10/04/02 01:33:58 RwtGfeD/0
私は続けた。
「被害者のバロン東田氏は青酸化合物で死亡した訳ですよね。でも、青酸系の毒物って飲んだらすぐに効果が出るんじゃないですか?
でも、東田さんはマジックショーの間中、何にも口を付けませんでした。……西丸さんに渡された水を除いて。」
西丸玲奈の顔が青ざめた。
「被害者を毒殺出来たのは、西丸さんだけなんじゃないでしょうか。会場にいなかった南川さんは論外ですし、北森さんも生きている東田さんには、マジックショーの間中一切触れていません。となると、当然犯人は西丸さんということになります。」
私は、遠慮がちに西丸玲奈を見た。彼女はがくがくと震えだした。
と、南川愛は途端に鋭い眼で西丸の方を睨みつけた。
「貴女がやったのね!? 酷いわ、幾ら東田先生に毎日苛められてたからって、殺すなんて……。」
西丸もかっとなって言い返す。
「苛めじゃありません!! 東田先生は、私の為を思って厳しくしてくれていたんです。
南川さんこそ、東田先生に随分借金があって、返済出来ずに困ってたじゃないの!!」
女二人は睨み合った。
そこへ山田警部がやってきて、西丸に言った。
「申し訳ありませんが西丸さん、ちょっと署まで御同行をお願いしますよ。」
西丸は今度は警部を睨みつけた。
「私は犯人じゃありません!! 東田先生は喉が乾きやすい体質だったから、私はいつものように水を持って待機していただけです。
私は誰も殺してなんか―。」
「いないね。」
彼女の言葉の後を継いだのは、シャドウだった。
「ついでに彼女が東田氏に渡したコップにも毒は入ってないよ。調べてみればわかることさ。」
彼は人差し指の先でシルクハットをクルクルと回しながら微笑んでいる。
「西丸さんの無実は、あれが証明してくれましたよ。」
シャドウはステージの、東田の倒れていた辺りを指差す。そこには彼の最期の吐血の跡が、まだ生々しく残っていた。
一部は黒く固まり始め、また一部はまだ赤々としたままで。