと顔を上げた途端、カメラのフラッシュのような光が辺りを包み込んだ。一瞬遅れてジュンも顔を上げる。
サングラスをした未来版翠星石が立っていた。
「良いですか?」
頭の奥に響く不思議な声色だった。ドールズは虚ろな目つきで首を縦に振る。
「貴方達は殺人鬼のこと等全く分かりません。電話の内容は全て忘れます。これより一週間はnのフィールドは立ち入り禁止です。そして貴方達はこれから真っ直ぐ家に帰ります。良いですか?」
ドールズがまた首を振ると未来版翠星石がパチンと指を鳴らした。
ドールズはぞろぞろと桜田低に向かって歩いていく。
「簡単な暗示ですぅ。これで事後処理は完璧ですぅ」
「襲われそうになった時どうして店の前だって分かったんだ?」
「?そんな電話かけてないですよう?」

441:熊のブーさん
06/04/18 22:49:41 LwpP9Iv9
「え?」
「何はともあれ、ミッションコンプリートですぅ」
ジュンはようやく肩の荷が下りたような気がした。
「お別れですぅ桜田ジュン。もし、次会うときには兵器としてではなく……いや、なんでもないですぅ」
「短い間だったけど、ありがとな」
ジュンは恥ずかしさから顔を伏せた。
「縁があったらまた会いましょう。貴方の人生が良いものでありますように……」

     ふいに、ジュンの目の前が閃光で満ちた。

「……くん……ジュンくん……」
「んあ?」
「ジュン! いつまで寝てるつもりなの!!」
真紅のツインテールが唸りを上げる。
「いってぇーーーー!!」
気が付いたらリビングで寝ていた。DVDが付けっぱなしになっている。
タイトルは「ターミネーター」
―夢、だったのかな―
「ジュン。さっそく仕事よ。お茶を沸かして頂戴」
「いきなりかよ」

擦り切れたジーンズにワイシャツが玄関に置いてあったのだがのりが片付けてしまっていた。
ジュンの記憶からこの二日間の出来事がおぼろげな思い出となる日まではそう遠くないだろう。

          おわり

442:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 23:01:33 0dccl3si
感動した!!GJ!


443:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 23:28:10 6mHpIgBP
早い展開がアクション映画っぽかった。GJ!

444:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/19 23:28:33 IwahMVgg
そろそろ新作wktk

445:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/21 09:29:59 tk0qswRY
ちょっと質問。
契約の破棄って、ミーディアム側から出来たっけ?
あとnのフィールドの出入り口は鏡とかパソコン画面だけ?

446:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/21 10:17:46 a7A+HO60
>445
基本的にほぼ不可能。無理に剥がそうとすると指の肉ごと指輪が
剥がれ落ちると真紅が言ってました。
唯一例外的なのはミーディアムの心が閉じてドールとの絆が極端に薄くなると
指輪にヒビが入る。消滅するかまでは謎(第一期最終話付近ジュン参照)

出口は鏡、パソコン画面、ショーウインドウのガラス、水溜りなど、ある程度
ものを映せるものならば結構アバウト。
入り口は命の欠片が宿っているもので上記のものなら可能。アニメでは水溜り、
ショーウインドウのガラス、鏡などから入る事が出来た。けど水溜りに命の欠片が
宿っているかは謎・・・きっと製作サイドのミs・・・

447:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/21 17:38:54 XBwtP0Bv
原作もそんなこと定められてない。

448:ケットシー
06/04/21 23:11:29 YxDWa/GC
続き投下についての意見どうもです。
どうやら大丈夫そうですね。
今日は鬱話じゃない方の投下いきます。

449:あべこべろーぜんめいでん
06/04/21 23:12:27 YxDWa/GC
>>412

 真紅は屋敷内を速い足取りで歩き回っていた。ジュンを探しているのだ。
「どこまで行ったのかしら……」
 なかなかジュンが見つからないので、真紅の顔に焦りの色が出始める。
 走って探そうかと考えた時、真紅は自分と同じように屋敷を歩き回っている少女を見つけた。
 大きな瞳の幼い顔立ちが可愛らしい雛苺だ。彼女は真紅の一つ下の妹で、同じ中学生だ。だが、その童顔のために、よく小学生と間違われる。
 雛苺はあっちこっちと見ながら真紅の先を歩く。何かを探しているようだ。
 少しして、彼女は後ろを歩く真紅に気付く。すると、走って向かってきた。

「お願い、真紅。手伝ってほしいのお」
「ごめんなさい。私も忙しいの」

 何のためらいもなく断る真紅。助けが欲しいのは真紅も同じだ。それにしても、このあっさりとした対応はさすがだ。
 しかし、雛苺も負けてはなかった。目に涙を溜めて食い下がる。
「そんなこと言わないでぇ。ヒナのお友達が迷子なの。一緒に捜してほしいの」
「知らないわ。他を当たってちょうだい」
 しつこいので真紅の口調もきつくなる。それでも、雛苺は諦めずに見つめてくる。急いでいる真紅は、脇を通り抜けようとした。
「お願いなのぉ。大事なお友達なのっ」
「雛苺っ、離しなさい……!」
 雛苺が真紅の腰に抱きついて追い縋る。それほどまでに大事な友達らしい。
 しかし、真紅にも大事な用事がある。腰に回された腕を振り解こうと無理にでも足を前に出す。それに、雛苺が必死にしがみつく。

「イヤなの。今は真紅しかいないの。お友達はお人形さんなのよ!」
「なんですって!」


450:あべこべろーぜんめいでん
06/04/21 23:13:27 YxDWa/GC
 真紅の態度が一変する。このタイミングで「人形の友達」と聞けば、あの生きている人形しか思い浮かばない。
 真紅は後ろに振り向き、雛苺の両肩に手を置いて尋ねる。

「貴女もローゼンメイデンを所持しているの?」
「うん、真紅は聞いてないの? ヒナは水銀燈から聞いたのよ。真紅もお人形さんとお友達になったって」
「聞いてないわ……」

 雛苺は真紅がマスターになったことを聞かされていた。何も聞かされてなかった真紅は、のけ者にされたようで気分が悪かった。だが、これは自業自得と言える。一日中、部屋に篭って家族とのコミュニケーションを疎かにしていれば、こうなっても仕方がない。
 真紅はしがみつく雛苺を引き剥がし、まさかと思って聞いてみる。
「他にもあの人形を所持している人はいないでしょうね」
「多分、いないと思う。それより、早く捜すの」
「そうね」
 二人は協力してドールの捜索を再開した。



451:あべこべろーぜんめいでん
06/04/21 23:14:14 YxDWa/GC
 廊下の真ん中を三体の人形が歩く。子供より小さい人形が歩くと、広い廊下が更に広く見える。ジュンの両隣にはめぐと巴が陣取っている。まさに両手に花の状態だ。
 だが、二人に挟まれたジュンは生きた心地がしなかった。度々、めぐと巴は互いを牽制し合って視線で火花を散らす。先程、ドロップキックの応酬をしたばかりなのもあり、二人の仲は最悪だった。
 そんな中、我慢を知らないめぐが、さりげなく手を繋ごうとする。当然のように、目を光らせていた巴は見逃さなかった。彼女はジュンの後ろを回ってめぐを突き飛ばした。

「桜田君に触らないで」

 めぐは倒れそうになるのを堪えて、キッと睨み返す。二人の間の険悪度が一気に増す。
 一触即発の空気の中、ジュンは声を震わせて仲裁に入る。見た目によらず、勇気のある男だ。

「仲良くしようよ。久しぶりに会ったばかりだし。ね?」
「ジュンが言うならそうする~。私っていい子でしょ? そう思うでしょ?」
「あ、ああ」

 急に明るく振舞うめぐに気圧され、ジュンは仕方なく頷く。返答に満足しためぐは、子供のような屈託の無い笑顔を見せる。本当に喜んでいるようだ。
 時々、ジュンはめぐのことが解らなくなる。このような笑顔を見せる子が、真顔で襲い掛かってくるのだ。それがアリスゲームのためだとしたら、彼はやめさせたかった。そんなのは悲しすぎるからだ。
 複雑な表情でめぐを見つめるジュンを、巴は心配そうに見ていた。



452:あべこべろーぜんめいでん
06/04/21 23:15:05 YxDWa/GC
「トモエーっ」
 大きな声で呼ばれ、人形達が一斉にそちらに振り向く。声の先には、駆けてくる雛苺と、その後ろを歩く真紅の姿があった。
「捜したのよ。突然いなくなるから……」
「ごめんなさい」
 やはり、雛苺は巴のマスターだった。巴を抱き上げて軽く叱る。
 遅れてきた真紅は、何も言えずにそれを眺めていた。そして、ジュンと目が合う。

「僕を捜しにきてくれたの?」

 真紅は返答に詰まる。彼の言う通りなのだが、それを認めると負けなような気がしてならない。
「違うわ。そこの雛苺に頼まれただけなのだわ」
 ジュンが落ち込んで俯く。その分かりやすい反応が、真紅をじわじわと責め立てる。真紅は彼に背を向けながら言う。
「ジュン、部屋に戻るわよ」
「いいの?」
 ジュンはまだ部屋を追い出されたことを気に病んでいた。黙ってついてこればいいのに、と真紅は心の中で髪の毛を掻き回す。
「人形に家の中を歩き回られても困るのよ。誰かに見られたらどうするの」
「わかったよ」
 真紅は適当な言い訳を考えてジュンを連れ帰った。彼女は本当に強情なマスターだった。



つづく

453:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/22 00:53:18 bVv+uK97
続きを期待。

でも次の投下は鬱話の方?

454:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/22 03:55:25 lt9GwWFe
コンセプトは『14行縛り』。



「ねぇ水銀燈。あなたの姉妹にも、羽はあるの?」
 不意に、めぐが尋ねてきた。姉妹と聞いて、思い出したくもないあの子の顔が、私の
頭の中をよぎった。
「―ないわ。私だけよ」
「そう……あなたは『お父様』から愛されているのね。羨ましいな」
 そう言うと、めぐは寂しそうに笑った。愛されている? 私が?
「他の子にはないものを、あなたは持っているのよ? 愛されている証拠だと思うよ?」
「私は愛されてなんかいない。愛されようとも愛そうとも思わないわ」
 私にだけ羽をくれたお父様は大好き。白い羽をくれなかったお父様なんか大嫌い。
 でもお父様に会いたい。会って、どうして黒い羽なのかを確かめたい。
 フフッと、めぐが悪戯っぽく笑った。私の胸の内を見透かしたように。
「……二度と馬鹿な質問をしないで頂戴」
「水銀燈って、ホント屈折してるよね♪」
 あなたほどじゃないわ。めぐの言葉を聞いて、私は心の中でそう反論した。



終わりです。

455:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/23 06:53:40 /3xE337k
ツンデレデレw

456:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/23 17:44:29 JodXDikc
ちゃんとお話が成立して14行。すごいですね

457:ケットシー
06/04/23 20:02:26 BvhBhrN0
総合スレの続きいきます。
陰鬱な話ですので、苦手な方はご注意ください。

458:薔薇乙女戦争
06/04/23 20:03:56 BvhBhrN0
>>総合スレ5の782

 夜が明けて、今度は翠星石と雛苺が帰らなくなったのをのりが知る。真紅から聞いた彼女は、用意した朝食を見て悲嘆に暮れた。
 そして、自分の事以上に弟の心配をした。立ち直りを見せていた所なのに、これが原因で再びひきこもってしまうかもしれない。のりは様子を聞いてみた。

「それで、ジュン君は……?」
「ジュンなら心配ないわ。今、自分にできる事をしようとしている。強くなったものだわ」


 二階のジュンのベッドはすでに空だった。いや、昨晩からベッドは使われていない。寝床の主は朝になってもカーテンも開けず、机で一心に針を操る。手には深緑の鮮やかなドレス。彼のために命を落とした者のドレス。彼には一つの想いがあった。



459:薔薇乙女戦争
06/04/23 20:04:44 BvhBhrN0
 ある日の午後、裁縫道具を片付けたジュンは、大きな鞄を片手に外へ出た。薔薇の金細工が施されたその鞄は、ローゼンメイデンの持ち物だ。
 向かう先は人形の専門店。そこは巴に教えてもらった人形工房で、ジュンは足繁く通っていた。彼が通うのには理由がある。そこの人形師は得体の知れない技術を持っているようなのだ。
 一度、人形に生命を吹き込む所を見せてもらったが、その光景が薔薇乙女と重なって見えたのだ。無論、彼女達のように自在に動いたわけではないが、その神業には恐怖すら覚えた。


「桜田君、いらっしゃい」
 人形売り場に入ってすぐ、店員の白崎が声を掛ける。ジュンとは人形制作の手伝いをする仲なので、客相手のよそよそしさはない。棚の埃を掃っていた白崎は、ジュンの鞄を見て手を止めた。

「随分と大きな鞄だねぇ。それにとても古そうだ。何が入ってるんだい?」
「人形です。先生に見てもらおうと思って……」
「それは君の人形かい?」
「そうです」

 はっきりと持ち主だと主張するジュン。少し前までの彼なら「男が人形なんて」といった感じで恥ずかしがっただろう。だが、今の彼にそんな思いは微塵も無い。人形である彼女のあの生き様を見たら、恥ずかしいとはとても言えない。
「彼ならいるよ。行こうか」
 変化を感じた白崎は、ジュンの顔を確かめるように眺めてから奥の工房へ招き入れた。


460:薔薇乙女戦争
06/04/23 20:05:50 BvhBhrN0
 店内から仕切りのカーテンを潜れば、そこは職人の領域だ。一般人は見慣れない素材や機材が並ぶ。
 そして、その先に彼は居た。奥の作業机で人形の制作に打ち込んでいた。職人気質な彼は、人の気配に気付いても構わず作業を続ける。
 終わるのを待っても仕方がないので、白崎が無遠慮に声を掛ける。

「桜田君が来たよ。何か見せたい物があるんだって」

 槐は手を休め、のっそりした動作で振り向く。別に機嫌が悪いわけではないのだが、どことなく怖い。そして、彼の目も鞄で留まる。視線に気付いたジュンは改めてお願いする。
「僕の人形なんです。見てくれませんか」
「持って来て」
 ジュンは言われてすぐ、鞄を手渡しに奥に行く。槐は作業中だった机の上を片付け、受け取った鞄を置いた。
 鞄の留め具を外して開ける。中から光が溢れ、薄暗かった工房を照らす。その光を見た槐は、鞄の蓋を持ったまま動かなくなった。驚いているのを見てジュンが説明を始める。

「生きている人形ローゼンメイデン―人形師ローゼンの傑作と名高いあれです。でも、壊れてしまって……。それで、先生なら直せるんじゃないかと」
「美しい……」

 今の槐の耳には何も入らない。この光に魅入ってしまっているのだ。白崎はそんな彼の様子に驚き、鼻眼鏡を掛け直す。

「光っているのはローザミスティカと言って、人形の命みたいなものらしいです」

 説明は続けられるが、槐は歓喜の笑みを浮かべてローザミスティカを手にする。そして、静かに眠る翠星石を見て涙した。その涙には喜びと悲しみが入り混じっていた。

「この子は素敵な主人と巡り逢えたんだね。この命の輝きを見れば判る。今はゆっくりおやすみ。愛しい私の娘よ……」


461:薔薇乙女戦争
06/04/23 20:06:50 BvhBhrN0
 ジュンはそれを聞き逃さなかった。私の娘―彼は確かにそう言った。前からもしかしてとは思っていたが、今は驚きよりも期待が先を行く。生みの親なら生き返らせることも可能なはずだ。あの水銀燈のように。

「あなたがローゼンだったんですね。お願いです。翠星石を直してください」
「残念だけど、それはできない」

 返事は無情なものだった。娘に命の奪い合いをさせているのは彼なのだから、この返事は想像できた。だが、あと一歩の所まで来たジュンに、そんな考えはできない。いや、したくない。

「どうしてッ! あなたの娘なんだろ。今だって泣いてるじゃないか!」

 槐は今も流れる涙を隠そうともしない。彼も悲しいのは同じだった。しかし、考えは変わらない。憤るジュンを諭すように話す。

「君もこのローザミスティカを見るんだ。この輝きはアリスに相応しいと思わないか? 彼女はドールとして生をまっとうしたんだよ。そんな彼女を認めてあげないでどうする」

 話を聞いてジュンは愕然とした。価値観があまりにも違いすぎる。アリスゲームを強いた彼を以前から疑問に思っていたが、これは決定的だった。ジュンは肩を震わせて咆える。

「翠星石はアリスに拘ってなかった。もっと生きたいと言っていた。勝手に決めるなよ! 離れていたあなたに翠星石の何が分かるッ!!」

 言うだけ言ったジュンは肩で息を切らす。それをじっと聞いていた槐は、悪いと思いながらも微笑んだ。

「今のだけでも君の愛情の深さが分かるよ。君になら娘を嫁がせてもいいとさえ思った。娘達が揃って成長する訳だ……」
「真面目に聞けよ!」
「私は至って真面目だよ。だから忠告しておく。ローザミスティカは有効に使うんだ。でないと、君のもう一人のパートナーも無事では済まない」

 そう言った槐は、ジュンの薬指の指輪を見やる。真紅のことを思い出したジュンは言葉に詰まる。最近の彼は翠星石のことしか頭に無かった。姉妹を亡くした真紅はもっと辛いはず。
 そのまま勢いを失くしたジュンは、槐ことローゼンを説得できず、工房を出る羽目になった。



つづく

462:ケットシー
06/04/23 20:08:57 BvhBhrN0
設定の違いで混乱すると思ったので、ここで言っておきます。
アニメと違って槐をローゼンにしました。したがって、薔薇水晶も本物の第七ドールです。
偽者だと話がややこしくなるので、アニメのひねりをなくしました。(単にめんどくさかったとも言う)
当分の間は、こっちの投下がメインになると思います。
もう片方は話が煮詰まってからにしようかと……。すみません。

463:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/23 21:47:02 rqcIEhPh
まあ気長にやってください。
続きを楽しむのは読者の特権ですw

464:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/23 21:54:38 L0X5w6k+
蒼星石「アッー!」

465:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/23 22:00:16 LO8x75h3
・・・・グッジョブ

466:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 01:28:07 3rl8RoWD
槐の「ローザミスティカは有効に使うんだ」という台詞が気になりますね。
今後の展開に期待してますw




467:放蕩作家
06/04/24 03:07:48 3rl8RoWD
>>298の続きです。
書くのが遅すぎですね、すみません。
それと作者は原作をほとんど読んだことがありません。
原作をろくに読んでないパットでがssなんて書くんじゃねぇ、という方は
スルーしてくださってかまいません。
それではどうぞ。



468:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 03:07:54 AK2XMAko
翠星石。・゚・(ノД`)・゚・。



469:放蕩作家
06/04/24 03:10:33 3rl8RoWD
図書館で日ごろ溜まった熱いパトスを開放したジュン(違
その後あらゆる苦労をして、なんとか図書館の奥で見つけた本を借りることができた。が、その途中経過は本編と
なんの関係もないし、書くのもたるいので省略(J ひどっ!!  
とにもかくにも、ジュンは本を家に持ち帰った。
自分の部屋に上がる時、居間にいた真紅たちに「ただいま」と声をかけたが、誰一人としてジュンの方を見ず、上
の空に「お帰り」というだけだった。全員『人形探偵くんくん』に夢中になっているからだ。「あんな子供騙しな番
組のどこがいいんだ?」とぼやきつつも、この本を見られずにすんだので、少なからずほっとしていた。
 ジュンは人形劇に夢中になる真紅たちを横目に階段を登っていった。テレビではくんくんが「犯人はあなたです!
こうもり伯爵!!」と決め台詞を決めているところだった。



「まず目次から見てみるか。えーと、なになに」
 目次は次のようになっていた。

P4~P95   第一章 製作記  
P96~P170  第二章 ローゼンメイデン  
P171~P190 第三章 アリスゲーム  
P191~P224 第五章 ローザミスティカ  
P225~P256 こ  を  だ ー    へ

「最後のところだけ字が消えかかって読めないな・・・。とりあえず『製作記』のところを・・・」
パラパラと流し読みするジュン。
「十二月二日 どんな宝石よりも輝かしい乙女、アリス。ああ、彼女のバラのような、いやそれ以上の微笑みを早く
見たい。・・・製作記、ね。ようは性悪人形どもの製作日記ってとこか」
 関心したように呟くジュン。
「・・・ってそういえば何でこんな本、存在するんだ?」
 かなり大きな謎だったが、今考えるべきではないと思い、とりあえず保留にしておくことにしたジュン。

470:ローゼンメイデンの秘密
06/04/24 03:19:14 3rl8RoWD
 しばらくの間ジュンは、ローゼンメイデン製作日記ともいえる物を読んでいった。
最初の方はなにか重要なことが載っているかも、と思い、一日一日を丁寧に読んでいったが、案外どう
でもいいと思われる事が書かれていることが多く、だんだんと流し読みしていた。
 それでもこれを書いたと思われる人形師、ローゼンの薔薇乙女への、いやアリスへの執着を感じずに
はいられなかった。
 最初は「どんな宝石よりも輝かしい」とかそのくらいだったアリスの表現が、次第に「夜空に輝く満
天の星々や、女神のように煌く月ですら、彼女に比べればガラス玉でしかないだろう・・・」というよ
うにアリスを(ジュンからしてみれば)大げさ過ぎる美麗美句でかざっているのだ。
 ジュンはさらに読み進めていった。本の右ページ、右下の数字がどんどんと増えていく。数字が74ま
でいった時、ジュンの手が止まった。気になる単語と文章を幾つか読み取ったからだ。
「一月二十三日 錬金術最高の奥義、『夜空のかけら』から作られし生命石『ローザミスティカ』。
 私はこの奇跡の石をさまざまな文献や研究書を読みながら作ったが、できたこと自体、奇跡だろう。
 ただでさえ製作するのが困難、いやほぼ無理といっていい『夜空のかけら』を作り、生命を創り出す
 という神の所業を可能とする『ローザミスティカ』を作ったのだ。奇跡といわずなんといおう。
 ・・・古来から『夜空のかけら』を求める者は後を絶たない。なにせこれがあるだけで、錬金術の夢
 (例えば不老不死、銅を金に変える、等々)全てが叶うのだから。
 ・・・『夜空のかけら』、ね。今度ネットで調べてみるか。怪しげなグッズに混じって、あるかも」
 いや、ないだろ。
 さらに数ページめくる。
「一月二十七日 だめだ!だめだ!!だめだ!!!どうしてもだめだ!私の創った娘たちは誰一人とし
 てアリスには程遠い。彼女たちには何かが足りない。それが埋まらない限り私の理想の乙女、アリスは
 誕生しないのだろう。一体なにが足りない? その答えはまだ出ない。
 ・・・あいつらはアリスを目指すためにアリスゲームをしている、っていってたよな。ということは、
 アリスゲームの勝者はその『足りないもの』が埋まるといことなのか?」
 疑問を口にするジュン。無論それに答える者はいない。
 ジュンはまたページをめくり、ローゼンメイデンのさらなる謎を解き明かしてくれるだろう、正体不
明の本を読み進めていった・・・。



471:454
06/04/24 03:29:26 Qs65RrRK
>>456
長文を書くと、まとまりがなかなかつかなくて。逆転の発想で、短い文で何が
どれだけ書けるかにチャレンジしてみました。
とはいえ、残り行数を気にするあまりに、あちこちいじりまわし、結局ラスト
1行はケツカッチン気味。
すごい、と言われると、面映ゆい限りですが、感想ありがとうございます。

472:放蕩作家
06/04/24 04:31:34 3rl8RoWD
>>470
とりあえずここまでで。
続きます。
そういえばローゼンメイデンが一人も出でない・・・。

473:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 12:40:54 hn4XSSE7
それなんてラヴクラフト??

474:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 15:35:42 3fOWnXC1
謎が謎を生み、どんどん深まっていくんですね
続きwktk

475:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:14:27 hn4XSSE7
では、以前リク貰った水銀燈と金糸雀が入れ替わる話しを投下。

476:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:18:09 hn4XSSE7
「第1楽章ぉぉっ、攻撃のワルツゥーッ!!」
金糸雀のバイオリンが衝撃波を打つ。
nのフィールド中の空気が水銀燈の攻撃を阻む。
攻撃の性質上、金糸雀は接近戦を得意としない。特に格闘に至っては水銀燈にかなり遅れをとっている。
それを知る水銀燈は、このゲームを自分の有利に進めるべく、何度となく接近を試みてはいるものの、
音波の攻撃に阻まれて思うような戦いを仕掛けられないでいた。
決定打に欠ける金糸雀は、攻防を繰り返しながら充分な距離を稼ぎつつ、既に退散の機会を伺っている。
埒があかないと判断した水銀燈は、一時体制を整えるために、攻撃の手を緩め、上空高く舞い上がる。
「しめた、その間にカナは逃っげるかしら~」
しかし、それは水銀燈の予想した行動であった。
「ふっ、あなたの思考なんてお見通しよぉ!」
そそくさと逃走に入る金糸雀を見計らったように水銀燈が攻勢をかける。
いっきに勝負を決しようと、上空から金糸雀に急接近し一撃を加えようとする。
「と、見せかけて…最終楽章!破壊のシンフォニィィィ!!」
金糸雀もそれを読んでいた。きびすを返し楽章飛ばしの攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ああっ、ずるいわよ金糸雀!次は追撃のカノンとやらじゃない!!」
その攻撃を避け切れないと判断した水銀燈は、衝撃波の中にモロに突っ込んだ。
そのまま金糸雀を仕留めようとの魂胆だったが、思いのほか厚い金糸雀の放つ空気の壁に目測を誤り、
また金糸雀も水銀燈が肉を切らせて骨を絶つような真似をするとはおもいもよらず、
両者は急接近の末、激突して気を失った。


水銀燈が目を覚ました時、静けさを取り戻したnのフィールド内にはもはや金糸雀の姿は無かった。
「くっ、逃がしたか……」
しかし、体を起こした水銀燈が上を見ると、ピチカートがくるくる回っている。
「は?ピチカート??」
水銀燈に緊張が走る。
金糸雀がまだ近くに潜んでいる、そう考えた水銀燈は安全圏である上空に避難しようとしたが、飛ぶ事が出来ない。
「あれ…?」
ようやく体の変化に気付いた水銀燈は、自分の状況を客観的に理解して愕然とした。
水銀燈は金糸雀の体と入れ替わっていたのだ。
「な、何これぇぇぇぇ!!」
右手で素早くピチカートを捕まえた水銀カナは、人工精霊を脅迫するかのように説明を求めた。
「これはいったいどういう事よぉ!!」


477:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/24 22:19:14 hn4XSSE7
「カナ―おかえりー!」
金糸雀と入れ替わった水銀燈をみっちゃんが出迎える。
ピチカートの話から状況を理解した水銀カナは、とりあえず金糸雀を見つけるために、金糸雀のミーディアムの家で網を張ることにしたのだ。
とりあえず、他のドールが尋ねてこなかったかを聞くために、声のした方向に目をやると、みっちゃんはバスルームで粘土作業をしていた。
「あんた、なにやってるのよ?」
「見て、見てぇ!カナが一度入りたいって言った露天風呂みたいにしてみたのよ、どう?」
それは昨日のTV番組の影響だった。温泉旅行に興味を示し、「一度行ってみたいかしら~」
などと言ったものだから、みっちゃんがバスルームを1日がかりで改造したのだった。
壁一面に紅葉の風景写真を貼り、無骨な蛇口には石膏でライオンを模ったり、岩のオブジェが配置されていたりした。
石膏は水に弱い事がたまに傷なのだが、そんな事は気にしない。金糸雀のためなら何でもやるのがみっちゃんスピリットである。
「さー、私も汚れちゃった、カナ一、一緒に温泉しましょー」
そう言ってみっちゃんは水銀カナの目の前で服を脱ぎはじめた。
『なんなの?この人間…』
唖然としながらみっちゃんの裸を見ていた水銀カナだったが、はっと一つの結論が脳裏をよぎった。
『こ、このままじゃ、私、剥がされる!!』
案の定、普段の着せ替えで鍛えたみっちゃんの早業に抵抗虚しく脱がされて行く水銀カナ。
「ち…ちょっとぉ…」
神業的な手捌きが水銀カナを襲い、気付いた時にはもう下着を残すのみ。しかも、みっちゃんは既にバスタオル姿。
逃げるにしても攻撃するにしても、金糸雀のボディでは勝手が解らず、あたふたとするだけで好い様にあしらわれてしまう。
「カナ~、温泉の元は何がいいカナ~なんちゃって……カナ?」
恥ずかしさと憤りで水銀カナが切れた。
「いいかげんにしなさいよー!」
ガブリ!とみっちゃんの手をかじり、そのままぷらーんと垂れ下がり状態。
事態が飲み込めずにしばらく固まっていたみっちゃんだったが、やがて手の痛さが彼女を現実にひき戻した。
「イャ――!カナが家庭内暴力を――!!」
パニック状態で手をブンブン振り回すが、そのままスッポンの様に放さない。
ようやくみっちゃんの魔の手を逃れた水銀カナは、近くの窓のカーテンで自分の体を隠しながら、真っ赤になってみっちゃんを睨む。
「あ、あんたばっかじゃないの、そんなブサイクなお風呂なんて聞いたことないわ!」
打ちひしがれるみっちゃんを後に、そのままカーテンを引きちぎった水銀カナは外に飛び出したのだった。
『こ…こんな所になんかいられないわよ!』
みっちゃん轟沈。



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