06/04/12 21:03:50 rDzW6dMx
>>303
今日の真紅は朝からずっと不機嫌だった。
理由は、目の前の人形達にあった。
「どうして逃げるの? 手を握っただけじゃない」
「なんで手を握る必要があるんだよ!」
「私のこと、嫌い?」
「嫌いじゃないけど―って、もうそれはいいって!」
「ぐすん……」
「泣いてもダメェッ!!」
昨日の今日だというのに、めぐは懲りずにアタックを続ける。ふられたからといって、アリスゲームを諦める訳にはいかない。これは、ただの恋愛ゲームではないのだ。
しかし、あれだけ見事に玉砕して一晩で立ち直れる彼女は恐ろしくもある。めぐのジュンへの執着心は病的だった。ジュンが彼女を恐れるのも納得できる。
人形達は朝からこれと似たようなやりとりを、飽きもせずに何度も繰り返していた。厳密には、ジュンはうんざりしているのだが、めぐを無視することは許されない。何故なら、彼女を完全に無視すると、もっと凄い事になるからだ。
以前に一度、散々追い掛け回されたジュンは、彼女を無視してみた事があった。
その時の事は思い出したくもない。めぐは口を利いてくれないことに耐え切れず、昨日のようにいきなり襲ってきたのだ。言うまでもなく、強姦である。
その時は他のドールの助けもあって九死に一生を得たのだが、そんな危ない橋は何度も渡りたくはない。なので、めぐを放っておく訳にもいかないのだ。
そんな理由を真紅が知るはずもなく、彼女のイライラは沸点を超えようかという所まできていた。ジュンとめぐのやりとりは、傍からだとイチャイチャしているようにしか見えない。真紅は自分の部屋に居ながら、二人の邪魔をしているように思えて居心地が悪かった。
とてもではないが、この空気の中では落ち着いて本など読めない。読書という最も大切な行為に支障をきたされ、真紅の精神状態は平静ではいられなかった。
それでも、真紅は本を開いて読書に集中しようとする。読書への情熱が、こんな障害如きに阻まれてはならないのだ。もはや、これは戦いだ!