【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】at ANICHARA
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】 - 暇つぶし2ch300:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/10 05:03:22 u9WiF+Q0
>>297
メモ帳等にこまめに保存しながら書くといい。
期待。

301:ケットシー
06/04/10 20:24:27 GPhT6aES
>>264

 真紅とジュンの奇妙な共同生活が始まった夜。普段はテレビの音もしない静かな部屋が、またまた騒がしい事になっていた。
 今度の騒ぎの元凶は、真紅の姉だった。彼女がこの部屋に乗り込んできた所まで時間は遡る。


「真紅! 今日という今日は許さないわよ」

 ノックもしないで部屋に入ってきたのは、銀髪と赤い瞳が印象的なきれいな女性だった。その肌の白さは異常で、めぐにも勝る。この女性の白さは本当に病気なのかもしれない。
 読書に耽っていた真紅は、別段驚きもせずに本から顔を上げる。

「あら、水銀燈姉さん」

 赤い瞳の女性は、真紅の姉だった。彼女の名は水銀燈といい、ここの長女である。年齢は……高校生とだけ言っておこう。ちなみに、この家は七姉妹という大家族で、真紅は五女だ。

 真紅のすました顔が水銀燈の虫の居所を悪くさせる。彼女は真紅という問題児に昔から手を焼かされているのだ。長女として生まれてしまったからには、妹の面倒を看る責任がある。その妹の中でも、真紅は群を抜いて厄介な存在だった。
 真紅の引き篭もりは今に始まった事ではない。小学校に上がる前から、今と同じような、本に囲まれた生活を送ってきたのだ。小学校へは、一年生の初めに何日か登校しただけだ。どれだけ周りに心配をかけたか、想像に難くない。


302:ケットシー
06/04/10 20:25:23 GPhT6aES
 部屋に入った水銀燈は早速、見慣れない鞄と人形を発見する。ジュンは絨毯に寝そべって何かの本を読んでいた。
 水銀燈はジュンに近付いて、本を読む人形を上からしばらく観察する。そして、いきなり学生服の襟を摘んで、猫を扱うようにひょいと持ち上げた。
「わわっ!」
 急に持ち上げられたジュンは、驚いて手足をじたばたさせる。
 水銀燈はジュンをこっちに向かせ、顔をじっくりと拝見する。

「貴方がジュンね。でも、少しガッカリ。もっといい男かと思ってたのにぃ」

 初対面で名前を当てられ、ジュンと真紅はぎょっとする。そして、この人形慣れしている態度に嫌な予感がしてならなかった。

「水銀燈姉さん、ジュンを知って……?」
「よぉく知ってるわよぉ。この子の事は毎日のように聞かされているからぁ。私のめぐにね」

 それを聞いた真紅は、咄嗟に水銀燈の左手を見た。薬指に薔薇の指輪がはめられている。彼女もミーディアムだったのだ。それも、よりによって第一ドールの……。
 ジュンにとっては最悪の事態だ。あの柿崎めぐが、同じ屋根の下の住人をマスターに選んでいたのだ。めぐもこの家で暮らしていると考えた方が自然だ。ジュンの顔色がみるみる悪くなる。

「めぐの知り合いですか?」
「私はめぐのミーディアムよぉ。今日はあの子を泣かせてくれたそうじゃないの。今も私の部屋で泣いてるんだからぁ」

 水銀燈はめぐから直接、今日の出来事を聞いていた。彼女が立腹してここへ来たのは、そのためだ。彼女はめぐを可愛がっていた。
 めぐは今も傷心中らしい。そのめぐを慰める手っ取り早い方法は一つ。水銀燈は、ジュンを持ったまま部屋を出ようとする。
 それを真紅が見逃すはずも無く、慌てて椅子から腰を上げて引き止める。

「姉さんっ、ジュンをどうするつもり!?」
「めぐにあげるのよ。彼女、この子を欲しがってたから」


303:ケットシー
06/04/10 20:26:22 GPhT6aES
 水銀燈が事も無げにこう答えた。
 それはまずい。まずすぎる。確実にジュンが殺られる。というか、犯られる。 
 人形がどうなろと真紅にとっては関係ない話だったが、このまま見捨てるのも寝覚めが悪くなる。

「ジュンは私の人形よ。勝手に持ち出さないで」
「あらぁ、貴女が本以外に執着するなんて初めてじゃないの?」

 水銀燈が驚いた顔で真紅を見る。その表情から、彼女が言っていることが本当なのだと解る。それだけ、真紅は本の虜になっていたのだ。

「執着なんてしてないわ。ただ、ジュンがかわいそうだと思っただけよ」
「人形相手に?」
 真紅がジュンを人形だと言ったので、意地悪くそこにつけこむ。真紅はむっとなって声を張り上げる。
「気まぐれよっ。気まぐれ!」
「はいはい、そういうことにしておいてあげるぅ」

 水銀燈は真紅の喜ばしい変化に微笑みながら、ジュンを床に下ろして開放する。
「妹をよろしくおねがいね、ジュン」
 水銀燈はウィンクをしながら小声でそう言うと、部屋を出て行った。その柔らかい表情に素直に引き込まれたジュンは、彼女が出て行った後も、しばらく惚けていた。

 好きなだけ惚けたジュンは、真紅のおかげで危機を脱したことにようやく気が付いた。水銀燈の言葉も思い出し、真紅の足下までトコトコと歩く。

「また助けられたね。ありがとう」

 真紅は黙って椅子に座り、本を開いた。

「気まぐれだと言ったはずよ」

 真紅は意地になって、助けた事を認めようとしない。彼女が素直になれるまで、まだまだ時間が掛かりそうだ。



つづく

304:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/10 20:45:53 NdjuKwuD
銀様ハァハァハァハァハァハァハァ

305:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/10 21:06:18 LxCgNI6k
銀様の「柔らかい表情」ってw
是非とも見てみたい!!GJ

306:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/10 23:06:29 Mq9vj4ku
 復学に向けて勉強をしている最中、真紅が背後から僕を呼んだ。
「ジュン、何か面白い本はないかしら?」
「物置にあるだろ? 探してくればいいじゃないか」
「全部読み終えてしまったのだわ」
「……ほら」
 今の僕にとっての最優先事項は、参考書と柏葉から借りたノートとのにらめっこだ。煩
わしさも手伝って、僕は机の上にあった広辞苑を、無造作に後ろに放った。背後でバサッ
と大きな音がしたのと同時に、真紅の怒鳴り声が聞こえた。
「危ないじゃないの! 私が潰れたり壊れたりしたらどうするの!」
「せいせいする」
 もちろん冗談だったが、真紅を怒らせるには十分過ぎる一言だった。

 ヒュッ……ガスッ!

 延髄に激痛が走った。「いってえぇぇぇっ!」と喚く事が出来れば、どんなに良かった
だろう。一言も発する事が出来ず、僕は床に倒れた。僕の目の前に、さっき投げた広辞苑
が転がっていた。広辞苑の更にその先、ベッドの上で、真紅が顔を真っ赤にして仁王立ち
していた。
「……ど、どうやって投げたんだ、そんな重い本を……?」
「火事場のクソ……じゃなくて、馬鹿力なのだわっ!」
 真紅の赤い顔が更に赤くなったようだ。それはそうと、僕の目が霞む。意識が朦朧とし
てきた。真紅を睨みつけたいところだが、もはやそれさえも叶わない。真紅がベッドから
飛び降り、床の広辞苑をいかにも大儀そうに両手で抱え上げた。
「随分と分厚くて重い本ね……まぁ、せっかくだから読ませてもらうわ」
「ど、どういうつもり、だよ……真紅……?」
 僕の力ない抗議を無視して、真紅はよたよたと部屋のドアに向かう。僕は重ねて尋ねた。
「こ……答えろよ、真紅……僕が……こ、このまま……起き上がらなくなったら……」
 僕の問い掛けに、真紅は澄ました顔をしながら言った。
「せいせいするわね」
「――!」
「大丈夫よ。力は加減しているから、死ぬような事はないわ。もっとも、半日ばかり悪夢
にうなされる事になるだろうけど」
 動けない僕を冷たく一瞥すると、真紅は一旦広辞苑を床に置き、ステッキでドアを開け
た。僕の横をすれ違いながら、真紅は止めの一言を口にした。
「ジュン。私は、あなたが私に言ったのと同じ事を言っただけよ?」

 キィ……パタン

 閉まったドアの向こうから、段々と遠ざかっていく真紅の足音が聞こえる。
 消えかける意識の中、僕はただ一言『ごめん、真紅』と言ったような気がした。




 なんか、初めて短い話を書いた気がする。

307:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/10 23:44:09 6w70HHHN
結構ピュアな真紅だね

308:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/10 23:56:20 9BdMt8FQ
短編SF

水銀燈「諸君、今回が我々ライノスクワッドの最初の任務だ。心してかかるように」
金糸雀「ハッハ!乗ってきたぜ!」
翠星石「ド派手にファッキンエイリアンをぶち殺そうぜ!」
~地上到着
水銀燈「ゴー!ゴー!カムン!」
金糸雀「イェア!ぶちかましてこようぜ!」
水銀燈「待て金糸雀!突っ込みすぎると死ぬぞ!」
金糸雀「もう待ちきれねえ!ヒャッフォー!」
翠星石「さすが切り込み隊長!俺も続くぜ!」
水銀燈「おい!無茶しすぎだ!そんなに突っ込むと俺も我慢できなくなってくるぜ!行け!突っ込め!ファッキンエイリアンをキルしろ!」
真紅「俺たち衛生兵がいつでもバックについてるぜ!さあ行ってきな!」
そして突っ込みすぎて囲まれた金糸雀、翠星石
敵は大量、弾は少量
金糸雀「アスホール!ファッキンビッチ!」
翠星石「隊長おせえぜ!俺たちだけで全員殺せそうだぜ!」
わらわらと沸いてくるエイリアン
金糸雀「イェア!ファッキンエイリアンをぶちのめすぜ!」
翠星石「フゥーハッハ!弾はいくらでもあるぜ!」

309:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 00:17:29 6x5XO0J4
向こうでウケたからって・・・

310:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 00:25:28 TbLloiqA
309が非常にいいこと言った

311:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 00:31:20 odL3bKVL
批判禁止だから何もいえない

312:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 00:40:52 TbLloiqA
向こうは批判禁止でないが無関心というもっと酷い状態だな。
批判でも、反応あれば書き手は喜ぶだろうに・・・

313:熊のブーさん
06/04/11 00:58:13 lQ9QqjB/
なんか流れ悪いから投下。パクリだけど・・・

《ターミネーター翠~プロローグ~》

「……なぁ」
「何ですか?ジュン」
「嘘だろう……」
「何度も言わせるんじゃねえですぅ。嘘なら翠星石はこんなところになんか来てないですぅ」

「ありえねぇぇぇーーー!!」
桜田家に絶叫が響き渡った。

事の始まりは今朝のことだった。
桜田家ドールズとのりは一昨日から二泊三日の温泉旅行だ。商店街の福引で当たったのである。
しかし我らがジュンは風邪を引いており留守番。泣く泣く旅行を諦めたジュンだったが不幸にも翌日にはすっかり完治していた。余談だがジュンの枠には巴が入ったとのこと。
家でおとなしくDVDを見ていたジュンはだらけていた。そこに響き渡るチャイム音。
ピンポーンピンポーン。
不機嫌なジュンはもちろん無視した。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン。
高橋名人もびっくりな見事な連打だった。ジュンも流石に腰を上げる。
「はいはいどなた?」
扉をけだるそうに開け……凍りついた。
そこにはダンボールを体に巻いた女性が立っていた。
「ど、どちらさまで!?」
「ふ、服を貸してくれですぅ!!」
悲壮な叫びだった。しかもその顔はジュンの良く知る顔だった。
「翠星石?」
「どうでもいいから早く中に入れやがれですぅ!!」
温泉に行ったはずの翠星石がそこに立っていた。


314:熊のブーさん
06/04/11 00:59:30 lQ9QqjB/
「助かったのですぅ……」
のりの服を勝手に使うわけにもいかないのでジュンは自分の服を着せていた。ジーンズにワイシャツというなんともラフな服装だが致し方ない。
ジュンはじろじろと翠星石を眺めた。なんか怪しい。髪の色、顔つき、左右の瞳の色、口癖、ぱっと見は翠星石だがドールの特徴とも言える球体関節が無かったような気がする。しかも目の前の翠星石は身長がどう見積もっても一八〇近くある。本物はこんなに大きいはずが無い。
「お前は何者だ?」
「翠星石ですぅ」
(いや、そうなんだろうけどさ。こんな翠星石は存在しないって言うかなんと言うか)
「えーと、正確には〔量産型翠星石試作機0001〕ですぅ」
ジュンはなんかすごいことを聞いたような気がした。
「手短に話すですぅ」

「桜田ジュン。貴方は命を狙われているのですぅ。そして私は貴方を守るために未来からやってきた人造人間ですぅ」


315:熊のブーさん
06/04/11 01:04:04 lQ9QqjB/
ジュンは開いた口が塞がらなかった。おもむろに電話帳を引っ張り出す。
「えーと、この街の精神病院っと」
「信じてないですね。チビ人間」
「当たり前じゃ! なんだ人造人間って。お前は…本物の翠星石は人形だろ!」
「人の話を聞かないチビ人間には論より証拠ですぅ。スィドリーム!」
どこからか人工精霊がやってきて、四角い機械のようなものを出した。翠星石はおもむろにスイッチらしきものを入れる。半透明の映像が浮かび上がった。
「ホログラムか?これ……」

しばらくジュンは翠星石のナレーションを交えながら映し出される映像を見た。
映し出されるのはどうやら未来の世界。だが廃墟と骨、使い捨てられた兵器ばかりだった。
翠星石が言うには近い将来世界規模の戦争が起こるらしい。ロボット工学の進化と人工知能の開発、発達により体が機械ということ以外はほとんど人間と言えるロボット達が反乱を起こしたためだ。人間VS機械である。

初めは人間側が優勢だったが次第に苦しくなってきた。そこで持ち上がった計画が人間側も人造人間を作って数で一気に押し返す計画である。
その計画の中心にいたのがジュンの子孫だった。先祖が研究したという人形の資料をベースにしてついにローザミスティカの劣化版が完成した。
劣化版といっても機能的にはほとんど同じである。ただし、半永久的には使ずnのフィールドにも入れないことが難点だが兵力としてはそれで十分な出来だった。特殊能力ドールズの活躍によって戦況は人間側に大きく傾いた。
「ここからが問題なのですぅ」

機械側も黙ってはいない。打開策としてドールズの発明を無かったことにしようとした。
そう、時間軸への干渉である。すでに理論上完成はしているが何が起こるか分からないとして禁忌とされてきたがついに決行された。
一方で人間側もスパイによってその情報を得ていたため、同時期に一体ずつ試験的に過去に送られた。対象は桜田ジュンである。
「なんか某映画と同じシュチュエーションなんですが」
「まさにそうなのですぅ。いい加減自分のおかれた状況を理解するのですぅ」

桜田家に絶叫が響き渡った。

          つづく?


316:熊のブーさん
06/04/11 01:10:52 lQ9QqjB/
ローゼンスレで出てきた話題をSSにしてみました。
続きは考えてありますが…

いかんせん某映画のパロディ+スレで出た案の引用なので不快に思われる方もいるかと思います。
「嫌だ」という声が多いのならば続きは書きません。どうすべきかご意見おねがいします。





317:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 01:13:38 4yz1JkjG
個人的にはノープロブレムなんだけど、翠が180cm越えは勘弁して欲しい('A`)

318:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 01:16:25 I6pxeyAF
映画ならマイノリティーリポート風きぼんぬ

319:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 01:17:42 TajsWL/u
>>316
トロスレでターミネーターの話題を切り出した者です。
wktkしてます!続きを!

320:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 01:21:20 aVhVZ2C6
せめて160cmくらいだなw

321:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 01:32:27 odL3bKVL
久々に書こうと思ったけどネタないね

322:DEATH NOTE  1/6
06/04/11 01:35:30 LTjhAEnw
桜田家、ジュンの部屋。 下の階ではいつもの人形たちがいつもの通りに騒いでいる。
しかし、彼、桜田ジュンの現在の心境は「いつもの通り」とは程遠いものだった。

漆黒。 彼の手に収まった一冊の黒いノート。
……ごくり。 ……ごくり。 渇く。 渇く。 …もう何度、唾液を嚥下しただろう。
かすれかけた声で、ゆっくり、確かめるように。 ジュンはノートの表題を読み上げた。

「…………デス・ノート」



週刊少年ジャンプ。 日本に住む男子なら、10人中10人は読んでること請け合いのキング・オブ・少年誌だ。
当然僕だって読んでる。 まして「デス・ノート」ときちゃあ、知らないワケがない。

名前を書いただけで人を殺してしまえるノートなんて、とんでもない設定だよな。
ありえないし、悪趣味だし、心臓に悪い。 だけど…面白いんだよなぁ、これが。
絶対うちのクラスにも「桜田ジュン 自殺」なんて悪ふざけをしてる奴がいるに決まってる。 くそっ。


でもまぁ、そんなのなら別にいいんだ。 
そんな田中何某やら、鈴木Aくんやらのノートに名前を書かれたからって、僕が死ぬわけない。 当たり前だけど。
そいつが自分の幼稚さと馬鹿さ加減を周囲にアッピールするだけで、ハイ終~了~、だ。

問題は、僕の部屋にあるこのノート。 「いつの間にか」僕の部屋に「現れた」このノート。
これがどうも「本物のような気がする」ってこと………。

323:DEATH NOTE  2/6
06/04/11 01:36:37 LTjhAEnw
自慢じゃないが、僕はクーリングオフの達人だ。 その商品がどれくらい「インチキ」かなんて、直感で大体分かってしまう。
で、僕はなるべく「インチキそうなもの」を買う。 だって、まともなもの買ったってつまんないじゃん。

…………だから。 僕が「これ」を買うはずはない。 ありえないんだ。
自慢じゃないが、僕はクーリングオフの達人だ。 そのせいなのか……一目で分かった。

「やばい。」

乾く。 渇く。 手に持っているだけで汗が出る。 喉が渇く。
エアコンは今日も絶好調。 なにせ、真紅たちにせがまれてこないだ新調したばっかりの新品だ。
室温は快適、湿度も最適。 なのに。 後から後から訳の分からない汗が吹き出て、一向に止まってくれない。

「開けちゃ駄目だ…」

頭の中で、正しく理性が警告を向ける。 やばい。
これを開けたら、開けてしまったら……? たとえ偽物でも。 きっと、確実に、僕の中の「何か」が壊れてしまう。

ハッと我に帰って、愕然とした。 僕の指が、知らない内に、1ページ目にかかっている…?
開けるな! …頭では分かってる。 でも、頭と、体が、なぜかちっとも……繋がってくれていない。

もちろんありえない。 馬鹿げてる。 ノートに名前を書いただけで、人が死ぬなんて。
……でも。 もし「できたら」? 本当に人が殺せたら?

………………あいつらの居ない世界が、本当に創れたら………………?


「桜田ぁー、俺の姉ちゃん、お前の姉ちゃんと友達でさぁー……」
中西。

「桜田の席もちゃあんと空けておいたんだぞ!」
梅岡。

「……………………………………」
……桑田、由奈。

324:DEATH NOTE  3/6
06/04/11 01:38:22 LTjhAEnw
緩やかに、緩やかに、僕の心が誘惑に負けていくのが分かる。
それはとてもいけないこと。 分かっている。

……でも。 いけないから、何だってんだ?

どうしてだよ? なんで僕なんだよ?
あの時、ノートの落書きさえ消してれば。 いや、あの提出したノートにさえ書いていなければ。
…そもそも、あいつらが余計な事さえしなければ。

どうしてだよ!! なんで僕なんだよ!!!!

うつろだった。 僕の頭は考えることをやめて。
僕の目はただ、僕の指がゆっくりとページを開く光景を映していた。
ページの端を空しくなぞっていた指が、やがてページとページの隙間に入って……

「ジュン」


……………「心臓が口から飛び出る」とは、まさにこの事を言うんだろうな。
100のお小言より、1000の体罰よりずっとずっと効果的。
その小さな赤い人影のたった一言で、僕はすっかりバッチリ現実に戻ってきた。

「のりが呼んでるわ。 夕食よ。」
「……先に行ってろよ。 すぐ行くから。」

背を向けたまま答えて、真紅が立ち去るのを待つ。
なんだか後ろめたくって、真紅の顔をまともに見られなかった。
いま真紅と目を合わせたら、あの凛とした視線に、心の奥底まで見透かされてしまいそうで。

今か今か…真紅がいなくなる気配をうかがう間も、僕の心は安堵と息苦しさでミキサー状態だった。
1分……2分……不思議に思って振り返る。 真紅はまだそこにいた。 柔らかに微笑んで。

「いい子ね、ジュン」

325:DEATH NOTE  4/6
06/04/11 01:40:39 LTjhAEnw
「な、な、な!? なんだよ唐突に!?」

もう焦りまくってしまって、全然口が回らない。 僕と真紅の心は繋がっている。
早い話、さっきまで僕を支配していた仄暗い考えが、真紅にバレてしまったのかと思ったのだ。

「別に。 あなたの頬……泣いていたようだから。」
「え?」

頬に手をやると、確かに濡れている。 全然気付かなかったが、僕は泣いていた…らしい。
泣いてるところを見られた気恥ずかしさやら何やらで。 できるならもう何処かに消えてしまいたかった。

でも、真紅は言った。
「顔をあげなさい、ジュン。」
「それは貴方が自分の弱さと向き合って勝った証。 貴方の誇り。 ……私の、誇り。」

……こいつは。 僕は、今にもノートを開いてしまうところだった。
楽になれる気がしたから。 もう苦しい思いをしなくても済むと思ったから。
戻ってこれたのは。 声を掛けてくれたから。 ……こいつが。

「……僕は」
「ジュン」
「うわっ!」

気が付くと真紅の顔が大接近していた。 心拍数が激増したのが嫌なくらい分かる。
落ち着け僕! 人形じゃないか! 平常心…平常心…
真紅の手の平が僕の手を包む。 平常心! 平常心!

……と。 いつの間にか真紅の手にデス・ノートが握られている。 あ、そういう事……。

「ジュン。 このノートが貴方を苦しめていたのね。」
パラリ。

「うわあああああああああ!!!???」
ここここいつ! あっさり開きやがった!

326:DEATH NOTE  5/6
06/04/11 01:42:05 LTjhAEnw
なんだよ! なんなんだよ!
さっきまでの僕の逡巡はなんだったんだよぉーーー!

あんまりな展開にノリ突っ込みしようとした矢先。 真紅の険しい顔に気が付いた。

「ジュン…………あなた、このノートを開いたの?」
「え? い、いや。 開こうとしたらお前に声掛けられてさ……」
「そう……」

真紅はノートを閉じると僕に告げた。 声が心なしか固い。

「いいこと、ジュン。 世の中には沢山の扉がある。 でも、無闇やたらに開いては駄目。」
「扉の中にいるものは、必ず貴方を見返してくる。 それは、魅入られてはならないものかもしれないのに。」
「ジュン。 貴方は開けてはいけない扉を開こうとしたのよ。」

なんだ、この剣幕は。 静かだけど、確かに怒気を含んでいる。
……まさか。 さっきまでの震えがブリ返してくる。

……本物だったのか。
僕は。 取り返しのつかないことをするところだったのか。


「………………………………ごめん。」

言葉を選んでも、適当なのが見つからなくて。 結局僕の口から出たのはありきたりな「ごめん」だった。
あぁ、そうだ。 真紅は言った。
気付こうとしなければ分からない。 自分が想われているということ、自分を想ってくれるひと。
それを、その気持ちを、僕は裏切るところだったのだ。

昔の僕ならどう思ったかは分からない。 でも、今の僕は。
そんなの嫌だと、確かに思った。
そんな僕の心を知ってか知らずか。 真紅はもう一度……今度は僕の耳元で囁いた。

「いい子ね、ジュン」

327:DEATH NOTE  6/6
06/04/11 01:45:38 LTjhAEnw
「ジュン、夕食に行きなさい。 そこに貴方を待っている人たちがいるわ。」
「……いちいち大袈裟なんだよ。」

照れ臭くてしょうがないから、憎まれ口。 まぁ、バレバレだけど。
まったく、たかが一冊のノートのために何だか随分疲れさせられたもんだ。

でも……真紅たちのような「生きた人形」がいるんだ。
僕がデス・ノートを信じかけてしまったのも、無理はない……よな?
他ならぬコイツ等に、世の中何でもアリな所を見せ付けられてきたんだから。

「ほら…………抱っこだろ。 下まで運んでやるよ。」
「私は後から行くのだわ。 『これ』をどうにかしなきゃいけないし。」

そっか。 デス・ノートの処分。 餅は餅屋というか、怪奇現象は怪奇現象に任せるのが一番いいのかもしれない。

「そんじゃ、任せた。 ……あ、死神が出てきたら僕を呼べよ? お前、怖がりなんだから。」

一言残して、僕は階段を降りていった。

328:DEATH NOTE  EP
06/04/11 01:46:39 LTjhAEnw
「……………危なかったのだわ。」

ジュンが去った後、ノートをパラパラとめくる真紅。 その表情は先程よりも一層険しい。


【○月×日 晴れ】
今日のジュンはいつもより何だか…ちょっとだけ凛々しかったです。
もちろんチビ人間にしてはですけど。
ジュンがソファに腰掛ける時、いつも左側に私の分のスペースを空けてくれてる事に、今日急に気付いてしまったです。
おかげでテレビの内容を全く覚えてないです…………覚えてる……のは……。


【○月△日 晴れ】
雛苺と金糸雀が今日もおチビ同士じゃれ合っているです。 騒がしい奴らですが、まぁ許してやるです。
……でも、二人を見ていると、どうしても私と蒼星石を重ねてしまうです。
蒼星石。 蒼星石に会いたい……。 人前でこんなこと言って、みんなを心配させたくないです。
でも、やっぱり顔に出ているんですね。 今日流れ込んできたジュンの意識は……私の傷を包もうとしてくれていたから。
きっと、ジュン自身も気付いてないですけど……。


「……………危なかったのだわ。 色々な意味でギリギリだったのだわ………」

私は何も見なかった事にして、翠星石の鞄の中にそっとノートをしまった。
私は誇り高きローゼンメイデンの第五ドール・真紅。 この物語の正ヒロインなのだわ……。



「ですぅノート・完」

329:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 01:52:32 CbMkq8Up
まぁオチは読めたけど面白かった
GJ




最後の真紅の必死さがツボwww

330:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 01:54:00 lQ9QqjB/
ワロタwww
そうきましたかw

331:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 05:12:22 UFzO3RAM
もうちょっとで、翠星石がヒロインに成り上がれたのに・・・w

次回作wktkですー

332:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 05:20:46 6x5XO0J4
真紅必死だなw


333:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 17:40:25 80MLGtOT
>>300
ご助言ありがとうございます。考え付かなかった自分が情けない(-_-;)

>>322
そんな展開でくるとはw
次回作期待

334:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 22:13:26 gfQimYBY
GJ
どこでもジャンプネタ多いな。やっぱ週刊漫画紙で一番売れてるのか。

335:熊のブーさん
06/04/11 22:49:07 7QUxIRDh
お久しぶりです。前回の続きを投下。

《ターミネーター翠~第1部~》

「最近なんかすごい不幸だ…新学期シーズンで頻繁に梅岡は来るし…風邪ひくし…命狙われるし…」
「激しく鬱モードに入ってないでシャキッとしやがれですぅ」
一人と一体はテンションがまったく逆だった。
「とにかく、翠星石が来たからには安心ですぅ。チビ人間をしっかり守ってやるですぅ」
「どうだかなぁ」
「でも、一応翠星石はお客さんですぅ。お茶くらい出しても…」

ピーンポーン

「お客だお客」
「こらぁチビ人間!!逃げるんじゃねえですぅ!!」
ジュンは一刻も早く扉を開けようとした。
たとえ梅岡でもかまわない。現実味のある話がしたかった。正直、梅岡と世間話は嫌だがしかたない。あぁ、平穏な現実へのドアノブに今、手をかけて……
「待つですぅ」
肩を掴まれ止められた。ジュンは恨めしそうに振り返る。
「なんだよお前。僕はこれからめくるめく現実への第一歩を……」
その先が言えなかった。一八〇の巨漢は険しい顔でショットガンを持っている。
「なぁ、銃刀法って知ってるかな。ってゆーかお前どこからそんなもんもってきた!!」
「静かにするですぅ。刺客かも知れないのですよ?」
ジュンの血の気が引いた。
「もしかして…もう来ちゃってたりするわけ?」
「可能性は特大ですぅ」
ジュンはゆっくりと慎重に覗き穴から様子を伺った。梅岡だ。


336:熊のブーさん
06/04/11 22:50:24 7QUxIRDh
「大丈夫だ。怪しいやつじゃない」
「情報によると相手は液体金属で出来た化け物ですぅ。どんな形にでもなれるのですよー?」
「じゃあどうやって調べろと……」
「こうするですぅ。スィドリーム、アレを」
翠星石が手をかざすと手の中には空き缶のようなものが現れた。
そして、おもむろにドアを開けると梅岡に缶を放り投げた。梅岡の足元で落ちると一気に白いもやが缶から噴出する。
「何投げたんだ?」
「液体窒素ですぅ」
翠星石はこともなげに答えた。
「おい!あれが本物の梅岡だったらどうするんだ!!」
「人体には無害ですぅ。多分!!」
みるみる内にもやが晴れていく。ゆらりと人影が現れた。
しかし、それは梅岡では無かった。水銀のような液体が人の形を作っており顔の部分だけがかろううじて元の梅岡の姿を保っている。しかも笑顔だ。
『サァクラダ~ァ~』
「……うわぁ」
「さしずめ液体UMEOKAってところですぅ」
あろうことに液体UMEOKAの第一声が自分の名前だったことにジュンは寒気がした。
液体UMEOKAは笑顔を貼り付けたままゆっくりと動き出した。
「どうするんだ?あいつ」
「こういうときは逃げるのが鉄則ですぅ。スィドリーム!」
人工精霊が大型のバイクをどこからともなく召喚(?)した。
「何でもありだな。未来の人工精霊って」
「おっと、今のうちに準備をしておくですぅ」


337:熊のブーさん
06/04/11 22:52:18 7QUxIRDh
翠星石はまた缶を出させ、UMEOKAに投げつける。
動きが鈍っていたUMEOKAは白いもやに包まれると動きを止めた。
「しばらく足止めできるですぅ。さてチビ人間、早いトコ旅の支度をするですぅ」
「はいぃ?」
「鈍いですねチビ人間!この家にとどまっている気ですか?」
のり達を巻き込むわけには行かない。さすがのジュンにもすぐ理解できた。
ジュンは大慌てで家に入った。
「えーと、準備準備っと……」
ふと目に入るのは旅行用のバッグ。荷造りしたままでほったらかされていた。
「これでいいか。あとは…」
帰ってきたのり達に自分がいないことをどう伝えるべきか。今世紀最大の難問だった。
「まともに書いても普通信じないしな、かといってでたらめ書くのもマズイ」
考える人となった。
「チビ人げーん! 早くするですぅー!」
「よし、これでいこう」

「お待たせ。翠星石」
「早くバイクに乗るですぅ。」
もう既に翠星石はバイクに跨りエンジンをふかしている。ジュンは翠星石の後ろに跨った。
「……おまえの服装を何とかしてから行ってもいいかも知れん」
「そんなもの後回しですぅ。出発ですよ!」
翠星石は思い出したように振り向き、持っていたショットガンの引き金を引いた。
見事命中。UMEOKAの頭が吹き飛んだ。頭だった液体が地面に落ちてプルプルと震えている。
「完全消音装置付きなのでご近所にばれて通報される恐れも無いですぅ。今なら二つセットで三十万円ですぅ」
「色々と突っ込みたいところだがあえて我慢しよう」

グォン!ガロロロ……
けたたましい音を立てて一人と一体を乗せたバイクは走り去った。

しばらくして、固まっていたUMEOKAは動き出した。瞬く間に人間の姿に戻り抹殺対象の追跡を開始する。
「桜田ァ~待ってろよォ~」
やはり笑顔だった。
周りに人がいたら通報されそうな怪しい雰囲気だが周囲には人の影はまったく無い。

生死をかけた鬼ごっこが始まった。

    つづく

 一応3部作ぐらいで終わるように書いています。
 駄文ですがどうぞお付き合いください

338:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/11 23:45:20 odL3bKVL
俺の脳内では玄田ボイスのシュワルツェネッガーがですぅ口調で喋ってるんだが、何か間違ってるか?

339:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/12 00:18:01 ykZkHAUO
>>338、脳内フィルター!脳内フィルター!

桑谷夏子がシュワちゃんの声をあてているんだ!






_| ̄|○ソンナワケネェヨ

340:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/12 00:19:58 ykZkHAUO
ごめん、ageてしまった…鬱氏

341:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/12 08:00:45 NnDeY/yX
翠の身長は180だとはわかったが---背だけならまだいい。背が180なのはいいが、筋肉でムキムキな翠はキツいかもww

342:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/12 09:38:27 8aTmAWXP
だがそれがいい

………んなわけないな、こんなカオスw

343:ケットシー
06/04/12 21:03:50 rDzW6dMx
>>303

 今日の真紅は朝からずっと不機嫌だった。
 理由は、目の前の人形達にあった。

「どうして逃げるの? 手を握っただけじゃない」
「なんで手を握る必要があるんだよ!」
「私のこと、嫌い?」
「嫌いじゃないけど―って、もうそれはいいって!」
「ぐすん……」
「泣いてもダメェッ!!」

 昨日の今日だというのに、めぐは懲りずにアタックを続ける。ふられたからといって、アリスゲームを諦める訳にはいかない。これは、ただの恋愛ゲームではないのだ。
 しかし、あれだけ見事に玉砕して一晩で立ち直れる彼女は恐ろしくもある。めぐのジュンへの執着心は病的だった。ジュンが彼女を恐れるのも納得できる。

 人形達は朝からこれと似たようなやりとりを、飽きもせずに何度も繰り返していた。厳密には、ジュンはうんざりしているのだが、めぐを無視することは許されない。何故なら、彼女を完全に無視すると、もっと凄い事になるからだ。
 以前に一度、散々追い掛け回されたジュンは、彼女を無視してみた事があった。
 その時の事は思い出したくもない。めぐは口を利いてくれないことに耐え切れず、昨日のようにいきなり襲ってきたのだ。言うまでもなく、強姦である。
 その時は他のドールの助けもあって九死に一生を得たのだが、そんな危ない橋は何度も渡りたくはない。なので、めぐを放っておく訳にもいかないのだ。

 そんな理由を真紅が知るはずもなく、彼女のイライラは沸点を超えようかという所まできていた。ジュンとめぐのやりとりは、傍からだとイチャイチャしているようにしか見えない。真紅は自分の部屋に居ながら、二人の邪魔をしているように思えて居心地が悪かった。
 とてもではないが、この空気の中では落ち着いて本など読めない。読書という最も大切な行為に支障をきたされ、真紅の精神状態は平静ではいられなかった。

 それでも、真紅は本を開いて読書に集中しようとする。読書への情熱が、こんな障害如きに阻まれてはならないのだ。もはや、これは戦いだ!

344:ケットシー
06/04/12 21:05:08 rDzW6dMx

「ねえねえ、私のマスターにはもう会った? 水銀燈っていうんだけど」
「ああ、昨日の夜、怒鳴り込んできたよ。でも、優しくてきれいな人だったなぁ」
「でしょ~。今度のマスターは大当たりだわ。ジュンの新しいマスターはどんな感じ?」

 真紅の耳がピクリと動く。話題が自分の事となっては、気になっても仕方がない。
 ジュンは難しい顔をして自身のマスターの印象を語る。

「うーん……気難しい人っていうのかな。どうも、とっつきにくい感じがあるんだ。ちょっと苦手かも……」
「あはは、それってハズレってこと?」
「そうなるのかな」

 本を持つ手がワナワナと震える。
 ハズレだと? 人形風情が人間様に向かって何を言う!
 我慢に我慢を重ねてきた真紅も、標的をピンポイントで狙ったこの攻撃には耐えられなかった。
 本を閉じてテーブルに置くと、すっくと椅子を立って人形達の方へ歩を進める。
 ジュンとめぐは、二人を覆う影に気付いて上を見た。
 そこには、ツインテールを角のように立てる赤鬼の姿があった。

「真紅、どうしたの……?」

 ジュンが怯えながらご機嫌を窺うが、時すでに遅し。真紅は問答無用で二人を片手ずつに抱き上げると、部屋の出入り口へと向かった。

「読書の邪魔」

 それだけ言って、真紅は二人を部屋から放り出した。

345:ケットシー
06/04/12 21:06:03 rDzW6dMx

「追い出されちゃったね」

 めぐが何やら嬉しそうに話し掛ける。
 ドアが閉まるのを呆然と見ていたジュンは、今の状況に気付いて戦慄した。
 めぐと二人きり。それは、これ以上なく危険な状況に他ならない。
 人目があってもすこぶる積極的な彼女だ。それがなくなったら、どんな行動に出るか簡単に想像がつく。獣は野に放たれた!

「真紅っ、ドアを開けて! お願いだよっ!」

 ジュンはドンドンとドアを叩くが、鍵を掛けられたドアはびくともしない。
 部屋の中で、真紅はその様子を聞いていた。助けを呼ぶ声が、椅子に向かう彼女の足を止める。
「開けてっ! 独りにしないでっ!」
 真紅を頼るジュンの声が、彼女の心を揺さぶる。
「ひど~い、私がいるじゃないのぉ」
「め、めぐっ、ダメだって!」
「何がダメなの?」
 真紅が迷っている間にも、外のジュンにめぐの魔の手が伸びる。声しか聞こえなくても、ジュンが危ない目に遭っているのは目に見えるように分かる。
「もうっ……!!」
 意地になっていた真紅が、身を翻してドアに向かう。あれだけ散々に言われても、彼女はジュンを放っておけなかった。
 ロックを解除してドアノブを押した真紅は、助けが遅かったことを知る。

「あれ……いない?」

 部屋の前に二人の姿はなかった。廊下に出て端から端まで見渡しても、それらしい姿はなかった。めぐから逃げるためにどこかへ行ったのだろう。
 探してまで助ける気は起きず、真紅は部屋の中へと戻った。



つづく

346:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/12 23:18:34 gwWgd99E
ジュンの行方が気になるww
次回を待ってます。

347:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/12 23:28:56 USFKA6Kf
なぁ、JUM
いっそ全員相手してやれよ、不可能は無いんだろ?w

348:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/12 23:32:12 QmMSSJeQ
もう本格的に貞操の危機w
続き待っているのであります!

349:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/12 23:58:19 4Il6KEPW
めぐに襲われるだと……?羨まし過ぎる!!!

350:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/13 02:11:00 P2GUeByp
・・・ここってパロ書いていいの?

351:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/13 03:01:41 sZ6i6y4q
あらすじ

ダメだ、書く気力がねえや

352:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/13 09:51:22 Dkasgkgz
ドールなのに何か特殊能力ないのか?

353:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/14 01:56:45 6auwVfXk
また寂れてきたな

354:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/14 10:51:56 iYZrqBJC
もう---何かの宿命でつか?(汗

355:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/14 18:27:50 G1QNuHvt
寂れてはいけないのか?

356:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/14 21:25:49 GHoT2auI
>>350
この板ネタスレ多いし、大丈夫…と思う
どうしてもダメなら、次スレはサロンにでも立てればいいんじゃないかな

357:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/14 22:18:54 G1QNuHvt
いやいや、流行らないから他のところに立てるってのは考え方としては間違っている。

358:熊のブーさん
06/04/15 00:48:49 PErZorpn
ちょっと間が空きました。前までのお話覚えてる人います?

パロディの是非に関しては……ご愛嬌ってことで許してください。では投下

《ターミネーター翠~第二部~》

一人と一体を乗せたバイクは市街地を抜け、郊外に出ていた。
遠くに山も見える。

「おい、どこまで行くつもりなんだよ」
「海外に高飛びするですぅ」
「……マジ?」
「冗談ですぅ」
何時間走ったのだろうか。そろそろ日も暮れる。
「いつまでに逃げ続ければいいんだ?」
「大体七十二時間程。まぁ三日前後ですぅ」
具体的なゴールが見えてきた。
「やけにはっきりしてるな。理由は?」
「極秘ですぅ。たった今翠星石がでたらめにでっちあげたなんて死んでも言えるかですぅ」
ジュンは後ろから翠星石の首を絞めたくなる衝動に駆られた。しかし楽々とショットガンをぶっ放していたとはいえ運転している翠星石は細身の体だ。ハンドル操作を間違えて事故を起こされても困るので自重する。
「もちろん冗談ですぅ」
翠星石はケラケラと笑った。
「あの手の化け物はエネルギーの消費が半端じゃないんですぅ。おまけにエネルギー源はこの時代には発明されてないはずなので補給不可。よっておよそ七十二時間程度でエネルギー切れになり、ただの液体になってしまうのですぅ」
「UMEOKAのエネルギー源って何なんだ?」
「詳しく聞いてきたわけじゃないからよく分からないですぅ。確か“ようりょくたい”なるものから精製されるエネルギー源とか言ってたような…」
ジュンのこめかみがピクリと動いた。
「ソレハ、「ハッパ」トカニフクマレテイルモノデスカ?」
「それですぅ。あ、でもあいつには精製は無理ですぅ」
「なぜに言い切れる」
「大量の“ようりょくたい”と、時間が必要になるのですよ。チビ人間。まとまった量を精製するのに1週間はかかるはずですぅ」
ジュンは安堵した。
へたをすると一生逃げ回ってないといけないのかという不安が拭い去られたからだ。
「…………桜田~……………」

359:熊のブーさん
06/04/15 00:50:06 PErZorpn
ジュンのこめかみがまたピクリと動いた。
「疲れてるのかな。幻聴が聞こえるや」
翠星石は後ろを振り返った。
「幻聴ではないのですぅ。ヤツが追いついてきました」

ジュンは恐る恐る振り返る。

UMEOKAが走っていた。笑顔で。
なんというスピードだろうか。ジュンは生まれて初めて「走っている人の足元から煙が出ている」という現象を目の当たりにした。このままでは追いつかれる。
「ついに天は我を見放したか……」
ジュンは胸の前で十字を切った。
「しつこいヤツですねぇ。そんなヤツにはこれをプレゼントですぅ」
どこから取り出したかバナナの皮。中身はもちろん翠星石が頬張っていた。
ぽいと後ろに放り投げる。完全にポイ捨てだ。
「これでこけるはずですぅ。うしししし」
ジュンはもう一度胸の前で十字を切った。もうだめかもしれない。
ちらっと後ろを振り返ってみた。
それは見事な宙返りだった。UMEOKAが宙を舞う。頭から舗装された道路に突っ込み、なんか卵を地面に思い切りたたきつけたような音がした。
後に残るのは微妙に蠢く水溜りのみ。
「楽してズルして迎撃ですぅ。おっとっと」
翠星石は巧みなハンドル操作で後ろからきた大型トラックに道を空ける。
「やっぱ世の中間違ってる」
「桜田~」
また聞こえた。
「もう追いついてきたのか」
振り向いて確認する……が、道路が続いているだけで何も無い。
「今度は前ですぅ」
先程ジュン達を追い抜いたトラックの荷台の上にUMEOKAがいた。いつの間に。
「かなりまずいですぅ。緊急事態ですぅ」
翠星石が珍しく緊張した声をあげる。
「あいつ、何のつもりか葉っぱを食べてるですぅ。意味の無いことはしないはずの化け物が何故…?」
ジュンもUMEOKAを見てみた。しかしもう辺りは薄暗い。
「よく見えないぞ」
「まぁチビ人間には無理ですぅ。暗視オッドアイ完備の翠星石だから見えるのですぅ」
さすが人造人間。
「桜田~死ねェ~!」
UMEOKAの腕が変化していく。鉤爪のような形だった。引っかかれたら痛いではすまないだろう。
「スィドリーム!」
現れたるはショットガン。
翠星石は片手でショットガンをぶっ放した。しかしUMEOKAは鉤爪を振り銃弾を弾いた。あまりのスピードにジュンの目には爪の残像が見えた。
「桜田ァァァァ!!」
こちらに飛び移ってこようとUMEOKAは大きく身を屈めた。


360:熊のブーさん
06/04/15 00:50:52 PErZorpn

刹那、UMEOKAの姿が消えた。
ジュンは自分の目を疑った。あまりの速さにまた視認できなかったのか?
「どこに行ったんだ?」
「トンネルに入ったんですぅ。小さめのトンネルなのであのトラックの車高ぎりぎりですぅ」

その頃、UMEOKAはトンネルの入り口の天井部分に張り付いていた。
「サ…クラ…ダ……ァ」


しばらく走ると巨大な木があった。もうUMEOKAは追ってこないようだ。
辺りはすっかり暗いが、月と星の光でやや明るい。
「ここらで休むですぅ」
ジュンは疲れてもう返事も言えない。休めることはありがたかった。
ジュンは木に寄りかかって一息ついた。翠星石は火を起こそうとしている。
「こういうときこそ文明の利器ですぅ」
人工精霊がライターと小枝、紙までも出した。
将来、重い荷物は全て人工精霊に持ってもらう時代が来るかもとジュンはぼんやりと考えながら
翠星石の作業を眺めていた。

無事に火がつき、だいぶ明るくなった。
ふいに、ジュンの旅行バックから賑やかな音が流れてきた。
「あー……そういや携帯持ってきてたんだっけ……」
家の番号から着信ありだ。通話ボタンを押す。
「もしもし」
「ジュンくん!? ジュンくんなのね! 良かったぁ繋がって」
のりの声だ。もう帰ってきていたのか。
「今どこにいるの?なんなの“旅に出ますもう探さないでください。”って!」
そういえば書置きにそんなことを書いたような気がする。
「もしかして家出?今どこにいるの!!」
「……」
ジュンは電話を切り、電源をOFFにした。いちいちかまっているほど余裕が無い。
「あんまり家族にそっけない態度を取るのもどうかと思うですぅ」
「大きなお世話だ」
「心配してくれる人がいるから出来ることですよ?はい、ご飯ですぅ」

携帯食料のオンパレードだったがジュンは残さずたいらげた。
「翠星石の手料理なんですからうまくて当然ですぅ!」
いや、お前は暖めたりしただけだったような気がするが。
満腹になったせいかジュンは急に眠くなった。
「見張りは翠星石がしておくですぅ。おやすみなさいですぅチビ人間」
そのままジュンは横になり寝てしまった。

「……さてっと」
焚き火の火をつつきながら翠星石は一人思案する。
「どうにも不可解ですぅ。なぜにあの化け物は葉っぱを食べていたんでしょうか?」
翠星石は自分なりの答えが出ていた。しかしそれは最悪の部類の結末だ。
火の粉がパチパチと飛んでいる。
「あくまで仮説ですが……」
誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
「自分でエネルギーを作りだせるように進化しているのかもしれないですぅ」
そうなると三日間逃げ切ればよいなどという悠長なことは言ってられない。永遠に鬼ごっこは続いてしまう。
「なにか手を打っておいた方がいいかもしれないですぅ……」
翠星石はちらと出しっ放しにされているジュンの携帯を見た。

        つづく


361:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/15 00:58:01 7Uxmq0oW
>>360
イイヨ 
イイヨー

362:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/15 13:54:05 b2HiOau3
どこまでマジなのか笑えばいいのかわからんですぅ

363:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/15 14:11:34 3HrxXVbl
ですぅ口調ウザ

364:I'veの『Imaginary affair』を聞いていて、なんとなく思いついた
06/04/15 23:25:09 iAQIlCkw
 ん~ん、いい天気ですぅ。ジュンの新しい門出を祝うには、うってつけです。
 それなのに、なんでのんびり朝寝坊を決め込みやがりますか、このチビ人間は。
 ほらっ、とっとと起きやがれですっ!
『ユサユサ……ユサユサユサッ!』
 はぁ、しょうがないですぅ。奥の手を使うです。
 この『えむぴーすりーめざましどけい』に吹き込んだ『起きろったら音頭』を聞けば、
一発でチビ人間が目を覚ます事間違いなしです。ここをこうして……っと!

 ♪おっきろーおっきろーおっきろーおっきろー
   おっきろーおっきろー おきろったら! ですぅ
  おっきろーおっきろーおっきろーおっきろー
   おっきろーおっきろー 寝ぼけてるひまはない! ですぅ

 ―あ、起きたです。効果てきめ……きゃあっ!
 何するですか、枕なんぞを投げやがって! 翠星石が潰れたらどうするですかっ!
『ブンッ! ゴスッ! バタッ!』
 きゃああああっ! こ、こらチビ人間起きろですっ! せっかく起きたのに寝るなです
っ! というか、永眠しないで、ですううううっ!



 遅いわよジュン……どうしたの、顔面が変な形に腫れ上がっているわよ?
 早く席について。のりが作ってくれた朝食を食べなさい。
『ペシッ!』
 行儀が悪いわよ。ちゃんと「いただきます」とおっしゃい。
 ―え? スープがぬるい?
『ペシッ!』
 自業自得よ。寝坊してきた分際で、偉そうな事を言わないで頂戴。
『ペシッ!』
 ズルズル、クチャクチャと音を立てないで頂戴! もっと上品に食事をなさい。
『ペシッ!』
 ジュン、「ごちそうさまでした」は? ―ん、よく言えました。
 あ、えっと……ジュン、なかなか似合うわよ、その新しい『せいふく』は。



 あ、ジュン君おはよう。ジュン君、今日から『がっこう』だよね? 今、僕と雛苺でジ
ュン君の靴を磨いていたところなんだ。ほら、見て。
 あ、そっちは雛苺が……あははは、ごめん。僕が磨き直すよ―これで良いかな?
 ―ジュン君、顔が真っ青だよ? ひょっとして、『がっこう』に行くのが、怖いの?
『ぎゅっ』
 ―大丈夫。ジュン君は、もう1人で歩けるんだから。さぁ、靴を履いて。
 もしも不安になったら、しゃがみこんでいい。振り返ってもいい。皆、ジュン君の事を
見守っているから。お姉さんも、柏葉さんも、真紅も、翠星石も、雛苺も―もちろん僕も。
 ジュン君は、決してひとりぼっちじゃないよ? だから、安心して。
 元気、出た? ―そう、良かった。
 ―え? 翠星石が? あ、あははは……よく言っとくよ。
 うん、いってらっしゃい!



終わり

365:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 01:57:33 lOXDzfyE
>>364
実際には、学業復帰に戻るのはいつのなるやら
個人的には学業復帰ENDでその際はアリスゲームも済んでいて
人形がお父様の元に戻っていて
ドールズの居なくなった桜田家のラストと思ってるんだけど

こう言うエンドもいいね

366:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/16 19:04:05 gMHgnuVM
それでは、一本投下します

「日曜夕方のブルー」を少しでも癒して頂ければ幸いです

では、SS「みっちゃんはね♪」、どうぞ

367:みっちゃんはね♪(1)
06/04/16 19:05:38 gMHgnuVM

「ハァ・・・」

ローゼン・メイデン第二ドール金糸雀のマスター、みっちゃんはため息をついていた


みっちゃんは・・・綺麗な服で着飾った可愛い女のコが好きだった、そんな写真を撮るのが夢だった
カメラマンを目指し、写真学校に入った、親の反対を押し切った手前、学費は自分でバイトして稼いだ
学校ではいい成績を維持した、卒業制作で出した東欧の少女達の写真はプロの間でも高い評価を受けた
在学中から憧れていた売れっ子カメラマンの仕事場にバイトで入り込み、卒業後はそのまま師事した
お師匠はブツ撮り、風景、何でも来いの女性カメラマンで、特に人物を撮らせれば右に出る者無しだった
生意気な新入りのみっちゃんに、自分が撮った写真が実際に媒体になるまでのすべての工程に係らせた
最初は便利屋扱いに反発したけど、対等の友人として接してくれるお師匠とは次第に打ち解けていった
キツい助手時代を数年過ごした頃、お師匠は突然、高給を貰える広告代理店の専属カメラマンをやめた
「今撮っておかなきゃいけないひとが居る」といって、カメラ片手にイラクまで飛んで行ってしまった
助手時代から、お師匠が色々な分野の撮影仕事を均等に回してくれたおかげで、その頃のみっちゃんは
何でも撮れる小器用なカメラマンになっていた、みっちゃんへの名指しでの仕事も入りつつあったので
その広告代理店からのお師匠の後釜へのお誘いを丁重に断り、このご時世に大変な独立の道を選んだ

綺麗な服で着飾った、可愛い女のコを撮りたい、みっちゃんは夢に向かって動き出した

そして・・・・


368:みっちゃんはね♪(2)
06/04/16 19:06:26 gMHgnuVM

今日の仕事は、大手スーパーのチラシに使われる商品写真の撮影、ギャラは笑っちゃうほど安い
今日のモデルはマグロの刺身だった、実際に特売で店頭に並ぶマグロよりずっと上等な代物に
さらに脂の照りを出すためにサラダ油をハケで塗り、ライトで生温くなったマグロの機嫌を伺う仕事

みっちゃんはため息をついていた、独立をしたみたはいいものの、来る仕事はつまらない仕事ばかり
夢とはほど遠い生活と、どうにも増えない残高、元より自分の写真の腕には絶対の自信を持っていた
仕事場である広告、出版業界でも、「みっちゃんに任せればいい写真撮ってくれる」との評価を得ていた
でも、いい写真を撮る人材は毎年多く吐き出されて来るが、それに回ってくる予算は年々渋くなる一方
結局、代理店時代のコネで手の届く仕事を入れてはこなすしかなかった、何でも撮ってた助手時代の
経験は役に立ったが、みっちゃんは嬉しくなかった、夢みてた未来、夢にほど遠い今、不満の多い生活

お師匠の下で広告代理店に籍を置いていた頃は、年収相当額の買い物でもすんなりローンが通った
独立した途端にガソリンスタンドや量販店のクレカ付き会員カードを作る時も審査で難癖をつけられる
「フリー・カメラマン」という職業がすでに、信販会社のブラックリストに載っているらしい


「はぁ・・・フリーでやってくのががこんなに大変なんてねぇ・・・」

みっちゃんは、またため息をついた、みっちゃんの横で、彼女のドール、金糸雀が心配そうに見る


369:みっちゃんはね♪(3)
06/04/16 19:08:55 gMHgnuVM

最初に金糸雀に会ったのは、独立してすぐの頃だった、営業下手でこなせない仕事、減りつづける貯金
何かの幻覚かと思った、幻覚なら付き合ってやれと、訳のわからないまま「まきます」に丸をつけた
あの後カナが突然やってこなかったら、多分私はろくでもない男にでも騙されてたとみっちゃんは思った

「みっちゃん・・・何か・・・疲れてるみたいかしら・・・みっちゃん・・・だいじょう・・・ぶ・・・?」
横で見つめるカナ、この感情を持つ不思議なドールの表情に気づき、みっちゃんは笑った、無理に笑った

「ハァ・・・ごめんね、カナ・・・こんな甲斐性無しのマスターで、・・・でも安心して・・・
カナには絶対、綺麗なお洋服着せてあげるし、おいしい物もいくらでも買ってあげるから・・・」

みっちゃんは決めてた、カナには決して仕事の愚痴は言わない、カナには絶対、不自由な思いをさせない
でも・・・・
みっちゃんは傍らに居るドール、端正で汚れ無き、命宿るドールを見て、もう一度・・・・繰り返した

「カナ・・・・ごめんね・・・こんな・・・私で・・・カナには・・・きっと・・・もっといいマスターが・・」

金糸雀はみっちゃんの言葉に俯いた、悩むマスター、無力なドール、金糸雀にとってみっちゃんは
ただのミーディアムではなかった、共に目覚め、眠り、一緒に生きる大切な人、たったひとりのひと
みっちゃん以外の誰かが自分に触れ、ネジを巻くなんて・・・みっちゃんと引き裂かれるなんて・・・


370:みっちゃんはね♪(4)
06/04/16 19:09:45 gMHgnuVM

金糸雀は俯いたまま叫んだ、みっちゃんに見られたくない瞳を隠しながら・・・ぽたっ・・・ぽたっ・・・

「みっちゃん!わたしはみっちゃんが・・・夢を持って生きているみっちゃんが好き・・・・こんなわたしの
・・・わたしのネジを巻いてくれたから・・・・ぐ・・・・ぐすっ・・・ひっぐ・・・ひっぐ・・・」

金糸雀はみっちゃんの横で、握った手を震わせて、涙をこぼしながらみっちゃんを見た、

「わたし・・・綺麗なお洋服もいらない、ピザ屋さんのアップルパイも・・・うぅっ・・・い、いらないかしらぁ!
みっちゃん!・・・・わたしは・・・・ムシロをまとってでもみっちゃんについていくかしら!」

金糸雀はみっちゃんの胸に飛び込んだ、綺麗な服に皺が寄り、涙で汚れるのも気にせず胸に抱きついた
いつも可愛い服を着せてくれるみっちゃんの服が、地味でくたびれたダンガリーって事に気づいて
また泣き出した

「いや・・・イヤぁ・・・みっちゃんと離れたくないの・・・・カナはみっちゃんがいいのかしらぁ~」
「カナ・・・わたしも!わたしもカナと一緒に居たい!・・・ごめんね、カナ、わたし、こんなに幸せなのに
わたし、カナと一緒に居られる・・・こんな幸せな事に気づかないなんて・・・ごめんね・・・」

金糸雀はみっちゃんの胸で大声を上げて泣いた、落ちて来るみっちゃんの涙が自分に滴るのが嬉しかった
カナはみっちゃんの胸から体を起こすと、ぐいと涙をふき、まだ赤い目のまま胸を張り、逞しく笑った

「もしみっちゃんがカメラマンでおかね貰えなくなっても、安心して!このわたしが
辻のバイオリン弾きでもやって、みっちゃんひとりくらい食べさせてあげるかしらぁ!」

みっちゃんは涙をぬぐいながら笑い出した、カナも笑った、二人で床に座り込んだまま笑った、二人で・・・
「ありがと・・・・カナ・・・・・でも私は欲張りなのよ♪カナとの暮らし、カメラの仕事、両方とも欲しいの!
ローゼン・メイデン一の頭脳派のカナリアさん、欲張りなわたしが突っ走っても、ついてこれるかしら?」
「任せてみっちゃん!カナに出来ることがあったら何でも言って!炊事洗濯用心棒、洗車に録画予約
何でも来いかしら!最もアリスになるに相応しい、この金糸雀の辞書には不可能は無いかしらぁ!」

「じゃあ・・・わたしの小さなバイオリン弾きさん・・・弾いてくれるかしら・・・・・『ニーベルングの指輪』を」
「よしきた!」

カナが生まれた時お父さまに与えられたバイオリンが、壮麗な曲の第一章「ラインの黄金」を奏で始めた

ワグナーの調べが、二人を優しく包んでいく
優しい夜が、二人を包んで流れていく


「さぁて!明日はヒラメでも撮ってくるかぁ!」


371:みっちゃんはね♪(5)
06/04/16 19:11:05 gMHgnuVM

             生まれ変わる事は出来ないけれど
                                                        
                    変わっていくことは出来るから


みっちゃんは変わっていった、少しづつ・・・少しづつ・・・

最近は仕切りを任されるようになった写真の現場では、まず時間に対して正確無比である事を心がけた
唯一、食事の時間は進行中の作業を止めてでも確保した、現場の皆で食べる「同じ釜の飯」を大切にした
本来の仕事である撮影だけでなく何でもやった、助手にやらせてた機材準備や掃除で一緒に汗を流し
スタイリストやメイクの仕事を積極的に手伝い、畑違いの構成や写植、コピーや記事書きの技術も学び
欠員は自ら補った、当然彼らの領分とプライドを尊重し、たとえ非能率的でも彼らの流儀に従った

自分の写真のクオリティは決して落とさなかった、ただ、そのために他の工程を圧迫する真似は慎んだ
それは決して難しくない事だと知った、自分の才能を発揮しながら「広く見る事」を意識すること
自分の係る作品が世に出るまでの全ての流れを広い視線で見た、全てに責任を持った

好きで集めていたロモ、希少なライカ、今の自分の仕事には高スペック過ぎるニコンのカメラ
みっちゃんの部屋には数十機のカメラがあった、それなりに使ってる物も、埃を被ってる物もあった
仕事で必要な銀塩カメラとデジカメ、ムービー各2台と、遊びには一台づつと決めて厳選した物を残し
他の物は、本当に役立ててくれる人、「腕」はあるが「武器」の無い後輩達に捨て値で譲った

金糸雀との生活も変わった

一緒に早起きをするようになった、カナと二人で毎朝6時半のラジオ体操なんて物を始めた、
出前とテイクアウトの食生活を改め、毎日ご飯を炊いた、貧乏写真学生の頃に立ち戻って自炊した
金糸雀には毎朝作ったお弁当を持たせた、カナの体の事を第一に考え、心をこめたお弁当

宅配のピザを頼むより、週末の夜に二人でおめかしして、石窯で焼いたピザを食べに行く生活

休日にはカナと思い切り遊んだ、温泉や旧跡に行った、部屋でDVDじゃなく本物の芝居を見に行った
今までやらなかった海のスポーツや雪スポーツ、登山や禅寺修行にも、カナと二人で挑戦したりした

「カメラマンズ・ワゴン」の響きに憧れ、助手時代にローンで買ったアウディ・アヴァントは売り払い
替わりに機材が積めてスタジオや現場の狭いスペースにも停められるジムニーを一括で買った

どこへでも駆けつけられるジムニーの月間走行距離は、アウディの時よりずっと多かった
色々な場所に出かけた記憶、カナと二人の思い出を、たくさん、たくさん、刻んだ


372:みっちゃんはね♪(6)
06/04/16 19:11:53 gMHgnuVM

ローゼン・メイデン達ともよく遊んだ、カナほどは人懐っこくない、気難しい姉妹達だったけれど
服が目当てだお茶が目当てだと言いながらも、入れ替わり立ちかわり部屋まで遊びに来てくれる
無愛想な黒いドールが突然やってきて、一番いい服をよこしなさいと言って来た時は傑作だった
問い詰めると彼女は顔を赤らめ「メ・・・メグのご両親が会いに来るのよ!・・・悪い?」と怒鳴り散らした
みっちゃんはひとしきり大笑いした後、うんと上等で清楚なローラ・アシュレイを見立ててあげた
その黒いドールは後でクリーニングした服を黙って置いてった・・・「ご対面」はどうなった事やら


浮いた噂と縁遠い状態は当分変わりそうにない、どうも男の心について鈍感なのは昔からの性根らしい
でも・・・花の愛好家雑誌の仕事で知り合った、やたら無愛想な初老の資産家、結菱さんって名前だったか
あの人の事は何故か頭に残った「貴女はきっと、私と同じ秘密、素敵な秘密を持っている」という言葉
何かの洒落のセリフにしては、そのひとはあまりにも透明で無垢な瞳をしていた、ドールのような瞳
その仕事の後でみっちゃんの元に届いたお誘いの手紙、古めかしい蝋封付きの便箋に綴られた夕食の招待
どうしようかと考えてると、ふふっ、と顔がほころんでしまう、でも・・・きっとまだ、早いだろう
デートのお誘いを執事とやらに任せるようでは、きっと私にはまだ早い・・・「まだ早いゾ?お坊ちゃん」
でも・・・カナとの出会いで信じられるようになった「無限の未来の可能性」の中では・・・ひょっとして・・・

みっちゃんは未来を楽しみにしていた、毎日、明日を楽しみに、仕事に遊びに生きていた
みっちゃんは生きていた、カナとふたり、生きていた



373:みっちゃんはね♪(7)
06/04/16 19:13:15 gMHgnuVM

その仕事っぷり、最初は便利に使われるだけだったが、その内周囲のみっちゃんへの評価が変わってきた
「みっちゃんはいい写真を撮る」から「みっちゃんに任せれば限られた状況での最善の物が出来上がる」

無理な納期でも間に合わせるみっちゃんの仕事は、上の人間の信頼を得はじめ
無茶な納期を押し付けるクライアントを怒鳴りつける姿に、下の人間は慕いはじめた

仕事を頼む人達も、仕事を受ける人達も、「みっちゃんなら大丈夫」と口を揃えて噂した

みっちゃんの撮影の腕は、自分でも気づかない位ゆっくりとだけど、磨かれ、冴え渡ってきた
笑顔のプロである子役モデルも、緊張で固まってる素人も、チラシ写真の鯵フライやホウレンソウさえも
みっちゃんがファインダー越しにラブコールを送ると、蕾が花開くような笑顔を浮かべた

今でもカードやローンの限度額にため息をつく事はあるけれど、みっちゃんの名前と評判を聞き
個人的な裁量で、マニュアルにある職業別限度額を大幅に越えたローンを通してくれる知人も増えた
信販会社からは限度額アップのお誘いが来るけど、どちらにしてもローンはあまり使わなくなった
仕事の出費も大きい買い物も、信用の出来ない銀行融資より自分の口座からの持ち出しで賄う事が増えた
それまで「経費」で乗せていたカナを着飾る高価なお洋服の支出を税務署に少々疑われたのには困ったが
来年明けの申告の時はこの「扶養家族」を机にドンと置いて税吏を引っくり返らせてやろうか、と思った


みっちゃんの成長に歩幅を合わせるように、金糸雀も少しづつ変わっていった
アリスゲームでいつも遅れを取っていたカナは、色々な物を見、聞き、触れ、成長と成熟を重ねていった
真紅が読書を重ねて知った心理学は、みっちゃんがカナを後学のために連れてってくれた永田町の取材で
「ひとの心理が剥き出しになる瞬間」を見た時に、カナが背中で感じた戦慄には及ばなかった
翠星石と蒼星石がnのフィールドで育んでいた巨木の自慢話も、みっちゃんと行った屋久島で
数千年の刻の輪を重ねた杉の幹に二人で抱きついた時に感じた、流れ続ける命の実感には敵わなかった
ドールのカナが宿す無限の命、人間のみっちゃんが営む老いていく命、それは全て同じ流れに在るもの

姉妹の悩みを引き受けるのは相変わらず姉御肌の真紅だったけど、彼女には経験の堆積が足りなかった
時に真紅にも裁ききれない問題が生じた時、彼女はいつも金糸雀が耳打ちしてくれる言葉に頼った
ドールのマスター達も、唯一の勤め人マスターであるみっちゃんと話す事で、多くの悩みを解きほぐした

「いつか究極の少女、アリスになる」というカナの長らくの夢は変わり始めた、カナの夢見る未来
「誰がアリスになろうと、皆でお茶して遊んで、そんな皆を誰一人犠牲にしない、誰も失わない」
ドール達の新しい未来を開こうとするカナの姿を見て、姉妹達は少しづつ変わり始めた


みっちゃんとカナは変わっていった、ある日突然ってわけにはいかないけど、少しづつ・・・少しづつ・・・

               生まれ変わる事は出来ないけれど
                                                        
                    変わっていくことは出来るから


374:みっちゃんはね♪(8)
06/04/16 19:14:25 gMHgnuVM

以前よりずっと忙しく、とても時間の流れの早い日々を送ってたある日、お師匠から手紙が届いた
なぜかベラルーシ共和国の消印の押されたエアメール、中には一枚のチラシが入ってた
郊外の大手子供服量販店の新聞折込チラシ、これでも一応は、綺麗な服を着た可愛い女のコの写真
みっちゃんが撮影だけでなく衣装、コピー、レイアウト、印刷、頒布、その他、全ての進行に係った作品
渋い予算とトラブルの連続、妥協の産物だった、でも、その状況でみっちゃんは自分の全てを発揮した
神奈川県内で配布したチラシがなぜかお師匠の手元にあり、赤いマジックで大きな花丸が書いてあった
みっちゃんは自分の写真の腕に自信を持っていた、作品を生み出すたびに顧客や同業者が誉め称えるのは
当たり前だと思っていた・・・みっちゃんは今、初めて自分が認められた気がした、初めて・・・誉められた

チラシの間に挟まっていた一枚の紙、ホテルの便箋の走り書きを見た時、みっちゃんの目に涙が溢れた



                らしくあれ
            
         神はあなたがあなたらしく生きることしか望んでいないんです

        p.s 今度あなたの小さなお友達にも会わせてね


わたしは・・・・・すぐそばで見つめてくれてるひとが居る・・・・・・・・離れていても見つめてくれるひとがいる
そのひとたちに・・・見て欲しい・・・わたしを・・・わたしの夢を・・・・・そして・・・夢に向かう、今のわたしを

遠くで見つめてくれるひと、すぐそばに居てくれるひと・・・今日もみっちゃんの横には、カナが居る

「カナ・・・ありがとう・・・・わたし・・・すべてに感謝してる・・・カナ・・・・カメラマンの仕事・・・
お師匠・・・・生んでくれたママやパパ・・・あなたを創った人形師さんや素敵な姉妹にも・・・ありがとう・・・」


「わたしの小さなバイオリン弾きさん、弾いてくれるかしら・・・・・『To love you more』を」
「まかせて!」

金糸雀のバイオリンが葉加瀬太郎のストリング・パートを誇らしく奏で始めた
みっちゃんの声が、セリーヌ・ディオンのヴォーカル・パートを静かに歌い始める

二人の旋律はいつまでも流れつづけた、二人を乗せて、未来に向かって流れつづけた

二人は、未来を信じていた




375:吝嗇 ◆G.VR4wY7XY
06/04/16 19:16:00 gMHgnuVM

あとがき

アニメやコミックでは一番ひどい扱いwの金糸雀には、逆に無限の可能性を感じます
唯一の勤め人マスターであるみっちゃんには、つい感情移入してしまいます
JUMもメグも結菱サンも不労者だし、柴崎爺ちゃんは自営で半隠居だし
不明な部分を思い切り俺補正してしまいましたが、まぁ10マソの服をポンと買える経済力ですから


では


376:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 19:45:32 gC2nDC4p
GJ!
金糸雀とみっちゃんはいいコンビになりそうだよね
みっちゃんがこれだけクローズアップされているのを読んだのは初めて

377:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 20:38:01 v7eRJ75w
力作GJです。
しっかし、以前のバーゼルとか今回のワグナーとか
趣味がオイラとモロカブリですっごいうれすぃ~っすよ(w
375氏は年末恒例のNHKバイロイト音楽祭放送を聴いてるとオイラは読んだ!
あそこでラインの黄金って…大丈夫かカナリア!あの分散和音は狂的だぞ!
おいらもまた何か書きたくなってきたよ(w

378:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 20:42:31 8ohJgYdC
どうも、始めまして
以前総合スレの方で、1つの妄想が流れたんですが
それが面白くて、是非こちらのSS職人の方々に
その妄想ストーリーを完全化させて貰いたく、来させて戴きました。

個人的には金⇔銀が見たい
金に入れ替わった銀は、とりあえずミーディアムであるみっちゃん宅に帰る。
するといつもの行事でまさちゅーせっちゅー。銀大混乱。
銀に入れ替わった金は、自由自在に飛びまわれる事にはしゃいで空中散歩
その後胴体が無い事に気付いて、10分程銀に対する同情、黙祷を捧げる。
そのあと、一度やってみたかった黒龍波を桜田宅で乱射
ドールズ大迷惑。


どなたかお願いします。

379:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 20:50:47 xzCMgF/1
リクエストスレは別のあった希ガス

380:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 21:45:37 8ohJgYdC
>>375
っはぁ~・・・
まさか翠派の私が、何の興味もなかったカナペアに
心を動かされるとは思いませんでした。
次第に成長して行く彼女達、そして後半部分では
心の中でジワッと感じさせられる物がありましたw

もうあとはこれだけです。
ブラボーブラボー!

381:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 22:23:52 v7eRJ75w
>>378
何か書きたくなってきたとか書いた後に
んな事書かれると、何だかオイラが書かにゃならないヨウナ気が…
しかも、ここに誘導されて書いた最初の話しが似た物ダッタヨウナ気もするヨウナ…
まぁ、前のに書いたピエールの奴とか、神父と水銀燈とか、薔薇水晶出撃前夜の話とか
そんな感じのおいらで良かったらガムバッテみますけど。

382:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 22:25:43 ktmpWBLx
>>375
あん?何言ってんだおめえ
金糸雀は今ようやく日を浴び始めたところだろうが

383:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 22:31:19 8ohJgYdC
>>381
差し支えなければ、よろしくお願いしますー♪

384:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 22:54:46 ZjMozEt+
>>367
GJ!!
自然と引き込まれる文章がすごい!

385:364
06/04/16 23:38:49 bwnF4Fmf
>>367-374
微に入り細に至る描写は、真似出来ません。脱帽。
薄っぺらな話しか書けない自分が恥ずかしいです。

386:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 23:50:36 8ohJgYdC
>>385
なぁーにをおっしゃる兎さんー

いや、マジ素晴らしかったですよ
恥じる様な個所など。むしろ誇ってもいいと思いますよ

387:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/16 23:55:53 ZjMozEt+
>>385
作風は人それぞれ。
心理描写が得意な人もいればギャグが得意な人もいる。
皆違うから面白いのであって一緒だったらトリビァル!

388:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 00:28:22 itYjDEXm
>>385
そう思いますよ。
ところで、起きろの歌にサクラ大戦3のエリカの歌を思い出したのは
オイラだけではあるまいて。
おっはよーおっはよーぼんじゅーる♪

370
些細な話し
舞台神聖祭典劇「ニーベルングの指輪」は
ラインの黄金=前夜
ワルキューレ=第一夜
ジークフリート=第二夜
神々の黄昏=第三夜

389:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 00:31:56 itYjDEXm
>>385
何か読み返したら意味不明だったので

「そう思いますよ。」は>>387を受けての感想ですので。

390:NOODLE  1/7
06/04/17 00:44:42 9Q8QGNbx
「やあ、ドールズ。」

カップ麺が喋った。 おいおい。 僕は熱湯を注いだだけだぞ。
予想外の事態に何のリアクションも取れずにいると、性悪人形が駆け寄ってきた。

「蒼星石…………!!!」

何言ってんの。 何言ってんの。 即席めんと聞き間違えたのだろうか。

「蒼星石………生きて………生きていたんですね。 ………ぐすっ。」
「ふふっ………相変わらず泣き虫なんだね。 …………ただいま。 翠星石。」

カップ麺が微笑んだように見えた僕は、どうかしてしまったのだろうか……。


「凄い………呼び戻したんだわ。」

いつの間にか傍らに来ていた真紅が感慨深げに、いつぞやと同じセリフを呟いた。

「いや、あの……真紅さん。 これ、麺類じゃないっすか。」

ごもっとも。 ごもっとも僕。 もう全然裁縫の腕とか関係ない。
え、何で? 何で狼狽えてるの僕だけなの?
カップ麺が喋ってるんですよ。 何でお前らちっとも驚いてないの?
おかしいよこの家! 何で僕の方が異端に見えるんだよ!

「凄いわジュン……貴方の指は、まるで美しい旋律を綴るよう……。」

出湯のボタンを押しただけなのだが。

え~。 認めたくないが、目の前の現実を整理すると。
このカップ麺はどうやら結菱の屋敷で最期を迎えたはずのローゼンメイデン第4ドール。
「あの」蒼星石という事らしい……。

391:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 00:45:42 9Q8QGNbx
日本人にはごくたま~に、猛烈にカップ麺が食べたくなる日というものが存在する。

今日は日曜日、のり姉は部活。 「麺欲」を満たすには最適の日…のはずだった。

なのになぜ自分は今も腹を空かし。 なぜ眼前には狂ったとしか言い様のない光景が展開されているのだろう。

「ふふ……こうして蒼星石の髪を梳くのも久し振りですね。」
「ごめんよ……僕も君の髪を梳いてあげたいけど、生憎と腕が無いんだ……。」
「大丈夫よ、蒼星石。 ジュンの技術なら貴女に腕をつけるくらい造作も無いわ。」

箸で嬉しそうに麺をほぐしながら、優しくカップ麺に語りかける翠星石。
返答するカップ麺。(のびてきた)
サラッと訳の分からない事を言う真紅。 ならお前やってみろ。

「あ、あのさ……言い辛いんだけど。」

苦言を呈そうとした矢先、翠星石と目が合った。
……あぁ。 ………………泣いている、のか。

当たり前だった。 そうだ、分かっているのだ、彼女だって。
こんなのは、望まれたかたちでの再会じゃない。
カップ麺は永遠ではない。 まして今は夏場だ。 あっという間に腐ってしまうだろう。
別れの時は、きっとすぐそこ。 それでも。 たとえ束の間でも。 最愛の妹と再び巡り合えたのだ。

どうして自分は、その気持ちを分かってやろうとしなかったのだろう。
今の翠星石のためを思うなら、カップ麺が喋るくらい些細な事じゃないか。

「……なんか飲むか? 入れて来るよ。 蒼星石もスープが減ってきただろ?」
「! ……ジュン。 …………………………ありがとう、です…………。」

「私には紅茶を入れて頂戴。 ミルクも忘れないでね。」
そう言った真紅の眼差しはどこか優しげで、なんだか照れ臭かった。

「そうだね……僕も紅茶を貰おうかな。 何だか酷く喉が渇いてね。」
すまん。 君は激辛キムチ味なんだ……。

392:NOODLE  3/7
06/04/17 00:46:42 9Q8QGNbx
「あ、待つですジュン。 翠星石も手伝うですぅー。」
台所に立とうとする僕に翠星石が付いてきた。

「いいのか? ……久し振りじゃないか。」
リーフを選びながら、無難な言葉を選んで聞いてみる。
束の間の再開。 1分、1秒でも惜しいはずなのに。

少しの間を置いて、翠星石がぽつりぽつりと呟いた。

「……言いたい事は沢山あるです。 あれも、これも、それも。
 でも、いざとなると、胸が詰まって言葉が出て来ないです。
 ……こんな短い時間じゃ、足りないです。 ぜんぜん、ぜんぜん、足りないです……!」

胸が締め付けられる気がした。 もし自分と姉が、最後の時を過ごすとしたら。
自分には何が言えるのだろう。 別れを受け容れて、耳に心地良い言葉を捜すのだろうか。
それとも、最後まで「今」を大切にして、さよならを飲み込むのだろうか。

……分からないけど。 今、僕には言ってやれる事がある。

「いつも通りに喋ればいいさ。 今日お前が、妹とお別れしなきゃいけないなら。
 ……何時だって、何度だって、あの子を呼び戻してやるから。 ………ぼ、僕が、さ。 」
「…………ジュン………!!」

僕にしがみついてしゃくり上げる小さい背中を、少し照れ臭いけど抱き締めた。
安請け合いをしてしまったけど。 僕にその力があるというなら、そうしたいから。



「きゃああああああーーーーーーー!!??」
突然の悲鳴で、僕らは我に還った。 この声は……真紅!?

あの真紅がこんな大声を上げるなんて……。 大慌てで居間に戻った僕達が見たものは。

「うい?」
無邪気な顔でカップ麺をすする雛苺だった……。

393:NOODLE  4/7
06/04/17 00:47:42 9Q8QGNbx
「ごめんなさいなの…………」
事情を知って散々泣き腫らした雛苺が、もう何度目か分からない謝罪を口にする。

「私が悪いのだわ……。 私が部屋にマイカップを取りに帰ったりせずに、蒼星石の側についていれば……」
真紅は真紅で、見ている方が辛くなるくらいしょげきっている。

なんて事だろう。 あまりにあんまりな結末に、僕は何も言えずにいた。
蒼星石は結局ほとんど言葉を交わす事なく、再び遠い所に旅立ってしまったのだ。

ちらりと翠星石の方を見る。 彼女は先程から俯いて押し黙ったまま。
こんなの、慰めるなんて不可能だ。 再会も別離も、何もかもが普通じゃなさすぎた。

あぁ、でも。 雛苺と真紅を見る。 今は、僕が何とかしなくっちゃ。
口を開こうとしたその瞬間、先に口を開いたのは翠星石だった。


「ほらほら皆、何て顔してるですか。 こんなの蒼星石は望んでないですよ!」
蒼星石の名前が出た瞬間、雛苺と真紅がビクッと肩を震わせる。 そんな二人に翠星石は優しく語りかけた。

「こぉら、食い意地の張ったおバカいちご。 いつまでそんな顔してるです。
 カップ麺は食べられるためにあるですよ? 雛苺がしたのは、当たり前の事です。」

「でも、あれは蒼星石だったの…………」
また泣きそうになる雛苺。 それに被せるように、翠星石が続ける。

「…確かにあれは蒼星石でした。 でも、カップ麺だったんです。
 カップ麺ですよ? 悪い冗談にも程があるです。
 本当の蒼星石の体は、ほら。 今もおじじのお屋敷で眠ってるですよ。」

「きっと蒼星石は、あんまり私が泣いてるもんだから、ちょっとの間だけ無理して帰ってきてくれたんです。
 だってそうです。 私が泣き出すと、いつだって蒼星石は飛んできて、側に付いていてくれたから。」

「だから、きっと。 また会える気がするんです。
 ……蒼星石は。 こんな形になってまで、飛んできてくれたんだから。」

394:NOODLE  5/7
06/04/17 00:48:42 9Q8QGNbx
夜。 昼間の事が気になって眠れない僕は、通販で買ったプラモデル「ガンガル」を組み立てていた。
正直こんなネタプラモ要らないが、クーリングオフできなかったのだ。

ふと。 背後に気配を感じて振り返る。 そこには予想通りの人影があった。
翠星石……そうだよな。 眠れるわけが無い。 真紅も雛苺も、今日は中々寝付けなかったみたいだった。
まして双子の姉である翠星石ともなれば、その心中は察するに余りある。

「ジュン……昼間は…………ごめんなさい、です。」
「…………なんでお前が謝らなくちゃいけないんだよ。」

誰よりも一番苦しんでるはずなのに、まだ気を遣うのか。
自分よりも真紅と雛苺の事を気に掛けて。 今、僕にまで気を遣ってる。
そんな事しなくていい。 そう言ってやりたかったけど。 今は何を言っても、苦しめてしまいそうで。

「…………ありがとう、ジュン。 …………伝わる、です……。」
……あぁそうか。 マスターとドール。 その心の海は繋がっている。
わざわざ言葉というフィルターを通さなくても、伝わるのだ。

「でも、私は、本当に大丈夫なのです。 ……だって、信じてるですから。
 ジュンのこと。 ジュンが、昼間に聞かせてくれた言葉。」
「え…………」

(何時だって、何度だって、あの子を呼び戻してやるから。)

「あ、あれは………………」
「……ジュンは、自分の可能性を否定するかもしれません。 ……でも、私は。
 信じてます。 信じられるのです。 ……ジュンの、ことば、なら。」


……胸が。 胸が痛い。 はじめて、本当の翠星石を見たような気がした。
知らず手に力がこもる。 ………あぁ、なんて、やわらかい……。
………………へ? やわらかい!? ガンガルが? ……恐る恐る手元を見る。

「やぁ。 ジュンくん。」
ガンガルが喋った。

395:NOODLE  6/7
06/04/17 00:49:41 9Q8QGNbx
次の日の朝。 ガン星石はドールズから熱烈な歓迎を受けた。

「凄い………呼び戻したんだわ。」
お前は他に言う事は無いのか。

「蒼星石かっこいいのーーー!」
ガンガルだぞ……ガンガルなんだぞ……。

「蒼星石、お久し振りなのかしらー!」
「誰だっけ?」
神奈川が泣き出した。

ああもう騒がしい……昨日のお通夜ムードは一体何だったんだ。

「ジュンくん……もう片方の腕にもデカールを貼ってくれるかい? その方が美しいよ。」
「………………」

昨日喰われたばかりだというのに、恐ろしくマイペースな奴だ。
今も乙女のドレスアップとやらで、面相筆で細部を塗装させられている。

「ひゃあっ!?」
「絆パンチ!!!」
ガンガルが奇声を上げた次の瞬間、真紅の鉄拳が僕の顔面にめり込んだ。 鼻が! 鼻が!

「まったく人間のオスは想像以上に下劣ね……塗装にかこつけて、まさか筆で乙女のあんな所を……」
「分かるかぁーーー!!!」


「まだ接着剤が乾ききってないね。 ちょっとだけ……こうしててもいいかな。」
「まぁ……フフフ、蒼星石は甘えんぼさんですね。」

肩に寄り掛かる妹?を前に、翠星石が満面の笑顔を見せる。
カーネルサンダース並の可動範囲の狭さが災いしてか、寄り掛かるというより潰されてるようだ。

まぁそんな事、今の翠星石にとってはどうでもいい事だろう。 …たぶん。

396:NOODLE  7/7
06/04/17 00:51:00 9Q8QGNbx
カップ麺からガンガル。 食物から人形へ。 見ようによっては一歩前進だ。
だが、以前より確実に騒々しくなった部屋を見て、一瞬ジュンはこれで良かったのだろうかと思わず自問してしまった。

目頭を押さえて俯くジュンに、翠星石がいつもの調子でのたまった。

「まぁ今回の事は確かにジュンのお手柄ですけどぉー。 だからってあんまり自惚れるなですぅー。」

な!? なななな!? 何だそりゃ。 そりゃ無いだろ!

お前な、昨日の夜はあんな泣いてた癖に……。
文句を言おうと顔を上げると、そこには柔らかな笑顔の翠星石がいて。


あぁ、くそ、まったく。
照れ臭くて視線を逸らすと、今度はガンガルと目が合って。



ガンガルが微笑んだように見えた僕は、何だかこんな日常も悪くないような気がしたんだ。

                                                 おわり

397:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 00:59:51 ipcbluLJ
蒼星石ぃぃーーー!!!www

もし呼び戻せるなら蒼人形を作って呼び戻せば良かったんでは?
面白すぎる!GJ

398:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 01:06:52 O/Qy41fj
ガンガル吹いたwwww

399:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 01:14:56 SQxg8xQ8
ジュンに賛同
これでよかったのか?w

400:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 01:23:06 aR5DKgqZ
カップ麺てwww此処はグロ禁止だぞwwwwww

401:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 02:36:58 UPrtBg/T
>>375
良かったけど一気に投稿せず何日かに分けてやればよかったのに
あまり集中するとまた過疎る

402:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 02:50:12 NN8ePPVw
こんにちは、蒼星石です

んー、ジュン君はまだ僕のアドバイスを聞いていないようだね
勉強をやるにしても、あの暗い部屋での勉強は大きなマイナスなんだ
小さなライト、睡魔を押し殺しての勉強、多くの面でマイナスになっているね
僕の見たいジュン君に一日でも早く戻ってくれる事を望んでいるよ

そうそう、図書館での勉強は欠かさないでくれ
沢山勉強して復学してほしいな

403:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 08:19:50 FweTYxpj
>>396
あまりのカオスっぷりにGJがとまらないwwww

404:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 14:54:30 4r0FV2Ca
>>390-396
最高wwwwwwwwwwww

405:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 17:26:55 Q61Sxj12
ちょっと質問なんですが
こちらのスレでは性的な意味を含まなければ
夜ネタのSSを投下してもよろしいのでしょうか?

406:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 17:42:09 NN8ePPVw
別に性的=夜じゃないだろ

407:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 19:55:09 TyyTEOTW
>>401
俺は一気投稿支持派、読みやすくレスしやすく、スレへの負担も少ないと思う。
連載形式での投稿も、続きを楽しみに待つ気分でスレを開くのが楽しくなる。

投下のスタイルは職人諸氏の好みや都合に合わせて、好きな方法で投下して欲しい。
直後投下とか途中投げ出しとか、やらないほうが望ましい投下方法もあるけど
そういうマナーに反しない範囲で、複数の投下方法が許容されるスレでありたい。

408:ケットシー
06/04/17 20:37:52 1a7WfB+T
>>345

 ジュンはめぐを振り切るために家の中を走り回っていた。いや、家よりも屋敷と言った方がしっくりくる。余裕で人がすれ違いできる幅の通路が何十メートルと続き、部屋数も相応にある。
 真紅は大邸宅に住まうお嬢様だったのだ。彼女の硬い口調や、値段の張りそうな本のコレクションを見れば、それも頷ける。

 しかし、今のジュンにとって真紅の素性がどうなどという話は二の次だ。背後から迫るめぐを巻けなければ、身の安全は守れないのだ。
 通路の壁に掛けられた絵画や脇に置かれた調度品には目もくれず、逃げ道だけを探してひた走る。
 だが悲しいかな、ジュンの逃走はめぐには通用しそうになかった。彼女にはジュンには無い優れた移動方法がある。それは、翼を使った飛行だ。
 全力で走るジュンの後ろを、余裕を持って追うめぐ。黒い翼を広げて飛ぶ姿は優雅にさえ見える。追う目的を知っていれば、そんなふうには断じて見えないだろうが……。

「―行き止まりッ!?」

 慣れない屋敷内で、いつまでも走り回っているのは不可能だった。
 ジュンが何度目かに曲がった角の奥は、ドアが一つだけある薄暗い行き止まりだった。
 このドアの向こうは用具置き場か何かだろう。この日当たりの悪さといい、埃臭さといい、人が住んでいるような環境には見えない。
 立ち止まった彼のすぐ後ろで、着地しためぐが翼を畳む。
 ジュン、絶体絶命のピンチだった。



409:ケットシー
06/04/17 20:38:51 1a7WfB+T
 真紅は自室で本を広げていた。
 しかし、手元の本は同じページのままで、一向に先に進まない。それもそのはずで、真紅の視線は本の文字を追ってはなかった。
 彼女の目は開いているだけで、何も見えてない。頭の中は、人形の男の子の事でいっぱいだった。もう一体の人形に襲われてないか気掛りで何も手に付かない。
 ジュンを追い出したのは真紅だが、だからこそ気になってしまう。彼女は負い目に近い感情を抱いていた。

「ジュンが悪いのよっ。私は悪くないわ」

 読書を妨げる余分な思考を振り払おうと、真紅は独り呟く。もう一度、紙に並ぶ文字に視線を落とし、読書を敢行しようとする。
 しかし、感情は荒れるばかりで、文字を強引に目で追っても内容が全く頭に入らなかった。
 落ち着いて本を読むために独りになったのに、これでは逆効果だ。

「ほんっと、手間の掛かる子なのだわ……!」

 ついに真紅が音を上げた。文句を言いながら席を立つと、本をテーブルに放って部屋を出て行った。



410:ケットシー
06/04/17 20:39:38 1a7WfB+T
 袋小路に捕まったジュンの背後から、黒い翼の悪魔が忍び寄る。その殺気を背中に感じた彼は、恐る恐る振り向く。

「もう逃げないの?」

 そこにいたのは、嬉しそうに笑みを浮かべるめぐだった。今の彼の目には、その笑みも邪悪なものにしか映らない。
 ジュンは体を敵の正面に向けて後ずさる。後が無いと判っていても、怯える身体が彼女から距離を取りたがった。

「こんな暗い所に逃げるなんて……。もしかして、私を誘ってる?」

 めぐの冗談か本気か区別のつかない発言に、ジュンは大きく首を振って否定する。
 その必死な様子が可愛く見えたのか、彼女はクスクスと笑いながら足を前に踏み出す。こうなっためぐは、ちょっとやそっとでは止まらない。
 後退するジュンの踵が閉ざされたドアに突き当たり、めぐがじりじりと距離を詰める。
 息をする音さえ聞こえそうな距離に近付いためぐは、ジュンのメガネを外して瞳を覗き込む。その目は、恐怖で大きく開かれていた。

「怖がらないで。これは、お父様の望みでもあるのだから」

 めぐはそう囁いてジュンの肩に手を置く。触れられたジュンは、悲鳴に近い声を上げた。

「めっ、めぐ―」

 めぐはこれ以上騒がれる前に強引に声を奪った。口を口で塞ぐという強引な方法で。言ってしまえば、キスである。
 途端にジュンの頭は真っ白になる。極限まで張り詰めていた彼の心は、キスだけで流されてしまったのだ。
 ショックで放心状態の彼をめぐが見逃すはずがない。その隙に、舌を彼の口に送り込む。
 腰の抜けたジュンは、背中をドアに預けたまま、ズルズルと尻餅をつく。その間も、めぐは唇を逃がさなかった。

411:ケットシー
06/04/17 20:40:35 1a7WfB+T
 長い長い口付けがようやく終わり、めぐがジュンの唇を解放する。その必要が無くなったからだ。ジュンの瞳は虚空を見たまま動かず、心ここにあらずといった様子だった。完全に陥落していた。

「可愛い子……」

 めぐはうっとりとした表情で、ジュンの頬の形を指でなぞる。顎の先までなぞり、行き場をなくした指先は、そのまま学生服のボタンへと移る。第一ボタン、第二ボタンと素通りした指先は、彼のズボンへと向かう。
 チャックに到達しようとした時、その救世主は現れた。それも、いきなり飛び蹴りで。

「桜田君、危ないッ!!」
「ほげっ!!」

 もろに両足を側頭部にもらっためぐは、頭から壁に突っ込んで倒れた。人間なら頭が割れて流血の惨事になっていただろう。
 その救世主は、セーラー服を着た少女の人形だった。髪型は健康的なショートカットで、左目の泣き黒子がチャームポイントになっている。
 新たに現れた人形は、ジュンの様子を見て慌てふためく。彼は未だに放心の真っ只中だったのだ。
 めぐに何をされたのかは知らないが、どうにかしないと……。
 そう思ったセーラー服の人形は、ジュンの前に膝を着いた。

「こういう時は、人工呼吸が基本です」

 意味の解らないことを言った彼女は、ごくりと生唾を呑む。この先の行動は、誰でも想像できる。
 そして、彼女は期待を裏切らなかった。ゆっくりと唇を寄せ、瞼を閉じる。

412:ケットシー
06/04/17 20:41:21 1a7WfB+T
 だが、唇が触れ合うことは無かった。隣で復活しためぐが、飛び蹴りをお返ししたのだ。

「ジュン、危な~いッ!!」
「はぶううぅっ!!」

 セーラー服の少女は、めぐとは反対の壁に頭を打ち付けて沈黙した。だが、めぐの蹴りは助走が少なかったせいか、すぐに立ち上がる。

「何するの!」
「何するのじゃないわよ! それはこっちのセリフ」

 初めてまともに顔を合わせた二人は、敵意を剥き出しにして大喧嘩を始めた。この二人の間には、何やら因縁めいたものがあるようだ。
 髪を掴み合って子供みたいな喧嘩を繰り広げる横で、ジュンが正気を取り戻す。

「あ……柏葉も起きてたんだ」

 二人の動きがピタリと止まる。惚れてもらわないといけない相手の前で、幼稚な姿は見せられない。利害が一致した二人は、素早く離れて笑顔を作る。

「三日前に目覚めたの。桜田君は?」
「昨日起こされたばかりだよ」

 ジュンは自分の足で立ち、お尻の埃を払う。
 これが、第六ドール柏葉巴とジュンの運命の再開だった。



つづく

413:ケットシー
06/04/17 20:43:01 1a7WfB+T
上にもありますが、考えなしで連載物を書き始めるものじゃないですねぇ。反省しております
この話でかなり苦労してます。

突然ですまないですが、スレ住人に聞いてみる。
総合スレで途中になっていた欝話の続きをここに投下してもいい?(死にまくりのあれです)
独断で投下しちゃうのもまずいかと思いまして、意見を聞いてみた次第です。
(今やってる話がつまったりはしてませんよ!つまっていませんとも!多分……)

414:にんじん
06/04/17 21:27:38 fZOMSH2z
                /  ///    / //
              ′ ///   / //
              | r'/:::::\/ ィ /
               | |'ヘ::::/ /
              ∠! へ\</´
           /  \  ヾ
           /     ヽ |!|
          /        }ヽ  〉
        { ̄ ̄  ‐-  `′ i     トリビャルですぞー!!
        ヾ- ―-     〉                 .:o:.
          \       (__,.. ソ
        _r―  ー;.,.,. '´
       _/マ==|ヽ{、
    -‐ .:::.:::.::\::\└勺!                        ,. ---,
  //.:::.:ヽヽ:::.:::.:ヽ:::.\ ゞヽ、                    / ∠二/ノ_
 |l:::.:::.:::.:i i:::.:::.:::.:i l:::.:ヽ ヾヽト、                / ´ ̄ _∠二ニ'
 |l:::.:::.:::.:j l:::.:::.:::.::|ヽ:::.::ヘ `i! l:::ヽ           ヘヽ ,.  ´
 亅L. イ /.:::.:::.:::.\\:::.:Y i! l::.::|         /:::.:::.:::i丿
 f―::: /:::.::l:.:::.:::.:::.:::.\`:::Yi! |:V|        /::.::.::.::.:/
 ヾ ∠:::.:::.:::j.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.∧i!|/::ト       /.::.::.:::/
  |   /:::.:::.:/:.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.\il!|::;ハ    /::.::.//
  |  i:::.:::.::∧:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::レ/!:\ヽ  /::/ /
  |  l:::.:::.∧ ヽ:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::.:::/:::.:::.ヽ了/:/   /

415:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 21:49:14 xdjKgb/6
>>413
虐待でないからいいんじゃないかな。
個人的には続きが気になっていたんで書いて欲しいな。


416:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 22:02:13 lLV0yvlk
>>413是非書いてほしいです。
もうあの続きは見れないのかと軽く凹んでましたからね。

417:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/17 23:24:26 rv+8MUZN
>>413
私もあの話の続きはすごいみたいですが、最近ローゼンSS関係の板
全部荒れ気味だし一応反対な人は少ないと思いますけどちょっと長めに
2,3日意見聞く時間取ったほうがいいかなと思ったりしました

話かわる上に微妙に書いてた板もちがうけど双剣さんのSSもよみたいよ・・・・

418:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 00:11:26 miAkhli3
>>413
翠がお亡くなりになって俺を。・゚・(ノД`)・゚・。とさせたやつですか?
それならwktkwktk('A`)

419:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 00:28:08 P8ZUoFsi
>>413
欝話が来るのは一向に構わんが今のが楽しみで楽しみで仕方ないので打ち切りだけは勘弁してくれ

420:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 01:13:02 ZsLqHUyo
今日は私たちローゼンメイデンをケロロ軍曹に当てはめてみたのだわ
いつも通り姉妹順で水銀燈から
3「武闘派ですぅ」
2「ツンデレかしら」
ギロロ伍長がぴったりなのだわ
1「いつになったらペコポン侵略をするのぉ?お馬鹿さん」

2「次は金糸雀かしらー」
6「黄色いのー」
4「いつも変なこと考えてるよね」
クルル曹長に決定なのだわ
2「ローゼン小隊1の頭脳派かしらクーックックック」

3「翠星石の番ですぅ」
4「甘いもの大好きだよね」
1「あら、真紅がJUMと一緒に居るわぁ」
3「しぃ~んく~、真紅ばっかりJUMと一緒でずるいですぅ~・・・!!」
6「語尾も一緒なのー」
あらタママ2等兵、なにかしら?

4「次は僕の番だけど・・・」
1「影薄い」
2「影薄いかしら」
3「青いですぅ」
影が薄いのだわ
6「ドロロ兵長なのー」
4「ひどいやみんな、僕だけ僕だけ・・・」

421:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 01:14:54 ZsLqHUyo
私の番のようね、くんプラを作っている時が無常の幸せを感じるでありますのだわ
3「そうやってすぐに仕切ろうとしたがるですぅ」
2「でもそれぐらいしか役がないかしら」

6「最後は雛の番だけど、っていうか役者不足なのー」
1「全然女子高生でも恐怖の大王でもないじゃないの」
仕方がないわね、アンゴル・モアに決定でありますのだわ
6「おば様ありがとうなのー、っていうか感謝感激なのー」

さて、最後はみんなで共鳴するでありますのだわ
メイメイメイメイメイメイメイメイメイメイメイメイ
ピチピチピチピチピチピチピチピチピチピチピチ
スイスイスイスイスイスイスイスイスイスイスイ
ホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリホリ
ベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリベリ
偽7「マタ忘レラレタ」
1「宇宙探偵864(バラシー)」
2「宇宙探偵864かしら」
3「宇宙探偵864ですぅ」
宇宙探偵864でありますのだわ
6「宇宙探偵864なのー」
偽7「ハーッハッハッハッハッ・・・」
7「すみませんすみません、姉が本当にすみません」

4「ううう、僕なんか・・・僕なんか・・・・・・」

422:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 01:37:29 kTFlkbSF
>>413
>>419に同意
自分も欝話が来るのは一向に構わないから、今の話は続けてください。
楽しみにしてるんで・・・

423:名無しさん@お腹いっぱい。
06/04/18 02:00:56 l+XbjjGt
>>413
水銀燈は死に際さえ何も語られないあの話か

424:妄想のままに
06/04/18 03:17:35 F48kqBOe
今日も一日楽しかったです
蒼星石と一緒に遊んだですし、チビ苺や金糸雀を苛めて気分壮快でした
真紅とはくんくんの推理合戦で盛り上がったです。
結局は真紅に言い負かされちゃいましたけど・・・
けど、あの事件の犯人は絶対あの猫の小娘だと思うのです。翠星石が言うんだから絶対そうです。
のりの作ってくれたハンバーグも美味しかったですし
どうしようもないチビ人間も・・・・この翠星石が構ってやってるおかげで
引篭りとしては真っ当な日々を送ってるです。
とにかく、今日も楽しかったです。

425:妄想のままに
06/04/18 03:20:38 F48kqBOe
そんな風に、何気なく一日を振り返る緑のドレスに頭巾を被ったドールが一人
明日はどんな楽しい事が始まるのだろうか・・
太陽はすっかり沈んでいて、空には数多の星とまん丸のお月様が浮んでいる
時計の針は9時を指していて、もう寝床に着く時間である
「おやすみなさい」
「おやすみなのー」
「あぁ、おやすみ」
そう眠りの挨拶をすると、2人は鞄を閉め深い眠りに着く
ドールにとって、睡眠の時間は過去と今を繋ぐ大切な時間なのだ
机で勉強に勤しむジュンは、私達がせっかく声を掛けたのに
本人ときたら教科書とばかり睨めっこして
まぁったく、翠星石達が声を掛けてるんですから少しはこっちに振向いたらどうなんですー?
大体チビ人間はですね~・・・
何て頭の中で一人説教をごねていると
「おい」
「ひっ!」
「ん・・・寝ないのか?」
「い、いきなり振向くなですぅ!」
突然のジュンからの声にあわてて部屋から出る
「なんだよ・・まったく・・・」
バタン、そのまま背中に腕を組みドアにもたれ掛かる
何だろう、この胸のドキドキは・・ちょっとジュンに声を掛けられただけなのに
「こんなんじゃ、眠れないです・・」
「あら、どうしたの翠星石ちゃん」
振り向くと寝間着を着たのりが心配そうにこちらを窺っている
彼女はいつも私達を気遣ってくれて、引篭りの弟もいるのに大変な野郎ですぅ
そんな人柄から、この娘には何でも相談したくなるのだが
今回ばかりは打ち明けるわけにもいかないので、頭の中でストッパーがそれを押し止める。
「な、なんでもないですーのりはもう寝るですか?」
「うん、翠星石ちゃんも早く寝なきゃダメよ」
翠星石のその言葉を聞くと、のりの曇っていた顔が途端に晴れ渡る
この女の前じゃおちおちあくびも出来ないですねぇ
お節介にも等しい心配性の彼女だが
でも、そんな所がみんなから好かれていると翠星石はいつも思っている
「それじゃあ私もそろそろ寝るね」
そう言い残し、のりが自分の部屋に戻ろうとしていたその時
そんなのりの背中を見詰めながら、翠星石の頭の中で1つの考えが過ぎった。
そして、その考えが口に伝わり声に漏れてしまう
あわてて頭の中で揉み消そうとしたがもう遅かった
「ちょ、ちょっと待つです」
「え、何かしら」
案の定、のりの歩が留まりこちらを振り向いてしまった
思わず頭の中で後悔と混乱が渦を巻く
何で引き止めちゃったんだろう、こんな事したらどうなるか・・・
ええーい、落ち着くです翠星石!言っちゃった物は仕方ないです!こうなったらとことん貫いてやるです!
「えーと、ですねーー・・・」

426:妄想のままに
06/04/18 03:24:19 F48kqBOe
「・・・・」
翠星石が部屋を出てからもう30分くらい経つだろうか
あれからすっかり気が滅入り、一応机に座ってはいるが勉強に気合いが入らない。
「・・・僕が何したって言うんだよ」
誰もいない部屋で(2体のドールはいるが)答えの帰って来ない疑問が宙を舞う
僕が何したって言うんだよ、悪いのはあいつだろ?勝手に出てって・・・
なんでこんなに気にしているんだ僕は・・
「・・・トイレに行くだけだからな、あいつの事はついでだからな・・」
そんな言い訳をしながら、何一人で喋ってるんだろう僕は・・・
席を立ちトイレへ、もとい翠星石を探しに部屋を出ようとする
ジュンがドアの前まで歩を進め、取っ手に手を掛けようとしたその時
ガシャ、
「うわっ」
ドアが開き翠星石が戻ってきた、しかし
ジュン「なんだ、人がせっかくトイレ・・・いや、・・ん?」
「えーと・・・」
ドアが半開きで、翠星石は頬を赤らめ顔だけ出している
何と言うか、全部出てこない。
「どうしたんだよ、さっきの事気にしてるのか?
・・・えーと、何か気に障る事したんなら謝るけど」 
「そんなんじゃないです、べ、別にあれは何でもないです・・・」
どうやら自分のせいじゃないらしい。そうと解ると、少しおちょくって見たくなった
・・・が
「そうなのか、あーじゃーわかったぞ、おねsッグハッ!」
"おねしょ"と言う前に消しゴムが飛んできた、どこに隠し持っていたのやら
顎に当たってそのまま後ろのベッドに倒れ込む
「だ、だぁ~れが!ドールはチビ人間みたいに汚い老廃物なんか出さないのですー!
乙女の前でそんな汚い事吐きやがるんじゃねーです!この老廃チビ人間!」
頭を抑えながら、・・・倒れた拍子に打ったらしい。必死に言い返す
「いってて・・・、消しゴム投げる乙女何て聞いた事ないぞ!じゃーなんなんだよ」
「そ、それは・・・・」
この反論に翠星石がわずかにたじろぐ、効いたのか?
「わ・・・笑うなですよぉ・・・・」

427:妄想のままに
06/04/18 03:26:22 F48kqBOe
そう一言告げると、頬を赤らめたままドアを開き全貌を露わにする
次はどう言い負かしてやろうか、そんな事を考えていたジュンだが
翠星石の姿に途端に思考が止まってしまった
目の前にいる翠星石は、いつもの緑のドレスに頭巾を被った服装ではなく
長袖に長ズボンで首の付け根に留め具のボタンが二つ付いた、布は緑色の柄に水玉模様の
言わいるパジャマ姿の翠星石がそこに立っていた。
「ど、どうしたんだよ・・・その格好」
あまりの予想外の展開に戸惑うジュン
いや、別に服装が変わる事はおかしい事じゃないんだが、こいつらがいつもと違う服を着ている所何て
金糸雀のミーディアムの家でコスプレ何て事をしたらしいけど・・・
この目で見たのは初めてだったので、尚更なのかもしれない
「え、えーと・・・」
戸惑うジュンとはまた別に、翠星石の頭の中もてんてこ舞いになっていた
のりにお下がりのパジャマを貸して貰って、それを着たまではいい物のそこから何も考えてなかった
困り顔でちらちら自分を覗うジュン
それが更に彼女の顔を赤くさせる、もう少しで真っ赤なリンゴになってしまいそうだ。
そして、そんな時間がしばらく流れた。そして、この空気を断ち切ろうとジュンが口を開ける
「とりあえず、寝たらどうだ・・?その、ドールにとって眠りの時間は大切なんだろ?
ほら、もう9時も過ぎてるし」
ジュンは目線を時計に向ける。時刻はもう10時半だ
本来9時になると寝ているドール達、翠星石にとっては結構な夜更しだろう
「・・・いやです」
「え?」
「・・・せっかくパジャマを着たですのに、このまま鞄で寝る何て
それじゃ着た意味がないです。翠星石はごめんです」
これまた予想外の事態に困り果てるジュン
そして翠星石は顔を赤らめ俯きながら、・・・腕を揚げ、ベッドで頭を抱えて座るジュンに指を指した
「・・そこで、寝たいです・・・」

428:妄想のままに
06/04/18 03:28:16 F48kqBOe
・・・どうした物か、僕はただいつもの様に
翠星石達が鞄で寝て、机で教科書の問題を解いて、その後僕も寝て、起きて・・
そんな普通の日常を、いや、動いて喋る人形がいる何て普通じゃないか、いや、今はそんな事じゃなくて

どうしてこんな事になったんだ?

どうしてこんな成り行きになったのか、そんな多くの不確定要素が頭の中を渦巻きながら
今僕はベッドで寝ている
そして、その傍でパジャマ姿の翠星石が一緒に寝ている、同じ布団でだぞ!?
もちろん、こんな状態で易々と寝れるはずもなく
2人して目がギンギンに開いている。
お互いに背を向けて、何を喋っていいやら、この場をどうすればいいやら
1つのベッドの下で激しい心理戦が繰り広げられている
そしてそんな中、最初に口を開いたのは翠星石だった
「ジュ、ジュン・・、は・・・」
後ろから聞こえてくる声
掠れた声で、一言一言言葉に迷いながら綴られていく
「真紅の、事・・どう思ってるん・・・ですぅ?」
「え?」
これまた予想外の、これで何度目だろうか
「僕は、別に・・真紅の事は何とも、思ってないぞ・・・」
そう言葉を告げて、またしばらく沈黙が続いた

429:妄想のままに
06/04/18 03:30:01 F48kqBOe
そして、また翠星石の声が背中から聴こえてくる
「嘘です。・・・いつも真紅とばっかり、・・翠星石は解ってるんですよ?」
「別に・・そんなつもりは・・・・」
何でそんな事を聞いてくるんだろう・・・そんな事が頭を過ぎったその時
「・・・!?」
背中に衝撃が走る、けどさっきの消しゴムをぶつけられた時の様な感覚とは違う
そう、何かに抱き付かれている様な、・・・え?
「す、翠星石・・・?」
「え・・えぐっ・・・・」
背中から返って来た声は、とても掠れていて、・・泣いてるのか?
思わず振り返ろうとしたが、後ろから抱き付かれているので下手に振り向くわけにもいかず
仕方なくそのまま彼女に声を掛ける
「ど、どうしたんだよ・・また僕が何か・・・」
「ジュンは翠星石と契約したんです!もう、真紅だけのジュンじゃないんです!なのに、なのに・・・」
背中を掴む手が次第に強くなる
「でも、ジュンは真紅の事が好きなんです!翠星石はわかってるです!でも、・・・翠星石はっ!」
「泣くな!」
気付くと、自分が翠星石を抱きしめていた
何をしているのか自分でも解らない、けど
彼女が泣いてる姿をこれ以上見たくない!
「僕は、僕が真紅の事が好きかどうかは解らない、けど、僕にとって大切な人なのは本当だ」
「え・・えぐ・・・」
泣き続ける彼女を、僕は強く抱きしめ続ける
「けど、それは翠星石、お前も一緒だ!お前も僕にとって、とても・・・大切なんだ」
「お前が居なかったら、僕はここまで強くなれなかったと思う、いや、なれなかった」
「だから、そんなお前が僕の前で泣かないでくれ。お前は、僕にとって大切・・・だから・・・・」
そう一人で叫んでいると、いつの間にか胸元の彼女の泣く声はやんでいた
泣き止んでくれた事に安心するが、それから声が返ってこない
「翠星石・・・?」
あまりに何も喋らないので、心配になり声を掛ける
「ッグハ!」
胸元に顔を覗き込もうと下を向いたその時、勢い良くヘッドバットが顔面に飛んできて、そのまま倒れ込んだ。
「やぁーれやれ、チビ人間はとんだ語り野郎ですねぇ~
ちょっとの事で熱くなり過ぎなのですー」
あまりの態度の変貌ぶりに面を食らうジュン
「いきなり抱きつかれて、チビ人間の体臭が服に付いちゃったじゃないですかぁ
あーぁ、こんなチビ人間の臭いが付着した服を他の人間が着たら
その人間も引篭りに変身しちゃいますねぇー
恐ろしい呪いの引篭り増幅マシーンになっちゃったもんですぅ~」
「な、なんだとー」
「さぁーて、茶番も済んだ事ですし、翠星石はもう鞄で寝るですよー
おやすみです~~」
ジュンが反論する間もなく、瞬く間に翠星石は鞄の中に入ってしまった。
残ったのは、やり場の無くなった想いと、顎と後頭部、顔面の打撃痕が計三ヵ所
「・・・まるで僕がバカみたいじゃないか・・・・」


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