09/04/09 21:18:55 L1LyMUOv0
いやな気配を感じて、そっと後ろを見たら、アレがいた。わたしは
泣きそうになった。何でわたしなの!?
だが、泣いているひまはなかった。アレがわたしを獲物と認定して
走り出したのが分かったからだ。わたしは、高校時代陸上選手だった足を
信じて、必死で駆け出すしかなかった。
深夜のオフィス街の外れ。住宅地にはやや遠く、飲み屋の類もなく、
立ち並ぶ雑居ビルに人の気配は全くない。こんなことならケチらずに
タクシーを拾うんだった、と後悔したがもう遅かった。
全速で走ったせいか、アレとの距離は少し開いた。このまま目の前の角を
左に曲がると中心部に向かう大通り。右に曲がると入り組んだ路地。
逃げるなら大通り、隠れるなら路地だ。どちらがいいだろう…。
そう思いながら懸命に走っていると、いきなり数十センチ前の道の
まん中に大きな黒い穴が開いた。わたしはとっさに、幅跳び選手のバネを
駆使してジャンプした。そしてそのまま着地し、角を右に折れた。
角を折れたとき、またも黒い穴が、今度は見当違いな場所に開いた。
この穴はアレが開けている、あるいは少なくとも、アレからの情報を受けて
開けられているに違いなかった。角を曲がったわたしの正確な位置を捉えて
いないのだ。
このまま、路地をくねくねと曲がれば多少は目をくらませられよう。
しかし、こちらもいつまでも全速では走れない。他方、相手は人間ならざる
存在だ。体力の限界など関係なくわたしを追いつめる可能性が大きい。
距離を引き離している今の内に、なんとかしなければ。
わたしは複雑な路地を何回か曲がった末、結局、目に付いた公園の
トイレに駆け込んだ。一か八かここで気配を殺し、アレをやり過ごすのだ。