10/04/02 01:28:22 RwtGfeD/0
そう、それが「バロン東田」のマジックだった。
グロテスクで、血生臭い演出を特に好むのが彼のやり方である。先程、彼の演出が賛否両輪を読んでいると書いたのも、その辺りに由来している。
シャドウは冷笑を浮かべて東田を見ている。
時々、私の方に顔を寄せ、小声で「簡単なトリックだよ、田中君。一から十まで解説してあげようか？」と言ってくる。余計な御世話だ。
マジックショーも終盤に差しかかり、バロン東田がバラバラに切り刻まれながらも、パーツをくっつけて再生するマジックを演じた後のことだった。
彼は不意に喉が渇いたのか、少し舞台の端により、彼の弟子で見習いマジシャンの西丸玲奈から水の入ったコップを受け取り、それを一気に飲み干した。
そして、不意に笑みを浮かべ、観客の方に向かい、トランプ数枚を取り出した。扇形に広げたトランプを口元でひらひらさせ、その内一枚を取り出した。
と、その時だった。彼は大きく咳き込んだ。その口から、つーっと赤い色の液体が零れ落ちる。
私は思わず手に汗握った。
彼は苦しげに呻き、その直後、フッと笑った。
しかし、その笑みが驚愕の表情に変わり、やがて胸を押さえ、また盛大に吐血した。そのまま、彼はステージの上に倒れた。
起き上がらない。
西丸玲奈の表情が変わり、劇場スタッフの北森真司と共に東田に駆け付けた。
そして、北森は東田を抱きかかえ、息を飲む。西丸は悲鳴を上げる。