【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】at ANICHARA
【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ【一般】 - 暇つぶし2ch151:名無しさん@お腹いっぱい。
06/03/30 01:42:25 38rWFL7f
緑の草原の中にぽつんと点在する農村。
家が数件立ち並び、庭には色とりどりに咲く花。畑を耕す老人。まさに平和そのものである。
その長閑な雰囲気を煉瓦造りの家の一階の窓から楽しそうに眺める翠星石。
『・・・けてくれ』
「え?」
ベランダの下から声が聞こえたかと思うと、次の瞬間、翠星石の目の前にヘルメットを被り、土で汚れた男の顔が飛び込んできた。
「きゃあ!」
翠星石は驚いてその場に伏せてしまった。
「開けてくれ!頼む!鍵を開けてくれ!」
その男は随分と慌てていた。
元々人見知りの激しい翠星石にとって、このように唐突に助けを乞う人間に対してどう対応すれば良いのかわからなかった。
だが男の疲労に満ちた目を見ると、このまま何もしないわけはいかないと思い、翠星石は意を決して家の鍵を開けた。
男は鍵の外れる音を聞くと、急いで家の中に駆け込んだ。
家の中に入るなり、壁に張り付きながら、何かから隠れるように慎重に顔を窓の方へ近づけ外を覗きこんだ。
翠星石は奥の部屋の壁からそっと顔を出し、そんな彼を見ている。
音が監視していると、窓越しにたくさんの兵士と戦車が列を組んで道を行進しているのが見えた。
「ジェリー(ドイツ人の蔑称、スラング)め!こんな村を通るなんてまったくついてない!」
男の表情には悔しさが見えた。今にも彼らに突っ込もうかというくらいの気迫だったが、その感情を押し殺し、今は相手の動きだけを真剣に観察している。
「パンター四台にタイガー二台、兵力は八十人ほど・・・」
男は窓から見える相手の兵力をぶつぶつと声に出して暗記する。
そうしているうちに、やがて兵隊達は村を通り去り、男もその場に力が抜けたように座り込んだ。
俯いたまま力なくはぁとため息を漏らす。
よほど疲れていたのだろう。
そんな男の目の前に小さな手とハンカチが入った。
「あ、あの、これ・・・」
顔を上げると、恥ずかしそうにハンカチを差し出す翠星石の姿があった。
「ありがとう、嬢ちゃん」
ありがたくその行為を受け取った男はそれで汗を拭った。
「嬢ちゃん、この家に一人で住んでいるのかい?」
どうやら男には彼女が人形ということには気づかないようだ。
「妹が一人いるですぅ。それとマスターも」
「マスター?」
「あ、いや、親みたいなもんです!」
翠星石は慌てて誤魔化した。
「まあ事情はなんであれ嬢ちゃん一人だけだと心配だったからな」
「嬢ちゃんという言い方はやめやがれですぅ!翠星石という名前があるですぅ!」
「悪い悪い。翠星石。でも変わった名前だな。この辺りじゃそういう名前が流行か?」
「知るかですぅ!」
気さくに笑い、軽い感じの男に、翠星石はすっかり馴染んでいた。
翠星石は名前のことで外方を向いていたが、しばらくして何も言ってこなくなったので心配になって振り返った。
「人間?」
翠星石が男の顔を覗き込むと、彼はスースーと眠っていた。よほど疲れていたのだろう。


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